42
交換性陽イオン(Ca, Mg, K):交換性の陽イオンは 1.0 M の酢酸アンモニウム溶 液で抽出後、原子吸光光度計で定量した(Thomas, 1982)。 有効陽イオン交換容量(eCEC):交換性塩基と交換性酸度との和で算出した。 塩基飽和度:交換性塩基の総和を CEC で除し、百分率で表した。 土壌の粒径組成:沈降法を用いた。 結果 土壌の性質 ガーナの土壌の化学的性質を調査した結果を示した(表 IV-1、表 IV-2、表 IV-3)。 北部と南部ではそれぞれ、リンの吸着が 19.8 27.7%DCB 抽出鉄が 5.3 9.6 g kg -1 DCB 抽出アルミニウムが 0.7 0.6 g kg -1 pH 4.9 5.4Bray-I 法によるリンが 9.6 7.2 mg kg -1 、有機態炭素が 0.5 1.4%、有機物が 0.9 2.5%、全窒素が 0.1 0.2 %C/N 比が 10.6 9.8、有効陽イオン交換容量が 4.4 7.2 cmol(+) kg -1 、塩基 飽和度が 76 87%、粘土含量が 6.7 8.7%であった。 リン吸着と土壌の化学性との関係 北部地域の土壌では、リンの吸着は有効陽イオン交換容量( eCEC)、遊離の酸化 鉄ならびに塩基飽和度と有意な相関関係があったが、粘土含量、全窒素、C/N 比、有 機態炭素、有機物量、pH ならびに有効態(Bray I 法)リンとの関係は見出されなかっ た(表 IV-4)。南部地方の土壌では、リンの吸着は遊離の酸化鉄及び eCEC と有意な 相関関係にあった(表 IV-5)。全体的に見ると、ガーナの水田土壌へのリン吸着は、有 効陽イオン交換容量(eCEC)、遊離の酸化鉄、全窒素、有機態炭素、有機物量ならび に塩基飽和度と有意な相関関係があった(表 IV-6)。 考察 リンの吸着(保持あるいは固定)は、農地土壌におけるリンの有効性を上げ下げする 大きな要因である。リンは通常土壌中では、鉄とアルミニウムの水酸化物とオキシ水酸 化物、粘土鉱物、カルボン酸ならびに有機物に吸着している。 今回の試験の結果、ガーナの 2 つの地域(北部と南部)の土壌においてリン吸着を 上昇させる主要因は、陽イオン交換容量、遊離の酸化鉄、窒素含量、有機物量、有機 体炭素量ならびに塩基飽和度であった。粘土含量、遊離のアルミニウム、pH は、極わ ずかではあるがリン吸着を促進した。リンの吸着が進むと、Bray-I 法による可吸態リン

交換性陽イオン(Ca, Mg, K):交換性の陽イオンは の酢酸 ......交換性陽イオン(Ca, Mg, K):交換性の陽イオンは1.0 M の酢酸アンモニウム溶

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  • ● 交換性陽イオン(Ca, Mg, K):交換性の陽イオンは 1.0 M の酢酸アンモニウム溶

    液で抽出後、原子吸光光度計で定量した(Thomas, 1982)。

    ● 有効陽イオン交換容量(eCEC):交換性塩基と交換性酸度との和で算出した。

    ● 塩基飽和度:交換性塩基の総和を CEC で除し、百分率で表した。

    ● 土壌の粒径組成:沈降法を用いた。

    結果

    土壌の性質

    ガーナの土壌の化学的性質を調査した結果を示した(表 IV-1、表 IV-2、表 IV-3)。

    北部と南部ではそれぞれ、リンの吸着が 19.8 と 27.7%、DCB 抽出鉄が 5.3 と 9.6 g kg-1、

    DCB 抽出アルミニウムが 0.7 と 0.6 g kg-1 、pH が 4.9 と 5.4、Bray-I 法によるリンが 9.6

    と 7.2 mg kg-1 、有機態炭素が 0.5 と 1.4%、有機物が 0.9 と 2.5%、全窒素が 0.1 と

    0.2 %、C/N 比が 10.6 と 9.8、有効陽イオン交換容量が 4.4 と 7.2 cmol(+) kg-1 、塩基

    飽和度が 76 と 87%、粘土含量が 6.7 と 8.7%であった。

    リン吸着と土壌の化学性との関係

    北部地域の土壌では、リンの吸着は有効陽イオン交換容量(eCEC)、遊離の酸化

    鉄ならびに塩基飽和度と有意な相関関係があったが、粘土含量、全窒素、C/N 比、有

    機態炭素、有機物量、pH ならびに有効態(Bray I 法)リンとの関係は見出されなかっ

    た(表 IV-4)。南部地方の土壌では、リンの吸着は遊離の酸化鉄及び eCEC と有意な

    相関関係にあった(表 IV-5)。全体的に見ると、ガーナの水田土壌へのリン吸着は、有

    効陽イオン交換容量(eCEC)、遊離の酸化鉄、全窒素、有機態炭素、有機物量ならび

    に塩基飽和度と有意な相関関係があった(表 IV-6)。

    考察

    リンの吸着(保持あるいは固定)は、農地土壌におけるリンの有効性を上げ下げする

    大きな要因である。リンは通常土壌中では、鉄とアルミニウムの水酸化物とオキシ水酸

    化物、粘土鉱物、カルボン酸ならびに有機物に吸着している。

    今回の試験の結果、ガーナの 2 つの地域(北部と南部)の土壌においてリン吸着を

    上昇させる主要因は、陽イオン交換容量、遊離の酸化鉄、窒素含量、有機物量、有機

    体炭素量ならびに塩基飽和度であった。粘土含量、遊離のアルミニウム、pH は、極わ

    ずかではあるがリン吸着を促進した。リンの吸着が進むと、Bray-I 法による可吸態リン

  • 量が減尐した(図 IV-1)。小さい C/N 比の土壌では分解が急速に進み、正味の窒素と

    リンの無機化速度も早いので(Ikerra ら, 2007)、無機化したリンは結果的に遊離の酸

    化鉄や有機物に吸着され、結果的に土壌へのリンの吸着が増加する。加えて、多くの

    要因がリンの吸着過程を調節している。

    北部地域の土壌は、南部地域に比べ窒素と有機物含量が低く(図 IV-2 と図 IV-3)、

    肥沃度はより低いといえる。これらの土壌化学性とリン吸着との間には正の相関がみら

    れた。植物や動物の分解は、多くの土壌の特性に影響する有機物を供給する。特性

    の中には、養分保持能力(陽イオン・陰イオン交換容量)、養分の循環、土壌のキメ、

    団粒ならびに安定性、さらには水関係、曝気性、ワーカビリティーがある(Bissonnais,

    1996、 Iryamuremye と Dick, 1996)。よって窒素含量と有機物量が低い土壌は、窒

    素肥沃度も低く、ガーナ北部の土壌で見られたようにおおよそ土壌の物理性も低い。

    陽イオン交換容量はリンの吸着に大きな役割を果たしていたが、アルミニウムや水

    素イオンのような交換性酸度がほとんどであった。遊離の酸化鉄は高く、リンの吸着と

    強い相関があった。よって、北部地方の土壌は低肥沃度で物理性に乏しく酸性度が

    高いため、リンの吸着過程は遊離の酸化鉄によって支配されていると考えられる。この

    結果は、ガーナ土壌の肥沃度に関する以前のレポートと一致している。

    南部地域の土壌は逆に、図 IV-2 と図 IV-3 に示すように北部地域に比べ窒素、有機

    物の含有量が高く、加えて塩基飽和度も高かった(図 IV-4)。一方、遊離の酸化鉄も

    高くリンの吸着と高い相関が見出されたが、南部地域の土壌では土壌有機物がリン吸

    着に重要な役割を果たしているとも考えられる。とりわけ、有機物中の腐植は有意な量

    のリンを吸着し、吸着されたリンはシンクとしての機能を持つ。

    ガーナ南部と北部の土壌におけるリン吸着の違いは、主に陽イオン交換容量を増

    加させる有機物含量の違いによる。とりわけ腐植は有意な量のリンを吸着する。有機

    物は鉄イオンやアルミニウムイオンと錯体を作るが、結果的に土壌溶液中のリンの有

    効性を増加させる。しかし Bray I 法では 2 つの地域での差は明らかではなく、リンの有

    効性をコントロールしている他の共因子が存在する。

    ガーナを含む西アフリカの土壌は、風化が進んで肥沃度が低いと言われる。母岩

    は花崗岩や玄武岩といった火成岩と、珪岩や片岩、粘板岩といった変成岩から構成さ

    れている(Windmeijer and Andriesse, 1993 and Issaka et al., 2010)。これらの母材

    に由来する粘土含量はたぶん北部と南部で同じかも知れない。土壌の性質を決める

    要因は、農業気候帯と水条件である。これらは土壌生成に大きく関与し、結果的に有

    機物集積と土壌肥沃度において北部と南部の違いが生じたものと考えられる。

    作物生産を上げるためにはリン肥料の施用は欠かせない。この時リンの吸着は考

    慮されるべき重要な因子となる。水稲栽培における生産の維持と向上も例外ではない

    し、農学的な視点のみではなく経済学的ならびに環境学的な見方も必要である。二つ

    の農業生態系(ギニアサバンナ帯と赤道森林帯)から成るガーナの稲生産システムの

  • 土壌肥沃度を改善するためには、異なった土壌組成によるそれぞれの土壌の性質を

    理解した上で適合技術が開発されるべきと考える。リンの吸着を制御することは、土壌

    肥沃度改善と肥料管理の重要な鍵のうちの一つである。しかし土壌、植物ならびに肥

    料の他の側面についての研究を進めることがまず必要であり、そしてこの地域におい

    て適正な資源を使って稲収量を最大化し、また損失を最小にするための技術開発を

    行うべきである。

    y = -0.3742x + 16.085

    R² = 0.1297

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    10 20 30 40

    Bray P1-P (mg kg-1)

    P sorption (%)

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    0.00 0.05 0.10 0.15 0.20

    P sorption (%)

    N (%)

    NorthSouth

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    0.00 1.00 2.00 3.00 4.00

    P sorption (%)

    OM (%)

    North South

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    60 70 80 90 100

    P sorption (%)

    BS (%)

    North

    South

    図 IV-1.ガーナ土壌における有効態リ

    ン量(mgKg-1)とリン吸着(%)との関係

    図 IV-2.ガーナ土壌における全窒

    素量(%)とリン吸着(%)との関係

  • y = 0.6394x + 18.968

    R² = 0.5655

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    0 10 20 30

    P sorption (%)

    Free Fe oxide (mg kg-1)

    y = 1.717x + 13.745

    R² = 0.5953

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    0 5 10 15

    P sorption (%)

    eCEC (cmol(+) kg-1)

    図 IV-4.ガーナ土壌における塩基飽

    和度(%)とリン吸着(%)との関係

    図 IV-5.ガーナ土壌における遊離の酸

    化鉄(mg kg-1)とリン吸着(%)との関係

    図 IV-6.ガーナ土壌における陽イオン

    交 換容 量( cmol(+)kg-1 )と リン 吸着

    (%)との関係

    図 IV-3.ガーナ土壌における有機物

    含量(%)とリン吸着(%)との関係

  • 表 IV-1. 供試したガーナ土壌の特性(その 1)

    I.D. ラベル名 州 村 土地利用 リン吸着率 遊離酸化鉄 遊離酸化アンモニウム

    pH 有効態リン(BragⅠ)

    (%) (mg kg-1) (mg kg-1) (mg kg-1)

    1 Bal.FA Northern Savelugu 水田 15.4 1243 563 5.29 21.9

    12 Gbr.AN Northern Gbrimah 水田 16.2 1418 475 5.12 20.0

    23 Gbr.ZA Northern Gbrimah 水田 16.9 4008 400 5.37 16.4

    36 WOV.AS Northern Wovoguma 水田 26.3 15970 2275 5.30 14.4

    47 GUS.IA Northern Gushei 水田 17.8 1593 1025 5.00 2.9

    49 SAN.MS Northern Sankpala 水田 19.9 5095 988 5.00 1.2

    54 NAB.AF Northern Nabogu 水田 13.2 545 213 4.50 5.1

    55 NAB.EE Northern Nabogu 水田 24.0 623 238 4.50 3.2

    57 DIG.AA Northern Diginayili 水田 25.4 18645 750 4.30 trace

    59 Fuu.MA Northern Fuu 水田 22.7 3430 trace 4.80 1.4

    61 Kwasiagya 1 Ashanti Kwasiagya - 22.9 9070 trace 6.05 15.0

    70 Subonpan 2 Brong Ahafo Subonpan - 35.6 16270 25 5.25 trace

    73 Nsutam1/Sawa Eastern Nsutam/Sawa - 33.3 23045 863 4.74 trace

    75 Dwinyan Nkwanta 1 Ashanti Dwinyan Nkwanta 水田 29.1 6245 trace 5.00 4.3

    91 Asotwe sample 1 Ashanti Asotwe 水田 20.3 955 trace 5.50 6.8

    103 New Edubiase 1 Ashanti New Edubiase 水田 36.8 25345 2525 5.80 6.5

    109 Ntensere Ashanti Ntensere 水田 24.2 4920 950 5.70 6.7

    113 Besease sample 1 Central Besease 水田 18.6 733 738 5.50 4.3

    116 Assin Breku 2 Central Assin Breku 水田 24.5 7820 1213 5.00 0.6

    119 Donaso sample 1 Central Donaso 水田 31.3 1673 1313 5.00 13.5

  • 表 IV-2. 供試したガーナ土壌の特性(その 2)

    I.D. ラベル名 州 村 土地利用 有機態炭素 有機物 全窒素

    C/N 陽イオン交換容量

    (%) cmol(+) kg-1

    1 Bal.FA Northern Savelugu 水田 0.82 1.41 0.08 10 3.31

    12 Gbr.AN Northern Gbrimah 水田 0.43 0.74 0.04 11 2.98

    23 Gbr.ZA Northern Gbrimah 水田 0.75 1.29 0.07 11 3.33

    36 WOV.AS Northern Wovoguma 水田 0.46 0.79 0.04 12 5.92

    47 GUS.IA Northern Gushei 水田 0.41 0.71 0.04 10 2.94

    49 SAN.MS Northern Sankpala 水田 0.51 0.88 0.04 13 4.03

    54 NAB.AF Northern Nabogu 水田 0.33 0.57 0.03 11 3.84

    55 NAB.EE Northern Nabogu 水田 0.29 0.50 0.03 10 4.23

    57 DIG.AA Northern Diginayili 水田 0.40 0.69 0.04 10 8.09

    59 Fuu.MA Northern Fuu 水田 0.84 1.45 0.09 9 5.57

    61 Kwasiagya 1 Ashanti Kwasiagya - 1.99 3.43 0.19 10 10.05

    70 Subonpan 2 Brong Ahafo Subonpan - 1.84 3.17 0.15 12 10.94

    73 Nsutam1/Sawa Eastern Nsutam/Sawa - 1.23 2.12 0.15 8 5.84

    75 Dwinyan Nkwanta 1 Ashanti Dwinyan Nkwanta 水田 1.84 3.17 0.17 11 6.96

    91 Asotwe sample 1 Ashanti Asotwe 水田 1.56 2.70 0.19 8 3.78

    103 New Edubiase 1 Ashanti New Edubiase 水田 1.43 2.47 0.19 8 14.41

    109 Ntensere Ashanti Ntensere 水田 1.20 2.01 0.16 8 6.52

    113 Besease sample 1 Central Besease 水田 0.90 1.50 0.08 11 3.48

    116 Assin Breku 2 Central Assin Breku 水田 0.96 1.66 0.07 14 4.03

    119 Donaso sample 1 Central Donaso 水田 1.30 2.30 0.16 8 5.94

  • 表 IV-3. 供試したガーナ土壌の特性(その 3)

    I.D. ラベル名 州 村 土地利用 塩基飽和度 砂 シルト 粘土

    土性 (%) (%)

    1 Bal.FA Northern Savelugu 水田 80 14.6 83.4 2.0 Silt

    12 Gbr.AN Northern Gbrimah 水田 70 55.9 40.1 4.0 Sandy Loam

    23 Gbr.ZA Northern Gbrimah 水田 80 28.4 53.6 18.0 Silt Loam

    36 WOV.AS Northern Wovoguma 水田 88 34.6 59.4 6.0 Silt Loam

    47 GUS.IA Northern Gushei 水田 73 59.3 37.9 2.8 Sandy Loam

    49 SAN.MS Northern Sankpala 水田 78 35.2 62.8 2.0 Sandy Loam

    54 NAB.AF Northern Nabogu 水田 64 57.7 40.3 2.0 Sandy Loam

    55 NAB.EE Northern Nabogu 水田 68 67.1 28.9 4.0 Sandy Loam

    57 DIG.AA Northern Diginayili 水田 81 15.5 70.1 14.4 Silt Loam

    59 Fuu.MA Northern Fuu 水田 78 22.9 64.9 12.2 Silt Loam

    61 Kwasiagya 1 Ashanti Kwasiagya - 99 40.0 50.0 10.0 Silt Loam

    70 Subonpan 2 Brong Ahafo Subonpan - 93 37.7 54.3 8.0 Silt Loam

    73 Nsutam1/Sawa Eastern Nsutam/Sawa - 79 25.8 56.0 18.2 Silt Loam

    75 Dwinyan Nkwanta 1 Ashanti Dwinyan Nkwanta 水田 90 28.4 61.6 10.0 Silt Loam

    91 Asotwe sample 1 Ashanti Asotwe 水田 82 53.2 38.4 8.4 Sandy Loam

    103 New Edubiase 1 Ashanti New Edubiase 水田 97 22.0 68.0 10.0 Silt Loam

    109 Ntensere Ashanti Ntensere 水田 84 27.3 68.2 4.5 Silt Loam

    113 Besease sample 1 Central Besease 水田 89 21.0 70.4 8.6 Sandy Loam

    116 Assin Breku 2 Central Assin Breku 水田 78 73.5 24.5 2.0 Loamy Sand

    119 Donaso sample 1 Central Donaso 水田 79 40.5 52.0 7.5 Silt Loam

  • 表 IV-4. 北部地域、南部地域ならびに全体のガーナ土壌における特性とリン吸着(%)との関係

    土壌の特性 相関係数(r)

    北部地域 南部地域 全体

    eCEC 0.782 *** 0.682 *** 0.772 ***

    Free Fe 0.717 *** 0.781 *** 0.752 ***

    BS 0.529 * 0.155 0.557*

    Free Al 0.429 0.405 0.361

    Clay 0.325 0.369 0.377

    N -0.104 0.319 0.591 **

    C/N -0.152 -0.188 -0.282

    OC -0.154 0.261 0.565**

    OM -0.154 0.278 0.570 **

    pH -0.267 -0.318 0.090

    Bray1-P -0.406 -0.233 -0.360

    *, **, *** :相関はそれぞれ危険率 5、1、0.1%で有意

    ns:有意な相関なし

  • ガーナ農家圃場におけるリン鉱石直接施用がイネ収量におよぼす効果の検証

    リン鉱石は、重過リン酸石灰(TSP)や過リン酸石灰(SSP)に代わる安価なリン肥料と

    して有望な資源である(Chien et al., 2010)。トーゴ、モロッコをはじめとするアフリカ各

    国にはリン鉱床の存在が確認されており、その適切な施用方法の検討は急務である。

    中でも、リン鉱石を直接圃場に施用した際の肥効は、リン鉱石利用における基礎的な

    知見となり得る。

    リン鉱石直接施用は加工などのプロセスが無い省力技術であるが、一般に、リン鉱

    石そのものの溶解度は低くリン肥料としての効果は尐ないと考えられている。本報告

    書においても、ポット試験により、その溶解度の低さが明らかになりつつある。しかしな

    がら、現地圃場におけるリン鉱石直接施用効果は、土壌条件や気候条件など多くの

    要因によって左右されると考えられ、溶解度が低いながらも、緩効性肥料として効果を

    示す可能性を否定できない。

    そこで、本稿ではガーナの稲作圃場のうちノーザン州及びアシャンティ州の稲作圃

    場において、リン鉱石を直接施用し、イネ収量に及ぼす影響を明らかにする。

    材料及び方法

    調査地

    ガーナ共和国北部州タマレ市近郊の 2 地点、及び同国アシャンティ州クマシ市近

    郊の 3 地点 8 圃場

    試験設定

    アシャンティ州クマシ近郊の 3 地点 8 圃場において 0kg、67.5kg、135kg、270kg

    P2O5 ha-1 のリン鉱石直接施用区(それぞれ Control、RP-Low、RP-Mid、RP-High

    区)を設定した。また対照として、270kg 及び 60kg P2O5 ha-1 の TSP 施用区(WSP、

    WSP-rec 区)を設定した。全ての処理区には、基肥として 90 kg N ha-1 の硫酸アンモ

    ニウム及び 60 kg K2O ha-1 の塩化カリウムが施用された。なお、リン鉱石はイネ移植の

    一週間前に施用され、窒素肥料の半量とカリ肥料及び TSP は、移植一週間後に施用

    した。窒素肥料の残り半量については、追肥として移植五週間後に施用した。

    ノーザン州については、タマレ市近郊の 2 地点において、0kg、67.5kg、135kg、

    270kg P2O5 ha-1 のリン鉱石を直接施用した。また、270kg P2O5 ha-1 の TSP を施用し化

    肥区とした。また、対照区を除く全ての処理区には、基肥として 60 kg N ha-1 の硫酸ア

    ンモニウム及び 30 kg K2O ha-1 の塩化カリウムが施用された。各処理の概要を表 IV-5

    に示す。

  • 分析方法

    両調査地域において、表層 0-20cm深の土壌を採取し、風乾後、2mm 径の篩で篩

    別した。この風乾細土試料について、以下の各項目について分析した。

    土壌 pH は、風乾細土試料 1g あたりに 2.5ml の蒸留水を加え、一時間振とうしたもの

    を静置し、上澄みについてガラス電極法により pH を測定した。全炭素については

    Sumigraph NC220F を用いた乾式燃焼法、もしくは Walkley-Black 法により定量した

    (Walkley & Black, 1934)。なお、Walkley-Black 法は IUSS により定法として紹介され

    ており、乾式燃焼法による定量値と比較検討が可能である。全窒素は乾式燃焼法及

    びケルダール蒸留法(Bremner & Mulvaney, 1982)により定量した。

    有効態リン含量は Bray and Kurtz (1945)に従って抽出後、モリブデン青法により

    発色し、分光光度計により定量した。

    結果

    各調査地の土壌条件の概要

    各調査地における土壌 pH、全炭素、全窒素及び有効態リン濃度を表 IV-6 に示す。

    ノーザン州の 2 村の土壌条件については、pH はいずれも弱酸性条件であり、有効態

    リン濃度に大きな差異が認められた。アシャンティ州の 3 村の土壌条件については、

    有効態リン濃度が 4.65~6.20 mg kg-1 と低い値を示す酸性土壌であった。なお、ノーザ

    ン州とアシャンティ州の土壌条件を比較すると、pH に大きな差異はないものの、交換

    性塩基量や全炭素、全窒素など値が、いずれもノーザン州において低い値を示した。

    ノーザン州とアシャンティ州は、それぞれギニアサバンナ帯及び赤道森林帯の異なる

    農業生態ゾーンに位置しており、赤道森林帯の土壌はギニアサバンナ帯の土壌に比

    べて、有機物含量が高く、交換性塩基類が多いなど、土壌肥沃度が高いことが明らか

    になっている(Buri et al., 2009)。

    Treatments P source

    P2O5 N K P2O5 N K

    Control None 0 90 60 0 0 0

    RP-Low BRP 67 90 60 67 60 30

    RP-Mid BRP 135 90 60 135 60 30

    RP-High BRP 270 90 60 270 60 30

    WSP TSP 270 90 60 270 60 30

    WSP-Rec TSP 60 90 60 - - -

    NorthernAshanti

    表 IV-5. 二つの調査対象地域の調査圃場における施肥設計(kg ha-1)

  • ノーザン州におけるリン鉱石直接施用がイネ収量におよぼす影響

    リン鉱石直接施用における施用量が籾収量におよぼす影響について図 IV-7 に示

    す。ノーザン州におけるリン鉱石直接施用はイネ収量に対し有効に作用するとともに、

    その施用量が多いほど籾収量は高い値を示した。なお、ノーザン州調査地において

    は、対照区のみ窒素についても無施用であるため、リン無施用区は参考値として扱う

    べきである。そこで、化学肥料施用区と比較すると、全てのリン鉱石施用区は化学肥

    料区との間に統計的有意差は認められず、リン鉱石直接施用により、化学肥料を代替

    することが出来る可能性が示された。

    0.0

    1.0

    2.0

    3.0

    4.0

    5.0

    6.0

    7.0

    No

    n-P

    RP

    -Lo

    w

    RP

    -Mid

    dle

    RP

    -Hig

    h

    WSP

    No

    n-P

    RP

    -Lo

    w

    RP

    -Mid

    dle

    RP

    -Hig

    h

    WSP

    Fuu Gbrimah

    Gra

    in Y

    ield

    t h

    a-1

    pH Ava-P T-C T-N C/N Ex-K Ex-Ca Ex-Mg Ex-Acidity

    Bray1 mg kg-1

    ノーザン州Fuu 5.60 5.96 5.58 0.54 10.3 0.2 2.5 1.3 1.3

    Gbrimah 5.83 11.06 3.04 0.27 11.2 0.1 1.2 0.9 0.8

    アシャンティ州

    Barniekrom B 4.53 5.33 11.67 0.90 13.0 0.2 5.1 2.0 0.9

    Barniekrom C 5.70 4.65 9.00 0.73 12.4 0.3 5.1 2.1 0.8

    Nstum 5.30 6.20 9.70 0.80 12.1 0.1 3.0 1.2 0.8

    g kg-1 cmolc kg-1

    表 IV-6. 調査地における土壌の化学的諸性質

    図 IV-7. ノーザン州におけるリン鉱石直接施用がイネ籾収量におよぼす影響

    なおエラーバーは標準誤差を示す。

  • また、ノーザン州の 2 地点における、イネ栽培前及び栽培後土壌の有効態リン含量

    を図 IV-8 に示す。籾収量と同様に、リン鉱石の施用量に応じて、栽培後土壌試料の

    有効態リン含量は高い値を示した。このことから、リン鉱石直接施用により、土壌中有

    効態リン含量を維持もしくは増加させることが出来ると考えられる。さらに、リン鉱石施

    用区においては、本年度試験において溶出することなく残存した画分も多いと考えら

    れ、次年度の稲作におけるリン鉱石の残効について検証する必要がある。

    アシャンティ州におけるリン鉱石直接施用がイネ収量におよぼす影響

    リン鉱石直接施用における施用量が籾収量におよぼす影響について図 IV-9 に示

    す。アシャンティ州においては計 3 地点で調査を行なったが、ここでは反復試験が出

    来た 2 地点の結果を示す。

    アシャンティ州におけるリン鉱石直接施用についてもイネ収量に有効に作用するとと

    もに、その施用量が多いほど籾収量は高い値を示した。

    アシャンティ州は北部州と異なり、年間降水量が多く、通年で水資源を確保すること

    が可能であるため、圃場が還元状態である期間が長い。本試験で用いたブルキナファ

    ソ産のリン鉱石は還元条件よりも酸化条件での可溶性が高いことが明らかになりつつ

    あるが、本試験の結果では、還元状態が長いアシャンティ州においても、リン鉱石直接

    施用がイネ収量の増加に寄与することが明らかになった。

    0.0

    2.0

    4.0

    6.0

    8.0

    10.0

    12.0

    14.0

    Init

    ial

    No

    n-P

    RP

    -

    Lo

    wR

    P-

    Mid

    dle

    RP

    -

    Hig

    h

    WSP

    Init

    ial

    No

    n-P

    RP

    -

    Lo

    wR

    P-

    Mid

    dle

    RP

    -

    Hig

    h

    WSP

    Fuu Gbrimah

    Av

    a-P

    mg

    kg

    -1

    図 IV-8. ノーザン州試験地におけるリン鉱石直接施用が栽培後の有効態リン濃度におよぼす影響

    エラーバーは標準誤差を示す。

  • リン鉱石直接施用の効果と土壌条件の関係

    供試したリン鉱石は酸性条件でより溶解度が高くなると考えられる。そこで各調査地

    点における栽培試験前の土壌 pH とリン鉱石施用による収量増加効果の関係を検討

    した。リン鉱石施用による収量増加効果については、リン鉱石施用量とイネ収量の間

    で一次回帰式を算出し、その傾きを指標とした。リン鉱石施用による収量増加効果と

    土壌 pH との間には相関関係が認められなかった。しかし、栽培前有効態リン濃度とリ

    ン鉱石施用効果の強さの間には相関係数 0.995 (p

  • 本報告書内の『各種有機資材施用がイネ収量におよぼす影響』の中で、リン鉱石を

    各種有機資材と組み合わせて直接施用した。そこで、表 IV-7 に有機資材施用試験地

    と、本章で示した農家圃場における水溶性リン施用に対する農学的効率を示す。この

    農学的効率は、SSP や TSP などの水溶性リンを施用した場合の収量に対するリン鉱石

    施用時の収量の百分率で現される。

    有機資材施用試験を実施した二つの試験地ともに、リン鉱石直接施用により、TSP

    区におけるイネ籾収量の 83.5~109%、98.6~100.6%と非常に高い水準の収量が得られ

    た。ノーザン州における結果では、リン鉱石施用区がリン無施用区の収量を下回るな

    ど、検討すべき点が多いものの、アシャンティ州試験地における結果では、リン無施用

    区におけるイネ籾収量に対して、約10%の増収効果を示し、前述したように、TSP処理

    区と比較してもほぼ 100%の収量が得られた。なお、有機資材施用試験地ではリン鉱

    石、TSP ともに 135kg P2O5 で施用しており、農家圃場の施用量水準では RP-Mid 区と

    同水準である。

    FAO (2004)によって、ブルキナファソ産リン鉱石の農学的効率が報告されており、リ

    ン酸として同量施用した場合、化学肥料区の 97%程度の収量が得られている。FAO

    (2004)の結果と比較して、本調査におけるリン鉱石直接施用の農学的効率は遜色な

    い値と考えられ、ノーザン州及びアシャンティ州の両地域において、リン鉱石直接施用

    が化学肥料を代替できると言える。

    y = 3.059x-3.894

    R2 = 0.991**

    0.000

    0.002

    0.004

    0.006

    0.008

    0.010

    4.00 6.00 8.00 10.00 12.00

    有効態リン濃度 mgP kg-1

    回帰

    係数

    図 IV-10. 調査地における栽培前有効態リン濃度とリン鉱石直接施用効果の関係

    (リン鉱石直接施用効果:リン鉱石施用量とイネ籾収量の関係における一次回帰式の回帰係数)

  • 考察

    ノーザン州及びアシャンティ州の両地域とも、リン鉱石の直接施用により、イネ収量

    は増加した。イネ収量はリン鉱石の施用量にともない増加し、施用したリン酸量が化学

    肥料と同量である場合、リン鉱石施用区の収量は化学肥料区の 91%~122%に達し、

    本試験における最小施用量である 67kgP2O5 / ha 施用区においても 76~94%の収量が

    得られた。このことから、リン鉱石直接施用は化学肥料の代替肥料として、十分に利用

    が可能であると考えられる。

    また、特に土壌中有効態リン濃度の低い地点において、リン鉱石直接施用のイネ収

    量におよぼす効果が大きかった。ガーナにおけるイネ生産の制限要因の一つが低い

    有効態リン酸含量であることから、リン鉱石直接施用が特にガーナのイネ生産に有効

    であると言える。しかしながら、既に有効態リン濃度が高い地点においては、リン鉱石

    直接施用の効果は低い可能性があり、以後の詳細な検討が必要であると考えられる。

    また、本年度調査結果により、リン鉱石直接施用時のイネ増収効果は明らかになっ

    たが、その残効についての結果はまだ得られていない。リン鉱石は溶解度が低いこと

    が問題にもなっているが、溶解度が低いために次年度にその肥効が発現することが多

    いこともよく知られている。残効の発現が確認される場合には、次年度稲作におけるリ

    ン鉱石の必要施用量は、より削減することが可能であると考えられ、化学肥料に対す

    る優位性はより強くなると期待される。

    有機物施用 稲わら 83.5 稲わら 98.6

    試験圃場 牛糞 109.4 鶏糞 99.6

    人糞 87.7 オガクズ 100.6

    農家圃場 Fuu 91.3 Barniekrom B 97.5

    Gbrimah 97.2 Barniekrom C 121.9

    参考値 FAO (2004) 97.0

    ノーザン州 アシャンティ州

    表 IV-7. ノーザン州及びアシャンティ州の有機物施用試験圃場と農家圃場におけるブ

    ルキナファソ産リン鉱石直接施用の水溶性リン施用に対する農学的効率(%)*

    *農学的効率: リン酸同量施用条件の水溶性リン酸施肥区の収量に対す

    るリン鉱石処理区収量の百分率

  • 引用文献

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  • 写真 V-1. リン鉱石の露頭(Kodjari)

    写真 V-2. 粉砕と袋詰めをする工場

    図 V-1. リン鉱石の累積生産量と販売量

    0

    5,000

    10,000

    15,000

    20,000

    25,000

    30,000

    35,000

    40,000

    45,000

    1978 1983 1988 1993 1998 2003 2008

    生産

    /売

    却量

    ton

    年次

    累積生産量

    累積売却量

    第5章 ブルキナファソ産リン鉱石の生産・流通の現状と普及の可能性

    西アフリカにおける自国リン鉱石の採掘・

    生産の事例としては、トーゴ、ブルキナファソ、

    ニジェール、マリなどがあげられる。その中で、

    トーゴは輸出に特化しているが、その他の3

    カ国は、自国での農業生産性の向上を目指

    した。そのうち現在でリン鉱石を生産・販売し

    ているのは、ブルキナファソのみである。

    ブルキナファソでは、東部のリプタコ地域に

    推定 1 億トンの埋蔵量を有する堆積性リン鉱

    石がある。本鉱山はドイツの海外技術協力機

    関である GTZ の技術協力により、農業省の

    「Phosphate project」として 1978 年に操業を

    開始し、30 年間操業を継続している。リン鉱

    石の性状は固結堆積岩であり、工場ではそれ

    を粉砕して袋詰めしている。

    ブルキナファソのこれまでの生産・販売実績

    を図 V-1 に示す。プロジェクト所長によれば、

    現在、年間 6,000 トンの製造能力があるが、

    注文が尐ないために、生産調整を実施してい

    る(2008 年度生産実績:1764.3 トン)。直接生

    産 に 関 わ る コ ス ト は 、 19.8

    FCFA/kg と低いが、プロジェ

    クト運営上の様々な間接コス

    トが加わると、84.34 FCFA/kg

    となり、プロジェクトによる販売

    価格は 100 FCFA/kg(2010

    年 現 在 ) で あ る (Projet

    phosphate du Burkina

    2009)。大口の購入者はおも

  • 表 V-1. 資材店における肥料価格の比較(2009)

    種別 肥料名単価

    FCFA/kg施肥成分

    施肥成分単価FCFA/kg

    施肥成分単価US$/kg

    リン鉱石成分単価に対する比

    単肥 ブルキナリン鉱石* 100 30 333 0.91

    単肥 重過リン酸石灰(TSP)* 410 46 891 2.44 2.7

    複合肥料 NPK(15-15-15) 360 45 800 2.19 2.4

    複合肥料 NPK(15-23-14) 380 52 731 2.00 2.2

    単肥 尿素 320 47 681 1.87 2.0

    単肥 塩化カリ* 450 63 714 1.96 2.1

    * ほとんど流通していない

    図 V-2. 肥料の利用量(FAO statics より作成)

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    19

    93

    19

    98

    20

    03

    利用

    量(

    成分

    換算

    )千

    トン

    複合肥料

    尿素

    リン鉱石

    にサトウキビプランテーション公社である。プロジェクトの販売所はワガドウグにあるが、

    一部、農業資材店でも小分けされ販売されている。図 V-2 に、ブルキナファソで利用さ

    れている肥料の流通量の

    推移を示す。3成分を含有

    する複合肥料と尿素の利用

    量は年々増大しているのに

    対し、リン鉱石の利用はほと

    んど増えていない。このこと

    は、農家にほとんど受け入

    れられていないことを意味し

    ている。その原因は、遅効

    性であること、粉末のため

    ハンドリングが困難であることなどが挙げられる。

    表 V-1 に、2009 年の調査で得られた、首都ワガドウグの農業資材店での肥料価格

    を示す。ブルキナファソ産リン鉱石は 50 kg 入りで 5,000 FCFA であり、リン酸単肥であ

    る重過リン酸石灰は成分単価でその 2.7 倍である。それ以外のリン酸肥料との比較は

    できない。大まかではあるが、施肥成分の種類を問わす比較すると、リン鉱石の 2.0~

    2.7 倍となり、おおむね 2 倍強の価格であることがわかる。

    ブルキナファソにおける稲作は、灌漑水田、天水田、陸稲の作付け様式からなる。

    そのうち比較的施肥が確実に実施されている灌漑水田で、このリン鉱石施肥が普及す

    る可能性があるかどうかについて検討した。ブルキナファソ南西部に位置する Kou 流

    域には灌漑水田が 1968 年に台湾政府により整備され、現在は農業省が管理している。

  • 肥料の種類投入量

    kg ha-1N

    kg ha-1P2O5

    kg ha-1K2O

    kg ha-1肥料価格

    FCFA ha-1

    複合肥料 (151515) 250 37.5 37.5 37.5 90,000

    尿素 125 58.8 40,000

    計 96.3 37.5 37.5 130,000

    単肥に変更

    リン鉱石 125 12,500

    尿素 205 65,566

    塩化カリ 60 26,786

    計 104,852

    表 V-2. Kou 灌漑地区における肥料コスト

    図 V-3. 減収割合と籾売上額-肥料コストとの関係

    150,000

    200,000

    250,000

    300,000

    350,000

    400,000

    450,000

    500,000

    550,000

    600,000

    100% 90% 80% 70% 60% 50%

    籾売

    上額

    -肥

    料コ

    スト

    FCFA

    /ha

    減収割合

    複合肥料使用 助成なし

    単肥使用 助成なし

    複合肥料使用 助成あり

    (現状)

    単肥使用 助成あり

    作付け面積は雤期作で 1260 ha、乾期作で 900 ha である。収量平均は、2008 年雤季

    作には 6.0 ton ha-1、2009 年乾期作では 5.1 ton ha-1 と見積もられている。施肥は複合

    肥料(15-15-15)を 250 kg ha-1、尿素を 100-150 kg ha-1(平均 125 kg ha-1)施している。

    収穫した籾は農業省におもに販売するとともに、地元の精米所にも販売している。農

    業省による籾の

    (保障)買い取り

    価格は毎年決

    定され、2008 年

    に は 115

    FCFA/kg で あ

    った。これらをも

    とに、リン鉱石

    の普及可能性

    を考えるために、籾の平均収量を 5.5 ton ha-1 として、リン鉱石を含む単肥に代替する

    可能性を計算した。表 V-2 に肥料コストを示す。 単肥に変更することで約 25,000

    FCFA の節約になる。実際には、政府の助成により複合肥料を 270 FCFA kg-1、尿素を

    286 FCFA ha-1 とやや低価格で農業省より購入している。そこで、単肥においても同程

    度の助成を受けると想定して、助成有りと無しの場合について、収量の減収割合と籾

    販売額から肥料コストを差し引

    いた残金を図 V-3 に示す。現

    状の複合肥料使用(助成あり)

    が現状であるので、この線の

    100%における残金より低い場

    合には単肥への変更は難しい、

    と考えられる。単肥使用で助

    成あり、の場合をみると、減収

    しない場合には、売上額-肥

    料コストは、544 千 FCFA で、

    複合肥料の場合より、24 千 FCFA 多くなり、単肥による節約効果があるものの、96%に

    減収だとすでに同じ金額となる。このことは、わずかな減収で、単肥による節約効果は

    期待できないことを意味している。

    また、売上額に占める肥料コストの割合は収量レベルが高い場合、全体に小さく、ま

    表 1 Kou灌漑地区における肥料コ

    スト

  • 図 V-5.主要作物の推定平均収量の推移(5 年間の移動平均、FAO

    statics より作成)

    0

    0.5

    1

    1.5

    2

    2.5

    1984 1989 1994 1999 2004

    平均

    収量

    ton

    ha-

    1

    ソルガム

    トウモロコシ

    ミレット

    コメ (全ての作付け様式を

    含む)

    図 V-4. 減収割合(収量レベル)と売上額に占める肥料コストの割

    合との関係

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    45

    100% 90% 80% 70% 60% 50%

    5.5 4.95 4.4 3.85 3.3 2.75

    売上

    額に

    占め

    る肥

    料コ

    スト

    の割

    複合肥料使用 助成なし

    単肥使用 助成なし

    複合肥料使用 助成あり

    (現状)

    単肥使用 助成あり

    減収割合

    収量 ton ha-1

    た、複合肥料と単肥

    との差が小さい。収

    量レべルが低くなる

    に伴い、その割合が

    大きくなるとともに、両

    者の差も大きくなる

    (図 V-4)。 これらの

    事から、灌漑稲作の

    ような高投入高収量

    を目指す栽培では、

    肥料コストの削減効

    果は低くなり、より高

    収を志向すると考えられる。すなわち、代替により、収量が 90%以下に低減する場合

    には、リン鉱石普及の可能性は低い。もっとも、他の技術を付加することにより減肥技

    術が確立された場合には、さらに肥料のコストの削減につながり、単肥施肥が有利に

    働くだろう。稲わらは多くのKを含む事から、土壌に還元することでカリの施肥量を減ら

    すことが可能だと考えられる。微生物による窒素固定を利用し、窒素施肥量を削減で

    きるかどうかについても検討すべき課題である。

    肥料コストを削減することを目的としてのリン鉱石を含む単肥利用は、低投入型の栽

    培に対してより効果を発揮する可能性が高い。また、実際にも収量レベルはこの事例

    ほ ど 高 く な い 。 図

    V-5 にブルキナファ

    ソでの稲の作付け

    面積と生産量から推

    定した平均収量レ

    ベルを示す(5 年間

    の移動平均)。それ

    によると、コメの収量

    は平均 2 ton ha-1 で

    あり、上記の例とは

    大きく異なる。施肥

    量は上記の事例に

  • 比べ尐ないと思われるが、肥料コストが売上額に占める割合はより高くなることが推定

    される。また、コメの収量はその他の畑作物に比べ高い。単位価格は年により大きな変

    動はあるものの 100 FCFA kg-1 前後とほぼ同等であるので、稲作が可能な場合には、

    農業経営的に有利であることは明らかである。従って、低投入型の栽培に対して、リン

    鉱石の施肥効率を高める技術開発を進めることは有意義であると考えられる。

    ブルキナファソ産リン鉱石は、ブルキナファソはもとより西アフリカ地域で重要なリン

    資源である。これまで、インド、オーストラリア、ブラジルの民間企業、あるいは公的機

    関がその開発の可能性を探るために調査している。また、Phosphate project 所長も

    商業化による年間 100 万トンの生産を企画している。それによれば、リン鉱石に硫酸等

    を用いて水溶性リン酸肥料を製造する新たな工場を建造したいとのことである。輸入

    する酸を用いてまで水溶性リン酸肥料を製造するという考えには疑問はあるものの、こ

    のリン資源を効果的に利用し、この地域の土壌肥沃度向上に利用することに貢献する

    ことは、日本として重要な開発途上国支援ではないだろうか。

  • 引用文献

    FAO statistics; www.fao.org/economic/ess/countrystathome/country-statistics

    Projet phosphate du Burkina (2009) Projet Phosphate; Rapport technique et

    financier de la champagne de production. p 28. with appendices

  • 写真 VI-1.フォーカスグループ討論の

    開始を待つ農家たち

    写真 VI-2.フォーカスグループ討論を勧める

    モジュレーター(社経研究者)と参加農家

    第6章 在来資材へのアクセス、資材加工の実行可能性等について

    (北部地域における調査の結果)

    背景

    ガーナ北部は多くの谷地に恵まれており米生産のポテンシャルは高いが、小規模

    農家による水田での収量は全体的に著しく低く約 1.2 トンである。その低収量の主要

    因の一つとして、谷地の土壌肥沃度の低下が挙げられている。昨年はガーナ北部の 3

    州(ノーザン、アッパーイースト並びにアッパーウェスト)の 30 村でそれぞれ 10 の農家

    を対象に社会経済学的調査を行い、土壌肥沃度に関わる農家の関心と実践について、

    化学肥料の使用も含めて聞き取りを行った。また実際の農家圃場の水田土壌を採取

    して化学分析を行い、肥沃度に関して最も優先度高く解決すべき問題を抽出した。

    二年目の今年は、在来資材を直接及びそれらの加工資材(灰化、炭化、堆肥化)の

    それぞれについて施用効果を検証するための圃場試験を開始しているが、これらの

    資材に対する農家の関心、手に入れやすさ、並びに加工手段の有無などについて、

    農民参加ワークショップなどを通じて調査を行った。

    材料及び方法

    調査地

    調査はノーザン州のタマレ地域で、オンファームの試験が実施されている 3 つの異

    なる郡(Tamale Metropolitan、Savelugu/Nanton 並びに East Gonja)にそれぞれ属

  • するブリマ(Gbrimah)、ナボグ(Nabogu)並びにフウ(Fuu)の 3 村で実施した。今年

    は資金の配分が十分でなかったため 3 村に留まっているが、次年はさらに数と地域を

    広げたい。本調査の主目的は、今年のオンファーム試験で使用しているそれぞれの

    在来資源について、農家が手に入れ、受け入れ、購入できるかという観点で農家の意

    識調査を開始することにある。

    データ収集法

    今回の目的達成のために必要なデータ収集は、農民参加型手法で行った。農民が

    もっている様々な考え方を汲み上げるために、開発研究大学(UDS)の研究者が企画

    した農民参加ワークショップの中で、グループ討論と個別インタビューの 2 つの方法を

    組み合わせた。

    ① フォーカスグループ討論

    フォーカスグループ討論は、精力的なグループ内討議によって極めて正確で妥当

    な情報を得ることができるため、定性的調査においては近年ポピュラーな手法になっ

    てきている。フォーカスグループのメンバーは、決められた分野における経験に基づ

    いて、アイディアや意見、認識、態度並びに信念をお互いに出し合う。今回の調査は

    基本的には踏査的であるため、このフォーカスグループ法が極めて適当である。

    調査地とした 3 つの村それぞれで、農民は積極的にワークショップに参加し、稲栽

    培の経験が豊富な農家約 10 人によってフォーカスグループが構成された。フォーカス

    グループは、以下の論点で議論を行った。

    (ア) それぞれの村で作られている主要な稲品種は何か?【農民の目から見た様々

    な品種の肥沃度要求性を知るため】

    (イ) 水田の肥沃度を改善するために有用な在来資材は何か?【とりわけ現在実際

    に使われているもの】

    (ウ) このプロジェクトで試行している在来資材が、そこにあるかどうか、手に入れるこ

    とができるかどうか、受け入れやすいものかどうか、購入できるかどうか?

    写真 VI-3.農民参加ワークショップにて、土壌肥沃度改

    善のための資材を実際に触れる農家たち

  • (エ) 水田の肥沃度改善のために適切な有機物資材についてアイディアはあるか?

    ② 農民個人へのインタビュー

    それぞれの村のフォーカスグループでの討議の後に 10 人の農家が選ばれ、個人レ

    ベルでのインタビューが実施された。これは、研究者がそれぞれの農家自身の考えを

    聞くことにより、グループで討議された論点にさらに説明を加えるためである。

    調査の結果

    調査対象者の特徴

    調査対象者は低収入の土着の農民で、いずれもダゴンバ(Dagomba)族に属する。

    正式な教育は受けておらず、ほとんどの者は読み書きができない。一方、過去には彼

    らの村々を舞台にプロジェクトやプログラムが行われてきたため、多くの人は長きに亘

    って研究者や農業開発団体と接してきた経験を持っている。村の主な宗教はイスラム

    教で、伝統的な崇拝は極わずかであった。

    調査対象村の水田における土壌肥沃度

    この地域の土壌肥沃度は元々低いといわれている。Buri ら(2009)は、タマレ周辺の

    Jolo-Kwaha 水域の土壌肥沃度は低いことを示しているし、その中でも可吸態リンの量

    は 3 mg-P kg-1 以下と極端に欠乏している。不規則な降雤の結果として土壌水分も適

    量とは言えず、土壌の生産ポテンシャルは非常に低い(Boateng & Ayamga, 1992)。

    このような貧弱な土壌肥沃度にもかかわらず、肥沃度維持・向上のために地域の農民

    が使う肥料の量は有機無機を問わず低い。人口増加に伴う連続耕作と農地へのプレ

    ッシャーにより、この地域では相当量の栄養分の収奪が起こっており、近い将来深刻

    な養分欠乏と農地の荒廃につながりかねない。

    インタビューで農民は、年々水田の肥沃度が低下していることが見て取れると言う。

    フウ村の一人の農民は、「ほとんどの水田では化学肥料を入れなければ何も収穫でき

    ない、土地は疲弊している」と嘆いている。稲作が、化学肥料が買える裕福な農家の

    専売になりつつある現状で、水田土壌の肥沃度を改善する他の安価な方策が今まで

    以上に求められている。

    土壌肥沃度と農民による稲品種選択

    調査対象とした村では、11 の稲品種が栽培されていることがわかった(表 VI-1)。最

    も主要な品種は GR18(別名 Afife)、TOX(3107 と 3108)、Poul、Mandii、Abirikuko、

    Anofula 並びに Jasmine であった。その他農家の口から出た品種名としては、

    Salmasaa Bazolgo、Lob3 と Gomma があり、この結果は以前の他プロのものとほぼ一

  • 致した(Awuni & Regassa, 2008)。GR18 や TOX といった改良品種は、2000 年前後

    の AFD(フランス開発庁)/MOFA(ガーナ食料農業省)による水田稲作プロジェクトで

    導入されたものである。

    農家は、栽培する品種を選ぶ重要な基準の一つとして、その品種の肥沃度要求性

    を挙げていることがわかった。その年に化学肥料が手にはいるかどうかわからない場

    合には、肥沃でない(化学肥料をほとんどあるいは全く与えない)土壌でも比較的良好

    な生育を示す品種を選ぶ傾向があり、たとえば Mandii や Poul がそれにあたる。一方

    GR18 は多収で市場の女性にも好まれるが、この品種は低肥沃土壌への適応性は低

    いと農家は口を揃えて言う。偶然にも GR18 は、このプロジェクトの on-station 及び

    on-farm の圃場試験で使われている。もしこれらの試験で、有機物資材が農家の経済

    状況に見合ったコストで土壌を改良できることが示されれば、これは農家にとってたい

    へん喜ばしいことである。農家が品種を選択する際に重視するその他の形質は、収量、

    食味、買い付け者の嗜好、冠水耐性並びに生育期間の長さであった。

    土壌改良技術に対する農家のアクセシビリティー

    現在行われている試験では、在来資材の直接施用及びいくつかの処理後(炭化、

    灰化など)の効果を、土壌の化学性とイネの生育を指標に調査している。よって社会

    科学的調査の一つの大きなテーマは、農家にとってそのような資材のアクセシビリティ

    ーがどの程度なのかを調査することである。農民によれば、牛糞(直接の脱糞)、堆肥、

    灰並びに炭(ともに稲わら由来)はアクセス可能であり、特に稲わらの炭化・灰化処理

    は収穫後、村の中で簡単に行うことができると答えている。一方、農民は牛糞のアクセ

    シビリティーに関して意見が分かれている。ある者は、牛を持っていない農家でもその

    気になれば牛が放されている場所に行けば牛糞を集めることができると言い、他の者

    は、メイズ栽培農家では畑の肥沃度改善につき牛糞への関心が高まっているので、牛

    を持っていない農家にとって牛糞を集めることはだんだん困難になるだろうと言う。牛

    を持つ農家は、他人に取られまいとして牛が自分のメイズ畑で脱糞するように導入して

    いる現状もある。いくつかの村では、研究用に必要な牛糞を手に入れるのに、研究者

    が化学肥料を購入し牛糞と交換しているという事例も見受けられる。牛の保有は豊か

    さの指標として広く使われており、牛を持っている農家は裕福だと思われているが、

    2009 年に行われた社会経済学的調査によれば、北部 3 州では平均 37.5%の農家が

    牛を保有していた。

    3 村の調査の回答者は、その多くが人糞尿、水溶性リン酸肥料並びにリン鉱石には

    アクセスできないと答えた(表 VI-2)。ほとんどの農家がトイレ設備を持っておらずまた

    公衆便所もなく、いわゆるブッシュの中で排便するために人糞尿を集めるのが困難と

    いうことである。また人糞尿を運んで持ち込むこと自体費用がかかるため、人糞尿をわ

    ざわざタマレのような大きな市や町から運んでまで土壌肥沃度改善のために使ってみ

  • ようと思う農民はほとんどいない。

    リン鉱石に関しては、まだそれを誰も見たことがなく、どうすれば手に入るかもわから

    ない状態である。水溶性のリン酸肥料は、肥料を扱う会社から得ることはできるが、費

    用を考えればほとんどの農家がアクセス不可である。

    土壌改良技術に対する農家の受容度

    農家の受容度に関する調査結果は表 VI-3 が示すように、リン鉱石、水溶性リン酸肥

    料、稲わら由来の炭並びに灰で高かった。On-farm 試験に関わっている農家以外リン

    鉱石など見たことがなかったので、ワークショップでブルキナファソ産のリン鉱石に初め

    て接した農家が、この資材が水田土壌の肥沃度改善において受容できると判断したこ

    とは驚きである。リン鉱石を触った感じと見た目が化学肥料とよく似ているので、このよ

    うな高い受容性を示したものと思われる。

    インタビューによれば、水田だけでなく畑も含め、稲わら由来の灰や炭を農家はす

    でに使用している。稲収穫後、稲わらは圃場内で焼却され、灰は次の圃場整備時に

    土壌に取り込まれる。稲わら灰の利用に関して農民が唯一心配しているのは、適正な

    栄養素バランスを保持するために、圃場全体にどの程度の量を撒けばよいのか、とい

    うことであった。農家による稲わら由来の灰や炭の利用について、その推奨すべき適

    正施用量並びに効率的な作成手段に関する技術開発は、ぜひ研究者が関与するべ

    きだと考える。ワークショップで数種の土壌改良技術のサンプルを見せた時に、農民

    のファーストチョイスが水溶性リン酸肥料だったことは、農家の化学肥料への高い指向

    を意味している。

    農家調査で回答した農民の 26.7%が、人糞尿の農業利用は受容できる技術である

    と答えているが、7 割以上の多くは反対意見であった。Gburimah 村ではさらに高い比

    率(90%)の農民が人糞尿の農業利用は受け入れられないと答え、何人かは人糞尿を

    使って作られた作物は買わないと発言した。Nabogu 村と Fuu 村では、それぞれ 40%

    と 30%の農民が、もし人糞尿を加工・処理するためのトレーニングを受け設備も整うな

    ら、これを肥料として試してもよいと答えた。回答者の農民はすべて、人糞尿を施用し

    た圃場で作物の生育がとても旺盛であることを見ているので、強行に人糞尿の利用に

    反対している人たちの間でさえ、その肥料としての一般的な価値についての知識は持

    ち合わせている。人糞尿の農業利用への異議は、宗教的、文化的、そして社会的な

    問題を多く孕んでいる。

    牛糞と堆肥に関して農民は、この資材と技術は畑ではいいが水田では受け入れら

    れないと回答した。Nabogu 村の農民は、1980 年代に牛糞と堆肥を肥料として導入さ

    れたが、結果として広葉型の雑草の繁茂を招いたので、水田で使用するのはやめた

    のだ、と憤慨していた。また居住地からずっと離れた水田まで、このような資材を運ぶ

    のは問題が多いという意見もあった。

  • 農家の土壌改良技術の入手可能性

    農村開発を指向する機関がこの地域で何十年も活動したのにもかかわらず、ガー

    ナ北部での貧困は全く解消されていない。特に作物を生産する農家層の貧困は、他

    の経済セクターに比べて深刻である。よって、小規模農家を対象とした技術開発はど

    んなものであれ、彼らがその技術を入手できるかという点において、経済的状況を真

    剣に考慮したものでなければならない。

    表 VI-4 は、様々な土壌改良技術の入手可能性を、農民自らが判断したものである。

    牛糞、堆肥、稲わら由来の灰並びに炭は、最も入手可能性が高い。これらは村の中に

    実際に存在しているので、驚くには値しない。農民は人糞尿の入手可能性はないと回

    答しているが、その理由はトイレ設備が村に存在せず、都市部から運んでくるのはコス

    トがかかると考えている。また人糞尿の場合、汚染や感染の恐れがあるため、防護服

    の着用などその取扱には特別の配慮も必要となる。

    結論

    1) 農民が参加するワークショップと個別の農家へのインタビューを組み合わせること

    によって、資材に対する農家の関心、手に入れやすさ、並びに加工手段の有無な

    どについての情報を収集することができた。

    2) 農家の土壌肥沃度への関心は高く、それは栽培する稲品種選びにも影響してい

    る。

    3) 牛糞、堆肥、稲わら由来の灰と炭は、農民にとって技術的にもアクセス可能であ

    る。

    4) 稲わらは収穫後に簡単に集めることができるが、施用量等の指針が求められてい

    る。

    5) 牛糞の土壌肥沃度向上における価値は認識しているが、今の段階では牛を所有

    しない農家にとって牛糞調達は難しい。

    6) 水溶性リン肥料はコスト高であるし、リン鉱石は村にはないので、ともに農家にとっ

    てアクセスできない資材である。一方、これらの受容性は高く、アクセス性を改善

    することが課題である。

    7) 人糞尿の農業利用に対する姿勢は、伝統や宗教・信条に大きく左右される。これ

    らに起因する人糞尿利用への異議を取り除くには特別な振興策が必要であるし、

    その肥沃度効果についての教育も必要である。

    8) 衛生的で安全な農業利用を可能にするため、低コストでシンプルな人糞尿処理

    技術の開発とそのための研究が望まれている。

    9) 人糞用を集めるためには、村の中にトイレなどの施設を作る必要がある。

  • 表 VI-1. 各村の栽培イネ品種

    表 VI-2. 土壌肥沃度改善のための技術/資材に対する農家のアクセス度(%)

    表 VI-3. 土壌肥沃度改善のための技術/資材に対する農家の受容度(%)

    技術/資材

    あり なし あり なし あり なし あり なし人糞尿 21 79 10 90 15 75 15.2 84.8牛糞 60 40 65 35 50 50 58.3 41.7堆肥 90 10 100 0 100 0 96.7 2.3灰 100 0 100 0 100 0 100 0炭化稲わら 100 0 100 0 100 0 100 0リン鉱石 0 100 0 100 0 100 0 100水溶性リン肥料 10 90 20 80 5 95 11.7 88.3

    村ごとにみた技術/資材のアクセス性の有無

    Nabogu Gburimah Fuu 3村全体

    技術/資材

    あり なし あり なし あり なし あり なし人糞尿 40 60 10 90 30 70 26.7 73.3牛糞 20 80 40 60 60 40 40 60堆肥 40 60 50 50 40 60 43.3 56.6灰 100 0 80 20 100 0 93.3 6.7炭化稲わら 100 0 80 20 100 0 93.3 6.7リン鉱石 100 0 100 0 100 0 100 0水溶性リン肥料 100 0 100 0 100 0 100 0

    村ごとにみた技術/資材の受容度の有無

    Nabogu Gburimah Fuu 3村全体

    Nabogu Gburimah Fuu 3村全体

    GR 18 5 4 4 13

    TOX 2 5 3 10

    “Poul” 2 2 3 7

    Mandii - 1 3 4

    Abirikukuo 2 1 - 3

    Anofula 1 - 1 2

    Jasmine 1 - - 1

    品種 村ごとにみたその品種を栽培する農家数

  • 表Ⅵ-4. 土壌肥沃度改善のための技術/資材の農家による入手可能性(%)

    技術/資材

    あり なし あり なし あり なし あり なし人糞尿 5 95 10 90 15 85 10 90牛糞 60 40 65 35 70 30 65 35堆肥 68 32 73 27 60 40 66.7 33.3灰 100 0 100 0 100 0 100 0炭化稲わら 100 0 100 0 100 0 100 0リン鉱石 0 100 0 100 0 100 0 100水溶性リン肥料 20 80 25 75 10 90 18.3 81.7

    村ごとに見た技術/資材の入手可能性の有無

    Nabogu Gburimah Fuu 3村全体

  • 第7章 ガーナの CARD 関連プロジェクト参画機関との協議

    この受託事業は、ガーナにおいて地域の在来資源を使った土壌肥沃度改善技術

    の検討を行っているが、開発される技術には一定の普遍性を求めている。このような

    一つの研究分野で地域横断的に適用可能な技術の開発も重要である一方、CARD

    の目標達成のためには、地域や国に根ざした分野横断的な取り組みが不可欠である

    ことは言うまでもない。CARD イニシャチブの第一優先国の一つに選ばれているガー

    ナ国では、JIRCAS や JICA のプロジェクトが CARD 関連の活動を実施している。本受

    託事業とこれらの活動との連携が、ガーナ国の NRDS(National Rice Development

    Strategy)プロセスに重要であるという認識から、今年度 JIRCAS が主催したワークショ

    ッ プ ” Development of Rice Production for Lowland in Africa – JIRCAS

    Contribution in Rice Research to the CARD(アフリカにおける水田稲作生産の展

    開-CARD における JIRCAS のイネ研究での貢献)”に積極的に参加した。

    この WS では、JIRCAS がガーナで実施している交付金プロジェクト「アフリカ低湿地

    における低投入・持続的稲作技術の開発」と農水省補助金事業「アフリカ農村貧困削

    減対策検討調査事業(稲作推進条件整備調査)」並びに本事業の、それぞれの c/p

    機関から代表を招へいした。招へい者は、「アフリカ低湿地」プロではタマレの

    CSIR-SARI(サバンナ農業研究所:Savanna Agriculture Research Institute)から 2

    名、「稲作条件整備」事業ではクマシの CSIR-CRI(作物研究所:Crops Research

    Institute)と CSIR-SRI(土壌研究所:Soil Research Institute)、並びに MOFA(食糧

    農業省)からそれぞれ 1 名であった。本事業からは UDS(開発研究大学:University

    for Development Studies)の経済学者で昨年度から北部地域の農村調査を担当し

    ている Mr. Joseph Awuni を招へいした。

    写真 VII-1. WS の参加者(敬称略);右

    から中村智史(JIRCAS)、Mathias Fosu

    ( SARI ) 、 Steven Nutsugah ( SARI ) 、

    Ralph Bam ( CRI ) 、 Joseph Awuni

    (UDS)、Kwaku Nicol(MOFA)、曽根千

    晴(JIRCAS)、Moro Buri(SRI)、飛田哲

    (JIRCAS)、【撮影:福田モンラウィー】

  • WS は 6 月 9 日と 10 日の 2 日間に亘って行われ、4 つのセッション、すなわち①稲

    作を取り巻く環境資源とその管理(Natural resources management)、②水田稲作の

    生産性向上(Increase of rice production in lowland)、③稲作農家の社会経済学

    的評価(Socioeconomic evaluation for farmers)、並びに④ガーナ機関と JIRCASの

    今後のコラボレーションについて(Future collaboration between JIRCAS and

    Ghanaian organizations)に分かれて議論が進められた。本事業としては、昨年度一

    年次目の成果と今後の方向性につき、以下の 4 つの口頭発表を行った。

    “Local phosphate resources and phosphate rock decision support system for

    soil fertility improvement in Ghana," by Monrawee FUKUDA, Satoshi.

    TOBITA, Fujio NAGUMO, Satoshi NAKAMURA, Roland, ISSAKA, Eric

    ADJEY, and Osamu ITO (JIRCAS & SRI)

    “Indigenous resources for soil fertility improvement in Ghana,” by S. TOBITA,

    S. NAKAMURA, Moro BURI, E. ADJEY and R. ISSAKA (JIRCAS & SRI)

    “Socio-economic characteristics and soil fertility management practices of small

    holder lowland rice farmers in Northern Ghana,” by Joseph Agebase

    AWUNI, Israel DZOMEKU, and S. TOBITA (UDS & JIRCAS)

    “Improvement of soil fertility with use of indigenous resources in rice systems

    of SSA,” by S. TOBITA (JIRCAS)

    これらのパワーポイントのハンドアウトを付録に記載した。

    この WS の意義は、ガーナ現地の c/p に JIRCAS の CARD 関連活動全体を体系

    的に理解してもらうこと(特に自分の関わっていない活動について)、また c/p の意見も

    ふまえながら、プロジェクト・事業間の連携についてお互いに協議をすることにある。本

    事業は後発であり、知名度もさることながら、活動の位置付けが正しく伝わっていなか

    ったことも否めない。その意味で今回の WS 開催により、政府機関を含めた他の組織

    へ本事業のアピールができたと思う。また招へいした Awuni氏も、JIRCAS が実施して

    いる CARD 目標達成に向けた取り組みのことをよく理解し、またその中での本事業の

    位置付けを再確認して帰国した。

    最終セッション④では、主として本事業と補助金「稲作条件整備」事業との協力の具

    体化について議論がされた。補助金事業は、その活動の柱に肥沃度管理技術のオプ

    ションを入れていない、いわば化学肥料の投入を前提としているわけであるが、昨年

    度の調査の結果を Awuni 氏が発表したように、農家がアクセスできる肥料の量は限ら

    れ、推奨量よりもはるかに尐ない。それを補うためにも、また持続的な肥沃度管理技術

    を実現するためにも、在来資源の利活用は有効な手段であり、一つの技術オプション

    として「稲作条件整備」事業の成果物であるマニュアルの中に入れ込めるようなものを

    出して欲しいとの意見をうかがった。稲わらは水田の周りに豊富にあるので当然として、

    クマシ近辺での在来資源であるオガクズや鶏糞を使った技術、並びにリン鉱石の加

  • 工・施用技術がこれにあたる。JIRCAS の次期中期計画の中においては、本事業の3

    年次達成目標の中に「在来資源を活用した土壌肥沃度管理技術を農家圃場で実証

    する。また、補助金プロの肥培管理マニュアルの1アイテムとして入れ込む」としてい

    る。

    一方 JICA の「天水稲作持続的開発」プロジェクトは、在来資源の活用という技術オ

    プションは無いにせよ、持続的な開発という観点から土地や土壌の持続的管理は重

    要と思われる。本年度はタマレ近郊の JICA プロジェクトサイト(オンファーム試験)を見

    聞する機会を得たが、この北部地域の天水稲作のポテンシャルに近い収量を実現す

    るような非常に集約的な肥培管理を行っていた。もちろん化学肥料も十分すぎるほど

    与えており、隣の農家圃場との差を見るにつけ、土壌肥沃度の改善のインパクトは大

    きいと感じた。とりわけ、農家が実践可能で、かつ持続的な技術の開発と普及が肝要

    であり、本事業の持つ意義が再確認され

    た。これまでの JICA 現地担当者との話し

    合いでは、JICA が持つサイトについて、

    本事業の農家圃場として圃場そのものを

    共有しようという議論が進められている。

    JICA プロでは MOFA を C/P として活動

    しており、将来的にも、普及員などを使っ

    た効果的普及が可能であると思われる。

    写真 VII-2.JICA のオンファーム試験(タマレ市

    近郊 Sanga 村)

  • 第 8 章 総合討論

    (1) 調査結果のまとめ

    ① ガーナにおける在来有機資材施用により稲作収量を増進することを目的に、ノー

    ザン州並びにアシャンティ州において、試験圃場を設定し、以下のことを明らかに

    した。

    ◆ 各種有機資材の施用によりイネ籾収量は概ね増加した。その増収効果は、ノーザ

    ン州においては対照区に比較して約 1.5~1.6 倍の収量を得られる効果があり、ア

    シャンティ州においては約 1.1~1.2 倍の収量を得られた。

    ◆ オガクズの直接施用等、有機資材の前処理によっては増収効果の無いものもあり、

    様々な有機資材に適した前処理方法を選択する必要がある。

    ◆ ノーザン州においては、収量が高く農家による実践が可能である技術として、稲わ

    らを主体とした牛糞や人糞の堆肥化技術を中心に検討する必要がある。ただし、

    牛糞及び人糞堆肥の作成には牛糞や人糞の収集という問題もある。

    ◆ 稲わらを主体とする牛糞、人糞の堆肥利用はリン鉱石との組み合わせによって、リ

    ン鉱石施用による効果も大きくなると期待される。

    ◆ アシャンティ州における有機資材施用においては、稲わら、オガクズの灰化処理、

    炭化処理、及び稲わら鶏糞堆肥、オガクズ鶏糞堆肥、鶏糞直接施用が有望であ

    る。

    ◆ アシャンティ州における有機資材施用においては、還元状態が長い当該地域の

    圃場条件を踏まえた質及び量の資材施用が肝要である。

    ② リン鉱石(PR)は化学肥料の代替資材として非常に有用であると考えられる。しかし

    ながら、その可溶性の低さがしばしば問題になる。そこで、リン鉱石をリン欠乏土壌

    に直接施用した際の稲の生育におよぼす影響を、ポット試験により明らかにした。

    ◆ 紛状にしたリン鉱石の直接施用の効果は、イネ収量に対し酸性の陸畑条件におい

    て有効であった。

    ◆ 湛水条件においても陸畑条件においても、PR を施用したイネの分げつ数、葉齢、

    並びに乾物生産は、SSP を施用したイネに比べていずれも尐なく、リン欠乏の症状

    も見られた。

    ◆ SSP 肥料は、イネの初期生育に必要な十分な量のリンを素早く供給し、結果として、

  • PRを施用した場合に比べて、リンを獲得するための根の形態と機能が良好に発達

    したと考えられる。一方、PR を施用した土壌で生育したイネは、最初の土壌中の

    有効態リンが極めて低いために、栄養成長が開始できなかったものと推察された。

    ◆ 陸畑条件において、リン鉱石施用量が低い区(50 kg P2O5 ha-1)に比べて、高い区

    (200 kg P2O5 ha-1)では、イネの地上部乾物量が 3 から 4 倍になった。

    ◆ 作物体地上部のリン濃度は、リン鉱石多量施用区の値で比較すると、湛水条件に

    比べ陸畑条件の方が 2 から 3 倍高くなった。

    ③ リン鉱石の可溶化には様々な技術が提案されているものの、農家に実践可能な可

    溶化技術は多くない。これらの技術の中で農家にとって実践可能と思われる生物

    的可溶化技術である堆肥化にともなう可溶化、及び有機物添加による可溶化の二

    つの技術について検討した。

    ◆ 稲わらを材料とした堆肥化試験の結果、稲わら堆肥区においては、リン鉱石の施

    用量に応じて、有効態リン量が増加した。このことは、リン鉱石の可溶化技術として、

    堆肥化過程の利用が有効であることの証左であると言える。

    ◆ リン鉱石溶解菌として黒麹菌を添加したが、黒麹菌添加区と無添加区の間に有効

    態リン濃度の差異は認められなかった。

    ◆ 堆肥化過程を利用したリン鉱石可溶化技術は、リン鉱石溶解に有効であり、かつ、

    リン濃度の増大や有機物のC/N比低下などの肥料効果の増大や、病原菌リスクの

    低下などの効果についても期待のできる有用な技術である。

    ◆ 湛水条件下において、リン鉱石 120kgP/ha 施用処理(BPR120)は他の処理に比

    べて、良質なリン供給源であると言える。

    ◆ 有機資材とリン鉱石の複合施用処理による培養試験から、湛水条件下において、

    リン鉱石と牛糞の複合施用は有効態リン濃度を高める技術である。

    ◆ リン鉱石の溶解割合は、有機資材の多量施用時に顕著に低下した。

    ④ ガーナ現地の農家圃場におけるリン吸着特性を把握するとともに、農家圃場にお

    いて実際にリン鉱石を直接施用し、イネ収量に及ぼす影響を検討した。

    ◆ ガーナの 2 つの地域(北部と南部)の土壌においてリン吸着を上昇させる主要因は、

    陽イオン交換容量、遊離の酸化鉄、窒素含量、有機物量、有機態炭素量並びに

    塩基飽和度であった。

    ◆ 北部地方の土壌は低肥沃度で物理性に乏しく酸性度が高いため、リンの吸着量

  • は遊離の酸化鉄によって支配されていると考えられる。

    ◆ ガーナ南部の土壌におけるリン吸着量の高さは、主に陽イオン交換容量を増加さ

    せる有機物含量が高い値を示すことに起因すると考えられる。

    ◆ ノーザン州及びアシャンティ州の両地域とも、リン鉱石の直接施用により、イネ収量

    は増加した。特に土壌中有効態リン濃度の低い地点において、リン鉱石直接施用

    のイネ収量におよぼす効果が大きかった。

    ⑤ 西アフリカ、特にブルキナファソ産のリン鉱石の生産・流通の現状と普及について

    調査を行い、次の結論を得た。

    ◆ 低投入型の稲作栽培に対してリン鉱石の施肥効率を高める技術の開発は有意義

    である。

    ◆ ブルキナファソ産のリン鉱石は、ブルキナファソはもとより西アフリカ地域における

    重要なリン資源である。

    ⑥ 農民が参加するワークショップと個別の農家へのインタビューを組み合わせること

    により、資材に対する農家の関心、手に入れやすさ、並びに加工手段の有無など

    を検討した。

    ◆ 牛糞、堆肥、稲わら由来の灰と炭は、農民にとって技術的にもアクセス可能である

    が、稲わらは収穫後に簡単に集めることができるのに対し、今の段階では、牛を所

    有しない農家にとって牛糞調達は難しい。

    ◆ 水溶性リン肥料はコスト高であるし、リン鉱石は村にはないので、ともに農家にとっ

    てアクセスできない資材である。一方、これらの受容性は高く、アクセス性を改善す

    ることが課題である。

    ◆ 人糞尿の農業利用に対する姿勢は、伝統や宗教・信条に大きく左右される。これら

    に起因する人糞尿利用への異議を取り除くには特別な振興策が必要であるし、そ

    の肥沃度効果についての教育も必要である。さらに、衛生的で安全な農業利用を

    可能にするため、低コストでシンプルな人糞尿処理技術の開発とそのための研究

    が望まれている。

  • (2) 総合討論

    これらのことから、ガーナにおける在来資源を用いた土壌肥沃度改善技術のオプシ

    ョンと、技術の開発のための研究ニーズについて、以下のように考察を行った。

    研究所あるいは大学の試験圃場内でのトライアルではあるが、北部サバンナ帯(ノ

    ーザン州)においても南部森林地帯(アシャンティ州)においても、有機資材の施用は

    概ねその種類によらず稲の籾収量を増加させ、その効果はノーザン州でより高くなっ

    た。それぞれの地域において、在来有機資材の農学的な効果に大差が見られなかっ

    たことから、基本的に農家が手に入れやすく、加工の必要があるならばその方法が容

    易であり、施用法にも手間がかからない技術が推進するに望ましいと考える。収穫後

    の稲わらは、最も身近に水田で利活用できる有機資材で効果も高かったことから、ガ

    ーナ全域、あるいは西アフリカでも広く使える資材であろう。ただしオガクズの直接施

    用に見られたように、有機物分解の進みにくい森林帯の水田では、稲わらの直接施用

    は窒素飢餓による弊害が生じる可能性が高い。その場合、稲わらやオガクズのような

    C/N 比の高い資材は、灰化や炭化並びに堆肥化等の処理後に施用するのが望まし

    い。このための技術としては、たとえば村レベルで安価に調達でき安全に使える炭化

    装置の開発を挙げることができよう。

    北部のサバンナ帯で賦存量の多い家畜糞、特に牛糞の施用は畑でのトウモロコシ

    栽培と同様、水田稲作においても高い効果が認められた。しかし、畑作との競合もある

    中、どのように牛糞を集めるかはとりわけ牛を持たない農家にとっては大きな問題であ

    る。一方養鶏が盛んな都市部の例に漏れず、アシャンティ州のクマシ市の周辺では特

    に鶏糞の賦存量は高い。そこで、稲わらと鶏糞を組み合わせた堆肥、オガクズと鶏糞

    を組み合わせた堆肥、並びに鶏糞の直接施用が、有望な有機資材施用技術として期

    待される。

    人糞尿は栄養素を豊富に含み、農業的な効果にも優れ肥料としての価値も高い。

    しかしアクセス性の低さもさることながら、宗教や倫理観による人糞尿利用に対する抵

    抗も大きくまた衛生上の問題もあるため、農家にとってその享受性は現段階では著しく

    低い。人糞用の農業利活用のためには、技術開発のみならずトイレ等のインフラ整備

    や啓蒙活動も必要であると思われた。

    リンの枯渇が叫ばれている中、また化学肥料の価格高騰が進む中、肥料としてのリ

    ン鉱石への期待がますます高まっている。リン鉱石の農業利用上の問題で一番大き

    いのは、その可溶性の低さである。本年度の調査では、水田稲作におけるリン鉱石の

    利用可能性について、農家圃場での実証試験から温室でのポット試験、さらには実験

  • 室でのガラス容器内でのインキュベーション試験と、様々なレベルで検討を行った。

    日本のリン欠土壌を用いたポット試験の結果では、直接施用したリン鉱石の可溶化

    とイネ生育への効果は、化学肥料に比べて著しく劣っていたものの、可溶化は湛水条

    件よりも陸畑条件でより促進されることがわかった。一方、ガーナの農家水田圃場で同

    じリン鉱石を直接施用したところ、サバンナ帯と森林帯のいずれでもイネ収量は有意

    に増加した。農家圃場でのこの結果は非常に興味深く、そのメカニズム解明に係わる

    研究は、直接施用したリン鉱石の肥効を高めるための技術開発に役に立つものと思わ

    れる。また施用したリン鉱石の有効性を支配する一つのメカニズムである土壌のリン吸

    着特性は、陽イオン交換容量、遊離の酸化鉄、窒素含量、有機物量、有機態炭素量

    並びに塩基飽和度と強い関係があることを確認した。この知見も、今後のリン鉱石施

    用技術の指針作りに活用するとともに、リン吸着を抑制する技術開発にもつなげたい。

    一方、リン鉱石を緩効性肥料としてとらえることも重要であるので、今年度実施した農

    家圃場での試験は継続し次期の作付への効果も調査・検討したい。

    リン鉱石については、やはり安価で手間も省ける直接施用が理想的ではあるが、農

    業的効果を高めるためにリン鉱石の可溶化技術の検討も有意義と考える。前年度の

    報告書の中でも総説としてまとめたが、そのための技術オプションはさほど多くはなく、

    農家にとって実践できるものといえば生物的技術のうちの一つである堆肥化にともなう

    可溶化、もう一つが有機物添加による可溶化などで、本年度はこの二つについて検討

    を行った。稲わらを材料とした堆肥化プロセスは、有効態リン量の増加によりリン鉱石

    の可溶化技術として有効であったが、堆肥化にともなうリンの形態の変化についてはさ

    らに研究を進めた�