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第11章 ミキサー
この章ではスーパーヘテロダイン方式で最も重要なミキサーを製作します。いろいろな方法の
ミキサーを製作してミキサーの原理を理解したいと思います。いろいろな方法のミキサーを製作
しますが、それは、より性能の良いミキサーを追及するためではありません。あくまで原理を知
ろうとするものです。そして、それによって電子回路の理解を深めることが目的です。なお、ミ
キサーには局部発振回路は含まれませんが、前述したように、この本では周波数変換部であるブ
ロックAをミキサーとよんでいますので注意してください。
●トランジスタ他励ミキサー
・局部発振回路
まず、局部発振回路の実験をします。局部発振回路には の同調帰還型発振回路を用いま図4-25
す。他の発振回路、例えばコルピッツ発振回路でも使用可能ですが、コルピッツ発振回路では周
波数を大幅に変化させるには複数のコンデンサを変化させる必要があります。この点、同調帰還
型発振回路では一つのコンデンサを変化させればよいので、局部発振回路に向いています。さら
に、後述する自励ミキサーも構成しやすくなります。
スーパー用(以降スーパーヘテロダインをスーパーと略します。)の局部発振用のコイルが市販
されています。 にそのコイルを示しますが、このコイルは同調帰還型発振回路で用いる写真11-1
のが前提です。以降、このコイルをOSCコイル(OSC:Oscillation、発振)とよぶことにします。今
回使用したOSCコイルの仕様を に示します。ここで巻き数は私が分解してカウントしたもの図11-1
ですので、1~2Tの誤差があるかもしれません。またインダクタンスも私が簡易インダクタンス計
で実測したものです。これと全く同じものを入手できないかもしれませんが、スーパー用のOSCコ
イルなら、まず使用可能です。もしかしたらピン配置が異なるかもしれませんが、その場合はマ
ルチメータの抵抗レンジでだいたい見当がつけられると思います。黒丸(・)で示されるトランス
としての極性は、実際に動作させてみるのが手っ取り早いかもしれません。私のように余分に購
入して分解するのも一方法です。
写真11-1 今回用いる市販OSCコイル
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実際に製作したエミッタ同調発振回路を に示します。周波数を変化させるためのバリコ図11-2
ンにはスーパー用のバリコンを用いましたが、このバリコンについては後述します。バイアス回
路は前述したように電流帰還バイアスを用いています。第3章の復習になりますが、発振していな
いときのトランジスタのコレクタ直流電流は、以下のように簡易計算できます。まず、ベース電
流を無視してR1,R2の中点電圧を求めます。ここでは6V/(33k+22K)×22k=2.4Vです。これからトラ
ンジスタのV =0.65Vを引いた1.75VがR3にかかります。ですから、1.75V/1.5k=1.2mAがコレクタBE
電流です。実際でも、だいたいこのくらいの電流になります。電源電圧が6Vと高いので、このよ
BEうにR3両端電圧を1.75Vと高い値に設定できます。このようにR3両端の電圧を大きくすると、V
の変化に強くなります。なお、コレクタの働く範囲を大きくしたいときは、この値をもっと小さ
くする必要があります。また、以上は発振していないときのトランジスタのコレクタ直流電流で
あり、発振を始めると、この電流は大きくなります。
この回路での注意点を述べます。C2を大きくする、例えば0.1μにすると間欠発振になります。
ですからC2は、確実に発振をする値で、なるべく小さくする必要があります。以下で扱う発振回
路でも間欠発振がよく起こります。間欠発振は第9章再生・超再生ラジオで詳しく扱いました。こ
の回路ではC2を小さくすれば、間欠発振が止まります。これは、発振の強さが小さくなるためと
思われます。以降の発振回路でも間欠発振が発生した場合、帰還用のコンデンサやエミッタのバ
イパスコンデンサの値を小さくすると、大抵は間欠発振が止まります。
の波形を に示します。約1.5MHzで発振しています。この回路ではコレクタとOSCコ図11-2 図11-3
イルの2ピン(エミッタからでも可)から出力をとることができます。コレクタからとる出力1では
振幅が大きいのですが、あまり低いインピーダンスをドライブできません。一方、OSCコイルの2
ピンからとる出力2では、振幅が小さいのですが、出力1より、より低いインピーダンスをドライ
ブすることができます。
- 2 -
- 3 -
(上:コレクタ、下:エミッタ)図11-3 図11-2の各部波形
次に、 にベース同調発振回路を、その波形を に示します。エミッタ同調発振回路図11-4 図11-5
とはOSCコイルの4,5ピンが逆になることに注意してください。この回路でも間欠発振を防止する
ためにC2を470pFと小さくしています。C2を0.01μFと大きくした場合、C1を0.01μFと小さくして
も間欠発振が起こりません。
(上:コレクタ、下:ベース)図11-5 図11-4の各部波形
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・受信信号と局部発振信号とのミキシング
に周波数変換回路の例を示しました。まず、この回路を製作します。局部発振回路はエ図10-3
ミッタ同調でもベース同調でもどちらでもよいのですが、ここではエミッタ同調発振回路を使用
します。 に回路を示します。Tr2で構成される回路がエミッタ同調発振回路です。Tr1で構図11-6
成されるのは、まさにトランジスタミキサーです。バーアンテナSL-55Xで受信した受信信号がTr1
で周波数変換されます。ミキシングされた信号から、IFT(黄)のフィルタで455kHzのみを取り出し
ます。IFTはIF用のトランスで、第12で詳しく説明します。R7,C6の回路はCRフィルタです。電源
の+6Vはオーディオアンプにも共通で使用します。オーディオアンプでは大きな電流が流れますの
で、電源電圧が変動します。この電源電圧の変動を少なくするためのものです。もしこのフィル
タがないと、電源電圧の変動を介した発振が起こる可能性があるので、必ず必要です。なお、C6
には10V以上の耐圧の電解コンデンサを使用してください。以降の回路でも、このフィルタを用い
ますが、そのときも10V以上の耐圧の電解コンデンサを使用してください。
この回路で使用したスーパー用の2連バリコンについて説明します。このバリコンは第8章複共
振ラジオでも使用しました。発振用と受信用の二つのバリコンが連動して動きます。 では図11-6
発振用をOSC、受信用をRFとしています。端子が3個あり、一つが共通のグランド用です。この端
子は回転シャフトにつながっていますので、すぐにわかります。あとの二つの見分けは、バリコ
ンの電極数でわかります。電極数が多い方が受信用です。このスーパー用の2連バリコンには、必
写真11-2 図11-6ずトリマコンデンサが付属しています。 に、このトリマコンデンサを示します。
でバリコンと並列に入っているトリマコンデンサがありますが、これはこのトリマコンデンサで
す。また、スーパー用の2連バリコンでは、受信用の容量が、簡易ラジオで使用した単連バリコン
より小さくなります。ですから、バーアンテナもスーパー用を用いる必要があります。 のS図11-6
L-55Xはこのスーパー用のバーアンテナで、インダクタンスが簡易ラジオで用いたSL-55GTの約2倍
- 5 -
になっています。もちろんスーパー用のバーアンテナであれば、SL-55Xでなくとも、まず使用可
能です。
スーパー用の2連バリコンではこのように、発振用で発振し、受信用で受信しますので、その周
波数の差が455kHz一定になる必要があります。これら二つのバリコンの容量比がいつも同じです
と、その周波数の差が一定にはなりません。そこで、 で示したように、その周波数の差が図8-16
一定になるように、二つのバリコンの回転電極(ローター)が違う形状でできています。
写真11-2 使用したスーパー用2連バリコン
C3で局部発振信号を注入しますが、最適の信号の大きさがあります。理想的には、最も安定し
て発振するように発振回路の定数を決め、OSCコイルに注入用の別巻き線を巻く方法があります。
しかしOSCコイルは決まっていますので、今回はR5,R6により局部発振信号の大きさを調整しまし
た。R5を小さく、R6を大きくするほど、局部発振信号は小さくなります。このようにして最適な
値を決定したのが、 の定数です。この定数でほぼ最大の出力が得られました。その波形を図11-6
に示しますが、この図ではCH1とCH2が同じグラウンド(GND)レベルです。なお、どのように図11-7
して出力を測定するかですが、それは後述します。
(上:R2(22K)両端、下:Tr1エミッタ)図11-7 図11-6の各部波形
よりも大きな局部発振信号を注入しても、出力はほとんど変わりません。雑音らしき信図11-7
号が増えるだけになります。試しに大信号を注入した場合を に示します。このようにこの図11-8
- 6 -
回路では、大信号を注入すると、エミッタ電圧が大きく上昇します。図より、注入信号の正のピ
ーク値とエミッタ電圧の差が約0.7Vになっていることがわかります。つまり、いくら大信号を注
入しても、注入信号の正のピーク値のところでのみトランジスタが動作し、それ以外ではトラン
ジスタが完全にOFFしていることがわかります。
(sin波:R2(22K)両端、直線:Tr1エミッタ)図11-8 大信号を注入した場合
実は でもこのようになっています。ですから、 でもトランジスタは、大半がOFFし図11-7 図11-7
ていることになります。つまり、トランジスタはスイッチング動作をしていることになります。
考えてみれば、ベースに大信号を注入したのですから当然なことです。このように、トランジス
タがスイッチング動作をするところで出力が最大になるのですから、これ以上の信号を注入して
も、 のようになって出力があまり変わらないのがわかります。図11-8
以上はベースに局部発振信号を注入した場合ですが、エミッタに注入しても可能です。その回路
を に示します。この回路でも注入信号の大きさをR5,R6で調整しますが、より低いインピー図11-9
ダンスをドライブするので、 よりは大きい発振波形になるように設定しています。図11-6
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(上:Tr1ベース、下:Tr1エミッタ)図11-10 図11-9の各部波形
に波形を示します。この方式でも、エミッタの負のピーク値とベース電圧の差が約0.7V図11-10
であり、それ以外ではこの値が小さくなっています。つまり、トランジスタはスイッチング動作
をしているのがわかります。参考のために大信号を注入したときを に示します。ベース注図11-11
入方式と同じことが起こっていることがわかります。
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(直線:Tr1ベース、sin波:Tr1エミッタ)図11-11 大信号を注入した場合
以上ベース注入方式とエミッタ注入方式のトランジスタ他励ミキサーを製作しましたが、ここ
で実際の基板を に示しておきます。この基板では以下で取り上げるトランジスタ自励ミ写真11-3
キサーも検討できるようになっています。写真のようにバリコンは立てて、基板に両面テープで
固定しています。これは、トリマコンデンサの調整ができるようにするためです。また、そのと
きにドライバーを入れられるように部品配置する必要があります。
写真11-3 製作したトランジスタミキサー検討基板
・ミキサーのゲイン測定
ここで測定するミキサーのゲインは正確なものではなく、あくまで参考です。正確ではありま
せんが、だいたいの値がわかるとミキサーの理解に非常に役たちます。 にその回路を示し図11-12
ます。Tr1はIFT(白)を用いたIF増幅回路です。詳しくは第12章IFアンプで述べます。まず、この
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回路の入力に455kHzをディップメータで注入してゲインを測定しました。このときIFT(白)は455k
Hzで信号が最大になるように調整しておきます。結果は約30倍でした。ですから、オシロスコー
プの出力を30で割った値がVoになります。なお、以降ではグラウンドからのピーク値を使用しま
す。
Viは受信信号の共振回路の出力で、ミキサーに接続する前の値です。ここでVo/Viをミキサーの
ゲインとします。Viはミキサーに接続する前の値であり、VoはミキサーがIFアンプをドライブし
たときの値であり、あまりよくない定義ですが、一番簡単なのでこの本ではこうします。
Viは第1章ラジオの電波で行ったのと同じ方法で測定しました。結果を に示します。こ図11-13
こでもC局を受信しています。バーアンテナSL-55Xの1次側はSL-55GTよりも多く巻かれているので、
SL-55GTよりも大きな信号が発生しそうですが、結果は逆で小さくなりました。SL-55Xの1次巻き
、線は、SL-55GTより多い分、最初の巻き線の上に重ねて巻かれています。このためにQが低下して
SL55-GTよりは発生電圧が小さくなるためです。試しに、最初の巻き線の上に重ねて巻いているの
をほどき、そのまま延長して巻き直しました。そうすると期待どうり、SL-55GTよりは大きな電圧
が発生しました。
ミキサーのゲインを測定するには、ミキサーの調整をする必要があります。最終的にはトラッ
キング調整といって、すべての局が最適に受信するように調整する必要があります。この調整に
は、OSCコイルのコア位置、バーアンテナのコア位置、バリコンのトリマコンデンサを調整する必
要があります。このトラッキング調整は、第12章IFアンプで製作するIFアンプがあった方がやり
やすいので、第12章IFアンプで詳しく説明します。
ここではC局のみが対象なので、C局のみが最適に受信できるように簡単に調整することにしま
す。この調整を以下にまとめます。なお、オシロスコープで波形を見ているだけなので、どの局
を受信しているかわかりませんが、別のラジオでC局を聞いていると、その音と波形が同期します
ので、どれがC局の波形かが容易にわかります。
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1.バリコンを回して、C局を受信する。
2.IFT(黄)のコアを回して、C局の信号を最大にする。
3.バリコンを固定して、OSCコイルのコアを回してC局の信号を最大にする。
4.バリコンを固定して、バリコンのRFトリマコンデンサでC局の信号を最大にする。
3.は周波数の差を455kHzにするための調整であり、4.はC局の受信信号を最大にするための調整
です。3.のかわりに、バリコンのOSCトリマコンデンサを調整しても可能ですが、OSCコイルのコ
アの方が調整は容易です。なお、コアの調整には専用ドライバを使用してください。金属製の普
。通のドライバでは、近づけるだけで信号が変化しますし、コアを割ってしまう危険性があります
1.~4.の調整は順番に行って完了というわけにはいきません。例えば、2.~3.の調整が大きくず
れていると、1.の調整ではC局が受信できません。ですから、1.~4.を適当に調整して、とにかく
C局を最大にする必要があります。
以上で測定した結果を に示します。値はピーク値です。だいたい1~2mVのIF出力が得ら表11-1
れるのがわかります。このようにトランジスタミキサーでは増幅もしていることがわかります。
オシロ出力(mV) Vo(mV) ゲインVo/Vi
ベース注入 60 2.0 6.7
エミッタ注入 40 1.3 4.3
表11-1 製作したミキサーのゲイン測定結果
●トランジスタ自励ミキサー
他励ミキサーではトランジスタ2個必要でしたが、一つのトランジスタで発振とミキシングの両
方を兼ねることができます。この方式を自励ミキサーといいます。まず、 のベース同調発図11-4
振回路からです。この回路のベースに受信信号の共振回路を、OSCコイルと電源の間にIFT(黄)を
挿入します。その回路図を に示します。図11-14
- 11 -
R2,R3は最適な発振レベルになるように、 とは違っています。また、C2を2200pFと小さく図11-4
して、間欠発振を防止しています。 のようにすると、Tr1で発振し、なおかつ受信信号の図11-14
増幅、ミキシングができます。各部波形を に示します。図11-15
(上:コレクタ、下:ベース)図11-15 図11-14の各部波形
C局を受信して、他励ミキサーと同じようにゲインを測定しました。調整は他励ミキサーのとき
と全く同じです。このときの波形を に示します。 のIF出力は50mVです。また、確図11-16 図11-12
かに周波数変換されているのがわかります。このときのミキサー出力は50mV/30=1.7mVです。です
から、ミキサーゲインは1.7mV/0.3mV=5.7倍となります。
(上:IFアンプ出力、下:ベース)図11-16 C局受信時の各部波形
エミッタ同調発振回路でも、もちろん自励ミキサーができます。回路を に示しま図11-2 図11-17
す。この回路は、実は最もよく使用される回路です。今では、すべてがICになってしまいました
が、かつての6石スーパーでは必ずこの回路が使用されていました。この回路を同様に測定して、
。図11-12のIF出力は70mV、ミキサーゲインは7.8となり、この回路の出力が一番大きくなりました
- 12 -
本質的にこの回路の出力が一番大きくなるのではなく、たまたま今回の検討した回路では、そう
なったのだと思います。
各部の波形を に示します。図11-18
(上:コレクタ、下:エミッタ)図11-18 図11-17の各部波形
●ダイオードによるDBMミキサー
ミキシングは のように、変調波でスイッチングしても可能です。この場合の出力は方形図11-19
波になりますが、その基本波のみに注目すれば図のように掛け算の項ができています。この出力
には、ω2の成分がありません。しかしω1の成分は抜けてきます。このように一つの成分のみ抑
制されているので、SBMとよばれています(Single Balanced Modulater)。この回路で、スイッチ
がON/OFFでなくリニアーに抵抗が変われば、ゲインが1から0に変化しています。このように考え
ると、この回路も非線形回路によるミキサーと本質は同じものです。ところで、トランジスタミ
キサーでは、トランジスタがスイッチング動作をしていました。ですから逆に、トランジスタミ
キサーがこの回路と本質は同じであるともいえます。ちなみに、簡易ラジオでよく用いたダイオ
ード検波回路( は、ミキサーでもあります。この場合も、ダイオード検波回路を非線形回路図2-6)
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と考えてもいいし、二つの入力のうちの大きな入力で、ダイオードをスイッチングしていると考
えてもよいわけです。
の回路を実際にダイオードを使って実現すると、 となります。ダイオードに順図11-19 図11-20
方向の直流電流を流すと、交流電流が流れることができます。ダイオードに交流電流が流れると
は、おかしな感じがしますが、 のように直流電流が変化していると考えると納得できます。図11-21
この直流電流の変化分が交流電流です。ただし、直流電流に比べ、交流電流が十分小さい必要が
図11-20 図11-あります。 では信号ω2の正の期間にダイオードに順方向電流が流れ、ダイオードが
19のスイッチの役目の果たします。なぜ2個ダイオードを使用しているかですが、このようにする
と、ダイオードの中点とトランスの中点の電位が完全な0Vにできるからです。ダイオード1個では、
絶対にこのようにできません。ダイオード2個を使った の回路は、驚くほどスマートな回図11-20
路です。
の回路は本当にすばらしい回路ですが、ω1の成分が抜けてきます。このω1の成分も抑図11-20
制して、完全に掛け算だけの信号にする、すなわちDBMにするにはどうすればよいでしょうか。そ
。の方法を に示します。(a)のように、もう一つ逆方向のダイオードスイッチを追加します図11-22
そして出力を、それぞれのダイオードの中点から取り出します。こうすると、出力は正負に振れ
るようになり、完全な掛け算信号のみとなります。このままでは使用しにくいので、(c)のように
トランスを使用します。これでDBMになります。通常(c)の回路は(d)のように書かれます。
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今回はこのダイオードによるDBMを用いたミキサーを製作します。始めにお断りしておきますが、
これはミキサーの性能を上げるためではありません。AMラジオでは、前項のトランジスタミキサ
ーで十分な性能です。ですから、このダイオードによるDBMミキサーは、理解を深めるために、あ
えてAMラジオでも製作してみるものです。
製作した回路を に、製作したものを に示します。局部発振回路は別基板にして図11-23 写真11-4
コネクターで接続するようにしました。これは次項のICによるDBMミキサーにも使用できるように
したためです。ですから2連バリコンを使用していません。受信するには、トリマコンデンサTC1
かOSCコイルのコアで局部発振周波数を、単連バリコンで受信周波数を調整する必要があります。
ラジオとしては全く実用になりませんが、この回路は単なる検討用ですので、このようにしまし
た。さらに、2連バリコンでは二つのバリコン間の容量結合がありますが、このようにすると、こ
の影響を全く考慮する必要がなくなり、純粋にDBMの特性を検討することができます。
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写真11-4 製作したダイオードによるDBMミキサー
Tr1はエミッタ同調の発振回路です。Tr2はその出力を増幅しているわけではありません。L1を
確実にドライブするためのバッファーです。ですからR6にはバイパスコンデンサが付いていない
のに注意してください。L1はトロイダルコアに自分で巻き線しました。どのくらいのインダクタ
ンスにすればよいのか悩むところですが、D1~D4を十分ONできるようにすればよいわけです。こ
れについては後述します。Tr3は受信信号を増幅するためです。トランジスタミキサーではゲイン
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がありました。ですから、この増幅回路がないと、トランジスタミキサー相当の出力が得られな
くなります。
この回路で悩むところは何といってもL1,L2をどうするかです。今回はいろいろ試した結果、3
本の線を同時に巻く、いわゆるトリファイラ巻きにしました。トリファイラ巻きにすると、3本間
の容量が気になりますが、この三つのコイルには全く同じ電圧が発生しますので、これらの容量
には電荷がたまらず全く影響がないように思われます。しかし実際に実験してみると、これは間
違いであることがわかりました。これについて次に説明します。
まずL1の1,2間のインダクタンスですが、0.55mHです。これは1.5MHzで5.2kΩです。ですから、
L1の3~6番を開放にしたときの1,2間の電圧は、単純にはTr2のベース信号の5.2k/1k=5.2倍になり
ます。Tr2のベース信号は0.7V(ピーク値)くらいに設定していますので、L1の1,2間の電圧は0.7V
×5.2=3.6Vになります。エミッタ電圧が1.7Vくらいですので、ほぼトランジスタが飽和する手前
です。実測でも、コレクタ信号は飽和手前であり、ほとんど計算通りです。ところがです。L1の3,
6は開放のまま、4,5番を接続した瞬間(グラウンドには未接続)、非常に悩まされる現象が発生し
ます。なんと、1,2間の電圧(コレクタ電圧)が、2.2Vくらいに減少してしまいます。これの原因追
求には随分悩みましたが、以下のように考えています。L1の4,5番を接続すると、3,5間と4,6間に
。電位差が生じます。そのためにこれらの分布容量に電荷がたまり、分布容量の影響が発生します
この容量は1,2間に付くことになるので、1,2間の電圧が減少したものと考えられます。このまま
で4,5番をグラウンドに接続すると、1,2間の電圧がさらに0.5Vくらい減少します。これはグラウ
ンドに接続すると分布容量が増すためと考えれます。
では、トリファイラ巻きをやめて、1,2間のみ別巻き線にしたり、すべてのコイルを別巻き線に
したら、よくなると考えられます。こうすると、上記の問題はかなり軽減されます。しかしグラ
ウンドに接続すると分布容量が増す効果は同じなので、思うほど軽減されません。実はこうする
ことにより、別の問題が発生します。それは寄生振動が激しくなることです。これらでも、トリ
ファイラ巻きと同様に動作はするのですが、非常に高い周波数の信号が加わってしまいます。こ
れは、別巻き線にしたコイルによる寄生振動と思われます。トリファイラ巻きでは、三つのコイ
ルが非常に密に結合しているので、このような寄生振動は発生しません。
以上、最終的にはトリファイラ巻きを採用しました。トリファイラ巻きでは1,2間の電圧が減少
する問題が発生しますが、それでもダイオードをONするには十分な電圧ですので、このままにし
ています。
この回路の出力を に示します。上の波形はTr3のコレクタ波形であり、下の波形はIFT写真11-5
(黄)をはずしたL2の1,2間の波形です。この波形はわかりやすくするために、局部発振周波数を2M
Hzとし、ディップメータにより受信信号に350kHzを注入しています。もちろんこのときはバリコ
ンをはずしています。また、よりわかりやすい波形とするために、R11に並列に470pFを付けてい
ます。この写真より間違いなくDBMとして動作しているのがわかります。
写真11-5 図11-23のミキサー出力波形
図11C局を受信したときのミキサーゲインですが、トランジスタミキサーと同様の測定をして、
-12のIF出力が40mVになりました。ミキサーゲインは2.8です。受信の共振回路に単連バリコンとS
L-55GTを用いているので、Viには0.48mVを用いました。トランジスタミキサーと比べて少し小さ
い値です。なお、R11を1mHのコイルに変えると、もう少し大きな値になります。
●IC(1496)によるDBMミキサー
ICでもDBMがあります。今回使用したICは新日本無線(JRC)のNJM1496です。いろいろなメーカか
ら出されているので、今でも入手は可能だと思います。以降ではICの型番を単に1496とします。
このICは、どちらかというと複合トランジスタといえるもので、内部の回路はただのトランジス
タの組み合わせなので、非常に理解しやすいものです。このICに使用されているDBM回路は、いろ
いろなところで使用されていますので、この回路を理解しておくと、今後非常に役に立つと思い
ます。
・差動増幅回路
まず差動増幅回路を理解する必要があります。 に差動増幅回路の基本回路を示します。図11-24
この回路では直流バイアス回路を省略しており、vo,viはすべて交流分です。この回路の動作は以
下の通りです。
- 17 -
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、vi1=-vi2のときエミッタ電流は打ち消し合いますので、RE両端の電圧は変化しません。ですから
両トランジスタはエミッタ共通回路として動作します。
よって vo1=-(RC/re)vi1 , vo2=-(RC/re)vi2 となります。
ただし、reは内部エミッタ抵抗です。
vi1=vi2のときは、REが共通に使われますので、2REがエミッタに入った回路となります。
よって vo1=-(RC/2RE)vi1 , vo2=-(RC/2RE)vi2 となります。
vi1=vi2のときは、REが大きいと出力が抑えられるのがわかります。例えばvi1=vi2となる雑音
はこの効果で抑えられます。またトランジスタのパラメータ変化(VBEやhFE等)は両トランジスタ
で同じように変化するので、それらの影響も抑えられます。
REを電流源にすると、REを非常に大きくしたことになり、vi1=vi2のときのゲインはさらに抑え
られます。その回路を に示します。この電流源の例を に示します。(a)は電圧電流図11-25 図11-26
変換して電流源にした例です。(b)はカレントミラーとよばれるものです。左のトランジスタはベ
ースとコレクタが接続されていますので、ダイオードの動作になります。そのダイオードに電流I
1を流したとします。左右のトランジスタはベースがつながっていますので、同じベース電圧です。
ですから、もし左右のトランジスタが全く同じものであれば、全く同じコレクタ電流が流れるこ
とになります。全く同じコレクタ電流になるのを鏡に例えてカレントミラーとよばれています。
この回路は全く同じトランジスタである必要がありICに向いた回路で、ICではこの回路が多用さ
れています。
差動増幅回路の入出力には平衡型と非平衡型があります。まず平衡型を に示します。平図11-27
衡型とは、この図のように二本の入出力線がグラウンドに対して、全く同等になるものです。こ
のような平衡型の入力では、例えば外部雑音が全く同等にのってきます。そのような雑音は差動
増幅回路で完全に排除されます。この回路の出力voは
vo=vo1-vo2=-(RC/re)(vi1-vi2)=-(RC/re)vi となります。
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は非平衡型の例です。非平衡型はグラウンドを基準にした入出力です。通常シングルエ図11-28
ンドとよばれます。電子回路は通常シングルエンドの動作なので、差動増幅回路でも、よくこの
形で使用されます。この形で使用すると、外部雑音を抑圧する効果は少なくなります。ただし、
トランジスタのパラメータ変化にたいする抑圧効果はあります。なお、Tr2のベースはグラウンド
に接続されていますが、これは交流がグラウンドに接続されているという意味であり、直流バイ
アスもグラウンドに接続されているということではありません。
では、viによりTr1のエミッタ電圧が増えますが、そうするとTr2にマイナスの電圧を与図11-28
えたことになります。この結果、Tr1にvi/2を、Tr2に-vi/2を与えたのと同じ状態で平衡に達しま
す。よって、出力voはvo=-(RC/re)(vi/2)となります。
・トランジスタによるDBM
にSBMの原理を示しました。この図のスイッチを のようにトランジスタスイッチ図11-19 図11-29
に置きかえると、トランジスタによるミキサになります。二つの入力の信号が漏れていますのでS
BMとはいえませんが、本質の動作はSBMと同じです。ただし、トランジスタを飽和にしてONします
ので、飽和からの回復に時間がかります。ですから、低い周波数では動作しますが、例えば100MH
zなどの高い周波数では全く動作しなくなります。この問題を差動増幅回路が解決します。
の差動回路ではvi=0のとき、両トランジスタにはI/2のコレクタ電流が流れています。図11-27
この状態でviを大きくしていくとTr1のコレクタ電流が増え、Tr2のコレクタ電流が減ります。さ
らにviを大きくしていくと、やがてTr1のコレクタ電流がIとなって一定になります。このときTr2
のコレクタ電流は0になっています。ですから、大きいviにより定電流Iを左右のトランジスタに
、スイッチングしていることになります。このスイッチングの特徴は定電流のスイッチングであり
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各トランジスタは決して飽和していないということです。ですから、高い周波数まで可能なトラ
ンジスタスイッチとして使用できます。
そこで考案された回路が の回路です。差動回路で電流源をスイッチングしています。図図11-30
11-29ではトランジスタがONで信号が0Vになりますが、この回路ではTr1がONで、出力がVccになり
ます。
ここで の回路をDBM、すなわち出力が2波の掛け算のみになる回路にするには、どうすれ図11-30
図1ばよいかを考えます。まず、ダイオードでも行ったように、この回路を二つ考えます。それを
1-31に示します。この図のように の回路を二つ使用すると、v1,v2には図に示す波形が得図11-30
られます。
このv1、v2を加えると、掛け算した波形になるのがわかります。また、逆相の波形は差動増幅
回路で得ることができます。ですから、目的の回路は のようになります。図11-32
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ここで、1496の回路を見てみましょう。それを に示します。全く同じものであるのがわ図11-33
かります。電流源は で説明したカレントミラーが使用されています。5番ピンに流した電図11-26
流がTr7,Tr8のコレクタ電流になり、それがTr5,Tr6のエミッタの定電流となります。
にはゲイン調整端子があります。この原理を に示します。抵抗の値が無限大の図11-33 図11-34
場合、二つのトランジスタは別々に定電流でドライブされます。そうすると、ベースがどんな値
であろうとコレクタ電流が一定ですから、ゲインは全くありません。一方、抵抗の値が0の場合、
2倍の定電流でドライブされた単なる差動増幅回路になります。ですから、抵抗がある値の場合、
これらの中間となってゲイン調整ができるわけです。
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・製作した1496ミキサー
以上で説明した1496でも、実際にミキサーを製作します。ダイオードDBMのときと同じで、あえ
図11-35て1496を使ったAMミキサーを製作するもので、1496の理解を深めるのが目的です。回路を
に、製作したものを に示します。写真11-6
写真11-6 製作した1496を用いたミキサー
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全電流が約4mAで、いままでの回路より大きく流れるので、R10は100Ωと小さい値を使用してい
ます。C8の電解コンデンサは耐圧10V以上のものを使用します。R9は電流源の値を決める抵抗です。
今回はこの値を約1mAに設定しました。R2,R3,R4は各トランジスタの直流バイアス電圧を作る抵抗
です。コンデンサC3、C4はこの電圧の安定化用です。 に実測した各部の直流電圧を示しま図11-36
す。ただし、1496内部のトランジスタの電圧は、ベース・エミッタ電圧(V )を0.65Vとして計算BE
したものです。このように各トランジスタのコレクタ・エミッタ間の電圧が1.0V以上になるよう
に電源電圧を分配します。 では、1496出力にIFT(コイル)がつながれていますので、直流図11-35
電圧がかかりません。さらに出力も小さいので、Tr1のベース電圧をもう少し大きくしても動作し
ます。今回は1496出力に抵抗をつなぐときも検討したかったので、このような電圧配分にしてい
ます。
8番ピンには局部発振信号を注入しますが、前述したようにダイオードDBMミキサーで製作した
局部発振基板を用いています。R1で信号の大きさを調整しますが、実験では100mV(ピーク値)以上
あれば、スイッチングするのに十分でした。330Ωでは250mV(ピーク値)ありますので、十分にス
イッチングします。
C局を受信したときのミキサーゲインですが、 のIF出力は90mV、ミキサーゲインは6.3で図11-12
した。ダイオードDBMミキサーと同様に、単連バリコンとSL-55GTを用いているので、Viには0.48m
Vを用いました。このようにミキサーゲインはだいたいトランジスタミキサーと同じになります。
ここで重要なことがあります。それは、C5、C6です。一見不必要に見えますが、必ず必要です。
この回路では、 に示したシングルエンドの入力になっていますが、このときの入力信号の図11-28
電流を に示します。R1は ではR7,R2はR8に相当します。バイアス電圧は で図11-37 図11-35 図11-35
はC4の両端電圧です。 の回路で説明しましたが、Tr1のベース電流が増えると、Tr2のベー図11-28
ス電流が減ります。ですから、入力信号の電流は のように流れます。そうするとR2が信号図11-37
電流のループに入ってしまい、ゲインが低下してしまいます。 のC6は、このR2に流れる電図11-35
流をバイパスして、ゲインの低下を防止します。これは次のようにも考えられます。この電流に
よるR2両端の電圧は、Tr2のベース電圧を大きくします。そうすると、差動入力にならずにゲイン
が低下します。しかし、Tr2のベースにバイパスコンデンサが付いていると、Tr2のベース電圧が
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一定となるため差動入力となり、ゲインの低下はなくなります。ならば、R2を0、すなわちTr2の
ベースをバイアス電圧に直接つなぐとよいように思われますが、差動増幅回路の二つのトランジ
スタのベースを同じ条件にするために、R2は必ず必要です。ちなみに、 の回路でC6を取る図11-35
と、ミキサーゲインは1/3ぐらに小さくなってしまいます。
のようにシングルエンドで入力信号を加える以外にも、いろいろな方法が考えられます。図11-35
その方法を に示します。(a)は平衡入力にする場合で、(b)は、今までのトランジスタ回路図11-38
で常に用いていた方法で、例えば の信号入力方式と同じものです。ここでCxは、電解コン図11-17
デンサの周波数特性がよくない場合に必要です。これらの方が確かに簡単ですが、トランスの2次
巻き線がある場合にのみ可能です。これらを用いても、ミキサーゲインは とほぼ同じにな図11-35
ります。
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■ちょっと道草7 SBMによるAMモジュレータ
かつてのテレビゲームは、ビデオ信号と音声信号をテレビの電波と同じ信号に変換し、それを
テレビのアンテナ入力に接続していました。これをRFモジュレータとよんでいました。このRFモ
ジュレータには のダイオードによるSBMが使用されていました。今回はこのRFモジュレー図11-20
タと同じ構成で、AM中波のRFモジュレータを製作してみます。以降AMモジュレータとよぶことに
します。今回は遠くに電波を飛ばしませんが、遠くに電波を飛ばすと、AMワイヤレスマイクにな
ります。
AM中波のような、あまり高くない周波数では、 の回路で十分ですが、ここではあえて図図11-29
11-20の回路で製作します。製作した回路を図M7-1に、製作したものを写真M7-1に示します。
写真M7-1 製作したAMモジュレータ
L1はトリファイラ巻きでなく、この図の通りの巻き方で製作しました。Tr1はコルピッツ発振回
路です。発振周波数は1~1.4MHzくらいです。直接ダイオードをドライブしていますので、少し多
めにバイアス電流を流し、強い発振をさせています。全電流は2.8mAです。R4はAM波にするために
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使用しています。 の回路のままでは、ω2の成分がなくAM波になりません。そこで、R4で図11-20
直流を加えることによりω2の成分を発生させて、AM波としています。
オーディオ入力に1kHzを加えたときのAM出力の波形を写真M7-2に示します。上がAM出力、下が
入力したオーディオ信号です。確かにAM波が得られています。AM波の上下が非対称なのは、搬送
波の正と負の間隔が異なるからです。
写真M7-2 AM出力波形
ここで実際にAMラジオでAM出力信号を受信してみます。まず、オーディオ入力にCDプレーヤの
イヤホン出力を、AM出力に30cmくらいのビニール線をつなぎます。そのビニール線にAMラジオを
近づけます。このときAMラジオは1~1.4MHzの間で放送局のないところにチューニングしておきま
す。この状態で、CDプレーヤのイヤホン出力、およびAMモジュレータのTC1を適当に調整すると、
ラジオから音楽が流れてきます。
最後にお願いがあります。このモジュレータのAM出力は方形波であり、いろいろな周波数を含
んでいます。ですから、この信号を増幅して、もっと遠くへ電波を飛ばすことは絶対にしないで
ください。
ふじひら・ゆうじ
ワールド・ウェブ・ブックス「ラジオで学ぶ電子回路」第 章 再生・超再生ラジオRF 9
C Yuji Fujihira 2009( )
http://www.rf-world.jp/