4
↑葉芽腋(葉柄基部)に花芽分 化するキュウリ。 ↑葉数(節数)を増やすことが 多収のポイント。 多収を得るための基本的要件 収量=収穫果数×1果平均重 果数=節数×着果率×栽植株数 節数の確保(増加)⇔生育(葉数の増加) いな やま みつ 多収を得る 要件 第6回 1962年、埼玉県農業試験場・越谷支場に勤 務。1964年から野菜担当。1967年、埼玉県 園芸試験場そ菜・花き部に勤務(そ菜担当)。 主に、施設栽培キュウリの品種特性調査、 作型開発、増収技術、高品質生産技術、お よびキュウリの施設栽培における環境制御 法などの試験研究に従事する。1991年にそ 菜部長。1997年、同試験場・鶴ヶ島洪積畑 支場長。2000年、埼玉県農林総合研究セン ター・園芸支所長。現在は三菱樹脂アグリ ドリーム株式会社・生産・技術部開発セン ター守谷技術顧問。 2016 タキイ最前線 秋種特集号 65

キュウリ - TAKIIキュウリの根は土層に広く浅く伸びる性質がある。摘芯栽培 主枝・側枝1本誘引 主枝・側枝2本誘引 数 指 200 300 100 0 400

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葉数(節数)を増加させる

ことが多収の要件

 キュウリの花芽着生は前に述べたよ

うに、ナス科作物と違って、葉芽腋(葉

柄基部の所)に花芽が分化します。し

たがって、葉数(節数)を増加させるこ

とが基本的に収量の増加につながりま

す(第1図)。

↑葉芽腋(葉柄基部)に花芽分化するキュウリ。

↑葉数(節数)を増やすことが多収のポイント。

多収を得るための基本的要件

●収量=収穫果数×1果平均重●果数=節数×着果率×栽植株数 節数の確保(増加)⇔生育(葉数の増加)

稲いな

山やま

 光みつ

男お

多収を得る要件

の生理・生態から

とらえた

管理技術

良品多収

多収を得る要件

第6回

キュウリ

1962年、埼玉県農業試験場・越谷支場に勤務。1964年から野菜担当。1967年、埼玉県園芸試験場そ菜・花き部に勤務(そ菜担当)。主に、施設栽培キュウリの品種特性調査、作型開発、増収技術、高品質生産技術、およびキュウリの施設栽培における環境制御法などの試験研究に従事する。1991年にそ菜部長。1997年、同試験場・鶴ヶ島洪積畑支場長。2000年、埼玉県農林総合研究センター・園芸支所長。現在は三菱樹脂アグリドリーム株式会社・生産・技術部開発センター守谷技術顧問。

2016 タキイ最前線 秋種特集号 65

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 葉数を増加確保するには基本的に

「つる下げ栽培」と「摘芯栽培」とい

う二つの栽培方法があります。

「つる下げ栽培」は、主枝(親づる)

を伸ばして、一定の位置(高さ)に達

したら成長点をある程度の位置まで下

げ、再び一定の位置に達したらつるを

下げるという方法です。これを栽培期

間中に繰り返し行うことで節数を確保

します。したがって、栽培期間にもよ

りますが、つるの長さが10m以上にも

なります(第2図A)。 一方、「摘芯栽

培」は、主枝(親づる)が一定の位置

(一般的に高さ1・8m前後、節位20

節前後)に達したら、成長点を摘芯し、

主枝から発生してくる側枝(子づる)

を2節程度で摘芯、その側枝(子づる)

から発生してくる側枝(孫づる)を同

様に摘芯します。親づるからの子づる

→孫づる→ひ孫づる……というように

側枝を発生させ、それが伸びてきたら

摘芯して節数を確保していく方法です

(第2図B)。

 つる下げ栽培では、栽培期間中に頻

繁につるを下げる作業を行う必要があ

ります。この作業は労力を要するだけ

でなく(次頁第3図)、 肥大途中の果

実が着生している状態でつるを下げ同

時に摘葉する必要があります。そのた

め、着生果実への影響が出るだけでな

く、つるを移動することから、着葉し

ている葉の受光態勢が一時的に大きく

変化することにもなります。

 摘芯栽培は、生育初期の段階、つま

り主枝(親づる)摘芯時までにおける

側枝(子づる)の発生が最も重要で、

このことがその後の側枝(孫づる→ひ

孫づる……)発生の基になります。

 つまり、摘芯栽培では初期生育の草

↑キュウリの摘芯栽培。 ↑キュウリのつる下げ栽培。

Ⓑ Ⓐ

摘芯栽培

節数の確保と整枝方法

●つる下げ栽培:親づるの節数増加(親づる長)

●摘芯栽培:親づる+側枝(子づる+孫づる+ひ孫づる…)(節間長)

(側枝の発生−草勢維持)

第1図 収量を構成する諸要因

第2図 整枝方法

雌花着生数÷節数

品  種育苗管理

光温  度炭酸ガス

地  力施  肥土壌水分

地下部環境主枝の伸長側枝の発育葉数の増加

(光合成)(養分吸収)

(生殖生長)

(栄養生長)

(土壌管理)

(地上部環境管理)

地上部環境整枝・摘葉病害虫防除

果実肥大 株負担

開花後日数収穫果の大きさ(栄養)

(落葉)

発育速度

草丈+側枝の発生数…(摘芯節数)

収 量 収穫果数×1果平均重

節数×着果率×栽植株数

近年は苗を購入することから主枝

(親)をつる下げせず、主枝中段から発生した側枝(子づる)を3〜4本伸ばして、つる下げをする例がみられる。

AB

つる下げ栽培

66 2016 タキイ最前線 秋種特集号

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勢と草姿形成がポイントになります。

主枝を摘芯して側枝(子づる)の摘芯

を終えた後は、常に旺盛な草勢を維持

することと、受光態勢を考慮した摘葉

管理に努めることが、節数の増加につ

ながります。

土壌管理

 キュウリは、トマトやナスに比べて

根の酸素要求量が多い作物です(第4

図)。 根群の発達をみると、地表下の

比較的浅い土層に横方向に発達して根

群を形成していく特性が見られます(第

5図)。

 このことは、土壌の表層部分は根に

とって酸素を取り込みやすい環境であ

る一方、空気中の温湿度の影響を受け

やすく、根圏環境が変化しやすいとい

うことでもあります。特に土壌の乾湿

の変化は、根が障害を受けやすくなる

ことから注意が必要です。

 栽培にあたっては堆た

肥ひ

を十分に施用

して深耕を施し、土壌の物理性に富ん

だ、排水性と保水性にすぐれた耕土の

深い圃ほ

場をつくります。根群の発達に

好適な土壌条件になるような土づくり

が重要です。

 根を土壌深層まで発達させることで、

根圏が環境変化の影響を受けにくくな

り作柄の安定につながります。

施肥量

 キュウリは葉が大きいうえにつる性

であることから、側枝を次々に発生さ

せ旺盛な生育を維持することが多収を

得るための基本となります。したがっ

て、一般的には、多肥管理の傾向が強

い作物のように思われますが、むやみ

に多肥栽培することが多収につながる

とは限りません。

 本来なら、作型と目標収量を設定し

て、その収量を得るための施肥であり

たいものです。作型によって栽培時期

が違うことから、生育の様相にも違い

第3図 摘芯栽培労力を100とした場合のつる下げ栽培労力

第4図 土壌空気の酸素濃度が果菜の生育に及ぼす影響

第5図 キュウリの根系〈播種後6週間〉

〈酸素20%区に対する生育割合(生体全量)〉

キュウリはトマト、ナスと比較して根の酸素要求量が多い。

(位田)

(ウェーバーら、1927)

深さ(㎝)

30

60

90

キュウリの根は土層に広く浅く伸びる性質がある。

摘芯栽培 主枝・側枝1本誘引 主枝・側枝2本誘引

数指 200

300

100

0

400

100

216

353

100

生育割合(%)

酸素量(%)

80

60

ナス

40

20

0 2 4 6 8 10 20

トマト

キュウリ

2016 タキイ最前線 秋種特集号 67

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はみられ、養分吸収量も変わってくる

ことは当然のことです。第1表は、キ

ュウリの収量を1t得るための養分吸

収量を作型別に示したものです。しか

し、施肥にあたっては天然供給量や栽

培圃場が有する地力の違い、また、土

壌の種類や圃場の立地条件から生じる

肥料の流亡度合などさまざまな条件が

考えられます。したがって、一概に決

めるのは難しいことですが、養分吸収

量に土質による施肥倍率を乗じて、第

2表のように施肥量を算出することで

施肥の目安にできます。

 そして、施肥に当たってはその圃場

の土壌分析結果などを考慮して行うこ

とも重要になります。また、肥培管理

は生育段階ごとに、日常の生育状況の

観察結果や天候なども予測に入れて、

必要に応じての追肥やその量、成分割

合などを考慮して行うことが大切です。

水分管理

 キュウリの茎葉は、その大部分は水

分からなっていて、ことに収穫する果

実にいたっては含水分が95%から水分

です。キュウリは葉が大きいうえに、

摘芯栽培における収穫期の1株当たり

の着葉数は50~60枚になります。

 キュウリの生育環境における水分に

は、地上部環境の水分として空中湿度

があり、根圏環境の水分としては土壌

水分があります。ここでは、土壌水分

について述べることにします。

 キュウリは葉が大きいうえに葉数が

多く、高温性であることから、蒸散が

活発に行われます。そのため土壌から

の水分吸収が多く、一般的に多水分管

理が行われています。しかし、根の酸

素要求量が多いことから、根圏環境が

過湿状態になると酸素欠乏を起こして

地上部が萎い

凋ちょう

してしまうばかりではな

く、根ね

腐ぐさ

れを起こしてしまいます。

 そこで、栽培土壌は潅水した水が縦

浸透するような、土壌物理性の良好な

排水性・保水性に富んだ土壌であるこ

とが重要です。このような土壌条件に

あって、水分管理が行われることが必

要です。土壌水分の状態を簡易に知る

方法として、テンションメーターを設

置することで、水分管理の目安にでき

ます。テンションメーターは最も根群

の安定している位置で見ることが重要

です。一般的に、株間や株元から少し

離れた位置に設置して測定し、その設

定値がpF1・7~2・3の範囲を目安

にして土壌の水分管理を行います。

※文中で紹介している品種、資材などは、タキイでは取り扱いのないものもございます。ご了承ください。(編集部)

第6図 潅水と収量〈品種:夏埼落3号、10株当たり〉

第1表 作型別推定養分吸収量

第2表 作型別施肥基準

促 成

半 促 成

早 熟

夏キュウリ

ハウス抑制

作 型N P₂O₅ K₂O N P₂O₅ K₂O

10 a 当たり収穫(t)

10 a 当たり吸収量(㎏) 収量1t当たり吸収量(㎏)

15

12

33

30

18

18

15

11

10

45

42

28

28

23

2.2

2.5

2.5

2.5

3.0

0.7

0.8

0.8

0.8

1.0

3.0

3.5

4.0

4.0

4.5

促 成

半 促 成

早 熟

夏キュウリ

ハウス抑制

作 型N P₂O₅ K₂O N P₂O₅ K₂O

10 a 当たり目標収穫(t)

施肥倍率 10 a 当たり施肥量(㎏)

15

12

1.5

1.5

1.8

1.8

1.5

3.0

3.0

4.0

3.0

3.0

1.0

1.0

1.0

1.0

1.0

50

45

32

32

23

33

30

24

18

15

45

42

28

28

23

(藤枝)

(藤枝)

↑潅水チューブを使用したキュウリの潅水。

(埼玉園試、1970)

※1有底は地表下30㎝の所にビニールを敷き、地下水からの毛管現象で上ってくる水分を断って潅水のみで栽培。

※2多潅水は20㎜、中潅水は10㎜、少潅水は5㎜相当の潅水で栽培。

0

10

20

30

40

50

少 中

慣 行

潅水量 多 少 中 多

有 底

※2

※1

 量(㎏)

初期中期後期

良品多収管理技術の生理・生態からとらえたキュウリ

68 2016 タキイ最前線 秋種特集号