Upload
others
View
1
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
平成20年度 卒業論文
ヘリカル超伝導のエッジ状態
北海道大学工学部 応用理工学科応用物理工学コース物性物理工学研究室氏名 山野聡士
目 次
第 1章 序論 2
1.1 超伝導現象 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
1.2 スピン 3重項ヘリカル p波の超伝導体 . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
1.3 研究の目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
1.4 構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
第 2章 スピン 3重項超伝導体のBdG方程式 5
2.1 BCSハミルトニアン . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
2.2 Bogoliubov-de-gennne方程式の導出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
第 3章 BdG方程式と数値計算のモデル 10
3.1 スピン 3重項ヘリカル超伝導体のBdG方程式 . . . . . . . . . . . . 10
3.2 BdG方程式の離散化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
第 4章 電流の導出 12
第 5章 結果 19
第 6章 結論 22
付 録A Cooperペアの性質とペアポテンシャル 24
付 録B スピン 3重項ヘリカル p波超伝導体のペアポテンシャル 28
1
第1章 序論
1.1 超伝導現象超伝導は 1911年に Leiden大学の Kamerlingh Onnesによって発見された現象
で,特定の物質を極低温まで冷やすと,電気抵抗が消失する,完全反磁性を示す(Meissner 効果),電位差がないのに電流が流れる(Josephson効果)などの特異な電磁気学的性質を示す現象である.これらの現象は,巨視的波動関数の位相が揃っているという超伝導特有の事情によって説明される.すなわち,ミクロな量子力学的現象がマクロな性質として現れた結果なのである.この超伝導現象の微視的な理解は,1957年Bardeen,Cooper,Schriefferらによって明らかにされた(BCS
理論).これによると,巨視的波動関数の位相が揃うという特殊な状況は,2つの電子がペアを組み(Cooperペアの形成),それらが同じ位相の状態に凝縮し,位相コヒーレンスを獲得することによって得られるものである.
Cooperペアは2電子からなる,複合粒子として考えることができるので,巨視的波動関数はスピン自由度による対称性と軌道部分による対称性に依存することとなる.スピン自由度による場合分けを行うと,巨視的波動関数はスピン 1重項かスピン 3重項かのどちらをとる.2電子の入れ替えにたいしてスピン 1重項は奇の対称性を,スピン 3重項は偶の対称性を示す.一方,軌道部分は 2電子の相対座標をフーリエ変換したときの軌道対称性によって分類され,2電子の入れ替えにたいして偶パリティの対称性をもつ s波対称と d波対称,及び奇パリティ対称性をもつ p波対称と f 波対称などに分類される.電子はフェルミ統計に従う量子力学的な粒子であることから,巨視的波動関数には制限が加わる.すなわちスピン 1重項のCooperペアは s波や d波の対称性を持つことになり,スピン 3重項のCooper
ペアは p波や f 波の対称性を持つことになる [1].超伝導体の性質はこれらのCooperペアの対称性に依存して,超伝導体の性質は
多彩なものとなっている.例えば,単体金属で発現する超伝導の巨視的波動関数はスピン 1重項 s波対称性に分類される.また,銅酸化物高温超伝導の巨視的波動関数はスピン 1重項 d波対称性に分類される.しかしどのような発現機構が働くと,いかなる対称性のCooperペアが凝縮するのか,という問題に対してはいまだ明確な解答は得られていない.金属超伝導体の場合,電子-格子相互作用が 2電子間の弱い引力を導き,スピン 1重項 s波対称性Cooperペアを安定化させることが知られているが,銅酸化物高温超伝導,重い電子系の超伝導,ルテニウム酸化物の超伝導の発現機構は未解明の問題を含んでいる.
2
1.2 スピン3重項ヘリカルp波の超伝導体本研究ではスピン 3重項ヘリカル p波超伝導の 2次元極限を考察する.スピン 3
重項のCooperペアはスピン 1重項と違い,スピンの自由度があるという大きな特徴をもつ.そのため,Cooperペアはスピンを運び,超伝導体は超スピン流を流すことができる.スピン 3重項のCooperペアが発現している可能性がある超伝導体として,重い電子系の UPt3,酸化物の Sr2RuO4があげられる。 [2]
p波のCooperペアの存在は,3Heの超流動で明らかになった.He 原子は同位体が 2種類あり,中性子の数が1個の 3Heはフェルミ粒子である.極低温下における 3Heの超流動では,ヘリウム原子の短距離斥力のため s波対称性のペアが安定せず,p 波対称性になる.3He 超流動にはゼロ磁場の下で,A相とB相という 2つの異なる超流動相がある.スピン 3重項ヘリカル p波のCooperペアはこのB相において発現しているとされる.ヘリウムは電気的に中性であるため,超伝導電流は流れず,質量流が超流動を示すこととなる [3].2次元極限にある 3He B相の超流動Cooperペアの特徴を述べる.ヘリウム原子はスピン 1/2を持つので,スピンの状態はその z成分を用いて ↑と指定することにする.ペアを組むのは同じ ↑スピンのヘリウム原子,または同じ ↓スピンのヘリウム原子である.軌道の対称性はヘリカル p波対称性に属する.すなわちスピンが ↑同士のペアの秩序変数の軌道部分が−kx ± ikyであるとき,↓同士のペアの秩序変数の軌道部分は kx ± ikyとなる,ここで kx,ky は 2次元フェルミ面上の波数で,kF をフェルミ波数として,k2
x + k2y = k2
F を満たす.複合同順の符号によってヘリシティが指定される.すなわち 2つのヘリカルな超流動状態が縮退した状態がスピン 3重項ヘリカル p波の状態である.これに対応する超伝導物質は発見されていないが,以下ではスピン流に着目するので,超伝導と超流動の区別を行わない.p波や d波といった,異方的超伝導体の表面にはアンドレーエフ共鳴束縛状態と呼ばれる,量子力学的な束縛準位が形成されることが知られている [4].この準位の存在は,数学的にも証明されている.ヘリカル超伝導体の場合にもこの束縛状態は形成され,さらに特徴的な性質をもつ.正方形の 2次元ヘリカル超伝導体を考察する場合(図 1.1),この表面近傍のアンドレーエフ共鳴束縛状態がスピン流を運ぶのである.↑スピンのペアが運ぶ電流が時計周りであるとすると,↓スピンのペアが運ぶ電流は必ず反時計回りになる.従って,電流はキャンセルしてしまうが,スピン流だけは超伝導体の縁に沿って流れるのである.このスピン流の存在はスピンホール効果からの類似によって議論されているだけで,一体どのようにスピン流が流れているのか詳細は明らかでない部分が多い [5].
1.3 研究の目的本研究の目的は 2次元ヘリカル超伝導体におけるスピン流の特徴を,微視的に調
べることにある.超伝導の基礎理論であるBCS理論を,スピン 3重項ヘリカル超伝導に拡張し,対応するBogoliubov-de-Genne方程式(BdG方程式)を導く.表面
3
図 1.1: 予想される ↑をもつ電流と ↓をもつ電流の流れ
を表すためには境界条件を明確に設定する必要があるが,このためにBdG方程式を数値的に解く.その後得られた固有関数を用い,電流及びスピン流を計算する.
1.4 構成第 2章では,考察する超伝導体であるスピン 3重項ヘリカル超伝導体における
BdG 方程式を,相互作用する電子系のハミルトニアンの一般的な表式から導く.第 3章では,第 2章で導出したBdG方程式を格子模型で解くためのモデルを説明する.第 4章では電流の導出を説明し,第 5章で結果と考察,及びこれからの研究課題を示す.
4
第2章 スピン3重項超伝導体のBdG
方程式
この章では,BCS理論にのっとり,相互作用を取り入れた電子系のハミルトニアンの一般的な表式から出発して,スピン 3重項ヘリカル超伝導のハミルトニアンを導く.その後,この超伝導体におけるBdG方程式(超伝導の性質を記述する方程式)を導出する.その過程で,Cooperペアの位相が確定しているなどの超伝導特有の性質,および一般的な超伝導体である s波スピン 1重項超伝導体とスピン 3重項ヘリカル超伝導との相違点などに言及する.
2.1 BCSハミルトニアンCooperペアは二つの電子間に働く相互作用によって形成される.そこでまず,
相互作用を取り入れた電子系のハミルトニアンを第二量子化法で表すと以下のようになる.
H =∑
σ
∫drΨ†
σ(r)h0Ψσ(r)
+1
2
∑σ,σ′
∫dr
∫dr′Ψ†
σ(r)Ψ†σ′(r
′)g(r − r′)Ψσ′(r′)Ψσ(r) (2.1)
h0 = − ~2D2
2m+ V (r) − µ,D =
(∇ − i
e
~cA)
σ,σ′は電子のスピン自由度を表し,↑または ↓の値をとる.h0は磁場中の 1電子ハミルトニアンを表す.本研究では外部から磁場をかけないので,A = 0とする.また、Ψ†
σ(r)は電子の生成演算子を,Ψσ(r)は電子の消滅演算子を表し,これらは以下のフェルミオンの反交換関係を満たす.{
{Ψσ(r),Ψ†σ′(r
′)}+ = Ψσ(r)Ψ†σ′(r
′) + Ψ†σ′(r
′)Ψσ(r) = δσ,σ′δ(r − r′)
{Ψσ(r),Ψσ′(r′)}+ = 0(2.2)
式 (2.1)の第 1項は,多体系における,相互作用のない 1電子のハミルトニアンを表し,第 2項は電子間の相互作用に関する項となっている.g(r- r′) は 2点 rとr′にある 2電子間に働く相互作用を表しており,これが正の値ならば斥力が,負の値ならば引力相互作用が 2電子間に働くことを表している.
5
さて,式 (2.1)を対角化しなければならないわけであるが,第 2項が 4次式になっているので,Unitary変換を用いた対角化を行うことができない.そこで第 2項を第 1項と同じ 2次式に落とすために平均場近似を用いる.議論をわかりやすくするために式 (2.1)の第 2項を書き下すと以下のようになる.
1
2
∑σ,σ′
∫dr
∫dr′Ψ†
σ(r)Ψ†σ′(r
′)g(r − r′)Ψσ′(r′)Ψσ(r)
=1
2
∫dr
∫dr′Ψ†
↑(r)Ψ†↑(r
′)g(r − r′)Ψ↑(r′)Ψ↑(r)
+1
2
∫dr
∫dr′Ψ†
↓(r)Ψ†↓(r
′)g(r − r′)Ψ↓(r′)Ψ↓(r)
+1
2
∫dr
∫dr′Ψ†
↑(r)Ψ†↓(r
′)g(r − r′)Ψ↓(r′)Ψ↑(r)
+1
2
∫dr
∫dr′Ψ†
↓(r)Ψ†↑(r
′)g(r − r′)Ψ↑(r′)Ψ↓(r) (2.3)
これに平均場近似を適用するわけであるが,この時点ですでにスピン 1重項の超伝導体と今回考えるスピン 3重項の超伝導体の相違点が現れてくる.スピン 1重項の場合,Cooperペアを形成するのは互いに反平行のスピンをもつ電子だけであるため,式 (2.3)の第 1項と第 2項は値を持たないと考えることができる.一方,スピン 3重項の超伝導体の場合,Cooperペアは互いに平行のスピンを持つ電子によっても形成されるので式 (2.3)の 4項すべてに関して平均場近似を行わなくてはならない (付録A参照).したがってスピン 3重項超伝導体の場合,平均場近似するにあたって導入される秩序変数は{
∆σ,σ′(r − r′) = −g(r − r′)⟨Ψσ(r)Ψσ′(r′)⟩∆∗
σ,σ′(r − r′) = −g(r − r′)⟨Ψ†σ(r)Ψ†
σ(r′)⟩(2.4)
となる.⟨· · · ⟩は超伝導状態における量子力学的,及び統計力学的平均値の意味であり,したがって ⟨Ψ†
σ(r)Ψ†σ(r′)⟩ はクーパーペアの期待値を表している.
すなわち,電子がペアを組み,クーパーペアを形成するという超伝導の性質はこの平均場近似に表れており,このことはこの後導出する超伝導現象を記述するハミルトニアン (BCSハミルトニアン)は,超伝導状態では電子が 2つペアを組むだろうという仮定のもとに成立していることをあらわしている.ここで導入した秩序変数のことをペアポテンシャルと呼ぶ.式 (2.4)のようにペアポテンシャルを仮定すると,生成,消滅演算子の積に対して以下のような変形を行える.
Ψ†σ(r)Ψ†
σ′(r′) →
∆∗σ,σ′(r − r′)
g(r − r′)+
[Ψ†
σ(r)Ψ†σ′(r
′) −∆∗
σ,σ′(r − r′)
g(r − r′)
]Ψσ(r)Ψσ′(r′) → ∆σ,σ′(r − r′)
g(r − r′)+
[Ψσ(r)Ψσ′(r′) − ∆σ,σ′(r − r′)
g(r − r′)
] (2.5)
ここで式 (2.5)の第 2項が第 1項に比べて十分小さいとする.すなわち実際のクーパーペアの期待値とペアポテンシャルの値の差が,ペアポテンシャルの値に対し
6
て十分小さいと仮定し,式 (2.3)を以下のように,式 (2.5)の第 2項の 1次までで展開する.
1
2
∑σ,σ′
∫dr
∫dr′Ψ†
σ(r)Ψ†σ′(r
′)g(r − r′)Ψσ′(r′)Ψσ(r)
=1
2
∑σ,σ′
∫dr
∫dr′g
[∆∗
σ,σ′
g+
(Ψ†
σ(r)Ψ†σ′(r
′) −∆∗
σ,σ′
g
)][∆σ,σ′
g+
(Ψ†
σ(r)Ψ†σ′(r
′) − ∆σ,σ′
g
)]
=1
2
∑σ,σ′
∫dr
∫dr′
[Ψ†
σ(r)∆σ,σ′Ψ†σ′(r
′) + Ψ†σ(r)∆∗
σ,σ′Ψ†σ′(r
′) − |∆σ,σ′|2
g
]
− 1
2
∑σ,σ′
∫dr
∫dr′(
Ψ†σ(r)Ψ†
σ′(r′) −
∆∗σ,σ′
g
)(Ψσ(r)Ψσ(r′) − ∆σ,σ′
g
)
∼ 1
2
∑σ,σ′
∫dr
∫dr′
[Ψ†
σ(r)∆σ,σ′Ψ†σ′(r
′) + Ψσ(r)∆∗σ,σ′Ψσ′(r′) − |∆σ,σ′ |2
g
](2.6)
これにより,式 (2.5)は定数項を落とし,以下のように書き直される.
HBCS =1
2
∫dr
∫dr′[Ψ†(r)δ(r − r′)η(r′)Ψ(r′) − Ψ†(r)δ(r − r′)η∗(r′)Ψ†T (r′)
+Ψ†(r)∆(r − r′)Ψ†T (r′) − ΨT (r)∆∗(r − r′)Ψ(r′)]
(2.7)
Ψ(r) =
(Ψ↑(r)
Ψ↓(r)
),∆(r − r′) =
[∆↑↑ ∆↑↓
∆↓↑ ∆↓↓
](r − r′)
η(r) =
[− ~2
2mD2(r) + V (r) − µ
]σ0
ここでスピン 3重項超伝導体におけるクーパーペアの性質より [付録 A参照],ペアポテンシャルは
−∆T (r − r′) = ∆(r′ − r), (2.8)
を満たす.式 (2.7)はスピン 3重項の超伝導を記述するハミルトニアンで,BCS ハミルトニ
アンと呼ばれるものの一つの表式であるが,このハミルトニアンには超伝導ならではの性質が強く表れている.式 (2.7)をよくみてみると,第 1 項及び第 2項では生成演算子と消滅演算子が 1電子ハミルトニアンに対してそれぞれ左から,または右から 1つずつかかっているのに対し,第 3項は生成演算子のみからなり,第 4
項は消滅演算子のみからなることがわかる.つまり,第 1項と第 2 項は電子を一つ消したのち電子を一つ生成する項であるのに対して,第 3項は電子を二つ生成する項となっていて,第 4項は電子を二つ消す項となっているわけである.すなわち,式 (2.7)のハミルトニアンをN 電子の状態に作用させると,少なくともN 電子,N + 2電子,N − 2電子の状態が生成されることになるわけである.このことは,BCSハミルトニアンの固有状態というのは,電子数が不確定であるというこ
7
とを意味している.そして粒子数と位相の間には不確定関係があるため,粒子数が不確定であるということは位相が揃っているということに他ならない.第 1章で述べたことの繰り返しになるが,マクロな量子力学的現象はこの位相がそろっているという現象に起因するものである.
2.2 Bogoliubov-de-gennne方程式の導出さて,式 (2.7)が電子数の保存していないハミルトニアンであるということを強
調したが,それゆえにこのハミルトニアンは電子そのものの生成,消滅演算子を用いて対角化することはできない.そこで,電子の生成,消滅演算子を,このハミルトニアンにおいて粒子数が保存する架空の粒子の生成,消滅演算子で書きあらわすという操作を行う.これはBogolibov変換と呼ばれるもので導入する架空の粒子をボゴリューボフ準粒子と呼ぶ.以下にこの変換の手順を示す.式 (2.7)を変形すると,
HBCS =1
2
∫dr
∫dr′[
Ψ†(r) ΨT (r)] [ δ(r − r′)η(r) ∆(r − r′)
−∆∗(r − r′) −δ(r − r′)η(r′)
][Ψ(r′)
Ψ†T (r′)
](2.9)
となる.ここで∫dr′
[δ(r − r′)η(r) ∆(r − r′)
−∆∗(r − r′) −δ(r − r′)η(r′)
][uλ(r
′)
vλ(r′)
]= Eλ
[uλ(r)
vλ(r)
], (2.10)
uλ(r) =
[uλ,↑(r)
uλ,↓(r)
], vλ(r) =
[vλ,↑(r)
vλ,↓(r)
], (2.11)
という固有値方程式 (2.10)の固有値と波動関数 (2.11)がわかったとする.式 (2.10)
の両辺の複素共役をとり,式の上下を入れ替えると,∫dr
[δ(r − r′)η(r) ∆(r − r′)
−∆∗(r − r′) −δ(r − r′)η(r′)
][u∗
λ(r′)
v∗λ(r
′)
]= −Eλ
[u∗
λ(r)
v∗λ(r)
], (2.12)
となる.式 (2.10),式 (2.12)から波動関数 (uλ(r),vλ(r))T は固有値Eλ属する波動関数で,(u∗
λ(r),v∗λ(r))T は固有値−Eλに属する波動関数であることがわかる.こ
れらの波動関数は式 (2.13)の規格直交性及び完全性を満たす.この波動関数によって電子の生成,消滅演算子は,Bogoliubov準粒子の生成,消滅演算子を用いて,式
8
(2.14)のように書くことができる.∫dr[
u∗λ(r) v∗
λ(r)] [ uλ′(r)
vλ′(r)
]=
∫dr[
u∗λ(r) v∗
λ(r)] [ uλ′(r)
vλ′(r)
]= δλ,λ′
∫dr[
v∗λ(r) u∗
λ(r)] [ uλ′(r)
vλ′(r)
]= 0
∑λ
[uλ(r)
vλ(r)
] [u∗
λ(r′) v∗
λ(r′)]
+
[v∗
λ(r)
u∗λ(r)
] [vλ(r
′) uλ(r′)]
= δ(r − r′)
[σ0 0
0 σ0
](2.13)[
Ψσ(r)
Ψ†σ(r)
]=∑
λ
[uλ,σ(r)
vλ,σ(r)
]αλ,σ +
[v∗λ,σ(r)
u∗λ,σ(r)
]α†
λ,σ (2.14)
式 (2.14)を式 (2.9)に代入すると,式 (2.13)より
HBCS =∑
λ
∑σ
Eλα†λ,σαλ,σ −
∑λ
′Eλ (2.15)
と対角化される.
(2.14)がスピン 3重項超伝導体におけるBogoliubov変換の表式である.このとき導入したBogoliubov準粒子の生成,消滅演算子はフェルミオンの反交換関係を満たす。この変換を行うことにより,電子の状態は (2.10)を解き,固有値Eλと波動関数 (uλ(r),vλ(r))T を決定することで得ることができる。そこで (2.10)を超伝導現象を記述する基礎的な方程式としてBogoliubov-de-Genne方程式と呼ぶ.
9
第3章 BdG方程式と数値計算のモデル
2章では BdG方程式を解くことによって,BCSハミルトニアンは対角化され,超伝導の性質を調べることができるということを述べてきたが,今回の研究ではこのBdG方程式を数値計算によって解いた.具体的には,空間を離散化し,2次元格子を考え,タイトバインディングを用いたわけであるが,実際にはどのような手順をふんだかということをここでは説明する.
3.1 スピン3重項ヘリカル超伝導体のBdG方程式式 (2.10),式 (2.11)と [付録B]より,2次元極限のヘリカルスピン 3重項超伝導
体のBdG方程式は∆を定数として以下のように書ける.η(r) 0 ∆
2(−i∂x − ∂y) 0
0 η(r) 0 ∆2(i∂x − ∂y)
∆2(−i∂x + ∂y) 0 −η(r) 0
0 ∆2(i∂x + ∂y) 0 −η(r)
uλ,↑
uλ,↓
vλ,↑
vλ,↓
= Eλ
uλ,↑
uλ,↓
vλ,↑
vλ,↓
(3.1)
η(r − r′) = − ~2
2m
(∂2
∂x2+
∂2
∂y2
)− µ
ここでHUとHDを
HU =
[η(r − r′) ∆
2(−i∂x − ∂y)(r − r′)
∆2(−i∂x + ∂y)(r − r′) −η(r − r′)
], (3.2)
HD =
[η(r − r′) ∆
2(i∂x − ∂y)(r − r′)
∆2(i∂x + ∂y)(r − r′) −η(r − r′)
]. (3.3)
と定義すると、これらを用いて式 (3.1)は以下のような 2つの方程式に分けることができる. ∫
dr′HU
[uλ,↑(r
′)
vλ,↑(r′)
]= Eλ
[uλ,↑(r)
vλ,↑(r)
], (3.4)
∫dr′HD
[uλ,↓(r
′)
vλ,↓(r′)
]= Eλ
[uλ,↑(r)
vλ,↑(r)
](3.5)
10
式 (3.4)は ↑スピンをもつ電子についてのBdG方程式で,式 (3.5)は ↓スピンをもつ電子についてのBdG方程式である.スピン 3重項ヘリカル p波超伝導体の場合、BdG方程式はスピン自由度で場合わけして書ける.
3.2 BdG方程式の離散化式 (3.4),式 (3.5)を差分化するにあたって,まず微分演算子を以下のように差分
化する.
∂
∂xψ =
ψ(x− ∆x) − ψ(x)
∆x=
1
∆x[ψn−1,m − ψn,m] (3.6)
∂
∂yψ =
ψ(y − ∆y) − ψ(y)
∆y=
1
∆y[ψn,m−1 − ψn,m] , (3.7)
∂2
∂x2ψ =
1
∆x
[ψ(x− 2∆x) − ψ(x− ∆x)
∆x− ψ(x− ∆x) − ψ(x)
∆x
]=
(1
∆x
)2
[ψn+1,m + ψn−1,m − 2ψn,m] (3.8)
∂2
∂y2ψ =
1
∆y
[ψ(y − 2∆y) − ψ(y − ∆y)
∆y− ψ(y − ∆y) − ψ(y)
∆y
]=
(1
∆y
)2
[ψm+1 + ψn,m−1 − 2ψn,m] (3.9)
したがって,aを格子間距離とし,∆x = ∆y = aとすると,
ηψ = −t [ψn+1,m + ψn−1,m + ψn,m+1 + ψn,m−1 − 4ψn,m]
t =~2
2ma2
(3.10)
という形で 1電子ハミルトニアン ηは差分化することができる.同様に式 (3.6),式(3.7)を用いて,ペアポテンシャルも差分化する.これらの操作により,BdG方程式は離散化することができる.
11
第4章 電流の導出
この章では,3章で求めた固有値と波動関数を用いて,電流の表式を表すことを目標とする.3章で触れたとおり,BdG方程式は ↑スピンをもつ電子に関する方程式と ↓スピンをもつ電子に関する方程式に分けることができるので,BCSハミルトニアンも以下のように ↑スピンに関する部分と ↓スピンに関する部分の和で書くことができる.
HBCS = HBCS,↑ +HBCS,↓ (4.1)
HBCS,↑ =1
2
∫dr
∫dr′[
Ψ†↑(r) Ψ↑(r)
]HU(r, r′)
[Ψ†
↑(r′)
Ψ↑(r′)
](4.2)
HBCS,↓ =1
2
∫dr
∫dr′[
Ψ†↓(r) Ψ↓(r)
]HD(r, r′)
[Ψ†
↓(r′)
Ψ↓(r′)
](4.3)
ここで,電子密度を
nσ(r, t) = Ψ†σ(r, t)Ψσ(r, t) (4.4)
と定義すると、Hezenbergの運動方程式は
i~∂t [n↑(r, t) + n↓(r, t)] = [n↑(r, t) + n↓(r, t), HBCS] (4.5)
と書ける.したがって,↑スピンを持つ電子と ↓スピンを持つ電子の間に相関がないとすると,(4.5)は以下のようにスピン自由度に関して 2つに分けることができる。
i~∂tn↑ = [n↑, HBCS,↑] (4.6)
i~∂tn↓ = [n↓, HBCS,↓] (4.7)
ここから (4.6),(4.7)を連続の方程式の形に変形することで,電流の表式を求めるわけであるが,まずは (4.6)に着目し,↑スピンを持つ電流の表式を求める.ペアポテンシャルの表式は
∆↑↑(r − r′) =∆
2(−i∂x − ∂y)(r − r′) (4.8)
∆∗↑↑(r − r′) =
∆
2(−i∂x + ∂y)(r − r′) (4.9)
12
と表せるので,(4.2)は
HBCS,↑ =
∫dr
∫dr′Ψ†
↑(r)η(r − r′)Ψ↑(r′)
+1
2
∫dr
∫dr′Ψ†
↑(r)∆↑↑(r − r′)Ψ†↑(r
′) +1
2
∫dr
∫dr′Ψ↑(r)∆∗
↑↑(r − r′)Ψ↑(r′)
(4.10)
と書き表すことができる.さらに (4.10)の第 1項をH↑,k,第 2項をH↓,D1,第 3項をH↓,D2とおくと,電子密度 nσ(r, t)とHBCS,↑の交換関係は
[n↑, HBCS,↑] = [n↑, H↑,k] + [n↑, H↑,D1] + [n↑, H↑,D2] (4.11)
と書くことができる.(4.11)の右辺はそれぞれ以下のように計算される.
[n↑(r), H↑K ] =
∫dr′[Ψ†
↑(r)η(r − r′)Ψ↑(r′) − Ψ†
↑(r′)η(r − r′)Ψ↑(r)
](4.12)
[n↑(r), H↑D1] =
∫dr′[Ψ†
↑(r)∆↑↑(r − r′)Ψ↑(r′) + Ψ†
↑(r′)∆↑↑(r − r′)Ψ↑(r)
](4.13)
[n↑(r), H↑D2] =
∫dr′[Ψ†
↑(r)∆∗↑↑(r − r′)Ψ†
↑(r′) + Ψ↑(r
′)∆∗↑↑(r − r′)Ψ↑(r)
](4.14)
この式変形において,フェルミオンの反交換関係 (2.2)を用いた.以上より,(4.6)は
i~∂tn↑ =1
2
∫dr′[Ψ†
↑(r)η(r − r′)Ψ↑(r′) − Ψ†
↑(r′)η(r − r′)Ψ↑(r)
]+
1
2
∫dr′[Ψ†
↑(r)∆↑↑(r − r′)Ψ↑(r′) + Ψ†
↑(r′)∆↑↑(r − r′)Ψ↑(r)
Ψ†↑(r)∆∗
↑↑(r − r′)Ψ†↑(r
′) + Ψ↑(r′)∆∗
↑↑(r − r′)Ψ↑(r)]
= −I1,↑ − I2,↑ (4.15)
と書き表すことができる.ここで,この運動方程式の離散化を行う.3章と同様な方法で離散化を行うと,I1,↑及び,I2,↑は以下のように差分化できる.
I1,↑ = −∫dr′[Ψ†
↑(r)η(r − r′)Ψ↑(r′) − Ψ†
↑(r′)η(r − r′)Ψ↑(r)
]= t[(
Ψ†↑(n,m)Ψ↑(n+ 1,m) − Ψ†
↑(n+ 1,m)Ψ↑(n,m))
−(Ψ†
↑(n− 1,m)Ψ↑(n,m) − Ψ†↑(n,m)Ψ↑(n− 1,m)
)+(Ψ†
↑(n,m)Ψ↑(n,m+ 1) − Ψ†↑(n,m+ 1)Ψ↑(n,m)
)−(Ψ†
↑(n,m− 1)Ψ↑(n,m) − Ψ†↑(n,m)Ψ↑(n,m− 1)
) ](4.16)
13
I2,↑ = −1
2
∫dr′[Ψ†
↑(r)∆↑↑(r − r′)Ψ↑(r′) + Ψ†
↑(r′)∆↑↑(r − r′)Ψ↑(r)
Ψ†↑(r)∆∗
↑↑(r − r′)Ψ†↑(r
′) + Ψ↑(r′)∆∗
↑↑(r − r′)Ψ↑(r)]
= −∆
4
[(−i)Ψ†
↑(n,m){Ψ†
↑(n− 1,m) − Ψ†↑(n+ 1,m)
}− Ψ†
↑(n,m){Ψ†
↑(n,m− 1) − Ψ†↑(n,m+ 1)
}(−i)
{Ψ†
↑(n+ 1,m) − Ψ†↑(n− 1,m)
}Ψ†
↑(n,m)
−{Ψ†
↑(n,m+ 1) − Ψ†↑(n,m− 1)
}Ψ†
↑(n,m)
(−i)Ψ↑(n,m){Ψ↑(n− 1,m) − Ψ↑(n+ 1,m)
}− Ψ↑(n,m)
{Ψ↑(n,m− 1) − Ψ↑(n,m+ 1)
}(−i)
{Ψ↑(n+ 1,m) − Ψ↑(n− 1,m)
}Ψ↑(n,m)
−{Ψ↑(n,m+ 1) − Ψ↑(n,m− 1)
}Ψ↑(n,m)
](4.17)
この方程式を連続の方程式 (4.18)の形に変形する.
∂tn↑(r, t) + ∇J↑(r) = 0 (4.18)
まず,I1,↑について,以下のように jx,↑(n,m),jy,↑(n,m)を定義すると,I1,↑は (4-21)
のように書ける.
jx,↑(n,m) = −t(Ψ†
↑(n+ 1,m)Ψ↑(n,m) − Ψ†↑(n,m)Ψ↑(n+ 1,m)
)(4.19)
jy,↑(n,m) = −t(Ψ†
↑(n,m+ 1)Ψ↑(n,m) − Ψ†↑(n,m)Ψ↑(n,m+ 1)
)(4.20)
I1,↑(n,m) = jx,↑(n,m) − jx,↑(n− 1,m) + jy,↑(n,m) − jy,↑(n,m− 1) (4.21)
I2,↑について,まず Ix,↑,Iy,↑を以下のように定義する.
Ix,↑(n,m) = −∆
2i[Ψ†
↑(n,m){Ψ†
↑(n+ 1,m) − Ψ†↑(n− 1,m)
}+Ψ↑(n,m)
{Ψ↑(n+ 1,m) − Ψ↑(n− 1,m)
}](4.22)
Iy,↑(n,m) = −∆
2
[Ψ†
↑(n,m){Ψ†
↑(n,m+ 1) − Ψ†↑(n,m− 1)
}+Ψ↑(n,m)
{Ψ↑(n,m+ 1) − Ψ↑(n,m− 1)
}](4.23)
さらに,これらを用いてX↑,Y↑を以下のように定義すると,I2,↑は (4.26)のように書ける.
X↑(n,m) =∑n′<n
Ix,↑(n′,m) (4.24)
14
Y↑(n,m) =∑
m′<m
Iy,↑(n,m′) (4.25)
I2,↑(n,m) = X↑(n,m) −X↑(n− 1,m) + Y↑(n,m) − Y↑(n,m− 1) (4.26)
(4.15)に (4.21)(4.26)を代入すると,
i~∂tn↑ + jx,↑(n,m) − jx,↑(n− 1,m) + jy,↑(n,m) − jy,↑(n,m− 1)
+X↑(n,m) −X↑(n− 1,m) + Y↑(n,m) − Y↑(n− 1,m) = 0 (4.27)
のように差分化した連続の方程式が得られる.したがって差分化した電流の表式は以下のように表わされる.
J↑(n,m) = Jx,↑(n,m) + Jy,↑(n,m) (4.28)
Jx,↑(n,m) = − i
~[jx,↑(n,m) +X(n,m)] (4.29)
Jy,↑(n,m) = − i
~[jy,↑(n,m) + Y (n,m)] (4.30)
実際に計算する値は,これらの期待値となる.(4.29),(4.30)の期待値をとると,以下のようになる.
⟨Jx,↑(n,m)⟩ = − i
~[⟨jx,↑(n,m)⟩ + ⟨X↑(n,m)⟩] (4.31)
⟨Jy,↑(n,m)⟩ = − i
~[⟨jy,↑(n,m)⟩ + ⟨Y↑(n,m)⟩] (4.32)
⟨jx,↑(n,m)⟩ = −t(⟨Ψ†
↑(n+ 1,m)Ψ↑(n,m)⟩ − ⟨Ψ†↑(n,m)Ψ↑(n+ 1,m)⟩
)(4.33)
⟨jy,↑(n,m)⟩ = −t(⟨Ψ†
↑(n,m+ 1)Ψ↑(n,m)⟩ − ⟨Ψ†↑(n,m)Ψ↑(n,m+ 1)⟩
)(4.34)
⟨X↑(n,m)⟩ = −i∆2
∑n′<n
(⟨Ψ†
↑(n′,m)Ψ†
↑(n′ + 1,m)⟩ − ⟨Ψ†
↑(n′,m)Ψ†
↑(n′ − 1,m)⟩
+ ⟨Ψ↑(n′,m)Ψ↑(n
′ + 1.m)⟩ − ⟨Ψ↑(n′,m)Ψ↑(n
′ − 1,m)⟩(4.35)
⟨Y↑(n,m)⟩ = −∆
2
∑m′<m
(⟨Ψ†
↑(n,m′)Ψ†
↑(n,m′ + 1)⟩ − ⟨Ψ†
↑(n,m′)Ψ†
↑(n,m′ − 1)⟩
− ⟨Ψ↑(n,m′)Ψ↑(n,m
′ + 1)⟩ + ⟨Ψ↑(n,m′)Ψ↑(n,m
′ − 1)⟩(4.36)
これらの値を計算するにあたって,⟨Ψ†↑(n,m)Ψ↑(n
′,m′)⟩ ,⟨Ψ†↑(n,m)Ψ†
↑(n′,m′)⟩ ,
⟨Ψ↑(n,m)Ψ↑(n′,m′)⟩を計算する必要がある.そこでBogoliubov変換を用いて,こ
15
れらの値をBogoliubov準粒子の生成,消滅演算子で書き表す.まず,⟨Ψ†↑(n,m)Ψ↑(n
′,m′)⟩は以下のように表わされる.
⟨Ψ†↑(n,m)Ψ↑(n
′,m′)⟩ =∑λ,λ′
⟨(vλ,↑(n,m)αλ,↑ + u∗λ,↑(n,m)α†
λ,↑
)(uλ′,↑(n
′m′)αλ′,↑ + u∗λ′,↑(n′m′)α†
λ′,↑
)⟩=∑λ,λ′
[vλ,↑(n,m)uλ′,↑(n
′,m′)⟨αλ,↑αλ′,↑⟩ + u∗λ,↑(n,m)uλ′,↑(n′,m′)⟨α†
λ,↑αλ′,↑⟩
+ vλ,↑(n,m)v∗λ′,↑(n′,m′)⟨αλ,↑α
†λ′,↑⟩ + u∗λ,↑(n,m)v∗λ′,↑(n
′,m′)⟨α†λ,↑α
†λ′,↑⟩
](4.37)
ここで,ボゴリューボフ準粒子は考えている系に対して粒子数が保存しているので
⟨αλ,↑αλ′,↑⟩ = ⟨α†λ,↑α
†λ′,↑⟩ = 0 (4.38)
が成立する.また,フェルミオンであるので,⟨α†λ,↑αλ′,↑⟩ の値はフェルミ分布関数
で書くことができる.
⟨α†λ,↑αλ′,↑⟩ =
1
2
[1 − tanh
(Eλ
2T
)](4.39)
したがって,絶対零度においては,この値は以下のようにステップ関数で表せる.
⟨α†λ,↑αλ′,↑⟩ = Θ(−Eλ) (4.40)
これを改めて⟨α†
λ,↑αλ′,↑⟩ = Θ(−Eλ) = nλ,↑ (4.41)
とおくと (4.37)は以下のように書ける.
⟨Ψ†↑(n,m)Ψ↑(n
′,m′)⟩ =∑
λ
[u∗λ,↑(n,m)uλ,↑(n
′,m′)nλ,↑ + vλ,↑(n,m)v∗λ,↑(n′,m′)(1 − nλ,↑)
](4.42)
同様に ⟨Ψ†↑(n,m)Ψ†
↑(n′,m′)⟩ ,⟨Ψ↑(n,m)Ψ↑(n
′,m′)⟩についても以下のように書くことができる.
⟨Ψ†↑(n,m)Ψ†
↑(n′,m′)⟩ =
∑λ
[u∗λ,↑(n,m)vλ,↑(n
′,m′)nλ,↑ + vλ,↑(n,m)u∗λ,↑(n′,m′)(1 − nλ,↑)
](4.43)
⟨Ψ↑(n,m)Ψ↑(n′,m′)⟩ =
∑λ
[v∗λ,↑(n,m)uλ,↑(n
′,m′)nλ,↑ + uλ,↑(n,m)v∗λ,↑(n′,m′)(1 − nλ,↑)
](4.44)
したがって,⟨jx,↑(n,m)⟩,⟨X↑(n,m)⟩は
⟨jx,↑(n,m)⟩ = − t∑
λ
[vλ,↑(n+ 1,m)v∗λ,↑(n,m)(1 − nλ,↑) + u∗λ,↑(n+ 1,m)uλ,↑(n,m)nλ,↑
− vλ,↑(n,m)v∗λ,↑(n+ 1,m)(1 − nλ,↑) − u∗λ,↑(n,m)uλ,↑(n+ 1,m)nλ,↑
](4.45)
16
⟨X↑(n,m)⟩
= −i∆2
∑n′<n
∑λ
[{u∗λ,↑(n
′,m)vλ,↑(n′ + 1,m)nλ,↑ + vλ,↑(n
′,m)u∗λ,↑(n′ + 1,m)(1 − nλ,↑)
}−{u∗λ,↑(n
′,m)vλ,↑(n′ − 1,m)nλ,↑ + vλ,↑(n
′,m)u∗λ,↑(n′ − 1,m)(1 − nλ,↑)
}+
{v∗λ,↑(n
′,m)uλ,↑(n′ + 1,m)nλ,↑ + uλ,↑(n
′,m)v∗λ,↑(n′ + 1,m)(1 − nλ,↑)
}−{v∗λ,↑(n
′,m)uλ,↑(n′ − 1,m)nλ,↑ + uλ,↑(n
′,m)v∗λ,↑(n′ − 1,m)(1 − nλ,↑)
}(4.46)
と書くことができる.また (2.10)と (2.11)の関係より,∑λ
vλ,↑(n+ 1,m)v∗λ,↑(n,m)(1 − nλ,↑) =∑Eλ<0
vλ,↑(n+ 1,m)v∗λ,↑(n,m)
=∑Eλ>0
u∗λ,↑(n+ 1,m)uλ,↑(n,m) (4.47)
が成立するため,(4.45),(4.46)は
⟨jx,↑(n,m)⟩ = − t∑Eλ>0
(u∗λ,↑(n+ 1,m)uλ,↑(n,m) − u∗λ,↑(n,m)uλ,↑(n+ 1,m)
)= − i
t
2Im
∑Eλ>0
u∗λ,↑(n+ 1,m)uλ,↑(n,m)
(4.48)
⟨X↑(n,m)⟩ = −i∆Re
[∑n′<n
∑Eλ>0
(u∗λ,↑(n
′,m)vλ,↑(n′ + 1,m) − u∗λ,↑(n
′,m)vλ,↑(n′ − 1,m)
)](4.49)
と書くことができる.同様に ⟨jy,↑(n,m)⟩,⟨Y↑(n,m)⟩は
⟨jy,↑(n,m)⟩ = − t∑Eλ>0
(u∗λ,↑(n,m+ 1)uλ,↑(n,m) − u∗λ,↑(n,m)uλ,↑(n,m+ 1)
)= − i
t
2Im
∑Eλ>0
u∗λ,↑(n,m+ 1)uλ,↑(n,m)
(4.50)
⟨Y↑(n,m)⟩ = −i∆Im
[∑m′<m
∑Eλ>0
(u∗λ,↑(n,m
′)vλ,↑(n,m′ + 1) − u∗λ,↑(n,m
′)vλ,↑(n,m′ − 1)
)](4.51)
17
と書ける.これでBdG方程式の固有値と波動関数を用いて電流の期待値を表すことができた.↓スピンを持つ電流の期待値も全く同じ方法で求めることができる.以下にその結果を示す.
⟨Jx,↓(n,m)⟩ = − i
~[⟨jx,↓(n,m)⟩ + ⟨X↓(n,m)⟩] (4.52)
⟨Jy,↓(n,m)⟩ = − i
~[⟨jy,↓(n,m)⟩ + ⟨Y↓(n,m)⟩] (4.53)
⟨X↓(n,m)⟩ = i∆Re
[∑n′<n
∑Eλ>0
(u∗λ,↓(n
′,m)vλ,↓(n′ + 1,m) − u∗λ,↓(n
′,m)vλ,↓(n′ − 1,m)
)](4.54)
⟨Y↓(n,m)⟩ = ∆Im
[∑m′<m
∑Eλ>0
(u∗λ,↓(n,m
′)vλ,↓(n,m′ + 1) − u∗λ,↓(n,m
′)vλ,↓(n,m′ − 1)
)](4.55)
18
第5章 結果
図 5.1,図 5.2が,↑スピンをもつ電流J↑ = jx,↑i+ jy,↑jを表したものであり,図5.3,図 5.4が,↓スピンをもつ電流 J↓ = jx,↓i + jy,↓jを表したものである.図 5.1
が jx,↑を表しており,図 5.2が jy,↑を表している.また,図 5.3が jx,↓を表しており,図 5.4が jy,↓を表している.これらの図はすべて横軸が x方向の格子,縦軸がy方向の格子に対応している.これらの結果から ↑スピンをもつ電流が反時計回りに,↓をもつ電流が時計回りに,超伝導体の縁を流れていることがわかる.
19
"upcurrentx.dat" using 1:2:3
10 20 30 40 50 60
X
10
20
30
40
50
60
Y
-0.02-0.015-0.01-0.005 0 0.005 0.01 0.015 0.02
-0.02
-0.015
-0.01
-0.005
0
0.005
0.01
0.015
0.02
図 5.1: J↑の x成分 jx,↑
"upcurrenty.dat" using 1:2:3
10 20 30 40 50 60
X
10
20
30
40
50
60
Y
-0.02-0.015-0.01-0.005 0 0.005 0.01 0.015 0.02
-0.02
-0.015
-0.01
-0.005
0
0.005
0.01
0.015
0.02
図 5.2: J↑の y成分 jy,↑
20
"downcurrentx.dat" using 1:2:3
10 20 30 40 50 60
X
10
20
30
40
50
60
Y
-0.02-0.015-0.01-0.005 0 0.005 0.01 0.015 0.02
-0.02
-0.015
-0.01
-0.005
0
0.005
0.01
0.015
0.02
図 5.3: J↓の x成分 jx,↓
"downcurrenty.dat" using 1:2:3
10 20 30 40 50 60
X
10
20
30
40
50
60
Y
-0.02-0.015-0.01-0.005 0 0.005 0.01 0.015 0.02
-0.02
-0.015
-0.01
-0.005
0
0.005
0.01
0.015
0.02
図 5.4: J↓の y成分 jy,↓
21
第6章 結論
本研究ではスピン 3重項ヘリカル p波超伝導体におけるスピン流の性質を調べた.まず,超伝導の基礎ハミルトニアンであるBCS ハミルトニアンをスピン 3重項
ヘリカル p波超伝導に拡張し,対応するBogoliubov-de-Genne方程式を導いた.超伝導体の表面を記述するために,Bogoliubov-de-Gennne方程式を正方形のタイトバインディング格子上で数値的に解いた.得られた固有値固有状態を用い,電流とスピン流を計算した.その結果,ヘリカル超伝導体の表面にはアンドレーフ共鳴束縛状態が系され,この状態がスピン流の多くの部分を担っていることがわかった.スピンが ↑に偏極した電流が反時計周りに流れるとき,スピンが ↓に偏極した電流は時計回りに流れること,その結果電流はキャンセルして流れず,表面に沿ってスピン流だけが流れることを確かめた.スピン流の性質は,境界条件によって指定される,超伝導体の形状に大きく左
右される.たとえば,一方向の境界条件を周期境界条件とすると,超伝導リングを考察したことになる.この場合,一方の縁でスピン流が時計周りに流れるとすると,他方の縁では反時計回りに流れることが 予想される(図 6.1).また,境界条件をメビウスリングのようにすることも可能である.メビウスリングは,リング内の 2次元人からみて,輪にふちが 1つしかない,輪を一周して元の位置に戻ってくると,元の姿の鏡像になっているなどの特殊な性質がある(図 6.2).そのため,メビウスリングにおけるスピン流を考察する際には,スピン 3重項超伝導の安定性から議論しなおさねばならないことが分かっている.この様な問題を明らかにするのが,今後の課題である.
22
図 6.1: 予想される ↑をもつ電流と ↓をもつ電流の流れ
図 6.2: メビウスリング(輪にふちが 1つしかなく,また 2次元人が輪を一周すると鏡像となってもどってくる.このことは,↑スピンをもつ電子がが ↓スピンをもつ電子となって戻ってくることを意味している.)
23
付 録A Cooperペアの性質とペアポテンシャル
ここではCooperペアの性質がペアポテンシャルという秩序変数に対してどのように現れるかということを,2電子状態波動関数を出発点として説明する.Cooper
ペアは 2つの電子がペアを組んだものであるということは既に述べたが,このことはCooperペアの性質は 2つの電子がどのような状態をとるかということに強く依存していることを示している.2電子状態波動関数は,電子はフェルミオンであるということから,状態の交換に対して以下のような条件が課せられる.
ψ(ξ1, ξ2) = −ψ(ξ2, ξ1) (ξ = (r, σ)) (A.1)
電子には軌道による自由度とスピンによる自由度の 2つの自由度があるが,これらに相互作用がないと考えると,2電子状態波動関数は軌道の自由度に依存する部分とスピンの自由度に依存する部分の積の形で書くことができる.
ψ(ξ1, ξ2) = A(r1, r2)B(σ1, σ2) (A.2)
式 (A.2)のAが軌道の自由度に依存部分であり,Bがスピンの自由度に依存する部分である.さて,式 (A.2)は式 (A.1)の条件を満たさねばならないので,状態の交換に対してA,Bの満たすべき条件は以下のように場合分けすることができる.{
A(r1, r2) = A(r2, r1)
B(σ1, σ2) = −B(σ2, σ1)(A.3)
{A(r1, r2) = −A(r2, r1)
B(σ1, σ2) = B(σ2, σ1)(A.4)
まず,2電子状態が式 (A.3)をみたすような場合を考えよう.式 (A.3)は軌道部分が偶パリティで,スピン部分が奇置換であることを示している.このような条件を満たし,かつハミルトニアンの固有状態となるのは
1√2
[| ↑↓⟩ − | ↓↑⟩] (A.5)
の状態のみである.一方,2電子状態が式 (A.4)のような条件,すなわち軌道部分が奇パリティでスピン部分が偶置換であるということを満たす場合,とりうる状
24
態は 1√2
[| ↑↓⟩ − | ↓↑⟩]
| ↑↑⟩| ↓↓⟩
(A.6)
の 3つが縮退している.式 (A.5),式 (A.6)はスピン自由度のみに依存する部分であり,それぞれのパリティは反映されていない.つまり 2電子状態の波動関数のスピン自由度に着目すると,式 (A.5)のように縮退がない場合と,式 (A.6)のように3つの状態が縮退している場合の 2通りに場合分けすることができるということである.これらはその縮退数から,前者をスピン 1重項状態,後者をスピン 3重項状態と呼ぶ.この 2つの大きな違いは,スピン 1重項状態では 2つの電子は,| ↑↓⟩または | ↓↑⟩ のどちらかの状態しかとらないのに対して,スピン 3重項状態ではこれらの他に | ↑↑⟩ および | ↓↓⟩ の状態をとることができるということにある.したがって,スピン1重項の超伝導体は,| ↑↓⟩ または | ↓↑⟩ のどちらかのクーパーペアしか存在しない超伝導体であり,一方今回考えたスピン 3重項の超伝導体は | ↑↓⟩,| ↓↑⟩,| ↑↑⟩,| ↓↓⟩ の 4種類のクーパーペアが存在する超伝導体となっている.さて,スピン 1重項の超伝導体を考えたとき,式 (A.3)からこの超伝導体におけ
るCooperペアは偶パリティの性質を示すことがわかる.このことは,ペアポテンシャルを以下のように 2電子の相対座標に関してフーリエ変換をおこなった際の,そのフーリエ係数∆kの波数依存性に対してあらわれている.
∆(r − r′) =1√V
∑k
∆keik·(r−r′) (A.7)
∆k = ∆0 s波対称 (A.8)
∆k = ∆0(k2x − k2
y) dx2−y2対称 (A.9)
∆k = ∆0(2kxky) dxy対称 (A.10)
kx = kx/kF
ky = ky/kF
(A.11)
式 (A.8)はスピン 1重項 s波対称の超伝導体のペアポテンシャルであり,値が波数ベクトルによらず一定の値をとる場合を表している.式 (A.9),及び式 (A.10)は同じくスピン 1重項のペアポテンシャルであるが,値が波数ベクトルに依存して変化する場合を表している.図A.1にこれらのペアポテンシャルの様子を2次元フェルミ面上で表した.ここまで,ペアポテンシャルのスピン依存性と軌道依存性について述べてきたが,ここからは,具体的にこれらはどのようにペアポテンシャルの値に反映されるのかということをスピン 1重項 s波対称の超伝導体のペアポテンシャルを例にとって説明する.式 (2.4)のようにペアポテンシャルを定義すると,まず∆↑↑,∆↑↓,∆↓↑,∆↓↓ の 4つのペアポテンシャルが作られることがわかる.このうち∆↑↑ と∆↓↓ のペアポテンシャルはスピン 1重項の超伝導体の場合
25
図 A.1: 2次元フェルミ面 (真中の白丸)上におけるペアポテンシャルの様子.(a)s
波対称性,(b)dx2−y2波対称性,(c)dxy波対称性.
26
は存在しないので,これらは値を持たない.また,∆↑↓,∆↓↑,は互いにスピンを反転した形となっているため,(A.3)より
∆k↑↓ = −∆k↓↑ (A.12)
という奇置換の関係がこの 2つのペアポテンシャルの間には成立する.したがって,この場合のペアポテンシャルの表式は
∆k =
[∆k↑↑ ∆k↑↓∆k↓↑ ∆k↓↓
]=
[0 ∆0
−∆0 0
](A.13)
という形になる.
27
付 録B スピン3重項ヘリカルp波超伝導体のペアポテンシャル
では,ここから今回考える超伝導体のペアポテンシャルの表式の説明に移る.今回扱う超伝導体は,スピン 3重項ヘリカル p波超伝導体で,そのペアポテンシャルの表式は以下のようになっている.
∆k =
[∆k↑↑ ∆k↑↓∆k↓↑ ∆k↓↓
]=
[∆0
2(−kx + iky) 0
0 ∆0
2(kx − iky)
](B.1)
クーパーペアは | ↑↑⟩ または,| ↓↓⟩ のペアしか組まないと仮定している.これらの波数依存性を 2次元フェルミ面上で表すと,図B.1のように表わされる.さて,このペアポテンシャルを適用したBdG方程式を解くにあたって式 (B.1)を実空間表示に直す必要があるわけであるが,これは運動量と波数の関係から簡単に行うことができる.以下にその手順を示す.運動量と波数の関係より,運動量の Schrodinger表示を用いて,波数は以下のよ
うに微分演算子で書き表すことができる.
(px, py, px) = ~(kx, ky, kz)
kx → −i ∂∂x, ky → −i ∂
∂y,
(B.2)
(−kx + iky) →(i∂
∂x+
∂
∂y
)(kx + iky) →
(−i ∂∂x
+∂
∂y
) (B.3)
したがって,ペアポテンシャル (B.1)の実空間表示は以下のように書ける.
∆(r − r′) =
[∆↑↑ ∆↑↓
∆↓↑ ∆↓↓
]→
[∆0
2(i∂x − ∂y) 0
0 ∆0
2(−i∂x + ∂y)
](B.4)
28
図 B.1: スピン 3重項ヘリカル p波超伝導体の 2次元フェルミ面上におけるペアポテンシャルの様子.(a)が片方のらせん (∆k↑↑)を,(b)がもう片方のらせん (∆↓↓
k )
を表している.
29
謝辞
今回,この卒業研究を完成させるにあたり,指導教官である浅野泰寛先生には,専門的な基礎知識から研究の方向性,論文指導に至るまで丁寧に,かつ親身になってご指導頂いたことを深く感謝いたします.また,これまでの学生生活において,有益な助言をしてくださった先生方,および物性物理工学研究室の皆様,友人方に感謝いたします.特に,博士研究員である得能氏には,基礎学力の向上という点で大変お世話になりましたことに深く感謝いたします.
30
参考文献
[1] 小出昭一, 「量子力学 (I), (II)」, 裳華房 (1990).
[2] 浅野泰寛, 田仲由喜夫, 柏谷聡, 「固体物理」, 38, 2 (2008).
[3] 恒藤敏彦, 「超伝導・超流動」, 岩波書店 (1993).
[4] Y. Asano, Y. Tanaka and S. Kashiwaya, Phys. Rev. B. 69, 134501 (2004).
[5] M. Kong, H. Buhmann, L. W. Molenkamp, T. Hughes, C.-X. Lio, X.-L. Qi and
S.-C. Zhang, J. Phys. Soc. Jpn, 77, 3 (2008).
31