11
234 ― 青年期の運動鍛錬者が長期間休止後に再開 し たときの身体諸機能の変化とその対策 聖マリアンナ医科大学 (共同研究者)同 鹿 体育大学 明  宏  倉  Changes in the Physiological Functions of Human Body During Re -Training After Discontinuing Physical Exercise for Long Periods by Toshitada Yoshioka , Yukihiro Yamada Depar 加aX ・ザ ?勿面 加St . Marianna Univ ・s School of ≒Medicine Hiroaki Takekura , Motohiko Miyachi Department of Physiology and Biomechanics National Institute 加 心s and Spc ・治 ABSTRACT The purpose of this study was to e χamine e χercise ability after discontinuing physical e χercise for long periods . The ‘Wistar strain rats were devided into three groups, consisting of sedentary control  (C ), endurance exercise for 20 weeks  (CT ),and training discontinuation for 8 weeks  (ST ) after continuous exercise for 12 weeks . Arterial and venous blood samples and biochemical substances from the heart , liver, and muscles were analyzed immediately after acute e χercises. A decrease of blood glucose induced by e χercise was shown in ST and blood lactate was significantly elevated in ST in comparison with cr . The concentrations of tissue glycogen of ST and CT were not significantly different . The level of lactate content was tented to increase in some tissues, especially in the muscles of SOL and EDL from

青年期の運動鍛錬者が長期間休止後に再開 したとき …...234 ― 青年期の運動鍛錬者が長期間休止後に再開 したときの身体諸機能の変化とその対策

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Page 1: 青年期の運動鍛錬者が長期間休止後に再開 したとき …...234 ― 青年期の運動鍛錬者が長期間休止後に再開 したときの身体諸機能の変化とその対策

234  ―

青年期の運動鍛錬者が長期間休止後に再開

したときの身体諸機能の変化とその対策

聖マリアンナ医科大学

(共同研究者)同

鹿 屋 体 育 大 学

明 

宏 元

倉 

Changes in the Physiological Functions of Human

Body During Re -Training After Discontinuing

Physical Exercise for Long Periods

by

Toshitada Yoshioka , Yukihiro Yamada

Depar 加aX ・ザ ? 勿 面 加St . Marianna  Univ ・s 皈

School of ≒Medicine

Hiroaki Takekura , Motohiko Miyachi

Department of Physiology and Biomechanics ,

National  Institute が 苔 加 心s  and  Spc ・治

ABSTRACT

The purpose of this study was to e χamine e χercise ability after

discontinuing physical e χercise for long periods . The ‘Wistar strain

rats were devided into three groups , consisting of sedentary control (C ),

endurance exercise for 20 weeks  (CT ),and training discontinuation for

8 weeks  (ST ) after continuous exercise  for 12 weeks . Arterial and

venous blood samples and biochemical substances from the heart , liver,

and muscles were analyzed immediately after acute e χercises.

A decrease of blood glucose induced by e χercise was shown in ST ,

and blood lactate was significantly elevated in ST in comparison with

cr . The concentrations of tissue glycogen of ST and CT  were not

significantly different . The level of lactate content was tented to

increase in some tissues, especially in the muscles of SOL and EDL from

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ST . In the SOL muscle , the enzyme capacities of CK, LDH , SDH ,

and MDH were increased in CT , ST, aiid C, in descending order・

Significant differences in SDH and MDH activities were seen in C as

well as CT in comparison to ST. 0n the other hand , the enzyme

capacities from EDL muscle did not alter with eχercise in comparison

to those of SOL. We speculate that these negative effects on biochemical

substrates produced by acute heavy eχercise after training discontinuation

for 8 weeks might be greater than that of the continuous eχercise group.

Therefore , it is necessary to consider e χercise ability without

overestimating of the former training capacity when re-training is begun

in the future.

要    旨

一定期間 のトレーニ ングを行ない,長期間の休

息後再び運動を行った際の身体諸機能の変化を検

討することにより,安全な運動処方に関する基礎

的資料を提供する目的でWistar 系雄性 ラットを

対象として実験を行った.実験は持久的トレーニ

ングを行った(12 週間)後,休息させた(8 週間)

群(ST )と持久的トレーニ ングを継続して行っ

ていた(20 週間)群(CT )に一過性の持久的運

動を負荷した直後の動静脈血中および筋中生化学

物質の動態を比較して行なった.

一過性の運動に伴う血中グルコースの低下およ

び血中乳酸の上昇はST 群がCT 群に比して顕著

であり,血中乳酸に関しては両群間に有意な差が

認められた.組織中のグリコーゲンの減少にはい

ずれの組織においても,ST 群とCT 群の間には

有意な差は認められなかった.しかし,各組織に

おける乳酸含有量の上昇 に関しては,特に骨格筋

(SOL , EDL )においてST 群がCT 群に比して

高値を示す傾向が認められた.一過性の運動直後

の骨格筋中酵素活性値(CK , LDH , SDH , MDH )

の動態は, SOL においてCT , ST, C群の順に高

値を示し, SDH とMDH に関して はC , CT 両

235  ―

群間に有意な差が認められた. EDL については

いずれの酵素においても,各群間に有意な差は認

められなかった.

以上のような結果より,トレーニング休止8 週

間後に行わせた一過性の運動に対する生体負担度

はトレーニングを継続していた群に比して,はる

かに大きい可能性が示唆された.従って,トレー

ニング休止後の再開に対しては,以前のトレーニ

ングの効果を過大評価せず,充分な配慮をするこ

とか必要である.

緒    言

近年,いわゆる医学の概念が予防医 学へと変化

す るとともに,機械文明の発展に伴な う余暇時間

の増大を背景として,スポーツ人口の急増が一つ

の社会現象とな9 ている.これに伴い スポーツ活

動中の突然死も増加し4), スポーツは 単に生体に

対 して望ましい影響を与え るだけでは なく,多大

なストレスを与える 可 能 性 も考えら れてきてお

り24),大きな問題となっている.各種 スポーツに

対する生体の負担度を血中生化学物質 の動態より

検討し,安全な運動処方に役立てよう とする試み

も数多く報告されている12・lS・19)が,個人個人の防

衛・行動体力の相違,スポーツの種類 の相違等の

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― 236 - ・

条件の複雑さを反映して未だ充分な成果をあげる

には至っていない.

また,急性の運動を行わせた際の血中逸脱酵素

活性値2°),および骨格筋中酵素活性値23)の動態を

検討することにより,スポーツの生体に対する負

担度を検討した試みも報告されている. Takekura

and Yoshioka23 )は, 全くトレーニ ングを行って

いないラットにほぼ100 %V02ma χに相当する強

度のランニ ングを行わせた直後か ら3 日後までの

筋中酵素活性値の経時的変化を検討している.

その結果,運動終了直後に解糖 .`酸化両系酵素

活性値の顕著な上昇が認められ,代謝の著しい亢

進が考えられる.また,運動直後に認められる各

種酵素活性値の上昇は,従来よりトレーニングを

継続して きたラットの場合の上昇22)より顕著であ

ることから,急性の運動に対する生体負担度の大

きさか示唆される.

日本には古来より「昔取ったきねづか」という

言葉があるように,ある程度の期間トレーニング

を積んでおくことにより,たとえそのトレーニ ン

グを中断したとしても以前のトレーニングの効果

か永続するかのような風潮がある.

しかし,このことか果して運動に対する生体負

担度の軽減にも適応するか否かは疑問である.す

なわち,過去にある程度のトレーニ ングを重ねた

後に,一定期間の休息期間において再び運動を再

開した際の安全性に過去のトレーニ ングが何等か

の意味を持つか否かは全く疑問であるレ

そこで本研究では,過去にトレーニ ングを行わ

せたラット にあ る程度の休息期間をおいた後,一

過性の運動を行わせた直後の血中および筋中生化

学物質の動態を ,トレーニングを継続して行って

いたラット に,同一強度の運動を行わせた際のそ

れと比較す名ことにより安全な運動処方に関する

基礎的資料を提供することを目的とした.

方    法

実験動物には 生後3 週齢 より 飼育を 開始した

Wistar 系雄性 ラット15 匹を卅いた .各群5 匹ず

つ, 1 ) sedentary control (C ):通常通りゲージ

内にて飼育, 2 ) continuous training (CT ):飼

育 修 了 時 までトレニ ニング を 継 続 , 3  ) stop

training (ST ):生後15 週齢までトレ ーニ ングを行

わせ以後飼育修了時まで安静飼育,の3 群に分類

した.

トレーニングは小動物用トレ ッド ミル(シナノ

製作所)を用いて前報20)記載の方法により行わせ

た,すなわち,生後10週齢時まで走行速度,およ

び走行時間を漸増し,以後一定に保った.一定負

荷としては,毎分35m の速度で120 分間の連続走

行を 傾斜O 度で行わせることとした.

トレーニングは1 日1 回,週5 日の頻度で行わ

せ,水・飼料は飼育全期間を通じて自由摂取とし

た,また飼育環境は,室温23 °C,湿度55 %に保

ち12 時間サイクルで照明を点灯した.このような

条件で23週間飼育(生後26 週齡時) まで飼育した

後 ,分析に供した.従って,CT 群は,20 週間の

トレーニングを継続して行なわせ, STS \は12週

間のトレニニングを行わせた後 ,8 週間の休止期

間を与えたことになる.

分析はCT およびST 群のみ毎分30m の速度で

30分間の連続走行を傾斜O 度で行 わせた直後に,

またC 群については運動を行わせずに開腹し,腹

部大動脈および頸静脈より採取した血液(それぞ

れAB , VB )ならびに,同一ラットより摘出し

た心臓,肝臓 ,長趾仲筋(EDL )およびピラメ筋

(SOL ) により行ったレ

CT 群については実験の2 日前にトレーニング

を中断し ,安静状態を保うたレなお分析12 時間前

すべてのラットには飼料を 与 え ず 絶 食 状 態とし

た .また分析直前にCT およびST 群の各ラット

に行わせた 走行強度はShepherd and Gollnick

16)によれば,おおよそラットの最大酸素摂取量の

60%に相当する強度である,

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分析項目としては,AB およびVB により,乳

酸(LA ),グルコース(GL )を それぞれ酸素法に

よりglucose ・ lactate autoanalyzer (Model  23

A , Yellow Springs, Co≪ Ltd

., USA )を用いて定

量し,血球数(赤血球:RBC ,白血球:WBC )

およびヘマトクリット値(Ht )は電極抵抗検出法

により, ヘモグロビ ン量(Hb ) はシアンメトヘ

モグロピン法により,それぞれ自 動 血 球 計測 器

(MEK ―4500 , 日本光電工業株式会社)を用い

て定量した.

また動静脈血中 ナトリウムイオン(Na り , カ

リウムイオン(K 勹 および 塩素イオン(CI-)は

イオン選択電極法により自動分析装置(富士ドラ

イケム800 .,富士フィルム株式 会社)を用いて 定

量した.

一方,各組織を用いてグリコーゲン含有量18),

および乳酸含有量14)を定量した.さらに, EDL ,

SOL については1 .5M のtris -HCl buffer (pH

7 .5)により完全にホモジナイズした後, Suomi -

nen and Heikkinen18 >の 方 法 によりcreatine

kinase  (CK , EC : 2. 7.3.2), lactate dehydro-

genase  (LDH , EC : l. 1. 1. 27) およびma  late

dehydrogenase  (MDH , EC : 1.1.1.37)を定量

した.

またO .lM のphosphate buffer (pH 7 .4)で

完全にホモジナイズした後, Cooperstein et al.゚)

の方法によりsuccinate dehydrogenase (SDH ,

EC : 1. 3. 99.1)の定量を行った.酵素活性値は

すべてinternational unit (I.U.)/mg protein で

示し,タンパク質の定量はGoldberg11 )の方法に

より行った.

各群間における測定値は平均値 士標準偏差の差

の検定はstudent  /-testを用いて行い,いずれの

場合も危険率5 %以下をもって有意とした .

結 果

― 237 ―

1. 体重および骨格筋重量

各群における平均体重の変化を図1 に示した,

トレーニ ング開始6 週目よりC 群とST , CT 両

群間に有意な(pく0 .01)差が認 めら れ, この傾

向は飼育終了時まで継続した.またST 群はトレ

ーニ ング中止後4 週目よ りCT 群に比 して有意に

(pく0 .01)高値を示し, この傾向は 飼育終了時

まで継続した.

骨 格 筋 重 量 の対 体重比はSOL , EDL ともに

CT (SOL : 4.65士0 .22, EDL :5.81±0 .08),

ST (SOL : 4.43士0.80, EDL : 5.68±0.48), C

(SOL : 3.56士0.41, EDL : 4.06±0 .19)の各群

順に高値を示し, SOL に関してはC とCT 群間

に(p<0 .05)またEDL に関してはC とST 群

間 (p<0 .05)およびC とCT 群間(pく0 .01)に

いずれも有意な差が認められた.

2. 血中生化学成分

血中生化学成分については血球成分および電解

質を表1 に,また血中グルコースおよ び乳酸濃度

を図2 に示した.

すべての分析項目において,各群間 に動静脈差

は認められなかった. 血球成分については, Hb ,

RBC , Ht において 勦静脈血ともにST 群がCT

群 に比して有意に(p<0 .01,AB のHt のみp

<0 .05)高値を示した.

Hb については勦静脈血ともに,・C 群がCT 群

に比して有意に(AB :pく0 .01, VB :p<0 .05)

高値を示した.また, RBC , HT につ いてはST

群 がC 群に比して 有意に(p<0 .01)高値を 示 し

た.血中電解質 については, 勦静脈のNa +, K+

においてST 群がC 群に比して有意に(AB ; Na゙

:pく0 .01, K+:pく0 .05, VB ; Na+ : p<0 .05,

K + : p<0 .01)高値を示した. Na+tこついてはA

B においてST 群 とCT 群間(pくO 。05), K゛ に

ついてはVB においてST 群とCT 琲間(p<o .

01) にもそれぞれ有意な差が認められた.C じに

ついては動静脈血ともに各群間に有意 な差は認 め

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―  238 ―

600

400

(さ

ぶ潛;

台畠

200

150

100       50

、晟r

)so。コ刄10

0

0

● C

● ST

6 CT

**p <0 .01

C vs ST, CT

3

6      9      12      15 18  1

Breeding period (weeks )

図1  各群における体重の推移

C:対照群・ST :12週間のトレーニング糺 8 週間休息させた群,CT : 20週間のトレーニング群

* *

r = = - =`- ‘ 丶

* *

¬

AB

*-

* *

f’ミ ”゙二` 1

30

20          10

(べ{Ej3jQ

ぶ10

=0

*”μ 弍 ぶ

VB               AB

図2  血中グルコースおよび乳酸の変動

AB :動脈血,VB :静脈血

r~ ~ ・

* *  *一 一

VB

21

匚 ]

**

24‘

C

ST

CT

pく0 .05

P<0 .01

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表1  各群における血液成分および血液生化学成分

―  239 ―

group nHb

(g/d/)

RBC

(×104/mm3)

WBC

(×102/mm3)Ht

(%)

Na +

(mEq //)

K゛

(mEq //)CI”

(mEq  //)

Arterial

blood

sedentary

control

stop

training

continuous

training

5

5

5

15.4

0 .3

1以 

12.914

0.3

726

61

82885 ]

**

653

48

72

21

59

26

77

34

34.8

3j

40.0

4.2

33.9

2.9

146

16

1 ]

**

4・

143

4.0

0 .1

6 .8

1.3

4.5

0.9

96

1

94

9

95

2

Venous

blood

sedentary

control

stop

training

continuous

training

5

5

5

15.3

0.8

16.5

1.0  

13.5

**

0.4

708白

**

1

94

31

81

25

93

27

34.4⊃

146訃

9

152

5

4.0訃

0.2

93

3

92

4

90

1

significance; %p<0 .05, * *p<0 .01, abbreviation; Hb : Hemoglobin,

RBC : Sed Blood Cell, WBC : White Blood Cell, Ht : Hematocrit

られなかった.

血中グルコース濃度は採血前のランニングに伴

い勦静脈血中で低下する傾向を示し,C群とST ,

CT 両群間に有意な(p<0.01, VBのC 群とCT

群間のみp <0.05)差が認められた.しかし,ab,

VB 共にCT 群がST 群に比して高値を示す傾向

にあったか両者の鬨に有意な差は認められなかっ

60

40          

卵一

(Q{QSS

節ぺ{O日日

}1QlOQ

口畆S

0

*¬

*¬

た.血中乳酸濃度は採血前のランニングにより上

昇し, AB , VB 共にST , CT, C群の順に高値

を示し,各群間に有意な(p<0.05, AB , VB の

C とST 群間のみp く0.01)差が認められた.

3. 組織グリコーゲンおよび乳酸含有量

各組織中のグリコーゲン含有量 を 図3 に示 し

た. 肝臓, SOL, EDL ではランニングによりグ

*¬

**¬

匚 ]C

Eコ ST

E 屁I CT

*.  p<0 .05

**  p<0 .01

*¬

* *

¬

Liver     ∇   Heart         SOL

図3  肝臓,心筋,ヒラメ筋および長趾伸筋のグ1リコーゲン含有量の変動

EDL

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―  240 ―

リコーゲン含有量か低下し,C 群とST , CT 両

群間に有意な(p<0.05, SOL, EDL のC 群とS

T 群開のみp く0 .01)差が認められた.しかし,

ST ,CT 群間には有意な差は認められず,心臓

については 各群間に 有意な差は 認められなかっ

た.各組織中の乳酸含有量を図4 に示した.いず

30

20         10

(Q{Q曽

々{O日31Q

を8SjQS

。{

60

40         20

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臼こ

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0

0

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**

C

ST

CT

p <0

p <0

05

01

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* ・

¬

Heart

60

40          20

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ぷo阯a

。口

。{

}含

占g

}{({

。{

れの組織において もST , CT , C 群の順に高値を

示し,心臓, SOL , EDL においてはC 群とST

群間に有意な(心臓:pく0 .05, SOL , EDL :p<

0.01)差が認められた. また,SOL ,EDL の両

骨格筋についてはC 群とCT 群間にも有意な (p

く0 .05)差が認められた.

ヴ* *

r- ~゙` 一一“1

EDL

匚 ]C

巳∃ ST

l 圖 CT

* ,

* *

p<O。05pく0.01

0

EDL

* *

r‘“ - ` ’““1

SOL

図4  肝臓,心筋,ヒラメ筋および長趾伸筋の乳酸濃度の変動

* *-

r=ミミ¶

SOL

図5  ヒラメ筋(SOL )および長趾伸筋(EDL )おけるCK , LDH 両酵素活性の推移

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30

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* p く0 .05

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SOL     EDL              SOL     EDL

図6  ヒラメ筋(SOL )および長趾伸筋(EDL )におけるSDH , MDH 両酵素活性の推移

4. 骨格筋中酵素活性値

SOL およびEDL におけるLDH , CK 両酵素

活性値を図5 に示した,CK 活性値はSOL , EDL

両筋においてCT , ST, C の各群の順 に高値を示

し, SOL ではC 群とCT 群間に有意な(pく0 .05)

差が認められた. LDH 活性値 はSOL において

CK 活性値同様, CT , ST , C 群の順に高値を示

し,C 群とCT 群間(pCO .Ol), ST 群とCT 群

間(pく0 .05)にそれぞれ有意な差が認められた .

一方, EDL について は各群間 に有意な差は認め

られなかった. SOL におけるCT 群のLDH 活

性値はEDL における活性値よりも高い値であっ

た.                     二

SOL およびEDL におけるSDH ,MDH 両酵

素活性値を図6 に示した. SOL におけるSDH ,

MDH 両酵素活性値はCT , ST, C の各群の順に

高値を示し,C 群とST 群間に有意な(SDH :p

<0 .01, MDH :pく0 .05)差が 認められた. ま

た, SOL のSDH 活性値に関して はST 群とC

T 群聞に:も 有意な(pく0 .05)差が 認められた.

241

EDL に関しては両酵素活性値ともに 各群間に有

意な差は認められなかった.

考    察

トレーニングを休止して8 週間を経 た後に,再

び一過性の運動を行わせた際の生体反 応をトレー

ニ ングを継続して行わせてい た場合と 比較するこ

とによ‘り,トレーニング効果の残存を 検討し,加

えて 安全な運動処方に対する基礎的資料を得 るこ

とを目的として実験を行 った.

トレーニングを中断し,8 週間経過 した時点で

も骨格筋重量の対体重比は安静飼育を行 っていた

ラットに 比して 有意に 高値を 示した .このこと

は,少なくとも骨格筋線維の肥大に対 するトレー

ニングの影響は残存している可能性を 示唆してい

る.身体を外見のみから判断すれば, トレーニ ン

グを中止してもまた,継続して行 って いても,そ

れほどの差はないと考えることもできる.

疲労度あるいは運動の生体に対する負担度の指

標と考えられている血中乳酸濃度は,ST 群がC

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― 242 ―

T 群に比して有意に高かった.この結果はST 群

の方が有酸素性よりも無酸素性のエネルギー供給

機構をより 多く動員していたことを 示 唆 してお

り,脱トレーニングが有酸素性の運動能力を低下

させてしまったものと考えられる2・25).   二

また有意差は見られなかったものの,血糖値は

ST 群がCT 群に比して低値を示した.運動時問

ならびに運動強度もST 群とCT 群とでは同一で

あることから,この血糖値の差はもともと骨格筋

中,血中あるいは肝臓中に蓄えられていたグリコ

ーゲンあるいはグルコースに差があったためか,

あるいはこの運動によって利用されたエネルギー

基質にCT 群とST 群間に相違があうたものと考

えられるlo).

血球成分ではHb , RBC, Ht がCT 群に比し

てST 群が有意に高値を示したi 持久性能力を鍛

錬することによってヒトではRBC やHT が 低

下するととが報告されており7), これは血液の粘

性を低下させ循環器(心臓)にかかる負担を軽減

し,筋への血流量を増加させようとする適応であ

ると考えられている.本実験の結果は,脱トレー

ニングによって,トレーニングに対する血球成分

の適応が残存しなかったことを示唆している.

血中電解質に関してはNa ^, K+においでST

群がC 群に比して有意に高値を示し,まだCT 群

はC 群とほぽ同程度の値を示した.K ゛は運動,の

強度あるいは生体にかかる負担度か大きくなるの

に伴って増加していくことが過去の研究17)によっ

て明らかにされているが,本実験においても,負

担度が大きかったと考えられるST 群の方がCT

群よりもK ゛が有意に高値を示すという結果か得

られた.脱トレーニングによるトレーニング効果

の消失がこのことからも示唆された.

各組織におけるグリコーゲン含有量及び乳酸含

有量にはST , CT 両群閧に有意な差は認められ

なかった.しかし,乳酸含有量はいずれの組織に

おいてもCT 群がST 群に比して低値を示す傾向

にあった.持久的トレーニングは骨格筋における

乳酸生成を抑制するというFavier et a19). の報

告はこの結果を裏づけ芯ものである.持久的トレ

ーニングにより筋中乳酸生成量が減少するメカニ

ズムとしては, 酸化系酵素活性値の上 昇 により

TCA 回路でのATP 生成が主流になる結果,乳

酸の生成が抑制されるか,持久的トレー・ニングに

より細胞膜の透過性が変化し,生成された乳酸の

血中への放出が増加し 心筋を中心としたエネル

ギー再合成に利用された結果,筋中における含有

量が減少するかの両者が考えられる.

本研究では,血中,筋中ともにCT 群がST 群

に比して低値を示していることから,むしろ前者

の可能性を考える必要かあるのかもしれない.逆

に,ST 群では筋中,血中ともに高値を示したこ

とは√以前のトレーニングの効果が消失し,乳酸

の生成量そのものも増加し,加えて血中へ放出も

増加するが,結局放出が追いつかず,もしくは再

吸収が追いつかずに疲労してしまうとも考えられ

る.・.・・・・  ・..

Chi et al.”は脱トレーニングに伴う骨格筋線維

の代謝特性の継時的変化を筋線維タイプ別に検討

している.ぞれによると,酸化系酵素活性値は脱

トレーニングに伴い漸次低下し, type l線維で

は脱トレーニング後12週間で完全にコントロール

レベルにまで低下したと報告する一方, type ]I

線維ではコントロールレベルにまで低下しないと

報告しているレこのことは,脱トレーニングの影

響が筋線維タイプ別に異なる可能性を示唆してい

る.

さらに,脱トレーニングにより酸化系酵素活性

値がおおよそ半分に低下するのに,ラットでは約

8 日を要するのに対し,ヒトでは約2 ~6 週間を

必要とすることを報告し√動物種の違いも合わせ

て報告している.従って√本研究における脱トレ

ーニング後8 週間のラット骨格筋の酵素活性値に

対するトレーニング効果は,ST 群のSOL およ

Page 10: 青年期の運動鍛錬者が長期間休止後に再開 したとき …...234 ― 青年期の運動鍛錬者が長期間休止後に再開 したときの身体諸機能の変化とその対策

びEDL におい て完全 に消失 してい ると は考え難

い .                        二

過去 に何等 トレ ーニ ングを 行 わせて い ない ラッ

トに, 一過性 の運動 を行 わせ た直後 の下 肢骨 格筋

におけ る酵素 活性 値28)は,本 研究 のST 群より も

低値を 示 した . 運 動に伴 い 酵素活 性値を 上昇 さ

せ , エネ ルギー代 謝を促進 し ,骨 格筋 の収縮 エネ

ルギ ーであ るATP の生 産を増大 させ る ことによ

り疲 労耐性を 向上 させ るこ とが ト レーニ ング効果

で あると いう観点 にたて ば ,一 過性 の運動 に伴 う

筋 中酵素 活性値 の有 意な上昇 は ,ま さに トレーニ

ングの効 果 と考え ることがで き る.従 って ,そ の

意味で も本研究 にお け るST 群 のSOL 及 びEDL

におけ る トレーニ ング効果 は完全 に消 失してい る

と は考え られない .

持久 的 トレ・¬ニ ング に伴う骨 格筋 の酵素活 性値

の適 応を3 段階 に分類 して考 察 して い る Benzi

et al.3)に よれば , そ の最終段 階 において 酸化系

酵 素活性 値 の有 意な上昇 と 解糖系 酵素活 性値 の有

意 な低下 が認 めら れること が報告 さ れて いる .本

研 究でST , CT 両 群に行 わせ たト レーニ ングは

持久的 なト レー ニ ングで あり , Edgerton et al 夕

が 報 告して いる骨 格筋線維 の選 択的利 用と いう見

地 にたてぱ ,主 にslow タ イプ の筋線 維が積 極的

に動員 さ れた ことにな る.従 って ,トレ ーニ ング

効 果 は主 にSlow -twitch fibre によ り 構成 され

るn  SOL に出現す ると 考え ら れる . 本研究 にお

い て も運 動終了 直後 の各 酵素活 性 値に各群 間 の差

が生じた の は, SOL のみで あ った とい うこ とは

トレ ーニ ングの休止 ・継続 の影 響が主 にSOL に

出現 した ことを裏づ け る結 果で あ る.

以上のような結果より,脱トレーニング8 週間

後においても骨格筋の構造蛋白の異化はすすんで

おらず,その形態は維持している可能性を示唆し

ている.従って,構造蛋白質の肥大に対する持久

的トレーニングの効果は脱トレーニング後も,か

― 243 ―

なりの長期間に渡り残存すると考えて もよさそう

である.その一方で,機能的特性の一 指標である

酵素活性イ直の動態から考えれば,トレ ーニング効

果が完全に消失している訳ではないが ,脱トレー

ニ・ングによる機能低下が考えられる.また脱トレ

ーニングの結果,トレーニングによる 血液成分の

適応は消失し,機能の再低下が起こったことも示

唆された.

脱トレーニングの影響は骨格筋と血 中生化学成

分で は異なって出現する可能性は否定 できない.

骨格筋よりもむしろ血中生化学成分の動態に脱ト

レーニ ングの影響(トレーニング効果 の消失)が

先に出現することから,骨格筋のトレ ーニング効

果が完全に消失する以前に血中ではす でに脱トレ

ーニングの影響か出現するということになる.従

って,トレーニ ング休止後の再開に関 して は,骨

格筋に比して比較的採取しやすい血液 における生

化学成分を指標として身体の負担度を 把握し,運

動処方を行うことにより,ある程度余 裕を残した

処方が可能であると考えられる.    二

謝   辞

本稿を終えるに当り,分析に際し多大なる御協

力を 賜りました 鹿屋体育大学 大学院生 荻田 太

君,学部生大金雅子さんに深く感謝の意を表しま

す.

文   献

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