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長久手市地域ブランディングプラン 2018.03.16 長久手市

長久手市地域ブランディングプラン...2 はじめに ~ 本稿を読むにあたり~ 本稿の目的、構成について 本稿では、長久手市地域ブランディングプラン作成のために、長久手市の認知と

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長久手市地域ブランディングプラン

2018.03 .16

長久手市

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はじめに ~本稿を読むにあたり~

本稿の目的、構成について

本稿では、長久手市地域ブランディングプラン作成のために、長久手市の認知と

魅力の把握等を目的とし、先行して実施したインターネット調査(期間:2017 年 12 月

6 日~12 月 14 日)や有識者ヒアリング、参考となる市町村の先進的取組やブランド

化などについての事例、長久手市観光交流協会との意見交換、さらに、地域コンサ

ルティングや DMO の専門家たちの資料や文献なども活用しながら、長久手市の観

光・地域ブランディングの「戦略」について考察している。

有識者のヒアリングでは、ブランディング・マーケティングなどの戦略デザインの専門

家・北澤きた ざ わ

順子じ ゅ ん こ

氏、愛知県立芸術大学でランドスケープ(建築およびデザインの分野で

は、都市における広場や公園などの公共空間のデザイン)を専門とする水津す い つ

功いさお

教授、

東京渋谷金こん

王の う

八幡宮は ち ま ん ぐ う

のお祭りを再生させ、一大イベント化させながら地域自治をも

再生している浅野あ さ の

徳一と く い ち

氏に話を聞いた。これらのヒアリング内容は、今後の長久手ブ

ランドづくりに大きな刺激と影響を与えることができると考えている。

長久手市観光交流協会との意見交換で、「長久手らしさ」となる地域資源の掘り

下げに日々尽力しており、「長久手ならでは」の切り口ともいえる地域情報誌『雑人』

を手掛けるなどユニークな視点の活動も理解することができた。

市町村の先進的取組やブランド化について別添資料として挙げただけではなく、本

考察において、視点・視座、フレームワークなどを分析し、本文に溶け込ませている。

有識者の発言やその他地域コンサルティングや DMO の専門家たちの発言、資料や

文献なども本文内において引用・要約活用している。

・・・別添①参照 有識者ヒアリング資料

・・・別添②参照 他地域先進事例資料

・・・別添③参照 長久手市観光交流協会意見交換資料

インターネット調査から「長久手らしさ、長久手ならでは」のアプローチを考える

今回のインターネット調査から「暮らし」を切り出すと、「暮らしやすい」「ベッドタウン」

「新しい」「自然が豊か」などがイメージワードとして抽出されてくる。

一方、長久手市から「何を思い浮かべるか?(魅力は何か?)」では、強烈な印象

を残すものはなく、見どころとして、「愛・地球博記念公園(以下、モリコロパーク)」「長

久手温泉ござらっせ」「リニモ」の施設・鉄道が上位となり、他には「古戦場公園」、「イ

オンモール長久手」「イケア長久手」などの商業施設が挙げられている。

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これは、2005 年に開催された「2005 年日本国際博覧会(以下、愛知万博)」を契

機に長久手市は知られるようになり、それ以降、地域資源がいくつか発信されるよう

になった影響と考えられる。

「モリコロパーク」は「愛知万博」後、数多くのイベント会場として利用され、ナショナ

ルコンテンツの「サツキとメイの家」が常設展示されていることが地域の認知に大きな

貢献を果たしている。

「イオンモール長久手」「イケア長久手」などの商業施設などが建てられたことで商

圏が広がり、長久手市の地域認知も促進されていると考えられる。

また、長久手市との関与度が低い人たちは、「あぐりん村」「長久手温泉ござらっせ」

「せせらぎの径」を魅力と感じており、長久手市との関与度が高い人たちは「リニモ」

「トヨタ博物館」 「モリコロパーク」「学生の集まる[愛知県立大学 ][愛知県立芸術大

学][愛知医科大学 ][愛知淑徳大学 ]」、「イオンモール長久手」「イケア長久手」など

に魅力を感じている。

この調査結果に、長久手市の観光あるいは地域ブランディングプランの重要な鍵

があると捉えており、以下、考察しながら長久手市のブランド戦略のアプローチを提示

する。

・・・別冊参照 長久手市地域ブランディングのためのインターネット調査(以下、イン

ターネット調査)報告書

「古くて新しいまち」長久手らしさ、長久手ならではの可能性を考える

長久手市は「古くて新しいまち」といえる。

この地域は、全国で唯一、天下人同士(豊臣秀吉対徳川家康)が戦った「小牧・

長久手の戦い」という歴史上重要な戦国の合戦があった場所ではあるが、地理的風

土としては、湿地が多く、近年まで、開発があまりされていない地域であった。

ところがこの 40 年で人口は 4 倍となり、愛知万博開催以降、まちの開発は進み人

口はどんどん増えている。

長久手市は、東洋経済新報社が全国の都市を対象に毎年公表している「住みよ

さランキング」で、過去 3 年間に渡りトップ 3 にランクインされている。毎年人口も増加

し、平均年齢も若く、イメージはとてもよい。

人口増加は、すなわち、新しい生活者の流入であり、その結果、生活者に向けた

大小の商業施設も増加している。その意味で、長久手市は、歴史がありながら、新し

くつくり続けられている「古くて新しいまち」である。

この「古くて新しいまち」という描写は、長久手市の今後のブランディングプランにと

って重要なまちの可能性を示している。

これからの長久手市の地域価値・観光価値は、古くからある地域資源を新しいま

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ちの地域価値が内包し、長久手らしさとして、時間をかけ地域住民である長久手市

民とともにつくられていくと考える。

ちなみに、「長久手らしさ」とは、いかにも「長久手だね」という長久手のイメージと置

き換えることができる。また、「長久手ならでは」は、「長久手だからこそできる」のような

長久手の特長と置き換えることができる。

この言葉による概念整理が現在、各観光地、自治体ではあまりうまくいっていない

ところが多い。

そこで、本稿では、長久手らしさ(イメージ)、長久手ならでは(特長)の発掘、掘り

下げ、創出が円滑に進み、長久手ブランドの構築、あるいは再構築に寄与することを

考えている。

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目次

1 章 観光および地域ブランディングについて

8・・・地域ブランディングと DMO

9・・・観光地域のブランド化について

10・・・ブランド戦略について

11・・・時代とともに変わる観光

12・・・観光地の魅力と観光客の満足 (安島博之教授)

14・・・成立しないプロダクトアウト型の思考による観光商品戦略!

15・・・「地域づくりの」ための観光の位置づけ

(複合的価値のつながりとしての観光)

16・・・特産品の商品力は、商品のチカラだけではない背景がある!

17・・・町がもつ独自の文化を支えているのは、そこに暮らす人たち!

17・・・阿智村は実はマーケットイン型!

19・・・観光、地域ブランディングプランのために重要な視点、概念の整理

20・・・長久手市地域ブランディングプランの概要

2章 長久手市の「らしさ」「ならでは」から考える地域ブランディング

made in Nagakute の提案

22・・・価値の再構築が必要な長久手のブランディング戦略

22・・・長久手の強みを浮き彫りにする、フレームワークと地域資源とは?

23・・・地域ブランディングのために

25・・・インターネット調査から長久手市のポジションを探る!

27・・・「ワクワク」をつなげる、「暮らしに馴染む」コンセプトは何か強みとともに考え

28・・・長久手市の観光ブランディング戦略の実践

(1) 地域の強みを見つける

・アートはどうか?

・「アートする」の可能性

・「アートする」をキーワードとして地域価値を再構成

・「アート」に複数の意味づけをし、市民を巻き込む!

・「アート」で長久手ブランド戦略の根幹をつくるとは

・「アートする」が、“made in Nagakute”が築かれる背景をつくる

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(2) 地域の強みの売り込み先を見つける

(3) 地域の強みと売り先をつなげる

36・・・ブランディングプランの実践に向けた提言

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1章 観光および地域ブランディングについて

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地域ブランディングと DMO*

知的財産法や地域ブランディングの専門である金沢大学大学院の大友お お と も

信のぶ

秀ひで

教授

が、地域ブランディングと DMO と関係について、「なぜ地域ブランディングに DMO が

役に立つのか?」「DMO をどうやって使うのか」という視点から述べている。

*DMO:Dest ina t i on Management Organ izat ion の略。

観光物件、自然、食、芸術 ・芸能、風習、風俗など当該地域にある観光資源に精通し、地域

と協同して観光地域作りを行う法人のこと。

まず、地域ブランディングと DMO の関係を次のように整理している。

この2つは同じと考えていいと、述べている。

そして、地域ブランディングの活動を 3 つのポイントにまとめている。

(1) については、地域の人は地域のことが当たり前となってしまっているため、地域

の強みに気づいていない場合が多い。そこで、第三者、外部の目が必要とな

り、地域資源を客観化することで、強みを見つけるようにする対応が必要だと

指摘している。

(2) については、ニーズを知ることと強調している。地域においてニーズはどのよう

なものが眠っているのか?都会ではどのようにニーズが変わっていくのか?な

どのニーズを知るために、ふだんから好奇心が必要で、また、自分が住んでい

る地域とは違う地域では、まったく別のニーズがあるといったことを想像する力

(1)地域の強みをみつけること

・・・・・・・・・・>自分(地域)でも気づいていない特徴

(2)地域の強みを売り込む先を見つけること

・・・・・・・・・・・>地域の強みを一番高く評価する場

(3)上記(1)(2)をつなげること

・・・・・・・・・・・>製品・サービス化、事業化

★地域ブランディングの対象

・・・・・これまでうまく活用されてこなかった地域資源

これらの地域資源を見つけてブランドにしていこうとする活動

★DMO の対象

・・・・・これまで十分に活用されてこなかった観光資源

観光資源を DMO というシステムを活用して地域から掘り起こして、

つかいこなしていく考え方(活動)

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や発想する力が必要であるとし、このポイントは、「常識では決めつけない!」

ことだと述べている。

(3) の「つなげるためには?」では、仲介力、接続力などの人脈や情報ネットワーク

が不可欠で、さらに、具体的表現で見せる力、具現化する力が不可欠だと提

言している。

観光地域のブランド化について

「観光地域のブランド化」が 2012 年『観光白書』に設けられ、次のように謳われた。

この観光庁の方針は、全国 1,700 を超える地方の基礎自治体(市町村)に対し、

勇気を与えている。

確かに地域にとって、観光ブランディングが効果的に展開されれば、地域がそのブ

ランドの信頼性をベースに、他の地域よりも高い価値を感じ、好感を持ち、訪れてもら

うことが可能となる。さらに、地域の評価が高まり、ブランド価値が向上すれば、他の

地域より高い価格設定をしても潜在観光客はその地域に訪れたいと思うようになる。

そのモチベーションから、国内外の多くの観光に携わる人が観光ブランドイメージの

確立に躍起になっているといえる。

大友教授は、地域を知っている住民、地域に責任を持つ自治体、これらをベストマ

ッチングする仲介人の存在が必要であるとし、DMO への期待を次のようにまとめてい

る。

「地域の特性を最大限に活かした観光地域づくりを通じた滞在型観光の促進に向

け、基軸となる観光地域づくりの理念 (コンセプト)、主たる顧客層(ターゲット)、自地

域の位置取り(ポジショニング)等を明確にした戦略的な計画の策定を促進する。

さらに、日本を代表する有形・無形の地域資源がある観光地域について、地域の

取組段階に応じた戦略的な観光地域づくりの促進に向け、地域の努力や顧客の

満足度等の客観的・恒常的な評価の構築を図る」

(引用 :観光庁 2012『観光白書』)

(1)地域資源の活用に必要な知識の提供

・・・・・>ブランディング(マーケティング)による分析と市場へのアクセス

(2)リスクを最小化した事業(活動)提案

・・・・・>明確なコンセプトに基づく具体的な提案

(3)活動チームの調整

・・・・・>経験を活かした多様な主体の活用

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これらの 3 つから、住民、自治体の弱点を補おうとするものが DMO といえる。

市町村のなかには地域の「稼ぐ力」をきわめて短期的な視点で捉えてしまい、地域

特性を鑑みないバランスを欠いた観光事業計画を立てている地域もある。DMO の設

立有無を問わず、そこに描かれている方針を取り込み、地域価値を向上させる対応

が必要である。

ブランド戦略について

観光に限らず、地域のブランド価値を上げることは大切な地域課題である。

ブランド総合研究所が毎年実施する「地域ブランド調査」は、地域のブランド力を、

消費者が各地域に抱く「魅力」で数値化したものとして発表している。

そこでは、「魅力」を観光、居住、産品など他の項目結果から分析している。

観光とは関係ないように思われる「住みよさ」「地元愛」「子育てのしやすさ」「福祉

が充実」なども地域のブランド価値向上にとっては重要な要素である。

このようにさまざまな面からブランド理論が注目されているが、「そもそもブランドとは

何か」をきちんと捉えておきたい。

アメリカンマーケティング協会によると、ブランドは下記のように定義されている。

昨今、このブランド理論を観光地に応用したのが観光ブランドあるいはブランディ

ングである。しかしながら、まだ観光地のブランド価値を客観的に評価する手法は確

立されていないが、近似調査として、イメージ・魅力度・認知度を計りながら定量・定

性調査ができる環境が整ってきており、地域 (長久手市)の外観が浮かび上がり、

戦略的ブランディングが可能になってきたと考える。

「個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ、競合他社の

商品やサービスから差別化するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、

あるいはそれらを組合せたもの」

観光庁は、地域の「稼ぐ力 」を引き出すとともに、地域への誇りと愛着を醸成する観光地

経営の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明

確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略

を着実に実施するための調整機能を備えた法人として、日本版 DMO を規定しており、大

きく3つの役割と機能を提示している。

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時代とともに変わる観光

観光地のブランド化を考える上で、観光の変遷を理解しておく必要がある。観光が

時代とともに変わり、その期待も目的も変わっていく姿への理解は、「地域のあり方と

観光との関係」や「地域の新しい価値創出」において重要である。以下、簡単に整理

している。

まず、一般的に観光対象となる観光資源は従来から大きく下記のように分類され

ており、今でも多くの人はこれらを観光資源と考えている。

自然資源

山岳、高原、原野、湖沼、峡谷、滝、河川、海岸、岬、島嶼、岩石、洞窟、

動物、植物、自然現象

人文資源

史跡、寺社、城跡・城郭、年中行事、碑・像、建造物、動物園・植物園、

博物館・美術館、水族館、田園景観、郷土景観、都市景観

戦後から現在にいたるまで、時代とともに観光対象が変わってきている。

戦後、古くからある温泉旅行、修学旅行や慰安旅行などの物見遊山的なものから

はじまり、経済の発展とともに、スキー場や海水浴場の開発ブームが起こり、また、農

村漁村の民宿が増加し、別荘開拓、町並み郷土景観が整備された。そのなかには、

現在も観光客が多く訪れる人気観光スポットになっているところもあるが、衰退したと

ころもある。

高度経済成長が落ち着くと、「安 ・近 ・短 」が流行り、安くて、近くて、日帰りができ

る都市部近郊の開発が注目された。それにともない身近なところで楽しめるスポーツ・

レジャー、リゾート開発、キャンプブームへとつながっていく。その過程で、マスツーリズ

ムは減り、個人の興味を刺激する観光商品が開発されていく。そして、現在につなが

るグリーンツーリズムやエコツーリズムなどに変遷していった。この変化は、観光に対

する期待・目的やイメージの変化ともいえ、またそれは、同時に、ある観光地の衰退を

も示す変化ともいえる。

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観光のスタイル 対象 行動 時代

マスツーリズム、ソーシャルツーリズム

物見遊山としての観光 景勝地 みる 戦後

多様な楽しみとしての観光 開発された観光地 遊ぶ、食べる、買う 1950 年代

日本再発見としての観光 歴史、文化、景観 知る、学ぶ 1970 年代

豊かなライフスタイルとしての

観光 自然、避暑地

体験する、交流する

癒される 1980 年代

オルタナティブツーリズム

(グリーン・エコツーリズム、産業観光、レスポンシブルツーリズム)

その土地(風土・世界観)

を理解する観光 背景、文脈 理解する

1990 年代

後半以降

引用参照 『観 光資 源の今 日的価 値基準に関 する研 究~観光対 象 の変遷 ~』(公 益 財 団法人日 本交通 公社 )

観光地の魅力と観光客の満足

跡見あ と み

学園女子大学観光コミュニティ学部の安島やす じ ま

博幸ひろ ゆ き

教授は、『観光研究の課題

と展望』の中で、観光地の「価値」について次のように述べている。 (以下引用、要約)

観光地の価値がどうして減っていくのか、を考えるとき、「観光地は 1 回行ったら魅

力を失ってしまう」。観光地はだいたい 1 回しか行かない。「行った」ことで消費され、

価値を失ってしまう。これは小説や映画と同じ。何回も読んだり見たりする人もいるが、

基本的には 1 回限り。関ケ原の古戦場を展望台から見て、「ここで東軍・西軍が戦っ

たんだ」と感激しても、基本的には 1 回見たら終わってしまう。このように精神的価値

に依存するものは 1 回で消費されてしまう。これが観光の盛衰に大きく関わってくる。

価値には精神的価値と身体的価値がある。例えば、軽井沢の涼しげな森の中の

別荘や温泉、食事のようなところには毎年行く。これは一時的に満腹になり、お風呂

に入れば、「いい湯だったな」と思うが、翌日にはお腹が減ったり、お風呂に入りたくな

ったりしてリピートする。価値の性質の中にはリピートするものと、1 回で消費されてし

まうものの 2 種類がある。

観光地にとって「食 」は「○○の名物」という記号的要素と、「おいしいものを食べる」

という身体的要素の両方の価値からできている。ミシュラン三ツ星のレストランも同様

である。

時間の経過とともに身体的価値は変わらないが、精神的価値は消費され減衰す

る。

安島教授は「価値」について、フランスの思想家ピエール・ブルデュが示した「ものを

消費する大きな動機は、(さらなる)消費によって他者よりも優位な状況に立つ」とい

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う、消費者心理からみた観光ブランディングにとって重要な概念である「差異化 」を、

2005 年に東京スカイツリーの立地選定委員になった経験から解説している。

タワー観光は何もしなければ、オープン直後がピークでどんどん客数が減ってしまう。

このように 1 回行けば消費されてしまう観光、これを解消するために、「差別化」だ

けでなく、「同質化」「古典化」といった概念を理解し、アプローチすることが必要だと述

べている。

まずは、観光客(来訪者、利用者)の心理的側面 (マーケットニーズ)から視点を提

供している。

新婚旅行でいえば、昔は熱海や伊豆、その後は京都や宮崎、そして沖縄。みんな

が行くようになると、さらに遠いところへ行くようになる。グアムやサイパン、さらにはハ

ワイ。それは、より遠くに行くことによって、人よりも優位に立ちたいという無意識の欲

求が表れている。

また、毎年、東京ディズニーランドが年平均 400 億円規模の投資を行い、新しい乗

り物、パレート、ショーなどのアトラクションの提供によって、集客を維持して勝ち続け

ていることも同様に説明できる。

消費者(観光客)は、「誰よりも早く経験したい!」と、無意識のうちに人よりも優位

に立つことを願うようになる。(「差異化」という)

また一方で、東京ディズニーランドに行ったことのない人は、早く行って、ほかの人と

横並び になりたいと思う。これを「同質化」という。

一旦この同質化グループの中に入ると、ほかのみんなを出し抜いて、最新のアトラ

クションを見て、自慢したいと思うようになる。これは「差異化」だが、どうやら同質化と

差異化は別ではなく同じベクトルといえる。

サンシャイン 60 や千葉ポートタワー、横浜ランドマークタワーなどのタワー来訪者の

落ち込みに比べると、もっと古い東京タワーの客数は、実はあまり落ちていない。

したがって、スカイツリーは、それを目指すアプローチが必要となる。具体的に、スカ

イツリーは「はとバス」の存在と、「夜景」という観点から立地が選ばれたが、もう一つ

大事な視点は、「古典化」という概念だ。

東京タワーとスカイツリーのどちらが好き?と聞くと、今でも東京タワーと答える人が

多い。東京タワーは建造物とすると、お金をかけず、なるべく鉄を使わずに建てたもの

なので、よく見るとつまらないカタチで、鉄の量はエッフェル塔の 3 分の 1 しかない。

でもそこからいろんな物語が生まれることで、東京タワーならではの価値が生み出

された。「世界一」のタワーを日本人が造ったことで、昭和 30 年代の象徴的な存在に

なった。時代が下るとライトアップされ東京の夜景のシンボルとなった。そういうところ

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から、『ALWAYS 三丁目の夕日』という映画や『東京タワー』という小説が生まれてくる。

それが連続して起こるよう になると、「高さ日本一という価値 」を超えて価値が再生

産(再構成)されるようになる。

価値の減衰よりも再生産される価値のほうが大きくなると、価値全体としては増大

するようになる。この現象を「古典化する」というふうに呼んでいる。この概念は、「ブラ

ンド」を考える上で、重要となる。スカイツリーはそこを目指していくということになると考

えた。

古典化というのは名画になって美術館に飾られる、名作になって文学全集に入る

など、時代を超えて生き続けられるようになるということ。映画になり、テレビで再放送

され、ビデオになるなどいろんな形で社会に浸透していくことだ。

観光戦略はそういう長いスパンで考えていくことが大事である。

例えば、フィルムコミッションのような映画を誘致しながら、新たな視点から地域資

源を価値あるものにしていくことで成長させる。そういう新たな価値創造=イノベーショ

ンを起こしていく動きが大事なのである。

エッフェル塔は、建設のときに有名な文化人(モーパッサンやデュマ)が反対してい

るが、この反対運動が起こることで大きな話題を呼んだ。その後、飛行船が回ったり、

ヒトラーに爆破予告を受けたりした。数多くのエッフェル塔を舞台にパリの歴史や物語

が生まれ、それが、エッフェル塔の価値を形成している。

このように、安島教授は一番大切なのは「価値」をどうつくるかだとし、それは永遠

のテーマであると述べている。

価値のベクトルを計画的に導くことが大切であり、いわゆる観光価値、地域ブランド

とも関わってくることだとしている。

「成立しないプロダクトアウト*型」の思考による観光商品戦略!

*プロダクトアウト:商品やサービスの企画・開発において作り手の論理や計画を優先させる方法

一般的に観光地は、有名な旅館、おいしい地元の料理、温泉、景観、そこでしか

体験できないイベントなどの商品の複合体でできており、ほとんどの観光地が 1 つの

商品だけでは成立していない。まるで正月の「お楽しみ福袋」のような重層的な構造

が重要である。

仮に 1 つの商品だけに見えても、先述した通り、精神的な価値と身体的な価値の

2 つの側面を満たしていなければ、観光客に足を運ばせ、満足させることはできない。

ところが、観光地を 1 つの商品として捉え、非常に大味な商品提供側の理屈による

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プロダクトアウト型思考の観光商品開発が行われてきた地域も多い。

商品化の前の段階での、地域の「らしさ」「ならでは」をテーマとして掘り下げられな

いまま商品を作ってしまい、商品を売るために、宣伝広告費を膨大にかけてしまうとい

う悪循環に陥るというケースである。

この前段階のプロセスが観光あるいは観光ブランディングについて考える上で最も

重要であるが、多くの地域が、いまだに地域名のついたお菓子を作り、その 1 つの商

品を売り出すことを観光の目玉にしようと考える人が多い。

1 つの商品を売り出すために販売促進(プロモーション)に資金やエネルギーを注ぎ、

注目され、地域がメディアなどに露出されることが地域や観光ブランディングにとって

決して効果的ではないことを理解する必要がある。

また、昔からの寺町、城下町、温泉街などの名勝地、景勝地でさえ、そこの場所が

有名になるにはさまざまな理由や地域全体の背景が存在しており、1 つの商品のすご

さだけの理由では観光地としては成立していない。

「地域づくりの」ための観光の位置づけ(「複合的価値」のつながりとしての観光)

地域全体がつながる、地域づくりのための観光戦略として、観光プラットフォームを

掲げる山形県長井市の内谷う ち や

重治し げ は る

市長は、日本版 DMO のインタビューで次のように

答えている。要約して紹介する。

大手家電メーカーの企業城下町として栄えていた長井市は、市民観光(散策)とし

て、あやめ、さくら、つつじなどの花観光があった。豊かな経済的基盤が背景にあった

からこその市民の憩いの提供だった。

しかし、企業城下町のモデルが壊れ、それが立ちいかなくなり、今まで考えていなか

った市は外から人を呼ぶことをしないと、経済が回らないと考えた。

人口減少カバーも同時に課題としてあった。(観光振興の取組)

外から人を呼ぶことでお金を落としてもらえ、また、交流によって地域が活性化する

といったことから観光の必要性を見直した。

DMO については単なる観光振興ではなく、地域全体が潤い、さまざまな交流、自

分たちの地域や観光への思いに気づく DMO にしたいと思っている。

従来型観光の課題は、例えば「道の駅」の魅力は全国的に周知されているが、観

光プラットフォームの視点から見ると、「道の駅」だけが潤い、温泉街が流行っても、市

や町全体に経済波及効果がいっているのか?という疑問がある。

大河ドラマや朝の連ドラで話題となり、人が多く押し寄せても、よく見ると潤っている

のは一部の人だけで、そういうのは、長井市の「観光プラットフォーム」とは違う。

旅館で出す食事も、お土産も全部、地域の人がつながっていないと、地域づくりに

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つながる観光にならないと考えた。

観光プラットフォームを理解し、参画してもらい、お互いに理解し合うことが重要で、

それが本来の観光プラットフォームだと思う。

長井市の場合は、「道の駅」に案内拠点機能があり、観光交流センターの中に位

置づけられている。そして、市民自体も、そのサービス、商品を消費することで、地域

波及が起こり、観光プラットフォームを理解してもらおうと考えている。

このコメントは、地域全体を盛り上げることをしないと、結果として、商品サービスの

価値も上がらなくなるといった他地域の状況を鑑みた結果である。

長井市は、最上川流域で商業集積地として昔から交流人口の多い地域特性があ

る。しかし、市民の買い物は仙台市へ流れるなど、中心部の空洞化が懸念されてい

る。

逆に長久手市は、誘客力のある商業施設が立ち、買い物などの交流人口は増えて

いる。その人口流入が地域全体の経済的活性につながる地域戦略が必要である。

特産品の商品力は、商品のチカラだけではない背景がある!

伊勢の赤福餅は、今では、有名百貨店などで有名菓子として販売されているが、

それはお伊勢参りという一大イベントが背景にある。伊勢神宮なくして、いや、お伊勢

参りなくして赤福餅は存在しない。

名古屋の有松絞りは東海道の小さな間の宿有松で、道中の土産物として全国に

名が知れた。しかしそこには、地域一帯が有松絞りの生産地として尾張藩の庇護と

いった背景があり、往来の多い東海道で商売ができたことが大きい。現在の観光地と

しての有松は生産地としての顔をもちながら、今となっては江戸の文化・歴史を感じさ

せる町として付加価値を付けて展開している。

商品開発には下記視点が必要であり、そのために、「らしさ」「ならでは」を掘り下げ

る必要がある。

<マーケットニーズ ✖ 地域商品 × 地域背景>

・赤福餅のケース お伊勢参り×・疲れをとる食×伊勢神宮

・有松絞りのケース 道中のお土産・旅の友×品質のいい藍染×産業集積地

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町がもつ独自の文化を支えているのは、そこに暮らす人たち!

横浜、神戸、函館、長崎のような観光港町は、いずれも幕末に開港というエポック

メイキングの主役となった町である。

どの町も立ち並ぶ洋館が観光地としての象徴となっているが、これらの町が人を魅

了するのは決してそこ(外観)だけではない。

これらの町は、外国人商人なくしては成り立たなかった。かつて外国人が闊歩し、

ファッション、食べ物、さまざまな外国の生活様式が町に溶け込み、それが町の新し

い文化や風土となった。これらの町の異国情緒は、建物などの外観だけではなく、そ

こに暮らす日本人の生活文化にも少しずつ現れている。そこに暮らす日本人もこの異

国風情を楽しみ、外国文化を受け入れた結果である。

異国情緒という括りとしては1つのテーマといえるが、建物、街並み、店舗の調度

品、食べ物、そして港町がもつ独特の生活音などさまざまな文化の複合体として異国

情緒のある町として成立しているのである。

神戸は震災で市街地が破壊され今も大きな傷跡が残っているが、どれだけ震災で

失っても、開港時から神戸が築き上げてきた洋菓子ブランドのトップポジションは変わ

らなかった。

こういった揺るがない地域ブランドの獲得は、連綿と続く町のチカラといえる。

阿智村は実はマーケットイン*型!「体験イメージが想像の範囲だからうけた・・・」

*マーケットイン:商品やサービスの企画・開発において、消費者のニーズを重視する方法

何もない田舎から人気観光スポットとなった長野県阿智村の天空の楽園は、「何

もない田舎の村だからこそ」の発想の転換で、自然の恵みにフォーカスしたアプローチ

によって成功をおさめたが、きちんとした評価をする必要がある。

結果として「日本一」といった冠(環境省認定)がついた阿智村の星空は、今では

十分な観光価値がついている。 一見すると、プロダクトアウト型の商品開発に思わ

れるが、ここには十分なマーケットニーズが存在している。

・港町のケース

① 歴史文化背景 <まちの発展✖シンボル・独自文化⇒地域らしさ>

② 外国文化の訴求<外国文化生活様式×地域住民⇒地域ならでは>

・神戸市のケース

① 開港、港町×外国人の生活様式、洋館⇒異国情緒のある町

② ステーキ、洋菓子、ジャズ×地元住民⇒欧米風のライフスタイル

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一般的に、日常生活では経験できない特殊な事象を見たり、体験したりするため

に、人は観光に出かける。しかしながら、非日常の経験を求めながら、実はある程度

予測や予想ができることを経験しようとする傾向にある。

知らないある地域に出かけた時に、したことのない経験でありながら、その経験のイ

メージやどのような出来事、どのような事象なのかをすぐに理解することができる場合

が多い。もしかするとほとんどの人が「わざわざ星空だけを見に行った経験はない」と

いうかもしれない。日本一の阿智村の星空の体験をさせるためには、まず、阿智村に

限らず星空体験という行動自体が魅力的に映っているかどうかが重要であった。

おそらくほとんどの人が過去に星を眺めたことがあり、プラネタリウムで感動を覚え

た人も多いことだろう。実は、世の中には、潜在的な星空好き、天空・天体好きという

マーケットニーズが存在しているということが成功の前提にあることを忘れてはいけな

い。もちろん阿智村側の気づきと努力によって新しい観光商品を造成したが、結果的

に、マーケットイン型のアプローチであったと考えるべきである。

ハワイ島の 3~4,000mを超える山から天体観測を体験した日本人は多い。実際に

は世界中のどこにも比較にならないほど美しいといわれている。

しかし、その観光地の絶対的価値は、観光者とって必ずしも十全な価値である必

要はない。(ゲストとしての観光客が、納得し、満足すればいい)

例えば、天体観測などのテーマを消費する人たちは、非日常でありながらなんとな

くテーマ体験の想像ができる。想像ができたら刺激もなく、おもしろくないと考える人も

いるが、そうではない。人は事前にある程度想像できるからこそ期待するし、その想像

と実際のギャップを楽しむことも、経験の後ですることができる。

その意味で、阿智村は、星空体験そのものが、美しく素敵な夜となるとイメージでき

ることが、まずは重要であったのだ。

また、体験後の会話によく出てくる「どこが一番美しかった」などの仲間との会話で

の比較は、あくまで個人体験者の感想でしかなく、そこには実際の観光地の絶対的

価値(評価)とも違い、会話を楽しむためのネタであり、別の文脈でマーケットに流れ

ている。

ここに(マーケットに)振り回されることもあるので、気を付ける必要がある。

受け入れられる観光商品⇒<物珍しさ×想像がつくシーン×・付加価値>・阿智村のケース

何もない山奥の田舎×ロマンチックな天空体験×日本一 ・福井県越前町のケース

美味しい越前蟹×蟹尽くしの料理×現地での体験 ・東京タワーのケース 世界一だった電波塔×夜景が素敵×映画・小説の舞台、それぞれの想い出

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観光、地域ブランディングプランのために重要な視点、概念の整理

地域ブランディングを進める上で、どこの市町村でも陥る落とし穴があるが、それは

同時に気づきのポイントでもある。

よく陥る落とし穴

①地域の実情を鑑みない、プロダクトアウト型の観光商品開発

②マーケットニーズを鑑みない、プロダクトアウト型の観光商品開発

③マーケットと地域のコミュニケーションを無視したプロモーション展開

具体的に必要な視点

例えば「小牧 ・長久手の戦い」の何を知ってもらい、共感してもらいたいと思っている

のか?質のいい史実も体験 ・体感インパクトがないと 1 回の来訪で終わる。

⇒「小牧 ・長久手の戦い」の観光テーマは何か?何を消費させるのか?

⇒消費対象者は誰?なぜその人?どのようなコミュニケーションが理想か?

⇒歴史好き以外の人への波及は?

⇒市民にとり、どのような意味をもっているのか?

重要な視点、概念

①地域ブランディングの対象は、うまく活用されてこなかった地域資源

②DMO の対象は、これまで十分に活用されてこなかった観光資源

③地域ブランディングと DMO の活動は、同じと考えていい

④地域ブランディングの 3 つの活動

・地域の強みをみつけること(地域資源の客観化)

・地域の強みを売り込む先を見つけること(ニーズを知ること、常識で決めない)

・上記2つをつなげること(人の力、仲介力・接続力、表現力、具現化力)

⑤価値には、精神的価値と身体的価値の2つがある

⑥差異化と同質化(消費者心理を知る/ニーズを知る)

⑦古典化(価値の再構築、再生産)

⑧観光戦略は長いスパンで考える

⑨観光ブランディングは「おたのしみ福袋」同様、1つの商品では

価値づかない

⑩地域づくりのための観光

⑪複合的価値のつながりとしての観光

⑫マーケットニーズ×地域商品×地域背景

⑬地域らしさ(地域のイメージ)

⑭地域ならでは(地域の特長、特性)

⑮観光商品には、物語性が必要

⑯想像がつくシーンの提供

⑰メディアを通じて記号化されている観光消費の理解 など

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長久手市地域ブランディングプランの概要

インターネット調査からも明らかなように、長久手市は「暮らしやすいまち」で、いわ

ゆる観光地ではない。

そこで、今後の地域ブランディングを考える上で重要なアクションプランは、長久手

市民が納得し、胸を張り、「これが長久手!」「これぞ長久手!」と呼べる「長久手ブラ

ンド」を構築し、市民が同意(参画)できる“made in Nagakute”の創出であると結論

づけた。

▼長久手市観光ブランディング戦略の概要フロー

“made in Nagakute”の商品やサービス、イベントなどが、きちんと消費されるに

は、その背景となる物語性に興味を持ってもらい、共感されなければ成立しない。

観光地ではない長久手市は、従来型の観光地が取る戦略では、長久手らしさは

出ない。暮らしやすいまちである長久手市だからこそ浮き上がってくる地域資源はたく

さんある。

それは、今まで行ってきた数々のイベントの中にもヒントがある。そして、観光とは縁

遠い生活スタイルや大学機関、あるいは人を掛け合わせると「長久手の息づかい」が

聞こえてくる。

長久手市の地域資源の見直し

・地域資源の本質を探る(観光資源となるポイントのずれを解消)

・観光資源にならないと思っていた地域資源にフォーカス

・観光資源となるための、背景となる文脈を整理

「長久手らしさ」「長久手ならでは」を探求

・長久手市民が納得する長久手の地域イメージの創出

・ああなるほどと長久手市民が納得する、長久手ならではの事・物の創出

地域づくりのための観光

長久手の地域の物語づくりが、長久手の観光ブランディング!

長久手ブランド構築⇒“made in Nagakute”へ

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2章 長久手市の「らしさ」「ならでは」から考える

観光、地域ブランディング

made in Nagakute の提案

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2章では、長久手市の「らしさ」「ならでは」から考え、“made in Nagakute”が可能と

なる観光、地域ブランディングについて、検証し、提案する。

価値の再構築が必要な長久手のブランディング戦略

インターネット調査においても、市外からの長久手市のイメージは「ベッドタウン」「郊

外」にとどまっており、視覚的にインパクトのある自然や景観、城郭や建造物などいわ

ゆる観光の目玉となるものはないと考えるべきである。これをどれだけ今ある地域資

源を机上で演出し、構築しても、「長久手らしさ」は生まれてこない。

「インスタ映え」の流行により、物理的な見せるものにどうしても行きがちだが、長久

手の地域資源を掘り下げ「長久手らしさ」を再構築し、「長久手ならでは」の特長を活

かした物語性のある長久手市の地域ブランディングを展開する必要がある。

長久手の強みを浮き彫りにする、フレームワークと地域資源とは?

有名な観光地の場合、各商品がどのような文化・歴史、風土などの地域背景をも

っているかを、観光関連事業に携わっていない地域住民(ホスト)も、理解を示し、誇

りに思っていることが多い。

目に見えない地元への愛着がホスト側に自然に備わっているからこそ、地域全体

としてどのようなまちを形成していったのかを、①生活②経済の 2 側面から考える必要

がある。

そのためには、以下のアプローチと展開は必要である。

「長久手古戦場」は歴史上重要な史跡であり、その全体像としての合戦である「小

牧・長久手の戦い」は、日本の歴史において大変に意義深く重要ではあるが、現実

にはそれを体験することはできない。

城郭などの見る、視覚的インパクトがなく、歴史上重要という位置づけで観光資源

とするには、歴史的事実だけではなく、地域や住民がその歴史的価値を保存しようと

することが大切であり、また、地域にとって、この合戦がどのような意味があるかを掘り

下げ、地域価値を創出する必要がある。

これらと同じように、地域資源、観光資源と思っているものもきちんとブラシュアップ

(磨き上げ)しなければ「地元が愛する地域の価値」「魅力に映る観光の価値」とはな

らない。

価値には精神的価値と身体的価値があり、消費者にその両方の価値を「なるほど」

と納得してもらえて、はじめて観光価値のテーブルにつくといえる。

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天下人の行く末、関わった戦国武将のエピソードはもちろん重要だが、なぜこの地

だったのか、もっと当時の地域の様子や、そこに住んでいた人たちの心情が浮かび上

がってくるようにしなければならない。

長久手市観光交流協会は、現在、長久手市在住の“おもしろい人”にフォーカスし

ている。何かを製造していたり、生産していたりなどの超芸術的な人たちにフォーカス

している。

このアプローチはおもしろく、暮らしやすさに好印象のある長久手のまちを彩ってい

る人をテーマにした情報誌『雑人』も、人の個性から長久手の色が感じられる。

歴史においても、この手法と同じ切り口で突き進むことが必要である。

派手な建造物のない歴史や史跡が、地域づくりのための観光資源となるには、文

脈と地域との関係が最も重要となる。

つまり、この歴史が地域の気風となり、また、心情が根付いていることが、市外の

人にとってその地域への憧れという差異を埋める同質化行動に拍車をかけ、結果と

して観光来訪が促進される。

また、その展開であれば、地元愛としての側面から「小牧 ・長久手の戦い」を語る

者が増えてくるといえる。これらの歴史や史跡が、歴史好きだけのものにしては、地域

づくりのための観光という観点から、決して、地域ブランディングには寄与しない。

このように地に足をつけた地域との関係を意識した地域資源の磨き上げが必要で

ある。

しかしそれだけでは「長久手市らしさ」は創出されないし、伝わらない。

そして、それが魅力として訴求されなければ、「長久手ならでは」は見出せない。

「長久手らしさ」の要素や「らしさ」創出のための切り口を見出すため、1 章で学んで

きた視点やインターネット調査結果を活用し、長久手市民の、全員参画が可能な、

日常的な活動を通した自然な(無理に作られていない)地域ブランディングを展開す

るこ とが 、未 来 に向 けて新 しい長 久 手 の文 化 ・風 土 を生 み出 し 、 “ m ade in

Nagakute ”という地域のブランド価値を創出することにつながると考える。

地域ブランディングのために

現在、長久手が持たれているイメージの中に、観光、地域の価値向上のヒントがあ

り、そこに何かを掛け合わせたり、重ね合わせたりすることで、長久手の「らしさ」「なら

では」が抽出できると考える。

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まず、別冊のインターネット調査から、あらためてマーケット(消費者/潜在来訪者

/ゲスト)側の立場を中心に分析し、検討する。次に、長久手の地域資源を価値創

出(プロダクト)する側に立って分析し、検討する。

そのプロセスで、重要な地域資源の捉え方、視点、新たな価値創出に寄与する方

法論から、長久手ブランドのコンセプト(テーマ・行動指針)を検討する必要がある。

インターネット調査において非常に興味深い結果が出ている。

●お出かけしたくなる気持ちの全体で最も多いのが、「ワクワクしたいとき」

⇒行動の原動力のイメージ表現は、「ワクワク」!

●長久手市民で「ワクワクしたいとき」と回答したのは 42.3%。

これは他の地域も含めた全体 35.6%という割合から見ても非常に高い。

⇒長久手市民は「ワクワク」への期待が高い!

お出かけする、地域に行くという行動の根底にある心の動きは「ワクワク」なので

ある。この言葉を使って、フレームワークについて解説する。

▼地域資源とシーンと期待感をつなぐワクワクするテーマが「地域らしさ」(レイヤー図)

地域にはさまざまな魅力があるが、それぞれの地域資源が分野やタイプにより自

然に分類されている。大きくは「自然資源」と「人文資源」がある。

その中から、史跡、施設、祭、美術館・博物館、公園、森林などに分けられる。そこ

から次第に呼称が生じる。例えば、「色金山歴史公園」「モリコロパーク」「トヨタ博物

館」などである。

地域資源①

地域資源②

地域資源③

地域資源④

ワクワクシーン

ワクワクシーン

ワクワクシーン

ワクワクシーン

地域資源とシーンと期待感を

つなぐ ワクワク イメージ

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図にある地域資源は 1 つのレイヤー(分類階層)である。任意に決めることができ

る。

例えば、地域資源①は「歴史」、②は「施設」、③は「人 」、④は「体験」、⑤は「お洒

落」⑥は「人」、⑦は「イベント」、⑧は「祭」といったようにそれぞれのレイヤーにタイトル

を付けていけばいいだけである。そこは自由な視点で構わない。それぞれに、感情・情

緒が付される。それを例えば「ワクワク」シーンとしてテーマを入れるとそれぞれのシー

ンが浮かび上がってくる。ここから、それらをつなぐことができる統合して中心に置ける

「何か」を見つけ出す、編み出す、もしくは創り出す行動が、地域の「らしさ」創出の源

泉となる。

長久手市においてもこの手法に従いながら、地域資源を捉え直し、より価値のある

ステージに上げたいと考える。

このレイヤー図を頭に入れた上で、インターネット調査において特に長久手市の特

徴と感じられるものを抽出してみる。

インターネット調査から、長久手市のポジションを探る!

インターネット調査により、観光ニーズおよび客観的な地域ポジションと市民傾向

がわかる。

●リフレッシュしたいときに過ごす場所は「ショッピングモール・商店街」が 45.7%

でトップ。長久手市民も「ショッピングモール・商店街」がトップの 43.8%だが、

他の地域に比べると「美術館・博物館」や「動物園・水族館」「日帰り温泉・

リラクゼーション施設」の割合が高い。

⇒消費願望が物資「モノ」だけでなく<文化・体験>の「こと」に拡がりがある

●リフレッシュしたいときに一緒に過ごす人は、全体で「家族・親戚」が多く

41.1%を占める。長久手市民はその中でも 53.2%とさらに同回答者の割合

が多い。

⇒「家族」単位での活動傾向は圧倒的

●地域イベントへの参加意欲は、全体上位が「家族、子供と楽しめる」「無料

で参加できる」「準備が要らない」である。

⇒地域イベントは<家族・無料・準備不要>がキーワード

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●長久手市民は、上記に加え「芸術鑑賞」「著名人の講演が聞ける」

「地域に貢献できる」「知識や教養が深まる」の割合が高いことが明らか

になっている。

⇒<芸術・文化・教養・知識>が、長久手市民の好むキーテーマ

●長久手市のイメージは、「ベッドタウン」「郊外」「自然が豊か」。男性は

「歴史や伝統がある」ことにイメージを持ち、女性は「暮らしやすさ」

「カフェ・雑貨店が多い」にイメージを抱く。

⇒男女のニーズの違いが浮き彫りとなっている。お出かけは家族とする

が、視点は異なり、違うものを好む。

●長久手市民のイメージは「暮らしやすい」が圧倒的。

⇒観光のまちというより、生活のまちという認識(立場/ポジション)

●長久手市の「施設・見どころ」の魅力は、「サツキとメイの家」など、

遊び場がいっぱいな「モリコロパーク」「長久手温泉ござらっせ」「リニモ」

が上位

⇒「非日常感」より、「日常感」に共感する傾向

●長久手市民、長久手市以外の愛知県民は「イオンモール」「イケア」と

いった「商業施設」が目立つ。

⇒観光型の行動・消費はしていない

●長久手市の「イベント・特産物」の魅力は、全体では、「トヨタ博物館クラ

シックカー・フェスティバル」「長久手コレクション冬」「地元で採れた旬の

野菜や果物」が上位。

長久手市民は「警固まつり」が飛び抜けて高く、「長久手古戦場桜まつり」

「長久手コレクション冬」と続く。

⇒希少価値、限定モノ、想像できる体験

以上がインターネット調査の特徴的な結果である。

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これに、第 2 次長久手市観光交流基本計画の方針および有識者ヒアリングを踏

まえ、長久手市の地域ブランディングのために、3 つの求められる視点を抽出した。

①人を巻き込めるコンセプト(老若男女問わず、家族全員)

②日常の行動の延長上にあるコンセプト(非日常の側面がありながら)

③人をつなぐ時に“ワクワク”するコンセプト(中心となるすべての上位概念)

長久手市は観光都市ではないため、いわゆる観光地のアプローチは向かない。

温泉街に行って、温泉に入り、地元の食を堪能して、特産品を買物するといった従

来型の観光パターンはおそらく長久手市民の全員がイメージができないと思われる。

そこで、架空の「長久手らしい」地域の「楽しみのシーン」を、描いてみることとした。

長久手市民および来訪者が、長久手市での楽しみ方は、例えば、次のようになる。

「家族と気軽に参加できるワクワクする、他の地域ではできない希少価値の

ある“芸術・文化・体験”をしたい」

「普段ぽい(日常的)けれど、少し違う。」

「想像はつくけど、少し特別感があることをしたい」

こういったシーンは、一般的な観光体験とは少し違う。地域で開催されるイベントや

文化的ワークショップのような、暮らしの延長上にある活動に近い。

「求められる視点」とレイヤー図から、暮らしの延長上に「ワクワク」があるとすれば、

それは「暮らしに馴染む」テーマである必要がある。

「ワクワク」をつなげる、「暮らしに馴染む」コンセプトは何か強みとともに考える

あらためてインターネット調査に戻ると、長久手市に魅力を感じる(=ニーズがある)

コト・モノとして、「芸術、文化、教養、知識、歴史、食・・・」というテーマが挙がってくる。

「芸術、文化、教養、知識」を包括した表現で「アート」と置く。

暮らしに馴染むテーマとしては、「アート」と「食 」である。

暮らしの延長上で考えると、「食 」は「『長久手産』の『地産地消』」や「オーガニック

を楽しむ」となる。

確かにライフスタイルとの結びつきはあるが、長久手市がその「食文化」を共有しな

がら「地元を楽しむ」ほどの「地元の素材」が残念ながら今は存在していない。

ライフスタイルという観点から「アート」は、「お洒落」「暮らしやすさ」「雑貨屋」など、

他の要素とも結びつきやすい。芸術大学もあり、メディアアート系の学科がある大学も

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長久手市にはある。また、「長久手アートフェスティバル」や「長久手コレクション冬」な

どのイルミネーションが美しいアートにつながるイベントもある。「アート」は最後まで、残

ってくるキーワードである。

しかし、日本では、「アートは高尚」なモノとしてのイメージが強く、人を巻き込むこと

までできるのがという疑問が残る。有識者ヒアリングでも、「長久手市民がアートを鑑

賞する」に留まっているという指摘もある。

ここで、1 章の手法から具体的な地域、観光ブランディングの実践を通して「アート」

が「長久手らしさ」につながるコンセプトになり得るかを分析、検討する。

長久手市の観光ブランディング戦略の実践

地域資源、観光資源を活かす地域ブランディングの活動は次の3つがある。

(1)地域の強みを見つける

これらに基づき、「地域の強みを見つける」を検討、考察する。

(1)地域の強みをみつけること (2)地域の強みを売り込む先を見つけること(3)上記(1)(2)を繋げること

「歴史・公園・住宅地・大学・芸術・直売所・文化・自然・博物館・温泉・住民」

などの地域資源カテゴリーから、「住みやすさ、居心地、穏やかさ、楽しさ」の感

情表現や「地産地消、イベント、学ぶ」行動系の表現を抽出し、強さ弱さを抽

出する。

(1)地域の強みをみつける

➡地域資源を類似カテゴリーに分類

➡さまざまな地域資源の相関関係を整理・再構築

➡再構築した関係・内容に、価値・文脈を創出(コピーワーク)

➡消費背景となる「物語の創出」(長久手らしさ=イメージ構築)

➡長久手市民が納得するテーマからの掘り下げ

➡この地域資源があるからこそできる~(長久手ならではを定義)

➡「らしさ」(物語・文脈)が包含されている「ならでは」(特長)の特長

長久手らしさ(イメージ)を構築する

長久手ならでは(特長)を定義づける

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① 現状の地域資源や長久手の特長を類似テーマ(枕言葉)で分類

長久手らしさを創出するために、地域資源を分類する必要がある。

「歴史、史跡、公園、商業施設、自然、飲食 ・・・」などの特長に合わせた従来型

の分類も大切だが、次のような枕言葉(形容)をつけて表現すると、少し違った、

消費者(来訪者・ゲスト)目線の景色が見てくる。

② まちの特長(地域全体を形容した表現)やまちの人の特長を形容する

次に、まちの状況、状態や印象を特長として描写する。この作業のルールは、個

人的印象。前提として強みも弱みも考えない。長久手市を市外の人に伝えること

を意識する。

まち全体が持っている空気感、土地柄のほか、人柄も表現する。また、同じような

内容でも、違う表現で描写することが大切。ここのプロセスが重要なポイントで、こ

こで地域資源(物理的、事象)の関係や、また、これらに人的資源を重ねて俯瞰

すると、長久手市のさまざまな表情が浮かびあがってくる。

その意味で、このプロセスには地域価値創出のためのヒントがたくさん隠されてい

る。

③ ①②の様々な組合せで、多様な長久手市を表現する

先に挙げた内容を関連付けさせ、長久手市の外観を重層的、立体的に描写して

みる。

普段の印象描写(イメージ)から要素(らしさの素)を分解することで、「まちの特長

表現の事例」のような描写がなされ、整理される。

本来、この作業を先に行い、次に、要素分解することが自然といえる。

この作業が必要な理由は、地域資源(要素)を1つの価値だと思ってしまいがちな

ため、その安易な視点を是正することと、また、地域資源が、自然資源や人文資源と

いった目に見える物に注目しがちだが、その物(資源)が、価値として浮かび上がって

くるには、それら資源の背景が必要となるためである。

生きた地域資源(要素)とするためには背景が必要で、背景とは、地域の風土(文

化、伝統など)や地域の空気感である。

つまり、背景は、住民が全体として醸し出す長久手市の表情のことである。

ここまで長久手市の地域資源について、価値創出のための視点からから考察して

きた。

以上、強みのフレームワークについては、巻末資料①に具体的事例を記す。

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「アート」はどうか

インターネット調査の結果と第 2 次長久手市観光交流基本計画の方針ならびに

上記の価値創出プロセスを組み合わせ、あらためて、「アート」が長久手市における各

地域資源を統合できるテーマとなりうるか考察する。

「アート」を重ね合わせて長久手をイメージすると、「お洒落な雑貨屋」「なんでも作

れるおもしろい人の存在」、また、「イベント活動への市民参加の活動傾向」を重ね合

わせると、「美的な生活(お洒落なライフスタイル)」や「少しだけ非日常なことへの憧

れ」「お洒落で、おもしろい」などが並んでくる。「アート」が長久手市の顔となる可能性

は大いにある。

「地域資源の強みをみつける」アプローチから、「アート」は芸術作品としての「モノ」

ではなく、「人 」や「創作活動」に紐づいたイメージであり、芸術作品ではなくそこに潜

む「ワクワク」「楽しさ」「面白さ」に寄っていることに気づかされる。つまり「アート」は長

久手市民にとって、「ハードルの高い高尚なモノ」ではなく、「ワクワク」を喚起するもの

である。その意味で、「アート」は長久手市民のコンセンサス(合意)を得やすい貴重な

地域資源といえる。

しかし、アートは、何かのモノを表しているわけではなく、きわめて抽象的なイメージ

である。

したがって、「アート」だけでは、地域ブランディングの中心的な役割は果たせない。

上述した通り、「ワクワク」しながら「人を巻き込む」何かを掛け合わさなければ、「ア

ート」が地域全体を動かすことはできない。そうでなければ、日常の延長上にありなが

ら、地域の風土(文化、伝統など)や地域の空気感となることはできない。

ここまで、「アート」を地域資源として、芸術作品からイメージされる視点で考察して

きた。

しかし一方で、「美の創造」「人間活動」とあるように、「行動」の側面がある。

つまり、「アートする人」「アート活動している人」「アート作品を創れる人」などである。

長久手市には、「アート作品を創れる人」つまり「技術を持った人」が多いと言う有識

『大辞林』によれば、アート(芸術)の定義は「特殊な素材・手段・

形式により、技巧を駆使して美を創造・表現しようとする人間活動、

およびその作品」とある。現在は、社会に創作活動や絵画、彫刻など

の作品や写真、映像、プロジェクションマッピングなどのデジタルメ

ディアを活用した作品を通して、何かしらの影響を与えること全般

をアートと呼んでいるが、「芸術」「美術」として訳され、「モノ」と

しての印象がある。昨今はその敷居は下がり、大衆化していると言わ

れている。

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者がいる。愛知芸大があるからであろうか。また、卒業生もその住みやすさから、定着

し、アート作品を創作している人も多いとのことである。

さらに、「アート」の文脈とは別の「暮らし」の流れから、手作り(クラフト)雑貨屋さん、

人気の手作りパン屋さんなど、暮らしに溶け込む美的センスの良い店舗も多い。

長久手市には、「創作する人」が身近に多く、「ハンドメイド」「ホームメイド」「クラフト」

など創作(クリエイト)イメージがある。長久手市はクリエイティブなまちなのである。

ではここから市民を巻き込み他の地域資源をも呑み込みながら「アート」で地域ブ

ランディングを図ろうとしよう。しかし実際には、「アート」に秘められた「作品鑑賞」が持

つ「静 」のイメージが先行し、市民を巻き込む活動の熱は伝わりにくいと考えられる。

では、どうしたらよいか。

そこで、「アート」の創作活動や行動など「動」のイメージを訴求し、活動を呼びかけ

るために、「アート」+「する」で、「アートする」とし、考察を続ける。

「アートする」の可能性

「アートする」となると、突然イメージがポップ(大衆的)になる。また、アートが作品側

に引きずられず、「する」に引っ張られる。そうなると途端に「アートする」の可能性が増

えてくる。

「アート」から「アートする」に変わるだけで、言葉のイメージ(価値)に変化が起こる。

これと同じことが地域資源にも起こると考えられる。また、地域資源の見直しは、価

値の再構築につながる可能性もある。

「アートする」は何かモノを作ったり、綺麗に装飾したりと日常のありふれた行動でも

「アートしているね!」と気楽に使うと、子供から大人まで、どんどん「アート」の範囲と

行動が広がり、モノ(絵、写真、映像、工芸品)をつくったり、鑑賞したり、モノの購入

動機も高まる。

▼レイヤー図から「アートする」の可能性を探る/地域資源の価値の再構築

地域資源の様々な要素をシーンや情動や「アートする」で再構築化

様々な地域資源で再構成すると、違う心象風景や意味が生じてくる。

「アートする」で長久手市の新しい価値を創る/地域資源の新たな価値を見出す!

地域資源

自然・歴史 地域資源

イベント 地域資源

食地域資源

商業施設

ワクワクシーン

ワクワクシーン

ワクワクシーン ワクワク

シーン「アートする」

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このようにブランドコンセプトにおいて、「価値の確立」あるいは「新しい価値創出」

(イノベーション)のためには「アートする」の意味の範囲を広げ、「アート」にある高尚な

イメージを壊し、市民を巻き込んでいく必要がある。

従来の切り口では他地域の人はもちろん長久手市民にもなかなか魅力として伝わ

らない現実を踏まえ、「魅力を魅力として」きちんと伝えるために、「新しい見え方」ある

いは、「見られ方」も同時に考える必要がある。

地域や地域資源の価値を魅力として伝えるには、伝える表現内容より、まず現状

の地域資源を従来とは違う切り口で新たな価値創造する必要がある。

「アートする」をキーワードとして地域価値を再構成

長久手のまちを、今までの検証の流れで表現すると「アートのまち」「芸術家がたく

さんいるまち」「おもしろい人が多いまち」と表現できる。さらにそこから「らしさ=イメー

ジ」としての価値要素として「アート」を抽出し、さらに「アートする」とした。

人は美しいものを好むし、優れた人間活動には共感する。「アート」に秘められた

「美」を無意識に憧れてしまうことが多い。そのため、気にいった作品は眺めていたくな

るし、持っていたくなる。そして、それを作った人に興味をもつようにもなる。このように

アートは、人の心に訴える何かがある。もっとも、「アートには興味ない」「アートは難し

くてわからない」といった声もあるが、少なくとも、一般的アートへの市民の抵抗は小さ

い。むしろ「花」と同様に好意的である。

「アートする」 × 「地域資源」 × 「人 」

(例)

★「古戦場をアートする」

「アートする」×「歴史・古戦場」×「学生・市民」

=芸大生の“小牧・長久手の戦い”絵巻制作展示

⇒絵葉書、鉄キーホルダー等販売

⇒モチーフを提出し、市民や学童の合戦絵巻(学校連携)へ

⇒イベント化

★「真菜をアートする」

「アートする」×「伝統野菜・真菜の野菜」×「子育て世代」

=子育て家族の暮らしをアートする!創作プロジェクト(美健食ワークショップ)

⇒新たな土産物創出やレシピづくりを通してアートな皿盛・食卓推進(食育アート)

⇒新たな土産物は複数カフェでの取り扱いへ

★「公共をアートする」

「アートする」×「(市の)公園等」×「市民」*要制度緩和

=環境美化運動と連動し、公園・道路・施設を「飾る=アートする」

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言葉としての「アート」には、生活を魅力的にする響きがある。人を高揚させ、元気

にさせ、いい気分にもなる。知性も刺激する。「アートは人生を豊かにする」と言われる

が、この言葉は好きな雑貨や小物を身につけていると幸せな気分になることと同じこ

とで、人とアートとの関係の感性の基本と考える。

アート作品には、作品を作るためのさまざまな常人を超えた芸術家の技術や思考

の過程、それに伴う時間がついて回る。そしてそれに触れた人は、その作品への憧憬

や驚愕、畏怖が、その作品との向き合う楽しさを上回り、余分な緊張感が先立ち、ア

ートは高尚で堅苦しく難しいとなっている場合がある。

したがって、アートをキーワードとして地域価値を再構成するなら、アートをどうやっ

て市民と関係づけて、どのような世界観を提供することが、持続的に市民から共感が

得るかが、「地域の価値づくり」として、大事な視点となる。

その点で、「アートする」は敷居を下げ、楽しみながら「アート」を体感することができ

る。特に子どもたちは、この持続の先に芸術作品への審美眼を養う素地ができ、高

尚なモノとしての美術品への抵抗感はなくなっており、その代り豊かな創造性と感受

性が身に着いている。

「アート」に複数の意味づけをし、市民を巻き込む!

現時点で長久手市のアートは鑑賞する対象となっている。もちろんその楽しみ方は

否定されるものではない。しかし、アートは観る以外にもたくさん楽しみがある。制作体

験や写真撮影・SNS 投稿といった身体的価値が加われば多様で重層的なアートの

楽しみ方ができる。内容によっては、また、友達を連れていきたくなる可能性も高くな

る。

そのためには、アート体験を美術館の中だけに閉じ込めないようにしなければなら

ない。

「アートする」は、市民とアートとの関係のハードルを低くする響きがある。ちょっとし

た作品を作る行動を「アートする」といえば、アートがもっと楽しく身近になる。

アート作品の創作の地域促進は、より能動的なシーン(状況)をつくることができる。

本格的なアート作品を作らないまでも、あらゆる分野のアートワークショップが市内

で展開されれば、長久手市は、彫刻やのこぎり、絵の具や楽器など、アートにまつわ

る道具をどこの市町村より使える人が多くなる。この「アートするまち、長久手」は、ア

ートが能動的で積極なイメージが提供でき、とてもメッセージ性が生じる。

「アート」で、長久手ブランド戦略の根幹をつくるとは

「アートする」「アートっぽい」「もっとアートに」「あのアートがほしい」「このアートを買う」

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など日常の会話にもアートが溢れ、まち中がアートギャラリーのように、地元作家や学

生たちの作品が恒常的に展示され、さまざまな空間で、工芸、絵画、音楽などのアー

トのワークショップがいたるところで行われていたら、本当に楽しそうなまちのシーン(光

景)が誕生する。

もし本当にこのようなまち(市町村)があったら、市民は楽しいのではないか?

それだけではなく、地域外の人も憧れと好印象を抱く。

長久手市民のアートの触れ方が、他の地域のアートの触れ方とは何かが違う。そ

れは「暮らしのなかにアートが溶け込んでいる」からである。

もし、この世界観が時間をかけて実現されれば、全国から人は来るし、外国人も多

く訪れるであろう。

市民が気づかないうちに、アートの距離感が、どこの地域よりも自然で楽し気であ

れば、この感度の高い長久手の人がつくる物はきっといいモノだとなっていくに違いな

い。

これが“made in Nagakute ”であり、それは、アートに限らず地域のもつ文化風土

として訴求されていく。

このアートの距離感のイメージが確立されているからこそ、イメージは訴求するので

あり、他地域の人たちのイメージも拡大する。この考え方が、ブランディング戦略の根

幹となる。

暮らしが楽しくなる。まちが興味深くなる。アートが人と人、人とまちとの媒介になる

世界観は、長久手市だからこそできる地域ブランディング戦略である。

「アートする」が、“made in Nagakute”が築かれる背景をつくる

漠然とぼんやりとしながらも、「ああ、長久手らしいね」といった、長久手市のイメー

ジ「長久手らしさ」が、「アートする」により生まれるヒト・モノ・コトの数々に貼り付いてい

けば、とてもお洒落な、清涼感や瑞々しさのある、そして、多彩な個性のある長久手ブ

ランドとして訴求していくことが可能となる。

これが、“made in Nagakute ”であり、まさに、長久手市全体のブランド価値となる。

以上が、長久手市の「地域の強みを見つける」考察である。

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(2)地域の強みの売り込み先を見つける

これまで考察してきたように、「アートする」により地域価値を磨き、再編できるの

は、「アートする」を一緒にしてくれる人、すなわち長久手市民である。

現在、地域資源として、長久手市観光交流協会が発行する『雑人』がある。他地

域の地域情報誌と比べ、従来の観光色は少ないものの、『人 』との新しい関係を切り

口としたテーマコミュニティ誌である。『人』に焦点をあてることは『人の活動』に着目す

ることである。

このように、既に市民をフォーカスし始めている。あとは、この概念をより多くの市民

に浸透させていく活動が必要である。

(3)地域の強みと売り先をつなげる

地域の強みと売り先をつなげる=ブランディングの実践であるが、これは(2)の売り

先が「長久手市民」となるため、(1)の地域の強みを見つけるフレームワークで行った

考え方をそのまま活かすことができると考える。「アートする」×「●●」×「人」である。

・「アートする」を明確にした市民参加型のイベントによる PR

⇒既存のワークショップやイベントを「アートする」で磨きあげる

⇒「アートする」×「●●」×「人」で地域資源を見つけ出すワークショップを展開

する

・「アートする」を理解した市民サポーターを増やす

⇒子ども、学生なども自発的に参加できる「ワクワクする」企画の展開

⇒地域情報誌『雑人』などを有効活用したサポーター募集

地域をプロデュースする人を育成(サポーターからステップアップさせる制度)

(3)1,2をつなげる

いわゆる観光地ではない長久手市に「長久手らしさ、長久手ならでは」が

地域ブランドとして根付くには、市民のサポーターとしての参加、支援が

最も重要な要素。

「アートする」を一緒にしてくれる人

最大のいわゆる売り込み先(訴求先)は長久手市民

(2)地域の強みの売り込み先を見つける

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「アートする」が市民に訴求されていくと、質のいいコンテンツがどんどん生まれ、ま

たは、生まれ変わっていく。もともとの文化の保存と新しく生み出される文化価値の融

合である。

「アートする」は、古いモノと新しいモノをつなげる表現をすることもできるし、古い素

材を使いながら、新しい様式をデザインすることもできる。

このように、アートには、どんなに得体の知れない物でも飲み込んでしまう奥の深さ

がある。イベントも、歴史訴求も、自然体験も、全て「アートする」×「●●」の手法を用

いることで、すべてが「長久手らしく、長久手ならでは」と浸透する。

「アートする」を宣言し、市民を大きく巻き込み、市民がワクワクする企画を展開す

る。

これこそが、“made in Nagakute”の実践である。

「アートする」を「市民の素晴らしい暮らしのシーン(光景)」として理想を掲げ、その

達成のために、多くの地域の登場人物が、それぞれの力を発揮してもらう。

こうした展開ができれば、今ある、あらゆる地域資源の価値は厚みが増し、交流人

口は増えていく。そして、この展開が起点となって、「アートするまち、長久手」が全国

に認知されれば、長久手産の、しっかりこだわったテーマ性のあるモノは、感度の高い

“made in Nagakute ”として人気となり、全国ブランドとして憧れられることになるだろ

う。

ブランディングプランの実践に向けた提言

最後に、長久手市が“made in Nagakute”ブランドを時間をかけて作り上げていくに

あたり、その第一段階としてすべきことを提言する。

まずは、「アートする」というワクワクしたコンセプトを市民に伝え、広め、自発的な市

民サポーターを増やすことである。このとき、どんな人にどのように伝えていくかというコ

ミュニケーションプランも同時に考えていくことが望ましい。

(例)ロゴを作る、広報誌に載せる、学校へ発信する、人の集まる所へ発信する など

そして次に、「アートする」をエッセンスに長久手市の特産品となりうるものを、多くの

市民とともに生み出す、あるいは再構築する活動を重ねていくべきである。

具体的には、「アートする」×「地域資源」×「長久手市民」を考えるワークショップ

を新しい視点も取り入れて多くの切り口で開催する。これまで気づかなかったもの、体

験が生まれることが期待できる。

この 2 つの活動は同時進行できると考える。「アートする」を体験する、あるいは評

価されることによって市民サポーターが生まれることもあるからである。

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別添① 有識者ヒアリング資料

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話し手:水津す い つ

功いさお

愛知県立芸術大学教授(環境デザイン・ランドスケープ)

聞き手:古川、中村、菊池(NTTドコモ東海支社)、中野(合同会社ツクル)

実 施:2018 年 1 月 9 日(火) 名古屋市名東区

環境、景観、ランドスケープなどのデザインが専門。「まちの些細な資源・光景に観

光が存在」するとして、まちづくり調査を各地で実施。長久手市にある大学や学生の

視点から、長久手市の強み・弱みを捉えていく。

キーポイント

芸術大学とまちとの関係を変える社会貢献度の高いプランが必要

愛知県立芸術大学(以下、愛知芸大)が長久手市にあるメリットは、地域連携セ

ンターを作ろうと思っていて、まちづくりができる可能性があることだと考えている。

現在の連携センターはどこでもやっていて、せいぜい展覧会や演奏会しか提案でき

ない。

例えば、京都市立芸術大学が、桂の山奥から、京都駅前の同和問題のあった場

所に移転する。芸術を持ち上げているのではなく、まちづくりのネタにしている。ここが

おもしろい。

これは具体的で、空き家屋が多く、雰囲気の悪いところに若い学生が流れ込むだ

けではなく、アトリエが欲しい芸術大学の学生にとっても空き家を安く借りられ、まちは

喜ぶし、活性化するし、芸術家のたまごが集積するし、新しい大学の社会貢献になる。

愛知芸大もそういう方法での社会貢献があると大学にも気づかせたいし、愛知芸

大の使い道というのを考えたい。

まちがチャレンジしたいアート活動に芸大が協力する仕組みで、まちの価値は上

がる

芸術大学でどれだけ優秀な成績を修めても、ほとんどの人が食べられない。大学

は、食べられない芸術家を目指している人を作っているだけになっている。

大学側も長久手市も、大学を卒業した人を人材としてもっと効率的に、効果的に

★芸術がまちづくりの具体的ネタになる

★地域連携センターをつくり、アトリエと市民をつなげる

★生活者がおもしろがって、楽しんでいるところに、他者は憧れる

★観光のための観光はうまくいかない

★市街地と田園の両義性を抱えているのが魅力

★芸術が生活者の横にある生活

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活かすことを考える必要がある。

具体的な問題として、作家を目指している人は、学生の間はキャンパスが使えるか

らいいけど、卒業すると、アトリエが必要なのに使える場所がなくなり大変になる。

今、瀬戸に、芸術村のようなものができているけど、町中 (まちなか)にないから少し

みすぼらしい。もし、町中に芸術村やアトリエがあればとてもいい。そのアトリエが市民

も使えるなら、非常におもしろい。

でも、それを維持管理するのは大変。そこで、作家を目指す人たちが順番にアトリ

エを管理する仕組みをつくれば、作家を目指す人たちもモチベーションが上がるし、市

民も参加すれば、まちも元気になる。ニーズがあるから、そういった個々の利害をうまく

重ねていけば、うまくできるのではないかと思う。

作家を目指すための活動が続けられる環境が必要。大学は作家をインキュベーシ

ョン*したいけど、大学には限界がある。まちがインキュベーションしてくれたらとてもい

い。

例えば、市民がアート活動をしたいと思ったとき、愛知芸大があることで、サービス

として空間・場所、ちょっと教えてくれる人をまちが提供できるのなら、まちの価値は上

がると思う。

地域資源としての大学が、地域づくりに寄与することを考えないと生きていけない。

それができれば、地域の価値は上がる。

*インキュベーション:事業創出、創業を支援するサービス・活動。不足する資源(資金、空間、

ソフト、材料など)。本文では芸術活動を支援し世に出す協力という意味。

まちがインキュベーションすることで、たまたま、結果的に観光的価値をもつ

大学があるのに、学生街がない。学生街がないから、学生自体もまち(長久手)を

享受できていないし、市民もまた、そのまちの風情を享受できない。(弱点)

まちがインキュベーションすると、どのようなメリットがあるのかと考え、そして実践す

るなかで、たまたま観光的側面としての意味をもつかもしれない。

生活者が楽しんで、おもしろがっているところに人は行きたくなる。

観光を狙っても、おもしろくないし、市民は享受できない。

思いがけないつながりが、まちの新しい価値になり得る

ランドスケープは、人の評価や解釈が具体的にまちの中にどう分布しているかが重

要。今、ドコモの技術で、地元の人とそうでない人が、どこで写真を撮ったとか、呟い

ていたという内容と地点が情報として知ることができれば、まちに何が必要で、こういう

ものを作ってというこが提案しやすくなる。

ランドスケープ側は情報を持っていないし、情報側は、視覚的にどう見せると、どの

ような意味かがわかりやすくなるなどの技術がない。ランドスケープや芸術が情報とつ

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ながることで、新しいまちの価値が生まれるかもしれない。

小さな関係が、たくさんあるまちはおもしろい。その点で、人のよくわからない多様な

価値観のハードルを下げる仕組みが必要。つまり、交流がしやすくなる仕組みが必要。

碧南市、山口県防府市などでまちづくり調査のため、西尾市ではインタラクティブア

ートとして展開した「みずいろベンチ」というツールを使ったプロジェクトを実施した。

ある住民が、特別に気にいっている町中の特別な場所に「みずいろベンチ」を置いて、

それとは知らない人が座ったときにどのような感情や思い(評価)が生じるのかの実験

だ。

どうしてここに「みずいろベンチ」があるのだろうと不思議がってそこに他の人が座る

と、妙に気に入ることがある。知らない人同士が「みずいろベンチ」でつながるという現

象が起こる。

もともとは魅力のない地域と思っている人のなかにある魅力スポットを引き出すため

だったのに、「みずいろベンチ」というハードツールを介在させることで、人と共有するよ

うになる。

結果的に、まちの素敵なスポットの発掘になり、それが、人とつながることで、新しい

観光のアプローチのヒントがあると考えている。

180 度違う顔をもつ長久手市の環境を活かすためには、大学の役割が大きい

ランドスケープの専門家として、長久手市は、やはりいいところがいっぱいある。

安心して田舎に入り込めるのが長久手市の特長。都市から田舎に憧れて夢破れ

る人は多いが、長久手は都市機能と田園機能が隣接しているので、田園(自然)に

触れるにはハードルが低く、そういう生活を望む人には、これは売りである。

保守的な便利さを抱えながら、田舎、自然を維持しているところは魅力ということ。

ただ課題は、同じような自然と住宅の関係に見える開発地は、道側に向いている

家と自然側に向いている家と、これでライフスタイルが全然ちがってくる。一見似てい

るような町並みで暮らす者が、一方は「虫はリスク」で、もう片方は「虫はお友達」、こ

のライフスタイルの違いが漠然と居を構えているのは、まちづくりに影響を与えることに

なる。

そこが弱点かもしれない。

例えば、ポートランドでは同じような思考、ライフスタイルをもった人たちが集まってま

ちが形成されているため、似て非なりはなく、非のようで似ているトータリティのあるま

ちとなる。

それがまちのイメージ(らしさ)を確立させる。そこは市のマスタープランに期待したい。

長久手のまちにアートがあるというのはこういうこと!

わたし(水津教授)の作った老人ホームに門柱を造ることになって、その製作に、愛

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知芸大の彫刻科の学生に発注してもらった。で、入居が終わってから造ってもらった。

学生が敷地内で、石をガーっと削っている姿を、不思議そうにおじいちゃん、おばあ

ちゃんが 1 カ月ぐらい見ている。それで、「できたー!」となったとき、入居者は大騒ぎし

とても喜んだ。学生は好きで造っているだけなのに、おじいちゃん、おばあちゃんに喜

んでもらって大感激となった。

こういうのがまちにアートがあるということだと思う。

市民との交流が進み、芸大生の活動が理解でき、市民がアートのオーナーになれ

ば、本当におもしろいまちになるし、その可能性がある立地でもある。

例えば、「愛知芸大に入学すると、長久手市という舞台で活躍できる権利がもらえ

る」みたいのがあるとおもしろい。

結果的に採用されなかったが、すごくうけたエピソードがある。「長久手古戦場の横、

原っぱに、大型ショッピングセンターができるけど、どう思う?」と学生に聞いたら、学

生ははじめとても嫌な顔をした。人は、まちに新しいものができると、なんとなく嫌な気

持ちができる。でも、便利だなあ、と思うようになって、次第に、新しいものに気持ちを

寄せていく。

この心理の過程を 20 ページの絵本にしてもらって、商業施設の壁面緑化の企画と

した。絵がうまいこともあって、これが受けにうけた。

本来、アートは生活の中から生まれてくるもの

愛知芸大は「ながくてアートフェスティバル」というイベントに携わっている。1 つの大

学の役割。でも、長久手市もやっている側も、アートは鑑賞するものというイメージが

強すぎる。アートが特別なイベントになってしまっている。

イタリアではコンテンポラリーアートに属していない彫刻で、アートシーンに出てこなく

ても、マーケットがきちんとあって、商売として成り立っている。本来、アートってそういう

もの。

むしろ、アートは生活の中から生まれてくるもの。生活に寄り添っているアートが必

要。

長久手市は、少し考え方をかえるだけで、可能性はある。

他のまちが行っていることの 7 割をやったところで、なんの意味もない

アートが生まれやすいまちとなるための、市民との関係性は必要だけど、ニーズを

追いかけ過ぎるとうまくいかないような気がする。

重要なことは、意義深いかどうかだと思う。例えば、ある地域は 1758 年頃に戻す、

みたいなことを徹底すると、「え、ほんとに昔ってこうなの?」みたいな驚きと、楽しさが

生まれる。徹底すると何か意義深いものが生まれてくる可能性がみえてくる。意味深

いと感じるような事業をするといい。

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例えば、「みずいろベンチ」みたいな企画をすると、大学の先生にいくら聞いたってお

もしろいところを教えてもらえないことが、地元の人に聞いたら、「え、こんなにおもしろ

いところがあったのか」とすぐに教えてくれる、「わかる仕組み」があるとなると、意義深

いような感じがする。

意義深いと思えるプログラムを次から次へと打てるかというのが大事。楽しいまちに

住んでいるといろんな発見があるし、学べば学ぶほど(まちの)味わいが出てくる。

他のまちが行っていることの 7 割をやったところで、なんの意味もない。

おもしろいまちに人は来る!

ニーズは、使ってみて(体験してみて)はじめてわかる「わ、おもしろい」というもの、も

し、まちがそうだったら楽しい。

東京の神楽坂はフランス人がやたら多い。それほど古い建物が残っているわけで

はないが、路地がくねくねして、人が生み出した感がある感じが好きなんだそう。計画

者がいて、トップダウンで造ったのではなく、毎日、毎日人が造って、そうなった。

どこの行政も、市民に平等に分配するために区画整理をする。それがいいサービス

だと思い込んでいる。でも、それだと平等だけどつまらなくなる。

人間の感性として、美しさや整頓が行き過ぎると、落ち着かない。美しさの果てに、

破綻が少しあることがいい。例えば、グリッド(格子)のまちの中に、林がちょっと残って

いるとか、もう少しだけ道が入り組んだ方が楽しく感じるようになる。

文化庁もいっているが、多層性のあるまちが楽しい。いろんな時代の片鱗が 1 つの

まちの中に重なりあって見えてくるまちが気持ちよく、楽しい。

長久手市は、古戦場のあたりで、グリッド開発の圧力がスパッと切れている。

人も同じように多様性、多層性があった方がおもしろい。長久手はおもしろい人が

多いからそういう風に作った方がいい。

ドイツはゾーニング(住む、働く分ける)をしてまちをつくったが、今はまたゾーニング

をしない人間の感性に近いまちづくりをはじめいている。いずれにしても、おもしろいま

ちに人は来る。

まちがおもしろくなるために、どんどん変わればいい

長久手は生活者優位のまちとして、楽しく、おもしろくなるために、どんどん変わっ

ていけばいい。

そういえば、慶應義塾大学の先生ともっと公園を私物化したいという「公園に行こう」

という企画を考えた。公園に私物の植木を進呈したりして、公園に来る他の人が、水

をやったりするようなコミュニケーションが生まれてくるようなコミュニティの仕組み。これ

らは、温かい人のつながりを生み、まちに興味がもたれると思う。

ちなみに、血の池公園は、伝説の移植が行われているらしい。みんな知らない。こう

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いうこともおもしろい。

弱みは土地の性質・・・

長久手の弱みはあまりしられていないが、亜炭の炭坑だったところがときどき陥没

する。知り合いのスコットランド人は、地元で亜炭の跡地を研究しているらしく、今は、

弱みだけど、それはポジティブに変えられるのではないか。

また、昔、長湫といっていた土地柄だから、湿地が多い。昔から土地改良に慣れて

いるのかもしれない。粘土が多く、高いところから地表面に水が出てくるこういった土

地柄を挙げると、それが弱みということになるけど、それも地理的風土だから。それで

も、長久手は生活におけるブランド認知は高いから、価値は高まっていくと思う。その

意味ではいいところ。

農業、市民農園をやりたいという人は多いけれど、貸してくれる農家さんがなかな

かいない。それは貸した後に、人間的トラブルが生じるのが嫌だという人が多い。でも

そこにチャンスがあると思う。

集落のつながりが、祭として、行動として残っていることはとてもいい

それと、血の池、首塚、耳塚というのが残っているのはいい。それと、地域資源とい

えば、棒の手は、現在の行政区域ではなく、昔の生活集落の単位でつながっている、

それが祭という行動としてこれはすごくいいことだと思う。

市民の力が発揮できる場所ができればいい

縦方向の繋がり(行政⇔市民)で考えると、みんな、ものを言えなくなることが多い。

でも、個々に話すと、みんないい人だし、とてもおもしろい。もっと言える関係、場所が

できればいいなと思う。

名古屋の本山交差点のデザインをどうするかという事例で、そこは 4 町が面してい

て、それぞれ、現代的なものであって欲しいという人もいれば、クラシックなものがいい

という人もいて、バラバラの思いがあって、それはみんな分裂していると思って、話がま

とまらなかった。

意見を求められて、みなさんの言っていることはバラバラだけど、例えば、現代的な

素材で、クラシックなことを表現することはできるみたいなことを話したらなんとなくうまく

いった。

人の資源として長久手にはおもしろい人は、たくさんいるから、おもしろいまちにな

る!

人の資源でいえば、ブルーム&ブルームという造園会社がござらっせの近くにある

が、この社長は、愛知芸大で油絵を学んだという。カフェと造園をやっている。

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大谷石のすごく大きなプランターを作ったので、見てくれといわれて、こんなに大きい

のはたいへんだったでしょう、と、ちょっと叩いたら、カーンといって驚いた。素材は FRP

(繊維強化プラスチック)で、ディッピングという塗装を吹き付ける技術で加工している。

触るまで気づかなかった。それはすごくハイレベルな技能。大きなものは魅力だけど大

変だから、でもなんとかならないかなと思って作ったとのこと。

社長もまちのために何かしたいと言っている。それを、もっと市民が知ることが大切。

変わった人はたくさん知っている。

ある鉄工所をやっていた会社で、会社自体はやめたが、そこの従業員が、愛知芸

大出身で、鉄を使ってなんでもアートにできちゃう技術をもっている。それで、その鉄工

所は、そのままアトリエとして残っている。これも、人資源でおもしろい。

この人の自由な世界もいいけど、ちゃんとしたものを作れる技術があるから、テーマ

を出せる人がいれば、まちに可能性がでてくる。長久手にはこういうおもしろい人がた

くさんいる。

ハードとしても、ソフトとしても両方の機能を持つ芸術大学があって、人資源として

アートができるおもしろい人がたくさんいる。また、多くの市民参加のイベントも開催さ

れている長久手は、ちょっとしたテーマのきっかけさえあれば、今ある地域資源を活用

して、ほんとうにおもしろいまちになると思う。

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話し手:北澤き た ざ わ

順子じ ゅ ん こ

Dialog Japan 代表取締役

聞き手:中野、三宅(合同会社ツクル)

実 施:2018 年 2 月 3 日(土) 東京都中央区

世界企業のブランディング戦略やデザイン戦略を構築する愛知県出身の日本でも

稀有な戦略デザイナー。世界一住みやすいと言われるポートランドの考察から、日

本で

暮らしやすさを誇る長久手市との共通点や課題を探る。

キーポイント

世界一住みやすいまちは、個性的なまち

ポートランドは、世界一住みやすいまちといわれているが、2012 年頃はただの住み

やすい田舎町だった。

その後 hipstar ブームがアメリカを中心に世界中で起こり、日本でもポートランドは

知られるようになる。

Hipstar とは、流行に敏感な人たち、ちょっと変わったサブカル好き趣味の人たちを

指す。大衆とは違う奇抜でおしゃれな服装、芸術や文学、誰も知らないようなマイナー

な音楽などを好む傾向がある。最近は結構商業的に開発されてきている。

アメリカ国内でも海外でも、変わり者で、お洒落というイメージが発信され、さらに人

が集まるようになり、商品が売れるようになっている。

余白のあるまちづくりがポートランドのブランドイメージを増幅させている

地域ブランディング的な視点で表現すると、余白のあるまちづくりで、人々がそれぞ

れ工夫し、コミュニティが機能する自由度がある。

良い点は、すべてが「手頃」ということに尽きると思う。

マーケティングの暴走があまり見受けられず、市場原理に染まらない、消費よりも

創造が重視されている。開発されすぎていない、不便な点や手頃な広さ、手頃な人口、

「そこそこ」安全で、「そこそこ」整ったインフラ、「まあまあ」過ごしやすい気候。

★暮らしやすさを機能に依存していない点が価値となり、それが憧れにかわる

★生活者目線のまち⇒自立したコミュニティ

★世界一住みやすいまちの秘密は、個性的で、自由な空気感

★こだわりの人の集積地

★メイド・イン・ポートランドのブランド価値の根底は、地元志向

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そこにヒッピー文化に基づく自由な思想と、クリエイティビティを受容する文化が根

付き、みんな自由に工夫しながら生態系を作っている。

身の丈に合ったもの、店舗、消費、そして暮らしを選択している。これは意識的にし

ている。そして、自然環境にも意識的。

新規開発や新製品などの「物(thing)」の消費、取得への喜びより、生活をいかに

楽しむかという「事(event)」により関心がある。そして、「開発(イニシアル)」より、「運

営(ランニング)」主体の生活観がある。

ここが日本とずいぶんちがうところだけど、良心的でバランスの取れた大衆向けの

論調より刺激のある革新的な姿勢を歓迎する気質がある。

服装から仕事、店舗の雰囲気まで、自由で、寛容性が充満している。

暮らしに根差しているから、リラックスしている、それが、身の丈主義の独特なスタイ

ルのまちとして、まちのブランドイメージが確立につながっている。住民は同じような感

性の人が集まっているから自然に振る舞える。

そのため、自立しながら連携する風通しの良いコミュニティ感覚が広がり、それがま

た、まちの表情となり、さらに、ブランドイメージを増幅させている。

もともとポートランドは観光は意識していない。それでも、週数百人単位で、全米か

ら憧れをもって移住してくる。(2015 年時点では、週 400 人ペースでの人口増)

生活者のためのまちだからこそ、憧れのまちとして訪れる

このような環境でシリコンバレーとは異なるクラフト系のスタートアップ(新設会社・

新規事業、あるいはベンチャー企業)が集まってきている。

長久手市も機能的には住みやすそうだが、ポートランドとは全く異なる。ポートランド

は「人」が街を作っているので、整備された環境や機能はあまりすごいものはない。長

久手市の方がずっと見た目は綺麗だが、ポートランドにはもっと表情があり、街を歩く

と毎日誰かが何かをやっている、という感じがする。

この感じがするというのが大切で、ワクワク感が無意識に湧き上がる。

強いて機能をいえば、路面電車システムのポートランド・ストリートカーの存在は大

きい。

ルートレイアウトが優れているので、この電車によってまさに歩くように街を移動でき

る。

あまり大きな街ではないので、自転車があれば大抵どこへでも買い物やイベントに

行ける。自転車のままバスや電車に乗れるし、市街地か周辺のベッドタウンに住めば、

基本的に車は不要で、私もポートランドに居る頃は、車を持っていなかった。

こういう点で、車社会のアメリカでは珍しい都市だ。夜でも女性一人でダウンタウン

を歩けるし、ダウンタウンから車で 30 分でアウトドアライフが楽しめるというのも特徴。

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安全、車不要、歩くような感覚の交通インフラ、こういった生活者に寄り添った整備

が、個性的な住民の生活の質を向上させ、結果として、観光客やビジネス来訪者の

満足につながっている。市自体が、もともと観光を意図していないところ(もしかすると、

意図していないように見えるだけかもしれない)がベースにあるのが魅力の源泉かもし

れない。

「メイド・イン・ポートランド」のブランド価値は地元志向から

あとは、汚い倉庫街だったパール地区の再開発で、ギャラリーやレストラン、ブティッ

ク系のブランドがならび人を集めているが、最近はここも商業化されて魅力が薄れて

きたので、川より東側の地域に面白い店がたくさん移っている。

ご存知かと思うが、サードウェーブのコーヒーロースターやクラフトビールのマイクロ

ブリュワリがたくさん存在し、非常に個性あるクラフトを生み出している。

成長ホルモン注入などの工業製品化した食材に対する嫌悪感が強く、レストランも

個性的で、素材にこだわったアメリカらしからぬ繊細な味を提供する店も多い。

地元志向が強く、食材もサービスも地元産のものを利用し、地元が潤うことを誇り

にしている。

こういうところがメイド・イン・ポートランドにつながっている。

私も愛知県出身で、愛知県立芸術大学出身なので、長久手には馴染みがある。

愛知芸大に今も教えにいっている。

長久手の人も地元が好きな人が多く、ポートランドのように「地産地消」を好む人が

増えていると聞くが、「地元が潤うことを誇り」に思うまでの人はそうはいないのではな

いか。

ポートランドは、最近特にその傾向が強く、地元産のものを扱うコンセプトのリテイ

ル(小売業)がどんどん増えている。オーガニックに関するこだわりも強く、ベジタリアン

が多いのが特徴。

こういった、ある意味徹底的に内向きのこだわりの志向が、文化となって、同じよう

な感性の人が、どんどん共感し集まっているため、その内向きの徹底さが、メイド・イ

ン・ポートランドのブランドに世界が憧れるのだと感じる。

暮らし向きは肩肘はらない、そこそこな感じがそれもまた自然な振る舞いとなって、

さらに、メイド・イン・ポートランドのブランド価値を後押ししている。

地域のブランド価値という意味で、意図的にブランドは作られてはきていないが、ブ

ランド価値が生まれる土壌・風土を兼ね備えている。

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それは、同じような感性の人が、自分の価値観の実現のために、コミュニティをつく

り、毎日、自分たちのために、同じことを繰り返し行っているということ。まちが時間を

かけて、熟成している様子そのものが、ポートランドブランドの背景といえる。

ポートランドに住む人の気質からか、情報には振り回されない生活からか、物事の

本質に迫る創造的思考能力が高い。

だから、人のアイデアがたくさん集まる。そういう街の空気感をみると、ポートランドと

いう都市が触媒として、人やアイデアを集めていると感じる。

アイデア生産の生業者は、仕事のオンとオフを分け難く、「住む・考える・遊ぶ」が

地続きで重層・融合していることが大切で、ポートランドの都心部にはうまく配置して

いる。

ちなみに、「ポートランディア」とは同名の TV ドラマがあり、変わり者の代名詞。

ポートランドのスローガンは「Keep Port land Weired」。実際に変わった人が多い。

総じていうと、人気の理由は、あまりお金を使わず自分たちの工夫や価値観で生

きられる街だということ。

商品提供の後に、何が残るのか考えていない

話はかわるが、商品のブランド戦略を立てる上で、商品の価値のデザインをするが、

どういう価値を提供したいかを考えない企業が日本の大手には多い。

そもそも「こうしたい」というのがあるから、商品をつくるわけで、商品提供の後に何

が残るのかを考えていない。

なぜ作ったのか?この回答がお金儲けのため、というのは答えにならないが、そうな

る場合が多い。

自分たちが何をしたいのか、何をしているのか、商品に限らず、同じようなことは、ま

ちにもいえる。きちんとまちの価値となっていることを考え、まちの価値になるものを考

え、整理して伝わる表現をしないと伝わらない。

まちに立派な美術館を誘致したからといって、まちがクリエイティブ(創造的)にはな

らないことと同じ。美術館を誘致しても、そこで何を見せて、何を感じさせ、何を考えて

もらいたいと思っているのか。それがイメージできなければ、美術館の役割は果たせな

い。

それが本質で、それが価値なわけだから、美術館はその価値を伝えるために、どの

ように使えばいいのかということを考えないといけないのだけれど、そこに、なかなかい

けない。

価値をつくるというデザイン戦略が必要なのかな、と、思う。

その点では、本当に、ポートランドというところは、古くもあり、新しさもあり、バランス

のよい、手頃なまちで、とてもいいまちです。

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話し手:浅野あ さ の

徳一と く い ち

祭プロデューサー

聞き手:中野(合同会社ツクル)

実 施:2018 年 2 月 4 日(日) 名古屋市中区

東京都渋谷区にある金こ ん

王の う

八幡宮は ち ま ん ぐ う

の祭を再生させ、一大イベント化しながら、地域

自治の課題を解消する取り組みを行っている。地味な地域資源が人の心を掴むと、

地域をまとめ、地域外の人を巻き込むムーブメントに変わることもある。観光を意識

せずに、結果として、観光コンテンツ化となったポイントから長久手の魅力探求につ

なげる。

キーポイント

備前焼との出会いがはじまり

人材派遣業の起業家として活躍していたが、「ありがとう」と喜ばれるはずの仕事が、

頭を下げることばかりが増えていき「ごめんなさい」が多くなり、自分の仕事が嫌になっ

てしまった。

そういう働き方に疑問を持っていた頃に、「備前焼」と出会った。

父親が昔渡してくれた備前焼のぐい呑みでお酒を飲んだ時に、ふと備前焼の飲み

口の温かみ、柔らかさが素晴らしいと感じた。仕事に疲れていた自分が失ってしまっ

た日常の幸せを感じられることを「幸せ」というのではないかと器から教えてもらった。

経済、地位以外の幸せがあるのではないかと、東京では名前は知られているもの

★当初、祭プロデューサーを名乗りながら、イベントプロデューサーでしかなかった

★祭をプロデュースしようとして、祭をプロデュースはしていない

★「人々の笑顔がみたい」その一心で、継承されている伝統文化を再構成

★マーケットニーズを理解することの難しさ

★思いついたら具体的表現をもって、飛び込む

★なかなか思いは大衆には伝わらない

★気づきの連続は、人との交流による。

★人が集まればいいというものではない地元の祭の意味を宮司の一言で知る

★多様性を飲み込む日本の文化の代表が神社(神道そのもの)

★神社の精神性をもった祭

★見えない絶対的なものがある「それが文化」

★神社の歴史を紐解くと、地域や人とのつながりのヒントが見える

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の備前焼を手にすることはほとんどないため、備前焼の普及のために、日本酒と備前

焼のイベント「日本酒×備前焼×食の三位一体を楽しむ!」をいろんな居酒屋で始

めた。

マーケットニーズの読み違いがあった

しかし、OL・ビジネスマンに限定され、お酒好きの人はお酒を楽しみ、器好きはお酒

が入っていなくても器を楽しむため、備前焼で酒を楽しむことで幸せに気づいてもらい

たいのに、もどかしさが残る。そこで、備前焼から離れることにした。

日本の継承されている文化イメージが祭で、その原点が神社だった

日常の幸せを感じるには、そういう形にこだわる必要はなく、日本の伝統や文化の

中にあるのなら、着物、尺八など継承されてきているものなら何でもいいのではないか

と考えた。

そういう日本文化が息づいているのは、コンクリートのイメージはなく、ふと浮かんだ

のは、祭りの風景だった。そこで、和のディズニーランドというコンセプトの企画書を書

いて、神社に飛び込み営業をした。話を聞いてくれたのが唯一、渋谷の金王八幡宮

だった。

人がいないことを解消すること、「集客」に躍起になっていた

8 年前、渋谷のスクランブル交差点に神輿が 14 台並び異様な若者の熱気があっ

たが、金王八幡宮の境内には誰も人がいない。そこで、境内に人を集めようといろん

なイベントの仕掛けをし、まばらだった人が、5 千人を境内にひきこむことができた。

しかし、参拝者はいなくなった。宮司に、「学生の文化祭だね」と言われた。

祭プロデューサーではなく、イベントプロデューサーでしかなかった。

祭の本当の意味を理解した上で、プロデュースする

宮司は「人を 5 千人、1 万人と呼ぶことはすごいことだが、食べ物を消費し、パフォ

ーマンスを観覧するだけならここでなくていい。神社で参拝する意味を一人でもわかっ

てもらって、一人参ってくれたらいい。一人ずつ増やしていけばいい」と言われた。

神社の役割は、「神社の神主は俗人、寺の住職は聖人で、寺は行を行う。寺には

庭はあるが境内はない。神社には庭がないが境内がある。それは人が集まる場所だ

った。そこで人が自分自身を振り返る場所で、自分に誓いを立てるのが神社」。

今は型として踏襲されているが、意味を少しずつ知ることで、それぞれの人が自然

と神社に対して愛着をもち、祭が地域に大切であることがわかる人が増えるといい。

渋谷で不便を教える

今は神社や神道が宗教として変質してしまった。本質的な意味を教えて、感じられ

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る子供たちが増えてくれればいいなと思っていて、そのために、神社の境内で、焼き芋

会をしているが、火をおこすことから始めている。

火をおこすことが難しく、危ないこと、更にその先には焼き芋があるということを感じ

てもらうことで、物事のつながりを伝えている。それが笑顔につながる。それが大切。

絶対的に目に見えないものに大切なものがあり、それが文化だと思う。

神道だけではなく、書道、茶道など「道」がついているものは、今、型としてさまざま

なものをそぎ落として簡略化し伝わっているが、その本質的な意味を理解した方がい

いと思っている。

人口減少の渋谷は地元コミュニティが壊れてきたが、地域を超えたつながりで再

渋谷は 925 年の歴史があり、渋谷氏族が治めていた。渋谷氏族の繁栄を願ってで

きた神社が金王八幡宮で、源氏の系譜から天皇家に繋がっている。岡山美作、鹿児

島、神奈川大和と領土をもっていて繋がっている。そんな歴史があるのに、今の渋谷

は、遊びにくるまち、観光のまち、働きにくるまちで、地元の人は減っている。

しかし、渋谷を追いかけると、神奈川の大和市で、今でも渋谷の名を遺した場所で

甲冑を着て、「渋谷の本家はわしらだ」と言っているおじいちゃんに会う。渋谷の人口

は減っているが、地域を超えたつながりをさせていきたい。

神社を紐解くと、そういったつながりが日本中にたくさんある。これからはそういった

つながりを大切にし、神社を中心に地域をプロデュースすることが、本当の祭プロデュ

ースではないかと考えている。

祭が行政の市民イベント化によることで、本来の意味を失っている

堺市の堺祭に現在関わっているが、仁徳天皇陵があるので、なんでもありみたいな

市民パレードになっているが、そもそもの祭の原点を紐解くと、大阪の住吉大社に関

係がある。

そういったつながりから、祭を再構成し、地場の産業振興ともつながる意味をきちん

と考えてもらうような活動をしている。

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別添② 他地域先進事例資料

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◆新商品開発による観光ブランディング戦略 愛知県西尾市吉良町

昭和から平成にかけて、温泉観光地として賑わいを見せた「吉良温泉」。

近年、観光ニーズの変化から苦しい状況が続いている。そこで、地域ブランドに認

定されている「西尾の抹茶」を活かした「西尾の抹茶なべ」を 2016 年に開発し、現在、

首都圏など新たな客層の獲得と、新しい名物の定着に力を注いでいる。

新名物の開発、効用の創出過程、展望と課題を紹介する。

「西尾の抹茶なべ」の誕生の企画背景

西尾市は、地域ブランドに認定された「西尾の抹茶」を起点として、観光特産品と

してさまざまな販売促進(プロモーション)を展開している。

そこから全国ブランドとしての認知を高めつつあることから、抹茶の工場見学や、伝

統的手法の石臼引き体験による抹茶の普及なども行っている。それらの体験プログ

ラムに伴い、新たに製品化したお菓子、ソフトクリームなど抹茶の消費を拡大させな

がら、地域の認知を向上させる販売促進を展開している。

西尾市は、2011 年に旧西尾市と幡豆町、吉良町が合併して現在の西尾市になっ

ている。今後、それぞれの旧町の文化を活かしながら、西尾市全体を認知させていき

たいと考えている。

一方、吉良町は西尾市全体の動きとは別に、吉良観光旅館組合を中心に「地元

ならでは」の食の観光を通して、年々減り続ける観光客対策を企画することとなった。

吉良温泉のホームページを見ると「明治のころから『宮崎の湯治場』として知られ、

海を望むすばらしい景観も人気を集めてきた温泉。昭和 30 年代から宿泊施設が

続々と誕生し、温泉街が形成されました。泉質は塩化物温泉で、神経痛や筋肉痛、

冷えや疲労回復などに効果的。オーシャンビューの露天風呂でゆったり過ごすのがお

すすめ。もちろん食事も最高!三河湾でとれた魚介のおいしさを堪能できます」とある。

国定公園に指定されているエリアで景観はよく、目の前に広がる三河湾は、ふぐ、

えび、貝類など生産高でもトップクラスの新鮮な漁場がある。

しかし、そんな観光資源がありながらなかなか客足が伸びず、大きな販売促進費を

かけるにしても、何かインパクトのあるテーマの中身がなければ、経験上効果は見られ

ない。

そこで、地元の食材を使った、インパクトのある料理の開発を実施することになった。

尚、この事業には中部運輸局の事業資金が活用された。

観光協会と旅館組合との間で、多くの議論が交わされ、「①可能な限り多くの組合

員の参加、②三河湾の食材を使う、③ブランド化して訴求価値が高いもの」などが課

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題として挙げられた。それにインパクトが付加される。

過去にもさまざまな地域プロジェクトを立てたが、なかなか立ち行かなかった。大き

な資本の会員制ホテルから個人経営の旅館まであり、全体で取り組むことができな

かった。

西尾ならではの「食文化」として提供する

当初、三河湾の食材を「豆味噌×三河の海山物」といった「単品×単品」で考えて

いた。しかし、これは来館したら喜ばれる料理だが誘客のインパクトにはならない。

料理の商品開発には、「売りもの」とするために、地域資源の活用をブランディング

とプロモーション視点を意識して企画することとなった。

1年間通して提供できる料理として、新商品を開発したい。

そのためには1つの素材では展開が続かない。そこで、1年間、三河湾を丸ごと楽

しめるスタイルはないかと検討した結果、キーワードとして「鍋」が浮かび上がってきた。

そこから「四季鍋」のアイデアが生まれ、それならば三河湾を1年中楽しむことができ

ると考えた。

しかし、それだけでは「ふつう過ぎる」となり、おもしろくないという声もあがった。

それでも、鍋は「食べ方」という生活スタイルなので、誰でもイメージできる。それに、

三河湾の食材という地元の素材を最大限活用できるため、この路線で進もうとなった。

鍋料理なら大小問わず旅館組合員の全員が参加できるというメリットもある。

それでも1つの味の鍋では旅館の個性がでてこない。また、インパクトのある鍋にし

ないと、戦えないのではという不安が残った。

そこで、「鍋×~」を描き、相方である「~」を探すことになった。そのテーマも西尾市

に関連することにしようとなった。

西尾市は名物が多いが、そのなかで最も全国区のブランド価値がある地域素材と

いえば「抹茶」である。やはり、抹茶のパワーを活用するしかないと考えた。

しかしながら抹茶の緑色が料理としては、食指が動かないのではないかなどの意見

が出たが、グリーンカレーはあるし、野菜の多くは緑であり、決して食べたくなくなる色

でもないので、それは偏見ではないかという意見も出た。

そもそも西尾市は抹茶の産地でありながら、抹茶の食し方のバリエーションはほと

んどなく「抹茶塩」も一般的ではない。抹茶は飲むもので、抹茶の原料の甜茶は生産

高で市単位ではトップだが、多くを県外に売ってきた。西尾市の抹茶の課題は、地域

が生産者としての顔はあるが、抹茶文化を育ててこなかったことだ。

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そのため、抹茶が必ずしも生活に溶け込んでいないため、西尾の抹茶は、生産量

という経済のものさしで計られることが多い。

観光視点でいえば、一般的に人は経済的のものさしではなく、文化的ものさしで評

価する。「地域ブランド」として認定され、特産品としての価値は高まり商品の普及は

広がっているが、地元西尾の食文化としての訴求にはなっていない。むしろそこに着

目した。

欲しくなる気持ちを刺激するマーケティングの立場でいえば、消費者である潜在観

光客が、抹茶の生産高日本一を誇る西尾市へのイメージとして「産地ならではの抹

茶の楽しみ方」が当然にあると思ってもおかしくないと考えても不思議ではない。それ

だけに、消費者の潜在意識に西尾の食文化としての「抹茶なべ」に対する興味、期

待感を抱かせる可能性があるのではないかとなり、「西尾の抹茶」を新しい料理のス

パイス、仕掛けとした。

そうして新しい食文化としての抹茶の展開、「西尾の抹茶なべ」の開発が始まった。

それぞれの旅館がレシピの提案。みんなの意見で創り出された「抹茶なべ」

抹茶なべを開発することになったが、そこの定義づけが必要と考えた。また、1つの

味では展開が厳しいとの声から、いくつかの旅館で、各々が「抹茶なべ」のレシピを開

発し、発表し、意見を交換しながら、それらを磨き上げていくことにした。

課題は山積した。抹茶は味の個性が強く苦味があり、熱を加え続けると、風味が

飛び、茶色く劣化する。そうすると抹茶のイメージが損なわれるし、料理の新鮮さも軽

減する。

抹茶の特長を生かしつつ、美味しい料理に仕立てることは、非常に難しかった。

それぞれの提案を試食しながら、各レシピにさまざまな批評がされ、意見が加わり

ながら徐々に新商品の形が見えはじめてくる。そうして最終的に5つの「抹茶なべ」が

選ばれた。

「地域みんなで参画しなければ意味がない」これが根底にあった。1つの旅館がイン

パクトのあるものを開発しても、なかなか地域の名物とはならない。新商品群である

「抹茶なべ」は地域の名物となる期待を背負っていた。それだけに、各旅館の責任者

たちは真剣だった。

新商品を作ろうと呼びかけたのは西尾市観光協会であった。それに吉良観光旅館

組合が呼応した。地域課題の共有があったからこその開発熱であった。

現在、じっくり腰を落ち着けて、西尾市の、吉良町の新名物「抹茶なべ」は、西尾

市の食文化の紹介、そして、食スタイルの提案という形で、料理ツアーの企画として

全国に訴求を続けている。

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▼「抹茶なべ」開発、展開の背景

▼抹茶なべの WEB 展開(2018 年 3 月時点)

★地域経済の課題解消⇒観光客数の向上

★地域連携の再構築⇒地域協力。地域(面)展開における必要性

★地域らしさ、ならではの掘り下げ⇒地域価値の確認、共通認識

★地元素材の有効活用⇒地域らしさの認知、地域価値の訴求

★地域の食文化としての開発、提案⇒地域と消費者をつなぐアプローチとして

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▼食の観光の展開における重要な地域課題

独自性と集積(地)は地域資源の魅力を増幅させるために重要な要素。

★元祖(まさに発祥地)、あるいは、日本一などのタイトルインパクト

★集積地(町の嗜好性の集積に着目)宇都宮餃子、喜多方ラーメンなど

★独自性(地域独自の料理や素材、食文化に着目し地元住民などが考案)

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◆カーリングでまちおこし! 北海道北見市常呂町と こ ろ ち ょ う

過疎化し、娯楽のない町から、誰も知らないマイナースポーツを市民向けに訴求し、

わずか 40 年足らずでオリンピックメダリストを輩出したカーリングの聖地・常呂町の市

民活動を紹介する。この事例はカーリングの普及と市民との関係、地域の進展の経

緯がポイント。

1980 年 1 月に北海道池田町で開かれたカーリングの講習会がその第一歩。北海

道と姉妹提携を結んでいるカナダ・アルバータ州の交流事業で、すでにカナダの国民

的スポーツとなっていたカーリングが紹介された。常呂町から 3 人が参加。

オリンピックで知られるようになったカーリング競技は、氷上をブルームと呼ばれるほ

うきで掃き、ストーン(石)を滑らせ約 40 メートル先の円(ハウス)の真ん中で止めると

いう単純なゲームながら、競技としてはチーム力や駆け引きなど奥が深い。

オホーツク海に面し、流氷で知られる常呂町は、ホタテ養殖でも知られているが、

真冬は農業も漁業も成り立たず、当時、映画館が閉鎖され、娯楽に飢えていた。

故小栗お ぐ り

裕ゆ う

治じ

氏は、カーリングは力も不要で、集中力が求められるが女性も子供も

できる点に着目し、地元に戻りすぐに実演し、「町のみんなが楽しめる」と、仲間を集

めた。仲間は直ぐに集まった。

しかし、正式なストーンやブルームが手に入らないため、手作りの代用品でまかなっ

た。そして、すぐに常呂カーリング協会を設立し、指導者育成をはじめている。

翌年 2 月には、元世界チャンピオンによる講習会が開催し、本格的普及に入る。

リンクづくりには苦労し、極寒のなかの徹夜作業など試行錯誤を繰り返した。しかし

この苦労は、娯楽の少ない常呂町の住民には大切な交流の場となり、実は大きな楽

しみになっていた。大人たちがお湯割りの酒を飲みながらストーンを投げる「星空カー

リング」が広まった。そして大きな苦労が大きな思い出となっている。

こういった町民の交流の機会をつくっていったカーリングは、着実に町民のスポーツ

となる。

過疎化が進んでいたが、「まちおこし」の一環として、町もカーリングの普及を支援し

た。

ついに、1988 年 1 月に、待望の国内初となるカーリング専用の屋内リンク「常呂町

カーリングホール」がオープンした。国際規約規格に合った5シートを備え、一定の氷

温管理ができるようになった。屋外リンクの時代は終わりを告げ、自然環境に左右さ

れずに練習環境が整い、一気に競技性が高まっていく。

1990 年から、町内の小学校で冬の体育の授業にカーリングが採用され、その後、

中学、高校にも広がった。星空カーリングで腕を上げた小栗氏は指導者として、子ど

もたちの育成に力を注いだ。

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1998 年の長野オリンピックから、カーリングはオリンピックの正式競技となり、長野

大会には、常呂町から 5 人(男子 3 人、女子 2 人)が出場し、常呂は「カーリングの

町」として一気に知名度を高めた。そしてカーラーと呼ばれるカーリング競技者が増加

する。

更にアドヴィックス常呂カーリングホールが建設され、国際大会以外でも、強化合

宿のために海外チームが来るようになった。

基礎を築いた日本カーリングの父、小栗氏は高齢になってからもホールに顔を出し、

カーラーとの交流を楽しんだ。数々のオリンピック選手を見いだし、直接指導もした。

常呂町で、知らない人間は誰もいないほど親しまれた。

小栗氏は、カーリングの上手い下手ではなく、人をその気にさせるのが上手い人だ

った。

しかし、北見市には実業団チームがなかったため教え子たちは高校を卒業すると、

青森や札幌の強豪チームに誘われ、故郷を離れた。

「北見に五輪で戦えるクラブチームを作りたい」。

「チーム青森」の一員として 2010 年のバンクーバーオリンピックに出場した本橋選

手は、2010 年、チーム青森を退団し、「LS 北見」を結成。スポンサー探しを始めた。

常呂町の人たちは、暖かく迎え入れ、長野や札幌に散っていた北見出身の選手た

ちは本橋選手の呼びかけに応じ、北見に帰ってきた。

そうして、2018 年 2 月、平昌オリンピックで、日本史上初のメダルを獲得する。

こうして北見市常呂町は、名実ともに、カーリングの聖地となった。

★地域の取組背景

・過疎化が進み、娯楽のない町をなんとかしたい。(切実な課題、情熱で解消)

★着目点

・誰でもできるスポーツ(市民参加が可能)

★ポイント

・交流の場⇒星空カーリング⇒町民一丸となってゼロから始める(市民活動による)

・普及リーダーの存在(情報発信者、関係づくり、ネットワーク力)

★展開(徹底した活動、町民に向けた活動、メッセージ性のある展開)

・手作りの道具で町内で普及活動をはじめる

・競技者育成活動をすぐにはじめる

・まちおこしの一環として、町も普及支援

・常設施設ができ、海外チームがくるようになる

・小中学校で体育の授業として採用される。

・オリンピック選手を輩出⇒競技者の増加

・2010 年、手づくりのチーム「LS 北見」結成

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・オリンピック銅メダル獲得

・「そだねー」で一躍人気者へ⇒常呂町のさらなる露出

・名実ともにカーリングの聖地に!

★課題

・LS 北見ができるまで、実業団チームがなく北見市を離れた。(受け皿)

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◆世界ブランドが生まれるまちは「世界一住みたいまち」 アメリカ ポートランド市

NIKE、KEEN、コロンビア、ダナー、Polar などのスポーツやアウトドアブランド発祥の

地として、また、コンパクトシティ、サスティナブル、クリエイティブなどのさまざまな世界

の都市のトレンドの先駆として知られ、DIY 精神が盛んで小さなビジネスをする個人店

が多い事で知られている。インテルもあり、シリコンバレーの次のハイテク集積地として

も名高い。

ポートランドの人の誘引力は、観光戦略ではなく、「暮らしを優先」させた明確なコ

ンセプト(まちの理念)に基づいた生活者に向けた施策の数々により、街の価値は向

上し、結果として、メイド・イン・ポートランドは、「品質が高く、こだわりのある」、クール

なブランドとしてイメージが確立している。その結果、観光者、来訪者たちが多く訪れ

るようになっている。

街のアイデンティティ形成とブランディングという視点でみると、ブランド確立が地域

優先の精神と自主性を重んじ多様性を許容する街の空気、風土が源泉といわれて

いるが、そこをポイントとして紹介する。

ポートランドには、多様、多彩な顔があり、以下のような評価がされている。

ポートランドブランド確立の背景(施策、風土)

★自由なヒッピー文化がスタート

⇒自然が豊かな地域で、1960 年代以降、ヒッピーが集まりコミュニティを形成

⇒総じて自立性と寛容性に富み、自然との共生がもたらす生活の豊かさを尊重

★コンパクトシティ*というスマート開発

⇒「都市成長境界線」(オレゴン州の土地利用制度)の影響が大きい

⇒ポートランドの自然環境保全と経済発展の双方のバランスを保つことが目的

⇒都市化可能地域とそれ開発ができないグリーンフィールドを明確に分ける

*コンパクトシティ:郊外への開発を抑制し、生活関連施設や開発活動を都心部に集中させ

る縮小高密度化都市

★まちの形成が、ブランド企業を誘発

★全米一の環境に優しい都市

★全米一の自転車通勤に適した都市

★全米一美味しいレストランがある都市

★世界一のスケートボード都市

★全米一の出産に適した街

★ニューアーバニズムの先進都市の一つ

★全米5位のベストデザイン都市

★独立系映画製作に適した全米10都市の一つ

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⇒都市部から容易なアクセスで、豊かな農作物やハイキングトレイルをはじめとす

るアウトドア体験を満喫できる。

⇒スポーツ&アウトドアブランドの中心地へ⇒NIKE、コロンビアなどの発祥の地

★中心市街地では積極的都市開発

⇒経済成長を促進する目的で、開発可能な都市部では市と民間デベロッパーとの

両者協調による積極的都市開発が行われている

★生活者やコミュニティの感性を刺激する「ミクストユーズ開発」

⇒ミクストユーズ開発は開発計画で、複数の異なる用途をあらかじめ計画的に導

入・配置し、相互の関連性や共用性により発生する相乗効果を意図した開発

形態。

⇒多様性のある高密な市街地が次々と形成されている。

★ストリートカー(路面電車)の存在

⇒公共交通機関がくまなく街中を網羅(都心部は無料)

⇒車を使わなくても生活可能な職住近接のコンパクトシティが実現

★全米一自転車通勤者が多い都市

⇒市民の環境意識の高さを反映、市民が街を享受できるまちづくりが影響

都市と自然の「アンフェビアン」(両棲人類)な姿

★大学が起点となってさまざまな活動が展開

⇒ポートランド州立大学が各々のランドマーク

★街のいたるところで市民マーケットが開催

⇒毎月第1木曜日にはアートをテーマにしたブロックパーティ「ファーストサーズデ

イ」が開催

★世界が認めるピノ・ノワール、クラフトビール、オーガニック食品などの生産集積地

★自主性を重んじるコミュニティを意識が生んだ「ローカル志向、地元優先の精神」

⇒地元の製品、地元の企業の優先⇒我が街を積極的に評価

★人気のパールディスクリクト(再開発エリア)には、人を魅了する多様性がある

⇒職住遊の各機能の融合(ミクストユーズ)を前提としたグレート・ダイバース・コミュ

ニテイ*が具体的に実現している地域。都市が都市自体の文明を維持していく

には、多様性こそが重要な要素であることを前提としている。

*グレート・ダイバース・コミュニテイ:多様性に富んだ居住者の共同体の意味

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▼多様性の高い地域 「パールディスクリクト」のミクストユーズ

まちの世界観に共鳴した人々が、さらなる地域ブランド価値を向上に寄与

ポートランドはアメリカの都市のなかでも個性的。その個性を支えている精神に関し

て、追記する。ポートランドの精神に共感した人のこだわりが街の魅力をさらに増加さ

せている。

その他の、ポートランドはとは?と問えば、多くの市民が答えるポートランドでよく形

容されるテーマや表現を紹介する。ここに並べただけでも、まちの個性、表情がはっき

りする。

★住機能:低層住宅のタウンハウスからロフト・コンドミニアムのような分譲マンション・

アパートまで

★住民層:中所得者用から富裕層向けまで

★機 能 :商業地域からガレージからオフィスまで

★成 員 :米国ベビーブーム世代の知的エリート層からアーティストまで

★世 代 :子育て世代から巣立ち世代まで

★店 舗 :ローカル・ファミリー・ビジネスからアーティストからグロバールブランド

★建 物 :ハイテクコンドミニアムから 19 世紀時代の倉庫まで

★こだわり:テーマ・コンセプトへのこだわりは著しい。

・世界的「サード・ウエーブ・コーヒー運動」で有名なポートランドのアイコン(象徴)な

コーヒーショップ、スタンプタウンコーヒーのオーナーは「革命的なコーヒービジネス」

を掲げ「消費者の持つ味覚の洗練」を目指している。

★「クラフトワーク」「ハンドメイド」「DIY」

・手づくり商品はポートランドの顔の1つ。アイスクリーム、ドーナツ、家具、自転車、

オーガニック食品これもメイド・イン・ポートランドを印象づけている。

★「環境先進国」「新鮮な農産物とコーヒーを好む」「アーバン・グリーン・マーケット」

・環境意識の高さがライフスタイルに反映下表現

★「ハッピーアワーを利用した気軽な社交」

・まちのザワつきが好きで、遊びと会話好きな人たちがコミュニティを育む文化を表現

★「材料から人材まで地産地消」

・地元愛、街への愛着が、仕事から生活までを覆っている。また、コミュニティを大事に

する精神があらわれている。

★「アートと良質な関係」「アートはコミュニティを育む」「ストリート・ギャラリー・エキシビジョン」

・アートは市民生活を豊かにする重要なもの。ポートランドでは市民をつなぐ媒介になっている

★「クリエイティブだけれどフレンドリー、クールだけどファンキー」

・ポートランドの街の多様性と、自由さと、創造性、お洒落と格好やセンスの良さを

表現している。

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街に対する憧れが、住居を構えることによって自慢や誇りに変わっていて、帰属意

識になり、やがて自治意識になる。

この流れが、メイド・イン・ポートランドの根底にあり、この心の動きが地域ブランディ

ングの鍵といえる。

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別添③ 長久手市観光交流協会意見交換資料

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話し手:山田や ま だ

将史まさ ふ み

長久手市観光交流協会 事務局長

聞き手:古川、中村、菊池(NTTドコモ東海支社)、中野(合同会社ツクル)

実 施:2018 年 1 月 30 日(火) 長久手市役所 東分庁舎

観光交流協会の目からみる、長久手市の強みと弱みは何か?

<強み>

・先祖代々の長久手市民(江戸時代から)。

・当時、日進からは芋久手と呼ばれていたくらい、野原が原風景だった。自然体。

・小牧長久手の戦いが誇れるもの(唯一、家康と秀吉が直接対決したところ)。

・警固祭りで使用する火縄銃は、代々その家系で受け継がれている。

・史跡巡りや、棒の手など。地元に馴染んでいった。

・万博が全てのきっかけ。

・古き良き伝統と、ムラ社会(ムラ同士の派閥)。

・都会と自然とが共存している。

・近代的でもあり、田舎も近い。

<弱み>

・観光地としては、博物館やジブリもあるが、そこは生活とは結びつかない。

・ゆっくりした人が多いが、悪く言うと自ら行動を起こす人は少ないのかも。

観光交流協会の地域ブランディングへの思いは?

・観光交流協会としては、長久手の日常を、ブランドにしていきたい。

・日常生活が、文化になり、ブランドになるといった営みを進めていきたい。

・作為的に名物品を作ると言った考え方ではない。

・あえて、不便をつくることが必要となるときもある。

・ゆっくり歩いてみんなで発見するものを大事にしたい。

・ブランドは、使われてはじめて価値がある。

・子供のころの経験には価値がある。

観光交流協会がフォーカスするもの、面白いと思うもの。

・人にフォーカス。商品サービスではなく、その人の発想や成り立ちなどをフォーカス。

・[雑人 ]はその思いがこもっている。配布先については工夫が必要。

・市民が長久手の隠れた魅力を発見し、発掘していく

・たとえば、陶芸。あるいは地元の歴史などを長久手版で書籍化するなど。

・長久手は芸大生や、芸術肌の市民が多い傾向がある

・何気ないところで、その人を雑誌に掲載して家族史としていくなど

・合戦の事実より、武将や参加者の人となりにフォーカスしている

・長久手に「長く久しく手を繋ぐ」町といった意味で、婚姻届の提出に来る人もいる。

・たとえば“縁起がいい町”として今から文化にしていってもいいのでは。

・長久手らしさが広がってくると、自然と市民同士が助け合えるようになればいい。

・町には土地の記憶がある。例えば、街道沿い・地名など。

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巻末参考資料①

▼枕言葉の事例

地域ブランディングには、はじめから正解の枕言葉があるわけではない。長久手の

各地域資源を、どのように評価し、捉えているのか、行動や感情に紐付く、形容を地

域資源(名詞)の前に置くことで価値が見えてくる。

この作業のルールは、遊び感覚。常識に捕らわれない自由な発想で展開すること

が重要。「えっ?」と思うような形容で問題はない。また、地域資源にいくつもの形容

がついても差支えはない。

▼枕言葉をつけた地域資源の事例

●視覚的にインパクトのある~ ●訪れたくなる~

●歴史的に意味のある~ ●疲れた時に行きたくなる(経験したくなる)~

●子供を連れていきたくなる~ ●一度は行っておく(経験しておく)必要がある~

●意外と知らない(おもしろい)言い伝えがある~(知ってる?長久手~)

●市外の人を連れて行ってあげたい(経験させたい)~

●おもわず笑える~ ●一度経験する(食べると/行くと)と癖になる~

●友達に会わせたい(見せたい/経験したい)~

●視覚的インパクトがある建造物はモリコロパークの観覧車と体育館

●視覚的インパクトがある景観はリニモの先頭車両

●訪れたくなる大型商業施設はイケア、イオンモール

●訪れたくなる娯楽施設は、天然温泉ござらっせ、サツキとメイの家

●訪れたくなる直売所は、あぐりん村 ●一度行くと癖になるあぐりん村

●歴史的に意味のある場所は、長久手古戦場、色金山歴史公園

●歴史的に意味のある民俗文化は、棒の手

●歴史的に意味のあるお祭りは、警固祭り

●おもわず笑える鳥のオブジェがある

●友達に会わせたい造園の社長がいる

●知ってる?長久手には4つの大学がある

●知ってる?長久手(地域名)あそこは、血の気が多い人がいる地域なんだって

●知ってる?長久手のおもわず震える名称、「血の池公園」や「首塚」 など

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まちの特長(地域全体を形容した表現)やまちの人の特長を形容する

次に、まちの状況、状態や印象を特長として描写する。この作業のルールは、個人

的印象。前提として強みも弱みも考えない。長久手市を市外の人に伝えることを意

識する。

まち全体が持っている空気感、土地柄のほか、人柄も表現する。また、同じような

内容でも、違う表現で描写することが大切。ここのプロセスが重要なポイントで、ここで

地域資源(物理的、事象)の関係や、また、これらに人的資源を重ねて俯瞰すると、

長久手市のさまざまな表情が浮かびあがってくる。

その意味で、このプロセスには地域価値創出のためのヒントがたくさん隠されている。

●大学が多く学生がたくさんいるが、長久手では遊ばずバイトは名古屋でしている

●学生が多く、楽しい気分になれて、穏やかなまちなので、居ついてしまう

●大学芸術系やお洒落な学生が多く、こだわりの雑貨屋さんも多い

●おもしろそうな人が多く、また、イベントが多くたのしそうなまち

●学生時代から居ついて、趣味でアートをやっているおもしろい人が多い

●閑静な住宅地に、工芸が好きな芸術家肌の人が、こだわりでお店を開いている

など

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▼まちの特長表現の事例

▼まちの特長表現の相関事例

ここでは先に挙げた内容を、関連付けさせ、長久手の外観を重層的、立体的に描

写を試みる。普段何気なく表現している内容だが、実は 1 つの文章に幾つも意味が

重なりあっていることがわかる。

普段の印象描写(イメージ)から要素(らしさの素)を分解することで、「まちの特長

表現の事例」のような描写がなされ、整理される。

本来、この作業を先に行い、次に、要素分解することが自然といえる。

●大学が多いまち、でも学生街がないまち

●学生が長久手のまちを楽しんでいない(享受していない)

●学生がまちをあまり歩いていない

●お洒落な雑貨屋が多い

●こだわりのある雑貨屋さんが多い

●工芸(クラフトワーク)が好きな人が多そう

●手作りの店が多い

●個性のある女性がオーナーの雑貨屋さんが多い

●愛知万博のメイン会場だったまち、リニモやモリコロパークのあるまち

●造形物をつくる技能をもったおもしろい人が多いまち

●芸術家もどきの人が多い

●おもしろいものを作る人が多い、アート作品が多い

●アートに感度が高い

●学生時代から居つく人が多い

●地元が好きな人が多い

●地の人は田舎のままでいいと思っている

●きれいな町並みの住宅街

●家族参加のイベントが多い

●モリコロパークには市外の人がたくさんやってくる

●IKEA やイオンモール、トヨタ博物館には市外の人がたくさんやってくる

●行政イベントにボランティアが多い

●モリコロパークにはイベントやワークショップが多い

●名古屋にアルバイトに働きに行く人が多い

●名古屋のベッドタウン

●住宅地も郊外も穏やか

●お洒落感度が高い

●小牧・長久手の戦いがあったまち など

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この作業が必要な理由は、地域資源(要素)を1つの価値だと思ってしまいがちな

ため、その安易な視点を是正することと、また、地域資源が、自然資源や人文資源と

いった目に見える物に注目しがちだが、その物(資源)が、価値として浮かび上がって

くるには、それら資源の背景が必要となるためである。

生きた地域資源(要素)とするためには背景が必要で、背景とは、地域の風土(文

化、伝統など)や地域の空気感である。

つまり、背景は、住民が全体として醸し出す長久手の表情のことである。

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巻末参考資料②

地域や地域資源の価値を魅力として伝えるには、伝える表現内容より、まず現状

の地域資源を従来とは違う切り口で新たな価値を創造する必要がある。そのために

は関係者の想像の飛躍が求められる。

新たな地域の価値創造には、あらかじめ、地域資源の価値が地域においてどのよ

うな価値で、地域との関係性はどうなのか、また、他地域と比べてどうなのかを考える

必要がある。

地域価値創造と地域魅力発信は、分けて整理する必要がある。

一般的に価値表現は、価値をわかってもらうために価値の要素となる情報を並

べることが多い。しかし、必ずしもそれが魅力とはならない。

既存の地域資源の磨き上げや組合せにより新たに再構成して価値づけしても、

それがそのまま魅力にはならない。魅力は感受する受け手によるからである。

◆地域の価値創造とその課題

・経済学では価値を商品が持つ交換価値の本質とされるものと定義している。

・地域価値をここに当てはめると、地域が持つ交換価値の本質と定義できる。

⇒地域らしさと置き換えることができる

・地域らしさには、①長年かけて自然に醸成された事や物と②作り上げてきた

事や物の大きく2つある。

・地域価値の創造は地元の役割であり、他者に提供の必要がある。

・一般的には、地域価値(らしさ)は、提供する側の思考で表現されている。

・課題は、地域らしさとして表現されたものが魅力として映るかである。

◆地域の魅力と、その発信の課題

・魅力は、辞書には人の心をひきつけて夢中にさせる力とある。

・したがって地域の魅力とは人の心をひきつけて夢中にさせる地域らしさとなる。

・つまり、地域に出向いて体感したときにしか、魅力は感じられない。

⇒情報発信者(地域/ホスト)側ではなく、観光客(ゲスト)側の態度

・地域価値(らしさ)の魅力を伝えるとは、価値を並べて発信することではなく、

価値に触れると心や体がどうなるかということを伝えることである。

⇒それを、どのようなアプローチで表現するかは、別の作業

地域の価値は地域の魅力の要素として捉えると、地域や観光ブランディングは

円滑に進むことが多い。

地域の価値創造と地域の魅力発信

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次に、それらを踏まえて、新しい価値要素を重ねたり、組合せたりすることで、新た

な「状態、行動、機会・場、サービス、商品など」が生じることがポイントとなる。この状

態に対する可能性への想像が、とても大切となる。

この段階は、具体的な事物であっても、見えないイメージ(想像)や感性の要素が

多くなる。そのため、ここで、言葉による世界観の創出、つまり、物語性に富んだ表現

が必要となってくる。

そして、地域と地域資源や市民と地域資源の関係などは、地域資源の位置づけ、

意味づけを変える作業でもある。

想像の飛躍が求められる地域価値「らしさ」の創造

① 地域資源の磨き上げによる価値の再構築(再定義)

⇒価値の相対的な位置関係の見直し、意味付けなど(ポジション整理)

② 地域資源×地域資源・人的資源の組合せなどの手法による地域資源

の再構成により、新しい価値の創出(=イノベーション)

⇒地域資源の配置(関係性)を変える