4
しかし、G7上市後も糖尿病患者の増加とともに検 体数は増加し続けて、さらなる処理能力の向上が必要 となった。加えて診察時の患者負担を低減するため、 採血から結果報告までの時間短縮が求められるように なり、測定開始から初検体の結果出力までの時間(1 st レポート出力時間)の短縮も診断装置に要求されてい る。 これらの要望に応えるべく、1 st レポートを最短2.0 分で出力可能な迅速報告性能と、60検体/時間の処理 能力を有する東ソー自動グリコヘモグロビン分析計 HLC723G8を開発・商品化した。本報告では、この G8の主な仕様およびその基本性能を報告する。 2.装置の外観、仕様 装置の外観を図1に、主な仕様を表1に示す。 ( 69 ) 69 1.はじめに 東ソー自動グリコヘモグロビン分析計HLC723シ リーズは、イオン交換HPLC法を用いて糖尿病の臨床 検査項目であるグリコヘモグロビン(A 1c )を測定す る自動分析計である。同シリーズは1983年の発売開始 後、計5回のモデルチェンジを経て、糖尿病検査装置 として広く普及し、現在ではA 1c 分析計の標準機の1つ となっている。特に1995年に上市したGHbVからは非 多孔性陽イオン交換体カラムを用いて不安定型グリコ ヘモグロビン(LA 1c )と安定型グリコヘモグロビン (sA 1c )をカラム上で分離することが可能となり、sA 1c を再現性良く測定することが可能となった。さら に2000年に上市したG7では分析時間(1.2分)、処理能 力50検体/時間の高速・高処理性能を達成した。 東ソー自動グリコヘモグロビン分析計HLC723G8の開発 バイオサイエンス事業部 セパレーションメディア製造部 セパレーションセンタ村上 卓司 荻野 慎士 技術部 山岸 茂夫 黒木 東ソー・ハイテック㈱ 尾崎 啓二 松野 隆則 土本健太郎 カスタマーサポートセンター 石塚 哲也 伊藤 義正 技術資料図1 装置外観 測定項目 測定対象検体 測定原理 処理時間 検出方式 検体使用量 最大検体搭載数 注入方法 希釈方法 検体容器形状 検体ID認識 表示装置 入力装置 出力装置 記憶装置 送液部 カラム温調 HbA 1c (sA 1c )、HbF、HbA 1 全血、希釈溶血液 イオン交換高速液体クロマトグラフィー 1.0min/検体 2波長吸光度(検出波長415nm) 全血3μL、希釈溶血液80μL 90、100、290検体 サンプルループ(4μL) 希釈槽にて溶血洗浄液で自動希釈 φ12~φ15×75~100mm真空採血管 汎用サンプルカップ(アダプタ使用) 最大20桁のバーコード 320×240ドット モノクロ液晶ディスプレイ 圧力感知式タッチパネル・シートキー サーマルプリンタ スマートメディア シングルプランジャーポンプ 電子冷却(25℃) 表1 HLC723G8の主な仕様

東ソー自動グリコヘモグロビン分析計HLC-723G8の開発G8の主な仕様およびその基本性能を報告する。2.装置の外観、仕様 装置の外観を図1に、主な仕様を表1に示す。(69)

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Page 1: 東ソー自動グリコヘモグロビン分析計HLC-723G8の開発G8の主な仕様およびその基本性能を報告する。2.装置の外観、仕様 装置の外観を図1に、主な仕様を表1に示す。(69)

しかし、G7上市後も糖尿病患者の増加とともに検

体数は増加し続けて、さらなる処理能力の向上が必要

となった。加えて診察時の患者負担を低減するため、

採血から結果報告までの時間短縮が求められるように

なり、測定開始から初検体の結果出力までの時間(1st

レポート出力時間)の短縮も診断装置に要求されてい

る。

これらの要望に応えるべく、1stレポートを最短2.0

分で出力可能な迅速報告性能と、60検体/時間の処理

能力を有する東ソー自動グリコヘモグロビン分析計

HLC-723G8を開発・商品化した。本報告では、この

G8の主な仕様およびその基本性能を報告する。

2.装置の外観、仕様

装置の外観を図1に、主な仕様を表1に示す。

( 69 )

69

1.はじめに

東ソー自動グリコヘモグロビン分析計HLC-723シ

リーズは、イオン交換HPLC法を用いて糖尿病の臨床

検査項目であるグリコヘモグロビン(A1c)を測定す

る自動分析計である。同シリーズは1983年の発売開始

後、計5回のモデルチェンジを経て、糖尿病検査装置

として広く普及し、現在ではA1c分析計の標準機の1つ

となっている。特に1995年に上市したGHbVからは非

多孔性陽イオン交換体カラムを用いて不安定型グリコ

ヘモグロビン(L-A1c)と安定型グリコヘモグロビン

(s-A1c)をカラム上で分離することが可能となり、s-

A1cを再現性良く測定することが可能となった。さら

に2000年に上市したG7では分析時間(1.2分)、処理能

力50検体/時間の高速・高処理性能を達成した。

●東ソー自動グリコヘモグロビン分析計HLC-723G8の開発バイオサイエンス事業部 セパレーションメディア製造部 セパレーションセンター 村上 卓司

荻野 慎士技術部  山岸 茂夫

黒木  瞳東ソー・ハイテック㈱  尾崎 啓二

松野 隆則土本健太郎

カスタマーサポートセンター  石塚 哲也伊藤 義正

-技術資料-

図1 装置外観

測定項目測定対象検体測定原理処理時間検出方式検体使用量最大検体搭載数注入方法希釈方法検体容器形状

検体ID認識表示装置入力装置出力装置記憶装置送液部カラム温調

HbA1c(s-A1c)、HbF、HbA1全血、希釈溶血液イオン交換高速液体クロマトグラフィー1.0min/検体2波長吸光度(検出波長415nm)全血3μL、希釈溶血液80μL90、100、290検体サンプルループ(4μL)希釈槽にて溶血洗浄液で自動希釈φ12~φ15×75~100mm真空採血管汎用サンプルカップ(アダプタ使用)最大20桁のバーコード320×240ドット モノクロ液晶ディスプレイ圧力感知式タッチパネル・シートキーサーマルプリンタスマートメディアシングルプランジャーポンプ電子冷却(25℃)

表1 HLC-723G8の主な仕様

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3.迅速測定性能

HPLC法では気泡の混入による送液不良を避けるた

め、減圧脱気装置を利用している。このため、送液が

停止する待機中(STAND-BY状態中)に配管内の溶

離液が徐々に濃縮され、待機時間が長くなると初検体

が正常に測定できない問題があった。この問題を解消

するためには脱気装置を含む配管内の液置換を十分に

行うことが必要なため、G7では分析前に2.4分の予備

動作を必要とした。

G8は脱気装置の配管容量を半分に削減し、さらに

分析に使用する3種類の溶離液のうち、特に分析結果

に大きな影響を及ぼす溶離液を重点的に置換すること

とした。表2に待機直後から同一検体を連続測定した

結果を示す。待機状態が3時間経過しても初測定の結

果と以降の測定の結果に差はなく、1.0分の予備動作

で初検体を正確に測定できるようになった。これによ

り1stレポート出力時間を2.0分まで短縮することがで

きた。

4.基本性能

[1]基本性能

オートサンプラとカラム間の配管容量を低容量化す

ることで、G7と同じカラムサイズ(4.6mmI.D.×

20mm)を用いて、G7で1.2分を要した分析時間を1.0

分に短縮することが可能となった。クロマトグラムを

図2に示す。G7と同じく、ヘモグロビンをA1a, A1b,

F, L-A1c, s-A1c, A0の6分画へ分離可能である。図3

にGHbV、G7とのA1c(%)の相関を示す。

( 70 )

TOSOH Research & Technology Review Vol.50(2006)70

1回目2回目3回目4回目5回目

05.35.35.35.35.3

15.45.35.35.35.3

 STAND-BY経過時間(時間)25.45.35.35.35.3

35.35.35.35.35.3

 表2 A1c測定結果に及ぼす待機時間(STABD-BY経過時間)の影響                  

図2 HLC-723G8の測定結果レポートとクロマトグラム

A 1a A 1bF

L-A 1cs-A 1c

A 0

14.0

12.0

10.0

8.0

6.0

4.0

2.0

[%]

G8

G72.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0

[%]

y=0.9889x+0.0565r=0.9993(n=146)

14.0

12.0

10.0

8.0

6.0

4.0

2.0

[%]

G8

GHbV2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0

[%]

y=1.0111x-0.0669r=0.9991(n=146)

図3 GHb8と前モデルG7、GHbVとのs-A1c(%)の相関性

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相関係数はいずれもr=0.999以上であり良好な相関

性を示した。

表3に連続再現性と日差再現性の結果を示す。

A1c(%)の異なる検体で評価した結果、すべての検

体で連続再現性、日差再現性ともにCV1.0%以下の良

好な再現性を示した。

[2]修飾ヘモグロビンの影響

試料は健常人血に所定量のグルコース、アセトアル

デヒド、シアン酸ナトリウムを添加し、35℃で1時間

インキュベートし調整した。図4に結果を示す。

(1)不安定型グリコヘモグロビンの影響

グルコース添加量の増加とともにL-A1cが増加する

が、s-A1c値は添加量10 g/Lまでは変化せず、影響の

ないことを確認した。

(2)アルデヒド化ヘモグロビンの影響

アルデヒドを添加した場合もL-A1cが増加すること

から、アルデヒド化ヘモグロビンもL-A1cと一緒に溶

出していることがわかる。s-A1c値への影響はアルデ

ヒド添加量で0.2 g/Lまで認められなかった。

(3)カルバミル化ヘモグロビンの影響

カルバミル化ヘモグロビンもアルデヒド化ヘモグロ

ビン同様にL-A1c分画に溶出した。s-A1c値への影響は

シアン酸ナトリウム添加量で0.25 g/Lまで認められな

かった。

[3]干渉物質の影響

遊離型ビリルビン(ビリルビンF)、抱合型ビリル

ビン(ビリルビンC)、乳ビおよびアセチルサリチル

酸の影響を図5及び図6に示す。

( 71 )

東ソー研究・技術報告 第50巻(2006) 71

平均値SD

 CV(%)

平均値SD

 CV(%)

L5.150.040.72

L5.210.040.79

M7.450.050.73

H9.760.030.27

H9.750.070.74

(n=10)

(n=10)

連続再現性

日差再現性

表3 s-A1c(%)の再現性結果

不安定型グリコヘモグロビンの影響

6543210

Hb[%]

0 2 4 6 8 10 12グルコース添加量[g/L]

L-A1cs-A1c

アルデヒド化ヘモグロビンの影響

1086420

Hb[%]

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3アセトアルデヒド添加量[g/L]

L-A1cs-A1c

カルバミル化ヘモグロビンの影響

76543210

Hb[%]

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3シアン酸ナトリウム添加量[g/L]

L-A1cs-A1c

図4 修飾ヘモグロビンがs-A1c(%)に及ぼす影響

遊離型ビリルビン

6.05.55.04.54.03.53.0

s-A 1c[%]

0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25添加量[g/L]

抱合型ビリルビン

6.05.55.04.54.03.53.0

s-A 1c[%]

0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25添加量[g/L]

図5 干渉物質(ビリルビン)がs-A1c(%)に及ぼす影響

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遊離型ビリルビンは0.19 g/Lまで、抱合型ビリルビ

ンは0.20 g/Lまで、乳ビは2100ホルマジン濁度まで添

加の影響を受けなかった。

アセチルサリチル酸添加試料は添加後、35℃で1時

間インキュベートしたのち測定したが、添加量

0.25g/Lまで影響を認めなかった。

5.ま と め

G8は2.0分で1stレポートを出力可能な迅速測定と60

検体/時間の高処理能力を実現した自動グリコヘモグ

ロビン分析計である。本開発品は修飾ヘモグロビンお

よび干渉物質の影響を受けず、日差再現性はCV1%以

下と再現性に優れ、信頼性の高い測定が可能である。

前モデルであるGHbVおよびG7と高い相関性を維持し

ていることから、高い信頼性と多検体処理が必要とさ

れる検査室において幅広く利用されるものと期待され

る。

( 72 )

TOSOH Research & Technology Review Vol.50(2006)72

乳ビ

6.05.55.04.54.03.53.0

s-A 1c[%]

0.00 500 1000 1500 2000 2500添加量(ホルマジン濁度)

アセチルサリチル酸

6.05.55.04.54.03.53.0

s-A 1c[%]

0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30添加量[g/L]

図6 干渉物質(乳ビ、アセチルサリチル酸)がs-A1c(%)に及ぼす影響