16
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技術成果の総覧 3編 電力システム - toshiba.co.jp · 原子力発電・新領域 新領域 原 子力発 電・ 新 電力システム 3編 52 東芝レビュー Vol

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原子力発電・新領域

新領域

原子力発電・新

電力システム

3編

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017)52

Power Systems

Technological Achievements of the Year

エネルギーシステムソリューション社/原子力事業統括部

2016年11月に,採択から1年足らずで「パリ協定」が発効し,各国の地球温暖化防止のためのエネルギー施策が注目されています。国内では電力自由化や再生可能エネルギーの利用が進み,系統安定の重要性が再認識されています。当社は火力,原子力,再生可能エネルギーの各発電分野とともに,水素エネルギーの利活用のための技術開発を進め,二酸化炭素(CO2)削減目標の達成に向けたソリューションを世界に発信してまいります。火力分野では,発電効率の改善に加え,超臨界CO2サイクルやCCS/CCU(Carbon Capture and Storage/

Carbon Capture and Usage)の実現で更なる低炭素化を目指します。原子力分野では,福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組みとともに,既設炉の安全裕度向上に向けた技術開発を進めています。また,高い安全性を持つ原子力機器やその技術を応用した核融合技術,更には重粒子線がん治療装置の開発にも取り組んでいます。再生可能エネルギー分野では,低落差バルブ水車をはじめ,当社が機器供給した水力・太陽光発電所が国内外で運転を開始しています。また,腐食性の高い地熱蒸気でも長期連続運転が可能な高性能かつ高信頼性の地熱発電設備を提供しています。当社は,これら電源のベストミックスとともに,蓄電池や水素エネルギーなどを活用したエネルギーマネジメン

トシステムの開発と実証を通じ,“低炭素で高効率な持続可能社会の実現”を目指します。ハイライト編のp.8-15に関連記事掲載。

上席常務 統括技師長 風尾 幸彦

技術成果の総覧電力システム

水中ROVとその調査のようすUnderwater remotely operated vehicle (ROV) and scene of investigation of primary containment vessel (PCV) at Fukushima Daiichi Nuclear Power Station Unit 3

原子炉圧力容器原子炉圧力容器

アクセスルートアクセスルートPCV貫通部PCV貫通部

構造物構造物

水中ROV水中ROV

中性浮力ケーブル中性浮力ケーブル

カメラカメラスラスタースラスター

福島第一原子力発電所3号機の原子炉格納容器(PCV)内には冷却水がたまっている。廃炉に向けた作業に先立ち,格納容器内の状況を調査するために,水中遊泳ロボット(ROV)を開発した。PCV内には様々な構造物があり,また内径約14 cmのPCV貫通部から進入する必要がある。水中ROVは,アクセスルートの寸法制約を受けるが,複数のスラスターで正確な姿勢制御と高い推進力を実現した。また中性浮力ケーブルに表面処理を行い,構造物に引っ掛かるリスクを低減した。この水中ROVは,福島第一原子力発電所の廃炉措置

に向け,資源エネルギー庁の「発電用原子炉等事故対応関連開発費補助事業」の一環として開発したものである。

福島第一原子力発電所3号機 PCV内水中調査ロボット

1. 原子力発電・新領域

フィールドサポートシステムの概要Outline of fi eld support system employing wearable devices with hands-free communication capability

遠隔地

監督者

技術者, 設計者 作業者

現場

ヘッドセット

高汚染環境対応型ウェアラブル端末

スマートグラス

カメラ

線量計 屋内測位センサー情報端末

福島第一原子力発電所をはじめとする原子力プラントの高放射線量・高汚染エリアの作業は,汚染防止と被ばく低減の観点から全面マスクやゴム手袋などの防護装備を着用し,必要最低限の人員かつ短時間で行う必要がある。このため,現場の作業者と遠隔地の監督者や,技術者,設計者とのコミュニケーションが取りにくいという問題がある。そこで,スマートグラスや,カメラ,ヘッドセットなどの

ウェアラブル端末を用いて,ハンズフリーで監督者らと映像と音声でコミュニケーションを取りながら作業できる“フィールドサポートシステム”を開発し,2016年9月に福島第一原子力発電所構内で実証試験を行った。2017年の実用化を目指す。

ウェアラブル端末を利用した遠隔現場作業支援の取組み

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原子力発電・新領域

新領域

原子力発電・新

電力システム

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017) 53

大型DGの加振試験のようすLarge-scale diesel generator with prototype footing structure undergoing vibration test

原子力発電所では,地震などで外部からの電力供給が断たれた場合に所内の機器に電力を供給する目的で,大型のディーゼル発電機(DG)が使われている。中部電力 (株)浜岡原子力発電所に設置予定のDGで,地震発生時にも運転機能を維持できることを確認するために,加振試験を行った。原子力発電所の設計用模擬地震波は,国内で実際に発生した地震より厳しい条件が設定されている。今回,一般産業用のDGの基礎を,新しい脚構造で試作

したものに変更することで,加速度や変位を抑えた。3次元入力加振試験の結果,地震発生時にも運転機能を維持できることと各部構造が健全であることを確認した。これは,中部電力(株)の委託業務として行った。

中部電力(株)浜岡原子力発電所用DGの地震時の運転機能維持を確認

解析コードの許認可審査資料作成の流れFlow of preparation of documents for severe accident analysis code

選定モデルの妥当性, 適用性, 及び不確かさの確認(実験との比較, 感度解析による影響の確認など)

評価指標(燃料温度,格納容器圧力など)に影響する現象(炉心冷却,格納容器冷却など)の抽出

抽出した現象に照らし合わせた適切な解析コードの選定

重要現象の特定,現象モデルの選定(燃料棒熱伝達,炉心損傷挙動,溶融炉心挙動など)

原子力発電所の再稼働に必要な,規制当局の審査項目の一つに「重大事故等対策の有効性評価」がある。この評価では,対象とする事故シナリオごとに種々の過

酷事故解析プログラム(解析コード)を用いるが,適用する解析コードについて,規制当局の承認を得ることが重要なステップとなる。事故シナリオごとに考慮すべき現象を抽出し,適用する解析コードを選定する。次に,抽出した現象について,評価指標や運転操作への影響の観点から重要現象を特定して対応するモデルを選定し,試験解析やベンチマーク解析で,その妥当性,実機への適用性,及び不確かさを確認する。当社は,専門技術力を生かし,許認可資料を作成して審

査に対応することで,安全な再稼働に向けて貢献している。

過酷事故解析コードの許認可審査資料の作成

前処理系フィルターシステムFiltration system for pretreatment process of multi-radionuclide removal system

フィルター

自動逆洗装置

福島第一原子力発電所の汚染水処理を行う多核種除去設備では,放射性核種の除去を妨げるカルシウムなどを前処理系で炭酸塩スラリーとして除去している。このプロセスでは,目詰まり防止用の自動逆洗装置を付属したフィルターを採用しているが,逆洗圧によるフィルターシール材の変形や,微細スラリーの付着による逆洗装置ピストンシールの損傷が確認されていた。そこで,逆洗圧に対するシール構造の補強と,樹脂成

形ピストンの採用による摺動(しゅうどう)性の向上を図った改良型フィルターシステムを開発した。このシステムは,3年間の運転に相当する15万回の逆洗耐久試験で信頼性を確認し,2017年3月から実機に適用する。

福島第一原子力発電所 多核種除去設備の改良型フィルターシステム

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原子力発電・新領域

新領域

原子力発電・新

電力システム

3編

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017)54

サウス テキサス プロジェクト原子力発電所3・4号機Bird’s-eye view of South Texas Project Units 3 and 4, U.S.A.

米国ニュークリア イノベーション ノース アメリカ社から受注したサウス テキサス プロジェクト原子力発電所3・4号機(当社製米国向け改良型BWR(ABWR:Advanced BWR))向けに,2008年に申請していた米国原子力規制委員会の建設運転一括許可申請(COLA)の認可を2016年2月に取得した。15年以上の運転実績がある国内のABWRの設計をベースに,追加規制要求である航空機落下対策や,福島第一原子力発電所事故への対策などを設計に盛り込んだ,最新のABWRであり,米国外の原子炉メーカーがCOLAを取得したのは,今回の当社が初めて(注)である。(注) 2017年2月時点,当社調べ。

米国向け ABWRで米国規制当局の建設運転一括認 可を取得

非常用ディーゼル発電設備 地下式軽油タンクUnderground light-oil storage tank for emergency diesel generators of nuclear power plants

東日本大震災での福島第一原子力発電所の事故を踏まえた原子力規制委員会の新規制の施行を受け,原子力発電所では,津波や竜巻などの自然災害対策として,地上式であった非常用ディーゼル発電設備燃料貯蔵用軽油タンクの地下式化工事を行っている。原子力施設の重要な機器に求められる高い耐震性や,安全重要度を格上げした規格基準の要求,更に,消防法に基づく地下タンク貯蔵所としての要求を同時に満たす,公称容量約110 m3,全長約13 mの地下式軽油タンクの設計と製作を行い,東北電力(株) 女川原子力発電所第2号機用の6基を現地に納入し,据付工事を完了した。今後,他の沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)プラントについても,順次地下式化していく計画である。

東北電力(株) 女川原子力発電所第2号機 地下式軽油タンクの据付工事を完 了

原子炉建屋内設置型フィルターベントの配置計画と装置本体Three-dimensional computer-aided design (3D CAD) simulation for instal-lation of built-in type fi lter vent system in reactor building and vessel of Onagawa Nuclear Power Station Unit 2 of Tohoku Electric Power Co., Inc.

フィルターベント(高さ約6.2 m, 直径約2.6 m)

架台フィルターベントは,炉心損傷などの過酷な事態発生時に,放射性物質を可能な限り低減しながら原子炉格納容器内の蒸気を大気に放出する装置であり,再稼働に向けた安全対策として導入が進められている。東北電力(株) 女川原子力発電所第2号機では,原子炉

建屋内の限られた空間への設置が求められた。そこで,3基が並列運転するシステムを構築し,この3基の装置が京浜事業所での製造を完了した。製造した装置は,東日本大震災級の揺れにも耐えられるように,壁面に固定した鋼構造の架台に設置する。装置を横に倒して搬入し,数十mmのクリアランスで,架台を組み立てながら装置を縦に起こして設置する工事計画を立案した。今後,安全性と確実性の向上や,更なる工期の短縮化と現地作業の効率化を目指し,3次元CADによる詳細な工事のシミュレーションを継続する。

東北電力(株) 女川原子力発電所第2号機用フィルターベントの製造完 了と工事計画立案

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原子力発電・新領域

新領域

原子力発電・新

電力システム

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017) 55

TIPシステムの構成Confi guration of traversing in-core probe (TIP) system of Olkiluoto Nuclear Power Plant Unit 1, Finland

PCV原子炉建屋 制御室

LPRM検出器LPRM検出器

TIP検出器

LPRMコネクター

プロセス計算機遮蔽

容器バルブ

アセンブリーTIP

駆動装置TIP

索引装置方向結合器

LPRM:局部出力領域モニター  DCU:駆動制御装置  FPM:中性子束モニター

TIP制御盤

DCU, FPM(制御盤構成品の一部)

移動式炉心内計装(TIP:Traversing In-core Probe)システムは,原子炉の炉心内の出力分布測定を目的とした中性子束測定システムである。このTIPシステムの更新工事をフィンランドのオルキルオト1号機で実施した。TIPシステム更新工事の国内での実績では,原子炉格

納容器(PCV:Primary Containment Vessel)開放後の作業に実働30.5日を要していたが,今回の工事では,PCV開放後10日以内での工事完遂を要求された。施工や試験方法の合理化(新規案内管据付作業やTIP制御盤現地復元作業の合理化など)をリスク低減策と合わせて立案して適用し,更新工事を期間内に完遂した。

フィンランド オルキルオト1号機での超短期TIP更新工事の完遂

KAGRA用の大型クライオスタットCryostat for KAGRA large-scale cryogenic gravitational-wave telescope

国立大学法人 東京大学宇宙線研究所が中心となり,国内外80以上の大学や研究機関が協力して大型低温重力波望遠鏡 KAGRAの建設が進められている。当社は,極低温・超高真空状態を作り出す大型クライオスタットを納入し,KAGRAの計画に貢献している。重力波測定では,レーザー光を反射させるためのサファ

イア鏡を超高真空中で極低温に冷却することが求められており,当社が培ってきた超電導機器設計・製造技術で,この大型クライオスタットを実現できた。KAGRAは,2016年10月から冷却試験が開始され,サファイア鏡の取付けと調整を経て,2017年度後半から本格稼働が開始される予定である。

大型重力波望遠鏡 KAGRA用クライオスタットが稼働を開始

AP1000TM向け CA01及び完成したサブモジュールCA01 modules for AP1000TM plants and completed submodules

幅 約28 m

高さ 約22m

製作したサブモジュールの例

当社傘下のウェスチングハウス社は,米国で進める原子力発電プラントAP1000TM(ボーグル4号機及びVCサマー3号機)向けの大型モジュール構造物 CA01の構成部品(サブモジュール)を製造し,最終的な客先要求日(2016年6月末)までにサイト引渡しを完了した。CA01は,格納容器内で一次系機器などを支持する構

造物で,米国安全関連機器に該当し,高度な品質管理が要求される。薄板に大量の内部構造物が取り付く溶接変形しやすい構造であるが,あらかじめ逆方向に歪み(ひずみ)を与えるなどの製造上の工夫で,全長20 m超のサブモジュール全体の平面度を25.4 mm以下(全長の約1/1,000)にするなどの高い寸法精度要求を満足した。

米国AP1000TM向け 大型モジュール構造物の製造とサイト引渡しが完 了

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火力発電

火力発電

電力システム

3編

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017)56

中央操作室の新オペレーターステーションRenewal of operator station in central control room of Tarong North Power Station, Australia

オーストラリア タロングノース発電所に2003年に納入した制御システムの更新を,2016年6月に完了した。プラント建設時から稼働しているコントローラーを最新

モデルTOSMAP-DSTM/LXに更新するとともに,サイバーセキュリティー機能の強化や,保守性向上を目的としたリモートアクセスなどの新機能の導入を行った。更に,既設システムに使われていた制御ロジックの新機種への自動アップグレードや,バーチャル技術を応用した実機レス工場試験設備による工場試験などの施策により,現地試験と試運転の実施項目を削減した。この結果,制御対象プラントの定期点検期間内に更新

工事を完了でき,プラント稼働率の低下を抑えた。

オーストラリア タロングノース発電所 制御システムの更新を完 了

坂出発電所2号機Sakaide Thermal Power Station Unit 2 of Shikoku Electric Power Co., Inc.

2013年11月に着工した四国電力(株)坂出発電所2号機のリプレース工事が無事に完了し,2016年8月に営業運転を開始した。新2号機は,当社製の蒸気タービン及び発電機と,米

国General Electric Company製ガスタービンから成る一軸式コンバインドサイクル(CC)発電設備(定格出力289 MW)である。原子力発電所の再稼働時期が不透明なため,既設2号機の廃止時期が当初の計画より2.5か月延期されたが,当社の一軸式CC発電設備の建設実績と高い試運転技術を結集し,2016年4月のガスタービン着火及び系統との初並列運転(発電開始)からわずか4か月で,試運転を完遂した。

四国電力(株)坂出発電所2号機のリプレース工事を完了

2. 火力発電

低圧ローター6台の修理計画Plan for sequential repair of low-pressure steam turbine rotors of Setouchi Joint Thermal Power Co., Ltd.

福山共同発電所❹

❶ 2015年度低圧ローター更新 ❷ 2016年度 ❸

2015年度低圧ローター

修理

倉敷共同発電所

3号機 4号機 5号機4号機 5号機 6号機

新規製造の低圧ローター

❷,❸,❹,❺ :取り出した低圧ローターの動翼を更新して,次のローターとして使用する

低圧ローター 高中圧ローター

瀬戸内共同火力(株)福山共同発電所4~6号機及び倉敷共同発電所3~5号機(6台とも定格出力156 MW)の当社製蒸気タービン全6台は,運転開始から40年以上が経過し,信頼性確保が重要課題になっている。特に低圧ローターは経年劣化への対策が必要であるが,定期点検期間内に修理を完了するのは難しい。6台は同一設計で互換性があることに着目し,既存ロー

ターを転用することを提案した。1台目用に新規製造のローターを用意し,取り出した従来のローターの動翼を更新して次のローターとして使用する方法で,修理期間の短縮と費用の抑制を両立させることができる。この提案が採用され,6台中4台の修理を受注し,2016

年度は倉敷共同発電所3号機の修理を実施した。

瀬戸内共同火力(株)福山共同発電所及び倉敷共同発電所の既存低圧ローターの修理

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火力発電

火力発電

電力システム

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017) 57

発電所構内を特殊車両で輸送中の7-1 (A) HRSG7-1(A) heat recovery steam generator (HRSG) for Nishi-Nagoya Thermal Power Station Group No. 7 of Chubu Electric Power Co., Inc.

当社は中部電力(株)西名古屋火力発電所7号系列として,世界トップクラスの発電効率となる見込みの多軸CC型火力発電施設を建設している。そのうちガスタービンの排熱で蒸気を発生させる排熱回

収ボイラー(HRSG)6基を,2016年5月から2017年1月にかけて順次発電所に搬入した。HRSGは,三つの大型モジュールに分割して組み立て,海上輸送した。初軸の7-1 (A)号機の据付けが2016年6月に実施され,

配管などの施工の後,10月中旬に水圧試験を行い,無事合格した。続く(B)号機及び(C)号機も並行して工事を進め,予定どおり2017年3月のガスタービン点火に備える。

中部電力(株) 西名古屋火力発電所7号系列のHRSG据付けと水圧試験を完 了

小容量向け超々臨界蒸気タービンの断面図Cross-sectional outline of small-scale ultra-supercritical (USC) steam tur-bine for low-capacity coal-fi red power generation plants

インドネシア電力公社がインドネシア ジャワ島で進めるロンタール拡張石炭火力プロジェクト向けの蒸気タービン及び発電機を,2016年4月に受注した。この蒸気タービンは,定格出力が315 MWと小容量ながら,超々臨界圧力方式を採用した50 Hzのタンデムコンパウンド型で,2019年に営業運転が開始される。小容量機の超々臨界化は,大容量機に比べて高圧部の

効率低下が大きく,性能面でのメリットが少ないという問題がある。近年の大型プラント向け蒸気タービンの開発で培ってきた性能向上技術の適用で効率を改善した結果,このプラントでは小容量でも超々臨界圧力方式が採用された。

300 MW級超々臨界蒸気タービンを受注

ジョフレ火力発電所 発電機固定子 コイルの巻替工事Generator stator rewind at site of Joff re Cogeneration Station, Canada

東芝アメリカエナジーシステム社と当社は,カナダ ジョフレ火力発電所の発電機固定子コイルの巻替工事を2015年5月に受注し,同年11月に固定子コイル及び巻替材料を出荷して,2016年6月に現地工事を完了した。この工事では,コイル端部での最大相間電圧を低減し

てコロナ放電を抑制する特殊巻線法や,過酷な課電寿命試験に耐えられる高機能絶縁材料といった最新技術を適用している。現地工事に先立ち,カナダの第三者機関において電気電子技術者協会(IEEE)規格に基づいて高電圧・高温条件の下 でサンプルコイルの課電寿命試験を実施し,合格した。今後も高度な顧客要求に応え,経年機の固定子コイル巻替工事の受注を目指す。

カナダ ジョフレ火力発電所 発電機固定子コイルの巻替工事を完 了

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火力発電

火力発電

電力システム

3編

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017)58

タービン発電機の磁束密度分布Example of result of large-scale electromagnetic fi eld analysis of magnetic fl ux density distribution in turbine generator

磁束密度

近年,再生可能エネルギーの使用増加に伴い,従来規格よりも発電機運転範囲を拡大する要求がGrid Code(系統連系技術要件)に追加されようとしている。運転範囲の拡大が発電機に与える影響を評価するには,電磁的な挙動や過渡時の挙動をより詳細に再現できる解析技術の確立が必要である。このような解析では,モデル化範囲が拡大するとともに要素も細分化するので,総要素数1,000万メッシュ級の大規模電磁界解析になる。今回解析モデルの作成法を構築して,運転時に固定子

端部の構造物に発生する損失分布を数値計算で求め,その分析と評価を行った。今後,この解析手法を適用して新しい要求に対応したタービン発電機を開発し,市場投入していく。

タービン発電機 固定子端部損失分布の大規模電磁界解析による評価

25 MWe 超臨界CO2タービン25 MWe supercritical carbon dioxide turbine assembly for pilot plant

当社は,高効率発電と高圧なCO2の回収が同時に実現できる超臨界CO2サイクル発電システムに使用する,タービンと燃焼器の開発に取り組んでいる。今回,米国のネットパワー社が同国テキサス州に建設中である25 MWe出力の実機検証プラント向けタービンの製造及び組立てを完了し,2016年11月に出荷した。これは,超々臨界蒸気タービンのケーシング技術と,高

温ガスタービンの材料技術及び冷却技術とを融合し,タービンの設計と製造を進めた世界初(注)の直接燃焼方式の超臨界CO2タービンである。また,入口圧力30 MPaと入口温度1,150 ℃の組合せは従来実績を大きく超えるもので,既に燃焼試験により圧力30 MPaでの燃焼を確認している。(注) 2016年12月時点,当社調べ。

超臨界CO2サイクル発電システム実機検証プラント向けタービンの出荷を完 了

CCSプラントからのアミン排出抑制試験の概要Overview of verifi cation test to suppress amine emissions from carbon dioxide capture and storage (CCS) plant using Mikawa Pilot Plant

(株)シグマパワー有明 三川発電所ボイラー

煙突脱硫塔(既設)

電気集じん

凝縮器

蒸気タービン発電機

水洗塔出口ガスの一部を試験装置に導入し,ガス洗浄効果を確認

リボイラー

三川パイロットプラント

脱硫塔(追設)

再生塔再生塔

再生熱交換器再生熱交換器

水洗塔水洗塔

吸収塔吸収塔

第1塔(水洗浄)

第2塔(酸洗浄)

アミン排出抑制試験装置

石炭火力発電所などの燃焼排ガス中の二酸化炭素(CO2)を分離回収するCCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)プラントでは,CO2除去済みの排出ガスに含まれるCO2吸収液由来の微量のアミン成分が,周辺環境に影響を与える可能性が指摘されている。環境省委託業務「環境配慮型CCS導入検討事業」の

一環として,三川パイロットプラント(注)で,プラントの運転時間や操業条件に伴うアミン成分の排出量の推移を定量的に評価するとともに,水洗浄や酸洗浄といった排出抑制技術を実証した。当社の吸収液はリファレンス吸収液に比べて10 %以下の排出量となることを確認した他,排出量を左右する要因など,更なる排出抑制につながる知見を得た。(注) (株)シグマパワー有明 三川発電所内にある当社施設。

アミン排出抑制技術を三川パイロットプラントで実証

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水力発電

水力発電

電力システム

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017) 59

徳山水力発電所1号機の水車発電機Hydraulic turbine generator for Tokuyama Hydroelectric Power Station Unit 1 of Chubu Electric Power Co., Inc.

中部電力(株)徳山水力発電所の1号機が2016年3月から営業運転を開始した。この発電所には,ピーク電源用の1号機(最大出力

139 MW)とベース電源用の2号機(同24.3 MW)があり,2014年5月から運転を開始している2号機を含め,全号機の運転が開始された。水車及び発電機は,当社の中国製造拠点であるTHPC

で,ほぼ一式を製造したものである。1号機の水車と発電機の定格は,次のとおりである。 • 水車:140.4 MW‒181.96 m‒300 min‒1

• 発電機:146 MVA‒13.2 kV‒300 min‒1‒60 Hz

中部電力(株)徳山水力発電所1号機が営業運転を開始

サンアガトン発電所用2号発電機の固定子枠Stator frame for generator of San Agaton Powerplant Unit 2, Venezuela

ベネズエラ サンアガトン発電所用の2号発電機が2016年3月に工場完成した。この発電機は,製造から35年を経過していることから,

固定子一式や,回転子磁極,励磁装置などを更新することになったものである。更新に伴って,発電機の定格出力を158 MVAから

182 MVAにアップさせた。今回の更新による,新たな定格は次のとおりである。 • 発電機:182 MVA‒13.8 kV‒力率0.9‒225 min‒1‒60 Hz,1台

ベネズエラ サンアガトン発電所用2号発電機が工場完 成

3. 水力発電

ナムオウ第5水力発電所Nam Ou Stage 5 Hydro Power Plant, Laos

東芝水電設備(杭州)有限公司(THPC)によってラオス ナムオウ第5水力発電所に納入された立軸フランシス水車全3台が,2016年5月に営業運転を開始した。フランシス水車としては低落差の水車設備であり,流れ

解析(CFD:Computational Fluid Dynamics)を駆使して最適な流路設計を行い,低振動かつ低騒音の運転を実現した。また,ランナと主軸のカップリングには,据付時間を短縮するために,摩擦カップリング方式を採用した。水車と発電機の定格は次のとおりである。 • 水車:83 MW‒49 m‒125 min‒1

• 発電機:91.43 MVA‒11 kV‒125 min‒1‒50 Hz

ラオス ナムオウ第5水力発電所の水車全3台が営業運転を開始

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水力発電

水力発電

電力システム

3編

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017)60

京極名水の郷発電所の水力発電設備Micro-hydroelectric generation equipment for Kyogoku Meisui no Sato Power Station of Hokuden Eco-Energy Co., Ltd.

2号水車・発電機2号水車・発電機 1号水車・発電機1号水車・発電機ほくでんエコエナジー(株) 京極名水の郷発電所(最大出力410 kW)は,2016年10月に営業運転を開始した。この発電所は,北海道電力 (株)京極発電所(純揚水発電)の 下部ダムにあたる京極ダムから放流される自然放流水を有効利用する小水力発電所である。水力発電設備としては,低落差ユニット型マイクロ水力発電装置Hydro-eKIDSTM M形を,直列2台で並列2組の計4台設置することで,流量0.6~2.0 m3/s及び有効落差14.4~28.6 mの幅広い運転範囲に対応している。定格は,以下のとおりである。 • 1号水車:横軸プロペラ水車,116.9 kW‒14.15 m,2台 • 2号水車:横軸プロペラ水車,119.1 kW‒14.415 m,2台 • 発電機:横軸三相誘導発電機,110 kW‒420 V‒50 Hz,4台

ほくでんエコエナジー(株) 京極名水の郷発電所が営業運転を開始

七滝川第一発電所の水車Horizontal water turbine for Nanatakigawa First Power Station of JNC Corporation

JNC(株)の七滝川第一発電所及び竹の川発電所において,近代化技術を適用した水車発電機の更新工事が完了し,2016年9月から営業運転を開始した。特に,七滝川第一発電所は,2016年4月にあいついで

発生した平成28年熊本地震と集中豪雨の影響を乗り越えて,営業運転にこぎ着けたものである。⑴ 七滝川第一発電所の定格 • 水車:横軸フランシス,1.66 MW‒127.33 m‒720 min‒1

⑵ 竹の川発電所の定格 • 水車:立軸フランシス,3.43 MW‒27.6 m‒300 min‒1

• 発電機:3.45 MVA‒6.6 kV‒300 min‒1‒60 Hz

JNC(株)の七滝川第一発電所及び竹の川発電所が営業運転を開始

常盤発電所Tokiwa Hydroelectric Power Station of Showa Denko K.K.

昭和電工(株)の2発電所(広津発電所及び常盤発電所)の更新工事が完了し,それぞれ2016年6月と8月に営業運転を開始した。各発電所とも,水車,発電機,制御装置,及び主変圧

器の据付工事と試験を6か月で完了しなければならないという厳しい条件のなか,設計の共通化や,発電機固定子とマシンハッチを拡張したことによる水車本体静止部の一体輸送・据付などを行うことで,工場及び現地据付のリードタイムを短縮し,短工期を実現させた。また,最新技術を駆使して高効率化を実現させた他,

既設制圧器の撤去や一体型配電盤の採用で,設備の簡素化や保守の省力化を図った。更に,電動化(圧油レス化)による環境保全にも貢献している。

昭和電工(株)の広津発電所及び常盤発電所が営業運転を開始

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水力発電

水力発電

電力システム

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017) 61

新鋳物工場建屋とLF炉及びVOD炉Ladle furnace (LF) and vacuum oxygen decarburization (VOD) systems introduced into new foundry shop

THPCは,2016年3月に,新鋳物工場を稼働させた。水力発電設備の案件では,主に精錬ステンレス鋳物部

品の要求が多い。今回,それに対応するため,LF(Ladle Furnace)炉(注1)及びVOD(Vacuum Oxygen Decar-burization)炉(注2)を備えた精錬設備を新工場に導入し,不純物が抑制された高品質のステンレス鋳鋼の製造を可能にした。また,この設備の導入により,火力部品向けの高品質合金鋼の製造も可能となった。新工場は,建屋の付帯設備も併せて増設され,年間製

造能力は7,000 tである。(注1) 電気炉から出された溶鋼を取鍋に移し,溶鋼を加熱して脱硫及び

介在物除去を行う装置。(注2) 取鍋を真空容器内に入れて,酸素ガスで脱炭反応を進める装置。

THPCの新鋳物工場が完成

大河家発電所Powerhouse of Dahejia Hydro Power Station, China

中国 大河家電所で,全4台のバルブ水車発電機が2016年3月に営業運転を開始した。THPCが受注したこのプロジェクトでは,当社が性能開

発を担当し,その他の設計と製造をTHPCが行った。ランナ径は,6.9 mと大口径であり,また,標高1,700 mの高地に設置することによる厳しいキャビテーション性能に対しても,要求値を満足することができた。水車と発電機の定格は次のとおりである。 • 水車:36.4 MW‒9.3 m‒79 min‒1,4台 • 発電機:37.4 MVA‒10.5 kV‒79 min‒1‒50 Hz,4台

中国 大河家発電所で全4台のバルブ水車発電機が営業運転を開始

中国 土谷塘発電所で,2016年9月にバルブ水車発電機全4台が営業運転を開始した。このプロジェクトは,THPCが受注し,当社が性能開発

を担当して,THPCは設計と製造を行った。最高落差が9.8 mの横軸バルブ水車で,THPCでは実績のない低落差機であった。また,3枚羽根バルブ水車として,ランナ外径及び水車容量とも中国最大級(注)である。水車模型試験では,国際的に有名な第三者機関の立会試験を受け,客先にも高く評価された。水車と発電機の定格は次のとおりである。 • 水車:22.5 MW‒7.3 m‒75 min‒1,4台 • 発電機:25 MVA‒10.5 kV‒75 min‒1‒50 Hz,4台

(注) 2016年10月現在,当社調べ。

中国 土谷塘発電所のバルブ水車発電機全4台が営業運転を開始

VOD炉 LF炉

土谷塘発電所の3枚羽根バルブ水車Prototype three-blade bulb turbine runner for Tugutang Hydropower Station, China

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再生可能エネルギー

ルギー

再生可能エネル

電力システム

3編

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017)62

DRの概要Overview of demand response (DR) demonstration

電力会社 DR要請

ネガワット販売

アグリゲーター

DR要請 需要家

ネガワット仕入

経済産業省の平成28年度「高度制御型ディマンドリスポンス実証事業」における事業テーマの一つとして,電力需給のひっ迫時に需要家の電力使用量を抑制することで電力の需給バランスを調整する,デマンドレスポンス(DR)の高精度化に向けた実証を完了した。需要家ごとに電力使用量の抑制特性を把握し,天候や

需要家の電力使用状況などに応じて電力使用量の抑制を依頼する需要家を最適に組み合わせることで,電力会社とあらかじめ契約した電力抑制量に近づける検証を行った。その結果,最高精度101.4 %の抑制(契約容量4,000 kWに対し,電力抑制量4,055 kW)を達成した。今後この成果を活用し,需要家の電力抑制量であるネ

ガワットを束ねて電力会社に販売する,アグリゲーター事業への取組みを進めていく。

デマンドレスポンスの高精度化に向けた実証を完 了

新岡山太陽光発電所Shin-Okayama Solar Power Plant

当社がEPC(設計,調達,建設)を担った新岡山太陽光発電所(太陽電池モジュール容量約37 MW)の工事が完了し,2017年1月に営業運転を開始した。主な特長は,次のとおりである。⑴ 山間部ゴルフ場跡地の複雑な傾斜面にモジュール,アレイ架台を地なりに設置

⑵ 高性能な当社製単結晶260 Wモジュールを適用⑶ 110 kV連系用GIS(ガス絶縁開閉装置)を適用当社は今後20年間のO&M(運用,保守)も契約して

いる。傾斜面への機器設置における設計,工事で得られた知見を生かし,再生可能エネルギー発電のビジネスの継続と更なる発展に貢献していく。

新岡山太陽光発電所の運用開始

4. 再生可能エネルギー

クズレデレ第3地熱発電所1号機のタービンローターTurbine rotor for Kizildere III Geothermal Power Plant Unit 1, Turkey

トルコの大手電力事業者ゾルルエナジーグループがトルコ西部に建設中の,クズレデレ第3地熱発電所1号機用タービン発電機の出荷を,2016年10月に完了した。この発電所は,地熱蒸気を直接利用するフラッシュ型発電及び低沸点媒体の蒸気を利用するバイナリー型発電から構成されるコンバインド型地熱発電システムである。タービン発電機の定格出力は約72 MWであり,バイナ

リー発電設備を含めた定格出力は約95 MWになる。商業運転の開始は2017年10月の予定であり,今後据付・試運転指導員を派遣し,建設及び試運転業務のサポートを行う。また,この発電所2号機用タービン発電機も当社が受注しており,2017年7月に出荷する予定である。

トルコ クズレデレ第3地熱発電所1号機のタービン発電機を出荷

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電力流通・配電電

電力流通・配電

電力システム

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017) 63

ジャルート変電所 400 kV GIS400 kV gas-insulated switchgear (GIS) for Jahloot Grid Station, Oman

オマーン国の送電会社Oman Electricity Transmis-sion Company(OETC)では,電力需要の増大に伴い400 kV電力系統の拡充を図っており,今回,東芝電力流通システムガルフ社がオマーン国初(注)の400 kV変電所を受注した。当社製GISや,750 MVA及び500 MVA変圧器などの変電所設備一式の設計,供給,土木・据付工事,及びコミッショニング試験を含むフルターンキー契約(FTK)で,二つの変電所工事を同時進行で完了させた。東芝グループ初のオマーン国向けFTKであったが,これまでのアラブ首長国連邦やクウェート他の中近東市場での経験及びプロジェクト遂行力を発揮し,2016年7月に受電に成功した。(注) 2016年4月時点,当社調べ。

オマー ン国 スール及びジャルートの400 kV変電所の受電成功

関西電力(株) 北摂変電所 500 kV‒1,000 MVA分解輸送変圧器500 kV-1,000 MVA advanced site assembly transformer for Hokusetsu Substation of The Kansai Electric Power Co., Inc.

関西電力(株) 北摂変電所 500 kV‒1,000 MVA分解輸送変圧器(Advanced Site Assembly Transformer)が,2016年10月に運転を開始し,また,九州電力(株) 東九州変電所 500 kV‒1,500 MVA分解輸送変圧器が同年6月に運転を開始した。分解輸送変圧器は,輸送時の厳しい制約を克服するた

めに開発され,U字鉄心ユニット及び巻線の一括フィルムパック構造の採用や,現地でのリード接続作業の簡素化などにより,分解・再組立範囲の極小化を図り,変圧器の高い信頼性を維持するとともに,現地工事の期間短縮も実現した。

関西電力(株)及び九州電力(株) 500 kV大容量分解輸送変圧器が運転を開始

5. 電力流通・配電

大井ふ頭変電所Oi Futo Substation of TEPCO Power Grid, Inc.

*油入変圧器適用時と比較し主要機器の据付面積を40 %以上縮小

ガス絶縁変圧器(GIT)は不燃かつ防災性に優れ,変電所防火設備の簡素化や省スペース化に寄与する他,短絡容量の増大対応が容易なことや,変圧器室の階高低減による建設コスト低減などの優位性から,1990年代初頭から大容量の地下変電所に多数適用されてきた。東京電力パワーグリッド(株)大井ふ頭変電所は,屋外ではあるが,敷地が狭隘(きょうあい)であったため,GITの優位性が高く評価され採用に至った。ユーザーと協力して仕様・構造面の抜本的な見直しを図った次世代275 kV‒300 MVA GITを開発・適用している。2016年8月にはGIT全3台,一次300 kVガス絶縁開閉装置(GIS),及び三次72 kV GISの一連の据付工事を完了し,2017年1月から商用運用が開始された。

東京電力パワーグリッド(株)大井ふ頭変電所 次世代大容量GITの現地据付工事を完 了

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電力流通・配電電

電力流通・配電

電力システム

3編

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017)64

イタリアの送電会社テルナ社から受注した,イタリア-モンテネグロ間の高電圧直流送電(HVDC)設備(± 500 kV‒1,200 MW)に適用するつり下げ型サイリスターバルブを開発した。従来の自立型サイリスターバルブは支持碍子(がいし)でモジュールを支えていたが,つり下げ型サイリスターバルブは懸垂碍子でつり下げる構造となる。IEC 60700-1(国際電気標準会議規格60700-1)に基

づく絶縁・動作試験を含めた型式試験を2016年3月に,イタリアとモンテネグロ両端用のモジュールの受入試験を同年7月に,全て計画どおり完了した。同年末から出荷を開始し,2017年からサイトでの据付工事を開始する。

イタリア-モンテネグロ間HVDC用 500 kVつり 下 げ 型サイリスターバルブの工場試験を完 了

変圧器ダイナミックレーティングシステムの構成Confi guration of dynamic rating system to increase transformer capability

500 kV母線

500kV/275kV変圧器

変流器

外気温センサー

外気温 外気温,油温

油温

275 kV母線

センサー情報集約装置

変圧器ダイナミックレーティング装置

運用支援情報

制御指令

遮断指令

制御用伝送網

制御

負荷発電機再生可能エネルギー

運用者パソコン

計測用変圧器

電圧

電流

近年,再生可能エネルギーなどの発電設備の増設により,変圧器などの電力流通設備には,一時的に定格容量を超える運用が求められている。定格容量は,外気温などが過酷な条件でも運用できる

値に設定されているので,実運用では余裕がある状態が多い。そこで,外気温などを計測して実運用可能な値を算出し,系統運用者へ通知する変圧器ダイナミックレーティング装置を開発した。この装置の適用により,既存設備を有効活用し,電力

系統の信頼度を損ねることなく,低廉な電力供給に貢献できる。開発した装置を,東京電力パワーグリッド(株)房総変電所の500kV/275kV変圧器へ適用した。

東京電力パワーグリッド(株) 変圧器ダイナミックレーティングシステム

333.3 MVA‒525 kV変圧器333.3 MVA-525 kV transformer for Chaengwattana Substation, Thailand

タイ王国 バンコク中心部の変電所用としてEGAT(タイ王国発電公社)に納入する333.3 MVA‒525 kV変圧器8台を2016年5月に出荷した。この変圧器は,常州東芝変圧器有限公司と共同受注したもので,合計24台のうち8台を当社が製作した。人口及び電力需要の増加が著しいバンコク中心部に建

設する変電所では,コンパクト性や環境調和に関する仕様要求として,厳しい輸送制限への対応や低損失が求められる。この仕様を満足する優れた特長を持つ当社製変圧器は,顧客から高い評価を得ている。現在,2変電所同時に据付工事を遂行中であり,2017

年初頭の運用開始が予定されている。

タイ王国 バンコクのノーイ 及びチェーンワッタナ変電所用 333.3 MVA変圧器を出荷

項 目 仕 様

定格容量 500 MW× 双極

定格直流電圧 ±500 kV

定格直流電流 1,000 A(過負荷 1,200 A)

変換器構成 12パルス変換器

バルブ構造 4重バルブ構造,つり下げ型

つり下げ型サイリスターバルブとその定格緒元Suspended thyristor valve for DC power transmission system connecting Italy and Montenegro and its rated specifi cations

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電力流通・配電電

電力流通・配電

電力システム

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017) 65

東京電力パワーグリッド(株)が推進するスマートメーターシステムの概要Overview of smart-meter system being advanced by TEPCO Power Grid, Inc.

1N無線通信(3G/LTE)PLC通信東芝開発部分

ヘッドエンドシステム

メーターデータ管理システム

託送システム

小売電気事業者システム電力自由化での安定運用に貢献

2,700万台対応に向け拡張中

HEMSHEMS HEMS

無線マルチホップ通信

HEMS : Home Energy Management System  PLC : Power Line Communication3G:第3世代  LTE : Long Term Evolution  WAN : Wide Area Network

WAN広域網

自動再収集制御技術の改善などにより検針データ収集率99.9 %を実現

東京電力パワーグリッド(株) スマートメーター通信システムを,システムインテグレーターとして開発してきた。今回,メーターデータ欠測時の自動再収集制御技術の

改善などで通信品質を向上し,1,000万台のメーターを設置した状態で,検針データ収集率99.9 %以上を実現した。2020年までの2,700万台メーター対応に向けたヘッドエンドシステムの拡張を続け,電力自由化の基幹情報インフラとして,業務運用の安定化に貢献している。今後は,収集した情報のビッグデータとしての活用や,

このシステムのネットワークの利活用などで,新規ビジネス・サービスの展開を目指していく。

東京電力パワーグリッド(株) スマートメーター通信システム

中央給電指令所Central load dispatching center of The Chugoku Electric Power Co., Inc.

中国電力(株) 中央給電指令所 自動給電システムは,2016年1月の運用開始以来,順調に運転を継続している。2016年4月には,電力システム改革第2弾に伴って電力広域的運営推進機関の運用する広域機関システムとの連携など,機能追加も実施した。開発にあたっては,系統運用の要として,良質な電気の

安定供給,経済的な需給運用,及び緊急時の迅速な対応を行うために,主に次の機能改善を図った。⑴ 高品質な電気を提供するための負荷周波数制御⑵ 経済的に発電するための発電計画・経済負荷配分制御⑶ 過去事例分析に基づいた,運転員のヒューマンエラーを防止するためのヒューマンインターフェース

中国電力(株) 中央給電指令所 自動給電システム

イタリアの送電会社テルナ社から受注した,イタリア-モンテネグロ間のHVDC設備(± 500 kV‒1,200 MW)に適用する交直変換装置用変圧器を開発した。 この変圧器は,単相で,交流巻線と上下段の直流巻線

から成る3巻線変圧器である。直流巻線には,交流電圧に加え直流電圧も重畳されるため,それらを考慮した絶縁設計を行った。変圧器全14ユニットの工場試験を2016年10月に完了

した。2017年からイタリア側サイトでの据付工事を開始する。モンテネグロ側サイトでは,土木工事などが完了して準備が整いしだい,据付工事を開始する。

イタリア-モンテネグロ間HVDC用 交直変換装置 変圧器全 ユニットの工場試験を完 了

交直変換装置用変圧器の工場試験時のようすと定格諸元Converter transformer for DC power transmission system connecting Italy and Montenegro undergoing shop test and its rated specifi cations

項 目 仕 様

定格容量 230 MVA

相数 1

結線(三相バンク接続後) YNy0d1

定格電圧

交流巻線 400/ 3 kV,+11.25/‒6.75 %

上段用直流巻線(Y) 205/ 3 kV

下段用直流巻線(△) 205 kV

周波数 50 Hz

冷却方式 導油風冷式

適用規格 IEC 61378-2

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水素エネルギーー

水素エネルギー

電力システム

3編

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017)66

アルカリ水電解システムの試作機Prototype alkaline water electrolysis system

水素ガスコンプレッサー水素ガスコンプレッサー電解槽電解槽

排気排気ガスクーラー

水素シールガスポット

チラー

純水器

電解液循環タンク ケミカルタンクバッファータンク制御盤

作業ステージ

整流器整流器

100 Nm3(注)/hの製造能力を持つアルカリ水電解式の水素製造装置を開発し商品化した。この方式は,電極基材に貴金属を使用しないため,他

の方式に比べて低コストで電極を大型化できることから,装置の大規模化に適している。当社の整流器や水素精製の技術を水電解技術と組み合わせることで,装置を大型化しても全体のエネルギー効率を最適化できた。また,電解液として凍結しにくい高濃度の水酸化カリウム溶液を使っており,寒冷地でも使用できる。35 Nm3/h級のアルカリ水電解式水素製造装置を,当

社が受託した環境省委託事業「平成27年度地域連携・低炭素水素技術実証事業」に導入する予定である。(注) Nm3は0 ℃,1気圧の状態に換算した体積。

関係論文:東芝レビュー.71,5,2016,p.30-36.

アルカリ水電解式水素製造装置

DMAT訓練参加時のH2OneTM車載モデルH2OneTM mobile model at time of disaster medical assistance team (DMAT) training

H2OneTM車載モデルは,H2OneTMの機能を2台のトラックに搭載した移動式自立型水素エネルギー供給システムである。1号車には燃料電池と水素タンクを,2号車には水素製造装置と水素タンクを,それぞれ搭載している。通常は2台を連結して稼働させるが,分離して1号車は発電車,2号車は水素製造車として機能させることも可能で,災害現場などの仮設電源が必要な場所で活用できる。2016年8月に内閣府主催の大規模地震時医療活動訓

練に参加し,DMAT(災害派遣医療チーム)の医療機器や通信機器などに電力を供給して,その有用性を示した。今後は,商品化に向けて更なる機能及び操作性の向上

を図る。

H2OneTM車載モデル

6. 水素エネルギー

東北電力(株)研究開発センターに設置されたH2OneTMH2OneTM hydrogen-based autonomous energy supply systems installed at R&D Center of Tohoku Electric Power Co., Inc.

東北電力(株)研究開発センターに,自立型水素エネルギー供給システムH2OneTMを納入した。気象条件などの影響で出力が変動しやすい再生可能エネルギーによる電力を,水素の形で貯蔵して調整する研究に使用し,出力変動対策としての有効性を検証する。H2OneTMは,太陽光発電設備で発電した電力の変動分のうち,変動周期の短い電力を蓄電池の充放電で,変動周期の長い電力を水素の形で貯蔵して調整する。水素の生成には水電解装置を,貯蔵には低圧で高密度に吸収と放出ができる水素吸蔵合金の水素貯蔵タンクを,発電には純水素燃料電池を用いている。

関係論文:東芝レビュー.71,5,2016,p.37-40.

H2OneTMを東北電力(株)研究開発センターに納入

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水素エネルギーー

水素エネルギー

電力システム

東芝レビュー Vol. 72 No. 1(2017) 67

100 kW純水素燃料電池システムPure hydrogen fuel cell (FC) system with 100 kW capacity

当社は,出力100 kWの純水素燃料電池システムを開発し商品化した。このシステムは,エネファームで実績のある長寿命の固

体高分子形セル技術を採用している。低温動作が可能なため,従来のリン酸形よりも起動や停止がしやすく,かつ短時間で起動できる。発電効率は50 %LHV(注)以上,かつ排熱回収率を含めた総合効率は95 %LHV以上であり,水素をむだなく効率的に利用できる。この純水素燃料電池システムは,(株) トクヤマが受託した環境省委託事業「平成27年度地域連携・低炭素水素技術実証事業」に導入される予定である。(注) 発熱量に対する発電量の比で発電効率を算出するとき,発熱量に

水蒸気の凝縮潜熱を含めない算出条件。

関係論文:東芝レビュー.71,5,2016,p.46-50.

100 kW純水素燃料電池システム

武蔵溝ノ口駅に設置されたH2One™のイメージ図Rendering of H2One™ at Musashi-Mizonokuchi Station of East Japan Railway Company

データ提供:東日本旅客鉄道(株)

東日本旅客鉄道(株)は,川崎市とともに水素エネルギーの利活用に取り組んでおり,省エネ設備や再生可能エネルギー設備を駅に導入する“エコステ”も進めている。H2OneTM BCP(事業継続計画)モデルは,エコステとの親和性が高いため,南武線 武蔵溝ノ口駅に導入され,2017年春から稼働を開始する。H2OneTM BCPモデルは,駅舎屋上に設置した太陽光発電設備や,その電力で水を電気分解する水素製造装置,水素貯蔵タンク,水素で発電する燃料電池,蓄電池などから構成される。平常時には駅構内の照明の一部に,災害時には駅構内

の照明やトイレ設備に電力を供給し,駅を一時避難場所として機能させる。

東日本旅客鉄道(株)南武線 武蔵溝ノ口駅にH2OneTM BCPモデルを導入

3 Nm3/h級SOECマルチセルスタック水素製造システム3 Nm3/h–class solid oxide electrolysis cell (SOEC) multi-stack system

環境負荷低減の観点から再生可能エネルギーの利用が世界的に進み,余剰電力の貯蔵技術への需要が高まっている。当社は,エネルギーを水素の形でためる電力貯蔵システ

ムを実用化したが,その構成機器の一つである水素製造システムの将来技術として,固体酸化物形電解セル(SOEC)を用いて水素製造量3 Nm3/h級のシステムを開発した。このSOECの水素製造原単位は放熱ロスを差し引いた値で4 kWh/Nm3であるが,放熱ロスを含んだ水素製造原単位4 kWh/Nm3を目標に,装置補機の最適化と断熱構造の見直しによって更なる高効率化を図る。2017年度に10 Nm3/h級の開発を完了し,2020年以

降のSOECの実用化と電力貯蔵システムの完成を目指す。

関係論文:東芝レビュー.71,5,2016,p.41-45.

SOECを用いた次世代水素製造システム