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ITUジャーナル Vol. 45 No. 5(2015, 5) 15
学系から画像情報の提示を行う端末をヘッドマウントディスプレイというが、このなかで、端末を装着していても目の前の視界が確保されており、風景や対象物を直接見ることができる端末を、透過式(あるいは光学シースルー)メガネ型端末と呼ぶ。時計やバンド型ウェアラブル端末にない、透過式メガネ型端末のユニークな特長は、以下の四つに集約される。1. どのような体勢でもハンズフリーで画像が見える2. 実物を見ながら、それに重ねて、あるいは少ない視線移動で画像が見える
3. 機器が小型ながら比較的大きな画面が見える4. 頭部や目の動きがセンシングできる 現在、応用分野としては、図1に示すように、民生用としては、観劇中の字幕表示、スタジアムでのスポーツ観戦時の選手や試合情報表示、自転車やバイクのナビゲーション、業務用としては、製造メンテナンスや部品ピッキングの作業指示、診断/手術中のバイタルデータや監視カメラ等のデータ表示、工業デザイン業務でのARシミュレーション等が提案されている。
1.はじめに 近年、ウェアラブル端末といわれる腕時計型やアームバンド型、更にはメガネ型の電子情報端末が話題になっている。これらの端末には、主に二つの機能がある。一つは、端末に内蔵されたセンサーで、着用者の運動/行動情報、生体情報(脈拍や血圧等)をセンシングする機能。もう一つは、着用者にリアルタイムの情報を提示する機能である。これには、センシングした情報そのもの、あるいはそれらに連動した情報提示も含まれる。スマートフォンにより様々な情報を取得でき、またその内蔵センサーやカメラで状態のセンシング/記録ができるわけだが、いちいちスマートフォンを取り出さなくても、常時かつ簡単に状態情報の取得/記録、情報提示ができるウェアラブル端末が、新しい製品カテゴリーとして各産業分野から注目されている。電子デバイス、電子機器、情報通信、情報サービス、システムインテグレータ、更には、ファッション業界も、ウェアラブル端末に関連する様々な取組みを始めている。
2.透過式メガネ型端末とは メガネやゴーグルのように頭部に装着され、目の前の光
ソニーの透過式メガネ型端末「SmartEyeglass」
武む
川かわ
洋ひろし
ソニー株式会社 デバイスソリューション事業本部 新規事業部門 SIG事業室 統括部長
図1.透過式メガネ型端末のユースケース(上段:民生用途、下段:業務用途)
機体整備マニュアル エンジン組立指示 診断/手術時のバイタル情報
ライブイベントでのSNS自転車用ナビゲーションスポーツ観戦時選手情報
会合報告 スポットライト
ITUジャーナル Vol. 45 No. 5(2015, 5)16
図4.SmartEyeglass Developer Edition SED-E1のシステム概要
3.透過式メガネ型端末の技術課題 ウェラブル端末は、その機能品質だけでなく、身に着けるという製品特性上、そのデザイン品質、かけ心地が重要である。なかでも、顔につけるメガネ型端末は、通常のメガネとの比較になりやすく、小型軽量薄型化が重要である。しかし、従来の技術では、画角(表示画面サイズ)や視域(端末の光学系と装着者の目との相対位置関係のトレランス)を大きくすることと、目の前の光学系のサイズ、レンズ厚を小さくすることとはトレードオフの関係にあり、それらを高次元で両立することは困難であった。例えば、透過式メガネ型端末を実現する上で、最も一般的な光学方式は、図2に示すように、目の前に光学コンバイナ―(背景光と画像光を合わせて装着者の目に届ける光学素子)としてハーフミラーを配置することであるが、この方式では、上記のようなトレードオフが発生する。更に、ハーフミラー方式の場合、背景光のシースルー透過率を上げる(ハーフミラーの透過率を上げる)と、表示画像光の反射率は低くなり、その結果、ディスプレイ光源から装着者の眼に届く光の利用効率が低下する。
4.SmartEyeglassの技術 この二つのトレードオフを解決するため、SmartEyeglassでは図3のような、ホログラム導光板方式という光学方法を開発し採用している。
本光学系は、光学エンジンとホログラム導光板の二つのブロックで構成されている。光学エンジンは、LEDバックライト、マイクロディスプレイ、投射レンズからなる。ホログラム導光板は、1㎜厚の透明板と、その両端表面に配置された二つのホログラム光学素子から構成されている。 画像表示の仕組みは、以下のとおりである。LED光源により照明され、マイクロディスプレイから出射した画像光が投射レンズで平行光とされ、ホログラム導光板の光学エンジン側ホログラムに入射する。ここで、画像光は、透明板の内部で全反射条件を満たす角度で回折反射され、透明板の内部を全反射を繰り返しながら眼の前のホログラムまで到達する。このとき、一度にすべての光を回折反射するのではなく、意図的に回折効率を落として、画像光の一部を回折させ、残りを更に透明板内を進ませ再び回折して透明板から出射させる。このような回折反射を複数回繰り返すことで、透明板の厚さ1㎜を増やすことなく水平19°の画角と9㎜の視域を実現している。 また、ここで使用しているホログラムは、体積ホログラムといわれるもので、一定の波長帯域しか回折しないように設計できる。このため、バックライトLED光源の波長帯域だけ回折するように設計することで、画像光の光利用効率を落とすことなく、背景光のシースルー透過率を85%以上と高くすることが可能になる。
5.SmartEyeglassの製品概要 このホログラム導光板技術を使い、2015年3月27日より、日米欧で販売を開始したSmartEyeglass Developer Edition SED-E1のシステム概要を図4に示す。本製品は、Androidスマートフォンと無線通信することによって、スマートフォン側で生成された様々な画像音声情報にアクセスし、これらを再生する端末になっている。メガネ部には、ディ
図2.ハーフミラーを用いた透過式メガネ型端末光学系の技術課題
図3.ホログラム導光板を使った透過式メガネ型端末光学系の動作原理
会合報告 スポットライト
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スプレイのほか、加速度センサー、ジャイロ、電子コンパス、照度センサー、カメラといった様々なセンサーが内蔵されている。コントローラには、入力ボタン、マイク、スピーカ、バッテリが内蔵されている。メガネ部のセンサデータやカメラ画像は、コントローラ内の無線モジュールにより、BluetoothあるいはWireless LANでスマートフォンに送られる。このデータは、スマートフォン内部あるいは、スマートフォンから更にクラウドに送られ、これらのデータに基づいた画像データ、あるいは音声データが生成され、再びBluetoothで端末側に送られ、画像はメガネ部から、音声はコントローラから再生される。ソフトウェア構成は、図5の通りで、弊社の時計型ウェアラブル端末SmartWatch2と同様のフレームワークSmartConnectを採用している。Androidスマートフォン側には、このほか、SmartEyeglassとの通信を制御するHost Appとユーザが開発したアプリケーションをインストールして使用する。本機の仕様を表1
に示す。単色表示とすることで、1,000cd/m2の高輝度ながら、カラー表示機に比べて低消費電力化を実現している。また、重量に関しても、両眼透過式メガネ型端末としては、77gと世界最軽量レベルにある。
6.事業開発 透過式メガネ型端末事業において、ハードウェア開発と並んで重要なのが用途開発である。我々は、できるだけ多くの開発者にアプリケーションソフト開発に取り組んでいただけるよう、誰でも自由にSDKをダウンロードできるようにしたり、ハッカソンを継続的に開催したりしている。これらの活動を通して、ナビゲーション、SNS、リアルタイム翻訳等、すでにいくつかの専用アプリケーションが生まれている(参考:“Sony Developer World” SmartEyeglass専用ページ : http://developer.sonymobile.com/ja/smarteyeglass/)。また、業務用途開発も積極的に推進しており、複数のプロジェクトで実証実験が始まっている。例えば、Virgin Atlantic社は、ロンドンヒースロー空港にて、SmartEyeglass Developer Editionを用いた航空機の機体整備の実証実験を行っている。 弊社では、メガネ型端末とSDKを提供することで、今後も開発者のユニークな発想と多様なアプリ開発を促進し、SmartEyeglassの提供する体験を向上していく。特に、今後は需要が顕在化しつつあるB2B向けのアプリケーション開発促進に力を入れていく予定である。
7.おわりに ウェアラブル端末のなかでもメガネ型は、まだ市場が立ち上がっていると言える状況にはない。しかしながら、ハンズフリーやAR(Augmented Reality)機能など、他の機器では実現困難な特長もあり、これらの特長を活かしたユースケースを見出し、ハードウェア、ソフトウェアを進化、チューニングしていくことで、市場は必ず立ち上がっていくものと考えている。短期的には、業務用途での作業効率改善、品質向上に貢献できる端末として、また、中長期的には、一般消費者に、これまでにない楽しさ、便利さ、感動を提供できる端末として開発していきたい。
図5.SmartEyeglass Developer Edition SED-E1のSW構成
表1.SmartEyeglass Developer Edition SED-E1の主な仕様
項目 仕様
ディスプレイ形態 両眼透過式メガネ型ディスプレイ
解像度 419(水平)×138(垂直)
画角 対角20°
表示色 緑単色256階調
最大輝度 1,000 cd/mm2
シースルー透過率 85%
コントローラ メガネ部と別体 ケーブル接続
センサー 加速度、ジャイロ、電子コンパス、照度、マイク、カメラ
音声出力 スピーカー(コントローラ部)
電源 内蔵型リチウムイオンバッテリー
電池接続時間 約150分(BT通信、デフォルト輝度で連続表示時)
スマートホンとの接続方式 Bluetooth v3.0, IEEE802.1 1b/g
接続可能スマートホン Android 4.4以上
重量 77g(メガネ部), 45g(コントローラ部)