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(123) 639 1.まえがき 「メテオ」プロジェクトは,千葉工業大学惑星探査研究セ ンターが NASA と共同で,約 2 年間,国際宇宙ステーショ ンから流星観測を行う世界初の試みである.また,米国実 験棟で主体的に科学観測を行う日本初のプロジェクトであ る.本稿では,「メテオ」プロジェクトの経緯,システム構 成,観測運用計画および科学的意義を紹介する. 2.プロジェクトの概要と経緯 アメリカ航空宇宙局(NASA)はCenter for Advancement of Science in Space(CASIS)という組織に委託し,国際宇 宙ステーション(ISS)の米国与圧実験棟(DESTINY)の利 用機会を促進している.2013年3月,千葉工業大学は NASA と共同契約を結び,米国の NPO 法人 Southwest Research Institute(SwRI)と連携し,CASIS支援の下, ISSからの流星観測プロジェクト「メテオ」を立ち上げた 1) システムを構成するカメラ,レンズ,およびエンコーダに 民生品を活用し,開発期間とコストを抑え,プロジェクト 発足から 2 年以内の打上げを目指した.2014 年 6 月に米国 に輸送し,振動試験,音響試験,減圧・再加圧耐久試験, 電磁環境試験など行い,ロケットによる打上げ環境および 宇宙ステーションの与圧環境への適合性確認および,宇宙 飛行士による人間工学性評価を経て,同年 8 月に NASA へ 引き渡された.2014 年 10 月 28 日,オービタル・サイエン シズ社(Orbital Sciences Corporation)のシグナス補給船運 用3号機(Orb-3)に搭載され,同社で開発したアンタレス ロケットで打上げられたが,打上げ直後の爆発により計画 は中断した. 事故直後からカメラの予備機を整備し,メテオ 2 号機の 開発および上記の環境試験を速やかに行い,2015 年 4 月に NASA へ引き渡した.2015 年 6 月 28 日,米国フロリダ州 ケープカナベラル空軍基地より,スペース X 社商用補給機 7号機ドラゴン(SpaceX Dragon CRS-7)に搭載され,同社 開発のファルコン 9 ロケットにより打ち上げられたが,打 上げ約 2 分後の爆発により再度失われた. メテオ 1 号機およびメテオ 2 号機が遭遇したロケット事故 により,アメリカが開発する ISS への輸送用ロケット二機共 に打上げ失敗となり,次の打上げ時期の見通しが立たない状 況であった.しかし,来るべき打上げ機会を目指し,メテオ 2 号機とともに開発していた予備機を整備するとともに,レ ンズの変更と改良を行い,メテオ 3 号機を完成させ,2016 年 1 月に NASA への引き渡しを行った.同年 3 月 23 日にオービ タルATKのシグナス補給船運用6号機(OA-6)に搭載され, ユナイテッド・ローンチ・アライアンスのアトラス V ロケッ トで打ち上げ,3 月 26 日に無事 ISS に到着した.カメラの設 置および初期動作確認後,5 月以降観測開始予定である. 3.観測システム構成 メテオの観測システムは,民生品であるハイビジョンカ メラ,レンズ,エンコーダ,観測データ記録用の HDD,開 発品である電源通信箱(以下,パワーボックス),および NASAから支給されるカメラ制御用ラップトップPC(IBM T61p)で構成される(図1).観測に使用する超高感度ハイ ビジョンカメラ(図2)は,2012 年に NHK の「宇宙の渚」番 組で使用された EM-CCD カメラの改良版である.イメージ センサを CCD から CMOS へ変更,レンズマウントを C マ ウントからマイクロフォーザーズへ変更,ファンの静音化, および小型軽量化を行った.撮像素子は 2/3 型,有効素子 画素数は 1280 × 720,映像出力規格は 720p,センサフレー ムレートは 30fps である.メテオ初号機から三号機までカ メラは同一の仕様であるの対し,レンズは初号機・ 2 号機 と3号機で異なる(図2および表11)2) .両者共に非常に明 るい単焦点レンズを採用している.前者は視野を広げるた 国際宇宙ステーションからの長期流星観測プロジェクト 「メテオ」 荒井朋子 キーワード:流星観測,流星群,国際宇宙ステーション,超高感度ハイビジョンカメラ †千葉工業大学 惑星探査研究センター "METEOR Project: Long-term Meteor Observation Onboard the International Space Station" by Tomoko Arai (Planetary Exploration Research Center, Chiba Institute of Technology, Chiba) 映像情報メディア学会誌 Vol. 70, No. 4, pp. 639 ~ 643(2016) 異 業 種 で の 映 像 情 報 メ デ ィ ア 利 用 〔第 13 回〕

国際宇宙ステーションからの長期流星観測プロジェ …...ISS からの流星観測プロジェクト「メテオ」を立ち上げた1). システムを構成するカメラ,レンズ,およびエンコーダに

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Page 1: 国際宇宙ステーションからの長期流星観測プロジェ …...ISS からの流星観測プロジェクト「メテオ」を立ち上げた1). システムを構成するカメラ,レンズ,およびエンコーダに

(123) 639

1.まえがき

「メテオ」プロジェクトは,千葉工業大学惑星探査研究セ

ンターがNASAと共同で,約2年間,国際宇宙ステーショ

ンから流星観測を行う世界初の試みである.また,米国実

験棟で主体的に科学観測を行う日本初のプロジェクトであ

る.本稿では,「メテオ」プロジェクトの経緯,システム構

成,観測運用計画および科学的意義を紹介する.

2.プロジェクトの概要と経緯

アメリカ航空宇宙局(NASA)はCenter for Advancement

of Science in Space(CASIS)という組織に委託し,国際宇

宙ステーション(ISS)の米国与圧実験棟(DESTINY)の利

用機会を促進している.2013年 3月,千葉工業大学は

NASAと共同契約を結び,米国のNPO法人Southwest

Research Institute(SwRI)と連携し,CASIS支援の下,

ISSからの流星観測プロジェクト「メテオ」を立ち上げた1).

システムを構成するカメラ,レンズ,およびエンコーダに

民生品を活用し,開発期間とコストを抑え,プロジェクト

発足から2年以内の打上げを目指した.2014年6月に米国

に輸送し,振動試験,音響試験,減圧・再加圧耐久試験,

電磁環境試験など行い,ロケットによる打上げ環境および

宇宙ステーションの与圧環境への適合性確認および,宇宙

飛行士による人間工学性評価を経て,同年8月にNASAへ

引き渡された.2014年10月28日,オービタル・サイエン

シズ社(Orbital Sciences Corporation)のシグナス補給船運

用3号機(Orb-3)に搭載され,同社で開発したアンタレス

ロケットで打上げられたが,打上げ直後の爆発により計画

は中断した.

事故直後からカメラの予備機を整備し,メテオ2号機の

開発および上記の環境試験を速やかに行い,2015年4月に

NASAへ引き渡した.2015年6月28日,米国フロリダ州

ケープカナベラル空軍基地より,スペースX社商用補給機

7号機ドラゴン(SpaceX Dragon CRS-7)に搭載され,同社

開発のファルコン9ロケットにより打ち上げられたが,打

上げ約2分後の爆発により再度失われた.

メテオ1号機およびメテオ2号機が遭遇したロケット事故

により,アメリカが開発するISSへの輸送用ロケット二機共

に打上げ失敗となり,次の打上げ時期の見通しが立たない状

況であった.しかし,来るべき打上げ機会を目指し,メテオ

2号機とともに開発していた予備機を整備するとともに,レ

ンズの変更と改良を行い,メテオ3号機を完成させ,2016年

1月にNASAへの引き渡しを行った.同年3月23日にオービ

タルATKのシグナス補給船運用6号機(OA-6)に搭載され,

ユナイテッド・ローンチ・アライアンスのアトラスVロケッ

トで打ち上げ,3月26日に無事ISSに到着した.カメラの設

置および初期動作確認後,5月以降観測開始予定である.

3.観測システム構成

メテオの観測システムは,民生品であるハイビジョンカ

メラ,レンズ,エンコーダ,観測データ記録用のHDD,開

発品である電源通信箱(以下,パワーボックス),および

NASAから支給されるカメラ制御用ラップトップPC(IBM

T61p)で構成される(図1).観測に使用する超高感度ハイ

ビジョンカメラ(図2)は,2012年にNHKの「宇宙の渚」番

組で使用されたEM-CCDカメラの改良版である.イメージ

センサをCCDからCMOSへ変更,レンズマウントをCマ

ウントからマイクロフォーザーズへ変更,ファンの静音化,

および小型軽量化を行った.撮像素子は2/3型,有効素子

画素数は1280×720,映像出力規格は720p,センサフレー

ムレートは30fpsである.メテオ初号機から三号機までカ

メラは同一の仕様であるの対し,レンズは初号機・2号機

と3号機で異なる(図2および表1)1)2).両者共に非常に明

るい単焦点レンズを採用している.前者は視野を広げるた

国際宇宙ステーションからの長期流星観測プロジェクト「メテオ」

荒井朋子†

キーワード:流星観測,流星群,国際宇宙ステーション,超高感度ハイビジョンカメラ

†千葉工業大学 惑星探査研究センター

"METEOR Project: Long-term Meteor Observation Onboard the

International Space Station" by Tomoko Arai (Planetary Exploration

Research Center, Chiba Institute of Technology, Chiba)

映像情報メディア学会誌 Vol. 70, No. 4, pp. 639~643(2016)

異業種での映像情報メディア利用〔第13回〕

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映像情報メディア学会誌 Vol. 70, No. 4(2016)640 (124)

め0.7倍のワイドアングルコンバージョンレンズを使用し

ていたのに対し,後者はレンズ単体で充分な視野角が確保

されるため,ワイドアングルコンバージョンレンズが不要

となった.また,前者では,流星の光を波長毎に分けて観

測する(分光観測と呼ぶ)際に使用する回折格子を,レンズ

のフィルタねじにねじ込む形で取り付けていたのに対し,

後者では回折格子を上から差し込むホルダをレンズの前に

取り付けた(図2).レンズと回折格子ホルダ一体型のカスタ

ムレンズの製作にあたり,株式会社コシナに多大なご協力

を頂いた.ISSから供給される電源をカメラとエンコーダに

分配するとともに,ISS上のPCからカメラを制御するRS-

232C通信の機能を持つパワーボックスを開発した(図3).

上記のメテオカメラの構成品は,DESTINY内の観測窓の

前に据付けられている実験ラック(Window Observational

Research Facility: WORFラック)内に設置する(図4).追

跡・データ中継衛星(Tracking and Data Relay Satellite)

異業種での映像情報メディア利用〔第13回〕

図3 エンコーダ(手前)およびパワーボックス(奥)

図2 メテオ初号機同等品(左)およびメテオ3号機

メテオ3号機では,レンズ回折格子用ホルダが一体となっている.

カメラ

RS232C

HD-SDI H.264

20Mbps

エンコーダLaptopPC

HDD

16VDC

28VDC

5VDC

LEDs

USB/serial converter

パワーボックス

WORFrack

28VDC

120VAC

12VDC

12VDC

12VDC

20Mbps~20Kbps

Powerbox

DC/AC inverter

AC adapter

Powerdistributiondevice

Datadownlink

Commanduplink

ISS C&DHsystem

NASA/MSFC/POIC

CIT PERCメテオ運用管制室

通信電力

PERC提供

NASA提供

図1 メテオ観測システム構成およびISSと地上間との通信経路

メテオ#1&#2 メテオ#3

全長 28.5 cm 25 cm

総質量 2.5 kg 2.4 kg

レンズ焦点距離 17.5 mm 10.5 mm

視野角 41.6 [゚水平](×0.7 ワイコンあり) 47.5 [゚水平]

23.6 [゚垂直](×0.7 ワイコンあり) 28.1 [゚垂直]

レンズF値 0.95 0.95

表1 メテオ初号機,2号機と3号機の仕様相違

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を経由して,ISS上のカメラやPCの制御のためのコマンド

のアップリンクはSバンド(2~4 GHz)で,観測データの

地上へのダウンリンクはKuバンド(12~18 GHz)を使用し

て行う(図1).

4.ISSとの通信環境

千葉工業大学惑星探査研究センター内にあるメテオ運用

管制室のPCから,NASAのネットワークを介して,運用

管制室からリアルタイムでISS上のカメラの制御,ISS上

のPCでデータ処理,および観測データのダウンリンクを

行う.カメラを制御するISS上のPCとの通信は,Software

Toolkit for Ethernet Lab-Like Architecture(STELLA)と

いうソフトウェアを使用する.STELLAはISSの実験装置

の遠隔操作とソフトウェア開発を容易にするために,2014

年にボーイングによって開発されたソフトウェア3)で,

ISS上と地上のPCがイーサネットで接続する.STELLA

を使用することにより,TCPおよびUDPプロトコルでISS

上のメテオ用PCと地上運用PC間でテルネットと類似した

端末間の遠隔操作とFTPと類似したファイル転送が可能で

ある.ISS上へのカメラへのコマンド送信およびテレメト

リ受信は,NASAのマーシャル宇宙飛行センター(MSFC)

のペイロードオペレーションインテグレーションセンター

(POIC)を通じて行われ,MSFC POICとの通信には

Telescience Resource Kit(TReK)というアプリケーショ

ンを使用する.また,カメラの設置,回折格子の着脱,

HDDの交換など宇宙飛行士の作業が必要な際は,イン

ターネット音声回線(Internet Voice Distribution System:

IVoDS)およびISSからのライブ映像を使用して,宇宙飛

行士および地上管制官とリアルタイムで交信をしながら作

業を支援する.

5.観測運用

ISS上のPCに対して地上から運用計画を記したファイル

を送り,PC上で実行される機上ソフトウェアはその運用計

画に沿ってカメラやエンコーダの電源ON/OFFや観測デー

タの処理や解析を行う.観測データは民生品のエンコーダ

により,H.264/MPEG-4 AVCの圧縮技術で20Mbpsの圧縮

レートでラップトップPCに取り込み,ハードディスクへ記

録する(図5).このハードディスクは輸送船の帰還に合わ

(125) 641

国際宇宙ステーションからの長期流星観測プロジェクト「メテオ」

HDD750GB

全データをHDDに保存

夜間の動画撮像

データ容量が一杯になったらクルーがHDD交換を行う

定期的にHDDを地上に持ち帰る

切り出し前画像をダウンコンバート

SWにより流星画像の自動切り出し

ダウンリンク

ダウンリンク[初期運用]

サムネイル画像でSWの流星検出機能を評価

[ノミナル運用]流星切り出し画像のみ

図5 メテオ観測データの処理フロー

図4 NASAジョンソンスペースセンター内の宇宙飛行士訓練棟にあ

るWORFラック(地上モデル)に搭載されたメテオ3号機

光学定盤に固定されたカメラブラケットに取り付けられたメテオカメ

ラとラックの側壁に設置されたラップトップPC,エンコーダ,パ

ワーボックスが電源ケーブルおよび通信ケーブルで接続されている.

観測時は窓に対してレンズ面が平行になるように設置する.

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映像情報メディア学会誌 Vol. 70, No. 4(2016)642 (126)

せて定期的に地上へ回収される.ISSからPERCの運用室に

ある運用端末にデータをダウンリンクすることも可能であ

るが,一日当たりの地上へのダウンリンク可能なデータ量

は最大1 GBと限られる.そこで機上PC上で流星映像を自

動検出するソフトウェアを実行し,流星を含む部分だけを

抽出してダウンリンクすることで,ほぼリアルタイムで流

星映像を地上で確認できる(図5).また,200 Kbps程度ま

で解像度を落とした映像をインターネットを利用して一般

に公開予定である.また,高解像度の流星映像は,千葉工

大のスカイツリーキャンパスでも公開する計画である.

6.ISSからの流星観測の利点

高度400 kmのISS軌道上から高度約100 kmの流星発光

を観測する.DESTINY内の地球を見下ろす観測窓越しに,

地球に落ちていく流星を宇宙から見下ろす形で観測する

(図6).観測窓からは進行方向約70゚,左右方向約80゚の視

野角が確保できる(図7).観測窓は紫外域の光は透過しな

いため,可視域の光学観測を行う.ISSは約90分間で地球

を一周するうち,太陽が地平線の下にある時間は約35分間.

1日に地球を16周するので観測に適した時間は1日あたり

約560分間となる.地上からの観測と違い,天候や大気の

影響を受けず定常的に観測ができるため,観測データの

質・量の向上が期待できる.一方,ISSからの観測では,

高度約100 kmで発光する流星までの距離が地上観測に比

べ約3倍大きい.明るさは距離の2乗に反比例するため,

同じ流星を観測しても地上で観測する明るさの10%程度と

なる.等級とは星の明るさを表す尺度であり,等級の値が

小さいほど明るい星であることを示す.1等星と6等星は

明るさの差がおよそ100倍であることから,等級が1等級

変わると明るさは100の5乗根,つまり約2.5倍変化する.

メテオカメラシステムは地上観測で8等級相当の星が観測

可能である.したがって,ISSからの観測では地上からで

は6~7等級相当の流星まで観測できる.

7.科学的意義,科学目的,データ校正

流星とは,数mm程度の地球外天体の塵が地球の大気を

通過する際,高温高圧のプラズマ状態となり発光する現象

である.流星には特定の彗星や小惑星から放出された塵の

帯(ダストトレイル)と地球が交差する際,特定の方向から

降り注ぐ様子が観測される流星群と,その他の時期にラン

ダムに観測される散在流星がある.本プロジェクトでは主

に流星群を観測対象とする.地上観測から,毎年決まった

時期に現れる主要流星群については,流星塵を放出した由

来天体(母天体と呼ぶ)が特定されている4)(表2).一年を

通しての流星群の観測結果から,直接探査が難しい流星群

母天体である彗星や小惑星の物理化学特性の解明が可能で

あり,彗星や小惑星探査に匹敵する科学的成果が得られる

と期待される.

流星の発光強度は流星体の質量と速度に依存しており,

二者の関係は知られている.流星群に属する流星の速度は

異業種での映像情報メディア利用〔第13回〕

Japanese Experiment Module

JapaneseExperimentModule

PressurizedMatingAdapter

PressurizedMatingAdapter

PressurizedMatingAdapter

U.S.Laboratory

U.S.Laboratory(behind node)

HabitatModule

HabitatModule

+x

+z(nadir)

+y

+z(nadir)

Direction ofTravel

Node2

ColumbusOrbitalFacility

Direction of Travel isdirectly out of the page

JEM Exposed Fadlity

JEMpressurizedSection

39.6°32.2°

79.1°

図7 ISS構造物による観測窓からの視野角の制約5)

図6 ISSを地球側から見た写真(写真提供:NASA)

観測窓があるのが米国実験棟DESTINY.写真の下方向がISSの進行

方向.

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国際宇宙ステーションからの長期流星観測プロジェクト「メテオ」

わかっているため(表2),メテオの観測映像から得られる

流星の発光強度や飛跡から流星塵の質量やサイズを推定す

ることができる.また,回折格子を用いた可視域の分光観

測から得られる流星発光の輝線の強度からナトリウム,鉄,

マグネシウム,カルシウムなどの岩石成分の主要元素の相

対存在度が明らかになる.

取得した映像から流星の正確な発光強度を定量的に求め

るため,打上げ前に国立極地研究所の光学校正室の積分球

光源を使った光学性能測定を行い,暗時出力特性,S/N比,

リニアリティ,素子間感度偏差等の評価を行った.また,

2年間の長期観測における光学センサの経年劣化評価のた

め,定期的に,昼間の同じ地点を観測する.観測地点とし

ては,晴天率が高く,空気が澄んでいてかつ地表面が平坦

で反射率が高い砂漠などを計画している.

8.むすび

今後2年間に及ぶ宇宙からの流星群の測光および分光観

測により,各流星群の流星塵の物理化学特性データが蓄積

される.それらのデータにより,従来の地上流星観測で断

片的に得られた流星群データに基づく仮説の実証,そして

流星群の流星塵さらには母天体の実態の理解が進み,流星

科学の新展開に繋がることを期待する. (2016年5月7日受付)

〔文 献〕

1)T. Arai, et al.: "Meteor observation HDTV camera

onboard the international space station", Lunar and

Planetary Science XXXXV, abstract #1610(2014)

2)荒井朋子ほか:“国際宇宙ステーションからの流星

観測プロジェクト「メテオ」”,第59回宇宙科学技術

連合講演会講演集3E03(2015)

3)STELLA USER's GUIDE, D495-90807-1, Rev.B(2014)

4)例えば,P. Jenniskins: "Meteor showers and their

parent comets", Cambridge University Press, p.804

(2006)

5)小林正規,荒井朋子:“宇宙からの流星観測-超高

感度CMOSハイビジョンカメラを利用した惑星科学

プロジェクト”,NHKエンジニアリングサービス機関

誌「VIEW」,32,6,pp.5-6(2013)

流星群 母天体 活動期間(極大) 相対速度

しぶんぎ星 小惑星2003EH1など 1/1~1/5(1/3) 41 km/s

4月こと座 Thatcher彗星 4/16~4/25(4/22) 49 km/s

みずがめ座η 1P/Halley彗星 4/19~5/28(5/5) 66 km/s

みずがめ座δ 69P/Machholz 1彗星 7/12~8/19(7/28) 41 km/s

ペルセウス座 109P/Swift-Thttle彗星 7/17~8/19(7/28) 41 km/s

10月りゅう座 21/Giacobini-Zinner彗星 16/6~10/10(10/8) 20 km/s

オリオン座 1P/Halley彗星 10/2~11/7(10/21) 66 km/s

おうし座南群 小惑星2004TG10 9/25~11/25(11/5) 27 km/s

おうし座北群 2P/Enche彗星 9/25~11/25(11/12) 29 km/s

しし座 55P/Tempel-Tuttle彗星 11/10~11/23(11/17) 71 km/s

ふたご座 小惑星3200Phaethonなど 12/7~12/17(12/14) 35 km/s

こぐま座 8P/Tuttle彗星 12/17~12/26(12/22) 33 km/s

表2 主要流星群の母天体,活動期間および相対速度

荒井あ ら い

朋子と も こ

1998年,東京大学大学院理学系研究科鉱物学攻博士課程修了.博士課程在学中に日本学術振興会特別研究員として,NASA Johnson SpaceCenterおよびUniversity of California, Los Angelesに留学.1998年~2004年,宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構)にて,国際宇宙ステーションおよび月

探査衛星の開発に従事.国立極地研究所プロジェクト研究員および日本学術振興会特別研究員を経て,2009年,千葉工業大学惑星探査研究センター上席研究員に着任し,現在に至る.2012年~2013年,米国南極隕石探査(ANSMET)に参加.隕石分析,流星観測,月惑星探査など多角的手法で太陽系天体の物質科学研究に従事.博士(理学).