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10Vol.6 No.4(2008)
バイエル薬品株式会社 提供バイエル薬品株式会社 提供
M R I 検 査上 級者への道監修 井 司(大阪大学医学部附属病院 放射線部) 土橋俊男(日本医科大学付属病院 放射線科)
前 立 腺 領 域
三木市立三木市民病院 中央放射線室
後藤吉弘
第4回 骨盤領域編
MR Imaging 前立腺領域におけるMRI検査の位置づけ
MR Imaging MRI検査に占める前立腺MRI検査状況
MR Imaging 臨床検査(MRI)への取り組み
するための進展度診断であるが、前立腺癌のスクリーニング、
癌の疑いが強い部分を重点的に狙った病理生検を施行する
ための画像診断としても活用している。
さらに、直腸診や広範囲生検でも診断が困難である前立
腺腹側に発生した癌は、良悪性を鑑別するモダリティとして
MRI検査を施行している。
当院における前立腺領域を対象としたMRI検査は、血液
検査の前立腺特異抗原(PSA)の測定結果、直腸の壁ごし
に前立腺に触れて、大きさ、左右の位置、硬さなどをチェッ
クする直腸診(DRE)で異常を示す症例が主な対象とな
る。最近では、血液検査や問診・触診等で要検査の対象と
なる症例が増加し、MRI検査件数は年々増加している。
MRI検査の位置づけは、主に前立腺癌の治療方針を決定
約45%、胸腹部領域30%、四肢・脊髄25%である。
前立腺領域のMRI検査件数は、3名の泌尿器科医からの
オーダーと近隣の泌尿器科医院からの紹介を合わせて、月
間約15~25件を施行しており、そのほとんどが造影MRI検査
の対象となっている。
当院のMRI装置は12年前に購入したPHILIPS社製1.5T
GYROSCAN ACS-NT INTERAであるが、定期的に撮像
ソフトやコイルをバージョンアップすることで、最新の撮像技
術を施行できる体制を維持している。
MRI検査件数は月間約400件で、そのうち造影検査が20
%以上を占める。MRI検査の主な対象部位は、頭頸部領域
1. 撮像方法
コイルは対向した前2チャネル-後3チャネルの心臓専用
のフェーズドアレイコイルを用いて、コイルの撮像中心に前立
腺がくるように位置決めをし、FOV 230mmにて256×512
以上の高画像解像度、スライス厚3mm、22スライスの薄い
撮像断面を用いている(図1)。前立腺とコイルの関係は図2
のとおりである。
2. 当院独自の工夫
前立腺MRI検査の事前準備として、肋骨骨折時に胸部
に巻くバストバンドをスポンジと一緒に下腹部に巻き、可能
な限り、呼吸によるモーションアーチファクトの影響を少な
くする工夫を行っている。特に薄いスライスを用いて解像度
を高めたい時は、患者に対して、呼吸同期を使用するので
呼吸のリズムをできるだけ一定に保ってほしいこと、撮像に
図1
バイエル薬品株式会社 提供
M R I 検 査 上 級者 への道
Vol.6 No.4(2008)11
バイエル薬品株式会社 提供
12Vol.6 No.4(2008)
骨 盤 領 域 編
MR Imaging 前立腺領域のMRI検査法
時間がかかることを説明している。
また、アーチファクトの原因となる直腸などの消化管の蠕
動を抑制するために、ブチルスコポラミン*(商品名:ブスコ
パン)もしくはグルカゴン*を用いている。投薬は、筋注の場
合、ポジショニング終了後ガントリ内に入る2分前に、静注
の場合は検査開始直前に実施している。ただし、ブチルスコ
ポラミンは緑内障の患者、前立腺肥大による排尿障害のある
患者、重篤な心疾患のある患者などの禁忌症例には使用し
ていない。またグルカゴンは、添付文書上は慎重投与であ
る糖尿病患者などには使用していない。*使用に際しては、当該製剤の添付文書を参照すること。
・生検による出血部位の確認。
・骨盤腔内の各組織の位置や範囲の確認。
撮像時の工夫
・呼吸補正ソフトを用いて呼吸によるアーチファクトを軽減
する。
・位相をAP方向からRL方向に変更し、腹壁などの呼吸に
よるアーチファクトを軽減する。
④T2強調STIR冠状断像:STIR(short TI inversion
recovery)(図6)
撮像目的
・尖部などの位置的関係な
らびに大きさや形態の確
認。
・癌の浸潤や周囲構造の評価。
撮像時の工夫
・画像ムラができないように
IR法を用いて脂肪を抑制
する。
⑤DWI(diffusion weighted image)、ADC map(apparent diffusion coeffi cient map):横断像(図7)
1. 撮像目的と撮像時の工夫
撮像目的と撮像時の工夫を、生検にて左葉にadenocarci-
nomaが検出された症例にて解説する(パラメータの詳細は
表1を参照)。
①T1強調横断像:骨盤腔全体(図3)撮像目的
・骨盤部全体の骨転移診断。
・骨盤内リンパ節を含めた骨
盤内臓器の診断。
・MRI検査のプランニング。
撮像時の工夫
骨盤内臓器の診断には
CLEAR(constant level
appearance)等の感度補正を
用いる。
②T2強調横断像(図4)撮像目的
・前立腺癌を強く疑う低信号
病変の診断。
・前立腺内の被膜の同定。
・辺縁域が左右対称である
かの評価。
撮像時の工夫
組織コントラスト・空間分解
能を上げる設定を用いる。
③T1強調横断像(図5)撮像目的
撮像目的
・良悪性の鑑別診断。
撮像時の工夫
・可能な限りスライス厚を薄くして、部分容積効果の影響を
少なく設定する。
・空間分解能を優先して撮像条件を決定しているが、撮像
タイミングも重要なので、キーホール等の撮像技術を使用
し、1スキャンを20sec以内で撮像する。
・PROSET(principle of selective excitation technique)法
などの水選択励起もいれ造影剤による造影効果の感度
を上げる。
撮像目的
・細胞密度の高い腫瘍の大きさ、範囲、浸潤度の診断。
・内腺領域に発生した癌と前立腺肥大症(BPH)との鑑別。
・前立腺癌のスクリーニング。
撮像時の工夫
・b値=2000sec/mm2のsingle-shot SE-EPI脂肪抑制を使
用する。
・SNRを上げるために2倍スライス厚と大きなFOVを用
いて撮像する。
⑥Dynamic MRI:脂肪抑制T1強調グラディエントエコー法(図8)
直径15cm前後のコイルを下腹部に装着し、コイル径と感度
領域の関係を把握した上で撮像する(コイルの感度はコイル
の半径以上の距離がある場合は、離れる程SNRは徐 に々低
下する)。
③Dynamic MRIにて、脂肪抑制が難しい場合 グラディエントエコー法(GRE)にて早期濃染を得ること
ができれば、脂肪抑制ができなくても診断は可能である。脂
肪と混ざって造影効果が判別できない場合にはsubtraction
法を用いると効果的である(症例2)。
④DWIでの撮像ができない場合 DWIの代わりになるdynamic MRIを必ず撮像し、T2強
調横断像と対比する。
2. 専用コイルがない、または装置のスペックが足りない
場合
薄いスライス厚を用いることが望まれるため、心臓専用の
フェーズドアレイコイルなどがあれば最良であるが、表面コ
イルや巻きつけ型ボディーコイルなどを工夫すれば、診断は
可能である。
①2面の対向コイルでの撮像 小柄な方は肩などの撮像に使用する2面14cm以上の
対向コイルを前後に置き撮像することが可能である。
②単体の表面コイルでの撮像 体型により撮像可能範囲が異なるが、前立腺を撮像する
ためには少なくても約10cmの距離が必要となる。そのため、
図2
図6
図7 a DWI b=2000sec/mm2 b ADC map
図4
図3
図5
■MRI機種 1.5T GYROSCAN INTERA(PHILIPS社製) Basic Information
順番 撮像法 撮像 断面
TR (msec)
Time (min)
TE (msec)
FA (°)
FOV (mm)
スライス厚 (mm)
Gap (mm)
Band Width(Hz) シークエンス MatrixETL スライス数 その他
1
2
3
4
5
6
7
8.5
3
3
6
3
3
6.1
0.85
0.30
0.30
0.60
0.30
0.00
-2.30
22
22
22
11
22
24
16
288×256
256×512
304×512
144×256
198×512
217×512
205×256
310
230
230
300
230
320
230
191
207
123
14
205
255
172
2回の息止め 骨全体を撮影
SENSE1.8
SENSE2 SPIR
TI=140msec Keyhole 70% ProSet121 Pre 30sec 60sec 180sec
3回の息止め
FFE
TSE
SE
EPI
IR-140
3D-FFE
FFE
0:17
2:18
4:55
1:50
2:36
0:19
0:21
-
17
-
S
17
-
-
T1WI
T2WI
T1WI
DWI 脂肪抑制
T2WI(STIR)
Dynamic 3D Preseet
Gd-T1WI PROSET
axial
axial
axial
axial
coronal
axial
coronal
70
90
90
90
90
20
70
4.6
100
14
96
140
4.1
4.5
114
1500
537
1782
1500
9.8
130
○
同期
SMART
無し
同期
○
○
息止
表1 撮像シークエンス
図8
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骨 盤 領 域 編
MR Imaging 前立腺領域のMRI検査法
時間がかかることを説明している。
また、アーチファクトの原因となる直腸などの消化管の蠕
動を抑制するために、ブチルスコポラミン*(商品名:ブスコ
パン)もしくはグルカゴン*を用いている。投薬は、筋注の場
合、ポジショニング終了後ガントリ内に入る2分前に、静注
の場合は検査開始直前に実施している。ただし、ブチルスコ
ポラミンは緑内障の患者、前立腺肥大による排尿障害のある
患者、重篤な心疾患のある患者などの禁忌症例には使用し
ていない。またグルカゴンは、添付文書上は慎重投与であ
る糖尿病患者などには使用していない。*使用に際しては、当該製剤の添付文書を参照すること。
・生検による出血部位の確認。
・骨盤腔内の各組織の位置や範囲の確認。
撮像時の工夫
・呼吸補正ソフトを用いて呼吸によるアーチファクトを軽減
する。
・位相をAP方向からRL方向に変更し、腹壁などの呼吸に
よるアーチファクトを軽減する。
④T2強調STIR冠状断像:STIR(short TI inversion
recovery)(図6)
撮像目的
・尖部などの位置的関係な
らびに大きさや形態の確
認。
・癌の浸潤や周囲構造の評価。
撮像時の工夫
・画像ムラができないように
IR法を用いて脂肪を抑制
する。
⑤DWI(diffusion weighted image)、ADC map(apparent diffusion coeffi cient map):横断像(図7)
1. 撮像目的と撮像時の工夫
撮像目的と撮像時の工夫を、生検にて左葉にadenocarci-
nomaが検出された症例にて解説する(パラメータの詳細は
表1を参照)。
①T1強調横断像:骨盤腔全体(図3)撮像目的
・骨盤部全体の骨転移診断。
・骨盤内リンパ節を含めた骨
盤内臓器の診断。
・MRI検査のプランニング。
撮像時の工夫
骨盤内臓器の診断には
CLEAR(constant level
appearance)等の感度補正を
用いる。
②T2強調横断像(図4)撮像目的
・前立腺癌を強く疑う低信号
病変の診断。
・前立腺内の被膜の同定。
・辺縁域が左右対称である
かの評価。
撮像時の工夫
組織コントラスト・空間分解
能を上げる設定を用いる。
③T1強調横断像(図5)撮像目的
撮像目的
・良悪性の鑑別診断。
撮像時の工夫
・可能な限りスライス厚を薄くして、部分容積効果の影響を
少なく設定する。
・空間分解能を優先して撮像条件を決定しているが、撮像
タイミングも重要なので、キーホール等の撮像技術を使用
し、1スキャンを20sec以内で撮像する。
・PROSET(principle of selective excitation technique)法
などの水選択励起もいれ造影剤による造影効果の感度
を上げる。
撮像目的
・細胞密度の高い腫瘍の大きさ、範囲、浸潤度の診断。
・内腺領域に発生した癌と前立腺肥大症(BPH)との鑑別。
・前立腺癌のスクリーニング。
撮像時の工夫
・b値=2000sec/mm2のsingle-shot SE-EPI脂肪抑制を使
用する。
・SNRを上げるために2倍スライス厚と大きなFOVを用
いて撮像する。
⑥Dynamic MRI:脂肪抑制T1強調グラディエントエコー法(図8)
直径15cm前後のコイルを下腹部に装着し、コイル径と感度
領域の関係を把握した上で撮像する(コイルの感度はコイル
の半径以上の距離がある場合は、離れる程SNRは徐 に々低
下する)。
③Dynamic MRIにて、脂肪抑制が難しい場合 グラディエントエコー法(GRE)にて早期濃染を得ること
ができれば、脂肪抑制ができなくても診断は可能である。脂
肪と混ざって造影効果が判別できない場合にはsubtraction
法を用いると効果的である(症例2)。
④DWIでの撮像ができない場合 DWIの代わりになるdynamic MRIを必ず撮像し、T2強
調横断像と対比する。
2. 専用コイルがない、または装置のスペックが足りない
場合
薄いスライス厚を用いることが望まれるため、心臓専用の
フェーズドアレイコイルなどがあれば最良であるが、表面コ
イルや巻きつけ型ボディーコイルなどを工夫すれば、診断は
可能である。
①2面の対向コイルでの撮像 小柄な方は肩などの撮像に使用する2面14cm以上の
対向コイルを前後に置き撮像することが可能である。
②単体の表面コイルでの撮像 体型により撮像可能範囲が異なるが、前立腺を撮像する
ためには少なくても約10cmの距離が必要となる。そのため、
図2
図6
図7 a DWI b=2000sec/mm2 b ADC map
図4
図3
図5
■MRI機種 1.5T GYROSCAN INTERA(PHILIPS社製) Basic Information
順番 撮像法 撮像 断面
TR (msec)
Time (min)
TE (msec)
FA (°)
FOV (mm)
スライス厚 (mm)
Gap (mm)
Band Width(Hz) シークエンス MatrixETL スライス数 その他
1
2
3
4
5
6
7
8.5
3
3
6
3
3
6.1
0.85
0.30
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0.60
0.30
0.00
-2.30
22
22
22
11
22
24
16
288×256
256×512
304×512
144×256
198×512
217×512
205×256
310
230
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191
207
123
14
205
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172
2回の息止め 骨全体を撮影
SENSE1.8
SENSE2 SPIR
TI=140msec Keyhole 70% ProSet121 Pre 30sec 60sec 180sec
3回の息止め
FFE
TSE
SE
EPI
IR-140
3D-FFE
FFE
0:17
2:18
4:55
1:50
2:36
0:19
0:21
-
17
-
S
17
-
-
T1WI
T2WI
T1WI
DWI 脂肪抑制
T2WI(STIR)
Dynamic 3D Preseet
Gd-T1WI PROSET
axial
axial
axial
axial
coronal
axial
coronal
70
90
90
90
90
20
70
4.6
100
14
96
140
4.1
4.5
114
1500
537
1782
1500
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○
同期
SMART
無し
同期
○
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表1 撮像シークエンス
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骨 盤 領 域 編
MR Imaging 症例画像
造影剤の投与方法 MR Imaging MR spectroscopyについて
Q & A
1. 症例1(図10)
①診断所見
T2強調像において、左葉辺縁域(PZ)に13mm大の境界
明瞭な低信号域を認める。同部は拡散強調画像(b=1000
sec/mm2)でも明瞭な高信号、ADC mapにて低信号であ
り、dynamic MRIで早期濃染を呈し前立腺癌と考える。被
膜外浸潤を示唆する所見は見られない。
②病理結果 生検にて、左葉同部位より前立腺癌が検出され、画像診
断と病理結果が一致した。
ガドリニウム造影剤(0.2mL/kg)を1.5mL/secにて静注し、
その後、ガドリニウム造影剤が上腕および鎖骨下静脈に停滞す
ることを避けるために、40mLの生理食塩水を同じ速度で後押
しする。撮像時間(scan time)は、keyhole imagingとPROSET
(脂肪抑制)を用いて1スキャン20sec以内になるように設定
する。
2. 症例2(図11)
①診断所見
上段が造影前の撮影、中段がdynamic MRI、下段は
subtractionした画像。
・T2WIにて右葉PZに22mmの低信号領域を認める。
・同部位は、DWIにおいても高信号、ADC mapも低値を示
し、被膜外進展の可能性が示唆される。
・Dynamic MRIにて同部は造影早期濃染を示す。
②病理結果 右葉PZから前立腺癌が検出され、画像診断と病理結果
が一致した。
正常な前立腺細胞には高濃度に亜鉛が分布している。こ
の亜鉛はクレブス回路のアコニターゼの活性を抑制する作
用がある。このため、クエン酸は消費されず腺細胞内に貯
留し、腺腔内へ分泌される。一方、前立腺癌細胞では代謝
経路が異なり、クエン酸の貯留はほとんどないが、旺盛な膜
合成と破壊に由来するコリンの含有が増加する。MRS(MR
spectroscopy)により局所のクエン酸とコリンを検出し、そ
れらの相対量を指標とすることで前立腺癌の鑑別診断が
可能となる。
前立腺を対象とした場合には、FOVを16×16程度に分割
して検査できる3D(又は2D)-CSI法(chemical shift imaging)
が利用される。この方法は、多数の小さな(1.0cm3以下)領
域のMRSのデータが比較的良好なSNRで得られる。
この領域のMRSの検査を行う場合には、脂肪組織からの
信号の混入を抑制することが重要である。脂肪組織からの
信号を抑制できる励起パルスを利用し、飽和パルス等を用い
て前立腺の周辺に存在する脂肪組織の信号を抑制するなど
の措置を行わなければ、良好なMRS波形は得られない。
神戸大学医学部附属病院 医療技術部 放射線部門
川光秀昭
前立腺肥大を伴う場合も多いが、腸に対する、ブチルスコポラミンやグルカゴン等の投与による動きの抑制は可能
な限り使用する。
どちらも脂肪抑制を目的に使用し、様々なシークエンスに応用できるが、PROSET(水選択励起画像)はGREに主
に使用し、TRの延長が少なく、息止め撮像や造影後の撮像に使用している。また、1-1、1-2-1、1-3-3-1という割合
で分割して励起するbinominal pulseは短時間で脂肪抑制効率の良い1-2-1を使用している。欠点としては三次元撮
像法以外の6mm以下の薄いスライスの撮像ができないことである。それに比べ、SPIR(周波数選択的脂肪抑制法)
は薄いスライスでも撮影可能であるが、GREではTRが延長し撮影時間が長くなるので、主にスピンエコー系の撮像
に使用している。
Q1 直腸からのアーチファクト対策
A
Q2 フィリップスのPROSETとSPIR(spectral presaturation with inversion recovery)の使用方法について
A
図9
図10
Dynamic MRI(Gd-DTPA 1.5mL/sec)
図11
図12 前立腺のMRSの画像(22~25、31~34のセグメントを拡大表示)。33と34のスペクトルマップでは、左側のコリンのピークが高く、右側のクエン酸のピークは減少していることから前立腺癌を強く疑う(正常例は、クエン酸のピークが大きい)。
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MR Imaging 症例画像
造影剤の投与方法 MR Imaging MR spectroscopyについて
Q & A
1. 症例1(図10)
①診断所見
T2強調像において、左葉辺縁域(PZ)に13mm大の境界
明瞭な低信号域を認める。同部は拡散強調画像(b=1000
sec/mm2)でも明瞭な高信号、ADC mapにて低信号であ
り、dynamic MRIで早期濃染を呈し前立腺癌と考える。被
膜外浸潤を示唆する所見は見られない。
②病理結果 生検にて、左葉同部位より前立腺癌が検出され、画像診
断と病理結果が一致した。
ガドリニウム造影剤(0.2mL/kg)を1.5mL/secにて静注し、
その後、ガドリニウム造影剤が上腕および鎖骨下静脈に停滞す
ることを避けるために、40mLの生理食塩水を同じ速度で後押
しする。撮像時間(scan time)は、keyhole imagingとPROSET
(脂肪抑制)を用いて1スキャン20sec以内になるように設定
する。
2. 症例2(図11)
①診断所見
上段が造影前の撮影、中段がdynamic MRI、下段は
subtractionした画像。
・T2WIにて右葉PZに22mmの低信号領域を認める。
・同部位は、DWIにおいても高信号、ADC mapも低値を示
し、被膜外進展の可能性が示唆される。
・Dynamic MRIにて同部は造影早期濃染を示す。
②病理結果 右葉PZから前立腺癌が検出され、画像診断と病理結果
が一致した。
正常な前立腺細胞には高濃度に亜鉛が分布している。こ
の亜鉛はクレブス回路のアコニターゼの活性を抑制する作
用がある。このため、クエン酸は消費されず腺細胞内に貯
留し、腺腔内へ分泌される。一方、前立腺癌細胞では代謝
経路が異なり、クエン酸の貯留はほとんどないが、旺盛な膜
合成と破壊に由来するコリンの含有が増加する。MRS(MR
spectroscopy)により局所のクエン酸とコリンを検出し、そ
れらの相対量を指標とすることで前立腺癌の鑑別診断が
可能となる。
前立腺を対象とした場合には、FOVを16×16程度に分割
して検査できる3D(又は2D)-CSI法(chemical shift imaging)
が利用される。この方法は、多数の小さな(1.0cm3以下)領
域のMRSのデータが比較的良好なSNRで得られる。
この領域のMRSの検査を行う場合には、脂肪組織からの
信号の混入を抑制することが重要である。脂肪組織からの
信号を抑制できる励起パルスを利用し、飽和パルス等を用い
て前立腺の周辺に存在する脂肪組織の信号を抑制するなど
の措置を行わなければ、良好なMRS波形は得られない。
神戸大学医学部附属病院 医療技術部 放射線部門
川光秀昭
前立腺肥大を伴う場合も多いが、腸に対する、ブチルスコポラミンやグルカゴン等の投与による動きの抑制は可能
な限り使用する。
どちらも脂肪抑制を目的に使用し、様々なシークエンスに応用できるが、PROSET(水選択励起画像)はGREに主
に使用し、TRの延長が少なく、息止め撮像や造影後の撮像に使用している。また、1-1、1-2-1、1-3-3-1という割合
で分割して励起するbinominal pulseは短時間で脂肪抑制効率の良い1-2-1を使用している。欠点としては三次元撮
像法以外の6mm以下の薄いスライスの撮像ができないことである。それに比べ、SPIR(周波数選択的脂肪抑制法)
は薄いスライスでも撮影可能であるが、GREではTRが延長し撮影時間が長くなるので、主にスピンエコー系の撮像
に使用している。
Q1 直腸からのアーチファクト対策
A
Q2 フィリップスのPROSETとSPIR(spectral presaturation with inversion recovery)の使用方法について
A
図9
図10
Dynamic MRI(Gd-DTPA 1.5mL/sec)
図11
図12 前立腺のMRSの画像(22~25、31~34のセグメントを拡大表示)。33と34のスペクトルマップでは、左側のコリンのピークが高く、右側のクエン酸のピークは減少していることから前立腺癌を強く疑う(正常例は、クエン酸のピークが大きい)。
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骨 盤 領 域 編
Q & A
用語解説
筆者が呼称している脂肪抑制T2強調IR法は、前立腺
と周りの組織の関係が認識し易く、磁化率の影響による
脂肪抑制のムラも少ない。また、広範囲に均一にある程
度の脂肪を抑制することができる。しかし、脂肪だけが
抑制されるCHESS法とは違い、あくまでIR法であるの
で脂肪と同等のT1値をもつ組織の信号も抑制される
欠点がある(図13)。
被膜浸潤が疑われる場合等があれば、浸潤方向が断面で観察できる方向での撮像を追加する。また、6cm以上(通
常3cm前後)で膀胱壁を押し上げるような大きな腫瘍の場合には、矢状断撮像を追加し腹側背側の情報を得ているが、
主に横断像と冠状断を中心に撮像している。
Dynamic MRIの動脈相は、Gd造影剤投与約30sec後に撮像を開始しているが、心房細動や心筋梗塞の既往歴があ
る患者においては造影剤の到達が遅れる場合があるので、撮像開始を10~20sec遅らせ、動脈相の撮像回数も増や
している。また、このような患者におけるwashout画像(最終のdelay相)は、早期濃染が得られた時点から2分30
秒後に撮像している。
なお、dynamic MRIの撮像タイミングをカルテ等に記載しておけば、次回撮像時に参考にできる。
A
Q3 冠状断T2強調像にて脂肪抑制をする場合、CHESS法(chemical sift selective)ではなくIR法を使用しているのは?
Q4 冠状断像、矢状断面を選択するポイント
Q5 Dynamic MRIの撮像タイミングに関する注意点
PROSET法(principle of selective excitation technique)
binominal pulse(2項パルス)に分割した励起パルスで水を選択励起し、水強調画像を得る方法(相対的に脂肪抑制となる)。プ
リパルスを用いないため撮像時間の延長を伴わず、あらゆるシークエンスに応用できるが、磁場の不均一の影響を受けやすい。
CLEAR(constant level appearance)
検査毎にコイルの感度を実測して感度マップを作成することで、感度補正を行う技術をいう。
感度マップを取得するために、撮像コイルをセッティングした状態でreference scanを行う。このreference scanは、内蔵型の
quadratureコイルを使って実際に撮像対象がどこまでの範囲にあるのかを確認し、表面コイルによってそれぞれのエレメントにお
ける感度領域を把握する。この2つの情報を基に感度マップを作成し、補正を行う。
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図13a IR法による脂肪抑制 b CHESS法による脂肪抑制