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ミシマサイコ(柴胡)の栽培について 山形薬用植物園 地域活性化伝道師(内閣府) 薬剤師 山形正道 九州会場 ホテル サン人吉(熊本県人吉市) 薬用作物産地支援協議会(全国農業改良普及支援協会) 1 平成28年9月7日(水)~8日(木) 薬用作物産地支援 栽培技術研修会 1.薬用植物について 「くすり」として利用できる植物を薬用植物と云い、薬用資源植物のことですが、 有毒植物も中毒との関係から薬学においては同列にすることがある。 漢方で使う生薬や民間薬として使う生薬だけでなく、薬草木から抽出し、精製 して医薬品として利用することも含まれます。 ◎薬用植物 medicinal plant ◎薬草 medicinal herb ◎香草(ハーブ) herb ①生薬 :天然の動物、植物、鉱物、菌類,藻類などを薬用に利用しやすい ように、水洗いや日干しなどして簡単に調整をしたもの。 生薬の大半は植物。 2

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ミシマサイコ(柴胡)の栽培について

山 形 薬 用 植 物 園

地域活性化伝道師(内閣府)

薬剤師 山 形 正 道

九州会場 ホテル サン人吉(熊本県人吉市)

薬用作物産地支援協議会(全国農業改良普及支援協会)

1

平成28年9月7日(水)~8日(木)薬用作物産地支援 栽培技術研修会

1.薬用植物について

「くすり」として利用できる植物を薬用植物と云い、薬用資源植物のことですが、有毒植物も中毒との関係から薬学においては同列にすることがある。

漢方で使う生薬や民間薬として使う生薬だけでなく、薬草木から抽出し、精製して医薬品として利用することも含まれます。

◎薬用植物 medicinal plant  ◎薬草 medicinal herb ◎香草(ハーブ) herb

①生薬 :天然の動物、植物、鉱物、菌類,藻類などを薬用に利用しやすい

ように、水洗いや日干しなどして簡単に調整をしたもの。生薬の大半は植物。

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生薬の種類植物生薬

高等植物 生薬の大部分

細菌植物 乳酸菌 酢酸菌 酪酸菌 抗生物質の原料の菌類

紅藻植物 海人草 カイニンソウ(マクリ)(フジマツモ科)カイニン酸 まくり湯 駆虫

寒天 マクサ(テングサ)(テングサ科) 緩下、培地基剤 (菓子原料)

真菌植物 麦角 バクカク(バクカク科) イネ科の大麦、ライム麦の穂に寄生菌核 止血

担子菌植物 猪苓 チョレイ チョレイマイタケ(サルノコシカケ科)の菌核 消炎、利尿、解熱

茯苓 ブクリョウ マツホド(サルノコシカケ科)の菌核 利尿、健胃、鎮静

動物生薬牡蠣 マガキ (イタボガキ科) 貝殻 煩満,心痛,止汗,止渇

竜骨 大型哺乳動物の化石 鎮静

蜂蜜 ハチミツ ミツバチ (ミツバチ科) 巣 丸剤の賦形剤

麝香 (ジャコウ) ジャコウジカ(シカ科) 麝嚢 興奮、失神

牛黄 (ゴオウ) ウシ(ウシ科) 胆のうにできた胆石 強心、解熱、失神、強壮

蟾酥 (センソ) シナヒキガエル(ヒキガエル科) 耳腺・皮腺分泌物 強心(劇薬)

カンタリス マメハンミョウ(ハンミョウ科)(昆虫)カンタリジン液 発毛

ゼラチン(主として牛) 骨・皮からゼラチンを精製 興奮

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鉱物生薬

滑石 (酸性メタ硅酸マグネシウム)Mg3H2(SⅰO3) 利水(利尿)猪苓湯合四物湯 防風通聖散 五苓散 猪苓湯

石膏 (含水硫酸カルシウム)CaSO4・2H2O 解熱、鎮静、止渇

小柴胡湯加桔梗石膏 越婢加朮湯 白虎加人参湯 消風散

釣藤散 麻杏甘石湯 木防已湯

芒硝 (硫酸ナトリウム)Na2SO4・10H2O 緩下、消化、利尿調胃承気湯 防風通聖散 桃核承気湯 大黄牡丹皮湯

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②漢方薬 :生薬を2種類以上混ぜ合わせた製剤。 例: 葛根湯

漢方薬として用いるときは、生薬名、生薬の量,服用法(飲み

方)については漢方医学的に定められています。増減方と云

って症状によって処方の中の生薬の分量を増減することもあります。

漢方の専門的知識が必要です。

例: 葛根湯 葛根8.0 桂皮3.0 麻黄4.0 生姜1.0 大棗4.0

芍薬3.0 甘草2.0 計25g 1日分

③民間薬 :古くから、その地方、地方で経験に基づいて民間療法として使用されてきた

生薬を云います。

例: ゲンノショウコ 開花時に全草を採取、陰干したもの

1日量約15gを煎じて飲む:健胃、整腸、下痢止め、腹痛、便秘

薬草(生薬)は正しく使ってはじめて効果を発揮します。間違った使い方を

しては、効果が得られないだけでなく、時によって害(副作用)になります。

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④香草 :ハーブは病気の治療などに用いる薬草(薬用植物)と料理等に使う

香草や風味用植物に分けられる。

ハーブには芳香を利用するもの、芳香や刺激性があり、食べ物など

に香りづけをして食欲を増進させる香辛料、香りや味付けあるいは

野菜として利用する料理用ハーブなどがあります。

芳香(香気): ローズ、ジャスミン、ミント、レモングラス、ローズマリー、

ラベンダー、ゼラニウム・・・・

天然染料: アカネ、 タデアイ・・・・

料理の着色・香料: サフラン、ベニバナ、ウコン・・・・

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有毒植物

植 物 名(科名) 有毒部位 主なる中毒症状

少量でも口にすると極めて危険なもの

オモト(ユリ科) 根茎 痙攣・運動麻痺

キョウチクトウ(キョウチクトウ科) 葉 嘔吐・下痢

ケシ(ケシ科) 全草 痙攣・呼吸麻痺

ジギタリス(ゴマノハグサ科) 葉 痙攣・心臓麻痺

スズラン(ユリ科) 全草 嘔吐・呼吸麻痺

チョウセンアサガオ(ナス科) 全草 痙攣・呼吸停止

テイカカズラ(キョウチクトウ科) 全草 心臓麻痺

ドクゼリ(セリ科) 全草 嘔吐・呼吸困難

トリカブト類(キンポウゲ科) 全草(塊根) 嘔吐・呼吸困難

ハシリドコロ(ナス科) 全草 痙攣・呼吸停止

フクジュソウ(キンポウゲ科) 全草 心臓麻痺

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有毒植物植 物 名(科名) 有毒部位 主なる中毒症状

少量でも口にすると危険なもの

アセビ(ツツジ科) 葉・茎 神経麻痺

ムラサキケマン(ケシ科) 全草 心筋障害・痙攣

キツネノカミソリ(ヒガンバナ科) 鱗茎 嘔吐

キツネノボタン(キンポウゲ科) 全草 胃腸炎

シキミ〔ハナノキ〕(シキミ科) 果実 嘔吐下痢・痙攣

シャクナゲ(ツツジ科) 葉 神経麻痺

スイセン(ヒガンバナ科) 全草(鱗茎) 下痢・神経麻痺

センニンソウ(キンポウゲ科) 全草 胃腸炎

ナツトウダイ(トウダイグサ科) 全草 激しい下痢

ニチニチソウ(キョウチクトウ科) 全草 麻痺

ヒガンバナ(ヒガンバナ科) 鱗茎 下痢・神経麻痺

マムシグサ類(サトウイモ科) 塊根 口内炎症

オキナグサ(キンポウゲ科) 根 心臓停止

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有毒植物

植 物 名(科名) 有毒部位 主なる中毒症状

多量に食べると中毒例のあるもの

イヌホオズキ(ナス科) 実 腹痛・下痢

ウメ(バラ科) 種子 激しい嘔吐

クサノオウ(ケシ科) 全草 腹痛・しびれ

ジャガイモ(ナス科) 新芽 嘔吐・下痢

タケニグサ(ケシ科) 全草 神経毒・麻痺

ヤマゴボウ(キンポウゲ科) 葉・根 嘔吐・下痢

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2.西洋医学と東洋医学(漢方医学)

西洋医学はギリシャが発祥とされています。日本には16世紀後半の江戸時代

に入って来ました。また、18世紀の初め、長崎開港によりオランダ医学(蘭医

学)が入って来ました。東洋医学は中国において約2.000年前から存在したと

されています。東洋医学は漢方薬治療と鍼灸施術が合体したものです。

名僧鑑真和上は聖武天皇の招きで6回の困難を乗り越え、7回目にしてようや

く鹿児島県薩摩半島の坊津に上陸し、奈良・東大寺に赴き、弟子たちに漢方

医学を伝えたと云う記録が正倉院に残されています。

漢方医学は日本でも昭和初期ぐらいまでは主流でしたが次第に衰退し、西洋

医学が逆に主流になってきました。しかし、ここにきて漢方が見直されてきま

した。

漢方医学は人間の体質と病魔のバランス(調和)を見て、不足しているもの

を補い、余剰なものは取り除いて、調整し自然治癒力を高めることを基本とし

ます。

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望診(顔色、舌・・・・)、聞診(咳、喘鳴・・・)、

問診(悪寒、熱、食欲、大便・・・)、切診(脈診、腹診察・・・)

などで全身の病態を把握します。

これに対し、西洋医学はレントゲン、CT、MRI などで患部を確認し、

外科的手術によって切除したり、血液検査や尿検査などによって身体に流れ

る物質の一部から身体の状態を把握しようとします。

今日の医療(西洋医学)において漢方薬の有効性の科学的根拠が段々明確

になってきて、漢方処方の適用が拡大してきております。

第十七改正日本薬局方(平成28年4月1日施行)の漢方処方エキスの収載が5

処方追加され、計33処方になりました。

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3.漢方製剤等の市場現状(厚生労働省・農林水産省)◎ 平成25年度における国内での医薬品の生産金額

医薬品全体 約6兆8,940億円

(内漢方製剤等 約1.600億円) 約2%

漢方製剤の内訳 医療用医薬品 1.347億円 84%

一般用医薬品 253億円 16%

◎ 医薬品原料として使用される原料生薬の調達現況

漢方製剤等の原料となる生薬の種類 約260品目

内 日本での生産の種類 97品目 (37%)

医薬品原料として使用される生薬の年間使用量 約22.000トン(H.22)

中国 81% 17.780トン

日本 12% 2.577トン

その他 7% 1.649トン

中国産:気候・土壌・成分含有量など品質、価格の面から優位

今後の問題点:中国国内での生薬需要の増加

薬草の一部の生薬に輸出制限を強化

その結果 中国産生薬の市場価格が上昇

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中国の圃場での土壌汚染や農薬の過剰使用による残留農薬の問題

深山地帯はともかく都市部近郊の野山における自生薬用植物への

大気汚染の問題など非常に心配

◎生薬の生産状況

薬用作物の主な産地

北海道 センキュウ、トリカブト など

岩手 センキュウ、トリカブト など

群馬 トウキ、ミシマサイコ など

長野 シャクヤク、センブリ など

奈良 ナンテン、キハダ など

和歌山 テンダイウヤク、トウキ など

高知 ミシマサイコ、センブリ など

4.栽培が期待されている薬用植物(生薬)(日本漢方薬生薬製剤協会)柴胡 芍薬 当帰 防風 鹿子草 当薬(千振) 黄柏 黄連

御種人参(朝鮮人参) 生姜 白朮 甘草 川芎 山椒 など

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生薬名 県名 面積(a) 生薬名 県名 面積(a) 生薬名 県名 面積(a)

長 崎 30 福 岡 60 福 岡 4,972

大 分 38 鹿児島 130 鹿児島 1.51

熊 本 1,914  キダチアロエ(木立蘆薈) 沖 縄 623  ビデンス・ピローナ 沖 縄 130

宮 崎 390 大 分 58  ヤーコン 鹿児島 11

鹿児島 150 鹿児島 694  その他 沖 縄 344

福 岡 30 沖 縄 2,710

大 分 10  アオキ(青木)(ヤエヤマ) 沖 縄 397

鹿児島 651  アシタバ(明日葉) 鹿児島 407  県別栽培面積(a)

沖 縄 4,221  スクテラリア・バルバータ 大 分 20 福 岡 5,065

 ガジュツ(莪蒾) 鹿児島 2,471  タンポポ(蒲公英) 長 崎 5 長 崎 44

 ドクダミ(十薬) 鹿児島 100  ナズナ(薺) 長 崎 5 大 分 498

 サフラン(蔵紅花) 大 分 350  ヒキオコシ(延命草) 福 岡 3 熊 本 1,956

 ムラサキ(紫根) 大 分 22  クミスクチン 沖 縄 228 宮 崎 390

 シャゼンシ(車前子) 長 崎 2 鹿児島 6,124

 ウイキョウ(茴香) 長 崎 2 沖 縄 8,653

 カンゾウ(甘草) 熊 本 42  計 31,384

九州・沖縄における薬用(生薬)の現況 平成25年度産

出典:公益財団法人 日本特産農産物協会(平成28年3月)(鹿児島県農政部)

日本薬局方生薬 日本薬局方外生薬 その他の作物

 ミシマサイコ(柴胡)

 ウコン(鬱金)

 ニンニク(大蒜)

 ボタンボウフウ(牡丹防風)

 ケール

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九州・沖縄において栽培されている薬用作物名

日本薬局方生薬柴胡 ミシマサイコ(セリ科) 解熱、鎮痛、消炎鬱金 ウコン(ショウガ科) 芳香健胃、利胆莪蒾 ガジュツ(ショウガ科)  芳香健胃十薬 ドクダミ(ドクダミ科) 解熱、解毒、消炎蔵紅花 サフラン(アヤメ科) 鎮静、鎮痛、通経 (スパイス、着色料)紫根 ムラサキ(ムラサキ科)  消炎、解熱 外用:火傷、凍傷 (染料)車前子 シャゼンシ(オオバコ)(オオバコ科) 鎮咳、去痰、消炎、利尿、止瀉茴香 ウイキョウ(セリ科) 健胃、駆風、去痰甘草 ウラルカンゾウ(マメ科) 抗消炎、抗潰瘍、鎮痛、鎮痙、鎮咳去痰

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日本薬局方外生薬大蒜 ニンニク(ユリ科) 民間薬: 強壮、健胃、整腸 (香辛、野菜)木立蘆薈 キダチアロエ(ユリ科) 民間薬: 緩下、苦味健胃(少量で) 外用:やけど牡丹防風 ボタンボウフウ(セリ科) 民間薬: 鎮咳、鎮静、利尿、強壮青木 アオキ(ミズキ科) 民間薬: 脚気、浮腫、膀胱カタル明日葉 アシタバ(セリ科) 民間薬: 利尿、緩下、高血圧予防半枝蓮 スクテラリア・バルバータ(シソ科) 民間薬: 解熱、解毒、鎮痛、止血、抗炎症蒲公英 タンポポ(キク科) 民間薬: 解熱、発汗、健胃、利尿薺 ナズナ(アブラナ科) 民間薬: 止血、消炎、消腫、利尿延命草 ヒキオコシ(シソ科) 民間薬: 腹痛、消化不良、食欲不振クミクスチン(ネコノヒゲ)(シソ科) 民間薬: 利尿

その他の作物ケール(アブラナ科)ビデンス・ビローナ(キク科) タチアワユキセンダングサ(和名)ヤーコン(キク科)

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5.ミシマサイコ Bupleurum falcatum L.(セリ科:Umbelliferae)生薬名: 柴胡日本薬局方名(JP): サイコ分布: 本州、四国、九州の山地,丘陵地の草原に生える多年草。

近年、野生のミシマサイコを見るのはまれで、乱獲などによって減少しており、環境省の絶滅危惧種に指定されている。原因は草地の開発や道路造成等による。

植物形態: 多年性草本。 草丈 40~100㎝ 根は肥厚し、黄褐色、茎は無毛で直立し、上部で分岐する。葉は互生し、広線形か線形で長さは4~10㎝。平行脈が数条あり、全緑。花期は8~10月。 茎の複散形花序に黄色の小さな花を5~10個つける。5個の花弁は中央から内側に曲がる。 分果は卵球形で無毛、長さは2.5~3.5㎝

薬用部分: 根10~11月に根を掘り上げ、水洗いして日干したもの外面は褐色、味はわずかに苦い

成分: サポニン配糖体のサイコサポニンa~f 及びそのゲニン。サイコゲニンE~G、ステロールの α―スピナステロール、スティグマステロール、脂肪油のステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸リグノセリン等を含む。

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薬理作用: ① 中枢神経に対する作用

中枢神経抑制作用があり、解熱、鎮静、鎮痛、体温降下などの作用がある。

② 抗炎症、抗潰瘍作用、ストレス潰瘍の予防

薬効: 解熱、鎮痛、解毒、鎮静、強壮薬として胸脇苦満、感熱往来、黄疸、風邪、

咽喉痛、気管支炎、肺炎、胃炎、肝炎、腎炎、婦人病、頭痛などに用いられ、多種

の漢方薬に配合される。

サイコ(柴胡)が配合されている主な漢方製剤:

小柴胡湯 柴胡桂枝湯 加味逍遥散 抑肝散 大柴胡湯

柴胡加竜骨牡蛎湯 補中益気湯 ・・・・・など43処方

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6.農産物と薬用作物薬用作物(薬用植物)を生産するにあたっては、トマトやキュウリなどの農産物の

生産と大きく違うのは生産した作物(生薬)の品質が重要であると云うことです。

生産した生薬が医薬品医療機器法(旧薬事法)第41条の日本薬局方に適合する

ことが必要になるからです。

ミシマサイコB.falcatum L.(セリ科)は日本原産です。

漢方生薬の最大生産地である中国のサイコの原産種に多く見られるのは次の2種

です。韓国のサイコは日本種が多いようです。

Bupleurum chinense DC. マンシュウミシマサイコ(セリ科)

Bupleurum scorzoneraefoliumWilld. オクミシマサイコ(セリ科)

同じミシマサイコであっても日本薬局方ではB. falcatum L.を特定しているので

医薬品の原料としては使用できない。

中国で生産して輸入する場合はB . falcatumの種子を使って栽培しもらうことに

なります。

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生産した生薬は、その品質評価が必要になります。 (配布資料参照)

それは日本薬局方(JP)試験の適否です。 (例:サイコ)

● B. falcatumの根であること

乾燥生薬の総サポニン(サポニンa.d) 0.35%以上

● 生薬の性状 細長い円錐形~円柱形 単一又は分枝

長さ10~20㎝ 径 0.5~1.5㎝

● 純度試験 (1)茎葉 茎及び葉10%以上含まない

(2.3)(4)異物 茎・葉以外の異物1.0%以上含まない

● 乾燥減量 12.5%以下(6時間)

● 灰分<5.01> 6.5%以下

● 酸不溶性灰分<5.01> 2.0%以下

● エキス含量<5.01> 希エタノールエキス11.0%以上

● 貯法 容器 密閉容器23

7.ミシマサイコの栽培

ミシマサイコの茎葉と根は繊維的で,また耐旱性も強く、かなりの日照りにも耐える。

自生地の地質は酸性土の所が多く、温暖な気候の所に生育している。

a.土質:関東以西の火山灰質、腐植質、砂質土壌で排水の良い、地下水位の

低い,肥沃地。

b.播種:新しい種子を選ぶ(種子は2年生株から採取)。

B. falcatum の種子であること

(現在、ほとんどが漢方製剤メーカーとの契約栽培で種子はメーカー

さんの方から提供されると聞いております。)

畑は堆肥などを施し、良く耕起して整地し基肥を施す。 苦土石灰と

化学肥料(N.P.K.)とする。

用量はその土地の肥沃度により加減する。

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5cm

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種子の量; 10アール(反当) 800~1000g

播種期 ; 関東地方で3月中旬~4月中旬

畝(畦) 幅; 60~70㎝

畝(畦) 高; 10~15㎝

播條幅 ; 約10㎝

種子を播いたあと、5~6mmの覆土して鎮圧する。

もみがら、切わらなどを撒き散らして乾燥を防ぐ。

発芽 ; 発芽までに約1ヶ月かかる。発芽が完了するまで約2週間かかり、発芽

までの日数がかかることから、当然その間に雑草が生えることになり、

ミシマサイコが全部発芽するころは雑草の方が大きくなることも考えら

れます。

除草剤を上手に使うことによって雑草を取り除くことができます。

除草剤は播種後2週間後と発芽がそろった頃の2回が適当かと思います。

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c.生育管理: 苗立ちが非常に良いので、密生状態の時は千鳥型に間引きして、苗の間隔

を5㎝位にする。

ある程度繁茂しないと根茎は大きくならないので、6月下旬~7月中旬にかけ

て追肥を行う。追肥は一般的には化学肥料と有機肥料を併用する。

2回目の追肥は9月に1回目の同量~半量を施用する。

繁茂がひどい時は根を太くするために生育状況をみたり、

また、地域によりますが、9月中旬~下旬ごろ花蕾を小枝

とともに刈って摘芯を行う。

d.収穫 : 通常は2年根で収穫しますが、近年は生育が良いものは1年根で収穫す

ることがあるようです。

降霜後の11月から2月ごろまで可能で、地上5㎝位で地上部を刈り取り、

地下部を掘り上げ、収穫する。 根茎は水洗し、根についた茎は切り落とし

日干しする。

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e . 調製 : 根茎は頭部についた茎及びヒゲ根を取り除き,形を整える。

(生薬) ヒゲ根の細いのは半乾燥時に根をもむと根を折らずに取り除くこと

ができる。調整した根(生薬)は乾燥した涼しい場所に貯蔵する。

f .収量: 収量は1年根が30~50kg、2年根が50~80kg  

栽培条件、生育状況などによって差がある。

1年生根で80~90kgの実績例もあるようです。

g.病虫害:

根朽病; 根の病害で真菌類の中の糸状菌感染によって、地際の根頭部に

褐色~黒の病斑を生じ、次第に根全体に拡がり乾腐する。

一度発生すると再発するため連作をさける。酸性土壌で水はけが

悪いと多発することがある。土壌酸度を調整し高畝にして水はけ

を良くする。

人間では糸状菌により水虫、たむし、はたけなどが発症する。

また、真菌類のアスペルギルスによって呼吸器感染症をおこす。31

炭疸(そ)病; グラム陽性桿菌である炭そ菌による病害として、地上部の抽苔の開始

ごろから発生し先端部、茎、分枝が黒変死する。

軽症時には根に対する影響は少ないが、発病が甚大な時は根の生育が

劣り、採種用株では採種が皆無になる。

元々、炭そ病は家畜の疾患(病気)であるが人畜共通感染症でもある。

その他、Phomopsis属菌(真菌)による葉枯れ病や白絹病やマイコプラズマによる

黄化萎縮病などがある。

マイコプラズマは細菌とリケツチャとの中間の大きさの小さな微生

物で、ヒト、動物に肺炎,乳房炎、尿道炎を起こします。

アブラムシ;生育期全般に発生する。

病虫害の対策としては連作を避けることですが、連作をされる時は3~5年の輪作で

可能かどうか農業改良普及員、営農指導員の方とよく相談してください。

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h. 農薬など: 農薬を使用するとき

1.登録された農薬(除草剤、殺菌剤、殺虫剤など)であることを確認する。

(登録失効農薬でないことを確認)

2.使用方法(使用時期、使用回数、希釈倍数など)を確認する。

3.農業改良普及員、営農指導員に必ず相談してから使用する。(残留農薬)

(登録失効農薬について最新情報を絶えず入手することが必要)

肥料の使用について

堆肥、有機質肥料、化学(化成)肥料の用量についても、その土地、地質などの関係

から,基本量で良いかどうか、また連作していいかどうかなどについても、農業改良

普及員、営農指導員に相談することが大事だと思います。

33

34

上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下 上 中 下

○ ○

一 発 間 除 病 追 開 花 期

年 △ △ 引 害 △ △ △ △

目 播 種 芽 き 草 虫 肥 摘 芯 収 穫

防 追 肥

○ ○

二 追 中 追 開 花 期

年 △ △ △ △ △

目 肥 耕 肥 摘 芯 採 種 収 穫

追 肥

☆ 基 肥 (10a当たり) ☆ 追 肥 (10a当たり)

堆  肥:1,000~2,000kg 1年目 2年目

苦土石灰:50~100kg 1回目(6/中~下) 1回目(3/下~4/上)

化成肥料(8-8-8):25~30kg N K化成(17-0-17):12~15kg 苦土石灰:50~100kg

2回目(9/上~中) 菜種油粕:50~100kg

N K化成(17-0-17):12~15kg 鶏  糞:50~100kg

化成肥料(8-8-8):35~40kg

2回目(5/下~6/上)

N K化成(17-0-17):15~20kg

                    ミシマサイコ栽培暦        (医薬基盤研究所 飯田 修)

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8.終わりに

厚労省のデータからも明らかなように漢方製剤等の原料の生薬は気候・土壌、成分含有量

など品質、価格の面から現在中国産が81%をしめている。

特に価格が国内産に比べて現在では優位である。中国の圃場での土壌汚染や農薬の過剰使用

による残留農薬の問題や深山地帯はともかく都市部近郊の野山における自生薬用植物への大

気汚染の問題など非常に心配な状況である。

また、中国においても、生薬需要の増加、国内価格の上昇を考えると、日本への価格も

いずれ上昇してくる時期が来るであろうと考えられます。

これらのことから日本国内産への生産移行を考える時期(時代)に入ったと思います。

まず試験的栽培から始め、日本薬局方の基準値に近いか、それ以上の数値に近い生薬が

生産出来るようになったら、本格栽培に移行されると良いでしょう。

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日本の医療制度で医療用医薬品の薬価が決められていることです。合成薬品(新薬)の

薬価は2年毎の改訂において、新採用薬は別としてほとんどは引き下げられる状態で、

漢方製剤の薬価だけを引き上げるのは非常に難しいと思います。 現状維持であれば

よい方でしょう。

生薬の国内生産のコストをどう抑えることができるかが問題になってくると思います。

国内生産への行動を促進すると同時にこのコスト問題も平行して、関係者一同が知恵を

結集する必要があります。

参考文献

第17改正 日本薬局方 厚生労働省 原色牧野和漢薬草大図鑑 北隆館

最新生薬学 広川書店 薬用植物 広川書店

日本薬草全書 新日本規格 薬用植物 薬事日報社

厚生労働省、農水産省、日本漢方生薬製剤協会 資料

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