7
1 要約&推奨 中国 新型コロナウイルスに誘発された史上最大の在宅勤 務という社会実験により、物流資産とデータセン ターの需要が促進されている。 新型ウイルスの大流行によって、中国及び香港の2020年GDP成長率は大幅に低下する見通しである。オーストラリア への影響は比較的少ないと見られるが、他のアジア諸国も悪影響を被ることになる。アジアの小売セクターへの打撃は 特に深刻だ。ウイルス感染のピークは上半期になると弊社は予想するが、アジアを超えて感染が蔓延すれば、経済の混 乱が長期にわたる恐れも出てくる。アジアの不動産投資市場の取引高については、上半期に低迷する可能性があるもの の、上海で大型投資案件が最近成立していることなどからも、市場低迷の先を見越した大手不動産投資家の購買意欲が 確認されている。 感染のピークが上半期と想定すれば、下半期に景況感は急回復すると予測され、今が資産の買い時となる。中国では、 新型ウイルスに伴うオンラインショッピングへの更なるシフトに伴い物流施設やデータセンターの床需要がさらに上昇 しているため、物流施設への投資に注目したい。香港では周辺地区での一括取引やホテルへの投資がねらい目で、ホテ ルの投資単価はピーク時より30%程度下落している。用途変更を前提とした産業用資産も引き続き安定したパフォーマ ンス、安全資産である。 シンガポールと日本における新型ウイルスの影響は中国よりも少ない。シンガポール不動産の投資家は、中長期的な 成長を見込むのであれば、オフィスやホテルに投資資金を振り替えていくことを推奨する。日本では、対国債スプ レッドがアジア最大の東京オフィスの投資妙味はが高い。一方で最先端の物流倉庫のストック不足に足許の大量供給 がまだ追い付いていない物流施設においても、賃料は底堅く推移するだろう。逆に、地方の小規模なホテルは供給過 剰の懸念に加えて新型ウイルスが追い打ちをかる格好になっている。 豪州では、主要な地方都市の投資市場では新型ウイルスの影響が最も少なく、所得増が依然としてオフィスや産業用 不動産の価格上昇に貢献している。そして、総体的にも、最近少なくなってきた中期的インカム・リターン向上を狙 う機会が十分残されている。豪州、とりわけメルボルンはバイオ・ケミカル関連開発の世界的中心地であるため、投 資家には同業界に対する新たな投資機会を模索することを推奨する。 シンガポール 新型ウイルスの影響は大きくない。中長期的な成長 が見込まれるオフィス・ホテル資産が有力である。 香港 日本 東京オフィスはバリュー投資として魅力的。 高品質な物流施設在庫が少なく、賃料は安定推移す る見通し。 物流, Eコマース データ センター 今後の投資対象としては、区分保有のオフィス、周 辺地域の一括取引、ホテルに注目したい。 オフィス ホテル 物流 豪州 堅調な所得増がオフィスや産業用施設の不動産価格上昇を後押ししている。 弊社はオーストラリア、特にメルボルンのバイオメディカル産業に対する新 たな投資機会に注目している。 オフィス オフィス Andrew Haskins エグゼクティブ・ディレクター リサーチ | アジア +(852) 28220511 [email protected] Rakesh Kunhiraman シニア・ディレクター リサーチ | アジア +(65) 6531 8569 [email protected] 産業用/物流 オフィス Anneke Thompson ナショナル・ディレクター リサーチ | オーストラリア +(65) 6531 8565 [email protected] 新型コロナウイルス: アジア・パシフィック不動産投資市場への影響 【和訳版】 TerenceTang マネージング・ディレクター キャピタル・マーケッツ | アジア +(65) 65318565 [email protected] 新型コロナウイルス(新型ウイ ルス)はアジアの経済成長を停 滞させる一方、豪州への影響は 比較的低いと見られる。アジア の小売セクターは深刻な打撃を 受けている。感染のピークが上 半期とすれば、下半期の市況回 復を見込んで割安な投資ができ るチャンスである。 > 中国では、需要が急増してい る物流施設(活動が二級都市 へ移転しつつある)とデータ センターに注目したい。 > 香港 1 ではオフィス及びホテ ル資産に力強い価格回復の 機会が生じている。 > シンガポールでは、中長期的 な成長が見込まれるオフィス やホテル資産が有力である。 > 日本では東京オフィス資産の 投資妙味が引き続き高い。高 品質の物流資産も注目されて いる。地方のホテルは供給過 剰。 > 豪州は新型ウイルスの影響が 最も少ない。所得増がオフィ スや産業用不動産の価格上昇 を後押ししている。 ホテル John Marasco マネージング・ディレクター キャピタル・マーケッツ | オーストラリア +61 3 9612 8830 [email protected] COLLIERS FLASH CAPITAL MARKETS | ASIA PACIFIC ¹ 中華人民共和国の特別行政地区

新型コロナウイルス[email protected] オフィス 産業用/物流 AnnekeThompson ナショナル・ディレクター リサーチ|オーストラリア +(65)

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 新型コロナウイルス...Rakesh.Kunhiraman@colliers.com オフィス 産業用/物流 AnnekeThompson ナショナル・ディレクター リサーチ|オーストラリア +(65)

1

COLLIERS FLASH CAPITAL MARKETS | ASIA PACIFIC

要約&推奨 中国

新型コロナウイルスに誘発された史上最大の在宅勤務という社会実験により、物流資産とデータセンターの需要が促進されている。

新型ウイルスの大流行によって、中国及び香港の2020年GDP成長率は大幅に低下する見通しである。オーストラリアへの影響は比較的少ないと見られるが、他のアジア諸国も悪影響を被ることになる。アジアの小売セクターへの打撃は特に深刻だ。ウイルス感染のピークは上半期になると弊社は予想するが、アジアを超えて感染が蔓延すれば、経済の混乱が長期にわたる恐れも出てくる。アジアの不動産投資市場の取引高については、上半期に低迷する可能性があるものの、上海で大型投資案件が最近成立していることなどからも、市場低迷の先を見越した大手不動産投資家の購買意欲が確認されている。

感染のピークが上半期と想定すれば、下半期に景況感は急回復すると予測され、今が資産の買い時となる。中国では、新型ウイルスに伴うオンラインショッピングへの更なるシフトに伴い物流施設やデータセンターの床需要がさらに上昇しているため、物流施設への投資に注目したい。香港では周辺地区での一括取引やホテルへの投資がねらい目で、ホテルの投資単価はピーク時より30%程度下落している。用途変更を前提とした産業用資産も引き続き安定したパフォーマンス、安全資産である。

シンガポールと日本における新型ウイルスの影響は中国よりも少ない。シンガポール不動産の投資家は、中長期的な成長を見込むのであれば、オフィスやホテルに投資資金を振り替えていくことを推奨する。日本では、対国債スプレッドがアジア最大の東京オフィスの投資妙味はが高い。一方で最先端の物流倉庫のストック不足に足許の大量供給がまだ追い付いていない物流施設においても、賃料は底堅く推移するだろう。逆に、地方の小規模なホテルは供給過剰の懸念に加えて新型ウイルスが追い打ちをかる格好になっている。

豪州では、主要な地方都市の投資市場では新型ウイルスの影響が最も少なく、所得増が依然としてオフィスや産業用不動産の価格上昇に貢献している。そして、総体的にも、最近少なくなってきた中期的インカム・リターン向上を狙う機会が十分残されている。豪州、とりわけメルボルンはバイオ・ケミカル関連開発の世界的中心地であるため、投資家には同業界に対する新たな投資機会を模索することを推奨する。

シンガポール

新型ウイルスの影響は大きくない。中長期的な成長が見込まれるオフィス・ホテル資産が有力である。

香港

日本東京オフィスはバリュー投資として魅力的。高品質な物流施設在庫が少なく、賃料は安定推移する見通し。

物流,Eコマース

データセンター

今後の投資対象としては、区分保有のオフィス、周辺地域の一括取引、ホテルに注目したい。

オフィス ホテル

物流

豪州 堅調な所得増がオフィスや産業用施設の不動産価格上昇を後押ししている。弊社はオーストラリア、特にメルボルンのバイオメディカル産業に対する新たな投資機会に注目している。

オフィスオフィス

Andrew Haskinsエグゼクティブ・ディレクター

リサーチ |アジア

+(852) [email protected]

Rakesh Kunhiramanシニア・ディレクターリサーチ | アジア

+(65) [email protected]

産業用/物流オフィス

Anneke Thompsonナショナル・ディレクターリサーチ |オーストラリア

+(65) [email protected]

新型コロナウイルス:

アジア・パシフィック不動産投資市場への影響 【和訳版】

TerenceTangマネージング・ディレクター

キャピタル・マーケッツ | アジア

+(65) [email protected]

新型コロナウイルス(新型ウイルス)はアジアの経済成長を停滞させる一方、豪州への影響は比較的低いと見られる。アジアの小売セクターは深刻な打撃を受けている。感染のピークが上半期とすれば、下半期の市況回復を見込んで割安な投資ができるチャンスである。

> 中国では、需要が急増している物流施設(活動が二級都市へ移転しつつある)とデータセンターに注目したい。

> 香港1ではオフィス及びホテル資産に力強い価格回復の機会が生じている。

> シンガポールでは、中長期的な成長が見込まれるオフィスやホテル資産が有力である。

> 日本では東京オフィス資産の投資妙味が引き続き高い。高品質の物流資産も注目されている。地方のホテルは供給過剰。

> 豪州は新型ウイルスの影響が最も少ない。所得増がオフィスや産業用不動産の価格上昇を後押ししている。

ホテル

John Marascoマネージング・ディレクターキャピタル・マーケッツ |

オーストラリア

+61 3 9612 [email protected]

COLLIERS FLASHCOLLIERS FLASH CAPITAL MARKETS | ASIA PACIFIC

¹ 中華人民共和国の特別行政地区

Page 2: 新型コロナウイルス...Rakesh.Kunhiraman@colliers.com オフィス 産業用/物流 AnnekeThompson ナショナル・ディレクター リサーチ|オーストラリア +(65)

2

COLLIERS FLASH CAPITAL MARKETS | ASIA PACIFIC

市場への影響と投資推奨投資市場への影響

>上半期は評価額が落ち込む可能性、下半期には回復する見通し。

>高齢者のネット販売が浸透しつつあり、物流市場の成長を後押し。全国的な在宅勤務の社会実験はデータセンターへの需要を大きく押し上げ。

>新型ウイルスは期待されていたオフィス需要の回復を更に遅らせる。一方で、ウイルス感染からの影響が低いセクターのテナントを多く擁するビジネス・パークでは需要は底堅い。

>長期投資家であれば割安な価格で不動産投資を擦るチャンス

>ネット販売業者やエンドユーザーは二級都市の新興市場に既に移行しており、投資家や開発業者も追随する必要。

>高い参入障壁にも関わらず、データセンターの需要が急増。それなりの専門知識も必要とされることに注意を喚起したい。

>ホテルの価格下落は、用途転換を前提とした新たな投資機会。

> 2019年は政府への抗議活動などから既に逆風。新型ウイルス感染からホテルや小売りセクターを中心に更に市況は悪化。

>ホテルに対する悪材料は、30%近い価格下落に織り込み済みと考える

>上半期のオフィスの賃貸需要は更に悪化する見通し。

>総じて物流セクターは安定して推移、影響も限定的。

>売買高は上半期に縮小、第二四半期から投資家心理は改善へ。

>都心地区で質の高い売り物件が増加していることに注目。ホテルや店舗には力強い価格回復の機会が見込まれる。

>郊外にある区分保有オフィスやオフィス・ビルの一括取引を推奨。例えば、沙田至中環線(Shatin to Central Line)開通の恩恵を受けるカオルーンイースト地区。

シンガポール

>シンガポール政府の大胆な政策支援は旅行者、投資家の信頼感向上に寄与。安全な投資先としての地位が高まる結果に繋がった。

> 2003年SARS流行に伴う上半期の売買手控えは、下半期には回復、年間売買総額では前年比29%増。新型ウイルスについても下半期には同様の回復を実現する可能性がある。

>ウイルス感染の影響が少ない事業においては、新たな投資機会を積極的に検討すべきチャンス。

>中長期的な市場成長が見込まれるホテル、オフィス、周辺地区の事業用用地を投資対象として推奨。

>オフィス区分保有、産業用施設、店舗なども割安な価格で投資できるチャンス。

>雇用者、従業員双方において安全な職場環境が提供されるシンガポールは優秀な人材を引き付けることができる

>国債利回りがほぼゼロ、若しくは更なるマイナス傾向。不動産投資の対国債イールドスプレッドも、依然としてアジア最大の水準。

>リスク選好度が低下しているため、投資の意思決定が遅れる可能性があり、新規投資が一時的に落ち込む見通し。

>深刻な価格の落ち込みは一部の小規模ホテルに限定される見通し。この7年間で観光客収入は4.2倍に増加、一方で国内のホテル供給は5.9倍に増加した。人気観光地でのホテル需要は堅調であるが、過剰となりつつある供給に伴う市況の軟化も見込まれる。

> 投資対象:対国債利回りが約3.4%の東京オフィスはまだ有力。

> 都心オフィスではグレードによる賃料格差が大きいため、ビル管理を改善することで収益力を高められる可能性。

> 首都圏での最先端の設備を備える物流施設は僅か5%で、相当なグレードアップが必要とされている。近年の大量供給にかかわらず物流賃料は概ね堅調に推移するであろう。

中国

>新型ウイルスに伴うGDPへの影響から、政策金利があと1~2回利下げされる蓋然性が高まっている。政策金利の低下は、豪州不動産に対する投資妙味を増すだろう。

>オフィスや産業用施設などの資産クラスでは、所得増が依然として全体的な不動産価格上昇に貢献している。

> 2020年初来の投資額は2019年レベルと比較して1/3程度低下したペース。オーストラリア

香港

日本

物流,Eコマース

データセンター

オフィス

ホテル

産業用施設

オフィス

ホテル

物流

オフィス

バイオケミカル

推奨資産推奨事項

>もはや数少ないインカム・リターン向上のチャンスが残される。

>投資家、特にアジアの投資家はバイオメディカル業界に注目するだろう。メルボルンを始め、豪州はバイオ・メディカル開発研究の世界的中心地である。

>産業用施設の貸主は新型ウイルスの影響が少ない3PL(サードパーティーロジスティクス)、医薬品グループ等のテナントに注目する。

Page 3: 新型コロナウイルス...Rakesh.Kunhiraman@colliers.com オフィス 産業用/物流 AnnekeThompson ナショナル・ディレクター リサーチ|オーストラリア +(65)

3

COLLIERS FLASH CAPITAL MARKETS | ASIA PACIFIC

国別見通し注目される物流施設及びデータセンター

推奨事項投資市場への影響

> 現金不足の不動産オーナーに対して柔軟な価格交渉ができる可能性。

> 長期投資家であれば、割安な投資物件を見つけるチャンス。

> 物流市場の成長力は堅調だが、Eコマース業者やエンドユーザーは二級都市の新興市場にすでに移行しており、投資家や開発業者も追随する必要。

> データセンターに多額の投資資金が流入しているが、参入障壁は高く、投資家にはそれなりの専門知識が必要である。

> ホテルの不動産価格が下落しており、オフィス、賃貸向けもしくはサービス・アパートメントへの用途転換を前提とした投資を検討したい。

> 国内経済も上半期は落ち込む可能性があるが、悪材料は上半期には出尽くし、下半期には迅速な回復へ向かう見通し。

> 新型ウイルスは、物流セクターの成長を加速化させ、データ・センターへの需要を増大させる効果が見込まれる。

> 新型ウイルスからの影響が少ないテナントを擁しているため、ビジネス・パークに対する需要は堅調に推移する見通し。

在宅勤務を徹底するから社会実験から示唆された内容は以下の通り

> Eコマースを敬遠してきた年配者にも、外出禁止に伴い、ネットショッピングが浸透し始めている。これまで抑圧された消費者需要も、下半期には小売やネット販売を回復させていくだろう。これは物流セクターの更なる成長を後押していく見通し。

> 全国的なテレワークの実証実験により、既に急増しているデータ利用量が増大し、データセンターへの需要も急上昇している。

中国

1 オックスフォード・エコノミクス, 「Country Economic Forecast: China(国別経済予測:中国)」 (2020年3月2日)

物流,Eコマース

データセンター

推奨資産

市場低迷の先を見据えた動きを図る

新型ウイルスに伴う景気低迷の最中、2020年2月20日、香港ランドは、上海の大規模プロジェクトに対する44億米ドルの投資を発表した 徐匯西岸(Xuhui West Bund)地区の敷地は、延床面積推定109万m(1,170万平方フィート(sf))の複合開発に利用される予定で、同プロジェクトは2027年に竣工予定である。この報道は上海市場の将来性に賭ける投資家の信認を示したものでもあるといえるだろう。

2020 年GDP成長率: 4.8%

オックスフォード・エコノミクスは2020年の実質GDP成長率を6.0%から5.4%へ下方修正した1 。上半期のうちは、製造業とサービス業を中心に市況悪化の見通し。弊社予想では、上半期に影響は抑え込みまれ、2003年のSARSに対する反応を参考にすれば、下半期に迅速な回復が見込まれる。

中央政府の対応:金融政策の緩和および財政政策の出動

名目金利は安定して推移しているものの、期待インフレ率低下に伴い、2020年から2021年にかけてのオックスフォード・エコノミクスは予測においても、実質金利の漸増が見込まれている。しかし、中央銀行は短期政策金利を引き下げしたうえで、2,440億米ドル相当の短期市場資金を注入した。税金の減免措置等を含む更なる金融緩和と財政出動が手当てされており、不動産投資市場における投資家心理も回復へ向かう見通し。

オフィス・セクターではビジネス・パークが底堅い

総じて2019年の市況は軟調であったが、新型ウイルスはオフィス需要回復も遅らせる見通し。かねてからの一級都市における過剰供給の懸念も高まる可能性がある。短期的には、ビジネス・パークの見通しが堅調である。テナントもウイルスからの影響度は総じて低く、逆に売上増加が見込まれる。代表例としれは、ヘルスケア、製薬、ネット販売、ネット教育、ゲーム業界などである。

オフィス投資市場の展望

一級都市におけるオフィス賃料は横ばいもしくは下落傾向であるが、長期的な成長が見込まれるため、テナントからの人気も高い。弊社の短期予想に基づけば、広州では新規供給の抑制から空室率上昇も相対的に抑制傾向にある。一括取引を志向するのであれば、新興地区に注目していきたい。今後2年から5年にかけては、テナント需要の回復に合わせて、上海、北京、深圳などで賃料の回復が見込まれている。

Page 4: 新型コロナウイルス...Rakesh.Kunhiraman@colliers.com オフィス 産業用/物流 AnnekeThompson ナショナル・ディレクター リサーチ|オーストラリア +(65)

4

COLLIERS FLASH CAPITAL MARKETS | ASIA PACIFIC

4

影響は香港ほど深刻ではなく、新たな投資機会に

シンガポールは対外的に開かれた経済圏で貿易に広く依存しているため、国内市場と同様に中国の景気低迷の影響を受けやすい。現在、世界貿易における中国のシェアはSARSが蔓延した2003年より遥かに大きいため、2003年のSARS時よりも、新型ウイルスの国民経済への影響も深刻になる見通し。ただ、香港や中国に比較kすれば影響は限定的。

政府は2003年4月、SARS対策パッケージとして予算外で2億3,000万SGDを計上したが、今回発表した2020年景気刺激パッケージは40億SGDに達している。

市況への打撃は大きいが、景気低迷時は買い時でもある

香港1では、大規模抗議活動、米中貿易戦争の影響、金融セクターへの長期的なプレッシャー等、既に発生している問題に新型ウイルスが追い打ちをかけている。コロナウィルスのピークが上半期に来ると仮定した場合の予測は以下の通り。

> 香港GDPの18%2を占める旅行・観光産業は2020年再び低迷し、ホテルの稼働率は更に低下する見通し。一部のホテルの稼働率は10%⁻20% 1まで大幅に落ち込んでいる。

> 高級品販売は更に低迷し、高級品売り場需要も低下傾向に。

2020 年GDP成長率: −2.8%

オックスフォード・エコノミクスは、2020年の実質GDP成長率予測を-1.4%から-2.8%に下方修正。2019年の-1.2%に続いて、2年連続の景気後退に陥る見通し。香港株価指数も年初来高値から8%下落したが、市場心理は持ち堪えた。

推奨事項投資市場への影響

> 投資売買高は上半期に縮小。第二四半期からは投資家心理も改善方向へ。

> 都心地区の高級な売り物件に注目。ホテルや店舗では価格修正の可能性。

> オフィス区分保有や周辺地区オフィス・ビルの一括取引を推奨。例えば、カオルーンイースト地区など。

> 2019年は抗議活動に伴い低迷したホテルは、新型ウイルスで更にパフォーマンスが落ち込んだ。しかし悪材料は、すでにピーク時から30%低下したホテル価格に十分反映されていると弊社はみている 。

> 賃貸需要が悪化するオフィス・セクターでは上半期の投資活動もも停滞する見通し。

> 用途変更用の産業用施設は引き続き安定、かつ安全な投資対象である。

不動産市場へのインパクト

影響が最大なのは、小売、ホスピタリティ産業。2020年、香港及びセントラル地区のオフィス平均賃料は、それぞれ8%と13%下落するという弊社予測は維持する、価格下落は上半期に集中し、年後半には迅速な回復へ。

政策金利は史上最低水準へ

2008年の金融危機以来、香港は実質金利をマイナスに維持してきた。ドルペッグ制に基づき、金利も米国に実質連動していることから、市場環境の変動は当面見込まれていない。マイナスに維持された実質金利は、不動産に対する投資需要を喚起する効果。

投資:割安物件を見つける好機

投資家には、キャピタルゲインを確保するためにも長期保有してきた資産を売却することを推奨。オフィス需要が回帰すれば、オフィスの価格も回復する見通し。投資家は価格が急落しているホテルにも注目すべき。

2020年政府予算: 40億SGD

2月18日に公表された予算でコロナ危機における企業と労働者を支援するための「安定・支援パッケージ」40億SGD(29億米ドル)を見込む。ホテルは30%、小売業は15%の固定資産税が還付に。予算外措置も手当てされているが、中央銀行は4月の会合で更なる緩和を行い。ゼロ近くまで低下した実質金利と金融緩和はしばらく継続する見通し。

足許の影響を乗り切る安全投資先に

短期的にホテルは客足の減少とイベント中止によるダメージを被っている。小売業では特に飲食店舗や観光地で30~80%の売上減となっている2 。新型ウイルスが上半期で封じ込められれば、2020年末には殆どのセクターが回復へ向かうだろう。

投資:割安物件を見つける好機

投資家は長期的な需要ドライバーに再び注目すべきである。ホテル、都心地区のオフィス、周辺地区での事業向け用地などに長期的な成長を期待。

シンガポール

1 出典:SCMP article at https://www.scmp.com/business/article/3052937/hong-kong-hoteliers-say-markets-disaster-90-cent-rooms-stay-vacant-amid. ² 出典: CNA 2020年2月24 日.

香港

オフィス

産業用

ホテル

推奨資産

2020年GDP成長率: 1.0%

オックスフォード・エコノミクスは、2020年の実質GDP成長率の推定値を1.4%から1.0%に下方修正した。ストレーツ・タイムス株価指数は1月22日から2月末までの期間で7.5%低下し、投資家心理も若干弱含みであることを示している。

Page 5: 新型コロナウイルス...Rakesh.Kunhiraman@colliers.com オフィス 産業用/物流 AnnekeThompson ナショナル・ディレクター リサーチ|オーストラリア +(65)

5

COLLIERS FLASH CAPITAL MARKETS | ASIA PACIFIC

二級ホテルが焦点

新型ウイルスは、人気観光地のホテル供給過剰問題を複雑化させている。東京オリンピックを前に増加してきた供給量は、大阪と京都でそれぞれストックの30%と65%に匹敵しており、新型ウイルス発生以前から既に懸案事項となっていた。しかし、地方の小規模ホテルでは総観光収入における訪日客への依存度が高い(全ホテル平均20%に対して平均29%)こともあり、供給過剰リスクはこのような小規模ホテルに偏在した問題と弊社は見ている。

固定賃料体系が多いこととと潤沢な流動性サポートなどから市場への影響は限定的

日本の不動産市場規模は大きく、対外貿易に対する依存度も低い。しかし、総体的には、訪日観光客の増加に伴い対中貿易黒字年間4.5兆円(410億米ドル)を稼ぎ出してきた中国の景気低迷による波及効果を受けることとなる。2019年は、大中華圏と韓国からの訪日観光客はそれぞれ全体の56%と9%を占めており、大阪や京都等の人気観光地に与える新型ウイルスに伴うダメージは明らかである。

内需が停滞すれば、リスク選好度により深刻な問影響が懸念される。大半の貸主は日本の固定賃料体系によって保護されているようだが、一部の観光地では小売業の先行指標が新型ウイルス発生当初から月額60%以上低下しており、政府の支援策が不足する中、一時的な苦境に陥るテナントも限定的に出てくると思われる。

日本

投資市場への影響

> 東京のグレードAオフィスはまだ有力と見ている。利回りは約3.4%、利回りゼロの対国債スプレッドで3.4pp(パーセントポイント)で推移。

> 都心オフィスではグレード間賃料格差が大きいため、ビル管理手法を改善することで収益力を上げられる可能性。

> 首都圏の物流施設のうち最先端施設を有する比率はたった5%で、相当のグレードアップが必要となっている。近年大量供給がされてきたにかかわらず、物流賃料は全体的に堅調に推移する見通し。

> 国債利回りが殆どゼロまたはマイナスとなりそうであり、国内不動産資産の対国債イールドスプレッドは、依然としてアジア最大になると思われる。

> リスク選好が低下しているため投資の意思決定が遅れる可能性があり、ウィルスの流行が収束しない間は新規投資が一時的に落ち込むと見られる。

> 深刻な価格の落ち込みは接客関係の資産に限定されるであろう。この7年間で観光客収入は4.2倍となり4.5兆円に達したが、国内のホテル供給は5.9倍の304,000m2に増加している。人気観光地の根強いホテル需要は、この高い供給量によって吸収されてきた。

推奨事項

> 投資対象:ホテル、都心地区のオフィス、周辺地区での事業向け用地など

> オフィス区分保有、産業用施設、店舗などでは投げ売りの機会も見込まれる

> 雇用者・従業員の双方から人気の高い安全な職場環境を提供し、人材を引き付けたいテナント需要も強い。

投資市場への影響

> シンガポールの政府の力強い政策対応は、旅行客や投資家からの信頼感を向上させる効果。安全投資先としての都市の地位も高まっている。

> リアル・キャピタル・アナリティクス(RCA)によると、シンガポールの不動産投資売買高は、SARS大流行に伴い景況感が悪化した2003年第1四半期、第2四半期それぞれ前期比63%減、5%減となった。

> このような数値からも、2020年下半期には新型ウイルスからの大幅な回復の可能性が指摘される。2020年の投資売買総額、前年比6%増の313億SGDの弊社予想に変更はなし

2020 年GDP成長率: ほぼゼロ

消費税増税と賃金の伸び悩みによる内需の低迷、そして貿易の停滞といった既存の問題にC新型ウイルスが追い打ちをかけた。オックスフォード・エコノミクスは2020年の実質GDP成長率を0.2%引き下げ、 +0.2%に改定した。

金融市場の緩和は維持される

日本は財政出動の余力が限定的である反面、資金繰りに対する懸念は最小限に抑えられている。直近の予算措置も、政策支出は伴わず、中小企業に対する一時的な資金繰り援助程度に限られている。金融緩和も維持されてており、実質短期金利はマイナス、10年国債利回りも若干のマイナスとなっている。

投資を牽引するドライバーは健在

オフィスや物流施設を中心とした不動産投資市場における長期的需要の牽引要因へ健在である。債券などの他の資産の投資利回りも低下しているため、手許現金を遊ばせておく負担が、リスクを抑制する動きにも一定の歯止めをかけている。取引件数はやや下落傾向にあったが、過去数四半期はグローバル投資家による大型取引が立て続けに成立したため相殺された。

推奨事項

オフィス

ホテル

物流

オフィス

推奨資産

推奨資産

Page 6: 新型コロナウイルス...Rakesh.Kunhiraman@colliers.com オフィス 産業用/物流 AnnekeThompson ナショナル・ディレクター リサーチ|オーストラリア +(65)

6

COLLIERS FLASH CAPITAL MARKETS | ASIA PACIFIC

市場概況

> 短期~中期的な所得増がますます数少なくなる中、まだチャンスののこる国として投資家からの注目は高まっている。

> 投資家、特にアジアの投資家はバイオメディカル業界に注力する見通し。メルボルンを始め、豪州はバイオ・メディカル開発研究の世界的な中心地である。このため、新たな関連投資のチャンスを探るべき。

産業用不動産市場

産業用不動産の貸主に対する推奨は以下の通り。

> 新型ウイルスの影響を受けない、逆にその恩恵が見込まれる3PL(サードパーティーロジスティクス)や医薬品関係のテナントをより重視していく。

> 影響を受ける可能性のある顧客とは早期に連絡を取り、個別需要を把握する。

> 原材料の不足に伴い竣工までの期間に遅れが出そうなため、対象テナントには、繋ぎの短期賃貸契約を早めに打診する。

市場概況

> 新型ウィルスの2020年第1四半期GDPへの影響が顕在化すれば、政策金利があと 1~2回利下げされる蓋然性がますます高まる。しかし、これに伴い国債金利が低下すれば、豪州不動産もより注目度を増すこととなる。

> 賃貸分野の成長見通しはまだ影響を受ける-オフィスや産業用物件等、特定の資産クラスでは、所得増が依然として全体的な不動産価格上昇に貢献している。しかしこれによってオーストラリアの不動産資産の相対的注目度が高まっている。

> このところの新型ウィルス蔓延により、更に「安全な避難先」として金や国債へ投資資金が流入している。

> 2020年初来の投資額は2019年レベルと比較して1/3程度低下している。年初来の豪州商業用不動産に対する投資総額のうち外国資本が占める比率は33%となり、2019年の41%から低下した。特に中国や香港からのクロス・ボーダー投資家では、手控えを示す事実がいくつか顕在化しつつある。しかし豪ドルの通貨価値も下落しているため、海外投資家にとっては買い時となっている。

産業用不動産

> 工業関係のテナントは「様子見」の姿勢を取り、近い将来の事業所の拡張や移転の意思決定は先延ばしする可能性が高い。テナント側でも、移転計画よりもウィルスが本業にどの様な影響を与えるかの見極めに積極的に時間を割いていくだろう。

> リテール関係のテナントと同様、中国からの製品や原材料に依存している企業では、工場が強制的に閉鎖されるため、短期的なサプライチェーン停止に見舞われると見られる。他国から原材料を調達するにしても、追加の開発コストや開発スケジュールの遅れなど連鎖的影響を受けるであろう。

オーストラリア

中期的なインカム・リターン向上を目指して:バイオメディカル業界へ注目

推奨事項投資市場への影響

国内所得の増加がオフィスや産業用不動産等を中心とした相対的な不動産価格上昇トレンドに貢献している。

年初来の投資総額は2019年のレベルと比較して約1/3低下している。

投資家、特にアジアの投資家が注目するのはバイオメディカル業界。

Page 7: 新型コロナウイルス...Rakesh.Kunhiraman@colliers.com オフィス 産業用/物流 AnnekeThompson ナショナル・ディレクター リサーチ|オーストラリア +(65)

コリアーズ・インターナショナル・グループ・インクについて

コリアーズ・インターナショナル ・グループ(NASDAQ:CIGI, TSX :CIGI)は業界トップクラスの国際不動産投資管理サービス会社です。世界68か国で、15,000人以上の起業家精神に長けた専門家を擁しており、グローバル企業・不動産オーナーおよび投資家へ幅広いサービスを提供しています。コリアーズは、自社株保有比率が概ね4割に相当する、経験豊富な首脳陣が 率いる企業で , 25年以上にわたり株主に概ね20%の収益率を提供してきました。 2019年には30億ドル (連結では35億ドル)の企業収益を計上し、預かり資産高330億ドル以上を管理しております。コリアーズの最新情報については、弊社の ウェブサイトwebsite 、 Twitter、 LinkedIn を参照してください。

著作権 © 2020年コリアーズ・インターナショナルこの文書に記載される情報は 信頼できる情報源から入手されたものです。 弊社では正確な情報を提供すべく努力していますが、保証は致しません。 弊社は不正確な内容についての責任は一切負わないものとします。 読者には、本報告書に記載される情報に基づいて行動を起こす前に、 専門家 に相談されることをお勧めします。

執筆者:

Andrew Haskinsエグゼクティブ・ディレクター | リサーチ | アジア

+852 2822 [email protected]

Anneke Thompsonナショナル・ディレクター | リサーチ |オーストラリア

+65 6531 [email protected]

共著:

Terence Tangマネージング・ディレクター | キャピタル・マーケッツ |アジア

+65 6531 [email protected]

Tammy Tangマネージング・ディレクター | 中国

+86 159 0077 [email protected]

Antonio Wu BSc(Hons) MSc (Real Est) MRICSマネージング・ディレクター代理 | キャピタル・マーケッツ | 香港

+(852) 2822 [email protected]

Wei Leng Tangマネージング・ディレクター |シンガポール

+65 6531 [email protected]

太田 英輝エグゼクティブ・ディレクター | キャピタル・マーケッツ | 日本

+81 3 4572 [email protected]

John Marascoマネージング・ディレクター |

キャピタル・マーケッツ | オーストラリア+61 3 9612 [email protected]

Rakesh Kunhiramanシニア・ディレクター| リサーチ | アジア

+65 6531 [email protected]

熊谷 真理シニア・ディレクターリサーチ | 日本

+81 3 4572 [email protected]

照会先:

時田 勝司マネージング・ディレクター | 日本

+81 3 4572 [email protected]

詳細は以下の者にご連絡ください: