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廣田 龍志「英国のEU離脱について」 (2018 1 10 日提出 ゼミ卒業論文) 1 2018 1 10 日提出 國學院大學 経済学部「演習Ⅳ」ゼミ卒業論文(担当教員 小木曽道夫) イギリスの EU 離脱について 廣田 龍志 目次 はじめに ................................................................................................................................. 2 第1章 EU とは...................................................................................................................... 3 第1章第1節 EU とは ....................................................................................................... 3 第1章第2節 EU の成り立ち ............................................................................................ 3 第2章 EU の歴史.................................................................................................................. 4 第2章第1節 EU の歴史 ................................................................................................... 4 第2章第2節 EU の原点 ................................................................................................... 4 第2章第3節 EU の誕生 ................................................................................................... 5 第3章 EU 内での活動........................................................................................................... 5 第3章第1節 EU 内での活動 ............................................................................................ 5 第3章第2節 関税同盟とは............................................................................................. 6 第3章第3節 移民、難民問題 ......................................................................................... 6 第4章 英国が EU に所属していることによって生じるメリット、デメリット .................. 7 第4章第1節 EU とイギリスのこれまでの関わり ........................................................... 7 第4章第2節 EU 所属によるメリット ............................................................................. 8 第4章第3節 EU 所属によるデメリット.......................................................................... 9 5 イギリスの 2017 年の国民投票 ................................................................................ 9 5 章第 1 連合王国としてのイギリス ....................................................................... 9 5 章第2節 国民投票による内容と結果 ....................................................................... 9 5 章第 3 スコットランド独立問題......................................................................... 10 第5章第 4 なぜイギリスは EU 離脱を選んだのか..................................................... 10 6 今後の EU とイギリス ..........................................................................................11 6 章第 1 今後のイギリスの課題 .............................................................................11 6 章第 2 これからのイギリス ................................................................................ 12 第6章第3節 今後の EU ................................................................................................. 12

イギリスの EU 離脱について 目次廣田 龍志「英国のEU離脱について」 (2018 年1 月10 日提出 ゼミ卒業論文) 1 2018 年1月10日提出 國學院大學

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廣田 龍志「英国のEU離脱について」 (2018 年 1 月 10 日提出 ゼミ卒業論文)

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2018年 1月 10日提出

國學院大學 経済学部「演習Ⅳ」ゼミ卒業論文(担当教員 小木曽道夫)

イギリスの EU離脱について

廣田 龍志

目次 はじめに ................................................................................................................................. 2 第1章 EU とは ...................................................................................................................... 3

第1章第1節 EUとは ....................................................................................................... 3 第1章第2節 EUの成り立ち ............................................................................................ 3

第2章 EU の歴史 .................................................................................................................. 4 第2章第1節 EUの歴史 ................................................................................................... 4 第2章第2節 EUの原点 ................................................................................................... 4 第2章第3節 EUの誕生 ................................................................................................... 5

第3章 EU 内での活動 ........................................................................................................... 5 第3章第1節 EU内での活動 ............................................................................................ 5 第3章第2節 関税同盟とは ............................................................................................. 6 第3章第3節 移民、難民問題 ......................................................................................... 6

第4章 英国が EUに所属していることによって生じるメリット、デメリット .................. 7 第4章第1節 EUとイギリスのこれまでの関わり ........................................................... 7 第4章第2節 EU所属によるメリット ............................................................................. 8 第4章第3節 EU所属によるデメリット .......................................................................... 9

第 5章 イギリスの 2017年の国民投票 ................................................................................ 9 第 5章第 1節 連合王国としてのイギリス ....................................................................... 9 第 5章第2節 国民投票による内容と結果 ....................................................................... 9 第 5章第 3節 スコットランド独立問題 ......................................................................... 10 第5章第 4節 なぜイギリスは EU離脱を選んだのか ..................................................... 10

第 6章 今後の EU とイギリス .......................................................................................... 11 第 6章第 1節 今後のイギリスの課題 ............................................................................. 11 第 6章第 2節 これからのイギリス ................................................................................ 12 第6章第3節 今後の EU ................................................................................................. 12

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廣田 龍志「英国のEU離脱について」 (2018 年 1 月 10 日提出 ゼミ卒業論文)

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はじめに

2016年 6月 23日のイギリス(the United Kingdom of Great Britain and the

Northern Ireland:グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、以下、「イギリス」と

略す)による国民投票で EU離脱派が勝利し、全世界に衝撃を与え、あらゆる報道機関で

放送された。私はテレビやメディアなどで流れる EU問題について全く理解していなかっ

た。イギリスが EUを離脱することによって生じる問題すら分からなかったのである。し

かし、調べるうちに色々と興味を持ち、そこで感じた事を論じる。

EU離脱への国民投票までの流れ

2016年 6月 23日、イギリスで EU残留か離脱かを問う国民投票が行われた。その発端は、

2013年 1月に保守党党首であるデイヴィット・キャメロン首相が、2017年末までに EU残

留か離脱かをめぐる国民投票を行うことを表明したことであった。キャメロン首相が、EU

離脱を積極的に唱えていたわけではない。むしろ、キャメロンが党首を務める保守党内

で、大きな勢力をもつようになったヨーロッパ懐疑派を抑えるための、苦渋の決断であっ

たと言われている。2015年 5月のイギリス総選挙の保守党マニフェストでも、この国民投

票を行うことが明記されたことで、いよいよ EU残留・離脱の国民投票への道が開かれた

のである。投票日は 2016年 6月 23日に決まった。世論調査によれば、情勢は残留と離脱

とが拮抗する形で進んだ。複数の事前予想の平均値をとると、まさに残留・離脱とがほぼ

50%になるという、まったく予断を許さない展開となった。しかし直前まで、「イギリス国

民は最終的には残留を選ぶだろう」という楽観論が多かったことも否めない。しかし、イ

ギリス国民の下した結果は「離脱」であった。離脱が 51.9%で、残留が 48.1%。実数にす

れば、離脱が残留を 100万人以上、上回った。また投票率は 72.2%と、2015年総選挙より

も 5%以上高かった。この「離脱」という結果は、イギリスやヨーロッパはもちろん、世界

中を揺るがした。日本でも衝撃を持って受け止められ、大きく報じられた。この衝撃は主

に、離脱が経済的危機につながるのではないかという、経済的観点からのものであったこ

とは確かである。

イギリスの EU 離脱は、これまで EU 域内の市場統合から得られてきた経済的恩恵をイギ

リスが失うことを意味する。企業がヨーロッパ大陸の EU加盟国に流出するなどして、イギ

リスは経済的危機に陥るのではないか。また、EU加盟国中 2番目の GDPを持ち、その 17%を

も占めるイギリスが離脱することは、EU にとっても経済的損失は大きい。それが引き起こ

す経済的危機は、世界中に波及する可能性がある。日本でイギリスの離脱が報じられると、

日経平均株価は数時間の間に 1500円近く下落した。

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国民投票の結果を受けて、残留を望んでいたキャメロンは首相及び保守党の党首を辞任

した。それを受け保守党においては、次の首相を決めるために、党首選を行うこととなった

が、保守党内での残留派と離脱派との亀裂は深く、この過程も混乱を重ねた。当初は離脱派

の主軸を担ったボリス・ジョンソン前ロンドン市長が、次期党首・首相の最有力候補とされ

ていたが、離脱派内での権力闘争の結果、ジョンソン氏は立候補すら辞退してしまった。離

脱へ向けてもっとも旗を振った張本人の 1 人が、離脱への過程を担う責任を破棄したよう

に見えるのである。二転三転の末、最終的にはテリーザ・メイ内務相が党首に選ばれ首相に

就任した。その最大の理由は、党内の亀裂をもっとも埋められる人物という点であった。逆

に言えば、それだけ保守党内に大きな亀裂が走っていたということである。これらの衝撃を

与えたイギリス EUへの離脱問題について、様々な視点から論じる。

第1章 EUとは

第1章第1節 EUの定義

EU とは European Unionの略で、日本では、欧州連合、またはヨーロッパ連合と呼ばれ

る国際組織のことである。欧州連合条約に基づく、経済通貨同盟、共通外交・安全保障政

策、警察・刑事司法協力等のより幅広い分野での協力を進めている政治・経済統合体であ

り、今ではヨーロッパのほとんどの国がこの EUに所属していて、現時点ではイギリスを

含め 26国が EUに加盟している。経済・通貨同盟については、国家主権の一部を委譲して

いる。域外に対する統一的な通商政策を実施する世界最大の単一市場を形成している。そ

の他の分野についても、加盟国の権限を前提としつつ、最大限 EUとしての共通の立場を

取ることで、政治的にも「一つの声」で発言している。

第1章第2節 EUの成り立ち

私は EU ができた理由は大きく二つであると思う。一つは、ヨーロッパ各地での戦争防止で

あり、もう一つは、アメリカ、ソ連(ロシア)などの経済大国に追いつくためである。20世

紀、ヨーロッパ全体では第 2 次世界大戦という大きな戦争により国土のほとんどが戦火な

どにより荒廃した。 人々は、生活を再建していくために、ヨーロッパの小さい国の人たち

とお互いに支援しあい、 交流していく方法はないか考えるようになった。第二次世界大戦

が終わった後もヨーロッパ各地では、資源や領土を巡って度々戦争が行われていた。島国である

日本でも隣国との領海や領空についての問題が現在も続いているので、陸続きのヨーロッパで

は絶えずトラブルが起きていたであろう。そこで欧州連合を作ることによって解決を目指した

た。ヨーロッパ各国がお互いの結びつきを強めるために経済的な共同体を作ったのが始まりで

ある。EU に入るとどうなるかというと加盟国間の輸出入の制限をなくしたり加盟国に住む人々

が EU の中を自由に移動出来たり通貨を統合している。加盟国はだんだん多くなりヨーロッパ全

体で 1つといったものになっていきつつある。

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第2章 EUの歴史 1

第2章第1節 EUの歴史

ここでは EUの歴史について大まかな流れを説明する。1950 年代のヨーロッパは、西側

諸国と東側諸国との間で激しい冷戦状態にあった。そんな中西側諸国で、ヨーロッパを統

合しようという気運が高まっていた。そんな中、ベルギー、フランス、西ドイツ、イタリ

ア、ルクセンブルク、オランダの6カ国が ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)が設立されまた。

石炭と鉄鋼を共同で開発していくことで、歴史上何度も対立をしてきたフランスとドイツ

を仲良くさせ、ヨーロッパで戦争が起こらないようにするために締結されたものである。

1957年に、旧西ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクの6

カ国がローマ条約という条約を結んだ。1958 年に、ローマ条約を結んだ6カ国で、EUの

一番初めの組織として、EEC(ヨーロッパ経済共同体)という組織が作られた。そして

1967年に、ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)と EURATOM(欧州原子力共同体)という組織に

EEC が合わさって、EC(ヨーロッパ共同体)という組織が作られた。しかし、イギリス、

スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、オーストリア、スイス、ポルトガルの7か国が

1960年に、EECに対抗して、EFTA(欧州自由貿易連合)という組織を作った。だが、イギ

リスとデンマーク 1973 年に EFTAを抜け出して、ECに加盟し、ポルトガルも 1986 年に EFTAを抜け出して、ECに加盟した。アイルランド、ギリシャ、スペインが ECに参加

して、ECが拡大 ECという組織になった。そして ECは、共通農業政策、欧州通貨制度

(EMS)などを行うことで、ECでの経済統合を目指していった。また経済統合の動きは、

1987年の単一欧州議定書というものによって、スピードが速くなった。1992 年に欧州連

合条約(マーストリヒト条約)が作られた。そして翌年の 1993 年 11月に欧州連合条約が

実際に使われるようになり、EU(ヨーロッパ連合)が生まれたのである。

第2章第2節 EUの原点

欧州統合の理想が具体的に動き出したのは、1950年、ロベール・シューマン仏外相が、

ジャン・モネの構想を具体的にシューマン宣言で、独・仏の石炭・鉄鋼の共同管理として

提案したことがきかっけだった。石炭、鉄鋼と言えば、それまでドイツ、フランスとの対

立の火種となっていた資源だが、その生産を共同管理機関の下に置くことで、両国の和解

と平和を進めようとした。つまり、それまで戦争の資源と考えられていた石炭と鉄鋼で、

平和の基礎を築くという発想で、言い換えれば、経済の安定を図ることによって、政治的

な不安定要素を取り除くというものだった。1952年、ヨーロッパは ECSCの創設をもって

統合への歩みを踏み出し、1958 年には経済統合を進める「欧州経済共同体」(EEC)、原子

1 第2章は外務省(2010)と外務省(2016)を参照した。

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力エネルギー分野での共同管理を進める「欧州原子力共同体」(EURATOM)を発足させた。

そして、これら 3つの共同体は 1967 年、運営機関が統合され、「欧州共同体」(ECs)とし

て再スタートした。これが今日の EUにつながる欧州統合の源流となった。

1952年にヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)結成される。参加国はフランス、西ド

イツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクの 6カ国である。そして 1958年

には上記6カ国でヨーロッパ経済共同体(EEC)、ヨーロッパ原子力共同体(EURA

TOM)を結成。1967年この3つの組織を発展的に統一しヨーロッパ共同体(EC)が発

足され、そしてさらに 1973年 イギリス、アイルランド、デンマークが加盟。1981年 に

ギリシアが加盟。1986年にはスペイン、ポルトガルも加盟した。1990年東西ドイツ統一

により旧東ドイツも編入し、そしてついに 1993年 欧州連合(EU)EC加盟 12カ国が発

足された。

第2章第3節 EUの誕生

欧州の統合は、経済分野での協力が大きな柱となって進められてきたが、その背景には

激動する国際情勢が大きく関係していた。20世紀後半、ヨーロッパ諸国の海外植民地が

次々に独立を達成し、旧宗主国だった欧州の経済基盤は少なからず影響を受けたのであ

る。さらに 1987 年には、「ブラックマンデー」と呼ばれる世界的な金融恐慌が発生し、ヨ

ーロッパ株式市場にも余波が及んだ。また、1989年には、ベルリンの壁崩壊とともに冷戦

が終わり、東西ドイツが統一されると、今度はヨーロッパにおける安全保障環境も大きく

変わっていった。こうした大きな世界の流れを受け、ECはよりヨーロッパ内での結束を固

めていく道を進んでいく。ECは 1991 年、欧州連合条約(マーストリヒト条約)の合意(発効

1993年)により、新しい統合体である「欧州連合」(EU)を誕生させ、その後は旧共産主義

圏の中東欧諸国をもメンバーに取り込みながら、さらに拡大と深化を続けたのである。

第3章 EU内での活動

第3章第1節 EU内での活動

EU 内での活動について近年行われていることを大きく三つにまとめてみた。一つは豊か

な国が貧しい国を手助けすることである。これは EU内では国によって大きな経済格差が

あり、その中で同じ EUの仲間として立派な国になり、経済成長していこう。との意味が

含まれていると思う。そこで EU 内での税金が、補助金として貧しい国や後進国に使用さ

れることによって、主に開発援助や教育支援に使用されることが多い。二つ目はヨーロッ

パ経済の結びつきである。EU内での大きな経済政策の一つとして、関税同盟がある。この

関税同盟は、経済統合の柱であり、加盟国間の貿易に対する関税・数量制限を撤廃し、域

外に対する共通関税率と共通通商政策を適用している。この関税同盟については第三章第

二節で詳しく述べたいと思う。三つめは移民、難民の受け入れなどである。この移民、難

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民問題によってイギリスの票が大きく分かれたとも言われている。この移民、難民問題に

関しても第3章第3節で述べていきたい。

第3章第2節 関税同盟とは 2

第3章第1節でも述べたように、EU内での経済の結びつきはとても大きい。その中でも

関税同盟は大きな役割を果たしている。関税同盟とは、同盟を結んだ国の間では原則的に

関税をかけずに貿易による物品のやり取りを行うことができ、同盟を結んでいない国に対

しては、関税同盟の参加国すべてが同じ関税率をかけることができる。また、関税だけで

なく貿易政策や通関行政を参加国で共通化することも可能であり、貿易の自由化という側

面ではブロック経済化を招くとの批判もある。関税同盟のメリットのひとつには、同盟を

結んだ国同士では関税をかけずに(例外品目を設けるケースもありますが)自由に物品の

貿易を行うことが可能になるため、自由貿易協定の側面を持つことになる。ただし一方で

は、関税同盟の外に国に対して、同盟国のどこの国も同じ関税率を設定することになるた

め、同盟国の域外から特定の製品が入ってこないように調整することができる。こうなる

と、関税同盟を結んでいるエリアに輸出することができない品目が出てくることになり、

関税同盟を結んでいる国のなかだけで貿易を活発化させることもできてしまう。これが関

税同盟のもつデメリットであり、意図的に「ブロック」によって世界経済を分断させる側

面ともなり得る要素である。現在はこうした過度のブロック経済化を招くような政策をと

らないよう WTOが監視しているが、貿易の自由化を部分的には進める役割も持つため、そ

の線引きは難しく、ある産業にとっては保護主義と映っても、別の産業にとっては歓迎す

べき協定と映ることもある。

第3章第3節 移民、難民問題 3

最近 EU内で問題となっているのが、移民、難民の受け入れである。移民、難民が大勢

いる中で、特に近年増えているのは難民であると思う。難民の定義は、国全体が戦争や紛

争、テロの危険に晒されていて、その被害や危険から逃れるために出国した人である。最

近世界中がテロや紛争が勃発しているため、当然の結果である。そこで EUは移民、難民

の受け入れを発表し多くの移民、難民者が EUに亡命している。「アラブの春」に伴う社

会的混乱を逃れ、北アフリカや中東から欧州諸国に流入する難民が急増している。そうし

た中で 10月にはある事故が起きた。地中海で難民を乗せた船が出火・沈没し、360 人以上

が死亡する惨事が発生した。10月 3日にイタリア最南端のランペドゥーザ島沖で発生した

悲惨な海難事故である。500 人以上の難民を乗せてリビアのミスラタ港を出港したトロー

2 第3章第2節は「関税同盟」を参照した。 3 第3章第3節は長沢孝昭(2013年 11月 22日)を参照した。

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ル漁船が火災を起こし沈没、366人が犠牲になったのである。生存者は 155人。国連難民

高等弁務官事務所(UNHCR)によると、難民はエリトリアとソマリア出身者がほとんど

で、新天地を求め、イタリアを目指していた。地中海ではこれまでも多数の難民が命を落

としているものの、これほど多数の犠牲者が一挙に出たのはこれが初めてである。従来か

らの政治亡命を含め、戦争や貧困を逃れようと、近年は希望の大陸・ヨーロッパを目がけ

て押し寄せてくる難民が急増している。幾つもあるルートのうち最も多いのがアジア、中

東などからトルコ経由の陸路を利用してギリシャに向かうケースである。北アフリカから

は、今回のように海路で最短距離のイタリアを目指すルートが一般的である。欧州連合

(EU)はこの事故の直後に首脳会議で急きょ難民問題を協議するなど、共通難民対策の強

化に乗り出したのだ。難民にとってイタリアは EUへの玄関口で、ランペドゥーザ島がそ

の最前線に位置する。ひとたび EU域内に入り込むや、域内国境検査を廃止したシェンゲ

ン協定(1985年)に保障され、国境線を越えてドイツやスウェーデンなどを目指し、さら

に移動する難民が多いのが現実である。また移民、難民の受け入れ先として人気なのが、

豊かな国や社会保障が良い国である。そこで大勢の移民、難民の受け入れによって新たな

問題、課題も起きている。

第4章 イギリスが EUに所属していることによって生じるメリット、デメリッ

第4章第1節 EUとイギリスのこれまでの関わり 4

イギリスは EU単一通貨ユーロを導入せず、自国のポンドを使用している。イギリスが

ユーロを導入せず、ポンドを使用し続けている理由は大英帝国としての歴史が関係してい

る。イギリスのポンドは 19世紀半ばから 20世紀初め、世界で最初の基軸通貨として流通

した。当時、イギリスは圧倒的な経済力と軍事力を誇り、世界で初めて産業革命を成功さ

せたのを受けて、「世界の工場」として製品を大量に海外に輸出し、一国で世界中の製造

業の生産額の半分以上を占めていた。さらに、強力な軍事力で7つの海を支配し、広大な

領土を抱えた。また更にポンドが基軸通貨になったきっかけは、イギリス政府が 1816 年

に制定した貨幣法である。この法律によって、通貨 1ポンドが金約 7.32グラムという価

値で固定させ、1844 年には金と交換できるポンド紙幣を発行した。中央銀行であるイング

ランド銀行がポンド紙幣と金との交換を保証し、世界で初めて強固な「金本位制」を確立

した。金本位制の導入により、ポンドという通貨の価値が金で裏付けられるようになっ

た。世界の国々は安心してポンドを保有できるようになり、世界の貿易は、ポンド決済が

常識になった。各国は、超大国であるイギリスの通貨に金という裏付けがあれば、価値が

4 第4章第1節は FX(2012年 3月 26日)を参照した。

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しっかりと守られ、安心だと考えたのである。この結果、多国間の金融決済機能はイギリ

スの首都ロンドンに集中し、ロンドンは金融の街へと発展したのである。ポンドが世界の

中心通貨だったこともあり、経済大国でもあったイギリスにユーロを導入しなくてもやっ

ていける自信がイギリス人にはあったと思う。島国でもあり、軍事的にも力があり、経済

大国でもあったイギリスは EUと少し距離を置いていたことにより、離脱にたいしてあま

り抵抗はなかったのではないかとも考えられる。

第4章第2節 EU所属によるメリット

人、モノ、カネ、サービスの4つが域内を自由に移動できるのが EUの単一市場。イギ

リス政府は離脱後、移民対策として「人」の流入を規制しつつ、それ以外の分野はできる

だけ単一市場に残る意向だったとされる。ここでは EU加盟によるメリットを挙げてい

く。まず初めに EU加盟による長所、短所はその人の立場によって変わっていくので、大

まかに挙げていきたい。一つは、先ほど述べた人の移動である。つまりパスポートがなく

ても行き来できることである。これによって EU内での通勤、通学がスムーズに行われ

る。私は学生なので色々な国の学校へ通える選択肢があることはとても魅力的だと思う。

次にモノによる移動である。関税同盟を結んだ国の間では原則的に関税をかけずに貿易に

よる物品のやり取りを行うことができ、同盟を結んでいない国に対しては、関税同盟の参

加国すべてが同じ関税率をかけることができる。

次に第四章第一節でも少し触れた単一通貨のユーロがある。(導入していない国もあ

り)ユーロ導入のメリットを私は大きく三つに分けて考える。一つ目は、従来は共同体内

部に存在していた為替相場リスクや、そのリスクヘッジのために企業が負担するコストが

低減することとなり、ユーロ圏内での通商や経済協力が増大する事が期待されている事で

ある。二つ目は、経済成長をもたらす大きな要因のひとつである通商に有利であり、つま

りユーロによってヨーロッパの企業は巨大な経済圏で活動するという利益を享受出来る。

三つ目は旅行者にとっては一々両替もせずレートに悩む事が無いので旅行する人にとって

は EUが魅力的に思えるし便利である。しかしデメリットもたくさんある。当然各国間の

経済状況などは各国通貨の為替で調整変動出来るが、景気循環が非同期的であることによ

って適切な金融政策が困難である。単一通貨に参加することによる為替相場の固定によ

り、域内地域格差問題が発生し、特に ERM非参加国の東欧諸国の労働賃金の安さから投資

が増加、別の国での失業率の高止まりの懸念。自国の総需要管理の強力な誘導手段である

政府支出と金利調整機能が欧州中央銀行で一本化され、国債発行の単年度 GDPの 3%制限と

言う制限がかかっているため、制限がかかりすぎるなどが挙げられる。実際イギリスがユ

ーロ通貨じゃないのもこのためだと考えられる。

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第4章第3節 EU所属によるデメリット

第4章第2節では EU所属によるさまざまなメリットを述べたが、第4章第3節はデメ

リットを大きく二つに分けて挙げていきたいと思う。一つ目は人の移動に制約がかけられ

ることだ。一つの例として単一パスポート制度を挙げる。単一パスポートとは、金融機関

が EU加盟国の一つで認可を取得すれば、域内の他の国でも業務を展開できる制度であ

る。域内の自由なサービスを促進するために導入された。預金や貸し出しなどの銀行、資

産運用、保険仲介など業務によってパスポートの種類があり、大陸欧州諸国からも約8千

社が利用し英国で活動しているが、英国の金融団体は 12日、欧州連合(EU)からの離脱

交渉で、同じ免許で EU域内で自由に業務ができる「単一パスポート制度」の維持を政府

に求めない方針を示した。移民制限を重視するメイ政権の姿勢から同制度の維持が難しい

と判断したもようである。英金融界は同制度に代わる仕組みを求める方針だが、交渉の行

方は金融センターとしてのロンドンの地位に影を落としそうだ。二つ目は関税同盟の撤廃

である。関税同盟とは、同盟を結んだ国の間では原則的に関税をかけずに貿易による物品

のやり取りを行うことができ、同盟を結んでいない国に対しては、関税同盟の参加国すべ

てが同じ関税率をかけることができる。つまりモノによる移動である。これは輸出入に大

きなダメージを受けると考えられる。今後英国の動向に注目すべき案件である。今後の EU

との関係についてはメイ氏は「部分的な EUへの加盟や準加盟国ではない。つまり、半分

残り、半分出るようなことはない」と発言する見通しである。加盟国の間でモノやサービ

スなどを自由に取引できる EUの単一市場から離脱する用意があることを明確にするもよ

うである。同盟国の間で関税なしに取引できる関税同盟から脱退するかどうかも焦点で、

離脱交渉に向けた英国の立場を明確にする方針だ。英金融団体の「ザ・シティーUK」は

12日、離脱交渉に向けた政府への要望文書のなかで、これまで求めていた単一パスポート

制度の維持を取り下げた。代わりに、英国と EUが互いに市場を利用できる独自の仕組み

を作り上げるべきだと主張した。

第5章 イギリスの 2017年の国民投票

第5章第1節 連合王国としてのイギリス

イギリスの正式名称は「グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国」である。つ

まりは複数の国による「連合」という特徴も、イギリスは持つのである。その複数性は、

サッカーのワールドカップなどでは「イギリス代表」ではなくら「イングランド」「スコ

ットランド」「ウェールズ」「北アイルランド」のそれぞれの代表が存在している点などに

うかがい知ることができるだろう。その意味でイギリスは、4つの国の集まりと考えるこ

ともできる。

第5章第2節 2017 年の国民投票の結果

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廣田 龍志「英国のEU離脱について」 (2018 年 1 月 10 日提出 ゼミ卒業論文)

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イギリス全体での 2017年の国民投票での結果は、離脱が 51.9%・残留が 48.1%であ

る。これを王国別に見てみよう。以下結果(イングランド 残留 46.8%-離脱 53.2% スコ

ットランド 残留 62%-離脱 38% ウェールズ 残留 48.3%-離脱 51.7% 北アイルランド

残留 55.7%-離脱 44.3%)である。特にスコットランドでは 62%と、残留を希望する声が多

く、独立問題が再燃している状態である。

第5章第3節 スコットランド独立問題

スコットランドでは独立問題が再燃している。イギリスから独立したい主な理由として

は歴史的な背景もあるが、北海油田による貿易関税の制限で輸出入のコストがかからない

と言われている。スコットランドでは、2014 年の住民投票でイギリスからの独立が否決さ

れ、いったん独立問題には決着がついたかに見えていた。しかし、EU残留・離脱の国民投

票において、スコットランドだけをとれば EU残留が多数をしめたこともあり、ならばス

コットランドはイギリスの方を離脱し、スコットランドときて EUに残留しようという声

が上がり始めたのである。スコットランド議会の与党スコットランド国民党の党首である

ニコラ・スタージョンは、EU離脱という国民投票の結果を受け、イギリスからの独立を問

う再度の住民投票を目指す意思を表明した。また、やはり残留が多数を占めた北アイルラ

ンドでも、イギリスから脱退してアイルランドと統合しようという声が聞かれるようにな

った。EU離脱という決定の後、イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルラ

ンドから構成される連合王国としてのイギリスは、解体の危機にもさらされている。さら

にこの国民投票は、社会レベルでの対立も顕在化させることになった。イギリスでは、移

民排斥や外国人嫌悪が、大きな問題となったり、犯罪に繋がったりすることは比較的少な

かった。しかし、EU離脱決定後はその状況は変化しつつあり、移民への嫌がらせなどが相

次いで報じられている。移民が大きな争点となった国民投票をきっかけとして、社会での

分断も顕在化しつつある。このように EU離脱という決定は、イギリスにおける亀裂や分

断、対立を激化させ、あるいは表面化させることになったという点で、むしろその決定後

こそが問題となっているとも言えよう。

第5章第4節 なぜイギリスは EU離脱を選んだのか 5

なぜイギリスは EU離脱を選んだのか?ここで 2017年 1月 17日と 2017年 1月 22日の

日本経済新聞よりまとめてみる。まず EUは基本理念として、域内でヒト、モノ、資本、

サービスの4つの「移動の自由」を掲げている。イギリスは 2000 年代、ポーランドなど

東欧の新規加盟国から労働力を積極的に受け入れ、近年の移民の純増数は約 30万人に上

る。ただ金融危機にともなう雇用情勢の悪化を受けて、労働者を中心に「移民に職を奪わ

第5章第3節は近藤(2017)を参照した。

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れている」という不満が蓄積した。EUの官僚的な体質や細かな規制、英国が負担する EU

への拠出額の大きさを問題視する声もあった。2013年、こうした不満を受けてキャメロン

首相(当時)が EU残留か離脱かを問う国民投票の実施を表明。2016年6月 23日に投票が

行われた。キャメロン首相は EU 残留を訴えた。当初は残留派が勝利するとみられていた

が、人気があった前ロンドン市長のジョンソン氏などが離脱を支持。投票では僅差で「離

脱」が「残留」を上回った。キャメロン首相は投票の翌日、辞任を表明した。

第6章 今後の EUとイギリス

第6章第1節 今後のイギリスの課題

2016 年の国民投票で、イギリスは EU から離脱することが決まったが、イギリスは EU に

加盟こそしているものの、もともと加盟国の中では最も疎遠かつ受動的、時には対立的とな

る国でもあった。例えば、共通通貨ユーロへとつながる通貨統合には参加せず、また国境を

越えて人々の行き来を自由にするシェンゲン協定からも除外されている。統合が進むにつ

れて EUで行われた立法が加盟国の法律に影響する事例は増えてきたが、それは主権の問題

とも関連している。共通通貨ユーロは、通貨政策にかかわる主権の問題であるとともに経済

の問題でもあり、両方にまたがっている。さらに、イギリスの人々は他の加盟国に比べれば

「ヨーロッパ」に対するアイデンティティが弱く、EU の制度に対する信頼性も低いという

データが出ており、人々の認識や文化に関わる問題という側面も持つ。EU が発展するにつ

れ、さまざまな分野に関わる多元的な問題として、イギリスと EUの関係は複雑化してきた

のであった。EU 統合が進展すればするほど、つまり EUが多くの政策分野にまたがる存在に

なればなるほど、イギリス側は対立が複合化したら混迷が深まるという、いわば反比例のよ

うな関係が、イギリスと EUとの間には存在していたのである。

7月にキャメロン政権で内相を務めていたメイ氏が首相に決まり、離脱派だったジョンソ

ン氏が外相に、デービス氏が EU 離脱担当相に就いた。メイ氏は 10月、3月までに EUと離

脱交渉を始めると表明した。EU の基本条約「リスボン条約」は加盟国の離脱について、通

告から2年以内での脱退協定の締結を定めている。メイ氏は 17日の演説で、英国は欧州連

合(EU)の単一市場からも、関税同盟からも撤退する「完全離脱」という計画を発表した。

EU とは決別するわけである。イギリスが EU からの移民の流入を抑制し、EU 司法裁判所の

くびきから逃れたいのであれば「半分入っていて、半分出ている」という選択肢などないと

述べた。まず 27カ国には EU離脱の連鎖を防ぐという強い目標がある。「EU離脱は損」と企

業や市民に示すには、英国に厳しくあたらざるを得ない。さらに 27カ国の経済規模は英国

の約6倍と圧倒されている状態である。英政府内には通商交渉を担える人材が不足してい

る現実もあり、力関係は最初から明らかだった。英政府内には、かねて移民制限を最優先課

題とするジョンソン氏ら「強硬離脱派」と、単一市場残留など経済面を重視するハモンド氏

ら「穏健離脱派」がおり、隔たりが指摘されていた。今年1月には離脱交渉で重要な役割を

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担うはずだった駐 EU 大使が突然辞任し、不協和音が指摘された。メイ氏が今回、EU単一市

場から完全に離脱する準備があると表明したのは、こうした国内の動揺を抑える狙いがあ

るとの見方もある。

第6章第2節 これからのイギリス

イギリスでは 2017年 6月の下院選挙で与党が敗北した。結果論ではあるが、メイ首相が

決断した突然の下院選挙実施は完全な失敗だった。与党が惨敗したことで、イギリスの政権

内は空中分解しかねない状況である。与党が内部分裂した結果、EU 離脱交渉が難航してお

り、メイ首相のリーダーシップにも疑問符が付いている。敗因の原因はメイ首相がら国民の

声にきちんと応えていなかったからだ。国民が不満やわため込んでいる背景には経済格差

がある。イギリスの実質所得は、過去 10年間下がり続けているし、公的サービスも財政赤

字によって削られ、国民の生活不安は高まっている。

2017年の選挙で、国民は政府に対して、こうした不安を解消する政策を期待していたが、

メイ首相はその不満に応える政策を打ち出せず、むしろ焦点を EU 離脱に絞ってしまった。

政府に対して拡散解消を求めていたが、現政府は EU離脱だけを考えてしまった。経済の失

速が顕著になれば、EU 離脱を巡って 2 度目の国民投票を実施すべきだという要望が国民か

は上がってくる可能性があり、イギリスが EU 離脱を撤回する可能性があるかもしれない。

ただし国民投票は 2019 年 3 月までに実施する必要がある。それ以降は正式に EU を離脱し

てしまうので、法的に撤回することはできない。現在、英国が EUに求めている移行期間に

ついて、いつ合意できるか。移行期間が担保されるならば、現在、英国に拠点を置く企業で

あっても、2019 年 3月から 2年程度は、EUのルールの下に、経済活動が続けられる。現在

には、2018 年春までに妥協ができるかが鍵を握るだろう。それまでに決まらなければ、離

脱の期限とされる 2019年 3月まで 1年を切る。さすがに 1年前までに何の合意もできなけ

れば、企業はイギリスから拠点を移さざるを得ない。特にイギリスの主力産業である金融業

で、この動きが顕著になるだろう。

第6章第3節 今後の EU

「反 EU」の機運が高まり、「大欧州」の統合理念がかつてないほどに試された 2017 年。

その舞台となったオランダ、フランス、ドイツの選挙は、いずれも「新 EU」勢力が勝利し、

危機は去ったように見えるが、2018 年は、欧州統合が再び動き出す年になるのだろうか。

ドイツとフランスが主導する EU 統合の深化に反対することの多かった英国が EU 離脱によ

っていなくなり、改革は加速するだろう。反 EU勢力の動きは全体を見れば沈静化したと言

える。2017年に注目を集めた選挙では、いずれも反 EUを掲げる勢力が敗北した。オランダ

やフランスの離脱派は選挙後、勢いを失った。ただし、本当に沈静化したか判断するには、

まだ時間が必要だろう。また、2018 年のイタリア選挙が注目である。現在のイタリア選挙

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廣田 龍志「英国のEU離脱について」 (2018 年 1 月 10 日提出 ゼミ卒業論文)

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の世論調査を見ると、支持する政党の上位には反 EUを掲げる政党が並んでいる。結果次第

では、再び反 EU勢力が息を吹き返すかもしれない。中東のシリアなどから流入する難民に

ついてはトルコとの関係が鍵を握る。EU とトルコは 2016 年 3 月に EU 加盟国に不法入国し

た難民をトルコに強制送還する国際合意を交わした。難民の流入を抑制するには、EU はト

ルコに頼らざるを得ない。トルコとの関係悪化は即、難民問題に直結するだろう。いま、現

在は良好とはいえないが、EU はなんとかして難民問題の政治課題にしないように努めなけ

ればならないだろう。

【参考文献】

【日本語文献】

近藤康史(2017)『分解するイギリス~民主主義モデルの漂流』ちくま新書 1262

【新聞】

『日本経済新聞』(2017年 1月 22日)「英 EU完全離脱の衝撃 経済的コスト、膨大 米

との接近優先か」

『日本経済新聞』(2017年 1月 17日)「英国、なぜ EUを離脱?」

【インターネット】

FX(2012年 3月 26日) 「基軸通貨の歴史 」http://www.at-fx.jp/page/key.html

外務省 (Ministry of Foreign Affairs of Japan) (2010年 2月 3日)「外務省: わかる!

国際情勢 EU(欧州連合)~多様性における統合」

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol53/index.html、?年?月?

日閲覧

外務省(2016 年 6月 1日)「欧州連合(EU)概要|外務省」

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/EU/data.html

SYNODOS.Inc. (JAPAN)(2016 年 6 月 28 日)「イギリスの EU 離脱とスコットランド――

独立への茨の道 / 久保山尚 / スコットランド史 | SYNODOS -シノドス -」https://synodos.jp/international/17389

駐日欧州連合代表部 (2016)「駐日 EU代表部公式ウェブマガジン EU MAG」

http://eumag.jp/

長沢孝昭(2013年 11 月 22 日)「移民・難民政策の強化に乗り出した EU | 駐日 EU代表部

公式ウェブマガジン EU MAG」http://eumag.jp/behind/d1113/、?年?月?日閲覧

著作権者不明 (公表年不明)「関税同盟」、

http://overseasdept.net/%e9%96%a2%e7%a8%8e%e5%90%8c%e7%9b%9f/、?年?月?日閲覧

(本文・註では「関税同盟」と称す)