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ESRI Discussion Paper Series No.123 90年代以降の大停滞期に対する説明仮説について -VAR モデルによる検証- by 原田 泰 飯田 泰之 December 2004 内閣府経済社会総合研究所 Economic and Social Research Institute Cabinet Office Tokyo, Japan

ESRI Discussion Paper Series No. 123ESRI Discussion Paper Series No. 123 90年代以降の大停滞期に対する説明仮説について -VARモデルによる検証- by 原田

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ESRI Discussion Paper Series No.123

90 年代以降の大停滞期に対する説明仮説について

-VAR モデルによる検証-

by

原田 泰

飯田 泰之

December 2004

内閣府経済社会総合研究所 Economic and Social Research Institute

Cabinet Office Tokyo, Japan

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ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研

究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図して発表しております。 論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見

解を示すものではありません。

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EXPLAINING JAPAN’S GREAT STAGNATION: AN INQUIRY USING VECTOR AUTOREGRESSION MODELS

Yutaka Harada

Chief Economist, Daiwa Institute of Research Ltd. Visiting Research Fellow, Economic and Social Research Institute, Cabinet Office

Yasuyuki Iida

Assistant Professor, Komazawa University, Visiting Research Officer, Economic and Social Research Institute, Cabinet Office

(Abstract)

Japan’s economic growth rate has dropped from three percent in the first half of the

1980s to one percent in the 1990s. We can call this decline the “Great Stagnation.” In

spite of its importance, there is no agreement on what caused the Great Stagnation.

First, we briefly surveyed various proposed explanations. They are 1) the bubble hypothesis—that the bubble and its subsequent burst caused the long slump; 2) the efficiency shock hypothesis—that certain structural problems decreased the efficiency of the Japanese economy in the 1990s; 3) the fiscal policy hypothesis—that insufficient government expenditure impeded economic recovery; 4) the financial system hypothesis—that the decline of function of the financial system hampered economic growth; and 5) the monetary policy hypothesis—that insufficient monetary expansion caused the slump. Second, we excluded some explanations, and focused on several hypotheses based on economic reasoning and facts. One additional step is needed, however, to apply a VAR (Vector Autoregression) model to this problem, because a VAR model cannot include many variables in case that sample size is limited.

Third, we constructed a VAR model to test the remaining hypotheses. The results

basically suggest that monetary factors explain a significant part of the decline of trend

growth, and that the decline of function of the financial system was not important,

even though exports and fiscal expenditure play some role.

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90 年代以降の大停滞期に対する説明仮説について -VAR モデルによる検証-

(要旨)

原田泰

飯田泰之

1.問題意識

日本の経済成長率は、1980 年代前半の 3%台から 90 年代から現在までの 1%台に低下し

てしまった。3%の成長率が1%に低下するということは、10 年間後の所得は 20%以上低

下するということである。この停滞は大停滞と呼ぶに値する。これほど大きな問題である

にもかかわらず、この大停滞がなぜ起こったのかということについて、日本の経済学者の

間でのコンセンサスは乏しい。

2.目的

これまでに提出された大停滞についての説明仮説、すなわち 1)バブル仮説-バブルとそ

の崩壊が長期の不況をもたらした、2)構造問題仮説-生産性を低下させる構造問題が 90 年

代の成長率を低下させた、3)財政政策仮説-不十分な財政支出が経済回復を妨げた、4)金融

システム仮説-金融システムの機能低下が経済成長率を低下させた、5)金融政策仮説-不十

分な金融緩和が長期不況をもたらした、を整理した後に、何が大停滞をもたらしたのかを

実証的に検討する。

3.分析手法

大停滞を説明するといういくつかの仮説を紹介し、次に、これらの説明のいくつかを経

済理論と事実によって排除し、残りの仮説に焦点を当てる。最後に、VAR(Vector

Autoregression)モデルを構築して、残された仮説を検証する。仮説のいくつかを排除する

のは、データ数が限られている中で VAR モデルを適応するために必要な手続きである。

4.結論

得られた結果は、マネタリーな要因が成長率低下の大きな部分を説明するというもので

ある。金融機能の低下は重要ではないが、輸出と財政政策も一定の役割を果たしている。

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90 年代以降の大停滞期に対する説明仮説について -VAR モデルによる検証-*

原田泰**

飯田泰之***

日本の経済成長率は、1980 年代前半の 3%台から 90 年代から現在までの 1%台に低下し

てしまった。3%の成長率が1%に低下するということは、10 年間後の所得は 20%以上低

下するということである。この停滞は大停滞と呼ぶに値する。これほど大きな問題である

にもかかわらず、この大停滞がなぜ起こったのかについて、日本の経済学者の間でのコン

センサスは乏しい1。そこで、これまでに提出された大停滞についての説明仮説を整理した

後に、私たちの考える大停滞の要因を提示する。

本稿の構成は以下のようである。第 1 に、大停滞を説明するといういくつかの仮説を紹

介する。第 2 に、これらの説明のいくつかを経済理論と事実によって排除し、残りの仮説

に焦点を当てる。第 3 に、VAR(Vector Autoregression)モデルを構築して、残された仮説を

検証する。得られた結果は、マネタリーな要因が成長率低下の大きな部分を説明するとい

うものである。

1.大停滞を説明するといういくつかの仮説

大停滞を説明するという仮説には、すくなくとも5つのものがある。それらは 1)バブル

仮説-バブルとその崩壊が長期の不況をもたらした、2)構造問題仮説-生産性を低下させる

構造問題が 90 年代の成長率を低下させた、3)財政政策仮説-不十分な政府支出が経済回復

を妨げた。ただし、逆に、過大な政府支出がいわゆる“非ケインズ効果”を通して回復を

妨げたという財政政策仮説もある(“非ケインズ効果”仮説は、実証的根拠に乏しいので、

本稿では扱っていない2)、4)金融システム仮説-金融システムの機能低下が経済成長率を低

* 本稿は、統計研究会、内閣府経済社会総合研究所の内部セミナー、同研究所 ESRI 国際フォー

ラム「新しい成長の始まり」(2004 年9月 3 日)と 2004 年度日本金融学会秋季大会において発

表された内容を修正したものである。これらの機会において有益なコメントをいただいた、モル

ガン・スタンレー証券のロバート・フェルドマン氏、日本銀行の白塚重則氏、中央大学の堀内昭

義教授、早稲田大学の佐藤綾野氏、内閣府経済社会総合研究所の香西泰所長、統計研究会の篠原

三代平会長はじめ、多くの方々に有益なコメントをいただいたいことを感謝する。もちろん、残

る誤りは著者のものである。 ** 大和総研チーフエコノミスト,内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官 *** 駒澤大学経済学部専任講師,内閣府経済社会総合研究所客員研究員,参議院特別調査室客員

調査員. 1 コンセンサスが乏しいということについては、浜田・堀内・内閣府経済社会総合研究所(2004)を参照。 2 “非ケインズ効果”に実証的根拠が乏しいことは、論争的な浜田・堀内(2004)総括コメントに

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下させた、5)金融政策仮説-不十分な金融緩和が長期不況をもたらした、である。

大停滞を論じているほとんどの著者がこの 5 つの仮説を考慮している。例えば、浜田・

堀内・内閣府編 (2004)は、8つの論文を集めているが、これらの論文を通じて、すべての

仮説を検討している。Bayoumi(2000)、Kuttner and Posen(2001)、堀・伊藤(2002)、

Miyao(2002)、中澤・大西・原田(2002 もまた、VAR モデルを用い、これらの仮説の多くを

検討している。

先行研究を注意深く検討する前に、5つの仮説を簡単に検討し、そのいくつかを真剣に

検討する対象から除外する。これはデータ数が限られている中で、VAR モデルを適応する

ために必要不可欠な手続きである。まず、バブルとその崩壊仮説から検討しよう。

1.1 バブルとバブル崩壊仮説

多くの日本のエコノミストが大停滞はバブルとその崩壊によって引き起こされたとして

いる。しかし、多くの国がバブルとその崩壊を経験しているが、日本ほど長い停滞を経験

した国はない。例えば、スカンジナビア諸国は 1980 年代末にバブルとその崩壊を経験した

が、すべての国が数年にうちに回復している。

原田(2003)第 2 章は、IMF, IFS のデータを用いて、すべての先進工業国のデータから、

トレンド成長率から連続的に乖離したことを主要な判断基準として、バブルの規模とバブ

ル崩壊後の停滞の規模を確定し、比較している。結果は表1の通りである。バブルの規模

(バブル期の実質 GDP と 1970-2000 年のトレンド実質 GDP との差(%)の累積)は、平

均で 6.0%であり、日本のそれも 7.8%に過ぎなかった。ところが、停滞の規模(バブル崩

壊後の実質 GDP と 1970-2000 年のトレンド実質 GDP との差(%)の累積)は平均で 6.8%

であったにもかかわらず、日本のそれは 24.1%であった。要するに、日本のバブルの規模

は平均よりわずかに大きいだけであるのに、バブル崩壊後の停滞の規模は平均よりはるか

に大きかった。これは、日本のバブル崩壊後の停滞が、バブルでは説明できないことを示

している。

1.2 構造問題がもたらした生産性ショック

多くのエコノミストが構造的要因によって 90年代以降の停滞が生じたと考えているよう

である(例えば、林(2003)、宮川(2003))。すなわち、彼らは生産性が低下するような構造

問題によって日本経済が 1990 年代にショックを受け、それゆえに潜在成長率が低下したと

主張している。しかし、彼らは、どのようなショックが GDP の成長率を3%から1%に低

下させたのかを説明できないでいる。例外として、Prescott(1999)(林(2003)も Prescott

に倣っている)は、そのショックは労働時間を週 44 時間制から 40 時間制にした労働時間

短縮だとしている。彼の指摘は 90 年代の初期については正しいかも知れないが、90 年代の

半ば以降についてはそうではない。労働時間短縮は 1990 年代初期の実質 GDP のレベルと

おいて合意の得られた点である。

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成長率を低下させたかも知れないが、その後の成長率を永続的に低下させることはできな

いだろう。

通常の実質 GDP ではなくて、総投入労働時間あたりの実質 GDP を見れば、構造要因説

を反証する明らかな証拠が得られる。図 2 は、通常の実質 GDP と労働時間あたりの実質

GDP(ともに 1990 年=100 と指数化してある)を示したものである。通常の実質 GDP の

成長は 1990 年代に大きく低下しているが、労働時間あたり実質 GDP はほとんど低下して

いない3。

資本の稼働率をも考慮に入れた成長会計の分析も、労働時間あたり実質 GDP は低下して

いないという我々の主張を支持している。中島他(2001)、本橋(2001)、宮川(2002))は、一

致して、全要素生産性(TFP, Total Factor Productivity)が 90 年代にほとんど低下してい

ないことを示している。中島他(2001)と本橋(2001)は、TFP がむしろ上昇しているとし、

宮川(2002)はわずかに低下しているとしている。TFP が低下していないのなら、労働生産

性(労働時間あたり実質 GDP)も低下していないだろう。乾・権(2004)は、広範な文献サ

ーベイの結果、日本の TFP は 90 年代にほとんど低下していないと結論づけている。

私たちは、日本経済が効率を引き下げる構造問題を抱えていないと主張しているわけで

はない。日本経済は構造問題を抱えており、二重構造経済である。GDP の 20%に満たない

輸出製造業は高い生産性をもっているが、残りの 80%の部門は低い生産性しか持っていな

い4。我々の論点は、日本は 80 年代にも 90 年代と同じ構造問題を持っていたのだから、構

造問題が 90 年代の成長率低下の原因ではありえないということである。

しかも、日本は、1990 年代になって正の生産性ショックの効果が表れるような大きな構

造改革を行っている。電々公社と国鉄は、それぞれ 1985 年と 87 年に民営化された。さら

に、1989 年に消費税が導入されたものの、所得税率と法人税率は 1990 年代の初期に大き

く引き下げられた。最高所得税率は 1987 年の 80%(地方税を含む)から 1997 年の 50%

にまで引き下げられた。これこそが構造改革である。構造改革の効果が大きいのであれば、

その効果が 90 年代に現れても良いはずだが、そのような効果は未だあらわれていない5。

1.3 財政政策、金融機能、金融政策

残された仮説-財政政策、金融機能、金融政策について検討するために、図 3 に、財政

支出、銀行貸出、ベースマネー、実質生産(変数の定義は図の注を参照)の対前年同期比

を示している。銀行貸出は金融仲介機能の状況を、ベースマネーは金融政策を表すと考え

3 このことは、内閣府経済社会総合研究所 ESRI 国際フォーラム(2003 年 2 月 17-19 日)にお

いて、ブルッキングス研究所の Barry Bosworth 氏とハーバード大学の Dale W. Jorgenson 教授

によっても指摘されている。 4 Baily and Solow(2001)表 1,2,3、原田(1998)図表 1-1 を参照。 5 所得減税、資本利得に対する減税がサプライ・サイド・エコノミクスによる構造改革の本質で

ある(竹内・武田(1998)注 16 はこのことを説明している。)ということは、なぜか日本では

理解されていない。

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ている。銀行貸出とベースマネーは 90 年代初まで実質生産と同様の動きをしている。90

年代初以降、銀行貸出は継続的に低下しているが、ベースマネーは 98 年を除いて、90 年代

に生じた生産の3つの回復と停滞に先行して動いているようである。政府支出は生産と相

関しているようには見えないが、90 年代末では生産の動きに同調している。以下、VAR モ

デルによって、より注意深い統計的検討を加えたい。

2.様々な VAR モデル

すでに議論したように、1)バブル仮説と 2)構造問題仮説では、90 年代の停滞を説明でき

ない。そこで私たちは、残りの仮説、3)財政政策仮説-不十分な政府支出が経済回復を妨げ

た、4)金融システム仮説-金融システムの仲介機能低下が経済成長率を低下させた、5)金融

政策仮説-不十分な金融緩和が長期不況をもたらしたという3つの仮説に焦点を当てる。

ここでいくつかの VAR モデルを構築し、どの要因が大停滞をもっともよく説明するかを検

討する。

2.1 先行研究

先述のように、日本の大停滞については、Bayoumi(2000)、Kuttner and Posen(2001)、

堀・伊藤(2002)、Miyao(2002)、中澤・大西・原田(2002)などの VAR モデルを用いた研究

があるが、これら研究の強調点は様々である。

Bayoumi(2000)は、財政政策、金融政策、バブル期の過大投資、金融仲介機能の低下と

いう様々な要因を強調しているが、主要な要因は、資産価格の銀行貸出に与える効果を通

じた金融仲介機能の崩壊にあると考えている。

Kuttner and Posen(2001)は、財政政策と金融機能の低下を強調しているが、金融政策に

ついては議論していない。

堀・伊藤(2002)、中澤・大西・原田(2002)は、金融政策の重要性を強調している。中澤・

大西・原田(2002)は、金融機能の低下もデフレ的な金融政策によってもたらされた資産価格

の低下によってもたらされたものだと指摘している。ただし、これらは研究では、金融政

策の指標としてマネーサプライ(M2+CD)を用いている。M2+CD は金融政策の指標では

あるが、同時に景気に反応する内生的変数の性質がある。また、これらの研究では 80 年代

からのデータを用い、ゼロ金利政策、量的緩和など、金融政策が大きく変化した 90 年代末

以降のデータがあまり含まれていない。また、日本のエコノミストの間では、1980 年代末

と 90年代初の経済変動が金融政策によって引き起こされたことにはある程度の合意がある

ようだが(例えば、香西・伊藤・有岡(2000)、Miyao(2002))、90 年代後半以降については

合意がない。そして、先行研究のほとんどが 1999 年以降のデータを分析していない。金融

政策が大きく変更され、「ゼロ金利政策」「量的緩和政策」がなされた期間であるにもかか

わらずである。

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そこで、私たちは 90 年代の後半以降に焦点を当てる。しかし、そうするためにはデータ

の制約があり、変数を制限しなければならない。そこで、まず、4)金融仲介機能の低下と

5)不十分な金融緩和政策に焦点を当て、次に、3)不十分な政府支出が経済回復を妨げたとい

う説と外需の役割に焦点を当てることとする。

2.2 金融政策と金融仲介機能に焦点を当てた VAR モデル

VAR モデルは、統計的に経済変動に対する各変数の重要性を統計的に明らかにするが、

サンプル数の不足によって、しばしば困難に陥る。まず、国内の民間経済動向に分析の焦

点を絞るために、実質生産を実質 GDP から公的需要・純輸出を除外したもので定義する。

そして生産、ベースマネー、銀行貸出、実質金利、物価からなる 5 変数の VAR モデルを構

築する。

伝統的には、コールレートが金融政策を表すものと考えられてきたが(例えば細野他

(2001))、ここではベースマネーが金融政策を表すものと考える。通常の状況では、金融政

策はコールレートで表されるとすることは妥当であるが、コールレートは 90 年代の後半で

はほとんどゼロである6。金融仲介機能の状況の代理変数として、銀行貸出を用いる。実質

金利は、ベースマネー、貸出、実質生産に影響を与える。実質金利は、名目金利(新規貸

出約定平均金利)-期待物価上昇率である。

1980 年代以降のマクロ経済モデルでは、期待の果たす役割が決定的に重要になっている。

その一方で、期待変数は直接観察できない。そこで、本稿は、堀・寺井(2004)にしたがって

Carlson-Parkin 法を用い、サーベイデータから作成した期待インフレ率推計値を用いて以

下の推計を進める。

物価としては GDP デフレータを用いた。さらに、1989 年第 2 四半期と 1997 年第 2 四

半期に消費税ダミーを、2000 年第 1 四半期にコンピュータ 2000 年問題ダミーを、1993 年

第 2 四半期に、「国内銀行」の定義が変更されたことによるダミーを用いた。

用いた変数のうち、実質金利は独自に推計した変数であるので、期待インフレ率ととも

に、その動きを図4に示している。名目金利が低下しているのに比べ、実質金利が下げ止

まっているのが注目される。

すべての変数は実質金利を除いて季調値である。季調値は、データ作成部局の季節調整

値を用いたが、貸出については季調値が公表されていないので X-12 法により季調した。す

べての変数は、実質金利を除いて対数を取った。ADF 検定により差分を取ることによって

定常となることを確認した7。推計は対数の差分同士のものである。推計期間は 1990 年か

ら 2003 年である。

ラグの次数を決定するために AIC で検定したところ、多くの場合に 2 次のラグが選ばれ

6 1995 年 6 月以降、コールレートは1%以下である。 7 ここで用いた大部分の変数の ADF 検定の結果は、中澤・大西・原田(2002)、飯田・原田・浜

田(2002)に与えられている。

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たが、ここでは Pantula et al(1994)がプラス 2 期程度に長くラグを取ることを推奨してい

ること、また、Friedman and Kuttner(1992)が 1 年分のデータを使用することを推奨して

いることにしたがい、4 四半期のラグを採用した。

インパルス反応関数(1990-2003 年)

インパルス応答関数は、各変数のラグとその他の説明変数によって説明されない変化が

どのように波及していくかをあらわしている。これは、政策の変更に代表されるシステム

外からのショックに対する各変数の反応を知る上で標準的な手法と言って良いだろう。例

えば、本節の推計における物価のインパルスは、実体経済や金融機能、金融政策によって

説明されないサプライズとしての物価変動が、直接的に、産出量に影響を与える度合いを

あらわしている。

以下では、同時点間の関係を特定しない制約無しのインパルス応答関数を用いて、各変

数の相互関係を考察する。これは誘導型の VAR モデルと言われているものである(Stock

and Watson(2001))。日本の研究においては、変数間に制約を加えず、同時点間の関係を考

慮した VAR モデルを誘導型ということがあるが8、ここでは Stock and Watson の用語法に

従っている。誘導型であるので、変数の配列順によらず結果は一義的に決定される9。

この結果は、図5の通りである。すべての変数は差分を取っているので、累積の反応は

これらの変数への水準のショックと解釈される。インパルス応答関数は、生産、ベースマ

ネー、銀行貸出、実質金利、物価の5つの変数の相互作用を表すものであるが、ここでは

煩雑さを避けるために、生産に対する、ベースマネー、銀行貸出、実質金利、物価の影響

に重点をおいて説明する。図の実線は、各変数の生産に対する 12 期までの累積の影響を表

しており、点線は 95%の信頼区間を表している。図に見るように、ベースマネーと実質金

利は、5%の有意性で生産に影響を与えているが、銀行貸出と物価は統計的に有意には生産

に影響を与えていない。

インパルス反応関数(1995-2003 年)

金融政策が 90 年代後半以降大きく変わっているなど、1990-2003 年にかけて日本経済に

構造変化がなかったとするのは無理があるだろう。Miyao(2002)は、90 年代における日本

経済の VAR モデルの安定性を検討して、1995 年前後に構造変化があった可能性があると

している。そこで 1995-2003 年のデータにおいても前項の結論に変更がないかを確認する

必要がある。

図6は 1995-2003 年についての結果である。定性的な結果は 1990-2003 年と同じであっ

た。ベースマネーから産出量への影響はサンプル数の影響もあり有意水準は落ちるものの

8 例えば、中澤・大西・原田(2002)はこの用語法を用いている。 9 同時点間の構造関係を特定したケースの結果は Iida and Harada(2004)参照。得られた結果に

大きな差は生じていない。

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依然として正であり,実質金利は、5%の有意性で生産に影響を与えている.一方、銀行貸

出と物価の影響はわずかであり,統計的にも有意には生産に影響を与えていない。

小括

ベースマネーと実質金利は生産に影響を与えているが、銀行貸出と物価は影響を与えて

いない。なお、ここで物価が生産に影響を与えていないことについて注記的な説明を加え

ておく。VAR モデルにおいて、物価のショックは、ここで用いられた変数、マネーや生産

では説明できない物価のショックである。物価が有意ではないということは、それが、例

えば中国の実質生産に対する負の効果であるとしたら、その効果は小さいということを示

している。

もちろん、相関関係は因果関係ではない。ベースマネーの変動は実質生産の変動の結果

なのかもしれない。しかし、1990 年代初期の金融政策と 2000 年 8 月のゼロ金利政策の解

除は、ともに意図的に引き締められたものであり、1990 年代前半の金融政策と 2001 年 3

月の量的緩和は意図的に緩和されたものである。これらの意図的な金融政策の結果、ベー

スマネーの伸び率は、前掲図 3 から確認できるように、縮小また拡大している。

以上の結果は、金融仲介機能の低下の影響を強調する Bayoumi(2000)、Kuttner and

Posen(2001)とは異なっている。しかしながら、彼らの推計期間は 1986-1998 年と

1976-2000 年である。1990 年代の央以来 3 回の回復があったにもかかわらず、銀行貸出は

99 年を例外として、継続的に低下し続けていたというサンプル期間が十分に入っていない。

銀行貸出によって表されるような金融仲介機能の低下が経済に大きな影響を与えている

という考えは根強いものがあるが、現実には、それを示す実証研究は乏しい。堀江(1999)、

Woo(1999)は 97-98 年には、貸し渋り現象が見られたが、1990 年代の前半には見られなか

ったことを示している。また、Motonishi and Yoshikawa(1999)、Sekine(1999)は、貸出の

伸びが低迷したとしても、それが設備投資という実質変数に与える影響は中小企業に対し

てのみであったと結論付けている。さらに堀・木滝(2004)は、金融危機が生じた 98 年にお

いても、都道府県別に見た銀行の信用度は、その地域の事業所の固定資産の増減と相関が

ないことを示している。原田・岡本(2003)は、VAR モデルにより、貸出の影響は小さいこ

とを示している。また、90 年代の初期には銀行貸出と実質生産は共に低下しているが、そ

れはベースマネーにおいても同じである。したがって、90 年代初期の生産の低迷は、銀行

貸出の低迷によっても、ベースマネーの低迷によっても説明できる。

これまでの検討結果から、5 つの仮説のうち残った 3 つの仮説のうちの、さらに1つの仮

説 4)金融システム仮説-金融システムの機能低下が経済成長率を低下させたという仮説を

根拠の弱いものとして除外できると考える。

2.3 財政政策と輸出に焦点を当てた VAR モデル

本節では、3)財政政策仮説-不十分な財政支出が経済回復を妨げたという仮説を取り上げ

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10

る。ここでは、先の推計で期間にかかわらず産出量に対する有意な影響力を持たなかった

銀行貸出と物価を落とし、政府支出(政府消費支出と政府固定資本形成の合計)と輸出を

加えた(ともに実質値)。すなわち、生産、ベースマネー、政府支出、輸出、実質金利、か

らなる 5 変数の VAR モデルを構築する。ここで輸出を加えたのは、多くのエコノミストが、

90 年代の景気回復において輸出の役割が大きいと指摘しているからである10。前節と同じ

ダミーを用い、すべての変数は実質金利を除いて季調値である。季調値は、データ作成部

局の季節調整値を用いた11。推計期間は 1990 年から 2003 年である。ラグの次数について

は、前節と同じ手続きにより 4 期のラグを採用した。

インパルス反応関数(1990-2003 年)

同時点の関係を除外した誘導型の VAR モデルによりインパルス反応関数を計測した。こ

の結果は、図7の通りである。ここでも煩雑さを避けるために、生産に対する、ベースマ

ネー、政府支出、輸出、実質金利の影響に重点をおいて説明する。図に見るように、実質

金利の生産に与える影響は予想通りの符号となっているが、統計的有意性は高くない。一

方、輸出は 5%の有意性で、ベースマネー、政府支出は、10%の有意性で生産に影響を与え

ている。

生産以外への影響を見ると、ベースマネーが政府支出に 5%有意で負の影響を与え、政府

支出がベースマネーに負の影響を与えていることが注目される。これは財政が拡張的なと

きには金融が緊縮的であり、金融が拡張的なときには財政が緊縮的であったことを示して

いる。このような財政政策と金融政策の非同調的な政策は、当然、マクロ的安定政策の効

果を弱める12。

インパルス反応関数(1995-2003 年)

図8は同じVARモデルの1995-2003年の推計結果である。サンプル期間が短すぎて、5%

で統計的に有意な結果は得られていないが、影響の方向は 1995-2003 年の結果と同じであ

る。

生産以外への影響では、有意ではないが、やはり財政政策と金融政策の非同調的な政策

が見られる。

10 例えば、内閣府(2003)は、「2002 年はじめの景気の底入れと、その後の景気動向に大きな影

響を及ぼしてきたのは輸出の動向である」(6 頁)と述べている。 11 新しい変数についても、ADF 検定により差分を取ることによって定常となることを確認した。

ADF 検定の結果の一部は、中澤・大西・原田(2002)、飯田・原田・浜田(2002)に与えられてい

る。 12 このような政策が行われてきたことについては、財政当局と金融当局との対立についての興

味深い政治経済学のテーマとなりうるが、本稿の主要な関心対象ではないので、非同調という事

実を指摘するにとどめる。

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11

小括

ベースマネーと実質金利と輸出と政府支出が生産に影響を与えている。

ここで財政支出が有意であるのは、その効果があまり有意ではない中澤・大西・原田

(2002)、堀・伊藤(2002)の VAR モデルの結果とやや異なるが、これは本稿で財政支出とし

て政府消費支出と政府固定資本形成の合計を用いているからであろう。政府固定資本形成

だけでは実質生産(実質GDP―実質政府消費支出―実質政府固定資本形成-純輸出)の

10%程度であるが、両者を合計すると 4 分の1以上となる。生産の 4 分の1を超えるもの

が、生産をまったく説明しないということもむしろ不自然であろう。田中・北野(2002)は、

財政支出として政府消費支出と政府固定資本形成の合計である政府支出と公共投資のそれ

ぞれを用いた主要 9 か国の VAR モデルにおいて、政府支出は有意な場合があるが、公共投

資はほとんどの国で有意でない(日本では 1 四半期のみ有意)という結果を得ている。こ

れは、本稿の結果とも整合的と言えるだろう。

2.4 実質金利を名目金利と期待物価に分けた VAR モデル

ここでは、実質金利ショックの内訳を明確にするために,名目金利と期待インフレ率を

分割して組み込んだ 6 変数 VAR のモデルを構築する。周知の IS-LM モデルでは、金利は LM

カーブの中では名目金利であり、IS カーブの中では実質金利である。説明変数の数を制約

するために、これまで実質金利のみをもちいてきたが、ここでは実質金利を名目金利と期

待物価に分けて考えることにする。前提とした VAR モデルは、2.3 の財政政策と輸出に焦点

を当てた VAR モデルである。変数はベースマネー、名目金利、期待インフレ率、実質輸出、

実質政府支出、実質産出量の6変数である。前節と同じダミーを用い、すべての変数は名

目金利と期待インフレ率を除いて季調値である。季調値は、データ作成部局の季節調整値

を用いた13。推計期間は 1990 年から 2003 年である。ラグの次数については、前節と同じ

手続きにより 4 期のラグを採用した。

インパルス反応関数(1990-2003 年)

同時点の関係を除外した誘導型の VAR モデルによりインパルス反応関数を計測した。こ

の結果は、図9の通りである。生産に対する影響を見ると、政府支出、輸出、ベースマネ

ーがほぼ5%で有意となっている。ただし、政府支出、輸出の影響は早期に減衰するが、

ベースマネーの影響はかなり永続的である。名目金利、期待物価は有意ではないが、名目

金利が上昇すると生産が低下し、期待物価が上昇すると生産が増加するという方向にはな

っている。

インパルス反応関数(1995-2003 年)

13 新しい変数についても、ADF 検定により差分を取ることによって定常となることを確認した。

ADF 検定の結果の一部は、中澤・大西・原田(2002)、飯田・原田・浜田(2002)に与えられてい

る。

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12

図 10は同じVARモデルの 1995-2003年の推計結果である。サンプル期間が短すぎて、

5%で統計的に有意な結果は得られていないが、ベースマネーは 10%では有意である。輸

出を除くと、影響の方向は、図8と同じである。

3 歴史的分解

これまでの分析では定性的な影響関係、影響関係の統計的な有意性の検討に興味の中心

がおかれている。しかし、定性的な影響関係の有無のみならず、90 年代の経済停滞におけ

る「主要ファクター」を考察する上では、産出量の変動に対する一種の寄与度を知る必要

がある。VAR のフレームの中で、変数の変動をその要因別に分解する手法として代表的なも

のに分散分解がある。

得られた結果は図 11、図 12 である。図 11 は 1990-2003 年、図 12 は 1995-2003 年の結果

である。1990-2003 年では、金融変数とみなせる実質金利とベースマネーの合計は実質生産

の変動の 18%を説明し、輸出が変動の 18%、財政支出が変動の 10%を説明している。

1995-2003 年では、金融変数の合計は実質生産の変動の 28%を説明し、輸出が変動の 15%、

財政支出が変動の 10%を説明している。ただし、財政支出は、実質生産の 4 分の1にも及

ぶものであるので、これは効果が小さいと解釈すべき数字かもしれない。変動の説明をた

だちに停滞の説明とすることはできないにしても、金融政策が停滞のかなりの部分を説明

できると言うことができるだろう。さらに、輸出の変動は、為替レートという金融変数を

通じた効果であると言うことができるかもしれない。

結論

本稿は、大停滞を説明するという 5 つの仮説、1)バブル仮説 2)構造問題仮説 3)財政政策

仮説 4)金融機能低下仮説 5)金融政策仮説を検討した。検討の結果、一般には有力と考えら

れている構造問題説、金融機能低下説は退けられ、不十分な金融緩和が長期不況をもたら

したという結論が得られた。ただし、金融機能の低下は重要ではないが、輸出と財政政策

も一定の役割を果たしている。

ここで、金融政策のショックは一時的なもので、それが 10 年以上にもわたる長期停滞の

理由になるのかという疑問があるかもしれない。しかし、金融的ショックが実質変動を引

き起こす一つの要因である賃金物価の硬直性は、言葉通り、その調整にかなりの期間を要

するものである。また、金融政策のショックは、ベースマネーの動きに見られるように継

続的に与えられた14。これらのことが、金融政策の長期的な効果を持続させたのだと考えら

れる。

参考文献

14飯田・岡田(2004)は、90 年代に、望ましい金融政策ルールと比べて、負の金融政策ショッ

クが与えられたことを示している。

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13

飯田泰之・岡田靖「5 章 金融政策の失敗が招いた長期停滞」浜田・堀内・内閣府(2004)

乾友彦・権赫旭「展望:日本の TFP 上昇率は 1990 年代においてどれだけ低下したか」内閣府経

済社会総合研究所 ESRI Discussion Paper No.115 2004 年

岩田規久男・原田泰編『デフレ不況の実証分析』東洋経済新報社、2002 年

岩田規久男・宮川努編『失われた 10 年の真因は何か』東洋経済新報社、2003 年

香西泰・伊藤修・有岡律子「バブル期の金融政策とその反省」『金融研究』2000 年 12 月、第 19

巻第 4号

竹内淳一郎・武田洋子「米国のサプライサイド政策と労働市場の変貌について」『日本銀行調査

月報』1998 年 10 月号

田中秀明・北野祐一郎「欧米諸国における財政政策のマクロ的経済効果」『フィナンシャル・レ

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内閣府編『平成 15 年版 経済財政白書-改革なくして成長なし-』独立行政法人国立印刷局、

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中島隆信・粕谷宗久・才田友美・種村知樹「セクター別生産性変化の分析と構造変化の検証〈改

訂版〉」日本銀行調査統計局 Working Paper Series 01-14, January 2001.

中澤正彦・大西茂樹・原田泰「財政金融政策の効果」『フィナンシャル・レビュー』第 66 号、財

務省印刷局、2002 年 12 月

浜田宏一・原田泰・経済社会総合研究所編『長期不況の理論と実証』東洋経済新報社、2004 年

浜田宏一・堀内昭義・内閣府経済社会総合研究所編『論争 日本の経済危機』日本経済新聞社、

2004 年

原田泰『1970 年体制の終焉』東洋経済新報社、1998 年

原田泰『日本の大停滞が終わる日』日本評論社、2003 年

原田泰・岡本慎一「銀行貸出、マネー、その他の資金調達手段の優位性」『経済分析』第 16 号、

2003 年 3 月、浜田・原田・内閣府(2004)所収。

浜田宏一・原田泰・経済社会総合研究所編『長期不況の理論と実証』東洋経済新報社、2004

林文夫「経済改革なくして成長なし」岩田規久男・宮川努編『失われた 10 年の真因は何か』東

洋経済新報社、2003 年

岩田規久男・原田泰編『デフレ不況の実証分析』東洋経済新報社、2002 年

原田泰・江川暁夫「第 4章 賃金の硬直性と金融政策の衝突」岩田・原田(2002)所収。

細野薫・三平剛・杉原茂『金融政策の有効性と限界―90 年代日本の実証分析』東洋経済新

報社、2001 年

堀江康 「わが国の『貸し渋り』分析」『経済学研究』1999 年、65 巻 6 号、九州大学

堀雅博・伊藤靖晃「財政政策か金融政策か:マクロ時系列分析による素描」岩田・原田(2002)

所収。

堀雅博・木滝秀彰「銀行機能低下元凶説は説得力を持ちうるか」浜田・堀内・内閣府(2004)所収。

堀雅博・寺井晃「カールソン・パーキン法によるインフレ期待 計測と諸問題」内閣府経済社会

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14

総合研究所 ESRI Discussion Paper No.91 2004 年

宮川努「日本経済の長期停滞と供給サイド」浜田・堀内・内閣府(2004)所収。

本橋一之「日本経済の情報化と生産性に関する米国との比較分析」RIETI Discussion Paper

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Page 17: ESRI Discussion Paper Series No. 123ESRI Discussion Paper Series No. 123 90年代以降の大停滞期に対する説明仮説について -VARモデルによる検証- by 原田

15

図2 実質GDPと労働時間あた り実質GDPの動き

(出所 )内閣府 「国民経済計算 」、厚生労働省 「毎月勤労統計 」により作成。

 (注 )1.全労働時間は産業別就業者数 ×産業別労働時間数    2.2003年は常用雇用指数、労働時間指数により推計。

2

1 9 8 0 1 9 8 2 1 9 8 4 1 9 8 6 1 9 8 8 1 9 9 0 1 9 9 2 1 9 9 4 1 9 9 6 1 9 9 8 2 0 0 0 2 0 0 2

1 9 9 0 = 1 0 0

1 2 0

1 0 0

8 0

労働時間当た り実質GDP

実質 G D P

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16

図3 実質GDPの変動をもたらした要因-財政、貸出、ベースマネー

(出所)内閣府経済社会総合研究所「国民経済計算」、日本銀行「金融経済統計月報」

(注)1980年のGDPの伸び率は旧SNA(68SNA)によるもの。

実質生産は実質GDP-純輸出-政府支出

政府支出は政府固定資本形成+政府消費

ベースマネーは準備率調整済み

貸出は国内銀行合計、1993年のみはコールローン含んでいる。

-10%

-5%

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%M

-84

M-8

5

M-8

6

M-8

7

M-8

8

M-8

9

M-9

0

M-9

1

M-9

2

M-9

3

M-9

4

M-9

5

M-9

6

M-9

7

M-9

8

M-9

9

M-0

0

M-0

1

M-0

2

M-0

3

実質生産 財政支出 貸出 ベースマネー

図3 名目利子率、期待インフレ率、実質利子率

(出所)日本銀行「金融経済統計月報」、期待インフレ率実質利子率については本文参照。

-4%

-2%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

名目利子率 実質利子率 期待インフレ率

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17

図5:インパルス応答関数(1990-2003)

BM 実質金利 貸出 物価 産出量

BM

実質金利

貸出

物価

産出量

-.06

-.04

-.02

.00

.02

.04

.06

.08

2 4 6 8 10 12-.06

-.04

-.02

.00

.02

.04

.06

.08

2 4 6 8 10 12-.06

-.04

-.02

.00

.02

.04

.06

.08

2 4 6 8 10 12-.06

-.04

-.02

.00

.02

.04

.06

.08

2 4 6 8 10 12-.06

-.04

-.02

.00

.02

.04

.06

.08

2 4 6 8 10 12

-.004

-.002

.000

.002

.004

.006

.008

2 4 6 8 10 12-.004

-.002

.000

.002

.004

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2 4 6 8 10 12-.004

-.002

.000

.002

.004

.006

.008

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-.002

.000

.002

.004

.006

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-.002

.000

.002

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2 4 6 8 10 12

-.02

-.01

.00

.01

.02

.03

2 4 6 8 10 12-.02

-.01

.00

.01

.02

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-.01

.00

.01

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.00

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.00

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-.004

.000

.004

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.000

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.000

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.000

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.000

.004

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.00

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.00

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.00

.01

.02

.03

.04

2 4 6 8 10 12

  ショック

反応

図6:インパルス応答関数(1995-2003)

BM 実質金利 貸出 物価 産出量

BM

実質金利

貸出

物価

産出量

-.10

-.05

.00

.05

.10

.15

2 4 6 8 10 12-.10

-.05

.00

.05

.10

.15

2 4 6 8 10 12-.10

-.05

.00

.05

.10

.15

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-.05

.00

.05

.10

.15

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-.05

.00

.05

.10

.15

2 4 6 8 10 12

-.008

-.004

.000

.004

.008

.012

2 4 6 8 10 12-.008

-.004

.000

.004

.008

.012

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-.004

.000

.004

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-.004

.000

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.000

.004

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.012

2 4 6 8 10 12

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-.03

-.02

-.01

.00

.01

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-.03

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-.01

.00

.01

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-.03

-.02

-.01

.00

.01

.02

.03

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-.03

-.02

-.01

.00

.01

.02

.03

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-.03

-.02

-.01

.00

.01

.02

.03

2 4 6 8 10 12

-.016

-.012

-.008

-.004

.000

.004

.008

.012

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-.012

-.008

-.004

.000

.004

.008

.012

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-.008

-.004

.000

.004

.008

.012

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-.012

-.008

-.004

.000

.004

.008

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-.012

-.008

-.004

.000

.004

.008

.012

2 4 6 8 10 12

-.05

-.04

-.03

-.02

-.01

.00

.01

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.03

2 4 6 8 10 12-.05

-.04

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-.02

-.01

.00

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-.04

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-.02

-.01

.00

.01

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-.04

-.03

-.02

-.01

.00

.01

.02

.03

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-.04

-.03

-.02

-.01

.00

.01

.02

.03

2 4 6 8 10 12

  ショック

反応

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18

図7:インパルス応答関数(1990-2003)

政府支出 輸出 BM 実質金利 産出量

政府支出

輸出

BM

実質金利

産出量

-.04

-.03

-.02

-.01

.00

.01

.02

.03

2 4 6 8 10 12-.04

-.03

-.02

-.01

.00

.01

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  ショック

反応

図8:インパルス応答関数(1995-2003)

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  ショック

反応

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Page 22: ESRI Discussion Paper Series No. 123ESRI Discussion Paper Series No. 123 90年代以降の大停滞期に対する説明仮説について -VARモデルによる検証- by 原田

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図11 実質生産の分散分解 1990-2003年

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実質金利

ベースマネー

輸出

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