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ロシア経済の現状とプラスチック産業 長谷川 正Tadashi Hasegawa(長谷川国際技術士事務所) 「ポリマーダイジェスト」Web 版、2006 1 1. はじめに ロシアの現状は、プーチン大統領の政治的指導力により、急ピッチに経済と、治安が改 善され、ここ数年7%以上の GDP 成長率を続けている。その最大の原因は、ロシアが有す る天然資源の豊富さであるが、その中でも世界最大の生産量を誇っている天然ガス生産で、 2004 年度では 5,910 億㎥を達成している。ガスパイプラインについても全長 14 km 達している。一方、石油生産についても、4 4,300 万トンを生産し、世界第 2 位の位置に あり、石油価格の急上昇により、輸出外貨が急ピッチに増加している。 ロシアの人口は約 1.5 億人であるが、ソ連時代の近隣諸国からの労働者も働きにロシアに 入国するので、安価な労働力には心配がいらないようだ。 国土の面積は 17 百万㎡で日本の 46 倍と広い。 ロシアの平均月給は 2004 年度で 245 ドルであるが、モスクワでは 453 ドルと高い水準 になっている。モスクワ市内を視察してもアパート群も整備され、自家用車の普及率も BRIC’s4 カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中ではトップの水準にある。筆者は 40 年前より 10 年ごとにモスクワを訪問しているが、昨今の変化には驚きを感じている。市 民の生活が豊かになったことを実感できる。40 年前は 1 ルーブル 400 円であったのが、現 在は 1 ルーブルが約 4 円であり、地下鉄も、どこまで乗っても約 60 円と非常に安い。市内 のデパートではブランド品も多く売られ、若者は写真付携帯電話や、冬だというのにヘソ 出しルックと、パリ、ロンドンと変わらないファッションであった。 写真 1 「INTERPLASTICA 2005 Moscow」にて 写真 2 見本市会場のドイツコーナー 1

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ロシア経済の現状とプラスチック産業

長谷川 正(Tadashi Hasegawa) (長谷川国際技術士事務所)

「ポリマーダイジェスト」Web 版、2006 年 1 月 1. はじめに

ロシアの現状は、プーチン大統領の政治的指導力により、急ピッチに経済と、治安が改

善され、ここ数年7%以上の GDP 成長率を続けている。その最大の原因は、ロシアが有す

る天然資源の豊富さであるが、その中でも世界最大の生産量を誇っている天然ガス生産で、

2004 年度では 5,910 億㎥を達成している。ガスパイプラインについても全長 14 万 km に

達している。一方、石油生産についても、4 億 4,300 万トンを生産し、世界第 2 位の位置に

あり、石油価格の急上昇により、輸出外貨が急ピッチに増加している。 ロシアの人口は約 1.5 億人であるが、ソ連時代の近隣諸国からの労働者も働きにロシアに

入国するので、安価な労働力には心配がいらないようだ。 国土の面積は 17 百万㎡で日本の 46 倍と広い。 ロシアの平均月給は 2004 年度で 245 ドルであるが、モスクワでは 453 ドルと高い水準

になっている。モスクワ市内を視察してもアパート群も整備され、自家用車の普及率も

BRIC’s4 カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中ではトップの水準にある。筆者は

40 年前より 10 年ごとにモスクワを訪問しているが、昨今の変化には驚きを感じている。市

民の生活が豊かになったことを実感できる。40 年前は 1 ルーブル 400 円であったのが、現

在は 1 ルーブルが約 4 円であり、地下鉄も、どこまで乗っても約 60 円と非常に安い。市内

のデパートではブランド品も多く売られ、若者は写真付携帯電話や、冬だというのにヘソ

出しルックと、パリ、ロンドンと変わらないファッションであった。

写真 1 「INTERPLASTICA 2005 Moscow」にて 写真 2 見本市会場のドイツコーナー

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今回はロシア最大のプラスチック見本市

「INTERPLASTICA 2005 Moscow」(注 1)を

見学してきたが、欧米だけでなく、中国、韓

国のプラスチック機械メーカー、金型、原材

料メーカーの出展が非常に目立った。(写真 1、2、3)日本からは城北化学の安定剤、紫外線

吸収剤などの出展があったが、他のメーカー

は独自出展されていなかった。やはりロシア

はヨーロッパの中の一国である印象を強く

感じさせられた。しかし、今後必ず急成長す

る有望な市場であることも確信できる見本市であった。 今回のモスクワ、サンクトペテルブルグの旅では、みな地下鉄を利用したので図1に地

下鉄マップを示す。20列ぐらいの列車が数分ごとに走っており、このマップにない新線

もどんどん建設され伸びている。その料金が 60 円とは驚きであった。

写真 3 中国からの出品

写真 4、5 にモスクワ市内及びクレムリンを示す。

図 1 モスクワの地下鉄路線図

写真 4 モスクワ市内の幹線道路

写真 5 2005 年 12 月のクレムリン

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表 1 モスクワでの投資コスト一覧(その 1)

2. ロシアの現状分析

現在、今後期待される国として BRIC’s4 カ国が言われているが、中国、インドについで

ロシアが注目される理由を考えると、次の6項目であろう。 ⅰ)原料資源が豊富である。(ガス、石油他) 埋蔵量(石油では世界の 10%で世界 No.2) (天然ガスでは世界の 30%、世界 No.1) ⅱ)立地条件:大口市場であるヨーロッパとアジアに隣接している。 ⅲ)大きな国内需要:生活水準が高まり消費拡大により川下商品の需要が拡大している。

ロシアの人口は 1.5 億であるが、CIS 全体では 3 億の人口となる。 ⅳ)安価な労働力:CIS 全体で 3 億人 ⅴ)高い教育水準:大学進学率 20%。高学歴の優秀な技術系人材が安価に確保できる。 ⅵ)生活の安定:プーチン政権により治安も改善され国内経済も安定している。

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表 2 モスクワでの投資コスト一覧(その 2)

今後、WTO への加盟や対ロシア直接投資優遇政策などにより、更なる発展が十分期待で

きる。 表 1、2 にジェトロからの資料でモスクワにおける投資コストの一覧表を示すが、賃金に

おいて、一般ワーカーの月額は 550‐950 ドル、エンジニアで 850‐1,700 ドル、管理職で

3,200‐8,000 ドルと、地方と比較するとかなり高くなっている。

3. ロシアの化学産業全体とプラスチック産業の位置付け

ロシアの全産業の総生産額は 2000 億ドルであるが、その中で化学産業は 120 億ドル、約

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6%を占めている。エネルギー20%、機械 20%、食品 14%、電力 12%、鉄鋼 8%、非鉄 7%、

化学 6%、その他 13%である。 表 3 ロシアの化学品輸出入額(三井物産作成)

ここで、三井物産モスクワ支店より入手したロシアの化学品の輸出入額を示すと表 3 の

ごとくであり、ロシアからのプラスチック類の輸出は 5 億ドルで、逆にロシアへの輸入は

15 億ドルとなっており、化学品総輸入金額 25 億ドルの中で、プラスチック類の輸入が 60%を占めている。ロシアからの輸出プラスチック類としては PVC が主体で、中国への輸出が

メインである。 表 4 にロシアの大手化学企業名を示すが、大手上位 20 企業で、売上の 70%以上を占め

ている。プラスチック部門ではトップの Sibur グループがシェア 25%を占め、従業員 10万人、売上 30 億ドルと非常に大きく、基礎石化事業から、プラスチック、合成ゴム、繊維、

肥料までを生産している。 次の Bashkortostan グループがシェア8%で基礎石化、PVC 事業などを行なっており、

従業員も 2.6 万人と非常に大きな企業である。 Lukoil グループや Evrokhim 社もシェア4%で、基礎石化や PVC 事業を行なっている。

このような大手上位 10 社で、全体の売上高の 60%を占めている。 ロシアのプラスチック産業は約 1000 万トンで PVC、PE、PP、PS などの汎用グレード

は国産しているが、海外から 15 億ドルに相当する原料を輸入している。 プラスチックの加工事業においては、国土も広く、インフラ整備も急速に拡大している

ことや、住宅産業の需要増大で、PVC 窓枠用異型押出品、プレート類、食品用包装フィル

ム、シート、農業用フィルムなどの需要が多い。 「INTERPLASTICA 2005 Moscow」では、地元メーカーとして図 2、3、4、5 にロシア

の大手プラスチック加工機械メーカーである CSPLASTECH 社の機械類が注目された。(2)は口径 16mm から 630mm までの PVC パイプ製造ライン、(3)では口径 200mm から、

2,500mm までの PE コルゲートパイプ製造ライン、(4)では、型締力 50 トンから、3,000トンまでの射出成形機、(5)ではバンパーや自動車部品類、テレビキャビネットなど各種

射出成形用金型類の紹介を行なっていた。 なお、図 6 では、「INTERPLASTICA 2005 Moscow」の会場で、イタリアの押出機メー

カーである FRIUL FILIERE 社から出展された、発泡 PVC ドア製造ラインを示す。モスク

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表 4 ロシアの大手化学企業の概要

企業群 売上 従業員

グループ大別 単体企業 シェア 連結売上 単体 従業員数 生産品目/商品チェーン

1 Sibur Group 70 companies 25%

3,000 Million

USD 100,000

基礎石化、合樹、合

成ゴム、合繊、肥料

2 Nizhnekamsk Neftekhim 660 Million USD 20,000 基礎石化、合成ゴ

ム、合成樹脂、

3

Tatneft/Tatarstan

Group Kazan Orgsintez

8%1,000 Million

USD 330 Million USD 6,000 基礎石化、合成樹脂

4 Ufa Orgsintez 160 Million USD 2,500

Ufa Khimprm 80 Million USD 2,000 基礎石化

Salavatnefteorgsintez 550 Million USD 14.000 基礎石化

Bashkortostan

Sterlitamak Kaustik

8% 960 Million USD

170 Million USD 8.000 基礎石化、塩ビ

5 Phosagro Group 5% 550 Million USD 肥料

6 Saratov Orgsintez 合繊

Stavrolen 基礎石化、合樹

Lukoil Group

Lukor(Ulraine)

4% 500 Million USD

14.000

基礎石化、塩ビ原料

7 Novomoskovsk Azot 170 Million USD 10,000 肥料、基礎石化

Nevynnomynsk Azot 150 Million USD 7,000 肥料、基礎石化

Evrokhim

Kovdor GOK

4% 450 Million USD

130 Million USD 6,000 無機

8 Akron

Akron Group

Dorogobuzh 2% 240 Million USD

10,000 肥料

9 Silvinit 2% 260 Million USD 10,000 肥料

10 Uralkali 2% 250 Million USD 16,000 肥料

11 Kirovochepetsk Chemical Plant 1% 170 Million USD 14,000 肥料、合成樹脂

12 Toglliatti Azot 1% 170 Million USD 4,000 肥料、基礎石化

13 Omsk Refinery 1% 1600 Million USD 6,000 基礎石化

14 Kuibyshev Azot 1% 150 Million USD 4,000 肥料

15 Angarsk Petrochemical Plant 1% 150 Million USD 11,000 基礎石化、合樹

16 Minudobreniya Voronezh 1% 130 Million USD 5,000 肥料

17 Sayansk Khimplast 1% 130 Million USD 7,000 塩ビ、塩ビ材料

(Integrated)

18 Tomsk Petrochemical Plant 1% 110 Million USD 6,000 基礎石化

19 Schekino Azot 1% 110 Million USD 7,000 肥料、基礎石化

20 Metafraks 1% 100 Million USD 3,000 基礎石化

他: 30% 3,400 Million USD 199,500

合計: 100% 12,000 Million USD 770,000

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図 2 ロシア CSPLASTECH 社のパイプ製造ライン

図 3 同異型押出製造ライン

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図 4 型締力 50 トンから 3,000 トンまでの射出成形機

図 5 各種射出成形用金型類

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ワの住宅需要が活発化しており、特に

PVC 窓枠や PVC ドアの需要が多いよ

うだ。 オーストリアやドイツのメーカー

では木粉複合プラスチックよりなる

合成木材製造ラインの PR が盛んであ

った。中国からは押出ダイスメーカー

の JARI 社や、パイプ押出機械メーカ

ーの精誠企業、SOEX 社や、射出機械

の大手、海天などが実演を行い、多く

の見学者を集めていた。

4. ロシアの自動車事情

トヨタの工場進出が決まったロシ

アの乗用車市場は 2005 年度で約 184万台であるが、2010 年の予想では 300万台に伸びると思われている。 2005 年度の 184 万台のうち、中古

車市場比率は 16%で、海外モデル比率

は 32%であるが、2001 年度では 100万台の市場で、中古車比率が 36%、海外モデル比率が 9%出会ったことからすれば、中古

車比率が非常に少なくなって、海外モデルが急速に増加している傾向が理解できる。

図 6 イタリア出品の発泡 PVC ドア製造ライン

ロシアにおける主要国産メーカーでの乗用車国産モデルの生産実績では、2004 年度の数

値で示すと、全体で約 72 万台であるが、各社別実績を示す。(表 5)

表 5 ロシア国産メーカーの乗用車生産

2000 年 2001 年 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年

AutoVA-2 708,000 767,000 703,000 700,000 718,000 670,000

GAZ 116,000 81,000 66,000 57,000 70,000 ?

Izhmash-Auto 27,000 48,000 66,000 78,000 96,497 ?

UAZ ? 35,000 34,000 33,000 33,000 956,000

上 記 以 外 の

国産メーカー

を含む総合計

969,000 1,022,000 985,000 956,000 975,000 956,000

表 6 では、ロシアにおける主要な日本メーカーの新車販売実績と、海外メーカーの販売実

績では全体の販売数量の中で、現地生産台数を示す。

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表 6-1

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表 6-2

この表から理解できるように、日本車の販売台数は全体で 20 万台、その中でトヨタが

65,296 台、三菱が 52,095 台、日産が 43,873 台の 3 社がリードしている。 一方、海外車の実績では韓国の Hyundai がトップで、9 万台(そのうち 7 万台が現地生

産されている)、GM が 7.5 万台(うち現地生産 5 万台)、韓国の Daewoo が 5.3 万台(ウズ

ベキスタンで全量生産)、Ford の 5.7 万台(うち 3.2 万台が現地生産)などがリードしてい

る。 これら海外メーカーの総合計では 58 万台となり、そのなかで海外モデルと現地国産化し

た合計は約 24万台に達している。この数値が示すように、日本以外の自動車メーカーでは、

現地生産比率が年々急ピッチに増加しており、日本メーカーの現地生産が早められるであ

ろう。2007 年を目標にトヨタのサンクトペテルブルグでの現地生産が予定されている。 自動車部品製造メーカーの中でプラスチック部品メーカーではバンパーをはじめ、プラ

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表 7(その 1)

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表 7(その 2)

スチックチューブ、工業用液体容器、ユニットケース、ミラーカバー、ステアリングホイ

ール、泥除けガード、サイドモールド、パッキン類などを生産している。2004 年で 17 社

が存在し、従業員数は 1 万 3,800 人がこれら工場で働いている。代表的なプラスチック部

品メーカーとしては、Izh-Auto、Auto VAZ、VAZ Inter Service、Izheusk Plant of Plastic、Engon などがある。 サンクトペテルブルグでのトヨタ進出に呼応して、日本からもプラスチック部品メーカ

ー、金型メーカーも進出すると思うが、ロシアではまだ国産車が多いので、国産車用部品

からも平行して注文をとらなければ採算が合わないのではなかろうか。 5. ロシアの家電需要

表 7 にロシアの主要家電市場規模を示すが、TV が 950 万台、洗濯機が 410 万台、冷蔵

庫が 440 万台、パーソナルコンピュータ 520 万台、プリンター300 万台、携帯電話 5,500

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万台、エアコン 50 万台などがあげられている。 一般的にロシアでは家電分野では、中国、韓国メーカーからの輸入や、彼らの現地生産

がメインであり、細かい組立作業はロシア人にはあまり適さないという見方もある。

6. おわりに

これまでロシア経済の現状とプラスチック事情についてまとめてみたが、ロシア経済の

好転化は 2000 年をスタートとして急ジャンプしている。

図 7 独プラスチック機械メーカーのロシアに対する輸出推移

図 7 は、ドイツのプラスチック機械メーカーがロシアに対し輸出した実績金額の変化を示

したものであるが、そのハイスピードが理解できる。1 人当たりのプラスチック消費量はそ

の国の文化生活の程度を示すバロメーターになるといわれているが、ロシアのプラスチッ

ク産業の発展状況を見れば、ロシア経済の変化が予想できる。 筆者の予想では、プラスチック成形加工用の金型ビジネスや、TPE、エンプラなどのコ

ンパウンド事業、PVC を中心とする押出用のグレードの配合剤、コンパウンド、計量装置

など、多くのビジネスチャンスがあるのではなかろうか。 中国、インドと比較して価格的にもヨーロッパの価格に近いので、充分競争できると思

われる。トヨタが進出するサンクトペテルブルグは、人口約 600 万人で、とても静かで美

しい都市であった。 同市の紹介で、進出するメリットを見ると、 ⅰ)サンクトペテルブルグ市による投資の優遇税制がある。 ⅱ)工場建設候補地の選定に市が協力的。 ⅲ)製造設備を現地出資して関税免除の恩典。 ⅳ)有名大学も多数あって、優秀な人材確保が容易である。 サンクト市における日本人にとっての生活環境と労働環境については、①快適なホテル

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やアパートが整備されている、②英語が通じる病院施設があり、③英語での教育施設があ

り、④日本食材の購入、日本レストランがある、⑤日本の新聞の購読、テレビ放映可能、

などがあげられる。 参考までにサンクトペテルブルグの地下鉄マップ(図 8)、鉄道(図 9)を示す。

図 9 ロシアの高速列車

図 8 サンクトペテルブルグの

地下鉄マップ

ロシアへの進出については発展途上でスケールの大きい魅力ある市場であるが、旧共産

圏につきものの統計などの情報の不備や法的規制の不明確さなどがあるので、正確な情報

の収集と、現地に信頼の置けるエージェンシーをつくることが欠かせない前提となろう。

筆者も今後新しい情報の入手に力を入れるつもりである。 (注 1)INTERPLASTICA 2005 Moscow:第 9回国際プラスチック・ゴム産業専門見本

市。2年に1回開催。2005 年 12 月 13 日~16 日。主な出品物はプラスチック・ゴ

ム関連:製造・加工用設備機械、原材料、付属品、半製品・製品、物流、関連サ

ービス。今回の参加者は約 2 万 5000 人。展示面積 1 万 2000 ㎡に 450 社が出展。

ドイツから 120 社、イタリアから 90 社の出展があった。次回の開催は 2007 年 1

月 30 日から 2月 2日までの予定。

長谷川国際技術士事務所

〒468-0042 名古屋市天白区海老山町 2603 TEL & FAX 052-802-5629

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