17
1.世界銀行 1 2001 年、世銀は PRSP に対応し、従来の構造調整貸付(Structural Adjustment Credit: SAC)の名称を変更し、貧困削減支援貸付(Poverty Reduction Support Credit: PRSC)を 導入した。従来の構造調整貸付では必ずしも財政支援という用語を用いることはなかったの に対して、PRSC については明確に財政支援であると位置づけている。構造調整貸付を含む 従来の世銀の政策支援借款では短期的なマクロ経済の安定を中心としていたのに比べ、 PRSCは中期的な社会・制度改革に焦点を当てており、公共セクターや社会セクターに対する 支援の割合が圧倒的に高くなっている。また、政策・制度改革などの融資条件(コンディショ ナリティ)を課す点では変わらないが、従来の政策支援借款が政策改革そのものを求める事 前(ex-ante)コンディショナリティを課していたのに対し、PRSC では事後(ex-post)コン ディショナリティとなり、途上国側のオーナーシップに基づく成果達成を重視するように なったとされている。 さらに、2002 年の第 13 次増資交渉の際に、従来 1% にも満たなかった IDA の贈与枠が大 幅に拡大された。拡大 HIPC イニシアティブ適用後も深刻な債務問題を抱え、かつ一人当た り GDP が 360 ドルに満たない重債務貧困国は、配分される IDA 資金のうち 40% までを贈与 とすることができるようになった。 2002 年 7 月より、世銀の各借入国に対する支援方針や資金配分の中核となる国別援助戦略 (Country Assistance Strategy:CAS)も、低所得国については PRSP に基づいて作成され るようになっており、モニタリングについても PRSP の指標を採用している。また近年では、 PRSP5 原則の 1 つである結果重視主義が CAS においても強化されている。 2.IMF 2 IMF は、1999 年 9 月に従来の譲許的融資の枠組みであった拡大構造調整ファシリティ (Enhanced Structural Adjustment Facility:ESAF)を 貧 困 削 減・成 長 フ ァ シ リ テ ィ (Poverty Reduction and Growth Facility:PRGF)と改称した。PRGF 支援プログラムの目 117 付録1 PRSP 導入と世界銀行・IMF の対応 表A 11 IDA13 次増資期の贈与 13 次増資期資金全体に 占める贈与の割合 贈与レベルの上限 贈与カテゴリー 1.54% 40% 1. 紛争後 1% 100% 2. 自然災害からの復興 4% 100% 3. IDA のみ適格国の HIV/AIDS プロジェクト 0.5% 25% 4. ブレンド国の HIV/AIDS プロジェクト 8% 40% 5. 一人当たり GNP が 360 ドル以下の債務脆弱性の 高い IDA のみ適格国 33.5% 23% 6. その他の一人当たり GNP が 360 ドル以下の IDA の み適格国 1821% N/A 合計 出所:IDA(2002)Additions to IDA Resources: Thirteenth Replenishment をもとに UFJ 総合研究所作成。 1 World Bank Web サイト (http://www.worldbank.org) 2 IMF“PRGFA Factsheet”

付録1 PRSP導入と世界銀行・IMFの対応 - JICA...IMF 12億ドル 23億ドル その他 26億ドル 59億ドル PRSPをベースに貧困削減への効果 を考慮しつつ決定。現地のNGO等

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1.世界銀行 1

2001 年、世銀は PRSP に対応し、従来の構造調整貸付(Structural Adjustment Credit: SAC)の名称を変更し、貧困削減支援貸付(Poverty Reduction Support Credit: PRSC)を導入した。従来の構造調整貸付では必ずしも財政支援という用語を用いることはなかったのに対して、PRSCについては明確に財政支援であると位置づけている。構造調整貸付を含む従来の世銀の政策支援借款では短期的なマクロ経済の安定を中心としていたのに比べ、PRSCは中期的な社会・制度改革に焦点を当てており、公共セクターや社会セクターに対する支援の割合が圧倒的に高くなっている。また、政策・制度改革などの融資条件(コンディショナリティ)を課す点では変わらないが、従来の政策支援借款が政策改革そのものを求める事前(ex-ante)コンディショナリティを課していたのに対し、PRSCでは事後(ex-post)コンディショナリティとなり、途上国側のオーナーシップに基づく成果達成を重視するようになったとされている。さらに、2002 年の第 13 次増資交渉の際に、従来 1%にも満たなかった IDAの贈与枠が大幅に拡大された。拡大HIPC イニシアティブ適用後も深刻な債務問題を抱え、かつ一人当たりGDPが 360 ドルに満たない重債務貧困国は、配分される IDA資金のうち 40%までを贈与とすることができるようになった。

2002 年 7 月より、世銀の各借入国に対する支援方針や資金配分の中核となる国別援助戦略(Country Assistance Strategy:CAS)も、低所得国については PRSP に基づいて作成されるようになっており、モニタリングについても PRSP の指標を採用している。また近年では、PRSP5 原則の 1つである結果重視主義がCASにおいても強化されている。

2.IMF 2

IMFは、1999 年 9 月に従来の譲許的融資の枠組みであった拡大構造調整ファシリティ(Enhanced Structural Adjustment Facility:ESAF)を貧困削減・成長ファシリティ(Poverty Reduction and Growth Facility:PRGF)と改称した。PRGF支援プログラムの目

117

付録1 PRSP導入と世界銀行・IMFの対応

表A 1�1 IDA13 次増資期の贈与13 次増資期資金全体に占める贈与の割合

贈与レベルの上限贈与カテゴリー

1.5�4%40%1. 紛争後

1%100%2. 自然災害からの復興

4%100%3. IDA のみ適格国のHIV/AIDS プロジェクト

0.5%25%4. ブレンド国のHIV/AIDS プロジェクト

8%40%5. 一人当たりGNPが 360 ドル以下の債務脆弱性の高い IDAのみ適格国

3�3.5%23%6. その他の一人当たりGNPが360ドル以下のIDAのみ適格国

18�21%N/A合計

出所:IDA(2002)Additions to IDA Resources: Thirteenth Replenishment をもとにUFJ 総合研究所作成。

1 World Bank Web サイト (http://www.worldbank.org)2 IMF“PRGF�A Factsheet”

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標設定や政策方針は各国の PRSP に基づいて決定される。また、PRGF支援プログラムは新たな PRSP の策定と同時に開始される。従って、PRGF支援プログラムは PRSP のマクロ経済枠組みに沿って、同じ3年間のサイクルで実施されることになる。2004年8月現在、PRGF融資適格国は 78 カ国である。さらに、IMFは PRSP に沿った技術支援も実施している。例えば、2002 年には「アフリ

カ地域キャパシティ・ビルディング・イニシアティブ」を創設し、アフリカ地域技術支援センターにおいて、PRSP の枠組みに基づくマクロ経済政策の側面から、アフリカ諸国のキャパシティ・ビルディングを支援している 3。

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3 IMF“The IMF Regional Technical Assistance and Training Centers”

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1.HIPC イニシアティブの拡大第 1章 1�2�3 で概説したように、1996 年のリヨン・サミットにおいて、債務問題が深刻化している重債務貧困国(HIPCs)に対して従来の債務削減スキーム(ナポリ・スキーム)を越えた債務救済措置を実施することが決定され、同年HIPC イニシアティブが合意された。その後、1999 年ケルン・サミットにおいて全面的な見直しが行われ、債務削減と貧困削減、社会政策の連携強化を意図する拡大HIPC イニシアティブが承認された。具体的な修正点は下表A 2�1 のとおりである。

119

付録2 HIPCイニシアティブ

表A 2�1 HIPC イニシアティブの拡大拡大HIPCイニシアティブ(1999 年ケルン・サミット)

HIPCイニシアティブ(1996 年リヨン・サミット)

変更項目

審査対象国41カ国中36カ国に適用可能性

審査対象国41カ国中26カ国に適用可能性

1.対象国の増加

第 1段階は原則 3年(第 2段階の審査期間、マクロ経済の安定化を維持しつつ、貧困削減計画の実施状況により弾力的に決定)

原則 6年(弾力性有り)2.審査期間の短縮

国際機関による取り組み強化パリクラブによる最大 80%のリスケ

3.審査期間中の支援

決定時点完了時点4.債務削減枠決定時期

5.債務削減枠の拡大

150%200�250%債務/輸出

250%280%債務/歳入

30%40%輸出/GDP

15%20%歳入/GDP

100%80%パリクラブ

決定未定ODA

6.債務負担*

274 億ドル125 億ドル合計

142 億ドル63 億ドルバイ+商業

115 億ドル52 億ドルパリクラブ

17億ドル10 億ドルその他

9億ドル1億ドル商業

133 億ドル62 億ドルマルチ

51億ドル24 億ドル世銀

23億ドル12 億ドルIMF

59 億ドル26 億ドルその他

PRSPをベースに貧困削減への効果を考慮しつつ決定。現地のNGO等を含め幅広い参加を募り、現地政府主導。

ESAF における実績(社会・経済改革状況)を基準に IMF主導で決定。

7.コンディショナリティの弾力化と債務削減と貧困削減の関係強化

* IDA資料(1999 年 7 月)による。出所:国際開発センター(2000)

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2.実施の手順HIPC イニシアティブの実施と審査の流れを下図A 2�1 に示す。

図A 2�1 HIPC イニシアティブの実施手順

120

出所:国際開発センター(2000)

4

5

4 マチュリティ・ベースとは、限定した対象期間内に返済期日が到来する債務のみを対象とすること5 ストック・ベースとは、対象期間を限定せず、過去の延滞分及び今後の返済予定分の債務残高(元本)全てを対象とすること。

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拡大HIPC イニシアティブでは、従来は完了時点(Completion Point)の指標に基づいて決定されていた債務削減額をより債務負担が重い決定時点(Decision Point)の指標に基づいて決定するよう合意された。その結果、従来より多額の債務削減が行われることとなった。途上国が拡大HIPC イニシアティブによる債務削減を要請するためには、1)従来の債務救済制度では維持不可能な(unsustainable)債務を抱えていること、2)世銀・IMFの支援による改革と健全な政策の実績があること、3)PRSP を策定することの 3点が要件とされる。3)の PRSP 策定については、決定時点までに広範な参加型プロセスにより PRSP を策定済みであること、さらに完了時点までに PRSP を 1 年以上実施していることが原則となっている 6。ただし、I-PRSP の完成をもって決定時点に達することも認められており、世銀のWeb サイトでは、「I-PRSP は援助の受け取りの遅延を避けるために導入された」あるいは「HIPC イニシアティブによる債務削減適用の遅延を避けるため、I-PRSP の策定が可能である」と説明している 7。また、従来のHIPC イニシアティブの下ですでに決定時点に到達していた国については、F-PRSP の完成により完了時点に到達することも認められている。

3.進捗状況 8

HIPCs と認定された 42 カ国のうち、2004 年 7 月現在、完了時点に到達したのは 14 カ国(ベニン、ボリビア、ブルキナファソ、エチオピア、ガイアナ、ガーナ、マリ、モーリタニア、モザンビーク、ニカラグア、ニジェール、セネガル、タンザニア、ウガンダ)、決定時点に到達したのは 13 カ国(カメルーン、チャド、コンゴ民主共和国、ガンビア、ギニア、ギニアビサウ、ホンジュラス、マダガスカル、マラウイ、ルワンダ、サントメ・プリンシペ、シエラレオネ、ザンビア)である。その他の 11 カ国(コートジボワール、ブルンジ、中央アフリカ、コモロ、コンゴ、ラオス、リベリア、ミャンマー、ソマリア、スーダン、トーゴ)は審査中であり、4カ国(アンゴラ、ケニア、ベトナム、イエメン)はHIPC イニシアティブの適用なしに持続可能(sustainable)と判断されている。なお、2004 年末をもってHIPC イニシアティブの申請ができなくなるというサンセット条項(Sunset Clause)が設けられていたが、期限延長が検討されている。

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6 IMF“Debt Relief under the HIPC Initiative-A Factsheet”7 World Bank Poverty Net8 IMF and IDA(2004)p.7

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1.セクター・レベルの公共支出管理の導入 9

第 1 章 1�2�2 で述べたように、1995 年に世銀が提唱したセクター投資プログラム(SIP)では、途上国とドナーの協力を踏まえた包括的なセクター開発が重要な課題となったが、同時に、「共通の実施手続き(Common Implementation Arrangement)」の提唱が大きな議論を呼んだ。これは 2000 年前後からOECD/DACで議論が開始される「援助手続きの調和化」の萌芽となる考え方であったが、この段階では、セクターを包括的に支援する方法として、主として援助資金のプールと調達方法に関して共通の手続きを確立しようとするコモン・バスケット(あるいはコモン・ファンド)が脚光をあびた。その理由の一つとして、事前に設定された(ex-ante)コンディショナリティの達成が重要であった構造調整プログラムの影響により、途上国の政策策定能力が低下したという教訓を踏まえ、途上国とドナーが合意した計画に沿って予算を執行させ、オーナーシップの向上を図るという狙いがあった。コモン・バスケットとは、途上国政府・当該セクター担当省庁が主体となり、国民及びドナーの合意を得たセクター開発計画などに沿って、ドナーが特定のプロジェクトなどに使途を限定せずに供与した援助資金と自国資金を共通の基金にプールして使用するシステムである。しかし、複数の援助資金と途上国資金とが混ざり合うなどの理由から、アカウンタビリティの側面及び援助国側の法的制約により反論も出されるなど、各ドナーのコモン・バスケットに対する態度は様々であった。そのため世銀は、コモン・バスケットそのものではなく、途上国が援助資金を把握することが重要であるとして、途上国の財政システムを通じた、いわゆるオン・バジェットによる援助資金の供与を強調した。このように、従来のプロジェクト援助とは異なるプログラム援助の形態により資金協力が実施されるようになると、途上国による援助資金の管理強化がこれまでになく重要な課題となった。中期のセクター開発戦略の策定とそれに基づく資金配分、執行・会計・報告制度等の資金管理システムをドナーがモニタリングするとともに、国家全体のシステムとしての監査能力向上に対しても技術支援が行われるようになった。さらに、このようなセクター単位の公共支出管理システムを国単位に拡大することが次の方向性であった。

2.国家レベルへの拡大前述のとおり、セクター・プログラムにおけるコモン・バスケットと資金管理改革は、セクター・レベルのみにとどまらず、国家レベル全体の公共支出管理にまで急速に拡大した。公共支出管理とは、行財政改革及び公務員改革なども含み、広義には公共部門全体の改革を取り扱うものである。その基本的な考え方は、1)公共部門に明確な管理手法を導入し、制度構築を行うことで行政資源の分配の効率性と事務事業の能率の向上を図るとともに、2)手続きの遵守を通じて結果が保証されるとする「適正手続き(Due Process)」の考え方を越え、結果(アウトプット)さらには成果(アウトカム)の重視を目指すものである。つまり、公共支出管理とは、利用可能な資源の配分だけでなく、公共資金を用いて最も望ましい形で政策目標を達成するために適用されるシステムといえる。国家レベルとセクター・レベルで最も異なる点は、配分可能な資金、つまり歳入その他の推計をセクター単位で独自に行うことは困難であること、また複数のセクターの活動によって達成される成果(例えば貧困層の割合を数%減少させるなど)に関してはあくまで部分的にしか責任を負うことができないことである。これに対して、歳入予測、各セクターへの予

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付録3 公共支出管理

9 以下付録 3は JICA国際協力総合研修所(2003a)を参照。

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算配分、債務管理も含めた財政規律の確保など、公共支出管理において中央政府が負う役割は非常に大きい。PRSP以前より、IMFやADBは公共支出管理支援に強い関心を持ってきた10。先進国で開始され実行された改革がいわば 「輸出 」されたものであるが、構造調整プログラムにおけるコンディショナリティとは異なり、先進国による一方的な「輸出」とは必ずしもいえない。国際機関及び援助国の改革推進派が、先進国のベスト・プラクティスを採用すれば、途上国が従来の停滞から抜け出す可能性があると考えるようになったとともに、途上国側が最新の考え方を導入しようとした面もある。ただし、予算改革を一つの核とする公共支出管理改革において基礎的なデータが不備であり、かつ歳入が極端に不足する状況では、政策の優先度を設定し、行政資源の配分を行うことは容易ではなかった。PRSP の導入は、予算策定に必要なデータと国内納税者に明確に説明し得る資源配分の計画の策定を支援し、この流れを補完するものとして有効であった。同時に、計画の達成目標として貧困削減を掲げたことで、構造調整プログラムの教訓として重視された貧困問題と途上国によるオーナーシップの強化という課題への取り組みを包含することとなった。上記のような開発戦略、計画、予算、サービス供給の関係を支出配分と管理の枠組みの観点から整理したものが図A 1�3 である(ここでは簡略化することで核となる概念を強調して示すことを目的としている)。中期的な開発戦略とともに、債務軽減など財政規律の改善に貢献する方策を考えると、理想的には支出は中期戦略に沿ったものとすべきであり、これがPRSPにおける3~5年の戦略策定という点に活かされている。さらに、政策と支出の関係は単一方向のものではなく、施策実施とサービス供給に関する情報は、政策過程へとフィードバックされるべきである。こうした情報交換の過程を通して、予算と計画は十分な連関を保つことが可能になる。

図 A 3�1 公共財政管理と政策過程

多くの国で、政策と予算過程のつながりは弱い。途上国の場合、予算は非常に詳細な支出項目リストになっていることが多く、政府による政策と支出との結びつきを明確にすることは極めて難しい。現状の項目別予算の場合、支出を政策に基づいて優先度付けするための方策が欠けているので、政策判断が一貫性のないものになりがちである。これを政策単位の業績予算に変更していくことで改善しようとする方向が先進国の実践により明確になっており、

123

10 各機関が公共支出管理支援に関する充実したガイドラインあるいは解説書をPRSP導入以前に出版していることからも明らかである。例えば、Potter and Diamond(1999)、Schiavo-Campo and Tommasi(1999)等がある。

出所:Oxford Policy Management(1999)

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途上国においても PRSP 上の政策実施を確実にするため、業績予算の導入が進められている。このような予算制度改革とともに、サービス供給の目標達成を評価する行政システムも導入されている。

3.財政支援 PRSP の導入時期と前後して、コモン・バスケット方式によるセクター・レベルでの資金供与の他、政府予算への直接資金投入など、財政支援が主な援助ツールの一つとして採用されるようになってきた 11。表A 3�1 は、財政支援と関連する資金協力の種類について整理したものである。

特定の活動あるいは地域などに限定して資金供与を行うイヤーマーク方式では、当該省庁あるいは担当部局に供与される援助資金の流れが途上国によって認識され、予算に計上される。特に支出先が特定プロジェクトに限定されている場合には、使途は完全に決まることとなり、資金の流れを途上国が認識できるという点以外は従来のプロジェクト援助とほぼ同様である。またイヤーマーク方式においては、資金を特定の活動(担当省庁、実施機関)あるいは地域(地方政府)に直接供与し、それを当該機関が支出する場合と、財務省の国庫に対して拠出し、当該金額を予算配分時に使途を決めて担当機関に配分する場合がある。一方、コモン・バスケット及び直接財政支援の場合には、資金管理を途上国が行う。コモン・バスケット方式については、教育・保健などの社会セクターに対する資金投入がこれまで最も多く見られるが、国全体あるいはセクター横断的課題を対象としたコモン・バスケッ

124

11 ただし財政支援は必ずしも新しい援助形態ではなく、長年にわたり援助の代表的な形態であった。英国が旧植民地であったアフリカ諸国に対してその独立当初に行った援助の大部分は財政支援であったし、戦後アメリカがヨーロッパに対してマーシャルプランを通じて行った援助の大部分も同様である。しかし 1970 年代以降、プロジェクト援助の台頭によって財政支援の影は薄くなり、プログラム援助といえば、ほぼ国際収支支援とみなされるようになった。それが1990年代に入り、以下の 2つの理由により、財政支援は再び注目を集め始めた。第一に、多くの途上国で構造調整による為替自由化が進み、輸入支援が不要になりつつある一方、財政支援がプログラム援助の新たな形態とみなされているためである。第二に、途上国政府のコミットメントとオーナーシップの低さ、また援助国の急増と調整不足のためにプロジェクトが持続不能になるなど、プロジェクト援助の成果に対する不満が高まったためである。12 ファンジビリティとは、援助資金あるいは当初同じ目的で支出される予定であった自国予算が、援助の目的以外の用途に支出される可能性のことである。詳しくは世界銀行(2000)を参照。13 SECALによる資金供与形態は 80 年代後半には頻繁に見られたが、最近は減少傾向にある。14 OECD(1991)

表A 3�1 近年の財政支援及び関連する資金協力の分類財政支援

オン・バジェット

直接財政支援(国庫への投入)

コモン・バスケット方式(共通基金への投入)イヤーマーク方式

セクター財政支援:世銀のSECAL(部門別構造調整貸付)13もその一つ。

90年代半ばより議論が進んだ。社会セクターを中心に多くの事例がある。

特定の活動/地域に限定した資金供与。ファンジビリティ 12の可能性は低い。

担当省庁資金受取窓口機関

一般財政支援:事例は多くないが、増加傾向にある。世銀の PRSCも本形式を採用。ファンジビリティの可能性は最も高い。

事例は多くないが、増加傾向にある。タンザニアPRBS、ウガンダPAFなど。

特定の活動/地域に限定した資金供与。

財務当局

※ 本表では、イヤーマーク方式の支援を財政支援から除いている。本文内で触れるように、イヤーマーク方式の支援は、プロジェクト支援に対する資金供与の方法の違いという性格が強い。財政支援はプログラム援助の一部という分類 14

に基づくと、イヤーマーク方式の支援を含まない方が適当と判断した。

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ト方式の財政支援も増加傾向にある。タンザニアの貧困削減財政支援(Poverty Reduction Budget Support: PRBS)、ウガンダの貧困軽減基金(Poverty Action Fund: PAF)などがその例である。新たな基金を設置しない直接財政支援にも、特定のセクター予算に資金供与するセクター財政支援 15と PRSP 等の包括的な国家開発計画以外に使途の縛りがなく、政府予算全体に対して資金を供与する一般財政支援がある。世銀によるPRSCは一般財政支援で資金供与を行う場合が多い 16。また世銀以外のドナーが一般財政支援に参加する場合には、世銀との協調融資に参加するか、あるいは独自に資金供与することになる。例えば、KfWが既に PRSCとの協調融資を行っているほか、日本もベトナムでPRSC3との協調融資を決定した。また、第2章の事例研究でみたように、ガーナではMDBSの枠組を通して、DFID、オランダ、デンマーク、ドイツ、カナダ、スイス、EU、AfDB、アメリカ、世銀 17が一般財政支援を行っている。

4.公共支出管理能力の診断途上国に援助資金の管理を任せる財政支援を進めるためには、アカウンタビリティの確保を図る必要がある。また政府の役割の重視という観点からみると、予算管理をはじめとする公共支出管理は政府の基本的な能力である。さらに、短期の観点からは開発結果を成功とみなすことができる場合でも、ファンジビリティと資源移転という視点からみれば、海外からのプロジェクト型支援が途上国の資源を開発関連部門から非開発部門に移転させている場合がある。援助がファンジブルなものである限り、また公共行政とサービス供給のための環境が整わない限り、特定の援助の成果は他の部門にも影響を与えていると考えるのが適当である。これらの理由から、途上国の公共支出管理の能力のどういった側面が足りないのかを明確にし、その能力の向上を図ることが不可欠となった。途上国の公共支出管理能力を診断するために、世銀、IMF、UNDP、OECD/ DAC、ADBなどの各ドナーがマニュアルを作成している 18。以下は代表的な世銀の診断ツールである。基本的には世銀の融資診断のためのツールであるが、財政支援の判断にも広く利用されている。1)公共支出レビュー(Public Expenditure Review:PER):経済推計、予算配分、予算支出などの分析を主として行う。ただし財政管理の強化が近年重視されるようになって、政策と予算策定のリンク、執行及び報告・モニタリングの部分も評価されるようになった。PRSC供与国では毎年策定される国もある。世銀では主としてエコノミストが担当。

2)国別調達評価レビュー(Country Procurement Assessment Review:CPAR):被援助国の調達に係る信頼性を評価する。世銀では会計士が主に担当。

3)国別財政アカウンタビリティ評価(Country Financial Accountability Assessment:CFAA)19:当該国の財政管理システム及び民間セクターの財務基準その他を評価する。PERよりも財政「管理」の側面が強い。世銀の PRSC供与のためにはCPARの理事会

125

15 この方法もイヤーマークしているといえるが、一般にイヤーマークされた資金とは前述のような形式を指すので、本稿では表A 3�1 のように分類した。16 PRSCは構造調整融資の名称を変えたものという理解が一般的である。構造調整融資が盛んに行われた 80年代から 90年代にかけて、構造調整支援は一般に国際収支支援とされていた。しかし現在、少なくとも世銀では、PRSCは財政支援であるとの理解が一般的。17 世銀は PRSCによる参加である。18 IMF は、Report on the Observance of Standards and Codes(ROSC)、UNDP は Country Assessment in Accountability and Transparency(CONTACT)(2001)、OECD / DAC は DAC Guidelines and Reference Series: Harmonising Donor Practices for Effective Aid Delivery(2003)、ADBは、Managing Government Expenditure (1999)を作成。19 CFAAは他の歳入を検証するツールとの重複を避けるために、歳入推計、遅延のない歳入徴収、予算モニタリングと現金管理の一部としての歳入モニタリング、歳入に関する適切な監査、という面に限定している。また公共支出管理システムの状態に関して被援助国、世銀、他ドナーに情報を提供する診断ツールとし、財政支援を行うための診断ツールという考え方とは一線を画そうとしている。

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承認が必要。広範な分析ゆえに、世銀ではエコノミストと会計士の共同作業となっている。さらに、診断ツールの統合化を図る動きとして、公共支出・財政アカウンタビリティ・プログラム(Public Expenditure and Financial Accountability program :PEFA)も導入されている。PEFAは上記のような文書の一般名称ではなく、世銀、EC(EU)、IMF、DFID が出資し、出資国・機関の他、アフリカとの戦略的パートナーシップ(SPA)により執行委員会が構成されるイニシアティブである。PEFAは、これまで多くの診断ツールが様々な機関で策定されたことの反省から、従来の診断ツールの統合を図り、より包括的なアプローチを実施するとともに、10 ~ 20 カ国でのパイロット評価プログラムを実行する。また、従来のPER、CPAR、CFAAが一冊に統合される場合もある 20。

126

20 例えばザンビアではこの統合された文書にPublic Expenditure Management and Financial Accountability (PEMFA)という名称を付けている 。

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世銀・IMFは 2001 年より一連の PRSP レビュー作業を進めてきた 21。レビューは国際機関の他、二国間援助機関、世銀・IMF加盟国、市民社会を含む広い参加の下に実施され、地域フォーラムを経て、2002 年 1 月にワシントンで PRSP国際会議が開催された。この会議の場において、主要ドナーはそれぞれの経験に基づき PRSP アプローチに対する基本的な評価や課題を提示した文書を発表している。PRSP に関するレビューは、導入初期の段階ではPRSP の理念や策定方法に対する評価が主流であったが、PRSP プロセスが深化するにつれ、実施プロセスや国別の PRSP 経験の分析に関心が集まるようになってきている。また、オーナーシップ、参加型アプローチ、貧困・社会インパクト分析、援助の PRSP への整合(alignment)、紛争国など個別イシュー別の議論も活発に行なわれるようになってきている。各二国間ドナーは PRSP を支持し、自国の援助を PRSP に整合させるよう努力することを表明しているが、実際の援助における PRSP の位置づけや PRSP に援助を整合させる度合いは、ドナーにより様々である。以下では、主要先進国(英国、ドイツ、フランス、米国)の援助戦略と PRSP の位置づけ、援助モダリティの選択、PRSP レビューの動向を分析する。

1.英国1�1 援助戦略と PRSP英国国際開発庁(Department for International Development: DFID)は 1997 年の『国際

開発白書』22において、「貧困撲滅と貧困層が便益を得るような経済成長の促進」に焦点を当て、2015年までにMDGsを達成するよう努力することを表明して以来、常に貧困削減究極の目的として開発援助を進めてきた。2000 年に発表された白書でも貧困削減に対する英国政府の立場が再確認されている。さらに、2002 年 6 月に発効した「国際開発法(International Development Act)」において、貧困削減が法的にも英国の開発援助の主な目的であると規定された。従って、①持続可能な開発もしくは貧困層の福祉の向上を目的とする援助、あるいは②DFIDが貧困削減に貢献する見込みが高いと判断した援助以外の開発援助は違法となっている 23。2002 年 1 月の PRSP 国際会議では、PRSP プロセスの戦略的な重要性を改めて強調するとともに、DFIDはPRSPに沿った援助の手続きおよび活動に転換しつつあることを表明した24。また、国際開発援助は PRSP に定められた課題の支援に使われた場合、より効率的に貧困削減に貢献できる 25という立場をとり、国別援助計画(Country Assistance Plan)を各国のPRSP に基づいて作成するなど、PRSP に自国の援助を整合させる方針を積極的に進めている。また、ベトナムの事例にみられるように、PRSP を当該国の開発戦略の基本文書とみなし、すべての資金(途上国の予算およびドナー支援)を PRSP に整合させることが望ましいという姿勢をとっている。DFIDは、2003 年の『開発報告書』で、MDGs 達成に向けた地域別の進捗状況を述べている。これによると、サブサハラ・アフリカ地域においては、良好な実績を上げている国については引き続き PRSP を支援し、直接財政支援の割合を増加させる一方、目標達成率の芳しくない国や紛争国については人道支援、対話と能力開発に重点を置き、資金を効果的に利用する環境作りをめざしている。アジア地域では、オーナーシップに基づく PRSP を支援し、

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付録4 主要ドナーのPRSPに関する理念・方針

21 World Bank Poverty Net“IMF/World Bank PRSP Comprehensive Review”22 DFID(1997)23 DFID(2003) p.13.24 DFID(2001)25 DFID(2003) p.36.

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東欧および中央アジア地域では PRSP 策定を支援するとともに、途上国政府が貧困削減に資する政策を採用し、政策策定プロセスへの市民社会の参加を促進するよう支援を行なった。また、アジアおよび東欧では、地域開発銀行に対し貧困削減により焦点を当てる(低所得国への資金配分の割合を増加させるなど)よう働きかけている。中南米・カリブ地域では、地域開発銀行(米州開発銀行(IDB)及びカリブ開発銀行(CDB))が各々の国別援助方針と途上国の貧困削減計画の整合性を図るよう積極的に働きかけることを活動の中心とした。

1�2 援助モダリティに対する考え方英国は、PRSP が導入される以前から、単独のプロジェクトからプログラム援助へと重点を移す方針を明らかにしていた。PRSP の導入でこの動きはさらに加速し、途上国政府のPRSP 実施とより良い財政管理を支援するため、直接財政支援を積極的に推進している。2001 年に作成された英国国際開発研究所(Overseas Development Institute: ODI)のワーキング・ペーパー“The Choice of Financial Aid Instruments”によれば 26、援助のモダリティを決定する際には、まずマクロレベルの一般財政支援が可能かを検討し、一般財政支援実施の条件が整っていなければ次にセクター・レベルでの支援(SWAps またはセクター財政支援)を検討し、セクター・レベルでの支援の条件が整っていなければプロジェクトを用いた支援が可能かどうか検討するという手順をとるとしている。また財政支援が最も効率的な手段であるという立場をとるものの、実施の前提条件として 2つの評価(政策枠組み、財政管理及びアカウンタビリティ)を行うこととしている。政策枠組みの評価では、途上国がオーナーシップをもって貧困削減戦略を策定し、その中で支出枠組みが明確に定められ、モニター可能な指標の設定など、結果が重視されているかどうかを評価する。財政管理及びアカウンタビリティの評価では、途上国の公共セクターの財政管理と、特に調達に関するアカウンタビリティの評価を行うことになっている 27。DFID としては援助の全てが直接財政支援になるのが理想であるが、被援助国の援助依存度が低くドナーがセクター政策に関与していない場合や、被援助国との政策対話が不可能と判断される場合などにおいては、プロジェクトや技術支援の存在意義は残っていると考えている。また、アフリカに対しては一般財政支援の比重を高くする一方で、対アジア援助ではモダリティの多様性を認めるというように使い分けをしており、一枚岩で積極的に財政支援の実施を推進しているわけではない 28。しかしながら、今後確実にプロジェクト援助は減少するものとみなしている 29。

1�3 PRSPレビュー英国は SGTS Associates に委託した「PRSP における市民社会の参加の評価」30など、数

多くの PRSP レビューを実施してきている。その中心となっているのは、2001 年 6 月からODI に委託している「PRSP モニタリング・総合プロジェクト」31で、PRSP に関する様々なトピックについて調査研究やセミナーを実施している(以下Box 参照)。

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26 Foster, M and Leavy, J(2001)27 DFID(2002)28 国際協力銀行開発金融研究所(2004)29 国際開発センター(2002)p.43.30 SGTS Associates(2000)31 PRSP Monitoring and Synthesis Project Web サイト

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2.ドイツ2�1 援助戦略と PRSP2001 年 4 月、ドイツでは新しい援助戦略「貧困削減のための行動計画 2015」(Programme of Action 2015 for Poverty Reduction)が閣議で承認された。この戦略は、「世界の貧困削減」が開発協力の包括的な目標であり、ドイツの開発途上国に対する全ての政策は「貧困削減」に沿って行うと表明している。2002年 1月のPRSP国際会議で発表したPRSPレビューにおいて、ドイツ政府は PRSP アプローチを大いに評価し、その実施に向けて二国間及び国際機関を通じた援助によって支援していくことを明確にしている 32。さらに、PRSP は、2015 年までに最貧困層を半減するMDGs の目標達成に貢献し、ドナーの活動・手続きの協調・調和化を促進する意味でも重要であると述べている。また、今後はたとえ貧困削減に貢献する支出(援助を含む)であっても、PRSP に沿わないものを正当化することはより困難になるであろうと指摘している。ドイツ金融復興公庫(Kreditanstalt f�r Wiederaufbau: KfW)の 2002 年の年次報告においては、途上国の貧困削減戦略及びそれが記載された PRSP は、全ての開発協力関係者にとって参照すべき枠組みであると述べている。また、サブサハラ・アフリカ諸国への開発協力に関する連邦経済協力開発省(Bundesministerium f�r Wirschaftliche Zusammenarbeit und Entwicklung: BMZ)のポジション・ペーパーにおいても、貧困削減戦略を通じた優先順位付けの重要性に言及している 33。このペーパーには、PRSP 導入の結果として社会セクターの総予算に占める割合が1999年の33%から2002年の54%に上昇したと評価している。さらに、PRSP プロセスは参加型アプローチによって当該国の問題を分析し、戦略を導き、希少な資金の使途に優先順位を付すという役割を果たし、多くの国で公の場もしくは議会での議論や政策決定に結びついてきたと述べている。このようにドイツは PRSP を重視し、その役割を高く評価する姿勢を全面的に打ち出しているものの、実際の国別援助戦略の策定やプロジェクト・プログラム策定の際に、どの程度当該国の PRSP に援助を整合(align)させているのかについて、具体的には明示していない。

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PRSP Monitoring and Synthesis ProjectBriefing Notes� Costings in PRSPs(June 2002)� Reporting and Monitoring in a post-full PRSP context(March 2002)� National Poverty Reduction Strategies (PRSPs)in Conflict-Affected Countries in Africa (March 2002)

� Learning and Lessons on PSIA- A Synthesis of Experience from DFID Pilot Studies (October 2003)

Synthesis Notes� Key findings on PRSPs to date(September 2001)� DFID’s engagement with PRSPs(March 2002)� Assessing Participation(February 2002)� Experience with Poverty Reduction Strategies in Latin America and the Caribbean (February 2003)

� Experience with PRSPs in Transition Countries(February 2003)� PRSP Monitoring in Africa(June 2003)� Experience of PRSPs in Asia(July 2003)

出所:PRSP Monitoring and Synthesis Project Web サイト

32 World Bank Poventy Net“BMZ Contribution to the World Bank/IMF Full-PRSP/PRGF Review”.33 BMZ(2004)

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2�2 援助モダリティに対する考え方ドイツの従来の開発援助は、プロジェクト方式を中心としていた。その理由は、アカウンタビリティ確保の観点から援助資金の使途が明確に追跡できることを重視し、また、ドイツの貢献が識別しやすいことを望む傾向にあったためである。また、KfWは伝統的に開発援助を投資プロジェクト、つまり投資に対して一定の収益率をもたらす資本支出プロジェクトと捉えてきたため、経常費用(給与等)に対する援助を原則的に行わないこととしており、経常費用支援が含まれる財政支援は実施が困難とみなされてきた。さらに、プログラム・タイプの援助を実施するためには被援助国政府や他ドナーとの緊密な政策対話が必要で、現地事務所がないと運営は難しいが、ドイツの場合、例えばアフリカでKfWの事務所がある国は3カ国と少なく、事実上プログラム援助に参加できる国は限られてしまうという事情も影響していた。2001 年 11 月に BMZはプログラム型支援に関わるポジション・ペーパー 34を発表し、そ

れまで必ずしも明確ではなかったプログラム型援助(特にコモン・バスケットと一般財政支援)への対応方針を明らかにした。プログラム・アプローチは一定の前提条件を満たせば、個々のプロジェクトよりも効果的に被援助国の全般的な枠組みを改善し、オーナーシップを高め、ドナー個別の手続きに対応する事務負担を減らすことができるため、より効率的に援助を実施できるとしている。基本的に、プログラム型援助は他のドナーと協調して参加する(joint financing with other donors)場合を想定している。その中でもドイツが参加するのにふさわしいのはコモン・バスケット方式をとる SWAps で、直接財政支援はファンジビリティのリスクが大きいことから限定的な範囲(世銀の構造調整融資、PRSCとの協調融資)にとどめるとしていた。ただしKfWは 2002 年時点では、被援助国のアカウンタビリティや経常費用に関わる課題が残ることから、援助の中心は今後もプロジェクト型であると述べている 35。一方、財政支援を評価した報告書 36によると、少数ではあるが財政支援型の援助を行っている。この評価の対象となったのは、貧困削減戦略のためのマクロ経済支援(一般財政支援)4つと、セクター・プログラム 3つである。これらは全てドイツが参加する以前からすでに存在し、一般財政支援は PRSP 関連であった。また、一般財政支援のうち 3つのプロジェクトでは、世銀の PRSCへの協調融資以外に、他の二カ国間ドナー及びEUとの協調融資の可能性も候補として上がっていたが、世銀との協調融資が採用されたのは他の方法が承認されなかったためであると記述されており、PRSCへの協調融資以外の一般財政支援も視野に入れていることが伺われる。世銀とのインタビューによれば、タンザニアに今年度供与されるPRSCにKfWが共同出資する予定とのことである37。ドイツの援助はプロジェクトが大半を占めるものの、今後 PRSCが供与される国が増加し、また他のドナーが一般財政支援を行なう頻度が増えるにつれて、ドイツも協調融資の形で一般財政支援に参加する可能性が高くなるのではないかと思われる。

3.フランス3�1 援助戦略と PRSPフランスでは、1998 年より援助戦略および援助体制の大幅な見直しが行われた。開発援助の優先目的として、①途上国の経済的自立とグローバル経済への参加の達成、②政府機関と民主主義の基盤の強化、③貧困の撲滅と社会サービスの提供、④研究の機会及び科学情報へのアクセスの改善、⑤グローバルな協力の推進を掲げている。また、二国間援助の主な対象となる「優先連帯地域(ZSP: Zone de Solidarite Prioritaire)」が設定され、対象国は主に資

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34 BMZ(2001)35 国際開発センター(2002)p.57.36 “Design Study: Budget Support and Similar Instruments”(英文はサマリーのみ)37 世銀タンザニア担当者とのインタビュー(2004 年 1 月 22 日)による。

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本市場での資金調達が困難な最貧国、特にフランスと歴史的・政治的な関係の深い仏語圏アフリカ諸国が中心となっている。2002年 1月のPRSP国際会議でフランスが発表した文書では、PRSPをドナー間の有効な協

調枠組みとしてとらえ、PRSPのメカニズムを支持すると共に、国別戦略をPRSPに沿って策定していくと表明している38。しかしながら、二国間ドナーは文化・言語や貿易政策など貧困削減以外にも対象国との間で考慮すべき課題を持っているため、国別戦略がPRSPに完全に合致するものではないとも述べている。実際に、外務省国際開発協力総局やフランス開発庁(Agence Fran � aise de D�veloppement: AFD)の年次報告にはPRSPに関する言及はみられず、積極的にPRSPに自国の援助を合わせようという姿勢は伺われない。

3�2 援助モダリティに対する考え方他のヨーロッパの主要ドナーと異なり、フランスはプログラム型よりもプロジェクト型支援の方が効率性が高いと考えており、プロジェクト型の支援が圧倒的に多い。プロジェクトがドナー主導で被援助国のオーナーシップの向上につながらないという批判に対しては、それが当てはまる場合もあるものの、被援助国における政治的混乱などの可能性を考慮すると、現実的な選択手段としてプロジェクトの方が適切である場合が多いと主張している 39。フランスがプロジェクト型援助を重視する理由は、効率性が高いという他にも、国内でのODAの正当性を考えた場合、納税者に対するアカウンタビリティを確保する観点から、「旗を立てる」ことの重要性もあげられている。プログラム援助を実施するには、その前提条件として被援助国のオーナーシップが必要であり、それがない場合はまずキャパシティ・ビルディングがなされなければならないと考えている。財政支援についても、同様に被援助国のオーナーシップと財政の透明性が重要であるとしており、これらが不十分である場合にはまずキャパシティ・ビルディングが必要という立場をとっている。2002 年の PRSP 国際会議で示された文書においても、世銀のPRSCやIMFのPRGFにより財政支援が供給される場合でも、被援助国の資金・財政の透明性や適切な組織・制度などがあらかじめ確保されていることが重要であると指摘している。このように、フランスは今後もおそらくプロジェクト中心の支援を行っていく可能性が高い。しかしながら、ヨーロッパの他の主要ドナーが援助方針を PRSP に整合させる姿勢を強め、積極的にプログラム・アプローチを進める中で異なる立場を貫くことにはプレッシャーを感じており、DACの援助手続きタスクフォースへの参加などを通じて他ドナーとの協調の可能性を探っている 40。

4.米国4�1 援助戦略と PRSP2002 年 1 月の PRSP国際会議の場において、米国は全体として当該国のオーナーシップ及びリーダーシップを基礎にしたPRSPの理念に賛同すると共に、USAIDの現地ミッションもおおむね PRSP の動きを歓迎し、PRSP 策定に積極的に関与していると発言している。また、途上国のオーナーシップ及びリーダーシップは「政府」だけでなく、市民社会や民間セクターを含むべきであると強調した。多くのドナーが開発援助のなかで貧困削減を主流化している中で、9月 11 日のテロ事件やアフガニスタン及びイラクでの戦争の影響を受けて、近年米国は自国の安全保障により重点を置いているように見受けられる。米国国際開発庁(United States Agency for International Development: USAID)は 2004 年 1 月に発表した白書 41の冒頭において、開発

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38 World Bank Poverty Net “French Memorandum on PRSPs”.39 国際開発センター(2002)40 ibid.41 USAID(2004)

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は今や米国の国家安全保障にとって外交や防衛と同様に重要であると述べている。米国の国家安全保障に対して多くの脅威が存在する状況を鑑みて、海外援助は人道的もしくは開発といった目的に対応するだけでなく、テロや国際的犯罪、失敗した国家、グローバルな問題のもたらす不安定(instability and insecurity)に対応しなければならないとしている。また、USAIDは海外援助の核となる目的を①変革的(transformational)開発の促進、②

脆弱な国家(失敗した国家、失敗しつつある国家、失敗から回復しつつある国家)の強化、③人道支援、④米国の戦略・地政学的利益の支援(イラク、アフガニスタン、パキスタン、ヨルダン、エジプト、イスラエルなど)、⑤国境を越えたグローバルな問題への対応(HIV/AIDS、その他の感染症、グローバルな気象変動、国際貿易協定への支援、人身売買や麻薬の撲滅など)の 5つに定めている。①は、途上国が海外援助に頼らずに経済社会の発展を維持できるようガバナンス、人的能力、経済構造に抜本的かつ広範囲の変化をもたらすことであり、貧困削減、ジェンダーの平等の促進、環境の持続可能性の推進などを含む広範な概念であるとしている。特にガバナンスの改善、経済成長の促進、国民への健全な投資を重視し、途上国側の必要性、コミットメント、パフォーマンスを基準に援助を配分するとしている。対象国については「良好な成果を出す国」(good performer)に重点を置き、「十分良好とはいえない国」(fair performer)にはより選択的に援助を配分する。他方、戦略的・地政学的観点による④の対象国は議会と政府によって決定され、プログラム援助や一般財政支援を含むあらゆる援助モダリティが可能であるとしている。⑤は米国が特別な関心を持つ問題に対応するもので、米国主導であるがゆえに、途上国のオーナーシップやパートナーシップ、参加、ドナー協調といった一般的な開発支援で重視される基準を満たさない場合もあると述べられている。なおUSAIDとのインタビューによれば、PRSPの優先事項として挙げられていなくても、米国の優先課題(グローバルな問題など)に対しては支援を実施していくとしている 42。さらに、従来のODA予算は「変革的開発の促進」用のフレキシブルな予算、「脆弱な国家支援」用のフレキシブルな予算、「グローバルな問題に対応する」ため厳密にイヤーマークされる予算の 3つに分けられる。2004 年度からの予算配分は明らかになっていないが、開発用と脆弱な国家用のフレキシブルな予算は非常に限られたものになるであろうとUSAIDは予測している。その場合、ODA予算はミレニアム・チャレンジ・アカウント(Millennium Challenge Account:MCA)の資金が中心となる可能性が高いと推測される。2002 年 3 月のモンテレー国際会議で、ブッシュ大統領は新しくMCAを設け、2004 年度より 3年間で米国の海外援助資金を当時の 50%(50 億ドル)増額すると発表した。この新しい支援を実施する組織としてミレニアム・チャレンジ・コーポレーション(Millennium Challenge Corporation:MCC)が設立され、2004 年度予算として 10 億ドルについてすでに議会の承認が得られている 43。MCA対象国は、①公平なルール(良いガバナンス)、②国民への投資(教育・健康への投資)、③経済の自由化の促進(企業や企業家精神を育成する健全な経済政策)の 3つの基準をもとに 16 の指標が設けられ、パフォーマンスの良い国が選ばれることになっている。低所得国を中心に 63 カ国が候補国となっており、2004 年度はその中から 16カ国が選定された44。MCA対象国が自国の開発の障害となっている問題を明確にし、市民社会の参加を保証しつつMCAプログラムを作成することとされているが、具体的にどのようなプログラムが選ばれるのかは明らかにされていない。USAID とのインタビューによると、PRSP が途上国の開発課題を選ぶ際の文書として扱われる可能性はあるが、MCAがどの程度 PRSP に沿って実施されるかについては、引き続きフォローしていく必要があるだろう。

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42 本調査のためのUSAID とのインタビュー(2004 年 1 月 20 日)による。43 以下Millennium Challenge CorporationWeb サイトを参照した。44 アルメニア、ベニン、ボリビア、カーボヴェルデ、グルジア、ガーナ、ホンジュラス、レソト、マダガスカル、マリ、モンゴル、モザンビーク、ニカラグア、セネガル、スリランカ、バヌアツ(2004 年 5 月現在)。

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4�2 援助モダリティに対する考え方PRSP 導入以前からも米国はプログラム援助方式(特に財政支援)に消極的で、2002 年 1月の会議においてもPRSPの実施を財政支援と結び付けようとする考えに対して明確に否定的な姿勢を示している。その理由としては、①一般的に途上国のガバナンスは脆弱であるため、公共セクターの信頼性が低く汚職が蔓延している状態であり、そこで財政支援が機能すると考えるのは楽観的すぎる、②援助の実施には米国議会の承認が不可欠であるが、議会はアカウンタビリティの問題からプログラム援助に否定的であるため実施が困難である、③米国は小さい政府を善とする伝統をもっており、援助も民間セクターや市民社会を通じて実施する方が効率的であるとの考え方が挙げられる。実際に米国の援助の多くは民間セクターやNGOに直接供与されており、財政支援方式を採用すると政府を通じた間接的な援助となってしまい、民間セクターやNGOの比較優位が十分に発揮できなくなると主張している。従って、途上国のオーナーシップ、開発パートナーシップ、ドナー協調という原則は支持する一方で、援助モダリティに関しては各ドナーの比較優位性や法的・政治的制約、提供可能な援助(資金、物品、技術・知識)を反映した柔軟なものであるべきという立場をとっている。USAID とのインタビューにおいても、サブサハラ・アフリカの一部の国を除いて財政支援を行う可能性は現時点では高くなく、アジアでは財政支援は考えていないとのことであった。さらに、財政支援の実施のためにはその前提条件が整っているかどうかを十分に検討すべきで、例えばガーナでは政府の歳入の増加に伴って、意図的に財政支援から技術援助に移行したとしている。ただし、MCAではガーナや東ティモールで調査を実施するなど、財政支援を行う可能性があるといわれている。

4�3 PRSPレビュー米国は PRSP が当該国政府の文書ではなく、当該国の文書であるべきという立場をとっており、非政府機関や民間セクターの関与が十分であるべきという観点から、参加型アプローチを重視している。PRSPに対するコメントも、非政府組織(労働組合、民間セクター、議会等)が PRSP プロセスにどれだけ関与したか、PRSP の中でどれだけ考慮されているかに関する点が中心になっている。2003年にはPRSPにおける民間セクターの参加を評価した報告書を作成している45。この報告書は、初期に策定された 27 の PRSP をレビューし、民間セクターの扱いについて評価したものである。結論として、①全般的に PRSP は策定、実施、戦略的コンセプトにおいて民間セクターを適切に考慮に入れ、長期的な貧困削減を達成するためのキーと位置づけている、②民間セクターの参加が不十分な場合のパターンとしては、民間セクターが政府の政策の延長とみなされているか、あるいは民間セクター(もしくは特定の産業)への補助金が貧困削減の手段として重視されている、③ PRSP の最大の弱点は、民間セクターの扱いについて測定する具体的な基準が設けられていないことである、と指摘している。

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45 USAID(2003)