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Euler Mazur Wiles ( ), Kolyvagin, Rubin (1990 )Euler . , Euler (I),(III)( ) . , Kummer (II) , (I) (III) , . Euler system Gauss . ポイ , (I) マイ Stickelberger , Gauss (III) プラ . , Euler system . , Z p - p k = Q(μ p ) . §4 , p - [k : Q] Q ベル k, §5 , k/k + (k + k ) p , . , Gauss Euler , [Kol],[Ru1],[Ru2],[Gre] ,[ 1] . §1. annihilator §1-1. マイ annihilator p , m 0 , k = k 0 = Q(μ p ), k m = Q(μ p m+1 ) . , G m :=Gal(k m /Q) Δ × Γ m , Δ :=Gal(k/Q), Γ m :=Gal(k m /k) . θ m k m Stickelberger . , θ m = p m+1 X a=1 (a,p)=1 a p m+1 τ m,a -1 Q p [G m ] , τ m,a , Galois G m . G m (Z/p m+1 ) × τ m,a a mod p m+1 A m k m p . A m Z p [G m ]- . , Stickelberger annihilator . , 1

岩澤主予想のEuler系による証明 - u-toyama.ac.jpiwao/SS2003/Bin/Reports/ss03rep...和のEuler系については, [Kol],[Ru1],[Ru2],[Gre] の他, [市村1]にも簡潔にまとめられ

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岩澤主予想のEuler系による証明

青木 美穂 (都立大理)

岩澤主予想がMazurとWilesにより保型形式を用いて証明されてからのち ( 栗原氏の稿参照), Kolyvagin, Rubinらによって考え出された (1990年代)Euler系の議論は岩澤主予想に対し全く新しい証明を与えた. 本稿では, この Euler系を用いた岩澤主予想の証明を定式化 (I),(III)(尾崎氏の稿より)に対し与える. 尾崎氏の稿にあったように,

Kummerの双対性を用いれば (II)を経由することにより, (I)と (III)は同値であったが,

ここではそれぞれに対し独立した証明を与える. ここで用いられる Euler systemは円単数とGauss和である. 岩澤主予想の証明のポイントは,

代数的対象 解析的対象

岩澤主予想 (I) イデアル類群のマイナスパート ⇔ Stickelberger元, Gauss和

岩澤主予想 (III) イデアル類群のプラスパート  ⇔ 円単数

において⇔の部分をどう関係づけるかという事である. この⇔ の部分を細かく, 調べるのに Euler systemの議論はとても有効になる. この稿では簡単のため, 円分 Zp-拡大の基礎体を p分体 k = Q(µp)に限定し話を進めることにする. §4 までは, p - [k : Q]となるQ上の有限次アーベル体 k, §5 以降は, この条件にさらに k/k+(k+は kの最大実部分体)において pの上の素イデアルが不分解なら, 同様に議論できる. 円単数, Gauss

和の Euler系については, [Kol],[Ru1],[Ru2],[Gre] の他, [市村 1]にも簡潔にまとめられているので参照して頂きたい.

§1. イデアル類群の annihilator§1-1. マイナスパートの annihilator

pを奇素数とし, 任意の整数m ≥ 0に対し, k = k0 = Q(µp), km = Q(µpm+1)とおく.

さらに, Gm :=Gal(km/Q) ' ∆ × Γm, ∆ :=Gal(k/Q), Γm :=Gal(km/k)とおく. θm

を kmの Stickelberger元とする. すなわち,

θm =

pm+1∑a=1

(a,p)=1

a

pm+1τm,a

−1 ∈ Qp[Gm]

であり, τm,aは, 以下で定義されるGalois群Gmの元である.

Gm ' (Z/pm+1)×

τm,a ↔ a mod pm+1

Amを kmのイデアル類群の pシロー部分群とする. Amは Zp[Gm]-加群である. 山本氏の稿にあったように, Stickelberger元はイデアル類群の annihilatorである. すなわち,

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補正項 τm,α − α(αは, pと素な整数)を掛けた (τm,α − α)θm ∈ Zp[Gm]はイデアル類群Amを消す:

Am(τm,α−α)θm = 0 (1.1)

Amは複素共役が trivialに作用するプラスパートAm+と−1で作用するマイナスパー

トAm−に直和分解される: Am = Am

+⊕Am−. (1.1)は, 実はプラスパートAm

+に関しては自明な事を述べているにすぎない. Am

+, Am−をさらに, ∆の指標χごとに分解し

て考える (∆の指標は ωを pにおけるTeichmuller指標とすると χ = ωi, 0 ≤ i ≤ p− 2

が全てである).

Am+ =

⊕χ

偶指標

Amχ, Am

− =⊕

χ奇指標

Amχ

χ ∈ ∆に対し, χにおける idempotentを eχとすると, (τm,α − α)θm  ∈ Zp[Gm]より,

eχ(τm,α − α)θm = (χ(σα)γm,α − α)θχmeχ ∈ Zp[Gm]eχ ' Zp[Γm]eχ である. ここで,

σα ∈ ∆, γm,α ∈ Γmは,

Gm ' ∆ × Γm

τm,α ↔ (σα , γm,α)

で定義され, また θχmは以下で与えられる群環Qp[Γm] の元である.

θχm =

pm+1∑a=1

(a,p)=1

a

pm+1χ−1(a)γm,a

−1 ∈ Qp[Γm]

(1.1)より, 次の χ-partに関する関係式を得る:

(Amχ)(χ(α)γm,α−α))θχ

m = 0 (1.2)

γmを Γmの生成元とすると,(χ(σα)γm,α − α)θχm ∈ Zp[Γm]に対し,

(χ(σα)γm,α − α)θχm ≡ (χ(σα)− α)

pm+1∑a=1

(a,p)=1

a

pm+1χ−1(a) (mod (γm − 1)) (1.3)

である.

補題 1.

(1) Amω = 0.

(2) θχm ∈ Zp[Γm]であり, かつ (Am

χ)θχm = 0, (χ 6= ω).

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証明.  (1) α = 1− pに対し, (ω(σα)γm,α − α)θωm ∈ Zp[Γm]×を示す.

(ω(σα)γm,α − α)θωm ≡ (ω(σα)− α)

pm+1∑a=1

(a,p)=1

a

pm+1ω−1(a)

=1

pm

∑a

aω−1(a) (ω(σα)− α = pより)

=1

pm

p−1∑

b=1

∑a≡b

(mod p)

aω−1(a)

=1

pm

p−1∑

b=1

ω−1(b)

pm−1∑i=0

(b + pi)

=

p−1∑

b=1

ω−1(b)(b +pm − 1

2p)

≡ p− 1 mod (p, γm − 1)

Zp[Γm]は, (p, γm−1)を極大イデアルにもつ局所環であるので,上の計算から,(ω(σα)γm,α−α)θω

m ∈ Zp[Γm]×である.

(2) χ 6= ωの時, χ(α)γm,α − α ∈ Zp[Γm]×となるような pと素な整数 αが選べる (例えば, α mod pが (Z/p)×の生成元となるように選べばよい). よって, θχ

mはZp[Γm]の元であり, (1.2)から, (Am

χ)θm,χ = 0 . ¤

注意. χが偶指標の時, eχθχm = 1

2eχNkm/Qが示せる. よってこの場合, 補題 1, (2) の主

張は (Amχ)θχ

m = (Amχ)eχθχ

m = (Amχ)

12eχNkm/Q = 0となり, 有理数体Qの類数が 1である

ことを考えると, 明らかな事を述べているに過ぎない. この事実は, 山本氏の稿にあった「実アーベル体に対し, Stickelberger元は何の情報も与えない」ということからも見てとれる. なぜなら, kmの最大実部分体 k+

mの pシロー部分群Ak+mに対し, Zp[G

+m]-加

群としての同型A+m ' Ak+

m(G+

m :=Gal(k+m/Q))が成り立つからである. 

この節の終わりに以後使う写像 ϕλについて証明する. K = km又は k+mとおく. λ

をK の素イデアルでK/Qで完全分解するものとする. λの下にある素数を `とおき,

群の準同型 νλ : {x ∈ K×|ordλ(x) = 0} → Z/(` − 1) を g`νλ(x) ≡ x (mod λ)で定める.

(g`は (Z/`)×の生成元). OK をK の整数環とし, XK,` = (OK/∏

τ∈Gal(K/Q)

λτ )×とおく.

(Z/(`− 1))[Gal(K/Q)]-加群としての同型

ϕλ : XK,` ' (Z/(`− 1))[Gal(K/Q)] (1.4)

を, ϕλ(x mod∏

τ∈Gal(K/Q)

λτ ) =∑

τ∈Gal(K/Q)

νλτ (x)τ (mod (`− 1))で定める.

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§1-2. プラスパートの annihilator

前節で述べたように, Am+に関しては, Stickelberger元よりも良い annihilatorを考

える必要がある. この節では, F.Thaineによるイデアル類群のプラスパート Am+ の

annihilatorの構成について述べる ([Tha],[Was,§15.2],[市村 2]). 以下に述べるように,

Am+の annihilatorは, Stickelberger元と異なり各イデアル類ごとに定まるものである.

§1-1の終わりの節で述べた注意より, A+mを考えることとAk+

mを考えることは同じであ

る. よってAk+mの annihilatorを考察することにする. ∆の偶指標χは∆+ :=Gal(k+/Q)

の指標とみなせることに注意する.

M をM > pm+1をみたす pの冪とする. Clk+mの任意のイデアル類 cに対し, その代

表元のイデアル λは Chebotarevの密度定理 (§5参照)より, ` ≡ 1 (mod M) を満たすような素数 `を割る素イデアルとして選べる. イデアル類 c = [λ]の annihilatorを以下のように構成する.

一般に代数体F の分数イデアル全体が成す群を IF , 単項イデアル全体が成す群をPF

とおく. また, x ∈ F の単項イデアル (x) ∈ IF の IF /MIF における像を [x]で表し, 素数 `に対して, [x]`で [x]の `を割る素イデアル成分を表す.

λの上にある k+m(µ`)の唯一の素イデアルを λ とおき, πλ ∈ k+

m(µ`)を以下を満たすように選ぶ.

(πλ) = λ a in Ik+m(µ`)

aは `と素なイデアル.

ρ`を, 同型Gal(k+m(µ`)/k

+m)(' (Z/`)×)において (Z/`)×の生成元 g`に対応する生成

元とする. πλρ`−1 mod

∏τ∈G+

mλτ は G+

m-加群として Xk+m,` := (Ok+

m(µ`)/∏

τ∈G+m

λτ ) '(Ok+

m/∏

τ∈G+m

λτ )×を生成することが分る. さらに次の (Z/M)[G+m]-加群としての同型

が示せる.ψπλ

: Xk+m,`/Xk+

m,`M ' (Z/M)[G+

m]

(πλρ`−1 mod

∏τ∈G+

mλτ )x ↔ x

このとき, 次が成り立つ.

λψπλ(ξm,1) ∈ Pk+

mIk+

m

M (1.5)

ただし, ξm,1 := (ζpm+1 − 1)(ζpm+1−1 − 1) ∈ k+

m.

この ψπλは以下の可換図式をみたすように作られた写像である.

x 7→ [Nk+m(µ`)/k+

m(x)]`

 x k+

m(µ`)× → Ik+

m,`/MIk+m,` λ

↓ ↓ ↓ ↓xρ`−1 Xk+

m,`/Xk+m,`

M → (Z/M)[G+m] 1

ψπλ

ϕλ : Xk+m,`/Xk+

m,`M ' (Z/M)[G+

m] を (1.4)から induceされる写像とすると, ψπλはこ

の写像と一致する.

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補題 2. ψπλ= ϕλ (特に ψπλ

は πλのとり方に依らない.)

証明. ϕλ(πλρ`−1 mod

∏τ∈G+

mλτ ) = 1を示せば良い. πλのとり方から, πλ = (1− ζ`)y,

(y ∈ k+m(µ`)は λと互いに素な元)とおける. (1 − ζ`)

ρ`−1 ≡ g` (mod λ)かつ, yは λと素であるから yρ`−1 ≡ 1 (mod λ)より, πλ

ρ`−1 ≡ g` (mod λ)である. 主張はこれより従う. ¤もし c = [λ] ∈ Ak+

mであれば, pの冪M をM ≥ |Ak+

m| となるよう十分大きくとれば,

この補題と (1.5)より cϕλ(ξm,1) = 0 · · · (1.6)が成り立つ.

§2. Euler systems§2-1. 円単数整数の部分集合 Sを以下で定義する.

S = {n ∈ Z > 0 | 平方因子を持たない, nを割る各素数 `に対し ` ≡ 1 (mod M)}

1 ∈ Sに注意する. 任意の n ∈ Sに対し,

ξm,n = (ζpm+1

∏q|n

prime

ζq − 1)(ζpm+1−1

∏q|n

prime

ζq − 1) ∈ k+m(µn)×

と定める. n 6= 1の時, ξm,nは円単数である. ξm,nは以下の体のノルムN` := Nk+m(µn)/k+

m(µn/`)

に関する条件を満たす.

`|nに対し,

N` : k+m(µn)× → k+

m(µn/`)×

(2.1)

ξm,n 7→ ξm,n/`Fr`−1

Fr`は `における Frobenius置換を表す.

一方, ξm,nは lim←−N

k+m(µn)×/(k+

m(µn)×)pN

の元とみなすこともできる. Kummer theory

による同型を用いると次が示せる.

lim←−N

k+m(µn)×/(k+

m(µn)×)pN

= lim←−N

H1(k+m(µn), µpN )

= H1(k+m(µn),Zp(1))

ただし, Zp(1) = lim←−N

µpN である.

前述の体のノルム写像N`はコホモロジーの corestriction map

Cor : H1(k+m(µn),Zp(1)) → H1(k+

m(µn/`),Zp(1))

に対応する. p進表現 T = Zp(1)に対するEuler systemとは, ノルム写像 (corestriction

map)に対し, (2.1)のような良い性質をもった一次のコホモロジーの元の集まりである.

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(一般の p進表現 T に対しても, Euler systemの定義は corestriction mapに関して良い性質をもった一次の cohomology群の元の集まりとして与えられる [Ru3].)

§2-2. Gauss和Gauss和は, 一般の Euler systemの定義にはあてはまらない. しかし, 後に述べるようにイデアル類群の構造を調べるためには, Euler systemから構成される derivative

classes (H1(km, µM)の元の集まり)があれば十分である. Gauss和は類群の情報を十分に与える derivative classesを構成する.

任意の n ∈ Sと r ≡ 1 (mod npm+1)をみたす素数 rを割る任意の km(µn) の素イデアル rに対し, Gauss和 τn,rを以下で定義する.

τn,r =r−1∑a=1

χr,n(a)ζra ∈ km(µnr)

×

ここで, χr,n : (Z/r)× → µnpm+1は χr,n(a) ≡ a− r−1

npm+1 mod r で定義される指標である.

δ ∈Gal(km/Q), δの延長 δ ∈Gal(Q(µMpm+1)/Q)をそれぞれ固定し, 各 n ∈ Sに対しbn ∈ Zを以下のように定義する.

Gal(Q(µnMpm+1)/Q) ' (Z/nMpm+1)× ' Gal(Q(µMpm+1)/Q) × Gal(Q(µn)/Q)

bn 7→ ( δ , 1 )

gn,r = τn,rδ−bn とおく. gn,rは km(µn)×の元であることが示せる. この gn,rは, (2.1)よ

り弱い以下の条件を満たす.

`|nに対し,

N` : km(µn)×/(km(µn)×)M → km(µn/`)×/(km(µn/`)

×)M

(2.2)

gn,r mod (km(µn)×)M 7→ gn/`,N`r1−Fr`

−1mod (km(µn/`)

×)M

§3. Derivative classes and Higher annihilators

この節では, §2で述べた円単数 ξm,n, Gauss和 gn,rの系列から構成される derivative

classesと呼ばれる k+m×/(k+

m×)M(' H1(k+

m, µM)), km×/(km

×)M(' H1(km, µM)) の元の集まりの構成, 及び derivative classesと higher annihilatorsとの関係について述べる.

§3-1. Derivative classes

補題 3. 任意の n ∈ Sに対し, 次の自然な同型が存在する.

(1) k+m×/(k+

m×)M ' (k+

m(µn)×/(k+m(µn)×)M)Gal(k+

m(µn)/k+m)

(2) 任意の χ(6= ω) ∈ ∆に対し,

(km×/(km

×)M)χ ' [(km(µn)×/(km(µn)×)M)Gal(km(µn)/km)]χ

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ここで, いくつかの記号を定義する. 任意の n ∈ Sと任意の素数 ` ∈ S に対し,

Gn = Gal(k+m(µn)/k+

m) ' Gal(km(µn)/km)

D` =`−2∑i=0

iρ`i, Dn =

`|nD`

とおく. ここでρ`は巡回群G`(' (Z/`)×)の生成元であった. §2の円単数 ξm,n ∈ k+m(µn)×

と Gauss和 gn,r ∈ km(µn)×をそれぞれ, k+m(µn)×/(k+

m(µn)×)M , km(µn)×/(km(µn)×)M

の元とみると次の補題が成り立つ.

補題 4. 任意の n ∈ Sに対し,

(1) ξm,nDn ∈ (k+

m(µn)×/(k+m(µn)×)M)Galk+

m(µn)/k+m)

(2) r ≡ 1 (mod npm+1)をみたすような素数 rを割る任意の km(µn)の素イデアル rに対し,

gn,rDn ∈ (km(µn)×/(km(µn)×)M)Gal(km(µn)/km)

そこで, 補題 3を用いて, k+m×/(k+

m×)M , (km

×/(km×)M)χの元 κm,n, κχ

n,ρ を以下で定める.

定義 5.

(1)

k+m×/(k+

m×)M ' (k+

m(µn)×/(k+m(µn)×)M)Gal(k+

m(µn)/k+m)

κm,n ↔ ξm,nDn

(2) 任意の χ(6= ω) ∈ ∆に対し,

(km×/(km

×)M)χ ' [(km(µn)×/(km(µn)×)M)Gal(km(µn)/km)]χ

κχn,ρ ↔ gn,r

Dneχ

ここで, ρは rの下にある kmの素イデアル. κχn,ρは, ρの上にある素イデアル rのとり方

によらないことが示せるため, この表記を用いる.

こうして構成された元の集まり

{κm,n|n ∈ S} ⊂ k+m×/(k+

m×)M(' H1(k+

m, µM))

{κχn,ρ|n ∈ S, ρ} ⊂ km

×/(km×)M(' H1(km, µM))

が derivative classesである.

§3-2. Higher annihilators

ここではHigher annihilator ϕλ(κm,n) ∈ (Z/M)[G+m], δm(n) ∈ (Z/M)[Gm]の定義を

述べ, またこれらと §3-1で述べた derivative class との関係を説明する.

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n ∈ S, ` ≡ 1 (mod Mn)を満たす素数 `を割る k+m の素イデアル λに対し, ϕλ を

§1-1で定義された写像とする. §3-1で定義された κm,n ∈ k+m×/(k+

m×)M はその持ち上げ

κm,n ∈ k+mを `と素になるようにとることが示せるので, ϕλ(κm,n)が定義できる. ϕλの

像が (Z/M)[G+m]に値をとることを考えると ϕλ(κm,n)は, 持ち上げ κm,nのとり方に依

らないため ϕλ(κm,n)を ϕλ(κm,n)と記すことにする.

次に δm(n) ∈ (Z/M)[Gm]を定義する. 任意の n ∈ Sに対し, θm,n を km(µn)の Stick-

elberger元とする:

θm,n =

npm+1∑a=1

(a,np)=1

a

npm+1τm,n,a

−1 ∈ Qp[Gal(km(µn)/Q)]

であり, τm,n,aは, 以下で定義されるGalois群Gal(km(µn)/Q)の元である.

Gal(km(µn)/Q) ' (Z/npm+1)×

τm,n,a ↔ a mod npm+1

Dn(δ − bn)θm,n ∈ (Z/M)[Gal(km(µn)/Q)]Gn = Nn(Z/M)[Gm](Nn :=∑

τ∈Gnτ)が示

せることから, δm(n) ∈ (Z/M)[Gm]をDn(δ − bn)θm,n = Nnδm(n)をみたす元として定める. δm(n)は (Z/M)[Gm]の元として uniqueに定まる.

ϕλ(κm,n), δm(n)と derivative classesの関係は以下で与えられる.

命題 6. 任意の n(6= 1) ∈ Sに対し, 次の関係式が成り立つ.

(1) [κm,n] =∑

`|nϕλ(κm,n/`)λ in Ik+

m/MIk+

m

ただし, λは `を割る k+mの素イデアルである.

(2) r ≡ 1 (mod npm+1)をみたすような素数 rを割る kmの素イデアル ρに対し

[κχn,ρ] = eχδ(n)ρ +

`|n[κχ

n,ρ]` in Ikm/MIkm

ここで, 群 Ik+m, Ikm の演算は加法的に記してある.

§3-3. The explicit formulae of higher annihilators

§3の最後に higher annihilator:ϕλ(κm,n), δm(n)の具体的な形を述べる. 任意の素数`に対し, ν` : (Z/`)× → Z/(` − 1)を g`

ν`(a) ≡ a (mod `)で定める. 素数 `を ` ≡ 1

(mod Mn)をみたすものとする. 任意の a ∈ (Z/pm+1n)×に対し, Tn,`,a ∈ (Z/`)× を以下で定義する.

Tn,`,a = (g`

`−1npm+1 a − 1)(g`

`−1npm+1 βa − 1)

ここで, βは β ≡ −1 (mod pm+1)かつ β ≡ 1 (mod n)をみたす pnと素な整数である(βは modpm+1nで定まる整数だが Tn,`,aは βのとり方に依らないことに注意).

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命題 7. n ∈ S

(1) ` :素数, ` ≡ 1 (mod Mn), λ : `を割る k+mの素イデアル

ϕλ(κm,n) =∑

a

ν`(Tn,`,a)(∏q|n

prime

νq(a))τm,a−1 ∈ (Z/M)[G+

m]

aは群 ((Z/pm+1)×/{±1})× (Z/n)×を動く. τm,a ∈ G+mは以下で定義する.

G+m ' (Z/pm+1)×/{±1}

τm,a ↔ a mod {±1}

(2)

δm(n) = (δ − bn)

npm+1∑a=1

(a,np)=1

a

npm+1(∏q|n

prime

νq(a))σa−1 ∈ (Z/M)[Gm]

§4. k = Q(µp)のイデアル類群の構造

Euler systemが導入されたことにより, イデアル類群の構造に関して多くの情報を知ることができるようになった. この節では特にA0

χの構造が higher annihilatorsで表すことができることについて述べる. 一般のAm

χについても higher annihilatorsは, その構造に関して情報をもたらすが, Zp[Γm]-加群としてのその構造を完全に決定するのは難しい問題である. これがA0

χに対しては可能であるのはA0χ は離散付値環Zp[Γ0] = Zp

上の加群となり, その構造を決定するのは higher annihilatorsの付値を計算するということに帰着されるからである. ここで尾崎氏の稿にあった [定理 8.1], [定理 8.3]をふりかえると, それはA0

χの位数が以下のように表せるというものであった.

定理 8.

|A0χ| =

{pvp(B1,χ−1 ), χ(6= ω) :奇指標|(E/C ⊗Z Zp)

χ|, χ :偶指標

ここで, Eは kの単数群, Cは kの円単数群である. これらは岩澤主予想から導かれるものであったが, Euler systemの議論を用いると, 直接示すことができる. さらに位数のみでなく, A0

χの構造も以下のように決定することができる.

始めに, §1の結果だけからでも, 以下の事実は示せることに注意しておく.

定理 9(Stickelberger, Thaine).

(1) 任意の奇指標 χ(6= ω) ∈ ∆ に対し,

(A0χ)p

vp(B1,χ−1 )

= 0

(2) 任意の偶指標 χ ∈ ∆に対し,

(Ak+χ)|(E/C⊗ZZp)χ|(= (A0

χ)|(E/C⊗ZZp)χ|) = 0

9

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証明. (1)

θχ0 =

p−1∑a=1

a

pχ−1(a) = B1,χ−1 (∈ Zp)

より補題 1,(2)から従う.

(2) χ = 1のときは, 有理数体Qの類数が 1であることからA0χ = 0 となるので, 主

張が成り立つ. 以下, χ 6= 1とする.

自然な完全列:

0 → C → E → E/C → 0

に対し, ⊗ZZpし, χ-partをとると (両方とも完全関手), 完全列

0 → (C ⊗Z Zp)χ → (E ⊗Z Zp)

χ → (E/C ⊗Z Zp)χ → 0

ができるので, 同型 (E/C ⊗Z Zp)χ ' (E ⊗Z Zp)

χ/(C ⊗Z Zp)χが成り立つ. χ(6= 1)が

偶指標であることから, Zp-加群としての同型 (E ⊗Z Zp)χ ' Zp が成り立つ. ξ0,1 =

(ζp − 1)(ζp−1 − 1) ∈ k+に対し, ξ0,1

eχ ∈ (E ⊗Z Zp)χは (C ⊗Z Zp)

χ の生成元であることから, ηを

ξ0,1eχ ∈ {(E ⊗Z Zp)

χ}η (4.1)

となる最大の pの冪とすれば,

|(E/C ⊗Z Zp)χ| = |(E ⊗Z Zp)

χ/(C ⊗Z Zp)χ| = |Zp/η| = η

が成り立つ. pの冪MをM ≥ |Ak+ |かつ, M > |(E/C ⊗Z Zp)χ| = ηとなるようにとる.

§1の終わりの式 (1.6)より,任意のイデアル類 c = [λ] ∈ Ak+χ ( λは ` ≡ 1 (mod M)をみ

たす素数 `を割る素イデアル)に対し, cϕλ(ξ0,1) = 0であった. 写像ϕλ : Xk+,`/Xk+,`M '

(Z/M)[∆+] (∆+ := G+0 =Gal(k+/Q))は (Z/M)[∆+]- 加群としての同型を与えていた

ので, ϕLは群の同型

(Xk+,`/Xk+,`M)χ ' (Z/M)[∆+]χ(' Z/M)

を誘導する. これも ϕλ と表す. 任意の a(6= 0) ∈ Z/M に対し, ordp(a) ∈ Zを a =

upordp(a) mod M, p - uで定義する. 但し, a = 0 ∈ Z/Mに対しては, ordp(a) = ordp(M)

とする. (4.1)より, pordp(ϕλ(ξ0,1eχ )) ≥ ηである. ここで, 次の補題が成り立つ(証明には

[Was, Prop15.4]を用いる).

補題 10. 任意のイデアル類 c ∈ Ak+χに対し, その代表元のイデアル λを以下の 2条

件を満たすようにとれる.

(1) λは ` ≡ 1 (mod M)を満たす素数 `を割る素イデアル.

(2) pordp(ϕλ(ξ0,1eχ )) = η

この補題より定理の主張 (Ak+χ)η = 0が示される. ¤

10

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Euler systemの議論を用いると,さらにA0χに関する次の構造定理が得られる ([Ru1],

[Ru2]参照).

定理 11. pの冪M をM ≥ |A0χ|2となるようにとる.

A0χ '

s⊕i=1

Z/pei , e1 ≥ · · · ≥ es

とおくと, 指数 e1, · · · , esは次のように higher annihilatorsの p進付値で定まる.

任意の i, 0 ≤ i ≤ s− 1に対し,

ei+1+· · ·+es =

min{ordp(δ0(n)χ)|n = `1 · · · `i ∈ S(i個の素数の積)} (χ(6= ω) :奇指標)

min{ordp(ϕλ(κ0,n)χ)|n = `1 · · · `i ∈ S(i個の素数の積), λ : ` ≡ 1 (mod Mn)

を満たす素数 `を割るような k+の素イデアル } (χ(6= 1) :偶指標)

ここで, 任意の x ∈ (Z/M)[∆](又は (Z/M)[∆+]))に対し xχ ∈ Z/M を eχx = xχeχで定義する.

この定理は, 定理 9の精密化である定理 8を含んでいる. 実際, χ(6= ω):奇指標のとき, δ0(n)の定義 ( §3-2)より ordp(δ0(1)χ) = ordp(B1,χ−1)から, 定理 8の前半が導かれる. χ = 1のときはA0

χ = (E/C ⊗Z Zp)χ = 0になることが示せるので ([Was,§8.3]参

照), 定理 8は trivialに成り立つ. χ(6= 1)を偶指標とする. ϕλ(κm,n)の定義 (§3-2)よりordp(ϕλ(κ0,1)

χ))= ordp(ϕλ(ξ0,1)χ) = ordp(ϕλ(ξ0,1

eχ))である. 再び補題 10を用いることにより, 定理 8が導かれる.

§5. Cheboterevの密度定理の応用

この節では, Chebotarevの密度定理の応用について, 後で岩澤主予想の証明に用いる形で述べる. 始めにCheboterevの密度定理を復習しておく ([高木,§16.2]参照).

F/Qを代数体, K/F をGalois拡大とする. G =Gal(K/F )とおく. 任意のGの共役類 [τ ] := {στσ−1|σ ∈ G} ⊂ Gに対し, F の素イデアルの集合 S[τ ]を

S[τ ] = {L : F の素イデアル |L はK/F で不分岐かつ F/Qで完全分解であり,

そのフロベニウス共役類 FrobL(K/F )は [τ ]と一致する. }

と定める. 一般に F の素イデアルの集合 Sに対し, その密度∆(S)を

∆(S) = lims→1+0

∑L∈S

1(NL)s

log 1s−1

で定める. このとき次が成り立つ.

定理 12(Chebotarev).

∆(S[τ ]) =|S[τ ]|

[K : F ]

11

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注意.

1. S0を F の素イデアル全体の集合とすると, その密度は 1である:∆(S0) = 1.

2. lims→1+0

log1

s− 1= +∞により, ∆(S[τ ])の定義からとくに S[τ ]は無限集合になること

が分る.

次に述べる定理は定理 12の応用である.

定理 13. χ(6= ω) ∈ ∆, K = km又はK = k+mとしG :=Gal(K/Q)とおく. 任意の正の

整数 n, N(nは pで割れない), c ∈ AK(µn)χ, (K×/(K×)M)χの有限G-部分加群W , G-

準同型 ψ : W → (Z/M)[G]が与えられているとする. このとき以下の全ての条件をみたすKの素イデアルLが無限個存在する.

(1) Lの上にあるK(µn)の素イデアル Lで, そのAK(µn)χでの像が cとなるものが存在

する.

(2) Lの下にある素数を `とすると, `は ` ≡ 1 (mod Mkn)をみたす.

(3) 任意の w ∈ W に対し [w]`=0であり, ある (wに依存しない)u ∈ (Z/M)×が存在して ϕL(w) = uψ(w)をみたす.

証明. K ′ = Q(µMNn)とおく. M の仮定M > pm+1よりK ′ ⊃ Kである. スペクトル系列から次の完全列が導かれる.

0 → H1(K ′/K, µM) → H1(K, µM) → H1(K ′, µM)Gal(K′/K)

(5.1)

→ H2(K ′/K, µM) → · · ·ここで, K ′/Qがアーベル拡大であることから∆ =Gal(Q(µp)/Q)はGal(K ′/km)に自明に作用するので, 任意の i ∈ Z ≥ 0に対しH i(K ′/km, µM)χ = H i(K ′/km, µM

χ)である.

χ 6= ωから µMχ = 0であるから, 任意の i ≥ 0に対しH i(K ′/km, µM)χ = 0が成り立

つ. また, H i(K ′/k+m, µM) ' H i(K ′/km, µM)Gal(km/k+

m)であるから, H i(K ′/k+m, µM)χ '

[H i(K ′/km, µM)Gal(km/k+m)]χ = 0も成り立つ. よって, (5.1)より次の同型を得る.

H1(K, µM)χ ' [H1(K ′, µM)Gal(K′/K)]χ (5.2)

Kummer theoryによる同型H1(K, µM) ' K×/(K×)M , H1(K ′, µM) ' K ′×/(K ′×)M を用いると (5.2)より

(K×/(K×)M)χ ' [(K ′×/(K ′×)M)Gal(K′/K)]χ

が成り立つ. よって与えられた有限G-部分加群W ⊂ (K×/(K×)M)χは [(K ′×/(K ′×)M)Gal(K′/K)]χ

の部分加群とみなせる.そこでWに対応するKummer拡大K ′(W 1/M) = K ′(w1/M |[w] ∈W )を考える. W はGal(K ′/Q)の作用で閉じているのでK ′(W 1/M)/Q はGalois拡大である. Gal(K ′/Q)はGal(K ′(W 1/M)/K ′)に次のように作用する:

τσ := στ σ−1(∈ Gal(K ′(W 1/M/K ′)), σ ∈ Gal(K ′/Q), τ ∈ Gal(K ′(W 1/M)/K ′)

12

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ここで σは σのGal(K ′(W 1/M)/Q)への延長を表す ( 延長のとり方に依らないことはK ′(W 1/M)/K ′がアーベル拡大であることから従う).

Kummer pairingよりGal(K ′/Q)-加群としての同型:

Gal(K ′(W 1/M)/K ′) ' Hom(W,µM)

(5.3)

τ 7→ {fτ : w 7→ (w1/M)τ−1}

を得る. ここで σ ∈Gal(K ′/Q)の f ∈Hom(W,µM)への作用は fσ(w) := f(wσ−1)σで定

める. ∆ ⊂Gal(K ′/Q)とみなして σ ∈ ∆の f ∈Hom(W,µM)への作用をみると,

fσ(w) = f(wσ−1

)σ = f(wχ−1(σ))ω(σ) = f(w)ωχ−1(σ)

よって, Hom(W,µM)=Hom(W,µM)ωχ−1である. 同型 (5.3)より,

Gal(K ′(W 1/M)/K ′) = Gal(K ′(W 1/M)/K ′)ωχ−1

(5.4)

となる. Galois拡大H/K(µn)を類体論からGal(H/K(µn)) ' AK(µn)χ が成り立つもの

とすると, Gal(HK ′/K ′) =Gal(HK ′/K ′)χより, (5.4)と合わせてK ′(W 1/M) ∩ HK ′ =

K ′となる. またアーベル拡大Gal(K ′/K(µn))は非自明な不分岐拡大を持たないので,

K ′ ∩H = K(µn)も成り立つ. 以上のことから次の体の図式を得る.

K ′(W 1/M) HK ′(W 1/M)

| |K ′ HK ′

| |K(µn) H

準同型 ι : (Z/M)[G] → µM を 1G 7→ ζM , σ(6= 1G) 7→ 1 で定める. ιと与えられた準同型 ψ : W → (Z/M)[G]との合成 ι ◦ ψ ∈Hom(W,µM)に対し, 同型 (5.3)で対応するGal(K ′(W 1/M)/K ′)の元を τ∗とおく. さらに与えられたイデアル類 c ∈ AK(µn)

χに対し, τ∗,c ∈Gal(HK ′(W 1/M)/K(µn))を以下で定める.

Gal(HK ′(W 1/M)/K(µn)) ' Gal(K ′(W 1/M)/K(µn)) × AK(µn)χ

τ∗,c ↔ ( τ∗ , c )

定理 12より, 以下の条件全てをみたすK(µn)の素イデアル Lが無限個存在する.

• K(µn)/Qで完全分解• HK ′(W 1/M)/K(µn)で不分岐• Frob eL(HK ′(W 1/M)/K(µn)) = [τ∗,c] (τ∗,c の共役類)

Kの素イデアルLを Lの下にあるものとするとLは定理の条件 (1),(2),(3)を全てみたす. ¤

13

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§6. 解析的類数公式の応用次節において, 岩澤主予想 (I),(III) (尾崎氏の稿参照)の証明を与えるが, この節では岩澤主予想の主張に現れる Λ = Zp[[T ]]のイデアルとしての示すべき等号は, 解析的類数公式を用いることで片側の包含関係のみに帰着されることをみる. 任意の指標χ ∈ ∆

に対し岩澤加群X = lim←−Amの χ-part Xχ = lim←−Amχの岩澤 λ-不変量を λχとおく. つ

まり, charΛXχ = gχΛ, gχ ∈ Λとおくと, λχ = λ(gχ)であった (伊藤氏の稿, §2参照).

補題 14. 任意の整数m ≥ 0に対し, |Λm/gχΛm| < ∞であり, かつmに依存しない定数 c > 0が存在して以下の不等式をみたす.

c−1 ≤ |Amχ|

|Λm/gχΛm| ≤ c

証明. 藤井氏の稿, 命題 4.1から (Xχ)Γpm = Xχ/ωmXχ ' Amχ が成り立つので,

Xχ/ωmXχ は有限群. よって, Xχ の特性多項式 gχ は任意の m ≥ 0に対し ωm と互いに素である (伊藤氏の稿, 系 2.3)ので |Λm/gχΛm| < ∞. gχの定義より, 次の Λ-加群としての完全列が存在する.

0 →s⊕

i=1

Λ/giΛ → Xχ → Z → 0 (6.1)

ただし, gχ =∏s

i=1 gi, |Z| < ∞. この完全列に⊗ΛΛmすること (Γpm-coinvariantをとる

こと)により, Λm-加群の完全列

ZΓpm

→s⊕

i=1

Λm/giΛm → Amχ → ZΓpm → 0 (6.2)

が得られる. Zの位数がmに依らないことから, この完全列より定数 c > 0を適当にとれば, (例えば c = |Z|ととればよい)不等式

c−1 ≤ |Amχ|

|⊕si=1 Λm/giΛm| ≤ c

が成り立つ. 主張はこの不等式と次の補題 15から従う. ¤

補題 15. f =s∏

i=1

fi ∈ Λ− {0}を任意のm ≥ 0に対し ωmと素な元とする. この時, m

に依存しない定数 c > 0が存在して以下の不等式をみたす.

c−1 ≤ |⊕si=1 Λm/fiΛm||Λm/fΛm| ≤ c

14

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§6-1. マイナスパートマイナスパートに関しては, 福田氏の稿における次の定理を用いる.

定理 16. ∑

χ(6=ω)∈b∆奇指標

λχ =∑

χ( 6=ω)∈b∆奇指標

λ(f(T, χ−1ω))

ここに, f(T, χ−1ω) ∈ Λ = Zp[[T ]]は

f(κ(1 + T )s − 1, χ−1ω) = Lp(s, χ−1ω) (∀s ∈ Zp)

で定義されるものであった (尾崎氏の稿, §1参照). この定理と Ferrero-Washingtonの定理 : p - f(T, χ−1ω)(田谷氏の稿より)を用いることにより, 次の系が得られる.

系 17.  任意の奇指標 χ(6= ω) ∈ ∆に対し, gχ|f(T, χ−1ω) in Λ

⇒ 任意の奇指標 χ( 6= ω) ∈ ∆に対し, gχΛ = f(T, χ−1ω)Λ.

ここで, 任意の h1, h2 ∈ Λ−{0}に対し, h1|h2を h2 = h1h, ∃h ∈ Λで定義する (Λが整域であることに注意すると, hは uniqueに定まる).

注意. 岩澤 µ-不変量に対しても,

χ( 6=ω)∈b∆奇指標

µχ =∑

χ( 6=ω)∈b∆奇指標

µ(f(T, χ−1ω))

が示せる ([Iw]参照). この等式と定理 16を用いれば, Ferrero-Washingtonの定理を用いずに, 系 17を示すこともできる.

§6-2. プラスパートχ ∈ ∆を偶指標とする. kmの単数群Emの部分群E

(1)m , C

(1)m を尾崎氏の稿のとおり

のものとする. E(1) := lim←−E(1)m , C(1) := lim←−C

(1)m であった. イデアル charΛ(E(1)/C(1))χ

の生成元を hχ ∈ Λ とおく: charΛ(E(1)/C(1))χ = hχΛ. 任意の整数 m ≥ 0に対しΛm := Zp[Γ/Γpm

] ' Λ/ωmΛ, ωm := (1 + T )pm − 1とおくと, 次の補題が成り立つ.

補題 18. 任意の整数m ≥ 0に対し, |Λm/hχΛm| < ∞ であり, かつmに依存しない定数 c > 0が存在して以下の不等式をみたす.

c−1 ≤ |(E(1)m /C

(1)m )χ|

|Λm/hχΛm| ≤ c

この補題を用いるとマイナスパートの系 17に対応する次の命題が示せる.

15

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命題 19. 任意の偶指標 χ ∈ ∆に対し, gχ|hχ in Λ

⇒ 任意の偶指標 χ ∈ ∆に対し, gχΛ = hχΛ.

証明. 仮定より,

g+ :=∏

χb∆偶指標

gχ|∏

χb∆偶指標

hχ =: h in Λ

が成り立つ. 補題 14,15より, mに依存しない定数 c1が存在して以下の不等式をみたす.

c1−1 ≤

∏χ∈b∆偶指標

|Amχ|

|Λm/g+Λm| ≤ c1 (6.3)

一方, 補題 15,18よりmに依存しない定数 c2が存在して以下の不等式をみたす.

c2−1 ≤

∏χ∈b∆偶指標

|(E(1)m /C

(1)m )χ|

|Λm/hΛm| ≤ c2 (6.4)

解析的類数公式:∏

χ∈b∆偶指標

|Amχ| = |Am

+| = [E(1)m : C

(1)m ] =

∏χ∈b∆偶指標

|(E(1)m /C

(1)m )χ|(木村氏の

稿より)を用いると, (6.3),(6.4)よりmに依存しない定数 cが存在して不等式

c−1 ≤ |Λm/g+Λm||Λm/hΛm| ≤ c

をみたすことがわかる. これは, g+Λ = hΛを導く. 仮定より, 任意の偶指標 χ ∈ ∆に対し, gχ|hχであるから, gχΛ = hχΛが示される. ¤

§7. 岩澤主予想の証明gχ, f(T, χ−1ω), hχ ∈ Λを §6のとおりとする. この節の目標は次の 2つの定理である.

定理 20. 任意の偶指標 χ ∈ ∆に対して, gχ|hχ in Λ

定理 21. 任意の奇指標 χ(6= ω) ∈ ∆に対して, gχ|f(T, χ−1ω) in Λ

系 17, 命題 19より, 定理 20,21から岩澤主予想 (I),(III)が従う. 始めに両定理を示すのに用いられる補題を述べる.  (6.1)の完全列に対し, Λのイデアル Iχを

Iχ = Ann(Z) := {a ∈ Λ|aZ = 0}

で定義する. Zが有限群であることから, |Λ/Iχ| < ∞になることが分る. χ ∈ ∆, m ≥ 0

を固定する. 任意の i, 1 ≤ i ≤ s に対し, イデアル類 c1, · · · , cs ∈ Amχを完全列 (6.2)を

16

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用いて以下のように定義する.

ZΓpm →s⊕

i=1

Λm/giΛm → Amχ → ZΓpm → 0

(7.1)

(· · · , 0, 1, 0, · · · ) 7→ cj

j

このとき, 次の補題が成り立つ.

補題 22. 任意の i, 1 ≤ i ≤ sに対し, IχAnni−1(ci) ⊂ fiΛm.

ここで, Anni−1(ci) := {a ∈ Λm|aci = 0 in Amχ/c1Λm + · · ·+ ci−1Λm}である.

§7-1. 定理 20の証明ここでは, プラスパートの類群を扱った定理 20の証明の概略を述べる. 詳細については, [Ru1], [Was,Chap15]を参照して頂きたい (一般のアーベル体 kの証明に関しては,

[Gre] を参照). 有限生成 Λ-加群 Y に対し, Yfiniteで Y の最大有限 Λ-部分加群を表すことにする. χ ∈ ∆を偶指標とする. ΛのイデアルJ χを

J χ : = Ann(Xχfinite ⊕ (U (1)/E(1))χ

finite)

= {a ∈ Λ|a(Xχfinite ⊕ (U (1)/E(1))χ

finite) = 0}

で定義する (U (1) := lim←−U(1)m の定義は尾崎氏の稿参照). |Λ/J χ| < ∞である. このイデ

アルJ χに対し, 次の補題が成り立つ.

補題 23. χ ∈ ∆を偶指標で χ 6= 1となるものとする. このとき, 任意の整数m ≥ 0と

任意の η ∈ J χに対し, Λm-順同型Θm,η : E(1)m

χ

→ Λmで, Θm,η(C(1)m

χ

) = ηhχΛmをみたすものが存在する.

ここで, C(1)m

χ

= ξm,1eχΛm (ξm,1の定義は §2-1参照)に注意する.

ΛのイデアルKχをKχ = Iχ ∩ J χ と定義する. 自然な単射 Λ/Kχ ↪→ Λ/Iχ ⊕ Λ/J χ

より, |Λ/Kχ| ≤ |Λ/Iχ||Λ/J χ| < ∞を得る. よって, Kχは十分大きな整数N > 0に対し pN , TN を含む (伊藤氏の稿, 命題 2.1の証明参照). よって, Kχ の元で gχ, hχ及び各ωm(m ≥ 0)と互いに素になるような元が存在する. そのような元を一つとって以後, η

とおく. しばらくの間, m ≥ 0を固定する. pの冪M をM = |Amχ|pm+(s+1)tととり, 固

定する. ここで, 整数 s ≥ 0は完全列 (6.1)に現れるものであり, t ≥ 0は pt ≥ |Λm/ηΛm|かつ pt ≥ |Λm/hχΛm|をみたすものである. イデアル類 c1, · · · , cs ∈ Ak+

m

χ(' Amχ)を

(7.1)で定義したものとし, cs+1 ∈ Ak+m

χを任意にとる. プラスパートを用いた岩澤主予想の証明で最も重要な主張は次の命題である.

17

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命題 24. χ ∈ ∆を偶指標で χ 6= 1とする. 任意の i, 1 ≤ i ≤ s + 1に対し, 以下の 2条件をみたす k+

mの素イデアル λiが存在する.

(1) λiのAk+m

χでの像は ciであり, λiの下にある素数 `i は `i ≡ 1 (mod M)をみたす.

(2) ある u1, · · · , us+1 ∈ (Z/M)×が存在してΛm/MΛmの中で以下の条件をみたす.

υλ1(κm,`1) = u1ηhχ

かつ, 任意の i, 2 ≤ i ≤ s + 1に対し,

gi−1υλi(κm,`1···`i

) = uiηυλi−1(κm,`1···`i−1

)

ここで, k+m/Qで完全分解する素イデアル λに対し, その下にある素数を `とおく. k+

m

の分数イデアル群 Ik+mの `を割る素イデアル成分を Ik+

m,`とおくと, Λm/MΛm-加群としての同型

(Ik+m,`/MIk+

m,`)χ ' Λm/MΛm

λχ := eχλ ↔ 1

が成り立つ. そこで Λm-準同型 υλ : k+m×/(k+

m×)M → Λm/MΛmを υλ(x)λχ = eχ[x]`で

定める.

命題 24から定理 20が従うことをみる. χ = 1に対しては, gχ, hχ ∈ Λ×より定理 20

は明らかに成り立つ. χ 6= 1に対しては, 命題 24,(2) の関係式を繰り返し用いることにより, Λm/MΛmでの等式

gχυλs+1(κm,`1···`s+1) = (s+1∏i=1

ui)ηs+1hχ

が示せる (gχ =s∏

i=1

gi). M > pm+1より, 上の等式はΛm/pm+1Λmでも成り立つ. よって

u :=s+1∏i=1

ui ∈ (Z/M)×に注意すると, am ∈ Λを

gχam ≡ ηs+1hχ (mod (pm+1, ωm)) (7.2)

となるように選べる. Λはコンパクトであるから, {am}m≥0 ⊂ Λから収束部分列 {amj}j

を選ぶことができる. その極限を a ∈ Λとおくと, (7.2) 及び ∩j(pmj+1, ωmj

) = 0から,

gχa = ηs+1hχがΛで成り立つ. ηは gχと互いに素になるようにと選んだので, gχ|hχである.

最後に命題 24の証明の概略を述べる. この命題の証明は §5で用意した Chebotarev

の密度定理の応用である定理 13を繰り返し用いる.

命題 24の証明. iに関する帰納法で示す. Θm,η を補題 23で与えられる写像とする.

C(1)m

χ

がΛm上 ξm,1eχで生成されることから, ある v ∈ Λm

×に対しΘm,η(ξm,1eχ) = vηhχ

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である. vηを改めて ηとおくことによりΘm,η(ξm,1eχ) = ηhχとしてよい. 命題 25を i

に関する帰納法で示す.

i = 1のとき, 定理 13を c1 ∈ Ak+m

χ, W = (Em/EmM)χ ' (E

(1)m /E

(1)m

M

)χ, ψ =

eχΘm,η : W → (Z/M)[Gal(k+m/Q)]として適用し, k+

mの素イデアルλ1をとる. (Ik+m,`1

/MIk+m,`1

の中で以下の等式が成り立つ.

υλ1(κm,`1)λ1χ = eχ[κm,`1 ]`1

= ϕλ1(ξm,1eχ)λ1

χ (命題 6)

= u1ψ(ξm,1eχ)λ1

χ (定理 13, (3))

= u1ηhχλ1χ (Θm,ηの定義)

(Ik+m,`1

/MIk+m,`1

)χは λ1χで生成されるランク 1の free Λm/MΛm-加群より, 上の関係式

から υλ1(κm,`1) = u1ηhχとなり i = 1の場合が示された.

次に, λ1, · · · , λj−1の存在を仮定し, λjが存在することを示す. Wj := κm,`1···`j−1eχΛm ⊂

(k+m×/(k+

m×)M)χとおく. 補題 22を用いることにより, Λm-準同型 ψj : Wj → Λm/MΛm

で gj−1ψj(κm,`1···`j−1eχ) = ηυλj−1

(κm,`1···`j−1) をみたすものが存在することが示せる.

定理 13を c = cj, W = Wj, ψ = eχψj として用いて, k+m の素イデアル λj をとる.

(Ik+m,`j

/MIk+m,`j

)χ の中で以下の関係式が成り立つ.

gj−1υλj(κm,`1···`j

)λjχ = eχgj−1[κm,`1···`j

]`j

= gj−1ϕλj(κm,`1···`j−1

eχ)λjχ (命題 6)

= gj−1ujψj(κm,`1···`j−1eχ)λj

χ (定理 13, (3))

= ujηυλj−1(κm,`1···`j−1

)λjχ (ψjの定義)

よって, gj−1υλj(κm,`1···`j

) = ujηυλj−1(κm,`1···`j−1

)となり主張が示せる. ¤

§7-2. 定理 21の証明ここでは, 類群のマイナスパートを扱った定理 21の証明の概略を述べる. 特に, 定理

20の証明と異なる点について中心にまとめる. 証明の詳細に関しては [A]を参照して頂きたい. χ(6= ω) ∈ ∆を奇指標とする. 各mに対し §2で定義した δ ∈ Gmを任意のn ∈ Sに対し χ(bn)γm,bn − bn ∈ Λm

×が成り立つようにとる.

ξm(χ−1ω) = −pm+1∑a=1

(a,p)=1

a

pm+1χ−1(a)γm,a

−1 (= −θχm)

とおくと, δm(1)χ = −(χ(b1)γm,b1 − b1)ξm(χ−1ω)である. 水沢氏の稿より ξm(χ−1ω)はp-進 L関数を構成する. すなわち, lim←− ξm(χ−1ω) = f(T, χ−1ω) ∈ Λ. よって, Λm の

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中で δm(1)χ = −(χ(b1)γm,b1 − b1)f(T, χ−1ω)が成り立つ. プラスパートの場合と同様に η ∈ Iχ(定義はこの §7の始めを参照)を gχ, f(T, χ−1ω)及び各 ωm(m ≥ 0)と互いに素になる元とする. m ≥ 0を固定する. pの冪M をM = |Am

χ|pm+(s+1)t ととる.

ここで t ≥ 0は pt ≥ |Λm/ηΛm|かつ pt ≥ |Λm/f(T, χ−1ω)Λm|をみたすものである.

x ∈ Z/M [Gm]に対し, xχ ∈ Λm/MΛmを eχx = xχeχで定義する. 任意の n0 ∈ Sに対し, T χ

n0を {δm(n)χ|n ∈ Sかつ n|n0}で生成されるΛm/MΛmのイデアルとする. 命題 24

に対応する主張は以下のようになる.

命題 25. h0 = δ(1)χとおく. 任意の i, 1 ≤ i ≤ sに対し, 以下の条件をみたす kmの素イデアル ρiが存在する.

(1) ρiのAmχでの像はciであり, ρiの下にある素数riはri ≡ 1 (mod Mp2(m+1)r1 · · · ri−1))

をみたす.

(2)ある hi ∈ T χr1···ri

が存在してΛm/MΛmの中で等式 fihi = ηhi−1をみたす.

この命題から, 定理 21への導き方は §7-1と同様である. 命題 25の証明のポイントを最後に述べることにする. §7-1を振り返る. n ∈ Sとする. `を nを割る素数とすると, 命題 7,(1)より `の上にある k+

mの素イデアル λに対し, (Ik+m,`/MIk+

m,`)χの中で,

υλ(κm,n)λχ = eχ[κm,n]` = ϕλ(κm,n/`eχ)λχが成り立っていた. この等式から Λm/MΛm

の中での等式 υλ(κm,n) = ϕλ(κm,n/`eχ)が導かれる. 命題 24の証明の中で, ある Λm-準

同型 ψ : W → Λm/MΛmを作ることにより, Chebotarevの密度定理の応用である定理 13を用いて, υλ(κm,n) と υλ′(κm,n/`)(λ

′は n/`を割る素イデアル)との関係式が導かれていた. 同様のことをマイナスパートで試みようとすると次のようになる. 素数 r

を r ≡ 1 (mod npm+1)をみたすものとし, rの上にある kmの素イデアル ρを一つとると, 命題 7,(2)より (Ikm,r/MIkm,r)

χの中で υρ(κχn,ρ)ρ

χ = [κχn,ρ]r = δ(n)χρχ が成り立ち

(υρ : km×/(km

×)M → Λm/MΛmは §7-1と同様に定義する), この等式からΛm/MΛmの中でυρ(κ

χn,ρ) = δ(n)χである. `をnを割る素数とし, `の上にあるkmの素イデアルをλと

すると, (ある条件を満たせば)ϕλ(κχn/`,ρ) ≡ δ(n)χ (mod (δ(n/`)χ))([Ru2, Theorem 2.4])

が成り立つ. よって, υρ(κχn,ρ) ≡ ϕλ(κ

χn/`,ρ) (mod (δ(n/`)χ))である. すなわち, 円単数の

時は得られていた等式がGauss和の方では合同式となって現れてしまう. ここにGauss

和を用いた場合の証明の困難さがある. 実際の証明はΛm-準同型ψ : W → Λm/MΛmを「mod δ(n/`)χ」の部分も考慮して構成することにより証明が得られる ([A,KeyLemma

4.8]).

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参考文献

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[Ru1] K.Rubin, The main conjecture, Appendix to Cyclotomic Fields I and II (S.Lang),

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東京都立大学理学研究科 〒 192-0397 東京都八王子市南大沢 1-1

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