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環境計画論 第5Dec.08, 2011 資源・エネルギーの 枯渇問題と環境計画 1.資源・エネルギーとは 2.エネルギーの特性 3.熱力学の法則 4.エクセルギーの概念と環境計画 福島大学共生システム理工学類 後藤

資源・エネルギーの 枯渇問題と環境計画a067/EnvPlan...資源・エネルギーと環境問題 枯渇するという問題 有限な地球にある資源・エネルギー

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環境計画論 第5講 Dec.08, 2011

資源・エネルギーの枯渇問題と環境計画

1.資源・エネルギーとは

2.エネルギーの特性

3.熱力学の法則

4.エクセルギーの概念と環境計画

福島大学共生システム理工学類 後藤 忍

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1. 資源・エネルギーとは

2. エネルギーの特性

3. 熱力学の法則

4. エクセルギーの概念と環境計画

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資源とエネルギー 資源とは

広辞苑では 生産活動のもとになる物質・水力・労働力などの総称。

化石燃料、鉱物資源、水、森林資源、など

経済学辞典(岩波書店)では

自然により与えられる有用物で何らかの人間活動が加わることにより生産力の一要素となり得るもの

人間の欲求を充足するために加工あるいは未加工状態で消費される生物または無生物の天然資源、およびその生産活動を組織し、潜在的資源を顕在化する人的・文化的資源

歴史 大正時代までの辞書には登場しない、比較的新しい言葉。

それまでは「富源」という言葉が主に使われる。

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資源の分類 資源には様々な分類がある。

一般に資源という場合、天然資源(natural resources)をさすこ

とが多い。化石燃料資源や金属鉱物資源などであり、狭義の資源とも呼ばれる。その場合、天然資源以外の様々な資源(労働資源や観光資源など)は、広義の資源と位置づけられる。

用途によって分類する場合、エネルギーを得るためのもの(エネルギー資源)と、原料として用いるもの(原料資源)とに大別される。つまり、エネルギーは資源の一部であることから、資源・エネルギーと並列で扱うのは厳密にはおかしいと言える。ただし、現実には、原料資源を単に「資源」と表記し、エネルギー資源を「エネルギー」として、「資源・エネルギー」と表記されることが多い。

資源の由来から分類する場合、生物起源のものとそうでないものによって、「無機資源」(鉱物資源、水資源など)と「有機資源」(化石燃料、バイオマスなど)に分けられる。

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再生可能性から見た資源の分類

人類史の時間尺度では補充不可(例:化石燃料、鉱物)

非再生可能資源

再生可能資源 (例:太陽光、風力)

(例:生物資源)

使用量に無関係

現存量に依存

北野大編著(2003)『資源・エネルギーと循環型社会』に加筆修正

枯渇の問題を重視して分類する場合、「再生可能資源」と「非再生可能資源」に分類される。

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資源・エネルギーと環境問題

枯渇するという問題

有限な地球にある資源・エネルギー

持続的ではない消費速度

ただし、確認可採埋蔵量の解釈には注意が必要

生存条件を劣化させる問題

化学物質や放射性物質による汚染

熱による汚染

土地改変による生態系破壊

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持続可能な発展のための原則 1990年にハーマン・デイリー(Herman E. Daly)が提示し

た持続可能な発展の3原則

① 再生可能資源(土壌・水・森林・魚など)の利用に関しては、その再生速度を超えてはならない。

② 非再生可能資源(化石燃料・鉱石・深層地下水など)の利用に関しては、再生可能な資源を維持可能なペースで利用することで代替できる速度を超えてはならない。

③ 汚染物・廃棄物の排出に関しては、環境がそれを吸収・浄化することのできる速度を超えてはならない。

1991年に国際自然保護連盟(IUCN)、国連環境計画(UNEP)、世界野生生物保護基金(WWF)の3つの世界的な組織が合意した持続可能な発展の定義 “development which improves the quality of life, within the

carrying capacity of the Earth’s life support system”(地球の生命維持システムがもつ環境容量の範囲内で、生活の質を改善する発展)

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人類のエネルギー消費量の推移

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地球全体の石油生産量

現存する石油資源を2000年のペースで消費すると、50~80年で枯渇する。

終的に発見可能な石油が1.8兆バレルであった場合、生産の割合は右側の点線のように予測される。

(出典:D.H.メドウズ他(2005)『成長の限界 人類の選択』,p.119)

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世界の原油可採年数の推移「可採年数(R/P ratio,reserves/production ratio)」

=「年末の確認可採埋蔵量」÷「その年の原油生産量」

(データ元:BP Statistical Review of World Energy)

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(出典:http://www.atomin.go.jp/yougo/syosai.php?type=2&id=111に一部加筆)

代表的な一次エネルギーの確認可採埋蔵量

1,400km3≒88,060

億バーレル

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主な国のエネルギー自給率(2007年)(出典:文部科学省・資源エネルギー庁

「チャレンジ原子力ワールド」)

ウラン資源について日本国内のウラン産出量は0であるにも関わらず,国産と考えた場合を計上している。

世界のウラン生産量(2008年)(出典:資源エネルギー庁「エネルギー白書 2010」)

原子力による発電割合が世界一高いフランスでも,ウラン生産量は,ほぼ0である。

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ウラン燃料とMOX燃料(出典:文部科学省・資源エネルギー庁「チャレンジ原子力ワールド」)

ウラン燃料とMOX燃料 天然ウラン

ほとんどはウラン238で,核分裂するウラン235は0.7%しかない。

プルサーマル計画とMOX燃料 プルサーマル=プルトニウム(plutonium)+熱中性子(thermal neutron) MOX=Mixed Oxide(二酸化プルトニウムと二酸化ウランを混合したもの)

使用後については未記載

日本では施設が本格稼働していない。

高レベル放射性廃棄物

濃縮が必要

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繁栄の時期は・・・?

(出典:国立科学博物館・東京農工大学共同企画展示記録『100年先から見てみよう』,p.1-1-1)

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エネルギー消費と生物進化

水生生物の流線型の体 鳥類の翼と骨格

人間は、自らの消費エネルギーを少なくするために、外部の有限な化石燃料に頼る方法を進化させてきた。

例 →生活スタイルそのものが少ないエネルギーで済むような、しなやかな進化が遂げられるか?

動植物の体は、エネルギー消費を少なくするような改良が進化の過程でなされてきた。

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1. 資源・エネルギーとは

2. エネルギーの特性

3. 熱力学の法則

4. エクセルギーの概念と環境計画

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エネルギーの特性 エネルギーとは広辞苑

物理的な仕事をなし得る諸量の総称。

[仕事をする能力]という意味を持つギリシャ語の「エネルゲイア」から派生した言葉。電気エネルギー、運動エネルギー、位置エネルギー、熱エネルギー、光のエネルギー、音のエネルギーなど、エネルギーは種々の形態をとる。

エネルギーの特性エネルギーは様々な形態をとる。

エネルギーは保存される(熱力学第一法則)。

強度(示強)因子(intensive factor)と容量(示量)因子(capacity factor)との積で表示される。

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各種エネルギーの相互変換

出典:山口幸夫(2001)『エントロピーと地球環境』,p.56

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エネルギーの変換効率

エネルギーの変換効率

廃熱等まで含めれば、エネルギーの総量は変わらない(エネルギー保存則)

しかし、有効に取り出せるエネルギーは、変換の種類により異なる。

特に熱機関は、熱力学第二法則から、必ず無駄になるエネルギーがあるため、すべてを変換できない。

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力学的エネルギーの熱エネルギーへの変換 ジュールの実験

イギリスのジェームス.P.ジュール(James Prescott Joule)は、1847年に熱と仕事の関係に関する有名な実験を行う。→仕事量の増加と熱量の増加は比例関係にあることを発見→熱の仕事当量(1cal≒4.19J)を導く

疑問点仕事は100%熱に変換できるようだが、1824年にカルノーが言ったことは、熱は100%仕事に変換することができないことを表している。→仕事から熱への変換は容易だが、熱から仕事への変換は上限があり困難である。→クラウジウスによるエントロピー概念の誕生(1865年)

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一次エネルギーと二次エネルギー

使用目的による変換現実の社会経済活動に用いられるエネルギーは、変換前のエネルギー(を発生させるもの)としての一次エネルギーと、消費者が使いやすいように形を変えた変換後のエネルギー(を発生させるもの)の二次エネルギーからなる。

一次エネルギー:石油、石炭、天然ガス、原子力、水力、地熱、など

二次エネルギー:電力、ガソリン、都市ガス、など

エネルギーの形態は、変わる場合とそうでない場合がある。

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エネルギーの変換効率の目安変換効率 変換装置の例 エネルギーの変換

~99% 発電機 力学E→電気E90%以上 大型モーター 電気E→力学E

乾電池 化学E→電気E電気ストーブ 電気E→熱E

80~90% 大型蒸気ボイラー 化学E→熱E60~70% 小型モーター 電気E→力学E

燃料電池 化学E→電気E40~50% 蒸気タービン 熱E→力学E30~40% ディーゼルエンジン 化学E→熱E→力学E20~30% 自動車エンジン 化学E→熱E→力学E

蛍光灯ランプ 電気E→可視光E10~20% 太陽電池 電磁波E→電気E10%以下 白熱電球 電気E→可視光E

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エネルギー変換の仕組み~発電~

例:火力発電所におけるエネルギーの変換過程

化学E→熱E→力学E→電気E

出典:大井火力発電所ウェブサイトhttp://www.tepco.co.jp/ohi-tp/sikumi/sikumi-j.html

化学E

化学E→熱E

熱E →力学E

力学E→電気E

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火力発電のエネルギー効率 エネルギーの変換からみたトータルでの効率

化学E 熱E 力学E 電気E

80~90% 40~50% ~99%

⇒変換効率=1×(0.8~0.9)×(0.4~0.5)×(~0.99)≒0.32~0.45

⇒熱源から発電するときの変換効率はトータルで30~40%程度。

⇒残りの60~70%は廃熱として捨てられる(特に,冷却水としての海水へ)

燃料 蒸気タービンの回転 電気

ボイラー

タービン

発電機

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火力発電と原子力発電

原子力発電も、熱で蒸気をつくり,タービンを回転させて発電し,淡水と海水で冷却している点は共通している。

違いは,火力発電のボイラーが化石燃料を使用するのに対し原子力発電ではボイラーを原子炉に置きかえ、ウランを燃料としている点。

火力発電と原子力発電の違い(出典:電気事業連合会ウェブサイト)

福島第一原発6号機のタービン(2006年2月17日)

(出典:毎日新聞ウェブサイト)

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原子力発電の仕組み 原子炉の中で燃料のウランを核分裂させ、その時発生する熱によって水を蒸気に

変え、この蒸気の力でタービンを回し、発電機で電気を起こす。

蒸気を水に戻すために大量の冷却水を必要とする。(海岸部立地の一つの理由)

原子力発電の仕組み(出典:東京電力ウェブサイト)

原子核E 熱E 力学E 電気E

核燃料 蒸気タービンの回転 電気

原子炉

タービン

発電機

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原子力発電からの温排水 出力100万kWの原子力発電で,発電効

率が30%の場合,200万kW分は環境中(主に海水)に捨てている。その熱は,1秒間に70トンの海水を7℃上げる。

温排水の量は,日本の主要な河川の年平均流量に匹敵する。

「正しく言うなら,『海温め装置』だ」との指摘もある。

(出典:総務省統計局のデータから作成)

(出典:広瀬隆・藤田祐幸(2000)『原子力発電で本当に私達が知りたい120の知識』,p.49)

河川名 年平均流量(㎥/s)信濃川 501阿賀野川 392石狩川 387北上川 312木曽川 308天竜川 286淀川 259利根川 235

上川 225十勝川 223雄物川 219米代川 193神通川 189新宮川 184大淀川 175天塩川 173江の川 172渡川 153阿武隈川 131

表:主な河川の流量(2009年)

主な原発 温排水量(t/s)柏崎刈羽 (7基 821.2万kW) 566大飯 (4基 471.0万kW) 325福島第一 (6基 469.6万kW) 324福島第二 (4基 440.0万kW) 303浜岡 (4基 361.7万kW) 249玄海 (4基 347.8万kW) 240高浜 (4基 339.2万kW) 234伊方 (3基 202.2万kW) 140美浜 (3基 166.6万kW) 115

表:主な原発と温排水量

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発電のエネルギー効率ポイント発電する原理は,蒸気タービンを用いている点で,火力も原子力も同じ。

発電所の効率は30~40%程度である。

電気は,もとの熱エネルギーの一部を捨てることで,より質を高めたエネルギーの形態である。

送電ロスが少なくとも2%、多くて7~8%程度あるとされる。(外国だと20%というところも)

つまり、もともとのエネルギーのうち60~80%程度は熱として捨てていることになる。

→これらの熱の一部を回収しようとするのが

コジェネレーション(cogeneration)→近年では,火力の効率が上がっている。

例:コンバインドサイクル発電

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天然ガス コジェネレーション 仕組み

発電機で電気を作るときに発生する熱も同時に利用して給湯や暖房に使用。

特長・メリット 総合効率は約80%と高い。

課題・デメリット 化石燃料に依存していることは変わらない。

電気に比べて熱の需要が少ない。(周辺に都市がない原発であればなおさら)

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高効率コンバインドサイクル発電 仕組み

ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた(Combined Cycle)発電方式。

初に圧縮空気の中で燃料を燃やしてガスを発生させ、その圧力でガスタービンを回して発電を行う。

次に,排ガスの余熱を使って水を沸騰させ、蒸気タービンによる発電を行う。

特長・メリット

改良型コンバインドサイクル発電(ACC=Advanced Combined Cycle発電)では,約50%の熱効率を達成している。

課題・デメリット 化石燃料に依存していること

は変わらない。 (出典:四国電力ウェブサイト)

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コジェネレーションの観点

コジェネレーションにより電気と同時に熱を使用する場合,熱の需要が発電所近くに存在する必要がある。(熱エネルギーは散逸しやすいため,遠くには供給できない)

しかし,原発は都市部には建設されないため,周囲に熱の需要が存在せず,効率的な供給ができない。

コンバインドサイクル発電の観点

天然ガスによるコンバインドサイクル発電が可能なのは,燃焼ガスそのものを媒体として利用できるからである。

原子力発電で同様のことを行おうとすれば,核爆発が必要となるが,当然そのような制御はできない。

原子力発電の効率が上がらない理由

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練習問題①:エネルギーの変換効率

大学生のA君。ある寒い日の夜、暖房について考えた。

「ケチなエコなおいらとしては、同じ暖房をするにしても、より省エネになるようにしたい。仮に、石油ストーブと電気ストーブのどちらかを選択する場合、どっちが省エネなんだろう?」

さて、みなさんがA君にアドバイ

スするならどのように言いますか。トータルでの変換効率を考えて答えてください。

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時間帯別の電源構成

電力需要は8時~18時頃が多い。

ベストミックスと表現されるが,原子力発電は出力調整が難しいことの証左でもある。

需要の変化に合わせた電源の組み合わせ(出典:文部科学省「チャレンジ原子力ワールド」)

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ピーク電力への対応 電力消費のピークが出

る時間帯は,年間8760時間のうち10時間程度。

東京電力管内の電力消費のピークは,「夏場・平日・日中・午後2時から3時にかけて,気温が31℃を超えたとき」に限られている。

対応としては,昼間のピーク電力を下げるよりも,夜間の 小電力消費の底上げを図ることに重点が置かれた。

→オール電化の目的!?東京電力のピーク需要の特徴

(出典:田中優(2011)『原発に頼らない社会へ』,ランダムハウスジャパン,p.102)

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オール電化は環境によいか?

(東北電力および関西電力ウェブサイトより)

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発電方法別の設備容量

大需要電力量は,火力と水力の合計値でほとんどまかなえるレベルである。

原子力発電所の設備容量は2割に満たない。

出典:小出裕章(2010)『隠される原子力 核の真実』

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日本の発電設備の量と実績

原子力発電所の設備利用率は70%と も高い。

火力発電所の設備利用率は50%程度である。

水力発電所の設備利用率は20%程度と も低い。

自家発電は,火力が主体であり,設備利用率は55%程度である。

→「原子力発電による電力は3割」は,運用による結果として,つくられた数字である。

出典:小出裕章(2010)『隠される原子力 核の真実』

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日本の産業別使用電力量

割合が多いのは,機械,鉄鋼,化学などである。

鉄道は5%であり,東京電力管内でも7%程度。

→震災直後の計画停電の妥当性は?

鉱業0%

食料品5%

繊維2%

紙・パルプ7%

化学14%

石油・石炭

製品3%

ゴム製品1%

窯業・土石4%

鉄鋼18%

非鉄金属4%

機械20%

その他製造業8%

鉄道5%

その他9%

出典:電気事業連合会統計委員会編(2010)『電気事業便覧 平成22年版』より作成

平成21年度計約3860億kWh

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リスク負担の不公平性 発電所の立地状況

火力発電所は,東京,大阪,名古屋の大都市にも立地しているのに対して,原発は一切立地していない。

東京に原発?

2007年の新潟県中越沖地

震による柏崎刈羽原発の事故の後,2008年に新潟日報

社の取材を受けた際,東京都の石原都知事は次の様にコメントしている。

「土地さえあれば,東京湾に原発を造ってもいいと思っている。」 発電所の立地状況(国土数値情報から作成)

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1. 資源・エネルギーとは

2. エネルギーの特性

3. 熱力学の法則

4. エクセルギーの概念と環境計画

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熱力学の第一法則 エネルギーと物質の保存則

「熱は本質上、仕事と同じくエネルギーの一つの形であって、仕事を熱に変換することも、またその逆も可能である」

「一つの系の保有するエネルギーと物質の総和は、外部との間に交換のない限り一定不変であり、外部との間に交換があれば授受した量だけ減少または増加する」

第一法則から言えること

様々なエネルギーは、その形が異なるのみであって、その本質においては全く同一のものであり、その一つの形から他の形に変換することが可能である。

→循環、可逆反応の世界

エネルギーを消費しないで、継続して動力を発生できる機械は不可能である。

→第一種永久機関の否定

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燃料・水 排熱

熱機関の変換効率は100%になるか?~熱力学的な考え方から~

熱機関(熱エネルギーを継続的に力学的エネルギーに変換する装置)の変換効率に関する考察。

「どれほどの仕事が引き出せるのか?」サディ・カルノー(S.Carnot)

フランスの物理学者(1796~1832)。1824年に「火の動力

についての考察」を発表。大効率の仕事が引き出せる理想サイクル(カルノーサイクル)について考察。

例:ニューコメンの蒸気機関

S.Carnot(1796~1832)

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太陽光 廃熱

様々な現象の熱力学的な類似性~開かれた能動定常系~

自然の循環(大気・水)

太陽光・水・

二酸化炭素

廃物・廃熱

植物の生命活動

食べ物・水・酸素

廃物・廃熱

動物の生命活動

資源・エネルギー

廃物・廃熱

産業活動

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カルノーの論文の一節 「火の動力についての考察」(1824年)の冒頭部分

「熱は運動の原因となることができ、しかもそれが非常に大きな動力をもつことを知らぬ人はない。今日ひろく普及している蒸気機関が、そのことを誰の目にも明らかにしている。

熱こそ、地球上でわれわれの目にはいる大規模な運動の原因となるものである。大気の擾乱、雲の上昇、降雨、その他もろもろの大気現象、そしてまた、地球の表面に溝を掘りながら進む水の流れ-人間はそのごく一部を利用しているにすぎない-などは熱によるものである。地震や火山の爆発の原因もまた熱にある。

われわれは、この莫大な熱の蓄えのなかから必要な動力をとりだすことができる。自然は、いたるところに燃料を供給して、いついかなるところでも熱とその動力を生じさせることを可能にしてくれている。この力を発生させて、われわれの使用に供することが、火力機関の目的である。・・・」

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カルノーが考えたこと 着眼点

熱機関の性能に限界はあるか?

アナロジー:水車

カルノーの考え熱素説に基づいて、理想的な状態を仮定して考察を行う。

「熱素を捨てるために温度の低い場所が必要である」

「熱素が移動するときに必ず周囲に影響を及ぼす」

「熱機関を反対に動かしても、動かす前と同じ状態に戻せない」

→「熱エネルギーの使用には、効率の上限があり、必ず一部の熱を捨てなければならない。」

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カルノーの機関とカルノーサイクル 理想的な熱機関のサイクル

シリンダーの中の気体は理想気体(状態方程式PV=nRTが成り立つ)

熱の損失がないサイクル(熱はピストンのする仕事にすべて使われる)

等温変化の過程では、シリンダーの中の温度が一定であるように保ちつつ、無限にゆっくりピストンを動かす。

熱源は十分な容量をもつ(温度が変化しない)

高温熱源:TH

①等温膨張(圧力が減る)

断熱壁

②断熱膨張(さらに圧力が減る。温度も低下する。)

低温熱源:TL

断熱壁

③等温圧縮(圧力が増える)

④断熱圧縮(さらに圧力が増える。温度も上昇する。)

QH QL

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カルノーサイクルの効率 カルノーサイクルの効率

高温熱源THからQHの熱エネルギーをもらってピストンを動かし、低温熱源TLにQLを捨てて、その差(QH- QL)で仕事をしている(どのプロセスでも熱の損失はない)。

QとTは比例関係にある(Q=kT,k:ボルツマン定数)ことから、効率ηは次のように表わされる。

→カルノーの熱機関の効率は、高温部と低温部の温度だけで決まり、1にはならない(熱効率100%は不可能)ことを導く。

実際の熱機関の効率実際の熱機関では、カルノーの想定した理想的な状態は不可能である(無限にゆっくりできない、摩擦や伝導・放射で熱エネルギーの損失がある、等)。

→取り出せる仕事はQH- QLよりも小さくなる(効率の限界)

H

L

H

LH

H

LH

TT

TTT

QQQ

1(得た熱量)

(仕事の量)

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効率の比較 カルノーの仮想的な熱機関の効率からは、Q/Tつまり「熱エネルギー÷絶

対温度」が、熱源の高温側と低温側で等しいことが分かる。

一方、実際の熱機関の効率はそれよりも低くなる(熱の損失が多くなる→Q’L > QL )ため、 「熱エネルギー÷絶対温度」は熱源の低温側で大きくなる。その結果、高温側(熱を与える)と低温側(熱を得る)の「熱エネルギー÷絶対温度」の差し引きは、1サイクル後に必ず増えることになる。

このことが重要であると考えたのがドイツの物理学者ルドルフ・クラウジウス(R. Clausius、1822~1888)で、1865年に『熱エネルギーQ[J]÷絶対温度T[K] 』をエントロピーと名付けた。

実際の熱機関効率

カルノーの熱機関効率

エントロピー概念の誕生

H

H

L

L

H

L

H

L

TQ

TQ

TT

QQ

11

H

H

L

L

H

L

H

L

H

L

H

L

H

L

TQ

TQ

TT

QQ

TT

QQ

QQ

111

低温側 高温側

低温側 高温側

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不可逆な世界(1) 例:異なる温度の水の混合

→二つの温度の間で平衡する温度の水になるように混合し、自然にはもとに戻らない。

100℃1ℓ

20℃1ℓ

60℃2ℓ

エネルギー量は変化の前後で同じなのに、自然な変化は一方向にしか起きない。→エントロピーで説明できるのでは?

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ボルツマンによるエントロピーSの表現 1877年に発表した論文「熱平衡法則に関する力学的熱理論の第2主法

則と確率計算の関係について」で、次の関係式を導いた。

(k:ボルツマン定数、W:場合の数)

この式では、「エントロピーが増える」ということは「場合の数が増える」ということを表している。

統計力学におけるエントロピー ボルツマンによる研究

拡散や伝導のような現象の「逆」は起こりうるのかについて研究したのがオーストリアの物理学者ルードヴィヒ・ボルツマン(R.E. Boltzmann,1844~1906)で、「統計力学」の創始者とされる。

気体同士が衝突し、拡散するとき、場合によっては均一ではなく、多少は気体の分子が少ない部分も生じるのではないかという観点から、衝突の確率を計算した。

その結果、拡散の「逆」が自然に起こる可能性は、あったとしても「数十億年に1回あるかどうかだ」という結論が得られた。

→確率の上では0ではないけれど、現実にはありえない

WkS log

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不可逆な世界(2)

例:インクの拡散→均一な密度(無秩序な状態)になるように拡散し、

自然にはもとに戻らない。

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不可逆な世界(3) 気体の拡散

→均一な密度(無秩序な状態)になるように拡散し、自然にはもとに戻らない。

ましてや・・・

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熱力学の第二法則 実際の熱機関の効率に関する解釈

実際の熱機関では、1サイクルが終わって元の状態に戻ったとき、シリンダー内の気体の状態は不変だとしても、熱源におけるエントロピーの総和は必ず増大している。この変化は不可逆である。

熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)系を含む環境全体のエントロピーは必然的に増大していくという法則。エネルギーと物質の散らばり具合の変化には方向性があって元には戻らず、必ず拡散し、劣化し、均一化していくことを示す。

(例:水に落としたインク、温度の違う水の混合、etc.)→変化の不可逆性を表す法則

エントロピーとは、エネルギーや物質の「散らばり具合」や「汚れ」を表す指標。「エネルギー」を表す enと、「変化」「転化」を表すギリシャ語tropëの合成語である。

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第二法則から言えること

法則から見える世界高熱源から動作物質に伝えられた熱の一部分のみが仕事に変換され、残りの熱は低熱源に捨てられなければならない。→効率には上限があり、捨てることが重要→第二種永久機関(熱効率100%の機関)の否定

部分的にエントロピーが減少することはあっても、全体としてエントロピーが減少することはなく、その変化は一方向である。→循環しない世界(不可逆性)

秩序を生み出せば、必ずそれ以上の無秩序が別のところで生じる。→生み出されたものだけを見るのではなく、捨てられたものにも常に目を向けることが必要

→自然界の行き着くところは混沌(無秩序)状態である

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エントロピーから見た資源および廃棄物の捉え方

資源と廃棄物の位置づけ

資源はエントロピーが低い。(汚れが少ない)

廃棄物はエントロピーが高い。(汚れが多い)

→汚れが多いと、より少ない汚れの目的には使えない

→カスケード利用

活動する(能動系である)こと

資源と廃棄物のエントロピーの差で活動することができる。

活動を行うと、トータルのエントロピーは必ず増える。

活動を継続的に行うには、増えたエントロピーをうまく捨てる必要がある。

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エントロピーによる自然の循環(cycle)と人工的な循環(recycle)の解釈

自然の循環(cycle)地球で増えるエントロピーは、自然の循環による宇宙への熱廃棄によって処理されている。(もし廃棄しなければ、地球は灼熱の星と化し、活動できなくなる=熱的な死)

人工的な循環(recycle)廃棄物などエントロピーの高いものを人工的にリサイクルして資源化することは、基本的にエントロピーを低くすることである。(そして、全体では必ず増加する)

エントロピーを下げるには、他の低エントロピー源(=別の資源)を投入して、外部に捨てることが必要である。(自然には起きない)

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汚れた衣類

身近なエントロピー増大のイメージ~例:家庭での洗濯(衣類の再使用)~

→ 部分的にエントロピーは減少しても(衣類)全体のエントロピーは必ず増加している。

→この変化の逆を自然に起こすことはできない。

きれいな水

洗剤

電気

汚い水

拡散した洗剤

廃熱

きれいな衣類

エントロピー

の高いもの

エントロピー

の低いもの

エントロピーの

増加するもの

エントロピーの

減少するもの

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練習問題②:冷蔵庫による冷房 大学生のA君。ある暑い日に、

エアコンのない部屋で考えた。「冷蔵庫の扉を開けっ放しにしたら、少しは涼しくなるんじゃないか?どうせ中にモノはほとんど入ってないし、やってみっぺ。」

さて、A君のアイディアはうまく

いくだろうか。熱力学的な観点から考えてください。ただし、部屋はまわりと断熱されているものとします。

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1. 資源・エネルギーとは

2. エネルギーの特性

3. 熱力学の法則

4. エクセルギーの概念と環境計画

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有効エネルギーの考え方~エクセルギー~

これまで見てきたエネルギーの性質

エネルギー保存則からは、いくら変換しても総量は減ることはない。ならば、エネルギーが不足するとか枯渇するとかはあり得ないはずである。

しかし、熱力学第二法則で見たように、実際のエネルギーの利用や変換では、有効に使えるエネルギー(available energy)とそうでないエネルギー(unavailable energy)があり、エネルギーは劣化していく。

このように、同じ「エネルギー」なのに、保存されるものと減るものがあるのは、どういうことなのか?

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有効エネルギーと無効エネルギー

有効性から見たエネルギーの分類

仕事として取り出せるエネルギーを有効エネルギー、取り出せないものを無効エネルギーと考える。すると、次のように表現できる。

エネルギー(有効エネルギーと無効エネルギーの合計)は保存される(熱力学第一法則)が、有効エネルギーはエネルギー変換の過程で保存されず、次第に無効エネルギーに変化していく(熱力学第二法則)。

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エクセルギーの概念

エクセルギーの登場1953年に、ドイツの熱工学者ラント(Z.Rant)がエクセルギーという量の考え方を提案。

あるエネルギーのうち、他のエネルギーの形(特に仕事)に変わりうる部分をエクセルギー(exergy,Exergie)、残りの部分をアネルギー(anergy,Anergie)という。

有効エネルギー = エクセルギー

無効エネルギー = アネルギー

エネルギーは変化の前後で一定。減っているのはエクセルギー。

エネルギーの量よりも、質を論じることができる。

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環境を基準としたエクセルギーの捉え方

身近なエクセルギーの例圧力の場合(拡散、収縮)

ex.スプレーの噴射

温度の場合(加熱、冷却)

ex.暖房、冷房

環境を基準としたときの表現一般的な外界(環境)を基準としたときに、それとの差があれば仕事ができる。

変化して環境と同じ条件になってしまった後では、仕事ができない。

エクセルギーとは、ある環境の中に、環境と異なる温度、圧力を持つ系(物体、または物体の集まり)があるとき、その系を環境と同じ温度、同じ圧力にするまでに取り出せる

大の仕事のことをいう。

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エクセルギーとエントロピー カルノーサイクルとエクセルギーエクセルギーは有効エネルギーのことであるから、熱機関から 大の仕事を取り出せるカルノーサイクルと密接に関係している。

エクセルギーとエントロピー両者の関係は次のように表現される。

「エクセルギーの減少量は、増加したエントロピーと、環境の絶対温度との積に等しい」

エクセルギーの減少量(つまりアネルギー) Xaは、環境の温度をT0、系全体のエントロピー変化をΔSGとすると

Xa= T0 ・ΔSG(=示強因子×示量因子)

で表される。

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エクセルギーで見てみると・・・ 2種類の水の比較

まわりの環境温度が20℃のとき、100℃のお湯1リットルと30℃の水8リットルのエネルギーとエクセルギーは?

100℃1リットル

30℃8リットル

環境温度20℃

m=1T1=100+273.15=373.15

m=8T1=30+273.15=303.15

T0=20+273.15=293.15

100℃ 1リットル 30℃ 8リットル熱量[J] Q=1×1×(373.15-293.15)=80 Q=8×1×(303.15-293.15)=80

熱エクセルギー[J]

ET= 1×1×{(373.15-293.15)-293.15ln(373.15/293.15)

≒9.26

ET= 8×1×{(303.15-293.15)-293.15ln(303.15/293.15)

≒1.33

⇒二つはエネルギーは等しいが、エクセルギーは100℃のお湯の方が約7倍大きい。

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熱エネルギーの捉え方

熱力学第二法則との関係

『エントロピーが増大する』ということは『エクセルギーが減少する』ことを表す。

『エネルギーの質が低下する』ことを『エクセルギーが減少する』と表す。

熱エネルギーの捉え方

環境との温度差が大きいほど、エネルギーの質は高い。

cf.化石燃料の燃焼温度は約1500℃温度差の小さいエネルギーは、たくさんあっても使いにくい。

cf.海水の温度差発電など

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まとめ

持続可能な社会を実現するためには、非再生可能資源の使用量を減らすことが,何より重要である。

エネルギーの変換は,方法により効率が異なる。火力や原子力による発電は、熱エネルギーを、質の高い電気エネルギーに変換するものであるが、多くのエネルギーを環境に捨てている。

日本では、火力と水力だけでも 大需要電力を賄えるだけの発電設備がすでにあり、節電の取り組みとあわせて、原子力に頼らない社会は実現できる。

熱力学第二法則により,部分的にエントロピーは減少しても,系全体のエントロピーは必ず増加する。資源とエネルギーの利用は、エントロピーの観点から捉えることが重要である。

エクセルギーの観点からは,自然エネルギーで化石燃料をすべて代替することは難しい。エネルギー密度の特性に応じて使い分けることで、より効率的な利用は可能である。

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参考資料

(※数式などに関する補足資料です。自主学習に役立ててください)

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エネルギーとエクセルギーの計算

エクセルギーの一般式

000 VVPSSTUUE

環境温度に対するエネルギーとエクセルギー

E:エクセルギー, U:内部エネルギー, T:絶対温度,S:エントロピー, P:圧力, V:体積※添え字の0は、環境と同化したときのそれぞれの熱力学量を表す。

01 TTmCQ P

0

1001 ln

TTTTTmCE PT

熱量(熱エネルギー)

熱エクセルギー

Q:熱量(熱エネルギー)[J], m:質量[kg], CP:定圧比熱[J/kg・K],T1:物質の絶対温度[K], T0:環境の絶対温度[K],ET:熱エクセルギー[J], ln:自然対数

→お湯のもつエクセルギーの計算では、1リットル=1kg、CP=1J/kg・Kで変化しないものと仮定。

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熱エクセルギー計算式の導出過程

0

1001

01001

0

T0

0T

00

ln

lnln

ln

1

1

11

1

0

1

0

1

0

1

0

1

0

TTTTTmC

TTTmCTTmC

TTmCTmC

TdT

TmCTdmCE

TdTTmCE

E

TdTTmC

TTdQdE

dETdmCdQ

TTdTT

P

PP

TTP

TTP

T

P

T

TPT

T

PT

T

PT

T

P

   

   

   

  

められる。が実行でき、次式が求わらない物体では積分比熱が温度によって変

 

で求められる。はこれを積分した次式ーよって、全エクセルギ

 

けたものになる。は、カルノー効率をかー)大仕事(エクセルギこのときの熱量による

 

熱量はまで下がるときに出るから物体の温度が

とする。っていく途中の温度を そこで、温度が下が

。場合は温度が変化するているのに対し、この低温側にある系を考え

高温側、ないほど十分な熱量が機関は、温度が変化ししかし、カルノーの熱

率で与えられる。の仕事は、カルノー効熱から取り出せる 大

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エントロピーとエクセルギー

カルノーサイクルにおけるエクセルギー

エクセルギーは有効エネルギーのことであるから、熱機関から 大の仕事を取り出せるカルノーサイクルと密接に関係している。

カルノーサイクルによる表現

カルノーサイクルに熱Qを温度Tで加え、温度Tと大気温度T0で動かすとき、 大仕事Wは次のように表される。

TTQW 01

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エクセルギーで見てみると・・・

2種類の水の比較まわりの環境温度が20℃のとき、100℃のお湯1リットルと30℃の水8リットルのエネルギーとエクセルギーは?

100℃1ℓ

30℃8ℓ

→エネルギーはどちらも等しい→エクセルギーは異なる

100℃のお湯1リットル = 9.26kcal30℃の水 8リットル = 1.34kcal(もし20℃だったら・・・ゼロ!)

つまり、二つはエネルギーは等しいが、エクセルギーは100℃のお湯1リットルの方が約7倍大きい。

環境温度20℃