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テレビ放送の インターネット同時配信元年に際して 20195月29日 青山学院大学 内山 1

テレビ放送の インターネット同時配信元年に際して€¦ · 受給双方とも、ネットへのシフトが米・欧にくらべ数年(2-6年程度)の遅れがある。しかしそれは、システム

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Page 1: テレビ放送の インターネット同時配信元年に際して€¦ · 受給双方とも、ネットへのシフトが米・欧にくらべ数年(2-6年程度)の遅れがある。しかしそれは、システム

テレビ放送のインターネット同時配信元年に際して

2019年5月29日

青山学院大学

内山 隆

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Page 2: テレビ放送の インターネット同時配信元年に際して€¦ · 受給双方とも、ネットへのシフトが米・欧にくらべ数年(2-6年程度)の遅れがある。しかしそれは、システム

静かに、しかし着実に進められている同時配信事業

• 2015-17年、各年秋 NHKの同時配信実験

• 2017-19年 サッカーW杯、他、民放を含め、スポーツ中継等を中心とした同時配信実験

• 2018年秋 WOWOWの同時配信開始

• 2019年 今 放送法改正案 衆院通過(5/17時点)

• 2019年(年度?) NHK地上波放送の同時配信開始予定?

この間、民放を含めた各社が、番組レベルでは同時配信“実験”、番組付随ライブ配信、本サービスを始めている。

常時(完全)同時配信は議論中であり、また(おそらく当初の実態上も)常時ではなく8-9割程度の同時配信になりうる可能性があるが、部分同時配信は実態的に始まっている。

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放送局のネット配信事業 日本は遅れているのか?

• システムとして考える必要。

供給側としての放送局、配信事業者

需要側としての視聴者、広告主

受給双方とも、ネットへのシフトが米・欧にくらべ数年(2-6年程度)の遅れがある。しかしそれは、システム

論として鶏卵の話で、むしろ既存サービスの品質の高さがシフトを遅らせてきたとみなすほうがよいのでは?

日本において、CODE-CUTのような低品質な話は乏しい。レンタルビデオ事業も、(縮小トレンドではあるが)、

他国に比べれば健在である。

それでもこれからのネット・シフトは止まらない。欧米の背中はしっかりと観察したほうがよい。3

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広告市場

日米欧広告市場 内訳

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

18,000

20,000

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

Japanese Advertising market

Newspapers Magazines Radio Television Satellite media - related advertising 2) Internet Ad

米国広告市場規模

31.7

36.3

42.8

49.5

59.6

38.5 39.6 40.1 40.5 40.6

30.032.5

34.4

25.2 25.7

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

2011 2012 2013 2014 2015(fisical year)

($bi

llion)

internet broadcasting cable

データ出所 IBA, IAB internet advertising revenue report , 各年。

29196.0 28865.4

27,594.9 27,574.9

29,015.3

30,837.7 31,088.0

31,371.1

16326.4

18985.7

22,040.3

24,816.3

28,539.0

34,346.2

36,868.3 40,543.0

0.0

10000.0

20000.0

30000.0

40000.0

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

単位

百万

EU28カ国における広告媒体別市場規模

テレビ

インターネット

新聞

雑誌

屋外

ラジオ

映画

【日】ネット広告市場が地上波TV市場に肉薄した2018年(出所;電通 日本の広告費)

【米】似たことが2012年におきた米国

【欧】EU全体では2014年

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配信2強の各国進出

画像出所Eurodate TV(2015), Multiscreen Report Update 2, Nov.2015, p19

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レンタル市場がまだ大きさを持っている日本

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

映像ソフト市場規模の推移

セルビデオ レンタルビデオ 有料動画配信【データ出所】一般社団法人日本映像ソフト協会

(億円)

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

UK

retail rental internet

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

フランス

retail rental internet

0

500

1000

1500

2000

2500

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

ドイツ

retail rental internet

0

100

200

300

400

500

600

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

イタリア

retail rental internet

英・独・仏・伊は、それぞれ縦軸のスケールが違うので注意。【単位 (英含め)百万ユーロ】【データ出典 Ampere Analysis, European Audiovisual Observatory】

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放送の市場 多面市場理論の世界

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広告市場

媒体 ⇔ 広告主

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アドフラウド ネット広告の質的問題

アドフラウドの現象面

・海賊版サイト等、広告主が望まないサイトへの広告配信 (広告主ブランドの毀損)

・不正な広告挿入

・ボットや自動リロード等による(不正)カウント回数水増し問題

・裏広告/隠し広告(人間には見えないがシステム上では見える広告) 等

ネットの対抗策

・広告配信サイトの絞り込み(例;ヤフーのまとめサイトへの配信停止)

・”QOS ; QUALITY OF SERVICE”, “QOE ; QUALITY OF EXPERIENCE”指標の開発

・ 9

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放送媒体・ネット媒体の競争 広告技術の動き

① クロスプラットフォーム(マルチ・スクリーン、4スクリーン、TCR)指標や販売の動き視聴者の動的な行動の把握

② ターゲティング&アドレッサブルの動き広告ターゲットと効果のマッチング効率を上げる

③ 競争属性としてのQoE、QoSアドフラウド対策

④ CMフォーマットの改変広告枠を安売りしない

⑤ 広告効果測定の改善 TV Attribution広告活動における媒体特性

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AIDMA,ファンネル 媒体特性

TV attribution 広告活動にも、媒体特性がある

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条件1.視聴者からみて、番組とCM映像の組み合わせに違和感を持たず、CMスキップしないような組み合わせ。

条件2.広告主からみて、番組と視聴者のターゲット属性にズレがないこと。GRP目標を満たすこと。

条件2の強化 ⇒

条件1の強化 ⇒プロダクト・プレイスメント的方向性法規制上の制約あり。⇒ VP的な事業拡大?

理想的な媒体・広告主・視聴者の関係

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EU 広告市場規制

• GDPR関連

• AVMSD(AUDIOVISUAL MEDIA SERVICES DIRECTIVE)関連

・テレビ広告のより高い柔軟性; 現在の1時間あたり12分の代わりに、放送者は一日を通していつ広告を表

示するかをより自由に選択できる。もっとも放送時間比20%規制は、6:00〜18:00の間を通して、またプラ

イムタイム(18:00〜深夜0時)を通して維持される。

・子供向けCM規制;不健康な食品CMからの子供の保護

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マーケティング市場

広告主&媒体 ⇔ 視聴者

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マーケティング市場 個人データ提供への目覚めは来る?

• 今はまだ秩序を形成する時代 その挑戦がEUのGDPR

• 一種の権利意識に、大衆は目覚めるのか?

プラスの面、 マイナスの面

• (情報銀行の話題もそうであるが)、個人情報提供者が大得をするシステム例は、まだないといえよう。現状のインセンティブ・システムは、個人が積極的に個人情報を提供する誘因と、守る誘因のバランスが後者に傾いている。

• ビジネスモデルの設計の問題。あるいは宣伝費と販促費の捉えなおし。が、射幸性を追求するかどうかは、一種の哲学問題も入ってくる。

↓仮定の話

• 仮に、“得する”という事例が生まれ、個人情報の提供に前向きになる環境が生まれたならば、、、、、おそらく著作権と同じ世界が生まれる(∵経済学的には、限界費用ゼロの情報財の取引という共通性)。

おそらく複雑化していくライツ処理

情報のホルダーと利用者の間におきる齟齬、対立

未許諾な拡散、サブライセンス等(海賊版と同義)に歯止めをかける仕組みの必要性 等

• 従ってホルダーのライツを守る一方で、「利用」観点から情報の流動性を確保する意識を持たなければ、市場そのものがつぶれる(⇒ 共通IDによる附番)

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情報提供視聴者に対するリワード

• まだ放送関係で面白いものは見つからないが、、、

• 放送局の広告主への売り物は、単なる「広告枠」から「視聴者データ」と捉えなおす必要。

そのデータが解析できると、広告主へのマーケティング・プランの提案につながる(代理店の事業領域)

そのデータ自体を売り物にできると、放送局にとっての二次収入になる。

• リワードは原則は広告主の負担ではあるが、放送局自体も関与することは考え得る。

考え方

クレジットカード・ポイントや航空会社マイレッジのような考え方(視聴時間に比例)

マイレッジ・システムの浸透がどのようになされたかは、振り返ってもよいだろう。根底にある「顧客囲い込みの思想」

エリア/店舗限定クーポン等の配布(新聞折り込みチラシ等、他の広告媒体との競争視点)

PAYPAY導入時のような、大規模物量作戦による動機づけ

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放送事業者による非特定個人情報収集 現在のステイタス

• 「非特定個人情報」を集めるための基準と手続き(V1.0)

「オプトアウト方式で取得する非特定視聴履歴の取り扱いに関するプラクティス」 SARCのHPにて公開

• 【応用】自社内での分析利用

• 【応用】番組リターゲティング宣伝

これから各社が実務を検討されるであろう領域

これから合意形成が必要な領域

• 【応用】商業リターゲティング利用

• 【応用】データの第三者提供

自社内利用

自社外利用

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動きが遅いように見えるかもしれないが

• ネットとはアプローチのスタートポイントが異なる。

既存の放送事業のブランド棄損にならないように、視聴者にとって安全・安心な段取りを取りながら動くのは至極妥当なアプローチ。ネット事業者に比べれば遅いかもしれないが、ゼロベースのスタートアップとは異なる。

• しかし放送・通信間の競争は作用している

競争は間違いなく作用しており、広告主のネット・シフトは続いている。上記が言い訳とならないようにしたい。質的な意味でのネット・アド・フラウド問題が起きていることは、時間の猶予を得ているかもしれない。だからと言って量的なシフトが止まる気配がない。

• ネットのようなスピード感を持つなら、

ネットの商慣習のようにアグレッシブに動くなら、別ブランド化を考えるべき。その際は、「同時配信」のみならず、「見逃し」、「VOD」含め、ネット関連事業を巻き込んだ包括的な事業設計が必要。

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コンテンツ市場

媒体 ⇔ 視聴者

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視聴者市場 ネット配信市場

• 歴史のなかで、現在の民放のビジネスモデル、多面市場を成立させたことは大きい。

結果として、視聴者にとって「コンテンツはタダ」という習慣形成。

その功罪 視聴者規模を最大級に持っていけるが、後の有料サービス展開に苦労。

• 2010年代前半、各種ネット配信事業者が苦労したのが支払モデル。

最終的には「フリーミアム」へ。広告と直接収入の合わせ技

「広告」に限らず、複数収入構造を持ち、抱き合わせる必要性

(EX. E-COMMERCE と一体のアマゾン) ←情報財を取引可能にするための知恵

• 放送事業者のこれからのビジネス・モデル

地上波の放送、同時配信、同じ内容であり続けるか? ジレンマのある選択肢 20

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今後の展開(1)

• 広告市場

ネット側主導で動く広告効果把握技術の高度化・精緻化 放送局がどこまでついていくか?

広告における新しい視聴者属性の開拓

広告発信における媒体特性の顕在化

• マーケティング市場

個人情報の提供と、局・広告主による囲い込み その進展度合い;

進展が進めば ⇒ 新しいタイプの視聴習慣性の形成

進展が進まなければ ⇒ 既存のマス広告サービス(GRP型)に留まる

• コンテンツ市場

フリーミアム、サブスク市場の拡大度合い; 進めば広告依存度 低下 ⇒ 配信事業の地上波放送からの差別化、分離

進まなければ広告依存度 高いまま ⇒ あくまで地上波の補完

広告主の新しいメディア・プランニングの模索

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今後の展開(2)• 広告主

(多国籍企業のような)複数メディア間プランニングが必要な広告主

↑ テレビはどこに合わせる? ↓

(伝統的地場小規模店舗のような)リソースに限りのある広告主

• 媒体

フルサービスの媒体 (ネットの多機能性追求は止まらない)

↑ テレビはどの程度、技術開発する? ↓

特化サービスの媒体 (ラジオのような音声限定、雑誌のようなジャンル特化、)

• 視聴者 コンテンツと広告

「広告は必要悪」と考える視聴者、コンテンツに強いロイヤリティを持つ視聴者

↑ システムとしての同居 ↓

無料であることが望まれるコンテンツ(緊急報道等) 22