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緒言天然染料は、衣服の染色に古来より用いられてきたが、現在では、工業生産の場において使用されることは少
なく、染色の堅ろう性などに優れる合成染料が主に用いられる。しかしながら、近年、自然志向などの消費者
ニーズの多様化に応えるため、従来品とは異なる差別化製品のものづくり手法として、天然染料による染色を地
域おこしとして行うといった試みが各地で取り組まれている。
天然染料の染色は、一般的に天然繊維(特に綿と絹が中心)に技術展開されてきた。一方、疎水性の高い半合
成及び合成繊維の天然染料による染色は天然染料の特性からほとんど検討されておらず、一般的には染まらない
ものと考えられてきた。しかし、半合成繊維であるジアセテートは染色後“しわ”がつやすく取り扱いに注意が必
要であり、“しわ”になりやすいということは、水が繊維内に浸透していることを意味している。水が浸透してい
るのであれば、分散染料でなくても染色が可能であると考えられる。
そこで、まず我々は、ジアセテートをとりあげ、天然染料による染色性について検討することとした。
上甲研究室 愛知 真緒
ジアセテート繊維の天然染料による染色挙動
試料および試薬
布試料:ジアセテートタフタ(5g:20㎝×20㎝)
天然染料:RKカラー7LA-HPG(ラックダイ)、RKカ
ラー1LO-HPG(ログウッド)、RKカラー7RW-HPG
(赤ワイン)、RKカラー8GO-05L(五倍子)の液体
染料4種類。
塩:硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリ
ウム
媒染剤:洛東化成株式会社製のRKカラーMO-C2(硫
酸銅)、RKカラーMO-MF(木酢酸鉄)、RKカラーMO-
A3(アルミニウム塩)
染色方法
染色試験機:UR・MINI-COLOR
染色ポットに蒸留水250ml、被染物および所定濃度
の染料、助剤を入れ、所定温度で30分間染色した。
染色後、ビーカーに水250ml、媒染剤25cc、乾燥さ
せた染色布を入れ、70℃で10分間媒染処理を行った。
媒染後、十分に水洗した後自然乾燥させた。
染着量の測定
分光色差計SA-400(日本電色工業株式会社)
実験方法
結果と考察
図1天然染料により染色したジアセテート布のK/S-波長曲線
0
2
4
6
8
10
12
380 430 480 530 580 630 680 730 780
K/S
波長(nm)
ラックダイ
ログウッド
赤ワイン
五倍子
▽天然染料の染着性液体天然染料の原液で染色したジアセテート布の染
色度合を染色布のK/S-波長曲線を図1に示した。(染料
濃度:原液、染色温度;98℃、染色時間;30分)図から明
らかなように、ログウッド以外の天然染料ではほとん
ど染色できないことわかる。このことから、未改質の
ジアセテートを染め得る天然染料は限られているが、
ログウッドが染色できたことから、ジアセテートは何
らかの改質処理を施すことによって天然染料で染色で
きる可能性はあるものと考えられた。
▽ログウッドの染色性
▽金属後媒染による色変化
まとめ本研究では、ほとんど検討されてこなかったジアセテートの分散染料以外の染料の染着性に関する知見を
得ることを目的として検討を行ってきた。その結果、分子サイズの大きな直接染料であっても添加塩濃度を
高くすると染色できることを明らかにした。そのような知見から、天然染料の染色性について検討を行った
ところ、現時点では、ログウッドにより染色できることを明らかにした。さらに、塩添加は染色性を向上さ
せる作用を有することも明らかにすることもできた。
図2はログウッド2.5gと5gの染色結果であ
る。(染色温度:98℃、染色時間;30分)添加量
が多くなると染着量が高くなっており、図1の
結果からも、ジアセテートに対するログウッド
の染色は、染浴濃度を反映することが明らかと
なった。
図から明らかなように、アルミニウム媒染(A3)試
料は色度図、色調図ともに大きな変化が見られず、媒
染はほとんど生じていないと言える。それに対して、
銅および鉄媒染では、色度図、色調図ともに変化し、
銅媒染(C2)では、同一色相で、彩度と明度が低下した
色に変化した。一方、鉄媒染(MF)では、色相が緑サイ
ドに移動し、彩度と明度の低下を伴った色に変化した
ことがわかる。ただ、鉄媒染剤の場合は鉄イオンその
ものの色が影響した色変化であるとも考えられ、媒染
の効果についてはさらなる検証が必要である。いずれ
にせよ、この結果からは、ジアセテートに染着したロ
グウッドは綿や絹と同様に銅媒染は可能であることが
分かる。
図4ログウッド染色布の後媒染処理の影響
(後媒染処理条件:後媒染液濃度;10%w/w、処理温度;70℃、
媒染時間;10分)
未媒染
A3
C2MF
0
10
20
30
40
-2 0 2 4
未媒染
A3
C2MF
0
10
20
30
40
50
60
70
0 20 40a*
b*
C*
L*
図3ログウッドの染色性におよぼす塩添加の影響
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
380 430 480 530 580 630 680 730 780
K/S
波長(nm)
ログウッド5g
ログウッド2.5g
図2ログウッドの染色性におよぼす染料濃度の影響
0
1
2
3
4
5
380 430 480 530 580 630 680 730 780
K/S
波長(nm)
ログウッド5g
ログウッド2.5g
図3は、染浴に硫酸ナトリウムを12.5g添加
して同様に染色した結果である。(染色温
度:98℃、染色時間;30分)塩添加により、図2
と比べて染着量が高くなる結果となった。こ
れらの結果から、塩添加はログウッドの染色
性を向上させる作用があることが明らかと
なった。