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2012 年 7 月 第 4 週号 (原則、毎月第 2 週、4 週発行) 2012 年度 vol.8 <フォーカス>踏み込み不足の「日本再生戦略」 政府が 7 月 11 日にまとめた「日本再生戦略」は、菅政権が 10 年 6 月に策定した新成長戦略を、震災の 発生を踏まえて練り直した、新しい成長戦略である。「第三の道」という自己矛盾的な理念に縛られ、軸の見 えなかった新成長戦略と比べれば、イノベーションの重要性を前面に打ち出すなど、課題設定はより明確で ある(第三の道の旗自体は必ずしも下ろしたわけではないようだが)。細かい数値目標や詳細な工程表も作 成されているなど、評価すべき点は少なくない。しかし、いかんせん具体策に乏しい。 日本再生戦略が指摘しているとおり、成長力向上のためにはイノベーションを喚起し、フロンティアを切り 拓いていく努力が必要となる。ただし、そのために政府が率先してできることは必ずしも多くはない。そもそも、 将来有望な分野を探す能力で政府が民間に優っているわけではない。イノベーションを生み出す原動力とな るのは企業間競争である。したがって、もっとも重要な政府の仕事は、規制改革を進め、労働力や資本など、 一国の限りある経済資源が、非効率的な公的部門から民間のニーズのある分野へと、自然に流れて行くよ うな環境整備を行うことである。市場の力で、企業同士を互いに切磋琢磨させるところに技術革新が生まれ、 サ-ビスの質が向上し、費用が低下し、消費者にとっての便益が増していく。多様なサービスの提供が、潜 在的需要の掘り起こしにもつながる。しばしば官製市場と形容される医療・介護分野、教育、農業分野など には、数十兆円に達する莫大な潜在的な需要が眠っていると言われる。 例えば、身近なところでは、我々がセルフ方式のスタンドで何円か安いガソリンを買えるのも、航空運賃の 多様な割引制度が利用可能になったのも規制改革のおかげである。しかし、我々消費者は、規制で被って いる不利益には気付きにくく、撤廃されてはじめてそのありがたみに気付く場合も多い。 これまで政府が行ってきた経済政策は、円滑な経済資源の移動をむしろ阻害していた可能性もある。無 駄なハコモノ投資しかり、中小企業への過度な融資保証しかり、雇用調整助成金しかり、各種の住宅支援策 しかりである。エコカー・エコポイントも、環境対策の衣をまとった業界保護策だったと言えなくもない。これら は、景気対策としては意味があるかもしれないが、中長期的には、経済資源の円滑な移動を阻害し、経済の 新陳代謝を弱める「逆」成長戦略になりかねない。これが逆に、対策を半恒久的なものにならざるをえなくさ せている面もある。 成長戦略の評価は実は簡単だ。成長力向上のために真に必要な改革メニューは、既得権益層との激し い摩擦なしにはどれも実現し得ず、TPP や税制改革、農業改革のように、政局を揺るがすものばかりである。 今回の日本再生戦略の策定にあたって、族議員や各省庁から激しい抵抗があったという話を聞かないこと 自体、中身が踏み込み不足であることを何よりも雄弁に物語っていると言えるのである。(Kodama wrote) <フォーカス>:踏み込み不足の「日本再生戦略」・・・・・・・・・ 1 経済情勢概況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 白川総裁は付利金利の引き下げを改めて否定・・・・・ 3 最近の敵対的買収防衛策を巡る動向・・・・・・・・・・・・ 7 主要経済指標レビュー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 日米欧マーケットの動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

フォーカス 踏み込み不足の「日本再生戦略」新陳代謝を弱める「逆」成長戦略になりかねない。これが逆に、対策を半恒久的なものにならざるをえなくさ

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2012 年 7 月 第 4 週号

(原則、毎月第 2 週、4 週発行) 2012 年度 vol.8

<フォーカス>踏み込み不足の「日本再生戦略」

政府が 7 月 11 日にまとめた「日本再生戦略」は、菅政権が 10 年 6 月に策定した新成長戦略を、震災の

発生を踏まえて練り直した、新しい成長戦略である。「第三の道」という自己矛盾的な理念に縛られ、軸の見

えなかった新成長戦略と比べれば、イノベーションの重要性を前面に打ち出すなど、課題設定はより明確で

ある(第三の道の旗自体は必ずしも下ろしたわけではないようだが)。細かい数値目標や詳細な工程表も作

成されているなど、評価すべき点は少なくない。しかし、いかんせん具体策に乏しい。

日本再生戦略が指摘しているとおり、成長力向上のためにはイノベーションを喚起し、フロンティアを切り

拓いていく努力が必要となる。ただし、そのために政府が率先してできることは必ずしも多くはない。そもそも、

将来有望な分野を探す能力で政府が民間に優っているわけではない。イノベーションを生み出す原動力とな

るのは企業間競争である。したがって、もっとも重要な政府の仕事は、規制改革を進め、労働力や資本など、

一国の限りある経済資源が、非効率的な公的部門から民間のニーズのある分野へと、自然に流れて行くよ

うな環境整備を行うことである。市場の力で、企業同士を互いに切磋琢磨させるところに技術革新が生まれ、

サ-ビスの質が向上し、費用が低下し、消費者にとっての便益が増していく。多様なサービスの提供が、潜

在的需要の掘り起こしにもつながる。しばしば官製市場と形容される医療・介護分野、教育、農業分野など

には、数十兆円に達する莫大な潜在的な需要が眠っていると言われる。

例えば、身近なところでは、我々がセルフ方式のスタンドで何円か安いガソリンを買えるのも、航空運賃の

多様な割引制度が利用可能になったのも規制改革のおかげである。しかし、我々消費者は、規制で被って

いる不利益には気付きにくく、撤廃されてはじめてそのありがたみに気付く場合も多い。

これまで政府が行ってきた経済政策は、円滑な経済資源の移動をむしろ阻害していた可能性もある。無

駄なハコモノ投資しかり、中小企業への過度な融資保証しかり、雇用調整助成金しかり、各種の住宅支援策

しかりである。エコカー・エコポイントも、環境対策の衣をまとった業界保護策だったと言えなくもない。これら

は、景気対策としては意味があるかもしれないが、中長期的には、経済資源の円滑な移動を阻害し、経済の

新陳代謝を弱める「逆」成長戦略になりかねない。これが逆に、対策を半恒久的なものにならざるをえなくさ

せている面もある。

成長戦略の評価は実は簡単だ。成長力向上のために真に必要な改革メニューは、既得権益層との激し

い摩擦なしにはどれも実現し得ず、TPP や税制改革、農業改革のように、政局を揺るがすものばかりである。

今回の日本再生戦略の策定にあたって、族議員や各省庁から激しい抵抗があったという話を聞かないこと

自体、中身が踏み込み不足であることを何よりも雄弁に物語っていると言えるのである。(Kodama wrote)

目 次 <フォーカス>:踏み込み不足の「日本再生戦略」・・・・・・・・・ 1 ・ 経済情勢概況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 ・ 白川総裁は付利金利の引き下げを改めて否定・・・・・ 3

・ 近の敵対的買収防衛策を巡る動向・・・・・・・・・・・・ 7 ・ 主要経済指標レビュー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 ・ 日米欧マーケットの動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

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経済情勢概況 (※取り消し線は、前回から削除した箇所、下線は追加した箇所)

日 本 日本経済は、緩やかな回復基調にある。 個人消費は、底堅く推移している。今後は、増税論議などが消費者マインドを冷やす懸念があるもの

の、雇用・所得環境の緩やかな改善を背景に、緩慢ながらも回復基調が続くとみている。住宅投資は、緩やかな回復基調が続いている。今後も一連の住宅取得支援策や復興需要により、基本的には回復基調が続くと予想される。 設備投資は、景気の先行き不透明感などから、足元では伸び悩んでいる。今後は、企業の設備過剰感

の緩和や震災の復興需要などによって、緩やかながら回復基調に戻るとみている。公共投資は、復興予算の執行によって、秋口にかけて大幅な増加基調で推移しよう。 輸出は、下げ止まりの兆しが見えはじめている。当面、力強さに欠けるものの、中国をはじめとする

新興国景気が徐々に回復に向かうとともに、持ち直してくるとみている。生産は、足踏み状態となっている。ただ、目先は復興需要など内需が下支えするとみられることに加え、輸出も徐々に持ち直してくる可能性が高く、緩やかな回復基調を維持するとみる。

依然としてマイナスの需給ギャップが大きく、今後もデフレ圧力が根強く残るため、利上げは 2015

年度以降に持ち越されるとみている。

米 国 米国経済は、緩やかな回復が続いている。雇用環境がきわめて緩やかながらも回復基調を維持す

るとみられるほか、今後もすでに大きく低下した長期金利が景気を下支えする可能性が高い。ただし、借入に依存した過剰消費体質が修正を迫られていること、金融システムも脆弱な状況が続くことなどから、2012年にわたり回復ペースは緩やかなものにとどまるとみる。

個人消費は、回復基調が続くとみているが、家計のバランスシート調整が続くことが重石として残ろう。

住宅市場は、差し押さえによる供給圧力が強いことから、住宅価格の下落基調が続くとみられ、住宅市場の本格回復はかなり先となろう。

設備投資は、資本ストック調整の進展や企業業績に支えられ、持ち直しに向うと予想する。ただし、商業用不動産市場の悪化などが抑制要因となり、力強い回復には至らないとみる。

輸出は、今後、新興国景気が緩慢ながら上向くとみられ、回復基調が続くと予想する。 FRB は異例の低金利を少なくとも 2014 年の遅くまで継続する見通しを示している。今後も景気

の回復基調が続くとみられ、利上げに踏み切るのは 2014 年後半と予想する。

欧 州

ユーロ圏経済は、債務問題の影響や各国の緊縮財政強化を受け、停滞が続いている。今後は新興国景

気が緩やかに持ち直すとみられることなどから、秋口 2012 年後半以降は、きわめて緩慢ながらも持ち

直しに向かうと予想する。フランス、イタリア、スペインによる緊縮財政を背景に内需は低迷するとみ

るものの、ドイツがユーロ圏景気の牽引役となろう。

個人消費は、各国の緊縮財政に伴う雇用環境の悪化を背景に、秋口まで停滞が続くと予想する。秋口

以降は、企業活動の回復とそれに伴う所得環境の改善により、ゆっくりと上向くとみる。固定投資は、

銀行の貸し渋りや企業の先行き見通しの悪化に伴い、足元では減少している。ただ、世界景気がゆっく

りと回復するとみられることから、秋口以降、緩やかな持ち直しに向かうと予想する。

ECB は 7 ヵ月ぶりに政策金利を 25bp 下げて、0.75%とした。インフレ率は、ECB が物価安定の目安と

する 2%を上回って推移しているが、中長期的には安定しているとの見方が維持されている。預金ファ

シリティ金利が 0%となったことから、今後追加利下げを行なっても、さらなる効果は期待しづらい。

ECB が年内に再利下げを行なう確率は 20%と予想する。

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

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白川総裁は付利金利の引き下げを改めて否定

資産買い入れ基金の中身を入れ替

7 月 11,12 日に開催された日銀金

融政策決定会合(以下、会合)では、

固定金利の共通担保オペを 5 兆円

減額して、短期国債を 5 兆円増額す

るという、資産買い入れ基金の中身

の入れ替えが決定された(図表 1)。

固定金利の共通担保オペで札割

れが頻発している現状に鑑み、より

円滑なオペを担保するための技術

的変更である。白川総裁は会合後の

定例会見において、「札割れは強力

な金融緩和の効果が市場に浸透していることの表れではありますが」と断ったうえで、「 も頻繁

に札割れが発生している固定金利オペを 5 兆円程度減額し、同じ短期の資産である短期国債の買入

れに同額振り替えることにしました」と説明している。

期間1年未満である短期国債の年限の方が、固定金利の共通担保オペよりも多少年限が長いこと、

短期国債の買入れにあたり、現在 0.1%に設定している入札下限金利を撤廃していることを考えれ

ば、厳密にいえば追加緩和と言えなくもないが、日銀はそう位置付けていない。また、白川総裁が

「日本銀行は、現在、当座預金の超過準備に 0.1%を付利していますので、コールレートが 0.07%

や 0.08%で推移している現在の状況から大きく低下していくとは考えていません」と述べていると

おりで、裁定が働くことを考えれば、短期国債についても、利回りの下げ余地は限定的と考えられ

る。記者からは、「短期国債を増やすところが少し分かり難いです。むしろ、4 月からは年限を延

ばして長めの金利に働き掛けることを中心的にやっているかと思います」、との質問が出たが、も

し代わりに長期国債を買い増していたら、追加金融緩和ということになっていただろう。

また、固定金利の共通担保オペについては、期間6ヵ月で札割れが頻発していることなどに鑑み、

需要動向に応じた柔軟な対応を可能にするため、「期間 3 ヵ月」と「期間 6 ヵ月」の区別を撤廃し

ている。

付利金利の引き下げは否定

経験では、ECB が預金ファシリティ金利をゼロまで引き下げたことで、日銀の対応を問う質問も

出されたが、白川総裁は予想通り当座預金の付利金利引き下げの可能性を否定した。白川総裁は、

「完全なゼロ金利とすることについては、市場機能や金融機関行動に与える副作用について、十分

意識する必要があると考えています。短期金融市場の金利が極限的にゼロに近づくと、市場の流動

性が著しく低下し、市場参加者が必要な時に市場から資金調達ができるという安心感を損なう惧れ

があります。従って、短期金利が極限的にゼロに近づくことで、確かに、何がしか金利水準が下が

る効果があるとは思いますが、それ以上に、今申し上げたマイナスの効果が大きいということであ

り、ご質問の点について、考えは全く変わっていません」と、追加的な効果を副作用の悪影響が上

(図表1)「資産買入等の基金」の規模について

従来の規模 変更後の規模 増減幅

12年12月末 13年6月末 12年12月末 13年6月末

① ② ②-①

総額 65兆円程度 70兆円程度 65兆円程度 70兆円程度 -

資産の買い入れ 35.0 40.0 40.0 45.0 +5.0

長期国債 24.0 29.0 24.0 29.0 -

国庫短期証券 4.5 4.5 9.5 9.5 +5.0

CP等 2.1 2.1 2.1 2.1 -

社債等 2.9 2.9 2.9 2.9 -

ETF 1.6 1.6 1.6 1.6 -

J-REIT 0.12 0.12 0.12 0.12 -

固定金利共通担保オペ 30.0 30.0 25.0 25.0 ▲ 5.0

3ヵ月 20.0 20.0 - - -

6ヵ月 10.0 10.0 - - -

(出所)日銀

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

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回るリスクを強調している。

欧州では、預金ファシリティの金利撤廃にあたり、市場での取引が増えることで短期市場の活性

化を期待する声もあるようだが、実際は、リスクやコストに見合った運用ができなくなることで、

短期市場への資金の出し手は増えるどころか逆に減る可能性も大きい。市場が細ることにより、資

金の取り手側としては、白川総裁が指摘しているとおり、資金調達への不安から、用心のため中央

銀行に資金を多めに預ける方を選択するようになる。日銀にとっては、金利がゼロに近付けば、自

動的に資金が出回るようになるわけではないことは、すでに 2006 年まで実施していた過去の量的

緩和策を通じ体験済のことである。今後も付利金利が引き下げられる可能性は限りなくゼロに近い

と言えよう。

景気判断はすえ置き

景気の現状判断は、「緩やかに持ち直しつつある」がすえ置かれた(図表 2)。

(図表 2)金融政策決定会合後の声明文における景気の現状判断の変化

声明文の発表日 現状判断 判断の方向 備 考

11 年 4 月 7 日 生産面を中心に下押し圧力の強い状態にある

↓ 5 ヵ月ぶりの下方修正

5 月 20 日 生産面を中心に下押し圧力の強い状態にある

6 月 14 日 生産面を中心に下押し圧力が続いているが、持ち直しの動きもみられている

↑ 3 ヵ月ぶりの上方修正

7 月 12 日 持ち直している ↑ 2 ヵ月連続の上方修正

8 月 4 日 着実に持ち直してきている ↑ 3 ヵ月連続の上方修正

9 月 7 日 着実に持ち直してきている →

10 月 7 日 持ち直しの動きが続いている →

10 月 27 日 持ち直しの動きが続いている →

11 月 16 日 持ち直しの動きが続いているものの、海外経済の減速の影響などから、そのペースは緩やかになっている

↓ 7 ヵ月ぶりの下方修正

12 月 21 日 持ち直しの動きが一服している

↓ 2 ヵ月連続の下方修正

12 年 1 月 24 日 横ばい圏内の動きとなっている

↓ 3 ヵ月連続の下方修正

2 月 14 日 横ばい圏内の動きとなっている

3 月 13 日 持ち直しに向けた動きもみられているが、なお横ばい圏内にある

4 月 10 日 なお横ばい圏内にあるが、持ち直しに向かう動きがみられている

↑ 小幅上方修正

4 月 27 日 なお横ばい圏内にあるが、持ち直しに向かう動きが明確になりつつある

5 月 23 日 なお横ばい圏内にあるが、持ち直しに向かう動きが明確になりつつある

6 月 15 日 緩やかに持ち直しつつある ↑ 2 ヵ月ぶりの上方修正

7 月 12 日 緩やかに持ち直しつつある →

(出所)日銀資料より明治安田生命作成

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

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公表文(文末の別表)および翌日発表の金融経済月報で、内訳項目の見方を確認すると(図表 3)、

生産の見方が、「振れを伴いながら」という一節が入ったことで若干慎重化したほかは、基本的に

6 月から変更はない。

(図表 3)金融経済月報における個別項目別判断(下線部は主たる変更箇所)

前回(6 月月報) 今回(7 月月報) 前回か

らの方

向感

生産 緩やかに持ち直しつつある 振れを伴いながら、緩やかに持ち直しつつある

輸出 持ち直しの動きがみられている 持ち直しの動きがみられている →

設備投資 企業収益が改善しつつあるもとで、緩やかな増加基調にある

企業収益が改善しつつあるもとで、緩やかな増加基調にある

個人消費 消費者マインドの改善傾向に加え、自動車に対する需要刺激策の効果もあって、緩やかな増加を続けている

消費者マインドの改善傾向に加え、自動車に対する需要刺激策の効果もあって、緩やかな増加を続けている

住宅投資 持ち直し傾向にある 持ち直し傾向にある →

現状判断

公共投資 増加している 増加している →

生産 国内需要が引き続き堅調に推移し、輸出も次第に持ち直していくもとで、緩やかに増加していくと考えられる

国内需要が引き続き堅調に推移し、輸出も次第に持ち直していくもとで、緩やかに増加していくと考えられる

輸出 海外経済が減速した状態を脱していくにつれて、緩やかに増加していくと考えられる

海外経済が減速した状態を脱していくにつれて、緩やかに増加していくと考えられる

設備投資 企業収益が改善するもとで、被災した設備の修復・建替えや耐震・事業継続体制の強化の動きなどもあって、緩やかな増加基調を続けると予想される

企業収益が改善を続けるもとで、被災した設備の修復・建替えや耐震・事業継続体制の強化の動きなどもあって、緩やかな増加基調を続けると予想される

個人消費 雇用環境が改善傾向をたどるもとで、底堅く推移するとみられる

雇用環境が改善傾向をたどるもとで、底堅く推移するとみられる

住宅投資 引き続き持ち直し傾向をたどると考えられる

引き続き持ち直し傾向をたどると考えられる

先行き見通し

公共投資 引き続き増加するとみられる 引き続き増加するとみられる →

(出所)日銀資料より明治安田生命作成

今月は 4 月展望レポートの中間評価月にあたるが、白川総裁は、「内需はやや強め、外需はやや

弱めと内外需のバランスは若干変化していますが、実質 GDP 成長率、消費者物価ともに概ね見通し

に沿って推移すると見込んでいます」と、

展望レポートの見通し通りとの認識を示

している。

内需の強さの背景については、「第 1

に、エコカー補助金などの政策効果です。

第 2 に、被災地における生活再建消費や、

被災した設備の修復・建替え、耐震・事業

継続体制の強化、メガソーラーなど新たな

発電設備増強の動きなどを含めた広い意味での震災関連需要です。第 3 に、企業収益の改善を背景

とした企業マインドの改善と、それを受けた賃金・所得の下げ止まりです。第 4 に、高齢化消費を

中心とした潜在需要の掘り起こしが進捗していることです。第 5 に、円高メリットです」と、5 つ

(図表4)7月中間評価の結果(政策委員の大勢見通しの中央値)

前年比(%)2011年10月展望レポート

2012年1月中間評価

2012年4月展望レポート

2012年7月中間評価

2012年度 実質GDP 2.2 2.0 2.3 2.2

コアCPI 0.1 0.1 0.3 0.2

2013年度 実質GDP 1.5 1.6 1.7 1.7

コアCPI 0.5 0.5 0.7 0.7

(出所)日本銀行より明治安田生命作成

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

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の理由を列挙している。

もっとも、デフレ環境が続くなか、内需主導の自律的回復が期待できるところにまでは至ってい

ないことも確かと考えられ、今後はエコカー補助金の反動や、復興需要の勢い鈍化、消費増税に備

えた消費マインドの慎重化などが予想されることを考えれば、2012 年度後半以降の日本経済は、外

需の回復なしには苦しい展開になると予想される。高齢化消費を中心とした潜在需要の掘り起こし

が成功しているのであれば、今後家計貯蓄率は低下スピードを一段と速めるはずとも考えられるが、

これを確認するためには、SNA の確報(2011 年分)発表などを待つ必要がある。

9 月ごろの追加緩和が有力か

白川総裁は、オペの札割れについて、「それだけ日本銀行が強力な金融緩和を行い、その効果が

発揮されているということだと思います」と述べているが、今回の決定会合における措置は、基金

の資産買入れによる緩和が限界に近付いていることを改めて印象付けるものであった。こうした技

術的問題もあり、白川総裁は、引き続き追加緩和には慎重とみられるが、当 G では、夏場以降の景

気回復ペースは鈍化に向かう可能性が大きいと見ており、おそらくは 9 月、遅くても 10 月までに

は追加緩和が必要になるとみる。

当面は FOMC(米連邦公開市場委員会)の対応も注目される。当 G では、FRB(米連邦準備制度理事

会)は早晩 MBS の追加購入等の追加金融緩和に踏み切ると予想している。早ければ次回 7 月 31 日、

8 月 1 日の FOMC で決定される可能性もあり、この場合、日銀は 8 月 8,9 日の次回会合での追加緩和

に追い込まれるかもしれない。追加緩和の時期については、「影の二つの柱」である政治からの圧

力と為替相場次第という側面も大きいが、FOMC の追加緩和はいずれのルートをも刺激する。次回の

会合からは、緩和派と目されている審議委員が新たに二人参加すると予想されることも、議論の流

れに多少影響を与える可能性がある。

追加緩和手段については、とりあえず長期国債の買い入れ増額と年限延長が基本にならざるをえ

ない。事実上のマネタイズと市場にみなされるリスクへの配慮との兼ね合いがますます難しくなる

が、消費増税法案が、お盆休み前の 8 月上旬までに無事参院を通過すれば、市場が早期に財政リス

クを織り込む可能性はさらに低下するとみられ、日銀が国債を買い増しやすくする環境整備に繋が

るだろう。年度内にあと 2~3 回の追加緩和を予想する。(担当:小玉)

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

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近の敵対的買収防衛策を巡る動向

新規導入は減少

敵対的買収防衛策とは、買収される側の経

営者の反対を押し切って行う買収に対する

対抗措置のことである。わが国では、2005 年

に経済産業省と法務省が共同で「企業価値・

株主共同の利益の確保または向上のための

買収防衛策に関する指針」を公表して以降、

導入する企業が増加した。

導入企業は、2010 年 6 月~2011 年 5 月に

は 619 社と も多くなったが、 近では、新

たに導入する企業が減少している(図表 1)。

2006 年 7 月~2007 年 6 月には 225 社、2007

年 7 月~2008 年 6 月には 208 社が、新たに敵

対的買収防衛策を導入した。しかし、2009 年

7 月~2010 年 6 月、2010 年

7 月~2011 年 6 月について

は、新規導入企業は 10 社以

下にとどまっており、累計

では横ばいになっている。

これは、大手企業の新規

導入が一段落したほか、金

融危機を背景に海外ファン

ドなどの資金力が低下し、

企業の敵対的買収に対する

警戒感が薄れてきたことが

主因である。実際、わが国

で届け出をした TOB(株式公

開買い付け)件数も 2007 年

をピークに減少しており、

活発だった買収の動きが急減速していることがうかがわれる(図表 2)。

廃止企業も

機関投資家などが敵対的買収防衛策導入に関する決議に反対する姿勢を強くしていることも、企業に

敵対的買収防衛策の導入を躊躇させている。機関投資家は決議に賛成する条件として、社外取締役の任

用、敵対的買収防衛策発動の適否を判断する第三者委員会の独立性、買収提案の内容を取締役会が検

討・可否を判断する期間の適正さ、などの基準をあげる場合が多い。その基準は毎年、厳格化しており、

原則として敵対的買収防衛策導入に反対する姿勢を示す内容となっている。このため、買収防衛策を廃

止する動きも見られる。2011 年 6 月の株主総会で有効期限が到来した敵対的買収防衛策について、93%

(図表2)日本で届け出をしたTOB件数と買付金額の推移

(出所)レコフ

(出所)三菱UFJ信託銀行

(図表1)防衛策導入社数推移(累計)

0

100

200

300

400

500

600

700

~2006年6月 ~2007年6月 ~2008年6月 ~2009年6月 ~2010年6月 ~2011年5月

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

8

が継続したが、残りの 7%は廃止を決定している。

事前警告型が大部分

現在、わが国の敵対的買収防衛策の大部分を占めているのは、事前警告型と呼ばれるものだ。これは、

買収者が一定割合以上の株式を取得しようとする場合、一定期間の買収提案の検討期間や情報提供を要

求し、これに従わないときは新株予約権の発行による株式の希薄化などで対抗しようという敵対的買収

防衛策である。事前警告型の敵対的買収防衛策の本来の目的は、買収の是非を判断するための時間や情

報を要求し、株主の利益に反する買収を阻止することである。したがって、経営陣自らの保身のために

発動されることがあってはならない。

発動の判断主体

敵対的買収防衛策発動の可否を判断する主

体が問題となるが、通常、取締役会、独立委

員会、株主総会などが考えられる。独立委員

会とは、取締役会の恣意的判断を排するため、

経営陣からの独立性が高い社外取締役や社外

の有識者などからなる委員会である。

2007 年のブルドッグソース事件 高裁判決

において、「企業価値が毀損され、株主共同

の利益が害されるかどうかは株主(総会)の

判断が尊重される」とされてから、敵対的買

収防衛策発動にあたっては、株主の意思を確認する仕組みが増加した。ただし、その場合でも株主総会

の決議のみで判断されるケースはほとんどない。

確かに、「企業価値・株主共同の利益の確保または向上のための買収防衛策に関する指針」において

も、「敵対的買収防衛策は、株主の合理的意思に依拠すべきである」としており、買収の是非に関する

判断は、 終的には株主が行うべきである。しかし、取締役が自らの判断を回避し、形式的に株主総会

決議に諮ることによって株主の多数の賛成を得さえすれば、敵対的買収防衛策は正当化されるとすれば、

株主構成次第で盤石な敵対的買収防衛策がとれるということになりかねない。また、買収の場面で、善

管注意義務を負っている被買収者の取締役が、買収提案が株主の利益にかなうか否かについて、第一次

的な判断を回避して、形式的に株主総会に判断を丸投げすることは、責任逃れともいわれかねない。

このような事情もあって、株主総会に敵対的買収防衛策発動の判断を諮る場合でも、その前提として、

まず取締役会において買収提案に対する評価をし、それを受けた独立委員会の検討結果も合わせて、敵

対的買収防衛策発動の可否を決定するのが一般的である(図表 3)。

平素からの情報開示

非買収者は現経営陣の経営ビジョン・経営方針や、代替案、買収価格に対する現経営陣の評価、現経

営陣が買収によって株主の利益が毀損されると判断する場合には、その旨を財務的数値も含めてできる

だけ具体的に開示する必要がある。もっとも、経営ビジョンや経営方針については、買収の有無にかか

わらず株主に開示するのが経営陣の責務である。この責務が十分に果たされていれば、改めて開示する

までもない。平素からの企業の情報開示は、敵対的買収防衛策の発動が適法と評価されるうえでも重要

である。(担当:心光)

(出所)三菱UFJ信託銀行

(図表3)防衛策発動判断主体

取締役会

独立委員会

株主総会

株主総会および独立委員会

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

9

主要経済指標レビュー(7/9~7/20)

≪日 本≫

○ 6月景気ウォッチャー調査(7月9日)

6月の景気ウォッチャー調査では、現状判断DIが前月差

▲3.4ポイントの43.8と、3ヵ月連続で低下し、横ばいを

示す50ポイントも2ヵ月連続で下回った。先行き判断DI

も、前月差▲2.4ポイントの45.7と、2ヵ月連続で低下し、

国内景気の先行きに不透明感が増している。また、景気

ウォッチャー調査による基調判断も、5月の「景気は、こ

のところ持ち直しのテンポが緩やかになっている」から、

6月の「景気は、これまで緩やかに持ち直してきたが、こ

のところ弱い動きがみられる」へと、下方修正された。

今後については、震災からの復興需要などへの期待感は

あるものの、足元ではエコカー補助金の予算切れや電力

不足問題、消費増税へのマインド低下などから、国内景

気の回復ペースは鈍化するとみている。

○ 5月機械受注(7月9日)

5 月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比▲

14.8%と、2ヵ月ぶりに減少した。内閣府による基調判

断は、2月以降の「緩やかな増加傾向がみられる」から、

「緩やかな増加傾向がみられるものの、5月の実績は、

前月の反動もあり大きく減少した」へ下方修正された。5

月の大幅な減少は、欧州債務問題の再燃など、先行き不

透明感の強まりから、企業の設備投資マインドが慎重化

した影響が大きく反映されたものとみられる。今後につ

いては、欧州債務問題の深刻化は引き続きリスク要因と

して残るものの、復興需要や老朽化した設備の更新投資

が下支えとなることに加え、中国景気も徐々に持ち直す

と予想されることから、振れを伴いながらも緩やかな回

復基調で推移するものと予想する。

○ 6 月企業物価指数(7 月 11 日)

6月の国内企業物価指数は、前年同月比▲1.3%と、3

ヵ月連続でマイナスとなった。とりわけ非鉄金属、情報

通信機器、鉄鋼といった業種のマイナスが大きい。前月

比で見ても▲0.6%と、2ヵ月連続でマイナスとなってい

る。輸出物価指数は、化学製品や電気・電子機器の下落

などから前年同月比▲4.3%と、3ヵ月連続でマイナスと

なり、輸入物価指数も、金属製品の下落などから同▲

3.1%と、2ヵ月連続でマイナスとなった。この結果、交

易条件は小幅ながら2ヵ月で改善した。また、需要段階別

でも、素材原料が同▲2.4%と2ヵ月連続でマイナスとな

り、企業物価の上昇は一服している。

景気ウォッチャー調査 現況判断DI

0

10

20

30

40

50

60

08/03

08/06

08/09

08/12

09/03

09/06

09/09

09/12

10/03

10/06

10/09

10/12

11/03

11/06

11/09

11/12

12/03

12/06

ポイント

現状判断DI

現状判断DI 家計

現状判断DI 企業

現状判断DI 雇用

(出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」

機械受注(船舶・電力を除く民需)の推移

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

02/5

03/5

04/5

05/5

06/5

07/5

08/5

09/5

10/5

11/5

12/5

兆円

単月 3ヶ月移動平均

(出所)内閣府「機械受注統計」

企業物価指数(前年比)の推移

-60

-40

-20

0

20

40

60

05年

06年

07年

08年

09年

10年

11年

12年

-15

-10

-5

0

5

10

15

素原材料(左軸)

中間財(右軸)

最終財(右軸)

国内企業物価指数(右軸)

(出所)日銀「企業物価指数」

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

10

○ 5 月第 3 次産業活動指数(7 月 11 日)

5月の第3次産業活動指数は、前月比+0.7%と、2月

の横ばいをはさみ5ヵ月ぶりに上昇した。業種別に見

ると、卸売業,小売業が同+1.6%、情報通信業が同+

1.1%のプラス寄与となった。卸売業,小売業のなかで

は、自動車小売業や機械器具小売業、情報通信業では、

ソフトウェア業が貢献した。一方、金融業,保険業が

同▲2.0%、電気・ガス・熱供給・水道業が同▲2.8%

のマイナス寄与となった。金融業,保険業では、証券

会社などの金融商品取引業者や損害保険業の低下が

目立った。5月の第3次産業活動指数は上昇に転じたも

のの、足元の鉱工業生産や機械受注などが弱含んでい

ることから、今後は対企業サービスを中心に再度低下

基調となる可能性が高まっている。

○ 5 月毎月勤労統計(確報、7 月 18 日)

5月の毎月勤労統計では、現金給与総額(事業所規模5

人以上:調査産業計)が前年同月比▲1.1%と、4ヵ月ぶ

りにマイナスとなった。内訳を見ると、定期給与が同+

0.4%と、4ヵ月連続で増加した一方、特別給与は、前年

が震災の影響で賞与の前払いなどがあった反動を受けて、

同▲35.5%と大きく減少し、全体を押し下げた。定期給

与の内訳では、所定外給与が同+6.9%と9ヵ月連続で増

加し、増加幅も拡大した。また、総実労働時間も同+3.2%、

うち所定内労働時間が同+3.0%、所定外労働時間が同+

5.6%と、大きく増加している。所得環境は、総実労働時

間の増加とともに改善傾向で推移しているが、夏季賞与

の減少が見込まれていることなどから、緩慢な回復にと

どまると予想する。

第3次産業活動指数の推移

90

92

94

96

98

100

102

104

106

07/03

07/06

07/09

07/12

08/03

08/06

08/09

08/12

09/03

09/06

09/09

09/12

10/03

10/06

10/09

10/12

11/03

11/06

11/09

11/12

12/03

2005年=100

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

第3次産業活動指数(季調値)(左軸)

前年同月比(右軸)

(出所)経済産業省「第3次産業活動指数」

現金給与総額(前年同月比)の推移

(事業所規模5人以上:調査産業計)

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

08/03

08/07

08/11

09/03

09/07

09/11

10/03

10/07

10/11

11/03

11/07

11/11

12/03

-25

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

現金給与総額 〈左軸〉

所定内給与 〈左軸〉

所定外給与 〈右軸〉

(出所)厚生労働省「毎月勤労統計」

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

11

≪米 国≫

○ 6 月小売売上高(7月 16 日)

6月の小売売上高は前月比▲0.5%と、3ヵ月連続で減

少し、市場予想(同+0.2%、ブルームバーグ調査)を

下回った。ガソリン価格の下落を背景にガソリンが3ヵ

月連続で減少したほか、自動車・部品は2ヵ月ぶりのマ

イナスとなった。小売売上の基調を示す「除く自動車・

ガソリンベース」でも同▲0.2%と、建材が大きく落ち

込んだ結果、3ヵ月連続で減少した。欧州の景気減速の

ほか、雇用環境の改善ペースが緩慢なものにとどまって

いることを背景に、消費者マインドが悪化しており、当

面、個人消費は低調に推移すると予想する。

○ 6 月 CPI(消費者物価指数)(7月 17 日)

6月のCPIは前月比横ばいとなった。これは市場予想ど

おりの結果。ガソリン価格が落ち着いていることを背景

に、エネルギーが3ヵ月連続で低下した一方、食品や医

療などが上昇した。前年比では+1.7%と、前月から伸

び幅は変わらなかった。一方、エネルギーと食料品を除

いたコアCPIは前月比が+0.2%と、上昇基調が続いてい

る。ただ、前年比では+2.2%と、5月の+2.3%から伸

び幅が縮小した。賃金の上昇ペースが鈍いものにとどま

っているほか、光熱費の低下などから帰属家賃の伸びが

鈍化しており、今後のコアCPIへの上昇圧力は緩和に向

かうとみる。

○ 7 月鉱工業生産(7月 17 日)

6月の鉱工業生産は前月比+0.4%と、2ヵ月ぶりに増

加し、市場予想(同+0.3%)をも上回った。産業別に

見ると、製造業が同+0.7%と、2ヵ月ぶりに増加したほ

か、鉱業も同+0.7%の増加となった。一方、公益事業

は同▲1.9%と、3ヵ月ぶりに減少。製造業の内訳を見る

と、耐久財が、自動車や機械などの増加によって、同+

0.7%と2ヵ月ぶりのプラス。非耐久財も、化学などの増

加から、同+0.5%のプラスとなった。設備稼働率は5

月の78.7%から78.9%へと、2ヵ月ぶりに上昇した。欧

州債務危機を背景に世界経済の回復スピードは鈍く、今

後の生産の回復ペースは鈍いものにとどまると予想す

る。

CPIの伸び(前年比)

-3.0

-2.0

-1.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.002

/6

03/6

04/6

05/6

06/6

07/6

08/6

09/6

10/6

11/6

12/6

CPI コアCPI(出所)米労働省

鉱工業生産と設備稼働率の推移

80

85

90

95

100

105

01/6

02/6

03/6

04/6

05/6

06/6

07/6

08/6

09/6

10/6

11/6

12/6

65

70

75

80

85

90

鉱工業生産(左) 設備稼働率(右)

(出所)FRB

%2007年=100

小売売上高の伸びと自動車・ガソリンスタンドの寄与度(前月比)

-0.6

-0.4

-0.20.0

0.2

0.4

0.6

0.81.0

1.2

1.4

11/4

11/5

11/6

11/7

11/8

11/9

11/10

11/11

11/12

12/1

12/2

12/3

12/4

12/5

12/6

除く自動車・ガソリンスタンド 自動車・部品

ガソリンスタンド 小売売上高

(出所)米商務省

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

12

≪欧 州≫

○ 5 月ユーロ圏鉱工業生産(7月 12 日)

5 月のユーロ圏鉱工業生産指数は前月比+0.6%と、3

ヵ月ぶりに増加した。市場予想の同 0.0%を上回った。

財別に見ると、消費財が同+1.2%、中間材が同+0.3%、

資本財が+0.9%と軒並み増産となった。主要国では、

フランスが同▲2.1%の減産となった一方、ポルトガル

が同+4.1%、ドイツが同+1.5%、イタリアが同+0.8%

の増産となった。足元では、新興国景気の持ち直しペー

スが遅れているほか、イタリア、フランスでの財政再建

が本格化していることから、今後も内需の低迷が続く可

能性が高い。鉱工業生産は、秋口まで減産傾向が続くと

予想するとみる。

○ 6 月ユーロ圏 CPI(確定値)(7月 16 日)

6 月のユーロ圏消費者物価指数(CPI)は前年比+2.4%

と、前月と伸び幅が同じであった。内訳を見ると、果物

や野菜の価格上昇を背景に、食品が同+2.3%→同+

2.8%と、上昇したものの、工業製品が同+3.0%→同+

2.6%と、伸び幅が縮小した。一方、物価の基調を表すコ

ア CPI は同+1.6%と、4 ヵ月連続で同じ伸び幅だった。

主要国別では、イタリアが同+3.5→同+3.6%と、伸び

幅が拡大したものの、フランスが同+2.3%と、伸び幅は

変わらず、ドイツが同+2.2%→同+2.0%と、伸び幅が

縮小した。ECB は 7 月の理事会で、景気悪化への懸念を

示しているほか、インフレについては中長期的にほぼ安

定しているとの認識を示している。ただ、秋口以降、新

興国景気の持ち直しに伴い、欧州景気も緩やかに回復に

向かうとみられるため、年内に追加利下げが実施される

可能性は低いと予想する。

ユーロ圏鉱工業生産の推移(前月比)

-3.0

-2.5

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

10/08

10/11

11/02

11/05

11/08

11/11

12/02

12/05

%

(出所)ユーロスタット

ユーロ圏CPI・コアCPI(前年比)の推移

-1

0

1

2

3

4

5

06/06

06/12

07/06

07/12

08/06

08/12

09/06

09/12

10/06

10/12

11/06

11/12

12/06

CPI コアCPI

%

(出所)ユーロスタット

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

13

日米欧マーケットの動向 (2012年 7月 20日現在)

▽各国の株価動向

▽外為市場の動向

日経平均株価

7000

8000

9000

10000

11000

12000

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(円)

(出所)ファクトセット

ダウ工業株30種平均

7000

8000

9000

10000

11000

12000

13000

14000

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(ドル)

(出所)ファクトセット

ドイツの株価指数(DAX)

4000

5000

6000

7000

8000

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(ポイント)

(出所)ファクトセット

円/ドル相場

75

80

85

90

95

100

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(円)

(出所)ファクトセット

ドル/ユーロ相場

1.1

1.2

1.3

1.4

1.5

1.6

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(ドル)

(出所)ファクトセット

円/ユーロ相場

90

100

110

120

130

140

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(円)

(出所)ファクトセット

円/ポンド相場

110

120

130

140

150

160

170

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(円)

(出所)ファクトセット

英国の株価指数(FT100)

3500

4000

4500

5000

5500

6000

6500

09/07

09/10

09/12

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(ポイント)

(出所)ファクトセット

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

14

▽各国の金利動向

▽商品市況の動向

政策金利(日本、無担保コール翌日物)

-0.1

0.0

0.1

0.2

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(%)

(出所)ファクトセット

長期金利(日本、10年国債)

0.7

0.80.9

1.0

1.11.2

1.3

1.41.5

1.6

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(%)

(出所)ファクトセット

政策金利(米国、FFレート)

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(%)

(出所)ファクトセット

長期金利(米国、10年国債)

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(%)

(出所)ファクトセット

政策金利(ユーロ圏、定例オペ最低入札金利)

0.0

1.0

2.0

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(%)

(出所)ファクトセット

長期金利(ドイツ、10年国債)

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(%)

(出所)ファクトセット

原油先物(WTI、中心月)

50

60

70

80

90

100

110

120

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(ドル)

(出所)ファクトセット

CRB先物指数

220

270

320

370

09/07

09/10

10/01

10/03

10/06

10/09

10/12

11/02

11/05

11/08

11/11

12/01

12/04

12/07

(ポイント)

(出所)ファクトセット

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経済ウォッチ 2012 年 7 月第 4 週号

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●照会先● 明治安田生命保険相互会社 運用企画部 運用調査グループ

東京都千代田区丸の内2-1-1 TEL03-3283-1216

執筆者:小玉祐一、心光勝典、松下定泰、謝名憲一郎、信本将己、 水野有香、落合翔太、山口範大

本レポートは、明治安田生命保険 運用企画部 運用調査 G が情報提供資料として作成したものです。本

レポートは、情報提供のみを目的として作成したものであり、保険の販売その他の取引の勧誘を目的と

したものではありません。また、記載されている意見や予測は執筆担当者の個人的見解に基づくもので

あり、当社の資産運用方針と直接の関係はありません。当社では、本レポート中の掲載内容について細

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