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ワイヤレス給電技術の解析- ワイヤレス給電における電源回路の試作と実験 -
愛知県立佐織工業高等学校
電子工学科 永坂勝弘
1 はじめに
ワイヤレス給電(非接触給電)技術は、配線を使わずに電力を負荷へ供給することができる電源
システムである。本研究では、ワイヤレス給電回路を試作して、電力のワイヤレス伝送の実験を行
い、動作について検討する。さらには、オシロスコープでの回路動作や波形観測を行い、入出力
の電圧・電流の関係から求めた特性、エアギャップとの関係について、実験の結果を用いて研究
の成果を報告する。
2 電磁誘導方式について
試作したワイヤレス給電回路は、電磁誘導を利用した方式で、受電コイルと給電コイ
ルの間に鎖交する磁束をエネルギー伝送する回路である。図1は電磁誘導方式のブロッ
ク図である。
(給電側) (受電側)
図1 電磁誘導方式のブロック図
3 ワイヤレス給電試作回路について
(1) 給電側の回路
写真1のように、ワイヤレス給電回路の給
電側の回路を試作した。MOSFETQ 、1
Q を用いたハーフ・ブリッジ回路でコンデ2
ンサC 、C やコイルL を通過させること1 2 1
により、L 端子に正弦波の電流が流れる回2
路である。 写真1 給電側の回路
(2) 受電側の回路
写真2のように、ワイヤレス給電回路の受
電側の回路を試作した。L 端子と並列合成静3
電容量C は直列共振回路である。D ~D は3 6 9
全波整流回路で、C は平滑回路である。14
写真2 受電側の回路
4 給電コイルと受電コイルについて
今回の実験で使用したのは、インダクタンス:
50μH、使用線材:UEW、φ0.07×7×7、リ
ッツ線、ターン数:17ターン×2層、寸法:φ50
直流抵抗:0.36Ω、電線のメーカ:理研電線であ
る(写真3 。)
写真3 実験で使用した空芯コイル
5 実験回路で波形観測
本研究では、空芯コイルを二つ使ったワイヤレス給電回路を試作し、写真4のように
電力のワイヤレス伝送の実験を行った。
実験の内容については、以下のとおりである。
(1) 直流電源20V1A以上の電源を接続する。
(2) 製作した制御対象を受電回路に接続する。
(3) 厚さ10㎜のシャーレの中に石を入れ、給電
側基板と受電側基板の空芯コイルで挟み込む。
(4) 直流20V電源を供給することにより、制御
対象のモータが回転し、LEDが点灯することを
確認する。 写真4 ワイヤレス給電伝送実験
(5) 制御対象の動作の変化や波形を観測する。
6 ワイヤレス給電試作回路の動作確認
写真5~写真7のような結果を得ることができ
た。厚さ10㎜程のシャーレの中に石を入れ、その
上に受電コイル、下に給電コイルを設置してコイ
ル間にエネルギーが伝わっているのかを確認した。
(1) ハーフ・ブリッジ・ドライバ回路波形観測
写真5は、ハーフ・ブリッジ回路の出力電圧
(波形A)とドライブ電圧波形(波形B)であ
る。二つのMOSFET(Q とQ )で構成し (VOLTS/DIV=2V、TIME/DIV=2μS)1 2
たハーフ・ブリッジ回路で、共振回路を駆動し 写真5 ハーフ・ブリッジ回路
て給電用の高周波電流を出力する。Q のソース の出力電圧波形1
とQ のドレインの接点(波形A)の電圧は、2
波形Bに同期していることが理解できた。
(2) 給電コイルの電圧波形観測
写真6は、給電コイルL の両端の電圧波形2
である。前述した(1)では方形波であったが、
コイルL 、コンデンサC とコイルL 、コ1 1 2
ンデンサC を電圧が通過するとコイルL の2 2
両端に正弦波の電圧が発生して、正弦波の電 (VOLTS/DIV=2V、TIME/DIV=2μS)
流が流れることから、正常に回路が動作してい 写真6 給電コイルの電圧波形
ることが確認できた。
(3) 受電側の全波整流回路の電圧波形観測
給電コイルL から誘導磁界が鎖交して、受電2
3 3コイルL に電圧が誘起される。受電コイルL
とコンデンサC は、直列の共振回路を構成し3
ているので、受電コイルL に正弦波の電流が3
流れる。
この正弦波の電流を全波整流回路で整流させ
( 、 )ることにより、直流電圧が出力され、正常に受 VOLTS/DIV=0.5V TIME/DIV=2μS
電基板が動作していることが理解できた。 写真7 受電側の出力波形
7 受電側における制御対象の製作
写真8のように、給電側と受電側のコイル間の間隔を広げたり、コイルの軸を横方向
、 、にずらしたり コイルの傾きなど状況によってLEDの明るさやモータの回転などから
電力の伝送の状態が確認できるように製作した。
写真9は、製作した制御対象基板を使用して、実際に電力の伝送の状態が目視で確認
しながら実験できるように考えた。
写真8 制御対象基板の製作 写真9 制御対象を使用した実験
8 ワイヤレス給電試作回路の実験結果
(1) 給電側と受電側のコイル間と出力電力の関係について
写真10 コイル間と出力電力の実験 図2 コイル間の出力電力とギャップの関係
写真10のように、給電コイルと受電コイル間のギャップ(距離)と出力電力の関
係について実験を行った。図2のように実験結果を得ることができ、結果からわか
、 。るように最大出力電力は ギャップ8mm前後であることが考察することができた
(2) 横方向にずらしたときの出力電力の関係について
写真11 横ずれ量と出力電力の実験 図3 横ずれ量と出力電力の関係
写真11のように、給電コイルと受電コイル間のギャップ(距離)は8mmに固定
した状態で、一方のコイルを中心から前後に移動させながら、出力電力の変化につ
いて実験を行った。空芯コイルの直径は50mmであることから、図3の実験結果よ
り、直径の3割以下であれば、ほぼ安定した電力が伝送できた。
さらに、直径50mmの3割以上になると、電力の伝送は7割以下になり、横にず
れるほど出力電力は低下していくことが考察することができた。
(3) 一方のコイルを傾けたときの出力電力の関係について
写真12 コイルの傾きと出力電力の実験 図4 コイルの傾きと出力電力の関係
写真12のように、給電コイルと受電コイル間のギャップ(距離)は8mmに固定
した状態で、受電側のコイルを5°ずつ傾けながら出力電力の実験を行った。
図4の実験結果から、受電側コイルを5°傾けるまではあまり変化は見られなか
ったが、10°傾けると出力電力はほぼ6割となり、20°傾けることにより出力電力
は、ほぼ1割となり、受電側のコイルが傾くほど出力電力は低下していくことが考
察することができた。
9 ワイヤレス給電による電力の伝送の応用について
図5 模型の電気自動車ワイヤレス給電の実験
図5のように、模型の電気自動車にワイヤレス給電回路を搭載して、実際に電力の送
電ができるか実験を通して確認する。
さらには、電気自動車には頻繁な充電が必要であることに注目した。電気自動車の充
電ケーブルの着脱を意識することなく給電ができ、特殊な操作も必要なく、駐車スペー
スの確保で充電が実現できるのではないかと考える。
10 考察
本研究で試作したワイヤレス給電回路では、電磁結合を利用して、非接触で電力を送
電するためには、給電側と受電側に直列共振回路が必要である。
コンデンサやコイルの値が伝送効率などの性能に大きく影響することがわかった。
このことから、コンデンサやコイルの値を算出する方法や電磁結合回路の結合係数の
測定方法などを理解して研究を進めていく必要がある。
今後は、試行錯誤しながらワイヤレス給電回路に、最適なコンデンサやコイルなどを
選定して、受電回路や給電回路を設計する必要があると考える。
11 おわりに
、 。 、本研究では 電磁誘導方式を用いたワイヤレス給電に関する研究を行った その結果
LEDの点灯やモータを回転させ、電力の伝送ができたことを確認した。
また、コンデンサやコイルの値により、出力電力に大きな影響を及ぼすことも理解す
ることができた。今後は、ワイヤレス給電による電力伝送の距離を遠方に効率よく、電
力を伝送させる最適な状態を作り、電気自動車向けのワイヤレス給電システムにも応用
できないか、より一層の発展を目指して取り組んでいき、学校の教育現場で活かしてい
きたい。
最後に、このような機会を与えて頂いた愛知県立佐織工業高等学校関係職員及び生徒
諸君にこの場を借り感謝申し上げたい。
12 参考文献
(1) ワイヤレスが一番わかる 小暮裕明 小暮芳江 著 技術評論社
(2) トランジスタ技術2011 1月号 CQ出版社
(3) グリーン・エレクトロニクス№6 CQ出版社
(4) ワイヤレス給電技術がわかる本 松木英敏 高橋俊輔 共著 オーム社