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1 分配感応的な貧困指標による日本の貧困分析 浦川邦夫・橘木俊詔 1.はじめに ピグー・ドルトンの移転原則は所得分配や厚生を扱った研究において重要な役割を果た してきた。その原則にしたがうと、2人の個人の間における累進的な所得移転は所得不平 等を減らし、社会厚生を高めることになる。 Sen(1976)は、この移転原則を`transfer axiom’ と名づけ、貧困指標への導入を試みた先駆者である。この公理を満たす貧困指標では、低 所得の貧者から、より一層所得が低い貧者に対して所得移転がなされる場合、貧困は減少 することになる。 Sen は「貧困指標は貧困の頻度、強度だけでなく、貧困層内の所得再分配 に対して感応的であるべきだ」と主張したのである。これは、貧困線以下の大多数の貧者 がより貧しくなったとしても、貧困線以下にいる者の割合が減れば、貧困レベルは減少し たと判断してしまう性質を持つ貧困率(Headcount Ratio)や、貧困層内での逆進的な所得移 転に対して、貧困のレベルに変化は無いと判断する貧困ギャップ率(poverty gap ratio)に対 して向けられた批判であった。 Sen の指摘以降、この公理は貧困指標において非常に重要な 公理とみなされ、公理を満たす貧困指標は「分配感応的(distribution-sensitive)」な貧困指 標と呼ばれている。この分配感応的な貧困指標は、過去 30 年の間に、貧困の分析に携わる 研究者によって様々なタイプのものが考案されている。 Foster, Greer and Thorbecke(1984)FGT 指標、Watts(1968)の指標、Clark, Hemming and Ulph(1981)CHU 指標などはその代表例といえよう。 しかしながら、近年では、多くの研究者の関心は、「分配感応的な貧困指標の新たな構築」 から「それらの指標の貧困に対する順位付けは、どのような条件のもとで一致するか」に シフトしている。この理由としては、Sen の唱える移転公理(transfer axiom)を満たす貧困 指標は、決して一つに定まるものではなく、新たな指標の構築には際限がない点が挙げら れるだろう。移転公理(transfer axiom)2 人の個人の間における累進的な所得移転が貧困 を減らすことを要請するが、実際にどの程度貧困を減らすべきかに関しては言及しない。 そのため、所得分配の変化に感応的なタイプの貧困指標が多数存在する余地があるのであ る。この事から厄介な問題がいくつか発生する。それは、ともに移転公理(transfer axiomを満たす“望ましい” 2 つの貧困指標が、種々の所得分布の貧困レベルの順序を決定する際 に、全く異なる判定を下す場合がありえるということである。すなわち、同じように移転 公理(transfer axiom)を満たしていても、貧困指標 A 2002 年の日本の所得分布の貧困レ ベルが 1999 年の所得分布の貧困レベルより高いとの判定を下し、ある貧困指標 B は逆に 1999 年の所得分布の貧困レベルが高いとの判定を下す場合がありえる。したがって、とも に分配感応的な性質をもった貧困指標が、どのような条件のもとで整合的に所得分布の貧 困レベルの順序を決定するのか、あるいは逆に異なる順序付けを行うのかに対して、一定

分配感応的な貧困指標による日本の貧困分析...Atkinson(1987),Zheng(2000)等が導出した命題にしたがい、加法分解可能且つ分配感応的 な貧困指標が、各年度の所得分布の貧困レベルの順序を整合的に決定するための条件が成

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1

分配感応的な貧困指標による日本の貧困分析

浦川邦夫・橘木俊詔 1.はじめに ピグー・ドルトンの移転原則は所得分配や厚生を扱った研究において重要な役割を果た

してきた。その原則にしたがうと、2人の個人の間における累進的な所得移転は所得不平

等を減らし、社会厚生を高めることになる。Sen(1976)は、この移転原則を`transfer axiom’と名づけ、貧困指標への導入を試みた先駆者である。この公理を満たす貧困指標では、低

所得の貧者から、より一層所得が低い貧者に対して所得移転がなされる場合、貧困は減少

することになる。Senは「貧困指標は貧困の頻度、強度だけでなく、貧困層内の所得再分配に対して感応的であるべきだ」と主張したのである。これは、貧困線以下の大多数の貧者

がより貧しくなったとしても、貧困線以下にいる者の割合が減れば、貧困レベルは減少し

たと判断してしまう性質を持つ貧困率(Headcount Ratio)や、貧困層内での逆進的な所得移転に対して、貧困のレベルに変化は無いと判断する貧困ギャップ率(poverty gap ratio)に対して向けられた批判であった。Senの指摘以降、この公理は貧困指標において非常に重要な公理とみなされ、公理を満たす貧困指標は「分配感応的(distribution-sensitive)」な貧困指標と呼ばれている。この分配感応的な貧困指標は、過去 30年の間に、貧困の分析に携わる研究者によって様々なタイプのものが考案されている。 Foster, Greer and Thorbecke(1984)の FGT指標、Watts(1968)の指標、Clark, Hemming and Ulph(1981)のCHU指標などはその代表例といえよう。 しかしながら、近年では、多くの研究者の関心は、「分配感応的な貧困指標の新たな構築」

から「それらの指標の貧困に対する順位付けは、どのような条件のもとで一致するか」に

シフトしている。この理由としては、Senの唱える移転公理(transfer axiom)を満たす貧困指標は、決して一つに定まるものではなく、新たな指標の構築には際限がない点が挙げら

れるだろう。移転公理(transfer axiom)は 2人の個人の間における累進的な所得移転が貧困を減らすことを要請するが、実際にどの程度貧困を減らすべきかに関しては言及しない。

そのため、所得分配の変化に感応的なタイプの貧困指標が多数存在する余地があるのであ

る。この事から厄介な問題がいくつか発生する。それは、ともに移転公理(transfer axiom)を満たす“望ましい”2つの貧困指標が、種々の所得分布の貧困レベルの順序を決定する際に、全く異なる判定を下す場合がありえるということである。すなわち、同じように移転

公理(transfer axiom)を満たしていても、貧困指標 Aは 2002年の日本の所得分布の貧困レベルが 1999 年の所得分布の貧困レベルより高いとの判定を下し、ある貧困指標 B は逆に1999年の所得分布の貧困レベルが高いとの判定を下す場合がありえる。したがって、ともに分配感応的な性質をもった貧困指標が、どのような条件のもとで整合的に所得分布の貧

困レベルの順序を決定するのか、あるいは逆に異なる順序付けを行うのかに対して、一定

2

の知識を整理しておくことは、貧困の動向を把握する上で非常に重要である。 本稿では、上記の問題点に注意を払いながら、90 年代後半以降の日本の貧困レベルがど

のように推移しているかに関して、分配感応的な貧困指標を用いて検証する。その際、

Atkinson(1987),Zheng(2000)等が導出した命題にしたがい、加法分解可能且つ分配感応的な貧困指標が、各年度の所得分布の貧困レベルの順序を整合的に決定するための条件が成

立しているかを考察し、貧困レベルの推移の頑健性を確認する。 本稿で主に使用するデータは、厚生労働省の『所得再分配調査』(1993,1996,1999,2002)の個票データである。このデータは、社会保障制度及び租税による所得再分配の実態を明

らかにすることを主な目的として 3 年ごとに作成されており、公的生活保護の受給に関する設問項目などが含まれていることから、低所得世帯のミクロ的な分析をする際に有用で

ある。1 本稿の構成は以下のとおりである。2節では、貧困層内における低所得者に所得を移転し

た場合にどの程度貧困が減少するかを表す分配感応度の指標(poverty aversion)について定義を行い、様々な貧困指標における分配感応度の比較を試みる。3節では、Atkinson(1987)などの分析にしたがい、FGT指標、CHU指標、Watts指標などの分配感応的な貧困指標における貧困レベルの順位付けがどのような条件の下で必ず一致するかを考察する。 4節では、実際に『所得再分配調査』のデータを用いて、日本の貧困レベルの推移を総合的に把握することを試みる。貧困線は一定にしたケースを扱い、貧困レベルの推移の頑健性

や、指標の選択についての検討を行う。分析の過程において、Jenkins & Lambert(1998)の TIP Curveが用いられる。5節では、結論と今後の展望を述べる。

2. 分配感応度と貧困指標 貧困指標の分配感応度を定義するために、まず、n人の個人からなる所得分配

),,,( 21 nxxxX = を考える。 ix は、個人 iの所得(通常は可処分所得)であり、非負とする。また、 nxxx ≤≤≤ 21 とする。したがって、我々が考える所得分配の集合は以下の

ように表現できる。

=Ψ :n }),,,({ 21 DxxxxX in ∈= │ +⊆ RD (2.1)

次に貧困指標を、関数 Pで表現する。所得分配と貧困線が与えられた時、関数 Pの値によって、貧困のレベルが示されることになる。ある所得分配 X と貧困線 zに対して、加法分離可能な貧困指標Pは以下のように表現される。

∑=

=n

ii zxp

nzXP

1

),(1):( (2.2)

ここで、 ),( zxp は、貧困線と自分の所得とのギャップから生じる個人の喪失感

1 尚、本研究では、小島(2002)と同様、「可処分所得がゼロ以下の世帯」は、データに矛盾があるために排除し、データクリーニングを行っている。

3

(deprivation)を示した関数であり、喪失感関数(deprivation function)と呼ぶことにする。zx <≤0 で 0),( >zxp であり、 zx ≥ で 0),( =zxp である。さらに、 ),( zxp は zx < のと

き xに関して二階微分可能であり、zに関して微分可能であると仮定する。これらの微分は、それぞれ xp , xxp , Zp で表現される。 (2.2)で表現された貧困指標 P は対称性の公理(symmetry axiom)2、焦点公理(focus axiom)3 を満足する。また、 Pは複製不変の公理(replication invariance axiom)4 も満たしている。もし、 ),( zxp が連続であれば、Pは連続性の公理(continuity axiom)5 を満たす。

),( zxp にさらに制約が加えられると、その他の公理も満たされることになる。 zx <≤0に含まれる全ての xにおいて 0<xp ならば、Pは単調性の公理(monotonicity axiom)6 を満たす。さらに、 zx <≤0 に含まれる全ての xにおいて 0>xxp ならば、P は移転公理(transfer axiom)を満たす。そして、全ての zにおいてもし 0>zp ならば、Pは貧困線上昇公理(increasing poverty line axiom)7 を満たす。貧困指標で議論される公理の詳細な説明に関しては、表 2-1、表 2-2を参照されたい。様々な貧困指標の喪失感関数の形状を『所得再分配調査』の 2002年のデータを用いて表したものが、図 2-1である。貧困率(Headcount Ratio)は、単調性の公理、移転公理をともに満たしておらず、貧困の強度を測るうえで有用である貧困ギャップ率(Poverty-gap Ratio)も、単調性の公理は満たすものの移転公理は満たしていないことが図 2-1から読み取れる。8 本稿では、Watt’s Measure、FGT指標など、

2 ある所得分布ベクトル xを置換したベクトル yを考える時、 );();( zyPzxP = が成り立つ

場合、貧困指標は対称性があると言う。すなわち、貧困指標 Pは、2人が所得を交換することによって変化することはない。ただし、世帯所得で貧困を計測する場合、等価所得を推

計しておく必要がある。 3 ある所得分布ベクトル x に非貧困層の追加されたベクトル y を考える時、

);();( zyPzxP = が成り立つ場合、貧困指標は焦点公理(focus theorem)を満たすと言う。すなわち、焦点公理を満たす P は非貧困層の所得分布から独立している。ただし、貧困線(Poverty line)の決定が、Pに影響を与える事は許容する。 4 ある所得分布ベクトル xを k個複製したベクトル yを考える時、 );();( zyPzxP = が成り

立つ場合、貧困指標 Pは複製不変の公理(replication invariance)を満たすと言う。すなわち、貧困指標Pの値は、いくつかの同一の集団をプールすることによって変化することはない。 5 公理を満たす場合、貧困指標 Pは、所得 xの連続関数である。 6 「他の条件が一定のとき、貧困線以下の貧困層の所得の低下は貧困度を必ず上昇させる」という公理。 7 公理を満たす場合、Pは貧困線(Poverty line)Zの増加関数である。

8 貧 困 ギ ャ ッ プ 率 は 、 ( )∫ −z

dxxfzxz

0 )()( で 算 出 さ れ る 。 Headcount Ratio

( ∫=z

dxxfHR

0 )( )と Income gap ratio( ZIGR P1 μ−= )をかけたものが Poverty-gap

4

移転公理を満たす分配感応的な貧困指標Pを分析の中心に据える。9 2.1 分配感応度の指標 移転公理や他の公理を満たす 2 つの貧困指標が与えられた時、どのようにして、我々はこの 2 つの貧困指標の差異を表現したらよいだろうか。なぜこれらの 2 つの指標が、所得分布を異なってランク付けする場合があるのだろうか。この問題に対して、貧困指標の差

異は分配感応度の差異によって生じており、分配感応度に差異があるために貧困の順序付

けに相違が起きる場合があると主張したのが Zheng(2000)である。すなわち、分配感応的な貧困指標Pの差異は、所得分配の変化に反応する程度によって特徴付けられるのである。この反応の程度を Zheng(2000)は「貧困指標の分配感応度」として定義している。 この「貧困指標の分配感応度」を理解するために、もう一度、移転公理(transfer axiom)について述べておく。今、貧困線以下の所得を持つ 2 人の貧者が存在すると想定する。

zxx << 21 である。移転公理が成り立つ場合、 0),(),( 21 << zxpzxp xx のため、 1x の所得増加は、 2x の同額の所得増加よりも貧困レベルを減らすことになる。したがって、貧困指標が分配感応的である場合、貧困の削減は所得増加の量だけでなく、所得が増加する貧者

の元々の所得レベルによっても影響を受けているのである。そのため、分配感応度の指標

は、 1x と 2x における少量の所得増加がもたらす貧困削減の程度の相対的な差異を示したものであり、以下のように定式化できる。

]),(/[)],(),([ 121 dxzxpdxzxpzxp xxx − (2.3)

この指標は、dxが 2x に加えられた場合に比べて、 1x に加えられた場合、貧困が相対的にどの程度削減されるかを示す指標として有用である。さらに、 dxxx += 12 とすると、以下

の指標を得る。 dxzxpzxpdxzxpdxzxpzxp xxxxxx )],(/),([)],(/[)],(),([ 11121 −≅− (2.4)

そのため、Zheng(2000)は、 ),(/),( 11 zxpzxp xxx− を所得 1x における分配感応度の指標として用いている。したがって、 zx < を満たす全ての xに対して、喪失感関数 ),( zxp の

Ratioになる。[ Pμ : 貧困世帯の平均所得] 9 分配感応的な貧困指標 P は以下のように表現することも可能である。詳細は

Lambert(2001)参照。

∫=Z

dxxfxZFP0

)())(()( ΓΦ│ :⎭⎬⎫

⎩⎨⎧ −= 0,1max)(

ZxxΓ

0 0)( ,0)( ,0)0( >>′′>′= ΓΓΦΓΦΦ allfor

5

分配感応度を計測する指標 ),( zxs p は以下のようにまとめられる。

),(),(

),(zxpzxp

zxsx

xxp −= (2.5)

上記の分配感応度 ),( zxs p は Arrow-Prattの絶対リスク回避指標 )(/)()( xuxuxr ′′′−= に

非常に類似しており、以下のような命題が成り立つ。 命題 1. [Zheng(2000)] 貧困線zと 2つの喪失感関数 ),(),,( zxqzxp が与えられた時、以下の 2つの記述は等し

い。

(ⅰ) ),0[ z に含まれる全ての xにおいて、 ),(][),( zxszxs qp >≥

(ⅱ) ),0[ z に含まれる xに対して、 ),( zxp は ),( zxq の[強い]凸関数である。

証明は Pratt(1964)を参照。ただし(ⅱ)の表現に注意が必要である。このケースでは、

Pratt の条件のように凹関数ではなく凸関数とするのが正しい。これは ),( zxp が xの減少関数になっているためである。上記の(2.5)式で定義された分配感応度の指標は「貧困回避」の指標としても解釈できる。 命題 1は、2つの喪失感関数 ),(),,( zxqzxp の関係を図示することによって、どちらの

貧困指標の方が分配感応度が高いかを視覚的に把握できるケースがあることを示してい

る。 2.2 貧困指標別にみた分配感応度

(2.5)式の分配感応度 ),( zxs p により、我々は分配感応的な貧困指標の感応度を推計するこ

とができる。10 分配感応度の程度によって、貧困指標をグループ化することも可能である。前節で述べたように、移転公理は累進的な所得移転を必要とするが、貧困レベルが所得分

配の変化によってどの程度影響を受けるかという、影響の度合いまでは考慮しておらず、

貧困指標に対して 0),( >zxs p を要求するのみである。一方、 xzzxp −=),( (貧困ギャッ

プ)の線形変換で表されるクラスの貧困指標は、単調性の公理が満たされているが分配感

応度は 0),( =zxs p である。すなわち、移転公理を満たすタイプの貧困指標は、

xzzxp −=),( (貧困ギャップ)クラスの貧困指標よりも分配感応度が高いのである。以下

10 尚、元の貧困指標に線形の変換を加えただけでは分配感応度は変化しない。

6

では、代表的な貧困指標の分配感応度について計測を行う。 Clark et al.(1981)、Watts(1968)指標の分配感応度

Clark, Hemming and Ulph(1981)の貧困指標(CHU 指標)の喪失感関数は、

])/(1[1),( β

βzxzxp −= (β<1)で定義されている。(2.5)より分配感応度を計算すると、

xzxs /1(),( β)β −= となる。したがって、βが小さくなるにつれて、分配感応度が高まる

ことがはっきりと示される。この意味では、(1-β)を貧困回避のパラメータとして使用

することができる。ある所得 xが与えられた時、βが小さいほど、CHU指標は貧困回避的になる。β=0のとき、CHU指標はWatts(1968)の指標11 と一致するため、βが負の値をとる場合の CHU指標はWatts(1968)の指標よりも分配感応度が高い。命題1より、βの値が負である Clarkの指標の ),( zxp は、Watts(1968)の指標の喪失感関数 ),( zxq の増加関数、

凸関数である。尚、 xが増加するにつれて分配感応度は減少する。 Foster et al.(1984)指標の分配感応度

Foster, Greer and Thorbecke(1984)の貧困指標(以下 FGT指標)12 の喪失感関数は、α)/1(),( zxzxp −= ( α > 1 ) で あ る 。 (2.5) よ り 分 配 感 応 度 を 計 算 す る と 、

)/()1(),( xzzxs −−= αα となる。したがって、この指標はαが高まるにつれて、分配感応

度が高まる性質を持つ。(α-1)の値が貧困回避のパラメーターとして使用できる。もし、

仮にαの値が1である場合、Fosterの貧困指標は貧困ギャップ率(poverty gap ratio)と一致し、所得分配の変化には反応しない指標となる。尚、xが増加するにつれて、分配感応度は増加する。また、α>2の時、移転感応の公理(transfer sensitivity axiom)を満たす。13 FGT指標と CHU指標の分配感応度の比較

FGT指標と CHU指標の分配感応度に関しては、完全な不等号関係はない。 zxβα

β

−−

>1

の時、 ),(),( zxszxs βα > であり、 zxβα

β

−−

<1

の時、 ),(),( zxszxs βα < となる。したがっ

て、2つの貧困指標を比べた場合、Clark 指標は比較的低所得において分配感応度が高く、Foster指標は比較的高所得において分配感応度が高いということになる。興味深いことに、

11 ∫ −=zWATTS dxxfxzP

0 )()log(log

12 =FGTP ( )∫ −z

dxxfzxz

0 )()( α (α>1)

13 Kakwani(1980a)によって考案された公理である。公理の詳細は表 2-1参照。

7

βとzを固定してαを∞に近づけたケースでは、β‐α

β−1は 0に近づくため、この場合 Foster

指標は ),0[ z の範囲における全ての xにおいて Clark 指標よりも分配感応度が高くなる。

一方で、αと zを固定してβを‐∞に近づけたケースでは、β‐α

β−1は 1にちかづくため、こ

の場合Clark指標は ),0[ z の範囲における全ての xにおいてFoster指標よりも分配感応度が高くなる。 移転公理を満たす様々な貧困指標の分配感応度を『所得再分配調査』(2002)のデータを用いて算出したものが、図 2-2である。貧困ギャップ率(Poverty-gap Ratio)の分配感応度は、どの xにおいても 0 であり、冒頭で述べたように、貧困層内の所得移転によって影響を受けないことがわかる。また、CHU指標は、βが小さくなるにつれて、全ての等価可処分所得 xで分配感応度が高まり、FGT 指標はαが大きくなるにつれて分配感応度が高まることが図からも読み取れる。CHU指標は xが増加するにつれて分配感応度は減少するのに対し、FGT指標は xが増加するにつれて、分配感応度が増加する。すなわち、前者の貧困指標は、最下層に位置する貧困者の所得変化に関して、相対的により大きなウエイトを置くのに対

し、後者は貧困ライン付近に位置する貧困者の所得変化に関して、より大きなウエイトを

置いている。 所得に対して分配感応度一定の貧困指標 尚、Zheng(2000)は、所得に対して一定の分配感応度(constant distribution sensitivity:以下 CDVと呼ぶ)を持つ貧困指標も考察の対象にいれている。CDV指標としては、

1),( )( −= −xzrezxp ( )0( >γ が例示されている。この場合、分配感応度 ),( zxsr はγとなり一定である。したがって

21 xx < のとき、 2x のかわりに 1x に所得が追加された場合の追加的な貧困の削減は、 12 xx −が一定である限りいつも同じになる。低所得レベルでは、CDS指標は FGT指標よりも分配感応度が高いが、CHU指標よりは分配感応度が低い。 3. 分配感応的な貧困指標における貧困の順位付けの命題 本節では、貧困ラインが一定のケースにおいて、FGT指標、CHU指標、Watts指標などの分配感応的な貧困指標における貧困レベルの順位付けがどのような条件の下で必ず一致

するかを考察する。全ての分配感応的な貧困指標において、貧困順序が一致するための条

件は、Atkinson(1987)で導出されている。彼は、共通の貧困ラインzのもとで、 0),( >zxsとなる全ての貧困指標において、 ):();( zYPzXP ≥ となるための必要十分条件が、

∫ ∫≥ξ ξ

0

0 )()( dttFdttF YX ),0[ zallfor ∈ξ  (3.1)

であることを示した。ここで XF と YF はそれぞれ所得分布 YX , の累積密度関数である。ま

8

た、Foster and Shorrocks(1988)は、この確率優位の条件(stochastic dominance condition)は、 zx < の部分に対象を限定した時の一般化ローレンツ優位の条件と等しいと指摘してい

る。すなわち、 0),( >zxs となる全ての貧困指標において、 ):();( zYPzXP ≥ となるため

の必要十分条件は、 kは 1、2、・・・、nに対して、∑ ∑= =

≤k

i

k

iii yx

1 1

ˆˆ が成立することである。

ここで ii yx ˆ,ˆ はそれぞれ zyzx ii << , を満たす ii yx , をさす。 近年では、ローレンツ曲線による表現を応用し、Jenkins & Lambert(1998)が TIP Curve

と呼ばれる新しい優位曲線によって貧困の推移を分析している。ここでは累積貧困ギャッ

プ ∑ =−

k

i ixzn1

)ˆ()/1( が利用されている。この TIP Curveを用いて我が国の 90年代後半の

貧困の推移を分析した結果は 4節で論じることにする。TIP Curve を分析に使用することの大きな利点は主に 2 つある。第一は、貧困の頻度、強度、不平等度が曲線の形状によって視覚的に把握できることにある。また、第二は、各年度の TIP Curveを比較することにより、貧困率、貧困ギャップ率だけでなく、分配感応的な貧困指標において貧困レベルの

順序付けに整合性があるかどうかがわかることにある。これは、Spenser and Fisher(1992), Jenkins and Lambert(1998), Zheng(2000)による以下の命題から導かれる。 命題 2 [Spenser and Fisher(1992), Jenkins and Lambert(1998), Zheng(2000)] 貧困ラインzが固定されているケースで、 0),( >zxs となる全ての貧困指標において、

):();( zYPzXP ≥ となるための必要十分条件は、 kは 1、2、・・・、nに対して、

∑ ∑= =

−≥−k

i

k

iii yzxz

1 1

)ˆ()ˆ(

が成立することである。14 すなわち、ある年度における所得分配 X の TIP Curveが、他の年度における所得分配YのTIP Curveよりも常に上方に位置する場合、 0),( >zxs となる全ての貧困指標において、

):();( zYPzXP ≥ が成立するのである。尚、喪失関数の優位条件は、切断された一般化ロ

ーレンツ優位の条件に等しい。また、Foster and Shorrocks(1988)で示されたように、切断された一般化ローレンツ優位の条件が成立している場合、 zxzxp /1),( −= ( zx < )のよ

うに、貧困指標が所得ギャップ率(income gap ratio)の形をとるとき、 ],0( z の範囲にある全

ての貧困ライン 1z に対して、 ∑ ∑= =≥

n

i

n

i ii zypnzxpn1 1 11 ),()/1(),()/1( が成り立つ。そして、

命題 2に付随して、以下の系が導かれる。 14 証明は Shorrocks(1998),Zheng(2000)参照。

9

系 2.1 [Atkinson(1987)、Zheng(2000)] 貧困ライン 1z が固定されているケースで、 0),( >zxs となる全ての貧困指標において、

):();( 11 zYPzXP ≥ が成立している場合、 ],0( 1z の範囲にある全ての貧困ライン 2z に対

して、 ∑ ∑= =≥

n

i

n

i ii zypnzxpn1 1 22 ),()/1(),()/1( が成り立つ。

尚、Zheng(2000)は、 ),(),( zxlzxs ≥ のように分配感応度に下限がある場合に関して貧困

順序の考察を行っている。例えば、 ),( zxl は CHU指標、FGT指標、CDS指標の分配感応度のように、 x/1( β)− 、 )/()1( xz −−α 、γの形をとるかもしれない。 ),(),( zxlzxs ≥ を

満たす貧困指標を「分配感応度に下限 ),( zxl がある貧困指標」と呼ぶことにする。そして、

分配感応度が下限 ),( zxl である場合の貧困指標を ),( zxq で表現する。すると、分配感応度

に下限がある全ての貧困指標の集合 )),(( zxqΞ は、 ),( zxq の増加関数であり凸関数となる。

)),(( zxqΞ は以下のような性質を満たす貧困指標の集合である。

⎭⎬⎫

⎩⎨⎧

∈≥==Ξ ∑=

),0[ ),(),( ),(1);(:)),((1

zxallforzxszxszxpn

zXPzxq qp

n

ii  

xzzxq −=),( ならば、 )),(( zxqΞ と Atkinson(1987)によって考案された分配感応的な貧困指標は一致する。また、 )),(( zxqΞ のクラスに属する全ての貧困指標では、以下の命題が

成立する。 命題 3. [Zheng(2000)] 与えられた貧困ラインzのもとで、2つの所得分布 nn YX Ψ∈Ψ∈ , の貧困レベルの比

較を行うことを考える。 )),(( zxqΞ に属する全ての貧困 P に対して );();( zYPzXP ≥

が成り立つための必要十分条件は、

∑ ∑= =

≥k

i

k

iii zyqzxq

1 1

),,(),( nk ,...,2,1= (3.2)

である。15 すなわち、分配感応度が最も低い貧困指標において(3.2)の関係が成立しているのであれば、その指標よりも分配感応度が高い指標も同じような順位付けを導き出すということで

ある。命題 2、命題 3が成立しているかどうかは、前述のとおり、Jenkins and Lambert(1998)の TIP Curveによって視覚的に把握することが可能であり、『所得再分配調査』を用いての実証は次節で行う。 4. TIP Curveを用いた日本の貧困分析 本節では、90年代以降における日本の貧困の推移に関して、貧困率(Headcount Ratio)、

15 証明は Zheng(2000),pp.126参照。

10

貧困ギャップ率(Poverty gap ratio)だけでなく、2節、3節において議論した分配感応的な貧困指標を用いて分析し、どのような属性を持つ世帯が貧困世帯となっているかを考察す

る。また、3節での Atkinson(1987)、Zheng(2000)等の命題を踏まえ、分配感応的な貧困指標による貧困指標の順位付けに整合性があるかどうかを確認し、貧困順序の頑健性に対す

る考察も行う。 貧困を分析する際の最も厄介な問題は、貧困層を定義するための境界となる貧困線をど

のようにして設定するかということであろう。先進国では、貧困線を可処分所得の平均値

の 50%や中央値の 50%に設定し、貧困を相対的に捉えるアプローチが主流である。16 すなわち、経済成長とともに世帯に必要な収入額も上昇すると考え、貧困ラインも上方へシフ

トするのである。反対に経済が低迷しており、一国全体の所得が低下した場合は、貧困ラ

インも下落する。自国内の各世帯の相対的関係によって貧困を定義したい場合や、同等の

経済力を持つ先進諸国同士で貧困レベルの国際比較を行う場合は、上記の相対的アプロー

チは非常に有用である。17 一方、世帯ごとに衣食住などの最低限度の生活水準を満たす収入額を貧困線( iZ )に設定し、貧困を絶対的に定義するという考え方もある。この手法の利点は、各世帯の世帯属

性にあわせた貧困線を設定することにより、より貧困を正確に把握することができる点に

ある。日本では、最低限度の生活水準を満たす収入額を定義する際には、厚生労働省が毎

年定める世帯類型別の生活保護基準額を用いることができる。18 本稿では、貧困線を一定の基準に基づいて設定した相対的アプローチを採用し、日本の貧

困の推移を把握することを試みる。19 表 4-1 、表 4-2は、『日本における等価可処分所得を用いた貧困指標の年次推移』を示し

たものである。20 表 4-1は、貧困線をmedianの 50%に設定したケースであり、表 4-2は貧困線をmedianの 40%に設定したケースである。いずれの表においても、96年以降、日本において貧困率(Headcount Ratio)、Poverty gap ratio、FGT指標などの種々の貧困指標が増加傾向にあることが読み取れる。貧困線を medianの 50%に設定した表 4-1では、貧困率が 15.6%(1996)、16.4%(1999)、17.3%(2002)と、年々上昇している。 尚、図 4-1は、表 4-1における日本の貧困の頻度、強度、不平等度の推移を視覚的に図示し

16 OECD諸国の所得分配や貧困を分析した OECD(2004)の報告書を参照。 17 ただし、このアプローチによって考察される先進国の貧困は、食糧危機に瀕している発展途上国の貧困とは実情が違うものであることは認識する必要があるだろう。たとえ、あ

る OECD諸国の貧困率(Headcount Ratio)が 25%と算出されたとしても、25%が今日明日の食糧に困るほど餓えているわけではないのである。これは、相対的アプローチでは、先

進国の貧困線が発展途上国の貧困線より高く設定されることから生じる。 18 日本の生活保護基準の算定方式の変遷は和田・木村(1998)を参照。 19 本稿で使用される「所得」は世帯単位とする。 20 等価所得比率(e)としては、八木・橘木(1996)が『全国消費実態調査』のデータを用いて計算した等価所得比率を使用している。ただし、八木・橘木(1996)の等価所得比率は 7人世帯までしか計算されていないため、8人以上の世帯には e=0.5(世帯人員の平方根)を用いた。

11

たものであり、Jenkins and Lambert(1997)によって考案された TIP(Three Indices of Poverty) Curve である。横軸は等価可処分所得を低い方から順番に並べたものであり、縦軸は個人の喪失感を示す ),( zxp i の累積値で表される。TIP curveがちょうど水平になるときの横軸の値が Headcount Ratio(貧困率)であり、水平になるときの縦軸の値は Poverty gap Ratioとなる。また、貧困層の所得分布の不平等度は、Tip Curveの曲率(concavity)の程度で示される。この図を参照すると、02年の Tip Curveは、96年の Tip Curveよりあらゆる p ( 10 ≤≤ p )で上位に位置(dominate)しており、3節の命題 2が成立していることがわかる。すなわち、各年の可処分所得の median の 50%に貧困線を設定した場合、本稿で議論している分配感応的な貧困指標 Pは、3.1節の命題 2より全て 02年の方が、96年より高い値をとり、貧困レベルの順序付けに整合性があることがわかる。これは、表 4-1 のWatts指標、FGT指標の値が、いずれも 1996年に比べて 2002年の方が高くなっていることからも確認できる。ただし、99年と 02年に関しては TIP Curveが交差する箇所があるため、分配感応的な全ての貧困指標 Pの順序付けが全て一致するとは限らない。21 例えば、表 4.1 によると、Watts 指標に関して言えば 1999 年の方が、2002 年より貧困レベルが高くなっている。すなわち、低所得者の貧困に大きなウエイトをおいた Watts 指標を用いた場合、99 年の方が貧困のレベルが高いという結果が得られているのである。貧困の強度を示す Income gap Ratioも、1999年が 39.1%で最も高い。可処分所得の中央値の 50%を貧困線とするならば、貧困の頻度が最も高いのが 2002年であり、貧困層に陥った世帯の生活困窮度が最も高いのが 1999年であると言える。ただし、99年から 02年にかけての Income gap ratioの低下は、従来から貧困層であった家計の世帯収入が増加することによって貧困が緩和されたために生じたのではなく、元々中流層であった家計が貧困ラインを割り込み、

新たな貧困世帯が増加したためと考えられる。貧困ラインよりわずかに下のラインにいる

家計の数が増えれば、Income gap ratioは減り、見かけ上は貧困の強度が緩和されたように見えてしまう。しかし、96年に 292万円であった等価可処分所得の medianが 2002年には 267万円にまで減少し、貧困ラインが約 25万円も低下しているにも関わらず貧困率が拡大している現状を考慮すると、実際には日本における貧困レベルは 21世紀に入ってからも拡大中と見てよい。貧困率が一番低かった 96年の貧困線(147.5万円)を他の年にも適用したケース(表 4-3)では、2002 年において貧困線を下回っている世帯は 20%を超える。また、この場合、Watts指標に関しても 2002年の貧困レベルが 1999年の貧困レベルより高いという推定結果が得られている。分配感応的な貧困指標が、3節の Zheng(2000)の条件(命題 2)を満たしており、各年度の貧困順序に整合性があるかどうかを確認した表は、表4-5に示されている。 尚、表 4-4は『貧困に影響を与える指標の年次推移』を示したものであるが、この表によると、失業率の上昇、所得格差の増大、経済成長率の鈍化、高齢化の進展、正社員採用の

21 累積世帯比率が 0.004以下の部分において、1999年の TIP曲線と 2002年の TIP曲線の交差が数回見られる。図 4-2参照。

12

抑制などの複合的要因によって、日本全体の貧困度が増していることがうかがえる。 また、貧困世帯の特徴をより詳しく考察するため、世帯類型別、世帯主の年齢階層別に

96年から 02年における貧困指標の推移を示したのが表 4-6である。表を参照すると、母子世帯、高齢者世帯の貧困レベルが一貫して非常に高いことがわかる。母子世帯の貧困率は、

ともに 64.4%(1996)、64.4%(2002)であり、貧困ギャップ率(Poverty gap Ratio)は 31.0%(1996)、29.7%(2002)である。これは相当に高い数字である。母子世帯の半数以上が、貧困層に陥り苦しい生活を余儀なくされている。母子世帯は数が少ないため、貧困世帯に占め

る割合はどの年度においても 6%以下となっているが、他の先進諸国と同様、貧困世帯の代表例と言える。日本の離婚率は、他の先進諸国と比べると比較的小さいが、近年はその傾

向が薄れてきているため、今後も離別を原因とした母子世帯の増加が懸念される。22 ただし、Watts指標、FGT指標など、分配感応的な貧困指標によると、96年から 02年にかけて貧困レベルは減少しており、貧困層内での所得格差は若干ではあるが縮小している。 また、高齢者世帯について注目すると、特に高い貧困レベルであるのが単身の高齢者世

帯である。単身高齢者世帯の貧困率は、49.2%(1996)、46.0%(2002)にのぼり、貧困ギャップ率(Poverty gap Ratio)は 21.5%(1996)、19.9%(2002)である。単身高齢者世帯の貧困率、貧困ギャップ率は若干減少傾向にあるが23、高齢化の進展により、単身高齢者世帯の全世帯

に占める割合は年々上昇している。そのため、他の世帯類型に比べて元々貧困率が高い単

身高齢者世帯の貧困世帯全体に占める割合も、20.8%(1996)から 21.6%(2002)と年々上昇しており、90 年代後半以降の日本における貧困レベルの上昇の一つの要因になっている。日本の高齢化は、国際的に見ても非常にハイスピードで進んでおり、今後も日本全体の貧困

率の上昇に大きな影響をもたらすと考えられる。 また、勤労世代の単身世帯が貧困世帯に占める割合(poverty share)が、10.4%(1996)から

16.1%(2002)に上昇しているのも特徴的である。これは核家族世帯が、96 年以降 poverty shareを減少させているのと対照的と言える。 そして、表 4-6 を世帯主の年齢階層別に見た場合、もっとも特徴的なのが、世帯主が 65歳以上の世帯が貧困世帯に占める割合(poverty share)の増加である。1996年には 41.6%であったが、2002年には 47.0%までに達しており、5割に迫る勢いである。先述の通り、高齢化の進展により今後もこの動きは続くと考えられる。ただし、貧困率、Watts指標、FGT指標は、28.2(1996)、25.8(2002)と減少傾向にある。一方、30 歳以上の勤労世代の貧困レベルは、96年以降、総じて上昇傾向にある。2002年においては 50代後半の貧困率が 13.7%

22 『国勢調査』によると、1989年以降、離婚率は一貫して上昇しており、1998年には 1.94(24万 3000件)となっている。離婚率自体は、他の先進諸国と比べると大きな値ではないが、1989年の 1.26から比べて急激な増加となっている。 23 ただし、貧困線を高齢者世帯の等価可処分所得の中央値の 50%に設定した場合は、貧困率は、27%(1996)、37.1%(2002)、貧困ギャップ率は 12.0%(1996)、15.8%(2002)となっており、種々の分配感応的な貧困指標においても、単身高齢者世帯の貧困レベルが上昇して

いるという推定結果が得られる。

13

にまで高まっており、分配感応的な指標に関しては、CHU指標(β=0.5)が、96年以降一貫して上昇している点が注目される。近年、多くの企業において、人件費を抑制するための

正社員の採用減少、賃金・賞与のカット、非正規労働者雇用の拡大が行われているが、これ

らの現象が貧困率上昇の背景にあると思われる。本稿の推定結果では、世帯主の年齢が 20代である世帯の貧困率は、96年から 02年にかけて減少しており、若年世帯の貧困の拡大は表面化していない。しかし、これは非正規雇用で経済力の低い 20代の人々が、親と同居して自立を遅らせているケースが多いためであると推測される。この点については、より詳

細な検討が必要であろう。 5. おわりに 本稿では、Zheng(2000)が考案した貧困指標における分配感応度について分析を行い、これまで我が国の貧困分析に用いられることが少なかった分配感応的な貧困指標(FGT指標、CHU指標、Watts指標など)の特徴、相違点について検討した。そして、これらの指標とJenkins & Lambert(1998)の TIP Curveを用いて、90年代後半以降における日本の貧困の推移に関して分析を行った。分析結果からは、我が国では 90年代後半以降、多くの貧困指標において貧困レベルの上昇が見られ、貧困が拡大中であることが確認された。とりわけ、

1996 年から 2002 年にかけての貧困レベルを考察すると、3 節の命題 2[Zheng(2000)]が成立しており、『所得再分配調査』のデータを用いた場合、加法分解可能且つ分配感応的な全

ての貧困指標において、2002 年の貧困レベルは 1996 年の貧困レベルより高いことが示された。これらの主な原因としては、①高齢化の進展によって元々貧困率(Headcount Ratio)、貧困ギャップ率(Poverty-gap Ratio)が高かった単身高齢者世帯が全世帯に占める割合が増加していること、②勤労世代の単身世帯の割合も上昇し、貧困ギャップ率が増加している

こと、③90年代後半以降、多くの企業で人件費の抑制が進められる中で、30代以上の勤労世代の貧困ギャップ率が上昇していることなどを指摘した。 また、貧困の順位付けに関して分配感応度がどのようなインプリケーションを与えるか

についても調べた。図 2-2の「分配感応度の相違」からも読み取れるように、CHU指標は所得xが上がるほど分配感応度は低くなる一方で、FGT指標は所得 xが上がるほど分配感応度は高くなる。また、図 2-1の「貧困指標における喪失感関数の形態」からは、貧困ライン以下の貧困層における個々の喪失感(deprivation)を CHU 指標は、貧困ギャップ率

(Poverty gap ratio)よりも高く評価しており、FGT(α>1)指標は低く評価していることがわかる。そのため、2つの貧困指標が背後に想定している貧困に対する価値判断はかなり異なっている点に注意する必要がある。前者の指標は、最下層に位置する貧困者の所得変

化により大きなウエイトを置くのに対し、後者は貧困ライン付近に位置する貧困者の所得

変化により大きなウエイトを置くのである。 FGT指標、CHU指標のどちらの指標を重視するべきか、もしくは分配感応的な指標ではなく、解釈が容易である貧困率(Headcount Ratio)、貧困ギャップ率(Poverty gap Ratio)等

14

の指標を重視するべきかに対しては、研究者の間でも明確なコンセンサスは得られていな

い。一つの解決策は、やはり様々な特性を持った種々の貧困指標を推定し、貧困の推移を

多面的・総合的に把握することであろう。もとより貧困には頻度、強度、不平等度、持続

性など多様な側面があるわけであるから、一つの特定の貧困指標に過度に依存するのは危

険である。ただし、時代を通じて貧困に対する意識に変化が見られるのであれば、その意

識変化を組みいれて貧困指標、パラメータの選択を行うことが望ましいといえる。

Amiel(1999)は、再分配政策における水漏れ(leaky-bucket)がどの程度まで許容されるかに関する実験を行い、Atkinson指標における適切なパラメータの推定に関して考察を行っている。この Amiel(1999)の研究は、日本の貧困分析において貧困指標の適切な選択を考察するうえで大きな示唆を与えるものである。貧困線付近にいる貧困者により手厚い保護を与

えるべきか?それとも、最低レベルの所得しか得ていない極貧の層を保護することに力を

注ぐべきか?このように、貧困者への再分配政策に対する国民の選好意識を調査した先駆

的な研究として、上田・長谷川(2005)があるが、そのような一連の調査結果を踏まえたうえで、適切と思われる貧困指標、あるいはその指標のパラメータを推定する研究は、著者の

知る限り日本ではまだ取り組まれていないと考えられる。これは著者達の今後の課題であ

る。

-参考文献- Amiel, Y., J. Creedy., and S. Hurn(1999): “Measuring Attitudes Towards Inequality,”

Scandian Journal of Economics, Vol.101, No.1, pp.83-96. Atkinson, A. B(1987): “On the Measurement of Poverty,” Econometrica, Vol.55, No.4,

pp.749-764 Atkinson, A.B(1992): “Measuring Poverty and Differences in Family Composition,”

Economica, Vol.59, No.4, pp.1-16 Brandolini, A.(2003): “Urban Poverty in Developed Countries,” in Inequality, Welfare

and Poverty: Theory and Measurement, volume 9, ed. F. Cowell: Elsevier Science Ltd. ,pp.309-343

Chambaz, C., and E. Maurin(1998): “Atkinson and Bourguignon’s Dominance Criteria: Extended and Applied to The Measurement of Poverty in France,” Review of Income and Wealth, Vol.44, No.4, pp.497-513.

Foster, J., and A. Shorrocks(1988): “Poverty Orderings,” Econometrica, Vol.59, pp.173-177

Jenkins, S. P. and Lambert, P. J. (1997) : “Three ’I’s of Poverty Curves, with an Analysis of UK Poverty Trends,” Oxford Economic Papers, New Series, Vol.49, No.3, pp.317-327

15

Jenkins, S. P. and Lambert, P. J. (1998) : “Three ’I’s of Poverty Curves and Poverty Dominance : TIPS for poverty analysis. Research on Economic Inequality, Vol.8, pp.39-56

Lambert, P. J. (2001): The Distribution and Redistribution of Income 3rd edition : Manchester University Press.

OECD(2004): Trends in Income Distribution and Poverty in OECD Countries over the second half of the 1990s.

Shorrocks, A.(1998): Deprivation profiles and deprivation indices, in “The Distribution of Welfare and Household Production: International Perspectives” (S. Jenkins, A. Kapteyn, and B. van Praag, Eds.), pp.250-267, Cambridge University Press, London.

Spencer, B., and S. Fisher(1992): “On comparing distributions of poverty gaps, Sankhya,” Indian Journal of Statistics, Series B, Vol.54, pp.114-126.

Zheng(2000): “Minimum Distribution-Sensitivity, Poverty Aversion, and Poverty Orderings,” Journal of Economic Theory, Vol.95, pp.116-137.

阿部彩(2004)「補論「最低限の生活水準」に関する社会的評価」『季刊社会保障研究』

Vol.46,No.4, pp.403-414 上田一宏・長谷川光(2005)「貧困尺度の理論的検討について:アンケート調査による分析」 『日本福祉大学論集』(近刊) 厚生労働省編『国民の福祉の動向』[各年版] 小島克久(2002)「地域別に見た所得格差」『季刊社会保障研究』Vol.38 No.3,pp.229.238 駒村康平(2003)「低所得世帯の推計と生活保護制度」『三田商学研究』Vol.46 No.3 総務省統計局『住宅・土地統計調査』[各年版] 橘木俊詔(2004)「わが国の低所得者支援策の問題点と制度改革」『季刊社会保障研究』Vol.39,

No.4, pp.415-423. 山田篤裕(2000)「社会保障制度の安全網と高齢者の経済的地位」国立社会保障・人口問題研 究所編『家族・世帯の変容と生活保障機能』東京大学出版会 和田有美子・木村光彦(1998)「戦後日本の貧困 -低消費世帯の計測-」『季刊社会保障研究』

Vol.34, No.1, pp.90-102.

16

表 2-1 貧困指標と貧困尺度に関する公理

(Axiom poverty measurement and poverty measures)

注) ・Zheng(1997),Kakwani(1999),Lambert(2001)をもとにして、著者達が作成。

・H.Rは Headcount Ratio、IGRは Income gap Ratio、PGRは Poverty gap Ratio を表す。

・FGTは、Foster, Greer, and Thorbecke(1984)の貧困指標である。 ・公理を満足する場合は○、公理を満足しない、もしくは追加的な制約が必要になる

場合は×で表す。( ○*: α>2のとき、公理を満たす。) Type1の貧困指標: 貧困層の所得分配の変化に対して反応しない指標 Type 2の貧困指標: 貧困層内における貧困層の所得順位(ランク)が尺度として使用さ

れる指標。 Type 3 の貧困指標: 貧困層の所得分配の変化に対して反応し、サブグループへの分離が

可能な指標。

Type 1 Type 2 Type 3 公理(Axiom)

H.R IGR PGR SEN Kakwani FGT Watts Focus ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ Symmetry ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ Replication Invariance ○ ○ ○ × × ○ ○ Continuity × × ○ × × ○ ○ Increasing Poverty line × × × ○ ○ ○ ○ Regressive Transfer × × × × × ○ ○ Weak Transfer Sensitivity × × × × × ○* ○ Subgroup Consistency ○ ○ ○ × × ○ ○ Weak Monotonicity × ○ ○ ○ ○ ○ ○ Strong Monotonicity × × ○ ○ ○ ○ ○ Minimal Transfer × × × ○ ○ ○ ○ Weak Transfer × × × ○ ○ ○ ○ Progressive Transfer × × × × × ○ ○ Restricted Continuity ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ Decomposability ○ × ○ × × ○ ○ Nonpoverty growth ○ × ○ ○ ○ ○ ○

17

[表 2-2] 貧困指標Pに適用される公理

公理(Axiom) 公理の特徴

Focus

・ ある所得分布ベクトル xに非貧困層の追加されたベクトル yを考える時、

);();( zyPzxP = 。

P は非貧困層の所得分布から独立。(ただし、Poverty line の決定に影響を与える事は認める)

Symmetry

・ ある所得分布ベクトル x を置換したベクトル y を考える時、

);();( zyPzxP = 。

Pは 2人が所得を交換することによって変化することはない。(ただし、世帯の場合、等価所得を推計しておく必要あり)

Replication Invariance

・ ある所得分布ベクトル x を k 個複製したベクトル y を考える時、

);();( zyPzxP = 。

Pはいくつかの同一の集団をプールすることでは変化しない。 Continuity ・Pは所得 xの連続関数である。 Increasing

Poverty line ・Pは貧困線(Poverty line)Zの増加関数である。

Regressive Transfer

・ 少なくとも所得の提供者(donor)が貧困層である場合、regressiveな所得移転(格差を増やす移転)によって Pは増加する。

Weak Transfer Sensitivity

・ 所得分布ベクトル y において、ある貧困層 iy から彼より裕福な者 jy (貧

困層もしくは非貧困層)に所得がδ移転されて生じた所得分布ベクトルを

x、貧困層 ky から彼より裕福な者 ly (貧困層もしくは非貧困層)に所得

が同じくδ移転されて生じた所得分布ベクトルを  x*とする。

ikklij yyyyyy >>−=− ,δ が成立し、移転後に poverty line を誰も

飛び越えない場合、 );();( * zxPzxP > が成立。

Kakwani(1980a)が考案。 同じ所得移転額でも、低い所得の個人が提供者となった所得移転に対して貧困度のウエイトを高くする。

Subgroup Consistency

・ )()( ),()( '' ynynxnxn ′′=′′= で );();( ),;();( '' zyPzxPzyPzxP ′′=′′< が

成り立つ時、所得分布ベクトル x= ),,( ' xx ′′ y= ),( ' yy ′′ が与えられると、

);();( zyPzxP < が成立する。 [n:サンプルサイズ]

18

[表 2-2] 貧困指標 Pに適用される公理 (続き)

公理(Axiom) 公理の特徴 Restricted Continuity ・Poverty lineにおいて、Pは所得 xの連続関数である。

Weak Monotonicity ・ある貧困層の所得が減少するならば、Pは上昇する。 Strong Monotonicity ・ある貧困層の所得が増加するならば、Pは減少する。

Minimal Transfer

・ 2人の貧困層の progressiveな所得移転(格差を減らす移転)によって Pは減少する。反対に regressiveな所得移転(格差を増やす移転)によって Pは増大する。ただし、移転後に poverty lineをどちらも飛び越えないとする。

Weak Transfer

・ 少なくとも受益者が貧困層である場合、 2 人の貧困層のprogressiveな所得移転(格差を減らす移転)によって Pは減少する。反対に regressive な所得移転(格差を増やす移転)によってP は増大する。ただし、移転後に poverty line をどちらも飛び越えないとする。

Progressive Transfer ・ 少なくとも受益者(recipient)が貧困層である場合、progressive な所得移転(格差を減らす移転)によって Pは減少する。

Restricted Continuity ・Pは poverty lineにおいて xの連続関数である。

Decomposability

・ 貧困指標 P をいくつかのサブグループに対する貧困指標に分離することが可能である。

すなわち、 );()();()();( ' zxPnxnzxP

nxnzxP ′′

′′+

′= が成立する。

)]()()( ),([ xnxnxnxxx ′′+′=′′′=

Nonpoverty growth ・母集団に非貧困層を 1人追加した場合、Pは減少する。

19

図4-1 The TIP curve and three `I's of Poverty-等価可処分所得-

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

0.07

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 0.18

Cumulative population share

Cumulative sum of poverty gaps per capita

1996年(H8) 1999年(H11) 2002年(H14)

1996

15.6% 16.4%

1999

1.00

17.3%

2002MaximumPoverty(1999)

所得再分配調査より計算

5.7%

6.4%

6.7%

貧困線z=medianの50%

HeadcountRatio

Poverty gapRatio

Inequality

z(1996)=147.5万z(1999)=146.0万z(2002)=133.5万

20

図4-2 The TIP curve and three `I's of Poverty-等価可処分所得-

0

0.002

0.004

0.006

0.008

0.01

0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01

Cumulative population share

Cumulative sum of poverty gaps per capita

1999年(H11) 2002年(H14)

1999

1.00

2002MaximumPoverty(1999)

所得再分配調査より計算

貧困線z=medianの50%

Inequality

z(1999)=146.0万z(2002)=133.5万

21

表 4-6 世帯類型別、世代別、貧困指標の推移 [poverty line = 等価可処分所得のmedianの 50%]

[等価可処分所得] 1996 (H8) 2002 (H14)

N Poverty

Share 貧困率 (HR)

Poverty gap

Ratio

Watts Index

(β=0)

FGT (α=2) ×100

CHU (β=0.5) ×100

N Poverty Share

貧困率 (HR)

Poverty gap

Ratio

Watts Index

(β=0)

FGT (α=2) ×100

CHU (β=0.5) ×100

全世帯 8103 / 15.6% 5.7% 8.7 3.1 7.1 7600 / 17.3% 6.7% 9.5 3.8 8.6 -世帯類型- 核家族(子ども

3人以上世帯) 412 3.2% 10.7 2.5 3.2 0.9 2.8 303 1.8% 7.9 2.4 3.6 1.1 2.9

核家族 (子ども2人世帯) 1453 6.0 5.2 1.7 2.4 0.8 2.0 1041 4.6 5.9 1.8 2.3 0.8 2.1

核家族 (子ども1人世帯) 1255 10.5 10.5 3.0 4.3 1.3 3.5 1123 7.5 8.7 2.9 4.5 1.5 3.5

核家族 (子ども0人世帯) 1016 10.9 13.5 4.5 7.2 2.5 5.6 1010 10.5 13.7 4.8 7.2 2.5 5.9

単身世帯 761 10.4 17.2 6.0 8.0 3.1 7.5 966 16.1 21.8 9.6 11.9 6.5 13.9 母子世帯 101 5.2 64.4 30.9 48.1 19.5 41.3 115 5.6 64.4 29.7 38.5 17.8 39.4 高齢者 2人世帯 717 14.6 25.7 8.7 12.6 4.3 10.3 729 13.6 24.6 8.4 12.5 4.3 10.1 高齢者単身世帯 533 20.8 49.2 21.5 33.8 13.1 27.6 618 21.6 46.0 19.9 29.4 11.9 25.7 三世代世帯 1063 6.8 8.1 2.8 4.8 1.5 3.5 860 5.1 7.8 2.8 4.3 1.4 3.3 その他の世帯 819 11.5 17.6 7.3 12.2 4.2 9.1 858 13.6 20.9 7.9 11.6 4.3 9.9

-世帯主の年齢階層- 29歳以下 575 7.6% 16.7% 4.5% 6.5 2.0 5.3 571 7.1 16.3% 4.5 6.5 2.0 5.3

30歳-39歳 1144 8.0 8.8 2.7 3.3 1.2 3.2 991 9.1 12.1 4.8 6.3 2.9 6.4 40歳-49歳 1839 15.4 10.5 4.2 6.8 2.3 5.3 1154 10.1 11.5 4.4 6.3 2.5 5.6 50歳-54歳 892 7.2 10.2 3.9 6.2 2.3 5.0 927 8.0 11.3 4.4 5.9 2.5 5.7 55歳-59歳 893 7.9 11.1 3.9 5.9 2.1 4.9 769 8.0 13.7 6.2 8.1 4.1 8.7 60歳-64歳 897 12.2 17.1 6.1 9.4 3.4 7.7 793 10.6 17.5 7.3 11.2 4.6 9.8

65歳以上 1863 41.6 28.1 11.0 16.7 6.1 13.6 2395 47.0 25.8 9.9 14.5 5.5 12.4 出典)平成 8年、14年「所得再分配調査」より著者が計算。貧困線はMedianの 50%として推計。 1996年の Poverty line=147.5 2002年の Poverty line=133.5 注)高齢者世帯は、男 65歳以上、女 60歳以上の者のみで構成するか、または、これに 18歳未満の者が加わった世帯をさす。 三世代世帯は、世帯主を中心とした直系三世代以上の世帯をさす。

核家族世帯、単身世帯は高齢者世帯が除かれている。

19

図2-1 貧困指標における喪失感関数の形態(2002)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

0 20 40 60 80 100 120 140 160 180

等価可処分所得

p (x,z)

Poverty gap ratio (FGT: α=1) Watts measure (CHU: β=0) Foster et al. measure (FGT: α=2)

Clark et al. measure (CHU: β=0.5) Clark et al. measure (CHU: β=-0.1) Headcount Ratio(貧困率) (FGT: α=0)

z=133

Headcount Ratio

Poverty gap ratio (α=1)

Watts measure

Foster et al. measure (α=2)

Clark et al. measure(β=-0.1)

20

図2-2 貧困指標における分配感応度の相違(2002)

0.0E+00

5.0E-02

1.0E-01

1.5E-01

2.0E-01

2.5E-01

3.0E-01

3.5E-01

4.0E-01

4.5E-01

0 20 40 60 80 100 120 140 160

等価可処分所得

s (x,z)

Poverty gap ratio (FGT: α=1) Watts measure (CHU: β=0) Foster et al. measure (FGT: α=1.1)

Clark et al. measure (CHU: β=0.5) Clark et al. measure (CHU: β=-0.5) Headcount Ratio(貧困率) (FGT: α=0)

z=133

Clark et al. measure (β=-0.5)

Clark et al. measure (β=0.5)

Watts measure

Foster et al. measure (α=2)

* Poverty gap ratio, Headcount Ratioは貧困層内の所得分配の変化に影響を受けない。

21

表 4-1 等価可処分所得を用いた貧困指標の年次推移Ⅰ [poverty lineは毎年変動]

[等価可処分所得] Poverty Indices

Median (万円)

Poverty Line (万円)

Headcount Ratio (%)

Income gap

Ratio (%)

Poverty gap

Ratio (%)

Watts Index

CHU(0.5) ×100

FGT(2) ×100

FGT(3) ×100

全世帯 (1993) 284 142 15.7 38.2 6.0 8.7 7.8 3.5 2.5 全世帯 (1996) 295 147.5 15.6 36.6 5.7 8.7 7.1 3.1 2.0 全世帯 (1999) 292 146 16.4 39.1 6.4 9.8 8.2 3.7 2.5 全世帯 (2002) 267 133.5 17.3 38.8 6.7 9.5 8.6 3.8 2.6

注)「所得再分配調査」(平成 5年、8年、11年、14年)より計算。貧困線は等価可処分所得のMedianの 50%として推計。

等価可処分所得は、八木・橘木(1996)の等価尺度 eを用いて推計。

表 4-2 等価可処分所得を用いた貧困指標の年次推移Ⅱ [poverty lineは毎年変動]

[等価可処分所得] Poverty Indices

Median (万円)

Poverty Line (万円)

Headcount Ratio (%)

Income gap

Ratio (%)

Poverty gap

Ratio (%)

Watts Index

CHU(0.5) ×100

FGT(2) ×100

FGT(3) ×100

全世帯 (1993) 284 113.6 10.4 41.2 4.3 5.9 5.2 2.6 1.8 全世帯 (1996) 295 118 10.5 37.0 3.9 5.9 4.9 2.1 1.4 全世帯 (1999) 292 116.7 11.6 39.2 4.5 6.8 5.2 2.6 1.8 全世帯 (2002) 267 106.8 11.8 39.9 4.7 6.4 6.2 2.8 1.9

注)「所得再分配調査」(平成 5年、8年、11年、14年)より計算。貧困線は等価可処分所得のMedianの 40%に設定。

等価可処分所得は、八木・橘木(1996)の等価尺度 eを用いて推計。

22

表 4-3 等価可処分所得を用いた貧困指標の年次推移Ⅲ [poverty lineは 96年に固定]

[等価可処分所得] Poverty Indices

Median (万円)

Poverty Line (万円)

Headcount Ratio (%)

Income gap

Ratio (%)

Poverty gap

Ratio (%)

Watts Index

CHU(0.5) ×100

FGT(2) ×100

FGT(3) ×100

全世帯 (1993) 284 147.5 16.6 38.0 6.3 9.2 8.3 3.7 2.5 全世帯 (1996) 295 147.5 15.6 36.6 5.7 8.7 7.1 3.1 2.0 全世帯 (1999) 292 147.5 16.7 39.1 6.5 10.0 8.4 3.7 2.5 全世帯 (2002) 267 147.5 20.5 38.2 7.8 11.4 10.0 4.4 3.0

注)「所得再分配調査」(平成 5年、8年、11年、14年)より計算。貧困線は 96年の等価可処分所得のMedianの 50%に固定して推計。 等価可処分所得は、八木・橘木(1996)の等価尺度 eを用いて推計。

表 4-4 貧困に影響を与える指標の年次推移

完全失業率 (%)

実質 GDP 成長率

(%) ジニ係数 高齢化率

(%) 単身世帯率

(%) 母子世帯率

(%) 世帯主・ 非正規率(%)

全世帯 (1993) 2.5 0.2 0.342 13.6 17.0 1.2 1.5 全世帯 (1996) 3.4 3.4 0.341 15.1 16.0 1.3 1.7 全世帯 (1999) 4.7 0.4 0.358 16.8 18.0 1.0 2.5 全世帯 (2002) 5.4 -0.3 0.368 18.5 20.8 1.5 3.0

注)ジニ係数、単身世帯率、母子世帯率、世帯主・非正規率は、「所得再分配調査」(平成 5年、8年、11年、14年)より計算。 世帯主・非正規率は、世帯主が非正規労働者である世帯の全世帯に占める割合を示す。 完全失業率は、総務省『労働力調査』(各年版)に基づく。 実質 GDP成長率は、内閣府『国民経済計算年報』(各年版)に基づく。 高齢化率は、65歳以上の人口が全人口に占める割合を示しており、厚生労働省『社会保障年報』(各年版)に基づく。

23

表 4-5 分配感応的な貧困指標の貧困順序の整合性

1993-1996 1993-1999 1993-2002 ×

○ )1993()1999( PP >

○ )1993()2002( PP >

1996-1999 1996-2002 ○

)1996()1999( PP > ○

)1996()2002( PP >

1999-2002 ×

注)○がついている年次は、一方の TIP曲線が他方の TIP曲線を完全に優越(dominate)しており、 Zheng(2000)の条件(3節の命題 2)が成立していることを示す。 すなわち、表 2-1における Type3の貧困指標(貧困層の所得分配に対して反応し、サブグループ への分離が可能な指標)は、全て同じ順序付けをする。