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1 新規な化学構造を有する植物用抵抗性誘導剤 横浜国立大学 大学院環境情報研究院 平塚和之 2012117日 JST新技術説明会

新規な化学構造を有する植物用抵抗性誘導剤 - JST...3 病害 傷害ストレス 防御応答機能の 活性化 Acquired resistance 獲得抵抗性 病気に強くなる

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新規な化学構造を有する植物用抵抗性誘導剤

横浜国立大学 大学院環境情報研究院

   平塚和之

2012年1月17日 JST新技術説明会 

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病原体排除ではなく,植物体の免疫能を高める

      適切な病害虫防除は農業生産に必須である

しかし,多くの農薬は殺菌・殺虫活性に依存するため, 環境負荷が大きく,安心・安全の要求には必ずしも適合しない

「植物用抵抗性誘導剤」を使用する

明治製菓が開発したプロベナゾールが卓効を示し, 年間100億円近い使用実績がある

薬剤耐性菌なし

微生物相保全

殺菌活性無し

利点

研究背景

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病害 傷害ストレス 防御応答機能の

活性化 Acquired resistance 獲得抵抗性 病気に強くなる

この過程を制御する化合物

抵抗性誘導剤は植物病害防除に極めて有効である

しかし、スクリーニングが極めて困難で手間がかかる�

大規模な病害耐性試験等が必要であり、コストの問題がある �

研究背景

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可視化レポーター遺伝子の種類

色素沈着�β-ガラクトシダーゼ(lacZ)

発光

蛍光

β-グルクロニダーゼ(GUS)                  など

ホタルルシフェラーゼ (Firefly luciferase; LUC) ウミシイタケルシフェラーゼ (Renilla luciferase; Rluc)

緑色蛍光タンパク質 (Green Fluorescent Protein; GFP)

赤色蛍光タンパク質 (Red Fluorescent Protein; RFP)

など

など

本研究では発光レポーターの応用を企図した

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ホタルルシフェラーゼを発光レポーターとして用いた 発光検出による遺伝子発現検出系

PR1a pro.! LUC! PR1a pro.! LUC!

発現誘導

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発光レポーターを用いたアッセイ系の利点

測定点ごとにサンプルが必要な エンドポイントアッセイ

同一サンプルを 非破壊的連続観察

Luciferin

発光検出 �

RNA, タンパク抽出 GUSアッセイ等

生のサンプルを連続定量可能

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タバコ病害応答遺伝子発現の可視化・定量

5mM SA

0 10000 20000 30000 40000 50000 60000

0 h 6 h 24 h 30 h

244 1340

44624 56520

time after SA treatment!

luci

fera

se a

ctiv

ity!

(cou

nts/

min

./are

a)!

0 h 6 h 24 h 30 h

観察対象を活かしたまま 遺伝子発現情報を 得ることが出来る!

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ホタル発光遺伝子をレポーターに用いる���発光検出による遺伝子発現検出系

発光検出�

細胞

制御領域 発光遺伝子 発光遺伝子 制御領域

誘導�

(発光の強弱による判断)�

発光レポーター遺伝子を用いて、生きたままの動植物細胞から 遺伝子発現動態をモニタリングする技術を応用

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背景:殺菌剤による病害防除の問題点と限界

誘導抵抗性(植物の免疫系)の利用、非殺菌性薬剤(低環境負荷)

誘導抵抗性マーカー遺伝子を利用した 有用物質の探索(創薬)

•  省力化 •  ハイスループット化

20×20×40cm3 

1サンプル 8×12×1cm3  96サンプル

植物個体を用いた試験

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化合物ライブラリー

96穴プレートに分注済みの化合物(80化合物/プレート)

・医農薬の候補となり得る化合物ライブラリーが市販されている

・公的機関が運営する化合物ライブラリーの公開も開始されている

・小規模な研究グループであっても,数万種類の物質を対象とした

 大規模スクリーニングが実施可能な状況である

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•  防御機構が常時ON(戦時体制)なので,植物にとってはエネルギーのムダが多い(過剰防衛)

•  抗菌タンパク質等が常に生産される

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生育抑制(薬害)を伴うことが多い

食品アレルギーの健康リスクを懸念する意見もある

矮化する

防御機構が常時ONだと,食品としてはアレルゲンレベルが高くなる (抗菌タンパク質などは代表的なアレルゲンである)

植物活性化剤にも問題点がある

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既存の抵抗性誘導剤との差別化も期待出来る・・・ 12

理想的な植物抵抗性誘導剤とは?

必要な状況においてのみ 防御遺伝子が迅速に働くのが理想的(省エネ型)

病原体に攻撃された時にのみ より強く防御機能を発現するタイプ

生育阻害が起こらないので,収量向上,バイオマス増大 アレルゲンレベルも低減可能

次世代型抵抗性誘導剤

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0 1     2    5      9   13 18   (d) 化合物処理後日数

Control 化合物A 化合物B

化合物C ASM

Control 化合物A 化合物B

化合物C ASM

化合物A, B, C はASMと類似した作用を有することが示唆された

(低)

(高)

ASM(アシベンゾラルSメチル):既存の抵抗性誘導剤

発光活性

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新規抵抗性誘導剤候補のスクリーニングと特徴付け 

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0 1 2 5 9 13 18

発光活性

処理後日数

ASM

候補化合物

対照区(無処理) 102

0

104

106

ASMと比較して,異なる防御応答誘導パターンを示す化合物の例

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病原菌感染に対する化合物の病害防除効果の調査

化合物処理 炭疽病菌接種 RNA抽出 Ch-ACT

At-CBP20 (内部標準)

(炭疽病菌遺伝子)

qRT-PCR 調査手法

At-CBP20の増幅量 Ch-ACTの増幅量

病原菌増殖度

植物体量に対する病原菌増殖量の相対値を増殖度とした

各段階での植物状態

発芽8日後 発芽10日後 発芽14日後

Ch-ACT : C.higginsianumのハウスキーピング遺伝子 At-CBP20 : シロイヌナズナのハウスキーピング遺伝子

Narusaka et al.(2010) JGPP 76, 1-6

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植物に対する生育阻害活性の調査

発芽4週間後 処理2週間後 病原菌を 噴霧接種

化合物処理 炭疽病菌接種

生重量測定 病原菌接種

  非接種

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植物に対する生育阻害活性を、病原菌接種・非接種時において 植物体地上部の生重量を測定することで調査

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選抜された化合物の特徴付けの結果

•  連続発光モニタリングによって,ポジティブコントロールのASMとは異なる発現誘導パターンを示す候補化合物が複数得られた。

•  炭疽病菌の増殖阻害活性はASMと同等であった(直接的な抗菌活性は持たない)。

•  植物体に対する生育阻害活性はASMよりも低く,本実験系では全く認められない化合物も見出された。

理想的な抵抗性誘導剤候補が選抜できた!

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本研究に関連した出願済み特許

「植物用抵抗性誘導剤」特願2011-181436  出願人:横浜国立大学 発明者:本田清,井上誠一,平塚和之  出願日:平成23年08月23日

「植物抵抗性誘導剤、植物の抵抗性誘導方法、及び植物病害の予防方法」特願2011-274486  出願人:横浜国立大学 発明者:平塚和之,尾形信一,小倉里江子,草間勝浩,原裕芽子,牧野美保,梶翔太  出願日:平成23年12月15日

新規な有機合成化合物の活性評価による成果

化合物ライブラリースクリーニングの成果

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本研究に関連した発表済み学術論文

Minami T, Yanaka T, Takasaki S, Kawamura K, Hiratsuka K, In vivo bioluminescence monitoring of defense gene expression in response to treatment with yeast cell wall extract. Plant biotechnol. 28, in press, 2011

Ogura R, Matsuo N, Hiratsuka K, Bioluminescence spectra of click beetle luciferases in higher plant cells. Plant biotechnol. 28, 423-426, 2011

Ono S, Kusama M, Ogura R, Hiratsuka K, Evaluation of the use of the tobacco PR-1a promoter to monitor defense gene expression by the luciferase bioluminescence reporter system. Biosci. Biotechnol. Biochem. 75, 1796-1800, 2011

Watakabe Y, Ono S, Tanaka T, Hiratsuka K, Non-destructive bioluminescence detection system for monitoring defense gene expression in tobacco BY-2 cells. Plant biotechnol. 28, 295-301, 2011

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最近の共同研究の成果

アサヒビール(株)との共同研究

・酵母細胞壁抽出物に含まれる抵抗性誘導活性の検出モニタリング

Minami T, Yanaka T, Takasaki S, Kawamura K, Hiratsuka K, “In vivo bioluminescence monitoring of defense gene expression in response to treatment with yeast cell wall extract.” Plant biotechnol. 28, in press, 2011

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•  製品化のノウハウを有する企業との共同研究

•  化合物ライブラリー,天然物ライブラリーの供給と共同研究

•  発光レポーター導入植物を利用した新規な有用物質探索

•  発光観察システム・自動化機器の共同研究

企業への期待

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今後の展望

高等植物に有効な各種誘導剤,抑制剤等の探索

植物細胞・組織の堅牢性を活かした天然物, 混合物からの物質探索系の開発

(微生物,動物細胞系と比較した場合の大きな利点)

低コストであることを活かした 大規模スクリーニングの実施

スクリーニング系の高性能化・超ハイスループット化

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お問い合わせ先

横浜国立大学 産学連携推進本部 知的財産部門   知的財産マネージャー 松本 武

TEL: 045-339-4451

FAX: 045-339-4457

e-mail: [email protected]