16
藤岡「フレキシブルデバイス」プロジェクト プロジェクトリーダー 藤岡 洋 【基本構想】 本プロジェクトでは発光ダイオードや集積回路といった高性能単結晶半導体素子を柔軟で大面積な基板 上に実現することを目指している。半導体素子は原子が規則正しく並んだ半導体単結晶基板にリソグラフ ィー技術で回路を刻み込んで製造されている。しかしながら、半導体の単結晶基板には高価である、硬く て脆い、面積が小さいといった問題点があり、素子としての応用範囲が極めて限られていた。一方、我々 は最近、金属の板の上に単結晶と呼べるほど高品質な半導体の薄膜が成長できることを見出した。金属の 板には安価で容易に面積を大きくできるという特徴があり、この特徴を生かせば、従来に無い大面積半導 体素子を安価に作ることができると考えられる。さらに、金属板上に成長して回路を刻み込んだ半導体を 有機物やガラス、セラミックスといった材料に接着し、金属板を除去することによって、これまで構造材 料としてしか使われていなかった材料に演算や記憶、発光、通信、発電等の新しい機能を持たせることが できると考えられる。特に、この半導体転写技術をポリマーフィルムに適用すれば軽量かつ柔軟、透明と いった今までに無い特徴を持つエレクトロニクス素子を安価に大面積で生産できるようになると考えられ る。具体的な開発項目としては①金属基板上への単結晶半導体素子形成技術の開発と②金属上半導体素子 の異種基板への転写技術の開発の 2 点が挙げられる。本プロジェクトの成果によって現在のエレクトロニ クスの抱える単結晶半導体基板の使用という制約を取り除けば、ガラスや建物、衣類、プラスチックとい ったあらゆる物質に計算機能や通信機能、表示機能、発電機能を与えることができ、自由度の高い「フレ キシブル」なエレクトロニクスが実現すると考えている。 1. 平成16年度の研究目的 図1に示すようにフレキシブルデバイスの作製には 5 つの 工程がある。この内、工程1の異種基板の平坦化と工程2のバ ッファー層及び半導体薄膜成長が本プロジェクトの成否を決 める重要な鍵となる。プロジェクト初年度の昨年は研究室整備 および工程1、2の基礎固めを行い、金属板上に極めて高品質 なGaN結晶の成長を実現した。プロジェクト2年目となる平 成16年度は昨年の成果を発展させ、工程1、2および3の検 討を行い、さらに、フレキシブルデバイス技術を量産技術とし て成り立たせるための展開研究に着手した。具体的には、(1) 金属基板上Si結晶の高品質化(2)金属基板上 GaN 結晶の高 品質化、(3)超高品質フレキシブルデバイスを目指したZnO 等格子整合基板の利用(4)フレキシブルデバイス量産化のた めの高速成膜技術の検討などを重点テーマとして開発した。 1.1 金属基板上Si結晶の高品質化 Siは半導体材料のなかでも最もひろく利用されており、集積 回路などの電子素子や太陽電池などの受光素子の応用に適し ている。 Siは立方晶系のダイヤモンド構造をとるが、昨年度開発し たフレキシブルデバイスの製造プロセスでは、バッファー層との結 晶学的な対称性の相性の問題から、高品質な薄膜が得られにくい という問題点があった。Si素子の実現は本プロジェクトのフレキシ ブルな電子素子や太陽電池を作製するという目標の実現にとって 極めて重要であるので、本年度は Si および界面層の成長条件の 最適化、多層のバッファー層の利用、結晶成長装置の改良など により、金属基板上 Si の高品質化を試みた。 工程1: 異種基板の平坦化 工程2: バッファー層及び半導 体薄膜成長 工程3: デバイス加工 工程4: ポリマー接着 工程5: 異種基板剥離 フレキシブルデバイス の完成 図1 フレキシブルデバイス作製プロセスの流れ

藤岡「フレキシブルデバイス」プロジェクト - KISTEC...品質化、(3)超高品質フレキシブルデバイスを目指したZnO 等格子整合基板の利用(4)フレキシブルデバイス量産化のた

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Page 1: 藤岡「フレキシブルデバイス」プロジェクト - KISTEC...品質化、(3)超高品質フレキシブルデバイスを目指したZnO 等格子整合基板の利用(4)フレキシブルデバイス量産化のた

藤岡「フレキシブルデバイス」プロジェクト

プロジェクトリーダー 藤岡 洋 【基本構想】 本プロジェクトでは発光ダイオードや集積回路といった高性能単結晶半導体素子を柔軟で大面積な基板

上に実現することを目指している。半導体素子は原子が規則正しく並んだ半導体単結晶基板にリソグラフ

ィー技術で回路を刻み込んで製造されている。しかしながら、半導体の単結晶基板には高価である、硬く

て脆い、面積が小さいといった問題点があり、素子としての応用範囲が極めて限られていた。一方、我々

は最近、金属の板の上に単結晶と呼べるほど高品質な半導体の薄膜が成長できることを見出した。金属の

板には安価で容易に面積を大きくできるという特徴があり、この特徴を生かせば、従来に無い大面積半導

体素子を安価に作ることができると考えられる。さらに、金属板上に成長して回路を刻み込んだ半導体を

有機物やガラス、セラミックスといった材料に接着し、金属板を除去することによって、これまで構造材

料としてしか使われていなかった材料に演算や記憶、発光、通信、発電等の新しい機能を持たせることが

できると考えられる。特に、この半導体転写技術をポリマーフィルムに適用すれば軽量かつ柔軟、透明と

いった今までに無い特徴を持つエレクトロニクス素子を安価に大面積で生産できるようになると考えられ

る。具体的な開発項目としては①金属基板上への単結晶半導体素子形成技術の開発と②金属上半導体素子

の異種基板への転写技術の開発の 2 点が挙げられる。本プロジェクトの成果によって現在のエレクトロニ

クスの抱える単結晶半導体基板の使用という制約を取り除けば、ガラスや建物、衣類、プラスチックとい

ったあらゆる物質に計算機能や通信機能、表示機能、発電機能を与えることができ、自由度の高い「フレ

キシブル」なエレクトロニクスが実現すると考えている。 1. 平成16年度の研究目的 図1に示すようにフレキシブルデバイスの作製には 5 つの

工程がある。この内、工程1の異種基板の平坦化と工程2のバ

ッファー層及び半導体薄膜成長が本プロジェクトの成否を決

める重要な鍵となる。プロジェクト初年度の昨年は研究室整備

および工程1、2の基礎固めを行い、金属板上に極めて高品質

なGaN結晶の成長を実現した。プロジェクト2年目となる平

成16年度は昨年の成果を発展させ、工程1、2および3の検

討を行い、さらに、フレキシブルデバイス技術を量産技術とし

て成り立たせるための展開研究に着手した。具体的には、(1)

金属基板上Si結晶の高品質化(2)金属基板上 GaN 結晶の高

品質化、(3)超高品質フレキシブルデバイスを目指した ZnO

等格子整合基板の利用(4)フレキシブルデバイス量産化のた

めの高速成膜技術の検討などを重点テーマとして開発した。

1.1 金属基板上Si結晶の高品質化 Siは半導体材料のなかでも最もひろく利用されており、集積

回路などの電子素子や太陽電池などの受光素子の応用に適し

ている。Siは立方晶系のダイヤモンド構造をとるが、昨年度開発し

たフレキシブルデバイスの製造プロセスでは、バッファー層との結

晶学的な対称性の相性の問題から、高品質な薄膜が得られにくい

という問題点があった。Si素子の実現は本プロジェクトのフレキシ

ブルな電子素子や太陽電池を作製するという目標の実現にとって

極めて重要であるので、本年度は Si および界面層の成長条件の

最適化、多層のバッファー層の利用、結晶成長装置の改良など

により、金属基板上 Si の高品質化を試みた。

工程1:異種基板の平坦化

工程2: バッファー層及び半導体薄膜成長

工程3:デバイス加工

工程4:ポリマー接着

工程5: 異種基板剥離 フレキシブルデバイス

の完成

図1 フレキシブルデバイス作製プロセスの流れ

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1.2 金属基板上 GaN 結晶の高品質化 上述のSiは電子素子や受光素子用材料として極めて

重要であるが、間接遷移型半導体であり、発光素子への応

用は期待できない。一方、GaNを中心とするⅢ族窒化物

半導体は赤外域から紫外域までをカバーするバンドギャ

ップを持ち発光素子材料として最も注目されている材料

である。また、少数キャリアの拡散長が短く、結晶欠陥の

導入に対しても比較的強いため、本プロジェクトの様なヘ

テロ結晶成長技術を用いても高性能デバイスを実現でき

る可能性が高い。本年度は昨年度開発したプロセスの再現

性を高めるとともに、基板金属の種類とその上に成長した

GaNの結晶品質に関係について特に注意を払いながら研究

を進めた。本年度に具体的に利用した金属基板はCu、F

e,Niなどである。

1.3 整合基板上超高品質フレキシブルデバイス Ⅲ族窒化物はその熱力学的特性からバルクの結晶を得る

ことは極めて難しく、通常、サファイア基板上にヘテロエピタキ

シャル成長技術を用いて作製されている。しかしながら、サフ

ァイア基板とⅢ族窒化物は格子定数のミスマッチが 10%以上

と大きく、これが結晶欠陥発生の大きな原因とされてきた。以

前より格子整合をあたえる ZnO などの基板は知られていたが、

これらの基板は加熱によって容易にⅢ族窒化物と反応してし

まい、実際には基板として利用されることは無かった。我々は、

昨年度Ⅲ族窒化物の成長温度を室温にまで下げる技術を開

発したが、本年度はこの技術を用いてZnO基板上に超高品

位GaNフレキシブルデバイスを作製することを試みた。 1.4 量産化技術の検討 金属基板を用いたフレキシブルデバイスの最大のメリ

ットは、基板を数m角にまで大面積化できるという点にあ

る。実用化を考慮した場合、このような大面積基板上への

半導体成長時には、均一性とスループットに実績のあるス

パッタ法によるプロセスが有利であると考えられる。そこ

で、窒化物バリア層成長用のスパッタ装置を設計試作した。

このスパッタ装置の特徴はスパッタ装置で作製したバリ

ア層成長上に、サンプルを大気に曝すことなく、Si を成長

できるように超高真空搬送チャンバーで既存の Si-MBE、PLD が連結されている点である。(図2)本年度はこの装

置を利用してバリア層成長の基礎的検討を行った。 2. 平成16年度の研究成果

2.1 金属基板上Si結晶の高品質化

金属基板上に界面バッファーをバリア層として Si をエ

ピタキシャル成長した。界面バッファーを低温・高温の 2段階成長とすることにより、高品質の界面バッファーを成

長させることができた。また、界面バッファー上への Si

図2 複合結晶成長装置(上面

KrF エキシマレーザー発振機

PLDチャンバー

Si-MBEチャンバー

集光レンズ

レーザー

超高真空搬送チャンバー

導入チャンバー

スパッタリング

チャンバー

導入チャンバー

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を厚膜化することにより、界面バッファー/金属基板上へ

ほぼシングルドメインの Si をエピタキシャル成長させる

ことができた。

2.2 金属基板上 GaN 結晶の高品質化 Cu、Fe,Niなどの金属基板上に成長条件やバリア

構造の最適化により高品質GaNが成長できるようにな

った。特にCuは放熱性や電気伝導性が極めて高いという

特徴を持つことから、小さい領域に大パワーを投入するこ

とができ、照明用発光素子として期待ができる。金属基板

上に作製した GaN 薄膜の上に真空蒸着によりショットキ

ー電極とオーミック電極を作製した。明瞭な整流特性が観

察されたことから金属基板上に作製した GaN 薄膜におい

て、初めてデバイス動作に成功したことが分かった。

2.3 整合基板上超高品質フレキシブルデバイス

Ⅲ族窒化物に対して小さい格子不整をあたえる

(Mn,Zn)Fe2O4や ZnOの基板表面を適切な処理によって原子

レベルで平坦化した後、PLD 法によってⅢ族窒化物薄膜を

成長した。ZnO 基板上へ GaN 薄膜の二段階成長を行ったと

ころ、その結晶性は大幅に改善し、GaN の 0002 回折およ

び 202-

4 回折ピークの半値幅はそれぞれ 99 arcsec、284

arcsec であり、極めて高品質な GaN 薄膜であることが明

らかになった。(Mn,Zn)Fe2O4基板上へのⅢ族窒化物薄膜成

長では、成長温度の低温化により窒化物薄膜と基板間の界

面反応が抑制され、結晶の品質やモフォロジーが改善され

ることが分かった。このように室温エピタキシャル成長技

術によって、従来では界面反応の影響で使用することが難

しかった格子整合基板が利用可能となり、高品質なⅢ族窒

化物薄膜の成長が実現した。

2.4 量産化技術の検討

超高真空スパッタ装置と Si-MBE 装置、PLD 装置を超高

真空チャンバーで連結した複合結晶成長装置を設計試作

し、設計値どおりの真空度が得られることを確認した。ま

た、この装置を用いてバリア層を成長し、結晶が成長する

ことを確認した。さらに、この試料を他の成長チャンバー

に超高真空状態下で搬送できることを確認した。

2.5 研究成果のまとめ

以上述べたように、平成 15 年度はフレキシブルデバイ

ス作製技術の要となる基板前処理技術と結晶成長技術、デ

バイス加工技術、量産化技術に焦点をしぼり研究を行い、

デバイス実現に必要な多くの要素技術を開発できた。来年

度以降はこの前処理技術と結晶成長技術をさらにブラッ

シュアップするとともに、序所にデバイス作製プロセス技

術の開発、基板剥離技術の開発も序々に重点を移していき

たい。

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金属基板上シリコンエピタキシャル成長

松木伸行

1. はじめに

身の回りのあらゆるものに表示・通信・演算・照明・発

電機能などを付加することによって、より快適で安全な環

境を構築する「ユビキタス社会」の実現にむけたデバイス

開発が近年盛んである。シールやポスターのような感覚で、

色々な場所や物に貼り付けたり、衣類に縫い込んだりする

ことが可能な「フレキシブルデバイス」の開発が望まれて

いる。しかし、現在、高速演算処理や通信を可能にしてい

る高移動度材料はシリコン(Si)であり、集積回路は硬く

て脆い Si ウエハ上に形成されるためフレキシブル化が困

難である。また、現在シリコンウエハの直径は最大でも約

30 cm であり、大面積化にも制約が生じる。硬くて脆いウ

エハ上にデバイスを形成するという従来のプロセスを覆

さない限り、大面積で高機能なフレキシブルデバイスの実

現は難しい。 本プロジェクトでは、新規なフレキシブルデバイスの作

製プロセスとして、金属基板を用いることを提案し、その

プロセス開発を目標としている。金属基板、特殊な処理過

程を加えることによってその結晶粒界を数 m 角にまで巨

大化させることができる。すなわち、人類が手にすること

のできる最大サイズの、かつ低コストの単結晶である。金

属基板はこのように有望な特長を備えながらも、半導体電

気特性を劣化させるいわゆるライフタイムキラーとして

の性質を有するがゆえに、これまで半導体成長用基板とし

て注目されることがなかった。しかし、もし半導体との界

面に適切な拡散防止バリア層を施すことができれば、半導

体成長用基板として応用することが可能となる。本プロジ

ェクトによって提案する大面積フレキシブルデバイス作

製プロセスは、(1)金属基板上へのバリア層および半導体層

のヘテロエピタキシャル成長 (2)半導体素子製造プロセス

を用いたデバイスの形成 (3)表面へのプラスチック等のフ

レキシブル基材の接合 (4) 金属基板の除去によるフレキ

シブルデバイスの完成 といった工程を想定している。 本研究では、金属基板上へのバリア層エピタキシャル成

長およびバリア上へのシリコンエピタキシャル成長を行

い、成長様式およびプロセス最適化に関して検討を行った。

2. バリア層を介した金属上シリコン成長

2. 1 バリア層の成長

これまでにパルスレーザー堆積法を用いることによっ

て結晶成長温度の低温化が実現でき、多くの反応性の高い

酸化物結晶基板上に高品質薄膜がテロエピタキシャル成

長できることが知られている[参考文献 1, 2]。金属基板は

反応性が高く低温成長が必須であるので、本研究では先ず、

このパルスレーザー堆積(PLD)法によって金属基板上に

界面バッファー層を成長することを試みた。 平坦化処理を施していない金属基板は、非鏡面の粗さを

有し、かつ厚い酸化膜に覆われている。このままではエピ

タキシャル成長が不可能なため、研磨および真空中熱処理

によって原子レベルで平坦かつ清浄な単結晶金属表面を

露出させた。清浄表面構造は、高速電子線回折(RHEED)

により観察した。基板は研磨後ただちにロードロックチャ

ンバー内にセットして超高真空排気を行い、その後超高真

空搬送チャンバーを経て PLD チャンバーに搬送した。加

熱前はハローパターンとなりアモルファス構造の酸化膜

に覆われていることが示唆されたが、加熱後においては非

常にシャープな回折線(ストリーク)と菊池ラインが観察

され、表面が原子レベルで平坦かつ良質な単結晶表面とな

っていることが確認された。その後、金属基板上に界面バ

ッファー層を成長させた。熱アニールと同じ基板温度で界

面バッファー層を成長させたところ、RHEED 像はリング

状パターンを含んだものとなった。回折像がリングを含ん

でいることは、ランダムな方位で成長した粒界を多く含む

多結晶となったことを示している。この原因として、成長

初期段階の界面バッファー層が下地の金属基板と相互拡

反応したことが考えられる。一般に、基板と成長膜との相

互拡散は、成長時の基板温度に大きく影響される。界面バ

ッファー層が金属基板上へエピタキシャル成長する条件

を調べるために、適切な成長温度を探索した。通常の成長

温度の場合には、EBSD[解説 1]極点図にランダムな極点が

多数見出される。界面反応の影響により金属基板上へのエ

ピタキシャル成長が妨げられ、ランダムな方位を持ったド

メインが生成したと考えられる。この結果は、リング状パ

ターンの RHEED 像ともよく一致する。一方、基板温度を

下げた試料に関してはランダムな方位による極点はほぼ

消滅している。

以上の結果から、金属基板上における界面バッファー成

長は、金属基板の熱アニール温度よりも低くしなければな

らないことがわかった。しかし、一般的に界面バッファー

層は成長時の基板温度が高いほど結晶粒径が大きくなり

結晶性が向上することが知られている。そこで、低温条件

でまず界面バッファーを成長した後、基板温度を上昇させ

さらにバッファー層を成長させる 2 段階成長を考案した。

2 段階成長後の界面バッファー表面の RHEED 像は極めて

シャープなストリークパターンを示し、良質のエピタキシ

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ャル界面バッファー層を得ることができた。

2. 2 シリコン成長

金属基板上に界面バッファーを成長したサンプルは、超

高真空搬送チャンバーを介してシリコン分子線エピタキ

シー(Si-MBE)チャンバーへ移送した。超高純度 Si 原料

に電子ビームを照射し Si を蒸発させ、界面バッファー/金属構造上への Si 薄膜成長を行った。成長時の輻射熱によ

る、チャンバー内壁からの不純ガス脱離を抑制するため、

シュラウドへの液体窒素注入およびチタン(Ti)サブリメー

ションポンプによる排気を併用しチャンバー内真空度を

10-9 Torr 台に維持した。この装置を用いて海面バッファー

層を介して金属板上に Si を成長したところ、スポットと

ストリークからなる RHEED 像が観察された。また、EBSDで観察したところ、Si が成長していることが確認された。

しかし、より詳細に EBSD データを解析した結果、成長し

た Si はツイン構造になっているということがわかった。

界面バッファー上へ対称性の異なる Si が成長する場合、

エネルギー的に等価な 2 つの配向関係が可能であり、必然

的にツイン構造となることが想定される。しかし、サファ

イア上 Si において、成長膜厚が小さいときにはツイン構

造となるが、膜厚を大きくすることによって片方のドメイ

ンのみが優勢となることが知られている[3, 4, 5]。そこで、

界面バッファー上へ Si の厚膜成長を行った。その結果、

ツイン構造の片方が大幅に低減されほぼシングルドメイ

ンとなった。

3. 大面積窒化物バリア層の成長を目指した スパッタ装置の開発

金属基板を用いたフレキシブルデバイスの最大のメリ

ットのひとつは、基板を数m角にまで大面積化できるとい

う点にある。実用化を考慮した場合、このような大面積基

板に対しては、薄膜成長の均一性に実績のあるスパッタ装

置によるプロセスが必要になると考えられる。そこで、窒

化物バリア層成長用のスパッタ装置を製作した。図 6 に、

既存の Si-MBE、PLD および超高真空搬送チャンバーとと

もに新規に設置したスパッタ装置の概略を示す。スパッタ

装置は、窒化物バリア層成長後にサンプルを大気に曝すこ

となく Si-MBE へ搬送できるように、超高真空搬送チャン

バーへ接続した。図 2 に、界面バッファー層成長時におけ

るスパッタチャンバー内の様子を示す。現在、基板温度、

ガス圧力、ガス組成、スパッタリング電力などを変化させ、

作製条件とバッファー層の構造特性との相関について解

析している。

4. まとめおよび今後の展望

金属基板上に界面バッファーをバリア層として Si をエ

ピタキシャル成長した。界面バッファーを低温・高温の 2段階成長とすることにより、高品質の界面バッファーを成

長させることができた。また、界面バッファー上への Si

を厚膜化することにより、界面バッファー/金属基板上へ

ほぼシングルドメインの(111)Si をエピタキシャル成長さ

せることができた。また、フレキシブルデバイスのプロセ

ス面積拡大を目指し、バリア層成長用スパッタ装置を作製

した。 今後は、スパッタ薄膜をバリア層とした金属基板上 Si

薄膜の膜質向上およびデバイス作製を目指し研究を進め

る。

KrF エキシマレーザー発振機

PLDチャンバー

Si-MBEチャンバー

導入チャンバー

集光レンズ

レーザー

超高真空搬送チャンバー

導入チャンバー

スパッタリングチャンバー

今回設置したスパッタ装置

図 1 窒化物バリア層成長用に設置したスパッタ装置(点線内)

および PLD, Si-MBE, 超高真空搬送チャンバーの概略図

図 2 界面バッファー成長時におけるスパッタチャンバー内の

様子 (a) 写真 (b) 模式図

【参考文献】

[1] J. Ohta, H. Fujioka, H. Takahashi, M. Oshima, Appl. Surf. Sci. 190, 352 (2002).

[2] J. Ohta, H. Fujioka, S. Ito, M. Oshima, Appl. Phys. Lett. 81, 2373 (2002).

[3] H. M. Manasevit and W. I. Simpson, J. Appl. Phys. 35, 1349 (1964).

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[4] J. L. Porter and R. G. Wolfson, J. Appl. Phys. 36, 2746 (1965).

[5] Y. Yasuda and Y. Ohmura, Jpn. J. Appl. Phys. 8, 1098 (1969).

【解説】 [1] EBSD(電子線後方散乱回折):試料面垂直から 70º 傾いた方

向から電子線を入射し、後方散乱回折像(菊池パターン)を

蛍光スクリーン上に投影させる。その像を CCD(電荷結合素

子)カメラによって撮影し、パーソナルコンピュータに取り

込む。菊池パターンを画像解析し、結晶方位を計算する。通

常、EBSD 測定装置は走査型電子顕微鏡にオプションとして

取り付けられる。パーソナルコンピュータの計算速度が向上

し、画像解析時間が大幅に縮小されたことにより汎用化が可

能となった構造解析手法である。

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金属基板上の窒化物半導体の成長と評価

金 太源

1. はじめに 近年、Ⅲ族窒化物半導体が大きな注目を浴びている

[1,2]。その理由として紫外域から可視光全域をカバーす

る発光ダイオード (light-emitting diodes, LED)、レー

ザダイオード (laser diodes, LD)及び紫外線検出デバイ

スのみならず、次世代移動体通信用高周波・高出力電子デ

バイス材料としても最も有望な半導体であるためである。

しかし、窒化物半導体が持っている素晴らしい物性を素子

として広く応用するためには様々な問題点を乗り越えな

ければならない。その中の一つが基板の問題である。一般

的に半導体の単結晶基板は高価である、硬い、小面積であ

るといった問題点がある。本研究室では、様々なデバイス

応用が期待される GaN などのⅢ族窒化物薄膜の応用範囲

をさらに広げるために、金属板上に高品質窒化物半導体の

薄膜を成長できる技術を見出した。安価で大面積化が容易

に出来る金属板上に高品質窒化物半導体の薄膜を成長す

る技術を確立し、さらにその窒化物半導体単結晶薄膜をポ

リマーやガラス等に転写し、透明、柔軟、軽量、大面積、

安価な新機能Ⅲ族窒化物デバイス、いわゆるフレキシブル

デバイスの実現を目指して研究を行っている。金属基板は

既存の半導体基板に比べて非常に安価であり、化学エッチ

ングなどで容易に取り除くことが可能であるため我々が

目指す窒化物系半導体フレキシブルデバイスの実現にお

いて有望な基板材料である。しかし、分子線エピタキシ法

(Molecular Beam Epitaxy, MBE)や、有機金属気相エピタ

キシ法(MOVPE)など既存の成長方法の場合は窒化物の

成長が比較的高温で行われるため金属と窒化物の界面に

おいて反応層ができ、高品質の薄膜作製は困難である。そ

こで我々は窒素源に窒素ラジカルを用いることができ、ま

た成長温度が低減できることによって界面反応を抑えら

れるパルスレーザー堆積法(PLD)を窒化物半導体薄膜成長

に適用した。今回の報告では金属基板上に作製した GaN薄膜のデバイス応用の試みおよび、各種金属基板上に良質

な GaN 半導体薄膜を作製することに成功したので、その

内容を報告する

2. 実験

PLD 法を用いて様々な金属基板上にエピタキシャル

GaN 薄膜を成長させた。GaN 薄膜は窒素源に RF 窒素ラジ

カルを用い、KrF エキシマレーザー(λ=248 nm, エ

ネルギー密度:~3J/cm2、 周波数:30Hz)を Ga金属ターゲットに照射し、厚さ数 10nm を有する AlN をバ

ッファー層として用いた金属基板上に堆積した。成長温度

620-750℃において成長を行った。以上のような GaN 薄

膜について反射高エネルギー電子線回折(RHEED)、微小

角入射 X 線回折(GIXR)、X 線回折装置、フォトルミネ

センス(Photoluminescence)特性、ショットキーデバイ

ス特性などの評価を行った。

2.1 Cu(111)基板上への GaN 薄膜エピタキシ

ャル成長 GaN 系デバイスの基板として一般的に使われているサ

ファイア基板の場合、熱伝導率が金属基板に比べて非常に

低く超高速で動作する GaN 系デバイスを作製する際には

放熱の問題が重要になってくる。そこで我々は熱伝導率が

サファイアの熱伝導率(42W/m・K)に比べて非常に高い

値(400W/m・K)を示す銅(Cu)に注目し、世界で初め

て GaN 系半導体のエピタキシャル成長に成功した。 図1 (a) Cu(111)の RHEED パターン、(b)GaN/AlN/Cu(111)の

RHEED パターン

図2 (a) Cu{1_10}EBSD パターン、(b)GaN {11_20}の EBSD パ

ターン

図1に超高真空中でアニールを施した Cu(111)の

(a)

(b)

(a) (b)

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RHEED パターン(a)と、その上に AlN バッファー層を

作製し、GaN 薄膜を成長したサンプルの RHEED パタ

ーンを示す。XPS 測定の結果、超高真空中アニール処

理により Cu(111)基板表面に存在していた酸化膜は除

去されるが、Cu 基板中に不純物として含まれる Sb が

基板表面に偏析していることが分かった。このときの

RHEED パターンは図1(a)のように√3x√3-R30°-Sbの再構成パターンを示した。この基板上に AlN を成長

させたところ単結晶を示す RHEED パターンが得られ

た。さらにこの上に GaN を成長させたところ、図1(b)のようなストリーク状の RHEED パターンが得られ、平

坦なエピタキシャル薄膜として成長していることが確

認された。図2に示すように、得られた薄膜の EBSD解析を行ったところ、基板と GaN の配向関係は

GaN[0001]//Cu[111]、GaN[112-0]//Cu[011

-]であることが分

かった。 更に、EBSD の結果を詳しく解析したところ、

GaN 112-0 の回折による結晶性評価の結果、面内方向の

揺らぎ(Twist)の半値幅は~1.05°であり、成長方向

(Tilt)のゆらぎの半値幅は~0.5°であった。また、

GIXR 測定の結果、界面反応層は確認されず、急峻な界

面が実現されていることが分かった。 2.2 Fe(110)基板上への窒化物薄膜エピタキシャル

成長 Fe は代表的な強磁性の材料である。このような鉄の

性質と窒化物をうまく組み合わせ、様々なデバイス応

用へ広がる可能性がある。例えば、Fe 上に絶縁体であ

る AlN 薄膜を作製することによって無線通信体などに

応用される表面波振動子デバイスが作製できる。また、

Fe 板の間に AlN 薄膜を挟む構造により、スピントロニ

クスデバイスの作製が可能になる。また、金属板は前

述のように非常に安価であり、大面積化が可能である

ため、金属上への GaN 系半導体作製技術は GaN 半導体

をベースにした各種デバイスの大面積・低価額化につ

ながる可能性がある。今回、我々は PLD 法を用いるこ

とによって単結晶 Fe(110)基板上への AlN 薄膜および

GaN 薄膜のエピタキシャル成長を試み、良質な窒化物

半導体の作製に成功したのでその成果を報告する。図

3 (a)、 (b)にそれぞれ超高真空中でアニール後の

Fe(110)およびその上に作製した AlN 薄膜の RHEED パ

ターンを示す。Fe (110)のアニール後におけるストリー

ク状の RHEED パターンは超高真空中アニールによっ

て基板表面が清浄かつ原子レベルで平坦な表面になっ

たことを示す(図3.(a))。 図3(b)から作製した AlN薄膜は AlN[11-20] // Fe[001] のエピタキシャル関係を

有しており、30 度回転ドメインや cubic ドメインが存

在しない AlN 薄膜が得られていることを示す。この結

果は EBSD 測定の結果ともよく一致しており、良質な

AlN 薄膜が得られたことを裏付けている。次に GIXRを用いてFe(110)基板とAlN薄膜との界面層の評価を行

った結果を図4に示す。

フィッティングの結果、Fe (110) 上に 430℃で AlN

薄膜を作製した場合、厚さ~3.7 nm の界面反応層が存

在することが明らかになった。このことから、AlN 薄

膜は Fe原子の膜中への拡散を効果的に抑制するバリア

層として十分に働いていることが示された。

図3 (a) Fe (110)の RHEED パターン、 (b) AlN/Fe(110)の

RHEED パターン

図4 AlN/Fe (110)サンプルの GIXR カーブ

図5 GaN/AlN/Fe (110)サンプルの RHEED パターン

(a)

(b)

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図5に、AlN バッファ層を用いて Fe 基板上に成長した

GaN の RHEED パターンを示す。明瞭なストリークパ

タンが観察されており、原子レベルで平坦な表面と良

質な結晶性が得られたことを示唆している。

図6 (a) 金属基板上 GaN 薄膜のAFM像、(b)GaN {11_24}の

EBSDパターン、及び(c)EBSDで得られた GaN 11_24 回折ポー

ルの典型的な2次元マッピングー図

図 6 には(a) 金属基板上 GaN 薄膜のAFM像、(b)

GaN {112-4}の EBSD パターン、及び(c)EBSDで得

られた GaN 11_24 回折ポールの典型的な2次元マッピ

ング図を示す。 図6に示すように 650℃で1時間成長

した GaN 薄膜の表面はナノレベルで平坦であり(rms値:~5 nm)(図 6 (a)), 電子線後方散乱回折(EBSD)

測定の結果、非常に良質な結晶性の薄膜が得られてい

ることが示された(図 6 (b)、(c))。 図 6(b)に示

すように、GaN{112-4}の EBSD パターンからは明瞭な 6

回対称性が観察されており、低品質の結晶でしばしば

観察される面内 30°回転ドメインなどは観察されなか

った。また、EBSD測定データから得られた GaN 112-4 の回折による結晶性評価の結果、面内回転方向に関

する方向(Twist)の半値幅は~0.5°であり、垂直方向

からのゆらぎ(Tilt)の半値幅は~0.2°であった。

図7 金属基板上に成長した GaN 薄膜の室温における PL スペク

トル

金属基板上に作製したGaN薄膜の発光特性を調べ

るためPL測定を行った。図7に金属基板上に成長し

たGaNの室温におけるPLスペクトラムを示す。こ

の時、励起源としてはHe-Cd レーザー(λ=3

25 nm)を用いた。PL 測定の結果、GaN のバンド端

付近(~3.4 eV)で三つの主なピークが観測された。そ

の三つのピークの発光位置は高エネルギー側から 3.53 eV, 3.44 eV, 3.35 eV であり、それぞれのピークの半値幅

は~30 meV であった。バンド端付近の発光に比べて不

純物などに由来すると思われる~2 eV 付近の発光は弱

かった。 2.3 金属基板上へのショットキデバイスの作製 金属基板上に作製した GaN 薄膜の上に電極を作製し、

ショットキデバイスの動作チェックを行った。図8に示す

ように整流特性が明瞭に観察され、金属基板上に作製した

GaN 薄膜において、初めてデバイス動作確認することに

成功した。

(a)

(b)

(c)

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図8 金属基板上 GaN 薄膜ショットキデバイス電圧―電流特性 3.考察及び今後の展望

PLD 法を用いることにより、従来の技術では実現しに

くいとされていた金属上の窒化物半導体の高品質エピタ

キシャル薄膜作製に成功した。AlN 薄膜をバリア層として

用いることによって金属と窒化物間の界面をナノレベル

で制御でき、金属上への GaN 薄膜成長を可能にした。ま

た、金属基板上に GaN のショットキデバイスを作製し、

その動作確認に成功した。AlN バッファー層や GaN 薄膜

の品質をさらに向上させるため、金属基板表面の原子レベ

ルでの制御、金属上における窒化物薄膜成長の初期段階に

おいての成長様式の制御、及び薄膜成長条件の最適化など

を詳細に行う必要があると考えられる。

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室温成長技術を利用した高品質Ⅲ族窒化物薄膜の成長 太田実雄

1. はじめに GaN に代表されるⅢ族窒化物半導体は、約 0.63eV(InN)

から 3.4eV(GaN)および 6.2eV(AlN)の直接遷移型バンドギ

ャップを持つことから、原理的に紫外から近赤外におよぶ

発光デバイスやレーザーダイオードなどの光デバイスへ

の応用展開が可能である。また、高い絶縁耐圧や飽和電子

速度を持つことからハイパワーデバイスや高周波デバイ

スなどの次世代電子デバイスへの応用も期待されている。

通常、これらのデバイスはサファイア基板上へ作製され

る。しかしながらⅢ族窒化物とサファイアとの格子不整合

は 14%以上と大きく、Ⅲ族窒化物薄膜中には多数の結晶

欠陥が残留するためデバイス性能が劣化するという問題

があった。結晶欠陥の問題を解決するためには格子整合基

板を用いることが必要である。これまでに ZnO などの多く

の基板材料探索が行われてきたが、基板の表面平坦化が困

難であることや、窒化物薄膜と基板との界面反応の問題に

よって高品質Ⅲ族窒化物薄膜の作製は困難であった。

我々はこれまでの研究において基板表面処理技術を独

自に開発し、ZnO 基板表面を原子レベルで平坦化すること

に成功してきた[1]。また、パルスレーザー堆積法(PLD

法)を用いることで ZnO 基板上へのⅢ族窒化物薄膜ヘテロ

エピタキシャル成長における成長温度の大幅な低減化を

成し遂げ、室温でも layer-by-layer 成長という良質なヘ

テロエピタキシャル成長が可能であることを見出してき

た[1,2]。PLD 法ではレーザーアブレーションによって前

駆体が大きな運動エネルギーを持つことから、基板表面に

おけるマイグレーションが促進され、低温でも結晶化が可

能になると考えられる。また、室温成長を行うことで界面

反応の抑制にも成功し、急峻な界面が得られることが明ら

かになった。これらのことから、PLD 法を用いた室温成長

技術により界面劣化の問題が解決され、従来では使用する

ことが難しかった基板材料の使用が可能となることが分

かった。

本研究では、ZnO 基板と(Mn,Zn)Fe2O4基板を用いてⅢ族

窒化物薄膜の作製を行った。表1に示すように、本研究で

使用した ZnO、(Mn,Zn)Fe2O4と GaN との格子不整合はそれ

ぞれ 1.9%、6.1%とサファイアの 14%と比べて小さく、

良質なヘテロエピタキシャル成長が期待される。ZnO 基板

上では、昨年度の研究を発展させ、Ⅲ族窒化物薄膜成長の

さらなる高品質化を目指し、二段階成長手法の導入を行っ

た。また、Ⅲ族窒化物との格子不整合が比較的小さく、導

電性であり、さらに安価で大面積な基板の入手が可能な

(Mn,Zn)Fe2O4基板を用いて高品質GaN薄膜の作製を試みた。

2. 実験方法 2.1. 基板表面処理

Ⅲ族窒化物薄膜成長用基板として c面 ZnO(O-face)基

板および(Mn,Zn)Fe2O4(111)基板を用いた。(Mn,Zn)Fe2O4

基板表面処理として、真空中において 800℃で 15 分間の

アニール処理を行った。ZnO 基板表面処理として 1150℃で

3時間の大気中アニールを行い、その際 ZnO セラミックス

によって基板を囲むことにより、Zn の蒸発による ZnO 基

板表面の組成ずれを抑制する手法を用いた。

2.2. 窒化物薄膜成長

Ⅲ族窒化物薄膜成長は PLD 法によって行った。PLD チャ

ンバーの到達真空度は 5×10-10 Torr である。KrF エキシ

マレーザー(波長:248 nm、パルス幅:20 ns、エネルギー

密度:3 J/cm2、周波数:5-10Hz)を金属 Ga、金属 In、AlN

セラミックターゲット(99.9999% purity)に照射しアブ

レーションを行った。アブレーションされた原料粒子はタ

ーゲットから 5 cm 上方にある基板上に堆積し薄膜を形成

する。また、窒素源としてRF窒素ラジカルソースを320W、

8.0×10-6 Torr で用いた。窒化物薄膜成長中、反射高速電

子線回折(RHEED)による in-situ 観察を行い、薄膜の成

長モードおよび構造評価を行った。薄膜成長後には原子間

力顕微鏡(AFM)による表面形状観察、X線反射率法(GIXR)

による界面構造の評価、高分解能 X 線回折(HRXRD)によ

る結晶性評価を行った。

3. 結果と考察 3.1 ZnO 基板上への高品質 GaN 薄膜成長 我々はこれまでに、原子レベルで平坦化した ZnO 基板上

において GaN 薄膜が室温で layer-by-layer 成長し、極め

て急峻な GaN/ZnO 界面を実現できることを明らかにしてき

た。今回 GaN 薄膜のさらなる高品質化を目的として、GaN

薄膜の室温エピタキシャル成長を行った後に 700℃へ昇温

し、再び GaN 薄膜を成長するという二段階成長プロセスを

GaNsapphire

ZnO(Mn,Zn)Fe2O4

格子定数 (nm) a-axis c-axis

0.3190.4760.3250.85

0.5181.2990.521

---

材料 構造

w urtzitecorundumw urtzitespinel

表1 各材料の結晶構造と格子定数

GaNとの格子不整合(%)

---141.96.1

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行った。図 1 に示すように、従来 700℃以上の成長では界

面反応によって GaN 薄膜の結晶性が著しく劣化することが

知られているのに対し、室温エピタキシャルバッファー層

を導入すれば GaN 薄膜と ZnO 基板の界面反応の抑制が可能

[1]であり、GaN と ZnO 間の格子整合性を保つことができる

ことから良質な GaN 薄膜成長が期待できる。

アニール処理を施したZnO基板表面は図2(a)に示すよう

に単位格子の c軸長に相当する約 0.5nm のステップを持っ

た表面構造であり、原子レベルで平坦化されていることが

分かる。第一段階である GaN の室温成長を行ったところ、

図 2(b)、(c)に示すように、GaN 表面にはステップ構造が

見られ、in-situ RHEED 観察において明瞭な振動が観察

されたことから layer-by-layer 成長していることが明

らかになった。次に室温エピタキシャルバッファー層を

700℃に昇温し、GaN の表面形状観察を行ったところ明瞭

なステップ構造が観察され、室温成長直後の表面形状と

ほとんど変化がなかったことから、平坦な表面構造が維

持されていることが分かった。つづいて、GaN の室温エ

ピタキシャルバッファー層上に 700℃の成長温度で GaN

薄膜の成長を行った。図 3に二段階成長後の GaN 表面の

RHEED 像、および AFM 像を示す。RHEED 観察におい

て”1×1”構造が得られたことから成長した GaN は Ga 極

性を持つことが分かった。また、AFM 観察において、平

坦なテラス部分とステップが観察され、表面平坦性に優

れていることが明らかになった。HRXRD 測定により、GaN

薄膜の結晶性評価を行ったところ、図 4 に示すように対

称反射 0002 回折ピークおよび非対称反射 202-

4 回折ピー

クの半値幅はそれぞれ 99 arcsec、284 arcsec であり、

極めて高品質な GaN 薄膜であることが明らかになった。

これらの結果から、室温エピタキシャルバッファー層を

導入して結晶成長を行えば、高品質Ⅲ族窒化物薄膜実現

の妨げとなっていた界面反応層形成が抑制され、GaN と

ZnO の格子整合性が維持されることによって GaN 薄膜の

結晶性が大幅に向上することが分かる。 3.2 (Mn,Zn)Fe2O4 基板上への室温成長

(Mn,Zn)Fe2O4 とⅢ族窒化物の格子不整合は理想的な配

向関係([101-

0]AlN//[112-

](Mn,Zn)Fe2O4、[101-

0]GaN//[11

2-

] (Mn,Zn)Fe2O4、[112-

0]InN//[112-

](Mn,Zn)Fe2O4)をとる

場合、3.6%、6.1%、2.0%であり通常の成長用基板であ

るサファイア基板を用いた場合の 16%、14%、29%と比

較して小さく、良質な薄膜成長が期待される。しかしなが

ら高温成長では界面反応が起こるため、成長したⅢ族窒化

物薄膜の結晶性が劣化する。そこで、(Mn,Zn)Fe2O4基板上

へのⅢ族窒化物薄膜を室温で行い、界面反応を低減させる

ことにより結晶性の向上を試みた。

Ⅲ族窒化物薄膜成長前に(Mn,Zn)Fe2O4 基板の真空中ア

ZnO基板

ZnO基板

界面反応層

エピタキシャル層

室温エピタキシャルバッファー層

エピタキシャル層

(a)

(b)

図1 ZnO基板上へのGaN薄膜成長模式図:(a)高温成長した場合、(b)室温エピタキシャルバッファー層を用いて成長した場合

図2 (a) アニール処理後のZnO表面のAFM像(b) 室温成長したGaN薄膜表面のAFM像

 (c) GaN薄膜成長中のRHEED強度プロファイル

200 nm

ZnO基板

0 100 200 300 400 500

RH

EED

inte

nsity

(a.u

.)

Growth time (s)

GaN/ZnO

1 µm

(a)

(b)

0nm

5nm

0nm

5nm

5×5µm2

図3 二段階成長後GaNの表面状態   (a) RHEED像、(b)AFM像

-400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400

Inte

nsity

(a.u

.)

∆ω (arcsec)1000 -500 0 500 1000

∆ω (arcsec)

GaN (0002)

Inte

nsity

(a.u

.)

-400 -200 0 400200Δω (arcsec)

-1000 -500 0 1000500Δω (arcsec)

GaN(202-

4)

図4 二段階成長後のGaNのXRDロッキングカーブ(a) GaN (0002), (b) GaN(202

4)

-400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400

Inte

nsity

(a.u

.)

∆ω (arcsec)1000 -500 0 500 1000

∆ω (arcsec)

GaN (0002)

Inte

nsity

(a.u

.)

-400 -200 0 400200Δω (arcsec)

-1000 -500 0 1000500Δω (arcsec)

-400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400

Inte

nsity

(a.u

.)

∆ω (arcsec)1000 -500 0 500 1000

∆ω (arcsec)

GaN (0002)

Inte

nsity

(a.u

.)

-400 -200 0 400200Δω (arcsec)

-1000 -500 0 1000500Δω (arcsec)

GaN(202-

4)

図4 二段階成長後のGaNのXRDロッキングカーブ(a) GaN (0002), (b) GaN(202

4)

Inte

nsity

(a.u

.)

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ニールを行い、表面清浄化を行ったところ RHEED 像に 2

倍の周期構造を持つ明瞭なストリークパターンが観察さ

れたことから基板表面が十分に清浄化されたことが分か

る。また、アニールにより(Mn,Zn)Fe2O4基板の表面粗さは

0.14nm にまで低減された。このように(Mn,Zn)Fe2O4基板の

真空中アニールを行った後にⅢ族窒化物薄膜を成長した。

図5に室温から550℃まで成長温度を変化させて作製し

た InN 薄膜(膜厚:約 100 nm)の RHEED 像と AFM 像を示

す。成長温度が 550℃の場合、図 5(a)に示すように RHEED

像はリングパターンが混じっていることから、多結晶状態

であることが分かる。400℃成長の場合では、成長初期に

おいてダブルドメインを示す RHEED パターンが観察され

たが、膜厚を増加することによって次第にシングルドメイ

ン構造となり図 5(b)に示すようにエピタキシャル成長を

示すストリーク状の RHEED 像が観察された。400℃以上の

高温成長に対し、低温(150℃, RT)で成長した InN 薄膜

は成長開始直後から明瞭なストリークパターンを示し、成

長初期から良質な結晶性を保って成長していることが明

らかとなった。成長後の RHEED 像を図 5(c,d)に示す。ス

トリーク状であることから表面平坦性に優れ、良質なエピ

タキシャル薄膜であることが分かる。また、各成長温度に

おけるInN薄膜の表面の粗さをAFMによって測定したとこ

ろ、500℃で作製した InN 薄膜表面の RMS 値は約 41 nm と

大きく、3次元的な成長であったのに対し、低温で作製し

た InN 薄膜の表面は step-like な表面構造となっており、

その表面粗さの RMS 値は約 0.3 nm 程度と小さいことから

極めて平坦性が高く、InN 薄膜が二次元的に成長している

ことが分かった。これらの結果から、高温領域ではInN

薄膜の結晶性および表面平坦性が劣化するのに対し、低温

では平坦な表面を持った良質な InN 薄膜がエピタキシャ

ル成長することが明らかになった。

また、AlN 薄膜、GaN 薄膜を(Mn,Zn)Fe2O4基板上に室温

で作製したところ、RHEED 観察や XRD 測定の結果からエピ

タキシャル成長していることが分かった。PLD 法では薄膜

を形成する前駆体が大きな運動エネルギーを持って供給

されることから低温でも結晶化が可能となり、

(Mn,Zn)Fe2O4 基板上へのⅢ族窒化物薄膜の室温エピタキ

シャル成長が可能になったと考えられる。

次に InN0002 回折ピークのロッキングカーブを測定し、

その結晶性評価を行った。図 6 に示すように、低温領域

(150℃, RT)で作製した InN 薄膜のロッキングカーブは

その半値幅が 0.028°と極めて小さく、c軸配向性が高いの

に対し、400℃で作製した InN 薄膜は半値幅 0.03°と 0.7°のピークが混在したものとなり、550℃成長した場合には

半値幅が 0.7°と結晶性が劣化していることが明らかにな

った。

つづいて、InN と(Mn,Zn)Fe2O4基板の配向性を面内 XRD

測定によって評価したところ、550℃で作製した InN 薄膜

は多結晶状態であり配向性はほとんどないことが分かっ

た。400℃以下で作製した InN 薄膜の XRD 測定結果を図 7に示す。400℃で成長した場合には(Mn,Zn)Fe2O4112

面と

InN の 101-

0 面が平行になっていることが分かった。これ

に対し、低温(150℃,RT)で作製した場合には(Mn,Zn)Fe2O4

面と InN 112-

0 面が平行であった。この結果から、成長温

度によってInN薄膜と(Mn,Zn)Fe2O4基板の面内配向関係が

変化するということが分かった。低温で作製した場合の面

内配向関係([112-

0]InN//[112-

]Mn,Zn)Fe2O4)では、InN と

(Mn,Zn)Fe2O4の格子不整合は 2.0 %と小さい。これに対し

て 400 ℃ 成 長 し た 場 合 の 配 向 関 係 ([10 1-

0]InN//[112-

](Mn,Zn)Fe2O4)では格子不整合が 11 %と大きくなってい

ることが明らかになった。

(d) RT(c) 150℃

(b) 400℃(a) 550℃

200 nm

図5 各成長温度で作製したInN薄膜のRHEED像とAFM像

(h) RT(g) 150℃

(f ) 400℃(e) 550℃

200 nm

200 nm

200 nm

(d) RT(c) 150℃

(b) 400℃(a) 550℃

200 nm

図5 各成長温度で作製したInN薄膜のRHEED像とAFM像

(h) RT(g) 150℃

(f ) 400℃(e) 550℃

200 nm

200 nm

200 nm

Inte

nsity

(a.u

.)

16.015.815.615.415.2

Inte

nsity

(a.u

.)

16.516.015.515.014.5

Inte

nsity

(a.

u.)

17.016.015.014.0

Inte

nsity

(a.u

.)

16.015.815.615.415.2

(d) RT(c) 150℃

(b) 400℃(a) 550℃

FWHM = 0.7° FWHM =0.03°, 0.7°

FWHM = 0.028° FWHM = 0.028°

図6 各成長温度で作製したInN薄膜0002回折ロッキングカーブ

Inte

nsity

(a.u

.)

16.015.815.615.415.2

Inte

nsity

(a.u

.)

16.516.015.515.014.5

Inte

nsity

(a.

u.)

17.016.015.014.0

Inte

nsity

(a.u

.)

16.015.815.615.415.2

(d) RT(c) 150℃

(b) 400℃(a) 550℃

FWHM = 0.7° FWHM =0.03°, 0.7°

FWHM = 0.028° FWHM = 0.028°

図6 各成長温度で作製したInN薄膜0002回折ロッキングカーブ

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続いて、Ⅲ族窒化物薄膜とフェライトの界面構造を評価

するためGIXR測定を行った。図8(a)に室温で作製したInN

薄膜の GIXR 測定結果と理論フィッティングした結果を示

す。理論フィッティングを行うことで界面層の厚さや薄膜

の厚さ、表面の粗さなどが算出される。フィッティングの

結果、室温で作製した InN 薄膜と(Mn,Zn)Fe2O4基板の界面

には 8.4 nm の界面層が形成されていることが明らかにな

った。この界面層は主に酸素や Zn など基板原子が拡散し

たことよるものと考えられる。同様の測定を AlN、GaN、

InN それぞれについて行い、界面層厚さの成長温度依存性

を調べた。その結果、図 8(b)に示されるように界面層厚

さは成長温度の低下とともに減少することが分かった。こ

のことから、成長温度を低減することによって、Ⅲ族窒化

物薄膜/(Mn,Zn)Fe2O4 基板界面での反応性が高くなること

によってⅢ族窒化物薄膜の結晶性・表面形状が劣化したと

考えられる。また、GaN や AlN の場合に比べてその界面層

厚さが大きいのは In-N の結合が Ga-N や Al-N の結合と比

較して弱く、反応が起こりやすいためだと考えられる

以上のことから(Mn,Zn)Fe2O4 基板上へのⅢ族窒化物薄

膜の成長において、PLD 法を用いた室温成長により、界面

反応を低減が可能となり良質なⅢ族窒化物薄膜のエピタ

キシャル成長が実現できることが分かった。

4. まとめ Ⅲ族窒化物に対して小さい格子不整をあたえる

(Mn,Zn)Fe2O4やZnOの基板表面を適切な処理によって原子

レベルで平坦化した後、PLD 法によってⅢ族窒化物薄膜を

成長した。ZnO 基板上へ GaN 薄膜の二段階成長を行ったと

ころ、その結晶性は大幅に改善し、GaN の 0002 回折およ

び 202-

4 回折ピークの半値幅はそれぞれ 99 arcsec、284

arcsec であり、極めて高品質な GaN 薄膜であることが明

らかになった。(Mn,Zn)Fe2O4基板上へのⅢ族窒化物薄膜成

長では、成長温度の低温化により窒化物薄膜と基板間の界

面反応が抑制され、結晶の品質やモフォロジーが改善され

ることが分かった。このように室温エピタキシャル成長技

術によって、従来では界面反応の影響で使用することが難

しかった格子整合基板が利用可能となり、高品質なⅢ族窒

化物薄膜の成長が実現した。 【参考文献】 [1] A. Kobayashi, H. Fujioka, J. Ohta, and M. Oshima., Jpn.

J. Applied Physics 43, L53 (2004). [2] J. Ohta, H. Fujioka, S. Ito, and M. Oshima, Appl. Phys.

Lett. 81, 2373 (2002).

Inte

nsity

(a.u

.)

70656055502θχ(degree)

R.T.

400℃

InN10-10

InN11-20

図7 400℃およびRTで作製したInN/(Mn,Zn)Fe2O4    の面内XRD測定結果

(Mn,Zn)Fe2O4

112-

Inte

nsity

(a.u

.)

3.02.52.01.51.00.52θ (degree)

・  測定結果

フィッティング結果

(Mn,Zn)Fe2O4

界面層: 8.4 nmInN薄膜

(Mn,Zn)Fe2O4

界面層: 8.4 nmInN薄膜

20

15

10

5

0800600400200

界面

層の

厚さ

 (n

m)

A lN

GaNInN

成長温度 (℃)

RT 200 400 600 800

20

15

10

5

0

図8 (a) 室温成長した InNに対するGIXR測定結 

     果と理論フィッティング   (b)Ⅲ族窒化物/(Mn,Zn)Fe2O4界面層厚さの

     成長温度依存性 

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業 績 【原著論文】 1. H. Fujioka, T. Sekiya, Y. Kuzuoka, and M. Oshima

Synchrotron-radiation deep level transient spectroscopy for defect

characterization of semiconductors

Applied Physics Letters, 85, 413 (2004).

2.T. Honke, H. Fujioka, J. Ohta, and M. Oshima

InN epitaxial growths on nearly lattice matched Yttria stabilized Zirconia

(111) step substrates

Journal of Vacuuum Science and Technology A, 22,2487(2004).

3.S. Yamazaki, T. Yatsui, M. Ohtsu, T. ‐ W. Kim, and H. Fujioka

Room-Temperature synthesis of ultraviolet-emitting nanocrystalline

GaN films using photochemical vapor deposition

Applied Physics Letters, 85, 3059 (2004).

4. K. Fujiwara, A. Ishii, J. Ohta, H. Fujioka, and M. Oshima

Experimental and theoretical investigation on the structural properties

of InN grown on sapphire

Thin Solid Films, 464-465, 112(2004).

5.J. Ohta, H. Fujioka, T. Honke, and M. Oshima

Epitaxial growth of InN on c-plane sapphire by pulsed laser deposition

with r.f. nitrogen radical source

Thin Solid Films, 457, 109(2004).

6.H. Takahashi, H. Fujioka, J. Ohta, M. Oshima, and M. Kimura

Structural characterization of group Ⅲ nitrides grown by pulsed

laser deposition

Thin Solid Films, 457, 114(2004).

7.S. Ito, H. Fujioka, J. Ohta, A. Kobayashi, T. Honke, H. Miki, and M.

Oshima

Effet of ambient gas on pulsed laser deposition of group Ⅲ nitrides

Thin Solid Films, 457, 118(2004).

【書籍】 1. H. Fujioka

“Thin Solid Fims”, vol. 457 No.1(Guest Editor)Elsevier (2004)

【口頭発表・国内】 1. 金太源、松木伸行、太田実雄、藤岡洋

PLD法による単結晶Ni(111)基板上Ⅲ族窒化物薄膜のエピタキ

シャル成長

第 65 回応用物理学会学術講演会、2004 年 9 月、仙台

2. 三田村和弥、太田実雄、藤岡洋、尾嶋正治

InN エピタキシャル成長用基板の探索

第 65 回応用物理学会学術講演会、2004 年 9 月、仙台

3. 松木伸行、金太源、太田実雄、藤岡洋

PLD 法によるマイカ上への GaN エピタキシャル成長

第 65 回応用物理学会学術講演会、2004 年 9 月、仙台

4. 土屋洋輔、小林篤、太田実雄、藤岡洋、尾嶋正治

LiTaO3(0001)基板上への GaN エピタキシャル成長

第 65 回応用物理学会学術講演会、2004 年 9 月、仙台

5. 小林篤、太田実雄、藤岡洋、尾嶋正治

PLD 法による ZnO ステップ基板上への高 In 組成 InxGal-xN のエピ

タキシャル

第 65 回応用物理学会学術講演会、2004 年 9 月、仙台

6.本家尚志、三田村和弥、太田実雄、藤岡洋、尾嶋正治

PLD 法によるサファイア基板上の直接成長 InN の特性評価

第 65 回応用物理学会学術講演会、2004 年 9 月、仙台

7.金太源、松木伸行、太田実雄、藤岡洋

PLD 法による金属基板上Ⅲ族窒化物薄膜のエピタキシャル成

神奈川県産学公交流研究発表会、2004 年 10 月、海老名

8.太田実雄、藤岡洋、小林篤、尾嶋正治

ZnO 基板上への GaN および InGaN 薄膜の室温エピタキシャル成

The 3rd International Workshop on ZnO and Related Materials、2004 年

10 月、仙台

9.三田村和弥、本家尚志、太田実雄、藤岡洋、尾嶋正治

PLD 法によって各種基板上へ作製した InN 薄膜の成長初期過

程評価

第 52 回応用物理学関係連合講演会、2005 年 3 月、埼玉

10.直野崇幸、藤岡洋、岡林潤、尾嶋正治、三木久幸

Ni 薄膜を用いた p-AlGaN の活性化:Al 組成依存症

第 52 回応用物理学関係連合講演会、2005 年 3 月、埼玉

11. 直野崇幸、岡林潤、藤岡洋、尾嶋正治、三木久幸

光電子分光による Ti/n 型 AlGaN 界面反応解析

第 52 回応用物理学関係連合講演会、2005 年 3 月、埼玉

12. 土屋洋輔、小林篤、太田実雄、藤岡洋、尾嶋正治

AlN バッファー層を利用した LiTaO3(0001)基板上への GaN エピタ

キシャル成長

第 52 回応用物理学関係連合講演会、2005 年 3 月、埼玉

Page 16: 藤岡「フレキシブルデバイス」プロジェクト - KISTEC...品質化、(3)超高品質フレキシブルデバイスを目指したZnO 等格子整合基板の利用(4)フレキシブルデバイス量産化のた

13.井上茂、岡本浩一郎、松木伸行、金太源、藤岡洋

Cu 基板上への GaN 薄膜エピタキシャル成長

第 52 回応用物理学関係連合講演会、2005 年 3 月、埼玉

14. 岡本浩一郎、井上茂、松木伸行、金太源、尾嶋正治、藤

岡洋

単結 Fe 基板上へのⅢ族窒化物薄膜エピタキシャル成長

第 52 回応用物理学関係連合講演会、2005 年 3 月、埼玉

15. 太田実雄、川口祐司、小林篤、藤岡洋

PLD 法により作製した GaN/ZrB2 構造の界面評価

第 52 回応用物理学関係連合講演会、2005 年 3 月、埼玉

16. 小林篤、太田実雄、藤岡洋、尾嶋正治

室温成長バッファー層を用いた GaN/ZnO ヘテロ構造の作製と

評価

第 52 回応用物理学関係連合講演会、2005 年 3 月、埼玉

17. 川口祐司 、太田実雄、小林篤、藤岡洋

ZrB2 上への GaN の室温成長

第 52 回応用物理学関係連合講演会、2005 年 3 月、埼玉

【口頭発表・国際】 1.H. Fujioka

Integration of Semiconductor Devices with Oxide Electronics

2004 MRS SPRING MEETING 2004.4 USA

2.H. Fujioka, J. Ohta, A. Kobayashi, and M. Oshima

Room Temperature Epitaxial Growths of Group Ⅲ Nitrides

2004 E-MRS SPRING MEETING 2004.5 France

3.H. Fujioka

Epitaxial Growth of Semiconductors Oxide Substrates

日中シンポジウム「結晶成長と結晶工学」2004.5 China

4. H. Fujioka, J. Ohta, A. Kobayashi, T. Honke, and M. Oshima

Room Temperature Epitaxial Growths of Group Ⅲ Nitrides 16th International Vacuum Congress 2004.6 Italy

5.H. Fujioka, J. Ohta, A. Kobayashi, and M. Oshima

Room Temperature Epitaxial Growths of Group Ⅲ Nitrides On

MnZn Ferrite Substrates

International Workshop on Nitride Semiconductors 2004 2004.7 USA

6.A. Kobayashi, H. Fujioka, J. Ohta, and M. Oshima

Low temperature epitaxial growth of InGaN films on lattice-matched

ZnO substrates

International Workshop on Nitride Semiconductors 2004 2004.7

USA

7.H. Fujioka

Pulsed laser processing of group Ⅲ nitrides On MnZn Ferrite

Substrates

12th International Symposium on Ultrafast Phenomena in

Semiconductors 2004.8 Lithuania

8.Y. Tsutiya, A. Kobayashi, J. Ohta, H. Fujioka, and M. Oshima

Epitaxial growths of GaN on LiNbO3 step substrates

206th Meeting of The Electrochemical Society 2004.10 USA

9.T. Honke, K. Mitamura, J. Ohta, H. Fujioka, and M. Oshima

Characteristics of InN grown directly on sapphire by pulsed laser

deposition

206th Meeting of The Electrochemical Society 2004.10 USA

10. A. Kobayashi, J. Ohta, H. Fujioka, and M. Oshima

Low temperature epitaxial growth of GaN and InGaN on atomically flat

ZnO substrates

206th Meeting of The Electrochemical Society 2004.10 USA

11. J. Ohta, H. Fujioka, A. Kobayashi, and M. Oshima

Low temperature epitaxial growth of InN films

206th Meeting of The Electrochemical Society 2004.10 USA

12.H. Fujioka

Characteristics of InN films grown by PLD

2nd International InN workshop 2005.1 USA

【記者発表】 1.酸化亜鉛基板上で超高品質窒化ガリウムの成長に成功

日本経済新聞、日刊工業新聞、日本経済産業新聞

2004 年 2 月

【特許】 (1)国内特許出願 4件

(2)国外特許出願 0件