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95 2010.3 金属資源レポート 鉄鉱石市場 未来のための代替シナリオ 1. はじめに 本レポートは、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が 2009 年 6 月 17 日に東京で開催し た鉄鉱石セミナーで初めて発表されたものであるが、その後、今後数十年にわたる世界の鉄鉱石市場の未来を決定 付ける鍵となる 3 つの要素に焦点を加筆したもので、世界の鉄鉱石需要、供給及び貿易に関する最新統計データを 紹介しながら一般的な市場背景を述べた後、以下の 3 つの要素について詳細に検討している。 ①中国の鉄鉱石生産量  ②鉄鉱石生産の寡占化  ③必要な技術開発 本レポートは、鉄鉱石価格の中期見通しに関する考察で結んでいる。 今後の動向についての予測が特に困難なことは周知のとおりであり、筆者は、分析を精緻化し適確な結論を導く ため、読者のコメント、質問、異なる見解を歓迎する。 1. 背 景 1 - 1. 需 要 鉄鋼業界は 1974 ~ 1975 年のオイルショック以来最 悪の需要低迷に直面し、当然ながら鉄鉱石市場はその 影響を受けている。鉄鋼需要の落込みの主な原因は、 鉄鋼が建設、機械、輸送車両産業において重要な材料 であり、これらの産業部門が現在の世界的景気低迷の 中で最も大きな打撃を受けていることである。 2008 年の年央のリーマン・ショック以降、世界の 鉄鋼市場は急激に冷え込み始めた。その結果、2008 年上半期の粗鋼生産高は 4 ~ 6%のペースで増加を記 録していたにも拘らず、通年では 1.9%の減少となっ た。現在、世界の粗鋼生産量の 3 分の 1 以上(38%) を占めている中国は、依然として生産量を増加 (1.9%)させているものの、2007 年に記録した 16% 増と比較すると極めて低い伸び率となっている。アジ アを除く世界の全地域で生産量は減少した。欧州の生 産量は6.4%減、アフリカの生産量は8.8%減であっ た。南北米、オセアニアはそれぞれ 4.9%、4.1%減少 した。アジアは中国を含めると1.5%の増加である。 生産量の大きな国を見ると、米国、ロシア及びドイツ は 5.4 ~ 7.0%の減少だが、日本はこれらより幾分小幅 な 1.2%の減少に留まった。中国、インド、韓国はい ずれも 1.9 ~ 4.1%の増加を記録した。 1 - 2. 供 給 2008 年の世界の鉄鉱石生産量は、第 4 四半期に需 要後退を見たものの、通年では前年比 3.6%増の 1,700 百万t超に達し、7年連続で最高記録を更新した。図1、 表 1 を参照されたい。生産高はほとんどの産出国で減 少したが、主要生産国であるブラジル、豪州、南ア及 びインドの生産量が大きく伸び、他国の減少分を十分 に補った。2008 年の世界の鉄鉱石生産に占める新興 国の比率は 62%強(2007 年とほぼ同率)で、CIS は 11%、先進工業国は27%であった。CISの比率は 2007 年の 12%からわずかに縮小した。先進工業国の 比率拡大は、主に豪州の生産増によるものである。中 国は 2008 年に 366 百万 t(品位換算ベース)を生産し、 全世界生産高に占める比率は21%であった。国別 シェアでは 2007 年の 22%から減少したものの、依然 として中国は世界最大の生産国の地位を保っており、 2 位の豪州を 15 百万 t 以上、上回っている。 (Raw Materials Group、ストックホルム、2009 年 10 月、www.rmg.se) Magnus Ericsson 1051

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952010.3 金属資源レポート

海外レポート

鉄鉱石市場 ―

未来のための代替シナリオ

鉄鉱石市場 ― 未来のための代替シナリオ

1. はじめに本レポートは、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が 2009 年 6 月 17 日に東京で開催し

た鉄鉱石セミナーで初めて発表されたものであるが、その後、今後数十年にわたる世界の鉄鉱石市場の未来を決定付ける鍵となる 3 つの要素に焦点を加筆したもので、世界の鉄鉱石需要、供給及び貿易に関する最新統計データを紹介しながら一般的な市場背景を述べた後、以下の 3 つの要素について詳細に検討している。

①中国の鉄鉱石生産量  ②鉄鉱石生産の寡占化  ③必要な技術開発

本レポートは、鉄鉱石価格の中期見通しに関する考察で結んでいる。今後の動向についての予測が特に困難なことは周知のとおりであり、筆者は、分析を精緻化し適確な結論を導く

ため、読者のコメント、質問、異なる見解を歓迎する。

1. 背 景1-1. 需 要

鉄鋼業界は 1974 ~ 1975 年のオイルショック以来最悪の需要低迷に直面し、当然ながら鉄鉱石市場はその影響を受けている。鉄鋼需要の落込みの主な原因は、鉄鋼が建設、機械、輸送車両産業において重要な材料であり、これらの産業部門が現在の世界的景気低迷の中で最も大きな打撃を受けていることである。

2008 年の年央のリーマン・ショック以降、世界の鉄鋼市場は急激に冷え込み始めた。その結果、2008年上半期の粗鋼生産高は 4 ~ 6%のペースで増加を記録していたにも拘らず、通年では 1.9%の減少となった。現在、世界の粗鋼生産量の 3 分の 1 以上(38%)を占めている中国は、依然として生産量を増加

(1.9%)させているものの、2007 年に記録した 16%増と比較すると極めて低い伸び率となっている。アジアを除く世界の全地域で生産量は減少した。欧州の生産量は 6.4%減、アフリカの生産量は 8.8%減であった。南北米、オセアニアはそれぞれ 4.9%、4.1%減少した。アジアは中国を含めると 1.5%の増加である。生産量の大きな国を見ると、米国、ロシア及びドイツは 5.4 ~ 7.0%の減少だが、日本はこれらより幾分小幅

な 1.2%の減少に留まった。中国、インド、韓国はいずれも 1.9 ~ 4.1%の増加を記録した。

1-2. 供 給2008 年の世界の鉄鉱石生産量は、第 4 四半期に需

要後退を見たものの、通年では前年比 3.6%増の 1,700百万t超に達し、7年連続で最高記録を更新した。図1、表 1 を参照されたい。生産高はほとんどの産出国で減少したが、主要生産国であるブラジル、豪州、南ア及びインドの生産量が大きく伸び、他国の減少分を十分に補った。2008 年の世界の鉄鉱石生産に占める新興国の比率は 62%強(2007 年とほぼ同率)で、CIS は11%、先進工業国は 27%であった。CIS の比率は2007 年の 12%からわずかに縮小した。先進工業国の比率拡大は、主に豪州の生産増によるものである。中国は2008年に366百万t(品位換算ベース)を生産し、全世界生産高に占める比率は 21%であった。国別シェアでは 2007 年の 22%から減少したものの、依然として中国は世界最大の生産国の地位を保っており、2 位の豪州を 15 百万 t 以上、上回っている。

(Raw Materials Group、ストックホルム、2009 年 10 月、www.rmg.se)

Magnus Ericsson

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2010.3 金属資源レポート96

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鉄鉱石市場 ―

未来のための代替シナリオ

世界の 2008 年のペレット生産量は 317 百万 t であった。これは過去最高であった 2007 年の 326 百万 t を3.0%下回る数量である。この数値はペレット生産が、2008 年末に襲った金融危機で、鉄鋼原料の生産以上に強い打撃を受けたことを反映している。鉄鋼メーカーは高炉の休止を避けたい意向で、可能な限り減産して操業を継続しようとする。そのためペレットのよ

うな高品位の製鉄原料を使用しなくなっている。

1-3. 貿 易2008 年の鉄鉱石国際貿易量は前年比 7.8%増の 882

百万 t に達し、これも 7 年連続で過去最高である。この数字には CIS の域内貿易及び米国―カナダ間のバージによる輸出が含まれている。2008 年の海運による

(1052)

図 1. 世界鉄鉱石生産量の推移

(出典:UNCTAD 2009.)

国名 2003 2004 2005 2006 2007 2008スウェーデン 21.5 22.3 23.3 23.3 24.7 23.8欧州計(CIS 除く)カザフスタンロシアウクライナ

25.317.391.862.5

26.218.797.065.6

29.716.595.1 r68.6

30.218.6

102.5 r73.1

29.519.7 r

105.077.4

28.318.899.971.7

CIS 計 171.6 181.3 180.1 194.2 202.1 190.4欧州計カナダ⑴米国ブラジルベネズエラ

196.933.348.5

245.6 e19.2

207.528.654.7

270.520.0

209.830.154.3

292.421.2

224.435.052.9

318.6 e22.1

231.734.1 r52.4 r

336.5 e20.7

218.732.153.0 p

346.0 e21.5

米州計モーリタニア南アフリカ

371.310.138.1

400.210.739.3

425.210.739.5

454.611.141.3 r

471.211.941.6

481.211.249.0

アフリカ計インド

53.399.1

54.3120.6

54.3142.7 r

56.1180.9 r

57.7206.9

64.1214.0 e

アジア計(中国除く)中国⑵

116.6122.7

140.1145.7

164.7197.6

205.4276.4

237.2365.0 re

242.5366

アジア計豪州

239.3212.0

285.9234.7

362.4257.5

481.9275.1

602.2299.0 r

608.5349.8

オセアニア計 213.9 237.0 259.8 277.3 301.2 352.1世界計 1074.7 1184.9 1311.5 1494.4 1664.0 1724.6⑴出荷量⑵鉄含有率で換算した値。鉄含有量は他国と同等になっている。

(参考)換算前の中国鉄鉱石生産量: 261.1 310.1 420.5 588.2 682.5 824.0

表 1. 鉄鉱石国別生産量

0200400600800

1,0001,2001,4001,6001,8002,000

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

OthersUSAUkraineRussiaIndiaAustraliaChinaBrazil

1725 Mt 08/07 + 3.6 %

Source: UNCTAD, 2009.

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鉄鉱石貿易は前年比 7.4%増の 845 百万 t となった(米国― カナダ間のバージによる貿易を除く)。第 1 ~ 3四半期には急増したが、鉄鋼メーカーが生産を抑え、

原料購入を削減したため、第 4 四半期には急減に転じた。

ブラジルの輸出量は 2008 年に 4.5%増加し、282百万 t となった。この伸び率は前年より小さく、そのため再び鉄鉱石輸出量は豪州に次いで第 2 位となった。一方、豪州は 2008 年に 16%増の 3 億 t 強を輸出し、首位に返り咲いた。インドは 9 年連続で輸出量を伸ばし、11 百万 t を輸出した。これは世界第 3 位の輸出量である。これに南ア、カナダ、ロシア、ウクライナ、イランが続き、これら諸国のそれぞれの輸出量は、25 ~ 35 百万 t であった。スウェーデンは前年より減少して 18 百万 t に留まった。アフリカでは 2008年にモーリタニアが 7.2%の減少となったが、南アは8%の増加を記録した。カザフスタンとロシアは、共に過去 2 年間の鉄鉱石輸出を維持できず、2008 年は

前年比減となった。中国は引続き他の諸国を大きく引離し、鉄鉱石の最

大輸入国である。2008 年の輸入量は 444 百万 t で、前年比 16%増となった。日本の輸入量は 1.1%増の、140 百万 t であった。3 位、4 位の輸入国であるドイツ、韓国を合わせた上位 4 か国で世界の鉄鉱石輸入量のおよそ 75%(678 百万 t)を占めた。(CIS 諸国を除く)欧州の輸入量は 2008 年に 5.0%減少し、164 百万 t で、世界の輸入量の 18%に当たる。CIS 諸国は現在も域外からは鉄鉱石の輸入を行っておらず、CIS 諸国間の輸入量は世界の合計輸入量の 1.7%に相当する。ロシアの国外プロジェクトを考慮すると、近く世界の他地域からの輸入が開始される見込みである。

(1053)

図 2. 鉄鉱石国際貿易量(輸出量)の推移

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

OthersUkraineRussiaCanadaSouth AfricaIndiaAustraliaBrazil

882 Mt08/07 + 7 %

Source: UNCTAD, 2009.

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2. 中国の鉄鉱石産業2-1. 中国の鉄鉱石生産

高品位鉱床がわずかしかないという中国に特有の地質学的要素が、中国の鉄鉱石産業の構造を大部分において決定してきた。公式統計によると、『主要鉱山』に分類されている 49 鉱山からは、総生産量の 23%の188.2 百万 t しか生産されておらず、『中規模及び小規模鉱山』からはこれよりはるかに多い 636 百万 t 以上の鉄鉱石が生産された。合計で 8,000 を超える鉄鉱石鉱山が存在する。公式統計には 3,867 鉱山が記載されており、このうち 34 鉱山が『大規模鉱山』、43 鉱山が

『中規模鉱山』、1,407 鉱山が『小規模鉱山』、2,383 鉱山が『極小規模鉱山』である。総生産量に占める『大規模鉱山』の比率は 45%、『中規模鉱山』は 11%、『小規模鉱山』は 17%、『極小規模鉱山』は 27%である。

大規模鉱山と中規模鉱山の多くは高品位であり、輸入鉱石並みの高品質の鉄鉱石を生産している。一般的に小規模及び中規模鉱山の鉱床は低品位で、品質管理の厳格さの点でも劣る。

中国には膨大な数の鉄鉱石鉱山があるだけでなく、生産企業数も多い。大規模及び中規模鉱山の大半は自社の専有鉱山で、大手鉄鋼会社が所有している。これらの鉱山のほとんどは、未だ政府の支配下にあり、一部の大規模及び中規模鉱山のみが独立系企業である。271 の国有企業が生産の 65%を占め、1,507 の共同体が 14%、2,000 超の私企業が 21%のシェアを有する。

2-2. 中国の鉄鉱石生産規模中国の鉄鉱石生産は 7 年連続の増加を記録した後、

2008 年は前年とほぼ同等の生産量に留まった。中国鋼鉄工業協会(CISA)の報告によれば、粗鉱生産量は 824 百万 t であった。中国産出の鉄鉱石の平均品位は、徐々にではあるが着実に低下しており、2004 年には 12%程度の低いものから一部の高品位鉱山に見られる 56%までバラツキがあり、全体で約 30%と報告されている。2008 年、小規模鉱山が大幅な生産拡大を行ったため、鉄鉱石の平均品位はさらに低下したと見られる。

中国の鉄鉱石生産を分析する際、最も大きな問題となるのは、中国で生産された銑鉄の鉄含有量と、輸入及び中国国内鉱山で生産された鉄鉱石中の報告された鉄の量との間に明らかな相違が見られることである。この相違は、2008 年には特に重要な問題となり、大きな混乱を生じた。それは国内生産の鉄鉱石が、合理的に必要とされる量をはるかに上回ったと見られるからである。こうした状況の一部を明確化しようという試みから、過去 8 年間の銑鉄生産量を基に、鉄の需要量を算出した。作業の前提は、銑鉄生産量の統計が数量と鉄含有量の双方について、鉄鉄石生産量の統計より信頼性が高いということである。表 2 で、銑鉄の鉄含有率を 94%、輸入鉄鉱石品位は 63%と仮定している。表 2 では、国内メーカーが銑鉄の公表数量を生産するために実際に必要としている国内鉱山からの鉄の供給量を算出した。

(1054)

図 3. 主要国の鉄鉱石輸入量の推移

China

Japan

EU

Korea ROthers

0

20

40

60

80

100

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

907 Mt08/07 + 9 %

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これらの計算は、国内鉱山から 160 百万 t の鉄の供給があったということを示唆している。しかし公式統計によれば、国内産鉄鉱石の粗鉱生産量は 824 百万 tであるので、鉄含有率は通常推定される 25 ~ 30%ではなく 19%であったと考えられる。これにはいくつかの説明が可能であるが、いずれにしても、それらは全て銑鉄生産量と鉱石供給量の相違の一因となっている。これらの鉄の供給に関する調整は表 2 に示されている。・�在庫の変動については明白な説明が可能である。

鉄鋼業界が生産量の削減前に計画した鉄鉱石が納入された結果として、2008 年末の在庫は増加した。主要港湾の在庫は 2008 年末現在 61 百万 t あったとも、一部では 100 百 t あったとも報告されている。

・�鉄の一部は、鉄鉱石がシンターまたはペレット工場で使用可能な品位に選鉱される過程で消失している。中国の鉄鉱石採鉱の拡大により、多くの低品位鉱床での操業が始まったため、こうした消失は、低品位鉱石の総生産量に占める割合が上昇するにつれて増加した。従って、多くの場合、鉱石生産の過程で選鉱が必要となり、平均品位の低下に伴い、処理の過程で失われる比率が大きくなっていると見られる。

・輸送途中で消失する鉱石もある。・さらに、銑鉄生産時に消失する鉄もある。表 2 の計算では、上記の要素を考慮した場合、鉄の

国内生産の必要量は、67 百万 t 増加して 227 百万 t となる。これは推定品位が報告どおり 27.5%とすると824 百万 t に相当し、国際的に取引されている鉱石の63%として換算すると 362 百万 t に相当する。

他の 2 要素も重要であろう。鉱石の平均品位は 2008年に前年より悪化したと考えられる。公式統計に見られる改善は、先の予測で生産量を低く見積もっており、結果的に鉱石品位を過大評価したものと見られる。我々は、粗鉱中の Fe 品位が 2004 年の 30%から、2008 年の 27.5%まで徐々に低下していると推定する。

分析を複雑にしている要素の 1 つに、主に近隣諸国から、輸入統計に登録されていない輸入鉱石が一定量

存在する可能性が挙げられる。しかしその数量は大きなものではなく、鉱石の鉄含有量はブラジルや豪州から輸入される鉱石と比較しておそらく少ないものと考えられる。

以上の考察から多くの重要な結論を引出すことができる。・�中国国内の鉄鉱石の生産はこれまで、外国の観測

筋や中国当局が可能と考えたよりはるかに活発に進められており、今後もその勢いが続くと見られる。生産は一般的な予測より急速に伸びてきた。輸入鉱石の価格が高いため、国内生産は 2008 年末まで盛況を見せた。

・�中国国内産鉄鉱石の平均品位は、多くの場合推定される 30%を下回る可能性が高い。埋蔵量の枯渇を補充する高品位鉱石を発見するのは困難であり、新規に開発されている鉱山の品位は既存の鉱山より劣るためである。中国の多くの鉱山の閉鎖によって、ここ数年は品位が再上昇するであろうが、現在の埋蔵鉱量が徐々に終掘に近づくと、平均鉱石品位を上回る新鉱体を発見する見込みが無いため、平均品位は直ぐに再び低下するであろう。

中国については、国内の鉱石生産は 2008 年の 350百万 t(品位換算)から、2020 年には 160 百万~ 240百万 t に減少するであろうと我々は予想している。この仮説は 2009 年の現在までに明確に実証されている。2007 年と 2008 年の自給率(鉄鉱石需要総量に対する国内生産の比率)はそれぞれ 49%、45%であった。2009 年 1 ~ 5 月の自給率を年換算すると、5 月までに輸入が242百万 tに増加し、国内生産が130百万 t(標準化した鉄含有量で)にまで減少したため、2009 年の自給率は 35%まで急減する。比較的少ない埋蔵量、低品位、高い不純物含有率及び高い操業コスト(現在70 ~ 120US $/t)を考慮すると、予想される将来の生産レベルは、実現困難であると言えるであろう。現在中国の鉄鉱石メーカーの半数は赤字操業を強いられ、直接的または間接的に補助金を受けている。このように中国では、鉄鉱石の需要が増加する一方、経済的意義のある国内埋蔵量が限られることから、ますます輸

(1055)

(単位:百万 t)

表 2. 中国の鉄鉱石生産を再考する:統計の相違

総量 鉄含有量1. 銑鉄生産(鉄含有量 94%と仮定) 468 4402. 輸入鉄鉱石(63% Fe と仮定) 444 2803. 国内鉄鉱石供給(1.-2.) 1604. 在庫の増加 255. 選鉱時の消失 126. 輸送時の消失 97. 銑鉄生産時の消失 218. 鉄鉱石国内供給(3.+4.+5.+6.+7.、数値調整済) 2279. 鉄鉱石生産量(報告値) 824

10. 63 % Fe に調整した鉄鉱石生産量 362(出典: CISA の銑鉄、輸入及び国内鉱石データ実数。鉄含有量についての仮定はすべてロー・マテリ

アル・グループが Jacques Astier の協力を得て作成した。)

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未来のための代替シナリオ

入鉄鉱石への依存を強めることになるであろう。その結果、中国の国内鉄鉱石が国内消費総量に占める比率は、2008 年の 50%以下から、2020 年には 40%以下に低下するであろうと予測される。

3. 企業集中度表3に示すとおり、『ビッグ3(鉄鉱石生産大手3社)』

(Vale、Rio�Tinto、BHP�Billiton)の市場占有率は 2008年に 34%に縮小した。これらの企業は、全世界の生産の成長速度について行けるよう生産を伸ばすことができなかった。その主因は、2005 ~ 2007 年のインドと中国の小規模メーカーによる生産の急速な拡大と 2008 年末の同 「ビッグ 3」 による鉄鉱石生産削減にある。

2008 年、鉄鉱石産業の企業集中度は、最大手、上位 3 社、上位 10 社のいずれのレベルにおいても低下した。長年にわたり続いてきた企業集中度の上昇傾向は一段落したようにみえるが、この現象が今後も続くか否かは定かではない。その主な理由は、価格維持のための生産削減で主導的役割を演じたのが Vale とRio�Tinto の両社だからである。この両社は、需要が

増え次第、生産を急増させる構えである。さらに中国では広範囲にわたる鉱山閉鎖を伴う深刻な国内生産の急減(Great�Chinese�Shakout)が今後数年以内に起きる可能性がある。これら 2 要因により、今後 2 ~ 3年の間に『ビッグ 3』が支配する生産比率の合計が、2003 ~ 2005 年の最盛期レベル、あるいはそれ以上に拡大することもあり得る。

(1056)

表 3. 鉄鉱石生産者トップ 10

*インド政府は SAIL、NMDC を含む。 (出典:Raw Materials Data)

企業名 国名権益分生産量

(百万 t)シェア(%)

Vale ブラジル 303 17.6Rio Tinto 英国 150 8.7BHP Billiton 豪州 137 7.9インド政府 インド 54 3.1Arcelor Mittal 英国 46 2.7Metalloinvest ロシア 38 2.2Anglo American 南ア 36.7 2.1Cliffs Natural Resources 米国 32.7 1.9System Capital Management ウクライナ 24.5 1.4LKAB スウェーデン 23.9 1.4

上位 10 社計 846 49世界計 1,725 100

図 4. 鉄鉱石生産及び海運輸出の上位 3 社への集中度(1990 年と 2008 年)

Vale Rio Tinto BHPBilliton 7 next

largest

1990

2008Seaborne trade 2008

0

5

10

15

20

25

30

35

Source: Raw Materials Data, 2009.

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鉄鉱石市場 ―

未来のための代替シナリオ

鉄鉱石産業は垂直統合されているため、鉄鉱石生産の大部分は市場流通しない。そのため生産レベルで企業支配を測定すると、鉄鉱石分野の企業集中度を過小評価してしまう。そこで、鉄鉱石の海上貿昜から見ると、大手企業のシェアが著しく大きいことが分かる。Vale 一社だけで、鉄鉱石海上貿昜の世界市場の 33%を占め、大手 3 社では 69%を占めている。この数字は、特に現行のベンチマーク交渉体制においては、大手メーカーの価格支配強化に結び付く寡占化リスクがあると主張する人々に引用される。BHP�Billiton とRio�Tinto の合併提案は破談に終わったが、2009 年 6月には、両社が拘束力を持たない共同事業(JV)契約を締結したと発表し、この契約は豪州西部における両社の鉄鉱石事業とインフラ全体を対象としている。この契約については、大手企業の交渉力を強めることに対する懸念の声も一部であがっている。

市場の占有率を測るハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)は、鉄鉱石の場合、大手 10 社レベルで 1736 であり、2007 年に比べ若干低下したものの、米連邦取引委員会(FTC)が 「高度に寡占的」 と呼ぶ 1800 のラインをわずかに下回るレベルである。これは、大手企業が市場と価格に対して潜在的影響力を持つとの主張を裏付ける数値である。BHP�Billiton とRio�Tinto の合併提案が成功していれば、この数値は引上げられ、ほぼ 2500 に達したことになる。この観点から、欧州連合(EU)の監督機関が一部事業の売却を行わない限り合併を承認しないとしたのは、理に

かなった判断であった。関係諸国の独占禁止当局がRio�Tinto と BHP�Billiton の鉄鉱石生産提携提案に反対するか否かはまだ不明であるが、批判的なコメントがなされないとすれば驚くべきことである。

4. 開発及び技術動向未開拓地域で開発された鉄鉱石鉱床の品質が、今後

数十年間にわたって低下して行くであろうことは衆目の一致するところである。こうした新規開発プロジェクトは主に、生産コストの高い低品位鈜体、磁鉄鉱鉱体の比率の増加が見られ、そして最も重要と思われることは、地理的に不利な位置にあることである。

新規鉱山は、カナダ北極圏のように、過去に全く、あるいは限定的にしか採鉱活動が行われなかった場所であり、そのため電力供給、輸送機関、採鉱事業、現地スタッフ及び社会からの全般的支援等のインフラが完全に欠如している。それらの鉱山は、港から遠く、ブラジルのジャングルやシベリア奥地のように、荒涼とした地域に存在する。採鉱計画の中で最も重要な候補の 1 つであるカナダの磁鉄鉱鉱床に対するコスト試算は、投資コストと操業コストが大幅に上昇することを示している。こうした鉱山の開発コストはかなりの程度まで地質学的特性と輸送インフラの欠如によって決定され、例えば豪州の既存鉱山の現況と比べると相対的に高いと言える。ギニアや西アフリカ諸国の奥地の新プロジェクトも同様のコスト形態になると見られる。参考まで図 5 に今後の地域別新規鉄鉱石プロジェ

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図 5. 地域別鉄鉱プロジェクト数(2009 ~ 2011 年)

0

50

100

150

200

250

Oceania

AfricaNorth America

South America

AsiaEurope

PossibleProbableCertain

Source: Raw Materials Data, 2009.

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鉄鉱石市場 ―

未来のための代替シナリオ

クト数を示す。2007 ~ 2008 年に記録した生産コストの急増は、大

部分が供給の滞り、エネルギーコストの上昇、供給業者から採鉱業界に対するレントシーキングの影響によるものである。キャッシュ ・ コストは、2000 年代初めのレベルに戻ることはないであろうが、現在、より正常なレベルに回復しつつある。長期的見通しでは、新技術の飛躍的進歩がない限り、コストは徐々に上昇し、鉄鉱石価格も上昇するであろう。Fortesque 社がPilbara 鉱山にいわゆる『サーフィスマイナー�(露天掘用岩盤切削機)』を導入する等、新たな取組みが既に行われている。これらの機械は従来石炭の露天掘に使用されていたが、鉄鉱石にも応用できることになり、結果も良好である。これは将来利用する機器の基本的新技術の一例に過ぎず、様々な方法を開発する必要がある。それを可能にするには、鉱山会社と機器メーカーの双方が、現在よりはるかに多額の資金を研究開発に投入する必要がある。これは鉄鉱石の鉱山会社にとっての問題だけに留まらず、鉱業界全体にとってのジレンマでもある。しかし鉄鉱石のように大量に生産される物資においては、この問題は一層重要になる。鉱業界は生産と投資コストを適正水準に維持するため、従来から用いてきた旧式のさく孔、発破、廃滓処理の技術と決別しなければならない。

5. 今後の見通し世界の鉄鉱石産業は、生産能力をはるかに下回る水

準で操業している。鉄鋼生産に関する最も楽観的な推定でも、2009 年の鉄鉱石需要は前年を下回ることは間違いないとされている。現在の過剰供給が直ぐには解消しないことは明らかである。しかし、供給過剰を解消するものではないが、予測に影響を与える重要な要素が 2 つある。その 2 要素とは、貨物運賃が引下げられる見込みであることと、中国の鉄鉱石鉱山の生産コストが上昇する見込みであることである。中国の中小生産者は、特に輸入鉄鉱石の輸送コストが高いことによる保護をもはや期待できないことから、生産量の大幅な削減を余儀なくされる可能性が高い。現在中国の鉄鉱石採鉱企業の半数が赤字経営であると推定される。図 6 はその問題を明らかにしている。2007 年初頭から 2008 年秋にかけて、これらの生産企業は、中国への貨物運賃を勘案した基準価格をも大幅に上回る極めて高い価格を受け入れていた。世界と中国の鉄鋼

生産の急速な拡大は、限界収益点にある操業コストの非常に高い鉱床でも、中国市場では十分に競争力があったことを意味していた。結局金融危機とそれに続く景気後退によって拡大は終わった。鉄鉱石のスポット価格が下落したのに伴い、鉄鋼価格は下落し、貨物運賃も急激に引下げられた。2008 年末には、鉄鉱石のスポット価格の下落と貨物運賃の値下げによって、陸揚鉱石価格に関しては、契約価格に従う外国生産者と中国の採鉱業者が対等な立場に立つことになった。

2009 年第 1 四半期の粗鋼生産は 20 ~ 25%減少し、第 2 四半期は予想外の急速な回復を見せたという公表された実績に基づき、我々は、高炉銑鉄を含めた2009 年の世界の粗鋼生産量を前年比約 15%減と予測する。今後、粗鋼と高炉銑鉄の生産が 2008 年に記録した水準に戻るには、更に 2 年ないし 3 年は要するであろう。

2009 年から 2012 年末までの世界の生産能力の新規追加総量は 300 百万 t で、これは 2008 年比 18%の増加となる。世界の経済情勢を鑑みると、この期間に需要が 18%増加する見込みは薄いため、2008 年に閉鎖された鉱山は依然閉山状態が続き、一部プロジェクトが延期もしくは中止される中、新たに閉鎖される鉱山も出てくるものと予想される。『ビッグ 3』等の生産者から発表されている拡張計画

は、2012 ~ 2014 年までに見込まれる需要増加を満たすのに十分であろう。長期的には、未開発地域の鉄鉱石を新たに開発する必要が出てくる。物流、操業コスト及び品質の観点から、インド及び西アフリカにおけるプロジェクトや、ブラジル及び豪州 Pilbara 地域の更なる拡張が最も有望である。金融危機、インフラ上の制約及び政治的リスクのため、こうした「第二波」のプロジェクトが2015年までに実現する見込みは全くない。

中期的には、契約価格は現在のスポット価格に相当する水準、すなわち中国陸揚げ鉄鉱石について70US $/t を維持する見通しである。この価格変動によって、中国の採鉱業界に淘汰が進むであろう。中国の鉱山に関する限り、安全衛生対策費、環境管理費及びエネルギー価格の上昇は、価格下落の影響を色濃いものにするであろう。中国の国内鉄鉱石生産量が減少するため、新規投資、特に『ビッグ 3』による投資が鈍化し始めるであろう。そのため他国の採鉱産業は、フル稼働での生産はできないまでも、固定費に見合うだけの操業率を維持することができるであろう。

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未来のための代替シナリオ6. 結 論

中国は現在の世界の鉄鉱石市場において最大勢力であり、今後数年間はその地位を維持するであろう。中国の増産ペースは過去数年に比べれば緩やかになっているものの、世界的な鉄鉱石需要の不振の中で、引続き増産を行っている。価格の下落と良質の輸入鉄鉱石の利用可能性が増加したことにより、国内生産量は大幅に下落する可能性がある。そのため、2009 年の輸入が増加する見通しである。

中国には鉄鉱石の輸入需要を満たすための 2 つの代替戦略がある。・海外で鉄鉱石を生産する合弁事業に投資する・固定価格レベルで長期契約を結ぶ

従来と同様に、上記の 2 つの戦略によって将来の供給が確保されるであろう。これと同時に、鉄鉱石のグラスルーツ探鉱を開始する戦略もある。中国財政部は3 年前、中国企業が必要とする原料を確保するため、海外での探鉱に利用する特別基金を設けた。これまで、この基金の大半は外国での M&A 活動に費やされ、探鉱活動は抑えられてきた。しかし、探鉱活動は以前

よりはるかに重要度を増すと考えられ、中国の探鉱会社が未開発地域での発見に至るのは時間の問題である。

結論として、鉄鉱石市場は 2009 年のみならず 2010年に入っても、鉄鋼需要が上向くまでは供給過剰な状態が続くであろう。Raw�Materials�Group は、鉄鉱石価格は 2010 年には安定し、2011 年に上昇に転じると予測する。

このレポートの参考資料は、2009 年 6 月に UNCTADが発行した「The�Iron�Ore�Market�2008-2010(2008 ~2010 年の鉄鉱石市場)」から引用した。この研究レポートは、国連貿昜開発会議(UNCTAD)のためにRaw�Materials�Group(www.rmg.se)が調査、編集したものである。研究レポートの入手申込みの連絡先は、メールアドレス:[email protected]、または Ms�Amelie�Zethelius�Mermet(ファックス番号 +41-22�9170509)となっている。

(2010.1.6)

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図 6. 2005 ~ 2009 年の基準価格とスポット価格

(出典: TEX Report 及び Metal Bulletin を基に UNCTAD が作成)

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小嶋(こじま)