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1 ニジェール支所便り 2017 年 11 月号 【編集長】山形支所長 【編集担当】佐々木企画調査員 Tel:(227)2073 5569 Fax:(227)2073 2985 E-mail: [email protected] 今月のトピック 支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~ プロジェクト・専門家等の活動進捗状況紹介 ~みんなの学校:住民参加を通じた教育開発プロジェクトフェーズ 2~ ~みんなの学校プロジェクト Learning Camp、その瞬間(とき)~ ニジェールにおける活動紹介 ~ニジェールでゴミを集める日本人-都市ゴミから生育する植物たち その2~ ニジェール国内の出来事 ~Niamey Nyala の新たな動きと山形支所長の挑戦~ 支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~ ピンチヒッター 中川企画調査員 中川さんが感銘を受けたニジェール産のお菓子はこちら (裏面にしっかり MADE IN NIGER と記されています!) フランス?トルコ産の菓子か?? と思いきや、なんと!MAID IN NIGER のお菓子が売られているではありませんか!!しかも綺 麗で立派な包装で包まれたお菓子、ニジェールも大したもんで す。その包装パックをポイ捨てせずに、是非「きれいなニアメ」のた めに日本から持ち込んだゴミバサミ を使い、「綺麗な街」作りへと 装いを変えてもらいたと思うのは、みんなの願いでしょう。 欧州と引き目を取らないお菓子の生産も出来るニジェール、 MAID IN NIGER が増え、この街ニアメも綺麗になれば、危険を 冒してまで欧州へ向かう移民も無くなるのではと思いつつ歌にし ました。 1. 山形所長が日本からゴミばさみを持ち帰り、それをもとにメイドイン・ニジェールのゴミばさみを試作して貰いました(詳しくは「ニジェール国内の出来 事」をご覧ください。

ニジェール支所便り 2017 年11 月号 - JICA...2017 年11月号 【編集長】山形支所長 【編集担当】佐々木企画調査員 Tel:(227)2073 5569 Fax:(227)2073

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ニジェール支所便り

2017 年 11 月号 【編集長】山形支所長 【編集担当】佐々木企画調査員

Tel:(227)2073 5569 Fax:(227)2073 2985 E-mail: [email protected]

今月のトピック

支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~

プロジェクト・専門家等の活動進捗状況紹介

~みんなの学校:住民参加を通じた教育開発プロジェクトフェーズ 2~

~みんなの学校プロジェクト Learning Camp、その瞬間(とき)~

ニジェールにおける活動紹介

~ニジェールでゴミを集める日本人-都市ゴミから生育する植物たち その2~

ニジェール国内の出来事

~Niamey Nyala の新たな動きと山形支所長の挑戦~

支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~

国産の菓子を片手にゴミ集め

無理しなくても、ニアメで装う ピンチヒッター

中川企画調査員 中川さんが感銘を受けたニジェール産のお菓子はこちら

(裏面にしっかり MADE IN NIGER と記されています!)

フランス?トルコ産の菓子か?? と思いきや、なんと!MAID IN

NIGER のお菓子が売られているではありませんか!!しかも綺

麗で立派な包装で包まれたお菓子、ニジェールも大したもんで

す。その包装パックをポイ捨てせずに、是非「きれいなニアメ」のた

めに日本から持ち込んだゴミバサミ1を使い、「綺麗な街」作りへと

装いを変えてもらいたと思うのは、みんなの願いでしょう。

欧州と引き目を取らないお菓子の生産も出来るニジェール、

MAID IN NIGER が増え、この街ニアメも綺麗になれば、危険を

冒してまで欧州へ向かう移民も無くなるのではと思いつつ歌にし

ました。

1. 山形所長が日本からゴミばさみを持ち帰り、それをもとにメイドイン・ニジェールのゴミばさみを試作して貰いました(詳しくは「ニジェール国内の出来

事」をご覧ください。

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プロジェクト・専門家等の活動の進捗状況紹介

■■ みんなの学校:住民参加を通じた教育開発プロジェクト・フェーズ 2 ■■■

『みんなの学校:住民参加による教育開発プロジェクトフェーズ

2』では、初等教育分野において、住民支援の校外学習に効果的な

ツールを導入することですべての児童の“読み書き”と“計算”の

基礎学力改善を目指す『質のミニマムパッケージ』の開発と普及に

取り組み、中等教育分野においては、アクセス、格差解消、教育の

質の改善など、様々な教育開発課題の改善に貢献する“機能する”

学校運営委員会(COGES)モデルの全国普及を実施しています。

この 10月、初等教育分野においては、「質のミニマムパッケージ」

読み書きモデルの改善へ向けて、7月に実施したインドでの経験共

有セミナーでの学びを実践する「10 日間集中読み書き速習活動」

を実施しました。これは 3 年~6 年の児童に対し、毎日 90 分間、

テキスト音読、音韻演習、単語遊び、文字書き演習など、様々な参加型活動を通して児童が能動的に楽しみなが

ら読み書きの基礎を学ぶというものです。通常の授業とは全く異なる形態での活動に初めは戸惑っていた児童も、

ほんの数日で見る見るうちに活発になっていっただけではなく、

読み書きの面でも日々の成長が伺えました。日々飛躍的に伸びを

見せる子どもたちに活動のファシリテーターを務めた中央・地方

の行政官、プロジェクト関係者、学校の先生たちにとっても驚き

の毎日でした。その結果はというと、初日(1日目)に実施した読

みテストにおいて、対象の 3~6年生中約 6割の児童がアルファベ

ット文字すら読めず、その他 4 割も僅か文字の識別ができる程度

だったのが(単語が読める児童は全体のわずか 3.7%)、最終日(10

日目)には、約 5 割の児童がアルファベット文字を、約 2 割の児

童が単語を読めるようになり、そして約 3 割の児童が文章を読め

るようにまでなりました。3年以上の学校生活でアルファベットの

文字すら読めなかった子どもたちが、このわずか数日で見せた成長ぶりはまさに驚異的です。

一方の中等分野においては、9月から開始した中等学校運営委

員会(COGES)の設立研修が 4州ともに 10月上旬で終わり、その後、

教員・生徒といった関係者への報告会合や住民集会、COGES設立の

ための選挙集会がそれぞれの学校現場で実施され、無記名投票選挙

によって選ばれた中等 COGES が各地にて設立されています。それを

受け、プロジェクトでは中等 COGESメンバーの能力強化研修へ向け

て、計画策定・リソース管理・COGES連合にかかる講師研修を対象

4 州全 COGES 監督官へ向けて実施しました。来月 11 月には選挙に

て選ばれた COGESメンバーを対象とした現場研修を開始します。

(みんなの学校プロジェクト専門家 影山晃子)

写真上:「10日間集中読み書き速習活動」初日学力テストの様子

写真上:「10日間集中読み書き速習活動」単語遊びの書き取り様子

写真上:ニアメ州内中学校住民集会様子

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みんなの学校プロジェクト Learning Camp、その瞬間(とき)

その時、ザイナブちゃんの指がファシリテーターの音読とともに左から右に動き、いくつかの単語を正確にな

ぞり始めた。偶然かなと思って、そのまま、見守っていた。ところが、次の行に移っても、彼女の指は、正確に

ファシリテーターが読むフランス語の単語をなぞっている。私は、息をのんだ。その前の日まで、彼女の指は、

音読の途中も、場所を定めることなくふらふらと単語と単語の間をさまよっていたからだ。あきらかに、音と言

葉の関連性が分かっていなかった。ところが、5 日目、その瞬間、彼女はそれができるようになった。文字さえ

読めなかった彼女が、文字のかたまりが単語で、その単語が組み合わさって文章になることを認識し始めたのだ。

もしかすると明日は間違えるかもしれない。しかし、後に、このやり方を続けていけば、彼女は確実に読めるよ

うになる、私はそう確信した。

私は、教育開発の専門家なのに、恥ずかしいことに教室の中の生徒の実態をよく知らなかった。もちろん、プ

ロジェクトが実施する学力テスの結果から、いかに生徒のレベルが低いかは、頭では知っていた。複数の学校を

訪問して、教室の後ろから、教員がほんの一部の「出来る生徒」しか相手にしない授業も何度も見て、大多数の

生徒は何も学んでいないということは想像していた。しかし、今回のように、長時間、ニジェールの小学校の生

徒の勉強に付き添ったことはなかった。現実は想像を絶していた。

ザイナブちゃんがいる小学校のプロジェクトが企画した速習語学習得集中コース(Learning Camp)を受講し

た 3 年生から 6年生 100名弱の生徒の中で、フランス語の単語を読めた生徒は 3名しかいなかった。3 年生でも

フランス語の授業を 1年生から数えれば数百時間は受けている。学校には常勤の契約だが給与を授与している教

員が6人(6 学年)いる。教室も 3 教室は仮設で住民が作っているが、残りの 3 教室はしっかりとした作りだ。

なんでこんなひどいことになるのだろう。しかもこれは、この小学校だけでの話しではない。ニジェールの平均

的な小学校がここと同じような状態であることは、地域の共通学力アセスメントの結果が示している。UNESCO

がその報告書で途上国の学習の質の低開発状態を「Learning Crisis」と呼んだが、ニジェール状況は、もう危

機の状況を超えて病といってもいいレベルに達している。

これほどひどい状態だとは知らなかったが、14年前にプロジェクトが始まった当初から、地域住民や保護者の

学習の質の改善ニーズが高いこともあって、政府やドナーが出資する質の改善政策を期待をともに持って見守っ

ていた。それは、カリキュラム、教科書、新規、現職教員養成の改善などの施策であった。巨額の資金がつぎ込

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まれ実施されたはずだが、現場での状況は悪化した。そして現在も悪化し続けている。

悪化する状況の中、みんなの学校プロジェクトは、この学習の質の問題に正面から対峙せざるを得なくなった。

そこで、考えた最初の対策が、住民参加によって実施される活動が、学習の質改善の結果に結びつくように導く

ことだった。そのため、学校活動計画策定での現状分析に新しい質の分析方法を導入した。「学習の質の改善の

3要素」という分析方法で、住民が質の改善のために、学習時間の増加に注目し、具体的には補習活動に力を入

れるようにした。結果として、ニジェールの大多数の学校で、年間 200時間以上の補習が実施されるようになっ

た。これは、その事実自体が大きな成果であったが、補習が試験を受験する 6年生に集中している上、具体的な

学習改善の成果は、住民、教員、行政官にも見えなかった。

この問題を解決するために、プロジェクトは、対象全生徒に学力レベルテストを実施し、その結果をもとに計

画作りをすることにした。さらに改善の焦点を、まず算数に絞り、全学年での補習が行わるように導き、日本の

経験を取り入れた算数の自学自習のドリル導入を考えた。そして大きな成果をパイロットで挙げた。そのモデル

を「質のミニマムパッケージ」という。成功の秘訣は、生徒の低学力をレベルテストであきらかにし、地域住民、

保護者、教員、行政官にわかりやすく提示・共有し、それに対する具体的で有効な対策を示し、その対策を各自

が責任を持って実行し、結果もまたレベルテストで明確に出したことである。もちろん具体的で有効な対策(JICA

が作成し、プロジェクトで試行改良した自主学習ドリル)が決め手である。算数の次は、読み書きに挑戦した。

独自に開発した手法でパイロットを行い、こちらも成果を挙げた。しかも、さらに手法を改善するために、イン

ドに行き、Prathamという NGOが開発をした Learning Campという優れた手法を学び、その手法の優れた点をみ

んなの学校の手法に取りいれるためにザイナブちゃんが受けた今回の試行を行った。これも大きな成果を挙げ

た。

算数の方の「質のミニマムパッケージ」は、その試行の成果が認められて、教育開発の遅れている国のための

特別基金によるプロジェクトでのティラベリ州の 3500校の普及が決まった。さらに、その後の「質のミニマム

パッケージ」読み書き計算統合型の普及もこの基金で実施できると、このプロジェクトを担当する世銀の担当者

には言われた。「質のミニマムパッケージ」の将来は洋々に見えるが、しかし、本当は、普及はそんなに簡単こ

とではない。この出資が決まったのは、このプロジェクトの内容決定に実質的な力を持つ世銀の担当者がこのモ

デルとその結果を知り、このプロジェクトで実施を決断したからだ。彼が実質的なこのモデルの導入や拡大の促

進者だった。しかし、彼は、近々に別の任地に赴任する。彼と同様に質のミニマムパッケージの支援者だったワ

シントンの担当者もそのポストを離れる。

質のミニマムパッケージは、厳しい条件をクリアーしなければ普及できないだろう。しかし、その条件をクリ

アーして普及を成し遂げ成果を出せば、インドの NGO Pratham が、インドという難しい条件をクリアーし、

Learning Campというモデルを普及し成果を挙げたことで、そのモデルが普遍性を獲得し、世界中に普及されて

いるように、質のミニマムパッケージは、インドより厳しい条件のニジェールで普及されることでより高い普遍

性を獲得し、世界的に貢献できるようになるだろう。

ザイナブちゃんの指が音読と同時に正確に文章に沿って動くのを見た時、みんなの学校プロジェクトが 14年

前どのような意味を込めて名付けられたかを思い起こした。みんなの学校の「みんな」は、教員、保護者、地域

住民と、そして生徒のことだ。生徒が何も学んでない学校は、みんなの学校ではない。何百万人の次のザイナブ

ちゃんが生まれるよう、質のミニマムパッケージの普及に全力を尽くしたいと思った。

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このプロジェクトを開始から携わってきて今思うことは、このプロジェクトの成功は、実に多くの人に支えら

れてきたということだ。現場の専門家の努力、献身、創造性はもちろんだが、プロジェクトが早いスピードで進

むことが可能だったのは、過去、現在の現場の事務所で多忙な中、煩雑な手続きを行っていただいた所長を初め

担当者の方々や、先の見えないニジェール政情においても、プロジェクトの存在意義を強調し、その存続を支持

していただいた JICA 内各部の担当や責任者の人たち、さまざまな便宜を図っていただいた大使館の方に多くを

負っている。いま一度その方々の支援、協力、献身に感謝したい。そしてその方々に、ニジェールを陥っている

「学習の危機」からの脱出の端緒になるモデル(ミニマムパッケージ読み書き計算)の普及への支援をお願いし

たい。

みんなの学校 :住民参加による教育開発フェーズ2

プロジェクト総括 原 雅裕

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ニジェールにおける活動紹介 ~ニジェールでゴミを集める日本人―都市ゴミから生育する植物たち その 2~

支所便り 7月号(2016)から不定期でお届けしている、京都大学アフリカ地域研究資料センター・大山修一准教授の~ニジェ

ールでゴミを集める日本人~シリーズ第 10 話。今回は、先月号に引き続きフィールドでの研究内容について執筆頂きました。

前号の支所便りで、首都ニアメのゴミから植物が生育すること、その植物の多くは人々の食用になったり、

家畜の飼料にもなったりする有用植物だということを紹介しました。風と雨水によって侵食にさらされた荒廃

地にゴミを入れることによって、風で飛ばされてくる飛砂を受けとめ、堆積の場に変化させ、緑化をすすめて

いるのです。

首都ニアメの住民が出すゴミには残飯や台所ゴミが含まれるほかに、家畜の糞や食べ残し、敷地に生えてい

る剪定枝などが多く含まれています。これらはすべて生物に由来する有機物なのですが、この有機物を餌とす

るシロアリの生物活動により、有機物が起爆剤となって植物生産力のある土壌へと変化するのです。シロアリ

は地中にトンネルを掘ったり、みずからの唾液を使って砂つぶをつなぎあわせ、有機物を取り囲むようにシェ

ルターをつくります。このシェルターが、土壌の団粒構造をつくっています。シロアリの唾液によって結びつ

けられた砂つぶの結合は弱いものですが、この団粒構造によって土壌は空気をふくみ、保水力も高いので、植

物の生育に適した土壌となるのです。

すこし難しい説明になりましたが、砂漠化した荒廃地に有機物を入れることによって、植物の生育が促進さ

れるのです。ゴミからできた草地には、遊動する牧畜民や村に定着する牧畜民、農耕民の村びとが集まってき

ます。彼らは生きるために必死です。牧畜民にとって家畜はまさしく生きる糧ですし、農耕民の村びとにとっ

ても重要です。収穫期の直前、8 月中・下旬になると、村びとの 8 割は食料の貯蔵がなくなります。

村びとは毎年のように家畜を市場で売り、その現金は食料を購入するのに当てられます。農村の各世帯では、

夫の家畜から売却し、夫が妻にお願いして、妻の家畜を売ることもあります。家畜を肥育し、繁殖させること

は世帯の食料事情を改善するのです。そんな状態ですから、わたしが一生懸命、都市からゴミを運んで草地を

作っても、牧畜民が草地に家畜を連れてきたり、村びとが草を刈り、飼料集めに来たりします。「わたしが苦労

してゴミを運んだのだから、草地を利用するのはやめてくれ!」などと訴えても、だれも聞き入れようとはし

ないのは当然です。

トウジンビエのわらに集まったシロアリ。シェルターをつぶすと、多数のシロア

リがうごめきます。シロアリが砂つぶを結合してシェルターを作っており、こ

れが土壌の団粒構造になります。

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村びとの協力でゴミを運んでもらい、荒廃地に投入しました

(2006年 7月)。

ゴミを置いたところだけ、草地ができました(2008年 8月)。

都市ゴミから作った草地の植物が牧畜民の家畜によって食べられたり、農耕民が飼料として家に草本を持ち

去ったりしてしまうと、またたく間に砂漠化が進み、荒廃地に戻ります。なんども実験を繰り返しましたが、

自由に草地にアクセスできるようにしておくと、苦労してゴミを集めて運んでも、2~3 年ののちには草地は

荒廃地に戻ります。まさしく、ハーディンが提唱した「共有地の悲劇」そのものです。わたしが苦労してゴミ

を運んで荒廃地に草地を作っても、住民の家畜がそれを食べ尽くし、砂漠化を引き起こし、荒廃地にしてしま

うのです。

草地ができると、牧夫が家畜を連れてやってきます。牧夫と

いっても、12 才のトゥアレグの女の子です。放牧地が縮小して

おり、牧夫たちが家畜を放牧できる草地を欲していることが分

かりました(2008年 8月)。

フェンスの責任者となったフルベの牧夫

プロジェクトではコミューンの市長と村の村長と話し合い、フェン

スを建設し、責任者となる牧夫に託しますが、わたしはその入

り口の鍵と鎖を準備することはしません。施錠の有無は、牧夫

の裁量にまかせます。

けっきょく、わたしはフェンスで囲い、フェンスの責任者を決めることにしました。そのフェンスを託す

のは、各村に住むフルベの牧畜民です。2011 年 11 月に作成した第 1 号のフェンスは、わたしの友人―アル

に託すことにしました。わたしの実験圃場に隣接するように 50m 四方の荒廃地を囲みこみ、トラクターで 55

回分のゴミを運びました。このゴミの重量は、およそ 154 トンになりました。

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ニアメをはじめ都市には大量のゴミがあり、トラクターやダン

プカーで運んで、投入します。サイトをフェンスで囲み、溝を

掘ることによってゴミが周囲へ拡散しないようにするととも

に、家畜が自由に入り、採食しないようにします。

投入した都市ゴミは熊手でならし、ビニールが飛ばないように粘

土のかたまりや砂をていねいにかけていきます。

これまでに作成した 24 カ所のフェンスはすべて、コミューンの市長と各村の村長の了解のもとで、村む

らに住むフルベに託すことにしました。農耕民のハウサやザルマからは、「フルベだけが利益を得ているの

はおかしい」という苦情もありました。このような苦情に対して、わたしは次のように説明します。「フル

ベの牧畜民が毎日、世話をしている家畜の半分以上、ときにほぼすべてが農耕民の所有する家畜なのだか

ら、家畜がフェンスのなかの草を食べ、肥育できることは、フルベだけでなく、村びと全員が利益を受け

ることになる」と。

フルベが毎日、放牧している家畜は、その大半が農耕民の家畜なのです。村びとの委託を受け、牧夫た

ちは半年間にウシ 1 頭につき 1000~2000CFA フラン、ヤギ・ヒツジ 1 頭につき 500~2000CFA フランの手

数料を受け取り、ささやかな生活をしているのです。委託料には決まった一定の金額があるわけではなく、

家畜の所有者の財力や気持ち次第で金額が変わります。「村びと全員が利益を得ることができる」という説

明で、村びとたちは、みな黙って引き下がります。

近年、耕作地の拡大によって放牧地が減少し、村の周

辺で家畜の放牧は難しくなりました。そのため、牧夫は農

耕限界を越えてサハラ砂漠の近辺まで行き、より積極的

に放牧するようになりました。牧夫によると、サハラ砂漠

へ行くメリットは、農村と耕作地の場所に注意する必要は

なく、自由に放牧できることだと話します。

フルベの牧夫が世話をしている家畜の大半は、農耕民の家

畜です。1970年代と 1980年代の干ばつでフルベも、トゥアレ

グも多くの家畜を失い、父親の世代から家畜を相続すること

はできませんでした。そのため、農耕民から委託され、牧夫は

家畜を預かっているのです。

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毎年、8 月から 11 月にかけて、ニジェール各地で農耕民と牧畜民が武力衝突を繰り返し、多数の負傷者

と死者が出ます。ハウサ語のラジオ放送では、この時期、毎日のように「農耕民と牧畜民はお互いを尊重

し、仲良く暮らしましょう」というニュースが流れます。朝に流れる女性アナウンサーの声は涼しげに聞

こえますが、農村に住む住民にとって、「仲良く暮らす」という社会通念を理解していても、現実は異なり

ます。なぜ、武力衝突が発生するのか。これまでの研究では農耕民と牧畜民による土地をめぐる争いだと

言われてきましたが、実際には武力衝突は作物の食害をめぐって引き起こされます。

8 月は、トウジンビエの穂が出る時期です。トウジンビエは日本ではペットの鳥の餌にしかならないもの

ですが、ニジェールでは非常に重要な主食作物です。ハウサやザルマの農耕民がトウジンビエに対して持

つ感情は、日本人のコメに対する愛着と同じ、あるいはそれ以上と言ってもよいでしょう。降雨の状況に

もよりますが、収穫作業は 9 月なかばに始まり、11 月末には終わります。急速にすすむ人口増加もあって、

村の周囲にはトウジンビエ畑が広がり、耕せる場所は農耕民によってすべて耕されています。以前と比べ

ると、放牧地はめっきり減りました。牧夫たちは、生きにくい時代になったと言います。一方の農耕民も、

子だくさんの世帯では、息子が父親から相続で受け取る土地はわずかで、生活はけっして楽ではありませ

ん。

11 月なかばになると、サハラ砂漠で放牧していたフルベやトゥアレグが南下してきます。まだ、収穫作

業が完全に終わっていないのに、家畜が畑のなかに入ってきます。牧畜民も、よい飼料を家畜に食べさせ

たいのです。飼料となる草本がなくなると、牧畜民はサハラ砂漠を離れ、農耕民の世界へと南下するので

す。

農耕民は穀倉のまえにトウジンビエの穂をならべて、穂の束の数

を数え、さいごに穀倉に入れます。相続で所有地が縮小してお

り、収穫されるトウジンビエは世帯が消費する3~5ヶ月分ほどの

食料にしかなりません。

11月になると、牧畜民がサハラ砂漠から南下し、農耕民の畑

に入ってきます。農耕民の苛立ちはピークに達します。

この収穫時期、農耕民は自分の畑に牧畜民の家畜が入ってくるのを嫌います。家畜が自分の畑に入ってき

て、大事なトウジンビエを食べている――そんな光景を目の当たりにすると、農耕民は怒りに震え、そして、

若者たちが武器を持ち、放牧キャンプを襲撃するのです。

武力衝突の危険性は、以前と比較し、身近なものとなりました。農耕民も牧畜民も、「仲良く暮らす」と

いう社会通念を理解しているはずです。しかし、それが実現しないところに、ニジェールの厳しさがありま

す。世界一位の人口増加率、限られた土地と食料、日々の食料の確保に苦労する農耕民と牧畜民、人びとの

苛立ちと怒りが蔓延するようになっています。毎年、8 月から 11 月下旬まで、ニジェール各地では、こうし

た緊張関係が続くのです。

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私が以前調査していた地域でも、収穫期になると農耕民と牧畜民の痛ましい諍い(往々にして殺傷沙汰にまで発展してしま

う)をよく耳にしました。この都市ゴミによる緑化が、荒廃地の砂漠化抑制だけでなく、その先の「農耕民と牧畜民が仲良く暮ら

す」ことを目指していることに、強い共感と感銘の念を受けました。大山准教授が指摘されているように、ニジェールにおける土地

や食料を巡る問題は、近年の異常気象とも相まって、今後ますます解決が困難になってくると予想されます。ただ、こうした地道

な取り組みが、その解決へ向けた着実な一歩になると信じています。

収穫時期になると、家畜は夜に動き出し、夜間放牧が始まりま

す。牧夫は夜を徹して、家畜が農耕民の畑に入らないように番

をしますが、月明かりがなければ、しばしば家畜を見失います。

プロジェクトのフェンスがもたらす最大の効果は、夜間放牧に行

く必要がなく、夜に熟睡できることだと言う牧夫もいます。

農耕民のなかには、自分の畑で夜間放牧をする牧夫を待ち受ける

若者もいます。彼らは銃や槍、剣、刀を携帯し、牧夫が来るのを待

ち構えています。彼らが武器を使うと、牧夫も携帯する刀や剣で応

戦します。

わたしがプロジェクトで建設するフェンスは、この 8 月から 11 月までの 3 ヶ月のあいだ、家畜が畑に入ら

ないようにすることを目的としています。都市ゴミによる緑化を、農耕民と牧畜民の紛争予防に使おうとい

うのが、わたしのプロジェクトのもくろみです。「農耕民と牧畜民が仲良く暮らす」――誰もが願っている社

会通念を実現するのは、難しいものです。ただし、ニジェール農村の人びとがもっている「平穏な生活を求

める心」を拠り所にして、プロジェクトを進めています。

次回は、フェンスの責任者を決めると、その責任者の使用方法や意図にそって、フェンス内に生育する植

物が変わっていくことを紹介します。

都市ゴミからどんな植物が生育するのか、住民とともに確認し

ます。

JICAニジェール支所の佐々木さんとアブドゥさんが現場を見に来て

くれました(2017年 8月)。感謝です!!

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ニジェール国内の出来事 ~Niamey Nyala の新たな動きと山形支所長の挑戦~

イスフ大統領の肝いりで始まった Niamey Nyala(おしゃれな街ニアメ)プログラ

ム。耳に聞こえはよいのですが、名前ばかりが独り歩きしている感は否めず、そ

の実現にはまだほど遠い状況です。相変わらずニアメのいたるところにゴミが散

乱しており、ニアメ郊外には中心地から運ばれてきたと思われる都市ゴミが大

量に堆積し、その景観を著しく害しています。

さて、そんな折も折、10月 13 日付の国内紙「Le Sahel」に Niamey Nyala

の新たな活動が掲載されていましたのでご紹介します。

保健省のマラリア対策プログラムとのコラボレーション活動で、ニアメにおける

衛生促進と蚊の駆除運動が始動しました。この運動は各コミューンで 10 日間

程かけて実施される予定です。初日は、写真にあるように、都市衛生大臣や

Niamey Nyala の行政官など多くの関係者がニアメのヌーボー・マルシェに集ま

り、蚊の駆除のデモンストレーションを行いました。その際、Niamey Nyala特別代表は、「ニアメの衛生活動や蚊の駆除には、住民

のイニシアチブが欠かせない」とし、住民の積極的な参加を呼びかけました。さらに、都市の廃棄物・衛生問題は、かねてから大統

領にとっての懸念事項でもあり、住民の協力なくしてこの問題を解決することはできない、と大統領の言葉をも代弁しました。

さて、所変わってニジェール支所。笑顔の山形支所長が笑顔で手にしているモノはいったいな

んでしょうか?答えは、「ゴミばさみ」、それもニジェールで、特注で作ってもらったというシロモノで

す。前回の一時帰国の際に購入した日本製のゴミばさみをニジェールに持ち帰り、自宅近くの

鍛冶屋に頼んで類似品を製作してもらったそうです。Niamey Nyala に希望を込め、その動向を

常日頃注視している山形所長。まずは自宅周辺で、自らゴミばさみを用いてゴミ拾いを実践

し、地域住民の興味や関心を集めるところから始めています。試作品は支所のスタッフにも配ら

れ、それぞれの居住地区でゴミ拾いの実践を勧めました(この様子は、ニジェール支所公式

Facebook ページ:https://www.facebook.com/JICANIGERNIAMEY/ にも掲載しました。楽

しい動画もご覧いただけます!)。

「Niamey Nyala」はもちろん山形所長が言いだしたことではありませんが、「先ず隗より始めよ」

という諺にもあるように、住民の意識改革を説くより前にまず大統領自ら、ニアメの清掃活動を

実践してみてはいかがでしょうか?その際は、是非ニジェール製ゴミばさみをお試しください!

(企画調査員 佐々木夕子)

いよいよ大山准教授の具体的な研究内容に突入してきました。荒廃地に都市ゴミを投入することで、土地が緑化し、砂漠化を

抑制するメカニズムが分かりやすく説明されていて大変勉強になります。またインターバル・カメラによる写真を見れば、その効果や

有効性が容易に認められます。農耕民も牧畜民も、皆が雨季に生育してくる植物を心待ちにしているのが、その動かぬ証拠でし

ょう。私自身もこの雨季の間にニアメのサイトを視察させて頂き、その変わり様に驚愕しました。今後の展開がますます楽しみです。

ニジェール製のゴミばさみを手に

笑顔の山形支所長

都市衛生大臣らによる蚊の駆除運動の様子

(Niamey Nyara Facebook ページより)