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アメリカ合衆国における 法曹養成の実情に関する調査報告書 · (1) テキサス大学ロースクール(The University of Texas, School of Law)に おける調査に関する報告書

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アメリカ合衆国における

法曹養成の実情に関する調査報告書

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目次

1 調査の概要

2 各日程毎の調査結果の詳細

(1) テキサス大学ロースクール(The University of Texas, School of Law)に

おける調査に関する報告書

ア. 別紙 1-1 Professor Eden Harrington(Clinical Programs)からのヒア

リング内容

イ. 別紙 1-2 Mr. David Montoya(Career Services)からのヒアリング内

ウ. 別紙 1-3 Ms. Monica Ingram(Admissions)からのヒアリング内容

エ. 別紙 1-4 就職関連の学内セミナーの参観

オ. 別紙 1-5 Professor Bill Allisonからの説明内容及び「刑事弁護」クリニ

ック参観

カ. 別紙 1-6 「刑法」授業参観

キ. 別紙 1-7 Professor David Rabban(Academic Affairs)からのヒアリン

グ内容

ク. 別紙 1-8 Dean Steven Goodeからのヒアリング内容

ケ. 別紙 1-9 図書館参観

(2) 南カリフォルニア大学ロースクール(The University of Southern California,

School of Law)における調査に関する報告書

ア. 別紙 2-1 事前の質問表に対する USC-Lawの回答

 イ. 別紙 2-2 Mr. Matthew Shakespeare及びMr. Eric I. Wang(Graduate

Relations)からのヒアリング内容

ウ. 別紙 2-3 Ms. Julia Castellon Cogan(Admissions)からのヒアリング

内容

エ. 別紙 2-4 Professor Edwin Smith、Professor Niels Frenzen、Mr. Stephen

Yamaguchi及びMs. Deborah Callからのヒアリング内容

オ. 別紙 2-5 「物権法」授業参観

カ. 別紙 2-6 Professor Scott Altmanからのヒアリング内容

キ. 別紙 2-7 USC-Law学生からのヒアリング内容

(3) ポール・ヘイスティングズ法律事務所(Paul, Hastings, Janofsky & Walker

LLP)における調査に関する報告書

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ア. 別紙 3-1 Mr. Lee Rawles及びMs. Abigail Pageからのヒアリング内容

(4) カリフォルニア大学ロス・アンジェルス校ロースクール(UCLA School of

Law)における調査に関する報告書

ア. 別紙 4-1 「物権法」授業参観

イ. 別紙 4-2 Professor Carlson及び Professor Binderからのヒアリング内

ウ. 別紙 4-3 「証言録取及び証拠開示」クリニック参観

3 補足文書

(1) 別紙 5-1 各ロースクールへの事前の質問表

(2) 別紙 5-2 法律事務所への事前の質問表

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アメリカ合衆国における法曹養成の実情に関する調査報告書

1.調査の概要

(1)調査の趣旨・目的

 アメリカ合衆国(以下、単にアメリカ)における法曹養成の実情に関する本調査は、文

部科学省の平成 17年度「法科大学院等専門職大学院形成支援プログラム」に選定された

共同プロジェクト「実務基礎教育の在り方に関する調査研究」(代表者・潮見佳男、京都

大学など 10校)の一環として、平成 18年 2月 8日から同月 17日の間に実施されたもの

である。同プロジェクトは昨年度、フランス・ドイツにおける法曹養成の実情に関する調

査報告を行ったが、本年度は、日本の法科大学院制度の設計やその実施に大きな影響を与

えているアメリカの法曹養成制度に関する実情を調査した。

 アメリカのロースクールにおける法曹養成教育の事情等については、わが国においても

すでに多くの紹介がなされており、またロースクールに長期に留学し、あるいは短期の視

察に参加した経験を有する日本の研究者・実務家も少なくない。しかし、きわめて多数か

つ多様なロースクールが各州に存在する中で、ロースクールにおける法曹養成教育がどの

ようなものかを一般的に語ることは容易ではない。

 本調査も、限られた日程の中で、3つのロースクールと 1つの法律事務所を訪問調査し

たにとどまるものであり、ロースクールにおける法曹養成の現状の一端を明らかにするも

のにすぎない。しかし、本調査を通じて得られた結果は、わが国における法科大学院制度

の位置づけ、法曹養成教育、とくに実務基礎教育の在り方、司法試験の果たすべき役割等

にも重要な示唆を与えるところが少なくないと思われる。本調査結果が、わが国における

法科大学院教育・法曹養成教育の発展にとって参考となれば幸いである。

(2)調査参加者

・プロジェクト業務推進担当者

 磯村 保  神戸大学大学院法学研究科教授 法科大学院協会理事・同カリキュラム

       等検討委員会主任(民法)

・業務推進協力者

 森川 伸吾 京都大学大学院法学研究科附属法政実務交流センター教授

       (中国法・弁護士)

 淺野 博宣 神戸大学大学院法学研究科助教授(憲法)

(3)調査対象校と調査事項等

 調査対象校の選定にあたっては、アメリカのロースクール事情に詳しい濵本正太郎助教

授(神戸大学大学院法学研究科、国際法)のご協力を得て、数校のロースクールに、2月

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上旬から中旬の日程で調査の受け入れが可能かどうかを問い合わせ、その結果協力を得る

ことのできた3つのロースクール(テキサス大学ロースクール(州立)=UT-Law、南カ

リフォルニア大学ロースクール(私立)=USC-Law、およびカリフォルニア大学ロス・ア

ンジェルス校ロースクール(州立)=UCLA-Law)を調査対象校として決定した。この3

校には、事前に質問事項(別紙 5-1参照)を送付し、USC-Lawからはあらかじめその回

答を得ていた。

 また、USC-Lawの紹介により、ロス・アンジェルスのポール・ヘイスティングズ法律事

務所を訪問調査する機会を得たが、これについても、新人弁護士のリクルート方法や実務

家から見たロースクールの法曹養成教育の在り方について事前に質問事項(別紙 5-2参照)

を送付していた。

 さらに、USC-Lawにおいては、ロースクール在学中の米人学生(2年次生)や同校に

在籍する日本人留学生にも意見を聴く機会があり、米人学生には、調査旅行から帰国後、

メールで追加質問を行っている(これらの意見については、別紙 2-7参照)。

 なお、各ロースクールや法律事務所における訪問調査に先だち、それぞれのHPで得ら

れた情報を精査して質問事項を適宜絞り込み、また、森川教授と淺野助教授は調査当日ま

で、各受け入れ担当者とのメールのやりとりにより、日程・プログラムの詳細について綿

密な調整を行った。これらの事情により、各ロースクール等における質問内容は事前に送

付した質問事項と必ずしも一致しておらず、また、訪問調査当日のプログラム内容に応じ

て、ロースクール毎に異なるものとなっている。

(4)調査結果の概要

 各日程における調査結果については、「2.各日程毎の調査結果の詳細」に取りまとめ

たとおりである。この取りまとめは、各日程毎に行ったヒアリング等の際にその場で詳細

なメモを作成し(森川教授が担当)、これを基礎として、調査参加者3名がその当日中に

集まって内容を確認し、適宜修正・補充を行ったものである(ただし、UCLA-Law調査

分については帰国直後に修正・補充し、その後、報告書全体の調整を行った)。質問・回

答の順序等については論旨の流れを重視して部分的に変更を加えたところもあるが、その

内容は各ヒアリング等の結果をほぼそのまま再現したものとなっており、調査結果からど

のような示唆が得られるかについては、2.の各調査結果をご参照頂ければ幸いである。

 ここでは、今回の調査を通じて得られた結果の骨子として、以下の 4点について要約的

に述べ、簡単なコメントを付しておきたい。

(a)入学者選抜の方法

 UT-Lawと USC-Lawにおいて、入学者選抜の担当者からその状況について詳しく話を

聞くことができたが、共通するのは、ごく限られた人数の専任スタッフが膨大な数の願書

を時間をかけて読み通したうえで総合的に合否判断を行うという点である。その際、LSAT

(Law School Admission Test)や GPA(Grade Point Average)等の数値的なデータが重

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視されるものの、機械的に一定の数値を各評価項目に当てはめて総合点方式で合否決定が

行われるのではないことが注目される。換言すれば、上位から順位をつけて一定人数まで

を合格させるという考え方をとらず、画一的な公平よりも多様性が重視され、これによっ

て不可避的に生ずる判断の主観性は、やむを得ない結果であると考えられている。

(b)ロースクールにおける教育方法

 古典的な「ソクラテス・メソッド(Socratic method)」に関しては、よく知られた映画

「ペイパー・チェイス(The Paper Chase)」に登場したキングズフィールド教授のような

授業法がかつては現実であったが、今日ではこのような方法がとられておらず、また適当

ではないという点で、各ロースクール教員の認識は共通する。しかし、とくに 1年次生に

対してどのような授業方法が適合的であるかについては考え方が多様であり、必ずしも意

見が一致していない。特定の学生を指名せずに挙手をした学生に発言させる方法、事前に

担当者を決めて指名する方法、事前に担当者を決めずに指名する方法等、種々の方法が各

教員の判断にしたがってとられているのが実情といえる。なお、今回の調査で参観した3

つの 1年次生向け授業では、いずれも教員の説明が中心であり、質問をする際にも、特定

の学生を指名することなく手を挙げた学生に適宜発言させるという方法がとられていた。

その意味で、わが国における講義方式により近いところもあるが、講義ノートやテキスト

を読み上げるということはまったくなく、学生に対して話しかけ、その反応を確認しなが

ら質問を発するという方法では共通していた。

 また、1年次生向けの授業と 2年次・ 3年次生向けの授業が同じ方法でよいかどうかに

ついても考え方は分かれうる。学生の予習態度の相違、授業科目内容の相違、成績評価の

持つ意味・重要度の相違等、種々の要因も関わっているが、1年次生向けの授業よりも授

業方法の相違はより大きい傾向にある。

 なお、学生がコマーシャル・アウトライン、スタディ・ガイド等と呼ばれる市販の参考

書を使用することの是非について、複数の教員に質問したが、授業の予習・復習のための

使用については否定的な評価が一般的であった。もっとも、各ロースクールの書籍販売部

にはこれらの書籍が多数置かれており、学生側において一定の需要のあることが窺われた。

(c)リーガル・クリニック

 今回の調査では、UT-Lawおよび UCLA-Lawにおいてリーガル・クリニックの授業を

参観する機会を得た。リーガル・クリニックには、現実の事件を取り扱うものと模擬事例

を扱うものの双方が含まれるが、アメリカにおいてもリーガル・クリニック教育が定着し

たのは比較的最近であり、今日においてもこれらは選択科目にとどまっている。UT-Law

と UCLA-Lawでは、概ね 2分の 1程度の学生が少なくとも 1つのクリニックを履修する

とのことであった。一般の授業とは異なって、1クラスの学生人数が少数にとどまること

からコストの問題を考慮する必要があること、適切なクリニック教員の確保が必ずしも容

易でないこと等の事情がこれに関わっている。

 日本のように実務修習を前提としないアメリカの法曹養成制度においても、リーガル・

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クリニック教育はこのような状況にあること、ビジネス・ローに関わる現実の事件を取り

扱うことは事実上不可能であり、現実の事件は一定の種類のものに限られること、法律事

務所におけるロースクール学生のリクルートの時期の早さから、学生がこれらの授業を履

修するかどうかが就職決定の時点では大きな意味を持たないこと等にも留意が必要と思わ

れる。

(d)法曹資格試験(Bar Examination)とロースクール教育

 ロースクールのレベルによっても異なるが、今回調査したロースクールにおいては、法

曹資格試験のための勉強がロースクールにおける学習・教育に大きな影響を及ぼしている

とはいえない。もっとも、テキサス州に比べてカリフォルニア州の試験合格率は相対的に

低く、USC-LawのHPにおいては、履修科目の選択にあたって法曹資格試験を考慮する

ことが重要であることが強調されているが、その USC-Lawにおいても教員・学生ともに

実際にはこの点をそれほど重視していない。

 試験合格のためにはそれに特化した予備校(その代表が BAR/BRI)があり、試験対策

はそれで足りるという認識があり、教員も、学生がそのような予備校に通うことを積極的

に評価し、むしろ当然のことと考えている。その意味で、ロースクールと予備校とは幸福

な共存関係にあるといえる。ただ、これについては、試験の合格率がきわめて高いこと

(UT-Lawの場合 90%以上、USC-Lawや UCLA-Lawにおいても 80数%)に加えて、試

験の持つ意味にとくに留意する必要がある。すなわち、法曹資格試験で優れた法律家を選

抜しようとすることはおよそナンセンスであり、試験は法律家として最低限度の基準をク

リアーするかどうかをチェックするものにすぎないという共通認識がその背景にある。研

究者を志望する学生は法曹資格試験の受験そのものに関心を示さないという趣旨の発言

(USC-Lawにおける別紙 2-4参照)も、このような文脈で理解することができる。

(文責:磯村 保)

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2.各日程毎の調査結果の詳細

(1)テキサス大学ロースクール

(The University of Texas, School of Law)

における調査に関する報告書

(報告者:磯村保・森川伸吾・淺野博宣)

1.調査の期間及び場所

期間: 2006年2月9日及び10日

場所: テキサス大学ロースクール      (米国テキサス州オースティン)

The University of Texas School of Law     (Austin, Texas)

(以下、本報告書において同校の略称として「UT-Law」を使用するこ

とがある。)

2.調査参加者:

磯村保(神戸大学大学院法学研究科)

森川伸吾(京都大学大学院法学研究科法政交流センター)

淺野博宣(神戸大学大学院法学研究科)

3.調査スケジュール及び内容: 下記の通り

2006年2月9日

時刻 内容

10:00 – 10:30 ヒアリング(第一次)

ヒアリング対象者:Professor Eden Harrington *

* Director of Clinical Programs and William

Wayne Justice Center for Public Interest

Law

ヒアリング内容:別紙 1-1参照

10:30 – 11:15 ヒアリング

ヒアリング対象者:Mr. David Montoya *

* Assistant Dean, Career Services

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ヒアリング内容:別紙 1-2参照

11:30 – 12:30 就職関連の学内セミナー(Presentation on

Judicial Clerkships)の参観

参観状況:別紙 1-3参照

(会食:Ms. Laura Castro(Communications Strategy Manager)

及びMs. Sarah Buel(Clinical Professor))

2:20 – 3:10 ヒアリング

ヒアリング対象者:Ms. Monica Ingram *

* Assistant Dean, Admissions

ヒアリング内容:別紙 1-4参照

3:15 – 4:30 Professor Allisonからの事前説明及び「刑事弁護」クリニック参

(3:15 – 3:30説明;3:30 – 4:30クリニック参観)

参観対象授業:刑事弁護クリニック

(Criminal Defense Clinic)

担当教員:Professor Bill Allison *

* Clinical Professor, Criminal Defense Clinic

and Actual Innocence Clinic

ヒアリング内容及び参観状況:別紙 1-5参照

2006年2月10日

時刻 内容

9:30 – 10:20 「刑法」授業参観

参観対象授業:1年次生向け刑法(Criminal Law)

担当教員:Professor George Dix

参観状況:別紙 1-6参照

10:30 – 11:00 ヒアリング

ヒアリング対象者:Professor David Rabban *

* Associate Dean for Academic Affairs

ヒアリング内容:別紙 1-7参照

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(会食:Ms. Laura Castro(Communications Strategy Manager))

1:00 – 1:45 ヒアリング

ヒアリング対象者:Dean Steven Goode

ヒアリング内容:別紙 1-8参照

1:45 – 2:55 図書館参観

案内担当者:Mr. John Pratter *

* Foreign and International Law Librarian

参観状況:別紙 1-9参照

3:00 – 3:30 ヒアリング(第二次)

ヒアリング対象者:Ms. Eden Harrington *

* Director of Clinical Programs and William

Wayne Justice Center for Public Interest

Law

ヒアリング内容:別紙 1-1参照

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(別紙 1-1)

Ms. Eden Harrington*からのヒアリング内容

* Director of Clinical Programs and William Wayne

Justice Center for Public Interest Law

一、第一次ヒアリング(2006年 2月 9日午前)

(質問) クリニック全般について。

(回答) UT-Law では、過去 5 年でクリニック及びインターンシップのプログラムを大

幅に拡充した。

(回答) UT-Law では(専門家責任、憲法 II、リーガルライティング等の若干の例外的

科目を除き)2 年次以降の必修はほとんどない。クリニック、インターンシッ

プ等についても履修は任意であり必修ではない。

(回答) 3 年次の学生は、大学での通常の法律科目について興味が低下しがちである。

クリニックを設けることは、そういった学生の需要に応えるという意味でも意

義がある。

(回答) 現在 UT-Law全学年で 1400人の学生がおり、うち、約 420人の学生がクリニ

ックまたはインターンシップをとっている。(報告者注:上記 420 人には 1 年

次生は含まれないものと考えられる。)

(回答) クリニックとインターンシップは、態様には違いがあるが、性質的には大きく

異なるものではないと考えている。

(回答) クリニックについては、大学ごとに温度差がある。UCLA-Law は非常に良い

クリニックのプログラムを持っていることで知られている。

(質問) 拡張による財政面への影響は?

(回答) クリニックは少人数制(例:教員 1人、学生 8人)であり、高コストである。

インターンシップは大学にとってクリニックよりずっと安上がりである。

(回答) 近年、高コストのクリニックまたはインターンシップを拡張したことによる、

支出増はあるが、丁度そのころ同時に、大学の収入(大学の収入の多くは政府

から来る)も増えたので、問題は生じていない。

(質問) クリニックの指導教員について。

(回答) 教室で教えるのとクリニックで教えるのには全く異なる技術が必要である。

(回答) 教員となる弁護士を探すのはなかなか難しい。卒業生にいろいろ電話して口コ

ミ情報を集めるといった方法で探している。非営利部門で働いている弁護士が

大きな供給源の一つである。UT-Law への社会的評価が高いことが、教員とな

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る弁護士をリクルートする上では有利に働いている。

(回答) 新たに教員となった弁護士についは、クリニック弁護士の全国的な協会が行っ

ている研修に参加することを推奨している。

(回答) テニュア(終身教員資格)は与えられず、全て 3 年の任期制である。「テニュ

アを取得しなければならない」というプレッシャーを感じることなく働くこと

ができる。

(質問) クリニックの運営体制について。

(回答) 指導教員のほか、クリニックでは、実際の案件を扱う関係で、事務スタッフも

多めに必要であるし、作業場所も必要になってくる。

二、第二次ヒアリング(2006年 2月 10日午後)

(質問) いわゆる「ソクラテス・メソッド」(Socratic method)の変容について。

(回答) 1980 年代前半にコロンビア・ロースクールで自分が法律を学んだ当時には、

学生に厳しい質問を投げていくような古典的なソクラテス・メソッドだった。

今は、皆もっとリラックスしたスタイルでの学習に変わっている。

(質問) 1年次の学生の学習が厳しいことについて。

(回答) (法律を最初に学ぶということ自体に加えて)2 年次は選択科目が多いから自

分の興味に応じて選べるのに対して 1 年次は必修が多いことから、2 年次より

1 年次の方がきついというところがあろう。3 年次は就職と成績の関係がない

から、勉強意欲が低下する。そういったこととも関連しているであろう。

(回答) 1 年次生は、教室で自分の意見を発表することに慣れていない場合がある。少

人数のクラスで一度発表する機会があると、慣れて、その後はスムーズに発言

できるようになる。

(質問) クリニックと訴訟弁護(trial advocacy)コースの異同について。

(回答) クリニックには、現実の依頼者がいる。一方、訴訟弁護コースにおいては、シ

ミュレーションであったり、ビデオを見たりといった形になる。

(回答) クリニックも訴訟弁護(trial advocacy)も共に学生からは人気がある。

(質問) 昨日の Allison教授のクリニックの規模について。

(回答) 例外的に規模が大きいクラスである。学生が多いということだけではなく、指

導担当者の数(5 人)も非常に多いと言える。刑事の実務に進む学生は少ない

が刑事のクリニックを選択したいと考える学生は多い。

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(質問) 1980 年代前半にコロンビア・ロースクールで学習していた際における参考書

の状況について。(報告者注:Harrington 教授はコロンビア・ロースクールを

卒業されている。)

(回答) コマーシャル・アウトライン(commercial outlines)を教室に持ち込むことは

禁止されていたが、多くの学生が自宅で使っていた。

(回答) コマーシャル・アウトラインに書かれていることに比べて、授業で扱う範囲は

限られていたので、それほど役には立たなかった。

(質問) 学生に調査方法を教える場合、オンライン・リサーチのみを教えるのか?

(回答) オンラインのみであると理解している。少なくとも、図書館で(オンラインで

はなく紙ベースで)判例集を調べている学生は存在しない筈だ。

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(別紙 1-2)

Mr. David Montoya*からのヒアリング内容

* Assistant Dean, Career Services

(質問) 就職状況の分布はどのようなものか?

(回答) 2004 年だと法律事務所に就職する者が約 57%(注:最初から独立して開業す

る者はほとんどいない)、クラーク(clerk)になる者が 12%、政府関係が 9%、

企業内弁護士が 6~7%。就職未定で、就職を探していない者が 4%弱いるが、

その多くは、法曹資格試験に落ちたために受験生活をしている者である。

(回答) 「UT-Law 卒業生で法曹資格試験に合格したが、就職がない。」という者はほ

とんどいない。(報告者注:面談中に提示された統計表中の「就職を探してい

る」学生(3 名)がこれに該当すると思われる。なお、面談中に提示された統

計表と、その後に提供された表の数値データは異なり、作成時期の異なる資料

であると思われる。)

(回答) 地域的には 69%がテキサス州内での就職となる。なお、もともと、州外学生

の入学者上限が 20%だけだったのを、ごく最近 35%まで広げたので、将来は

州外就職の割合が高まる可能性がある。

(回答) 州外での就職として N.Y.と D.C.とがそれぞれ 20名前後(D.C.についても、就

職先としては政府系ではなく法律事務所の就職が多い。)で突出している。他

は各州 1~2 名程度である。カリフォルニアは、数年前までは多かったが、IT

不況の影響か、近年激減している。

(回答) 法律事務所に就職する比率が高い。学費ローンの返済のためには法律事務所に

就職する必要があるということもあるかもしれない。

(質問) 就職分布について、他のロースクールと比べた場合の特徴は?

(回答) 特段の特徴はないと思う。

(質問) “Career Services Office”の主たる使命は?

(回答) 学生の自主的決定・就職選択を支援することである。実際の就職活動の多くは

学生が自分でやる。D.C.と N.Y.の事務所は大学に来て面接をしたりすること

がある。こういったオンキャンパス・インタビューについては、Career Services

Office が、専門の部屋(Interview Suites)を用意している。足りないときは

大学の他の部屋も使う。もちろん、テキサスの法律事務所等も、同様にこれら

のサービスを受けることができる。

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(質問) 法律事務所が学生を採用する場合の基準はどのようなものか?

(回答) ロースクールでの成績は当然重視される。ただし、テキサス州内の法律事務所

は、成績よりも、むしろ人的側面を重視する傾向がある。人的側面を重視する

ということは、具体的には、面接をして事務所に合う人物かどうかを見るとい

うことである。

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(別紙 1-3)

就職関連の学内セミナー(Presentation on Judicial Clerkships)の参観

概要:裁判所のロー・クラーク(law clerk)として就職した最近の卒業生 5名(2005年卒

業生 4 名と 2004 年卒業生 1 名)が、ロー・クラークの仕事について、在学生に説明を

する集まり。

(補足) 参加者は 40人前後であった。これは通常より少ないということであった。

このような、説明会を定期的に催され、次回は来月に行われるとのことであった。

なお、会場となった Eidman Courtroomは立派な模擬法廷であり、100名以上の傍

聴が可能な広さであった。

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(別紙 1-4)

Ms. Monica Ingram*からのヒアリング内容

* Assistant Dean, Admissions

(質問) どのようにして、志望者から入学許可者を絞り込むのか?

(回答) 5000 通以上の出願の中から 1000 人程度に入学許可(admission)を出す。

なお、最終的に入学するのは 450~470人程度である。

(回答) LSAT、GPA、Personal Statement、Resume その他各種の資料を提出させ

る。指数化して評価をする学校もあるが、UT-Lawでは指数化はしていない。

(回答) 提出資料を 2回審査して、最終的に決定する。提出資料についての 1回目の審

査(以下「初回審査」という。)で落とされた人について、チェックの意味で

2回目の審査(以下「再審査」という。)を行う。一部の入学申請者に対して、

必要に応じて、面接を行うこともある。

(回答) 多様性のある学生構成を目指している。ここでいう多様性には、地域的な多様

性、人種・文化的多様性等が含まれる。また、「どのような貢献ができる学生

か」ということも考慮する。

(回答) 選考の過程においては、性質上、ある程度、選考担当者の人的要素が影響し、

主観的なものとならざるを得ない。

(質問) 入学許可に関する業務体制はどのようなものか?

(回答) 入学許可通知を含む各種事務手続きは入学審査課(Admission Office)が行う

が、入学許可決定は入学審査委員会(Admission Committee)が行う。

(回答) 入学審査課で働いているのは、5 人である。そのうち 2 人は入学審査委員会の

メンバーでもある。入学審査委員会のメンバー以外の入学審査課のスタッフ(3

人)は、志望者からの提出資料の検討作業には関与しない。

(回答) 入学審査委員会は 3 名で構成されており、上記の 2 人以外のもう一人も、UT-

Lawの教授である。

(質問) 審査にはどのくらいの労力をかけるのか?

(回答) 5000人以上から 1000人程度に入学許可を出し、最終的に入学するのは 450~

470 人程度であるわけだが、この募集・入学審査は 2 期に分けて行っている。

今年の場合には、第 1 期の入学申請が約 1300 人あり、第 2 期の入学申請が約

3700人あった。

(回答) 提出資料を 2 回審査して、最終的に決定するわけだが、典型的には、1 回目の

審査で落とされた者について、チェックの意味で 2回目の審査を行う。

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(回答) 入学審査委員会は、Ms. Monica Ingram 及びMr. Rey Ramos(共に入学審査

課所属)並びに Professor Joh Hanson(入学審査課非所属の教授)の 3 名に

より構成されている。(報告者注:以下敬称略。)

(回答) 入学審査を行う際の役割分担は、第 1期募集分と第 2期募集分とで異なる。 第

1期募集分については、Hansonと Ingramが初回審査を担当(うち、Hanson

は非居住者からの入学申請資料を審査する)し、Ramosが再審査をする。第 2

期募集分については 3 人全員が初回審査を担当し、Ingram と Ramos が再審

査を担当する。

(質問) 入学審査において、指数化評価をしていないために、バラツキが避けられない

のではないかと思うが、このようなバラツキを排除するための方策は?

(回答) 初回審査の審査担当者間で入学許可率を取り決める等のことはしていない。

(回答) 以前は入学審査委員会の人数が多かった。しかし、数年前に人数を減らして現

在のようにした。人数が少ないことで入学許可決定の判断について一貫性を保

つことができる。また、入学審査委員会の委員の間で、頻繁にディスカッショ

ンを行っている。ディスカッションの具体的内容としては、「どのようなクラ

ス構成になっているか」(即ち、ある時期までに入学許可通知を出した者には

どのような者が含まれているか)といったことがある。

(質問) LSAT及び GPAの考慮の仕方について。

(回答) LSAT及び GPAは入学審査において重視している。

(回答) LSAT 単体ではなく、LSAT 及び GPA を組み合わせて使用すると高い精度の

評価ができる。

(回答) LSAT 及び GPA を組み合わせて評価した結果と、1 年目の成績との関係には

高い相関関係がある。85%程度の確率で正しく評価できると考える。

(質問) GPAについて、学校間のバラツキをどのように調整するのか?

(回答) GPAについて、出身学校に関する情報に基づき、調整することがある。また、

一部の学校については、GPA を評価に用いることが不適切な場合もある。そ

れについては、LSATでみるしかない。

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(別紙 1-5)

Professor Bill Allisonからの説明内容及び「刑事弁護」クリニック参観

参観対象クリニック:刑事弁護クリニック

(Criminal Defense Clinic)

担当教員:Professor Bill Allison *

* Clinical Professor, Criminal Defense Clinic

and Actual Innocence Clinic

1.概要

担当教員である Professor Bill Allison から簡単な説明をうけた上で、「刑事弁護」ク

リニックを参観した。

2.説明内容

(1) 担当教員の概況

30 年以上 UT-Law でクリニック教員をしている。専門は刑事訴訟(Criminal

Trial)である。UT-Law 学内にも執務室があるが、それとは別にも市内に自分の

法律事務所を持っていて、クリニックの学生の実務研修活動はその事務所で行っ

ている。

(2) 臨床教授(Clinical Professor)について

臨床教授(Clinical Professor)というのは学者とは異なる。実際の手続をどの

ように行うかということは実地で経験しないと分からない。そういう実地の経験

を学生に与えるのが臨床教授の仕事である。

(3) クリニックの内容と学生の臨時資格(Provisional License)について

クリニックは、ロースクールにおける学習と実務の研修を共に含んでいる。

実務の研修については、実際の裁判手続で弁護士としての活動を行うことにな

る。これを可能とするために、学生は臨時資格を取得する。臨時資格の取得のた

めの要件には、ロースクールの課程の半分以上を終えていること、一定の要件を

満たした指導担当弁護士がいること等が含まれる。指導担当弁護士は、法廷での

活動に際しては、学生の近くで待機しているが、活動をするのはあくまでも学生

である。クリニックをとらずに、臨時資格を取って活動をするというケースはあ

るが、例外的である。(実例として、以前、Allison 教授の助手として働いている

学生に臨時資格を取らせたことがあったとのこと。)

クリニックのうち、ロースクールにおける学習は、実務研修を行うために必要

な訓練するという側面もあるが、実務研修とロースクールにおける学習は併行し

20

て行われる。

なお、臨時資格を取得した学生が刑事弁護活動を行う場合、相手方の検察官は、

嫌がることが多い。というのも、業務量の多い検察官は個々の案件に割ける時間

が限られているのに対して、学生は準備を周到に行うからである。

3.参観状況:

この Allison 教授のクラスは、学生約 30 人程度、教員 5 名(Allison 教授及び

指導弁護士 4 人(内 1 名は退職裁判官))と、比較的大人数であった。なお、こ

のクラスは、UT-Law のクリニックで一番大きいクラスであり、次に大きいクラ

スでも学生は 15人程度であるとのことであった。

学生に質問をしたり教員が説明をしたりという形式で進められた。

21

(別紙 1-6)

「刑法」授業参観

参観対象授業:1年生向け刑法(Criminal Law)

担当教員:Professor George Dix

参観状況

長方形の長辺に教壇があり、それを囲む

ようにU字型に学生の座席が配置された階段

教室における授業。座席は固定である(教室

外に座席表が貼付されている)。

学生の机には、電源コンセントがあり、

学生は、ノートブック・パソコンを使用して

ノートを取る者が過半数である。

出席学生数は約 75 名。なお、出席の管理

は厳格ではないようであり、2~3 人の学生が 5 分~10 分程度遅刻して入室したが、特

に注意を受けることはなかった。

授業時間は 50分であるが、授業開始からから 35分間(9:30 – 10:05)は、Dix教授

による講義が続く。授業は一方向形式*1 であったが、力強い発声による抽象的説明と具

体例の説明を交えた講義であり、学生の注意力は維持されているように見えた。講義に

おいては強盗罪(robbery)について、事案の説明を交えて、成立要件を解説。(重罪

(second degree felony)である強盗罪に要求される暴行・脅迫(force/threat)につい

ての解説が中心。)なお、主としてテキサス州刑法に基づく説明であった。

その後 12 分間(10:05 – 10:17)は、Dix 教授が強盗罪の成否が問題となる限界事例

を板書をしながら説明し、学生からの意見を求めた。数人の学生が自発的に意見を述べ、

または質問を提起し、それについて Dix教授が説明・解説をする形式で進められた。

最後に(10:17 – 10:19)、Dix教授が総括的コメントをした。

*1 但し、講義中に学生が質問を挟むことは許容されているようであり、35 分間の講

義中に 1名の学生が短い質問をした。

(補足1)授業後に、当該授業に出席していた学生と話をする機会があった。それに

よると、上記のような授業スタイルは一般的なものであるとのことであった。

授業における学生の回答等は成績評価には反映されず、ストレスを感じずに発

言できるとのことであった。ただし、(今回の授業ではなかったが)事例の概要

22

を報告しなければならないような場面では、学生にとっては、緊張感がより高

いとのことであった。

(補足2)若干の双方向性はあったものの、基本的に一方向的な講義であると感じら

れた。これについて、当日のヒアリングで Professor David Rabban 及び

Professor Eden Harrington に質問をした。(別紙 1-7 及び別紙 1-1 を参照され

たい。)

23

(別紙 1-7)

Professor David Rabban *からのヒアリング内容

* Associate Dean for Academic Affairs

(質問) 教務担当副学部長(Associate Dean for Academic Affairs)の業務はどのよう

なものか?

(回答) まず、副学部長(Associate Dean)は通常 2~3 名いるが人数は固定していな

い。うち、教務担当副学部長は常設であり、カリキュラム編成その他の内部業

務*1を行う。*1 なお、学部長(Dean)の業務には、資金集め、卒業生関係業務等の外

部業務が多く含まれる。

(回答) なお、研究担当副学部長(Associate Dean for Research)という者がもう一人

いる。これは、若手研究者に対して、研究上のアドバイスをすること(即ち、

メンター(mentor)としての役割を果たすこと)を任務とするポストである。

このようなポストは、最近学術性を重視する多くの有力なロースクールにおい

て創設されている。

(質問) 最近、そのようなポジションを多くのロースクールが創設している理由は?

(回答) 教育は極めて重要であるが、学術的水準も重要であり、それは特に、UT-Law

のような高い目標を持った(ambitiousな)ロースクールには当てはまる。

(質問) 学生からの授業評価についてどのように考えているか?

(回答) 学生からの授業評価を得るのは、教員にとっても良いことである。学生は、教

員の質の全側面を評価できるわけではないが、教員にとって有益な指摘を得る

ことができるという側面が確かにある。

(回答) 教員の給料決定に関して、学生による授業評価も考慮するが、ウェイトは低い。

というのも、上述のように、学生は、教員の質の全側面を評価できるわけでは

ないからである。

(質問) ソクラテス・メソッドについて。

(回答) 「授業中に厳しい質問を学生にしてそれに対する学生の回答を評価の対象にす

る」という意味のメソッドは過去にはあったが、近年はとられていない。当校

のみではなく、私の知る限り、他のどのロースクールでも行われていない。

(回答) 当校で行われている授業において、学生に答えさせることはしばしばあるが、

かつてのような訊問型の厳しい質問はしないし、学生の回答を成績評価におい

24

て考慮することもない。

(回答) 学生への質問の方法については、ランダムにあてる、リスト順にあてる、座席

順にあてるなどいろいろな方法がある。担当を決めずにランダムに学生に質問

をあてた場合には、授業を運営するのに適切なレベルの反応が学生から来ると

は限らない。ある程度、いつ当たるかを学生に予期させることで、適切に準備

させることができる。

(回答) 学生は、授業において質問に答えることが最初からうまくできるわけではない。

しかし、一度、授業において答える体験をすると、その後は、自発的な回答が

期待できる。

(質問) クラスの規模について。

(回答) 大人数のコースが多いが、1 年次においては、必ず少人数のコースを受ける機

会があるように配慮している。

(回答) 上述のように、学生は多人数の授業において質問に答えることが最初からうま

くできるわけではないが、少人数のコースを履修させることで、発表・回答能

力を高めることができる。

(質問) 参考書について。

(回答) いわゆるコマーシャル・アウトラインやガイドブック的な参考書(報告者注:

以下、この箇所では「参考書」と総称する。)は授業では使わない。概観を把

握するには良いが、細かいところや深いところは参考書では理解できない。参

考書で Bや Cの成績を取れるかもしれないが Aは取れない。

(回答) 最良の学生は、参考書なしで学習する。次に良い学生は、参考書とケースブッ

ク等の両方で学習する。参考書は、単純化されすぎているために、ミスリーデ

ィングである場合もある。

(回答) 学生から、どのように勉強すべきかを聞かれたら「参考書を見るのも良いが、

それよりも、自分でアウトラインを作るのがもっと良い。」と答えるであろう。

というのも、それを作る作業自体が知的活動であり、学習効果があるからであ

る。学生がグループ学習で各自でアウトラインを作る場合もある。ただし、理

解の混乱している学生が同じ質問をしたら、「一度参考書を読んでみて、それ

からもう一度おいで。」と伝えると思う。

(回答) なお、私は 1974 年卒業だが、当時、「Gilbert」(報告者注:「Gilbert」という

のは有名な参考書シリーズの名前である。)は多くの学生に使われていた。使

っていたといっても、私の場合には「ちょっと見る」程度の使い方であったが。

「Gilbert」以外にも「Sum and Substance」というものもあった。Emanuel

は、少し後のものだと思う。(報告者注:Rabban 教授はスタンフォード・ロ

25

ースクールの卒業生である。)

(質問) 最近、第一線の学者が参考書を書き始めているが、その理由及び内容について

どのように考えられているか?

(回答) 理由について、想像であるが、一次的には営利目的であろう。

(回答) 内容について、従来の参考書よりは良いと思う。また、従来の典型的なコマー

シャル・アウトラインが法学生用に作られていたのに対して、一般読者が法律

のことを学習するのに役立つということも言えると思う。

(質問) 法曹資格試験対策と予備校との関係について。

(回答) たとえ優秀な学生であっても、BAR/BRI のような商業予備校が提供する試験

対策コース(Bar Review Course)を受けることを勧める。

(回答) 試験にどのような問題が出るかということについては、商業予備校の方が良く

知っている。

(回答) 先ほど話していた参考書は期末試験対策には使えるが、法曹資格試験対策には

使えない。

(質問) ロースクールにおける実務教育について。

(回答) ロースクールで学ぶのは、どのように法律家的思考(think like a lawyer)を

するかということである。どのように具体的な手続上の活動をするかといった

ことは、本来、弁護士になった後で日常業務において学ぶことである。しかし、

学生の興味に応えるという趣旨で、また、より積極的には、教室での学習と実

務とを組み合わせることで相乗効果を得るということを期待する趣旨で、実務

教育を行っている。なお、歴史的には、以前にはあまり提供されていなかった

実務教育が、学生の要求(及び少数の若手教員の要求)で増やされてきたとい

う経緯がある。

(回答) 臨床教授(clinical professor)には学者教授とは別コース人事が適用される。

臨床教授の待遇が学者教授よりも劣るという点についてどのように取り組むべ

きかは、議論になっている。議論の対象としては、給与格差、終身資格等があ

る。個人的な予測でいえば、今後とも終身資格は与えられないだろう。という

のも、終身資格は学問の自由との関係で必要があるからである。私は、AAUP

(American Association of University Professors)の仕事をしているが、そ

こでも、この点がとりあげられている(報告者注:Rabban 教授の主要な専門

分野は労働法及び「高等教育と法」であり、学問の自由は彼の研究テーマの一

つである)。

26

(質問) 法曹資格試験を意識して履修科目を選択する傾向が学生にはあるか?

(回答) 全体としてはそのような傾向はある。ただし、当校のような学校(報告者注:

トップクラスの学校という趣旨。)では、そのような傾向は低い。法曹資格試

験の合格率が高くない大学になればなるほど、その傾向が強まる。

(回答) 州ごとの法曹資格試験なので、州法に関する知識が問われ、それとの関係で、

州内の大学で履修することにより、試験における優位性が生まれるという側面

は、一定程度はある。

(回答) 学校で試験科目に含まれるコースをとらなくても、(卒業後に)予備校のコー

スをとれば法曹資格試験には合格できるので問題ない。

(質問) ロースクールの教員全体を一つのチームとしてまとめるのにどのような工夫を

しているか?

(回答) 学部長(Dean)の役割が大きい。ちょっとしたことではあるが、水曜日に学

部昼食会を開いたりすることで一体感を高めている。この昼食会には、教員だ

けでなく、司書、事務関係者等も参加できる。セミナーその他いろいろな行事

もする。

(質問) カリキュラム編成の決め方について。

(回答) 大きな変化は教授会(Faculty Meeting)で、小さな修正は教務委員会

(Carriculum Comittee)で対処する。

27

(別紙 1-8)

Dean Steven Goodeからのヒアリング内容

(質問) 現在、正規教員はどの位いるか?

(回答) 65人の正規教員(regular faculty)で各学年約 450人の学生を教えている。

(質問) ロースクール学生の学部(undergraduate)時代の専攻について。

(回答) どの学部であっても、ロースクールとしては気にしない。将来ロースクールで

学びたいという学生が来たら、「何でも興味のあるものを学習しなさい。」と言

っている。とはいえ、自然科学系の学生は少なく(10%程度ではないかと思う)、

人文系の学生が多い。

(質問) より良い学生を集めるための戦略はあるか?

(回答) 良い教員を集めることである。そのためにも資金集め(fund raising)も重要

である。

(回答) UT-Law の独特なところは、この地域において際立った存在であるということ

である。この地域、即ちテキサス州においては、競争相手となるようなロース

クールはない。したがって、テキサス州の学生を集める上ではきわめて有利で

ある。テキサス州民はテキサス人であるということを誇りにしているという側

面もあり、それも、テキサス州の学生が当校を志望する理由の一つになってい

ると考える。もちろん、他州からの学生を集める上では競争がある。入学許可

を出した学生のうち、テキサスの学生であれば 2/3 が実際に入学する。州外の

学生についていえばこの比率は 1/4とか 1/5である。

(質問) 州外学生の比率について。

(回答) 州のルールが変わって、州外学生を受け入れることができる比率の上限が 20%

から 35%に引き上げられた訳だが、これはあくまでも「上限」のことであっ

て、急激に州外学生が増えるということはないと予想している。数年かけて比

率が 30%程度にまで上がるのではないかと予想している。州内学生に対する

授業料は州外学生に対する授業料よりも安いということもある。

(質問) 財源について。

(回答) 1977 年に私がこの大学に来た当時、80%以上の財源は州から来ていた。学費

は年 120 ドルだった。今は州からの交付金は 20%未満であり、学費が主たる

財源になっている。州内学生への学費は年 18,000 ドルである。その他、(卒業

生からの寄付その他による)資金集めをしている。なお、学費の金額は州が決

28

める。

(質問) 低所得者層の学習機会について。

(回答) 多くの奨学金制度がある。学生ローンもある。

(回答) 25 年前は、パートタイムで働いて債務なく卒業することもできたが、今は、

卒業時には債務はどうしても残ってしまう状況である。

(質問) 教授の採用における「良い教師」と「良い学者」の問題について。

(回答) 両方を重視する。バランシングの問題ではあるが、学者として優秀な人物であ

ることをより重視する。というのも、ロースクールの社会的評価(reputation)

を形成する上で重要なのは、教授の学問性であるからである。ちなみに、昔の

話ではあるが、イェールで勉強したとき(報告者注:Goode学部長はイェール・

ロースクールの卒業生である)、教授陣は教育にはあまり興味がなく、授業は

ひどかった。

(回答) 近年、教えることへの関心は高まっており、教える能力の高い教員を表彰する

ための基金が作られたりもしているが、やはり、学問性がより重要であるとい

う認識には変わりはない。

(質問) 公表されているランキングについてどう思うか?

(回答) “US News and World Reports”といったアメリカのマス・メディアによって

公表されているランキングは、実態を反映していない。

(回答) 例えば、一度だけ UT-Law のランキングが 15 位から 29 位に落ちたことがあ

る。その理由は Career Service Office による就職情報の提供が不十分だった

ことによる。翌年情報をきちんと提供したらランキングは直ちに回復した。ま

た、事務職員への給与が高かったことが考慮されて N.Y.の大学のランキングが

上がったということもあった。

(回答) 実態を反映してはいないとはいえ、卒業生やロースクール入学志望者は、ラン

キングにこだわるため、無視はできない。

(回答) PR 資料を作って配布することに各校は非常に大きなコストをかけており、明

らかに無駄であるが、仕方がない。

(質問) 学問的にすぐれた教員をどのように探すのか?

(回答) 採用委員会(Appointments Committee)があり、その作業を行っている。

(回答) 時間をかけて論文・業績をチェックすると共に、個人的な事情まで考慮して移

籍の可能性の大小を検討する。

(回答) 良い教員を見つけたら、移籍するように説得して引き抜くというのが、重要な

29

仕事である。スポーツ界と同じである。

(質問) 教員になるためのルートについて。

(回答) 出版された業績が複数あることが必要であり、修士以上の学位を複数持ってい

ることも重要である。

(回答) 教員志望の、将来性のある若手に対して、サポートをするプログラムもある。

(回答) 教員志望の学生の比率はイェール等では高い。UT-Law でも、少ないながらい

る。

30

(別紙 1-9)

図書館参観

案内担当者:Mr. John Pratter *

* Foreign and International Law Librarian

参観状況

コンピューターを使用した蔵書検索システ

ムが非常に充実していた。

学生のための読書スペース(電源及び無線

LAN が装備されている)も充実しており、

席が足りないという状況は生じないとのこと

であった。

蔵書数は極めて多く、書庫面積も広大であ

った。なお、4 フロアあるうち、3 階は教員

専用のフロアとなっていた。

司書資格を持つスタッフが約 15におり、専任の教授が配置されていた。

31

(2)南カリフォルニア大学ロースクール

(The University of Southern California, School of Law)

における調査に関する報告書

(報告者:磯村保・森川伸吾・淺野博宣)

1.調査の期間及び場所

期間: 2006年2月13日及び14日

場所: 南カリフォルニア大学ロースクール

(米国カリフォルニア州ロス・アンジェルス)

The University of Southern California, School of Law

(Los Angels, California)

(以下、本報告書において同校の略称として「USC-Law」を使用する

ことがある。)

2.調査参加者:

磯村保(神戸大学大学院法学研究科)

森川伸吾(京都大学大学院法学研究科法

政交流センター)

淺野博宣(神戸大学大学院法学研究科)

3.調査スケジュール及び内容: 下記の通り

2006年2月13日

時刻 内容

9:00 – 10:30 Mr. Aaron Goh * と面談。学内の案内を受ける。

* Associate Director, Graduate & International

Programs

10:30 – 11:30 ヒアリング

ヒアリング対象者:Mr. Matthew Shakespeare * 及び Mr. Eric I.

Wang **

32

* Director of Graduate Relations

** Associate Director of Graduate Relations

ヒアリング内容:別紙 2-2参照

11:30 – 12:25 ヒアリング

ヒアリング対象者:Ms. Julia Castellon Cogan *

* Director of Admissions

ヒアリング内容:別紙 2-3参照

12:35 – 14:25 ヒアリング兼昼食会

ヒアリング対象者:Professor Edwin Smith *、Professor Niels

Frenzen **、Mr. Stephen Yamaguchi ***及び Ms.

Deborah Call ****

* Professor, Academic Director LL.M. Program

** Clinical Professor

*** University Counsel

**** Assistant Dean

ヒアリング内容:別紙 2-4参照

2006年2月14日

時刻 内容

8:30 – 9:20 「物権法」授業参観

参観対象授業:1年次生向け物権法( Property)

担当教員:Professor Scott Altman

参観状況:別紙 2-5参照

9:20 – 9:50 ヒアリング

ヒアリング対象者:Professor Scott Altman *

* Professor and Associate Dean

ヒアリング内容:別紙 2-6参照

11:15 – 12:10 図書館参観

案内担当者:Professor Albert Brecht *

* Associate Dean, Chief Information Officer and

John Stauffer Professor of Law

12:10 – 14:00 USC学生からのヒアリング(兼昼食会)

33

ヒアリング内容:別紙 2-7参照

14:10 – 16:00 大学構内参観

(補足)USC-Lawからは質問表(別紙 5-1)に対する回答を事前に得ていた。(別紙 2-1)

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(別紙 2-1)

1 LSAT をどの程度重要なものと考えているか? 入試選抜手続において LSAT の点数

をどのように利用しているか?

 LSAT は 1 年次生の学業成果(performance)を予測するための重要な手段であると考

えている。LSAC(Law School Admission Council)の研究によれば、LSAT の成績と 1

年次の成績との間には強い相関関係があることが証明されている。LSACに関する情報は、

次のウェッブサイトで見ることができる。

http://www.lsac.org/

2 LSATの形式や内容には満足しているか?

 学生の推論能力、論理操作能力、分析能力を測る試験として、満足している。

3 能力のある学生を集めるためには何が重要だと考えているか?

 重要な要素として、教員の質、提供される授業科目の幅広さ、教員一人あたりの学生数、

ロースクール・ランキング、法曹資格試験合格率、ロースクールへの社会的評価、学生の

数、所在地がある。他の要素については、USCのウェッブサイト

http://lawweb.usc.edu/admissions/nextsteps/pages/top10.html#3

に掲載している。

4 ロースクールで単位を修得することは難しいと考えられるか? 一つのクラスで単位

を取得できる学生は何パーセント位か?

 USCでは 6000人以上の志願者の中から上位 215人だけが入学できる。これらの学生が

課程を修了できることには自信をもっており、課程を修了できない学生は非常に稀である。

5 登録学生数の過多などを理由として、同一の科目を二つ以上のクラスに分けて二人以

上の教員が教える場合があるか? その場合に、教員の間での違いに学生から不満が出る

ことがあるか?

 二人以上の教員が同一の科目を教えることは非常によくあることである。その場合に、

一方の教員の教育方法を望む学生が、その教員のクラスに登録できないときには、不満が

出ることもある。

35

6 学生による授業評価の結果を、どのように教育手法や教育システム全体の改善のため

に利用しているか?

 すべての学生が各学期毎に取得したクラスのそれぞれについて授業評価を行うことが義

務付けられている。これらの評価から得られた情報は、教育手法の改善に役立てられてい

る。

7 相互評価(peer review)システムを採用しているか? 採用している場合、どのよう

に機能しているか?

 相互評価システムそれ自体はない。ABA(American Bar Association)が、資格認証シ

ステムをもっており、ロースクールの監督を行っている。ABA は、認証を与えたロースク

ールが遵守しなければならない基準を公表している。

8 平均すると学生は一日何時間勉強しているか?

 1時間のクラスに対して 2時間の勉強をするように指導している。

9 授業時間以外で学生が自習することを促すために何か特別なことをしているか?

 1 年次生に対してはソクラテス・メソッドを用いている。この方法では、学生は授業中

にランダムに質問される。もし指名されて質問に答える準備ができていない場合には、か

なり恥ずかしい思いをする(humiliating)ことになる。このようにして、学生は、1 年次

生の間に、授業のために予習することが自分の利益であるということを学ぶ(報告者注:

この回答にいうソクラテス・メソッドは広義で用いられており、またランダムな質問の方

法がとられるかどうかは教員によって異なっている。)。

10 法曹を育成するのに3年間で十分であると考えるか?

十分である。実際、ABA は、J.D.(Juris Doctor)を取得するための 2 年間のコースに

ついて検討している。

11 ロースクールを中途退学する学生は何名か?

昨年は、620 名の J.D.過程の学生のうち、2 名の学生が中途退学した。これは例外的な

36

数字ではなく、平均すると 1年に 2名から 5名が中途退学する。

12 科目のいわゆる「重要度」によって学生の態度に違いがあるか?また、教員の態度

には違いがあるか?

 学生は、1 年次の科目や法曹資格試験に関連する科目を、ロースクールの科目の中でも

難度の高い科目であると考えている。それゆえ、それらの科目についてはとても熱心に勉

強している。

 教員は、1年次生の科目ではなくて、上級年次(2年次・3年次)の科目を教えることを、

一種の特権であると考える傾向がある。新任の教員は、1 年次の科目を教えることを要求

されることが多い。年数を重ねると 1 年次生の科目や法曹資格試験関連科目を担当するよ

うになり、先任権(seniority)を得ると、上級年次の科目を担当することが許されるよう

になる。

13 学生の卒業後の就職を援助するためにどのような体制がとられているか?

 USC では、他のトップ・ロースクールと同様に、学生にとって Career Service Office

が在学中の全般にわたって重要な組織になる。詳細は下記ウェッブサイトを参照のこと。

http://lawweb.usc.edu/admissions/carserv/

学生にとっては、学生生活の開始と同時に、Career Service Officeと協力してレジュメ

の準備、就職相談、オンキャンパスやオフキャンパスのインタビューなどをこなしていく

ことになる。

14 法曹資格試験に合格する学生の割合はどの位か? 法曹資格試験は難しいと考える

か? 学生は法曹資格試験を難しいと考えているか?

 カリフォルニア州の法曹資格試験は大変難しい試験であり、学生も、同様に考えている。

以下は、2005 年 7 月にカリフォルニア州法曹資格試験を初めて受験した学生の各ロース

クールごとの合格率である。下記ウェッブサイトを参照のこと。

http://www.calbar.ca.gov/calbar/pdfs/admissions/Statistics/JULY2005STATS.pdf

USC 82%

UCLA 89%

Stanford 88%

UC Berkeley 87%

UC Hastings 84%

37

15 BAR/BRI などの試験対策予備校についてどのように考えているか? 試験対策予

備校の教育による、ロースクールの教育への影響があるか?

 USC では学生に試験対策予備校に通うことを勧めている。特定の試験対策コースを勧め

ているわけではないが、多くの学生は最大手の予備校である BAR/BRI のコースを取って

いる。

16 卒業生組織は活発に活動しているか?

 私たちの同窓会組織の社会活動は非常に積極的で、交流促進活動に関わっている。例え

ば、現役の学生のメンター(mentor)となるボランティア活動や、新入学生歓迎会の援助、

学生組織に対するボランティア活動などを行なっている。

38

(別紙 2-2)

Mr. Matthew Shakespeare * 及び Mr. Eric I. Wang **からのヒアリング内容

* Director of Graduate Relations

** Associate Director of Graduate Relations

(質問) 卒業生との関係を発展させることの重要性について。

(回答) 当校のような私立学校にとっては(州立学校に比べて)卒業生からの資金を集

めることが重要である。但し、UCLA のような州立大学も、最近は州からの資

金援助が少なくなる傾向があり、資金集めの重要性が高まっている。

(回答) 学校としての使命について理解を得ることにより、卒業生から資金を得ること

ができる。

(回答) 1920 年代(またはその少し前)に所得税の“Charitable Deduction”の制度

が導入されて以来、寄付が盛んに行われるようになった。

(回答) 予算を組む上で、寄付金は、予算に含まれている。既に集めた資金による 1 億

ドル程度の基本財産(endowment)があり、これを信託して、収入を得てい

る。また、より小さな金額ではあるが、毎年集めた寄付金(donation)をその

年毎に使っている。なお、基本財産(endowment)の使途は限定されている。

(回答) 卒業生個人、法律事務所、企業等から寄付を受けることができる。当校と本来

的には関係のないところからも、寄付を集めることができるよう努力している。

(回答) 卒業生からの寄付金集めについて、寄付に応じてくれる卒業生の人数及び寄付

の額は、卒業生の当校に対する満足度を反映している。「顧客満足度」に類似

している。“US News and World Reports”のランキングも重要である。現在

当校のランキングは 18位である。

(質問) 景気が悪くなったときに寄付金の額に影響は受けないのか?

(回答) 米国でも、景気が悪くなれば寄付金の額も少なくなる。

(回答) 赤字になってしまったときには、まず、特定のプログラム(コース)をクロー

ズするなどして、支出を削減することにより対応する。それでも足りない場合

には、基本財産を取り崩すことによって対応するしかない。基本財産には、そ

れぞれ、用途についての制限があるので、取り崩しは容易ではない。実際に、

赤字のために基金をとり崩したことはない。

(回答) 当校は、赤字を学費の値上げで埋めようとはしていない。当校において、学費

がカバーするのは全体の支出の 3分の 2程度である。

(回答) 当校の学費は既にトップクラスの他のロースクールの学費と同レベルになって

おり、これ以上学費を上げると、優秀な生徒を獲得するという目的上、支障が

39

生じるおそれもある。学費を上げた結果優秀な生徒が来なくなり、ランキング

が下がれば、優秀な生徒を獲得するのが更に難しくなるという悪循環に陥る可

能性もある。なお、UCLA は最近学費を上げたが、それは州の決定によるもの

である。

(質問) 卒業時に債務が残る問題と、(寄付金の原動力となる)「大学への感謝の気持

ち」との関係について。

(回答) 卒業生には寄付を一方的に求めるのではなく、若い卒業生の集まりその他各種

の催しを行って、卒業生としての意識を高めている。

(回答) 高校や学部も、同様の資金集めも行っており、ロースクールは、そういったと

ころとも資金集めの面での競争をしている。いかに、「当校から恩恵を得てい

る」と感じてもらうかが大切である。

(質問) ランキングを上げることで、お金も集まるし、教授その他への投資も可能にな

るとのことであるが、ランキングを上げるために、教育面に(例えば法曹資格

試験合格率その他についての)プレッシャーはかけているのか?

(回答) 「法律家としての質の高い学生」と「合格する学生」は別物であり、最初の学

期の終りまでに、試験合格との関係で問題がありそうな学生を見つけ、1 年目

の春のコース(報告者注:1 年生の後期)から、追加的な補習コースに参加さ

せて、ライティングのトレーニング等をする。

(回答) このような補習コースには、どの学生でも参加可能である。成績の不十分な学

生については、状況によって、参加が推薦され、または要求される。

(回答) このような補習コースは、昨年始まったばかりであり、2007 年の法曹資格試

験で成果が評定される。(報告者注:2004 年入学者について、2005 年の 1 月

頃から始まる学期から始まったという趣旨と思われる。)

(質問) 就職に際して、OBが法律事務所にいることは有利に働くか?

(回答) 卒業生が存在することは、就職に際して有利に働く。たとえ、大事務所であっ

てもそうである。それゆえに我々の部門は、卒業生と在学生をコネクトする作

業を積極的にしている。

(回答) 卒業生と在学生をコネクトすることは卒業生と在学生の双方にとって有益であ

る。

(回答) 「メンター・メンティー・ランチ」(Mentor-Mentee Lunch)という催しをし

ている。メンターとしての卒業生とメンティーとしての学生を引き合わせる行

事である。遠隔地で実施するのは困難なので、主として、ロス・アンジェルス

にいる卒業生をメンターとしている。

40

(回答) “Law Alumni Mentor Program”も準備中である。メンターとなることに前

向きな人の名簿を作り、それをオフィスに保管し、学生がメンターを探せるよ

うにする予定である。

(回答) ネット検索可能な名簿(on-line directory)を作成することも検討している。(報

告者注:NYU ロースクールでは、数年前からこのようなネット検索可能な名

簿が、卒業生向けのサイトにおいて稼働している。) しかし、ネット上で名

簿検索ができるようにしたり、ネット上でチャットができるようにしたりして

も、成果の上がっていない大学もあり、そのような努力をすれば卒業生との関

係を発展させることができるとは限らない。

(質問) 特別な卒業生団体もあるのか?

(回答) 200ドルを年会費として払う私的な卒業生団体も 3年前まではあった。しかし、

行事も年 1回の夕食会程度であり、参加者が減ってきたために、廃止された。

(質問) 学生は就職をどのように探しているか?

(回答) 上位 30~40%の学生は 3 年生になる直前の夏休みにサマー・ジョブを得て、

それにより、就職していく。成績の悪い学生は、検察等の公的部門で働くとい

った形で就職を探すことができる。成績の良い学生で、検察等に就職する者は

稀である。なお、サマー・ジョブを得るためには、2 年生になる直前の夏休み

に法律事務所のインタビューを受けることになる。

41

(別紙 2-3)

Ms. Julia Castellon Cogan*からのヒアリング内容

* Director of Admissions

(質問) 数千通の申請書を審査して入学許可を出す作業は大変ではないか?

(回答) 大変な作業であるが、私だけではなく 2人の Assistant Directorもおり、また、

2人のアルバイトの学部学生もいる。

(回答) 書類審査は 2回から 3回行う。第 1回審査は Assistant Directorが行い、第 2

回審査は私が行う。第 2回審査は、第 1回審査で入学不許可とされた者に限る

わけでなく全員について、私が行っている。

(回答) 明らかに入学許可を与えるべき出願者及び明らかに入学許可を与えるべきでは

ない出願者については、上記の 2 回の審査により、入学許可・不許可を最終決

定する。一方、判断が微妙な出願者(典型的な例としては、GPA 及び LSAT

の点は若干悪いが、積極的に評価できるその他の事由がある出願者がこれにあ

たる。)については、上記の 2回の審査に加えて、3回目の審査を行う。この 3

回目の審査は入学審査委員会(Admission Committee)により行われる。同委

員会は 9人の正規教員(faculty member)、入学審査担当副学部長(Associate

Dean for Admission)、私、即ち、入学審査課長(Director of Admissions)及

び学生代表 1 名により構成されている。学生代表が入学審査委員会に入ってい

ることは当校の特色である。当校は、学校運営に積極的に学生を参加させると

いう方針をとっており、それを反映している。

(回答) なお、昨年の場合には、約 6000 人の申請者から約 1200 人に合格通知を出し

て、そのうち、入学したのが約 200人だった。

(質問) 指数化評価をしているか?

(回答) 指数化はしていない。全体的判断をしている。従って、主観的判断となる。判

断にあたっては、学校にとって、どのような学生が良いかということを考慮す

る。

(質問) 第 1回審査者が 2人いることによる判断のバラツキをどのように処理するか?

(回答) 第 1 回審査者により、コメントシート(客観情報と審査者コメントが記載され

た紙)が作成される。第 2 回審査においては、コメントシートを見ながら審査

を行う。担当者と意見交換をすることもある。採否が微妙な学生については、

入学審査委員会により判断される。これにより、完全とは言えないが、判断の

バラツキに対応できる。

42

(質問) どのような学生が理想的か?

(回答) 個人調書(personal statement)は重視する。GPA が高ければ、学部での専

攻内容にかかわらず有利である。実際に志望者をよく知っている人から、良い

推薦状が来れば、有利である。

(回答) LSAT と GPA のどちらを重視するかということは、答えにくい質問である。

しかし、GPAは 4年間のコースを反映しているという意味で、1日の試験を反

映している LSAT よりも価値が高いのではなかろうか、と個人的には思ってい

る。

(回答) 大きな大学から来る推薦状には、信用性が低いものも多いということは認識し

ている。教授が大きなクラスを持っているからである。判断に際して推薦状に

どの程度ウェイトを置くかということで対応する。また、推薦者に確認メール

を送ることもある。推薦状には通常レターヘッドがついているので、メールア

ドレスが分かる。状況によっては、面接をすることもある。

(質問) 自然科学系から来る学生の比率はどの程度か?

(回答) 具体的な数字は手元にはないが、多分 10%未満だと思う。

(回答) 理系の学生は特許に興味を持っている場合が多い。

(質問) LSATについて。

(回答) LSAT と GPA はロースクールの 1 年目の成績を予測する上では有益であると

思うが、法曹資格試験の合格率とどれほどの関連性があるかは必ずしも明確で

はないと思う。

(質問) ロースクールの 1年目の成績と法曹資格試験の合格率の関連性について。

(回答) それについては知識を持っていない。

(質問) 昨年の場合には、約 1200 人に合格通知を出して、そのうち、入学したのが約

200人だったとのことだが、合格者側の選択の主眼は何であると考えるか?

(回答) ランキングとも関係があるが、何よりも「返還義務のない奨学金」が決め手に

なっていると考える。もっとも、残念なことではあるが、深い検討をせずに、

ランキングに左右される傾向が特に若い学生にはある。また、就労経験のある

者は、「返還義務のない奨学金」にそれほど左右されない傾向もある。

(回答) 「返還義務のない奨学金」には資力の乏しい学生向けのものと資力に関係なく

優秀者に与えられるものの二種類がある。

43

(質問) 入学者の出身地構成について。

(回答) 15~20%が州外からの学生だと思う。私学なので、比率規制はない。UCLA

等の州立学校は州内学生を優先する必要がある。しかし、当校では、入学許可

審査において、出身地は重要性を持たない。

(質問) 入学者の性別構成について。

(回答) 通常は、特段の考慮をせずに、入学審査を行っている。極端な偏りがあるのは

問題だが、若干の偏差が生じることは特に気にしていない。

(質問) 出願者の年齢を入学審査において考慮しているか?

(回答) 働きながらの就学を希望するようなパートタイムの学生についても通常と同様

の基準で入学審査をしている。パートタイムで 4 年以上かけて学習する場合も

あり、違うペースで学習しているにすぎないと考えるからである。

(質問) 「返還義務のない奨学金」決定時期と入学許可の時期との関係は?

(回答) 最初に入学許可手続があって、その後に「返還義務のない奨学金」の申請手続

きがある。

(質問) 貸与奨学金について。

(回答) 政府ローンの制度がある。年額 18,500 ドルである。補助金を受けているその

他のローン制度もある。私的ローン(例えば、銀行ローン)もある。公的ロー

ンにおいては、金利は 8%以下に設定しなければならないものとされている。

44

(別紙 2-4)

Professor Edwin Smith *、Professor Niels Frenzen **、Mr. Stephen Yamaguchi ***

及びMs. Deborah Call ****からのヒアリング内容

* Professor, Academic Director LL.M. Program

** Clinical Professor

*** University Counsel

**** Assistant Dean

注:以下、「S 回答」、「F 回答」、「Y 回答」とあるのは、それぞれ、

Professor Edwin Smith、Professor Niels Frenzen、Mr. Stephen

Yamaguchiからの回答を意味する。

(質問) 臨床教育には二種類のタイプがあると理解しているが?

(F回答) Clinical Courseでは実際の案件を扱い、Trial Advocacy Courseではシミュレ

ーションである。私が担当しているのは実際の移民法(immigration law)の

案件を扱うコース、即ち Clinical Courseである。

(F回答) カリフォルニアの州裁判所ではロースクール生向けの臨時資格の制度がある。

連邦裁判所にも、臨時資格についてのルールがある。私の移民法クリニックで

やっているのは、連邦裁判所のうちの Immigration Court で手続を行うもの

で、学生は、連邦裁判所のルールに基づいて別途に資格を申請する必要がある。

(F回答) 臨時資格の下、全ての活動には指導弁護士による監督が必要である。そのため、

例えば、私のクリニック・コースにおいては、裁判所向けの文書には全て指導

弁護士のサインと学生のサインがある。ただ、必ず両方のサインがなければな

らないかという点について、ルールはそう明確ではない。

(F回答) 私のコースには 8 人の学生が参加している。私のコースにおける指導教員は私

だけである。1 人の指導教員に 8 人の学生までというのが USC のルールであ

る。ロースクールの資格認定(accreditation)を行う ABA(American Bar

Association)にも、人数についての規定があり、確か 15 人とか 20 人が上限

だったと記憶している。

(質問) いわゆる伝統的なソクラテス・メソッド(Socratic method)は変容しつつあ

ると聞いているが?

(S回答) 私がロースクールの 1 年次生(1L)だったときには、まさに、映画“Paper

Chase”の世界で、とても大変であった。(報告者注:“Paper Chase”は、ハ

ーバード・ロースクールを舞台としたものであり、厳しい質問を容赦なく学生

45

に投げかけて、屈辱感を味わせるような契約法の教授が登場する。)

(S回答) 私の契約法のコースには 73 人の学生がいる。週 3 回あり、内 2 回が 90 分授

業、残り 1回が 60分授業である。

(S回答) 私は特定の学生をあてて質問をするが、事前に「どんな答えでも価値がある」

と学生に伝えてある。誰をあてるかは学生には事前に教えない。「教室でのパ

フォーマンスが成績評価において評価されることがある。」とシラバスには書

いてあり、実際に評価するかどうかは曖昧にしてある。実際には、教室でのパ

フォーマンスはあまり評価しないことが多い。但し、そもそも欠席が多い場合

は別である。

(S回答) 以上を総括すれば、学習支援・促進的方法としてのソクラテス・メソッド

(Socratic method as a supportive and encouraging method)である。

(S回答) 成績よりも、教室で授業に参加するということが学生にとってのインセンティ

ブになっている。

(質問) USC-Law で採用されている教育方法について事前に質問した際に 、学生に

とって“humiliating”(屈辱的に感じる)という表現の説明を受けたが、どの

ようなニュアンスか?

(S回答) あてられた質問にうまく答えられないことは、学生にとっては “humiliating”

である。実際に、うまく答えられなかった学生が、授業の後で、謝りに来て、

もう一度発言のチャンスを下さいと言ってきたことがある。

(質問) 73人のクラスということだが、大きすぎて、教えにくくはないか?

(S回答) 規模が小さいクラスの方が容易に教えることはできることは確かである。しか

し、70 人位までは問題ない。また、大きなクラスだと、一人が上手に答えら

れないときには、速やかに次の学生に発言させることもできる。具体的には、

私の場合には、「この(学生の)意見に皆は同意しますか?」と教室の全学生

に問いかけて、別の意見を求めたりする。

(S回答) あてた学生が「準備をしてなくて、答えられません。」ということもあるが、

これは、学生にとって、最もバツの悪い経験となる。先ほどの、“humiliating”

という言葉は、まさにこのような場合にぴったり当てはまる。

(質問) 実務経験がない教員も多いという話だったが。

(F回答) USC の教員には、そもそも法曹資格試験を受けていない者が多い。法曹資格

試験は良い法律家であるか否かを判別するテストではない。

(S回答) トップ・ロースクールでは、どこでも、多くの教授は法曹資格試験を受けてい

ない。

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(S回答) 具体的には、J.D.を卒業して、すぐに教員になるのではなく、J.D.を卒業して

別の学位をとってから、教員になる。J.D.を卒業してから仕事をする場合にも、

法律事務所に入るとは限りない。

(S回答) 裁判官のクラーク(clerk)をしてから教員になる者も少なくない。連邦裁判

所裁判官のクラークであっても州裁判所裁判官のクラークであっても、裁判官

がその学生が適任であると判断すれば良いのであって、法曹資格試験を受ける

必要はない。

(質問) 教員になるためには、法曹資格試験を受けるのは時間の無駄ということか?

(S回答) そうは言わないが、緊急性がない課題である。

(質問) 法曹資格試験によって、良い法律家か否かを測るべきだという要求は出ないの

か?

(S回答) そもそも、法曹資格試験は良い法律家であるか否かを判別するテストではなく、

「最低限の水準」を備えているかどうかを判断する手段にすぎない。「良い法

律家かどうか」を試験でどうやって判断するのか?

(Y回答) 例えば、すでに実務を行っている弁護士であっても、良い法律事務所でパート

ナーをしているとかそういうことは分かるが、それが「良い法律家かどうか」

を判断するのは困難である。

(F回答) 法曹資格試験は、記憶を試す試験になってしまっており、一方、実際には、そ

の記憶に頼って実務をしているわけではない。

(F回答) ロースクールでの成績も、「最初の職」を得る上では重要であるが、法律事務

所に入った後のパートナーへの昇進や、弁護士としての成功とは必ずしも連動

しない。

(Y回答) 弁護士人口を調整しようとして、カリフォルニアで法曹資格試験の合格率を下

げようとした動きがあったとき、それに反対する者は「最低限を満たしている

かどうか」を測ることが法曹資格試験の目的であって、良い弁護士かどうかは

市場が選別すべきだと主張した。

(Y回答) カリフォルニア州で以前に実務科目が導入されたときに、「導入の目的は合格

率を操作するためではないか?」との疑念が出されたりもした。

(質問) ロースクールの教育と法曹資格試験の関係について。

(S回答) ケースブックで選択する案件や論点は法曹資格試験に対応したものではない。

ロースクールのコースは、学生に、法曹資格試験の準備をさせるものではない。

少なくとも、レベルの高いロースクールではそうである。

(S回答) 州毎の法曹資格試験であり、州毎に法も異なるから、そもそも全国的に通用す

47

る試験対策をロースクールが提供することは不可能である。その意味で

BAR/BRI は、隙間をうまく埋めている。彼らは彼らの仕事を上手に行ってお

り、分業が成立している。BAR/BRIに行かない学生はいないのではないか。

(質問) BAR/BRI のようなコースを 3 年次のときから受けるという現象がもし生じる

としたらどう思うか?

(S回答) 3年次に準備を始めることを学生には勧めていない。

(質問) ロースクールの教員と実務家との違い・職業の選択について。

(S回答) 実務家から教員への転身については、全く後悔していない(報告者注:Smith

教授は 3 年間実務をされた後で教職に移られている)。1976 年に私がビバリー

ヒルズでアソシエイトになったときに、請求対象時間(billable hours)の要

求が年間 1750時間だったのが、今や年間 2200時間になっている。

(Y回答) 1980年代に N.Y.の事務所が L.A.に多く進出して競争が厳しくなった。

(S回答) まさに、そのために、請求対象時間についての要求が厳しくなったのだと思う。

もしも息子に勧めるなら、弁護士よりも教職の方が良いと言うだろう。

(質問) University Councilとは?

(Y回答) 私は、大学の法務部門(Office of the General Counsel)で、学内弁護士

(University Counsel)として働いている。社内弁護士のような業務を行って

いる。但し、講師としてもロースクールで教えている。(報告者注:Yamaguchi

先生はもともと Paul, Hastings, Janofsky & Walker LLP のパートナー弁護

士であったが、数年前に USC-Lawに来られたとのことであった。)

(Y回答)講師として教えている科目(legal writing)は厳しい科目なのであるが、office

hour に学生が来ることはあまりない。学生は主としてアジアからの外国学生

であるが、あまり office hour に来ない。一方、J.D.の米国人学生は列を成す

ほどに office hourを活用する。文化的違いがあるのではないか?

(質問) 日本での法学教育と、その変化について。(報告者注:Yamaguchi 先生は 10

年ほど前に日本の小松狛法律事務所で 2 年間勤務をされた経験をお持ちであ

る。)

(Y回答) 2%という低い合格率のために、「優秀なのに法曹になれない人が米国の LL.M.

(Master of Laws)に留学して米国で資格をとって、日本で法律職につこうと

する。」というような状況もある。合格者を増やすことは、このように優秀な

人が弁護士になれないという状況を改善するというのみならず、日本のビジネ

スを変え、日本の国際的競争力の強化にもつながるのではなかろうか。

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(質問) アメリカの学生はいわゆるソクラテス・メソッドについてどのような印象を持

っているのか?

(回答) アメリカにおいても、“Paper Chase”や“One L”といった映画や小説によっ

て、「ロースクールでは厳しいソクラテス・メソッドで、恐ろしい教育が行わ

れている」というステレオタイプ的認識を持った学生が多い。(報告者注:“One

L”はハーバード・ロースクールを卒業した作家 Scott Turowの自伝的小説。)

(回答) また、逆に、口が達者だと、弁護士に向いているというステレオタイプ的認識

を持っている者も多い。

49

(別紙 2-5)

「物権法」授業参観

参観対象授業:1年生向け物権法(Property)

担当教員:Professor Scott Altman

参観状況

長方形の教室の長辺に教壇があり、教壇

の前に緩やかな扇型に 5 列の長机の学生席が

配置されている。

学生の座席には場所によっては電源コン

セントがあるが、各座席に装備されているわ

けではない。

学生は、ノートブック・パソコンを使用し

てノートを取る者が大半(9 割またはそれ以

上)である。

出席学生数は 70 人~80 人程度で、ほぼ、満席状態であった。なお、出席の管理は厳

格ではないようであり、6~8 人の学生が 5 分~13 分程度遅刻して入室したが、特に注

意を受けることはなかった。

Altman教授は授業開始前に板書を一通り済ませていた。(授業のテーマについての、

表や論点一覧が板書された。)

授業は講義形式で進められた。但し、Altman 教授は、講義の節目節目(数分に 1 回

程度の頻度)に質問の有無を学生に確認し(「(何か)質問は?(Question?)」という程

度の軽い質問。)、学生からの質問を積極的に引き出そうとしていた。また、学生は随時

質問をすることができるものとされているようであり、教授の上記の問いかけがなくて

も、学生が頻繁に質問をした。一般に学生からの質問は、授業の流れに沿った簡潔なも

のであり、授業の流れが妨げられることはなかった。学生からの質問の具体的頻度は、

前半の 30 分間で 10~12 回程度であった。学生が良い質問をした場合に、Altman 教授

が、「良い質問だ!(What a good question!)」と言って、解説をする場面もあった。ま

た、学生が的外れの発言をした場面もあったが、Altman 教授は、穏やかに間違いであ

ることを簡潔に指摘したのみであり、それは、学生が間違ったことを恥ずかしく感じる

ことがないような態様であった。

総じて、教授は、学生からの質問を促進するように意を払っていることが伺われた。

特記すべきと思われるのは、学生の質問方法であり、「授業の流れに沿った質問」、つ

まり、「クラス全員に有益と思われる質問」を提起しようという意識が学生に共有され

50

ているのではないかと思われた。(この点については、担当教員及び学生からのヒアリ

ング結果(別紙 2-6及び別紙 2-7)参照。

なお、教授が「学生をあてて、質問を行い、回答を求める」ということはなかったが、

学生全体に質問を投げかけ、それに対して、自発的に学生が回答するということも何回

かあった。

(補足1)授業は 50 分間であったが、授業終了後、1 人の学生が教壇に来て、教授

に比較的長い質問をし、それについて、教授が解説をしていた。

(補足2)授業参観の後に、担当教員の Scott Altman教授からヒアリングを行った。

(別紙 2-6参照。)

51

(別紙 2-6)

Professor Scott Altman * からのヒアリング内容

* Professor and Associate Dean

報告者注:ヒアリング対象者である Altman 教授の授業を参観した

直後のヒアリングである。授業参観の状況については別

紙 2-5参照。

(質問) 先ほどの授業では「学生をあてて質問に答えさせる」という方法を用いていな

かったが、そのような方法は通常とっていないのか?

(回答) 今日のテーマは、学生に構造を理解させることを目的としていたので、このよ

うな授業方法をとった。不動産、遺言等といった、より上級のコースでは、学

生にディスカッションをさせることがある。

(回答) 先ほどの授業は、物権法の基本概念を教えるコースである。より上級のコース

(不動産、遺言等)は 2年次以降の選択科目として残されている。

(回答) 以上は、私個人の方法についての話であり、他の教授の中には、学生をあてる

者もいると理解している。

(回答) 科目の性質として、1 年次の物権法は、基本概念及び構造を学生に習得させる

ことが目的であり、深く掘り下げるようなことはしない。それは、上級のコー

スで行うことである。

(質問) 「学生に質問を答えさせる」ことと「学生に質問をさせる」ことのどちらを重

要視しているか?

(回答) 「学生に対して教授が質問をする」ことも「学生に質問をさせる」ことも両方

重視している。

(回答) 「学生に質問をさせる」ことは、理解度を測る上で有益である。また、若い法

律家が衆目の中で発言・議論をする技術を高めることに役立つと考えている。

(回答) 授業において裁判例を扱うときにも、学生に事案の概要を説明させるのではな

く、自分(教授)が事案の概要を簡潔に説明する。物権法においては、複雑な

ケースが多いので、学生にそのような説明をさせることが不適切な場合が多い

からである。

(回答) 1 年次の物権法については、今説明した通りである。また、不動産、遺言等の

2 年次以降の上級の科目では、そもそも、学生が事案を事前に読んで理解して

いることを前提にしているので、授業では事案説明をしないし、学生に事案説

明をさせることもない。

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(質問) 学生に事案の概要を説明させることは、教育上有益だとは考えないのか?

(回答) 学生に事案を説明させることが良いことだとは考えていない。

(質問) 学生からの質問が、授業を阻害せず、むしろ促進するようなものであり、学生

の質問の技術が高いと感じた。1 年次の秋学期(報告者注:前期に相当する。)

からこのように技術が高いのか?

(回答) 1年次の秋学期は教えていないので分からない。1年次の秋学期には、学生が、

まだ慣れておらず、ナーバスになっているかもしれない。

(回答) ただ、ときには頻繁に手を上げて授業の進行を妨げるような質問をする学生も

いる。そのような場合には、クラスの皆にも意味がある、授業内容と関連性が

高い質問をするように指導していく。また、質問に対して授業で答えることが

不適切な場合には、後でメールで質問するように、または、後でオフィスに来

るように指示する。

(回答) 教室外の質問の方法については、オフィスでの質問も可能であるが、メールで

の質問を、より推奨している。オフィスアワーは週 1 回である。オフィスに学

生が来ることはあまりない。(報告者注:メールでの質問を推奨しているので、

オフィスに学生が来ることはあまりないという文脈での発言である。)

(回答) メールでの質問については、簡単に解説をする内容のメールを返すこともあり、

また、教室における後日の授業で回答する旨を返事することもある。

(質問) 遅刻について。

(回答) 遅刻は気にしない。うるさくて授業の邪魔になるようなら注意する。

(質問) クラス分けについて。

(回答) この物権法のクラスに登録している学生は 75人である。

(回答) 3 人の教授で 3 つの物権法のクラスをそれぞれ分担している。物権法は必修で

あり、200 人の学生を 3 つのクラスに分けている。教授の数が少ないときには

クラスが 2つしかないこともあり、1クラスの学生が 100名を超えたこともあ

った。

(回答) クラス分けにあたっては、単なるアルファベット順ではなく、ジェンダーや、

成績等を考慮している。

(回答) 教授の質が違うということについて、学生からの文句が出ることはある。クラ

ス毎に内容が違うことについては、他の物権法のクラスの教授と積極的に意見

交換をして情報を共有するようにしている。但し、内容を統一しようとはして

いない。使用しているケースブックも教授ごとに異なり、3 クラスで共通とい

53

うわけではない。現在、2 つのクラスは同じものを使っているが、他の 1 つの

クラスは別のケースブックを使っている。

(質問) 学生にどの程度の事前予習を要求しているか?

(回答) 私のアサイメントは 15~20 頁程度であり、他の教授に比べて少ない。40 頁程

度のアサイメントを出す教授もいる。

(質問) スタディ・ガイドについてどう思うか?

(回答) スタディ・ガイドについて、特に気にしていない。スタディ・ガイドが役立つか

どうかは私には分からない。少なくとも物権法については、多くのスタディ・

ガイドには少なからず問題がある。他の科目には、良いものもある。

(質問) 講義形式とソクラテス・メソッドの功罪について。

(回答) 講義形式とソクラテス・メソッドを比べると、前者には口頭で議論をするとい

う法律家としてのスキルを鍛えられないという弱点があり、後者には進みが遅

いという弱点があると思う。

(回答) ソクラテス・メソッドの中でも、学生にことさらに恥をかかせる(humiliate)

ような方法には、良い点は全くない。

(質問) 全く発言をしない学生もいるが、発言を求めたりはしないのか?

(回答) 明らかに、全く発言をしない学生もいる。学生に発言をするように促すことは

あるが、発言をしていないからといってあてたりはしない。折角高い学費を払

っているのにもったいないことだ。

54

(別紙 2-7)

USC-Law学生からのヒアリングの内容

一、ヒアリング対象者:

1. A氏、B氏:J.D.(Juris Doctor)課程の 2年次在籍の米国人学生

2. C弁護士、D弁護士:LL.M.(Master of Laws)課程在籍の日本人留学生

3. E氏:V.I.P.(Visiting International Lawyer) 課程在籍の日本人留学生

(補足)個人的な事柄についてもインタビューに応じて頂いたため、ここでは匿名にさ

せていただきます。貴重な時間を割いて私たちの調査に協力してもらえたことに深く感

謝いたします。

二、J.D.課程の 2年次在籍の米国人学生へのインタビュー内容の要旨

1.ロースクールの選択基準について

(A回答) USC-Law からは返還義務のない奨学金(scholarship)得ることができなかっ

た。返還義務のない奨学金を得ることができたロースクールも他に複数あった。

しかし、USC-Law には有名な教授が多数いた。私は、ロースクールの教授に

なりたかったので、このような良いロースクールを選ぶ必要があった。トップ

クラス(1st tier)のロースクールに入らなければ、ロースクールの教授には

なれない。

(A回答)教員志望の学生は USC-Law であってもとても少ない。企業法務志望の学生が

多い。

(A回答)奨学金を得られなくても、USC-Law を卒業して、法律事務所に就職すればす

ぐ返すことができるので、そう重要な問題ではないと思う。

(B回答)しかし、USC-Law を卒業しても、法律事務所、大会社等に就職できるとは限

らず、高い給料を得られるとは限らない。

(B回答)私の場合には、地元がカリフォルニアだった。ミシガン大でテレコミュニケー

ションの修士の資格を得たが、ミシガンは寒すぎたので、ロースクールは地元

のカリフォルニアにしようと思った。UCLAのロースクールと USC-Lawから

入学許可を受けることができた。しかし、返還義務のない奨学金については、

USC-Law から学費の相当部分をカバーできる額のものについてオファーを受

けた。その奨学金を考慮しても、当時は、UCLA のロースクールの方が学費は

安かったのであるが、当時、UCLA のロースクールについては大幅値上げの可

能性が懸念されており、そこで、予測可能性の高い USC-Law に入ることにし

た。なお、当時、UCLA のロースクールの学費は州内学生で年 12,000 ドル程

度、USC-Lawの学費は年 35,000ドル程度だったと記憶している。

55

2.J.D.課程の 1年次の授業のスタイルについて

(B回答) Ronald R. Garet教授の 1年生向けの憲法の授業では、講義、質問、模擬裁判

(moot court)の組み合わせをとっている。模擬裁判は月に 1回程度である。

なお、私自身は、彼の授業は受けなかったが、現在、彼の学生助手をしており、

授業の準備を手伝っている関係で良く知っている。

(B回答)私が 1年生のときに授業を受けた不法行為法(Torts)の Scott H. Bice教授は、

写真つきの学生名簿を持っていて、どんどん、学生に質問をあてた。ちなみに、

彼は、元学部長(Dean)である。

(A回答)私も Bice 教授の不法行為法の授業を受けた。学生にあてて、学生と少し議論

をするという具合であった。

(B回答)ソクラテス・メソッドをとる先生の場合には、学生から答えを引き出すのが上

手な先生もいれば、学生に理解できないような質問をしたり、学生が何を答え

ても「違う」と言うような先生もいる。学生から答えを引き出すのが上手な先

生の場合には有効な手法だと思う。

(A回答) Bice 教授は、ソクラテス・メソッドによる授業をするのが非常に上手である。

もちろん、他にも上手な教授もいる。“Paper Chase”の映画を撮るときに、

ハリウッドの監督が聞きに来たという話もある。

(A回答)ソクラテス・メソッドは予習を強制する効果がある。

3.スタディ・ガイドの使用について

(B回答)スタディ・ガイドについては、どのようなものを使うとその先生の授業との関

係で良いかを事前に調査をした。授業の準備ではなく期末試験のために使う。

典型的には、“Emanuel”、“Gilbert”、“Legaline”、“Nutshell”、“Examples and

Explanations”その他多様である。期末試験と授業の準備としての毎日の勉強

の内容が対応していない教授が多いので、期末試験用にスタディ・ガイドを使

う必要が生じる。

(B回答)具体的には、試験に対応するために、日々の授業の後に、または試験前に、学

生が自分用のアウトライン(報告者注:授業内容を整理してまとめたもの)を

作る必要がある。これを作る際に、分からないところをスタディ・ガイドで補

ったりする。

(B回答)また、1 年目には、裁判例を読んで、裁判例から規範を引き出す訓練を多くす

るが、試験は事例問題で、普段の学習内容と直接的にリンクしていない。普段

習ったのと同じ知識が聞かれてはいるのだが、問い方の角度が違う。これにつ

いて、1年目の学生には不満もある。

(A・ B回答) 期末試験では、事案に授業で得た知識を当てはめて、良い答案を書くこ

56

とが必要になる。このような当てはめの訓練を授業ではしない。

(A・ B回答) 試験は例えば、3時間で論述を3問というものもあるが、一部を選択問

題になっている場合もあり、また、時間も教授により異なる。自宅持ち帰りテ

ストの場合もある。

4.学生の学習態度について

(B回答)不真面目な学生もいる。

(B回答) Legalinesとかを読めば単位は取れるだろう。

(A回答)落第する人は非常に少ない。落第したら、大体、中退する。

(B回答)卒業後の就職との関係では、サマー・ジョブを得ることができれば、概ね就職

を確保することができる。従って、その意味では、2 年次以降の成績等は問題

にならないというのは正しい。しかし、将来の転職のことや、裁判官のクラー

クになる可能性を考えれば、2 年次、3 年次で良い成績を残すことや、ローレ

ビューの編集に参加することには大きな意味がある。

二、日本人留学生へのインタビュー(発言者名省略)

1.志望動機について

(回答) 弁護士としてエンターテイメント・ローの分野に興味があった。USC はスタ

ー・ウォーズのルーカス監督その他の映画人を輩出している大学であり、ロー

スクールにおいてもエンターテイメント・ローの分野が強い。そこで、USC

を選んだ。(報告者注:USCはハリウッドの近くに立地している。)

(回答) 大学によっては学生の多様性維持の観点から、夫婦が一緒に入学申請しても両

方には入学許可を出さないところが少なくない。しかし、USC の場合にはそ

うではなかった。

2.J.D.の 1年次科目について

(回答) 履修していないので分からない。

(回答) 学校として、J.D.の 1 年次科目を履修することは認めているが、LL.M.の学生

には、上級コースを履修することをむしろ勧めている。

三、帰国後のメールによる質問に対する回答

(補足)帰国後、A 氏、B 氏に対してさらにメールで追加的な質問を行い、回答を得るこ

とができた。ここに訳出する

57

(質問) ロースクールでは膨大な予習量のために睡眠不足になってしまうという話を聞

いたことがあるが?

(A回答)その話は現実というよりもイメージであるが、皮肉なことに、アメリカ人もま

たそのイメージを持っていて、そのため、それが現実になることもある。

 同時に試験と課題がやってきて大変忙しくなるということもあるが、それは

非常に例外的で、ロースクールの 3 年間、睡眠を削ることなく授業の予習をす

るということは、十分に可能である。実際、私はクラスの上位 10 パーセント

内の成績であるが、睡眠時間が 8時間より少なくなることは非常に稀である。

 だが、問題は、多くの学生が、競争を勝ち抜き科目内容を習得するためには、

睡眠を削って頑張らなければならないと考えているというところにある。それ

ゆえ、かなりの割合の 1 年次生が必要以上に勉強して睡眠を削っている。しか

し、これは逆効果で、むしろ注意力を欠き、本来の実力が出せないことになる。

特に試験のときはそうである。

 ただ、イメージは現実を作り出すものであり、それに反するアドバイスをし

ても学生はなかなか聞いてくれない。USC では学生が疲弊しないように、こ

のイメージを和らげる努力をしている。USC はアメリカのロースクールの中

では最も居心地の良い方ではないかと思う。

(B回答)睡眠時間をどの程度とるかは、学生の時間配分の仕方に依存する。1 年次の学

生は、どのように学習するかという方法も学ぶ必要があるため、より多くの時

間を勉強に費やしているといえる。しかし、個人的には、ロースクールで良い

成績を収めるためにはよく眠ることが必要だと思う。ロースクールでの勉強に

はスタミナが必要であり、マラソンのようなところがある。

(質問) 1年次生と 2年次・3年次の上級年次の学生との間で、授業の予習に対する態度

について違いがあるか?

(A回答) 2 年次生や 3 年次生の中には、裁判官のためのエクスターンシップや、ローレ

ビューのノートの執筆、ローレビューの編集をする者もいる。自分の研究をす

る者も出てくる。また中には、自分の仕事をもつ者も出てくる。このような違

いによって、予習に対する態度の違いを説明できるかもしれない。

 しかし、最も大きな点は、多くの学生が、成績評価はほとんど最終の試験の

結果に基いているということを知って、どこに集中して努力したらよいのか分

かったからではないだろうか。

(B回答) 1 年次にはロースクールでの勉強の仕方から学ぶ必要がある。また、ロースク

ールの試験は、学部の試験とは大きく異なる。つまり、1 年次生は、ロースク

ールの試験は難しいと知りつつ、しかし、勉強方法がわからないという状況に

あって、それゆえ、一生懸命に頑張ることになる。それに対して、2 年次以降

58

は、勉強方法が分かってくるのでより効率的に時間が使えるようになる。

(B回答) 1 年次科目の教員はソクラテス・メソッドをよく用いるが、2 年次・3 年次の科

目は、主に講義形式やセミナー形式で行われる。少人数の講義やセミナーでな

ければ、教員が学生をあてることも少なくなる。

(B回答) 1 年次にはより強いプレッシャーがある。1 年次の成績が就職のチャンスに直

結するからである。2 年次が終わった後のサマー・ジョブを得るためには、2 年

次の前期に行われるインタビューが重要であるが、その時点では 1 年次の成績

しか出ていないからである。

USC もそうだが、優秀な学生を集めているロースクールでは、成績はその中

での相対評価ということになるので、それが初めての 1 年次生にとっては、大

きなストレスがかかることになる。

2 年次になると、仕事、サークル活動、弁護士会活動、ボランティア、ローレ

ビューの編集や模擬裁判など、授業以外に様々な活動を行なうようになり、授

業が最優先ではなくなってくるかもしれない。

3 年次になると、何に興味があるか分かってきて、興味のある科目や法曹資格

試験関連科目、クリニックを中心に取るようになる。一般には成績はあまり重

要ではなくなる。法曹資格試験の勉強や仕事を始める前に、3 年次は少しリラ

ックスしたいと考える者もいる。

(B回答)ただ、個々の学生によって異なる部分も大きい。授業に対する態度もそうだし、

成績に対する態度も異なる。仕事がなかったりすると成績を上げようとするだ

ろうし、あるいはまた、ロー・クラークや Order of the Coif を目指す学生は

トップの成績を維持する必要がある。

(質問) UCLAの Carlson教授の説明(別紙 4-2参照)では、上級年次の学生はあまり

予習をしなくなる傾向があり、それには理由がある。すなわち、1 年次で学ぶ

のは法律家的思考(think like a lawyer)であるが、2年次・3年次で学ぶのは

内容に関する知識が重要な科目である。そのため、上級年次の科目は授業を受

けずとも自分でも勉強できるので、授業を重視せず、予習をしないということ

ではないか、ということであった。この説明についてどのように考えるか?

(A回答)科目の内容の違いに大きな意味があるとは思えない。

(B回答) UCLA のことは分からないが、正しいのかもしれない。例えば USC の場合、

「贈与・遺言・信託(Gifts, Wills, and Trusts)」は標準的な科目であるが、そ

の専門の弁護士になろうとしない場合は、授業は手を抜いて自分で勉強した方

が良いと思うかもしれない。コマーシャル・アウトラインや友達から借りたア

ウトラインがあれば、勉強したり試験を受けたりするには十分であるかもしれ

ない。もちろん、担当する教員が標準的な内容を教えていて、特徴的な内容の

59

授業をしていないという前提だが。上級年次では、法に対するアプローチの仕

方を学んでいるので、一人で勉強できるような気がすることもある。実際に将

来働き始めたときには、特に訴訟を担当する場合には、その分野を一人で身に

付けることが期待されることになるだろう。

60

(3)ポール・ヘイスティングズ法律事務所

(Paul, Hastings, Janofsky & Walker LLP)

における調査に関する報告書

(報告者:磯村保・森川伸吾・淺野博宣)

1.調査の日時及び場所

日時: 2006年2月13日(15:00 – 16:45)

場所: ポール・ヘイスティングズ法律事務所本部

(米国カリフォルニア州ロス・アンジェルス)

Paul, Haitings, Janofsky & Walker LLP (Los Angeles, California)

(以下、本報告書において同法律事務所の略称として「PH」を使用す

ることがある。)

2.調査参加者:

磯村保(神戸大学大学院法学研究科)

森川伸吾(京都大学大学院法学研究科法政交流センター)

淺野博宣(神戸大学大学院法学研究科)

3.調査内容: ヒアリングを行った。詳細は別紙3-1記載の通り

61

(別紙 3-1)

Mr. Lee Rawles *及びMs. Abigail Page**からのヒアリング内容

* Attorney at Law (Paul, Hastings, Janofsky &

Walker LLP (L.A.))

** Attorney at Law (Paul, Hastings, Janofsky &

Walker LLP (L.A.))

注:以下、単に「回答」とある場合には、Mr. Lee Rawles からの回

答を意味し、「P回答」とある場合には、Ms. Abigail Pageからの

回答を意味する。

Paul, Hastings, Janofsky & Walker LLPについて

Paul, Hastings, Janofsky & Walker LLPは、ロス・アンジェルスに本拠を置き、

世界各地に事務所を有する、著名法律事務所である。

回答者の経歴について

(1) Mr. Lee Rawles は、1999年に USC-Lawの J.D.を卒業し、現在に至るまで 7年

の実務経験を経ている。2年前に PHのロス・アンジェルス事務所に入った。

(2) Ms. Abigail Pageは、2005年に USC-Lawの J.D.を卒業し、PHのロス・アンジ

ェルス事務所に入った。

(質問) 新卒の J.D.の採用過程について。

(回答) まず、2年次の最初の 8月から 9月あたり(報告者注:1年次の全課程が終り、

秋学期が始まる直前の時期にほぼ相当する。)にオンキャンパス・インタビュー

(即ち、大学から割り当てられた部屋で行うインタビュー)を行う。学校によ

り時期はやや異なる。20~30 分位のインタビューをする。レジュメ、インタ

ビュー、トランスクリプトにより次のステップに進めるべき学生を決定する。

(回答) 次に、リクルート担当者が事務所に戻って、事務所のリクルート委員会にオン

キャンパス・インタビューの結果を報告し、その決定にしたがい、「コールバ

ック・インタビュー」を行う。この「コールバック・インタビュー」は、対象者

を事務所に呼び出して行うものである。各 30 分位面接して、可能であれば、

アソシエイト弁護士等と食事に行って非公式な雰囲気で交流する。その後、な

62

るべく早く(サマー・ジョブをオファーするか否かについいての)結果を通知

する。というのも、優秀な学生は多くのオファーを受けるからだ。

(回答) この段階では、大学での成績、即ち 1 年次の成績が一番重視される。それ以外

では、会話能力が重視される。大学の社会的評価(reputation)も重要だが、

それは入口に過ぎない(gate keeping)。というのも、我々は一定の有名学校

に対してしかオンキャンパス・インタビューを行わないからである。

(回答) この段階で、1 年次の成績が一番重視されるのは、その時点ではまだ 2 年次が

始まっていないからである。

(回答) なお、1年次と 2年次の間のサマー・ジョブのための、2月のオンキャンパス・

インタビューというのも規模は小さいもののあって、そこでは、1 年次の秋学

期(報告者注:1年次の前期を意味する。)の成績のみで判断される。

(回答) 1 年次の成績がサマー・ジョブのために重要であるということは、どの法律事

務所でも同じである。また、このことを学生は普通知っている。ロースクール

に入るとすぐに、そういったことを知る機会がある。

(回答) 1 年次の成績を見るのは、他に見るものがないからである。1 年次の成績と弁

護士としての有能性に関連性があると考えているというわけではない。

(回答) ローレビューの編集者としての経験及び模擬裁判(moot court)の経験につい

ての評価は大学によって異なるが、PH では重視している。といっても、サマ

ー・ジョブを学生が得るという文脈で重要であるにすぎず、最終的な就職との

関係は低い。

(回答) オンキャンパス・インタビューではくじ引き(lottery system)制度が適用され、

人気のある事務所についてはくじ引きで学生がインタビューの機会を得る。

(回答) USC-Law でいえば、PH のようなトップ・クラス(1st tier)の事務所なら 5

人程度の学生がオファーの対象になる。あまり良い表現ではないが、セカンド・

クラス(2nd tier)の事務所なら 30 人程度の学生がオファーの対象になるで

あろう。

(回答) オンキャンパス・インタビューをしない大学の学生も直接レジュメを送付して、

サマー・ジョブや最終的な就職を申し込むことは可能である。しかし、最終的

に採用される可能性は相対的に低い。非常に低いとはいわないが、いろいろと

障碍がある。

(回答) サマー・ジョブを得た者、即ち、サマー・アソシエイトについては、10~12

週のプログラムが用意されている。事務所所在地の環境にも慣れさせるように

するし、事務所内での人的交流も図る。

(質問) サマー・アソシエイト向けの 10~12 週のプログラムとは具体的にはどのよう

なものか?

63

(回答) サマー・アソシエイトには、ワーク・プロジェクトが割り当てられる。例えば、

訴訟グループであれば証拠開示(discovery)であったり、企業法務グループ

であれば、リースの評価の作業であったりといった具合である。

(回答) サマー・アソシエイトは、幸運であれば、毎日他の弁護士とランチをして、い

ろいろと話を聞くこともできる。1 週間に 2 回とか、週末とかにさまざまな行

事(social event)もある。そうしたところでの振舞いや人柄(リーダーシッ

プを取れそうな人かどうかとか)も評価の対象となる。一方、サマー・アソシ

エイトにとっては、働くチャンスと事務所及び弁護士を知るチャンスが与えら

れるということでもある。

(質問) サマー・アソシエイトは仕事面で使い物になるか?

(回答) 場合による。弁護士として将来使えるだろうかというラフな理解を得る程度の

場合もある。「もう、ロースクールはやめて、すぐ事務所に来たらどうだ」と

言いたくなるくらいの学生もいる。

(回答) 2 年次と 3 年次との間のサマー・アソシエイトと、1 年次と 2 年次との間のサ

マー・アソシエイトとでは、パフォーマンスの差はあるにはあるが、そう大き

な差異ではない。というのも、ロースクールで 1 年間過ごしたという差異があ

るだけだからである。もちろん、ロースクールでの教育が実務能力に与える影

響もあるが、クリニックや特殊なコースを除き、実務能力自体への訓練ではな

く、法律家としての考え方を鍛えるところがロースクールでは重要だからであ

る。

(質問) クリニックは将来弁護士になるうえで重要だと思うか?

(回答) クリニックは、有益(helpful)であると思う。ただ、実際に弁護士になった

あと従事する業務と異なる分野のクリニックであれば、効用は割り引いて考え

る必要がある。

(質問) サマー・アソシエイトの仕事ぶりに対する評価手続は?

(回答) 関連する主体としては、サマー・アソシエイト委員会(Summer Associate

Committee)とコーディネーターがいる。夏の終りに、サマー・アソシエイト

委員会が評価を行い、その際に、雇用委員会(Hiring Committee)も一緒に

作業をして、結論が出される。

(質問) PH の場合には、サマー・アソシエイトに対して、どの程度の比率で最終の雇

用のオファーがなされるのか?

(回答) 最近の例だと、2 年目の学生(報告者注:2 年次と 3 年次の間の夏休みのサマ

64

ー・ジョブを行う学生の意である。)には、全員出した。1 年目の学生(報告

者注:1 年次と 2 年次の間の夏休みのサマー・ジョブを行う学生の意である。)

については、全員に対して、来年のサマー・ジョブをオファーした。ただし、

ここでいうサマー・ジョブは、通常のサマー・ジョブのような長期のものでは

ない。

(回答) 考え方としては、サマー・ジョブを通じて、積極的な評価を行うということで

はなく、サマー・ジョブを通じて、好ましくない人物をはねるということであ

る。つまり、サマー・アソシエイトとしてのオファーが来た時点で、最終就職

のオファーは既に学生のポケットに入っており、マイナス評価や特段の事情が

なければ、就職できるということである。また、それゆえに、ローレビューの

編集者としての経験及び模擬裁判の経験は、最終就職に直接の影響力を持たな

いということでもある。

(質問) 最終雇用のオファーの扱いについて。

(回答) オファーには有効期間があるが、NALP(National Association for Law

Placement)(報告者注:後述参照。)のルールにより、学生が同時に保持する

ことのできるオファーの数は決められている。そして、これは秋口から、段々

減っていく。例えば 9月の初頭には 4つであったが、9月末には 2つになると

いうような具合である。この NALP のルールに従って、保持できる数以上の

オファーを辞退する必要が生じることはあるが、それ以外の(保持できる)オ

ファーについては、オファーの有効期間満了までペンディングにしておくこと

もできる。一方、法律事務所は、一旦オファーをすると、その有効期間満了ま

で撤回できない。

(回答) 学生がオファーに応じる旨の表明をしたにもかかわらず、内定を破棄して、他

の事務所に就職する行為は無作法なこと(bad form)である。そのようなこと

をしても学生にはペナルティはないが、そのような採用をしたローファームに

は悪評が立つ。このようなことが生ずれば、内定を破棄された事務所は、学生

の出身元のロースクールにも通知をすることになろう。なお、裁判所裁判官の

クラーク(clerk)としての採用のオファーがペンディングであるために、学

生として、法律事務所への就職との間で迷うようなケースでは、学生が法律事

務所からのオファーに応じず、法律事務所からのオファーへの返事をペンディ

ングにしておけば良いだけのことである。(報告者注:裁判官の中には法律事

務所からの内定を受けた学生をクラークとして雇うことには中立性の観点から

問題があると考える場合もある、とのことである。)

(回答) NALP というのは、法律家の就職のための全国的組織であり、法律家とロース

クールの共通の需要に応じてできた団体である。毎年、その総会に行くと、ロ

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ースクールの長(Dean)や法律事務所の担当者と会うことができる。NALP

には標準化された法律事務所名鑑(directory)のフォームがあり、それを使っ

て必要な情報を法律事務所が提供する。この情報はオンラインで、会員である

か否かを問わず、広く一般に公開されている。

(質問) サマー・ジョブを経ずに J.D.の新卒学生が最終雇用のオファーを受けることは

可能か?

(回答) 2 年次と 3 年次の間の夏にインタービューをして、その結果により、サマー・

ジョブをせずに、いきなり、事務所に入るという場合もある。2 年次と 3 年次

の間の夏になぜサマー・ジョブをしなかったのかといった点を重点的に調査し

て、検討をする。このようなケースにおいても、ローレビューの編集者として

の経験及び模擬裁判の経験は、大した重みを持たない。

(質問) 法曹資格試験での成績は考慮するのか?

(回答) 法曹資格試験での成績はどの州でも、非公開である。

(回答) カリフォルニア州内でのオフィスで採用する場合には、カリフォルニア州の法

曹資格試験を受けることを要求する。

(回答) J.D.からの新卒学生は通常 10月に事務所に入る。11月になって、(7月に受験

した法曹資格試験が)不合格だったということが分かったときには、通常、2

回目のチャンスを与える。2 回目の受験までの間、給料の出る仕事をさせる場

合もあるし、させない場合もあり、これはケース・バイ・ケースである。2 回

目も不合格であった場合の処理は、ケース・バイ・ケースである。なお、他州

からの弁護士の中途採用の場合には、やや別の考慮がなされる場合もある。

(質問) 採用した J.D.新卒者への研修について。

(回答) 初年度弁護士への研修は積極的に行っている。継続学習・職業教育である。

(回答) 全世界の拠点を通じて、厳格に管理された研修・教育を行っている。

(質問) 上級の弁護士の監督を受けずに仕事ができるようになるまでには何年程度を要

するか?

(回答) プラクティス・グループによっても異なる。また、業務内容になっても異なる。

私(Rawles)の場合には、契約業務が主だが、PH に来る前はパートナーの監

督(supervison)を受けずに一人でやっていた。PH に来た後は、大きなもの

はチームでやってチームを担当するパートナーの監督を受け、小さなものは自

分ひとりでやっている。

(P回答) 私の場合には、プロジェクト全体では監督を受けているが、小さいことは自分

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でやったりもする。

(質問) パートナーになるには何年位かかるのか?

(回答) パートナーになるには最低 7 年間の PH 経験が必要である。通常 7 年から 10

年である。上限を設けて、上限を超えるとアソシエイトとしての地位を保持で

きないようにしている(つまり、契約弁護士的ポジションになり、肩書も of

counsel といったものになる)事務所もあるが、PH ではそのような制度は設

けていない。この経験年数には「見なし」(credited)の年数と「現実」(natural)

の年数が両方ある。

(質問) 最後に、実務家から見て、現在のロースクール教育についてどう思うか?

(回答) (1)主として訴訟弁護士を念頭においてカリキュラムを組んで教育を行って

いると思う。取引業務等の非訴訟業務向けのカリキュラムも増やすべきではな

いかと考える。(2)1 年次に抽象的な内容を大量に詰め込みすぎているので

はないかと思う。

(P回答) USCの学際コースはとても良かった。

(回答) では、古典的なソクラテス・メソッドについてどう思うか?

(回答) ソクラテス・メソッドといっても、古典的なやりかたとアルファベット順等で

順番にあてていくといったやりかたがある。私の場合には他の通常の科目より

も多く、十二分に準備をしていた。つまり、教授に習うというより、既に、自

分で勉強をしていた。そこで、授業も楽しむことができた。

(回答) 不法行為の Gregory C. Keating教授が古典的なソクラテス・メソッドをとって

いた。彼の質問に答えられなくても、ペナルティはなかったが、彼はそのよう

なときには、本で机をバンと叩いた。一番好きな教授だった。かれの手法は、

懲罰的(punitive)なものではなかった。

(P回答) 私も楽しめた。充分に準備をしていたからである。他の学生が答えるのを聞い

ているのも面白いものであった。裁判所で裁判官に質問されるのや、パートナ

ーに質問をされるのと同じである。

67

(4)カリフォルニア大学ロス・アンジェルス校ロースクール

(UCLA School of Law)

における調査に関する報告書

(報告者:磯村保・森川伸吾・淺野博宣)

1.調査の日時及び場所

日時: 2006年2月15日(9:45 – 3:10)

場所: カリフォルニア大学ロス・アンジェルス校ロースクール

(米国カリフォルニア州ロス・アンジェルス)

UCLA School of Law           (Los Angeles, California)

(以下、本報告書において同校の略称として「UCLA-Law」を使用する

ことがある。)

2.調査参加者:

磯村保(神戸大学大学院法学研究科)

森川伸吾(京都大学大学院法学研究科

法政交流センター)

淺野博宣(神戸大学大学院法学研究科)

3.調査スケジュール及び内容: 下記の通り

2006年2月15日

時刻 内容

9:45 – 10:40 「物権法」授業参観

参観対象授業:1年次生向け物権法(Property)

担当教員:Professor Grant Nelson

参観状況:別紙 4-1参照

11:00 – 12:10 ヒアリング

ヒアリング対象者:Professor Ann Carlson * 及び Professor

David Binder

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* Associate Dean

ヒアリング内容:別紙 4-2参照

1:30 – 2:45 「証言録取及び証拠開示」クリニック参観

参観対象クリニック:2・ 3年次生向け「証言録取及び証拠開示」

(Deposition and Discovery in Complex Litigation)

担当教員:Professor David Binder

     Lecturer Stefano Moscato

参観状況:別紙 4-3参照

2:45 – 3:10 Binder教授と歓談

歓談内容の一部は、午前中のヒアリング(別紙 4-2)に収録して

いる。

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(別紙 4-1)

「物権法」授業参観

参観対象授業:1年次生向け物権法(Property)

担当教員:Professor Grant Nelson

参観状況

ほぼ正方形の教室の一辺に教壇があり、教壇の前に緩やかな扇型に 7 列の長机の学生

席が配置されている。

大多数の学生は、ノートブック・パソコンを使用してノートを取っていた。手書でノ

ートをとっている学生も 1 割前後存在した。なお、電源コンセントが各座席に装備され

ているというわけではないようであり、AC アダプター不使用でパソコンを使用してい

る学生が多かった。

出席学生数は 80 人程度で、ほぼ、満席状態であった。(報告者注:交通渋滞のため、

授業開始後 10 分程経ってから教室に入ったため、学生の遅刻状況を把握することはで

きなかった。)

授業は講義形式で進められた。事案の説明も、Nelson 教授が行った。(報告者注:事

案は、ケースブックに記載されているようであり、Nelson教授はケースブックに言及し

ながら授業を進めることも少なくなかった。)

講義の節目に Nelson 教授は学生に対して(特定の学生をあてることなく)質問を投

げかけ、それに対して、学生が手を挙げて返事をしたが、手を挙げる学生が常に多いわ

けではなく、質問によって、多数の学生が手を挙げる場合と、少数の学生が手を挙げる

場合があった。(報告者注:学生は手を小さく挙げることが多かった。従って、手を挙

げた学生の数を報告者が厳密に確認したわけではない。)

学生は随時質問をすることができるものとされているようであり、教授からの上記の

ような質問への回答とは別に、学生が時々手を挙げて質問をした。

学生が手を挙げたが、教授が、それをやりすごしたことも何回かあった。その場合に

は、学生はすみやかに手を下ろした。(報告者注:常に学生の発言(質問)を許可する

というわけではなかった。授業の流れとの関係で、学生が手を挙げても、学生に発言(質

問)を許可せずやりすごすことがある、ということであり、それを学生も理解している

ものと思われた。)

(補足1)授業は 65分間(9:35 – 10:40)であった。

(補足2)学生に私語はなかった。教授は良く通る大きな声で講義を行い、マイクを

使用しなかった。

70

(別紙 4-2)

Professor Ann Carlson * 及び Professor David A. Binderからのヒアリング内容

* Associate Dean

(質問) “Paper Chase”に見られるような古典的ソクラテス・メソッド(Socratic

method)は、最近取られていないようであるが? 教授方法をどのように考

えるか?

(Carlson)教授方法を評価するのは難しいことである。私の場合の話をすると、1 年次向

けの授業とそれ以外では異なる。1 年次については、必修としてクラスごとに

授業を受ける。2 年次以降は選択になる。私の 1 年次のコースにおける主たる

目的は、学生に、法的理由付けということについての基本を理解させることで

ある。実質的内容を教えることは大きな目的ではなく、どのようにして法的理

由付けがなされていくかを理解させることが重要である。

(Carlson)自発的に答えさせることもあり、また、学生をあてることもある。3 回、4 回

同じ学生に繰り返し質問することもある。同じ質問を繰り返すのではなく、聞

き方を変えて聞き続けることで、学生が答えやすいようにする。

(Carlson)学生には、口頭での問答の経験が重要である。学生、特に女子学生には、ク

ラスにおいて人前で話をするのがあまり得意でないタイプもいる。もちろん、

始終手を挙げて質問をしようとしたり、また、沢山しゃべりすぎる学生もいて、

それも問題の一つである。こういった学生については、他の学生からの非難を

受けて、矯正がなされることが多い。

(Binder)ある概念のカテゴリーに事案があてはまるかどうか、ルールが適用されるかど

うかといったことが曖昧なケースがある。私の 1 年次の授業では、そういった

ケースを利用して、ある事案に特定のルールが適用されるか否かということを

考えさせる。つまり限界事例を使って考えさせるということである。なお、私

も、通常は、学生に自発的に発言を求める。学生に意地悪に(nasty)あたっ

たりはしない。但し、学生の回答が不明確であれば、もっときちんと回答でき

るように誘導していく。

(質問) 最近、日本では、事案の正確な把握とその要約的説明が重要であるという考え

方があるが、UCLA-Lawでもそのように考えているか?

(Carlson)具体的事実関係は、論点を理解させるために必要ではあるが、学生に事案の

概要を報告させることは役に立たない。

(Binder)多くの事実のうち、論点に関連性がある事実はごく僅かである。また、特定の

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概念のカテゴリーを検討する関係で、事実には「関連性」が生じてくるのであ

るから、本当の問題は何かということを、まず考えさせる必要がある。

(Carlson)単に、「このケースにおける事実関係はどのようなものか?」と学生に尋ねて

も、学生の興味を喚起することはできない。

(Carlson)もちろん、ルールとの関係で何が「関連性の高い事実」(relevant facts)であ

るかということを学生が把握することは重要であり、「関連性の高い事実は何

か?」と質問することはある。なぜこの事案にはこのルールが適用され、なぜ

この別の事案にはこの別のルールが適用されるのか、といったことを検討して

いく過程において、このようなことを問題にする。

(質問) 事案説明をさせるメリットが小さいと考えられる理由をもう少し詳細に伺いた

い。

(Carlson)複雑な事案のケースでは、時系列を黒板に書いて学生に分かりやすいように

したりもする。事案説明をさせるのは、典型的な方法であるが、それ自体は、

効果的な方法とはいえず、また、学生の興味を惹く方法ではない。

(Binder)まず概念のカテゴリーが問題となり、次に事実関係が問題になるということで

ある。ここで「カテゴリー」というのは、例えば、人的裁判管轄権(personal

jurisdiction)において問題となる「(単なる)居住」と「永住目的での居住」

といった概念がカバーする事実の範囲である。ある事実関係が問題となるカテ

ゴリーに入るかどうかということが問題になる。

(Carlson)いつも同じ事をするわけではないが、例えば、「ルールは何か」を見つけて、

「別の事案にそのルールを適用するか否か」ということを扱う場面では、仮定

的な事案を紙に書いて学生に配布し、その事案にどのようにルールを適用する

かということを学生に議論させることもある。

(Binder)私も、そのような仮定的事案についての議論を学生にさせることがある。

(Carlson ・ Binder)このように、授業であてはめ方法まできちんと学習させることで、

授業の内容と試験の内容が整合することにもなる。

(Carlson)物権法は、比較的完結性の高い複数の分野により構成されており、これら各

分野相互間の関連性が低い。そこで、私の物権法の授業では、これらの各分野

についての授業が終わる毎に、ロードマップを学生に示すことにしている。こ

こで、ロードマップと言っているものは、ある意味、フローチャートのような

ものでもある。

(質問) 2年次生・ 3年次生向けのクラスでの授業方法についてはどう考えるか?

(Carlson)上級クラスでは、大分様相が異なる。例えば、私の担当している環境法は、

制定法が多い領域であるという特色がある。学生には制定法とケースの両方を

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読ませる。複雑な制定法を読ませて、どのように条文を読むか、条文の曖昧性

はどういったところにあるか、といったところを教えたりもする。また、政策

の問題等について話をしたりもする。この授業においては、きちんと準備をし

ていない学生とはインテリジェントな議論が成り立たない。担当学生を事前に

決めることもあるが、そうすると、残りの学生が準備をしてこない結果にもな

りかねない。

(Carlson)環境法をはじめとして、上級クラスでは、結局、学生の半分位はあまり準備

をしないという問題がある。この問題は、現在も解決されていない。

(Binder)私も同感だ。

(Carlson)あまり準備しない学生がいる理由の一つには、実際のところ、彼らがあまり

準備を必要としておらず、「理性的選択として準備をしていない」ということ

もある。1 年次生は、「法とはなにか」「法律の議論はどんなふうか」「法令と

はどんなものか」という基礎的なところについて勉強をしなければならないが、

2 年次以降になると、知識的な内容を勉強していくことになる。例えば、私の

環境法についていえば、最近どんな問題があって、法令はどうなっているのか、

どのように対応するのかといった内容を扱っている。そうすると、2 年次以降

については、「本を読めば分かる」というような性質の科目が増え、授業の準

備をしてもそれに見合うメリットがないと学生が感じることにもなる。

(Carlson)総じて言えば、上級クラスについては、教育方法に問題がいろいろあると考

えている。

(Binder)上級生科目について、「仮定的ケースによって、学生が答えを探す」というの

は、良い方法なのだが、典型的な教科書はそのようには作られていない。

(質問) リーガルクリニックが多数開講され、学生の半数くらいが履修しているようだ

が。学生は更に多くのクリニックを求めているのか?

(Carlson)学生側のニーズは大きい。しかしそれだけ教授への負担も大きくなり、コス

トもかかる。1 クラスの学生数の上限は統一されておらず、教授の裁量による

が、10数名程度が一般的であり、最大でも 20人以下である。

(Binder)USCにおいて Frenzen教授(報告者注:2月 13日の昼食会に同席)は 8名を

上限としていると聞く。それは理想的であるが、種々の事情を考慮する必要が

ある。クリニックを履修しない学生については、法曹資格試験合格のために、

クリニックまで手が回らないということもあると思う。

(Binder)UCLA においては、正規の教授と区別したクリニック教授を考えず、ごく一部

の講師による担当を除いて、クリニック担当者も正規教授として採用する。そ

れに相応しい能力のあるクリニック担当教員を得ることは必ずしも容易ではな

い。

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(質問) もしカリキュラムを自由に設計できるとすると、クリニックを必修にする方が

よいと思うか?

(Carlson)私にすべてを決定する権限が与えられるならクリニックを必修にする方が良

いと思う。また、もっと多様な科目をクリニックに取り込むことも考えられる。

(質問) UCLA-Lawにおけるクリニックの特色は何か?

(Binder)非常に大きな特色がある。訴訟のクリニックでは、学生が依頼者と会って弁護

士としてのさまざまな活動をする。それぞれの各種活動で、いろいろなスキル

が必要だが、それをすべて同時に学ぶことはできない。

(Carlson)インタビュー技術や質問技術 といった法律家に必要な技術を各段階に分けて

教える必要がある。Binder 教授にははこうした技術についての複数の著書が

あるが、特に、証言録取(deposition)に関する著作(報告者注:DEPOSITION

QUESTIONING STRATEGIES AND TECHNIQUES(2001, West Group;

Albert Moore、Paul Bergmanとの共著)はこの分野についての最初のもので

あり、素晴らしい本である。

(質問) 実際の事件を取り扱うクリニックとシミュレーション型のクリニックについて。

(Binder)両方に得失があるが、やはり実際の事件の方がより望ましい。その方がより豊

かな経験を得ることができる。しかし、学生にとって適切な事件があるとは限

らない。また、結果がどうなっていくかということについても明らかではない。

そうした点では、シミュレーション型の方がより優れた面も有する。

(Carlson)両者の区別がそれほど明確ではないこともある。実際の事件を取り扱う場合

でも、その準備のためにシミュレーションをすることもある。また、シミュレ

ーション型であっても、実際のケースに基づいて仮想当事者に登場してもらう

ことがある。

(Binder)例えば、今日の午後に行うクリニック(報告者注:報告者が参観した授業。別

紙 4-3 参照。)は、4 月に行う証言録取の準備としてのシミュレーションであ

る。

(質問) 学生が(クリニック担当教授の指導の下とはいえ)実際の事件を扱うことにつ

いて、クライアント側に不信感などはないのか?

(Binder)まず、ビジネスの領域ではクリニックの依頼者を見つけるのは実質的に不可能

である。訴訟の領域では、低所得者層から依頼者を見つけることができ、リー

ガル・エイドを必要とするこれらの社会層が抱える事件が中心となる。多くの

場合には、リーガル・エイドに関わる弁護士と連携・協力して、リーガル・エ

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イド関連事件をその弁護士と共同で担当する。この結果、授業が終了し、学生

がその担当を続けることができなくなっても、事件は引き続き当該弁護士によ

って処理されることができる。

(質問) そうした弁護士がロースクールのクリニックと連携する理由は何か?

(Binder)負担をその範囲で軽減できるという面もあるが、学生との共同作業を楽しいと

感じたり、大学との関係を維持することができるほか、弁護士自身がクリニッ

クとの連携を通じて新しく学ぶところが多いという理由もある。

(Carlson)私が学生の時には、弁護士にまかせきりで、あまりうまく組織化されている

とはいえず、ひどい状況であった。現在は、クリニックの体制がよく整えられ

ており、私も Binder教授も事件を学生に丸投げしたりすることはない。

(質問) クリニックに参加する学生が弁護士の臨時資格を取得するのは容易か?

(Binder)一定の書式に必要事項を記載するだけで、簡単に取得が可能である。

(質問) 証言録取(deposition)では質問をすることのできる弁護士の数が限られるが、

履修学生の間で不均衡が生ずることはないか?

(Binder)手続の流れに応じて担当をあらかじめ分けておくので、そうした不均衡は回避

される。

(質問) クリニックを履修する学生が 2年次生か 3年次生かで相違があるか?

(Binder)個人差の問題であり、学年の違いによる相違を意識したことはない。

(質問) クリニックは他の担当者と共同で行うとのことであるが、事前の打ち合わせな

どは行うのか?

(Binder)直接話をしたり、事前に自分のメモをメールで送って問題点についての考え方

を示したりする。

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(別紙 4-3)

「証言録取及び証拠開示」クリニック参観

参観対象クリニック:2 ・ 3 年生向け「証言録取及び証拠

開示」(Deposition and Discovery in Complex

Litigation)

担当教員:Professor David Binder

     Lecturer Stefano Moscato

参観状況

  授業時間:1:30 – 2:45

  履修者:13名

  今回の授業のテーマは、証言録取における harmful evidence と implausible answers

であった。前提となるシミュレーション事例は、被告法律事務所に雇用されていた弁護士

補助員であった原告(女性)が、法曹資格試験に合格したにもかかわらず同事務所に採用

されなかった理由が同事務所の男性弁護士によるセクハラ問題にあるとして、法律事務所

を相手取って損害賠償を請求したというものである。この事件に関して、法律事務所の経

営者である弁護士に対する質問とそれに対する証言内容が事前に履修者に配布されており、

履修者がこれを予習していることを前提に、Binder 教授および Moscato 講師から、証言

の信憑性を切り崩して行くにはどのような方法があるか、証言内容が説得的でないと思わ

れるのはどのような場合かを、学生に適宜質問を発し、学生が自発的に手を挙げて答える

という形式で授業が進められた。頻度の差はあるが、1 名を除いて全員が発言をし、教員

が学生を指名して発言を求めることはなかった。

 授業の終わりには、Moscato 講師が証人役となって 2 名の学生からそれぞれ質問を受け

るという形で、尋問方法を実践していた。

 授業は終始和やかな雰囲気で進められたが、履修者側の集中力が損なわれることはなか

った。

 (補足1)この授業は水曜日が 65分、木曜日が 105分で行われ、6単位である。

 (補足2)報告者は午前中のヒアリングの際にこの授業資料の配付を受け、授業開始前

までにシミュレーション事例の事実関係(A4で 3頁)および質問・証言内容(A4で 5頁)

にあらかじめ目を通して「予習」することができた。

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3 補足文書

(1) 別紙 5-1 各ロースクールへの事前の質問表

(2) 別紙 5-2 法律事務所への事前の質問表

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(別紙 5-1)

各ロースクールへの事前の質問表

1 LSAT をどの程度重要なものと考えているか? 入試選抜手続において LSAT の点数

をどのように利用しているか?

2 LSATの形式や内容には満足しているか?

3 能力のある学生を集めるためには何が重要だと考えているか?

4 ロースクールで単位を修得することは難しいと考えられるか? 一つのクラスで単位

を取得できる学生は何パーセント位か?

5 登録学生数の過多などを理由として、同一の科目を二つ以上のクラスに分けて二人以

上の教員が教える場合があるか? その場合に、教員の間での違いに学生から不満が出る

ことがあるか?

6 学生による授業評価の結果を、どのように教育手法や教育システム全体の改善のため

に利用しているか?

7 相互評価(peer review)システムを採用しているか? 採用している場合、どのよう

に機能しているか?

8 平均すると学生は一日何時間勉強しているか?

9 授業時間以外で学生が自習することを促すために何か特別なことをしているか?

10 法曹を育成するのに3年間で十分であると考えるか?

11 ロースクールを中途退学する学生は何名か?

12 科目のいわゆる「重要度」によって学生の態度に違いがあるか?また、教員の態度

には違いがあるか?

13 学生の卒業後の就職を援助するためにどのような体制がとられているか?

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14 法曹資格試験に合格する学生の割合はどの位か? 法曹資格試験は難しいと考える

か? 学生は法曹資格試験を難しいと考えているか?

15 BAR/BRI などの試験対策予備校についてどのように考えているか? 試験対策予

備校の教育による、ロースクールの教育への影響があるか?

16 卒業生組織は活発に活動しているか?

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(別紙 5-2)

(2)法律事務所への事前の質問表

一 採用

1 どのようにしてアソシエイトを採用するか?

2 ロースクール卒業以前から採用手続を開始するか?

3 いつ採用内定を通知するか?

4 ロースクールの学生を採用する場合に何を重要視しているか? 以下の要素をどの

程度評価するか?

(1)ロースクールでの成績。

(2)ロースクールのランキング。

(3)ロースクールで受講した科目。

(4)クリニックなど実務教育科目を受講したかどうか。

(5)法曹資格試験での成績。

(6)学部における成績。

(7)性的・民族的・人種的多様性。

5 ロースクールの学生は法律事務所を選ぶ際に何を重要視していると考えられるか?

二 法曹資格試験

 1 すべてのアソシエイトに法曹資格試験を受けることを要求しているか?

 2 法曹資格試験に合格できなかったアソシエイトをどのように扱っているか?

三 スキル

1 新卒採用のアソシエイトが法律事務所で働き始めるに際して、どの程度の能力を期

待しているか?

2 上記の能力をもつアソシエイトをどのようにして選別しているか?

3 1年目のアソシエイトに対して、どのような教育を行っているか?

4 アソシエイトが経験を積んで自立した弁護士としての活動ができるようになるのに

何年位を必要とするか?

5 特定の分野(たとえば税法、証券取引法、独占禁止法等)についてのスペシャリス

トを養成するために、特別な教育プログラムがあるか。弁護士会やロースクールが

そのような教育プログラムを提供しているか。ロースクールがそのような教育プロ

グラムを提供しているか?

四 雇用

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1 採用後、何年程度同じ事務所に勤務するのが通例か?

2 アソシエイトはいつパートナーに採用されるかどうかを知ることになるのか? い

つ事務所は正式な採用をアソシエイトに通知するのか?

3 新卒のアソシエイトは、通例、どの位の契約期間で採用されるか? 事務所は自由

にアソシエイトを解雇できるか?

五 独立

1 当初から、法律事務所に就職せずに独立して開業する例はどの程度あるのか? ま

た、それは自覚的な選択なのか、希望する事務所への採用ができなかった結果なの

か?

六 ロースクール教育

1 ロースクール教育に改善すべき点があるか。あるとすれば、どのような点か?

2 この 20~30年の間で、ロースクール教育に変化が見られるか?