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JPEC レポート 1 平成 27 年 6 月 22 日 中国の原油・石油製品の需給と輸出入動向 2014 7 月に開催された中国共産党 中央政治 局中央委員会において、『新常態(ニューノーマル)』 という中国経済の現状を表す新たな言葉が飛び交 い、同年8 月の人民日報では 4 日間連続で「中国経 済 新常態」と題した特集を組み、中国経済の高度 成長が終焉したことを内外に印象づけた。 ほぼ同時期、100 米ドル/bbl を超えていた国際原 油価格は下落し始め、2015 年初めには 40 米ドル /bbl 台にまで落ち込むことになった。 これ以降、中国石油産業は、新常態と原油価格 下落というキーワードをもって語られることになる。 例えば、2015 3 月の第12 期全人代 3 回会議 において、中国石油化工集団公司( Sinopec )の製油 事業部は「新常態下で石油製品需要の伸びが鈍化 しており、石油精製能力はすでに過剰設備傾向を呈 している」と指摘している。また、多くの石油専門家が指摘しているように、中国は原油価格下落 を好機としてとらえ、大量の原油備蓄積み増しを進めているという。 今回のレポートでは、中国のエネルギー需給と原油輸入、石油製品の輸出入動向ついて 報告する。 1. 2014 年のエネルギー需給 1-1 エネルギー需要 新常態に入ったとされる中国経済だが、2014 年の同国実質 GDP 成長率は、前年比 7.4と前年の 7.7%から減速するとともに、同国政府目標の 7.5%をも下回った(図1 参照)。GDP 長率が政府目標を下回ったのは、アジア通貨危機以来、実に 16 年ぶりのことである。 2015 年度 第6回 1. 2014 年のエネルギー需給 1 1-1 エネルギー需要 1 1-2 エネルギー生産 3 2. 原油の輸出入 5 2-1 原油輸入の拡大 5 2-2 原油備蓄 8 3. 石油製品の輸出入動向 10 3-1 石油製品の輸入減少 10 3-2 石油製品の輸入動向 10 3-3 石油製品の輸出動向 11 3-4 LPG の輸出入 12 4. 中国の石油製品輸出政策 13 4-1 製油所の建設 13 4-2 石油製品の輸出政策 14 5. まとめ 16

中国の原油・石油製品の需給と輸出入動向 · 例えば、2015 年3月の第12期全人代 第3回会議 において、中国石油化工集団公司(Sinopec)の製油

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平成27年6月22日

中国の原油・石油製品の需給と輸出入動向

2014年 7月に開催された中国共産党 中央政治

局中央委員会において、『新常態(ニューノーマル)』

という中国経済の現状を表す新たな言葉が飛び交

い、同年8月の人民日報では4日間連続で「中国経

済 新常態」と題した特集を組み、中国経済の高度

成長が終焉したことを内外に印象づけた。

ほぼ同時期、100米ドル/bblを超えていた国際原

油価格は下落し始め、2015 年初めには 40 米ドル

/bbl台にまで落ち込むことになった。

これ以降、中国石油産業は、新常態と原油価格

下落というキーワードをもって語られることになる。

例えば、2015年3月の第12期全人代 第3回会議

において、中国石油化工集団公司(Sinopec)の製油

事業部は「新常態下で石油製品需要の伸びが鈍化

しており、石油精製能力はすでに過剰設備傾向を呈

している」と指摘している。また、多くの石油専門家が指摘しているように、中国は原油価格下落

を好機としてとらえ、大量の原油備蓄積み増しを進めているという。

今回のレポートでは、中国のエネルギー需給と原油輸入、石油製品の輸出入動向ついて

報告する。

1. 2014年のエネルギー需給

1-1 エネルギー需要

新常態に入ったとされる中国経済だが、2014年の同国実質GDP成長率は、前年比 7.4%

と前年の7.7%から減速するとともに、同国政府目標の7.5%をも下回った(図1参照)。GDP成

長率が政府目標を下回ったのは、アジア通貨危機以来、実に 16年ぶりのことである。

2015年度 第 6回

1. 2014年のエネルギー需給 1

1-1エネルギー需要 1

1-2エネルギー生産 3

2. 原油の輸出入 5

2-1原油輸入の拡大 5

2-2 原油備蓄 8

3. 石油製品の輸出入動向 10

3-1石油製品の輸入減少 10

3-2石油製品の輸入動向 10

3-3石油製品の輸出動向 11

3-4 LPGの輸出入 12

4. 中国の石油製品輸出政策 13

4-1 製油所の建設 13

4-2石油製品の輸出政策 14

5. まとめ 16

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図1 中国の経済成長率の推移と予測

このなかで、2014年の中国の1次エネルギー消費量(BP統計、以下同様)は、前年比2.6%

増の 29億 7,210万 toeにまで増加した(図 2参照)。すでに同国は、2010年から米国を抜い

て世界最大のエネルギー消費国となっている。2014 年 同国のエネルギー消費は、世界全体

の 23.0%を占め、米国(17.8%)を大きく上回っている。

2014年 中国の石炭消費量は、前年比0.1%増の 19億6,240万 toeとなった。同国におい

ては、今なお石炭は最大の 1次エネルギー源であり、エネルギー消費量の 66.0%を占めてい

る。また中国は、1987 年段階で米国を上回って世界最大の石炭消費国となり、2014 年には世

界全体の 50.6%を占めている。また石炭燃焼量増加にともない、近年 同国では大気汚染が深

刻な問題になっている。同国政府は、発電用燃料を石炭からより環境負荷の少ない天然ガスへ

の転換政策などで石炭消費量の抑制を進めている。しかしながら、国内で豊富に産出する安価

な燃料として、この膨大な石炭消費量を急速に減少させることは困難である。

図2 中国の 1次エネルギー消費量推移

(年)

(年)

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2014年 中国の石油消費量は、対前年比3.3%増の 5億2,030万トン/年で、1次エネルギ

ー消費量の17.5%を占めた。これは世界石油消費量の12.4%を占め、米国に次いで世界第2

位となっている。また米国の石油消費量は、2005 年の 9 億 3,980 万トン/年から減少基調で、

2014年は 8億3,610万トン/年となっており、2030年代には同国が世界最大の石油消費国に

なると見込まれる。

中国の天然ガス消費量は、西気東輸パイプラインや陝京パイプラインなどの国内幹線、中央

アジア~中国への国際パイプラインの建設および LNG 輸入基地の相次ぐ完成で急速に増加

した。2009年に日本や英国、2010年にカナダを上回り、米国、ロシアに次いで世界第 3位の

天然ガス消費国となっている。2014年は、対前年比8.6%増の1億6,690万toe(1,855億m3/

年)となった。これは、同国 1次エネルギー消費量の 5.6%、世界消費量の 5.4%を占める量と

なる。同国政府の予測では、2020年で天然ガス消費量は 2014年の約 2倍の 3,600億m3/

年に増加するとみられる。

参考までに2014年において、原子力発電は2,860万 toe、水力発電は2億480万 toe、太

陽光発電は 660万 toe、風力発電は 3,580万 toe、地熱発電は 1,060万 toeである。

1-2 エネルギー生産

中国の化石燃料の生産(BP統計、以下同様)は、主力の石炭が2000年以降に大きく伸びた

が、2012 年以降は伸びが鈍化し、さらに 2014 年には減少に転じた。また、天然ガスは 2004

年の西気東輸パイプライン第1線(新疆ウイグル自治区⇒東部沿岸地区まで約4,000km)の完

成により増加した。しかし、2014 年の化石燃料全体の生産量は、石炭生産が低下したため、21

億 7,690万 toe と前年比 1.8%の減少となった。なお、中国の化石燃料は、原油の輸入量拡大

や天然ガスの輸入も開始されたことなどから、全体として消費が生産を上回っている(図 3 参

照)。次項で個別のエネルギー生産について詳しくみる。

図3 中国の化石燃料の生産量推移

(年)

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中国の石炭生産量は、2003 年から 2011 年にかけて急増した。しかしながら、国内輸送

インフラ不足による輸入炭の増加、低効率炭田(小規模または老朽)の閉鎖、経済成長の

鈍化(特に鉄鋼やセメントなど石炭多消費産業)および火力発電の天然ガスへの燃料転換

などの影響により2012年以降に伸びが止まった。ちなみに2014年は、前年比2.6%減の

18億4,450万 toe(38億7,400万トン/年)となり、全世界生産量の46.9%を占めている。

中国の原油生産量は緩やかながら拡大基調にあり、1996 年に年産 1 億 5,000 万トン台

に乗った後も、2010年には年産2億トン台に、2014年は2億1,140万トン/年まで増加し

た。この生産量は、アジア最大であるのはもちろんサウジアラビア以外の中東産油国やア

フリカ産油国を遙かに上回る量である。しかしながら、同国国内の原油確認埋蔵量は、25

億トン(185億bbl)であり、可採年数R/Pは11.9年(BP統計)と短い。

中国の原油生産の40%以上を占めていた大慶油田(黒竜江省)は、1990年代 約5,500

万トン/年の生産を維持していた。しかし、同油田の生産は、2000 年頃から減少に転じ、

2003年には27年間に渡って続いていた 5,000万トン台/年の生産が途絶えた。その結果、

同油田の生産シェアは約20%に落ちたが、依然として同国最大油田であり、今後の原油生

産に与える影響は大きい。

中国石油天然気集団(CNPC)は、2014年後半からの原油価格下落を受け、2015年の

大慶油田の生産を150万トン/年削減するとともに、次期5カ年計画最終年の2020年まで

に 3,200 万トン/年へ減産する方針を打ち出した。すでに同油田の含水率は 93~94%に達

しており、このままの生産水準を継続すれば、早いうちに経済性を喪失するとされる98%

に近づくことになる。CNPC は、原油価格下落のなか 高コストで年産 4,000 万トンを維

持することを諦め、同油田の寿命延長も見据えながら減産の方針を選択したものとみられ

る。なお、長期予測としては、「持続有効発展、創建百年油田(効果的な発展継続で 100

年間の生産油田を作る)」戦略のもと、同油田開発100周年にあたる2060年時点の油ガ

ス生産を2,000~2,500万 toe/年としている。

既存油田の減産のなか、中国の原油生産を年2億トン台に引き上げられている要因は、西

域の陸上油田および海洋油田の存在が大きい。しかしながら、西域油田および海洋油田の増

産は続くが、中国全体としては大きな伸びは期待できない(図4参照)。

新星石油公司(2001年にSinopecが統合)が開発した塔河油田(新疆ウイグル自治区)で

は、年約 730万トンを生産している。また、この10年で大きく生産を伸ばしたのは、陝西省

の延長油田と長慶油田である。すでに延長油田は 1,400万トン/年、長慶油田は 2,500万トン

/年を突破し飛躍的な増産量を達成した。

中国海洋石油総公司(CNOOC)は、1980年代から渤海、1990年代から南シナ海東部お

よび西部で本格的な生産に入り、最近では年間10件程度の新規油ガス田が生産を開始してい

る。今後は、南シナ海の大水深油田の生産も寄与すると見込まれる。

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図4 中国の原油生産量推移

中国の天然ガス生産量は、四川省を中心に 1980 年代から 1990 年代中期まで 1,500 万

toe(約170億m3/年)前後で推移していた。その後は輸送網の拡充もあって急増している。

2007年時点で同国は、世界有数のLNG輸出国であるインドネシアやマレーシアを抜いて

アジア最大となり、2014年 対前年比7.7%増の1億2,100万 toe(1,345億m3/年)まで

増加した。タリム油田は、1990 年代末頃から「克拉–2」(新疆ウイグル自治区、2004 年

12月商業生産開始)など大規模な天然ガス田の発見が相次いで報告され、今では石油より

天然ガス供給源として注目されている。

また中国は、シェールガスやタイトオイルなど非在来型資源も豊富で、開発が順調に進

めば生産量の拡大が期待できる。同国は、2030 年時点で在来型の石油生産量は 2 億トン/

年で現在と同程度だが、非在来型石油生産量は5,000万トン/年規模に達するとされている。

さらに、在来型の天然ガス生産量は、現在の約2 倍以上の3,000 億m3/年に達し、これに

シェールガスや炭層メタンガス生産量の1,500億m3/年が追加されるとしている。

2. 原油の輸出入

2-1 原油輸入の拡大

中国経済の拡大を背景に、中国の石油消費量は、輸入が増加し始めた1995年の1億6,020

万トン/年から、2014年には3倍以上の5億2,030万トン/年に増加している。しかしなが

ら、この間 同国の原油生産は30%程度の増加しかない。

中国の石油純輸入量は、1995年の850万トン/年から2014年の3億847万トン/年まで

急拡大している。そのうち原油輸入量は、2010 年には 2 億 3,931 万トン/年となって国内

生産量を上回り、中国の海外原油依存度は50%を突破した。2014年 原油輸入量は、同国

の政策もあり前年比9.4%増の3億837万トン/年にまで増加した。他方、輸出量はわずか

60万トン/年にまで漸減してきた(図5、図6参照)。

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図5 中国の原油輸出入推移

図6 中国の原油対外依存度推移

中国は、当初 中東産サワー原油をほとんど輸入しておらず、1990年代中頃まではイン

ドネシアとオマーンが中心であった。両国の原油は、硫黄含有量が比較的低く、同国の既

存精製装置構成で容易に処理できたからである。その後、同国の需要拡大に伴い、供給余

力のある中東産油国からの輸入量が増加した。中東情勢の流動化のなか、同国では安定輸

入量確保のため、産油国の分散化に力を注いでいる。

前記理由により中国は、スーダンなどアフリカ産油国からの輸入量を増加させた。2007

年には中東依存度は約45%へと、この20年で最低水準に下げた。しかし、2011年のリビ

ア政変(カダフィ政権の崩壊)および同年の南スーダン分離独立による混乱でアフリカ原

油が伸びず、中東産油国からの輸入が再び上昇に転じた。2014年 中東依存度は52.1%に

なっている(図7、図8参照)。

それでも、中国の中東依存度は、日本(2013年 約84%)と比べるとかなり低く、原油

ソースの多様化はかなりの成果をあげていると評価できる。今後も中東が原油輸入の大き

な部分を担っていくのは確実だが、同国はカザフスタンやロシアからの原油パイプライン

建設、アフリカの産油国との関係強化、パナマ運河拡張および中南米の新運河やパイプラ

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図7 中国の原油輸入構成比の推移

図8 中国の原油輸入ルート(2014年)

イン計画(大西洋岸 ~ 太平洋岸)なども睨みながら南米産油国への浸透も図っており、

今後 中東依存度が急速に高まることはないとみられる。

また、2014年 中国は「輸入原油使用管理の問題に関する通知(于関口原油使用管理有

関関問題的通知)」により、これまで輸入原油使用権を持っていない独立系製油所(地煉)

にも、単系列での精製能力 年間 200 万トンを超える蒸留装置を保有しているなどの条件

を満足すれば輸入原油の使用を認めることになった。これにより、20社程度の地煉が輸入

原油を使用することができるようになる。ただ、認可するのは、あくまでも輸入原油使用

権に限定される。原油を輸入出来るのは、これまで通り国営企業やライセンスを受けた企

業に限られる。なお、精製能力 年間 200 万トン以下の設備は、廃棄することも条件にな

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っている。

2-2 原油備蓄

2014年 中国は石油製品需要に陰りがでるなか、石油製品の純輸入は大幅に減少したが、

原油輸入は増加している。これは、同年後半からの原油価格下落を好機として、備蓄用原

油を大量に調達した結果とみられている(図9参照)。

図9 中国の原油輸入量と金額の推移

2014 年 11 月の第 9 回G20 首脳会議(ブリスベン サミット)で習近平 国家主席は、

G20がデータの透明化について協議した共通認識を受け、「中国は石油の備蓄データを今

後 定期的に公表する」と宣言した。この宣言を受けて、2014年11月 中国国家統計局は、

第 1 期国家戦略石油備蓄計画のデータとして、4 ケ所の国家石油備蓄基地の備蓄量を発表

した(表1参照)。

表1 中国の国家石油備蓄基地の備蓄量

基地名 所在地 貯蔵容量

万㎥

備蓄量

万トン 運営者

舟山 浙江省舟山市 500 398 Sinochem

鎮海 浙江省寧波市 520 378 Sinopec

大連 遼寧省大連市 300 217 PetroChina

黄島 山東省青島市 320 250 Sinopec

計 1,640 1,243

この備蓄量 1,243 万トンは、2014 年における中国の原油純輸入量の約 15 日分となる。

また、合計貯蔵容量 1,640 万m3は、トン換算で約 1,400 万トンに相当するが、備蓄量は

貯蔵容量に対して約89%に留まっており、貯蔵容量は2014年の原油純輸入量に対して約

17日分となる。

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さらに中国は、国家石油備蓄中長期計画に基づき第2期および第3期国家備蓄基地建設

を計画している。第2期計画は、2009年に国務院が批准し、合計2,680万m3の備蓄基地

建設が開始され、すでに、PetroChina の独山子基地(新疆ウイグル自治区)と蘭州基地

(甘粛省)およびSinopecの天津基地(天津市)が完成している。3基地合計貯蔵容量は、

920万m3(約785万トン)である。これを加味すると、同国の貯蔵容量は2,560万m3(約

2,185 万トン)で、2014 年原油純輸入量に対して約 26 日分となる。また、PetroChina

が錦州基地(遼寧省)、Sinopec が湛江基地(広東省)、CNOOC が恵州基地(広東省)

の建設をしている。さらにこの6基地に加え、他の2ケ所(江蘇省と新疆ウイグル自治区)

にも建設予定といわれている。

第3期計画では、2,680万m3の備蓄容量を整備する方針で、候補地は重慶市、海南省お

よび河北省などがあげられており、洋上備蓄も計画されている。これにより中国の戦略備

蓄基地の総容量は、合計7,000万m3規模(約6,000万トン)に達する(図10参照)。

図10 中国の原油国家備蓄基地の位置

2015年に入り中国国家発展・改革委員会は、「原油加工企業の商業原油在庫運営管理の

強化に関する指導意見」を発表した。これは石油精製事業者に対して、原油の在庫量が『処

理能力の 15 日分を下回らないよう維持すること』を指示したものである。最低限の原油

商業在庫制度を構築して、多面的な備蓄システムを確立しようというものである。通常は

15日分の在庫量を確保し、国際原油価格が高騰して1bbl当たり130米ドル以上に達した

場合には、適切に在庫を調整することができるが、10日分は維持しなければならないとし

ている。

中国石油天然気集団(CNPC)は、中国の 2014 年における原油処理能力は合計で 7 億

200 万トン/年(約 1,410 万 BPD)であり、原油商業在庫制度により精製企業の合計在庫

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量は、原油価格が1bblあたり130米ドル未満であれば、精製能力の15日分に当たる2億

1,150万bbl、130米ドル以上であれば10日分の1億4,100万bblになるとしている。

3. 石油製品の輸出入動向

3-1 石油製品の輸入減少

石油製品については、中国の経済成長の鈍化、鉄道の電化の進展および自動車燃料に圧

縮天然ガス(CNG、Compressed Natural Gas)の使用が増加していることなどから、軽

油などの石油製品需要に陰りが出ている。そのため同国では、2014年は輸入が減少し、輸

出が増加した。1991 年以降 23 年ぶりに輸出入量差が 100 万トンを切って、ほぼバラン

スする水準になっている(図11参照)。新常態に入ったとされる中国経済にあって、Sinopec

経済技術研究院は、2020年までの石油製品の需要の伸びは、年率2.5%程度に留まると予

測している。

図11 中国の石油製品輸出入推移

3-2石油製品の輸入動向

2014年 中国の主な石油製品輸入先は、韓国、シンガポール、ベネズエラなどである。

2006 年頃までは輸入量の約 75%を重油が占めていたが、最近はガソリンを除く各種石油

製品も増加し、2014年では重油が60%程度に減少している。(図12、表2参照)

なお、中国の石油製品の輸入関税は、2011 年7 月では軽油およびジェット燃料が 0%、

ガソリンと重油が 1%となっていた。2012 年より石油製品は、全て輸入関税は無税となっ

た。ちなみに、原油輸入関税は、2002年から輸入関税は無税となっている。

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図12 中国の製品別輸出入推移

表2 中国の石油製品の主要輸入国

3-3 石油製品の輸出動向

2014年の石油製品の輸出先は、香港、シンガポール、パナマの順となっている。輸出製

品のシェアは、かつてはガソリンが4~5割を占めていたが最近は15%前後に落ち、代わ

って重油とジェット燃料が中心になっている。なお、ジェット燃料は、3 割強が香港向け

に輸出されている(表3、図13、図14参照)。

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表3 中国の石油製品 主要輸出国

図13 ジェット燃料の国別輸出構成比(2014年) 図14 重油の国別輸出構成比(2014年)

3-4 LPGの輸出入

中国は、日本に次ぐ世界第 2 位の LPG 輸入国で、特に広東省(中国最大の人口〈約 1

億人〉を有し、急速な経済発展を背景に民生用のLPG需要が拡大)が一大マーケットとな

っている。一方、2006 年頃から量的には少ないものの、同国での新規製油所稼働により

LPGの輸出量が徐々に増加し、2014年には134万トンに達した(図15参照)。

図15 中国のLPG輸出入推移

(年)

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2014年 中国のLPG輸入は、前年比68.6%増の710万トン/年であった。米国からの輸

入が、UAE を除く中東諸国を上回ったことが特筆される。また、中東以外にナイジェリ

ア、アンゴラ、カザフスタンなどもあり、輸入ソースの多様化も進んでいる。また、同国

の主要輸出先は、香港、ベトナム、フィリピンで輸出量の約90%を占めている。

中国では、石油化学原料の基礎化学品であるプロピレン需要に対応するため、プロパン脱

水素(PDH、Propane Dehydrogenation)法によるプロピレン計画が相次いで打ち出され

ている。中国オレフィン工業12・5発展計画(2011年12月発表)では、2015年のプロピレン

生産量を2,160万トン/年にし、自給率を77%に引き上げるとしている。この計画の進行具合

によっては、今後大きなLPG追加需要が発生すると見込まれる。

4. 中国の石油製品輸出政策

4-1 製油所の建設

Sinochem は、年間処理能力 1,200 万トンの泉州製油所(福建省)が 2014年 7月に操

業を開始し、国五(EURO Ⅴ)規格の石油製品を生産している(図16参照)。

PetroChinaは、年間処理能力1,300万トンの雲南製油所(雲南省、PetroChinaが51%、

Saudi Aramcoが39%、雲天化集団有限公司が10%を出資)の建設が最終局面に入ってお

り国五規格の石油製品を生産する予定である。

図16 中国の主要製油所位置と建設計画

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Sinopec 北京燕山分公司は、年間処理能力 1,200 万トンの曹妃甸製油所(河北省)建設

計画が 2015 年 2 月に承認された。完成は 2016 年の予定で、国四および国五規格のガソ

リンや軽油を生産し、環境汚染が著しい北京市や天津市などで販売する予定である。

中国の石油精製産業に関して2015年 第12期 全人代第3回会議においてSinopecは、

下記の2点を指摘している。

1) 2014年末の原油処理能力は約7億4,000万トン/年であるが、2015年末には同能力

が7億6,000~7億8,000万トン/年に達する。「石油化学産業規画部署方案」が明

確にしている精製事業の建設計画および地方精製企業の生産能力拡大などを考慮

すると、2020年には原油処理能力は9億トン/年を突破する可能性が高い。

2) 国内経済が新常態に入っていること、バイオ燃料やLNGが石油製品に取って代わ

り、低燃費車および電気自動車などの増加により石油製品需要の伸びが鈍化、石油

精製能力はすでに過剰傾向を呈しており、これを抑制しなければ鉄鋼やセメント業

界と同様に深刻な供給過剰が発生する。

4-2 石油製品の輸出政策

2015年に入って中国石油各社は、供給過多による需給アンバランスおよび石油製品の品

質向上により、石油製品の輸出をさらに拡大する動きを示している。

PetroChina は、メジャーの精製事業撤退が相次いでいるオーストラリア(豪州)市場

への石油製品輸出拡大に乗り出し、2015 年 2 月に傘下の中国連合石油有限責任公司

(China Oil)が豪州の石油製品販売会社と石油製品の供給契約を締結した。豪州の自動車

排ガス規準は高く、EURO-Ⅴ規準の製品が必要だが、同社は同規準に対応したガソリンを

生産できる傘下の大連および錦州の分公司から国五規準のガソリンを豪州東部に輸出した。

PetroChinaは、Singapore Petroleum Co.(SPC、シンガポール)を買収しているほか、

Hin Leong TreadingがシンガポールJurong島西部に建設したアジア最大級の石油ターミ

ナルにも参加している。

Sinopecは、ShellおよびTotalと合弁で潤滑油の流通基地を運営するSingapore Lube

Parkを設立しているほか、2015年5月には傘下の中国石化燃料油銷售有限公司を通じて

BPと折半出資により船舶用燃料油販売合弁企業設立に合意した。

Sinopecは、2015年2月UAEのFujairah港石油ターミナル(FOT)が完成した。ワ

ールドクラスのターミナルで、原油のほか重油、軽油、ガソリンなど石油製品も取扱う。

2014 年CNOOCは、原油加工貿易業務ライセンスを取得、石油製品を輸出できる国営

3社の一角を占めることになった。すでに恵州製油所から香港へジェット燃料を輸出した。

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参考までに中国のガソリンと軽油の性状表を下記添付致します。

参考表1 中国のガソリンの製品規格

参考表2 国五(EUROⅤ)軽油の製品規格

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5 まとめ

今後 中国石油各社は、国内市場の大きな拡大が見込められないなか、製油所の新設およ

び高度化などにより石油製品供給力は増大してきている。同国は、石油製品の需給インバ

ランスを改善するため、海外での販売・流通拠点の整備をさらに進め輸出を増やしていくと

みられる。

先進国向けには石油製品の品質向上が必要になるが、中国は製品品質の向上をさらに加

速させる動きを見せている。2016 年 1 月から国五製品の供給地域を東部地区の 3 特別行

政市と11省に拡大する。また、2018年1月から全国で供給するとしていた国五規格製品

の供給を 2017 年 1 月に前倒することになった。同国は、国内環境対策を進めて国五規格

製品の生産・普及計画を推進するとともに、アジア太平洋圏市場への輸出に力をいれてい

くものとみられる。

中国の精製設備過剰は、2015 年に Sinopec が指摘したように、かなり深刻な事態なる

ことも予想され、中国石油会社は海外市場への傾斜を強めざるをえない状況にある。こう

した動きは、輸出比率が高い周辺国、特に約70%と高い韓国石油各社にとって脅威になる

可能性が高い。すでに韓国では影響が出始めており、中国への石油製品輸出が大幅に減少

(2011年/2014年 約▲36%の約400万トン減)した。このため韓国石油各社は、豪州や

フィリピン、インドネシアへの輸出拡大に取り組んでいる。もちろん日本を含めた他の近

隣諸国への影響も今後注視が必要である。

<参考資料>

中国国務院 http://www.gov.cn

中国国家発展・改革委員会 http://www.sdpc.gov.cn

国家能源局 http://www.nea.gov.cn

中国石油・化学工業聯合会 http://www.cpcia.org.cn

Statistical Review of World Energy 2015年版(BP)

中国の石油産業と石油化学工業 各年版(東西貿易通信社)

East & West Report各号(東西貿易通信社)

以上

本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分

析したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]

でお願いします。

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次回の JPEC レポート(2015 年度 第 7 回)は、「北アフリカ主要国の石油と天然ガス動

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