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豊田自動織機技報 No.68 豊田自動織機技報 No.68
トピックス
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1 はじめに エンジン事業部では自動車から産業車両のディーゼルエンジン・ガソリンエンジン・ターボチャージャーについて開発から生産まで一貫したものづくりを行っている。 エンジン事業部品質保証部では、流出防止型(出口管理)から脱却し、発生防止型、未然防止型、そしてその先にある魅力的品質をあるべき姿として掲げている。そのために4M条件の造り込みを軸とした自工程完結活動により、業務の標準化・改善から予測・予防の世界を目指し、パフォーマンスの向上を図る活動をしている(図1)。
今回は生産準備における「計測能力評価」に対し、ISO10012で取上げられている「不確かさ」を活用し、「計測能力評価の品質向上と工数改善」を実践した事例を紹介する。
業務改革
自働化
全数チェック型
未然防止型
・商品企画段階からの品質造り込み
・開発・生産準備での品質造り込み
・工程内不良低減・市場クレーム低減活動
発生防止型 改善活動・改善による業務原単位の追求・INPUTの縮小とリソースの再配置
デジタルツールを活用した予測・予防・情報のDB化・シミュレーションによる未然防止
業務の2S・標準化・仕事の目的・手段を明確化・しくみ図の作成・業務工数の把握
流出防止(出口管理)
魅力的品質
自工程完結活動
大アウトプット工数
図1 品質ロードマップFig.1 Quality roadmap
2 計測管理について 図2に示すように、従来のゲージの日常点検、校正などの計測器管理から計測管理(計測器管理+計測を管理)を行うことにより、パフォーマンスの向上を目指している。抜けのない計測管理を行うことで品質保証、品質管理の土台となる。
正しい計測管理を行うと精度の高い計測結果を得られ、不良低減と品質が安定し、顧客満足度の向上、利益アップにつながる。 またエンジン事業部では計測マネジメントシステムの国際規格である、ISO10012を計測管理のあるべき姿ととらえ、そこに近づけるよう活動を行っている。 本テーマはISO10012の要求事項である、測定システム解析改善および計測プロセス設計構築を行った活動である(図3)。
品質保証
品質保証、品質管理の為に、計測管理を実施する
検査標準
工程能力管理
品質管理
計測管理
計測を管理計測器管理
日常点検
監査工作図 品質標準
QC工程表特性の計測化
人材育成
測定方法確立校正
図2 計測管理とはFig.2 Measurement management
3 生産準備における計測管理業務 現状の生産準備における計測管理業務は、立ち上り直前に業務が集中している出口管理となっている。 立ち上り直前に工数がかかっている業務として
「計測能力評価実施」と「計測能力評価のやり直し」の2つが上げられる。
4 計測プロセス設計と測定システム解析 生産準備における計測管理業務の手順は図4に示すように「①計画立案」「②計測器選定」「③計測器受入」「④計測器払出」「⑤計測能力評価」という手順になっている。
計測プロセス設計とは、何をどのように計るか設計することで、測定システム解析は、先程の計測プロセスに問題がないかをチェックする方法で、一般的には「計測能力評価」と言う。
5 生産準備時の計測管理業務の問題 生産準備時の計測管理業務毎にかかっている工数を確認すると、「問題①:計測能力評価実施」「問
流出防止
ゲージ類管理
計測コントロール
計測器管理 計測器管理
試験所への要求
測定システム解析
試験所への要求
測定システム解析
計測プロセス設計
計測マネジメント
計測器管理
計測マネジメント
あるべき姿現状の姿ISO9001 ISO/TS16949 ISO10012
未然防止
図3 計測管理の国際規格Fig.3 International standards of measurement management
計測プロセス設計とは
測定システム解析とは
何をどのように測るか設計する
計測基本計画立案
1
2
計量要求事項の決定
計測プロセスの要素および管理方法の決定
検討結果の記録とレビュー
計測器選定
計測器手配
受入・繰返精度測定
計測器払出
計測能力評価検討
計測能力評価実施
評価結果の展開
計測業務の流れに問題ないかチェックする方法(計測能力評価)
図4 生産準備時の計測管理業務の流れFig.4 Measurement management process flow of production
題②:計測に起因するやり直し」に多くの工数がかかっていることがわかった。 「問題①計測能力評価実施」をブレイクダウンすると、従来の計測能力評価はTS16949にて要求されている「GRR」を採用しており、実施方法として「問題点①3人の作業者が10個のワークを3回測定する」ため多くの工数がかかっていた。 「問題②:計測に起因するやり直し」を「計測器」
「測定方法」「操作性」「環境条件」「測定者」の4Mに分類し、「計測器選定」「測定方法」「操作性」「環境条件」「測定作業習熟」の5項目の要因を選定。その中の「計測器選定」から「問題点②-1.適切な計測器選定ができていない」と「環境条件」から「問題点②-2.環境条件が検証されていない」を取上げて改善を進めた。
6 目標の設定
6.1 方策系目標 ①測定回数が少なくても計測能力評価を満足する手法の選定②製品精度に合致した計測器の選定③環境条件が評価できる手法の選定
6.2 結果系目標 結果系の目標については、計測プロセス設計構築を行うことにより、「計測に起因するやり直し」を350時間から0時間に、測定システム解析改善を行うことにより、「計測能力評価実施」工数を800時間から295時間にし、全計測管理業務工数1710時間から850時間の50%減を結果系目標とおいた(図5)。
生産技術部
設備企画
個別
号試
計測器基本計画立案
計測器選定
計測プロセス設計
測定システム解析
計測能力評価検討
0 250 500 750 1000h
計測能力評価実施
計測に起因するやり直し
計測能力評価結果
計測器手配
計測器払出
受入・繰返精度測定
生産準備ステップ 品質保証部
800h⇒295h
1710h⇒855h
350h⇒0h
総計※事業部方針 生産準備半減活動より
全計測管理業務 50%減
工数(h)35
10
295
0
855
20
90
240
95
70
図5 目標の設定Fig.5 Goal
計測プロセス設計構築による生産準備の効率化
計測プロセス設計構築による生産準備の効率化Improve production preparation by designing measure process design
*1魚本 好弘
Yoshihiro Uomoto
*1本杉 一洋
Kazuhiro Motosugi
*1 エンジン事業部 品質保証部
要 旨 従来、生産準備業務が出口管理となっており、立ち上り日程に影響していた。そこで計測管理に関する新たな手法を導入し、品質の造り込みを行った。本事例では、計測プロセス設計および測定システム解析を取上げ、「不確かさ」の計測能力把握工数の優位性、事前に計測能力を把握できる特性を活かし業務のフロントローディングおよび生産準備時の「計測」に起因する生産準備工数の低減を達成した。
キーワード:ISO10012、計測プロセス設計、計測能力評価、不確かさ
Abstract Traditionally production preparation work has been preventing the outflow, affecting the rise schedule. Therefore, a new method concerning measurement management was introduced, and quality was built up. In this case, we take up the measure process design and the measurement system analysis, utilize the advantage of managing capacity of measuring "uncertainty" capability, the ability to grasp the measurement capability beforehand and take advantage of "Front loading of business" and "Measurement" at production preparation Reduction in manufacturing preparation time due to the burning process.
Keywords: ISO10012, Measure process design, Measurement capacity evaluation, uncertainty
ト ピ ッ ク ス
豊田自動織機技報 No.68 豊田自動織機技報 No.68
トピックス
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7 対策の視点 対策については生産準備に自ら入り込み、「しくみ図」を使って改善を推進した。 改善の考え方だが、「しくみ図」を使い、「3D視点」で改善を進めた。まずは「視点①Doubt(疑う)」だが、まず疑ってみることで、そのタスクは目的を満たしているのか?曖昧なしくみではないか?などを検討する。次に「視点②Deny(否定)」否定してみる。他にもっといいやり方はないのか?他のタスクと一緒にできないか?などを検討する。最後に「視点③Delete(削除)」やめてみる。そのタスクをなくせないか?やめられないか?などを検討する。
8 対策
8.1 測定システム解析改善 「計測能力評価実施」プロセスに問題があることから、しくみ図で確認を行った。エンジン事業部では「GRR」という手法で計測能力評価を実施している。ここで「視点②Deny(否定)」の、他にもっといいやり方がないのか?という考え方で改善を進めた。 TS16949、ISO10012に指定されている手法の中から検討を行った。前提条件として、「問題点①、②-2」から「測定回数が少なく、かつ環境条件を確認できる手法」の選定をする必要があった。そこで、図6のように各手法から「不確かさ」という手法を採用した。これにより、測定工数は約1/3に低減できた。
8.2 計測プロセス設計構築による改善 「問題点②-1」から「計測器選定」プロセスの改善を「しくみ図」を使用して進めた。ここでは「視点①Doubt(疑う)」曖昧なしくみではないか?という考え方で、しくみ図からインプットとアウトプッ
現状
評価ツール
GRR
不確かさ
平均値-範囲法
3回
1回
2回
10回
範囲法
ANOVA法
◎:4点、○:3点、△:2点、×:1点測定回数
測定者
3人
3人
3人
2人
総測定数
90回
10回
60回
30回
環境条件確認
総合判定
6
8
12
48
工数
×
×◎
◎ ◎
△
△
△
△
○
不具合発生時の原因特定
○
○
採用
図6 各種測定システム解析の比較Fig.6 Comparison of measurement system analysis
トを確認し、アウトプットに必要なものを「タートル図」(図7)で確認した結果、「要求精度、測定環境、測定条件を配慮して行う」というところから、
「判断基準」に曖昧さがあることがわかった。
計測器選定の曖昧さに対し、図8に示すように製品公差幅に対する計測器選定の判断基準を定量値化した。
対策の効果確認をしたところ、「計測に起因するやり直し」については計測器選定プロセスの改善により、0時間となり目標達成することができた。 「計測能力評価実施」については「不確かさ」の採用により800時間から375時間となったが、目標に対し80時間不足となり、全計測管理業務工数も45%減で目標50%減に対して未達になったため、更なる効率化を目指して対策を実施した。
8.3 更なる測定システム解析改善 更なる対策を進めるために再度、原点に戻り、考え抜くことにした。改善の考え方としては「視点③Delete(やめてみる)」なくせないか?という考え方から改善を進めた。
【計測方法】・作業手順書◯
【測定者】・測定作業習熟度Aランク作業者◯
【判断基準】・要求精度、測定環境、測定条件を配慮して行う ×
計測器選定
アウトプット正しい計測器選定
インプット計測器
【要求精度】・製品図面◯
図7 計測器選定のタートル図Fig.7 Turtle diagram of instrument selection
問題点
適切な計測器選定ができていない
旧規程8J40-008抜粋「計測機器の選定は、測定項目毎に要求精度、測定環境、測定条件等を 配慮して行う。」
新規程8J40-008抜粋・精度が製品公差に対し 1/5以下・分解能が製品公差に対し 1/10以下各計測機器の読取最小目盛の指示を実施
製品公差に対する計測器選定基準を新設
基準があいまいだった 製品公差幅に対する判定基準を明確にした。
対策前 対策後
図8 計測器選定の判断基準Fig.8 Criteria for of instrument selection
使って検証した。DSMとは業務プロセスを図示し、やり直し、後戻りのタスクを見える化できるツールである(図11)。
計測管理のしくみ図からDSMを作成し(図12)、計測能力業務の前捌きについて検証を行った。従来は受入検査後の繰返精度測定は計測能力評価のインプットになっていたが、バラツキに制約をかけることで「繰返精度」が無視できるようになり、計測能力評価を計測器選定の段階で実施することが可能になった。
ただし、計測器選定時に全て高精度な計測器を選定する必要があり、コストの関係で出来ない場合があるため、バラツキに制約をかけられなかった特性は全て計測能力評価(不確かさ)を実施するようにした。さらに工程整備で問題があり、不確かさで閾値に近い特性はGRRを実施するようにしくみの構築を行った(図13)。さらに生産準備においてしくみの検証を行った結果、約4割がバラツキに制約をかけることができ、残りの約6割について不確かさを実施した。GRRまで行ったものはなかった。
DSMとは業務プロセスを図示し、各タスクの結果が他の要素にどれだけ依存しているかを示す。やり直し、後戻りのタスクなどを見える化できるツール
タスクZ
タスクZ
タスクZ
インプット
○ ○○ ○
○アウトプット
完了
完了
タスクX
タスクX
タスクX
タスクA
タスクA
タスクA
タスクB
タスクB
タスクB
タスクC 手戻り可能性
タスクC
タスクC
図11 DSMFig.11 DSM
後工程インプット情報
(計測能力評価)
(計測能力評価)
アウトプット情報
後工程
図12 計測管理のDSMFig.12 Measurement management DSM
再度、計測管理しくみ図の確認を行った。まず「計測能力評価」だが、計測の良し悪しが確認されており「流出防止」と言える。続いて「計測器選定」は計測プロセスの設計で「発生防止」と言える。ここで、「発生防止をつきとめることによって流出防止をなくせないか」という考えに至った。 そこで「不確かさ」はどのように算出しているかを確認するために不確かさを算出する際に使用する「バジェットシート」を検証した。算出方法は各計測のバラツキを合成し、合格ライン(公差幅の1/4以下)になるか、確認を行う。また、算出に使用するデータについては、繰返精度以外は計測器選定時の仕様書から確認できることがわかった。ここで、計測器選定の段階でバラツキに制約をかければ後工程の「計測能力評価」をなくせるのではないかという考えに至った(図9)。
まずはバラツキの制約について検証を実施した。合格ラインは公差の幅によって決定するので、実測データより繰返精度のバラツキ最大値を予測し、公差幅1/20の高精度な計測器を選定すれば繰返精度にバラツキがあっても確実に合格ラインを達成すると検証ができた(図10)。
続いて、業務を前工程で捌くことができるかをDSM(Design Structure Matrix)という手法を
ヒラメキ計測器選定の段階でバラツキに制約をかければ後工程(計測能力評価)をなくせる
繰返精度
各バラツキを合成し、合格ラインの公差幅1/4
に入るか評価繰返精度以外のデータは仕様書から決まる
環境条件
校正精度
計測器の分解能受入時の実測データ
計測器と測定物の熱膨張計算から求められる
仕様書で決まる
仕様書で決まる
図9 バジェットシートFig.9 Budget sheet
:繰返精度
バラツキ量大
(対策前)(対策後)
:計測器の分解能:校正精度
合格ライン規格公差幅の1/4
公差幅1/20の計測器を選定
実測データより繰返精度のバラツキ最大値を予測
:環境条件
図10 バラツキ制約の検証Fig.10 Verification of variance constraints
計測プロセス設計構築による生産準備の効率化
豊田自動織機技報 No.68 豊田自動織機技報 No.68
トピックス
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■ 著 者 紹 介 ■
魚本 好弘 本杉 一洋
9 結果とプロセスを評価する さらなる測定システム解析改善により生産準備での全計測管理業務工数を1710時間を770時間まで低減し、目標50%減に対し、55%減となり目標達成できた。 方策系についても「不確かさの採用」「製品公差に対する計測器選定基準の新設」により、全て達成できた(図14)。
10 まとめ 今回の活動でエンジン事業部の計測管理レベルをISO10012に近づけることができた。 ただし、まだISO10012とのギャップは存在しており、今後もISO10012とのギャップ(校正周期適正化、計測機器の計量確認結果の見える化、等)を埋めるべく活動を続けていく。 本事例は「計測を管理する」ということをつきつめることによって、パフォーマンスの向上に結びつけた事例で、抜けのない「計測管理」を行うことで品質管理の土台となり、会社の利益に貢献することができた。
計測器選定
GRR
計測器数N=156 工程整備に
問題があった不確かさ評価で閾値に近い特性は計測に問題
がないことを確認
計測器数N=62 40%
計測器数N=94 60%
計測器数N=0対策3 対策2
NO
YES
計測能力は問題なし
バラツキに制約をかけることができた
計測能力評価実施
(不確かさ)
図13 計測能力評価のフローFig.13 Measurement capacity evaluation flow
生産技術部生産準備ステップ 品質保証部 工数
(h)
設備企画
個別
計測プロセス設計
測定システム解析
計測器基本計画立案
計測器選定
計測器手配
計測器払出
受入・繰返精度測定
35
240不確かさ評価
・基準から選定
・制約の可否
90
240
95
70
0 250 500 750 1000h
問題①の目標 295h⇒結果 240h 達成問題②の目標 0h⇒結果 0h 達成
全計測管理業務工数 目標50%減⇒結果 55%減 達成
図14 改善の結果Fig.14 Result