57
ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 1 モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント 指導者用アウトライン 症状マネジメントについて、実際に講師が実施しているケアの工夫やポイン トを交えたり、実際に講師が体験した事例を紹介したりしながら、講義を進 めるとよい。 薬剤に関しては、自施設で使用している薬剤や最新の情報にアップデートし て受講者に伝えるとよい。 症状のアセスメントツールについても、自施設で使用しているツールなどを 活用しながら受講者に伝えるとよい。 すべての症状について講義する時間がない場合は、いくつか症状を選択して 使用してよい(ただし、モジュール 3 に含まれるスライドの 50%以上は必 ず使用)。また、症状を選択する際は、必ずその根拠を受講者にも説明し、 講義を進めるのがよい。 例) 受講者の事前アンケートの結果でニーズが高かった症状を選択 自施設で症状マネジメントに困難を感じているスタッフが多い症状を 選択 など スライド1 表紙 スライド2:モジュールの概要 このモジュールでは、疼痛以外にクリティカルケア領域でよくみられる症状 とそれらの症状マネジメントを行う際のクリティカルケア看護師の役割に ついて理解する。 スライド3 目標 このモジュールの目標は、4 つである。 スライド4 講義内容一覧<Ⅰ.クリティカルケア領域における症状マネジメ ントの考え方> このモジュールでは、はじめに、クリティカルケア領域におけるエンド・オ ブ・ライフの患者の特徴、症状の特徴を説明する。そして、身体面および精 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 1

モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント

指導者用アウトライン

症状マネジメントについて、実際に講師が実施しているケアの工夫やポイン

トを交えたり、実際に講師が体験した事例を紹介したりしながら、講義を進

めるとよい。

薬剤に関しては、自施設で使用している薬剤や最新の情報にアップデートし

て受講者に伝えるとよい。

症状のアセスメントツールについても、自施設で使用しているツールなどを

活用しながら受講者に伝えるとよい。

すべての症状について講義する時間がない場合は、いくつか症状を選択して

使用してよい(ただし、モジュール 3 に含まれるスライドの 50%以上は必

ず使用)。また、症状を選択する際は、必ずその根拠を受講者にも説明し、

講義を進めるのがよい。

例)

受講者の事前アンケートの結果でニーズが高かった症状を選択

自施設で症状マネジメントに困難を感じているスタッフが多い症状を

選択

など

スライド1:表紙

スライド2:モジュールの概要

このモジュールでは、疼痛以外にクリティカルケア領域でよくみられる症状

とそれらの症状マネジメントを行う際のクリティカルケア看護師の役割に

ついて理解する。

スライド3:目標

このモジュールの目標は、4 つである。

スライド4:講義内容一覧<Ⅰ.クリティカルケア領域における症状マネジメ

ントの考え方>

このモジュールでは、はじめに、クリティカルケア領域におけるエンド・オ

ブ・ライフの患者の特徴、症状の特徴を説明する。そして、身体面および精

神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

Page 2: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 2

メントにおける看護師の役割について講義を進めていく。

スライド5:エンド・オブ・ライフでよくみられる症状

入院中(クリティカルケア領域以外の患者も含む)の悪性腫瘍患者 183 人と

非悪性腫瘍患者(うっ血性心不全、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎不全など)656

人の死亡前の2週間における身体症状を調査した研究では、非悪性腫瘍患者

では、疼痛よりも呼吸困難、浮腫の症状が多く認められた(Lau et al.,2010)

悪性腫瘍患者では、疼痛が最も主要な症状だが、非悪性腫瘍患者では、呼吸

困難や浮腫等が主要な症状になる。

クリティカルケア領域では、これらの症状以外にも、脳神経外科領域の疾患

や CPA(Cardiopulmonary arrest)蘇生後・低酸素脳症の患者において痙攣

が見られることがある。

スライド6:重症度の高い ICU 患者のエンド・オブ・ライフでみられる症状

ICU に入院し、死のリスクの高い(APACHEⅡスコア 20 点以上)患者(がん患

者含む)171 人を対象とした研究では、倦怠感、口渇、不安などの様々な症

状を体験していることが明らかになっている(KA Puntillo et al,2010)

この研究では、すべての対象者が死亡したわけではない。しかし、この研究

から、クリティカルケア領域で、重症度の高い患者では、呼吸困難に加えて、

倦怠感や口渇、不安が主要な症状となることが理解できる。

意識がない患者に対しても、倦怠感や口渇、不安についても症状を経験して

いることを念頭におく。

スライド7:このモジュールで取り上げる症状

死に行く患者が抱える症状、およびクリティカルケア領域で死の分岐点にあ

る患者が抱える症状についての調査を参考に、このモジュールでは、疼痛を

除く身体面、精神面の 8 症状を取り上げ、それぞれの症状に対する症状マネ

ジメントについて説明していく

症状については、受講生の働く施設や病棟の特徴にあわせて順番の変更や削

除を行う。

脳神経外科領域の疾患や CPA 蘇生後・低酸素脳症でよく見られる痙攣や、消

化器症状(悪心・嘔吐)は補足スライドに掲載している。必要に応じて追加

して講義を行う。

スライド8:クリティカルケア領域におけるエンド・オブ・ライフの患者の特

Page 3: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 3

クリティカルケアにおけるエンド・オブ・ライフの患者は症状や苦痛を伝え

られないことも多い(立野,2014)

例)人工呼吸管理、意識レベル低下、持続鎮静、人工気道

症状に伴う苦痛は交感神経を活性化し、循環系の負担になりうる(池

松,2008a)ので、症状緩和によって、循環動態が安定する場合もある。

症状緩和のための「鎮静により交感神経活動が減弱して血圧低下を起こす

危険性がある(日本呼吸療法医学会 人工呼吸中の鎮静ガイドライン作成委

員会「人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン」

http://square.umin.ac.jp/jrcm/contents/guide/page03.html.

(2015.1.3))」。これより、症状緩和によって呼吸・循環動態の悪化が

起こる可能性も念頭において症状緩和に努める必要がある。

スライド9:症状マネジメントで大切なこと

クリティカルケア領域におけるエンド・オブ・ライフにある患者の多くは

自らの症状やそれに伴う苦痛を伝えることができない。そのため、医療者

は、患者の表情やバイタルサインなど客観的な情報からその変化をとらえ

て介入する(立野他,2014)

自分自身で症状を訴えることが出来る場合は、患者が自分の病状をどこま

で理解しているかを把握しつつ、病状や病期を考慮して、症状マネジメン

トの目標を患者と共有する(内布,2010)

クリティカルケア領域におけるエンド・オブ・ライフにある患者の症状の

アセスメントとマネジメントは、医療者にとって最も優先度の高い課題で

ある。薬物治療、非薬物療法を適切に用いて、患者の症状を緩和する

(Nelson et al.,2001; J McAdam et al,2010)

終末期との判断は困難であり、また終末期医療に対する考え方は各個人によ

り大きく異なる可能性があるため、多職種協同によるアプローチが必要であ

る(安井、2013)

患者の安楽は、継続的アセスメントや症状に関する情報や根拠を用いて薬

物療法や非薬物療法を思慮深く実践する(K Puntillo et al.,2010a)

スライド10:各症状についての展開

各症状の展開は以下の5つの枠組みですすめていく。

症状の定義・患者に与える影響

症状の原因

症状のアセスメントの視点

症状に対する主な治療

症状に対するケア

Page 4: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 4

スライド11:講義内容一覧<Ⅱ.身体面の症状>

スライド12:このモジュールで取り上げる症状<呼吸困難>

「呼吸困難」の症状マネジメントについて説明していく

スライド13:呼吸困難とは

<呼吸困難の定義>

呼吸困難とは、呼吸時の不快な感覚(鼻翼の動き、口があいたままの努力呼

吸)という主観的な症状である(中島,2013)

一方、呼吸不全とは、肺で酸素と二酸化炭素の十分なガス交換が不能となっ

た状態をさす(看護大事典)。酸素分圧≦60Torr という客観的な病態である

呼吸困難は呼吸不全と必ずしも一致せず、血液ガスや重症度とも相関しない

(中島,2013)

<患者に与える影響>

呼吸困難は、死にゆく ICU 患者にとって緩和されなければならない最大の症

状である(Truog RD et al,2001)

呼吸困難の重症度とQOLスコアは相関し、また呼吸困難は不安・抑うつな

どの精神症状と関連する(田中,2013)

呼吸困難は上記のとおり、患者にとって身体的、精神的に重大な苦痛をもた

らす症状の一つであるため、十分にアセスメントし、症状を緩和することが

重要である。

スライド14:呼吸困難の原因

呼吸困難の原因として、大きく呼吸器、循環器、神経筋系、心因性がある

(Campbell MT,2004)

呼吸器系

喘息、ARDS(急性呼吸促迫症候群)、気管支障害、COPD(気管支炎、肺気

腫)、嚢胞性線維症、小児呼吸窮迫症候群、間質性肺病変、肺癌、胸膜滲

出、肺炎、気胸、肺塞栓症、放射線肺臓炎、患者/呼吸器の非同調 など

循環器系

貧血、先天性心奇形、体液過負荷、心不全、上大静脈症候群 など

神経筋系

筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィー、多発性硬化症、重症筋無力症、呼

吸筋力低下(デコンディショニング)など

心因性

不安、恐怖、抑うつ など

Page 5: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 5

スライド15:呼吸困難のアセスメントの視点

呼吸困難のアセスメントの視点として、患者が自らの症状や苦痛を述べる主

観的レポート、述べられない患者に対する客観的サインの観察/フィジカル

アセスメント、診断検査がある

主観的な指標

・NRS、VAS、フェイススケール

【補助教材1参照】

・患者の自覚する息苦しさがあるか,あるとすればその程度はどれほどか

(助川他,2007)

・呼吸不全を伴うものか(助川他,2007)

・発症、関連症状、促進・緩和因子(S Arai et al,2010)

・息切れによって患者が実施したい動作ができなくなっていないか。たとえ

ば自分で膝をたてたいや、家族に手をさしのべたい、からだの向きをかえ

たい、これらもできないなどといったことができない。

客観的な指標

<フィジカルイグザミネーション>

・患者が話せず、認知に障害がある場合には、医療者は患者の行動や客観的

指標から呼吸困難をアセスメントする(S Arai et al, 2010)

・人工呼吸器装着患者の呼吸困難の行動的関連物は、呼吸速迫、頻脈、苦痛

様表情、呼吸補助筋の使用、奇異呼吸、鼻翼呼吸を含む(Campbell

ML,2007)

・速く苦しい呼吸は不快を意味し、その不快が呼吸困難によるのか、あるい

は他の生理的・心理的不快によるのかを見定めるために、さらに評価を行

う必要がある(KK Kuebler,2004)

<患者データの緻密なモニタリング>

・低酸素血症に対しては、人工呼吸による酸素投与、換気サポート、緻密な

モニタリングが必要となる(Campbell MT,2004)

<診断検査>

運動負荷試験・エルゴメーター、肺機能検査、胸部 X 線、超音波、換気血

流シンチグラフィ、血液検査、経皮的酸素飽和度(SpO2)(KK

Kuebler,2004)

スライド16:呼吸困難に対する主な治療

呼吸困難に対する治療に関しては、原因治療、非薬物治療、薬物療法がある

<原因治療>

・呼吸不全、心不全などの臓器不全に対しては、適正な内科的管理が緩和ケ

アに直結する(平原他,2011)

・抗がん治療(KK Kuebler,2004)

Page 6: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 6

<薬物治療>

・モルヒネを中心としたオピオイド、抗不安薬(ベンゾジアゼピン)を中心

とした抗精神薬、ステロイド(COPD)、気管支拡張薬(気道閉塞)、抗コ

リン薬

<非薬物療法>

処置・治療

・穿刺排液:呼吸の妨げになっているような重度の心嚢液、胸水・腹水の

貯留

・放射線治療:喀血

・抗凝固療法:肺塞栓(中島,2013)

酸素療法(進行がん、進行 COPD/CHF)、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)(竹

川,2011)、挿管下人工呼吸療法、プレッシャーサポートモード(pressure

suppert ventilation;PSV)

・低酸素血症に対しては、人工呼吸による酸素投与、換気サポート、

緻密なモニタリングが必要となる(Campbell MT,2004)

スライド17:呼吸困難に対するケア

安楽な姿勢(ポジショニング)

・座位やファーラー位では、横隔膜が下降しやすく呼吸を行いやすい

・枕などを利用して側臥位となったり、オーバーテーブルの上に枕をおいて

もたれかかったり、本人が好きで楽な体位をとれるよう工夫する

・体位の安定は、同一体位の疲労を予防し、リラクセーションにつなげるこ

とができる

(中島,2013;田中,2005a;KK Kuebler,2004;高田,2014)

呼吸法・呼吸介助法

・腹式呼吸は吸気で腹部が膨らみ呼気で縮む呼吸である。頚部や肩などの補

助呼吸筋を収縮させ肋骨を膨らませる胸式呼吸は換気面の効率が悪く呼吸

困難の感覚を悪化させてしまう。

・口すぼめ呼吸は、口をすぼめて息を吐き、鼻から吸う呼吸法である。呼気

と吸気の比は1対3~5程度で、10 回/分程度を目標とする

・口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの呼吸法を患者自身が習得することで自己コ

ントロール感を得ることがパニックを予防する可能性がある

・呼気時に胸郭を恥骨結合の方向へ軽く圧迫し、吸気時に手を離し、胸郭の

弾性で吸気をしやすくする呼吸介助も効果的である。息を吐くよう呼気を

促し落ち着かせるようにする

(中島,2013;田中,2005a;KK Kuebler,2004;高田,2014)

排痰を促すケア

・含漱や水に浸したスワブなどを用いて、口腔内を十分に保湿する。

Page 7: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 7

・体位ドレナージを活用する。

・深呼吸を数回行った後に咳そうを促す。

・自分で排痰が困難な場合や、気管挿管中は気管吸引を実施する。

【スライド 16 参照】

傍にいて声をかけたりタッチングを行う

・呼吸困難の訴えの裏にある患者のメッセージを読み取る

・マッサージをしたり手を握ったりして、そばにいることで安心感を与え

る。長い会話は患者の負担になることもあるので患者のペースに合わせる

・傍にいて声をかける、一人にしないなど安心を感じてもらうケアが重要で

ある

(中島,2013;田中,2005a)

酸素消費量を抑えるための工夫

・手の届く範囲に必要物品を配置する、ポータブルトイレの位置を工夫す

る、移動手段を考慮するなど生活動作の工夫を行うなど

・保清は、シャワー時にシャワーチェアを使用したり、タオルを乾燥した手

でもつ代わりにタオル地のバスローブの使用を検討するなどの工夫で、エ

ネルギーの消費を抑えることができる

・締め付けない寝衣や軽い寝具を使うこともよい

(中島,2013;高田,2014)

イメージ法などのリラクセーション

・静かな落ち着いた環境を作り、ベルト・腕時計・眼鏡などを外してもらっ

てリラックスできるようにする

・落ち着いた声でゆっくりと腹式呼吸を指導する

・イメージ法では、心地よい情景や心地よい感覚(両手がぽかぽか温かい、

額に涼しい風があたってすがすがしいなど)をイメージすることを促し、

その感覚に意識を向けていく

(田中,2005a)

室温・風向設定

・窓を開けて風を入れる、うちわや扇風機などで風を送るなど空気の流れを

顔に感じられるようにする

・顔に冷風や空気を送ることによってもたらされた快適さは三叉神経の第

2・第3枝領域の刺激によりもたらされると考えられており、呼吸困難の

緩和に取り入れることができる

・室温は低めの方が好まれる。温度差、湿度差を避けるようにする

(中島,2013;田中,2005a;KK Kuebler,2004;高田,2014)

スライド18 :気管吸引について

Page 8: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 8

呼吸困難の原因が痰の貯留によるものと判断された場合、気管吸引が行わ

るが、愛護的に実施するための注意点が以下の様にいくつか挙げられる。

体位

侵襲性の少ない排痰法である体位ドレナージを効果的に利用し、痰を吸引

しやすい環境を整える。

タイミング

1~2 時問毎というように時間を決めてルーチンに行うべきではなく、必要

と判断された状況においてのみ気管吸引を行うことが推奨されている。

【必要と判断される場合】

i)努力性呼吸が強くなっている(呼吸仕事量増加所見:呼吸数増加、浅速

呼吸、陥没呼吸、補助筋 活動の増加、呼気延長など)。

ii)視覚的に確認できる(チューブ内に分泌物が見える)。

iii)胸部聴診で気管から左右主気管支にかけて分泌物の存在を示唆する副

雑音(低音性連続性ラ音:rhonchi)が聴取される。または、呼吸音の

減弱が認められる。

iv)気道分泌物により咳漱が誘発されている場合であり、咳漱に伴って気

道分泌物の存在を疑わせる音が聴こえる (湿性咳噺)。

v)胸部を触診しガスの移動に伴った振動が感じられる。

vi)誤嚥した場合。

vii)ガス交換障害がある。

動脈血ガス分析や経皮酸素飽和度モニタで低酸素血症を認める。

viii)人工呼吸器使用時:

a)量設定モード使用の場合:気道内圧の上昇を認める。

b)圧設定モード使用の場合=換気量の低下を認める。

c)フローボリュームカーブで、特徴的な“のこぎり歯状の波

形”を認める。

吸引圧

推奨される吸引圧は最大で 20kPa(150mmHg)であり、これを超えないよ

うに設定する。

時間

気管吸引全体の工程で 15 秒以内とすることが推奨され、陰圧吸引時間は

最大 10 秒が良いとされている。

深さ

気管分岐部に当たらない位置までとし、深く挿入してはならない。

Page 9: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 9

カテーテルの太さ

カテーテル外径が挿管チューブ内径の 1/2 以下が推奨されており、不必

要に太いものを選んではならない。

【参考文献】

1. 中根 正, 森永 俊, 鵜澤 吉, et al. 気管吸引ガイドライン 2013(成

人で人工気道を有する患者のための). 人工呼吸. 2013;30(1):75-91.

2. American Association for Respiratory Care. AARC Clinical

Practice Guidelines. Endotracheal suctioning of mechanically

ventilated patients with artificial airways 2010. Respir Care.

2010;55(6):758-764.

スライド19:このモジュールで取り上げる症状<全身倦怠感>

「全身倦怠感」の症状マネジメントについて説明していく

スライド20:全身倦怠感とは

全身倦怠感とは、「疲労、衰弱、活力喪失の主観的感覚」を指す。

(European Association for Palliative Care,2008)

全身倦怠感は、背景となる疾患ががんであっても、非がんであっても、患

者の QOL に大きな影響を及ぼす。

痛みや呼吸困難などの陽性症状と比較して見過ごされやすく、活動を控え

るようにとのアドバイスが唯一の方策として患者に与えられる場合が多

い。

(佐藤,2013)

スライド21:全身倦怠感の原因

全身倦怠感のメカニズムは、いまだ十分明らかにされていないが、多くの

因子が複雑に絡みあって生じる症状である。

その原因によって、一次性倦怠感と二次性倦怠感に分けることができる。

一次性倦怠感

Page 10: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 10

がんのような疾患そのものに起因する倦怠感で、末梢組織でのエネルギー

の減少・枯渇、中枢神経でのセロトニン代謝の変化、視床下部-下垂体-副

腎系の調整異常、サイトカインの増加が関連している。

二次性倦怠感

疾患に付随する病態や治療によってもたらされる倦怠感で、貧血、感染、

悪液質、代謝障害、内分泌異常、脱水・電解質異常、臓器不全、薬剤、精

神的苦痛が関与する。

【参考文献】

佐藤哲観(2013)症状緩和をして終末期を支えるには 全身倦怠感・食欲不振.内科.

112(6):1195-1200.

スライド22:全身倦怠感のアセスメントの視点

全身倦怠感の原因は一次性倦怠感と二次性倦怠感がある。

【スライド 21 参照】

全身倦怠感の原因からもたらせる症状

全身倦怠感は疾患による他の症状に付随している場合も少なくないため、

疼痛、呼吸困難、不眠、嘔気・嘔吐、下痢などの有無を確認し、全身倦怠

感との関連性について患者に尋ねる。

症状の経過と程度

全身倦怠感は主観的な症状であるとともに、患者が積極的に訴えない症状

のひとつである。折に触れて患者や家族に尋ねることが大切である。

症状を尋ねるときは、発症時期、どのように感じ始めたか、経時的変化、

緩和因子、増悪因子、日常生活への支障の有無、全身倦怠感の程度などを

系統的に尋ねる。

全身倦怠感の程度については、NRS(numerical rating scale)や

VAS(visual analog scale)を用いて評価するとよい。

【補助教材 2 参照】

【参考文献】

Page 11: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 11

佐藤哲観(2013)症状緩和をして終末期を支えるには 全身倦怠感・食欲不振.内科.

112(6):1195-1200.

スライド23:全身倦怠感に対する主な治療

まずは患者の全身状態を把握し、原因を特定することが必要である。

二次性倦怠感の場合は、可能な範囲で原因に対する治療を行う。

ただし、たとえ原因がわかったとしても治療することが困難な場合もあ

る。

<原因の治療>

貧血、脱水、電解質・血糖補正

貧血が原因と考えられるめまい、失神、動悸、呼吸困難、全身倦怠感が

みられる場合には、輸血を行う

輸液をすることによって全身倦怠感が改善することがあるが、高カロリ

ー輸液は、全身倦怠感の緩和という点においては無効なことがある。

高カルシウム血症は、がん患者の 10%程度に出現するといわれてお

り、骨転移をする可能性の高い疾患に多い。輸液とビスホスネート製剤

の点滴、副腎皮質ステロイド薬の投与を行う。

【補足スライド 68 参照】

感染症のコントロール

スタンダードプリコーションの徹底、VAP バンドルの実施、カテーテ

ル類の管理、抗菌薬の適正な使用と効果判定が重要である。

熱型、症状、ドレーンやカテーテルからの排液の性状を経時的にモニタ

リングし、血液検査結果、X 線、CT 等の検査結果と合わせて、異常の

早期発見・対処に努める。

不安、抑うつ、不眠への対応

抑うつが全身倦怠感の原因と考えられるときには、精神科医などの専門

Page 12: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 12

家と相談して抗うつ薬、抗不安薬の使用を検討する

原因となる薬物の検索

睡眠薬や鎮静剤など行われている治療そのものが全身倦怠感の原因とな

ることがある。必要時、薬物の中止や変更を検討する。

<薬物療法>

副腎皮質ステロイド

副腎皮質ステロイドの倦怠感への効果は、サイトカインの産生抑制や中

枢神経への作用などが機序として考えられているが、不明な点も多い

重症患者では、少量の使用でも、消化性潰瘍、高血糖、高 Na 血症、重

症感染に注意が必要である(Sprung,2008)

長期間使用するとミオパチーやサイコーシスによって倦怠感を助長して

しまう場合があるので注意必要である。

【補足スライド 69 参照】

スライド24:全身倦怠感に対するケア

エネルギーの温存

活動と休息のバランスをとる

患者がやりたいと考えていることに優先順位をつけてもらい、患者とと

もに現実性を考えて最適な行動パターンを探る

具体的には、生活上必要なものを手の届く範囲にそろえる、一日の中で

少しずつ何回も休息をとるなどの方法がある

安楽なポジショニング

患者は苦痛な症状があるとその症状を回避できるような楽な体位を探

し、好んでその体位を取ろうとする。エンド・オブ・ライフにある患者

は自分自身で体位を工夫することが困難になってくるため、患者と相談

し、表情を見たりしながら、良肢位を見つけることが看護師の重要な役

割となる。

Page 13: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 13

睡眠の確保

ICU では、昼夜の区別がつきにくい照明や、モニター、警報・作動音

による無意味な視覚・聴覚への刺激があることが多い。

患者の睡眠を評価し、照明やアラーム音量の調整、処置の時間の調整、

薬剤の考慮を行う。

快の感覚を高めるケアの提供

患者の病状に合わせて誰とどのように行うことがよいのかを考慮する。

例えば、身体的な苦痛が強い場合には、数人の看護師で一斉に短時間で

ケアを行った方が良い場合もありうるし、上半身と下半身を別々に、時

間を分割して行った方が良い場合もありうる。

清潔ケアは、身体を清潔にする大切なケアであり、循環を促進させ、安

らぎやリラックス感を与える効果が期待できる。

(Kamder BB et al,2013;尾崎 2011)

スライド25:このモジュールで取り上げる症状<浮腫>

「浮腫」の症状マネジメントについて説明していく

スライド26:浮腫とは

<定義>

組織間隙に過剰な水分が貯留した状態

(大橋, 2003)

<患者に与える影響>

浮腫は日常生活動作だけでなく心理社会的な面で患者およびその家族に負

の影響を及ぼす。

(蘆野, 2013)

Page 14: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 14

スライド27:浮腫の原因

浮腫の原因は、全身性の浮腫と局所性の浮腫に分けて考えるとわかりやす

全身性浮腫

栄養障害(低蛋白)は終末期にごく普通に認められる病態であり、浮腫

の悪化要因である。栄養摂取量の低下、臓器障害による蛋白合成能の低

下、臥床による筋蛋白の崩壊などによる蛋白合成の低下、腎障害などに

よる蛋白漏出が原因となる。終末期では改善困難な場合が多い

過剰輸液

肝不全、腎不全、心不全

非がん疾患における浮腫は、臓器不全が原因となり、それに低蛋白血症

が増悪因子となり、著明な浮腫となることも多い

貧血

薬剤

解熱鎮痛薬やペニシリン、降圧薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)

などが原因となることがある

甲状腺機能低下症

認知症として扱われている患者に浮腫が認められた場合には、甲状腺機

能低下症による粘液浮腫を疑い、甲状腺機能を測定する

局所性浮腫

リンパの遮断/破綻

過去の癌の治療(手術・放射線治療)や感染によってリンパ経路の障害

が起こると局所の浮腫が生じる。進行したがん疾患の局所性浮腫の多く

は、リンパ経路の障害が原因である。

静脈閉塞

深部静脈血栓症や上大静脈閉塞、下大静脈閉塞が原因となることもあ

る。特に中心静脈カテーテルを留置中の患者では、上下肢の左右差を継

Page 15: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 15

続して観察する必要がある。また、がん疾患では、腫瘍による大静脈の

圧迫が原因となることもある。

リンパ静脈性浮腫

上下肢から静脈やリンパ液が還流するには、骨格筋の動きが必要不可欠

であり、活動の低下や神経障害による局所的な脱力によって骨格筋の動

きがなくなると、静脈還流が悪くなり、リンパ管の機能不全を起こし、

リンパ静脈性浮腫を起こす。

スライド28:浮腫のアセスメントの視点

浮腫の部位

眼瞼、顔面、上肢、下肢、足背、胸部、腹部、背部、殿部、陰部

浮腫の程度

同一部位で計測する。

皮膚の状態(乾燥、硬さ、張り、しわ感、発赤の有無、熱感など)

圧痕が残るか、指の皮膚はつまめるか (Stemmer’s sign)

【 補足スライド 70 参照 】

浮腫の原因・誘因

浮腫の原因や誘因となっているものを把握する。

【 スライド 27 参照 】

検査データ

血液検査 (血清タンパク、血清アルブミン、電解質、BUN、クリアチニ

ンなど)、尿検査、胸部・腹部 X 線検査、心電図 など

随伴症状の有無と程度

体重増加、尿量の減少、全身倦怠感、血圧の上昇、感染、心不全 など

日常生活動作への影響

食事、排泄、着替え、移動動作などへの影響を把握する。

Page 16: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 16

衣類、下着や履物による締めつけの有無と程度

衣類や下着、履物の締めつけにより浮腫を助長させていることがある。身

体をよく観察してみることが必要である。

浮腫に対する患者・家族の思い

エンド・オブ・ライフにある患者は、手足がむくんでいることを病気の

悪化を知らせるサイン、反対に手足のむくみが良くなってきたことを病

気の改善を知らせるサインと捉えることがよくある。そのため、患者・

家族が手足のむくみをどのように捉えているかを評価する。

(諏訪, 2010)を一部改変

スライド29:浮腫に対する主な治療

<原因の治療>

全身性の浮腫か局所性の浮腫か、両者が複合したものか判断し、対処が可

能な場合には、それらの原因への対応が重要である。しかし、実際には、

エンド・オブ・ライフの浮腫を改善させることは難しく、悪化を防いだり

進行を遅らせたりする対処を考える。

全身性浮腫:低タンパク血症、心疾患、腎疾患、薬剤性 など

局所性浮腫:静脈血栓、蜂窩織炎、リンパ浮腫 など

<薬物療法>

水分出納の調節、利尿剤の投与

腎機能や予後を考慮して、輸液量の減量を検討することもある。

生命予後が 1 ヵ月程度と予測される患者に対して、1000ml/日以上の輸

液は浮腫を悪化させる可能性がある。

(日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2013)

血漿タンパクの補充 (アルブミンの投与)

低栄養状態に対してアルブミンを投与すると、一時的には血清タンパク

やアルブミンの改善に有効である。しかし、エンド・オブ・ライフにあ

る患者の状態では、もともとの病態が存在しているため、改善にはつな

がらないことがある。そのため、適応について十分に考慮する必要があ

Page 17: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 17

急性感染症炎症(蜂窩織炎など) による場合は、抗菌薬や消炎剤を投与する

【エンド・オブ・ライフにある患者の栄養および輸液については

M8 参照】

スライド30:浮腫に対する主なケア

体位の工夫

枕やクッションなどの寝具を工夫する

むくんだ四肢は、枕やクッションを使用しできるだけ挙上しておくと、静

脈圧の上昇が緩和し、静脈とリンパ系への還流が促進され浮腫が軽減す

る。また四肢を挙上することにより重力で体液が移動することになり、間

質液の静脈やリンパ管への還流を増加させる。

スキンケア

浮腫のある患者では、皮膚の清潔、保湿、感染を起こさないことが目標と

なる。保湿性のあるクリームや軟膏を塗布し、むくんだ皮膚が乾燥してひ

び割れを起こして感染が起こらないように努める。

弾性ストッキング、弾力包帯の着用の検討

圧迫が身体の負担になることもあるため、注意が必要。

エンド・オブ・ライフに出現する浮腫は、全身性浮腫にリンパ浮腫が合わ

さっている場合が多い。つまり、心不全や肝臓、腎臓の障害を伴っている

場合があるため、マッサージを行ったり、圧迫を行うことが逆に身体に負

担になったりすることがあるので注意が必要である。

着用することで、血液循環を悪化させたり強い痛みを感じたりする場合は

使用しない。

リンパ性浮腫の場合、着用により患肢の皮下組織の水分貯留を制限する。

【参考文献】

諏訪直子(2010). 浮腫. がんの症状緩和ベストナーシング.(p.95-98). 東京:

学 メディカル秀潤社.

精神面のケア

Page 18: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 18

患者および家族の思いを傾聴し、支持する

浮腫による外見の変化や歩行困難などの ADL の制限は、患者にとって

精神的負担となり、QOL の低下につながる。

スキンケアはタッチングの効果もあるため、看護師だけでなく、家族に

も手伝ってもらうことで、患者の安心感や関係性の深まりにつながる。

(奥, 2008)

スライド31:このモジュールで取り上げる症状<口渇・口腔内乾燥>

スライド32:口渇・口腔内乾燥とは

<定義>

クリティカルケア領域の患者では、口渇を自ら訴えることが困難な場合も

ある。その場合は、口腔内の乾燥で症状を査定する必要があるため、この

モジュールでは、口渇・口腔内乾燥を取り扱う

口渇:水分を摂取したいという欲望。口渇がおこるのは、口腔または咽頭

の乾燥のみによるものでなく、全身組織の水分欠乏に起因する。(看護大

辞典第 6 版)

口腔内乾燥症:唾液の分泌が低下して口が乾いた状態。口が乾いていると

自覚する症状すべてをさす。 (日本口腔

外科学会)

<患者に与える影響>

口渇は、咀嚼困難、嚥下困難、話すことが困難なるなど、患者を不快にさ

せる。

(篠原,2012)

軽症では、ネバネバ感、ひりひりする、う蝕、歯垢の増加、口臭が強くな

るなどの症状がある。重度になると、強い口臭、舌表面のひび割れ、痛み

で摂食障害、会話しづらいなどの障害も現れます。場合によっては不眠を

きたすこともある。

(日本口腔外科学会)

Page 19: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 19

スライド33:口渇・口腔内乾燥の原因

口渇・口腔内乾燥の原因には、唾液の分泌減少、乾燥を助長、唾液分布異

常がある。

唾液の分泌減少では、唾液腺の機能は正常であるけれど、禁食によって、

静脈栄養や経管栄養を行っている場合や、歯痛、義歯の不適合にとって咀

嚼障害がある場合、下痢、嘔吐、発熱、高血糖などによって脱水になって

いる場合、利尿薬や降圧薬、抗うつ薬などの薬物の副作用によって、唾液

分泌が減少する場合がある。また、一方、頭頸部放射線治療後や、シェー

グレン症候群などの自己免疫疾患、炎症、腫瘍、加齢などによって、唾液

腺の機能そのものが低下している場合もある。

乾燥の助長では、口呼吸、開口状態、気管挿管、発熱、低湿度環境がある

と、唾液が蒸発しやすくなり、口渇、口腔内乾燥の原因となる。

唾液分布異常では、攪拌力低下、保水困難によって、唾液を口腔内にいき

わたらせることが難しくなり、口渇、口腔内乾燥がおこる場合もある。

糸状しじょう

乳頭にゅうとう

は舌背部の多数の細長い円錐状の突起で、長期の貧血症、ビタミ

ン B2欠乏症、シェーグレン症候群、老化によって萎縮し、平らな舌とな

り、赤く見える。これを平滑舌といい、口腔乾燥や嚥下困難を伴い、舌の

勺熱感や痛みなどを伴うことがある。

(長坂,2012)

スライド34:口渇・口腔内乾燥のアセスメントの視点

原因をアセスメントするための情報収集をおこなう。

口渇の程度や生活(特に、会話や摂食)への影響を確認する。

また、含漱や氷などの症状を緩和する因子がないかを確認する。

口腔内の観察では、以下の点について観察を行う。

口腔周囲の状態(潰瘍、口唇の裂創、乾燥)

舌の状態と動き(舌苔、乾燥、萎縮、汚染)

Page 20: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 20

歯肉の状態(頬、口蓋、口腔前庭、口底)

歯の状態(う歯、ぐらつき)

開口量、口臭、嚥下障害 (露木,2011)

口腔乾燥の指標として、口腔アセスメントガイド(Eilers Oral

Assessment Guide: OAG)や口腔乾燥の診断を用いて評価する方法もあり

ます。

【補足スライド 71,72 参照】

スライド35:口渇・口腔内乾燥に対する治療とケア

治療

原因治療:原因の治療が可能な場合は、原因の治療を行う。しかし、原

因が不明であったり、治療が困難な場合も多い。

ケア

セルフケアが可能な場合は、洗口をうながす。頻回に口をしめらせる。

口腔内の乾燥が顕著な場合は、エタノールが含まれていると乾燥を助長

することがあるので、エタノールフリーのものを使用する。

歯磨き粉も研磨剤が残ると乾燥の原因になるため、使用を避けるか、残

らないように除去する。

レモン水は患者の希望があれば使用も考慮するとよいが、pH が低く、

クリティカルケア領域の患者では、疼痛の原因になる場合もあるため、

使用を控える。(適切性を十分にアセスメントする)

セルフケアが困難な場合は、清拭を行う。水で湿らせたガーゼや水のス

プレー、凍らせたスワブなどを用いると効果的である。

人工唾液や保湿剤を使用することで、口腔内乾燥や口渇を軽減できる。

酸素療法中は、十分に加湿できるようにする。

(露木,2011;長坂,2012;K Puntillo,2014)

Page 21: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 21

スライド36:このモジュールで取り上げる症状<消化器症状(腹部膨満感)

スライド37:消化器症状(腹部膨満感)とは

<腹部膨満感の定義>

腹部膨満感とは、腹部膨隆によって生じる腹部の張りという感覚を指す

(岡村,2010)

<腹部膨満感の頻度と患者に与える影響>

臨床的によくみられる症状で、腹腔内諸臓器の炎症性疾患、腫瘍性疾患、

機能性疾患など多くの疾患が背後に潜んでいる(岡村 ,2010)

原因と程度によりお腹が重い、腰が痛い(重い)、悪心・嘔吐、腹痛、呼

吸困難、座れない、全身倦怠感などの症状につながる(西崎,2006)

スライド38:腹部膨満感の原因の分類

腹部膨満感の原因となる病態は、腹部を診察した際、まずは腹部腫瘤の有

無により分類される

腹部腫瘤を触知した場合には、慢性肝炎による肝臓肥大や白血病による脾

腫などの腹腔内臓器の腫大・膨満、便秘、宿便によるものがある。腫瘤を

触知しない場合には、腹水の有無を確認するために波動の有無を診る

腹部に波動がある場合には、心原性、肝性、腎性、炎症性、リンパ性、が

ん性などによる腹水の貯留を疑う。波動がない場合には、腸閉塞、鼓腸、

精神的要因、機能性消化管障害などを鑑別する必要がある。

鼓腸の場合には、腸管内ガスの生成亢進、吸収障害、通過・排出障害など

により腸管内ガスが増えることがある。また、精神的原因により腹部膨満

感を訴える場合があり、神経性腹部堅満症と呼ばれる。多くは発作的にお

こる腹壁筋の過緊張による下腹部の膨隆で、何らかの心理的あるいは情動

的因子が関与しており、身体化障害あるいは転換性障害の一種と考えられ

ている。機能性消化管障害は、過敏性腸症候群を含み、消化器症状が慢性

Page 22: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 22

再発性に持続するもので、通常の臨床検査で器質的疾患が検出されない障

害である。(今津,2011;高松,1998;岡村,2010)

スライド39:腹部膨満感のアセスメントの視点

<自覚症状の評価>

「重い」「腰痛(腰が重い)」「食欲不振」「悪心」「嘔吐」「腹痛」「呼

吸困難」「座れない」「不眠」「身の置き所がない」「イライラする」「全

身倦怠感」などさまざまな症状が混在し、また病態の進行に伴って、訴え

はつぎつぎと変わっていく。更に気分的にも症状は大きく左右されること

が多いため、1日のうちでも症状が変わりやすくさらに評価を難しくさせ

る。NRS,VAS、フェイススケールなどを使用してみるとよい。

<客観的評価>

腹部膨満の原因が腹水なのか、腸閉塞なのか、腫瘍の増大などによるもの

なのかは、最終的にはレントゲンや腹部超音波、CT など画像診断に頼る

ことになるが、ある程度の診断は聴診、打診、触診などで可能である。

(西崎,2006)

スライド40:腹部膨満感に対する主な治療

腹部膨満感の原因となる腹腔内臓器の腫大・膨満、腹水、腸閉塞、便秘お

よび宿便、精神的原因による腹部膨満感、機能性消化管障害などについて

は、それぞれの病態に対して治療・看護をする必要がある。

<原因病態の治療>

腹水の場合、高カロリー輸液や輸液が腹水を増強させていることがあるの

で高カロリー輸液や輸液を考慮したり、水分・塩分を制限したり、腹水の

穿刺、利尿剤(スピロノラクトン、フロセミド)を投与することがある。

また腹水の原因が低アルブミン血症である場合にはアルブミン製剤の投

与が考えられる。

腸閉塞の場合、イレウス管の挿入や、ステロイド薬の投与により腫瘍周囲

の腸管の浮腫を軽減できることもある。

<対症療法>

Page 23: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 23

腹部膨満による苦痛は内臓痛、体性痛と関連する。そのため、モルヒネや

NSAIDs など鎮痛剤を使用することが第一選択となる。モルヒネは呼吸困

難にも効果がある。

腹部の張り感に対しては、リドカイン(キシロカイン®)(24 時間持続投

与)やケタミン(ケタミン®)が、効果があると言われている。

腸閉塞でイレウス管を使用しない場合や完全閉塞が改善しない場合には、

消化液の分泌抑制作用のあるオクトレオチド(サンドスタチン®)やブチ

ルスコポラミン(ブスコパン®)を使用する。

悪心には制吐剤を使用する。

(吉田,2005;今津,2011;西﨑,2006;伊藤他,2008)

スライド41:腹部膨満感に対するケア

安楽な体位の工夫

腹部膨隆により腹部圧迫や、腹水貯留により横隔膜が圧迫・挙上されて

呼吸困難が生じる。ファーラー位にして下肢を屈曲さする、ベッドのギ

ャッジアップやクッションを利用して、患者にとって最も安楽な体位を

工夫することが大切である。

訴えの傾聴と外観・容姿の変化への配慮

患者は、腹部膨満や腹水貯留により病気や予後に対する不安が増強し、

外観や容姿の変化による不安、イライラ感なども生じてくる。まずは患

者の訴えを傾聴して思いを受け止め、支持的関わりをしていくことが大

切である。外観・容姿の変化にも配慮する。また、家族の患者の変化に

不安を抱えているため配慮が必要である。

排便コントロール

腹部膨隆により消化管が圧迫され、腸蠕動が低下し便通異常が起こる。

また、便秘は腹部膨満感を増強させる。排便状況を確認し、排便コント

ロールを図ることが大事である。腹部膨満感が強いときはマッサージで

かえって苦痛を感じる場合があるため、注意する。

Page 24: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 24

症状によっては排泄行為が身体の消耗を来す場合もあるため、ポータブ

ル便器の使用、車いすでのトイレ移動や、膀胱カテーテル留置など排泄

への配慮を検討する必要性もある。

皮膚・粘膜のケア

体動が少なくなり、同一体位をとることが多くなる。また栄養状態が悪

く、体幹の体重が増加し、皮膚が脆弱化している場合があるため、臀

部、腰部などの褥瘡形成に注意する。エアマット、低反発マットへの変

更や圧迫部位の皮膚保護に努める。また、腹部膨隆により腹壁は伸展し

傷つきやすく、栄養状態の低下から感染をおこしやすいため、皮膚や粘

膜の保清、保護に努める。

転倒の防止

腹部膨隆により体動が困難になるだけでなく、足元が見えにくく、重心

も高くなるためバランスを崩しやすくなる。障害物のない場所をゆっく

り移動するなど転倒に注意する。

衣服を緩やかにする

圧迫感を軽減するために、ゆったりとした寝衣を選んだり、軽い掛け布

団にするなどの配慮が必要である。患者にとって身体的苦痛のないよ

う、家族に説明して協力を依頼する。

食事の工夫

腹部膨満から消化管運動が低下し、食欲不振、悪心・嘔吐が見られやす

くなる。さらにナトリウム低下と脱水で倦怠感も強く、食事摂取量は低

下する。また、一度に多量に摂取すると腹部膨満感が増強することが多

い。そのため、患者の食べやすいものを、好きな時に、少量ずつ摂取す

ることができるよう援助する。

温度調整

腹水や浮腫のため、以前より気温を暑く感じることがある。室温調整や

局所的な保温、送風などの工夫を行う。

(西﨑,2006;伊藤他,2008;吉田,2005)

スライド42:このスライドで取り上げる症状<睡眠障害>

Page 25: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 25

スライド43:睡眠障害とは

臨床上問題となる不眠は十分に眠れない、熟眠できないという睡眠に対する

患者の主観的な評価と考える(明智、2013)

<定義>

睡眠時間、その効用及び質に対する不満足感を反映した多様な訴え (明智、

2013)入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒・過剰睡眠などがある。

<頻度>

がんを始めとする身体疾患患者の 20~30% (Akechi T et al,2007)

死のリスクがある ICU 患者の 42~68% (Nelson J et al,2001)

ICUなどクリティカルな場にいる重症患者の多くは睡眠障害を呈する。

(Parthasarathy et al,2004)

<患者に与える影響>

免疫機能の低下

抑うつ、不安、せん妄

集中困難、疲労、疼痛耐性低下

循環器・呼吸器系障害

QOL 低下、死亡率の増加 (Milagros I et al,2009)

結果的に日中の機能障害につながり、患者の QOL を低下させてしまう。(明

智,2013)

スライド44:睡眠障害の原因

環境要因

入院環境(音、光、温度) ICU 環境(人工呼吸、昼夜を問わない処置、

ケア)

Page 26: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 26

「音」は患者の睡眠を中断させる。アラーム、吸引、モニター、スタッ

フの足音や話し声は不快な音であり、持続することで交感神経が優位に

働き覚醒してしまう。

「光」サーカディアンリズムを調整するメラトニンは夜間に光を浴びる

ことで分泌が抑制され、睡眠・覚醒サイクルに影響を及ぼす。

「ICU 環境」音や光に加えて患者は 24 時間を通して様々な処置やケア

にさらされている。これらによって身体が刺激され覚醒させられてしま

う。

身体的要因

重症病態、敗血症、低酸素、疼痛、呼吸困難など

重症病態にあることで内因性カテコラミンの分泌が増加し、睡眠・覚醒

サイクルに影響を及ぼす。また、低酸素や疼痛、呼吸困難が断眠に関係

しているとも言われている

薬剤性要因

麻薬製剤、鎮痛薬、抗コリン薬、抗痙攣薬、心血管作動薬(βブロッカ

ー、クロニジン塩酸塩:降圧薬、ジキタリス、メチルドパ:降圧薬)、

ステロイド、抗うつ薬など

これらの薬剤は合計睡眠時間、入眠に入るまでの時間の低下、熟眠感な

どに影響を及ぼしている可能性がある

精神心理的要因

抑うつ、不安、せん妄、ストレス、死の恐怖など

(明智,2013;Xavier D et al,200;Milagros I et al,2009)

スライド45:睡眠障害のアセスメントの視点

睡眠障害の原因、背景を評価する。前のスライドで述べたような原因がない

か考える

睡眠障害のタイプ

入眠困難(寝付きが悪い)、中途覚醒(夜中に目が覚める)、早朝覚醒(早

Page 27: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 27

くに目が覚める)、熟眠障害 、

合計睡眠時間

不眠に随伴する症状の有無

(日中の眠気、倦怠感、疲労感、イライラ感、疼痛耐性の低下、せん妄)

QOL 低下の有無

日中の活動性が落ち、ADL の低下やコミュニケーションが取れないとい

うことが生じていないか。

例:大切な人が面会に来たときに起きていられない

患者のやりたいことが出来ない

心身の変化

性格の変化(怒りっぽくなる、イライラしている、表情がなくなるなど)

日中に続く頭重感

せん妄や抑うつ症状の存在

疼痛耐性の低下

認知機能の障害

以上の点をトータルに見て、睡眠障害により患者に及ぼしている影響を明ら

かとし、介入を考えていく

【参考文献】

津田真,北林幸子(2010)睡眠障害.田村恵子編.がんの症状緩和ベストナー

シング.(179-181)学研メディカル秀潤社

明智龍男(2013)症状緩和をして終末期を支えるには 不眠・せん妄.内科

112(6).1218-1221

Gabor JY et al.(2003)Contribution of the intensive care unit emvironment

to sleep disruption in mechanically ventilated patients and healthy

subjects.Am J Respir Crit Care Med 167:708-715

Page 28: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 28

スライド46:睡眠障害の治療

原因を除去する(原因スライド参照)

原因が明確でないもの、あるいは原因が除去できない不眠には非薬物的アプ

ローチに加え、睡眠薬の適切な投与が有効である。

GABA 受容体作動薬:深い睡眠は減少、REM 睡眠への影響は低い

プロポフォール

α受容体作動薬:せん妄予防効果

デクスメデトミジン塩酸塩

ベンゾジアゼピン系睡眠薬:睡眠障害の種類によって使用

注射薬の種類 ミダゾラム

内服薬剤の種類 (補足スライド 73:睡眠薬一覧を参照する)

超短時間作用型(ゾルピデム:マイスリー®、

ゾピクロン:アモバン®)

短時間作用型(ブロチゾラム:レンドルミン®、

ロルメタゼパム:エバミール®)

中途覚醒、早朝覚醒の目立つ患者には中間作用型

(フルニトラゼパム:ロヒプノール®、

エスタゾラム:ユーロジン®)

メラトニン受容体アゴニスト :メラトニン受容体に作用し、体内時計を

調節することで自然な眠りとなる。即効性はなく徐々に効果が表れる

(ラメルテオン:ロゼレム®)

薬剤使用時の注意点

GABA 受容体作動薬、α受容体作動薬、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、鎮

静深度としては眠っているように見えるが、生理的な睡眠ではなく、睡眠

の質という点ではあまり効果が期待できない。

Page 29: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 29

急にやめることで退薬症状が認められることがある。

ベンゾジアゼピン系薬剤は本来の睡眠サイクルを改善することは難しく、

むしろせん妄や薬物依存を誘発し、睡眠サイクルを悪化させる可能性もあ

る。

睡眠障害の改善には薬剤よりも次に述べるケアを含めた多角的な関わりが

重要とされている。

【参考文献】

Grame R et al,(2010)END OF LIFE CARE IN THE ICU FROM ADVANCED

DISEASE TO BEREAVEMENT

日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会(2014)日本版・集中治

療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイ

ドライン日集中医誌 2014;21:539-579.

スライド47:睡眠障害のケア

不快な症状のマネジメント

環境調整

不要なアラームを鳴らさない、耳栓をする、静かな音楽を流す(Kamder

BB et al,2013)

日中はできるだけ、光をあび、夜間は電気を消す。患者の希望により、ア

イマスクを使用する

日中はできる限り鎮静をしない、午睡は 15 時までの 20~30 分にとどめ、

活動を維持する

室温は可能であれば患者の好みに合わせる

眠前足浴などの温浴をとりいれる。ホットタオルで足をつつむだけでも効

果がある

精神的介入

患者の思いを受け止める

Page 30: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 30

不安な気持ちに寄り添う

夜間になると孤独感から不安や心配事が増強してくる(津田,2010)

■薬剤の評価

使用薬剤が効果的であるか、

QOL への影響はどうか

日中の活動性が落ち、ADL の低下やコミュニケーションが取れないとい

うことが生じていないか。

例:大切な人が面会に来たときに起きていられない

患者のやりたいことが出来ない

(Kamder BB et al,2013;尾崎,2011)

スライド48:講義内容

精神面の症状

スライド49:このモジュールで取り上げる症状<不安・抑うつ>

スライド50:不安・抑うつとは

<定義>

不安

緊張感を伴う不快感。どこから生じるか不明で原因もはっきりしないまま楽

になれず心的エネルギーを消耗し続ける状態。

軽度・中度・重度・パニックに分類される (福嶋,2004)

抑うつ

Page 31: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 31

憂うつ、落ち込んだ気持ち、何もかもつまらない、何をするにも気力がわか

ないといった気分のこと (松本,2012)

不安の頻度

ICU 患者の53~63%,人工呼吸患者の 85%(Nelson J et

al,2001;McKinkey S et al,2002)

抑うつの頻度

がん診断後:12.9%, 進行がん:39%, 死亡前 1~2 週間:19%

(Linden W et al, 2012; Teunissen SC et al., 2007)

<患者に与える影響>

不安・抑うつによる苦痛、 QOL の低下、自殺、適切な意思決定の障害 、家

族の精神的苦痛

(大西, 2009; Brown LF et al, 2010; Latini DM et al, 2010 ;Akechi T et al,

2004; Miller M et al, 2008)

スライド51:不安・抑うつの原因

原因が改善されると抑うつも改善されることもあるが、症状マネジメントに

困難を来す背景に抑うつが隠れていることもある

疾患によるもの

コントロール不良な身体症状

代謝異常、低酸素、敗血症

心不全、肺障害、脳血管障害

治療によるもの

薬物: 副腎皮質ステロイドなど

人工呼吸、侵襲的処置

精神医学的問題

Page 32: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 32

不安障害、恐怖症の既往、脳血管障害の既往

精神的要因

社会的役割への喪失感、不確実な未来

他者に依存しなければならない

スライド52:不安・抑うつのアセスメントの視点

クリティカルケア領域の患者は生命の危機や重症な身体症状により不安・抑

うつといった精神症状が生じる。身体状態が重症な患者は、身体的な問題が

多く、身体的な問題が原因で不安・抑うつが生じている場合はまず身体治療

を行うことが優先される。このため、まず、原因を把握し、精神状態を把握

し、それに伴う生理的変化がないかといった流れでアセスメントを進めてい

不安・抑うつの原因・誘因 になるものはあるか把握する

【スライド 51参照】

精神状態

不安や抑うつ気分を把握する。コミュニケーションが取れない場合は客

観的な指標を用いる(フェイススケール、NRS など)

不安のレベル【補助教材4参照】

生理的変化の有無

循環器系:動悸、頻脈、血圧変動 など

呼吸器系:呼吸困難、過換気症状 など

消化器系:嘔気・嘔吐、腹痛 など

自律神経系:口渇、発汗、頻尿、ふるえ など

神経系:頭痛、めまい、耳鳴 など (McAdam J,et al ,2010)

日常生活行動の変化

Page 33: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 33

集中できない、睡眠の質がよくない、刺激への過剰反応、食事が取れない

などの生活への影響がないか見極める (福嶋,2004;福

田,2004)

スライド53:不安・抑うつに対する主な治療

不安のための薬理学的介入は、多面的なことができる。これは、最初に不安

の原因を決定することが重要である。

原因治療

原因がある場合は、原因の治療を行う 【スライド 51 参照】

薬物療法

ベンゾジアゼピン系抗不安薬:身体疾患に伴う急性の不安には有効。しか

し、倦怠感、認知機能の低下、せん妄のリスクがあるため慎重に使用する。

とくに終末期の患者ではリスクが高い。

抗うつ薬:選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI,SNRI)が好まれる。

パキシル®、レクサプロ®など

向精神薬:低容量の非定形向精神病薬:ジプレキサ®、セロクエル®が特に

せん妄リスクの患者に適している。

抗てんかん薬:ガバペン®が使われることもある

精神療法

精神的なアプローチ

患者の不安を特定するために、オープンクエスチョンを行い、思いをく

み取る。患者の気持ちを認める。信頼関係を築き、不安の内容を同定す

る。具体的な情報を提供する。

リラグゼーション(マッサージ、音楽療法)などを用いる

リエゾンナース、精神科医の介入を依頼する

教育的アプローチ

呼吸法と筋弛緩を使用することにより緩和されるイメージを持つ

Page 34: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 34

過去に使用してきた効果的な対処方法を識別し、新たな対処スキルを学

ぶ患者をサポートする

(福嶋,2004)

スライド54:不安・抑うつのケア

原因の把握

不安の原因を把握し、対応可能かどうか判断する【スライド 51 参照】

身体的苦痛の緩和

環境調整

患者を静かな環境に置き、混乱させるような刺激(騒音や照明、活動)を

減らし安心感をもたらす

日常生活の援助

夜間睡眠が確保できるよう、環境調整、睡眠薬の投与を行う

清拭、部分浴、更衣など快の刺激を提供する

信頼関係の構築

共感的・受容的な態度で患者に関わる

患者と積極的に関わる

医療スタッフの価値観で批判したり否定したりせず患者を支持する

患者の思いの傾聴

自分の症状や予後、死、様々な症状に対し恐怖や不安が強いことがある。

患者がどのように症状や経過を理解しているか把握すると共に患者の抱

いている思いをゆっくり傾聴する機会を設ける。

落ち着いて静かに話す(言語的コミュニケーションを図ることができない

患者はコミュニケーション方法を検討する)

気分転換をはかる

対処スキルの把握・新たな対処スキルの獲得

Page 35: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 35

患者が過去にどのように不安を緩和してきたのかについて患者や家族と

話し合う。具体的な不安であれば対応策を一緒に考え、対処が可能か、サ

ポートが必要かを判断する。

家族へのアプローチ

家族が患者の病状をどのように認識しているか、不安に感じている内容を

把握し家族の状況をアセスメントしながら正しい知識を提供していく。

家族の緊張緩和も配慮しながら患者をサポートする体制への参加を促す

(家族の状況をアセスメントしながら面会の頻度を検討していく、患者の

精神状態の説明を行う)

スライド55:このモジュールで取り上げる症状<せん妄>

スライド56:せん妄とは

<定義>軽度から中等度の意識混濁に、幻覚、妄想、興奮などのさまざまな

精神症状を伴う特殊な意識障害。低活動型、過活動型、混合型に分類される

(明智,2013)

(せん妄の分類は補助教材参照)

診断基準

アメリカ精神医学会のせん妄診断基準(DSM-Ⅴ)

この基準をすべて満たす場合せん妄が存在すると判断する (American

Psychiatric Association, 2013)

せん妄は不穏・興奮といった 過活動型を連想する事が多いが終末期では傾

眠や集中力の低下を中心とした低活動型せん妄が多い。低活動型せん妄は見

逃されることが多いため注意が必要である(明智,2013)

【参考文献】

明智龍男(2013)症状緩和をして終末期を支えるには 不眠・せん妄.内科。

112(6).1218-1221

高橋三郎監訳(2014)DSM-Ⅴ精神疾患の診断・統計マニュアル 医学書

院 東京,588-591

<頻度>

Page 36: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 36

せん妄は、病院や緩和ケアの場で最も一般的な認知障害である

ICU 患者の 48%、人工呼吸患者の 44~80%に見られると報告されている

(Thomason,2005;Ely,2001;Micek,2005;Pandharipande,2007)

スライド57:せん妄が患者・家族に与える影響

<患者・家族に与える影響>

せん妄の症状自体が患者・家族にとって苦痛となる

危険行動や事故の原因となる

家族とのコミュニケーションが困難となる

患者の意思決定能力が阻害される

治療選択が困難になる

せん妄は緩和ケアの場だけではなくクリティカルケアの領域でも高頻度で

認められ、患者や家族への悪影響を及ぼす

(鶴田,2013)

スライド58:せん妄の原因

せん妄には必ず原因があり、患者の状態に伴うイベントや変化をきっかけに

出現する。根本的な原因は危険因子である 年齢、重症度、敗血症、認知症

に加えて、感染や薬剤などの促進因子から構成されている。

せん妄に影響を及ぼす薬剤として、その他にジキタリス、抗不整脈薬、降圧

薬(βブロッカー)、利尿薬、抗ガン薬、免疫抑制薬、インターフェロンな

どがあげられる

神経疾患・合併症をみると、ICU に入室する、あるいはクリティカルな状態

の患者のほとんどがこれらの疾患に当てはまると考えられる。このため、全

身状態が悪化している患者は少しの変化で体内環境が混乱し、せん妄発症に

つながる

Page 37: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 37

不安や緊張、慣れない環境、痛みといった様々なストレスが原因となり得る。

また、睡眠障害とせん妄発症は関連があるとされている。

スライド59:せん妄のアセスメントの視点

せん妄は、客観的な視点での早期発見が重要である。精神状態の変動性があ

るため、臨床において過小評価されることが多い。せん妄は(少なくとも1

日1回)定期的に評価をしていく必要がある。アセスメントの視点を以下に

挙げる。

十分な病歴の聴取

危険因子の有無、原因・誘因の把握

病態を把握し、治療を効果的に受けることができるように、また状況が

変化すれば速やかに治療、対処が受けられるようにする。

身体所見の有無(睡眠・覚醒状況、興奮、落ち着きのなさ、妄想、幻覚

など )

意識レベル、精神状態、コミュニケーションの程度

客観的な評価のため、評価ツールの使用が推奨されている

RASS

日本語版 NEECHAM 混乱・錯乱状態スケール

CAM-ICU(所見 1+2+3 または所見 4 を満たす場合せん妄とする:

評価時点でのせん妄の診断をする)

ICDSC(4 点以上せん妄、3~1 点亜症候性せん妄、0 点せん妄なし:

過去 24 時間以内の状態を評価して診断を行う) など

【補助教材 5、6、7、8】

【参考文献】

Page 38: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 38

日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会(2014)日本版・集中治

療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガ

イドライン日集中医誌 2014;21:539-579.

海老沢睦 せん妄 クリティカルケア看護理論と実践への応用(2007)日本看

護協会出版会 東京

スライド60:せん妄に対する主な治療

原因の治療

最も重要なのは原因を鑑別して対応していくことである。

原因を推定する。ただし、回復困難と同定される場合には意識障害を改

善させることよりも苦痛を取り除くことを主な目的とする

せん妄の原因が向精神薬、オピオイド、非オピオイド、脱水、酸素化、

血圧であった場合は改善がより得やすい傾向にある。 (オピオイドの減

量や薬剤の変更、全ての不必要な向精神薬の中止、単純な補液により改

善が認められる)

入院後に発症したせん妄は改善の可能性が高く、低酸素脳症・感染、臓

器障害の増加と不可逆性に関連が認められたという報告もある。

せん妄の 50%が原因の治療で回復する可能性がある

対症療法

痛み緩和、呼吸苦の軽減など不快な症状を取り除き、その上で、対症療

法を行っていく

薬物療法

抗精神病薬:第 1 選択薬はハロペリドール(セレネース®)となってい

る。経口・筋肉内・静脈内の投与が可能。QT 延長とトルサデポアンの

出現に注意が必要。

非定型抗精神病薬:リスペリドン(リスパダール®)、オランザピン

(ジプレキサ®)、クエチアピン(セロクエル®)といった抗精神病薬

が積極的に使用されている。オランザピンとクエチアピンは糖尿病患

Page 39: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 39

者に投与すると糖尿病性ケトアシドーシスとなる危険性があり禁忌で

ある。

α 刺激薬:デクスメデトミジンが過活動型のせん妄に効果的があった

とされている

補足:特定の原因によるせん妄の治療として、痙攣、アルコール /鎮静薬

からの離脱によるせん妄に対してはベンゾジアゼピン系のロラゼパム

(ワイパックス®)の静脈内投与を推奨している。(日本では静脈内投与

剤は認可されていない)

専門家への相談、チーム介入

緩和ケアチームの介入、精神科医、薬剤師などのチームメンバーで患者

の症状を把握し、介入していくことでよりせん妄の症状を改善できる

(鶴田,2013)

スライド61:せん妄に対するケア

せん妄の発生要因別にみた看護ポイント;直接要因へのケア

全身の回復促進

薬剤の確実投与

人工呼吸管理、補助循環管理

確実なモニタリング

水分出納管理、栄養管理、感染管理など

二次障害予防:二次障害の発生により全身状態の悪化を招くため予防に

努める呼吸理学療法、廃用障害予防、ディバイス感染予防、スキンケア、

清潔ケア、スタンダードプリコーションの徹底など

促進要因へのケア

環境調整(安楽でできるだけ快適に過ごせるよう療養環境を調整する。

室温・湿度調整、照明調整、音の調整、プライバシーの調整など)

不動化減少への調整(感覚遮断や睡眠妨害、身体拘束などの不動化をで

きるだけ減らす。不動化は感覚の低下を招く。感覚機能の維持、見当識の

維持、視覚的刺激、睡眠の確保、可能であれば身体拘束の緩和)

不安の緩和・軽減(穏やかな態度で接する、孤独感をできるだけ感じない

よう家族の面会調整、リラグセーションの提供を行う)

準備要因へのケア

Page 40: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 40

通常の患者の状態を把握し、リスクファクターを意識して強化した関わ

りを行うことでせん妄の予防に繋がる。

家族へのケア

せん妄の症状、原因を説明する。症状が改善されないまま死に至る可能

性も含め、今後考えられる経過を説明する。家族の気持ちを受け止め

る。家族が付き添うことで疲労感を抱くことのないよう休息を促す。患

者への関わり方を共に考えていく

(鶴田,2013)

スライド62:講義内容

結論

スライド63:結論

クリティカルケア領域におけるエンド・オブ・ライフの患者に生じる症状

の特徴を理解する。

主観および客観的な情報を用いて症状のアセスメントを継続的に行う。

治療と同時にケアを効果的に取り入れ症状緩和に努める。

多職種と連携をはかり、症状マネジメントに取り組む。

スライド64:補足スライド

これ以降のスライドは必要に応じて使用してください。

スライド65:呼吸障害の病態生理

換気障害

呼吸運動の障害(呼吸中枢活動低下)

ガスの通過障害(気道閉塞)

Page 41: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 41

・肺の膨張不全(肺胞の虚脱) など

酸素化障害

換気血流比不均衡(肺胞換気量と血流の割合不均衡)

シャント(肺胞虚脱による換気量と血流の割合不均衡)

死腔増加(血管への血流遮断)

拡散障害(肺胞と血管間距離の増大)など

その他

・混合型障害

・酸素運搬能力障害(強度の貧血)など (池松,2008b)

スライド66:呼吸困難のフィジカルアセスメントの視点

フィジカルアセスメント

理学所見:鼻、口、咽頭、喉頭、肺、気道、胸郭、末梢および中枢の呼

吸中枢を含めたすべての呼吸器系(KK Kuebler,2004)

年齢・性別、喫煙歴、慢性疾患(KK Kuebler,2004)

発症時期、随伴症状(咳、痰、喀血、発熱など)

呼吸パターン、呼吸補助筋の使用、人工呼吸器との同調性、胸郭の動き

など

頻呼吸、頻脈、不整脈、高血圧・低血圧の有無、チアノーゼ、発熱の有

無、意識レベル など

呼吸音(呼吸副雑音の有無、種類)

打診による鼓音、濁音の有無

(田中、2005a)

Page 42: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 42

スライド67:咳とは

咳の定義と患者に与える影響

・咳とは、気道内の異物や刺激物を体外に排除する役割を持つ生理的防御反

応をいう(田中,2005b)

・咳発作が長引くと疲労と恐怖を招き、ときには呼吸困難の悪化、不眠、血

圧上昇、血管の破綻、喀血、悪心と嘔吐、筋骨格の痛み、肋骨骨折をきた

す(PH Berry,2004)

咳の原因

・咳にはさまざまな原因が知られており、まず原因を診断し、その治療を行

うのが最優先である(木澤,2005)

・終末期疾患における咳の原因(PH Berry,2004)

循環呼吸器疾患:COPD、痰、感染、腫瘍、胸水または心嚢液、肺炎、副

鼻洞または後鼻腔のドレナージ、声帯麻痺

薬物:アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、臭化イプラトロピウ

ム、しゃっくりや口腔乾燥のために噴霧された水の吸引

食道疾患:胃食道逆流

誤嚥:運動神経疾患<例、筋萎縮性側索硬化症(ALS)>、多発性硬化

症(MS)、脳卒中、胃食道逆流

しかし終末期がんの場合、治療不可能な咳に対しては症状緩和に切り替

える

咳のアセスメントの視点

湿性・乾性、慢性・急性、頻度、持続性、大きさ、増悪因子と改善因

子(田中、2005b)

咳の治療(薬物、非薬物)

薬物:オピオイド、鎮咳薬、ステロイド、抗生剤、去痰剤、気管支拡

張剤

非薬物:酸素投与、吸入・吸引、肺理学療法、加湿、室温、換気などの

環境整備(田中,2005b)

Page 43: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 43

スライド68:高カルシウム血症

高カルシウム血症は、血中のカルシウム値が上昇した状態である。骨もしく

は腸管からカルシウムが大量に付加され、腎臓の排泄能力を超えた場合に、

生じる (血清濃度 10.5mg/dl 以上)。

(深川, 2008)

<症状>

全身症状

脱水、全身倦怠感 など

消化器症状

嘔気・嘔吐、食欲不振、消化性潰瘍、膵炎 など

神経・筋症状

傾眠傾向、近位筋の筋力低下、うつ状態、意識障害 など

尿路系症状

口渇、多飲・多尿、腎機能低下 など

心電図異常

QT 間隔短縮 など

その他

関節痛、皮膚掻痒感、帯状角膜症 など

(阿部, 2008)

<治療>

水分補正

高カルシウム血症では、尿の濃縮力が低下しているため、脱水 (循環

血漿量減少) になっていることが多く、まずその補正を必ず行う。

Page 44: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 44

薬物療法

カルシウムの尿中排泄を促進し、骨からのカルシウム放出や腸管から

のカルシウム吸収の抑制を行うことになる。

原因として可能性のある薬剤は中止か減量する。

骨吸収の抑制:エルシトニン®注、アレディア® など

腸管からの吸収抑制:プレドニン® など

スライド69:副腎皮質ステロイド薬の使い方

予後予測が 3 ヵ月未満で、食欲不振、嘔気・嘔吐、全身倦怠感、呼吸困難の

症状緩和を目的として、使用することがある。

使用方法については、スライドの表を参照する。

(OPTIM: 緩和ケア普及のための地域プロジェクト, 2008)を一部改変

スライド70:Stemmer’s sign とは

浮腫の程度や範囲を簡単に確認するために行う、皮膚をつまみ上げる手法を

Stemmer’s test と呼ぶ

通常は皮膚をつまみ上げた場合は、表皮層と真皮層が中心に持ち上がる (つ

まみ上げることができる)が、軽度のリンパ浮腫になると、表皮層・真皮層に

高タンパク性の間質液が貯留するため皮膚をつまみ上げることができなく

なる

つまみ上げられない状態が Stemmer’s sign 陽性であり、つまみ上げられ

る状態が、Stemmer’s sign 陰性と判断する

スライド71:口腔内乾燥の診断

口腔内の乾燥を評価する方法にはさまざまあるが、簡便な評価方法として、

スライドに示した下記の臨床診断基準が挙げられる。

口腔内の唾液の性状を観察し、0 度から 3 度の 4 段階で評価する。

Page 45: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 45

0 度(正常):乾燥なし(1~3 度の所見がなく、正常範囲と思われる)

1 度(軽度):唾液の粘性が亢進している

2 度(中程度):唾液中に細かい唾液の泡が見られる

3 度(重度):舌の上にほとんど唾液が見られず、乾燥している

(柿木, 2000)

スライド72:口腔アセスメントガイド(Eilers Oral Assessment Guide:

OAG)

口腔内の状態および嚥下機能を評価する方法の 1 つとして、スライドには、

Eilers J らが開発した口腔アセスメントガイドを示した。

下記の 8 項目から評価する

声、嚥下、口唇、舌、唾液、粘膜、歯肉、歯・義歯

各項目について、それぞれ下記の 3 段階で評価する。

1:正常

2:低い/かすれている

3:会話が困難/痛みを伴う

全項目の合計点を算出し、口腔内の状態を評価する。

8 点:正常

9~12 点:軽度の口腔粘膜障害

13 点以上:中等度から高度の粘膜障害

(近津 他, 2011)

スライド73:睡眠薬の種類

睡眠薬には大きく分けてベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系がある。

作用時間の長いものには翌日の眠気、ふらつき、脱力、頭痛、倦怠感など

の症状を来すことがある。作用時間の短いものに変更あるいは減量を図る

Page 46: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 46

長期に使用し、突然服用を中断すると強い不眠を来すことがある。睡眠薬

の離脱には徐々に減量または作用時間の長いものに置き換えた上で減量

を図る

作用時間の長い睡眠薬では筋弛緩作用が出現しやすい。ふらつきや転倒に

注意する

睡眠薬を内服することで却って不安、緊張が高まり興奮・錯乱状態になる

ことがあるため注意が必要である

せん妄のリスクがある患者、せん妄患者にはベンゾジアゼピン系を単独使

用することでせん妄を助長させるリスクがあるため注意する

スライド74:不安、抑うつに関する重症度

精神面の症状として、誰でも生じうる通常の悲しみや心配から、専門的な介

入が必要な重症度が高い症状である

重症度が高くなるとうつ病や不安障害などの精神医学的な診断に該当す

るような状態になる

(Massie MJ,1990)

重症化する前の段階である不安と抑うつに焦点を当てていく

【参考文献】

Massi MJ&Holland CJ 著(1990),今井院才,訳(1993).正常反応と精神障

害。河野博臣 濃沼信夫,神代尚芳監訳.サイコオンコロジー-がん患者のた

めの総合医療-2 巻.(p255-263).東京:メディサイエンス社

Massie MJ 著(1990),今井院才,訳(1993).うつ病.河野博臣 濃沼信

夫,神代尚芳監訳.サイコオンコロジー-がん患者のための総合医療-2 巻.(p

255-263).東京:メディサイエンス社

スライド75:せん妄の原因(可逆性)の同定

原因の治療が可能な場合(可逆性)は、せん妄からの回復が治療目標となる

が、原因の治療が不可能な場合(不可逆性)は、せん妄症状による苦痛の緩

Page 47: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 47

和が治療目標となる

スライド76:過活動型せん妄と低活動型せん妄の特徴

過活動型せん妄では、興奮、錯乱、易刺激性、衝動行為、不眠症、夜間徘

徊などを示し、交感神経過活動性の症状を伴うことが多い。

低活動型せん妄では、無表情、無気力、昼間の過眠・傾眠、的外れ応答、

認知症、記銘力低下、失禁などを示し 、幻覚・妄想はほとんど伴わず、静

穏であり、質問に緩徐に応答し、行動を起こしにくく、うつ病と誤診され

たり、しばしば見過ごされたりする。

臨床では、過活動型せん妄と低活動型せん妄との混合である混合型せん妄

が頻度多くみられる。混合型せん妄では、過活動型せん妄、低活動型せん

妄の2 つの特徴が混在してみられる。

スライド77:せん妄の発症要因

せん妄の発生要因は、せん妄そのものの原因となる直接要因、せん妄を発症

促進、重篤化、遷延化する要因の促進要因と、もともと存在する準備要因に

分けて考えると理解しやすい

(明智,2010)

直接要因:中枢神経疾患、臓器不全による代謝性脳症、電解質異常、治

療の副 作用、薬剤(オピオイド、ベンゾジアゼピン、ステロイド、

抗コリン薬)、感染症、貧血、栄養障害、アルコール・依存性薬物から

の離脱、脱水、手術侵襲、低酸素など

促進要因:環境の変化、感覚遮断、睡眠・覚醒リズムの障害、可動制限、

痛み、呼吸困難、便秘、ストレス、不安など

準備要因:脳血管疾患、アルツハイマー、認知機能障害、60歳以上

スライド78:このモジュールで取り上げる症状<消化器症状(悪心・嘔吐)

「消化器症状(悪心・嘔吐)」の症状マネジメントについて説明していく

Page 48: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 48

スライド79:消化器症状(悪心・嘔吐)とは

定義

悪心:「吐きたくなるような切迫した不快な自覚症状」

嘔吐:「胃内容物を反射的に口から出すこと」

(医学大辞典)

患者に与える影響

悪心は進行性疾患では一般的な症状で、終末期にある患者の 70%以上で

認められる。

また、嘔吐は進行性疾患の患者の 30%に起こるが、これらの症状はまだ

よく研究されていない。

(Mannix, 2010 )

悪心・嘔吐は患者と家族がイライラし、痛みを感じ、体力を消耗する。

症状は苦痛を増大させるため、即時の介入を必要とする。

(King&Tarcatu,2010 )

スライド80:消化器症状(悪心・嘔吐)の原因

悪心・嘔吐は4つの神経伝達経路から伝達される

悪心・嘔吐はなんらかの原因により中枢が刺激されることにより生じる。

末梢(咽頭、心臓、肝臓、消化管、腹膜、腹部・骨盤臓器の機械的受容体

あるいは肝・消化管の化学受容体から迷走神経、交感神経、舌咽神経)

消化管運動の異常は腹水貯留、がん性腹膜炎、肝腫大、後腹膜腫瘍など

が原因で起こり、腸蠕動の異常や腹部膨隆症状を認める。

消化管運動の低下は便秘、胃蠕動不全、消化管閉塞などが原因で起こ

り、腸蠕動の低下や食後に症状が増悪する。

消化管運動の亢進は、下痢、消化管閉塞が原因となり、腸蠕動音が亢進

する。

化学受容体引金帯

Page 49: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 49

薬物では、オピオイド、ジゴキシン、抗けいれん薬、抗菌薬、抗うつ

薬、抗腫瘍薬が原因となり、薬物血中濃度と並行して症状が増悪する。

代謝異常では、高 Ca 血症、肝不全、腎不全が原因となり、症状が持続

する。

中枢神経(上位中枢)

頭蓋内圧亢進では、脳腫瘍などが原因となり、朝に症状が増悪する。

心因性では、不安、恐怖、においなどが原因となり、心理変化によって

症状が悪化する

炎症では、感染性髄膜炎、がん性髄膜炎が原因となり、髄膜炎症状を認

める。

放射線治療では頭蓋内への照射によって起こり、治療期間と関連して症

状が悪化する。

前庭器

薬物では、オピオイドやアスピリンが原因となり、前庭系の異常では、

メニエール症候群や前庭神経炎が原因となる。頭位交換や体動によって

症状が悪化し、めまいを伴う。

スライド81:悪心・嘔吐のアセスメントの視点

悪心・嘔吐の原因・誘因、軽減する要因

現在行われている治療、使用されている薬剤

悪心・嘔吐の原因・誘因となっているものを把握する。また嘔気・嘔

吐が軽減する要因となっているものは何かを把握する。【スライド 37

参照】

嘔気・嘔吐の頻度、程度、発生時間、持続時間

吐物の性状、嘔吐の様子

胃管のドレナージの状態

気管や口腔内吸引時の吐物の混入

Page 50: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 50

制吐剤の使用の有無と効果

どの制吐剤をどのタイミングで使用すると効果的かを把握する。

食事や飲水との関連

嘔気・嘔吐前後の飲食や飲水の有無、その内容について把握する。

排便、排尿の状態

便秘の有無 など

随伴症状の有無

腹痛、腹部膨満感、頭痛、めまい、口渇、胸部不快感、胸痛、眠気、意

識障害 など

嘔気・嘔吐に対する患者・家族の思い

症状のつらさ、治療や使用薬物への理解、先入観の有無 など

日常生活への影響:睡眠や活動、食事や口腔内の清潔、QOL や楽しみ

などにどのような影響があるかを、患者とともに評価する。

(小澤, 2008)を一部改変

スライド82:消化器症状(悪心・嘔吐)のに対する主な治療

<原因の治療>

原因を究明し、それを治療することが第一である。治療可能な原因による

嘔気・嘔吐の可能性もあるので、ただ漫然と薬物投与を続けることは避け

なればならない。原因の検査を進めることが治療につながると判断された

場合には、積極的に考慮すべきである。ただし、検査結果により治療方針

が変わらなければ検査を行うことは慎重に考える。

消化管閉塞に対する消化管ドレナージ

消化管閉塞はないか、検査を行う。

消化管閉塞が判明した場合、すぐに胃管の挿入を行うのではなく、管を

入れることのメリット・デメリットについて患者とよく話し合った上で

選択する。

Page 51: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 51

電解質異常への対応

特に高カルシウム血症に注意する。

【 補足スライド 68 参照 】

消化性潰瘍の治療

特に NSAIDs を併用している場合は、消化性潰瘍の出現に注意する。

頭蓋内圧亢進症状への対応

頭部 CT 検査を行う。

脳転移、脳浮腫がある場合、グリセオール®の投与や放射線療法、外科的

療法についても考慮する。

原因となる薬物の検索

原因薬物の中止、もしくは減量を考慮する。

(木澤 他, 2010)を一部改変

<薬物療法>

原因によって、薬剤を使い分け、症状の改善をはかる

ドパミン受容体拮抗薬

例)プリンペラン®、ナウゼリン®、セレネース®

ドパミン受容体拮抗作用を持つ抗精神病薬は、がん患者に対して制吐を

目的にしばしば用いられる。

ドパミン受容体拮抗薬は、副作用として錐体外路症状が発現することが

ある。特にアカシジアに注意が必要である。ただし、ナウゼリン®は、脳

血液関門は通過し難いため、錐体外路症状は出現しない。

錐体外路症状とは、抗精神病薬による副作用のうち、錐体外路の機能障

害の早期症状としてパーキンソニズム、ジストニア、アカシジア、ジス

キネジアなどの錐体外路症状がある。このうちアカシジアの症状は、静

座不能とも言われ、じっとしていられない症状を呈する。

(日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2011b)

Page 52: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 52

抗ヒスタミン薬

例)トラベルミン®

抗ヒスタミン薬は、嘔吐中枢と前庭器に作用する。副作用としては眠気

がある。抗コリン作用を併せ持つ薬剤が多いので、緑内障や前立腺肥大

などの疾患のある患者には処方を避ける。

(日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2011b)

抗コリン薬

例)ブスコパン®

抗コリン薬は、作用機序として、消化管蠕動の亢進を抑制させる。緑内

障患者には禁忌であり、高齢者、前立腺肥大、痙攣の既往や肝・腎機能

低下のある患者では注意が必要である。

(日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2011b)

コルチコステロイド

例)リンデロン®

コルチコステロイドは、作用機序として、炎症・サイトカインを抑制さ

せる。

コルチコステロイドの副作用は、口腔内カンジダ症、活動性亢進、消化

性潰瘍、高血糖、満月様顔貌、不眠などがある。

がんに伴う手術不可能な消化管閉塞の患者に対して、コルチコステロイ

ドの投与は、消化管閉塞を再開通させる可能性があり、嘔気・嘔吐を緩

和させる可能性があると考えられる。

(日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2011c)

オクトレオチド

例) サンドスタチン®

オクトレオチドは、消化管の内分泌、外分泌を抑える。消化管の蠕動を

抑え、腸液の吸収を促進し、結果として嘔気・嘔吐を緩和する。副作用

はほとんどないが、血糖異常が見られる可能性がある。胃液や胆汁の産

出を抑制する作用は弱く、上部消化管閉塞で大量に嘔吐が見られている

Page 53: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 53

場合、間歇的に胃管留置をする方が患者にとって楽な場合がある。

(日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2011b)

【 補足スライド 83 参照 】

スライド83:消化器症状(悪心・嘔吐)に対するケア

環境調整

におい、光、室温、湿度等の環境を調整する。

例) 嘔吐物などの排泄物や汚れた衣類やリネンは早めに片づける。

換気をよくし、部屋のにおいをできるだけ少なくする。

必要時、脱臭剤や空気清浄機などを使用する。

(日本緩和学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2011d)

衣類、体の工夫

肝腫大のため、胃の幽門から十二指腸にかけて圧迫されている時には

右側臥位により嘔気を緩和する場合がある。

例)腹部や胸部を締めつけるような衣類は避ける

安楽な体位が保持できるようにする

(日本緩和学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2011d)

人工呼吸中の患者を仰臥位で管理すると、胃内容物が口腔咽頭に逆流す

ることがある。禁忌でない限り、頭位を 30 度を目安としてあげるとよ

い。

(日本集中治療胃が書き ICU 機能評価委員会 人工呼吸関連肺炎バンドル

2010)

口腔ケア

嘔吐してしまった場合には、口腔内がすっきりするように氷水やレモン

水でうがいをするように促す。もしくは、口腔ケアを行う。

Page 54: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 54

ただし、気管挿管患者や口腔内に損傷がある場合は、レモン水は控え

る。

気管挿管患者や自己喀痰が困難な患者が嘔吐した場合は、速やかに口腔

内および気管内を吸引し、口腔ケアを実施する。

排便コントロール

エンド・オブ・ライフにある患者の場合、オピオイドや抗うつ薬など

の便秘を誘発しやすい薬物を使用していることが多い。便秘により嘔

気を催すことがあるため、便秘対策を十分に行う。

栄養面を気にせず、無理をしない。

食事の工夫

胃管のドレナージを行う:屈曲や落差不足などによって胃管の閉塞がな

いかを十分に確認する。

清潔の保持

部屋や食事の臭気、特定の薬物のにおいが残らないように換気し、汚染

した寝衣・寝具を交換する。

リラクセーション・気分転換

静かな環境で音楽を聞くことや指圧、マッサージが有効なことがある。

精神面のケア

患者・家族の訴えを傾聴する。

症状緩和のための方策を患者とともに考える。

スライド84:制吐剤の種類と使い分け

スライドには、制吐剤の種類と副作用、原因について示した。制吐剤を使用

する際に、スライドの表を参考にする。

(堀, 2002; 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2011b)

Page 55: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 55

スライド85:このモジュールで取り上げる症状<痙攣>

このスライドでは「痙攣」の症状マネジメントについて説明していく

スライド86:痙攣とは

<定義>

全身または限定した筋肉に急激に起こる一過性の不随意運動。神経系及び

筋肉の興奮性が高まることによって生じる(ミオクローヌスを含む)

(加藤,2009)

<頻度>

終末期脳腫瘍患者の 56%(Tobians W et al.,2014)、 死亡前 48 時間以内の

16%に見られる(Hall P ,2010)

<患者に与える影響>

患者・家族の苦痛は大きい

痙攣は突発的に生じ、見た目にも重症感が強い。説明が十分にされてい

ないと動転し、患者や家族に不安をもたらす。

<原因>

感染や外傷、頭蓋内腫瘍といった器質性病変により大脳皮質が刺激されて生

じるものと、頭蓋外の原因とした機能性脳障害が原因となるものがある。

器質性脳障害

感染、外傷、頭蓋内腫瘍、腫瘍頭蓋内転移

機能性脳障害

臓器障害が生じると電解質異常酸塩基平衡の異常が認められる。これ

らは神経筋伝達経路に異常をきたし、神経・筋刺激に対する閾値の低

下、異常興奮によって不随意な筋肉の収縮、痙攣が起こる恐れがあ

る。

Page 56: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 56

水電解質異常、薬物毒性、薬物治療からの撤退、低酸素脳症、代謝異

常:肝不全、腎不全 などがある (加藤,

2009)

【参考文献】

加藤竹雄(2009),てんかん、けいれん発作の原因疾患とその病態,BRAIN

NURSING25(8)25-32

木下雅子(2009),てんかん、けいれん発作発症後のケア,BRAIN

NURSING25(8)33-39

Tobians W et al.,(2014)End-of-life symptoms and care patients with

primary malignant brain tumors:a systematicliteracuture review

Harlos, M. (2010) The terminal phase. In G. Hanks, N. I. Cherny, N.A.

Christakis, M. Fallon, S. Kaasa & R.K. Portenoy (Eds.), Oxford textbook

of palliative medicine (4th ed.). (pp.1549-1559). Oxford, UK: Oxford

University Press.

スライド87:痙攣の治療とケア

<治療>

痙攣の原因に対応した治療

痙攣が持続している場合は薬物治療を行う

抗痙攣薬(詳細は補助教材:抗痙攣薬 参照)、対症療法としてベンゾ

ジアゼピンを投与する

【補助教材 3 参照】

<ケア>

患者へのケア

痙攣によって生じる苦痛を明らかにする

安全を守る:転落や打撲を防止する

Page 57: モジュール 3:エンドオブライフケアにおける症状マネジメント …lifestyle-related.hs.med.kyoto-u.ac.jp/ELNEC2016/ELNEC-J... · 神面の症状に対するアセスメントや治療、ケアについて説明し、症状マネジ

ELNEC-J クリティカルケア モジュール 3:エンドオブライフケアにおける 指導者用アウトライン

カリキュラム指導者用ガイド 2016 症状マネジメント Page 57

不随意運動自体が不快な感覚をもたらしていないか、痛みを増強したり

睡眠の妨げとなっていないかアセスメントし、ケアを行う

家族へのケア

家族がどのように受け止めているか明らかにする

痙攣が起こる原因を説明する (津金澤,2005,稲次,2013)

説明が十分にされていないと患者や家族に不安をもたらす。たとえば、

「病気の状態の変化によって体内のバランスが崩れている。それによっ

て無意識のうちに筋肉がぴくぴくしたり動いたりする事がある。原因そ

のものの治療は難しいが、症状に対しては薬剤を使用することはでき

る」など。

【参考文献】

木下雅子(2009),てんかん、けいれん発作発症後のケア,BRAIN

NURSING25(8)33-39

津金澤理恵子(2005)ナーシングトゥデイ増刊号 臨死時のケア⑧痙攣・ミオク

ローヌス ナーシングトゥデイ Vol.20 No.6