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14 【資源エネルギー庁長官賞】 2段可変ベーン付ターボ冷凍機 (AART シリーズ、AART-Ⅰシリーズ) 三菱重工業株式会社 東京都港区 1. 機器の概要 ターボ冷凍機は半導体デバイスや薄型ディスプレイの製造に不可欠なクリーン ルームの空調用熱源システムや、病院,ショッピングセンター、地域冷暖房やビ ルなど大規模な空調設備の熱源機として多く採用されている。空力機械である遠 心圧縮機を使用し,熱量 175kW から 14000kW(最大 35000kW)の冷水を製造する装 置である。定格点の成績係数(COP)は 6.4 と、他のタイプの冷凍機よりも高い性 能が特徴である。 今回の開発機 AART シリーズ(固定速機)/AART-I シリーズ(インバータ機) は、圧縮機の容量制御機構として2段入口ベーンを追加し、全部で6つの要素を 数値演算により最適制御した。その成果として、実際に使われる頻度の多い状態 (運転時間の大半を占める部分負荷域や中間季節の外気温度)に追従して高性能 特性を維持することが可能となり大幅なランニングコストの削減を実現した。 写真1 ターボ冷凍機(インバータ機)AART-I シリーズ

【資源エネルギー庁長官賞】 2段可変ベーン付ターボ冷凍機 ......AART-I(開発機) 21.9(12 ) 15 可変速機(AART-I)部分負荷特性 0 5 10 15

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    【資源エネルギー庁長官賞】

    2段可変ベーン付ターボ冷凍機

    (AART シリーズ、AART-Ⅰシリーズ)

    三菱重工業株式会社

    東京都港区

    1. 機器の概要

    ターボ冷凍機は半導体デバイスや薄型ディスプレイの製造に不可欠なクリーン

    ルームの空調用熱源システムや、病院,ショッピングセンター、地域冷暖房やビ

    ルなど大規模な空調設備の熱源機として多く採用されている。空力機械である遠

    心圧縮機を使用し,熱量 175kW から 14000kW(最大 35000kW)の冷水を製造する装

    置である。定格点の成績係数(COP)は 6.4 と、他のタイプの冷凍機よりも高い性

    能が特徴である。

    今回の開発機 AART シリーズ(固定速機)/AART-I シリーズ(インバータ機)

    は、圧縮機の容量制御機構として2段入口ベーンを追加し、全部で6つの要素を

    数値演算により最適制御した。その成果として、実際に使われる頻度の多い状態

    (運転時間の大半を占める部分負荷域や中間季節の外気温度)に追従して高性能

    特性を維持することが可能となり大幅なランニングコストの削減を実現した。

    写真1 ターボ冷凍機(インバータ機)AART-I シリーズ

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    2. 機器の技術的特徴および効果

    2.1 技術的特徴

    (1) ベーン制御・回転数制御

    遠心式圧縮機の羽根車の作動点を制御する空力要素「入口ベーン」を1段、

    2段の羽根車手前に設け最適制御する。

    (2) 制御要素の最適制御

    1段入口ベーン、2段入口ベーンに加え、高段膨張弁、低段膨張弁、ホット

    ガスバイパス弁と圧縮機回転数の6つの要素を数値演算制御することにより、

    全領域で圧縮機の高効率な運転制御可能とした。

    (3) 最適制御を可能とする高度数値演算制御

    数値演算能力を大幅に強化した制御基板を専用設計し、6要素の数値演算制

    御を非常に短い周期で行いすべての運転条件下でターボ冷凍機の省エネ(高効

    率)運転を実現した。さらに過渡を考慮し時間遅れを予測するフィードフォワ

    ード制御ロジックを開発し、回転数制御と1段+2段入口ベーン制御の安定性

    を確保した。

    数値演算制御では高速高負荷の演算能力が必要なため、新規に 32BitCPU を採

    用したマイコン制御盤を開発した。7インチワイド TFT 液晶を制御盤の操作面

    2段羽根車

    1 段羽根車

    写真2 圧縮機羽根車

    写真3 1段入口ベーン

    写真4 2段入口ベーン

  • — 16 —

    に採用し,視認性、操作性を向上した。

    部分負荷性能と冷却水追従性能の向上による省エネルギー成果の妥当性確認

    のため,遠隔監視システムでの性能評価が不可欠となることから、通信機能も

    充実させた。

    2.2 効果

    (1) 省エネルギー性(効率性)

    制御機構の工夫により従来安定して運転できなかった 20℃以下の冷却水温

    度領域において、安定した制御が可能となったため,飛躍的な性能向上を実現

    した。従来機と開発機との省エネ性を比較したものを表1に、部分負荷特性を

    比較したものを図1及び図2に示す。

    表1 性能比較表 ( )内は冷却水入口温度

    シリーズ名 定格 COP

    【100%負荷時】

    IPLV

    【期間 COP】

    最高 COP

    NART(従来機) 6.1(32℃) 6.1 固定速

    AART(開発機) 6.4(32℃) 7.9

    NART-I(従来機) 18.6(13℃) 可変速

    AART-I(開発機) 21.9(12℃)

    可変速機(AART-I)部分負荷特性

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    0 20 40 60 80 100

    冷凍能力(%)

    COP

    32℃

    25℃

    20℃

    15℃

    12℃

    ↓冷却水入口温度

    図2 可変速機(AART-I)部分負荷特性 図1 固定速機部分負荷特性(ARI 条件)

    2

    3

    4

    5

    6

    7

    8

    9

    0 20 40 60 80 100冷 凍 能力 (% )

    COP

    AART=IPLV7.9

    NART= IPLV6.1

  • — 17 —

    (2) 経済性

    ① AART シリーズ(固定速機)

    ■年間 1345 万円(約 24%)のランニングコスト削減。

    【条件】冷凍機容量 1000USRt で従来機(NART シリーズ)と比較。

    従来機(NART)IPLV 6.1(電動機入力 576kW)

    開発機(AART)IPLV 7.9(電動機入力 445kW) 差 131kW

    年間 8000 時間運転(工業用途)、電気代 12.8 円/kWH

    ■10 年前の当社旧型機(ART シリーズ)IPLV 4.9(電動機入力 718kW)との

    比較では、年間 2790 万円(約 40%)のランニングコスト削減。

    ② AART-I シリーズ(インバータ機)

    ■年間 2471 万円(約 45%)のランニングコスト削減。

    【条件】冷凍機容量 1000USRt×3 台で従来機(NART シリーズ)と比較

    算定条件として実際のお客様の工場熱源負荷と東京地区の外気温度条件と電力

    料金を使用。

    ■10 年前の当社旧型機(ART シリーズ)との比較では、4054 万円(約 60%)

    のランニングコスト削減。

    3. 用途

    ターボ冷凍機は半導体デバイスや薄型ディスプレイの製造に不可欠なクリーン

    ルームの空調用熱源システムや、病院,ショッピングセンター、地域冷暖房やビ

    ルなど大規模な空調設備の熱源機として多く採用されている。

    (注)

    1.COP:冷凍機性能を現す指標で成績係数と称する(=冷凍能力/電動機入力)で数値の大きい方が性能

    は良い。定格点、部分負荷共に冷水出口温度は7℃

    2.IPLV:冷凍機の期間性能を現す指標で米国ARI(冷凍空調工業会)の基準。右記の式で現される。

    IPLV = 0.01A + 0.42B + 0.45C + 0.12D

    A:100%負荷時の成績係数(冷却水入口温度 29.4℃), B: 75%負荷時の成績係数(冷却水入口温度 23.9℃)

    C: 50%負荷時の成績係数(冷却水入口温度 18.3℃), D: 25%負荷時の成績係数(冷却水入口温度 18.3℃)

    冷水出口温度 6.7℃