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マラリアと人類の長い戦い ーその決着を目指してー
愛媛大学 プロテオサイエンスセンター
寄生病原体学分野 石野智子
2001年- 三重大学医学部 2006年- パスツール研究所
2009年- 愛媛大学医学部
目次
・マラリアとは?マラリアの発見。マラリア対策の現状。
・マラリア原虫の赤血球侵入。免疫回避の方策
・分子生物学のメスでマラリア原虫を切り開く
・感染流行地におけるマラリアワクチン開発研究
目次
・マラリアとは?
1.マラリアの症状
2.その犯人の姿と発見の経緯
3.世界の現状
なぜ人類はマラリアを制圧できていないのか
三日熱マラリア患者
症状
1)発熱 48時間毎の周期熱
2)貧血
3)脾種
<予後は良好>
マラリアの症状
発熱 突然の高熱で発症 熱型不規則
タイの成人男性
熱帯熱マラリア患者
マラリアの症状
世界では現在でも 年間100万人程度の人が亡くなる感染症
重症熱帯熱マラリア
脳症状(昏睡、痙攣)
重度貧血
腎不全 ⇨ 適切に治療
肺浮腫 しないと
低血糖 死亡する
治療薬はあるが、副作用が強い。
薬剤耐性マラリア原虫が出現している。
予防薬は、現在までに開発されていない。
目次
・マラリアとは?
1.マラリアの症状
2.その犯人の姿と発見の経緯
3.世界の現状
なぜ人類はマラリアを制圧できていないのか
マラリア原虫の発見
イタリア語で悪い空気“Mal-air”と呼ばれていた
湿地帯などで発症する高熱を伴う病気
高熱を出している患者の血液を観察してみると、
黒い粒が見つかった!
Charles Louis Alphonse Laveran
Born: 18 June 1845, Paris, France Died: 18 May 1922, Paris, France
軍医としてアルジェリアに赴任している時に、マラリアの研究を始める
患者の血液を経時的に採取し、病原体の発
育過程を詳細に記録した。
マラリアの原因が、原生動物(原虫)であ
ることを見いだした。(1880年)
Charles Louis Alphonse Laveran
"in recognition of his work on the role played by protozoa in causing diseases"
1907年 ノーベル医学生理学賞受賞
マラリア原虫の発見
マラリア原虫が赤血球内で胞子を作ること、
胞子のはじける時期と発熱が一致すること
を見いだした。
原虫:真核細胞であり、単細胞の生き物
発熱パターンと原虫の発育の関連
マラリア原虫の分裂・増殖
感染赤血球の破壊 と再侵入
感染赤血球の破壊 と再侵入
蚊が媒体であることはどうやって見出されたのか
Ronald Ross (1857-1932)
1897 Aug 20: 患者から吸血させて4日目のハマダラ
カの胃を解剖し、原虫を見つけた!(Rossは40歳)
Nobel Prize for physiology or medicine
(1902)
フィラリアが蚊によって媒介されることが見出される
・・・もしや、マラリアも?
患者赤血球に原虫の感染が初めて観察される (1880)
Ronald Ross, 1898, Calcutta,401
鳥マラリア原虫を用いて唾液腺
に原虫が移行すること、感染蚊
に吸血されることで、健康な鳥
がマラリアになることを示した。
マラリア原虫の生活環
唾液腺
中腸 赤血球
発熱等の症状
目次
・マラリアとは?
1.マラリアの症状
2.その犯人の姿と発見の経緯
3.世界の現状
なぜ人類はマラリアを制圧できていないのか
寄生虫とは?
共生
細胞内共生
マラリアで亡くなるヒトの90%はアフリカに住んでいる
60秒に一人の子どもがマラリアで亡くなる
赤でマラリア 流行地を示す 薬剤耐性マラリア原虫
が出現する危険地域 年間60万ー120万のヒトがマラリアで 亡くなっている
マラリアは世界の熱帯地域に蔓延している
流行している国: 107ヶ国(人口23億人)
年間の感染者: 1〜1.5億人
年間の死亡者: 80〜100万人 (ほとんどは5歳以下の小児と妊婦)
(2004)
In 2010: Half of the world's population at risk (WMR2011) Estimated 216 million cases Estimated 655,000 deaths
マラリアは世界の熱帯地域に蔓延している
推定マラリア感染者数(年間) (WHOワールドマラリアレポート2008)
(単位:万人) サハラ砂漠以南のアフリカ
東南アジア
中東、アラブアフリカ
南北アメリカ
西大西洋
ヨーロッパ アフリカ地域でのマラリアによる
年齢別死亡者数(年間)
WHO, 2009
One in five (20%) of all
childhood deaths in
Africa are due to malaria.
It is estimated that an
African child has on
average between 1.6
and 5.4 episodes of
malaria fever each year.
Every 30 seconds a
child dies from malaria
in Africa.
アフリカの5歳以下の子どもの死亡原因の20%がマラリアである
1180年頃
人類とマラリア原虫の闘いの歴史
紀元前1300年頃
人類とマラリア原虫の闘いの歴史
なぜ、未だに人類はマラリア原虫に勝利できないのか?
Hawass et al., 2010, JAMA., 667
ミイラの骨からDNAを抽出し、PCRによりマラリア原虫の遺伝子(ama1)の一部を増幅した。
An
nu
al d
eath
s (
mil
lio
n)
マラリアの死亡率は減少傾向にある
WHOマラリア撲滅計画 (Malaria Eradication Program, 1956)
Murray et al., 2012, Lancet., 413
1980 2010 Year
・・・が、一筋縄ではいかないようだ。
DDT残留噴霧
蚊帳
マラリアとの戦い WHOマラリア撲滅計画 (Malaria Eradication Program, 1956) 方法:1) 患者を発見しクロロキンで治療 ⇨ 2) DDT残留噴霧で媒介蚊を殺す ⇩
ハマダラカ
クロロキン導入によるマラリア対策の効果
クロロキン の導入開始
Wellems, 2009, J. Clin.
Invest., 2496
クロロキン耐性原虫の出現と急激な拡大
東南アジアと南米で耐性原虫が 出現し、全世界に拡大した
同じようにDDT耐性媒介蚊も世界中に広まり、 さらにDDTの毒性が明らかになり使用中止になった
クロロキン耐性原虫出現の影響
アフリカで 死亡が増加
DDTの 散布中止
クロロキン耐性原虫 のアフリカ侵入
クロロキン の導入開始
Wellems, 2009, J. Clin.
Invest., 2496
(World Malaria Report 2008)
2003 2007
アフリカでは既にACTを含む投薬に変更されている (政策としては!)
新しい抗マラリア薬(ACT)の開発と普及
アーテミシニン (artemisinin)
薬剤耐性マラリア原虫の出現
WHO, 2010:WHO: Global report on antimalarial drug efficacy
& drug resistance (2000-2010), WHO, pp.115
抗マラリア薬に対する耐性原虫出現のスピード
東アジアで耐性原虫が出現している?
蚊による媒介を阻止できないか?
Smith et al., 2001, Trends in
Parasitology, 145
長期残効型蚊帳の開発、配布
蚊帳の糸に練りこんだ防虫剤が、
洗濯等により表面の薬剤が落ち
ても中から徐々に染み出し、防
虫効果が5年以上持続する。
薬剤を染みこませた蚊帳 を用いたマラリア対策
長期残効型蚊帳 (Long-Lasting Insecticidal Net; LLIN)
現地で生産することで雇用を生み出す
国際機関(UNICEF等)による配布
80歳になるまでにマラリアが原因で死ぬ確立
Murray et al., 2012, Lancet., 413
2000 2010
日本におけるマラリア患者数の推移
戦後マラリア 輸入マラリア
熱帯病とは
・・・・貧困が大きな要因の一つ
Nature Outlook, 2012
参考文献1
Hawass et al., 2010: Ancestry and Pathology in King Tutankhamun’s Family, JAMA, 303(7), 667-668
Michelle(Senior Editor)., 2012: Malaria, Nature Outlook, 484
Murray et al., 2012: Global malaria mortality between 1980 and 2010: a systematic analysis, Lancet., 379, 413–431.
Ronald Ross, 1898: Report on the cultivation of Proteosoma, Labbe, in grey mosquitos., Calcutta,401-408, 448-451
Smith TA et al., 2001: Child mortality and transmission intensity in Africa, Trends in Parasitology, 17(3), 145-149
Sumitomo Chemical UK PLC, 2013:Wholesale Olyset Nets, http://sumivector.com/mosquito-nets/olyset-net
参考文献2
Sumitomo Chemical Co., 2014:住友化学株式会社, http://www.sumitomo-chem.co.jp
TOELL Co, 2009:株式会社トーエル, http://www.toell.co.jp
Wellems et al., 2009: The impact of malaria parasitism: from corpuscles to communities., J. Clin. Invest., 119, 2496–2505
WHO, 2010: Global report on antimalarial efficacy and drug resistance: 2000-2010, WHO, pp.115
WHO 2014, http://www.who.int/en/