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当院のドック受診者における ABI baPWV の基準値の検証 前田芳香 大宅利治 徳島赤十字病院検査部 要旨 当院では、血管内皮障害の診断検査のーっとして 、2002 4 月より、 ABI(Ankle BrachialIndex) 足関節/上腕血 圧指数、baPWV(baPulseWaveVelocity) 脈波伝播速度の検査を取り入れた。今回 ABI.baPWV の基準値の検証を 行うため、当院一泊ドック受診者のうちオプション検査として本検査を希望した 100 !f 1 を対象として検証を行った 。検証 の結果、 ABI 値は、年齢 ・男女 別 ABI< 1. 3) であったが、 baPWV 値においては、危険因子保有者と非保有者の聞で有意な差が認められた o 群が、基準値1400cm/s 以下であるのに対し 、保有者若手はあきらかに基準値を上回った 。 このことから既往歴のない比較的健康と考えられるドック受診者においても動脈硬化 は、進んでいることが示され た。今後も予|坊的な観点から ABI.baPWV を測定することは血管を健康に保つために有意義であると考えられる 。 キーワード : ABI baPWV 、生活習慣病 はじめに 近年、血 管状態を定期的にチ ェックし動脈硬化度を 測定することが、 生活習慣病予防の第一歩と言われて おり、当院でも血管内皮障害の診断検査のーっとして 2002 4 月より ABI.baPWV の検査を取り入れた。 検査の対象は、主に閉塞性動脈硬化症、虚血l 性心疾患、 脳 梗塞 、高脂血症、糖尿病、 その他動脈硬化に起因す る疾患の方々であったが、動脈硬化の進行度をダイレ クトに評価する指標として有用でまた患者様に負担を かけることがほとんどないため、 5 月より 一泊ドック 受診者で ABI.baPWV 検査の希望者も本検査を行う ことにした。すでに血管の病気になっている人は、 ABI または baPWV 値に異常が認められるが、 比較的血管 異常が少ないと思われるドック 受診者についてどの よ うな傾向にあるのか、今回 ABI.baPWV の基準値の 検証を行った。 対象と方法 評価基準の対象は、過去に高脂血症・糖尿病 ・高尿 酸血症・循環器系疾患の既往歴のないドック受診者100 名とした。年齢別・ 男女比の内分けは、表 l に示す。 当|淀のドック受診者における ABI.baPWV の基準値 160 の検前J 高血圧 (BP) 糖尿病 (DM) 2 危険因子規定条件 SBP 140mmI-Ig または DBP 90mmI-Ig HBA 1C ι0% または随時泊l 糖値孟2 mg/dl 高脂血症 (H L) I T-Cho 250mg/dl 高尿酸血症 (HUA) I 9 /dl これらの受診者について表 2 の危険因子規定条件 (コーリン社提供)、にしたがって危険因子保有者と非 保有者に分けたものが、図 l である。ABI.baPWV は、年齢・男女別・危険因子保有者・非保有者に分別 し、 これらの群問でデータをよじ絞した。 1 ドック 100 名の危険因子保有者と非保有者の割合 TokushimaR dCrossI-Iospital Medical Journal

当院のドック受診者における baPWVの基準値の検証...ABI註1. 3動脈が石灰化している baPWV ~1220 硬化なし 1220~ 1360 軽度硬化 1360~ 1580 中等度硬化

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Page 1: 当院のドック受診者における baPWVの基準値の検証...ABI註1. 3動脈が石灰化している baPWV ~1220 硬化なし 1220~ 1360 軽度硬化 1360~ 1580 中等度硬化

当院のドック受診者における ABI・baPWVの基準値の検証

前田芳香 大宅利治

徳島赤十字病院検査部

要旨

当院では、血管内皮障害の診断検査のーっとして、2002年4月より、 ABI(Ankle Brachial Index)足関節/上腕血

圧指数、baPWV(ba Pulse Wave Velocity)脈波伝播速度の検査を取り入れた。今回 ABI.baPWVの基準値の検証を

行うため、当院一泊ドック受診者のうちオプション検査として本検査を希望した100!f1を対象として検証を行った。検証

の結果、 ABI値は、年齢 ・男女別 危険因子保有者・ ~I::保有者による有意な差は認められず、 全て正常範囲内 (0.9<

ABI<1.3)であったが、 baPWV値においては、危険因子保有者と非保有者の聞で有意な差が認められたo ~ I=保有者

群が、基準値1400cm/s以下であるのに対し、保有者若手はあきらかに基準値を上回った。

このことから既往歴のない比較的健康と考えられるドック受診者においても動脈硬化は、進んでいることが示され

た。今後も予|坊的な観点から ABI.baPWVを測定することは血管を健康に保つために有意義であると考えられる。

キーワード :ABI、baPWV、生活習慣病

はじめに

近年、血管状態を定期的にチェックし動脈硬化度を

測定することが、 生活習慣病予防の第一歩と言われて

おり、当院でも血管内皮障害の診断検査のーっとして

2002年 4月より ABI.baPWVの検査を取り入れた。

検査の対象は、主に閉塞性動脈硬化症、虚血l性心疾患、

脳梗塞、高脂血症、糖尿病、 その他動脈硬化に起因す

る疾患の方々であったが、動脈硬化の進行度をダイレ

ク トに評価する指標として有用でまた患者様に負担を

かけることがほとんどないため、 5月より 一泊ドック

受診者で ABI.baPWV検査の希望者も本検査を行う

ことにした。すでに血管の病気になっている人は、 ABI

または baPWV値に異常が認められるが、 比較的血管

異常が少ないと思われるドック 受診者についてどの よ

うな傾向にあるのか、今回 ABI.baPWVの基準値の

検証を行った。

対象と方法

評価基準の対象は、過去に高脂血症・糖尿病 ・高尿

酸血症 ・循環器系疾患の既往歴のないドック受診者100

名とした。年齢別・ 男女比の内分けは、表 lに示す。

当|淀のドック受診者における ABI.baPWVの基準値160

の検前J

高血圧(BP)

糖尿病(DM)

表 2 危険因子規定条件

SBP註140mmI-Igまたは DBP註90mmI-Ig

HBA 1 C孟ι0%または随時泊l糖値孟2∞mg/dl高脂血症(HL) I T-Choミ250mg/dl

高尿酸血症(HUA)I UA~7 . 9叫 /dl

これらの受診者について表 2の危険因子規定条件

(コーリン社提供)、にしたがって危険因子保有者と非

保有者に分けたものが、図 lである。ABI.baPWV

は、年齢 ・男女別 ・危険因子保有者 ・非保有者に分別

し、これらの群問でデータをよじ絞した。

図 1 ドック100名の危険因子保有者と非保有者の割合

Tokushima R巴dCross I-Iospital Medical Journal

Page 2: 当院のドック受診者における baPWVの基準値の検証...ABI註1. 3動脈が石灰化している baPWV ~1220 硬化なし 1220~ 1360 軽度硬化 1360~ 1580 中等度硬化

測定には、日本コーリン社の form PWV / ABIを用

い安静仰臥位10分後に測定を開始した。なおコ ーリン

社による ABI.baPWVの評価基準は表 3のように表

示されている。

表 3 評価基準 (コーリ ン社提供)

ABI

0.9<ABI<1.3 正常

ABI壬0.9 動脈閉塞の疑いがある

ABI豆0.8 動脈閉塞の可能性が高い

0.5<ABI孟0.8 動脈閉塞が一箇所はある

ABI註1.3 動脈が石灰化している

baPWV

~ 1220 硬化なし

1220~ 1360 軽度硬化

1360~ 1580 中等度硬化

1580~2100 両度硬化

結果

1) ABI 値

ABI値についての検証であるが、図 2の年齢の変

化に伴う ABI値は各年齢全て0.9<ABI<1.3の正常

域の範囲内であり、年齢による変化は見 られない。図

3の男女別の比較であるが、このデー タもすべて正常

域の範囲内で男女による差は見られない。 1~14 の危険

因子保有者と非保有者の比較であるが、このデータも

全て正常域の範囲内であり 、危険因子保有者と非保有

者の差は認められない。

2) baPWV値

baPWV 1i直についての十食吉正であるカ人図 5の年齢;の

変化に伴う baPWV値は加齢に伴っても高値になる。

1~1 6 は男女別 に比較したもので男女によ る差は見られ

ない。図 7は危険因子保有者と非保有者の比較を行っ

たデータでこれは明らかな差が認められた。危険因子

保有者群のデータは、全ての年齢においてコー リン社

提供の 1200~1ど100cm/sの境界域を上回っている。それ

に対して非保有者群は60歳代までは正常域の範囲内で

あった。

VOL. 8 NO. 1 MARCI-I 2003

1.5

1.3

co 1.1 〈

個、マ-

0.9

0.7

1.5

1.3

co 1.1 〈

0.9

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1.5

1.3

恒l

co 1.1 〈

0.9

0.7

T~蚤 ヱゴ

30 40 50 60 70 (年齢)

一+ー 右ABI全体 ---1← 左ABI全体

図2 年齢の変化に伴う ABI値

塁 Jニ-~ 会シj |

30 40 50 60 70 (年齢)

一+ーー 右AB I男性 ---1トー左AB I男性一企ー 右AB I女性 一→←一 左AB I女性

図3 ABI値男性と女性の比較

¥『 ---:::::t

30 40 50 60 70 (年齢)

一令ー 右ABI保 有者 ---1← 左AB I保有者一会ー 右ABI非保有者 一→←一 左AB I非保有者

図4 ABI値危険因子保有者と非保有者の比較

当院のドック受診者における ABI.baPWVの基準値161

の検証

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Ccm/sec)

2000 察考

日本人の 3大死因は 『癌j. r脳血管疾患j. r心疾

患Jで、なかでも脳血管疾患と心疾患はいずれも血管

の壁が厚 くなって弾力性が失われ、血管が劣化 したり

狭くな ってしまう動脈硬化が大半を占め、その原因と

しては、高脂血症 ・高血圧症 ・喫煙 ・アルコ ールの過

剰摂取 ・肥満 ・糖尿病 ・高尿酸血症 ・ス トレス ・運動

不足などがあげられる。また動脈硬化は、加齢によ っ

て誰にでも起こるが、個人差が大きくその進展には食

生活や運動不足などの生活習慣が大きく関連している。

当院では、 4月から10月末までの 7ヵ月間で ABI.

baPWV検査 に402件の依頼があり 、その内分けは循

環器科依頼220件、内科依頼回件、その他の診療科 5

件、 一泊 ドック受診者112件であった。今回、既往歴

のない比較的健康 と思われる ドック受診者を対象に

ABI. baPWVの基準値の検証を行ったが、血管の硬

さの指標となる baPWV値は、危険因子保有者群と非

保有者群では、危険因子保有者群があきらかに高値を

示した。なおグラフの若干のばらつきは、 11数による

ものと考えられる O

今後、 ドック受診者について ABI.baPWVの検査

を行うことは、血圧や生化学的項目 (T-CHO,TG, UA,

血糖など)ーよともに動脈硬化症の早期発見の新 しいリ

スクマーカーとして、血管内壁の状態を推測するのに

有効であり 、各人が早期予防を自覚し生活習慣の改善

に取り組み、重篤な疾患に至らない ように対応するた

めに有効で、あると考えられる。

{自問リスク

中リスヲ

1800

坦1600〉

3: a.. 21400

1200

1000 70 (年齢)

+ … 全体 |

高リスク

70 (年齢)

--1ιー左baPWV男性-→←一左baPWV女性

baPWV値男性と女性の比較

60

図5 年齢の変化に伴うbaPWV値

60 50

50

一+ー 右baPWV全体

40

--+ーー右baPWV男性一合一 右baPWV女性

40

図6

30

30

Ccm/sec)

2000

理 1600〉

3: a.. 21400

1200

1000

1800

1 )小樺利夫,増田善昭 :脈波速度.

社,東京, 2002

2 )長谷川元冶 :大動脈脈波速度検査法 ・動脈硬化症

診療ニューガイド.八杉忠男,中村治男編修, 金

原出版,東京,1989

3 )小林由希,湯本幸子,青木君代,他:人間 ドック

受診者にPWV測定を試みて.健康医学 17: 18-

21, 2002

メジカルビュー

高リスヲ

一中リスヲ一

Ccm/sec)

2000

思 1600〉

3: a.. 21400

1200

1800

70 (年齢)60 50 40 30 1000

--+ーー右baPWV危険因子 --1トー左baPWV危険因子一企ーー右baPWV非保有者 一→←一左baPWV非保有者

Tokushima Red Cross I-Iospital Medical Journal

baPWV値危険因子保有者と非保有者の比較

当院の ドック受診者における ABI.baPWVの基準値162

の検証

図7

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Evaluation of the Standard Value of ABI・baPWVin Subjects Undergoing Health Screening in Our Hospital

Yoshika MAEDA Toshiharu OY A

Division of Clinical Laboratory. Tokushima Red Cross Hospital

Since April 2002, th巴 anklebrachial index (ABI) and ba pulse wave v巴locity (baP¥可V)have be巴nemployed

in the health screening program in our hospital to diagnose vascular endothelial disorder. Among subjects

undergoing 2-day h巴alth screening in our hospital. this study evaluated the standard values of ABI and

baPWV in 100 subjects who additionally wish巴dto undergo examination of ABI and baPWV. As a result,

values of ABI were within the normal range (0.9< ABI < l. 3) in all 100 su bjects. and did not significantly di妊巴r

even when these subjects were classified by age, gender, and the presenc巴 or abs巴nce of risk factors

I-Iowever. values of baPWV significantly differed between subjects with and without risk factors. That is, the

m巴anvalu巴 ofbaPWV was below the standard value (1, 400cm/s) in subjects without risk factors, while that

was apparently higher than the standard value in those with risk factors

These findings suggest that relatively healthy subjects undergoing health screening may have advanced

arteriosclerosis巴venwhen they have no history of circulatory disorders. 1n the future, measurement of ABI

and baPWV may be useful from the prophylactic point of view

Key words: ABI, baPWV, life style-related diseases

Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal 8 : 160-163, 2003

V01. 8 NO.l MARCH 2003 当|涜の ドァク受診者における ABI.baPWVの基準値

163 の検証