3
2012年度 2学期②号 地理・地図資料 イタリア・ 革製品を仕上げているようす(解説p.2)

イタリア・ 革製品を仕上げているようす(解説p.2) 地理・ …...Italia)」地区(サード・イタリー)とよぶようになった。 一方、コモディティとは異質な産業財の産地もあり、

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: イタリア・ 革製品を仕上げているようす(解説p.2) 地理・ …...Italia)」地区(サード・イタリー)とよぶようになった。 一方、コモディティとは異質な産業財の産地もあり、

2012年度 2学期②号

地理・地図資料イタリア・ 革製品を仕上げているようす(解説p. 2)

Page 2: イタリア・ 革製品を仕上げているようす(解説p.2) 地理・ …...Italia)」地区(サード・イタリー)とよぶようになった。 一方、コモディティとは異質な産業財の産地もあり、

写真はすべて2011年9月撮影/帝国書院

イタリア職人技が光る国〜

表紙写真でめぐる旅 ⑭

2011年9月、イタリアの中部・北東部を中心に、職人の高度な技によって支えられている工業を取材した。

職人たちの真摯な仕事ぶりを肌で感じながら、シャッターを切り、話をうかがった。

Firenze

Brianza

Murano

●④

●⑥

●⑧

●③

●②

●⑤

●⑦

●①

Page 3: イタリア・ 革製品を仕上げているようす(解説p.2) 地理・ …...Italia)」地区(サード・イタリー)とよぶようになった。 一方、コモディティとは異質な産業財の産地もあり、

2

 イタリアはヨーロッパ諸国のなかでは、ドイツとならんでGDPに占める製造業比率の高い、ものづくりの国として知られる。自動車や化学・医薬品、精密機械に強いドイツだが、イタリアの産業競争力は、デザイン性の高いコモディティ(日用品)と産業財にある。 コモディティの代表例は、ファッション・アパレル、皮革製品、家具、キッチンウェア、アイウェア(眼鏡・サングラス)が定番である。アルマーニやグッチなど高級ブランド消費財をはじめ、知名度はなくてもMade in Italyという看板を掲げて世界輸出にはげむ企業家たちが多く存在する。先進工業国が輸入超過となるこれらの産業分野で、輸出超過を維持できているのは、イタリアだけといってよい。 その生産と輸出を支えているのは、一定の地理的範囲に特定製品を製造する中小企業が集積した、イタリア中部から北東部に多数存在する産地(distretti)である。なかでも、トスカーナ、エミーリアロマーニャ、ヴェネト、マルケーの四つの州に、全国156産地のうち半数が集中している。中小企業・ファミリー企業の創意工夫と自治体による産業支援、展示会や見本市の開催、地元意識の結束と他地域へのライバル心が、産地の中核資源となった。従来、イタリアの地域区分は、二つに大別して、ミ

ラノやトリノといった大企業を擁する産業中心地域(北部)と発展の遅れた南部地域とされていた。1970年代から80年代にかけて成長著しい中部・北東部の産地型発展エリアを新たに区分けして、「第3のイタリア(Terza Italia)」地区(サード・イタリー)とよぶようになった。 一方、コモディティとは異質な産業財の産地もあり、エミーリアロマーニャ州に多い。たとえば、薬や食品などのパッケージを自動化する包装用機械、欧州の農業特性に合わせた農業用機械、医療機器やセラミック建材など、一般消費者を対象としない産業財で有名な産地も少なくない。コモディティ、産業財を問わず、産地の職場で見られる真摯で職人的な仕事ぶり(artigianato)は、日本の産地のそれと同じである。日本人のイメージする陽気で怠惰なイタリア人は、そこにはいない。 ところで、ミラノやトリノを擁するロンバルディア州とピエモンテ州は「第3のイタリア」ではないが、実際には、これらの州にも著名な産地が多数存在する。激化するグローバル競争下においては、どこの地区の産地であれ、困難な立場に立たされている産地・企業もあるし、頑健な産地・企業もある。「第3のイタリア」だけでイタリアを説明するのは、困難な時代になったといってよい。

イタリアの産業と「第3のイタリア」解説

東京都立産業技術高等専門学校 准教授 遠山恭司 

取材レポート

帝国書院取材班

 「Made in Italy」 のなかでも人気の高い皮革製品には、フィレンツェ発祥のブランドが多い。そのなかの一つ、1885年創業の老舗 「ゲラルディーニ」 を取材した。ゲラルディーニは、財布など革小物製品から始まり、1920〜50年代には夜会用バッグなど上流階級向けの商品で成功をおさめた。1960年代以降、Gの頭文字をロゴにブランド色を強め、伝統的なデザインを継承しつつ素材をビニールなど軽量なものにして、普段使いできる高級ブランドとして女性から支持されている。「伝統」 と 「現代」 の共存は、そのまま制作風景にも現れている。革から複雑な型を無駄なく裁断する(写真②)、ボタン等付属品の数量を管理するなどの工程はコンピュータ制御で行われる一方、製品の仕上げは一つ一つ手作業で行われ(写真①)、経験により積み上げられたクラフトマンシップが見てとれる。今回取材し

た工場は、新商品の企画とその試作(写真③)が中心であった。商品企画を担当する若いスタッフが、伝統的皮革製品に新しい感性を吹き込み世界に発信する、イタリアの老舗の最前線がここにある。 素材も技法も昔のままながら、現代の人々を魅了する工芸品もある。その一つがヴェネツィアン・グラスで(写真④⑤⑥)、ヴェネツィアの北隣にあるムラーノ島には現在も工房が軒を連ねている。工房の一部は、観光客向けに開放されていて、花瓶を手ぎわよくつくるさまは圧巻である。 イタリアはまた高級家具でも名高い。私たちは、ブリアンツァにある「メデア社」を取材した。家具は完全な分業体制でつくられ、木彫(写真⑦)や座面の木編み(写真⑧)など各工程で職人がスペシャリスト化し、自宅の一部を工房として仕事をしている。できあがったものは本社工場に納品され、そこで組み立てられる。これら品質の高い製品は、職人の高度な技術によって支えられている。近年は、安価なコピー商品も出回るなど、

イタリア伝統家具を取り巻く環境は厳しい。それでも関係者は「どんなに機械化されても最後は手作業である。日本には手作業の価値がわかる人が多く、それが日本で受け入れられる土壌になっている」と日本に熱い視線を注いでいる。

イタリア

ローマ

ヴェネツィア

フィレンツェ

ロンバルディア

ピエモンテ

ヴェネト

エミーリアロマーニャ

トスカーナマルケー

ブリアンツァトリノ

ミラノ ●①●②●③

●④●⑤●⑥●⑦●⑧

40°

ティレニア海

アドリア海

0 200km