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以前はほかのグループウェアを導入していたの ですが、レスポンスがかなり遅くなっていた上、 管理面もDBのメンテナンスが大変で、サーバ自 体の故障も多く、運用コストがかなりかさんでい たので、クラウド版ガルーンに移行しました。現 在は本部社員だけが使っていますが、今後は店舗(現在250店舗以 上)ごとに代表で1ユーザずつ使えるようにし、情報共有や業務活 用に役立て、ペーパーレス化を進めることを計画しています。ま た、モバイル利用が可能になり、通常の携帯電話でも、 iPhoneでも、 Android でも安心して使えることには満足しています。 パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境 で運用していましたが、昨年の震災を受けて、 サーバをすべてデータセンタに移しました。ほか のシステムも含めて、クラウドサービスの利用は 従来から検討はしていますが、必ずしも、グルー プウェアからクラウドという意識はなく、どこを優先してクラウ ドへ持っていこうかというのを比較している状況です。クラウド 版ガルーンへの移行に関しても、以前からコスト比較などの調査 は実施していますが、今のところ、答えが出ていない状態というこ とです。 ――まずは皆さんの現在のグループウェア環境と、クラウドに対 する考え方について教えて下さい。 サイボウズ ガルーンを利用していましたが、昨 年11月にクラウド版ガルーンへ移行しました。 きっかけは、昨年の震災で東北事業所のサーバが 水に浸かってしまうという被害にあったことで す。その際に本格的なバックアップ環境を構築す るか、グループウェアをクラウドサービス利用へ変更するかを検 討し、コスト面や手軽さを考えて後者を選択しました。 もともとはパッケージ版「サイボウズ Office 6」 を利用していましたが、オンプレミス環境におけ るハードウェア障害や容量不足でたまに障害が 起きていたこと、そして、インフラを担当する人 員が不足している状況を受け、クラウド版ガルー ンへ移行しました。人材紹介を中心に多彩な方面へ事業を広げて おり、子会社や海外拠点も多数抱えていますが、少なくとも現時点 では、グループ企業全体でのシステム統合を図るような使い方を しているわけではありません。 実感しているメリット・デメリットは? 定番グループウェアのクラウドサービスが出揃ってきた。パッケージ版グループウェアのユーザは、クラウドサービスへの移行を検 討し始めているだろうが、移行プロセスやセキュリティに対する不安があったり、あるいは、既存システムとのコスト比較をどうと らえればよいのかに悩んでいるかもしれない。そこで、今回はグループウェアをクラウドサービスへ移行済みの企業3社、そして、 何らかの理由があってパッケージ版を使い続けている企業2社にお集まりいただき、それぞれの実感や思いを本音で語っていただ いた。 【参加者】 A氏 物流・卸売業 利用グループウェア:クラウド版ガルーン ユーザ数:90 B氏 人材情報サービス 利用グループウェア:クラウド版ガルーン ユーザ数:500 C氏 飲食店チェーン業 利用グループウェア:クラウド版ガルーン ユーザ数:130 D氏 電子部品メーカー 利用グループウェア:パッケージ版「ガルーン 3」 ユーザ数:270 E氏 イメージソリューションメーカー 利用グループウェア:パッケージ版「ガルーン 3」 ユーザ数:700 クラウド移行後の本音は? 踏み切れない最大の要因とは? クラウド版ユーザ vs. パッケージ版ユーザ 5社が徹底討論!グループウェア・ユーザ座談会

クラウド移行後の本音は? 踏み切れない最大の要因とは? クラ … · パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境 で運用していましたが、昨年の震災を受けて、

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Page 1: クラウド移行後の本音は? 踏み切れない最大の要因とは? クラ … · パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境 で運用していましたが、昨年の震災を受けて、

以前はほかのグループウェアを導入していたの

ですが、レスポンスがかなり遅くなっていた上、

管理面もDBのメンテナンスが大変で、サーバ自

体の故障も多く、運用コストがかなりかさんでい

たので、クラウド版ガルーンに移行しました。現

在は本部社員だけが使っていますが、今後は店舗(現在250店舗以

上)ごとに代表で1ユーザずつ使えるようにし、情報共有や業務活

用に役立て、ペーパーレス化を進めることを計画しています。ま

た、モバイル利用が可能になり、通常の携帯電話でも、iPhoneでも、

Androidでも安心して使えることには満足しています。

パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境

で運用していましたが、昨年の震災を受けて、

サーバをすべてデータセンタに移しました。ほか

のシステムも含めて、クラウドサービスの利用は

従来から検討はしていますが、必ずしも、グルー

プウェアからクラウドという意識はなく、どこを優先してクラウ

ドへ持っていこうかというのを比較している状況です。クラウド

版ガルーンへの移行に関しても、以前からコスト比較などの調査

は実施していますが、今のところ、答えが出ていない状態というこ

とです。

――まずは皆さんの現在のグループウェア環境と、クラウドに対

する考え方について教えて下さい。

サイボウズ ガルーンを利用していましたが、昨

年11月にクラウド版ガルーンへ移行しました。

きっかけは、昨年の震災で東北事業所のサーバが

水に浸かってしまうという被害にあったことで

す。その際に本格的なバックアップ環境を構築す

るか、グループウェアをクラウドサービス利用へ変更するかを検

討し、コスト面や手軽さを考えて後者を選択しました。

もともとはパッケージ版「サイボウズ Office 6」

を利用していましたが、オンプレミス環境におけ

るハードウェア障害や容量不足でたまに障害が

起きていたこと、そして、インフラを担当する人

員が不足している状況を受け、クラウド版ガルー

ンへ移行しました。人材紹介を中心に多彩な方面へ事業を広げて

おり、子会社や海外拠点も多数抱えていますが、少なくとも現時点

では、グループ企業全体でのシステム統合を図るような使い方を

しているわけではありません。

「サイボウズ Office 3」から始まり、長年サイボウ

ズ製品を利用していますが、現在はパッケージ版

「ガルーン 3」を導入しています。クラウドに関し

ては情報収集していますが、ガルーンに関しては

クラウドに移行するつもりはありません。ほかの

システムと相互に関連性を持たせていたり、つなげていたりする

ので、グループウェアだけをクラウド化したとしても、連携製品が

ついてこられるかどうかが問題。まずは、内製している小規模な社

内システムなどに関して、クラウド基盤を活用し、いろいろ試して

みようというレベルです。

――既にグループウェアをクラウドサービスとして利用されてい

る方は、実際にどのようなメリットやデメリットを感じているの

でしょうか?

社内にサーバがないこと自体がすごく楽です。以

前は、週明け早々にハードウェアのトラブルなど

でグループウェアが止まっていると、「早く対応

しないと!」という感じでうんざりしていまし

た。定期的なバックアップ作業に追われる必要も

ないですし、デメリットはあんまり感じたことがないです。

私は“本業”に集中できるという点が最大のメ

リットと考えています。弊社の場合、企業風土と

して、こうした本業集中という意識が特に強く、

情報システム部門も同様に、自分たちの立場で売

り上げアップや顧客単価向上に取り組まなけれ

ばならない。経営者も、グループウェアなどはもはや電気・ガス・

水道と同じ感覚で、使うことがメインなのだから、運用管理にあま

り手間をさかれるのは望ましくないという考えです。そのために

使える手段があれば積極的に取り入れ、むしろ、その手段の足りな

い部分だけを自分たちが担うということで割り切っています。

――移行していない企業の方がクラウドサービスに対して気に

なっている点などはありますか?

クラウド版への移行を躊躇している理由の1つ

は、既存環境のカスタマイズやシステム連携が使

えなくなってしまうのではないかという点で

す。PHPポートレットを利用して外部システム

と連携させていたりするわけですが、それが使え

なくなってしまうのは困るわけです。システム間の機能連携みた

いな部分は連携APIなどで解決されるかもしれないのですが、例

えば、ユーザ情報の入出力を利用してシングルサインオンを実現

するといったアプローチに関しては、機能連携やデータ連携とは

少しレベルが異なるところがあります。

弊社の場合もワークフローに他社製品を導入し

ており、ガルーンと連携させているという事情が

あります。ですから、ガルーンをクラウド版へ移

行させたとしても、そこに連携しているワークフ

ロー、あるいは、そのほかの情報システムなどが

追従できるのか、対応できるのかという不安があります。グループ

ウェアは様々なシステムの入り口としても機能していますから。

おっしゃるとおり、移行前には、カスタマイズ性

が下がってしまう、ほかのシステムとの連携がそ

のままでは動かなくなってしまう可能性もある

など、不満はありました。ただ、そのあたりは弊

社ではあきらめるというか、むしろ、割り切って

しまい、現在では、何をおいても社内に“物”がない環境を実現でき

ることが大きなメリットだと感じています。

ほかに、クラウドサービスに期待と不安の双方を

抱くのは、バージョンアップの手間がないことで

す。パッケージ版だと、まずはテスト環境を用意

し、情報システム部門などが率先して実際に触っ

た上で、いかに新機能や操作変更などを社内に伝

達していくかを考えたり、マニュアルを作る。そういった手間が省

けることを考えると、すごく楽でしょうね。ただ、これも裏腹で、

バージョンアップについていけない社員のことも考えて、実施の

タイミングを計ることもできなくなるのでは?

たしかに、クラウドサービスのグループウェアで

は、画面を開いた時に「バージョンアップしまし

た」というメッセージが表示され、いきなり機能

が追加されていたりします。ただ、管理者向けに

はバージョンアップの内容を事前に連絡しても

らえますので、それで問題が生じたことはありません。今のとこ

ろ、そんなに急に大幅な変更が行われたことがないということか

もしれませんが…。

――パッケージ版を利用している方々も、やはりクラウドサービ

スに大いに興味はあるようですが、とはいっても、情報収集や検討

の段階から実際の移行へは、そう簡単に進めないという状況なの

でしょうか?

クラウド版にどうしても踏み切れない理由は、1

ユーザあたりの単価がパッケージ版より高く

なってしまうことです。現状のパッケージ版の月

あたりのコストを算出してみましたが、どう見積

もっても、クラウド版の月額料金の約半分以下で

済んでいます。クラウド版のコストを聞かれて、「現在のおよそ倍

です」ということでは、やはり稟議は通りにくいでしょう。

弊社も同じです。以前に試算したところ、約半分

で済むという結果になりました。ただ、実は昨年

の計画停電の影響を受けて、本社に置いていた

サーバが停止したため、全面的に業務が止まると

いう事態が生じたんです。そのため、現在ではグ

ループウェアをはじめ、基幹システムやメールサーバ、Webサー

バなど、主要なサーバをすべて外部のデータセンタで稼働させて

います。これは早急に対処せねばということなので、その際の稟議

はすぐに通りました。こうなると、クラウドへの移行でもよかった

のでは、という話もありますが、実はガルーンのライセンスを複数

年契約で支払い済みなので…。

実際、社内でグループウェアを運用するだけであ

れば、1年、2年といった短期間ならともかく、長

く使うのであればオンプレミスのほうが安いと

言えるでしょうね。私も感覚的には、コスト面が

第一のデメリットだと感じていました。ただ、

【E】さんがおっしゃったように、BCP(事業継続計画)/DR(ディザ

スタ・リカバリ)的なメリットも加えると、そう単純な計算ではな

くなってきますね。

――ただ、クラウド版とパッケージ版のコストを比較するといっ

ても、なかなか難しいですよね。どういう費用まで含めるか、どれ

くらいの期間で比較するかなどで、ずいぶん違ってくるのではな

いでしょうか?

先ほどの「半分程度」というのは、データセンタ

やラックといった設備の利用料金、サーバのラン

ニングコスト、ソフトウェアのライセンス費用、

そして、自分が担っている保守費用も考慮して試

算したケースです。ネットワーク回線が結構高く

つく場合もありますが、それでもクラウドのほうが若干高くなる

と思います。ただ、正直に言うと、個人的には自分たち(情報シス

テム部)の作業負担が減ることで、その分、ほかの業務に注力でき

るというのは大きな魅力です。稟議を通す際には、その価値を経営

層がどのように受け取ってくれるか、いかに説得できるかがポイ

ントになるんでしょうね。

コストが高いと見るか、安いと見るかに関して

は、ユーザ規模にも左右されるのではないでしょ

うか。例えば、100ユーザであれば月額約9万円

ですから、運用管理コストなどを考えれば感覚的

には安い。しかし、規模が大きくなると、料金も

まとまった額になってしまうので、少し躊躇してしまう。

弊社では700ユーザ分のパッケージ版ライセン

スを持っていますから、これをクラウドサービス

へ移行すると、定価ベースで年額600万円強と

いうことになります。しかも、コスト比較を行う

場合は伝統的に5年間のスパンで算出しますか

ら、5年間3000万円以上になってしまう。すると、やはり「その

3000万円にどういう意味があるのか」を強く訴えることができな

いと稟議は通らない。もちろん、700ユーザといっても全部がアク

ティブではないですし、クラウドサービスの場合は柔軟に変更で

きますから、いろいろ工夫できる余地はあるのでしょうけど。

現在500ユーザ以上で利用していますが、業種

的に事業の成長を図るためには人員を増やす必

要があり、今後も増加していくと思います。だか

ら、サイボウズには事業の成長がコストドライバ

になってしまう料金体系は何とかしてほしいと

伝えています。ただ、少し違う視点もあって、ユーザ数が増えれば

増えるほど、システムが止まった時のインパクトが比例して大き

くなる。そのリスクを排除できるのであれば、現状でも十分にコス

トメリットは高いとも感じます。

――そのほかの部分で「こういう付加価値があったから、稟議が

通った」というものはありましたか?

やはりクラウド版であれば、社内ネットワークの

穴を開けることも必要なく、外部からグループ

ウェアへアクセス可能な環境を容易に構築でき

るという点が大きいと思います。弊社では「本部

にいなくても仕事ができる環境を作る」という考

え方があります。基本的には本部にいるよりも現場に出て、そこで

主に仕事をこなすというのが理想ですから。携帯電話でワークフ

ローの承認が行えるという点も評価が高く、逆に言えば、この部分

なしには稟議は通らなかったと思います。

弊社では海外出張の多い上司がそこに食いつい

てくれて、そのおかげで、稟議が通りやすかった

ということはあります。導入後は、その上司が現

地のホテルなどからフォローをどんどん入れて

きたりして、存分に活用していますね。海外にい

ても、気兼ねなくグループウェアへアクセスできるという点で一

種の感動を覚えているようです。

Web企業においては人材獲得競争が激しくなっ

ており、システム運用管理のようにコモディティ

化しつつあるスキルに人的リソースを割くくら

いであれば、商用の開発に回したいという全社的

な意向がありました。そういうシフトを進めて、

最終的には社内のITインフラには全く手をかけたくない、担当者

をゼロくらいにしたいという方向性です。だから、今回のクラウド

版への移行については、グループウェアにかかわるハードウェア/

インフラのメンテナンス要員をゼロにするということを導入の狙

いに据えることで稟議が通ったということはあります。

――コスト以外では、セキュリティ面の不安などについてはいか

がでしょうか?

先ほどの外部アクセスに関しても、常時SSLで通

信が暗号化されていますし、IPアドレスによる

接続制限やBASIC認証にも標準対応しています

から特に不安はないですね。弊社では、モバイル

利用に関してはオプションの「セキュアアクセ

ス」を利用し、クライアント証明書が入っていない端末は使えない

ため、全く気にしていませんね。

先ほど述べたとおり、コストに関しては弊社では

ネックととらえていますが、セキュリティは逆で

すね。つまり、クラウドサービスのほうがかえっ

て安全だと思っています。自分たちが危うい管理

をしているという意味ではなく、むしろ、あまり

自分たちの力を過信しないほうがよいだろうと。もちろん、クラウ

ドサービスも千差万別で、すべてが安全とは言えませんが、少なく

ともサイボウズなどは、いわばITのプロ中のプロなわけですし、設

備や人員への投資コストも私たちとは次元が違うはずですから。

全く安全だとは断言できませんが、そういうところに任せたほう

がセキュリティで問題が生じる確率は確実に低いでしょう。

弊社もそれに近いスタンスで、「餅は餅屋」とい

う考え方ですね。セキュリティだけではなく、

ハードウェアの運用管理に関しても、障害を起こ

したことがないかというとそんなことはなく、む

しろ、過去に何度も発生させていますから。そう

いう状態で、スリーナイン(99.9%)、フォーナイン(99.99%)と

いった稼働率をうたうクラウドサービスに対して、自分たちが張

り合う意味があるのか。太刀打ちできるのかということです。経営

層も同じ認識なので、セキュリティや稼働率が導入の障害になる

ことは全くありませんでした。

――クラウドサービスへの移行時に製品リプレースは検討しまし

たか?

移行期間を極力短くしたかったので、ユーザビリ

ティが変わらないということを重視して、同製品

間の移行を選択しました。それによって、ユーザ

ビリティ以外のリスクも減らせたと思います。た

だ、検討する余地がないというほどには考えてお

らず、移行にかかる時間や作業負担をいとわないのであれば、やは

り、きちんと他製品と比較したほうがよいでしょう。まあ、私の場

合は、ただでさえクラウドという別物に移すのに、そこで製品も変

更するとなると、二重の苦しみになってしまうだろうと…。

ありません。クラウドに移行するかどうかという

選択だけですね。忘れてはいけないのは、やはり

使う側の人たちのことなんですよ。実は弊社では

2度ほどグループウェアの導入に失敗していて、

その後、全く使われていなかった。現在のガルー

ンは私が選定して導入したんですが、その際に利用者のほうから

言われたのは「もう、変えないよね」「これで本当に使い続けるんだ

よね」ということです。その時点で「操作はもう変わりません」と

約束しているので、基本的には常にガルーンありきで考える状態

になっています。

私はクラウドサービスへ移行すると決断すると

したら、おそらく他社製品も含めて比較検討しま

す。経営層はもちろん、ユーザ層にも、各製品の

メリットとデメリットを説明し、十分に検討行い

ます。結果によっては、製品変更もいとわないで

しょう。以前にグループウェアをリプレースした際にも、そうした

プロセスで比較検討を行い、ユーザビリティやコスト、グループ

ウェアとしての将来性など、総合的な評価でサイボウズ製品への

乗り換えを決断したわけですから。

皆さんの話を聞いて思ったのは、クラウド移行の

メリットの1つに、「いつでもやめられる」という

こともありますね。もちろん、データ移行などは

考慮する必要があるものの、サービスそのものを

乗り換えるのは、パッケージ版利用時よりも容易

になるわけですから。

――移行の際に気になるのは、ユーザからの反応だと思います。ク

レームや相談は増えなかったのでしょうか?

実はクラウドサービスへ移行することを明確に

は伝えませんでした。アクセス方法や環境が少

し変わりますという言い方ですね。クラウドで

あるかどうかはユーザにとっては特に関係な

く、経営層や情報システム部が認識していれば

いいことですから。それでも、特に違和感などは寄せられておら

ず、問題も生じていません。

大きなクレームなどはなく、既に導入して半年

が経ちますが、最近まで違う環境に移行してい

たことに気づかなかったという社員もいるくら

いです。ネットワークの補強なども特にしませ

んでしたが、パフォーマンス的にはパッケージ

版利用のオンプレミス環境とほとんど変わりませんし。弊社の場

合、拠点からのインターネットアクセスは本社経由となっている

のですが、それでもほとんど差は感じません。サービスが止まって

しまうような事態にも、今のところは遭遇していませんね。

――実際の移行作業に関しては、先ほど話が出たように、同じ製品

のパッケージ版からクラウドサービスへの移行であれば、特に苦

労するところはないと言っていいのでしょうか?

あまり綿密にはやらなかったというか、結構気

楽に考えていましたね。ちょっと語弊があるか

もしれませんが、パッケージ版のオンプレミス

環境もすぐになくすわけではないし、ほかにも

う1つクラウドサービスの環境が立っていると

いう状態になるので、失敗したらオンプレミスを使い続ければい

い、成功するまでトライすればいいかと。そういう意味では、管理

者にとって重荷ではなかったですし、ユーザにとっても、クリティ

カルな状態には決してならないかたちでの移行でしたので、結果

として非常に満足しています。

今回のユーザ座談会では、参加者の方々が積極的に疑問や意見を

やりとりしていただいたため、パッケージ版ユーザはクラウド版

を実際に導入した感想を得られ、また、一方のクラウド版ユーザは

ほかの方々と語り合うことで改めて移行の効果を再認識できたよ

うだ。いずれも納得した表情で帰路につかれていたのが印象的

だった。

クラウド利用の目的といえば「=コスト削減」というイメージも抱

いてのだが、実際にはそう短絡的なものではなく、実際に利用して

いる方々も単純に安いとは感じていないことが伝わってきた。つ

まり、コストに関しては、見方によっては「クラウド版のほうが高

くつく」とも言えるというのが実状のようだ。ただ、そんな中でも

クラウド版ユーザは移行に対して満足していた。理由はそれぞれ

に異なり、各々が自社にとって有効なメリットや付加価値をうま

く見出していると言えるだろう。

実感しているメリット・デメリットは?

定番グループウェアのクラウドサービスが出揃ってきた。パッケージ版グループウェアのユーザは、クラウドサービスへの移行を検

討し始めているだろうが、移行プロセスやセキュリティに対する不安があったり、あるいは、既存システムとのコスト比較をどうと

らえればよいのかに悩んでいるかもしれない。そこで、今回はグループウェアをクラウドサービスへ移行済みの企業3社、そして、

何らかの理由があってパッケージ版を使い続けている企業2社にお集まりいただき、それぞれの実感や思いを本音で語っていただ

いた。

【参加者】

A氏 物流・卸売業 利用グループウェア:クラウド版ガルーン ユーザ数:90

B氏 人材情報サービス 利用グループウェア:クラウド版ガルーン ユーザ数:500

C氏 飲食店チェーン業 利用グループウェア:クラウド版ガルーン ユーザ数:130

D氏 電子部品メーカー 利用グループウェア:パッケージ版「ガルーン 3」 ユーザ数:270

E氏 イメージソリューションメーカー 利用グループウェア:パッケージ版「ガルーン 3」 ユーザ数:700

クラウド移行後の本音は? 踏み切れない最大の要因とは?クラウド版ユーザ vs. パッケージ版ユーザ5社が徹底討論!グループウェア・ユーザ座談会

Page 2: クラウド移行後の本音は? 踏み切れない最大の要因とは? クラ … · パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境 で運用していましたが、昨年の震災を受けて、

以前はほかのグループウェアを導入していたの

ですが、レスポンスがかなり遅くなっていた上、

管理面もDBのメンテナンスが大変で、サーバ自

体の故障も多く、運用コストがかなりかさんでい

たので、クラウド版ガルーンに移行しました。現

在は本部社員だけが使っていますが、今後は店舗(現在250店舗以

上)ごとに代表で1ユーザずつ使えるようにし、情報共有や業務活

用に役立て、ペーパーレス化を進めることを計画しています。ま

た、モバイル利用が可能になり、通常の携帯電話でも、iPhoneでも、

Androidでも安心して使えることには満足しています。

パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境

で運用していましたが、昨年の震災を受けて、

サーバをすべてデータセンタに移しました。ほか

のシステムも含めて、クラウドサービスの利用は

従来から検討はしていますが、必ずしも、グルー

プウェアからクラウドという意識はなく、どこを優先してクラウ

ドへ持っていこうかというのを比較している状況です。クラウド

版ガルーンへの移行に関しても、以前からコスト比較などの調査

は実施していますが、今のところ、答えが出ていない状態というこ

とです。

――まずは皆さんの現在のグループウェア環境と、クラウドに対

する考え方について教えて下さい。

サイボウズ ガルーンを利用していましたが、昨

年11月にクラウド版ガルーンへ移行しました。

きっかけは、昨年の震災で東北事業所のサーバが

水に浸かってしまうという被害にあったことで

す。その際に本格的なバックアップ環境を構築す

るか、グループウェアをクラウドサービス利用へ変更するかを検

討し、コスト面や手軽さを考えて後者を選択しました。

もともとはパッケージ版「サイボウズ Office 6」

を利用していましたが、オンプレミス環境におけ

るハードウェア障害や容量不足でたまに障害が

起きていたこと、そして、インフラを担当する人

員が不足している状況を受け、クラウド版ガルー

ンへ移行しました。人材紹介を中心に多彩な方面へ事業を広げて

おり、子会社や海外拠点も多数抱えていますが、少なくとも現時点

では、グループ企業全体でのシステム統合を図るような使い方を

しているわけではありません。

「サイボウズ Office 3」から始まり、長年サイボウ

ズ製品を利用していますが、現在はパッケージ版

「ガルーン 3」を導入しています。クラウドに関し

ては情報収集していますが、ガルーンに関しては

クラウドに移行するつもりはありません。ほかの

システムと相互に関連性を持たせていたり、つなげていたりする

ので、グループウェアだけをクラウド化したとしても、連携製品が

ついてこられるかどうかが問題。まずは、内製している小規模な社

内システムなどに関して、クラウド基盤を活用し、いろいろ試して

みようというレベルです。

――既にグループウェアをクラウドサービスとして利用されてい

る方は、実際にどのようなメリットやデメリットを感じているの

でしょうか?

社内にサーバがないこと自体がすごく楽です。以

前は、週明け早々にハードウェアのトラブルなど

でグループウェアが止まっていると、「早く対応

しないと!」という感じでうんざりしていまし

た。定期的なバックアップ作業に追われる必要も

ないですし、デメリットはあんまり感じたことがないです。

私は“本業”に集中できるという点が最大のメ

リットと考えています。弊社の場合、企業風土と

して、こうした本業集中という意識が特に強く、

情報システム部門も同様に、自分たちの立場で売

り上げアップや顧客単価向上に取り組まなけれ

ばならない。経営者も、グループウェアなどはもはや電気・ガス・

水道と同じ感覚で、使うことがメインなのだから、運用管理にあま

り手間をさかれるのは望ましくないという考えです。そのために

使える手段があれば積極的に取り入れ、むしろ、その手段の足りな

い部分だけを自分たちが担うということで割り切っています。

――移行していない企業の方がクラウドサービスに対して気に

なっている点などはありますか?

クラウド版への移行を躊躇している理由の1つ

は、既存環境のカスタマイズやシステム連携が使

えなくなってしまうのではないかという点で

す。PHPポートレットを利用して外部システム

と連携させていたりするわけですが、それが使え

なくなってしまうのは困るわけです。システム間の機能連携みた

いな部分は連携APIなどで解決されるかもしれないのですが、例

えば、ユーザ情報の入出力を利用してシングルサインオンを実現

するといったアプローチに関しては、機能連携やデータ連携とは

少しレベルが異なるところがあります。

弊社の場合もワークフローに他社製品を導入し

ており、ガルーンと連携させているという事情が

あります。ですから、ガルーンをクラウド版へ移

行させたとしても、そこに連携しているワークフ

ロー、あるいは、そのほかの情報システムなどが

追従できるのか、対応できるのかという不安があります。グループ

ウェアは様々なシステムの入り口としても機能していますから。

おっしゃるとおり、移行前には、カスタマイズ性

が下がってしまう、ほかのシステムとの連携がそ

のままでは動かなくなってしまう可能性もある

など、不満はありました。ただ、そのあたりは弊

社ではあきらめるというか、むしろ、割り切って

しまい、現在では、何をおいても社内に“物”がない環境を実現でき

ることが大きなメリットだと感じています。

ほかに、クラウドサービスに期待と不安の双方を

抱くのは、バージョンアップの手間がないことで

す。パッケージ版だと、まずはテスト環境を用意

し、情報システム部門などが率先して実際に触っ

た上で、いかに新機能や操作変更などを社内に伝

達していくかを考えたり、マニュアルを作る。そういった手間が省

けることを考えると、すごく楽でしょうね。ただ、これも裏腹で、

バージョンアップについていけない社員のことも考えて、実施の

タイミングを計ることもできなくなるのでは?

たしかに、クラウドサービスのグループウェアで

は、画面を開いた時に「バージョンアップしまし

た」というメッセージが表示され、いきなり機能

が追加されていたりします。ただ、管理者向けに

はバージョンアップの内容を事前に連絡しても

らえますので、それで問題が生じたことはありません。今のとこ

ろ、そんなに急に大幅な変更が行われたことがないということか

もしれませんが…。

――パッケージ版を利用している方々も、やはりクラウドサービ

スに大いに興味はあるようですが、とはいっても、情報収集や検討

の段階から実際の移行へは、そう簡単に進めないという状況なの

でしょうか?

クラウド版にどうしても踏み切れない理由は、1

ユーザあたりの単価がパッケージ版より高く

なってしまうことです。現状のパッケージ版の月

あたりのコストを算出してみましたが、どう見積

もっても、クラウド版の月額料金の約半分以下で

済んでいます。クラウド版のコストを聞かれて、「現在のおよそ倍

です」ということでは、やはり稟議は通りにくいでしょう。

弊社も同じです。以前に試算したところ、約半分

で済むという結果になりました。ただ、実は昨年

の計画停電の影響を受けて、本社に置いていた

サーバが停止したため、全面的に業務が止まると

いう事態が生じたんです。そのため、現在ではグ

ループウェアをはじめ、基幹システムやメールサーバ、Webサー

バなど、主要なサーバをすべて外部のデータセンタで稼働させて

います。これは早急に対処せねばということなので、その際の稟議

はすぐに通りました。こうなると、クラウドへの移行でもよかった

のでは、という話もありますが、実はガルーンのライセンスを複数

年契約で支払い済みなので…。

実際、社内でグループウェアを運用するだけであ

れば、1年、2年といった短期間ならともかく、長

く使うのであればオンプレミスのほうが安いと

言えるでしょうね。私も感覚的には、コスト面が

第一のデメリットだと感じていました。ただ、

【E】さんがおっしゃったように、BCP(事業継続計画)/DR(ディザ

スタ・リカバリ)的なメリットも加えると、そう単純な計算ではな

くなってきますね。

――ただ、クラウド版とパッケージ版のコストを比較するといっ

ても、なかなか難しいですよね。どういう費用まで含めるか、どれ

くらいの期間で比較するかなどで、ずいぶん違ってくるのではな

いでしょうか?

先ほどの「半分程度」というのは、データセンタ

やラックといった設備の利用料金、サーバのラン

ニングコスト、ソフトウェアのライセンス費用、

そして、自分が担っている保守費用も考慮して試

算したケースです。ネットワーク回線が結構高く

つく場合もありますが、それでもクラウドのほうが若干高くなる

と思います。ただ、正直に言うと、個人的には自分たち(情報シス

テム部)の作業負担が減ることで、その分、ほかの業務に注力でき

るというのは大きな魅力です。稟議を通す際には、その価値を経営

層がどのように受け取ってくれるか、いかに説得できるかがポイ

ントになるんでしょうね。

コストが高いと見るか、安いと見るかに関して

は、ユーザ規模にも左右されるのではないでしょ

うか。例えば、100ユーザであれば月額約9万円

ですから、運用管理コストなどを考えれば感覚的

には安い。しかし、規模が大きくなると、料金も

まとまった額になってしまうので、少し躊躇してしまう。

弊社では700ユーザ分のパッケージ版ライセン

スを持っていますから、これをクラウドサービス

へ移行すると、定価ベースで年額600万円強と

いうことになります。しかも、コスト比較を行う

場合は伝統的に5年間のスパンで算出しますか

ら、5年間3000万円以上になってしまう。すると、やはり「その

3000万円にどういう意味があるのか」を強く訴えることができな

いと稟議は通らない。もちろん、700ユーザといっても全部がアク

ティブではないですし、クラウドサービスの場合は柔軟に変更で

きますから、いろいろ工夫できる余地はあるのでしょうけど。

現在500ユーザ以上で利用していますが、業種

的に事業の成長を図るためには人員を増やす必

要があり、今後も増加していくと思います。だか

ら、サイボウズには事業の成長がコストドライバ

になってしまう料金体系は何とかしてほしいと

伝えています。ただ、少し違う視点もあって、ユーザ数が増えれば

増えるほど、システムが止まった時のインパクトが比例して大き

くなる。そのリスクを排除できるのであれば、現状でも十分にコス

トメリットは高いとも感じます。

――そのほかの部分で「こういう付加価値があったから、稟議が

通った」というものはありましたか?

やはりクラウド版であれば、社内ネットワークの

穴を開けることも必要なく、外部からグループ

ウェアへアクセス可能な環境を容易に構築でき

るという点が大きいと思います。弊社では「本部

にいなくても仕事ができる環境を作る」という考

え方があります。基本的には本部にいるよりも現場に出て、そこで

主に仕事をこなすというのが理想ですから。携帯電話でワークフ

ローの承認が行えるという点も評価が高く、逆に言えば、この部分

なしには稟議は通らなかったと思います。

弊社では海外出張の多い上司がそこに食いつい

てくれて、そのおかげで、稟議が通りやすかった

ということはあります。導入後は、その上司が現

地のホテルなどからフォローをどんどん入れて

きたりして、存分に活用していますね。海外にい

ても、気兼ねなくグループウェアへアクセスできるという点で一

種の感動を覚えているようです。

Web企業においては人材獲得競争が激しくなっ

ており、システム運用管理のようにコモディティ

化しつつあるスキルに人的リソースを割くくら

いであれば、商用の開発に回したいという全社的

な意向がありました。そういうシフトを進めて、

最終的には社内のITインフラには全く手をかけたくない、担当者

をゼロくらいにしたいという方向性です。だから、今回のクラウド

版への移行については、グループウェアにかかわるハードウェア/

インフラのメンテナンス要員をゼロにするということを導入の狙

いに据えることで稟議が通ったということはあります。

――コスト以外では、セキュリティ面の不安などについてはいか

がでしょうか?

先ほどの外部アクセスに関しても、常時SSLで通

信が暗号化されていますし、IPアドレスによる

接続制限やBASIC認証にも標準対応しています

から特に不安はないですね。弊社では、モバイル

利用に関してはオプションの「セキュアアクセ

ス」を利用し、クライアント証明書が入っていない端末は使えない

ため、全く気にしていませんね。

先ほど述べたとおり、コストに関しては弊社では

ネックととらえていますが、セキュリティは逆で

すね。つまり、クラウドサービスのほうがかえっ

て安全だと思っています。自分たちが危うい管理

をしているという意味ではなく、むしろ、あまり

自分たちの力を過信しないほうがよいだろうと。もちろん、クラウ

ドサービスも千差万別で、すべてが安全とは言えませんが、少なく

ともサイボウズなどは、いわばITのプロ中のプロなわけですし、設

備や人員への投資コストも私たちとは次元が違うはずですから。

全く安全だとは断言できませんが、そういうところに任せたほう

がセキュリティで問題が生じる確率は確実に低いでしょう。

弊社もそれに近いスタンスで、「餅は餅屋」とい

う考え方ですね。セキュリティだけではなく、

ハードウェアの運用管理に関しても、障害を起こ

したことがないかというとそんなことはなく、む

しろ、過去に何度も発生させていますから。そう

いう状態で、スリーナイン(99.9%)、フォーナイン(99.99%)と

いった稼働率をうたうクラウドサービスに対して、自分たちが張

り合う意味があるのか。太刀打ちできるのかということです。経営

層も同じ認識なので、セキュリティや稼働率が導入の障害になる

ことは全くありませんでした。

――クラウドサービスへの移行時に製品リプレースは検討しまし

たか?

移行期間を極力短くしたかったので、ユーザビリ

ティが変わらないということを重視して、同製品

間の移行を選択しました。それによって、ユーザ

ビリティ以外のリスクも減らせたと思います。た

だ、検討する余地がないというほどには考えてお

らず、移行にかかる時間や作業負担をいとわないのであれば、やは

り、きちんと他製品と比較したほうがよいでしょう。まあ、私の場

合は、ただでさえクラウドという別物に移すのに、そこで製品も変

更するとなると、二重の苦しみになってしまうだろうと…。

ありません。クラウドに移行するかどうかという

選択だけですね。忘れてはいけないのは、やはり

使う側の人たちのことなんですよ。実は弊社では

2度ほどグループウェアの導入に失敗していて、

その後、全く使われていなかった。現在のガルー

ンは私が選定して導入したんですが、その際に利用者のほうから

言われたのは「もう、変えないよね」「これで本当に使い続けるんだ

よね」ということです。その時点で「操作はもう変わりません」と

約束しているので、基本的には常にガルーンありきで考える状態

になっています。

私はクラウドサービスへ移行すると決断すると

したら、おそらく他社製品も含めて比較検討しま

す。経営層はもちろん、ユーザ層にも、各製品の

メリットとデメリットを説明し、十分に検討行い

ます。結果によっては、製品変更もいとわないで

しょう。以前にグループウェアをリプレースした際にも、そうした

プロセスで比較検討を行い、ユーザビリティやコスト、グループ

ウェアとしての将来性など、総合的な評価でサイボウズ製品への

乗り換えを決断したわけですから。

皆さんの話を聞いて思ったのは、クラウド移行の

メリットの1つに、「いつでもやめられる」という

こともありますね。もちろん、データ移行などは

考慮する必要があるものの、サービスそのものを

乗り換えるのは、パッケージ版利用時よりも容易

になるわけですから。

――移行の際に気になるのは、ユーザからの反応だと思います。ク

レームや相談は増えなかったのでしょうか?

実はクラウドサービスへ移行することを明確に

は伝えませんでした。アクセス方法や環境が少

し変わりますという言い方ですね。クラウドで

あるかどうかはユーザにとっては特に関係な

く、経営層や情報システム部が認識していれば

いいことですから。それでも、特に違和感などは寄せられておら

ず、問題も生じていません。

大きなクレームなどはなく、既に導入して半年

が経ちますが、最近まで違う環境に移行してい

たことに気づかなかったという社員もいるくら

いです。ネットワークの補強なども特にしませ

んでしたが、パフォーマンス的にはパッケージ

版利用のオンプレミス環境とほとんど変わりませんし。弊社の場

合、拠点からのインターネットアクセスは本社経由となっている

のですが、それでもほとんど差は感じません。サービスが止まって

しまうような事態にも、今のところは遭遇していませんね。

――実際の移行作業に関しては、先ほど話が出たように、同じ製品

のパッケージ版からクラウドサービスへの移行であれば、特に苦

労するところはないと言っていいのでしょうか?

あまり綿密にはやらなかったというか、結構気

楽に考えていましたね。ちょっと語弊があるか

もしれませんが、パッケージ版のオンプレミス

環境もすぐになくすわけではないし、ほかにも

う1つクラウドサービスの環境が立っていると

いう状態になるので、失敗したらオンプレミスを使い続ければい

い、成功するまでトライすればいいかと。そういう意味では、管理

者にとって重荷ではなかったですし、ユーザにとっても、クリティ

カルな状態には決してならないかたちでの移行でしたので、結果

として非常に満足しています。

今回のユーザ座談会では、参加者の方々が積極的に疑問や意見を

やりとりしていただいたため、パッケージ版ユーザはクラウド版

を実際に導入した感想を得られ、また、一方のクラウド版ユーザは

ほかの方々と語り合うことで改めて移行の効果を再認識できたよ

うだ。いずれも納得した表情で帰路につかれていたのが印象的

だった。

クラウド利用の目的といえば「=コスト削減」というイメージも抱

いてのだが、実際にはそう短絡的なものではなく、実際に利用して

いる方々も単純に安いとは感じていないことが伝わってきた。つ

まり、コストに関しては、見方によっては「クラウド版のほうが高

くつく」とも言えるというのが実状のようだ。ただ、そんな中でも

クラウド版ユーザは移行に対して満足していた。理由はそれぞれ

に異なり、各々が自社にとって有効なメリットや付加価値をうま

く見出していると言えるだろう。

Page 3: クラウド移行後の本音は? 踏み切れない最大の要因とは? クラ … · パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境 で運用していましたが、昨年の震災を受けて、

以前はほかのグループウェアを導入していたの

ですが、レスポンスがかなり遅くなっていた上、

管理面もDBのメンテナンスが大変で、サーバ自

体の故障も多く、運用コストがかなりかさんでい

たので、クラウド版ガルーンに移行しました。現

在は本部社員だけが使っていますが、今後は店舗(現在250店舗以

上)ごとに代表で1ユーザずつ使えるようにし、情報共有や業務活

用に役立て、ペーパーレス化を進めることを計画しています。ま

た、モバイル利用が可能になり、通常の携帯電話でも、iPhoneでも、

Androidでも安心して使えることには満足しています。

パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境

で運用していましたが、昨年の震災を受けて、

サーバをすべてデータセンタに移しました。ほか

のシステムも含めて、クラウドサービスの利用は

従来から検討はしていますが、必ずしも、グルー

プウェアからクラウドという意識はなく、どこを優先してクラウ

ドへ持っていこうかというのを比較している状況です。クラウド

版ガルーンへの移行に関しても、以前からコスト比較などの調査

は実施していますが、今のところ、答えが出ていない状態というこ

とです。

――まずは皆さんの現在のグループウェア環境と、クラウドに対

する考え方について教えて下さい。

サイボウズ ガルーンを利用していましたが、昨

年11月にクラウド版ガルーンへ移行しました。

きっかけは、昨年の震災で東北事業所のサーバが

水に浸かってしまうという被害にあったことで

す。その際に本格的なバックアップ環境を構築す

るか、グループウェアをクラウドサービス利用へ変更するかを検

討し、コスト面や手軽さを考えて後者を選択しました。

もともとはパッケージ版「サイボウズ Office 6」

を利用していましたが、オンプレミス環境におけ

るハードウェア障害や容量不足でたまに障害が

起きていたこと、そして、インフラを担当する人

員が不足している状況を受け、クラウド版ガルー

ンへ移行しました。人材紹介を中心に多彩な方面へ事業を広げて

おり、子会社や海外拠点も多数抱えていますが、少なくとも現時点

では、グループ企業全体でのシステム統合を図るような使い方を

しているわけではありません。

「サイボウズ Office 3」から始まり、長年サイボウ

ズ製品を利用していますが、現在はパッケージ版

「ガルーン 3」を導入しています。クラウドに関し

ては情報収集していますが、ガルーンに関しては

クラウドに移行するつもりはありません。ほかの

システムと相互に関連性を持たせていたり、つなげていたりする

ので、グループウェアだけをクラウド化したとしても、連携製品が

ついてこられるかどうかが問題。まずは、内製している小規模な社

内システムなどに関して、クラウド基盤を活用し、いろいろ試して

みようというレベルです。

――既にグループウェアをクラウドサービスとして利用されてい

る方は、実際にどのようなメリットやデメリットを感じているの

でしょうか?

社内にサーバがないこと自体がすごく楽です。以

前は、週明け早々にハードウェアのトラブルなど

でグループウェアが止まっていると、「早く対応

しないと!」という感じでうんざりしていまし

た。定期的なバックアップ作業に追われる必要も

ないですし、デメリットはあんまり感じたことがないです。

私は“本業”に集中できるという点が最大のメ

リットと考えています。弊社の場合、企業風土と

して、こうした本業集中という意識が特に強く、

情報システム部門も同様に、自分たちの立場で売

り上げアップや顧客単価向上に取り組まなけれ

ばならない。経営者も、グループウェアなどはもはや電気・ガス・

水道と同じ感覚で、使うことがメインなのだから、運用管理にあま

り手間をさかれるのは望ましくないという考えです。そのために

使える手段があれば積極的に取り入れ、むしろ、その手段の足りな

い部分だけを自分たちが担うということで割り切っています。

――移行していない企業の方がクラウドサービスに対して気に

なっている点などはありますか?

クラウド版への移行を躊躇している理由の1つ

は、既存環境のカスタマイズやシステム連携が使

えなくなってしまうのではないかという点で

す。PHPポートレットを利用して外部システム

と連携させていたりするわけですが、それが使え

なくなってしまうのは困るわけです。システム間の機能連携みた

いな部分は連携APIなどで解決されるかもしれないのですが、例

えば、ユーザ情報の入出力を利用してシングルサインオンを実現

するといったアプローチに関しては、機能連携やデータ連携とは

少しレベルが異なるところがあります。

弊社の場合もワークフローに他社製品を導入し

ており、ガルーンと連携させているという事情が

あります。ですから、ガルーンをクラウド版へ移

行させたとしても、そこに連携しているワークフ

ロー、あるいは、そのほかの情報システムなどが

追従できるのか、対応できるのかという不安があります。グループ

ウェアは様々なシステムの入り口としても機能していますから。

おっしゃるとおり、移行前には、カスタマイズ性

が下がってしまう、ほかのシステムとの連携がそ

のままでは動かなくなってしまう可能性もある

など、不満はありました。ただ、そのあたりは弊

社ではあきらめるというか、むしろ、割り切って

しまい、現在では、何をおいても社内に“物”がない環境を実現でき

ることが大きなメリットだと感じています。

ほかに、クラウドサービスに期待と不安の双方を

抱くのは、バージョンアップの手間がないことで

す。パッケージ版だと、まずはテスト環境を用意

し、情報システム部門などが率先して実際に触っ

た上で、いかに新機能や操作変更などを社内に伝

達していくかを考えたり、マニュアルを作る。そういった手間が省

けることを考えると、すごく楽でしょうね。ただ、これも裏腹で、

バージョンアップについていけない社員のことも考えて、実施の

タイミングを計ることもできなくなるのでは?

たしかに、クラウドサービスのグループウェアで

は、画面を開いた時に「バージョンアップしまし

た」というメッセージが表示され、いきなり機能

が追加されていたりします。ただ、管理者向けに

はバージョンアップの内容を事前に連絡しても

らえますので、それで問題が生じたことはありません。今のとこ

ろ、そんなに急に大幅な変更が行われたことがないということか

もしれませんが…。

――パッケージ版を利用している方々も、やはりクラウドサービ

スに大いに興味はあるようですが、とはいっても、情報収集や検討

の段階から実際の移行へは、そう簡単に進めないという状況なの

でしょうか?

クラウド版にどうしても踏み切れない理由は、1

ユーザあたりの単価がパッケージ版より高く

なってしまうことです。現状のパッケージ版の月

あたりのコストを算出してみましたが、どう見積

もっても、クラウド版の月額料金の約半分以下で

済んでいます。クラウド版のコストを聞かれて、「現在のおよそ倍

です」ということでは、やはり稟議は通りにくいでしょう。

弊社も同じです。以前に試算したところ、約半分

で済むという結果になりました。ただ、実は昨年

の計画停電の影響を受けて、本社に置いていた

サーバが停止したため、全面的に業務が止まると

いう事態が生じたんです。そのため、現在ではグ

ループウェアをはじめ、基幹システムやメールサーバ、Webサー

バなど、主要なサーバをすべて外部のデータセンタで稼働させて

います。これは早急に対処せねばということなので、その際の稟議

はすぐに通りました。こうなると、クラウドへの移行でもよかった

のでは、という話もありますが、実はガルーンのライセンスを複数

年契約で支払い済みなので…。

実際、社内でグループウェアを運用するだけであ

れば、1年、2年といった短期間ならともかく、長

く使うのであればオンプレミスのほうが安いと

言えるでしょうね。私も感覚的には、コスト面が

第一のデメリットだと感じていました。ただ、

【E】さんがおっしゃったように、BCP(事業継続計画)/DR(ディザ

スタ・リカバリ)的なメリットも加えると、そう単純な計算ではな

くなってきますね。

――ただ、クラウド版とパッケージ版のコストを比較するといっ

ても、なかなか難しいですよね。どういう費用まで含めるか、どれ

くらいの期間で比較するかなどで、ずいぶん違ってくるのではな

いでしょうか?

先ほどの「半分程度」というのは、データセンタ

やラックといった設備の利用料金、サーバのラン

ニングコスト、ソフトウェアのライセンス費用、

そして、自分が担っている保守費用も考慮して試

算したケースです。ネットワーク回線が結構高く

つく場合もありますが、それでもクラウドのほうが若干高くなる

と思います。ただ、正直に言うと、個人的には自分たち(情報シス

テム部)の作業負担が減ることで、その分、ほかの業務に注力でき

るというのは大きな魅力です。稟議を通す際には、その価値を経営

層がどのように受け取ってくれるか、いかに説得できるかがポイ

ントになるんでしょうね。

コストが高いと見るか、安いと見るかに関して

は、ユーザ規模にも左右されるのではないでしょ

うか。例えば、100ユーザであれば月額約9万円

ですから、運用管理コストなどを考えれば感覚的

には安い。しかし、規模が大きくなると、料金も

まとまった額になってしまうので、少し躊躇してしまう。

弊社では700ユーザ分のパッケージ版ライセン

スを持っていますから、これをクラウドサービス

へ移行すると、定価ベースで年額600万円強と

いうことになります。しかも、コスト比較を行う

場合は伝統的に5年間のスパンで算出しますか

ら、5年間3000万円以上になってしまう。すると、やはり「その

3000万円にどういう意味があるのか」を強く訴えることができな

いと稟議は通らない。もちろん、700ユーザといっても全部がアク

ティブではないですし、クラウドサービスの場合は柔軟に変更で

きますから、いろいろ工夫できる余地はあるのでしょうけど。

現在500ユーザ以上で利用していますが、業種

的に事業の成長を図るためには人員を増やす必

要があり、今後も増加していくと思います。だか

ら、サイボウズには事業の成長がコストドライバ

になってしまう料金体系は何とかしてほしいと

伝えています。ただ、少し違う視点もあって、ユーザ数が増えれば

増えるほど、システムが止まった時のインパクトが比例して大き

くなる。そのリスクを排除できるのであれば、現状でも十分にコス

トメリットは高いとも感じます。

――そのほかの部分で「こういう付加価値があったから、稟議が

通った」というものはありましたか?

やはりクラウド版であれば、社内ネットワークの

穴を開けることも必要なく、外部からグループ

ウェアへアクセス可能な環境を容易に構築でき

るという点が大きいと思います。弊社では「本部

にいなくても仕事ができる環境を作る」という考

え方があります。基本的には本部にいるよりも現場に出て、そこで

主に仕事をこなすというのが理想ですから。携帯電話でワークフ

ローの承認が行えるという点も評価が高く、逆に言えば、この部分

なしには稟議は通らなかったと思います。

弊社では海外出張の多い上司がそこに食いつい

てくれて、そのおかげで、稟議が通りやすかった

ということはあります。導入後は、その上司が現

地のホテルなどからフォローをどんどん入れて

きたりして、存分に活用していますね。海外にい

ても、気兼ねなくグループウェアへアクセスできるという点で一

種の感動を覚えているようです。

Web企業においては人材獲得競争が激しくなっ

ており、システム運用管理のようにコモディティ

化しつつあるスキルに人的リソースを割くくら

いであれば、商用の開発に回したいという全社的

な意向がありました。そういうシフトを進めて、

最終的には社内のITインフラには全く手をかけたくない、担当者

をゼロくらいにしたいという方向性です。だから、今回のクラウド

版への移行については、グループウェアにかかわるハードウェア/

インフラのメンテナンス要員をゼロにするということを導入の狙

いに据えることで稟議が通ったということはあります。

――コスト以外では、セキュリティ面の不安などについてはいか

がでしょうか?

先ほどの外部アクセスに関しても、常時SSLで通

信が暗号化されていますし、IPアドレスによる

接続制限やBASIC認証にも標準対応しています

から特に不安はないですね。弊社では、モバイル

利用に関してはオプションの「セキュアアクセ

ス」を利用し、クライアント証明書が入っていない端末は使えない

ため、全く気にしていませんね。

先ほど述べたとおり、コストに関しては弊社では

ネックととらえていますが、セキュリティは逆で

すね。つまり、クラウドサービスのほうがかえっ

て安全だと思っています。自分たちが危うい管理

をしているという意味ではなく、むしろ、あまり

自分たちの力を過信しないほうがよいだろうと。もちろん、クラウ

ドサービスも千差万別で、すべてが安全とは言えませんが、少なく

ともサイボウズなどは、いわばITのプロ中のプロなわけですし、設

備や人員への投資コストも私たちとは次元が違うはずですから。

全く安全だとは断言できませんが、そういうところに任せたほう

がセキュリティで問題が生じる確率は確実に低いでしょう。

弊社もそれに近いスタンスで、「餅は餅屋」とい

う考え方ですね。セキュリティだけではなく、

ハードウェアの運用管理に関しても、障害を起こ

したことがないかというとそんなことはなく、む

しろ、過去に何度も発生させていますから。そう

いう状態で、スリーナイン(99.9%)、フォーナイン(99.99%)と

いった稼働率をうたうクラウドサービスに対して、自分たちが張

り合う意味があるのか。太刀打ちできるのかということです。経営

層も同じ認識なので、セキュリティや稼働率が導入の障害になる

ことは全くありませんでした。

――クラウドサービスへの移行時に製品リプレースは検討しまし

たか?

移行期間を極力短くしたかったので、ユーザビリ

ティが変わらないということを重視して、同製品

間の移行を選択しました。それによって、ユーザ

ビリティ以外のリスクも減らせたと思います。た

だ、検討する余地がないというほどには考えてお

らず、移行にかかる時間や作業負担をいとわないのであれば、やは

り、きちんと他製品と比較したほうがよいでしょう。まあ、私の場

合は、ただでさえクラウドという別物に移すのに、そこで製品も変

更するとなると、二重の苦しみになってしまうだろうと…。

ありません。クラウドに移行するかどうかという

選択だけですね。忘れてはいけないのは、やはり

使う側の人たちのことなんですよ。実は弊社では

2度ほどグループウェアの導入に失敗していて、

その後、全く使われていなかった。現在のガルー

ンは私が選定して導入したんですが、その際に利用者のほうから

言われたのは「もう、変えないよね」「これで本当に使い続けるんだ

よね」ということです。その時点で「操作はもう変わりません」と

約束しているので、基本的には常にガルーンありきで考える状態

になっています。

私はクラウドサービスへ移行すると決断すると

したら、おそらく他社製品も含めて比較検討しま

す。経営層はもちろん、ユーザ層にも、各製品の

メリットとデメリットを説明し、十分に検討行い

ます。結果によっては、製品変更もいとわないで

しょう。以前にグループウェアをリプレースした際にも、そうした

プロセスで比較検討を行い、ユーザビリティやコスト、グループ

ウェアとしての将来性など、総合的な評価でサイボウズ製品への

乗り換えを決断したわけですから。

皆さんの話を聞いて思ったのは、クラウド移行の

メリットの1つに、「いつでもやめられる」という

こともありますね。もちろん、データ移行などは

考慮する必要があるものの、サービスそのものを

乗り換えるのは、パッケージ版利用時よりも容易

になるわけですから。

――移行の際に気になるのは、ユーザからの反応だと思います。ク

レームや相談は増えなかったのでしょうか?

実はクラウドサービスへ移行することを明確に

は伝えませんでした。アクセス方法や環境が少

し変わりますという言い方ですね。クラウドで

あるかどうかはユーザにとっては特に関係な

く、経営層や情報システム部が認識していれば

いいことですから。それでも、特に違和感などは寄せられておら

ず、問題も生じていません。

大きなクレームなどはなく、既に導入して半年

が経ちますが、最近まで違う環境に移行してい

たことに気づかなかったという社員もいるくら

いです。ネットワークの補強なども特にしませ

んでしたが、パフォーマンス的にはパッケージ

版利用のオンプレミス環境とほとんど変わりませんし。弊社の場

合、拠点からのインターネットアクセスは本社経由となっている

のですが、それでもほとんど差は感じません。サービスが止まって

しまうような事態にも、今のところは遭遇していませんね。

――実際の移行作業に関しては、先ほど話が出たように、同じ製品

のパッケージ版からクラウドサービスへの移行であれば、特に苦

労するところはないと言っていいのでしょうか?

あまり綿密にはやらなかったというか、結構気

楽に考えていましたね。ちょっと語弊があるか

もしれませんが、パッケージ版のオンプレミス

環境もすぐになくすわけではないし、ほかにも

う1つクラウドサービスの環境が立っていると

いう状態になるので、失敗したらオンプレミスを使い続ければい

い、成功するまでトライすればいいかと。そういう意味では、管理

者にとって重荷ではなかったですし、ユーザにとっても、クリティ

カルな状態には決してならないかたちでの移行でしたので、結果

として非常に満足しています。

今回のユーザ座談会では、参加者の方々が積極的に疑問や意見を

やりとりしていただいたため、パッケージ版ユーザはクラウド版

を実際に導入した感想を得られ、また、一方のクラウド版ユーザは

ほかの方々と語り合うことで改めて移行の効果を再認識できたよ

うだ。いずれも納得した表情で帰路につかれていたのが印象的

だった。

クラウド利用の目的といえば「=コスト削減」というイメージも抱

いてのだが、実際にはそう短絡的なものではなく、実際に利用して

いる方々も単純に安いとは感じていないことが伝わってきた。つ

まり、コストに関しては、見方によっては「クラウド版のほうが高

くつく」とも言えるというのが実状のようだ。ただ、そんな中でも

クラウド版ユーザは移行に対して満足していた。理由はそれぞれ

に異なり、各々が自社にとって有効なメリットや付加価値をうま

く見出していると言えるだろう。

社内提案・稟議はこうして通した!

Page 4: クラウド移行後の本音は? 踏み切れない最大の要因とは? クラ … · パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境 で運用していましたが、昨年の震災を受けて、

以前はほかのグループウェアを導入していたの

ですが、レスポンスがかなり遅くなっていた上、

管理面もDBのメンテナンスが大変で、サーバ自

体の故障も多く、運用コストがかなりかさんでい

たので、クラウド版ガルーンに移行しました。現

在は本部社員だけが使っていますが、今後は店舗(現在250店舗以

上)ごとに代表で1ユーザずつ使えるようにし、情報共有や業務活

用に役立て、ペーパーレス化を進めることを計画しています。ま

た、モバイル利用が可能になり、通常の携帯電話でも、iPhoneでも、

Androidでも安心して使えることには満足しています。

パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境

で運用していましたが、昨年の震災を受けて、

サーバをすべてデータセンタに移しました。ほか

のシステムも含めて、クラウドサービスの利用は

従来から検討はしていますが、必ずしも、グルー

プウェアからクラウドという意識はなく、どこを優先してクラウ

ドへ持っていこうかというのを比較している状況です。クラウド

版ガルーンへの移行に関しても、以前からコスト比較などの調査

は実施していますが、今のところ、答えが出ていない状態というこ

とです。

――まずは皆さんの現在のグループウェア環境と、クラウドに対

する考え方について教えて下さい。

サイボウズ ガルーンを利用していましたが、昨

年11月にクラウド版ガルーンへ移行しました。

きっかけは、昨年の震災で東北事業所のサーバが

水に浸かってしまうという被害にあったことで

す。その際に本格的なバックアップ環境を構築す

るか、グループウェアをクラウドサービス利用へ変更するかを検

討し、コスト面や手軽さを考えて後者を選択しました。

もともとはパッケージ版「サイボウズ Office 6」

を利用していましたが、オンプレミス環境におけ

るハードウェア障害や容量不足でたまに障害が

起きていたこと、そして、インフラを担当する人

員が不足している状況を受け、クラウド版ガルー

ンへ移行しました。人材紹介を中心に多彩な方面へ事業を広げて

おり、子会社や海外拠点も多数抱えていますが、少なくとも現時点

では、グループ企業全体でのシステム統合を図るような使い方を

しているわけではありません。

「サイボウズ Office 3」から始まり、長年サイボウ

ズ製品を利用していますが、現在はパッケージ版

「ガルーン 3」を導入しています。クラウドに関し

ては情報収集していますが、ガルーンに関しては

クラウドに移行するつもりはありません。ほかの

システムと相互に関連性を持たせていたり、つなげていたりする

ので、グループウェアだけをクラウド化したとしても、連携製品が

ついてこられるかどうかが問題。まずは、内製している小規模な社

内システムなどに関して、クラウド基盤を活用し、いろいろ試して

みようというレベルです。

――既にグループウェアをクラウドサービスとして利用されてい

る方は、実際にどのようなメリットやデメリットを感じているの

でしょうか?

社内にサーバがないこと自体がすごく楽です。以

前は、週明け早々にハードウェアのトラブルなど

でグループウェアが止まっていると、「早く対応

しないと!」という感じでうんざりしていまし

た。定期的なバックアップ作業に追われる必要も

ないですし、デメリットはあんまり感じたことがないです。

私は“本業”に集中できるという点が最大のメ

リットと考えています。弊社の場合、企業風土と

して、こうした本業集中という意識が特に強く、

情報システム部門も同様に、自分たちの立場で売

り上げアップや顧客単価向上に取り組まなけれ

ばならない。経営者も、グループウェアなどはもはや電気・ガス・

水道と同じ感覚で、使うことがメインなのだから、運用管理にあま

り手間をさかれるのは望ましくないという考えです。そのために

使える手段があれば積極的に取り入れ、むしろ、その手段の足りな

い部分だけを自分たちが担うということで割り切っています。

――移行していない企業の方がクラウドサービスに対して気に

なっている点などはありますか?

クラウド版への移行を躊躇している理由の1つ

は、既存環境のカスタマイズやシステム連携が使

えなくなってしまうのではないかという点で

す。PHPポートレットを利用して外部システム

と連携させていたりするわけですが、それが使え

なくなってしまうのは困るわけです。システム間の機能連携みた

いな部分は連携APIなどで解決されるかもしれないのですが、例

えば、ユーザ情報の入出力を利用してシングルサインオンを実現

するといったアプローチに関しては、機能連携やデータ連携とは

少しレベルが異なるところがあります。

弊社の場合もワークフローに他社製品を導入し

ており、ガルーンと連携させているという事情が

あります。ですから、ガルーンをクラウド版へ移

行させたとしても、そこに連携しているワークフ

ロー、あるいは、そのほかの情報システムなどが

追従できるのか、対応できるのかという不安があります。グループ

ウェアは様々なシステムの入り口としても機能していますから。

おっしゃるとおり、移行前には、カスタマイズ性

が下がってしまう、ほかのシステムとの連携がそ

のままでは動かなくなってしまう可能性もある

など、不満はありました。ただ、そのあたりは弊

社ではあきらめるというか、むしろ、割り切って

しまい、現在では、何をおいても社内に“物”がない環境を実現でき

ることが大きなメリットだと感じています。

ほかに、クラウドサービスに期待と不安の双方を

抱くのは、バージョンアップの手間がないことで

す。パッケージ版だと、まずはテスト環境を用意

し、情報システム部門などが率先して実際に触っ

た上で、いかに新機能や操作変更などを社内に伝

達していくかを考えたり、マニュアルを作る。そういった手間が省

けることを考えると、すごく楽でしょうね。ただ、これも裏腹で、

バージョンアップについていけない社員のことも考えて、実施の

タイミングを計ることもできなくなるのでは?

たしかに、クラウドサービスのグループウェアで

は、画面を開いた時に「バージョンアップしまし

た」というメッセージが表示され、いきなり機能

が追加されていたりします。ただ、管理者向けに

はバージョンアップの内容を事前に連絡しても

らえますので、それで問題が生じたことはありません。今のとこ

ろ、そんなに急に大幅な変更が行われたことがないということか

もしれませんが…。

――パッケージ版を利用している方々も、やはりクラウドサービ

スに大いに興味はあるようですが、とはいっても、情報収集や検討

の段階から実際の移行へは、そう簡単に進めないという状況なの

でしょうか?

クラウド版にどうしても踏み切れない理由は、1

ユーザあたりの単価がパッケージ版より高く

なってしまうことです。現状のパッケージ版の月

あたりのコストを算出してみましたが、どう見積

もっても、クラウド版の月額料金の約半分以下で

済んでいます。クラウド版のコストを聞かれて、「現在のおよそ倍

です」ということでは、やはり稟議は通りにくいでしょう。

弊社も同じです。以前に試算したところ、約半分

で済むという結果になりました。ただ、実は昨年

の計画停電の影響を受けて、本社に置いていた

サーバが停止したため、全面的に業務が止まると

いう事態が生じたんです。そのため、現在ではグ

ループウェアをはじめ、基幹システムやメールサーバ、Webサー

バなど、主要なサーバをすべて外部のデータセンタで稼働させて

います。これは早急に対処せねばということなので、その際の稟議

はすぐに通りました。こうなると、クラウドへの移行でもよかった

のでは、という話もありますが、実はガルーンのライセンスを複数

年契約で支払い済みなので…。

実際、社内でグループウェアを運用するだけであ

れば、1年、2年といった短期間ならともかく、長

く使うのであればオンプレミスのほうが安いと

言えるでしょうね。私も感覚的には、コスト面が

第一のデメリットだと感じていました。ただ、

【E】さんがおっしゃったように、BCP(事業継続計画)/DR(ディザ

スタ・リカバリ)的なメリットも加えると、そう単純な計算ではな

くなってきますね。

――ただ、クラウド版とパッケージ版のコストを比較するといっ

ても、なかなか難しいですよね。どういう費用まで含めるか、どれ

くらいの期間で比較するかなどで、ずいぶん違ってくるのではな

いでしょうか?

先ほどの「半分程度」というのは、データセンタ

やラックといった設備の利用料金、サーバのラン

ニングコスト、ソフトウェアのライセンス費用、

そして、自分が担っている保守費用も考慮して試

算したケースです。ネットワーク回線が結構高く

つく場合もありますが、それでもクラウドのほうが若干高くなる

と思います。ただ、正直に言うと、個人的には自分たち(情報シス

テム部)の作業負担が減ることで、その分、ほかの業務に注力でき

るというのは大きな魅力です。稟議を通す際には、その価値を経営

層がどのように受け取ってくれるか、いかに説得できるかがポイ

ントになるんでしょうね。

コストが高いと見るか、安いと見るかに関して

は、ユーザ規模にも左右されるのではないでしょ

うか。例えば、100ユーザであれば月額約9万円

ですから、運用管理コストなどを考えれば感覚的

には安い。しかし、規模が大きくなると、料金も

まとまった額になってしまうので、少し躊躇してしまう。

弊社では700ユーザ分のパッケージ版ライセン

スを持っていますから、これをクラウドサービス

へ移行すると、定価ベースで年額600万円強と

いうことになります。しかも、コスト比較を行う

場合は伝統的に5年間のスパンで算出しますか

ら、5年間3000万円以上になってしまう。すると、やはり「その

3000万円にどういう意味があるのか」を強く訴えることができな

いと稟議は通らない。もちろん、700ユーザといっても全部がアク

ティブではないですし、クラウドサービスの場合は柔軟に変更で

きますから、いろいろ工夫できる余地はあるのでしょうけど。

現在500ユーザ以上で利用していますが、業種

的に事業の成長を図るためには人員を増やす必

要があり、今後も増加していくと思います。だか

ら、サイボウズには事業の成長がコストドライバ

になってしまう料金体系は何とかしてほしいと

伝えています。ただ、少し違う視点もあって、ユーザ数が増えれば

増えるほど、システムが止まった時のインパクトが比例して大き

くなる。そのリスクを排除できるのであれば、現状でも十分にコス

トメリットは高いとも感じます。

――そのほかの部分で「こういう付加価値があったから、稟議が

通った」というものはありましたか?

やはりクラウド版であれば、社内ネットワークの

穴を開けることも必要なく、外部からグループ

ウェアへアクセス可能な環境を容易に構築でき

るという点が大きいと思います。弊社では「本部

にいなくても仕事ができる環境を作る」という考

え方があります。基本的には本部にいるよりも現場に出て、そこで

主に仕事をこなすというのが理想ですから。携帯電話でワークフ

ローの承認が行えるという点も評価が高く、逆に言えば、この部分

なしには稟議は通らなかったと思います。

弊社では海外出張の多い上司がそこに食いつい

てくれて、そのおかげで、稟議が通りやすかった

ということはあります。導入後は、その上司が現

地のホテルなどからフォローをどんどん入れて

きたりして、存分に活用していますね。海外にい

ても、気兼ねなくグループウェアへアクセスできるという点で一

種の感動を覚えているようです。

Web企業においては人材獲得競争が激しくなっ

ており、システム運用管理のようにコモディティ

化しつつあるスキルに人的リソースを割くくら

いであれば、商用の開発に回したいという全社的

な意向がありました。そういうシフトを進めて、

最終的には社内のITインフラには全く手をかけたくない、担当者

をゼロくらいにしたいという方向性です。だから、今回のクラウド

版への移行については、グループウェアにかかわるハードウェア/

インフラのメンテナンス要員をゼロにするということを導入の狙

いに据えることで稟議が通ったということはあります。

――コスト以外では、セキュリティ面の不安などについてはいか

がでしょうか?

先ほどの外部アクセスに関しても、常時SSLで通

信が暗号化されていますし、IPアドレスによる

接続制限やBASIC認証にも標準対応しています

から特に不安はないですね。弊社では、モバイル

利用に関してはオプションの「セキュアアクセ

ス」を利用し、クライアント証明書が入っていない端末は使えない

ため、全く気にしていませんね。

先ほど述べたとおり、コストに関しては弊社では

ネックととらえていますが、セキュリティは逆で

すね。つまり、クラウドサービスのほうがかえっ

て安全だと思っています。自分たちが危うい管理

をしているという意味ではなく、むしろ、あまり

自分たちの力を過信しないほうがよいだろうと。もちろん、クラウ

ドサービスも千差万別で、すべてが安全とは言えませんが、少なく

ともサイボウズなどは、いわばITのプロ中のプロなわけですし、設

備や人員への投資コストも私たちとは次元が違うはずですから。

全く安全だとは断言できませんが、そういうところに任せたほう

がセキュリティで問題が生じる確率は確実に低いでしょう。

弊社もそれに近いスタンスで、「餅は餅屋」とい

う考え方ですね。セキュリティだけではなく、

ハードウェアの運用管理に関しても、障害を起こ

したことがないかというとそんなことはなく、む

しろ、過去に何度も発生させていますから。そう

いう状態で、スリーナイン(99.9%)、フォーナイン(99.99%)と

いった稼働率をうたうクラウドサービスに対して、自分たちが張

り合う意味があるのか。太刀打ちできるのかということです。経営

層も同じ認識なので、セキュリティや稼働率が導入の障害になる

ことは全くありませんでした。

――クラウドサービスへの移行時に製品リプレースは検討しまし

たか?

移行期間を極力短くしたかったので、ユーザビリ

ティが変わらないということを重視して、同製品

間の移行を選択しました。それによって、ユーザ

ビリティ以外のリスクも減らせたと思います。た

だ、検討する余地がないというほどには考えてお

らず、移行にかかる時間や作業負担をいとわないのであれば、やは

り、きちんと他製品と比較したほうがよいでしょう。まあ、私の場

合は、ただでさえクラウドという別物に移すのに、そこで製品も変

更するとなると、二重の苦しみになってしまうだろうと…。

ありません。クラウドに移行するかどうかという

選択だけですね。忘れてはいけないのは、やはり

使う側の人たちのことなんですよ。実は弊社では

2度ほどグループウェアの導入に失敗していて、

その後、全く使われていなかった。現在のガルー

ンは私が選定して導入したんですが、その際に利用者のほうから

言われたのは「もう、変えないよね」「これで本当に使い続けるんだ

よね」ということです。その時点で「操作はもう変わりません」と

約束しているので、基本的には常にガルーンありきで考える状態

になっています。

私はクラウドサービスへ移行すると決断すると

したら、おそらく他社製品も含めて比較検討しま

す。経営層はもちろん、ユーザ層にも、各製品の

メリットとデメリットを説明し、十分に検討行い

ます。結果によっては、製品変更もいとわないで

しょう。以前にグループウェアをリプレースした際にも、そうした

プロセスで比較検討を行い、ユーザビリティやコスト、グループ

ウェアとしての将来性など、総合的な評価でサイボウズ製品への

乗り換えを決断したわけですから。

皆さんの話を聞いて思ったのは、クラウド移行の

メリットの1つに、「いつでもやめられる」という

こともありますね。もちろん、データ移行などは

考慮する必要があるものの、サービスそのものを

乗り換えるのは、パッケージ版利用時よりも容易

になるわけですから。

――移行の際に気になるのは、ユーザからの反応だと思います。ク

レームや相談は増えなかったのでしょうか?

実はクラウドサービスへ移行することを明確に

は伝えませんでした。アクセス方法や環境が少

し変わりますという言い方ですね。クラウドで

あるかどうかはユーザにとっては特に関係な

く、経営層や情報システム部が認識していれば

いいことですから。それでも、特に違和感などは寄せられておら

ず、問題も生じていません。

大きなクレームなどはなく、既に導入して半年

が経ちますが、最近まで違う環境に移行してい

たことに気づかなかったという社員もいるくら

いです。ネットワークの補強なども特にしませ

んでしたが、パフォーマンス的にはパッケージ

版利用のオンプレミス環境とほとんど変わりませんし。弊社の場

合、拠点からのインターネットアクセスは本社経由となっている

のですが、それでもほとんど差は感じません。サービスが止まって

しまうような事態にも、今のところは遭遇していませんね。

――実際の移行作業に関しては、先ほど話が出たように、同じ製品

のパッケージ版からクラウドサービスへの移行であれば、特に苦

労するところはないと言っていいのでしょうか?

あまり綿密にはやらなかったというか、結構気

楽に考えていましたね。ちょっと語弊があるか

もしれませんが、パッケージ版のオンプレミス

環境もすぐになくすわけではないし、ほかにも

う1つクラウドサービスの環境が立っていると

いう状態になるので、失敗したらオンプレミスを使い続ければい

い、成功するまでトライすればいいかと。そういう意味では、管理

者にとって重荷ではなかったですし、ユーザにとっても、クリティ

カルな状態には決してならないかたちでの移行でしたので、結果

として非常に満足しています。

今回のユーザ座談会では、参加者の方々が積極的に疑問や意見を

やりとりしていただいたため、パッケージ版ユーザはクラウド版

を実際に導入した感想を得られ、また、一方のクラウド版ユーザは

ほかの方々と語り合うことで改めて移行の効果を再認識できたよ

うだ。いずれも納得した表情で帰路につかれていたのが印象的

だった。

クラウド利用の目的といえば「=コスト削減」というイメージも抱

いてのだが、実際にはそう短絡的なものではなく、実際に利用して

いる方々も単純に安いとは感じていないことが伝わってきた。つ

まり、コストに関しては、見方によっては「クラウド版のほうが高

くつく」とも言えるというのが実状のようだ。ただ、そんな中でも

クラウド版ユーザは移行に対して満足していた。理由はそれぞれ

に異なり、各々が自社にとって有効なメリットや付加価値をうま

く見出していると言えるだろう。

Page 5: クラウド移行後の本音は? 踏み切れない最大の要因とは? クラ … · パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境 で運用していましたが、昨年の震災を受けて、

以前はほかのグループウェアを導入していたの

ですが、レスポンスがかなり遅くなっていた上、

管理面もDBのメンテナンスが大変で、サーバ自

体の故障も多く、運用コストがかなりかさんでい

たので、クラウド版ガルーンに移行しました。現

在は本部社員だけが使っていますが、今後は店舗(現在250店舗以

上)ごとに代表で1ユーザずつ使えるようにし、情報共有や業務活

用に役立て、ペーパーレス化を進めることを計画しています。ま

た、モバイル利用が可能になり、通常の携帯電話でも、iPhoneでも、

Androidでも安心して使えることには満足しています。

パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境

で運用していましたが、昨年の震災を受けて、

サーバをすべてデータセンタに移しました。ほか

のシステムも含めて、クラウドサービスの利用は

従来から検討はしていますが、必ずしも、グルー

プウェアからクラウドという意識はなく、どこを優先してクラウ

ドへ持っていこうかというのを比較している状況です。クラウド

版ガルーンへの移行に関しても、以前からコスト比較などの調査

は実施していますが、今のところ、答えが出ていない状態というこ

とです。

――まずは皆さんの現在のグループウェア環境と、クラウドに対

する考え方について教えて下さい。

サイボウズ ガルーンを利用していましたが、昨

年11月にクラウド版ガルーンへ移行しました。

きっかけは、昨年の震災で東北事業所のサーバが

水に浸かってしまうという被害にあったことで

す。その際に本格的なバックアップ環境を構築す

るか、グループウェアをクラウドサービス利用へ変更するかを検

討し、コスト面や手軽さを考えて後者を選択しました。

もともとはパッケージ版「サイボウズ Office 6」

を利用していましたが、オンプレミス環境におけ

るハードウェア障害や容量不足でたまに障害が

起きていたこと、そして、インフラを担当する人

員が不足している状況を受け、クラウド版ガルー

ンへ移行しました。人材紹介を中心に多彩な方面へ事業を広げて

おり、子会社や海外拠点も多数抱えていますが、少なくとも現時点

では、グループ企業全体でのシステム統合を図るような使い方を

しているわけではありません。

「サイボウズ Office 3」から始まり、長年サイボウ

ズ製品を利用していますが、現在はパッケージ版

「ガルーン 3」を導入しています。クラウドに関し

ては情報収集していますが、ガルーンに関しては

クラウドに移行するつもりはありません。ほかの

システムと相互に関連性を持たせていたり、つなげていたりする

ので、グループウェアだけをクラウド化したとしても、連携製品が

ついてこられるかどうかが問題。まずは、内製している小規模な社

内システムなどに関して、クラウド基盤を活用し、いろいろ試して

みようというレベルです。

――既にグループウェアをクラウドサービスとして利用されてい

る方は、実際にどのようなメリットやデメリットを感じているの

でしょうか?

社内にサーバがないこと自体がすごく楽です。以

前は、週明け早々にハードウェアのトラブルなど

でグループウェアが止まっていると、「早く対応

しないと!」という感じでうんざりしていまし

た。定期的なバックアップ作業に追われる必要も

ないですし、デメリットはあんまり感じたことがないです。

私は“本業”に集中できるという点が最大のメ

リットと考えています。弊社の場合、企業風土と

して、こうした本業集中という意識が特に強く、

情報システム部門も同様に、自分たちの立場で売

り上げアップや顧客単価向上に取り組まなけれ

ばならない。経営者も、グループウェアなどはもはや電気・ガス・

水道と同じ感覚で、使うことがメインなのだから、運用管理にあま

り手間をさかれるのは望ましくないという考えです。そのために

使える手段があれば積極的に取り入れ、むしろ、その手段の足りな

い部分だけを自分たちが担うということで割り切っています。

――移行していない企業の方がクラウドサービスに対して気に

なっている点などはありますか?

クラウド版への移行を躊躇している理由の1つ

は、既存環境のカスタマイズやシステム連携が使

えなくなってしまうのではないかという点で

す。PHPポートレットを利用して外部システム

と連携させていたりするわけですが、それが使え

なくなってしまうのは困るわけです。システム間の機能連携みた

いな部分は連携APIなどで解決されるかもしれないのですが、例

えば、ユーザ情報の入出力を利用してシングルサインオンを実現

するといったアプローチに関しては、機能連携やデータ連携とは

少しレベルが異なるところがあります。

弊社の場合もワークフローに他社製品を導入し

ており、ガルーンと連携させているという事情が

あります。ですから、ガルーンをクラウド版へ移

行させたとしても、そこに連携しているワークフ

ロー、あるいは、そのほかの情報システムなどが

追従できるのか、対応できるのかという不安があります。グループ

ウェアは様々なシステムの入り口としても機能していますから。

おっしゃるとおり、移行前には、カスタマイズ性

が下がってしまう、ほかのシステムとの連携がそ

のままでは動かなくなってしまう可能性もある

など、不満はありました。ただ、そのあたりは弊

社ではあきらめるというか、むしろ、割り切って

しまい、現在では、何をおいても社内に“物”がない環境を実現でき

ることが大きなメリットだと感じています。

ほかに、クラウドサービスに期待と不安の双方を

抱くのは、バージョンアップの手間がないことで

す。パッケージ版だと、まずはテスト環境を用意

し、情報システム部門などが率先して実際に触っ

た上で、いかに新機能や操作変更などを社内に伝

達していくかを考えたり、マニュアルを作る。そういった手間が省

けることを考えると、すごく楽でしょうね。ただ、これも裏腹で、

バージョンアップについていけない社員のことも考えて、実施の

タイミングを計ることもできなくなるのでは?

たしかに、クラウドサービスのグループウェアで

は、画面を開いた時に「バージョンアップしまし

た」というメッセージが表示され、いきなり機能

が追加されていたりします。ただ、管理者向けに

はバージョンアップの内容を事前に連絡しても

らえますので、それで問題が生じたことはありません。今のとこ

ろ、そんなに急に大幅な変更が行われたことがないということか

もしれませんが…。

――パッケージ版を利用している方々も、やはりクラウドサービ

スに大いに興味はあるようですが、とはいっても、情報収集や検討

の段階から実際の移行へは、そう簡単に進めないという状況なの

でしょうか?

クラウド版にどうしても踏み切れない理由は、1

ユーザあたりの単価がパッケージ版より高く

なってしまうことです。現状のパッケージ版の月

あたりのコストを算出してみましたが、どう見積

もっても、クラウド版の月額料金の約半分以下で

済んでいます。クラウド版のコストを聞かれて、「現在のおよそ倍

です」ということでは、やはり稟議は通りにくいでしょう。

弊社も同じです。以前に試算したところ、約半分

で済むという結果になりました。ただ、実は昨年

の計画停電の影響を受けて、本社に置いていた

サーバが停止したため、全面的に業務が止まると

いう事態が生じたんです。そのため、現在ではグ

ループウェアをはじめ、基幹システムやメールサーバ、Webサー

バなど、主要なサーバをすべて外部のデータセンタで稼働させて

います。これは早急に対処せねばということなので、その際の稟議

はすぐに通りました。こうなると、クラウドへの移行でもよかった

のでは、という話もありますが、実はガルーンのライセンスを複数

年契約で支払い済みなので…。

実際、社内でグループウェアを運用するだけであ

れば、1年、2年といった短期間ならともかく、長

く使うのであればオンプレミスのほうが安いと

言えるでしょうね。私も感覚的には、コスト面が

第一のデメリットだと感じていました。ただ、

【E】さんがおっしゃったように、BCP(事業継続計画)/DR(ディザ

スタ・リカバリ)的なメリットも加えると、そう単純な計算ではな

くなってきますね。

――ただ、クラウド版とパッケージ版のコストを比較するといっ

ても、なかなか難しいですよね。どういう費用まで含めるか、どれ

くらいの期間で比較するかなどで、ずいぶん違ってくるのではな

いでしょうか?

先ほどの「半分程度」というのは、データセンタ

やラックといった設備の利用料金、サーバのラン

ニングコスト、ソフトウェアのライセンス費用、

そして、自分が担っている保守費用も考慮して試

算したケースです。ネットワーク回線が結構高く

つく場合もありますが、それでもクラウドのほうが若干高くなる

と思います。ただ、正直に言うと、個人的には自分たち(情報シス

テム部)の作業負担が減ることで、その分、ほかの業務に注力でき

るというのは大きな魅力です。稟議を通す際には、その価値を経営

層がどのように受け取ってくれるか、いかに説得できるかがポイ

ントになるんでしょうね。

コストが高いと見るか、安いと見るかに関して

は、ユーザ規模にも左右されるのではないでしょ

うか。例えば、100ユーザであれば月額約9万円

ですから、運用管理コストなどを考えれば感覚的

には安い。しかし、規模が大きくなると、料金も

まとまった額になってしまうので、少し躊躇してしまう。

弊社では700ユーザ分のパッケージ版ライセン

スを持っていますから、これをクラウドサービス

へ移行すると、定価ベースで年額600万円強と

いうことになります。しかも、コスト比較を行う

場合は伝統的に5年間のスパンで算出しますか

ら、5年間3000万円以上になってしまう。すると、やはり「その

3000万円にどういう意味があるのか」を強く訴えることができな

いと稟議は通らない。もちろん、700ユーザといっても全部がアク

ティブではないですし、クラウドサービスの場合は柔軟に変更で

きますから、いろいろ工夫できる余地はあるのでしょうけど。

現在500ユーザ以上で利用していますが、業種

的に事業の成長を図るためには人員を増やす必

要があり、今後も増加していくと思います。だか

ら、サイボウズには事業の成長がコストドライバ

になってしまう料金体系は何とかしてほしいと

伝えています。ただ、少し違う視点もあって、ユーザ数が増えれば

増えるほど、システムが止まった時のインパクトが比例して大き

くなる。そのリスクを排除できるのであれば、現状でも十分にコス

トメリットは高いとも感じます。

――そのほかの部分で「こういう付加価値があったから、稟議が

通った」というものはありましたか?

やはりクラウド版であれば、社内ネットワークの

穴を開けることも必要なく、外部からグループ

ウェアへアクセス可能な環境を容易に構築でき

るという点が大きいと思います。弊社では「本部

にいなくても仕事ができる環境を作る」という考

え方があります。基本的には本部にいるよりも現場に出て、そこで

主に仕事をこなすというのが理想ですから。携帯電話でワークフ

ローの承認が行えるという点も評価が高く、逆に言えば、この部分

なしには稟議は通らなかったと思います。

弊社では海外出張の多い上司がそこに食いつい

てくれて、そのおかげで、稟議が通りやすかった

ということはあります。導入後は、その上司が現

地のホテルなどからフォローをどんどん入れて

きたりして、存分に活用していますね。海外にい

ても、気兼ねなくグループウェアへアクセスできるという点で一

種の感動を覚えているようです。

Web企業においては人材獲得競争が激しくなっ

ており、システム運用管理のようにコモディティ

化しつつあるスキルに人的リソースを割くくら

いであれば、商用の開発に回したいという全社的

な意向がありました。そういうシフトを進めて、

最終的には社内のITインフラには全く手をかけたくない、担当者

をゼロくらいにしたいという方向性です。だから、今回のクラウド

版への移行については、グループウェアにかかわるハードウェア/

インフラのメンテナンス要員をゼロにするということを導入の狙

いに据えることで稟議が通ったということはあります。

――コスト以外では、セキュリティ面の不安などについてはいか

がでしょうか?

先ほどの外部アクセスに関しても、常時SSLで通

信が暗号化されていますし、IPアドレスによる

接続制限やBASIC認証にも標準対応しています

から特に不安はないですね。弊社では、モバイル

利用に関してはオプションの「セキュアアクセ

ス」を利用し、クライアント証明書が入っていない端末は使えない

ため、全く気にしていませんね。

先ほど述べたとおり、コストに関しては弊社では

ネックととらえていますが、セキュリティは逆で

すね。つまり、クラウドサービスのほうがかえっ

て安全だと思っています。自分たちが危うい管理

をしているという意味ではなく、むしろ、あまり

自分たちの力を過信しないほうがよいだろうと。もちろん、クラウ

ドサービスも千差万別で、すべてが安全とは言えませんが、少なく

ともサイボウズなどは、いわばITのプロ中のプロなわけですし、設

備や人員への投資コストも私たちとは次元が違うはずですから。

全く安全だとは断言できませんが、そういうところに任せたほう

がセキュリティで問題が生じる確率は確実に低いでしょう。

弊社もそれに近いスタンスで、「餅は餅屋」とい

う考え方ですね。セキュリティだけではなく、

ハードウェアの運用管理に関しても、障害を起こ

したことがないかというとそんなことはなく、む

しろ、過去に何度も発生させていますから。そう

いう状態で、スリーナイン(99.9%)、フォーナイン(99.99%)と

いった稼働率をうたうクラウドサービスに対して、自分たちが張

り合う意味があるのか。太刀打ちできるのかということです。経営

層も同じ認識なので、セキュリティや稼働率が導入の障害になる

ことは全くありませんでした。

――クラウドサービスへの移行時に製品リプレースは検討しまし

たか?

移行期間を極力短くしたかったので、ユーザビリ

ティが変わらないということを重視して、同製品

間の移行を選択しました。それによって、ユーザ

ビリティ以外のリスクも減らせたと思います。た

だ、検討する余地がないというほどには考えてお

らず、移行にかかる時間や作業負担をいとわないのであれば、やは

り、きちんと他製品と比較したほうがよいでしょう。まあ、私の場

合は、ただでさえクラウドという別物に移すのに、そこで製品も変

更するとなると、二重の苦しみになってしまうだろうと…。

ありません。クラウドに移行するかどうかという

選択だけですね。忘れてはいけないのは、やはり

使う側の人たちのことなんですよ。実は弊社では

2度ほどグループウェアの導入に失敗していて、

その後、全く使われていなかった。現在のガルー

ンは私が選定して導入したんですが、その際に利用者のほうから

言われたのは「もう、変えないよね」「これで本当に使い続けるんだ

よね」ということです。その時点で「操作はもう変わりません」と

約束しているので、基本的には常にガルーンありきで考える状態

になっています。

私はクラウドサービスへ移行すると決断すると

したら、おそらく他社製品も含めて比較検討しま

す。経営層はもちろん、ユーザ層にも、各製品の

メリットとデメリットを説明し、十分に検討行い

ます。結果によっては、製品変更もいとわないで

しょう。以前にグループウェアをリプレースした際にも、そうした

プロセスで比較検討を行い、ユーザビリティやコスト、グループ

ウェアとしての将来性など、総合的な評価でサイボウズ製品への

乗り換えを決断したわけですから。

皆さんの話を聞いて思ったのは、クラウド移行の

メリットの1つに、「いつでもやめられる」という

こともありますね。もちろん、データ移行などは

考慮する必要があるものの、サービスそのものを

乗り換えるのは、パッケージ版利用時よりも容易

になるわけですから。

――移行の際に気になるのは、ユーザからの反応だと思います。ク

レームや相談は増えなかったのでしょうか?

実はクラウドサービスへ移行することを明確に

は伝えませんでした。アクセス方法や環境が少

し変わりますという言い方ですね。クラウドで

あるかどうかはユーザにとっては特に関係な

く、経営層や情報システム部が認識していれば

いいことですから。それでも、特に違和感などは寄せられておら

ず、問題も生じていません。

大きなクレームなどはなく、既に導入して半年

が経ちますが、最近まで違う環境に移行してい

たことに気づかなかったという社員もいるくら

いです。ネットワークの補強なども特にしませ

んでしたが、パフォーマンス的にはパッケージ

版利用のオンプレミス環境とほとんど変わりませんし。弊社の場

合、拠点からのインターネットアクセスは本社経由となっている

のですが、それでもほとんど差は感じません。サービスが止まって

しまうような事態にも、今のところは遭遇していませんね。

――実際の移行作業に関しては、先ほど話が出たように、同じ製品

のパッケージ版からクラウドサービスへの移行であれば、特に苦

労するところはないと言っていいのでしょうか?

あまり綿密にはやらなかったというか、結構気

楽に考えていましたね。ちょっと語弊があるか

もしれませんが、パッケージ版のオンプレミス

環境もすぐになくすわけではないし、ほかにも

う1つクラウドサービスの環境が立っていると

いう状態になるので、失敗したらオンプレミスを使い続ければい

い、成功するまでトライすればいいかと。そういう意味では、管理

者にとって重荷ではなかったですし、ユーザにとっても、クリティ

カルな状態には決してならないかたちでの移行でしたので、結果

として非常に満足しています。

今回のユーザ座談会では、参加者の方々が積極的に疑問や意見を

やりとりしていただいたため、パッケージ版ユーザはクラウド版

を実際に導入した感想を得られ、また、一方のクラウド版ユーザは

ほかの方々と語り合うことで改めて移行の効果を再認識できたよ

うだ。いずれも納得した表情で帰路につかれていたのが印象的

だった。

クラウド利用の目的といえば「=コスト削減」というイメージも抱

いてのだが、実際にはそう短絡的なものではなく、実際に利用して

いる方々も単純に安いとは感じていないことが伝わってきた。つ

まり、コストに関しては、見方によっては「クラウド版のほうが高

くつく」とも言えるというのが実状のようだ。ただ、そんな中でも

クラウド版ユーザは移行に対して満足していた。理由はそれぞれ

に異なり、各々が自社にとって有効なメリットや付加価値をうま

く見出していると言えるだろう。

製品のリプレースに関してはどう考える? 移行は難しい?それとも簡単?

座談会を終えて

Page 6: クラウド移行後の本音は? 踏み切れない最大の要因とは? クラ … · パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境 で運用していましたが、昨年の震災を受けて、

以前はほかのグループウェアを導入していたの

ですが、レスポンスがかなり遅くなっていた上、

管理面もDBのメンテナンスが大変で、サーバ自

体の故障も多く、運用コストがかなりかさんでい

たので、クラウド版ガルーンに移行しました。現

在は本部社員だけが使っていますが、今後は店舗(現在250店舗以

上)ごとに代表で1ユーザずつ使えるようにし、情報共有や業務活

用に役立て、ペーパーレス化を進めることを計画しています。ま

た、モバイル利用が可能になり、通常の携帯電話でも、iPhoneでも、

Androidでも安心して使えることには満足しています。

パッケージ版「ガルーン 3」をオンプレミス環境

で運用していましたが、昨年の震災を受けて、

サーバをすべてデータセンタに移しました。ほか

のシステムも含めて、クラウドサービスの利用は

従来から検討はしていますが、必ずしも、グルー

プウェアからクラウドという意識はなく、どこを優先してクラウ

ドへ持っていこうかというのを比較している状況です。クラウド

版ガルーンへの移行に関しても、以前からコスト比較などの調査

は実施していますが、今のところ、答えが出ていない状態というこ

とです。

――まずは皆さんの現在のグループウェア環境と、クラウドに対

する考え方について教えて下さい。

サイボウズ ガルーンを利用していましたが、昨

年11月にクラウド版ガルーンへ移行しました。

きっかけは、昨年の震災で東北事業所のサーバが

水に浸かってしまうという被害にあったことで

す。その際に本格的なバックアップ環境を構築す

るか、グループウェアをクラウドサービス利用へ変更するかを検

討し、コスト面や手軽さを考えて後者を選択しました。

もともとはパッケージ版「サイボウズ Office 6」

を利用していましたが、オンプレミス環境におけ

るハードウェア障害や容量不足でたまに障害が

起きていたこと、そして、インフラを担当する人

員が不足している状況を受け、クラウド版ガルー

ンへ移行しました。人材紹介を中心に多彩な方面へ事業を広げて

おり、子会社や海外拠点も多数抱えていますが、少なくとも現時点

では、グループ企業全体でのシステム統合を図るような使い方を

しているわけではありません。

「サイボウズ Office 3」から始まり、長年サイボウ

ズ製品を利用していますが、現在はパッケージ版

「ガルーン 3」を導入しています。クラウドに関し

ては情報収集していますが、ガルーンに関しては

クラウドに移行するつもりはありません。ほかの

システムと相互に関連性を持たせていたり、つなげていたりする

ので、グループウェアだけをクラウド化したとしても、連携製品が

ついてこられるかどうかが問題。まずは、内製している小規模な社

内システムなどに関して、クラウド基盤を活用し、いろいろ試して

みようというレベルです。

――既にグループウェアをクラウドサービスとして利用されてい

る方は、実際にどのようなメリットやデメリットを感じているの

でしょうか?

社内にサーバがないこと自体がすごく楽です。以

前は、週明け早々にハードウェアのトラブルなど

でグループウェアが止まっていると、「早く対応

しないと!」という感じでうんざりしていまし

た。定期的なバックアップ作業に追われる必要も

ないですし、デメリットはあんまり感じたことがないです。

私は“本業”に集中できるという点が最大のメ

リットと考えています。弊社の場合、企業風土と

して、こうした本業集中という意識が特に強く、

情報システム部門も同様に、自分たちの立場で売

り上げアップや顧客単価向上に取り組まなけれ

ばならない。経営者も、グループウェアなどはもはや電気・ガス・

水道と同じ感覚で、使うことがメインなのだから、運用管理にあま

り手間をさかれるのは望ましくないという考えです。そのために

使える手段があれば積極的に取り入れ、むしろ、その手段の足りな

い部分だけを自分たちが担うということで割り切っています。

――移行していない企業の方がクラウドサービスに対して気に

なっている点などはありますか?

クラウド版への移行を躊躇している理由の1つ

は、既存環境のカスタマイズやシステム連携が使

えなくなってしまうのではないかという点で

す。PHPポートレットを利用して外部システム

と連携させていたりするわけですが、それが使え

なくなってしまうのは困るわけです。システム間の機能連携みた

いな部分は連携APIなどで解決されるかもしれないのですが、例

えば、ユーザ情報の入出力を利用してシングルサインオンを実現

するといったアプローチに関しては、機能連携やデータ連携とは

少しレベルが異なるところがあります。

弊社の場合もワークフローに他社製品を導入し

ており、ガルーンと連携させているという事情が

あります。ですから、ガルーンをクラウド版へ移

行させたとしても、そこに連携しているワークフ

ロー、あるいは、そのほかの情報システムなどが

追従できるのか、対応できるのかという不安があります。グループ

ウェアは様々なシステムの入り口としても機能していますから。

おっしゃるとおり、移行前には、カスタマイズ性

が下がってしまう、ほかのシステムとの連携がそ

のままでは動かなくなってしまう可能性もある

など、不満はありました。ただ、そのあたりは弊

社ではあきらめるというか、むしろ、割り切って

しまい、現在では、何をおいても社内に“物”がない環境を実現でき

ることが大きなメリットだと感じています。

ほかに、クラウドサービスに期待と不安の双方を

抱くのは、バージョンアップの手間がないことで

す。パッケージ版だと、まずはテスト環境を用意

し、情報システム部門などが率先して実際に触っ

た上で、いかに新機能や操作変更などを社内に伝

達していくかを考えたり、マニュアルを作る。そういった手間が省

けることを考えると、すごく楽でしょうね。ただ、これも裏腹で、

バージョンアップについていけない社員のことも考えて、実施の

タイミングを計ることもできなくなるのでは?

たしかに、クラウドサービスのグループウェアで

は、画面を開いた時に「バージョンアップしまし

た」というメッセージが表示され、いきなり機能

が追加されていたりします。ただ、管理者向けに

はバージョンアップの内容を事前に連絡しても

らえますので、それで問題が生じたことはありません。今のとこ

ろ、そんなに急に大幅な変更が行われたことがないということか

もしれませんが…。

――パッケージ版を利用している方々も、やはりクラウドサービ

スに大いに興味はあるようですが、とはいっても、情報収集や検討

の段階から実際の移行へは、そう簡単に進めないという状況なの

でしょうか?

クラウド版にどうしても踏み切れない理由は、1

ユーザあたりの単価がパッケージ版より高く

なってしまうことです。現状のパッケージ版の月

あたりのコストを算出してみましたが、どう見積

もっても、クラウド版の月額料金の約半分以下で

済んでいます。クラウド版のコストを聞かれて、「現在のおよそ倍

です」ということでは、やはり稟議は通りにくいでしょう。

弊社も同じです。以前に試算したところ、約半分

で済むという結果になりました。ただ、実は昨年

の計画停電の影響を受けて、本社に置いていた

サーバが停止したため、全面的に業務が止まると

いう事態が生じたんです。そのため、現在ではグ

ループウェアをはじめ、基幹システムやメールサーバ、Webサー

バなど、主要なサーバをすべて外部のデータセンタで稼働させて

います。これは早急に対処せねばということなので、その際の稟議

はすぐに通りました。こうなると、クラウドへの移行でもよかった

のでは、という話もありますが、実はガルーンのライセンスを複数

年契約で支払い済みなので…。

実際、社内でグループウェアを運用するだけであ

れば、1年、2年といった短期間ならともかく、長

く使うのであればオンプレミスのほうが安いと

言えるでしょうね。私も感覚的には、コスト面が

第一のデメリットだと感じていました。ただ、

【E】さんがおっしゃったように、BCP(事業継続計画)/DR(ディザ

スタ・リカバリ)的なメリットも加えると、そう単純な計算ではな

くなってきますね。

――ただ、クラウド版とパッケージ版のコストを比較するといっ

ても、なかなか難しいですよね。どういう費用まで含めるか、どれ

くらいの期間で比較するかなどで、ずいぶん違ってくるのではな

いでしょうか?

先ほどの「半分程度」というのは、データセンタ

やラックといった設備の利用料金、サーバのラン

ニングコスト、ソフトウェアのライセンス費用、

そして、自分が担っている保守費用も考慮して試

算したケースです。ネットワーク回線が結構高く

つく場合もありますが、それでもクラウドのほうが若干高くなる

と思います。ただ、正直に言うと、個人的には自分たち(情報シス

テム部)の作業負担が減ることで、その分、ほかの業務に注力でき

るというのは大きな魅力です。稟議を通す際には、その価値を経営

層がどのように受け取ってくれるか、いかに説得できるかがポイ

ントになるんでしょうね。

コストが高いと見るか、安いと見るかに関して

は、ユーザ規模にも左右されるのではないでしょ

うか。例えば、100ユーザであれば月額約9万円

ですから、運用管理コストなどを考えれば感覚的

には安い。しかし、規模が大きくなると、料金も

まとまった額になってしまうので、少し躊躇してしまう。

弊社では700ユーザ分のパッケージ版ライセン

スを持っていますから、これをクラウドサービス

へ移行すると、定価ベースで年額600万円強と

いうことになります。しかも、コスト比較を行う

場合は伝統的に5年間のスパンで算出しますか

ら、5年間3000万円以上になってしまう。すると、やはり「その

3000万円にどういう意味があるのか」を強く訴えることができな

いと稟議は通らない。もちろん、700ユーザといっても全部がアク

ティブではないですし、クラウドサービスの場合は柔軟に変更で

きますから、いろいろ工夫できる余地はあるのでしょうけど。

現在500ユーザ以上で利用していますが、業種

的に事業の成長を図るためには人員を増やす必

要があり、今後も増加していくと思います。だか

ら、サイボウズには事業の成長がコストドライバ

になってしまう料金体系は何とかしてほしいと

伝えています。ただ、少し違う視点もあって、ユーザ数が増えれば

増えるほど、システムが止まった時のインパクトが比例して大き

くなる。そのリスクを排除できるのであれば、現状でも十分にコス

トメリットは高いとも感じます。

――そのほかの部分で「こういう付加価値があったから、稟議が

通った」というものはありましたか?

やはりクラウド版であれば、社内ネットワークの

穴を開けることも必要なく、外部からグループ

ウェアへアクセス可能な環境を容易に構築でき

るという点が大きいと思います。弊社では「本部

にいなくても仕事ができる環境を作る」という考

え方があります。基本的には本部にいるよりも現場に出て、そこで

主に仕事をこなすというのが理想ですから。携帯電話でワークフ

ローの承認が行えるという点も評価が高く、逆に言えば、この部分

なしには稟議は通らなかったと思います。

弊社では海外出張の多い上司がそこに食いつい

てくれて、そのおかげで、稟議が通りやすかった

ということはあります。導入後は、その上司が現

地のホテルなどからフォローをどんどん入れて

きたりして、存分に活用していますね。海外にい

ても、気兼ねなくグループウェアへアクセスできるという点で一

種の感動を覚えているようです。

Web企業においては人材獲得競争が激しくなっ

ており、システム運用管理のようにコモディティ

化しつつあるスキルに人的リソースを割くくら

いであれば、商用の開発に回したいという全社的

な意向がありました。そういうシフトを進めて、

最終的には社内のITインフラには全く手をかけたくない、担当者

をゼロくらいにしたいという方向性です。だから、今回のクラウド

版への移行については、グループウェアにかかわるハードウェア/

インフラのメンテナンス要員をゼロにするということを導入の狙

いに据えることで稟議が通ったということはあります。

――コスト以外では、セキュリティ面の不安などについてはいか

がでしょうか?

先ほどの外部アクセスに関しても、常時SSLで通

信が暗号化されていますし、IPアドレスによる

接続制限やBASIC認証にも標準対応しています

から特に不安はないですね。弊社では、モバイル

利用に関してはオプションの「セキュアアクセ

ス」を利用し、クライアント証明書が入っていない端末は使えない

ため、全く気にしていませんね。

先ほど述べたとおり、コストに関しては弊社では

ネックととらえていますが、セキュリティは逆で

すね。つまり、クラウドサービスのほうがかえっ

て安全だと思っています。自分たちが危うい管理

をしているという意味ではなく、むしろ、あまり

自分たちの力を過信しないほうがよいだろうと。もちろん、クラウ

ドサービスも千差万別で、すべてが安全とは言えませんが、少なく

ともサイボウズなどは、いわばITのプロ中のプロなわけですし、設

備や人員への投資コストも私たちとは次元が違うはずですから。

全く安全だとは断言できませんが、そういうところに任せたほう

がセキュリティで問題が生じる確率は確実に低いでしょう。

弊社もそれに近いスタンスで、「餅は餅屋」とい

う考え方ですね。セキュリティだけではなく、

ハードウェアの運用管理に関しても、障害を起こ

したことがないかというとそんなことはなく、む

しろ、過去に何度も発生させていますから。そう

いう状態で、スリーナイン(99.9%)、フォーナイン(99.99%)と

いった稼働率をうたうクラウドサービスに対して、自分たちが張

り合う意味があるのか。太刀打ちできるのかということです。経営

層も同じ認識なので、セキュリティや稼働率が導入の障害になる

ことは全くありませんでした。

――クラウドサービスへの移行時に製品リプレースは検討しまし

たか?

移行期間を極力短くしたかったので、ユーザビリ

ティが変わらないということを重視して、同製品

間の移行を選択しました。それによって、ユーザ

ビリティ以外のリスクも減らせたと思います。た

だ、検討する余地がないというほどには考えてお

らず、移行にかかる時間や作業負担をいとわないのであれば、やは

り、きちんと他製品と比較したほうがよいでしょう。まあ、私の場

合は、ただでさえクラウドという別物に移すのに、そこで製品も変

更するとなると、二重の苦しみになってしまうだろうと…。

ありません。クラウドに移行するかどうかという

選択だけですね。忘れてはいけないのは、やはり

使う側の人たちのことなんですよ。実は弊社では

2度ほどグループウェアの導入に失敗していて、

その後、全く使われていなかった。現在のガルー

ンは私が選定して導入したんですが、その際に利用者のほうから

言われたのは「もう、変えないよね」「これで本当に使い続けるんだ

よね」ということです。その時点で「操作はもう変わりません」と

約束しているので、基本的には常にガルーンありきで考える状態

になっています。

私はクラウドサービスへ移行すると決断すると

したら、おそらく他社製品も含めて比較検討しま

す。経営層はもちろん、ユーザ層にも、各製品の

メリットとデメリットを説明し、十分に検討行い

ます。結果によっては、製品変更もいとわないで

しょう。以前にグループウェアをリプレースした際にも、そうした

プロセスで比較検討を行い、ユーザビリティやコスト、グループ

ウェアとしての将来性など、総合的な評価でサイボウズ製品への

乗り換えを決断したわけですから。

皆さんの話を聞いて思ったのは、クラウド移行の

メリットの1つに、「いつでもやめられる」という

こともありますね。もちろん、データ移行などは

考慮する必要があるものの、サービスそのものを

乗り換えるのは、パッケージ版利用時よりも容易

になるわけですから。

――移行の際に気になるのは、ユーザからの反応だと思います。ク

レームや相談は増えなかったのでしょうか?

実はクラウドサービスへ移行することを明確に

は伝えませんでした。アクセス方法や環境が少

し変わりますという言い方ですね。クラウドで

あるかどうかはユーザにとっては特に関係な

く、経営層や情報システム部が認識していれば

いいことですから。それでも、特に違和感などは寄せられておら

ず、問題も生じていません。

大きなクレームなどはなく、既に導入して半年

が経ちますが、最近まで違う環境に移行してい

たことに気づかなかったという社員もいるくら

いです。ネットワークの補強なども特にしませ

んでしたが、パフォーマンス的にはパッケージ

版利用のオンプレミス環境とほとんど変わりませんし。弊社の場

合、拠点からのインターネットアクセスは本社経由となっている

のですが、それでもほとんど差は感じません。サービスが止まって

しまうような事態にも、今のところは遭遇していませんね。

――実際の移行作業に関しては、先ほど話が出たように、同じ製品

のパッケージ版からクラウドサービスへの移行であれば、特に苦

労するところはないと言っていいのでしょうか?

あまり綿密にはやらなかったというか、結構気

楽に考えていましたね。ちょっと語弊があるか

もしれませんが、パッケージ版のオンプレミス

環境もすぐになくすわけではないし、ほかにも

う1つクラウドサービスの環境が立っていると

いう状態になるので、失敗したらオンプレミスを使い続ければい

い、成功するまでトライすればいいかと。そういう意味では、管理

者にとって重荷ではなかったですし、ユーザにとっても、クリティ

カルな状態には決してならないかたちでの移行でしたので、結果

として非常に満足しています。

今回のユーザ座談会では、参加者の方々が積極的に疑問や意見を

やりとりしていただいたため、パッケージ版ユーザはクラウド版

を実際に導入した感想を得られ、また、一方のクラウド版ユーザは

ほかの方々と語り合うことで改めて移行の効果を再認識できたよ

うだ。いずれも納得した表情で帰路につかれていたのが印象的

だった。

クラウド利用の目的といえば「=コスト削減」というイメージも抱

いてのだが、実際にはそう短絡的なものではなく、実際に利用して

いる方々も単純に安いとは感じていないことが伝わってきた。つ

まり、コストに関しては、見方によっては「クラウド版のほうが高

くつく」とも言えるというのが実状のようだ。ただ、そんな中でも

クラウド版ユーザは移行に対して満足していた。理由はそれぞれ

に異なり、各々が自社にとって有効なメリットや付加価値をうま

く見出していると言えるだろう。

取材協力・情報提供

サイボウズ株式会社URL:https://www.cybozu.com/jp/features/

企画・執筆・編集

キーマンズネットhttp://www.keyman.or.jp/