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1 石油・天然ガスレビュー アナリシス 2 0 1 9 年に入り、ベネズエラをめぐる状況が急激な展開を見せている。 2 0 1 9 年 1 月 1 0 日、Nicolás Maduro 大統領の 2 期目の大統領就任式が執り行われた。これに対し、野 党が主流を占める国会は、2018年5月20日に行われた大統領選挙は公正なものではなかったとし、 Maduro 大統領の正当性を否認した。そして、1 月 2 3 日には憲法 2 3 3 条に基づいて国会議長である Juan Guaidó氏が自ら暫定大統領に就任すると宣言した。米国のTrump大統領がこれを承認したことから、 Maduro大統領は米国との外交関係を断つと表明した。ブラジル、コロンビア、アルゼンチン、コスタ リカ、ペルー、パラグアイ、チリなどの中南米諸国のほか、カナダ、英国、ドイツもGuaidó氏の暫定 大統領就任を承認、一方、ロシア、トルコ、中国などは Maduro 大統領を支持する旨表明した。1 月 2 8 日には米国財務省が、国営石油会社 PDVSA に対し制裁を科すと発表、ベネズエラは米国の石油会社に 販売した原油の代金を回収することが事実上不可能となり、最大の外貨獲得源を失いかけている。さら に、3 月には、これまでにない大規模な停電が繰り返し発生し、石油の生産や輸出と共に国民の生活に も大きな影響が及ぶことになった。このような状況のもと、ベネズエラ国内では、いったんはMaduro 政権に対する抗議行動が拡大した。また、Guaidó暫定大統領のグループは 2 月 23 日に野党主導で行わ れた人道支援物資搬入に伴い、軍部の多くが Maduro政権から離反し、これをきっかけに Maduro大統 領を退陣に追い込むことを期待していたが、実際には大規模な軍部の離反には至らず、次第に抗議行動 が沈静化していった。4 月 3 0 日には、Guaidó 国会議長が、国民や軍に Maduro 政権への蜂起を呼び掛け たが、この際にも軍の大規模離反は起きず、Maduro大統領は引き続き、権力を維持している。5 月 16 日には、ノルウェーが仲介役となり、Maduro政権と反政府側が交渉に向けて調整を行っていることが 明らかにされたが、政情が安定に向かうか否かははっきりしない。 米国による対 PDVSA 制裁(2 0 1 9 年 1 月 2 8 日)の主な内容 米国内の PDVSA 資産凍結。 米国企業のベネズエラからの原油輸入停止。ただし、PDVSA の米国精製・販売部門子会社 Citgo は 7 月 2 7 日まで、その他の企業は 4 月 2 8 日まで原油輸入を継続することを認める。米国企業は原油購 入代金を Maduro 政権が引き出すことができない米国政府指定の口座に入金しなくてはならない。 米国石油会社によるベネズエラへの石油製品輸出の禁止。 Chevron とサービス会社 Halliburton、Schlumberger、Baker Hughes、Weatherford およびその子 会社に対し現在のベネズエラでの操業を 7 月 2 7 日まで継続することを認める。ただし、米国から ベネズエラへの希釈剤の輸出は認めない。 Citgo は米国での操業を継続できるが、収益は Maduro 政権が引き出すことができない米国政府指 定の口座に入金しなくてはならない。 このような状況を受けて、減少を続けきたベネズエラの石油生産量は、さらに減少する様相を示して いる。 OPEC Monthly Oil Market Report によると、ベネズエラの年間平均の原油生産量は、2 0 1 6 年の 2 1 5 万 4,0 0 0b/d から、2 0 1 7 年は 1 9 1 万 1,0 0 0b/d、2 0 1 8 年には 1 3 4 万 1,0 0 0b/d へと減少している。月別の原 油生産量を見ても、2016年1月には232万5,000b/dであったものが、2019年1月には115万1,000b/d と半減、4月には76万8,000b/dへと1月の3分の2以下に減少している。IEAのデータでも原油生産量 じめに 激変するベネズエラの石油産業 JOGMEC 調査部 舩木 弥和子

激変するベネズエラの石油産業...3石油・天然ガスレビュー JOGMEC K Y M C 激変するベネズエラの石油産業 ているようだ。実際にどこまで力を伸ばしているかは不

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  • 1 石油・天然ガスレビュー

    JOGMEC

    K Y M C

    アナリシス

     2019年に入り、ベネズエラをめぐる状況が急激な展開を見せている。 2019年1月10日、Nicolás Maduro大統領の2期目の大統領就任式が執り行われた。これに対し、野党が主流を占める国会は、2018年5月20日に行われた大統領選挙は公正なものではなかったとし、Maduro 大統領の正当性を否認した。そして、1月23日には憲法233条に基づいて国会議長であるJuan Guaidó氏が自ら暫定大統領に就任すると宣言した。米国のTrump大統領がこれを承認したことから、Maduro大統領は米国との外交関係を断つと表明した。ブラジル、コロンビア、アルゼンチン、コスタリカ、ペルー、パラグアイ、チリなどの中南米諸国のほか、カナダ、英国、ドイツもGuaidó氏の暫定大統領就任を承認、一方、ロシア、トルコ、中国などはMaduro大統領を支持する旨表明した。1月28日には米国財務省が、国営石油会社PDVSAに対し制裁を科すと発表、ベネズエラは米国の石油会社に販売した原油の代金を回収することが事実上不可能となり、最大の外貨獲得源を失いかけている。さらに、3月には、これまでにない大規模な停電が繰り返し発生し、石油の生産や輸出と共に国民の生活にも大きな影響が及ぶことになった。このような状況のもと、ベネズエラ国内では、いったんはMaduro政権に対する抗議行動が拡大した。また、Guaidó暫定大統領のグループは2月23日に野党主導で行われた人道支援物資搬入に伴い、軍部の多くがMaduro政権から離反し、これをきっかけにMaduro大統領を退陣に追い込むことを期待していたが、実際には大規模な軍部の離反には至らず、次第に抗議行動が沈静化していった。4月30日には、Guaidó国会議長が、国民や軍にMaduro政権への蜂起を呼び掛けたが、この際にも軍の大規模離反は起きず、Maduro大統領は引き続き、権力を維持している。5月16日には、ノルウェーが仲介役となり、Maduro政権と反政府側が交渉に向けて調整を行っていることが明らかにされたが、政情が安定に向かうか否かははっきりしない。

    米国による対PDVSA制裁(2019年1月28日)の主な内容

    ◦米国内のPDVSA資産凍結。◦ 米国企業のベネズエラからの原油輸入停止。ただし、PDVSAの米国精製・販売部門子会社Citgoは

    7月27日まで、その他の企業は4月28日まで原油輸入を継続することを認める。米国企業は原油購入代金をMaduro政権が引き出すことができない米国政府指定の口座に入金しなくてはならない。

    ◦米国石油会社によるベネズエラへの石油製品輸出の禁止。◦ Chevronとサービス会社Halliburton、Schlumberger、Baker Hughes、Weatherfordおよびその子

    会社に対し現在のベネズエラでの操業を7月27日まで継続することを認める。ただし、米国からベネズエラへの希釈剤の輸出は認めない。

    ◦ Citgoは米国での操業を継続できるが、収益はMaduro政権が引き出すことができない米国政府指定の口座に入金しなくてはならない。

     このような状況を受けて、減少を続けきたベネズエラの石油生産量は、さらに減少する様相を示している。 OPEC Monthly Oil Market Reportによると、ベネズエラの年間平均の原油生産量は、2016年の215万4,000b/dから、2017年は191万1,000b/d、2018年には134万1,000b/dへと減少している。月別の原油生産量を見ても、2016年1月には232万5,000b/dであったものが、2019年1月には115万1,000b/dと半減、 4月には76万8,000b/dへと1月の3分の2以下に減少している。IEAのデータでも原油生産量

    はじめに

    激変するベネズエラの石油産業

    JOGMEC調査部 舩木 弥和子

  • 22019.5 Vol.53 No.3

    JOGMEC

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    アナリシス

    減少の傾向は同じで、ベネズエラはその傾向を食い止めることができない状態となっていることが見て取れる。原油生産量減少により、輸出に回される原油が減少する傾向も強まっている。 このように政治の先行きが見通せないなか、米国による制裁が強化されるという状況で、すでに勢いの衰えが見えるベネズエラの石油産業は今後どのように変化を遂げていくのだろうか。これまでは、原油生産量が減少していても、ベネズエラは世界市場へ原油の供給を続けるだろうとの想定がどこかにあったように思われる。ところが、2019年に入ってからの激変で、そのような想定が崩れてしまう可能性もあり得るとの見方が出てくるようになった。 本稿では、ベネズエラの石油産業の現状を紹介するとともに、今後のベネズエラ石油産業の見通しについて考察した。

    1. ベネズエラの石油産業をめぐる状況

    (1)サービス会社の操業縮小によりリグ数激減

     PDVSAからサービス会社への支払い滞りの問題は、2010年以前から発生していたが、2013年にChávez前大統領が死去し、Maduro氏が大統領に就任した後、そして、2014年中頃からの原油価格下落後に、その状況がより悪化した。 PDVSAか ら の 支 払 い が 行 わ れ な い こ と か ら、HalliburtonとSchlumbergerは2016年4月にベネズエラでの事業を縮小すると発表した。5月末にはアルゼンチンのSan Antonio InternationalやペルーのPetrexも、ベネズエラで予定していた掘削を中止するとした。その後、PDVSAはOrinoco Beltでの坑井掘削作業の入札を実施、Schlumbergerなどと30カ月間に32.3億ドルを投じ、リグ18基を用いて、480坑の坑井を掘削する契約を締結した。2017年は原油価格の回復がみられたが、売り上げ増の大半はPDVSAの借入金の返済に回され、探 鉱 ・開 発 に 再 投 資 さ れ る こ と は ほ と ん ど な く、PDVSAは引き続きサービス会社に遅滞なく支払いを行うことはできなかった。その結果、Schlumberger、Halliburton、Baker Hughes、Weatherfordに対する支払いの遅延は合計で15億ドルに達した*1 という。このような状況から、Baker Hughesはベネズエラから撤退、2017年の終わり近くまでPDVSAと作業を続けていた

    Schlumbergerも2018年までにはPDVSAとの作業を停止した。ただ、Weatherfordは2019年1月時点でもわずかながら操業を継続している。また、ベネズエラで活動中の他のサービス会社は、支払いを行ってくれるロシアや中国の企業との仕事に限定して作業を行っているという。 ベネズエラ政府は、2016年2月10日付の官報40845および大統領令2231に基づいて防衛省付属の機関としてCAMIMPEG(Military Company for the Oil, Mining, and Gas Industries)を設立した。CAMIMPEGは法律上、坑井のリハビリやメンテナンス、掘削リグの操業、生産設備のメンテナンス、人材の提供、石油化学製品の商品化、海上輸送インフラの建設など多岐にわたる活動を行う権限を与えられている。したがって、ベネズエラ政府がCAMIMPEGにサービス会社にとって代わる働きをさせることを計画しているのではないかとの見方もあった。また、2018年中頃には、同社は、PDVSAが提供する技術者を監督するなどMaracaibo湖周辺で強力なプレゼンスを確立し、石油の売買も行っており、さらに、自らをサービス会社から一貫操業の石油会社に引き上げようとしていると伝えられた。しかし、2017年3月にUrdaneta油田の生産量を1 ~ 2万b/d増やすことで覚書を締結した程度で、CAMIMPEGの活動は低調に推移し

    図1 ベネズエラの原油生産量(2016 ~ 2019 年 4 月)

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    万b/d

    出所: OPEC Monthly Oil Market Report、IEA Oil Market Report を 基に作成

  • 3 石油・天然ガスレビュー

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    激変するベネズエラの石油産業

    ているようだ。実際にどこまで力を伸ばしているかは不明ではあるものの、現時点では、CAMIMPEGに大手サービス会社の代わりを務めるだけの技術力や資金力はなく、サービス会社に取って代わることは難しいと思われる。 サービス会社の事業縮小により、ベネズエラのリグ稼働数は減少している。2012年以降、64 ~ 87基で推移していたリグ稼働数は、2014年半ば以降、原油価格下落に伴い減少、2015年4月には55基にまで減少したが、2015年半ばには70基前後まで数を戻していた。このリグ数の回復は、切迫した石油生産量の減少に対応したものとみられていた。ところが、サービス会社の事業縮小に伴い、2016年4月からリグ数は再度減少を始めた。2017年中頃からは50基を下回り、2018年5月には30基を下回るようになった。IEAによると、ベネズエラの原油生産量は2012 ~ 2015年は250万b/d程度で横ばいであったが、2016年から減少を始めている。これは、リグ数の減少によるものと考えられる。元PDVSA従業員のアナリストEinstein Millan氏によると、ベネズエラが石油生産量減少を食い止め増産に転じるには100 ~110基のリグが必要である*2 という。しかし、PDVSAは資金不足から壊れたリグを修理するための部品を輸入することが難しく、他の壊れたリグを解体して、その部品を利用している状況と伝えられており、リグ数がさらに減少する可能性も考えられる。 サービス会社の活動削減で状況が深刻になっているのは、リグ数だけではない。ベネズエラでは、Chávez、

    Maduro両政権下でPDVSAのインフラに対して十分な投資が行われず放置されてきた。その結果、壊れたバルブ、ひび割れたパイプなどから原油が流出し、水路や農地を汚染し、帯水層にまで及んでいる場所が無数にあるという。2016年の原油流出事故は1999年に比べ4倍に増加している。ところが、PDVSAが支払いを行わないので、汚染を除去するサービス会社が撤退してしまい、環境汚染に拍車がかかっているという。 2019年1月28日の米国政府による制裁では、大手サービ ス 会 社 4 社 Schlumberger、Halliburton、Baker Hughes、Weatherfordは7月27日まで活動することを認められた。同じく7月27日まで活動を認められたChevronの作業を請け負うサービス会社もあるかもしれないが、先述したとおりこれらのサービス会社は、すでに活動を縮小、あるいは、停止しており、制裁による影響はほとんどないと考えられる。加えて、PDVSAがこれらのサービス会社へ支払いを行う可能性はさらに低くなると考えられ、7月末の期限までもほぼ活動は行われない模様だ。 いずれのサービス会社も近年は作業をほとんど行っていないが、政権が交代した場合には確実に収益を上げられると期待しベネズエラに残っていると見る向きもある。

    (2) 希釈剤の不足で減少するOrinoco Oil Beltの生産量

     Orinoco川北岸の約5万km2の広大な地域、Orinoco Oil Belt(OOB)には、米国国立地質調査所(USGS)によると技術的に採取可能な埋蔵量3,800 ~ 6,520億bbl(中間値

    図2 稼働リグ数とベネズエラの原油生産量の推移

    010

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    300Jun-12

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    Jun-13

    Sep-13

    Dec-13

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    Jun-14

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    Sep-15

    Dec-15

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    Jun-16

    Sep-16

    Dec-16

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    Jun-17

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    Dec-17

    Mar-18

    Jun-18

    Sep-18

    Dec-18

    Mar-19

    Apr-19

    万b/d 基

    稼働リグ数 原油生産量

    出所:IEA、Baker Huges ウェブサイトを基に作成

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    アナリシス

    5,130億bbl)が眠っている。ただし、OOBで生産される原油は、比重が非常に重い上、硫黄分、重金属を多量に含むため、アップグレーダーで軽質化、脱硫、脱重金属化した合成原油(syncrude)として、あるいは、軽質原油で希釈して、市場に出されている。 OOBでは、1990年代末から超重質油を開発・生産・軽質化(改質)するプロジェクト4件が実施され、2000年代中頃には60万b/d程度が生産されていた。これらのプロジェクトは、カリブ海岸のJoséに、炭素原子を除くことで軽質油に変える施設、アップグレーダーを建設、API比重8.5度の超重質原油を改質して、市場に供給してきた。 ところが、Chávez前政権下では、PDVSAを中心に探鉱・開発を進めたいとの考えから、2001年11月制定の新炭化水素法で、石油関連のすべての探鉱、開発契約についてPDVSAが51%以上の権益を保有することが定 め ら れ た。OOBに も 同 法 が 適 用 さ れ、2007 年、Total、ChevronなどはPDVSAとジョイントベンチャーカンパニー(JVC)を設立し、PDVSAの権益比率を60 % 以 上 に 引 き 上 げ る こ と で 合 意 し た が、ConocoPhillipsとExxonMobilは権益比率の変更を不服として同プロジェクトから撤退することとなった。 Chávez前大統領は、また、2005年以降、中国やロシアおよび中南米の友好関係にある国の国営石油会社の協力を得て、2008年以降はTotal、Statoil、Eniなど国際石油企業も参加してOOBの埋蔵量評価を実施した。さらに、2010年1月にはCarabobo鉱区入札を実施、プロジェクト1をRepsolなどに、プロジェクト3をChevronなどに付与した。落札企業がなかったプロジェクト2にも、Rosneftが参画することとなった。これらの企業の中からも、PDVSAとJVCを設立するものが現れ、早期生産

    (early production)を開始したり、アップグレーダーの建

    設が計画されたりした。しかし、その後、PDVSAの資金不足から、OOBの新規プロジェクトの多くは計画どおりの進展が見られなくなり、計画されていたアップグレーダーの建設も2016年頃から中止されることとなった。  一 方、OOBの 探 鉱・ 開 発 に 注 力 し た 結 果、 西 部Maracaibo湖周辺など在来型油田への投資や管理、メンテナンスが十分に行われなくなった。その結果、ベネズエラ国内の軽質、中質の原油生産量が減少した。ベネズエ ラ 産 Mesa 30 原 油(API比 重 30 度 ) お よ び Santa Barbara原油(API比重36度)の生産量は、2008年の94万 b/dをピークに、2014 年 12 月には 70.5 万 b/dへと25%減少した。これらの原油はOOBで生産される超重質油の希釈剤として用いられていたので、ベネズエラは代わりとなる希釈剤を輸入する必要に迫られるようになった。そこで、2014年後半以降、西アフリカや米国などから軽質原油の輸入を行ってきた。軽質原油の輸入を開始した当初は、あくまでも一時的な解決策で、軽質原油の生産量を増やし、次第に希釈剤として用いる軽質原油の輸入量を減らす意向であるとされていた。しかし、

    図3 José および主要製油所

    Paraguaná Refining Centre:PRC

    El PalitoPuerto La CruzJosé

    ベネズエラ

    出所:各種資料より JOGMEC 作成

    表1 アップグレーダーを備える Orinoco Oil Belt のプロジェクトの生産状況

    出所:各種資料より JOGMEC 作成

    プロジェクト(旧名称) パートナー権益比率

    超重質油生産能力

    (API 比重)

    改質後の原油生産量

    (API 比重)2019 年 2 月 10 日頃の生産状況

    Petrocedeño (Sincor) PDVSA 60%Total 30.3%Equinor 9.7%

    20.2万b/d(8~8.5度)

    18万b/d(32度)

    7.7万b/d程度で生産を行っていたが、希釈剤の在庫がなくなり2月10日に生産を停止

    Petromonagas (Cerro Negro) PDVSA 60%Rosneft 40%

    12万b/d(9.3度)

    10.4万b/d(19~25度)

    8.2万b/dで生産を行っているが、希釈剤の在庫は5日分程度

    Petropiar (Hamaca) PDVSA 70%Chevron 30%

    19万b/d(8.7度)

    18万b/d(26度)

    18万b/dで生産を行っているが、希釈剤の在庫は3日分程度

    Petro San Felix(Petroanzoátegui、 Petrozuata)

    PDVSA 60%Corp Venezolana de Guayana 40%

    12万b/d(8.5度)

    10.5万b/d(16度)

    2018年11月以降修理のため生産停止

  • 5 石油・天然ガスレビュー

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    激変するベネズエラの石油産業

    軽質原油の生産量減少と希釈剤の輸入はその後も続いていく。さらに、財務状況の厳しいPDVSAは、希釈剤の代金を支払うことができず、希釈剤を十分に入手できなくなり、その結果、PDVSAがOOBのJVCのパートナーに負担を求めたり、主要港José沖合に軽質原油を荷揚げできないタンカーが滞船してしまうという事態が起きていた。また、ベネズエラに原油を供給している企業は前払いでなければベネズエラに原油を納入しなくなるという事態も生じた。 このように希釈剤が不足していることに加え、OOBの事業に必要な投資が行われていないことやメンテナンスの遅れ、スペア部品の欠如によりリグなどの修理ができず、さらに停電なども重なり、増加を続けていたOOBの原油生産量は2016年に入ってからは減退を始めた。 2019年1月末には米国がPDVSAに制裁を科したことにより、希釈剤の輸入量がさらに減少している。PDVSA

    はそれまで約10万b/dのナフサ(軽質油)を主に米国から輸入していたが、この輸入が米制裁により禁止されたのである。ベネズエラは、インドのRelianceやロシア企業 か ら 購 入 す る ナ フ サ の 量 を 増 や し た り、Santa Barbara原油で希釈したりすることで対応しているが、それでも生産停止を余儀なくされるプロジェクトが出てきており、OOBからの重質原油の生産量の更なる減少は免れないと考えられる。アップグレーダーを備えるOOBの4プロジェクト生産能力の合計は63.2万b/dであるのに対し、2月10日すぎの生産量は26.2万b/dとなっている*3。また、PDVSAと CNPCの JVC、Sinovensa

    (PDVSA60%、CNPC40%)は、OOBの超重質油に軽質原油を混ぜて「Merey 16原油」として2018年は13万b/dを生産していたが、希釈する軽質原油の不足から、その量が7.2万b/dまで減少している。3月13日には、ベネズエラに希釈剤6.5万b/dを供給していたRelianceが、

    図5 OOB 超重質油フロー

    出所:各種資料より JOGMEC 作成

    José

    図4 Orinoco Oil Belt 鉱区図

    出所:PDVSA website

  • 62019.5 Vol.53 No.3

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    アナリシス

    米国政府の圧力を受けて、ベネズエラへの希釈剤輸出を停止したことを明らかにしており、重質原油の生産量減少にさらに拍車がかかると考えられる。

    (3)頻発する停電

     ベネズエラではここ数年、しばしば停電が発生している。特に、地方の内陸部では日常的に停電が起きているという。 停電の石油産業への影響が懸念され始めたのは2016年だ。この年は、エルニーニョ現象の影響で降水量が少なく、ベネズエラの総発電量の約70%を供給するGuri水力発電所の発電量が減少した。Maduro政権は、休日を増やしたり、計画停電を導入したり、標準時を早めたりとさまざまな節電対策をとり、この電力不足に対処しようとした。停電に加え、このような措置が取られたため、国民生活に大きな影響を及ぼすことになった。PDVSAの設備の多くもGuri水力発電所に依存(石油生産の約75%がGuriに依存)しているものの、石油部門には優先的に電力が供給されるシステムであることや、バックアップの電源を備えている油田や施設もあることから、この時は探鉱・開発への影響は小さいとされた。また、下流部門についても設備内でコジェネや発電を行っているものもあり、電力不足の影響は少ないとされた*4。 2018年に入ると、再び、停電が頻発するようになり、電力が著しく不足しているという情報が伝わるようになった。2016年は降水量の不足が停電の主な原因であったが、この頃になると、発電設備などのメンテナンスが十分に行われず、故障してもスペアの部品がなく修理ができないことが停電の原因とされるようになった。国営ユーティリティ企業Corpoelecによると、同社の水力発電所、火力発電所の設備能力は36.3GWであるのに対し、故障や燃料がないことから、2018年10月前半の発電量は12.5GWであったという。石油産業への影響は、特に北西部Maracaibo湖周辺で深刻とされるようになった。また、変電所の爆発もしばしば起きるようになった。政府は反政府勢力による破壊活動が原因としているが、十分な投資が行われないことが原因との見方がなされている。 2019年3月7日17時頃に発生した停電は、ベネズエラ全土に及び、復旧までに約1週間を要するというこれまでで最大規模の停電となった。電力復旧までに長時間を要すことになった背景には、バックアップの役割を果たす火力発電所のメンテナンスが長年なされていなかったことや、専門知識を持った人材がいないことから復旧

    作業が難航したことがあると考えられる。通信、交通、水道が不通となり、カードによる支払いができなくなり、病院では透析患者やNICUに入院中の未熟児が死亡するなど、国民の生活を大きく混乱させた。直接の原因はGuri水力発電所の整備不良と見られているが、Maduro政権は、発電所や送電所の職員らが妨害している、あるいは、Guaidó氏が米国と共謀しサイバー攻撃を行ったことなどが原因と主張した。 2016年の停電の際には、石油部門には優先的に電力が供給されるシステムであるとされていたが、3月7日の停電の規模があまりにも大きかったためか、この停電で石油産業のほとんどが操業を停止することとなった。さらに、バックアップ電源のメンテナンスがほとんど行われていなかった。そのため、ただでさえ減少していた石油生産量は、この期間に40万~ 60万b/dまで減少したとみられている。OOBでは坑井にダメージを与えない最低水準で超重質油の生産が行われた。そして、Petromonagas、Petrocedeño、Petropiarのアップグレーダーが稼働を停止した。 停電により、石油輸出港José港のターミナルもほぼ操 業 を 停 止 し た。9 日 に 4 時 間 ほ ど 電 力 が 復 旧 し、PDVSAは国内向けにLPGおよび原油をタンカーに積み込んだが、3月7 ~ 12日の間はJosé港から石油の輸出を行うことはできなかった。 13日にRodríguez通信情報大臣が、電力が完全に復旧したとの見方を示し、José港では船積み再開の準備が開始された。しかし、上流部門に関しては、安定した電力の供給が行われなければ操業再開には危険を伴うため、生産の回復には時間がかかるとされた。また、停電により稼働を停止していたアップグレーダー 3基とSinovensaの操業に関しては、再開できる状態となったが、希釈剤の在庫が底をついているという。なお、電力復旧後の13日には、故障個所が修理できないため2018年11月より稼働を停止していたPetro San Felixプロジェクトの貯蔵タンク2基で火災が発生した。 全国的な停電の問題が落ち着くかに見えた3月25日、Guri水力発電所の中庭で発生した火災が原因となり、再び全国的な大規模停電が起き、国の活動は大部分麻痺した。ほとんどの石油インフラが停止し、José港では24日を最後に石油輸出が停止、国内の4基のアップグレーダーも稼働できず、Maracaibo湖周辺も停電が続いている。Maduro政権はこの停電を妨害活動によるものと発表した。 さらに、この停電から復旧し始めた矢先の3月29日に も 首 都 カ ラ カ ス や、Maracaibo、Valencia、San

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    Cristobalなどで停電が発生した。 一連の大規模な停電後の石油生産量の回復には時間がかかっているとされる。ただし、政治的、社会的な混乱から、信頼できる正しい情報を得ることが非常に難しくなっており、5月初めの生産量については情報源によって50万b/dから70万b/dと開きが生じている。OOBのアップグレーダーの稼働状況に関しても、Petro San Felixが稼働を停止していることに関しては一致しているものの、その他の3プロジェクトに関しては生産能力を下回る水準で稼働しているとするものや稼働を停止しているとするもの、いったんは稼働を再開したがまた停止したとするものまで情報が錯綜している。 なお、5月3日には、PDVSAが、停電に対処するため、Maracaibo湖周辺の油田にバックアップの発電機20基

    (発電能力は合計で50MW)を5月中に設置すると発表した。しかし、資金が枯渇するPDVSAが発電機を調達できるのか、調達できてもバックアップ電源用のディーゼル 等 を 確 保 で き る の か、 さ ら に、OOBで は な くMaracaibo湖周辺の油田に発電機を設置することがどの程度生産増に結び付くのかについては疑問視する向きが多い。

    (4)人材流出が著しいPDVSA

     PDVSAが操業する生産設備では、部品や車両などすべてが不足しており、作業を行うことが困難となっているとされるが、従業員の労働環境も同様に悪化している。生産設備に設けられているPDVSAのカフェテリアには食料はなく、従業員は空腹のまま作業をするが、体調を崩したり、空腹のあまり意識を失ったりする人もいるという。従業員は通勤用の公共輸送手段がなくなってしまったため、自家用車で通勤するが、カージャックに遭う危険性が高い。生産設備に強盗が乱入し、ワイヤーや電子部品など価値ある物は従業員の持ち物を含めすべて略奪していく。警察を呼んでも、やってくる警官も強盗を働く。中国製の部品が供給されることがあるが、米国の技術のコピーで質が悪く、すぐに壊れる。高温の環境だがエアコンは盗まれてしまったか、あっても毎日停電が発生するため利用できない*5。また、PDVSAと労働者組合の間で給与改定について協議が行われるものの、ハイパーインフレにより改定後の給与も短期間のうちに価値を失ってしまう。 ベネズエラでは2003年に、PDVSA従業員1万8,000人(その多くは上層部やエンジニア)がゼネストに参加したことを理由にChávez大統領(当時)により解雇された。その後、PDVSAは従業員数を2003年の2万9,000人か

    ら2014年には15万人超まで増やしたが、新たに雇用した従業員の多くは技術力がなく、その後も技術力が育っていない。その一方で、政治、経済、社会状況の悪化や劣悪な労働環境などの理由から、多くのPDVSA従業員が自ら同社およびベネズエラを去っており、近年この傾向が強くなっている。特に、専門的な知識や技術を有する人ほど、ベネズエラ国外でも職を得やすく、給与と生活の質の向上を確保できる国に移り住んでいるという。ベネズエラの石油産業労働組合によると、2015年末~2017年に石油産業に従事する11万2,000人の55%にあたる6万1,600人が職を離れ、人材流失により操業に支障が生じ、事故の危険性が高まっているという。労働力確保のために雇用規則にこだわらず、未熟練の若年者を雇用したり、辞職を禁止したりする措置が講じられる場合もある*6という。 一方、PDVSA上層部については、2017年に頻繁に石油大臣とPDVSA総裁の交代が行われた。Maduro大統領は同年1月4日、内閣改造を実施し、石油大臣にPDVSAの米国精製・販売部門子会社Citgoのトップを務めていたNelson Martínez氏を任命した。石油大臣とPDVSA総裁を兼務していたEulogio Antonio Del Pino Diaz氏は、石油大臣からは外れたものの、引き続きPDVSA総裁を務めることとなった。これより前に、Del Pino氏はMaduro大統領と石油政策に関ししばしば衝突していたという。PDVSAは2016年9月にデフォルトを避けるため2017年4月および11月に償還期限を迎える社債と2020年を償還期限とする新社債の交換を投資家に提案したが、応募者が集まらず条件を変更、締め切りを延長し、10月21日までに28億ドル分について交換が成立した。もっとも、Del Pino氏は、当初71億ドル分について交換を提案、50%以上の乗り換えを目標にしていたがこれに失敗、Maduro大統領はこの結果に失 望 し た と 報 じ ら れ て い た。 一 方、Martínez氏 はMaduro大統領に近い存在で、同氏の起用はDel Pino氏を完全に引退させる前の最初のステップである可能性があるとの見方をする向きもあった*7。その後8月には、Maduro大統領が、Martínez石油大臣をPDVSAの総裁に、PDVSAのDel Pino総裁を石油大臣に任命した。そして、11月26日、Maduro大統領は再び内閣の部分改造を行い、軍出身のManuel Quevedo氏を石油大臣兼PDVSA総裁に任命した。Maduro大統領は、経済危機や治安の悪化を受け支持率が急落するなか、軍部からの支持を維持するため、主要産業や内閣のポストに軍人を多く任命しており、Quevedo氏の起用もその一環と考えられる。同大臣は、住宅大臣を務めたことはあるが、

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    石油業界での経験はなく、石油生産量を維持、回復することは難しいと見られている。 また、2017年には、5月に、OOB、Petropiarプロジェクトのマネージャーが契約に不正があったとして逮捕されるなど、PDVSA幹部の逮捕が相次ぐようになった。8月に人権擁護官だったTarek William Saab氏が検察長官に就任してからはこの動きが活発化した。そして、Quevedo氏の石油大臣兼 PDVSA総裁就任にあたり、Maduro大統領がPDVSAの変革と汚職取り締まりを命じたことから、Quevedo氏の指揮下、汚職疑惑で同社上層部が一掃されることになった。2017年から2018年にかけて、PDVSA幹部80名以上が逮捕された。このように逮捕者が続出したことで、すべてのレベルの従業員が逮捕されることを恐れ決断を行わなくなり、ルーティンの操業も停止しがちとなったという。なお、2017年11月30日にはDel Pino氏とMartínez氏も汚職容疑でSEBIN(国家ボリバル主義情報局)により逮捕されたことが明らかにされた。このうち、Martínez氏は1年後、収監中に死亡したと伝えられている。 逮捕されたり、離職した人の後任者はなかなか着任せず、着任したとしても、経験や技術力を有する人は少ない。その結果、PDVSAには、上層部を含め石油産業に知見、経験のある人はほとんどいなくなってしまっているという。Maduro大統領は汚職撲滅や軍部の抱き込みを図ったが、かえってPDVSAの状況を悪化、混乱させることになった。 なお、石油産業従事者の逮捕はPDVSAに限らない。Maduro大統領は2018年4月12日に発出した大統領令41376で、PDVSA、PDVSAの子会社、そして、石油産業の生産能力を引き上げるために、Quevedo石油大臣兼PDVSA総裁に追加で、PDVSAとその子会社を含む取り決めを制定、廃止、修正する権限(細則の修正、

    責任の集中、組織改革、社内規範作成、業者選定)と調達の新たなスキームを策定する権限を与えた。この大統領令については、Quevedo石油大臣兼PDVSA総裁はすでにこのような権限を持っている上に、透明性が確保できないなどの問題があるとの指摘がなされていた。そのようななか、この大統領令に基づき競争入札のプロセスを省き市場価格の2倍以上の値段がつけられた数百万ドル の 調 達 契 約 に 署 名 す る こ と を 拒 否 し た と し て、Petropiarで操業、調達を担当するChevronの従業員2名が逮捕された。反逆罪が科せられる可能性があるとされたが、両名はその後釈放された。この逮捕により、調達契約の管理をめぐりPDVSAとJVのパートナーの間の緊張が高まり、操業も混乱の度を増したという。 また、従業員のベネズエラおよび生産設備からの撤退もPDVSAに限らない。2017年8月には、不安定な社会情勢を受けて、Repsol、Statoil、Total、Chevronが安全のために従業員を操業現場から退避させた*8 と報じられた。

    (5)製油所稼働率の低下とガソリン不足

     ベネズエラ国内のすべての製油所はPDVSAが保有しており、その精製能力は合計で約130万b/dである。 しかし、これらの製油所の稼働率は、2018年第1四半期で約30%、8月には27%以下と、低い水準で推移している。 その理由としてまず考えられるのが、やはりPDVSAの資金不足だ。そのため、PDVSAは精製部門への投資を抑制せざるを得ない。製油所で故障が発生しても、PDVSAは予備の部品を購入できず、修理を行うことができないので、製油所を最適な水準で操業できていない。例えば、Amuay製油所は 2012 年 8 月に 42 名が死亡、80名が負傷した爆発事故以降、完全に修理が行われる

    表2 ベネズエラの主要製油所の稼働状況

    出所:各種資料より JOGMEC 作成

    製油所 精製能力 稼働状況

    Paraguaná Refining Centre:PRC

    Amuay 64.5万b/d 軽質、中質原油の生産減少により稼働率低下。2018年3月時点で84ユニット中76ユニットが故障。稼働率は2017年8月42%、10月34%、12月はじめ13%と低下した。2018年5月は19%、2019年2月は20.6%となっている。

    2018年3月15日には稼働率が25.9%まで回復したが、3月21日に蒸留装置No.5が停止、稼働率は18.6%に。2018年10~11月には約2万b/dのみを処理。

    Cardón 31万b/d 2017年12月に火災。2018年3月15日の稼働率32%。10月15日の停電で稼働停止、その後2週間原油を処理せず。

    Puerto La Cruz 18.7万b/d 2017年5月操業を停止、再稼働したが、原油不足から稼働率は低い。2018年3月21日の稼働率26.7%。10月には原油が供給されず、故障個所も修理されず、稼働停止。2019年2月の稼働率は11.8%。

    El Palito 14万b/d 軽質原油が供給された場合にのみ、停電時を避け断続的に稼働していたが、2018年10月には原油が供給されず、故障個所も修理されず稼働停止。

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    ことはなく、フル稼働したことがない。 労働組合によると、PetroChinaとRosneftはPDVSAと、Amuay、Cardón両製油所の修理、近代化に100億ドルを拠出することについて長期間、協議を行っていた。RosneftがAmuay製油所、PetroChinaがCardón製油所の修理、近代化の費用を支払い、その対価として、RosneftとPetroChinaが10年間にわたりそれぞれの製油所を使用するリース契約をPDVSAが提案したのだ。製油所の所有権はベネズエラ政府が持ち、10年後にPDVSAに製油所の使用権を返還するという内容であった。しかし、PetroChinaとRosneftは、製油所の状況があまりにも悪いため、投資額が極めて高額となり、投資に見合う収益を期待できないとして、資金を提供しないとの結論に至った*9。中国、ロシアの投資なしでは、ベネズエラは短期間のうちに製油所閉鎖に追い込まれるのではないかとの見方もあったが、今のところ製油所は完全に操業を停止しているわけではなさそうだ。 製油所のメンテナンスも十分に行われていない。人員不足ともあいまって、事故や火災が多く発生し、製油所は他の操業現場より危険とされている。それ故に、製油所で働く従業員の離職率はPDVSAの中でも高いという。労働組合の記録では、プラントオペレーターの70 %、プロセスエンジニアの75%がPDVSAを去った*10。 2016年以降は、原油生産量が急減したことに伴い、製油所に十分な原油が供給されなくなった。生産量減少に加え、債務返済、石油収入確保のため、原油が優先的に輸出に回されており、製油所にはますます原油が届かなくなっている。 このような状況から、ベネズエラ国内では石油製品、特にガソリン不足が著しい。国内市場の不足分を補うために石油製品を輸入しようとしても、PDVSAには資金がなく、必要な数量をすべて輸入できていない。製油所や中継基地、港からサービス・ステーション(SS)までの供給網に問題があることも、石油製品不足に拍車をかけている。例えば、PDVSA所有のタンクローリー 1,400台のうち250台が故障している*11 という。また、ベネズエラの港湾は主に輸出を行うために造られているため、石油製品輸入にあたって荷下ろしの作業に手間取る。さらに、米国が制裁を課したことで、多くの企業がベネズエラとの取引を敬遠するようになり、PDVSAはこれまで取引のない企業から石油製品を購入せざるを得なくなっている。そのため、輸入したエタノール混合ガソリンに水が多く混じっており、PDVSAは中継基地からこれを引き上げ、処分することがあったが、このことがきっ

    かけとなり、2018年10月にはベネズエラは深刻なガソリン不足に直面することとなった。2018年10月29日よりPDVSAからSSへのガソリンなどの供給が行われなくなり、ベネズエラ国内のSSの80%でガソリンなどの販売が中止された。営業中のSSには長蛇の列ができ、小競り合いが起きたり、道路封鎖などの抗議行動が行われたりするなど、燃料不足や交通の混乱とともに、治安、政治への影響も懸念される状況となった。 PDVSAの精製能力減少の問題はベネズエラ国内に限ったものではない。 PDVSAは1985年以降10年毎のリース契約を結びCuracao島のIsla製油所とBullen Bayターミナルの操業を行ってきた。同製油所は1918年に開設され、精製能力は33.5万b/dで、主にベネズエラの重質油を処理しているが、エクアドルやコロンビア、メキシコの重質油からナイジェリアの軽質油や WTIも精製可能である。Curacao政府は2016年7月に、PDVSAの維持、管理が悪く、同製油所の精製能力が低下したとして、契約更新

    (現在の契約は2019年末に満了、2017年末までに解除を通告しなければ自動延長)とともに、設備近代化費用15億ドルを支払うようにPDVSAと協議を試みた。しかし、PDVSAは9月に、更新について話し合うには時期尚早であるとCuracao政府に返答した。その数日後、Curacao政府は中国の広東振戎とIsla製油所の操業と約100億ドルの設備近代化事業に関して基本合意書(MOU)を締結した。両者が製油所近代化とガスターミナル建設計画、中国系金融機関が資金を提供することについて協議を行っていると伝えられていた。ところが、2019年1月初めに、Curacao政府が、Isla製油所、Bullen Bayターミナル、貯蔵タンク(貯蔵能力1,750万bbl)の操業を移譲する企業にSaudi Aramcoの子会社Motiva Enterprisesを選定し、同社と協議中であるとの報道がなされた。さらに、同年4月には、Saudi AramcoがIPO(株式公開)の準備があるとして撤退し、Curacao政府は参入企業を探していると報じられた。いずれにせよ、PDVSAは、精製能力だけでなく、VLCCの受け入れ港、貯蔵やブレンディングの能力を失うことになる。 また、PDVSAが数年にわたり製油所改修費用を支払わないことや米国の制裁を理由に、ドミニカ共和国は2019年1月に国営のRefidomsa製油所のPDVSA持ち分49%の購入についてPDVSAと交渉を行うためのプロセスを開始、ジャマイカ下院は3月にPetrojamのKingston製油所の持ち分49%をPDVSAから取得する法案を可決している。

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    (6)悪化する石油輸出入状況

     2017年初より、PDVSAによる石油の輸出入に変化が生じていることが報道されるようになった。 資金不足から、PDVSAがタンカーの掃除や点検、港湾サービスの代金を支払えなくなったのだ。PDVSAが保有、あるいは、リースしているタンカーの船体が原油で汚れ、港を原油で汚染したり、寄港できずに沖合に係留されたままとなり、PDVSAが船主から提訴されたり、ベネズエラ以外の海域を航行するのを数週間遅らせなくてはならなくなったりするといった事態が発生するようになった。 質の面からも、PDVSAが水、塩分、重金属が含まれた原油を供給するケースが増え、キャンセルや値引きの要求に応じざるを得ない場合も出ている。生産インフラのメンテナンスが悪いことが原因とされるが、原油処理に用いる化学品が輸入できないことが重なり、急激に原油の質が低下しているという*12。 2018年に入ると、原油生産量減少による輸出への影響 が 見 ら れ る よ う に な っ た。6 月 に は、PDVSAがNynas、Tipco、Chevron、CNPC、Reliance、Conoco、Valero、Lukoilの8社に対し、生産量減少により、契約量の原油を供給できない可能性があると通告した。この頃には、顧客への原油供給はほぼ1カ月遅れとなり、輸出ターミナルの周辺でタンカーが複数待機するようになった。 2018年8月末には、ベネズエラの原油輸出量の70 ~80%の輸出を行っているカリブ海岸José港の3カ所あるドックのうち、重質原油やアップグレードした原油の輸出、希釈剤の輸入を行っている南側のドックにタンカーが衝突し、修理のため、このドックは閉鎖されることとなった。タンカー衝突前に、José港からは原油輸出能力の60%にあたる原油(主にMerey 16)約95万b/dが輸出されていた。また、ナフサ6万b/dが輸入されていた。事故直後には、9月末には南側ドックの操業を再開するとしていたが、必要な物品(フェンス)が制裁により入手できず、再開には時間を要した。インドからこれを購入し修理が行われ、11月半ばにようやく操業が再開された。José港修復の遅れにより、Rosneft、Valero Energy、Chevron向けの輸出に影響が生じたという。 原油生産量の減少や原油輸出量に占める中国やロシアからの融資の返済に充てられる原油の割合が増加したことで、石油輸出収入にも影響が生じているという。2017年11月時点で、PDVSAは原油輸出量約160万b/dのうち70 ~ 75万b/dについてのみ現金を受領していると見られている*13。

     輸入に関しては、PDVSAの支払いの遅れが問題となっている。支払いは行われてはいるものの、代金支払いの時期が遅れているという。 このように石油輸出入状況は悪化していたが、後述するConocoPhillipsに対する補償問題や米国の対PDVSA制裁により、混乱を招き、深刻さの度合いをさらに増すことになった。

    (7)大きな負担となるConocoPhillipsへの補償

      国 際 商 工 会 議 所(International Chamber of Commerce:ICC、本部パリ)は2018年4月、2007年にOOBの 2 プ ロ ジ ェ ク ト(Hamaca、Petrozuata) のConocoPhillipsの権益を接収したことに対する補償として、PDVSAはConocoPhillipsに20.4億ドルの調停金を支払うようにとの裁定を下した。ConocoPhillipsはOOBのHamacaの権益40 %、Petrozuataの権益50.1 %を保有していた。ICCの裁定は最終的なもので拘束力がある。 ところが、PDVSAは調停金支払いを拒否した。これを受けてConocoPhillipsは、カリブ諸国の裁判所からCuracao、Aruba、Bonaire、St. Eustatiusにある石油精製、貯蔵、調合施設などPDVSA関連資産の一時差し押さえ令状を取得した。そして、Curacao島Isla製油所の設備や製品、Bonaireのターミナル、NuStar EnergyからPDVSAが借り受けているSt. Eustatiusの貯蔵施設を差し押さえた。これにより、PDVSAはカリブ諸国のターミナルへのアクセスをほぼ失った。そこで、カリブ海の貯蔵設備を経由せず、米国の製油所にベネズエラの港から直接原油を輸出することで、輸出量を維持しようとした。 ま た、ConocoPhillipsに よ る 接 収 を 恐 れ て、Curacaoに向かう予定のウラル原油各10万トンを積んだタンカー 2隻の送り先をベネズエラのAmuay港に変更するなど、原油、石油製品の送り先を変更することで対応した。さらに、5月以降はCuracao島Isla製油所への原油供給を停止、Isla製油所は最低水準で稼働することとなった。その結果、2018年7月の米国のベネズエラ原油輸入量は6月比12%減、対前年同月比22.5%減となった。 8月20日、ConocoPhillipsとPDVSAは、和解成立時点から90日以内に約5億ドルを支払い、残りは四半期ごとに4年半かけて分割払いすることで合意したことが明らかにされた。ConocoPhillipsは、この和解を受けてPDVSAに対する資産差し押さえを解除したが、支払に遅れが生じればあらゆる法的手段を使って回収を再開するとした。その後、PDVSAによるCuracaoなどへの原油供給が再開され、ConocoPhillipsは、PDVSAによる

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    資産接収の補償の一部として、第3四半期にPDVSAから 現 金 お よ び 商 品 で 3.45 億 ド ル を 受 領 し た。ConocoPhillipsは第4四半期に1.55億ドルを受領、残りの15億ドルは4年半をかけて支払われる予定だ。 ConocoPhillipsとの補償をめぐる問題は一段落ついたように見えた。しかし、2019年3月8日、世界銀行傘下の投資紛争解決国際センター(International Centre for Settlement of Investment Disputes :ICSID)はベネズエラ 政 府 に 対 し、2007 年 の 資 産 接 収 の 補 償 と し て、ConocoPhillipsに80億ドルを支払うよう命じる裁定を下した。ベネズエラ政府が支払いを行わなければ、再びPDVSAの国外資産を差し押さえられる可能性がある。  さ ら に、 資 産 接 収 に 対 す る 補 償 に つ い て は、ConocoPhillipsだけの問題でなく、カナダの金鉱会社Crystallex Internationalや Rusoro Miningとの間にも同様の問題を抱えており、これらの企業によりベネズエラの資産が差し押さえられる可能性もある*14。

    (8)米国の対ベネズエラ制裁

     2017年7月30日に実施された制憲議会議員選挙を契機に、米国のベネズエラに対する制裁が強まった。米国は、この選挙前の7月26日にPDVSAの役員を含むベネズエラ当局者13人に制裁を発動、7月31日に米領内にあるMaduro大統領の資産凍結を含む制裁を発動、8月9日、制憲議会メンバー 6名などに制裁を発動した。さらに8月25日には、米国の金融機関に対し、新たに発行されるベネズエラの国債やPDVSA債の取引を禁じる措置が盛り込まれた追加制裁を科す大統領令にTrump米大 統 領 が 署 名 し た。 大 半 の 既 発 ベ ネ ズ エ ラ 国 債、PDVSA債保有者を保護する内容ではあるが、新発債の取引が禁止されたことによりPDVSAは債務借り換えが困難になった。 2018年に入っても米国財務省は、1月にベネズエラ政府、軍の高官や元高官の4人を制裁対象に指定、3月にベネズエラの仮想通貨ペトロの取引を制限、5月にベネズエラ政府や国営企業が資産を担保に資金調達を行うことを制限、11月にベネズエラ産の金取引を制限するなどの制裁措置をとってきた。しかし、10月には、米政権高官が、ベネズエラへの制裁を強化する方針ではあるが、PDVSAの生産が縮小していることを考慮すると、早急にエネルギーセクターを制裁の対象とする必要性は低下しているとの見解を示していた。 ところが、Maduro大統領が2期目の大統領就任式を強行、Juan Guaidó国会議長が暫定大統領に就任すると宣言したことで米国の対応に大きな変化が生じた。

     Trump政権は2019年1月23日に、適正な選挙を経ていないMaduro政権を「非正統」であるとし、ベネズエラ憲法に基づいてJuan Guaidó国会議長をベネズエラの暫定大統領として承認した。これに対してMaduro大統領は米国との外交関係を断つと表明。そして、2019年1月28日、米国財務省外国資産管理室は2018年11月1日付大統領令13850号で制裁対象とした「ベネズエラ政府」にPDVSAを追加し、PDVSAを経済制裁の対象に指定したと発表した。米国は、この制裁により、Maduro政権への資金流入を阻止し、民主的な選挙で選ばれた政権にベネズエラの石油産業を引き渡せるよう保護するとともに、Maduro政権が存続した場合にはMaduro大統領が石油産業を運営することを困難にすることを狙っていると考えられる。この制裁の主な内容は本稿の冒頭に示したとおりとなっている。 このPDVSAに対する制裁は、これまでの制裁とは違い、石油産業に直接影響が及ぶ内容となった。ベネズエラは年110億ドルの石油輸出収入を失い、70億ドルに上る資産を凍結されることになると、米国は推定している。 さらに、米国財務省は1月31日に、非米国企業であっても米国の金融システムや米国のコモディティブローカーを通じたPDVSAとの取引は4月28日までに終了させなくてはならないとした。 3月に入り、米国政府はベネズエラに対する制裁をさらに強化する方針を示した。 Bolton米大統領補佐官は3月6日、Maduro政権と取引する国外の金融機関に対する二次制裁を実施する方針を示した。米国以外の国との取引拡大で制裁から逃れようとするMaduro政権の資金源を断つ狙いと見られている。 そして、米財務省は11日に、大統領令によるPDVSAの支援禁止に違反したとしてロシアの Evrofinance Mosnarbankに対し、米国内での資産凍結と米国人との取引禁止を内容とする制裁を科する旨発表した。米財務省は、Evrofinance Mosnarbankは2018年に米制裁を回避する目的でベネズエラが導入した仮想通貨「ペトロ」の発行を支援したとしている。Evrofinance Mosnarbankはベネズエラ国家開発基金が49.99%、Gazprombankが25.00%、ロシア政府関連金融機関VTB銀行が25.01%を出資し、2011年に設立されている。加えて、3月11日に米国のPompeo国務長官はRosneftがPDVSAから原油を購入するなど制裁に違反している旨非難した。 さらに、米国のベネズエラ担当特使、Elliott Abrams氏は3月12日、金融機関を対象とするベネズエラ関連の非常に重大な追加制裁を数日内に発動する準備を進めているとした。また、Maduro大統領と近い関係にある

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    ベネズエラ人の米国査証(ビザ)を追加で取り消す予定であることも明らかにした。 14日には米国財務省が、Citgoがベネズエラから原油を輸入することを認める期間を同日から18カ月間延長すると発表した。 そして、米国財務省は 19 日、国営金属鉱山企業Minervenとその代表を制裁の対象に指定した。PDVSAに対する制裁などの影響でベネズエラの原油輸出が低迷するなか、金の採掘・輸出はMaduro政権にとって貴重な資金源となっていた。 さらに、22日には、ベネズエラ国営の開発銀行と子会社4社が制裁対象に追加された。 米国政府は、4月に入ってからも、5日にベネズエラからキューバに石油を輸出したタンカー 1隻と、海運会社2社を制裁対象に指定、米国内の資産を凍結し米企業や個人との取引を禁止した。また、PDVSA所有の船舶34隻を凍結資産とした。さらに12日、ベネズエラからキューバへの石油製品の運搬に関与しているとして、イタリア企業など海運会社4社とタンカー 9隻に経済制裁を科すと発表した。そして、26日には、Jorge Alberto Arreaza Montserrat外務大臣及びCarol Bealexis Padilla de Arretureta裁判官を制裁対象に追加すると発表、5月10日には、キューバへ原油を輸出したことを理由とし海運会社2社を制裁対象に追加するとした。一方で、5月2日に、CuracaoのIsla製油所については2020年1月15日まで制裁を免除すると発表した。また、Maduro体制から離脱した人物に対しては、制裁解除を実施するとし、5月7日に1名の制裁解除を行った。さらに5月13日には、Rosneftが、債務返済分のベネズエラ原油をRosneftが他社と共同で保有するインドの製油所に供給することは米国の制裁に抵触しないことで米国と合意したと発表した。 米国政府が米国によるベネズエラ産原油輸入を事実上停止させる内容の制裁を発動したことで、ベネズエラの石油産業にどのような影響が及んでいるのだろうか。 対PDVSA制裁発表当初、ベネズエラは米国に輸出できない重質高硫黄原油を中国とインドに輸出すると見られていた。 2018年の中国のベネズエラからの原油輸入量は前年比24%減の33.4万b/dであった。その大部分が融資の返済分としてCNPCに供給された。CNPCはこの原油の多くを、いわゆるティーポットと呼ばれる小規模製油所に供給してきた。これらの小規模製油所はベネズエラ原油をより多く処理したがっているものの、直接PDVSAから購入したり、タンカーの手配をしたりすることがで

    きず、CNPCに依存している。 一方、Indian Oilなどインドの国営石油会社の製油所

    (精製能力320万b/d)ではベネズエラの原油を処理することができない。ベネズエラ原油を輸入しているインド企業は、民間企業であるReliance(2018年のベネズエラ原油輸入量約27万b/d、精製能力136万b/d)とNayara Energy(同約7万b/d、40万b/d)である。RelianceはMerey16などの原油を輸入し、石油製品(特にナフサ)を輸出している。Nayara Energyについては、同社の株式の49.13%を保有するRosneftが融資の返済分として引き取るベネズエラ原油を、Vadinar製油所(精製能力40万b/d)で処理してきた。 しかし、原油購入代金をMaduro政権が引き出すことができない米国政府指定の口座に入金しなくてはならないという点がネックとなって、トレーダーがベネズエラ産原油の取引に二の足を踏んでおり、インド、中国の製油所ではベネズエラ原油輸入量を増やすことが難しくなっていると伝えられている。そして、2月には、早速、PDVSAを対象とする米国政府の制裁により、ベネズエラからの石油輸出が減少しているとの報道が増えるようになった。ベネズエラ産原油の取引の大半が停止しており、石油タンカーが遅延したり、行き先が変更されたり、沖合に停泊したりするケースが増加しているとされた。そして、地中海沿岸など通常はベネズエラ原油を購入していない地域の製油所へも安価なベネズエラ原油のオファーが増加していると伝えられた。 2月中旬には、Trafiguraがベネズエラ産原油の取引を停止することを決めた。Trafiguraは、PDVSAから原油などを購入(2018年は3万4,000b/d)し、その多くを米国、中国、インドの製油所に販売、その代わりに石油精製品をベネズエラに供給していた。Trafiguraがベネズエラとの取引をやめると、同社が株式の24.5%を保有するNayara Energyは同社から原油供給を受けられなくなるが、Nayara EnergyはRosneftを通じてベネズエラ産原油を入手できているという。さらに、PDVSAと原油、石油製品のスワップを行っていたLukoilの子会社LitascoもPDVSAとの取引を停止したことが明らかになった。 PDVSAおよびThomson Reutersのファイナンシャル・リスク部門Refinitiv Eikonのデータによると、ベネズエラ原油の輸出量は、米国による制裁開始後1カ月間で、40%減少して92万b/dとなった*15という。 ところが、3月に入ると、米国による対PDVSA制裁の影響は当初予想されたよりも軽微であるとの見方がなされるようになった。PDVSAは、ナフサの輸入が減少

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    していることから、OOBで生産されたAPI 比重8 ~ 10度の超重質油にナフサを 30 %加えた DCO(diluted crude oil)の生産を削減、中止するとともに、Merey 16と合成原油をインドと中国に輸出した。これにより、米国メキシコ湾岸に輸出していた50万b/d程度の原油の大部分をインドと中国が吸収、割引価格での販売となったため、ベネズエラは石油輸出収入を減らしたものの制裁の初期の影響を緩和できたという。また、米国からの石油製品輸入はRepsol、Reliance、ロシアからの輸入で置き換えたという。 ベネズエラにとって、中国とロシアへの原油供給は主に融資の返済を目的としているのに対し、インド向けの原油供給は米国以外の主な外貨獲得源となっている。したがって、ベネズエラは米国への原油輸出減少分を、より多くインドに振り向けたいと考えた。このため、対PDVSA制裁後の2月第1週、第2週のインドのベネズエラ原油輸入量は66%増加し62万b/dとなった*16。インド向け原油輸出をさらに増やそうと、Quevedo石油大臣兼PDVSA総裁が2月中旬にインドを訪問、インド向けに新たな輸出取引を行うことを模索しているとしていた。しかし、2月12日にBolton米大統領補佐官がインドに対しベネズエラ原油の輸入について警告、3月10日には米国のAbrams特使がインドに対しベネズエラからの原油購入を停止するよう圧力を加えていることが明らかにされるなど、米国はインドに政治的な圧力をかけた。これにより、インド政府は石油会社にベネズエラ原油購入を停止するよう通告した。このような動きを受けて、Relianceは3月13日、ベネズエラからの原油購入は増やしていないとし、また、ベネズエラに対して希釈剤の輸出を停止したことを明らかにした。Relianceは制裁で許される限りベネズエラ原油の輸入を続けるとしたが、実はベネズエラへの石油製品の輸出は1月末の対PDVSA制裁以降中止していたという。さらに、3 月 23 日、Relianceはベネズエラ原油購入量を契約量以下に削減していることを明らかにした。先述したとおり、すでに、米国から希釈剤を輸入できなくなっているベネズエラにとって、Relianceからも希釈剤を輸入できなくなることは大きな痛手と考えられる。また、Naraya Energyは債権者の中に米国の銀行があり、制裁に抵触する可能性があることから、今後ベネズエラ原油の輸入量を削減する可能性があると見られている。インド企業が米制裁に従って4月28日までにベネズエラ原油の輸入を取りやめれば、PDVSAは重質油の市場を見つけられず、ベネズエラからの原油輸出に大きな影響が出る可能性もある。 なお、米国は2018年12月には50万b/d、2019年3

    月8日までの週には11.2万b/dのベネズエラ原油を輸入していたが、3月15日、22日および29日までの3週間はこれを輸入しなかった。

    (9)中国、ロシアとの関係

     ベネズエラは2007年以降、原油で返済することを条件に中国から600億ドル以上の融資を得てきた。資金を必要とするベネズエラと、経済成長に伴い石油需要の増加する中国の思惑が合致し、両者は持ちつ持たれつの良好な関係にあると見られていた。 ところが、2015年に入ってからは、その状況に変化が見られるようになった。Maduro大統領は、同年1月に200億ドル、4月に50億ドルの融資を中国から受けることで合意したとしたが、中国側はこれらの融資についてコメントをせず、中国は以前に比べベネズエラと一定の距離を保とうとしているように見受けられた。 また、2014年半ば以降の原油価格下落により、中国向けの返済のための石油輸出量が予定していたよりも多くなり、ベネズエラは2016年に当初合意の見直しを要求した。しかし、中国側はこれを拒否したと伝えられている。ただ、PDVSAは同年11月に中国から22億ドルの追加融資を受けることで合意を取り付け、何とかデフォルトを回避した。 2017年2月にはベネズエラ、中国両政府が、出資総額27億ドルに及ぶエネルギー、金融、貿易、科学、テクノロジー、文化など22件の協定書に署名した。そのうち、石油・ガスプロジェクトに関しては、中国国家開発銀行が融資を行い、PDVSAとCNPCのJVCが行うSinovensa、Petrourica、Petrozumanoの生産増や広東省掲陽市にベネズエラの超重質油を精製処理可能な製油所(精製能力40万b/d、建設コスト96億ドル、第1フェーズは2021年完成)建設への投資が合意され、両国の関係は改善したかのように見えた。 しかし、2017年11月には、Sinopecが鋼鉄代金未払いに関しPDVSAをHoustonの米国連邦地方裁判所に提訴した。両社はその後、支払いに関し合意したが、過去に中国がベネズエラの支払い遅延を提訴した事例はなく、中国側がベネズエラからの支払い、原油供給の滞りを懸念していることの表れととらえられた。 2018年9月にはMaduro大統領が北京を訪問、CNPCとPDVSAはOOBのAyacuchoで300坑を掘削するサービス契約やベネズエラでのガスの探鉱・開発を協力して推進するMOUを含む協力協定を締結、掲陽市の製油所の建設を開始することなどでも合意した。しかし、融資に関しては、ベネズエラ側は中国が50億ドルの融資を

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    認めたとしたものの、中国側は具体的な内容を発表しなかった。 2019年に入り、Guaidó国会議長が暫定大統領に就任すると自ら宣言、ベネズエラ国内の状況が緊迫感を増すようになり、中国側のベネズエラへの投資の先行きに対する懸念が高まっているとの見方が強まっている。 例えば、2月には、もしもMaduro政権が崩壊すると、中国がベネズエラに提供した融資の元本の一部が削減され、回収できなくなり、中国が大きな損失を被るのではないかとの見方が中国で広がっているとの報道があった。ベネズエラの中国への未返済額は現在200 ~ 250億ドルと見られている。Guaidó氏が駐米大使に指名したCarlos Vecchio氏は、新政権は合法な債務を履行していくとしながら、石油による返済を約束した融資(Loan for Oil)の履行についてはまだ分からないとしている。中国当局は資金回収を確保するために、現在も依然としてMaduro政権を支持している*17という。 また、CNPCがPDVSAと共同で進めていた、掲陽市の製油所建設計画から撤退することを計画しているとの報道がなされた。 さらに、CNPCが、政治的危機が投資へ及ぼす影響が大きくなることに神経質になっており、ベネズエラの政治的な安定を待っている状態であり、将来の投資や輸入について今は決断していないとも報じられた*18。CNPCはベネズエラ国内の4プロジェクトに参加しており、政権が交代した場合、ベネズエラへの投資が損なわれる可能性があると懸念しているという。これら4プロジェクトの2018年の生産量は11.7万b/d、CNPCの権益分生産量は4.7万b/d、可採埋蔵量は57.5億bblとなっている。一方、Sinopecは2013年にOOBのJunin1 Blockの開発 (投資額140億ドル)で合意したものの、その後進展がなく、 政権が交代しても影響はないとしている。 また、中国政府が、Guaidó氏の代理人と中国のベネズエラでの石油開発プロジェクトや債務およびその返済計画などについて協議するため、外交官を派遣したとの報道がなされたが、中国外交部は、虚偽のニュースとこれを否定している。 このように中国が次第にベネズエラとの間で一定の距離を置こうとしているように見える一方で、ロシアはベネズエラとの関係を強化する姿勢を示してきた。 2017年8月にはRosneftのSechin社長が、「燃料・エネルギー分野でベネズエラとの関係を拡大していく」と述べ、今後もベネズエラで石油開発を続ける意向を示した。当時、RosneftはPDVSAとJVCを設立し5プロジェク ト(Petromiranda、Petrovictoria、Petromonagas、

    Petroperija、Boqueron)を進め、ベネズエラの原油生産量の4%を生産していた。また、Mariscal SucreプロジェクトのPatao、Mejillonesガス田をPDVSAと共同で開発する可能性を検討しているとしていた。同年12月には、RosneftがPatao、Mejillonesガス田の権益100%を取得、両ガス田のオペレーターを務めるとともに、LNG輸出を行う権利も取得したことが明らかになった。 融資という観点からは、2016年11月にCitgo株式の49.9%を担保にPDVSAに15億ドルを融資、PDVSAはRosneftに2017年に7万b/dの石油を供給することで合意するなど、2014 ~ 16年にベネズエラに対し石油で返済することを条件に65億ドルを融資した。Rosneftによると、返済は予定どおりに行われており、2018年2月末までに32.5億ドル(元本23.5億ドル、利息8.9億ドル)が返済された。また、2018年末の融資未返済額は23億ドルとなっているとのことである。 2019年1月末の米国のPDVSA制裁以降も、Rosneft、GazpromはPDVSAとの上流のプロジェクトから撤退する計画はないとしている。Gazpromの従業員はベネズエラに残っており、健康状態も良いので、退避させる計画はないという。Rosneftのベネズエラでの2018年の生産量は6.8万b/dで、Rosneftは2019年に同社のベネズエラの生産量が減少することはないとしている。ただし、3月中旬には、Gazprombankが米国の制裁適用を恐れて、PDVSAとのJVC、Petrozamoraから撤退することを明らかにした。Gazprombankは、Maracaibo湖周辺 の 生 産 増 を 図 る た め 2012 年 に 設 立 さ れ たPetrozamoraの権益40%を保有していた*19。今後、他のロシア上流企業の動きに注目する必要がある。 石油取引についても、ロシア企業がPDVSAとの取引を削減する方向にあるとの報道が出ている。Lukoilの子会社Litascoは米国による制裁後、PDVSAとの取引を停止した。Rosneftが株式を保有するNayara Energyは、法令を遵守するとし、ベネズエラ原油の代替供給先について協議しているという。 しかし、Pompeo米国務長官が3月中旬にRosneftは米国の制裁に反してPDVSAから石油の購入を続けていると非難しており、その時点ではロシア企業によるベネズエラ原油購入は継続していたと考えられる。 また、米財務省は3月11日、PDVSAを支援しているとしてEvrofinance Mosnarbankを制裁対象リストに加えており、ベネズエラとロシアの金融上の関係も続いているとみられる。 さらに、Quevedo石油大臣も、ロシアとベネズエラの関係を強化するため、4月にPDVSA がモスクワに事

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    激変するベネズエラの石油産業

    務所を開設すると語っている。

    (10)資金不足で石油による支払い増加

     サービス会社への支払い遅延、希釈剤不足、製油所や発電所、港湾設備の不整備など、本稿でこれまで記してきた多くの事象の原因は資金不足にある。 Chávez政権以降、PDVSAは貧困層を支援するため社会プログラムの資金を負担したり、国家開発基金

    (FONDEN)への資金移転を行ったり、PetroCaribeなどのエネルギー協力協定に基づいてカリブや中米諸国に対し長期、低金利の融資を付け、一部は物納での支払いも認める石油輸出を行ってきた。また、中国やロシアから得た融資の返済に石油が用いられた。そのため、本来であれば探鉱・開発や精製など石油関連部門に投じられるべき資金が不足したり、石油輸出による収益が減少されたりするという状態が続いてきたのである。 2014年中頃以降は原油価格下落により、その後、油価が回復する局面では原油生産量の減少により、ベネズエラの輸出収入の95%を占める石油収入が減少することになった。 さらに、2017年8月25日には、米国が、米国の金融機関に対し新たに発行されるベネズエラの国債やPDVSA債の取引を禁じる制裁を発動、PDVSAは債務借り換えが難しくなった。 このようななか、ベネズエラおよびPDVSAはCitgo

    が担保となっている債務など、一部の債務のみを返済する選択的デフォルトの状況となっている。支払いが行われていないのはサービス会社に対してだけではない。外資とのJVCのパートナー企業への配当や資機材納入業者への代金も十分に支払われていない。頼みの綱であった中国、ロシアからも新たな融資を得ることは、どうやら難しい状況に陥っているようである。 2018年9月から11月には、PDVSAが原油による支払い、返済を相次いで行ったことが報じられた。 9月には、PDVSAの輸出量の3分の2にあたる73万b/dが中国、ロシアへの返済に充てられたという。 また、ONGCによると、PDVSAは支払期限の過ぎたPetroIndovenezolanaの配当の一部として10月にMerey原油50万bbl(3,500万ドル相当)をONGCに供給した。ONGCはPetroIndovenezolana(San Cristobal油田、生産量12,000b/d)、OOBのPetroCarabobo(生産量15万b/d)に参画している。しかし、権益40 %を保有するPetroIndovenezolanaの2009 ~ 2013年の配当4.44億ドルが未払いとなり、2016年11月にこれを分割払いすることで合意した。この合意に基づき3回にわたり8,800万ドルが支払われたが、そののち、また支払いが滞っていた。また、PDVSAはSan CristobalプロジェクトのONGC Videshに対する配当の支払いをこの時点で6カ月以上行っていなかった*20。 Repsolに対しては、7月時点で融資の返済やベネズエ

    ラに保有する権益分の配当など9.27億ドルが未払 い と な っ て い た * 21 が、Repsolは 10 月 に、PDVSAからJVC Petroquiriquireの配当未受領分のカバーとしてタンカー 2隻の原油を受領した。さらに、11月にはCardón IV Block、Perlaガス田とPetroCaraboboの配当未払い分の支払いとして2カーゴずつ、合計4カーゴを受領するとしていた。 さらに、PDVSAは10月に、ConocoPhillipsに資産買収の補償の一部として現金および原油で3.45億ドルを支払った*22。 このように石油による支払いが増加したことで、ベネズエラは石油輸出により得られる収入が減少するだけでなく、製油所で処理する原油も失うという状況に拍車がかかっている。

    (11)進展しているかに見えたガスプロジェクト

     Repsol/Eniは、2015 年 7 月 6 日、ベネズエラ湾Cardón IV Block、Perlaガス田の生産を開始したと発表した。Repsol/Eniによると、同ガス

    図6 Perla ガス田鉱区図

    Cardón ⅣEsteCardón Ⅳ

    Urumaco Ⅲ

    UrumacoⅠ

    Perla

    ベネズエラ

    VENEZUELA

    CU

    RA

    CA

    O

    NETH. ANTILLES

    ガス田製油所ガスパイプライン石油パイプライン

    ベネズエラ

    コロンビア

    ブラジル

    ガイアナ

    トリニダード大西洋

    出所:各種資料より JOGMEC 作成

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    田の原始埋蔵量は17Tcfで、中南米最大の沖合ガス田である。開発コストは45億ドルとされ、生産量は当初150MMcf/dで、2015 年末までに 450MMcf/d、2020年までに1.2Bcf/dを生産する計画とされた。生産されたガスは国内市場向けで、PDVSAが$3.96/MMBtuで買い取り、Paraguana半島Tiguadareのガス処理プラントに輸送されている。 当初、PDVSAがPerlaガス田の権益の一部を取得する計画であったが、資金不足から参入できず、その結果、石油関連のプロジェクトと比較すると同ガス田の開発は順調に進展しているように見えた。生産量は2015年末に は 計 画 ど お り に 450MMcf/dに、2016 年 8 月 に は510MMcf/dに達した。RepsolのMiguel Martinez CFOも2016年5月の段階で、Perlaガス田に関するPDVSAからの支払い遅延額は9,000万ドルとしながらも、同ガス田の生産量は目標どおり増加していると語っていた。Repsol/Eniは 2017 年には 800MMcf/d、2020 年には1.2Bcf/dを生産する計画であるとしていた。 ところが、2018年初めに、Eniはいつどのように支払いが行われるのかが明らかになるまでは、Perlaガス田の生産量を550MMcf/dから倍増させる計画を進めないとした。支払いが1年以上遅れ、支払い遅延額は7.45

    億ドルにまで積み上がり、状況は悪化していった。さらに、2018年秋にRepsolが、PDVSAはドルで支払いを行うことでRepsol/Eniと合意していたにもかかわらず、原油で支払いを行っていることを明らかにした。ガス売却額は月に6,000万ドルであるのに対し、PDVSAは月に2,000万ドル相当の原油しか引き渡しておらず、支払い遅延額はさらに増えて合計で10億ドルに達しているとした。 ベネズエラでは、天然ガス生産量の70%を随伴ガスが占めている。Perlaガス田の生産開始に伴い、増加していた天然ガス生産量も、Perlaガス田の増産計画の見直しや石油生産量の減少に伴い、減少傾向となってしまった。 ベネズエラは、2008年からTrans Caribbeanパイプライン(全長200km)を用いてChevron/Ecopetrolが生産しているコロンビアのBallenaガス田からMaracaiboに天然ガスの供給を受けていた。コロンビアからは2011年のピーク時には250MMcf/dのガスが供給された。Perlaガス田のガス生産量が増加に向かっていたことから、2015年11月、ベネズエラはコロンビアからのガス輸入契約を更新しないことを決定、2016年1月からは逆に39MMcf/dのガスをコロンビアに輸出し、また、

    図7 Mariscal Sucre およびPlataforma Deltana鉱区図

    ベ ネ ズ エ ラ

    カ   リ   ブ   海

    トリニダード・トバゴ

    LORAN(MANATEE)

    DRAGONPATAO

    COROCORO

    PEDERNALESDORADO

    POINSETTIA

    HIBISCUS COCUINA(MANAKIN)

    CHACONIA

    MEJILLONES Sur

    RIO CARIBE

    MEJILLONES

    PlataformaDeltana

    Mariscal SucreMariscal SucreBlanquilla

    Tortuga

    GPO

    Block1Block2 Block3

    Block4

    Block5GPEGPC

    南米大陸南米大陸

    出所:各種資料より JOGMEC 作成

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    (1)反政府派の政策

     2019年2月初め、Juan Guaidó国会議長および国会の石油産業についての政策や方針が明らかにされた。Guaidó氏は「開かれた経済を望んでおり、石油生産量を増やしたい」と語っており、同氏率いる反政府派は、

    Chávez前大統領が推し進めた資源ナショナリズムを撤回し、ベネズエラの石油・ガス産業へ民間投資を導入、石油産業を活性化することを計画している。 Guaidó議長と国会は、新たな上流投資を呼び込むことを目的とした新炭化水素法(NHOL)案を審議し、成立

    2. 今後の見通し

    輸出量を次第に増やす計画としていた*23。しかし、1月、エルニーニョ現象による降水量不足で水力発電量が減少し、ガス火力発電量を増やす必要に迫られたため、PDVSAはコロンビア向けガス輸出開始を中止すると発表、結局、ベネズエラからガスが供給されることはなかった。 この他に新たなガスプロジェクトとして以前から期待されているのが、ベネズエラ東部のMariscal SucreプロジェクトとPlataforma Deltanaだ。 PDVSAはRosneftと共同してMariscal Sucreプロジェクトのいくつかのガス田の探鉱・開発を行うことで、協議を行っていた。そして、2017年8月にはRosneftとPDVSAは Mariscal Sucreプ ロ ジ ェ ク ト の Patao、Mejillonesガス田を共同で開発する可能性を検討しているとした。その後、12月には、Rosneftが単独でPatao、Mejillonesガス田の権益100%を取得し、両ガス田のオペレーターを務めるとともに、LNG輸出を行う権利も取得したことが明らかになった。Rosneftは15年以上にわたり両ガス田から65億m3を生産する計画であるとした。 また、2018年8月には、Maduro大統領とトリニダード・トバゴのKeith Rowley首相がMariscal SucreプロジェクトDragonガス田をHibiscusガス田のプラットフォームとパイプラインで結ぶとする共同声明に署名した。Dragonガス田で生産されるガスをトリニダード・トバゴのHibiscusガス田のプラットフォーム経由でPoint Fortinへ輸送、現在稼働率が低下しているAtlantic LNGプラントで液化したり、発電用に利用したりする計画だ。Dragonガス田は、水深が100 ~ 130ⅿ、埋蔵量が2.4Tcf、生産量は当初150MMcf/dで300MMcf/dに倍増させる計画であるという。Hibiscusガス田はNGC(National Gas Company of Torinidad and Tobago)とShellが権益を保有している。Shell、NGC、PDVSAは2017年3月15日にDragon~Hibiscus間の天然ガスパイプライン(全長17km)の建設、操業、メンテンナンスにかかるエネ

    ルギー協力協定を締結しており、これが実現に近づいたものだ。詳細は明らかにされていないが、プロジェクトのコストは約1億ドル、2020年に生産開始予定であるという。 Mariscal Sucreプ ロ ジ ェ ク ト は、Mejillones、Rio Caribe、Dragon、Pataoの4ガス田からなり、全体でガス1.2Bcf/d、コンデンセート2.8万b/dを生産できる見通しである。 Plataforma Deltanaに関しては、2015年9月に、ベネズエラとトリニダード・トバゴが、Loran-Manateeガス田を開発し、生産されたガスの20%をトリニダード・トバゴPoint FortinのAtlantic LNGに送り、液化することで契約を締結した。ベネズエラ側では PDVSAとChevronが、トリニダード・トバゴ側ではChevronとBPが権益を保有し、いずれもChevronがオペレーターを務めている。ただし、その後、進展があるとの情報がなく、恐らく棚上げの状態となっていると考えられる。 なお、2018 年 10 月には、Block4(Cocuinaガス田、権益保有比率はTotal49 %、Equinor51 %)について、Totalの持ち分49 %を取得したいとBPが申し出たが、ベネズエラの石油省が対象地域の埋蔵量について再調査が必要だとして、拒否していたことが分かった。BPはトリニダード・トバコ側のBlock5b(Manakinガス田)の権益70%を保有しており(残り30%はRepsolが保有)、隣接するベネズエラ沖鉱区でも生産して操業を拡大したい意向であった。Block4の残りの権益51 %はEquinorが 保 有 し て い る。 両 国 政 府 は 2015 年 に Cocuina/Manakinの埋蔵量をベネズエラが34% 、トリニダード・トバゴが66%の割合でユニタイゼーションすることで合意している。 なお、スペイン、フランス、英国、ドイツなどがGuaidó暫定大統領を承認したことでRepsol/Eniに対する支払いをベネズエラが停止する可能性が浮上している。

  • 182019.5 Vol.53 No.3

    JOGMEC

    K Y M C

    アナリシス

    させることを目指している。検討されている炭化水素法案の主な内容は次のとおりとされている。

    ◦ PDVSAがすべての石油プロジェクトの過半を所有するとする規則を変更。国家の介入なしに、民間企業が石油に関連する活動を行うことを可能とする。

    ◦ ロイヤリティを金利、原油価格、収益性などを加味した10% ~ 20%のスライディングスケール方式とすることを可能とする。成熟油田や非在来型プロジェクトに関してはロイヤルティを5% ~ 10%とする。

    ◦ 競争力のある税率を設定する。◦ 非在来型および随伴ガスプロジェクトにインセンティ

    ブを付与する。◦国際仲裁により紛争を解決することを可能にする。◦ 炭化水素部門を規制、監督するためベネズエラ炭化水

    素庁(Agencia Venezolana de Hidrocarburos:AVEH) を創設。AVEHは、地質データの管理も行う。

    ◦ メ キ シ コ の Enrique Peña N