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1 レーザー光 Ver. 2018 5 21 1. 半導体レーザー 我々が日頃使っている CD DVD は、ディスクにデジタル化されて記録された音や映像 をレーザー光を使って読み出す装置である。この読み出しのピックアップの部分に使われ ているのが小型の半導体レーザーである。 CD に使われる半導体レーザーは波長が 780 nm (1 nm=10 -9 m)付近のものであり、可視の赤い光よりさらに長波長側にあるので色は見えにくい。 DVD に用いられるレーザーは波長 650 nm 付近で赤色をしている。 半導体レーザーにはこのほかによく使われる波長として 1.3 μm(1300 nm), 1.55 μ m(1550 nm)のあたりのものがあり、主として光通信に用いられている。光通信に用いる光フ ァイバーはガラスで出来ているが本来 1.4 μm のあたりにガラス特有の吸収があるので、 用いられている半導体レーザーも 1.4 μm を避ける波長域で開発されてきた。 これらの半導体レーザーの他に 670 nm あたりの赤い色で発振するレーザー素子など作ら れるようになり、レーザーポインター等に使われている。現在では青色のような短波長で 発振する半導体レーザーも実用になっている(例えばブルーレイディスク)。この学生実験 では、赤色のものと近赤外のものの2種類を用いる。 2. 半導体レーザーの原理 レーザー(LASER)とは Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation の頭文字をと ったものである。レーザー発振の原理を図1(a)に示す。レーザー媒質には2つのエネルギ ー準位があるとする。このような2準位系は、準位間のエネルギー差に等しいエネルギー を持つ光子と、自然放出、吸収、誘導放出の3つの形で相互作用をする。この中で誘導放 (stimulated emission)は、媒質が高いエネルギー状態にあるところに光子が来ると、その光 子と同じ状態(位相、周波数、進行方向が同じ)である光子を放出して低いエネルギー状 態に落ちるプロセスである。レーザー媒質を常に低いエネルギー準位よりも高いエネルギ ー準位の方が占有数が多い反転分布の状態にすることで、媒質に入射する光子に対し、吸 収よりも誘導放出の方が高い頻度で起こるようになり、光の増幅が起こる。レーザー媒質 を2枚の高い反射率を持つミラーが構成する共振器の中に置くことで、光は何度もレーザ ー媒質を通過して誘導放出を繰り返し、巨視的な数の光子が同一状態にあるという状況が 生まれる。こうして単色性、指向性の良いレーザー光が得られる。 半導体レーザーの原理を図1(b)に示す。半導体レーザーの場合、pn 接合のダイオードに おいて順方向に電流を流し、上のエネルギー準位である伝導帯にある電子が光子を放出し て下のエネルギー準位に落ちて正孔を埋めるというプロセスを用いる。用いる材質によっ てエネルギーギャップの大きさが異なるので、様々な色の半導体レーザーが存在する。

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レーザー光

Ver. 2018年 5月 21日

1. 半導体レーザー

我々が日頃使っている CDや DVDは、ディスクにデジタル化されて記録された音や映像

をレーザー光を使って読み出す装置である。この読み出しのピックアップの部分に使われ

ているのが小型の半導体レーザーである。CDに使われる半導体レーザーは波長が 780 nm (1

nm=10-9 m)付近のものであり、可視の赤い光よりさらに長波長側にあるので色は見えにくい。

DVD に用いられるレーザーは波長 650 nm付近で赤色をしている。

半導体レーザーにはこのほかによく使われる波長として 1.3 μm(1300 nm), 1.55 μ

m(1550 nm)のあたりのものがあり、主として光通信に用いられている。光通信に用いる光フ

ァイバーはガラスで出来ているが本来 1.4 μm のあたりにガラス特有の吸収があるので、

用いられている半導体レーザーも 1.4 μmを避ける波長域で開発されてきた。

これらの半導体レーザーの他に 670 nmあたりの赤い色で発振するレーザー素子など作ら

れるようになり、レーザーポインター等に使われている。現在では青色のような短波長で

発振する半導体レーザーも実用になっている(例えばブルーレイディスク)。この学生実験

では、赤色のものと近赤外のものの2種類を用いる。

2. 半導体レーザーの原理

レーザー(LASER)とは Light Amplification by Stimulated Emission of Radiationの頭文字をと

ったものである。レーザー発振の原理を図1(a)に示す。レーザー媒質には2つのエネルギ

ー準位があるとする。このような2準位系は、準位間のエネルギー差に等しいエネルギー

を持つ光子と、自然放出、吸収、誘導放出の3つの形で相互作用をする。この中で誘導放

出(stimulated emission)は、媒質が高いエネルギー状態にあるところに光子が来ると、その光

子と同じ状態(位相、周波数、進行方向が同じ)である光子を放出して低いエネルギー状

態に落ちるプロセスである。レーザー媒質を常に低いエネルギー準位よりも高いエネルギ

ー準位の方が占有数が多い反転分布の状態にすることで、媒質に入射する光子に対し、吸

収よりも誘導放出の方が高い頻度で起こるようになり、光の増幅が起こる。レーザー媒質

を2枚の高い反射率を持つミラーが構成する共振器の中に置くことで、光は何度もレーザ

ー媒質を通過して誘導放出を繰り返し、巨視的な数の光子が同一状態にあるという状況が

生まれる。こうして単色性、指向性の良いレーザー光が得られる。

半導体レーザーの原理を図1(b)に示す。半導体レーザーの場合、pn 接合のダイオードに

おいて順方向に電流を流し、上のエネルギー準位である伝導帯にある電子が光子を放出し

て下のエネルギー準位に落ちて正孔を埋めるというプロセスを用いる。用いる材質によっ

てエネルギーギャップの大きさが異なるので、様々な色の半導体レーザーが存在する。

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図1:(a)レーザー発振の原理。(b)半導体レーザーの原理。

3. レーザー光の安全性について

レーザー光の特性として、位相、波長が揃っていること、指向性が高いことが挙げられ

る。これらはレーザーが光源として非常に貴重となる特性であるが、同時に危険なものと

なることを示している。

本実験において使用するレーザーは赤色の半導体レーザー(5 mW 以下、クラス 3R)と

近赤外の半導体レーザー(25 mW以下、クラス 3B)である。テキストの最後の資料(付録

1)を参考に使用の際には次の点に注意する。

・決してレーザー光を直接覗き込まないこと。

・他人の目に入らないように注意すること。

・ミラー、金属表面、ガラス表面などからの反射光にも注意すること。

・実験中は保護めがね(青色のものが備え付けてある)を着用すること。

・レーザー使用中は暗幕を用いること。

・レーザー光の向きを変える際には出力を低くして行うこと。

・レーザー光の光路は目の高さを避けること。

実験(I) 光速度の測定

昔,長さの基準がメートル原器や原子のスペクトル線の波長をもとに決められていた頃は,

これと時間の基準をもとに光の速度を物理量として測定していた。しかし,1983 年の第 17

回国際度量衡総会で光速度をもとに長さを定義することになったため,光速度は正確に

299792458 m/sとされた。従って光速は定義値となったが、ここでは光の速度が有限である

ことを実際に確かめてみて,その速度を出してみる。

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(I)-1. 半導体レーザーの操作方法

レーザーの素子自体は小さなものであるが,放熱しないと自分の発する熱のために壊れる

ので放熱用のアルミ板に固定してある。リード線が 3 本出ているがこのうちの 2 本だけを

使いレーザー電源につないで電流をながす。

半導体レーザーはレーザー素子に電流を流すだけで容易に発振するが,規定の電流を超え

て流すと簡単に壊れてしまうため,取り扱いには十分注意を要する。レーザー素子に触る場

合には,あらかじめ水道の蛇口などに触って体の静電気を逃がしておく。また,使用するレー

ザーの電流が 45 mAを超えないように注意して操作しないといけない。

使用するレーザー電源は動作中ならばつまみで設定した電流値になるように回路がはた

らいているが,電源の使用開始のときや終了時にメインスイッチを on, offする瞬間は電源回

路の各部に供給される電圧が不安定になるため,出力に設定とは無関係に大きな電圧が出て

しまう。これを避けるようにしないと半導体レーザーは必ず壊れてしまうので,以下の手順

を守って壊さないように注意して欲しい。

電源が半導体レーザーにつながる部分には図 2 のように 2 つのスイッチ(シャントとレー

ザーと書かれたもの)がついている。シャントはレーザーと並列に抵抗を入れるためのもの

である。この抵抗は電源のスイッチを on, off するときに半導体レーザーの身代わりの役を

する。レーザーと書かれたスイッチは半導体レーザーを実際に電源につなぐときに使う。

電源のスイッチを操作するときは以下のようにする。

図 2:レーザー電源の構造。

電源を入れるとき

1. 電源各部のつまみが 0の位置(左にいっぱい回った位置)になっているかを確認。

2. シャントスイッチが接続,レーザースイッチが開放になっていることを確認。

3. 右端の電源スイッチを入れる(図 3(a)の状態になる)。

4. 数秒たってからレーザーのスイッチを接続し(このとき両方のスイッチがともに接続

の状態になる),次にシャントのスイッチを開放にする(図 3(b)の状態になる)。

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以上で電源の準備ができた。あとはバイアス電流のつまみをゆっくり回してレーザーに

電流を流す。電流か流れすぎないように注意すること。

図 3:レーザー電源のスイッチの説明

電源を切るとき

1. modulation, sweep などのつまみを上げて使っているときはそれらを 0にする。次にバ

イアス電流を 0 にする。電源各部のつまみがすべて 0 の位置(左にいっぱい回った位置)

になっているかを確認。

2. シャントスイッチを接続(両方のスイッチがともに接続の状態),次にレーザースイッ

チを開放にする。

3. 電源のスイッチを切る。

(I)-2. 実験手順

[1] 図 4 のように実験装置の配置をする。光ファイバーの長さは 2 kmである。ファイバ

ーの入口(a)と出口(b)のコネクターにはレンズユニットがとりつけてあり、(a)ではレーザー

の平行ビームがファイバーの細いガラス繊維に集光する。逆に(b)ではファイバーからの光

がレンズにより平行ビームになるようにしてある。ファイバーに光をうまく通すにはレン

ズの軸に沿って正確に光を入射しなければならない。これは意外と大変である。そこで,次

のようにする。図 5 のようにまず(b)端から懐中電灯で光を射し込み、(a)端から目で覗いて

ファイバーの光っている点を見つける。(レーザー光を入れているときは決して目で覗かな

いように。)

(a) (b)

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図 4: 光速度測定の実験配置。光ファイバー入射前の2枚のミラーには

平面ミラーを、出射後のミラーには凹面ミラーを使うこと。

目を遠ざけても点が見えるようにしておいてその間に絞り(アイリス)を 2 枚入れ、2枚

の絞りの開口ができるだけ小さく、また絞りの距離ができるだけ離れるようにする。こ

のあと半導体レーザーからの光を 2 枚の絞りを通して入れれば、懐中電灯の光と逆方向

にレーザー光が進みファイバー中を通ることになる。

図 5: ファイバーへの光の通し方

[2] ファンクションジェネレータ(FG)の出力を一旦、レーザー電源の「変調」コネクタから

外し、FG の出力をオシロスコープ(図 6 参照)につなぐ。オシロスコープの波形で確認しな

がら、FG から周波数 10 kHzで最大電圧が 5 V、最小電圧が 0 V の三角波が出るように設定

する(注1)。FG の操作方法については付録2を参照せよ。オシロスコープの設定は dc

coupling(注2)にすること。また、この電気信号に trigger(注3)をかけ、オシロスコー

プ上の波形が静止するように設定すること。そこで TAまたは教員を呼び、設定を確認して

もらう。その状態で FG の電源を一旦切る。

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図 6:光速度測定に使用するオシロスコープ前面図

緑色の 1,2というボタンが点灯している信号が画面に表示されている。

ボタン上部のつまみで信号の表示を大きくしたり小さくしたりできる。

実験室に「物理学科の学生向けラボ・ガイドおよびチュートリアル」を配置している

ので使用の参考にせよ。

(注1)オシロスコープでは level のつまみ(図 6 の点灯している数字の下のつまみ)を回

すことで 0 V のラインを自由に変えられることに注意せよ。GND の設定に変え、0 V のラ

インがどこに設定されているか確認せよ。

(注2)dc couplingは実際の電圧を表示し、ac coupling は直流成分(オフセット電圧)を差

し引いた電圧を表示する。

(注3)triggerは trigger source で設定したチャンネルの電気信号が trigger levelで設定した

基準電圧を横切った瞬間から波形の表示を行う。

[3] FG の出力をレーザー電源の「変調」につなぎ、レーザー電源を除いて関係する装

置全ての電源を入れておく。レーザー電源のバイアスつまみはレーザーに流れる電流を

調節するものであるが、modulation(変調)端子に電圧波形を加えるとその波形に対応して

レーザーの電流が変化し、レーザー光の強度が変化する。

[4] 電源の「変調」のつまみが 0 であることを確認してから、レーザー電源のスイッ

チをいれ、レーザー電流を 40 mA 程度まで上げる。レーザー素子直後のレンズの位置を

調整し、レーザーのビーム径が遠くまで細いままになるようにする。2枚の鏡の傾きを

調整して、レーザー光が2つのアイリスの中心を通した後、アイリスを開く。ビーム径

は光ファイバーの入り口で直径 2 mmくらいが望ましい。

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[5] 部屋を暗くしてファイバー出口から出てくる光を白い紙に当てて確認する。光が

出ていない場合は、2枚の鏡の傾きを微調してみる。それでも光が出てこない場合は、

レーザーを切って[1]をやり直す。光が出てきたら、2枚の鏡を微調して透過光が最も強

くなるようにする。その光を凹面鏡で反射させて光検出器の受光面に集光させる。

[6] ファイバーに入る前の光と、出た後の光を 2 つの光検出器で検出し、オシロスコ

ープに両方の出力を表示させる。レーザー電源の「変調」のつまみを回し、オシロスコ

ープでレーザー強度が 10 kHzで変化していることを確認する。この時、レーザーに流れ

る電流が最大値を超えないように気をつける。ファイバー通過後の光の信号が弱くて見

えない場合は、オシロスコープの「Acquire」ボタンを押し、平均化の機能を使う。

[7] 両者の波形の時間遅れを読み取って、ファイバーの長さ(2 km)から光速度を算出し

てみよ。ただし、光速度は物質中では遅くなることを考慮すること。ファイバーはガラ

ス製であるのでガラスの屈折率 nを適当に仮定せよ。

ファイバー中を光が通過するときは、ファイバーの壁面で反射しながらジグザグに伝播

すると考えられ、そのため光の通遇した長さはファイバーの長さと同じではないが今はそ

の効果は無視することにする。

実験(II) 波長可変レーザーを用いた実験

物理学におけるレーザーの用途の一つに、例えば原子分子による光の吸収などのスペク

トルを調べる分光研究がある。この用途のためにはレーザーの波長をコントロールする必

要がある。本実験では波長可変の近赤外のレーザーと光共振器を用いて、波長掃引の原理

や波長の変化の評価方法などを学ぶ。

(II)-1. 波長可変レーザーの原理

本実験では Littrow式外部共振器型半導体レーザーを用いる。その原理を図 6に示す。一

般に半導体レーザーはそのレーザーチップの両端が光共振器を構成し、レーザーチップだ

けでレーザー発振をするが、その波長を制御するのは困難である。このため、レーザーチ

ップから出た光を回折格子に当て、その1次回折光がレーザーチップに戻るようにする。

このようにすることで、回折条件を満たす波長の光の誘導放出が優勢になり、その結果、

その波長でレーザー発振することになる。

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図 7:Littrow式レーザーの原理図。

(問1) 本実験では 780 nm の光を得たい。そのためには、レーザーチップから出る光と

回折格子がなす角度(図 7 のi )は何度であるべきか。なお、回折格子の格子間隔は 1800

本/mmであり、回折が起こる条件は }sin{sin diam である(m:回折の次数、:波長、

a:回折格子の格子間隔)。

このレーザーは図 7 のピエゾ素子にかける電圧を変えることで、回折格子の角度をわず

かに変えることができ、それにより波長を変えることができる。安定した波長を得るため

には、半導体レーザーの温度は一定に保たれる必要がある。このレーザーシステムでは温

度によって抵抗が変わるサーミスタを用いて温度を計測し、下に敷いたペルチェ素子に流

す電流を PID 制御によってコントロールして温度を安定化している。また、音などの振動

からも隔離する必要があるため、防振用のゴムをかませてある。

(問2) 「ピエゾ効果(圧電効果)」「ペルチェ素子」について調べ、それぞれ簡潔に説明

せよ。

(II)-2. 実験の手順

注意 ・レーザーシステムの内部を触らないこと。

・共振器のミラーは取れやすいので衝撃を与えないこと。

レーザーのつけ方

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図 8:実験装置の配置図

[1] 図 8 のように実験装置が配置されていることを確認する。検出器以外の装置を移動さ

せないこと。特に共振器の鏡に触れないこと。

[2] 図 9 の温度・ピエゾコントローラのスイッチを、「メイン電源」「コントローラ電源」

の順に入れる。緑のランプが点灯し、黄色のデジタル表示が点灯するはずである。

[3] 設定ツマミを回して、T ACT と T SETの値を見る。これはサーミスタの抵抗値(kΩ)

の現在の値と設定値を、それぞれ表している。両者の値が 2.0以上違っていたら教員を呼ぶ

こと。

[4] 温度コントロール(TE)のスイッチを on にする。左上の TE の黄色のランプが点灯す

るはずである。これにより温度制御が始まり、ペルチェ素子に電流が流れ、T ACT の値は T

SET の値に近づいていく。T ACT の値と T SETの値が一致するまで待つ。

[5] 次にレーザー電源(LDC202C)の左下の主電源を入れ、右下のツマミが反時計回りに回

し切ってあることを確認する。DISPLAY のランプは「ILD」が、MODEの CONST のランプ

は「I」が、MODEの LD POLのランプは「AG」が、それぞれ点灯していることを確認する。

[6] レーザー電源の右上の LASER ONのボタンを押し、そのボタンを点灯させる。次に、 右

下のツマミをゆっくり回し、20~35 mA にする。絶対に 40 mA以上には上げないこと!

レーザーの消し方: 12ページを参照。

図 9:温度・ピエゾコントローラの前面

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(II)-3. 近赤外光の観測

[1] レーザーシステムのアクリル板にあけた穴から出ているレーザー光を、オレンジ色の

IR(infrared)カードに当てて見る。(繰り返すが、絶対にレーザー光を直接覗きこまないこ

と!)

このカードを用いて、図 8と同じ経路で光が通っていることを確認する。

[2] 次に IR カードの代わりに白い紙に当ててみる。目のいい人は紙の上に赤い光が見える

かも知れない。

[3] 紙の上の光が携帯電話のカメラで見えるかどうか実験せよ。(カメラに直接レーザー光

を入れないこと)

(II)-4. 光共振器

図 10のように、反射率 r、透過率 1-rの2つの平行ミラーがあり、それらに垂直に光が入

射するとする。ミラーの間隔を d、光の波長をとする。このミラーの組から反射される光

は、

図 10:光共振器

反射光 = (1枚目のミラーで反射した光)

+(1枚目のミラーを通過し、ミラー間を1往復して、1枚目のミラーを通過した光)

+(1枚目のミラーを通過し、ミラー間を2往復して、1枚目のミラーを通過した光)

+ …

となる。入射する光の電場を A0exp(it) (は角周波数、t は時間)と書き、屈折率が低い

側から入射した光が反射すると光の位相が変わることに注意すると、反射光の電場 Erは

1

00 ]}/4)12([exp{)1()exp( 2

1

n

n

r dnntirrAtirAE (式 1)

となる。(式 1)から、この光共振器の反射率2

0

2/ AER r は

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)/2(sin4)1(

)/2(sin422

2

drr

drR

(式 2)

となる。この式から、ミラー間隔 dが波長の半整数倍の時に反射率 R は 0になり、透過率

1-R は 1 になることがわかる。この状況を共振器に光が共鳴していると言う。2つの隣接

する共鳴の間隔を、光の周波数の差で表すと、=c/2d (c は光速)となる。この周波数間

隔を FSR(free spectral range)と呼ぶ。

(問 3) (式 1)から(式 2)を導出せよ。

実験で扱う光共振器は上の説明と少し異なり、曲率半径 150 mmの凹面ミラー2枚が d =

150 mmの間隔を隔てて向かい合っているものである。このような曲率半径と共振器長が等

しい共振器は共焦点(confocal)共振器と呼ばれる。共焦点共振器では光が2往復すると元

の位置に戻ってくるので、共焦点共振器の FSR は=c/4d になる。

(II)-5. 共振器からの反射の測定

[1] レーザー光の光路が図 8 のようになっており、光共振器からの反射光がレンズやミラ

ーを通して光検出器に導入されていることを確認する。光路のわずかなずれについては自

分達で調整し、大きくずれている場合は TAまたは教員を呼ぶこと。

[2] ファンクションジェネレータ(FG)の出力が T 字の同軸コネクタにより2つにわけら

れていることを確認する。その一方をアナログオシロスコープに接続し、もう一方は外し

ておく。オシロスコープの表示を見ながら、FG から周波数 3.5 Hzで最大電圧が 2.5 V、最

小電圧が 0.5 V の三角波が出るように設定する。TA または教員を呼び、設定を確認しても

らう。一旦 FG の電源を切り、T字コネクタで分けた先の外しておいた方を、図 9のレーザ

ーコントローラの「変調信号入力」に接続する。

[3] 光検出器の出力をアナログオシロスコープのチャンネル2につなぎ、光検出器の電源

を入れる。2つに分けた FG の出力のうち、外しておいた方を図 9のレーザーコントローラ

の「変調入力」につなぎ、FG の電源を再び入れる。

[3] レーザーコントローラの「ピエゾ駆動アンプ」のスイッチを入れる。これにより赤い

LED が点灯する。これにより光の周波数が FG の出力に応じて変化する。

[4] チャンネル2において図 11 のような信号が現れるのを確認する。これは各信号の所で

共鳴的に反射率が落ちていることを表している。レーザー電流 ILDを 20.0~35.0 mA の範囲

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で変化させ、この共鳴信号が等間隔に4つ以上現れる状況にする。共鳴信号が等間隔に表

れていることは、その範囲で連続的に周波数が変化していることを表している。逆に、等

間隔に現れなくなった所は、レーザーの周波数が急に変わってしまった所(モードホップ)

を表している。見やすいように FG の電圧、周波数を微調してもよいが、必ず 10 Hz 以下、

0 V~+10 Vの範囲に収めること。

[5] (II)-4節の説明に基づいてこの共振器の FSR を計算しなさい。オシロスコープの表示を

記録(スケッチあるいは撮影)し、計算で得られた FSR を利用して、この共振器の共鳴信

号の半値全幅が何MHzかを求めなさい。また、レーザーの周波数が連続的に何 GHzまで掃

引できているか求めなさい。オシロスコープの表示を記録する際にはデジタルオシロスコ

ープを用いてもよい。

図 11:オシロスコープの画面の一例

実験終了時

[1] レーザー電源の右下のツマミを反時計回りにゆっくり回し、電流を0.1 mA以下にする。

[2] レーザー電源の LASER ONのボタンを押し、消灯させる。そして左下の主電源を切る。

[3] 温度・ピエゾコントローラの「TE」のスイッチを切る。次に、「LD コントローラ」「ピ

エゾ駆動アンプ」のスイッチを切り、最後にメイン電源のスイッチを切る。

[4] 各装置の電源を切る。

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付録1 レーザーの安全基準の概要

レーザー光は高い指向性のためパワー密度が高く、小さい出力であっても目や皮膚に

障害を与える恐れがある。レーザー製品の使用者に障害が発生するのを防ぐ目的で、日

本工業規格「レーザー製品の放射安全基準」JIS C 6802が規定されている。レーザー製品

の危険度がクラス分けされており、クラスごとに必要な安全対策が規定されている。

表1:レーザーのクラス分けの概要。

付録2 ファンクションジェネレータ(波形発生器)の使い方

本実験では発振器として 2つの function generatorを使用する。フロントパネルの写真とそ

れぞれの簡単な使用方法を示す。

・ FUNCTION が三角波のマークのボタンが押されていることを確認する。

・ FREQUENCYでおおまかなレンジを選び、細かい周波数の設定には右下のつまみを回す。

信号の大きさ(振幅)と直流成分電圧(オフセット)はつまみで調節する。

振幅(AMP) オフセット(OFFSET)

信号取り出し口

(OUTPUT)

波形(FUNCTION) レンジ(RANGE)

周波数調節ダイヤル 電源

図 12: ファンクションジェネレータの写真

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ファンクションジェネレータ(波形発生器)(b)の使い方

本実験では発振器として function generatorを使用する。下の写真にフロントパネルを示す。

・ FUNCTION が三角波のマークのボタンが押されていることを確認する。

・ FREQUENCYでおおまかなレンジを選び、細かい周波数の設定にはつまみを回す。

・ 信号の大きさ(振幅)と直流成分電圧(オフセット)はつまみで調節する。

振幅(AMP)

オフセット

(OFFSET)

(つまみは

引いておく)

信号取り出し口

(OUTPUT) 波形(FUNCTION) レンジ

(RANGE)

周波数調節

ダイヤル

電源

図 13: ファンクションジェネレータの写真