16
-1- 論  文 海洋情報部研究報告 第 54 号 平成 29 年 3 月 27 日 REPORT OF HYDROGRAPHIC AND OCEANOGRAPHIC RESEARCHES No.54 March, 2017 アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判読と 分布特性の検討 森木ひかる *1 ,隈元 崇 *1 ,中田 高 *2 ,後藤秀昭 *3 泉 紀明 *4 ,西澤あずさ *5 Identification of landslide and its characteristics on the seafloor around Japan using anaglyph images Hikaru MORIKI 1 , Takashi KUMAMOTO 1 , Takashi NAKATA 2 , Hideaki GOTO 3 , Noriaki IZUMI 4 , and Azusa NISHIZAWA 5 Abstract The distribution of subsolifluction landslide and slope failurealong the Japan Trench, the Sagami Trough, the Suruga Trough, the Nankai Trough and the Sea of Japan is identified by 3D-image interpretation analysis using anaglyph images derived from digital bathymetry model with 90-m resolution. In order to understand the occurrence factor, (1) the original slope of subsolifluction is restored and the distribution of slope angle is compared with surrounding slopes, (2) the relation between area of subsolifluction versus frequency is discussed from a viewpoint of power-law model and (3) the location of subsolifluction is investigated with distribution of active faults. The result shows that the incentive factor of strong ground motion by earthquakes contributes more to large subsolifluction than the basic factor of slope angle. 1 はじめに 日本列島の周辺には 4 つのプレートの境界が分 布しており,それに沿って地震活動が活発である. 南海トラフから駿河トラフにかけては,フィリピ ン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込 んでいるため,過去には 100‒150 年間隔でマグニ チュード 8 クラスの巨大地震が繰り返し発生して きたことが知られている.相模トラフでも,フィ リピン海プレートの沈み込みに伴って 1923 年の 大正関東地震が発生している.また,日本海溝で は,太平洋プレートが北米プレートの下に沈み込 んでおり,2011 年 3 月 11 日に発生した平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震は,日本周 辺での観測史上最大となる Mw 9.0 の超巨大地震 Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 * 1 岡山大学 Okayama University * 2 広島大学名誉教授 Professor Emeritus of Hiroshima University * 3 広島大学 Hiroshima University * 4 第五管区海上保安本部 海洋情報部 Hydrographic and Oceanographic Department, 5th R.C.G.Hqs. * 5 技術・国際課 海洋研究室 Ocean Research Laboratory, Technology Planning and International Affairs Division

アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

- 1-

論  文

海洋情報部研究報告 第 54 号 平成 29 年 3 月 27 日REPORT OF HYDROGRAPHIC AND OCEANOGRAPHIC RESEARCHES No.54 March, 2017

アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判読と 分布特性の検討†

森木ひかる*1,隈元 崇*1,中田 高*2,後藤秀昭*3, 泉 紀明*4,西澤あずさ*5

Identification of landslide and its characteristics on the seafloor

around Japan using anaglyph images†

Hikaru MORIKI*1, Takashi KUMAMOTO*1, Takashi NAKATA*2, Hideaki GOTO*3,

Noriaki IZUMI*4, and Azusa NISHIZAWA*5

Abstract

The distribution of subsolifluction (landslide and slope failure) along the Japan Trench, the Sagami

Trough, the Suruga Trough, the Nankai Trough and the Sea of Japan is identified by 3D-image

interpretation analysis using anaglyph images derived from digital bathymetry model with 90-m resolution.

In order to understand the occurrence factor, (1) the original slope of subsolifluction is restored and the

distribution of slope angle is compared with surrounding slopes, (2) the relation between area of

subsolifluction versus frequency is discussed from a viewpoint of power-law model and (3) the location of

subsolifluction is investigated with distribution of active faults. The result shows that the incentive factor of

strong ground motion by earthquakes contributes more to large subsolifluction than the basic factor of

slope angle.

1 はじめに日本列島の周辺には 4つのプレートの境界が分布しており,それに沿って地震活動が活発である.南海トラフから駿河トラフにかけては,フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込んでいるため,過去には 100‒150 年間隔でマグニチュード 8クラスの巨大地震が繰り返し発生して

きたことが知られている.相模トラフでも,フィリピン海プレートの沈み込みに伴って 1923 年の大正関東地震が発生している.また,日本海溝では,太平洋プレートが北米プレートの下に沈み込んでおり,2011 年 3 月 11 日に発生した平成 23年(2011 年)東北地方太平洋沖地震は,日本周辺での観測史上最大となるMw 9.0 の超巨大地震

† Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016* 1 岡山大学 Okayama University* 2 広島大学名誉教授 Professor Emeritus of Hiroshima University* 3 広島大学 Hiroshima University* 4 第五管区海上保安本部 海洋情報部 Hydrographic and Oceanographic Department, 5th R.C.G.Hqs.* 5 技術・国際課 海洋研究室 Ocean Research Laboratory, Technology Planning and International Affairs Division

Page 2: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

Hikaru MORIKI et al.

- 2-

であった.さらに,日本海でもその東縁では新しい沈み込みが始まっているとされ(小林,1983;中村,1983;小林・中村,1983),1983 年には日本海中部地震(M 7.7),1993 年には北海道南西沖地震(M 7.8)が発生した.こうしたプレート境界型地震では,断層面上でのすべり変位を直接的に反映して海底面にまで達した地形(Kodaira

et al., 2012)により津波が発生する一方で,そうした変位が累積することで海底での活断層の位置を特定するのに重要となる海底変動地形が発達している.さらに,地震に随伴する現象として陸上で観察されるのと同様に,地震時の変位や地震動を誘因とする海底地すべりも発生していると考えられる.例えば,南海トラフ沿いの地域では,大小さまざまな海底地すべりおよび崩壊地形が分布し,地震に関連したものもあるとされている(川村,2010).実際に,東北地方太平洋沖地震では,この地震に起因して発生した面積およそ 50 km2

の海底地すべりが見出されている(中田・他,2015).このような大地震に関連した海底地形を把握するために,中田(2011)や中田(2015)では,海上保安庁が 1986 年以降ナローマルチビーム測深機によって取得したデータから,従来の 250 m間隔の数値水深モデル(Digital Bathymetry

Model:DBM)よりも飛躍的に解像度が向上した 90 m‒DBMを作成して,そのアナグリフ画像を用いることで,陸上の活断層を空中写真の立体視で判読するのと同様に地形発達を考慮しながら海底の変動地形を判読している(泉・他,2011,2012,2013,2014,2015,2016).このデータと手法を用いれば,海底地すべりについても,従来よりも小規模なものにまで分布と形状を判読することが可能となり,その素因となる海底地形や,誘因の一つと考えられる地震との関連性を議論できるものと考えた.地震と海底地すべりの分布特性の関連性を示すためには,地震前後の海底地形を比較することが直接的ではある.しかし,大地震の発生後に取得された海底地形データを用いた解析は東北地方太

平洋沖地震を起こした津波発生域に限られる(Fujiwara et al., 2011).そこで,本稿では,中田(2011)により整備された海底地形アナグリフを用いて,日本海溝,相模トラフ,駿河トラフ,南海トラフ,日本海東縁の 5海域における海底地すべりを地形学的に判読し,それぞれの海域における分布特性を比較することで,特に海底地すべりと活断層との関連性の把握と検討を行うこととした.その中で,はじめに,地すべり地形の素因を考慮するために,地すべりの滑落崖の外部近傍に位置する DBMから地すべり発生以前の原地形の斜面の傾斜を復元してその分布を検討した.また,地すべりの面積を算出して規模別頻度分布を作成し,べき乗則との関連から 5海域を比較した.さらに,これらの関連性について,地すべりと活断層との位置関係を付与することにより,地すべりと断層の関係を考察した.

2 �海底地すべりの発生要因に関する最近の研究について地すべり発生の条件・要因については,それを素因と誘因に区別しつつ,海陸で研究が進められてきた.その中で,陸上での地すべりについては,降雨や融雪に伴う地下水位の変動と地震動の影響が重要であると考えられている.地震に関連した規模の大きな地すべりとしては,1984 年の長野県西部地震(M 6.8)に伴う御嶽崩れ(ハスバートル・他,2010),2004 年の新潟県中越地震(M

6.8)に伴う山古志村での地すべり・崩壊(八木・他,2007),2008 年の岩手・宮城内陸地震(M 7.2)に伴う荒砥沢での大規模崩壊(橋本・他,2009),また,2016 年の熊本地震(M 7.3)での阿蘇カルデラ内・南阿蘇村での地すべり(加藤・他,2016)などがあり,地震動の強さと地すべり発生の関連性が議論されてきた.海底の地すべり・崩壊については,陸上と比較して素因である傾斜地形の特性や,誘因としての水文条件が大きく異なること,また,従来の海底地形データでは小規模な地すべり地形の把握は困難であったことから,地震との関連性について検

Page 3: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

- 3-

Identification of landslide and its characteristics on the seafloor around Japan using anaglyph images

討した研究例は多くない.その中で,金松(2010)は,活動的縁辺部である日本の沈み込み帯の海底地すべりの特徴を明らかにするために,非活動的縁辺部である米国のニュージャージー沖と活動的縁辺部であるオレゴン沖に対して,活動的縁辺部である熊野沖・南海トラフの地すべり地形の比較を行った.そこでは,地すべりの滑落崖頭部の比高とその水深や,付加体の地質に注目することで,テクトニクス環境の相違が海底地すべりの規模や分布の違いを生じさせることを明らかにした.こうした海底の地すべり地形や地震を発生させる活断層の認定に必要な変動地形をより詳細に把握するために,梶・他(2010)は,海上保安庁の測深データから解像度 90 mの DBMを作成し,地形を立体視することができるアナグリフ画像と傾斜図を作成した.この画像を用いて,南海トラフから天竜海底谷にかけての海底地すべりを判読して分布図の作成を行うことで,海底地すべりの分布を,(1)遠州灘沖の大陸棚斜面に見られる様な馬蹄形地すべり,(2)海底谷の側方侵食によって形成された急崖の崩壊,(3)断層により形成された急崖に沿う地すべり・崩壊,(4)この中で特に駿河トラフ西岸での前縁断層崖沿いに見られる崩壊の 4タイプに分類した.本稿でも,海底の地すべり地形の把握のためにこの解像度 90 mの DBM

を使用し,地すべり地形の発生場所と形態についての細区分もこれを踏襲した.こうして把握された海底地すべりの地形特性を明らかとするために,室井・他(2011)は,南海トラフ全域の海底地すべりの分布を空間統計学的に考察した.そこでは,間隔法で計測した海底地すべりの規模別頻度分布と,中田(2011)の震源断層の位置を比較することで,震源断層面上端である海底活断層の近傍と,そこから地下へ連続する断層面上で強震動を生成する割合の高いアスペリティの近傍において,大規模な海底地すべりが発生していると考えた.海底地すべりを発生させうる強震動の具体的な数値について,川村(2010)では,すべり面の強度パラメータとしてのせん断強度の検討と斜面安定解析の結果から,熊野沖南海トラフに存在

する幅約 10 km,比高約 1 kmの規模の海底地すべりを 1回で生じさせるためには,地震動の加速度が 0.5 G以上必要であると算出した.同時に,規模の大きな地すべりのプロセスについて,複数回の崩壊の連鎖という新たな崩壊プロセスの提唱も行われている.

3 �海底地形アナグリフを用いた海底地すべりの判読と特徴の抽出本稿では,中田(2011)により整備された 90

m‒DBMから,Fig. 1 の矩形で示すように日本海溝,相模トラフ,駿河トラフ,南海トラフ,日本海東縁の 5海域を対象とした.各海域はさらに大地形の特徴をもとに細分して,水深の浅い方から大陸棚斜面,前弧海盆,海溝陸側斜面と,それらを切って発達する海底谷の 4タイプに区分した.その中で,本稿では,前弧外縁隆起帯と海溝軸・トラフ軸に挟まれる海溝陸側斜面(Figs. 1‒5 の破線で囲まれた範囲)に分布する地すべりの特性を議論した(Table 1).これ以外の区分に分布する地すべりについては別報とする.なお,日本海東縁については,他の 4海域のような海洋プレートの沈み込みに伴う明瞭な海溝軸・トラフ軸の地形は認められないが,先に挙げた新たな沈み込みの開始を唱える説と,この海域を発生域とする1964 年新潟地震(M 7.5)や 1983 年日本海中部地震(M 7.7)・1993 年北海道南西沖地震(M 7.8)を参考に,大陸棚の沖合で傾斜 8‒10°で水深 3000 mに至る斜面を他の 4 海域の海溝陸側斜面に準ずるものとして取り扱った.このとき,これらの対象海域に分布する個々の地すべりの形成時期は不明であり,金松(2010)が指摘するように地質時間の中で海底地形の改変もありうるので,現在観察できる地すべりは過去に起こった地すべりの全てではないことに留意が必要である.また,規模の大きな地すべりに関係すると考えられる地震の繰り返しの時間間隔も,太平洋側と日本海側では 10 倍程度異なると考えられる.本稿では,これらの課題を認識しつつ,まずは現在利用可能な詳細な DBMから観察される海底地すべりについ

Page 4: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

Hikaru MORIKI et al.

- 4-

て,その判読と統計的な分布特性の比較を行うこととした.対象海域(Figs. 2‒5)では,中田(2011)で海底活断層の判読にも用いられた海底地形のアナグリフ画像を PCのモニタ上に表示して,滑落崖の周長がおよそ 600 m以上の地すべり・崩壊の地形を GISソフトウェアである ArcGISのシェープファイル形式でラインおよびポリゴンの地理データとした.地すべり・崩壊地形の判読(Fig. 6)においては,陸上における地すべり・崩壊地形の

判読基準を参照して,滑落崖が馬蹄形ですべり面は深く,その下方に移動体が認められるものを地すべりとした.これに対して,急崖の表層で崩れ落ちた様相を示し移動体の判読が困難なものを崩壊地形として,それぞれ滑落崖と急崖を判読・抽出した.その結果,各海域での解析対象範囲では,日本海溝で 1128,相模トラフで 29,駿河トラフで 63,南海トラフでは 1191,日本海東縁で 434の地すべり・崩壊地形を登録した(Figs. 2‒5 の赤線,ただし日本海溝では面積 100 km2 以上,そ

Fig.2

Fig.3

Fig.4

Fig.5

Suruga Trough

Sagami Trough

Nankai Trough

Japa

n Tr

ench

Sea of Japan

Fig. 1. Generalized topography and bathymetry in and around Japan with five study regions (solid rectangles show the location of Figs. 2‒5, and dashed lines show landslide distribution zones for statistical analysis). Data come from SRTM3 and ETOPO‒1 for onshore and offshore, respectively.

図 1. 日本列島と周辺海域の地形概略と調査対象範囲(矩形は図 2から図 5に対応,破線の範囲は統計的考察に使用した地すべりの分布範囲).陸域のデータは SRTM3,海域のデータは ETOPO‒1 を使用.

Page 5: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

- 5-

Identification of landslide and its characteristics on the seafloor around Japan using anaglyph images

の他の海域では面積 10 km2 以上のものは黄線).また,それぞれの図には,中田(2015)によって変動地形学的見地から判読された海底活断層の分布(Figs. 2‒5 の青線,ただし日本海溝では面積100 km2 以上,その他の海域では面積 10 km2 以上の地すべりと交差するものは水色線)をArcGIS上で重ねて表示した.

3.1 �地すべり発生域の原地形の斜面傾斜角の復元と分布の特徴

地すべり地形に関連した斜面の傾斜の計測において,地すべりの崩壊域に含まれる滑落崖の地形から算出される傾斜角や,移送域と堆積域内の移動体の地形から算出される傾斜角は,両者共に既に発生した地すべりそのものの特徴を表現する.しかし,地すべり発生域における発生以前の地形を,素因として考えるためのデータとはなりえない.そこで,本稿では Fig. 6 に示す地すべりの滑落崖を表した地理データ(赤線)と水深を取得した DBMデータ(丸印)の位置関係から,地すべり発生以前の原地形を復元することを考えた.ここでは,滑落崖を示す赤線から地すべりの内側にもともと存在した地すべりの原地形の傾斜は,赤線から外側に向けて DBMの解像度で 2ピクセル

(約 180 m)の距離にある茶色で示される地点の傾斜角で近似されるものとした.このとき,解像度で 2ピクセル(約 180 m)を指定した理由は,傾斜の計算において,対象地点の周囲 8点の値から x方向と y方向の水深の変化率をそれぞれ求めて傾向平面の最急勾配 Ssを平均最大法で算出する以下の式を用いたためである.

Ss= ∂Z∂x

∂Z∂y( )2+( )2

GISソフトウェアを用いて,DBMデータより該当する地点の水深を抽出して復元した海域毎の地すべり・崩壊の原地形の斜面傾斜の平均と標準偏差は Table 1 に,階級幅 1°のヒストグラムはFig. 7 に示す.このヒストグラムを見ると,日本海溝・南海トラフ・日本海東縁では,およそ 5‒10°の範囲にピークがあるのに対して,相模トラフと駿河トラフでは個数に相違があるもののおよそ 10‒15°にピークが表れている.一方,海域毎の海溝陸側斜面で判読された地すべり・崩壊のポリゴンデータに含まれない地点の傾斜については,日本海溝で約 430 万点のデータから平均 7°,相模トラフで約 35 万点のデータから平均 11°,駿河トラフで約 8万点のデータから平均 14°,南海トラフで約 430 万点のデータから平均 6°,日

対象地すべりの度

Table 1.Characteristics of five regions and extracted landslides in this study.表 1.対象 5海域と地すべりの分布特性の諸元.

Page 6: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

Hikaru MORIKI et al.

- 6-

41°N

141°E

145°E

36°N

0 100km

Fig. 2. Anaglyph image of the Japan Trench with distribution of landslides (red line: area < 100 km2, yellow line: area ≧ 100 km2) and active faults (blue and light blue lines: active fault with light blue line intersects large landslide with an area≧ 100 km2). Zones of the landward slope of trench for statistical analysis are shown by dashed line.

図 2. 日本海溝のアナグリフ画像と地すべり(赤線,その中で面積 100 km2 以上は黄線),活断層(青線,その中で面積 100 km2 以上の地すべりと交差するものは水色線),および,統計的考察に用いた海溝陸側斜面の範囲(破線).

Page 7: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

- 7-

Identification of landslide and its characteristics on the seafloor around Japan using anaglyph images

140°E

36°N

143°E

33°N

0 100km

Fig. 3. Anaglyph image of the southern part of the Japan Trench and the Sagami Trough with distribution of landslides (red line: area< 10 km2, yellow line: area≧ 10 km2), active faults (blue and light blue lines: active fault with light blue line intersects large landslide with an area≧ 10 km2) and zones of the landward slope of trench for statistical analysis (dashed line).

図 3. 日本海溝南部から相模トラフにかけてのアナグリフ画像と地すべり(赤線,その中で面積10 km2以上は黄線),活断層(青線,その中で面積 10 km2 以上の地すべりと交差するものは水色線),および,統計的考察に用いた海溝陸側斜面の範囲(破線).

Page 8: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

Hikaru MORIKI et al.

- 8-

138°E

31°N

132°E

35°N

0 100km

Fig. 4. Anaglyph image of the Suruga Trough and the Nankai Trough with distribution of landslides (red line: area< 10 km2, yellow line: area≧ 10 km2), active faults (blue and light blue lines: active fault with light blue line intersects large landslide with an area ≧ 10 km2) and zones of the landward slope of trench for statistical analysis (dashed line).

図 4. 駿河トラフから南海トラフにかけてのアナグリフ画像と地すべり(赤線,その中で面積 10 km2 以上は黄線),活断層(青線,その中で面積 10 km2 以上の地すべりと交差するものは水色線),および,統計的考察に用いた海溝陸側斜面の範囲(破線).

本海東縁では約 140 万点のデータから平均 8°である.これらの値は,それぞれの海域で復元された地すべり・崩壊の原地形の傾斜分布に類似しており,海溝陸側斜面の傾斜角度に,地すべりの素因として特別な傾向はないものと考えられる.一方,八木・他(2007)による 2004 年新潟県中越地震に関連した陸上での地すべりの地形の解析では,地域全体の傾斜のモードが 15‒20°であるのに対して,地すべりの復元原地形の傾斜のモードは 21‒26°でやや急であるとされている.これら 2

つの結論の差異を検討するためには,標高と水深データの解像度の相違に留意しつつ,地すべりの形状を 3次元で把握するなど解析の高度化が必要であろう.

3.2 地すべりの規模別頻度分布の特徴本稿で取得した地すべり・崩壊の地理データから Fig. 6 の赤線で示されるような滑落崖で囲まれる範囲の面積を算出した.これを地すべりの規模を示す指標と考えて,その規模別頻度分布を検討

Page 9: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

- 9-

Identification of landslide and its characteristics on the seafloor around Japan using anaglyph images

140°E

37°N

138°E

44°N

0 100km

Fig. 5. Anaglyph image of the eastern margin of the Sea of Japan with distribution of landslides (red line: area< 10 km2, yellow line: area ≧ 10 km2), active faults (blue and light blue lines: active fault with light blue line intersects large landslide with an area ≧ 10 km2) and zones of the landward slope of trench for statistical analysis (dashed line).

図 5. 日本海東縁部のアナグリフ画像と地すべり(赤線,その中で面積 10 km2 以上は黄線),活断層(青線,その中で面積 10 km2 以上の地すべりと交差するものは水色線),および,統計的考察に用いた海溝陸側斜面の範囲(破線).

Page 10: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

Hikaru MORIKI et al.

- 10 -

した.地球科学の中で,地震の大きさやクレータの直径などを指標とする破壊に関連する事象では,その規模と頻度の間にべき乗の関係があることが知られており,地すべりにも当てはまるものと考えられている.このような関係は,事象の階層性と構造安定性に関係する中で自己組織化臨界現象や構造的自己相似性(フラクタル)の観点から地球科学に限らずさまざまな分野で観察と分析が行われている(Buchanan, 2002).その中で,規模と頻度を両対数軸で描いてべき乗則の直線を当てはめたとき,構造が複雑または不均質な場所では直線の傾きが相対的に大きいとされている(茂木,1962).ここでは,5海域毎に,横軸に海溝陸側斜面で判読された地すべり・崩壊地形の滑落崖の面積 Sを規模として,対数軸上で 0.1 刻みの面積について,ある面積 Sの個別の頻度 nと,ある面積 S以上の累積の頻度 Nを常用対数で示した(Fig. 8).これに対して,次式のべき乗則に

従う直線の式の切片の係数 Aと傾き bを宇津(1967)のモーメント法を用いて求めた.

log N(S)= A-b× log(S)この算出法では,係数の A値と b値を求めるために,データが直線性を示し始める規模の最小値を与える必要がある.今回は,Fig. 8 の累積頻度 Nのデータを対象として,地すべり面積の常用対数に対して‒0.4 から 1.0 の範囲を 0.1 刻みで直線を求める計算を行い,それぞれの海域で最も当てはまりが良い係数を採用した(Table 1).海域毎の地すべりの規模別頻度分布をみると,面積が 1‒10 km2 の間ではいずれも直線性は良い.それぞれの海域で地すべりの総数が異なるため,A値には約 2倍の相違がある.一方,規模別頻度分布(Fig. 8)において,モーメント法を用いてデータを直線で近似したときの直線の傾きである b値は,各階級に含まれるデータの個数が多い地すべり面積の小さな区間の影響を強く受ける.その結果をみると,日本海溝・相模トラフ・駿河トラフで 1.2 程度であるのに対して,日本海東縁では約1.3,南海トラフでは 1.6 とやや大きめとなる.また,面積 10 km2 以上の範囲をみると,日本海東縁のみデータが直線から小さめに外れる傾向が認められる.これは,大きな地すべりの誘因がその海域で発生する地震による揺れの強さと頻度に関係する(川村,2010)と考えると,日本海東縁とその他 4海域での海底で,ある規模以上の強震動を生成するような地震の頻度の相違が影響している可能性が考えられる.海域毎の規模別頻度を比較するために,判読された地すべり・崩壊の個数を各海域の解析対象範囲の面積で除した単位面積(1 km2)あたりの累積頻度分布を Fig. 9 に示す.この図では,データ個数が頭打ちとなりプロットが水平となる地すべり面積がおよそ 1 km2 以下の区間は信頼性に乏しく,考察の対象は地すべり面積がおよそ 1 km2 以上の区間となる.その中で,地すべりの面積が10 km2 以上の累積個数は,南海トラフ以外の海域が 1.5 × 10‒3 から 3.0 × 10‒3(個 /km2)の範囲であるのに対して,南海トラフの値は 5.7 × 10‒4

Fig. 6. Schematic diagram for measurement point select ion (green), two-pixel outer from extracted landslide scarp (red) among the Digital Bathymetry Model (brown) for original slope restoration.

図 6. 地すべり斜面の原地形の傾斜復元のために数値水深モデル(緑色)の中より判読した滑落崖(赤線)から 2ピクセル外側の傾斜を計測する地点(茶色)抽出の作業概念図.

Page 11: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

- 11 -

Identification of landslide and its characteristics on the seafloor around Japan using anaglyph images

(個 /km2)と小さい.また,べき乗則から見たデータの分布の傾きについては,南海トラフの値が最も大きい.これは,地すべり・崩壊が発生する場の素因としての地質構造が,他の海域と比較して南海トラフでは複雑化・不均質化していることに関係する可能性がある.その理由として,(1)南海トラフでのプレートの沈み込みはトラフ軸に対して斜交しているため海溝陸側斜面の付加堆積物

の構造が複雑になることや,(2)浅海域からの堆積物がトラフ軸に平行なタービダイトによるものとトラフ軸に鉛直な海底谷から供給されるものの2種類が重なり合うことなど,日本海溝などと比較して南海トラフでの海溝陸側斜面の地質構造が複雑であることが推察される.

4 �海底地すべりの分布特性からみた発生要因の

Freq

uenc

y

0 5 10 15 20

0

50

100

150

200

slope (degree)

Japan Trench

Freq

uenc

y

0 5 10 15 20

0

2

4

6

8

10

slope (degree)

Sagami Trough

Freq

uenc

y

0 5 10 15 20

0

2

4

6

8

10

slope (degree)

Suruga Trough

Freq

uenc

y

0 5 10 15 20

0

50

100

150

200

slope (degree)

Nankai Trough

Freq

uenc

y

0 5 10 15 20

0

50

100

150

200

Sea of Japan

slope (degree)

Fig. 7.Distribution histogram of restored original slope angle of landslides in five study regions.図 7.対象 5海域の地すべり原斜面の復元傾斜分布.

Page 12: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

Hikaru MORIKI et al.

- 12 -

0.01 0.1 1 10 100

●●

●●

●●

●●

●●

●●

●●

●●●●

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

1

10

100

1000

Japan Trench

Area (km2)

Freq

uenc

y

● Nn

●●

●●

●●

●●●

●●●●●●●●●

●●●●●●●●●●●●●●●

1

10

100

Sagami Trough

Freq

uenc

y

● Nn

●●

●●

●●

●●

●●●●

●●●●●●●●●●●●●●●

1

10

100

Suruga Trough

Freq

uenc

y

● Nn

●●

●●●

●●●●●●●●●●●●●●●●●●

1

10

100

1000

Nankai Trough

Freq

uenc

y

● Nn

●●

●●

●●

●●●

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

1

10

100

1000

Sea of Japan

Freq

uenc

y

● Nn

0.01 0.1 1 10 100Area (km2)

0.01 0.1 1 10 100Area (km2)

0.01 0.1 1 10 100Area (km2)

0.01 0.1 1 10 100Area (km2)

Fig. 8. Distribution of magnitude (landslide area) -frequency relation in five study regions (n indicates discrete number and N indicates cumulative number). Straight line in each figure is a power function derived from the Method of Moments.

図 8. 対象 5海域の地すべりの規模(面積)別頻度分布(nは個別個数,Nは累積個数).図中の直線はモーメント法を用いて係数を求めたべき関数.

Page 13: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

- 13 -

Identification of landslide and its characteristics on the seafloor around Japan using anaglyph images

検討本稿で,解像度 90 mの DBMのアナグリフ画像を用いて判読・抽出した地すべり・崩壊地形について,GISソフトウェアを用いて算出した個々の地すべりの水深・復元原地形の斜面傾斜・滑落崖で囲まれた範囲の面積を総合的に検討するために,縦軸に水深,横軸に復元原地形の斜面傾斜として図示した(Fig. 10).また,個別の地すべり・崩壊の面積を 10 km2 と 100 km2 を閾値として大きさを変えて図示した.特に,日本海溝の海溝陸側斜面にのみ分布する面積が 100 km2 以上の地すべりについては赤色を用いた.さらに,中田(2015)で示された活断層(Figs. 2‒5 の青線・水色線)の通過位置の水深について,海溝陸側斜面に分布するものだけを Fig. 10 のグラフの右軸外に青・水色矢印で示した.この図を全般的にみれば,いずれの海域でも,地すべり・崩壊地形の分布は,縦軸で示された水深に対してある特定の値近辺に集中するようには

みられない.また,横軸の復元原地形の斜面傾斜に対しても,地すべりの規模に関わらず特定の値近辺に集中する様子は認められない.このことと,地すべり・崩壊地形の復元原地形の斜面の傾斜分布(Fig. 7)が各海域の海溝陸側斜面全体の傾斜分布と類似することをあわせて考えると,水深や原地形の斜面の傾斜といった素因は,地すべり・崩壊の発生に対して影響は小さいと考えられる.これに対して,各海域で相対頻度が小さい大規模な地すべり・崩壊地形にのみ着目すると,日本海溝における面積 100 km2 以上の地すべり・崩壊と,その他 4海域で面積 10 km2 以上の地すべり・崩壊の発生域には,ほとんどの場合活断層が地すべりに交差,あるいは極近傍を通過している(Fig.

10 のグラフの右軸外に水色矢印).海溝陸側斜面に分布する活断層は,海洋プレートの沈み込みの境界面より分岐した起震断層帯であると考えられており(例えば,Tsuji et al., 2014),地震動の距離減衰の考え方からは,こうした分岐断層に起因する地震発生時には,断層の上端である海底活断層の近傍域で相対的に強い揺れが生じるものと考えられる.本稿での議論は,川村(2010)の大規模地すべりの発生には 0.5 G以上の地震加速度が必要であるというような定量的なものではない.しかし,南海トラフでの予察的評価(室井・他,2011)に加えて,本稿で対象とした 5海域において,相対的に規模の大きな地すべり・崩壊の発生位置に近接して活断層が分布することが共通して認められたという結果は,大規模地すべりの発生には,誘因としての地震動影響が大きいことを示唆するものと考えられる.

5 今後の課題本稿では,Figs. 2‒5 に示した地すべり・崩壊

地形の分布の中で,海溝陸側斜面に分布するものに着目して異なる海域での比較を統計的に行った.今後は,梶・他(2010)で区分された大陸棚斜面・前弧海盆・海底谷の内部など他の地形区分に認められる地すべり・崩壊地形の形態や分布特性について,同一海域内で異なる地形区分の比較

Area (km2)

Freq

uenc

y

0.01 0.1 1 10 10010−5

10−4

10−3

10−2

10−1

Japan TrenchSuruga TroughSea of Japan

Sagami TroughNankai Trough

(/km

2 )

Fig. 9. Comparison of magnitude (landslide area) - cumulative frequency relation of unit area in five study regions.

図 9. 対象 5海域の単位面積当たりの規模別累積頻度分布の比較.

Page 14: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

Hikaru MORIKI et al.

- 14 -

Japan Trench

-8000

-6000

-4000

-2000

0

Dep

th (m

)

0 10 20Slope (degree)

-8000

-6000

-4000

-2000

0

Dep

th (m

)

0 10 20Slope (degree)

-8000

-6000

-4000

-2000

0

Dep

th (m

)

0 10 20Slope (degree)

Sagami Trough

-8000

-6000

-4000

-2000

0

Dep

th (m

)

0 10 20Slope (degree)

-8000

-6000

-4000

-2000

0

Dep

th (m

)

0 10 20Slope (degree)

Suruga Trough

-8000

-6000

-4000

-2000

0

Dep

th (m

)

0 10 20Slope (degree)

-8000

-6000

-4000

-2000

0

Dep

th (m

)

0 10 20Slope (degree)

Nankai Trough

-8000

-6000

-4000

-2000

0

Dep

th (m

)

0 10 20Slope (degree)

-8000

-6000

-4000

-2000

0

Dep

th (m

)

0 10 20Slope (degree)

-8000

-6000

-4000

-2000

0

Dep

th (m

)

0 10 20Slope (degree)

-8000

-6000

-4000

-2000

0

Dep

th (m

)

0 10 20Slope (degree)

Sea of Japan

10 km2 ≦ Area < 100 km2

Area < 10 km2

100 km2 ≦ Area

Active fault

Active fault intersected by large landslide

Fig. 10. Relation between restored original slope, depth and area of each landslide in five study regions. Blue and light blue arrows show approximate depth of active fault passing point in Figs. 2‒5.

図 10. 対象 5海域の復元傾斜・水深・地すべり規模(面積)の関係.右軸外の青矢印と水色矢印は Figs. 2‒5 の活断層の通過位置をおよその水深として示す.

Page 15: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

- 15 -

Identification of landslide and its characteristics on the seafloor around Japan using anaglyph images

や,同一地形区分の異なる海域間での比較などにより詳細な議論を行って,海底の地すべり・崩壊の発生要因を探る必要がある.その際には,物理探査手法により得られた海底下の地質構造図も参照すれば,陸上の地すべり研究では困難な 3次元的な発生要因の把握が可能となろう.海底地すべりの危険性については,従来は津波の発生要因として規模の大きなもののみが取り上げられることが多かった.しかし,現在の海底には海底ケーブルやパイプライン等が敷設してあることから,海底地すべりの影響は陸上の地すべりと同じように人々の生活に身近な自然災害現象といえる(梶・他,2010).その防災対策も含め,斜面崩壊の総合的な理解のために,日本列島周辺海域での分布特性と海底地すべりの発生要因に関して,地質構造まで考慮した 3次元での素因分析と定量化された地震動の指標を用いた誘因評価を行う必要があると考えられる.

謝  辞本稿の投稿にあたり,匿名の査読者および編集者の方に頂いた有益で丁寧な助言により,内容と表現を適切に改善することができました.記して感謝いたします.本研究は科研費(1940300199)の助成を受けたものです.

文  献Buchanan, M. (2002) Ubiquity: The New Science

That is Changing the World, 240pp., Orion

Publishing, London.

Fujiwara, T., S. Kodaira, T. No, Y. Kaiho, N.

Takahashi, and Y. Kaneda (2011) The 2011 Tohoku-Oki ear thquake: Displacement

reaching the trench axis, Science, 334, 1240, doi:10.1126/science.1211554.

橋本修一・千木良雅弘・中筋章人・日外勝仁・亀谷裕志・野崎保・森一司・高見智之・菖蒲幸男・小林俊樹・山本佑介(2009)「平成 20 年岩手・宮城内陸地震」災害第一次現地調査報告,応用地質,50,98‒108.

ハスバートル・武澤永純・内田太郎・丸山清輝・野呂智之・中村明(2010)横ずれ断層地震による地すべりと斜面崩壊の分布の特徴―長野県西部地震の例,第 117 年学術大会,日本地質学会,富山.

泉紀明・加藤幸弘・西澤あずさ・伊藤弘志・渡邊奈保子・中田高・後藤秀昭・植木敏明・梶琢(2011)3 秒グリッド DEMから作成した フィリピン海プレート北縁部の 3D画像,海洋情報部研究報告,47,83‒89.

泉紀明・堀内大嗣・西澤あずさ・木戸ゆかり・中田高・後藤秀昭・渡辺満久・鈴木康弘(2012)150 mDEMから作成した日本海溝付近の 3D海底地形,海洋情報部研究報告,48,148‒157.

泉紀明・堀内大嗣・西澤あずさ・木戸ゆかり・中田高・後藤秀昭・渡辺満久・鈴木康弘(2013)150 mグリッド DEMから作成した相模トラフから三重会合点周辺の 3D海底地形,海洋情報部研究報告,50,126‒142.

泉紀明・堀内大嗣・西澤あずさ・木戸ゆかり・中田高・後藤秀昭・渡辺満久・鈴木康弘(2014)3 秒グリッド DEMから作成した日本海東縁部の 3D海底地形,海洋情報部研究報告,51,127‒139.

泉紀明・西澤あずさ・及川光弘・木戸ゆかり・後藤秀昭・渡辺満久・鈴木康弘・中田高(2015)150 mグリッド DEMから作成した伊豆・小笠原海溝周辺の 3D海底地形,海洋情報部研究報告,52,140‒155.

泉紀明・西澤あずさ・及川光弘・木戸ゆかり・後藤秀昭・中田高(2016)南西諸島海溝周辺の3D海底地形,海洋情報部研究報告,53,133‒149.

金松敏也(2010)南海付加体の海底地すべりを探る,月刊地球,61,43‒48.

梶琢・中田高・渡辺満久・鈴木康弘・後藤秀昭・徳山英一・隈元崇・佐竹健治・加藤幸弘・西澤あずさ・泉紀明・伊藤弘志・渡邊奈保子・植木俊明(2010)詳細海底地形図に基づく南

Page 16: アナグリフ画像による日本周辺の海底地すべりの判 …...†Received September 21, 2016; Accepted November 17, 2016 *1 岡山大学 Okayama University *2 広島大学名誉教授

Hikaru MORIKI et al.

- 16 -

海トラフ域の海底地すべり分布とその特徴―南海トラフから天竜海底谷にかけての例―,月刊地球,61,49‒55.

川村喜一郎(2010)南海付加体の海底地すべりはどのようにして生じているのか?,月刊地球,61,37‒42.

加藤靖郎・井口隆・西山賢一・高見智之・田近淳・千田敬二・田村浩行・阪口和之・末武晋一・橋本修一・西村智博・撰田克哉・矢田純・山本茂雄(2016)熊本地震災害調査概要(その1)立野周辺の斜面災害,「平成 28 年(2016 年)熊本地震」緊急報告会,日本応用地質学会,千葉.

小林洋二(1983)プレート “沈み込み ”の始まり,月刊地球,5,510‒514.

小林洋二・中村一明(1983)縁海拡大のテクトニクス―日本海・オホーツク海・沖縄トラフなど―,科学,53,448‒455.

Kodaira, S., T. No, Y. Nakamura, T. Fujiwara, Y.

Kaiho, S. Miura, N. Takahashi, Y. Kaneda, and

A. Taira (2012) Coseismic fault rupture at the

trench axis during the 2011 Tohoku-oki

earthquake, Nature Geoscience, 5, 646‒650, doi:10.1038/ngeo1547.

茂木清夫(1962)不均質媒質の破壊に伴う Elastic

Shocksの発生及びそれに関連した地震現象の二,三の問題の研究,地震研究所彙報,40,125‒173.

室井翔太・隈元崇・中田高・後藤秀昭(2011)詳細 DEM画像判読による南海トラフ沿いの海底地すべりと変動地形,2011 年度秋季学術大会,日本活断層学会,千葉.

中田高(2011)海底活断層から発生する大地震の予測精度向上のための変動地形学的研究,科学研究費補助金研究成果報告書,https://

kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-

20300298/20300298seika.pdf.中田高(2015)詳細 DEM画像による日本列島周辺海域の変動地形学的研究,科学研究費補助金研究成果報告書,https://kaken.nii.ac.jp/

j a / f i l e / K A K E N H I - P R O J E C T -

23240121/23240121seika.pdf.中田高・後藤秀昭・徳山英一(2015)「海溝軸まで及んだ東北地方太平洋沖地震の地震断層」は地すべり,2011 年巨大地震・津波以後の東北沖海洋科学,日本地球惑星科学連合,千葉.

中村一明(1983)日本海東縁新生海溝の可能性,地震研究所彙報,58,711‒722.

Tsuji, T., J. Ashi, and Y. Ikeda (2014) Strike-slip

motion of a mega-splay fault system in the

Nankai oblique subduction zone, Ear th,

Planets and Space, 66, doi:10.1186/1880‒5981‒66‒120.

宇津徳治(1967)地震の規模別頻度分布に関する諸問題(Ⅱ),北海道大学地球物理学研究報告,18,53‒69.

八木浩司・山崎孝成・渥美賢拓(2007)2004 年新潟県中越地震にともなう地すべり・崩壊発生場の地形・地質的特徴の GIS解析と土質特性の検討,日本地すべり学会誌,43,294‒306.

要  旨日本周辺の 5海域に分布する海底地すべりを,90 m‒DBMから作成したアナグリフ画像により判読し,GISデータベースとした.これらの発生の要因を探るために,素因として地すべり発生域の原地形の斜面傾斜の復元を行った.また,規模別頻度分布の特徴を各海域で比較した.さらに,海底活断層の分布と大規模地すべりの位置関係の検討から,大規模地すべりの発生要因として,素因よりも誘因としての地震動の強さの影響が大きいと推察した.