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手術室とICUにおけるThromboelastography
慈恵ICU勉強会2015.12.15鈴木菜穂
本日の目次
・周術期の凝固検査について・凝固反応と検査の基礎確認・pointofcareと臨床・手術室、ICUではそれぞれpointofcareをどう生かすべきか?
本日の目次
・周術期の凝固検査について・凝固反応と検査の基礎確認・pointofcareと臨床・手術室、ICUではそれぞれpointofcareをどう生かすべきか?
周術期の凝固検査
・術前:血液疾患、凝固異常のスクリーニング→ 正確さ・普遍さ
・術中:止血困難の鑑別、大量出血時の凝固機能評価→ 迅速さ
・術後:術中の治療効果判定、再出血のリスク評価血栓症の評価
→ 迅速さ正確さ・普遍さ
正確さ・普遍さ = 中央検査利点:使い慣れていて、誰でもわかり、数値で表れる
ことで時系列での変化が評価できる欠点:結果が出るまで時間がかかる
迅速さ = pointofcare
利点:結果が出るのに時間がかからず、すぐに治療にうつれる小型の機械なので移動が容易遠心分離を要さない全血検査
欠点:一般的な検査ではないので、全員に伝わるわけではなく、また数値としての比較はしにくい
凝固検査を行うにあたってのポイント・検体提出から結果を確認し治療にうつるまでの猶予を考える
→緊急を要する状況ならpointofcare待ってでも前と比較したいなら中央検査
・検査目的を明確にする→何を考え何をチェックしたいから何の検査をするのかを
考え、適切な検査項目を決める
・検査を行い結果が出たからには、的確に治療に反映する→病態に即して速やかに治療介入し、必ず治療後も結果
を評価する。必要のない治療は行わない。
凝固検査は中央検査、pointofcareともに多種あるので、その原理・特性を理解し使い分け、正確に評価し判断することが大切
まずは凝固反応と各検査方法をおさらい
本日の目次
・周術期の凝固検査について・凝固反応と検査の基礎確認・pointofcareと臨床・手術室、ICUではそれぞれpointofcareをどう生かすべきか?
凝固反応と検査の基礎確認 一次止血 二次止血 血小板の粘着 凝固因子活性化 (内因系・外因系) 活性化 トロンビン産生 凝集 フィブリン形成 フィブリン網形成 止血 線溶
日臨麻会誌 Vol.33No.2,263-271,2013
凝固カスケード
日臨麻会誌 Vol.33No.2,263-271,2013
APTT
PT
APTT:活性化部分トロンボプラスチン時間PT:プロトロンビン時間
中央検査における凝固検査の方法と特徴
クエン酸加採血管に検体血液を入れる(血液 1.8ml、クエン酸0.2ml)
遠心分離
血球成分:赤血球、白血球、血小板
血漿成分:凝固因子など
試薬と混ぜて凝固検査へ
(約10分)
一次止血 二次止血 血小板の粘着 凝固因子活性化 (内因系・外因系) 活性化 トロンビン産生 凝集 フィブリン形成 フィブリン網形成 止血 線溶
出血時間
APTT/PTACT
Fbg
血小板数
FDP/D-D
・APTT:内因系凝固(XII、XI、IX、VIII、X、V、II、Fbg)を反映・PT:外因系凝固(VII、X、V、II、Fbg)を反映・Fbg:血中フィブリノゲンの濃度・FDP:プラスミンによってフィブリノゲンとフィブリンが分解され
たフィブリノゲン分解産物+フィブリン分解産物の濃度・D-D:安定化フィブリン分解産物の濃度・ATIII:活性化凝固因子の阻害因子であるアンチトロンビンIII
に関する測定。通常は活性値(%)を測定することが多い
・出血時間:血小板数/機能による一次止血にかかる時間
どれも血液の一部成分からしか測定されない、凝固線溶反応の一部分だけの測定。血餅の強度も測定できない。中央検査で測ると時間がかかる。
中央検査と同内容が検査できるPointofcareの機械の一例
・IDEXXコアグDx™:PT、APTT
・GCSeriesCG02N:PT、APTT、Fib、TB、HPT
・ACT:抗凝固剤なしの全血にカオリンやセライト
などの活性化剤を加えて内因系凝固を活性化させ、フィブリン塊が形成されるまでの時間。
*どれも全血検査で遠心分離を要さず5分程度で結果が出る
同じ項目、似た内容を検査していても、中央検査とは機械が違うので、中央検査の結果とは正確に比較できない
血液の凝固反応には ・血管損傷程度 ・凝固因子 ・血小板数・血小板機能 ・線溶因子 など、様々な要素が関わっている
→ ・凝固検査といっても、どこの何を測っているのかが重要。・実際に体内で起こっているのは全ての要素が関わった反応なので、全血検査が最も正確。
全血検査のpointofcare機器でも、APTT/PTのような一部の反応を見るのではなく、凝固線溶反応全体を見れる機械がいい。
一次止血 二次止血 血小板の粘着 凝固因子活性化 (内因系・外因系) 活性化 トロンビン産生 凝集 フィブリン形成 フィブリン網形成 止血 線溶
出血時間
APTT/PTACT
Fbg
血小板数
FDP/D-D
凝固線溶反応全体が調べられる=全血の検査が理想的
全血検査 :遠心分離をしていない血球+血漿の血液全体を用いて行う検査
一般的凝固検査との違い:・遠心分離を要さないので速やかに検査にうつれる・血球/血漿成分それぞれ及び相互反応まで調べられる
凝固線溶が評価でき、血餅強度も測定できる代表的機器・Thromboelastography:TEG®・Thromboelastometry:ROTEM®・Sonoclot®
*これらの機械の特徴①血小板と凝固因子の相互作用を評価できる②血餅の弾性粘調度の変化を測定し、血塊強度も測定できる③凝固反応の速度を測定できる④凝固過程だけではなく線溶過程も評価できる
次に参考として、これらの機械の詳細を紹介していく
TEG5000®
HaemoneYcsHPhZp://www.haemoneYcs.com/en.aspx
【測定原理】全血検体の入ったカップをセットしたホルダーが0.1Hz、±4.75°の振り子状往復回転運動をする。ピンは固定。
血液凝固が進み血液の粘稠度が増すとピンがカップの動きに合わせて徐々に往復回転運動を始める。
その往復運動の振幅を表示したものがTEG®の波形となる。【測定チャンネル】 2チャンネル
TEG5000®
【費用】本体約250万円(2チャンネル)1試薬約500~10000円、1検体(1検査)約1500円*KaolinTEGの1検査をベースとして行う
検査名 試薬 評価項目
KaolinTEG カオリン 内因系凝固活性
KaolinTEG+Heparinase カオリン+ヘパリナーゼ ヘパリンの影響を検出
RapidTEGTM カオリン+組織因子内因系+外因系刺激を併用して血餅形成能の迅速診断
TEGPlateletMapping®バトロキソビン+FXIIIa+AA アスピリンの影響を検出
バトロキソビン+FXIIIa+ADPP2Y12阻害薬の影響を検出
TEGFuncYonalfibrinogen組織因子+abciximabフィブリン重合能の評価(フィブリノゲン)
FXIIIa:活性型第XIII因子、AA:アラキドン酸、ADP:アデノシン二リン酸、abciximab:GPIib/IIIa阻害薬
TEG5000®
試薬のピペッティングは手動
ROTEMdelta®
フィンガルリンク株式会社HPhZp://www.finggal-link.com/me-rotem-delta.htm【測定原理】
TEG®の測定原理を応用したもの。カップは固定され、ピンが回転する。鏡の付いたピンに常に光が照射されており、反射光の変化を振幅として表示。
【測定チャンネル】 4チャンネル
ROTEMdelta®
検査名 試薬 評価項目
INTEM エラジン酸 内因系凝固活性
HEPTEM エラジン酸+ヘパリナーゼ ヘパリンの影響を検出
EXTEM 組織因子 外因系凝固活性
FIBTEM 組織因子+サイトカラシンDフィブリノゲン重合能の評価(フィブリノゲン)
APTEM 組織因子+アプロチニン 線溶亢進の診断
【費用】本体約400万円1試薬約10000円、 1検体(1検査)約1500~2000円*通常少なくともINTEMとEXTEMの2検査は行う必要がある
ROTEMdelta®
(a)正常波形(b)凝固因子低下または抗凝固薬の
影響(c)凝固因子低下及び血小板数低下(d)凝固因子低下、線溶亢進
ROTEMdelta®フィンガルリンク株式会社HPhZp://www.finggal-link.com/me-rotem-delta.htm
本当に簡便…?
慈恵医大麻酔科 ROTEM®操作マニュアル
全自動のピペッティング操作とはいえ、試薬数が多いので操作での誤差が出そう…
TEG® ROTEM® パラメーター
R(secormin)reacYonYme
CT(secormin)clohngYme
・測定開始から初期フィブリン形成までの時間・トロンビン産生速度を反映し、APTT/PTなどに相当
A(mm)amplitude
CF(mm)clotfirmness
・凝血塊の弾性粘調度・血小板数/機能とフィブリン産生能/濃度に依存・経時的に変化し、値が大きいほど強固な血塊
K(secormin)clotkineYcs
CFT(secormin)clotformaYonYme
・RまたはCTから振幅が20mmになるまでの時間・値が小さいほどフィブリン網形成が早い
α(degree) α(degree) ・振幅の増加率を角度で示したもの・角度が大きいほどフィブリン産生速度が速い
MA(mm)maximumamplitude
MCF(mm)maximumclotfirmness
・測定検体が示す振幅の最大値・値が大きいほど強固な血塊
TMA(secormin)Timetomaximumamplitude
・波形が最大振幅に達するまでの時間・短いほど急速に血塊形成が進むことを示す
LY30,LY60(%) LI30,LI60(%)clotlysisindex30,60
・最大振幅後30分および60分後の振幅減少率・TEG®では値が大きいほど、ROTEM®では値が小さいほど線溶亢進を示す
CLT(secormin)clotlysisYme
・最大振幅後、線溶亢進によって振幅が最小になるまでの時間
ML(%)maximumclotlysis
・MCF到達後のMCFに対する振幅の最大減少率・値が大きいほど線溶亢進の程度が高いことを示す
*
*ROTEM®には直接血小板機能を測定する項目はないが、EXTEMとFIBTEMのMCF(振幅)の差で血小板機能を評価できる。
TEG®とROTEM®の比較・違い
TEG®とROTEM®の比較・違い
TEG®とROTEM®の比較・違い
【方法】ロンドンの1病院で、コンサルタントの麻酔科医7人コンサルタントの血液専門医1人準専門麻酔科医1人シニアレジデント麻酔科医2人
が1週間でTEG®とROTEM®の使用訓練を受けてから機械を使用し、その使いやすさ、コスト等のアンケートをとった
【結果】・使いやすさ、有用性、コストの面でTEG®の方が優れている・この感想は、一般的に言われているものと相違なさそう・その他にも我々が使うメリットについて、より考察する必要性はある
ただし、“使いやすさ“という面では、UKで広く使われているのがTEG®であるというバイアスがかかっている
試薬カートリッジに全血検体を加えて本体にセットすると、あとは自動で測定してくれる。ピペッティング操作で結果が変わることがなくなり、操作者による違いも出にくい。費用:本体約400万円、カートリッジ1回約9000円
同様のカートリッジタイプのROTEM®はドイツでは発売中
TEG6s®
Sonoclot®測定原理:検体の入ったカップに筒状
のプローブを沈め、測定を開始するとプローブが200Hzの振動を開始する。血液凝固が進み検体の粘稠度が増すと、トランスデューサーがプローブと検体の間のずり応力の変化を検知・増幅し、波形として表示する。
パラメーター:TEG®/ROTEM®より測定項目が少ない。
特徴的なのはPlateletfuncYon:血小板機能を数値化した値、である。
Sonoclot®特徴:血液凝固を①フィブリン産生が主たる段階、②血小板機能
が主たる段階、に分けて表示できる。特別な試薬を使用しなくても抗凝固薬や抗血小板薬のdose-response測定が容易である。
欠点:高周波振動で測定するため衝撃などの影響を受けやすい
結果の再現性が低いという報告結果の判読が専門性が高く難しい
Sonoclot®
Sienco,Inc.HPhZp://www.sienco.com/
アイ・エム・アイ株式会社HPhZp://www.imimed.co.jp/product/check/detail/new_sonoclot.html
2015.4.21.勉強会より引用
凝固異常の評価と血液製剤投与の指標として広く用いられているSLTs(standardlaboratorytests)における
「PT、APTT>1.5倍、PT-INR>1.5は凝固障害」という慣習的に用いている指標は、周術期の凝固障害の評価、出血管理において有用なのか?
↓現在、推奨されている凝固系検査と出血時の対応についての11のガイドラインそれぞれの参考文献の中で、「SLTs>1.5倍で輸血」を支持する文献は少なく、良い前向き研究データはない。
SLTsの問題点もともと、PT、APTTはビタミンKやヘパリンのモニタリング、凝固因子欠損を診断するもので、周術期の凝固障害、出血の予測のためのものではない。
血小板の数や機能障害については考慮しておらず、正確に凝固異常を診断できない。検査結果に従って、FFPを投与しても正常値まで改善することは少ない。予防的にFFPを投与した88人中、投与後もSLTを再検したのは30人のみであったが、このうちPTが正常値まで改善していたのは1人、APTTも4人と少数であった。
ChowdhuryP,etal.BrJHaematol2004;125:69–73.
2015.4.21.勉強会より引用
時間がかかる PT計測に60分以上要するため、 しばしば省略され、不適切なFFP輸血につながる。
製品の違いで感度が異なる 多発外傷の患者172名のうち、外傷性凝固障害と診断された56名 循環血液量100%の出血時にPT,APTT>1.5倍となっていたのは 感度が最高のものでは16人中16人、最低のものでは2人
DavenportR,etal.CritCareMed;2011;39:2652–8.
MurrayD,etal.Transfusion1999;39:56–62.
SLTsの問題点
2015.4.21.勉強会より引用
ManagementofsevereperioperaYvebleeding.GuidelinesfromtheEuropeanSocietyof
Anaesthesiology(2013)
推奨されるモニタリング 推奨される治療
2015.4.21.勉強会より引用
日臨麻会誌 Vol.33No.2,263-271,2013
周術期に凝固異常をきたす理由
凝固カスケードは増幅反応
出血などで凝固機能を中央検査で知りたいときは、フィブリノゲン濃度が最も早く正確に凝固機能を反映する
LiSACollecYon周術期の凝固・線溶の管理,2015
凝固線溶異常に対する治療・血小板低下:PC輸血・凝固因子低下:FFP、ノボセブン®など・フィブリノゲン低下:ヒト乾燥フィブリノゲン?
クリオプレシピテート?
先天性低フィブリノゲン血症しか適応じゃない
日赤からの供給はなく、自施設で精製する必要がある
フィブリノゲン低下に対してはFFPを輸血することが多い。
しかし、FFPはフィブリノゲン濃度が低く、有効なフィブリノゲン濃度上昇を得るには莫大な量のFFPを必要とする
当院の検査事情
【中央検査】・凝固検査の機械は中央棟に2台、外来棟に2台・遠心分離に約10分、最短で結果が出ても20分はかかる・検体提出が多い時間帯は更に時間がかかる
【Pointofcare】・病院としての所持はACT測定機械のみ・TEG6s®は麻酔科で1台所持、ROTEMdelta®がレンタル中・TEGとROTEMは手術室15室に常備ACT測定装置は手術室とICUに常備+臨床工学部で保管してあるものは各病棟などに貸し出し可能
当院の治療法事情
【輸血】・RBC:A(+)40単位、O(+)40単位、B(+)20単位、AB(+)10単位・FFP-LR480:A32単位、O32単位、B24単位、AB24単位・PC
【凝固因子製剤】・ファイバ®:第II因子製剤・ノボセブン®:第VII因子製剤・クロスエイト®・アドベイト®・コンファクトF:第VIII因子製剤・ベネフィクス®・PPSB-HT「ニチヤク」®:第IX因子製剤・フィブロガミン®:第XIII因子製剤・ノイアート®・アンスロビン:AT-III製剤・クリオプリシピテート:2016年度に機械購入予定。現在は作成
することはできない。
本日の目次
・周術期の凝固検査について・凝固反応と検査の基礎確認・pointofcareと臨床・手術室、ICUではそれぞれpointofcareをどう生かすべきか?
Pointofcareと臨床
・心臓外科術後:①術前より抗血小板薬を使用していることがある②人工心肺(CPB)を使用するため抗凝固を行う③CPB離脱後に線溶亢進状態となる
など様々な要因により凝固・線溶異常をきたすことから、TEG®/ROTEM®を使用することで術後出血のリスクを早期に発見することができ、輸血量も減ると報告されている。
・肝移植術後:TEG®が臨床で使われだしたのは肝移植後の凝固線溶評価に用いる目的であった。アメリカでは2002年の調査で、肝移植の1/3はルーチンとしてTEG®を使用している。肝移植後は凝固因子低下・血小板減少などによる凝固異常と線溶亢進、凝固亢進と血栓症の報告があり、それらをモニタリングし管理するにはTEG®は有効であるとの報告が多い。
・術後の凝固亢進状態・血栓症:大手術の後は凝固亢進状態となっており、DVT/PE、心筋梗塞、虚血性脳血管障害などの血栓症を合併しやすい。しかし、従来の中央検査では余程のFbg上昇や血小板数の増加を認めない限り、凝固亢進状態を指摘することはできない。TEG®/ROTEM®では凝固亢進を発見できるとの報告がある。
・抗凝固療法の効果判定:ACTは未分画ヘパリンの効果判定に用いることができるが、低分子ヘパリンなどの効果判定には使用できない。しかし、未分画ヘパリンだけではなく低分子ヘパリンやダナパロイドなどの効果判定にも、TEG®が使用できるとの報告がある。
・抗血小板療法の効果判定:欧米では脳血管障害、心血管障害の予防目的で処方されていることが多い。しかし、抗血小板療法の効果判定を行う中央検査は時間とコストがかかり、結果の解釈にも経験と知識が必要となる。TEG®ではPlateletMappingを用いると血小板機能を測定することができる。ROTEM®ではEXTEMとFIBTEMのMCF(振幅)の差を比較することで血小板機能を測定できる。
・凝固製剤の効果判定:プロトロンビン複合体(フィブリン重合、活性化XIII因子、血小板活性など)の評価にはMaxVel(凝固最大速度)が有効との報告がある。活性型第VII因子製剤を使用することで、重症出血に対し血管損傷のある部位で血液凝固反応を促進することができるが、その効果判定に関して正確で有意な検査は見つかっていない。InvitroではROTEM®のTIFTEMが有効であると報告されている。抗線溶薬の効果判定はROTEM®のAPTEMが有効である。
・POCの限界:結果を標準化することが難しい。採血方法、検体処理、試薬利用法などにより結果が大きく左右されるため、同一施設でしか結果を比較できない。個人の手技によっても結果が異なるため、十分な訓練が必要となる。
・輸血のアルゴリズム:標準的凝固検査検査(PT/APTT/Fbgなど)は場合により結果が出るまで45分以上かかることもあるが、TEG®/ROTEM®であれば15分程度で結果が出る。TEG®/ROTEM®を使用して判断すると必要輸血量が減少する可能性が報告されている。
・心臓外科手術:TEG®/ROTEM®を使用して判断すると必要輸血量が減少する可能性が報告されている。
・外傷:TEG®/ROTEM®が外傷時の凝固障害に有用と報告されており、外傷治療のアルゴリズムに組み込まれている。外傷初期の線溶亢進状態のとき、plasmin-anYplasmincomplexes(PAP)値などのような高感度のものと比べると、ROTEM®の有用性は疑問である。
・産科:標準的凝固検査と分娩後出血(PPH)はあまり相関しないと報告されている。PPH時の低フィブリノゲン血症と線溶亢進状態はROTEM®が有用である。産科におけるTEG®/ROTEM®の施行は、24時間この検査に熟練した人員を要する。
・肝移植:肝移植は術前・中・後などでその凝固反応は変化する。術前の肝硬変の程度はROTEM®の結果と相関する。標準的凝固検査の結果を参考にした場合と、TEG®の結果を参考にして輸血をした場合、比較しても輸血の総単位数は違いがなかった。TEG®を使用するとRBCとFFPは減少し、PCやcryoprecipitateは輸血量が増加した。予後転帰を改善するかは不明である。
・血友病:欠損した凝固因子の定量的評価はできるが、臨床症状との相関はない。このため、臨床的な状態を評価する検査はまだなく、患者自身からの症状の報告をもとに評価するしかない。TEG®/ROTEM®のような全血検査が、個々の血友病患者の臨床的状態を評価できるかもしれないという報告は上がっているが、更なる研究が必要である。
周術期のTEG®/ROTEM®の有用性を検討した研究は、大量出血による輸血の必要性が高いものや、凝固障害が急性に起こるものが対象で報告されている。
主に・心臓血管外科・産科・肝移植・外傷 が対象である。
それぞれの分野でTEG®/ROTEM®の有用性を検討した研究について、最近報告されたものをいくつか紹介していく
CPBを使用した心臓手術患者において、ROTEM®による治療アルゴリズム群と、標準凝固検査による治療アルゴリズム群に分け、どちらが術後24時間までのRBC輸血量を減らせるのか検討した、前向きランダム化研究。【対象】2009年5月~2010年4月にドイツの大学病院(singlecenter)
で心臓手術を受ける18歳以上の患者100名【方法】50名ずつをROTEM®アルゴリズム群と従来アルゴリズム群に
分け、止血治療(輸血、外科的止血など)を行った。*標準凝固検査:Plt、PT-INR、APTT、Fbg、ACT
*治療介入基準RBC:CPB中はHb6以上、CPB離脱後はHb8以上を保つように輸血
国際ガイドラインに従い①ScvO2、SvO2が60%切る場合、または②輸血を必要とする出血が起きている場合、に輸血
フィブリノゲン製剤:従来アルゴリズム群→前の検査でFbg<200mg/dlまたは直近検査でFbg<150mg/dlの場合
ROTEM®→EXTEMA10≦40mmまたはFIBTEMA10≦10mmの場合FFP:従来アルゴリズム群→①RBC4単位輸血後に検査結果が出ていないけど出血が続い
ている、かつ/または②フィブリノゲン製剤を投与しても出血が続いている場合に輸血
ROTEM®→EXTEMCT>80secまたはHEPTEMCT>240secの場合に輸血(特にPCC使用しても有効でなかった場合)
プロトロンビン製剤(PCC):従来アルゴリズム群→INR>1.4またはAPTT>50の場合ROTEM®→EXTEMCT>80secの場合はまずこちら
デスモプレシン:従来アルゴリズム→血小板機能異常が疑われたらまずはこちらROTEM®→TRAP<50AU、ASPI<30AU、ADP<30AUの場合まずはこちら(ROTEMでも血小板機能自体を測定できる新しい試薬での検査)
PC:従来アルゴリズム→Plt<8万の場合、または血小板機能異常が疑われたら輸血(特にデスモプレシン投与しても有効でなかった場合)
ROTEM®→EXTEMA10≦40mmまたはFIBTEMA10≦10mmの場合TRAP<50AU、ASPI<30AU、ADP<30AU(特にデスモプレシン投与しても有
効でなかった場合)
【結果】周術期のRBC輸血量はROTEM®群で有意に減少した。
ROTEM®群ではFFPの輸血量、胸腔ドレーンからの出血量、人工呼吸期間も有意に少なく、死亡率も低下している。
・POCであるROTEM®の魅力の一つはその検査結果の迅速性であるが、検査結果が出て治療にうつるまでの時間の差についての考察はできない(従来アルゴリズム群は、検査結果がはっきり出ていなくても治療介入にうつるものもあるため)
・そもそものアルゴリズムが、標準凝固検査を用いた従来アルゴリズム群は数値などの治療介入基準が曖昧で主観的なものが多く、治療介入の必要性の根拠が乏しいので、輸血などの治療介入が増えそうなのは明らか。
・人工呼吸のweaningや離脱の基準なども明記されていない。
・ROTEM®アルゴリズムで使用した根拠の検査に、ROTEM®の標準的検査ではないものも含まれている。
・以上のような、治療介入などの詳細に関して疑問が残る+singlecenterでの研究なので、この結果が一般的に有用かは疑問が残り、更なる多施設研究が必要。
生体肝移植のドナー患者において、周術期に標準凝固検査とTEG両方を調べ、血栓症の早期発見にはどちらが有用かを検討した前向き研究。【対象】2001年7月~2002年3月に生体肝移植ドナーで肝右葉切除を
受ける患者10名(イタリア トリノのsinglecenter)【方法】全員に術前、術直後、術後1日目、3日目、5日目、10日目に
標準凝固検査とTEGを測定。この期間内の凝固検査結果と出血、DVTなどの合併症の関係を検討。
*標準凝固検査:Ht、Hb、RBC、WBC、Plt、PT-INR、APTT、Fbg、AT-III、D-D
全ての患者にDVT予防として術後1日目からの低分子ヘパリン投与、弾性ストッキング、早期離床を行った。
Plt、PT-INR、APTT、D-D
凝固亢進状態は指摘されていない
TEGR、K、α、MA
Rで凝固亢進指摘
R:測定開始から初期フィブリン形成までの時間。トロンビン産生速度を反映。
【結果】POD5にTEGCIで凝固亢進状態と判断された患者1名が、POD8にDVTを指摘された。
POD3に出血によりHb8以下となったため自己血500mlを輸血した患者が1名いた。(この患者の凝固検査結果の詳細は不明)
・PT-INR/APTTのような標準凝固検査に比べると、凝固異常状態の発見にはTEGは有効かもしれない。
・出血とTEGの変化に関しては結果が詳細不明なので吟味できない。・PT-INR/APTTやTEGの他の結果では正常範囲なのに、なぜRでだけ凝固亢進状態という結果が出たのかの理由に関する吟味が、不十分というかされていない。
成人外傷患者において、TEG®/ROTEM®を用いることで輸血必要量と死亡率を予測できるかを検討したsystemaYcreview。
【対象】MEDLINE(1946年~2014年2月)、EMBASE(1947年~2014年2月)、CochraneControlledTrialsRegister(設立~2014年2月)で外傷とTEG®/ROTEM®に関して検索した結果の55研究(12489症例、38の前向きコホート研究、15の後ろ向きコホート研究、2つの前後比較研究(ランダム化研究はなし))
【結果】・52の研究はsinglecenterの研究だった。更に、QUADAS-2を用いて診断
の質を評価した47研究のうち、バイアスが低い研究は3つしかなかった。・凝固線溶異常に関して、標準凝固検査では指摘されなかった異常を、TEG®/ROTEM®で指摘できると考えられる。
・TEG®/ROTEM®の特定の異常値は、輸血量を減らすことができる、という報告もあった。しかし、TEG®/ROTEM®は大量輸血の必要性や死亡率の予測因子として、標準凝固検査と比べて優れていると言えるわけではない。
【Discussion】・限られた一部の研究でだけ、TEG®/ROTEM®は早期に凝固異常を発見
でき、輸血量や死亡率の予測因子となると報告している。・ランダム化された研究が今までに報告されていないので、臨床的に有
用であると判断できるエビデンスとしては不十分である。
・予測因子として標準凝固検査と比べたら優れているわけではないとしても、その結果の速さが魅力なのでは?
産科患者において、出血量とTEG®の結果は相関するかを検討した前向き観察研究。【対象】スウェーデンのsinglecenter
分娩時大量出血(MOH)群:出血量>2L 45人コントロール群:出血量<600ml 49人
【方法】分娩時出血がある患者は治療介入として適宜、出血のない患者は分娩後2-6時間後に測定。TEG®と標準凝固検査を施行。
*標準凝固検査:Plt、PT-INR、APTT、Fbg、AT-III、D-D
【結果】TEG-MAも標準凝固検査も、コントロール群と大量出血群の間には有意差がでたが、出血量2~3L群と3L以上群での差はなかった。
TEG-MAとFbg値は相関する。
推定出血量(EBL)と強く相関するのはTEG-MA、Fbg、AT-IIIであった。
TEG-MA:振幅の最大値。値が大きいほど強固な血塊
・検査結果が早く出るTEG®は産科出血の出血量予測と治療介入の判断のためには有用な検査である。
・凝固異常の原因は、Fbg低下により十分な強さの血餅形成ができなくなるから?
PerioperaYvetreatmentalgorithmforbleedingburnpaYentsreducesallogeneicbloodproductrequirements
熱傷患者の手術において、早期に凝固障害の治療により輸血量を減らせるかを検討した前向きランダム化比較試験
対照群:医師の判断で輸血アルゴリズム群:ROTEM®の結果で治療
ROTEM®の結果に基づいて、輸血をした方が、輸血量は少なかった。不要な輸血を減らすことができる。
E.Schaden,etal.BrJAnaesth2012;109:376–81.
2015.4.21.勉強会より引用
成人敗血症患者において、敗血症による凝固異常をTEG®/ROTEM®で検出できるかの検討をしたsystemaYcreview。
【対象】MEDLINE、EMBASE、CochraneControlledTrialsRegister(1980年1月1日~2012年12月31日)で敗血症とTEG®/ROTEM®に関して、言語は英語と限定して検索した結果の18研究(2つのランダム化研究と、16の観察研究)
【結果】・多くの研究では、敗血症性の凝固異常をTEG®/ROTEM®の異常値として
指摘することができたが、中には正常値の研究結果もあった。・敗血症性の凝固異常に対し、標準凝固検査に比べてTEG®/ROTEM®が
有用である、という結果が出せるような比較した研究がない。・DICの診断にTEG®が有効であるかを検討した2つの研究では、TEG®のCFT、MCF、αは異常値として有意にDICの診断に役立つと報告している。しかし、最近の報告の中でROTEMは敗血症のDICに関して正常値を示すというものもある。
・敗血症性の凝固異常とTEG®/ROTEM®には相関があり、診断に有用であると考えられるが、診断に用いる詳細な値としては、今までの報告が背景(検査のタイミングなど)も値もバラバラのため、決めることはできない。
・死亡率に関して、TEGMAは独立した予測因子であった。
【Discussion】・1つ1つの研究の対象人数が少ない(ほとんどがn=15~30程度)・凝固線溶の異常は刻々と変化するものなので、その評価として用いる
検査は、検査を行うタイミングが重要である。しかし、今回対象とした研究達は、TEG®/ROTEM®で検査を行ったタイミングがバラバラすぎて、評価ができない。
・凝固障害がTEG®/ROTEM®で疑われることと、多臓器不全、死亡率は相
関していそうなので、更な研究を要する。・sepsisは他の外傷や術後などの研究に比べて、凝固障害を疑ったり治療を要するタイミングにばらつきが多そうなので、今後検査を行うタイミングをあわせて対象症例を増やしたエビデンスの高い研究をするのは、現実的に大変そう…
本日の目次
・周術期の凝固検査について・凝固反応と検査の基礎確認・pointofcareと臨床・手術室、ICUではそれぞれpointofcareをどう生かすべきか?
手術室、ICUではそれぞれpointofcareをどう生かすべきか?
手術室:目の前で出血状況・凝固機能は刻々と変わっていく→ pointofcareを用い、凝固・線溶機能の何が異常
かを迅速に判断し、異常な部分のみを治療することで、輸血量を減らすことができる。
→ 出血量が多いときなど凝固異常を疑う場合、
中央検査に提出する+血液ガスを測定するだけではなく、pointofcare(全血検査が理想)で検査を行い速やかに治療にうつる
ICU:術後の患者であれば治療は手術室で済んでいるはず…→ 分単位で凝固機能が破綻することは少ない→ 待つ余裕があるなら、状況の変化を術前の情報と
も比べて判断してもいいので、中央検査でも問題ない
ICUではpointofcareは必要ない?
・術後再出血などで緊急を要する場合はある・心臓外科手術後や肝移植後、外傷後の管理などで報告されている有用性(輸血量の減少、血栓症など)をとるなら積極的に検査するべき
・sepsisでの凝固線溶異常を判定するのに有効という報告もある(ただし測定のタイミングなどは不明)
・頭蓋内疾患(脳出血など)とTEG®/ROTEM®の関連についての研究は、報告数が少なすぎて明確でないが、有用かも?
・凝固因子製剤(活性化第VII因子など)の使用に対する治療効果評価としては有効とは言えないが、抗血小板薬の効果判定には有用
しかし、ROTEM®やTEG®は中央検査に比べると保険適応もないので負担額が高価であり、適応を考える必要がありそう
*適応:緊急性、凝固線溶異常を疑う所見の有無など
結論
・凝固機能は様々な要素が絡んだ反応なので、ある一部分を測定しただけでは臨床に即さないことが多い
・凝固異常は緊急性を要する状態のことが多いので、迅速な結果は必要だが、コストのことも考えると検査の適応を考える必要がある
・手術室では凝固機能を測定するときは迅速さを要することがほとんどなので、pointofcareを積極的に使用することは有効であると考えられる
結論
・ICUでは中央検査の結果が出る30分が待てないほどの緊急性を要することは多くないので、結果が待てるのであれば中央検査で結果を待ってもよい
・ただし、中央検査の結果において、PT、APTTだけでは実際に体内で起こっている凝固異常を正確に反映しないため、Fbg、D-Dなども測定し総合的に判断する必要がある
・体内の一連の凝固線溶機能を最も正確に測定できるのは全血検査なので、治療を最低限で的確に行うには全血検査を要する。この必要性があると判断したら、ICUでもTEG®/ROTEM®での検査も必要である。
結論
・TEG®/ROTEM®をはじめとするpointofcareは測定内容・迅速さともに周術期の検査としては魅力的だが、何よりネックになるのはコストの問題
・両者は試薬の種類が違うため、TEGの結果とROTEMの結果は比較できないので、状況変化を判断するためには同じ機械で比較する。
・EUなどではROTEM®を使用している施設が多く、研究もROTEM®での報告が多い。
結論
・TEG®かROTEM®かは、どちらも試薬のピペッティング操作を簡略化できるキットや機械が販売されたため、結果や手間には大きな差はないと考えられる。初期コストや維持費、試薬費用も大きな差はない。
・TEG®とROTEM®の違いは
①ROTEM®は4チャンネルあり、検査内容を詳細に分け同時に検査が進められる
②ROTEM®には血小板機能について特有の検査がない③TEG®は衝撃や振動に弱く、試薬操作は手動
ということで一長一短ある。どちらを使用するかは好み?