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安齊 均 先生 富士重工業健康保険組合 太田記念病院 循環器内科 術者 ワイヤ通過後の device 不通過に 難渋した 2 症例に対する MASTULY の使用経験 PERIPHERAL Marketing Report Vol.25 80 歳男性、糖尿病、血液透析、冠動脈左主管部ステント留置後。数日前 から左第 2 趾の潰瘍出現。重症下肢虚血(R5)が疑われ EVT目的に入院。 腸骨動脈に有意狭窄なし。患肢である左鼠径 を順行穿刺した。動脈全体にわたり高度石灰 化を認めた。浅大腿動脈(SFA)の focal な 高度狭窄をバルーンで拡張後、シースレスガ イディング 4.5Fr 55cm/ST を膝窩動脈まで進 めた。膝下動脈(BTK)は前脛骨動脈(ATA) の中間部に多発性高度狭窄、後脛骨動脈(PTA) 近位に focal な高度狭窄を認め、いずれも造 影 遅 延 を 伴って い た (Fig.1)。ATA の 病 変 は 0.014 ワイヤが通過するもマイクロカテーテル が通過せず (Fig. 2)、バルーン 2.0/120mm へ 変更するも通過しなかった。このため貫通用 カ テ ー テ ル GuideLiner PV 6F を 併 用し back up を強化したが同様の結果であった (Fig. 3)。 患者背景 手技手順・方法 血管内治療(EVT)に使用される、バルーンやステント以外の様々な補助 device の進歩は著しく、それ らの併用により殆どの複雑病変が EVT にて対応可能となってきている。しかしながら高度石灰化は常に 初期成功達成の為の最大の障害であり続けている。特に最近はワイヤ通過後の “device 不通過 ” という 事象に頻繁に遭遇するようになってきており、更なる通過性が向上したバルーンの登場が期待されてい た。今回、更なる通過性が改善されたバルーン MASTULY を使用し良好な結果を得ることができた 2 症 例を経験したので報告する。 はじめに CASE 1 Fig. 1 Fig. 2 Fig. 3

ワイヤ通過後のdevice不通過に 難渋した2症例に対 …6.0/40mmをinflation、deflationを繰り返しながらガイディングカテーテルを徐々に上行させ閉塞部を通過させた後、保護シース

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Page 1: ワイヤ通過後のdevice不通過に 難渋した2症例に対 …6.0/40mmをinflation、deflationを繰り返しながらガイディングカテーテルを徐々に上行させ閉塞部を通過させた後、保護シース

安齊 均 先生富士重工業健康保険組合 太田記念病院 循環器内科

術者

ワイヤ通過後の device 不通過に難渋した2症例に対するMASTULYの使用経験

PERIPHERAL Marketing Report Vol.25

80 歳男性、糖尿病、血液透析、冠動脈左主管部ステント留置後。数日前から左第 2趾の潰瘍出現。重症下肢虚血(R5)が疑われ EVT目的に入院。

腸骨動脈に有意狭窄なし。患肢である左鼠径を順行穿刺した。動脈全体にわたり高度石灰化を認めた。浅大腿動脈(SFA)の focal な高度狭窄をバルーンで拡張後、シースレスガイディング 4.5Fr 55cm/ST を膝窩動脈まで進めた。膝下動脈(BTK)は前脛骨動脈(ATA)の中間部に多発性高度狭窄、後脛骨動脈(PTA)近位に focal な高度狭窄を認め、いずれも造影遅延を伴っていた (Fig.1)。ATA の病変は0.014ワイヤが通過するもマイクロカテーテルが通過せず (Fig. 2)、バルーン 2.0/120mmへ変更するも通過しなかった。このため貫通用カテーテル GuideLiner PV 6F を併用しback upを強化したが同様の結果であった (Fig. 3)。

患者背景

手技手順・方法

血管内治療(EVT)に使用される、バルーンやステント以外の様々な補助 device の進歩は著しく、それらの併用により殆どの複雑病変が EVT にて対応可能となってきている。しかしながら高度石灰化は常に初期成功達成の為の最大の障害であり続けている。特に最近はワイヤ通過後の “device 不通過 ”という事象に頻繁に遭遇するようになってきており、更なる通過性が向上したバルーンの登場が期待されていた。今回、更なる通過性が改善されたバルーンMASTULYを使用し良好な結果を得ることができた 2症例を経験したので報告する。

はじめに

CASE 1

Fig. 1

Fig. 2 Fig. 3

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PERIPHERAL Marketing Report Vol.25

左鎖骨下動脈 (SCA) は起始部から閉塞しており高度の石灰化を伴っていた。右鼠径から8Fロングシース、左上腕動脈(BA)からシースレスガイディング 4.5Fr 55cm/STを挿入しbidirectional approachとした (Fig. 10, 11)。鼠径からガイディングカテーテル 8Fr FR4 SHを上行させ SCAの起始部に engageさせた (Fig. 12)。大動脈弓部の形態は Type Ⅱであった。閉塞部は高度の石灰化を伴っており、手技中のdevice 通過や delivery を考慮した場合、pull through の確立が必須と考えられた。このため、BAから貫通用カテーテル 2.6F 90cmと0.014ワイヤを閉塞断端まで進め、ワイヤを先端加重45g、100gとstep upし、多方向で確認しながら閉塞を通過、大動脈内にワイヤが進んだ(Fig. 13, 14)。

手技手順

73 歳男性。狭心症に対しPCI の既往あり。CTにて両側鎖骨下動脈の閉塞を指摘され EVT目的に入院。

患者背景

CASE 2

Fig. 6 Fig. 7 Fig. 8 Fig. 9Fig. 4 Fig. 5

近位を同バルーンで 22気圧にて拡張し、振動式血管貫通用カテーテルを進めるも効果を認めなった (Fig. 4)。このためMASTULY 2.0/40mmをGuideLiner PV back up 下に進めたところ容易に病変部を通過した (Fig.5)。14 気圧で拡張後、バルーン 2.0/220mmで long inflationを繰り返した (Fig. 6, 7)。最終造影ではATA、PTAともに良好な順行性血流が回復し(Fig. 8)、foot 内の血流も署明に改善した (Fig. 9)。

Fig. 10 Fig. 11 Fig. 12 Fig. 13 Fig. 14

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Fig. 15

Fig. 19

Fig. 16

Fig. 20

Fig. 17

Fig. 21

Fig. 18

鼠径からSnareワイヤを進め先端荷重 100gワイヤを捕捉し鼠径部シースから体外に引き抜きpull throughを確立した(Fig. 15)。引き続きBAからバルーン20/40mmを進めたが通過せず、バルーンを1.5/20mmへ変更しても同様の結果であった。このためMASTULY 2.0/40mmを進めたところ閉塞部を通過、14気圧で拡張した(Fig. 16, 17)。その後バルーン 4.0/80mmで追加拡張を行った後 0.035ワイヤに変更し、再度鼠径からの snareで捕捉しpull throughを確立した(Fig.18)。鼠径よりバルーン6.0/40mmを inflation、deflationを繰り返しながらガイディングカテーテルを徐々に上行させ閉塞部を通過させた後、保護シースとすることでステント脱落の予防とした。Self-expandable stent 7.0/39mmを左 SCAに deliveryし、保護シースを引き抜きステントの留置、拡張に成功した(Fig. 19, 20, 21)。

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2017-05-odp-01-s00692

[企画・発行]

〒 140-0002 東京都品川区東品川二丁目 2番 20号 天王洲郵船ビルTVI 事業部 TEL.03-6711-5232http://www.jll.co.jp

PERIPHERAL Marketing Report Vol.25

1990年 4月 虎ノ門病院 内科レジデント1995年 4月 東邦大学大橋病院 第三内科1997年 7月 総合太田病院 循環器内科2000年 6月 石心会狭山病院 循環器内科

今回提示した 2症例はいずれも高度の石灰化を伴った高度狭窄、閉塞病変であった。石灰化と一口に言ってもその重症度を評価する統一された方法はなく、また事前にdevice の通過を確実に予測することは困難である。実際の現場においては、様々な補助device やテクニックを組み合わせてこの困難な病変に奮闘努力しているのが現状である。症例①では、BTK の EVT にしばしば遭遇することではあるが、高度狭窄病変をワイヤが比較的容易に通過した後にdevice が全く通過しない状況であった。振動式血管貫通用カテーテルやGuideLiner PV によるback upを使用しても解決できなかった。この時点でのOptionとしては、needle cracking や BAD FORMテクニックなどが考えられるが、いずれも血管損傷の risk や distal punctureを追加する必要があり手技としての難易度は高い。症例②では、SCA起始部閉塞の高度石灰化でありワイヤおよび device 通過の困難が予想された。このため当初からpull throughを確立することが成功の必須条件と考え治療に望んだ。幸い先端加重 100g のワイヤの通過に成功しpull throughを確立することに成功した。しかしこの状況下においても細径バルーンは不通過であった。この時点の optionとしては、鼠径方向からのdelivery、BAからのガイディングシースを6Fr へ size up、ダブルルーメン貫通用カテーテルを用いて別ルートのワイヤ通過を試みる、などが考えられる。いずれも試す価値がある手技ではあるが、確実性は高いとは言えない。今回のような状況下でバルーンが病変部を通過し拡張できたことは、手技をこれ以上複雑にしないで済んだため、術者にとって大変な advantageであったことは言うまでもない。

本症 2症例以降も、device 不通化という極めて困難な状況下でMASTULYを使用し病変の通過、拡張に成功するケースを少なからず経験している。今後も病変部高度石灰化、血管コンプライアンスの低下、アクセスルートの高度蛇行などの原因よるdevice 不通過に遭遇するケースが増えてくるのは想像に難くない。MASTULY が我々の日常の EVT 治療の強力なpartner になることに疑問の余地は無い。

症例のポイント

MASTULY の特性を述べる。① モノレールルーメン長を50㎝と長く設定したことで、耐キンク性とPushability に優れている。② インナーシャフト(ワイヤルーメン)にナイロン素材と比べ肉薄でありながら3倍の剛性(日本ライフライン社製冠動脈用 バルーンとの比較)を持つ PKI Shaft を採用することで、バルーンprofile の細径化および病変を通過する際のバルーンの ゆがみが軽減されている。③ ピールアウェイシースカバーを採用することでバルーン部分を締めつけ、更なる細径化を実現している。④ Integrated shaftと呼ばれる独自のシャフト構造で、バルーンの構造上最も脆弱なguide wire port 部周辺が強化されており、 シャフトの剛性差を減少させることで、優れた PushabilityとTrackability を有している。

バルーンの特性

コメント

安齊 均 先生富士重工業健康保険組合 太田記念病院 循環器内科

PROFILE 2002年 6月 UCLA Interventional Cardiology 部門留学2003年 10月 聖路加国際病院 循環器内科2012年 2月 富士重工業健康保険組合 総合太田病院 循環器内科2012年 6月 富士重工業健康保険組合 太田記念病院 循環器内科

●所属学会等日本心血管インターベンション治療学会、日本循環器学会、日本内科学会、日本心臓病学会日本フットケア学会、日本心不全学会、日本創傷治癒足病学会、日本脈管学会