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図4.練習前の水分補給 水分補給なし 24.8% 水分補給あり 75.2% 図1.熱中症死亡数の年次推移 1) 図2.スポーツ種目と熱中症死亡数(1975 ~ 2012 年) 2) 熱中症予防対策マニュアル 熱中症予防対策マニュアル 熱中症発症の現状 6 岡山大学スポーツ支援室 岡山大学運動部員 801名を対象に熱中症に関するアンケート調査を2014 年12 月に行いました。これまでに(中学・高校時 代も含めて)熱中症症状を経験した部員は,138 名(17.2%)でした(図3)。ほとんどは練習場で発症しています。熱中症発 症の原因は水分・塩分不足睡眠不足体調不良久々の練習と答えています。これまでに熱中症症状がおきたときに病院 へ搬送された部員は13名(1.6%)いました。日本体育協会は熱中症予防のため練習前に水分補給するよう推奨しています。 岡大運動部員は75%ができていました(図4)。熱中症発症後の対応は,休憩が最も多いのですが,その後に練習再開が32 名(23.2%)います(図5)。熱中症発症後の練習再開は極めて危険な行為です。 熱中症による死亡数は増加傾向にあります。図1は1968年から2010年までの50年間の熱中症死亡数を示しています。 1990年以降増加し,2010年は極めて高い死亡数を示しました。近年の気温上昇,高齢化などが関係していますが,人々が 温熱環境に適応しにくくなっているとの指摘もあります。一方,日本スポーツ振興センターから学校における課外活動時の熱中 症死亡数がスポーツ種目別に報告されています(図2)。野球が最も高い値を示していますが,選手数の多いことが原因です。 ただし,練習の最後にランニングすることで熱中症が多数発症しています。野球以外にも激しいスポーツはいずれも熱中症が 重症化する危険性があります。これらの図は死亡数ですので,熱中症発生や救急搬送は数倍もいることを忘れてはいけません。 熱中症 岡山大学の現状 1,800 40 30 20 10 0 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 2010 2008 2006 2004 2002 2000 1998 1996 1994 1992 1990 1988 1986 1984 1982 1980 1978 1976 1974 1972 1970 1968 (件) 38.5℃ 38.5℃ 38.5℃ 39.1℃ 38.3℃ 37.3℃ 1745 件 927 件 男 940 件 女 805 件 図3.熱中症経験者割合 熱中症未経験者 熱中症経験者 熱中症病院搬送者 1.6 % 17.2% 82.8% 図5.熱中症発症後の練習 練習再開 23.2% 練習中止 76.8% https://www.iess.ccsv.okayama-u.ac.jp/shien/sports/

岡山大学スポーツ支援室 熱中症予防対策マニュアル...図4.練習前の水分補給 水分補給なし 24.8% 水分補給あり 75.2% 図1.熱中症死亡数の年次推移1)

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Page 1: 岡山大学スポーツ支援室 熱中症予防対策マニュアル...図4.練習前の水分補給 水分補給なし 24.8% 水分補給あり 75.2% 図1.熱中症死亡数の年次推移1)

図4.練習前の水分補給

水分補給なし24.8%

水分補給あり75.2%

図1.熱中症死亡数の年次推移 1) 図2.スポーツ種目と熱中症死亡数(1975~2012年)2)

熱中症予防対策マニュアル熱中症予防対策マニュアル

熱中症発症の現状

第6版

岡山大学スポーツ支援室

 岡山大学運動部員801名を対象に熱中症に関するアンケート調査を2014年12月に行いました。これまでに(中学・高校時代も含めて)熱中症症状を経験した部員は,138名(17.2%)でした(図3)。ほとんどは練習場で発症しています。熱中症発症の原因は水分・塩分不足,睡眠不足,体調不良,久々の練習と答えています。これまでに熱中症症状がおきたときに病院へ搬送された部員は13名(1.6%)いました。日本体育協会は熱中症予防のため練習前に水分補給するよう推奨しています。岡大運動部員は75%ができていました(図4)。熱中症発症後の対応は,休憩が最も多いのですが,その後に練習再開が32名(23.2%)います(図5)。熱中症発症後の練習再開は極めて危険な行為です。

 熱中症による死亡数は増加傾向にあります。図1は1968年から2010年までの50年間の熱中症死亡数を示しています。1990年以降増加し,2010年は極めて高い死亡数を示しました。近年の気温上昇,高齢化などが関係していますが,人々が温熱環境に適応しにくくなっているとの指摘もあります。一方,日本スポーツ振興センターから学校における課外活動時の熱中症死亡数がスポーツ種目別に報告されています(図2)。野球が最も高い値を示していますが,選手数の多いことが原因です。ただし,練習の最後にランニングすることで熱中症が多数発症しています。野球以外にも激しいスポーツはいずれも熱中症が重症化する危険性があります。これらの図は死亡数ですので,熱中症発生や救急搬送は数倍もいることを忘れてはいけません。

熱中症 岡山大学の現状

1,800 40

30

20

10

0

野球ラグビー

柔道サッカー

剣道山岳陸上ハンドボール

バレーボール

バスケット

卓球アメフト

レスリング

ソフトボール

テニス

相撲その他

1,600

1,400

1,200

1,000

800

600

400

200

02010

2008

2006

2004

2002

2000

1998

1996

1994

1992

1990

1988

1986

1984

1982

1980

1978

1976

1974

1972

1970

1968

(件)

38.5℃ 38.5℃ 38.5℃

39.1℃

38.3℃

37.3℃1745件

927件

男 940件女 805件

男女

図3.熱中症経験者割合

熱中症未経験者

熱中症経験者

(熱中症病院搬送者1.6%)17.2%

82.8%

図5.熱中症発症後の練習

練習再開23.2%

練習中止76.8%

https://www.iess.ccsv.okayama-u.ac.jp/shien/sports/

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熱中症予防の基準

塩分補給の大切さ 左は,水分喪失の症状と塩分喪失の症状をまとめたものです。スポーツ活動時の水分補給には,塩分が必要です。水を飲みながら,塩をなめることで補うことができます。練習前に塩の準備を忘れないようにしましょう。

熱中症予防と水分・塩分補給

水分・塩分補給のタイミング

 水分補給は,まず練習開始前に全員行う習慣をつけましょう。着替える前と後にコップ1杯ずつ飲みましょう。練習の合間にも,体調や汗の出具合にあわせて,自由に水分・塩分補給をしましょう。

水分補給のタイミングと量

練 習 前練 習 前 250 ~ 500㎖

練 習 中練 習 中 500 ~1,000㎖/時(塩分を含める)

練 習 後練 習 後 がぶ飲みをしない

 熱中症のリスクは上の図に示すWBGTで判断します。岡山大学ではWBGT計測器を津島キャンパス,鹿田キャンパスのグラウンドと体育館に計4個設置しています。最新のデータを使って,熱中症予防に役立てましょう。

WBGTって  ?何WBGTとは湿球黒球温度のことで,気温,気流,湿度,輻射熱の 4つの環境条件を総合的に示したものです。

図6.熱中症予防のための運動指針(日本体育協会)3)

図7.スポーツ支援室 ホームページ

WBGT 気温

日本体育協会編 スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック一部改変

WBGT計測器

原則中止℃℃

厳重警戒

警 戒

注 意

ほぼ安全

31

28

25

21

35

31

28

24

運動は原則中止

激しい運動は中止

積極的に休息

積極的に水分補給

適宜水分補給

15分ごとに更新

クリック

前日のWBGT

現在

水分喪失の症状 塩分喪失の症状◇ のどの渇き◇ 尿量の減少◇ 不安・興奮

◇ 頭痛◇ めまい◇ 吐き気・おう吐◇ 立ちくらみ

熱中症の症状

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 市販のスポーツドリンクを購入する際には成分を確認しましょう。

①塩分(Na)濃度スポーツドリンクの塩分は0.1~0.2%(Na濃度40 ~ 80㎎/100㎖)が適しています。

②糖分(炭水化物)濃度飲んだ水分が吸収されやすく,汗による脱水の改善につながるかどうかは糖分の濃度が関係します。100㎖あたり3g以上の濃度では吸収速度が遅くなるので,2g程度が適当です。

※スポーツドリンクは糖分が入っていますので,飲んだ後に口をゆすぐなど,虫歯予防に努めましょう。

 □ 搬送される人数 □ 搬送される人の氏名,性別,年齢 □ 傷病が発生した場所(岡山大学津島キャンパスのどこか) □ 傷病が発生した状況(例:○○部の練習中,急に意識がおかしくなって倒れた) □ 現在の状態(例:会話が出来ない,自力で歩けない,などを簡略に) □ 連絡した人の氏名と連絡先

図9.熱中症の症状と対応

軽 症 重 症

涼しい場所に移動し,衣服をゆるめる

水分・塩分の補給

身体を冷やす

症状がよくなっても,運動は再開しないこと!

一人で水が飲めない or よくならなければ…

病院へ

救急車

救急車を呼ぶ:聞かれること

図8.スポーツ時の飲料水は塩分と糖分が必要

Na濃度(㎎/100㎖)

塩分濃度(㎎/100㎖)

糖分・炭水化物濃度(g/100㎖)

8.0

100 20 30 40 50 60 70 80

250 51 76 102 127 152 178 203

7.0

6.0

5.0

4.0

3.0

2.0

1.0

スポーツドリンク

糖分・炭水化物適正域

Na適正域

● 救急車の誘導ルートを考え,  人の配置をしましょう。

● 救急車に同伴する人を  確保しておきましょう。

「熱中症」の症状と応急処置・救急車

立ちくらみ,めまい筋肉痛,こむら返り

大量の汗

頭痛,吐き気,嘔吐倦怠感,脱力感

集中力・判断力の低下

まっすぐ歩けない応答がおかしいけいれん,意識障害

熱中症の症状は軽症から重症まで様々です。軽いからといって安心していると急に重症になることもあります。

ポカリスエット ゲータレード

ビタミンウォーター

GREENダ・カ・ラ

アミノバリュースーパーH2O

アクエリアス

アクエリアスゼロ

エネルゲン

ヴァームウォーター塩JOYサポート

緑茶

いろはすみかん

いろはす天然水

ポカリイオンウォーター

適 切 濃 度

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緊急時の対応用具と連絡先の作成

引用文献 1) 環境省:熱中症 環境保健マニュアル2014, 2014. 2) 日本スポーツ振興センター 学校災害防止調査研究委員会:課外活動における事故防止対策,2010. 3) 日本体育協会:スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック,2006.

制  作 ・鈴木久雄(岡山大学スポーツ支援室) ・伊藤武彦,三村由香里,松枝睦美,上村弘子(岡山大学大学院教育学研究科)

熱中症予防チェックポイント

 緊急時に速やかな対応ができるように,用具や連絡先一覧などの準備・確認をしておきましょう。

https://www.iess.ccsv.okayama-u.ac.jp/shien/sports/☎086-251-7181岡山大学スポーツ支援室

1.リスクマネージメント体制

 □ 以下の項目を部活・サークルで話し合う

 □ 責任者は練習現場にいる部長・主将もしくは主務であ

ることを自覚する

2.温熱環境

 □ 湿球黒球温度(WBGT)を確認してから,練習を開始する

 □ 屋外では日陰をつくるため,テントは設置する

 □ 体育館では,定期的な換気を行う

3.体調管理

 □ 体調が悪いときは,部活の友達に話して練習を休む

 □ 練習前の尿の色が濃い色であれば,脱水状態と自覚する

4.練習内容

 □ 練習に不慣れな新入生に配慮した練習内容とする

 □ 猛暑,急な暑さや休み明けには練習時間を短くする

 □ 試験期間直後に練習試合を組むなど,無理な年間スケ

ジュールを立てない

5.水分・塩分補給

 □ 塩分が摂れるように準備をする

 □ 練習前に水分補給をする

 □ 練習中は20 ~30分に1度は水分・塩分補給を行う

 □ 水分・塩分補給はいつでも自由に行う

6.熱中症発症後の練習再開

 □ 熱中症の症状を知っている

 □ 熱中症の症状が出たときは,練習は再開しない

7.応急処置と救急搬送

 □ 経口補水液かスポーツドリンク,氷を準備する

 □ 救急車を呼ばなければならない熱中症症状を見逃さ

ない

 □ 救急車の誘導は部員何人がどこに立つか,決める

8.救急搬送後の対応・連絡

 □ 大学・学生支援課の電話番号は分かっている

 □ 顧問教員の電話番号は分かっている

 □ 部員の緊急連絡先一覧をつくる

スポーツ活動の円滑な推進のためにも,スポーツ関連の保険に加入することをおすすめします。

●緊急時の対応用具 □ 経口補水液 or スポーツドリンク

 □ 氷・冷水

●緊急連絡先の作成 □ 部活・サークル員の救急連絡先一覧の作成

 □ 大学への連絡先一覧の作成