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1 2018524本村 真澄 ロシアから欧州への天然ガス輸出と ノルドストリーム-2の動向について

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2018年5月24日

本村 真澄

ロシアから欧州への天然ガス輸出とノルドストリーム-2の動向について

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目 次

1.Nord Stream 2の動き

2.欧州でのガス需要見通し

3.欧州向けパイプラインの通ガス量

4.米国による新対露制裁法(2017年)

5.その後のNord Stream 2を巡る動き

6.ソ連から対欧州へのガス輸出の歴史

7.まとめ

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何故Nord Stream 2パイプラインが必要か?・1970年代から、西シベリアから欧州向けのガスパイプライン網が発達。現在はユーラシア全体をカバー。

・欧州は今後もガス需要増が見込まれる一方で、域内のガス生産は減退に向かう。よって、ガス輸入インフラの長期的な整備が欠かせない。

・最新のパイプラインとしては露からバルト海を通り独に直接ガスを送るNord Streamが2011年に完成。独北部へは3,200km(南部向けは4,700km)

・今後の需要増を見込みNord Stream 2が計画されているが米と東欧で反対あり。(JOGMEC作成)

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最初のNord Streamは、

増大する欧州のガス需要を見越し、2005年ウクライナに反露政権が出来たのを受けてVyborg-Greifswald間で計画立案。2011年に稼働開始。550億m3/年。権益は露Gazprom51%、独E.On、BASF各15.5%、蘭Gasunie,仏GdF Suez各9%(欧州企業49%)。2017年の稼動率93%-Nord Steam 2が追加

Nord Stream

(Nord Stream 2 GA websiteの図に加筆)

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Nord Stream 2の概要(1)

• 経 緯• 2015年6月:Gazprom, Shell, OMV(墺)、E.On(独、Uniperと改称)で事業覚書

• 7月:Engie(仏)Wintershall(独)が参加意向表明(欧州5社)• 2016年7月:ポーランドがEU競争法に基づきJV設立反対

• 事業体:Nord Stream 2 AG(スイス法人, Gazprom 100%)

• ルート:バルト海Ust’-Luga(露)→Greifswald(独)

• 総事業費:$112億(Eur95億)

• 輸送能力:550億m3/年 総延長1,220km

• 稼働開始:2019年暮れ• 露・ウクライナガス契約の終わる2019年に稼働開始• ウクライナ・ポーランド迂回パイプラインとなる

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Nord Stream 2の概要(2)

• ポーランドによるEU競争法に基づく措置• 2015年6月:当初Gazprom50%,Shell(英蘭),OMV(墺)、

E.On(独、Uniperと改称)Engie(仏)Wintershall(独)各10%が参加してJVを設立する予定

• 競争法に基づくポーランドの反対によりJV設立断念

• Gazpromが100%出資、他社は長期資金を拠出• 資金比率:Gazprom(50%)、欧州5企業(各10%)

• Gazprom:自己資本調達 15%、プロジェクト・ファイナンス 35%• 欧州5社:劣後ローン 15%、繋ぎ融資 35%

• シェフチョヴィッチ(Šefčovič)ECエネルギー連合担当副委員長:Nord Stream 2に関して、対露依存が高まることから欧州のエネルギー安全保障に悪影響がある

• ユンケルEU委員長:Nord Stream 2は「商業的」なものであり、EU内市場ルールの順守のみ要確認

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Nord Stream 2:通過国による批判

• ポーランド・ドゥダ大統領(2015年9月7日):「このプロジェクトは

ポーランドの利益を完全に無視しており、EUの結束に重大な

疑念が生じている」

• ウクライナ・ヤツェニュク首相(当時)(9月9日):「これは反欧州、

反ウクライナ的なプロジェクトであり、ウクライナの年間約20億

ドルのトランジット収入に損失をもたらす措置だ」

• スロバキア・フィツォ首相(9月10日):「Nord Stream 2に署名し

た西欧ガス企業はヨーロッパ諸国を裏切った。EU諸国がウク

ライナ経由のトランジット維持の必要性を、我々は主張して来

たが、突然ウクライナ迂回を可能にするNord Stream 2が合意

された。スロバキアは年間数億ユーロのトランジット料金を失う

可能性がある」

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目 次

1.Nord Stream 2の動き

2.欧州でのガス需要見通し

3.欧州向けパイプラインの通ガス量

4.米国による新対露制裁法(2017年)

5.その後のNord Stream 2を巡る動き

6.ソ連から対欧州へのガス輸出の歴史

7.まとめ

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9出所:IEA Natural Gas Information

各国の天然ガス・LNG需給バランス

(2015年)

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2016年2017年の欧州ガス調達

(Gazprom Export)

2017年輸入量:2,946億m3

ロシアのシェア欧州輸入量の:66%欧州消費量の:34.2%

2011年は27.3%

2017年域内生産量:2,161億m3

Bcm/y

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欧州は継続的にガス輸入増へ

年 2016 2025 2040欧州ガス需要 5,900 6,040 6,310欧州ガス生産 2,850 2,440 2,360ガス輸入量 3,050 3,650 4,070

欧州でのガス輸入量(単位:億m3)IEA:WEO 2017

但し、Groningenガス田が2030年までに生産停止する予定で、生産量は下振れリスクあり

2005年EU予想:需要は20年で16%増加域内生産減少で輸入は20年で62%増加再エネ登場で域内需要は鈍化へ注:EUの予測なのでNorwayは輸入分に編入されている

注:欧州の予測なのでNorwayのガスは域内生産に入る

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目 次

1.Nord Stream 2の動き

2.欧州でのガス需要見通し

3.欧州向けパイプラインの通ガス量

4.米国による新対露制裁法(2017年)

5.その後のNord Stream 2を巡る動き

6.ソ連から対欧州へのガス輸出の歴史

7.まとめ

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Nord Stream稼働前(2010年)の通ガス量

ウクライナ経由の欧州向けガスの比率は約80%

(JOGMEC作成)

単位:億m3/年

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Nord Stream 完成後(2013)のガス通過量

当時、Nord Streamは能力の半分程度しか輸送できなかった

(JOGMEC作成)

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Nord Streamがフル稼働に(2017)

ロシアから欧州向けガス輸出:1730億m3/年(JOGMEC作成)

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Nord Stream 2完成後の輸送量

2017年:ロシアから欧州向けガス輸出:1,944億m3/年 (JOGMEC作成)

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目 次

1.Nord Stream 2の動き

2.欧州でのガス需要見通し

3.欧州向けパイプラインの通ガス量

4.米国による新対露制裁法(2017年)

5.その後のNord Stream 2を巡る動き

6.ソ連から対欧州へのガス輸出の歴史

7.まとめ

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2017年の米の対露追加制裁(1)

EU 米

2017年8 月 2 日対 米 敵対 者 制裁法

Gabriel 独外相とKern墺首相は米

国を非難。

216条;制裁緩和の議会審査義務付け223条;米国人に対し金融機関への14日超の資金調達禁止、エネ企業 (Rosneft, GazpromNeft,Transneft, Novatek)への60日超の資金調達禁止、①石油の可能性のある②露企業が33%超の支配

権・所有権を持つ新規の大水深・北極海・シェール事業の技術支援の禁止。232条;大統領は同盟国と協同しロシアのエネルギー輸出パイプライン等への投資、及び1回$100万または年に$500万以上の物品、役務、技術、情

報提供を禁止。(米国人および外国人を対象)233条:露国有資産民営化への$1000万超の参加禁止。(太字は下院での修正)

「対米敵対者制裁法」(Countering America’s Adversaries Through Sanctions Act, CAATSA)はイラン、北朝鮮、ロシアを対象

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2017年の米の対露追加制裁(2)

・第232条に記された「エネルギー輸出パイプライン」とは、

石油とガスのパイプラインが該当するが、特に欧州で計画の進行している「Nord Stream 2」を念頭にしている

・米上院での採決後に欧州側から澎湃と批判が寄せられ、これに対して下院の修正で「大統領は同盟国と協同して(in coordination with allies)」という文言が挿入された。即ち、

米国による一方的な処置ではなく、欧州諸国との協議を義務付ける形式にしてあり、欧州諸国の立場に配慮した形・欧州ではこれを以って制裁は免れたと捉える見方も

・大統領の署名後ホワイトハウスは、「イランと北朝鮮、ロシアに厳しい制裁を課し、挑発的で安定を脅かす行動を抑止することは支持するが 、この法案には重大な欠陥がある」との声明を発表し、不本意な署名であることを窺わせた

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「制裁法」:P/L推進側の受け止め方

•GazpromのMedvedev副CEO:

「米国のLNGを欧州に輸出するための方策に過ぎない」

• ドイツ・Gabriel外相とオーストリア・Kern首相:

「欧州の市場からロシア産ガスを締め出して、米国産LNGを輸出し、米産業の雇用を確保することがこの法案の狙いだ。対露制裁を米国の経済的利益と結び付けるべきではない。欧州の産業の競争力と、何千人もの雇用がかかっている。誰がどのように欧州にエネルギーを供給するかは米国ではなく、われわれが市場経済の競争原理に基づいて決めることだ」

→下院で232条に「大統領は同盟国と協同して」という修正が入って以降は、表立った批判は報道されず

→Nord Stream 2はパイプ、敷設業者等の発注へ

→米国の黙認を前提、事態は曖昧なまま推移

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「制裁法」:ウクライナの反応

• 2017年7月ウクライナを訪問したティラーソン国務長官(当時)に対して、ポロシェンコ大統領は、米国によるNord Stream 2建設を停止させる新「制裁法」の動きに関して、「この極めて政治的なプロジェクトを許さないというワシントンの明確で効果的、断固たる姿勢」が示されたとして謝意

• ウクライナ国営石油(Naftogaz)のコボレフ(Kobolev)CEO:「Nord Stream 2およびTurk Streamパイプラインによって、ウクライナはガス輸送の役割を失い、この国のガス輸送システムの価値は5分の1に低下してしまう

→欧州内でもパイプライン新規投資国(エネルギー市場派)と既往通過国(対露ガス依存+反露)との間で利害が相反

→米議会は反露の立場から既往通過国支援

→米大統領が欧州同盟国とP/L建設で協議に入る様子なし

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目 次

1.Nord Stream 2の最動き

2.欧州でのガス需要見通し

3.欧州向けパイプラインの通ガス量

4.米国による新対露制裁法(2017年)

5.その後のNord Stream 2を巡る動き

6.ソ連から対欧州へのガス輸出の歴史

7.まとめ

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その後のNord Stream 2を巡る動き

• 2017年10月31日:米国務省は対米敵対者制裁法(CAATSA)のガイドラインを発表

– 制裁が発動されても、それは2017年8月2日およびそれ以降の投資が対象で、8月2日より以前の投資、融資合意には適用されない。

– Nord Stream 2の欧州企業との融資契約が2017年4月に結ばれており、制裁の影響は受けない

• 2018年4月10日:独メルケル首相発言

– Nord Stream 2の実現にはウクライナがガス通過国として保証されることが条件

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EU法のNord Stream 2への適用議論

• ECの欧州ガス指令改訂案(2017年)

– エネルギー市場規則を欧州向けPLに域外適用

• ガス供給者のPL所有の禁止(unbundling)• 差別的タリフの適用禁止

• 第3者アクセスの容認

– 欧州域外のNord Stream 2を念頭に置いたもの

• EU理事会法務部門の見解(2018年3月1日)

• EUはその排他的経済水域(EEZ)を通過するパ

イプラインに対して、自らのエネルギー法を適用する管轄権を有さない

– ECがGazpromとNS2で交渉する必要性を認めず

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Nord Stream 2の最近の動き

• 2017年4月:スイスAllseasと深海部のパイプ敷設契約

• 8月:伊Saipemと沿岸部でのパイプ敷設契約

• 11月:デンマーク議会が安全保障・外交上の理由からパイプライン建設を阻止できる様に法改正

• 2018年1月:独政府から領海内55kmの建設許可

• 3月:独排他的経済水域での建設・操業の許可

• 3月:フィンランドから環境影響評価優良賞受賞

• 4月:フィンランド政府から同国EEZでの建設許可

• 5月:Nord Stream AGはGreifswaldで建設開始予定

• (露とスウェーデンの建設許可待ち。デンマークの対応が予測不能)

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国連海洋法第79条:「大陸棚における海底電線及び海底パイプライン」

第1項:「すべての国は、大陸棚に海底電線及び海底パイプラインを敷設する権利を有する」

– 国際法はパイプライン敷設の権利を基本的に認めている– Nord Stream計画時にポーランドは激しく反対したが、沿岸国のスウェーデンは第79条第1項に基づき認可

第2項「沿岸国は、パイプラインの敷設または維持を妨げることができない」

– 沿岸国はパイプラインに関して、領海の外側において尊重義務

第3項「海底パイプラインを大陸棚に敷設するための経路の設定については、沿岸国の同意を得る」

– 環境アセスメントの沿岸国による審査において特段問題がなければ、この同意を得ることが出来る

第4項「この条約のいかなる規定も(略)その領土若しくは領海に入る海底パイプラインに対する当該沿岸国の管籍権に影響を及ぼすものではない」

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目 次

1.Nord Stream 2の動き

2.欧州でのガス需要見通し

3.欧州向けパイプラインの通ガス量

4.米国による新対露制裁法(2017年)

5.その後のNord Stream 2を巡る動き

6.ソ連から対欧州へのガス輸出の歴史

7.まとめ

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ソ連から欧州へのガスパイプライン網

1960年:西シベリアでガス発見1969:10月西独ブラント政権発足、東方外交(Ostpolitik)を表明。緊張緩和(détente)へ。11月ソ連への大口径管輸出とソ連産天然ガス輸入で合意12月:イタリアも追随

1973:「北光」とTransgas建設西独へソ連ガス輸出

1974:伊へソ連ガス輸出1976:仏がスワップによるソ連産ガス輸入(蘭伊仏)

1981:レーガン政権が米国製石油ガス資機材の禁輸

名 称 起 点 開始年 終点 口径 総延長 容 量 目的地

inch km 10億 m3/年兄弟 Kiev 1967 Ushgorod 32 540 15 チェコ

北光 Urengoy 1973 Ushgorod 48/56 4,200 29 東欧西欧

Soyuz Orenburg 1978 Ushgorod 48/56 2,750 26 東欧西欧

Urengoy Urengoy 1984 Ushgorod 48/56 4,451 28 西欧諸国

Progress Yamburg 1989 Ushgorod 56 4,605 28 東欧西欧

Yamal欧州 Yamal 2003 ドイツ 56 2,000 - ドイツ

(諸情報からJOGMEC作成)

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ソ連から西欧向けシベリア天然ガスPLへの米レーガン政権の懸念とその後の展開

• 1981年、レーガン政権のリチャード・パール国防次官補が議会証言:「欧州がソ連産ガスに依存するのはその影響下に入ることである。米欧連携の弱体化に繋がる」

• 同年12月:米がソ連とポーランドに対して経済制裁

• 「武器」としてのパイプラインというのが米の認識

• 1991年12月ソ連崩壊。政治主体がなくとも、通常通り天然ガス供給は続いた。経済的な利益が優先されたもの

• 欧州向けPLは約40年間、安定的に操業されソ連、欧州ともに利益をもたらしている。地域の「安定装置」機能

• 欧州産業界はロシア産ガスの安定性を高く評価

• ガス・パイプライン・ビジネスにおいては、支配・被支配の関係はなく、 「双務的・互恵的」

→米国はロシアの対欧ガス輸出に一貫して反対姿勢

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欧州における天然ガスパイプライン網の発達(1970年と2002年)

ソ連・ロシア、更にアルジェリアからの幹線パイプラインは「双務的・互恵的」に機能し、欧州におけるエネルギー事情の「安定」に寄与した

出典:石田聖(2005)石油・天然ガスレビュー, v.39, n.4

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目 次

1.Nord Stream 2の動き

2.欧州でのガス需要見通し

3.欧州向けパイプラインの通ガス量

4.米国による新対露制裁法(2017年)

5.その後のNord Stream 2を巡る動き

6.ソ連から対欧州へのガス輸出の歴史

7.まとめ

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ま と め

• 欧州ガス市場は需要増と域内生産減で長期的に輸入増が見込まれ、輸送インフラの継続的建設が必要

• このため2011年にバルト海経由のNord Streamが稼働、更にNord Stream 2で輸送能力倍増をはかる計画

• これによりガス通過量が減少し通過料収入の減るポーランド、ウクライナ、スロバキアは猛反発

• 米国は「対米敵対者制裁法」により欧州企業のNordStream 2への投資を禁止するも、実効性乏しい

• Nord Stream 2は通過国の認可がほぼ降り工事開始へ

• ロシア(ソ連)から欧州へのガス輸出は1973年から。長い実績があり、欧州での導管網形成の先導役となった