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症状とは
○個人的な体験
○個人の今までの体験や考え方、文化、習慣などが強く影響を及ぼす
○主観的な体験である
○他者には存在を確認することが出来ない、本人のみの体験
○個人の解釈によって症状に伴う体験が異なる
Rhodes&Watson(1987)
症状とは、疾患の有無、あるいは疾患が治療されたかどうかとは関係なく、症状の有無と程度が患者の病気体験を左右し、QOLに大きな影響を与えています。症状は原因となっている疾患を指し示す正確な地図であるというより、病気という人の生き抜く体験に属しています。たとえば、薬を飲みなれた人は副作用をきにします。その人の携えている意味と取り組んでいる社会関係に必ず関わりがあります。症状の診断で頼りになるのは、「過去の経験」や「現在手持ちの身体理解や症状理解」です。
2
症状マネジメントとは
<症状マネジメントの目標>
その患者の体験している症状を緩和させ、
患者にとってよいQOLの状態を保つように
すること
症状マネジメントの主体はその症状を体験
してる人
患者は自分で症状を感じた時から、その症状についての苦痛を緩和または軽減させるため、意図的に症状の発言を防ぐための活動を実行するか、痛みを和らげるために、何か行動を開始しています。たとえば、自分の身体を動かすことによって痛みを感じるような場合には、できるだけ痛みが少ない身体の動かし方を見出しています。もし、自分でその痛みに対処できないと感じたと感じた時は、医師の元を訪れたり、家族の誰かに助けを求めたりする場合もあります。ここで重要なのは、症状マネジメントを開始するにあたっては、患者は自分の症状とすでに対話を始めているということです。患者にとって症状マネジメントは、無意識の出来事ではなく、症状の体験と対話して対処する方法です。このようにして考えると、症状マネジメントの主体は、その症状を体験している人であるということが明らかになります。この基本となる症状マネジメントの考え方を、医療従事者はよく理解しておかなければなりません。
3
症状マネジメントにおける看護のアプローチ
従来の症状マネジメントは
・患者の症状を病態・生態学側面からアセスメント
・医療従事者が主導権を持って症状の原因を究明し、
対処してきた
これからの症状マネジメントは
患者の症状を病態・生理学側面からアセスメントすることに
加えて
・患者自身が感じ、解釈したことを加えてアセスメントする
→患者の症状をアセスメントする
・患者や家族のセルフケアを促進する
★患者の個別的な症状マネジメントの様相を理解した上で、さらに効率よく症状マネジメントができるように必要な知識・技術を提供し、支援していくことが重要
従来の症状マネジメントは、医療従事者が主導権を持って症状の原因を究明し、対処してきました。しかし、これからは、患者自身が感じ、解釈したことを加えて患者の症状をアセスメントすることで、患者や家族のセルフケアを促進することにつなげていくことが重要です
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症状マネジメントにおける看護師の役割と責任
必要なケアの要点
①症状のメカニズムと発現形態を理解する
②患者の症状の体験を理解する
③患者のセルフケア能力を見極める
④患者にとって不可欠な知識や技術を提供する
⑤患者の症状マネジメントが継続できる看護
サポートを行う
⑥症状マネジメントに携わるケアチームの調整を
行う
①身体症状のマネジメントにあたっては、症状のメカニズムを理解しておくことが基本となります。メカニズムが理解できれば、患者がとっている症状マネジメントの方略がより理解しやすくなり、患者理解がふかまります。さらに、患者の症状を傾聴してい
て、患者が自分の言葉を表現しにくそうな時に、「例えばこのような痛みですか」といったように、看護師から質問することができ、患者の症状の表現を助けることがで
きます。②患者の症状の体験を理解するために、まず傾聴します。患者が自分の症状を今までの経過と合わせて聴くことによって、看護師はこの患者にとっての病気の意味や患者を1個人として理解することが可能になります。患者が自分が感じていることを自由に話すことを促すことによって、その患者にとっ
ての症状の意味、症状の体験がなんであるかを知ることができます。患者が自分の体験している症状についての情報を提供できるように質問をするのも
いいでしょう③症状マネジメントは、その症状を体験している人が症状との対話を意図的に開始することであると述べてきました。症状を持つ人自身が症状緩和のための行動を開始するには、その人のセルフケア能力(セルフケアを行う力)を強化することが必要
です。緩和ケアを受けている患者の場合は、身体機能の低下によってセルフケア能力が
十分に発揮できない場合もあります。しかし、自分の症状を表現する能力や、自分でできないことを看護師や家族に代償してもらうために依頼をする能力など、そ
の患者の症状マネジメントにとって重要な能力は維持されていることもあります。これらを維持できることは、できないことが増えていく緩和ケアの患者にとって自尊
心を維持するケアにもなります。④不可欠な知識とは、患者が症状を理解し緩和していくために必要な技術を身につけたり、その結果について理解したりするために必要な最低限の知識です。たとえば、痛みがあり、痛みどめの薬を使いながら痛みのマネジメントを行っている
患者では、「がんの痛みは可能な限り取り除くことが望ましいこと」というまず自分の痛みを可能な限り取り除くような動機付けができる知識を提供します。さらに、
患者が時間どおりに痛みどめの薬を使うためには、「痛みがおこったときだけではなく、時間通りに痛みどめを使うのはなぜか」という知識を持つことが必要である。
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疼痛マネジメント基本となる考え方
患者が痛いというときは
いつも痛みが存在する
患者が主観として痛いと言っている時には
痛みが存在しているという事を念頭において
ケアをする事が重要である
患者が痛いと訴えた時は、そのままにしないでどんな痛みなのか、どう困っているのか、直接聴いてマネジメントは十分か、方法を確認しケアしてください
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がん性疼痛の特徴
○がんの痛みは生活全般に影響を及ぼし、患者の「その
人らしさ」を脅かす最大の要因
○痛みの持続・増強は死への恐怖や絶望感につながり、
患者は気力も衰え、治療への威力が減退してしまうことが予測される
○痛みはがん病変の治療を受けている患者の1/3に、進行がん患者では2/3におこる○除痛率は保存的治療患者では、48~58%、末期がん患者では40~64%
→痛みの緩和治療は十分とはいえない
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痛みの定義
(国際疼痛学会より)
痛みとは、実質的・潜在的な障害と関連して述べられる不快な感覚的・情動的体験であり、常に主観的なものである
痛みは感覚体験であり、感情体験であり、主観的なものであることを十分に認識することが出発点です。
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痛みのしくみ皮膚・筋・内臓などの末梢の組織にある痛みの受容器
(センサーの役割)が身体の損傷を感知し、その刺激が
神経を伝わって大脳にたどり着くと《痛い》という感覚が
生じる。
《痛み》を末梢の組織から大脳に伝える神経は、2つの中継点を経由して3本の神経で繋がっている
痛みがあると何もする気になれません。生きる意欲もなくしてしまうほどです。痛みを末梢の組織から大脳に伝える神経は、1本だけで末梢の組織から大脳に繋がっているのではなく、2つの中継点を経由して3本の神経で繋がっています。図のように、その中継点は脊髄と視床にあります。神経は1つの細胞であり、神経細胞を英語ではニューロンといいます。末梢から大脳までの神経を順に、一次侵害受容ニューロン、二次侵害受容ニューロン、三次侵害受容ニューロンといいます。
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一次侵害受容ニューロン
Aδ線維(受容器の興奮をすばやく脊髄へ伝える)
C線維(受容器の興奮を比較的ゆっくり脊髄へ伝える)
Aδ線維によって伝えられる痛み・・一次痛(fast pain)C繊維によって伝えられる痛み・・・・二次痛(slow pain)
二次侵害受容ニューロン
一次侵害受容ニューロンの興奮を、脊髄で受け取り
視床へ伝える神経
三次侵害受容ニューロン
二次侵害受容ニューロンの興奮を視床で受け取り、外側
系では一次痛を大脳の体性感覚野へ伝え、内側系では
二次痛を大脳の島皮質、前帯状回、扁桃体、海馬、前頭
前野へ伝える神経
一次侵害受容ニューロンには、Aδ線維とC線維の二種類があります。Aδ線維は、受容器の興奮をすばやく脊髄へ伝えます。C線維は、受容器の興奮を比較的ゆっくり脊髄へ伝えます。痛みには二種類あって、一次痛、二次痛と呼ばれています。一次痛は「刺すような鋭い痛み」で、二次痛は「鈍く疼くような痛み」です。組織が損傷されたときは、最初に一次痛が生じ、少し遅れて二次痛が生じます。一次痛は一過性の痛みで、たとえば、転んで頭を打ったとき、最初に感じる「火花が飛ぶような痛み」は一次痛で、その後に感じる「ズキズキした痛み」は二次痛になります。つまり、一次痛はAδ線維によって、二次痛はC繊維によって脊髄に伝えられます。二次侵害受容ニューロンは、一次侵害受容ニューロンの興奮を、脊髄で受け取り視床へ伝える神経です。脊髄の中でも後角というところに接続し伝えます。(次のスライドに脊髄の横断図をのせています)
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痛みが和らぐ現象は、さすったりつねったり身体の外から
刺激を与える方法以外にも、身体の中の神経の働きなどに
よっても生じる。その中に《下行性疼痛抑制系》と《内因性オ
ピオイド系》というものがある。
下行性疼痛抑制系の抑制性ニューロンは一次侵害性
ニューロンと二次侵害性ニューロンのシナプス伝達を抑する
ために、脊髄後角へある伝達物質を放出する。
内因性オピオイドとは、身体のなかで作られるオピオイド受容
体に結合させることで、痛みを和らげるもの。痛みの経路の途
中にあるオピオイド受容体にオピオイドが結合すると、痛み刺
激が伝達されにくくなり、痛みが和らぐこととなる。
痛みの病態による分類●CTやMRI、RI などの画像所見
●身体所見
①問診(部位、性質、いつからどのようにでているか、
増強因子、薬の効き方など)
②触診
③視診 などから痛みの原因を考える
体性痛 内臓痛 骨転移痛 神経障害性疼痛
病態による分類では、侵害受容性疼痛と神経因性疼痛の2つに大別されます。画像所見と身体所見などから痛みの原因を考えます。
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★侵害受容性疼痛:侵害刺激によって生じる痛み
危険から身を守る警告系
◎体性痛:疼痛の部位が非常に限局
持続的にうずく痛み、刺し込む痛み
fast pain-Aδ線維が刺激 鋭い痛み
slow pain-C線維が刺激 鈍い痛み
◎内臓痛:C繊維が刺激されて生じる局在がはっきりし
ないしめつけられる痛み、鈍い痛み
深い痛み
肝臓がん・すい臓がん
侵害受容性疼痛とは、切傷や炎症、機械的刺激などの侵害刺激によって生じる疼痛です。侵害受容性疼痛には、体性痛と内臓痛にさらに細分類されます。痛みのしくみで出てきた一次侵害受容ニューロンの二種類の神経線維のAδ線維とC繊維が体性痛に影響しています。内臓痛はC繊維が影響しています。
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◎骨転移痛
・がんの骨転移はがん組織から遊離したがん細胞が、
血行性に骨に漂着し、そこで増殖する。直接がん組
織が骨に浸潤することもある
・がんの骨転移は、X線写真の所見から、溶骨性、硬
化性(造骨性)、両者の混合型の3型に分けられる
溶骨性転移-乳がん・腎がん・肺がん など
造骨性転移-前立腺がんの骨転移 など
骨転移は、肺がん、乳がん、腎臓がん、前立腺がんなどに多く認められます。がんの骨転移はがん組織から遊離したがん細胞が、血行性に骨に漂着し、そこで増殖します。直接がん組織が骨に浸潤することもあります。X線写真の所見から、溶骨性転移と造骨性転移があります。溶骨性は骨が溶けていく状態で、造骨性は骨が硬くなっていく状態です。溶骨性転移で多いのが、乳がん、腎がん、肺がんなどで、造骨性転移で多いのが前立腺がんです。
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・骨膜を支配する神経が刺激される
→骨の痛みとして感じる
・障害部分に一致してうずくような痛み
・浸潤や圧迫が進む→体動時痛
・骨の変性や圧迫が進む→病的骨折
※ビスホスホネート(骨吸収抑制剤)→ゾメタ
腫瘍細胞⇔骨細胞の相互作用を遮断
→破骨細胞からの増殖因子分泌を抑制
→骨表面のがん細胞接着の阻害
ゾメタは骨転移痛の除痛効果があり、骨転移の進行、
病的骨折の予防
骨膜を支配する神経が刺激されて骨の痛みとして感じます。疼くような痛みで浸潤や圧迫が進むと動くたびに痛みが出てきます。それ以上に進行が進むと骨折しやすくなります。ビスホスソネートは骨に転移したがん細胞に直接作用はしないが、破骨細胞からの増殖因子の分泌の抑制をし、骨表面のがん細胞接着の邪魔をします。
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★神経障害性疼痛
・末梢神経及び中枢神経の損傷や機能障害による
痛み
・損傷された神経の支配領域の感覚低下やしびれ
感がみられるにもかかわらず、その部位が痛んだ
り、アロディニア(感覚過敏)が出現する。
・「灼けつくような灼熱感のある痛み」「電撃性で刺
すような痛み」「ピリピリするような痛み」「ズキズキ
する痛み」など
・慢性に経過する難治性の疼痛
末梢神経や中枢神経の損傷や障害によってもたらされる疼痛症候群です。損傷された神経の支配領域の感覚鈍麻やしびれ感がみられるにもかかわらず、その部位が痛んだり、アロディニアが出現したりします。損傷された神経の支配領域に一致して表在性に放散します。この痛みは、モルヒネなどのオピオイドに反応しにくい痛みであり、鎮痛補助薬を適切に使用することが重要です。
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がんによる神経障害性疼痛の例
○顔面の痛み
頭蓋骨底転移による三叉神経痛
○腕の痛み
パンコースト型肺がんによる腕神経叢障害など
○胸の痛み
骨転移による肋間神経障害など
○腰~大腿にかけての痛み
腸腰筋浸潤による腰神経叢障害
○殿部の痛み
骨盤内腫瘍による仙骨神経叢障害など
全人的な痛み(トータルペイン)
身体的苦痛痛み、息苦しさ、だるさ、動けないこと、日常生活支障
zぜぜ
身体的苦痛
痛み、息苦しさ、だるさ、動けないこと、日常生活の支障
全人的苦痛トータルペイン
社会的苦痛
仕事上の問題人間観的、経済的な問題、家庭内の問題、相続
スピリチュアルペイン
人生の意味、罪の意識苦しみの意味、死の恐怖価値観の変化、死生観に対する悩み
苦精神的痛
不安、うつ状態恐れ、苛立ち怒り、孤独感
がん患者が抱える苦痛は、身体的苦痛だけではありません。社会的苦痛、精神的苦痛、スピリチュアルペインの側面から全人的にとらえることが大切です。イメージがつきにくいのがスピリチュアルペインだと思います。スピリチュアルペインは霊的苦痛と訳されることもありますが、必ずしも、適当ではないとされ、そのままカタカナで表記されています。「自分らしく、存在意識や価値を実感して生きること」が侵害され、傷つけられた状態です。例えば、「こんな状態で生きるなんて無意味だ」「いままでの自分の人生は何だったのか」「家族に迷惑ばかりかけて、生きている意味はない」「死後はどこに行くのだろうか」「自分がこんな目に合うのはバチが当たったからだ」
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痛みのアセスメント★疼痛スケールの種類
①VAS(Visual Analog Scale)
10cmのメモリのない物差しを用いる
痛みのない状態を0mm、想像しうる最大の痛みを
100mmとし現在の痛みの程度を直線上に表す
②NRS(Numeriric Rating Scale)
0(痛みがない)から10(最悪の痛み)までの数字を
用いて痛みを表現する
痛みのアセスメントとは、その原因を明らかにし、治療を方向づけることです。医療従事者が協働しまがら、痛みのアセスメントを行うことが重要です。痛みは主観的なものであるため、医療従事者が客観的に評価することは困難です。患者が痛みを評価し、患者・医療従事者が共通に理解できるようなさまざまな質問票や評価方法が開発されています。患者の身体の生理的変化を把握する上で重要な脈拍、血圧、呼吸、体温は、バイタルサインといわれますが、痛みは第5のバイタルサインといわれとており、定期的に評価することが大切です。評価方法として、疼痛スケールがあります。主観的で他人が代わって体験したり、測定機器で測定することができない痛みの強さを、客観的に評価します。数値化することで、情報の共有や、変化の確認ができます。
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③VRS(Verbal Raiting Scale:カテゴリースケール)
痛みの強さの数字を口頭で回答する方法
④フェイススケール(FS)
痛みの表情をフェイススケール
痛みの程度を顔の表情で表現したもの
痛みなし 軽度の痛み 中度の痛み 強度の痛み 最悪の痛み
NRS、VASには妥当性と信頼性があるが、フェイススケールは、大人に対しては妥当性が確立されていないとされています。患者が最も使いやすいスケールを選択します。どのスケールでもいいですが、スケール間には互換性がないので、原則として1人の患者には同じスケールを使います。1度の評価ではなく、経時的に評価して変化を記録します。
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痛みアセスメント項目①痛みの部位
患者の痛い場所をフィジカルアセスメントしながら、ボディ
チャートに示す。痛い部位は1か所だけでなく、複数ある場合も多いので、すべて記載する。記載できる患者には記載してもらいながら、その痛みについて共通理解をする。
②患者の痛みに対する認識(なぜ痛みがあると思うか)
③痛みの強さ・性質
ペインスケール用いて、強さを把握する
どのような性質をもつものか患者に表現してもらう痛みが複
数ある場合もすべて把握する。しかし、痛みの性質を言葉
で表現することは思ったより難しい場合もあり、そのような時
は患者にといかけたり、痛み表現したシートを使用して、患者の痛みの表現を助ける必要がある
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④痛みの頻度・持続時間
痛みはいつから起こったか、それはどのくらい続き、ど
のように変化しているかを把握する。また、痛みは持続
性か間欠性か、1日のうちで何回くらい痛みが出現するか
⑤痛みが増強するとき
患者のこれまでの経験から増強因子を把握し、痛みが
増強しないような生活援助を工夫する
⑥痛みが軽減するとき
患者のこれまでの経験から痛みが軽減するときはどん
なときか把握する
⑦痛みによる行動制限、夜間の睡眠状況
日常生活のなかで、痛みがあるために不自由している
ことはないか、睡眠は妨げられていないか
⑧患者の対処方法
⑨家族の対処方法
⑩医療者の対処方
⑪現在使用中の鎮痛剤の患者の評価
⑫患者の希望
⑬患者と医療者のゴール
<継続アセスメント>
①オピオイドの副作用
②疼痛緩和治療の満足度
③疼痛緩和治療に関する理解度
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治療の目標
第一目標:痛みの軽減と夜間の睡眠の確保
第二目標:安静時の完全な除痛
第三目標:体動時の除痛
がん性疼痛に対する治療が目ざすものは、患者の痛みを取り除き、出来る限り普通の生活が送れるようにすることです。痛みの治療は緩和医療の基本です。痛みはがん患者や家族のQOLを著しく低下させ、身体的・社会的・精神的・スピリチュアルな側面のすべえを破綻させます。したがって、積極的治療によって痛みを取り除く必要があります。まず、がん性疼痛の治療の目標は3つに分けられえます。痛みは早期から関わり医療者と患者の目標のずれがないようにお互いのコンセンサス(合意)を得ることが大切になってきます。治療目標を患者とともに設定して、患者がその目標を理解していることが最良の成果につながっていきます。最終目標としては、第3目標にあるように、痛みの消失が維持され、患者の生活状況が平常に戻ることにありますが、これに向けて、第1目標の痛みの軽減と夜間の睡眠の確保、第2目標の安静時の完全な除痛、と段階的に目標を設定していきます。
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WHO方式がん性疼痛治療法の五原則
1.経口投与を基本とする
2.時間を決めて定期的に投与する
・疼痛時のみに使用しない
・毎食後ではなく一定の間隔で投与する
3.WHOラダーにそって痛みの強さに応じた薬剤を選択する
4.患者に見合った個別的な量を投与する
5.患者に見合った細かい配慮をする
・オピオイドについての誤解をとく
この治療法は、世界中においてがん疼痛治療の関心をたかめ、治療成績を向上させるのに寄与しています。①どこでも他人の手をかりずに鎮痛効果が得られ、自立した生活ができることです。②時間を決めて定期的に投与します。薬剤の作用時間が途切れないように投与間隔を決めます。特にオピオイドでは毎食後という指示はすべきではありません。③患者にとって鎮痛が不十分な場合には、3段階のラダーにしたがって段階的に治療薬のレベルを上げています。原則として非オピオイド鎮痛薬(NSAIDsまたはアセトアミノフェン)をまず投与して、硬化が不十分な場合はオピオイドを追加します。オピオイドを避けて第一段階をのばさないようにします。④患者に見合った個別的な量を投与します。オピオイドによる鎮痛では、患者ごとに必要量が大きく異なります。適切な量は鎮痛効果と副作用とのバランスが最も取れている量であり、「常用量」「投与量の上限」があるわけではありません。⑤患者・家族に薬の目的・名前・作用量・使用回数・副作用などを十分に説明すると共に、患者の痛みの変化や身体・心理状態、心配事などに注意を払い、きめ細かく調整することが重要です。
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WHO3段階除痛ラダー
第三段階
第二段階
第一段階 痛みが残っている
または新たな痛みの出現
痛みが残っている
または新たな痛みの出現
鎮痛補助薬
鎮痛薬は、非オピオイドとオピオイドに分類されます。非オピオイドには、非ステロイド性抗炎症薬とアセトアミノフェンがあります。オピオイドとは、中枢神経や末梢神経にあるオピオイド受容体と相互作用し鎮痛効果を示す化合物です。オピオイド受容体にμ(ミュー)、κ(カッパー)、δ(デルタ)などがあり、オピオイドの種類によりその作用がことなります。オピオイドは、従来、麻薬といわれてきた鎮痛薬を含みますが、麻薬という言葉は薬理学的に不適切で使用されなくなっています。「オピオイドとは、オピオイド受容体に作用する薬剤の総称です。」
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疼痛治療の概要
1 NSAIDSの開始
2 オピオイドの導入
3 残存・増強した痛みの治療
疼痛
持続的な痛みをとるためにオピオイドを増量する
体動時や突然の痛みに対処するためにレスキューを使う
持続痛の治療ステップ
突出痛の治療ステップ
疼痛治療の流れです。
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1 NSAIDSの開始評価①「どこか痛みませんか?と聞き、疼痛部位を診察
②「いつから痛みますか?と聞き、以前からの疼痛
かを確認
③画像検査を確認
④胃潰瘍、腎機障害、出血傾向を確認
治療①NSAIDsの定期投与②胃潰瘍の予防
③レスキューの指示
治療目標 効果判定期間1~3日
「効果なし」「現在の治療に満足している」
いいえ
2 オピオイドの導入
NSAIDsというには、非ステロイド性抗炎症薬ですが、長期間安全に投与できる薬剤を選択します。NSAIDS単独での弱い痛みが対象であり、中等度の痛みでは不十分です。NSAIDsはがん性治療の土台となる鎮痛薬であり、オピオイドと併用することで鎮痛効果を期待できます。オピオイド単独での治療に比べて、オピオイドの投与量をより少なくしながら質の良い鎮痛を得ることが可能です。経口可能な場合と不可能な場合のよく使われる鎮痛剤をあげています。心血管系の副作用は以外にみおとされがちです。評価①の疼痛の部位を診察するのは、帯状疱疹、蜂窩織炎、外傷など、がんと関連しない疼痛が合併することがあるそうです。評価②のいつから痛みますか?と聞くと、がんによる疼痛ではないことがあります。評価③は疼痛の原因となるがん病変が存在することを確認します。評価④はNSAIDSの投与に備えて確認しておきます。そして治療はNSAIDS定期投与、H
2ブロッカーなどを併用して胃潰瘍の予防をし、レスキューの指示ももらっておきます。
目標の1~3日過ぎても治療効果が不十分な場合には、NSAIDsの増量ではなくオピオイドの導入で対処します。
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2 オピオイドの導入
評価①経口投与は可能か
②腎機能障害はないか
治療 オピオイドの定期投与→嘔気、便秘の予防・
レスキューの指示 ※NSAIDsは原則として併
用する
治療目標 治療判定期間1~3日
「症状なし」「現在の治療に満足している」
いいえ
3 残存・増強した痛みの治療
第二段階も同じように、評価し、既往歴の確認し、副作用対策の薬とレスキューの処方もしておく必要があります。。評価①の経口投与は可能か確認します。②腎機能障害はないか、あれば腎機能障害はないか、あれば腎機能障害があっても安心して使えるオキシコンチン、レスキューでよく使われるオキノ-ムが処方されます。治療はオキノ-ムの定期投与、嘔気、嘔吐の予防は述べた通りです。そして、疼痛の悪化に備えてレスキューの指示は必要になってきます。NSAIDsは原則として併用する理由として、がん性疼痛では複数の痛みの原因が同時に存在していることが多く、程度の差はあっても炎症の伴った疼痛があれば、オピオイド単独で増量をくり返してもすっきりしない痛みが存在することが多いです。このような場合に、オピオイドにNSAIDsを加えると、驚くほど著名な効果をあげることがあります。NSAIDsの併用は、常に心がける治療法だといえます。治療目標でまだ痛みが残る時は残存・増強した痛みの治療にいきます。
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3 残存・増強した痛みの治療評価①今まで痛かったところと同じですか?と聞く
②問診や疼痛の評価する
・痛みは1日中ずっとありますか?それとも
たいていはいいけれど、時々ぐっと痛くなり
ますか?
・嘔気、便秘、眠気はありますか?
嘔気、便秘、眠気が強い
4 オピオイドの副作用対策
評価①で以前からの痛みを確認するのは、以前からのがん性疼痛に新しい原因(感染、骨折など)が加わることがあります。②で疼痛の評価をします。問診や「疼痛の評価シート」などを用いることで、1日通してずっと痛い持続痛か、普段の疼痛はないが、1日に数回痛みがある突出痛かを区別します。
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オピオイドの副作用対策
オピオイドの副作用として出現しやすいのは、便秘・吐き気・嘔吐・眠気です。便秘の出現頻度は、80%です。オピオイドの副作用の多くは十分にコントロールできます。混乱や呼吸抑制の出現頻度は低いです。便秘や眠気などの症状は、必ずしもオピオイドの副作用とは限りません。安易に副作用だと決めつけず、症状の原因を精査することが大切です。副作用と判断して、不用意にオピオイドの投与を減らしてしまうようなことは避けなければなりません。各オピオイドの特徴、出現しやすい副作用や出現時期などをよく理解し、それに合わせて観察を怠らない。十分な鎮痛効果が得られ、かつ最小限の副作用ですむように、オピオイドの種類や投与量を慎重に調整します。高い確率で出現する便秘や吐き気に対しては、出現してから対応するのではなく、予防的に薬物を投与します。強い副作用が出現すると、患者はオピオイドを使いたがらなくなることがあるため、予防的な薬物投与を忘れないこと。出現する可能性がある副作用や、出現した場合は速やかに対応できることを患者に説明し、理解を得ておきます。
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持続痛の治療ステップ
1 NSAIDSを最大投与量まで増量
2 定期オピオイドの増量30~50%1~3日ごと
3 オピオイドローテーションOr
鎮痛補助薬
治療目標効果判定期間 1~3日
症状なし現在の治療に満足している
放射線治療・神経ブロック
ここでは、オピオイドを導入しても痛みがとりきれなかった場合の対処を示しています。持続痛か突出痛かを区別しそれぞれの対応を行うことと副作用の対処が重要です。
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突出痛の治療ステップ
NSAIDS最大投与量まで増量
骨転移部の固定薬が切れた時の痛みの対応
レスキューを正しく処方レスキューの使い方の指導
定期オピオイドの慎重な増量
放射線治療・神経ブロック
治療目標効果判定期間 1~3日
症状なし現在の治療に満足している
このスライドが、突出痛の治療ステップです。
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看護師の役割その1 痛みに関心を向ける
・患者や家族の声
「痛いんです。」「何とかならないでしょうか」
・身体・情緒・生活上の変化
「夜眠れない」「イライラ」「PSが落ちた」
・痛み止めを開始した
・すでに鎮痛薬を使っている
ナースセンサーで痛みをキャッチしよう
治療の実際と看護師の役割にはいります。まず痛みに関心をむけます。前に述べたように、症状とは患者が感じるものであるため、その患者の痛みに関心を持ちます。
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その2 知識をつける
<症状マネジメントでは、メカニズムを理解しておくことが基本>
メカニズムがわかると・・・
①症状体験がわかる
②患者の表現から痛みの原因が見えてくる
③マネジメント方略がよく理解できたり、適切なマネジメントが示唆される
④「例えば・・・はどうですか?」と適切な質問を投げかけ、患者の表現能力を高めたり、より詳しい情報を引き出しアセスメントに生かすことができる
次に知識をつけます。症状のメカニズムを理解します。①メカニズムがわかると症状の体験がよくわかります。そして、②患者の表現から痛みの原因がみえてきます。③適切なマネジメントがそれとなく見えてきます。④「例えば、その痛みを言葉で表現するとどんな言葉になりますか」と適切な質問をなげかけ、患者の表現能力を高めたり、より詳しい情報を引き出しアセスメントにいかすことができます。
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その3 よく聴く、よく観る & GOODコミュニケーション
<患者の症状体験を正確に理解するために行う>
はじめる前に・・・
①患者の状態を確認する
②痛みについて聴く理由を説明する
③あらかじめ予定した時間を伝え、了解を得る
④疼痛アセスメントシート、フェイススケール
⑤集中して話しができる時間と場所の設定
よく聴く、よく観る、GOODコミュニケーションは、患者の症状体験を正確に理解するために、まず患者は話が聴ける状態であるか確認します。そして「痛みは、正しく評価し、正しい方法で鎮痛薬を投与すれば、取りのぞいていけるものであり、これから一緒に辛いことも考えていこう」という説明をしておきます。あらかじめ、集中して話しができる時間と場所の設定し、疼痛アセスメントシート、フェイススケールをチェックしておきます。
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話しに切り出し方:「どのような痛みですか、詳しくお話いただけますか?
用いる技術: 積極的な傾聴、集中力、高い共感レベル
話しを制限しない、自由に語ってもらう
患者の語りを値踏みせず、そのまま受け取る
痛みによって起きている心身の反応を観察する
例えば・・・
患者の語りを聴き、看護師が理解できた事を言葉にする
感情に焦点をあてた言葉がけ
きっかけとなるような言葉を投げかける、痛みの知識を使い客観的に問い
かけ、有用な情報を引き出す
聴く
観る
言葉にする