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30 セッション2 「石油産出国とどうつきあうか-産油国の抱える問題」 (保坂) 今日、午後の最初の部、「石油産出国とどう付き合うか」のセッションの司会を 担当いたしますエネルギー経済研究所の保坂と申します。午前中はかなり血なまぐさい話 しだったのですけれども、午後は油くさいといいますか、お金の臭いのぷんぷんする話に なればいいな、と思います。 今日は 3 人のパネリストの方をお招きしました。まずは東京国際大学の武石礼司先生で すが、武石先生はアラビア石油にご勤務された経験がございまして、言ってみれば石油の 専門家でもございます。まさにその産油国との付き合い方に一番直に関わった方です。そ れから私の隣にいらっしゃるのが外務省の中東アフリカ局中東第二課長の中川勉さんです。 全く個人的な話しですが、私がサウジアラビアにいるときに、まさに中川さんと在サウジ アラビア日本大使館で机を並べておりまして、その頃は中川さんはまだ研修明けでしたが、 偉くなられてこうしてこの場に立っていらっしゃいます。そして 3 番目が中東調査会の河 井明夫さんです。河井さんはもともとは某国営放送に勤務されたあと、中東各地を転々と されまして、私と同じく在サウジアラビア日本大使館で専門調査員を経て、現在は中東調 査会で研究員をされておられます。彼のその転々の中にはドバイですとか、ドーハといっ たサウジアラビアのみならず湾岸の国々が含まれておりまして、特にそのドバイ、ドーハ においては彼は日本と直接関係するポジションで働いておられたという経験をお持ちです。 では、最初に武石先生からご報告をお願いします。 (武石) 武石と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 今日は「産油国経済の持続可能性」というテーマで話をさせていただきたいと思います。 私自身、産油国、湾岸諸国、イラン等、中東諸国の経済、特にマクロ面を最近は中心に追 っています。80 年代にサウジの石油会社に勤務していたという経歴です。 私が最近一番驚いたのは、この絵です[巻末資料③スライド 2-3]。今年 8 月にほぼでき 上がったのですが、メッカの神殿のすぐ上にメッカ・ロイヤルクロックタワーという高さ 828 メートルの建物ができ上がりました。ドバイの一番高い建物がブルジュハリファで 839 メートルですから、11 メートルだけ低いわけです。つまり、神殿から見上げるように なるわけです。逆にいうと、上から見たら、真下をぐるぐる人が回っているという、まさ に超絶した建物ができ上がったという。これだけでも、私は非常にイスラームがある意味 動揺しているという感じを受けました。 この建物は誰が作ったかというと、サウジ第一の建設グループで、それはもちろんビン・ ラディングループであります。こういう世界ができ上がっているということです。 神殿があって、ここに高いビルが建ったわけですけれども、こういうものをイスラーム として作ってしまうといいますか。サウジ政府がこういうものをやるのだという意思を持 っているという、これだけでも驚きです。

セッション2 「石油産出国とどうつきあうか-産油国の抱える問 …€¦ · カナールというプロジェクトでは掘り込んで運河を作ろうという計画があります。こう

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セッション2 「石油産出国とどうつきあうか-産油国の抱える問題」

(保坂) 今日、午後の最初の部、「石油産出国とどう付き合うか」のセッションの司会を

担当いたしますエネルギー経済研究所の保坂と申します。午前中はかなり血なまぐさい話

しだったのですけれども、午後は油くさいといいますか、お金の臭いのぷんぷんする話に

なればいいな、と思います。

今日は 3人のパネリストの方をお招きしました。まずは東京国際大学の武石礼司先生で

すが、武石先生はアラビア石油にご勤務された経験がございまして、言ってみれば石油の

専門家でもございます。まさにその産油国との付き合い方に一番直に関わった方です。そ

れから私の隣にいらっしゃるのが外務省の中東アフリカ局中東第二課長の中川勉さんです。

全く個人的な話しですが、私がサウジアラビアにいるときに、まさに中川さんと在サウジ

アラビア日本大使館で机を並べておりまして、その頃は中川さんはまだ研修明けでしたが、

偉くなられてこうしてこの場に立っていらっしゃいます。そして 3番目が中東調査会の河

井明夫さんです。河井さんはもともとは某国営放送に勤務されたあと、中東各地を転々と

されまして、私と同じく在サウジアラビア日本大使館で専門調査員を経て、現在は中東調

査会で研究員をされておられます。彼のその転々の中にはドバイですとか、ドーハといっ

たサウジアラビアのみならず湾岸の国々が含まれておりまして、特にそのドバイ、ドーハ

においては彼は日本と直接関係するポジションで働いておられたという経験をお持ちです。

では、最初に武石先生からご報告をお願いします。

(武石) 武石と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

今日は「産油国経済の持続可能性」というテーマで話をさせていただきたいと思います。

私自身、産油国、湾岸諸国、イラン等、中東諸国の経済、特にマクロ面を最近は中心に追

っています。80 年代にサウジの石油会社に勤務していたという経歴です。

私が最近一番驚いたのは、この絵です[巻末資料③スライド 2-3]。今年 8 月にほぼでき

上がったのですが、メッカの神殿のすぐ上にメッカ・ロイヤルクロックタワーという高さ

828 メートルの建物ができ上がりました。ドバイの一番高い建物がブルジュハリファで

839 メートルですから、11 メートルだけ低いわけです。つまり、神殿から見上げるように

なるわけです。逆にいうと、上から見たら、真下をぐるぐる人が回っているという、まさ

に超絶した建物ができ上がったという。これだけでも、私は非常にイスラームがある意味

動揺しているという感じを受けました。

この建物は誰が作ったかというと、サウジ第一の建設グループで、それはもちろんビン・

ラディングループであります。こういう世界ができ上がっているということです。

神殿があって、ここに高いビルが建ったわけですけれども、こういうものをイスラーム

として作ってしまうといいますか。サウジ政府がこういうものをやるのだという意思を持

っているという、これだけでも驚きです。

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ハッジ(巡礼)の時期、300 万という人が年間訪れるわけですけれども、本当に皆黒い

石の周りを回れるかというと、今は混み合う時期には中心に入るのにはお金がかかるとい

うことで、お金持ちしかあの中には入ってぐるぐる回れないという記事も、私は読んだこ

とがあります。そうだとすると、イスラームとは一体何なのかというかなり厳しい問いか

けが行われている可能性があるのではないかと思えてくるわけです。

しかも、経済が好調だと言って浮かれてばかりはいられません。ドバイの建設ラッシュ

のスライド[巻末資料③スライド 4-8]を見てください。ずいぶん建設が止まったりしま

したけれども、このようにいろいろなものがほぼでき上がりつつあります。ザ・ワールド

で日本の地図のところは中国のお金持ちが買って何か建てそうだなど、いろいろな話があ

りますが、ドバイの経済が本当にこのままうまく発展していく可能性があるのでしょうか。

ドバイはイランが経済制裁を受けていることによって繁栄しているだけではないか、とい

う見方もあるわけです。

カナールというプロジェクトでは掘り込んで運河を作ろうという計画があります。こう

いうものもいずれ作っていくのだとすると、もう海岸に土地がありません。そうすると、

ドバイの産業として船の修理でドックがあるのが有名ですが、そんな場所はもったいない、

海岸沿いのアルミ工場など潰してしまえという意見までいま出ていると聞いています。

それでは産業を育てるという意味で、このドバイの自転車操業のような発展は、さらな

る都市作りの方向へどんどん進んでいいのか、これがかなり疑問になってくる状況にあり

ます。

次のスライド[巻末資料③スライド 4-8]ではきれいな建物がたくさんありますが、ほ

ぼこのとおり作ろうということで、方向性としてはこちらに動いていることになります。

日本が一生懸命作ったトランジット、新交通システムも、作ったことによってわかって

きたことがあります。出稼ぎの人がたくさん来ていて、従来は男ばかり、独身で来ている

という話でしたが、やはり長い間働いてくると、家族で住んでここしか知らないというイ

ンド系、パキスタン系等、いろいろな人たちがかなり増えているということがわかってき

ました。その人たちが電車に乗って、スキー場などいろいろなところへ出かけていく。新

交通システムに乗るのはそういう人だということもわかってきました。

次のスライド[巻末資料③スライド 4-8]にあるように、高さだけをいえば、ナキール

タワーという 1000 メートルのビルも事情さえ許せば作るということになってきたわけで

す。設計図はもうできているわけです。

次の表の数字[巻末資料③スライド 9]はお手元にお配りしているので、後で見て確認

してください。外国人の比率がこれだけ高い国で、将来のこととして何を考えようかとい

う時に、やはりいろいろな観点が出てくるわけです。

外国人労働者を調べることも 1 つの方法ですが、従来、外国人労働者を調べると、ほと

んど話しているうちに相手が泣き始めるといいましょうか。そういう経験も私はあります。

「私の人生なんかどうなってもいいんだ。家族が自分の母国で暮らせればいいんだ」とい

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う人が昔はいました。ところが、最近は「あと 1 年か 2 年で自分の契約の期限が切れる。

そうしたら、私はインドへ帰って蓄えたお金で何か商売を始めるんだ」とうれしそうに言

う人が増えています。

こういう状況があって、これはこれで非常によかったということです。アジアの経済が

伸びてきたということで、中東とのある意味バランスがとれたということもいえるかと思

います。

詳しくは後ほどまたディスカッションの時に話をさせていただければと思いますが、近

隣の大国ですね。エジプトとかイランとか、こうした人口大国に取り囲まれた中、レンテ

ィア国家と呼ぶ石油からの不労所得に依存した湾岸の産油国が、本当にそれで国をまとめ

ていけるのかというところに不信感が少し存在しています。

政治の世界では、「せいとうな」という時に 2 つの意味がよく言われます。要するに

legitimacy がある。つまり、前の政権から脈々と続いてきたような正統性があるといえるの

か。1 つずつの政府に関して問題があると同時に、民衆の支持を受けているかという正当

性に関しても、本当に大丈夫か。日本でもあてはまるとも言えますが、民主的に選挙をし

ようとすると、非常に政治が動かなくなる、スタックするというのはどこでも生じている

わけです。そうしたところに、本当に経済的な発展があるのかということが非常に問題に

なってくるわけです。

お手元の資料[巻末資料③スライド 10-11]にあるように、今や実質額で見ても大変な

お金が入ってきて、2009 年のリーマンショックがあったといっても、また今年収入額が急

増しています。この後もやはり下がるとはとても思えないような収入が毎年入ってくる状

況が続くと、予想できてしまいます。

そうした時に、このお金をどうやって使っていくのか。お金を持てば、その人たちは本

当に幸せかというと、世の中にインバランス、要するにさざ波を立てるというか、大嵐を

起こすような存在となっている。アメリカがあまりにも借金が多い、中国があまりにもお

金をためすぎている、そして中東もお金を持っている。あなたたち何とかしなさいという

ことになるわけです。

使い道としては、メッカにどんどんお金を使い、メディナにもたくさんお金を使います

が、まだ使い足りません。それで、5 年間で 7 兆ドルくらい武器を買ってしまおうかとい

う話になっているといわれています。この話はサウジアラビアですけれども、同じように

各国とも使うところというと、そういうところにお金が回ってしまうということです。た

くさん武器を買った人は、歴史的に見ると、だいたいそれを使ってきているわけです。そ

うだとすると、これは大丈夫かということになるわけです。

ところが 1 人当たりで見ますと、人口は大変な勢いで増えていますから、1 人当たりで

見ると実際は 70 年代のオイルショックの頃ほど収入があるわけではありません。イランな

どは本当にかわいそうで、1 人当たり昔も今もずっと少なかったわけです。70 年代に革命

がすぐ起こってしまいましたし、その後も耐えに耐えたという状態が続いてきたわけです。

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となると、これは大丈夫かということになるわけです。

このグラフ[巻末資料③スライド 12]は 2014 年くらいまで数字が入っていますが、ま

たお金が入ってきてしまいます。ところが、使うベースがないということになるわけです。

イスラーム銀行があるではないかという話もありますが、イスラーム銀行もリーマンシ

ョックの後わかったのは、やはり使うところは土地くらいだということです。要するに、

不動産にしかお金が入っていかないということがわかりまして、国内に産業を育てようと

いう基盤がどうもなかなかうまく作れないということです。

そこで自動車産業を興したらいいのではないか等、いろいろな話がありました。サウジ

アラビアだけを見ても、年間 80 万台も自動車が売れているのだからいいのではないか。中

東湾岸諸国で 120 万台くらい車が売れているけれども、工場を作ったらいいかというと、

今は違います。自動車産業はモジュール化といって、どの工場を見てもわかるように、エ

ンジン等の部品の集合体の大きな塊になったものを持ってきます。それをどうしても人手

で何かやりたければ手で留めなさいということで、中国の工場に行くと一生懸命皆で留め

ていますが、別にロボットを使って留められる部分も多くあるわけです。

そういう大きなモジュールになったものを組み立てていく時に一番大切なのは何かとい

うと、どうやってラインを組んでいくかという設定するところです。そこがノウハウなわ

けです。だから、工場をくれといって、じゃあいいですよ、建てましょうといって建てて

も、それはノウハウの移転にはなりません。

サウジアラビアの人たちも一生懸命イノベーション、イノベーションと今言っています

けれども、イノベーションを起こすための基盤をどうやって作るかという時に、箱ものが

できてもそこから先がなかなか進まないという状況があります。

箱ものとしての学校の建物は作っています。ボケーショナルトレーニングといって、職

業訓練をしようということで、いま年間 10 万人くらいがサウジアラビアで職業訓練学校を

卒業してきます。私もそういうことについてはいろいろ聞いたことがあります。中東の国

の労働省や教育省へ行くと、「とにかく宗教教育ばかりを受けてきてしまった。高校を卒業

した 2 年間、何かいろいろな社会に出られるような職業訓練をしてほしい」と言われたこ

とがあります。もちろんそれは必要だとみんな考えて、始めているのですが、じゃあ仕事

はあるのということになります。

今の計画では、サウジだけを見ても多分あと 5 ~6 年の合計で 40 万人くらいが職業訓

練を受けて出てきますが、毎年毎年訓練生が出てきた時にどうしたらいいのかということ

です。仕事をどうやってサウジの人たちが本当にやる気を出して仕事をしていくことがで

きるのかというところで、なかなか難しい面があることになります。

では、どうするかというと、1 つは市場を広げるという考え方があります。GCC の経

済統合というものです。サウジは他の国に勝てると思っていますね。クウェートなどはサ

ウジから見ると北の端っこにあるという考え方が、やはりサウジのような大国としてはあ

ります。では GCC 全体として本当にドバイ型の発展が可能かというと、これはよくわか

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りません。いろいろな意味で難しい面があるということで、自由貿易協定を結んでも、ま

だまだいろいろな課題があるにちがいありません。

先進的な取り組みというと、マスダール計画ということを聞かれた方があると思います。

ゼロエミッション建築をアブダビの空港のすぐ脇に作ってしまおうということで、4 万人

とか 6 万人が住んでそこに未来都市を作るのだということで計画しています。コンセプト

はなかなか面白くて、日本の人も見学に行きますが、なかなかこれ以上のインパクトとい

いますか。ここから何か新しいものが出てくるかというとなかなか難しい面があります。

電気自動車を走らせたりしています。

サウジも負けてはいません。ラビーグという紅海側に King Abdullah Economic City を作

って、日本の研究者も来いと言っています。しかし、やはりベースが足りないところへは

なかなか行きにくいということで、この中だけはサウジアラムコの中と同じように女性も

運転できるなど、いろいろなことをしようとはしていますが、それだけで本当にノーベル

賞級の研究ができるかというと、なかなか難しい状況だということです。

以上で私の発表を終わります。

(保坂) 武石さん、どうもありがとうございました。湾岸諸国の現状と湾岸諸国の抱え

る問題点をコンパクトにまとめていただきました。

おそらく多くの方が湾岸諸国に関してあまり具体的なイメージを持っていないのではな

いかと思いますが、大枠も含めて、後でまた皆さん方と議論をしていきたいと思います。

続きまして、外務省中東第 2 課の中川課長にお話をうかがいたいと思います。日本の外

務省は最近アニメや漫画を外交の柱にしていこうという計画を練っておりますが、実は今

日おいでいただいた中川課長はそのいわゆるオタク外交の推進者といいましょうか、張本

人といいましょうか。何年か前まだ麻生さんが外務大臣の頃に、中東に関する演説をする

というので私や午前中にお話をされた田中さんが呼ばれて、何かいいアイデアがないかと

いわれました。われわれは例えば中東の民主化が云々と難しい話をしたのですが、結局飛

びついたのがアニメの話だけということがありました。おそらく今日の話は、そういった

ものを中心にお話をしていただけるのではないかと思います。

中川さん、お願いいたします。

(中川) 外務省の中東第 2 課で課長をやっております中川でございます。よろしくお願

いいたします。

こういう高いところからお話しさせていただくのは非常に恐縮で気が引けるところがあ

ります。今の保坂さんからの紹介は、用意していたものと違うかなという感じもしていま

す。ただ、こういうことはよくありまして、これまでも、大学等からの依頼で、外で話し

をさせていただくことがあるのですが、中東の政治や経済の話をした後に、最後に質問で、

「あなたに聞きたかったのはそういう話ではなくて、中東におけるアニメ事情をもっとち

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ゃんと話して欲しかった」ということを言われることがあります。今日は、そうした話は、

時間があれば最後に簡単に触れるということで、若干、かたい話から始めさせていただき

たいと思います。

最初に武石さんの写真を見て、私自身も、非常にびっくりいたしました。保坂さんの説

明にもありましたように、20 年ほど前、在サウジアラビア大使館で保坂さんと机を並べて

働いていましたが、先月、20 年ぶりにサウジに出張に行く機会がありました。リヤドの市

内は、高いビルが次から次へと建っていて、これが同じリヤドかと目を疑うような状況で

した。

そんなサウジ、中東に対してわれわれとして、何ができるかということなのではないか

と思っています。

午後のセッションは、「産油国」ということですので、午前中に話されたアフガニスタン

以外の国に重点をおいてお話をさせていただいて、あとは質問に答えるということにした

いと思います。

まず大きなところで湾岸地域について。今日、私が、ここで「湾岸」という言葉を使う

ときには、GCC だけでなく、イラン、イラクも含めた、地域と考えていただければと思い

ます。

よく言われていることは、この地域において、かなり大きなパラダイムシフトが起きて

いるのではないかということです。これは特に 2000 年以降、端的に言えば 9.11 以降とい

うことだと思いますが、ここ 1 ~2 年のこととして考えてみても、イラクでは、今年の 8 月

に米軍の撤退が発表されて、戦闘部隊はバグダッド、その他都市部から撤退したことにな

っています。そして、来年、2011 年末には完全撤退が予定されています。本当に完全に撤

退することになるのかどうか必ずしも分かりませんが、かつて 20 万位いた米軍が撤退する

ということです。かつて数十万いたサダム・フセインの軍隊も今やほぼ解体されたことと

あわせて考えると、この 10 年でそれだけのハード・パワーがイラクという地域から消滅す

ることになります。

アフガニスタンについても同様の状況にあります。先週末の話なので非常にホットな話

題ですが、リスボンでの NATO 首脳会合において、2014 年末までにアフガン全土において

治安権限の委譲が行われることになりました。正確にいうと、戦闘部隊が撤退するとか、

軍隊が引き揚げるとか、出口戦略であるとか、そういうことは言っていません。あくまで

治安権限の委譲であり、transition という言い方をしています。

したがって、2014 年末までに治安権限がアフガン側に委譲されるとして、その時点で米

軍、ISAF などの軍隊が、ゼロになるという訳ではなく、治安権限がアフガン側に委譲され

るということであり、このプロセスは 2011 年、来年から始まるといわれています。

米だけでなく、例えばイギリスなども、キャメロン首相は、2014 年末以降、2015 年には

イギリス軍はもうアフガンにはいないだろうと言っています。

その後、2015 年以降はどうなるのかというと、おそらくアフガンの治安部隊の育成や訓練

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という形で一定の軍事的なプレゼンスが残る可能性があります。

ただ、イラクも含めた大きな地域をイメージすると、去年の今頃と比較して、イラクに

10 万、アフガンに 10 万、それぞれ駐留していた米軍のプレゼンスが、これから 1 年、2

年、3 年、4 年という過程において一気に減っていくという事態になります。

その、イラクとアフガンの真ん中にいるのがイランです。イランは、人口 7000 万、その

ほとんどがシーア派です。イランの人口、軍事力、経済力は、湾岸地域においてはある意

味では圧倒的なプレゼンスのある国であると考えていいのではないでしょうか。正規軍だ

けでも 40 万。10 万の革命防衛隊を含めて 50 万近くの軍隊を擁しています。

イランの両端にあるイラクとアフガンにおける米軍の軍事的なプレゼンスが低くなるこ

との自然な結果として、イランの相対的な力と影響力が上がってくるということではない

でしょうか。

そこでイランにおける最大の問題は何かというと、ご承知の通り核開発問題です。イラ

ンの核開発の現状はますます深刻化しており、イランがいつかは核兵器を開発するのでは

ないかというが危惧されています。これに対して、もしかすると、イスラエルがイランの

核施設を攻撃するのではないかという、リスクもあります。

イランの内政は、我々としては、それなりに安定していると思っています。ただ考えな

ければいけないのは、アフマディネジャド大統領がどんなに頑張っても任期はあと 3 年だ

ということです。イランの大統領は 3 選禁止ですから、2013 年の大統領選挙では、新しい

大統領が選ばれるわけです。次にどういう人が出てくるのか、それまでの間に EU3 とい

われる英仏独とイランとの間で何らかの対話が進んでいるのか、いないのか、新しい大統

領との間で、進展が期待できるのか、できないのかということだと思っています。

GCC は、ある意味非常に静かで落ち着いている部分と非常に活発な部分と両方あると

思っています。先ほど武石さんが説明されたとおり、経済・金融面においては、豊富なオ

イルマネーを背景に非常に活発な動きを示しています。他方で政治面においては、各国と

も安定した王政を敷いています。他方で、一部で、指導者の高齢化や政治体制の硬直化と

いった課題もあり、こうした安定がどこまで続くか将来を心配する向きもあります。

こうした中で日本との関係について申し上げますと、90 年代以降、日本はこの湾岸地域

の石油への依存度が実はどんどん高まっており、かつて 80%ぐらいだったものが、今や

90%近くまで上昇しているとの事実があります。実は、同様に韓国の依存度も上昇してお

り、80~90%くらいになっています。

日本の安全保障、特にエネルギー安全保障の観点からは、GCC 諸国が非常に重要な地位

を占めていることは明です。

ここで、忘れてはならないことは、米国の動向です。米国は、今後、湾岸諸国とどうい

う関係を構築していこうとしているのか。エネルギーに関しては、特に 2000 年代後半から、

アメリカのエネルギー供給における湾岸の依存度はむしろ低下してきているのが実態です。

2001 年に 23%だった数字が、昨年は 14%になっています。さらにいうと、2005 年以降、

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アメリカにとって石油の輸入は湾岸地域ではなく、アフリカからの輸入のほうが多くなっ

ています。そういう状態だということを、頭の片隅に入れておいていただければと思いま

す。

湾岸地域の安全保障を考える上で、米国が、GCC との関係でどういうコミットメント

を維持していくかが重要です。ひとつ、顕著な傾向は、ここ数年、湾岸地域に対して、大

量の武器売却が行われているということです。たとえば、サウジについては、既に、パッ

ケージとして合意された規模だけでも 600 億ドルといわれています。

米国にしてみると、イラク、アフガンという大きな問題については、ある程度、方向性

が見えてくる中で、次に対峙しなければ相手として、イランとの関係が大きな課題となっ

てくるのだろうと思っています。その時に日本はどうするのか。日本として何をすべきか、

どういうふうに関われるのか、まさにそこが問題です。

アフガンの話はこのセッションの中心的なテーマではありませんが、湾岸地域に密接に

関係する問題でもありますので、簡単に説明します。

まず、なんと言っても日本としては、50 億ドルの支援パッケージを表明しているわけです

から、まさに国際的なコミットメントとして、これをしっかりやっていくと言うことです。

田中浩一郎さんがおっしゃっていましたが、アフガンにおいては、「軍事のみでは解決で

きない」ということが、ある意味共通の理解になっていると思います。「軍事のみで解決で

きない」とは更にどういう意味かということ、「軍事プラス政治的な解決が必要だ」という

ことです。そこで問題は、「政治的解決は何か」ということになります。「政治的解決」と

は反政府勢力との和解であったり元タリバーン兵の再統合・社会復帰であったりというこ

とが議論されていますが、これは伊勢崎さんも田中さんもおっしゃっていたとおり、そう

簡単な話ではありません。

そうした中で来年から、いわゆる治安権限の委譲が始まるわけです。

米国、英国で、今更ながら、「何で僕らはアフガニスタンに関わっているのか」という問

題があらためて提起され、大きな議論になっています。

いっそのこと、アフガンを分割してしまったらいいのではないかという議論すらも出て

いますが、これは、ある意味危険な兆候かと思います。

元に立ち返れば、アフガンというのはテロとの戦いということで始まったのだということ

をあらためて確認することが重要だと思います。日本としても、テロとの戦いという観点

から、国際社会と協調しながらやっていくということです。

その時、日本は日本のやり方があるわけです。日本はアフガンに軍隊を派遣するのでは

なく、日本は日本の得意の分野で日本ができることをしっかりやっていくことが重要です。

それが、まさに 50 億ドルの支援パッケージです。

次にイランです。核の問題はかなり深刻で、なかなか出口が見つかりません。国際社会

からイランに対する注文は非常に大きなものがありますが、イランにはイランの言い分が

あり、両者の開きはますます大きくなっていると言えます。安保理決議を一切認めないイ

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ランと、安保理決議によって濃縮関連活動の停止を求めて、イランに対する制裁のレベル

を上げている国際社会という構図の中で、日本は、イランに対して、安保理決議の履行や

IAEAとの完全な協力を求めるとともに、お互い現実的かつ戦略的な決断を行うことが

重要だということを求めていくべきだと考えています。もちろん、これはかなりハードル

が高いことも事実です。

日本の強みは、アメリカの同盟国でありますし、G8 の一員であるという立場とともに、

イランとの間でも、長きにわたる伝統的な友好関係があり、これを基礎として、イランと

の間で、日本独自の関係を有していることです。特に、日本の場合は、イランの相当のレ

ベルの政治指導者と直接、政治的な対話ができるわけです。そうであれば、そうしたチャ

ンネルを生かして何かできないかということなのだろうと思っています。

他方で日本は、国連の安保理で決まった決議については、しっかり遵守し、安保理決議

に付随する制裁はしっかりと実施するとの立場です。だからといって、日本とイランとの

間の、伝統的な友好関係は変わらないと思っていますが、心配なのは、イランからの石油

輸入の減少や、制裁の対象となっていないはずの通常貿易の分野での萎縮効果が出てきて

いるということです。

イランの核問題に関し、日本にとって最悪のシナリオは、湾岸地域において軍事的な衝

突が起こることであり、これを何とか回避しなければいけないと思っています。ただ、イ

ランとの間の核問題の直接的な交渉について、日本ができることがそれほど多くあるわけ

ではありません。

むしろ、日本の役割としては、実務的な面でもっとイランといろいろな協力ができない

かと思っています。こうした協力を通じて、核の問題においてもイランを現実的な方向に

導けないかということです。

よくいわれているのは、アフガニスタンに関するイランとの協力です。いろいろ議論は

ありますが、できる分野はあるわけで、ほかにも環境問題や省エネというところがあると

思います。

経済分野以外でも、例えば文化、教育、知的交流や人的交流についても、積極的にやっ

ていきたいと思います。特にイランは日本の文化や日本語に対する関心が非常に高い国で

す。国際交流基金にもお願いして、いろいろやっていければと思っています。

次にイラクです。イラクはようやく政権の骨格が見えてきたというところです。これか

ら本当に新政権が樹立されるかどうかは、まだまだ注視しなければいけませんが、ただわ

れわれの立場からいうと、過去 8 カ月、新政権樹立ができない中で、なかなか本格的に動

かせなかった日本とイラクとの間の二国間関係について、ようやく何か仕掛けることがで

きるという感じです。

支援という観点からいうと、もう忘れてしまったかもしれませんが、実はイラクにもア

フガンと同じ 50 億ドル規模の支援を行っています。アフガンとは違い、50 億ドルの内訳

は無償 15 億ドル、円借款 35 億ドルという形になっていますが、その 50 億ドル支援はほぼ

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終わりに近づいています。そこで、50 億ドル支援の次に、何をするかということが課題で

す。

こうした中で、イラク戦争の検証をすべきという動きもあります。イラク戦争に対して

の日本の関わりや国際社会の関与に対して、これが正しかったのか、正しくなかったのか、

これをあらためて検証するべきではないかという動きです。こうした検証をいつどのよう

なかたちでやるかは、まさに大きな政治課題だと思います。

私の個人的な意見としては、イラクに対して日本はこれまで 50 億ドルの支援をはじめ、

自衛隊の人道復興支援、空輸支援等非常に多くのことをやってきたわけですが、われわれ

はイラクにおいて求めてきたことをどの程度達成できたのかどうか、そういったことをど

こかで考える必要はあると思っています。

最後に GCC ですが、キャッチフレーズ的には、重層的な協力関係を構築していくとい

うことがよく言われます。石油や天然ガスと言ったエネルギー分野以外も含めて、まさに

重層的な協力関係を強化していきましょうということです。

最近、この関係で注目を浴びているものとしては、GCC の豊富なオイルマネーを背景に、

武石さんのお話の中にありましたように、いろいろな分野でのインフラ整備の協力ができ

ないだろうかということです。

サウジ、UAE 、クウェート、カタールという国々はある意味ビッグインフラプロジェ

クトの宝庫で、山のようにあります。鉄道案件や上下水道案件等、日本が参入できるので

はないかといわれるものもあります。原子力というのもあります。こういった案件で何か

日本は参入できないかといわれています。

政治の分野については先述したので繰り返しませんが、社会構造が大きく変わりつつあ

るということはもう1ついえるのではないかと思います。

特にサウジは、人口増加率が非常に高いわけですが、人口増加率が高いということは社

会の多く、過半がいわゆる青年層、20 歳以下という状態になるということです。サウジと

の関係を考える上で、私たちとしては新しい切り口で新しいことができないか、特に青年

層や女性を対象とした協力関係ができないかと思っています。そこに出てくるのがアニメ

や漫画といったポップカルチャーということになります。私は、前職は文化交流課長とい

うのをやっておりまして、その時国際交流基金さんにもだいぶお世話になりました。日本

のアニメや漫画といったポップカルチャーの世界での伝搬力や普及は、好き嫌いはあろう

かとは思いますが、客観的事実としてものすごいものがあるということだと思っています。

いわゆる「アニメ文化外交」というのをキャッチフレーズとしてやっていましたが、私

にとってアニメ文化外交の出発点はどこかというと、実はサウジです。もう3年くらい前

になりますか。保坂さんにもその時、同行してもらったのですが、アニメの専門家にサウ

ジに行ってもらって講演してもらうという事業を行いました。

当時、せいぜいサウジで流行っているアニメは「キャプテン翼」か「グレンダイザー」

か「マジンガーZ 」か、そのくらいだろうと思っていたわけですから、サウジという土地

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でアニメをテーマとした事業を行うことは、非常にチャレンジングなのではないかと思っ

ていました。ところがよくよく調べてみると、実際は、全く違っていました。ファンの間

では、ほとんど日本と同じ、リアルタイムで日本のアニメや漫画が見られているわけです。

売れ筋は「ワンピース」であったり、「ナルト」であったり、さらには日本のトレンディド

ラマもリアルタイムとはいわないけれども、ほぼタイムラグなく見られていました。どこ

で見られているかというと、ネットです。

日本の若い人たちが普段楽しんでいるポップカルチャー、生活文化といっていいような

価値観や文化を、実はサウジの多くの若い人たちが共有しているということが見えてきま

した。サウジだけでなく、UAE 、クウェートの若い人たちの間にそうした日本のポップ

カルチャーが広まっているとはっきりと言えます。

例えばサウジについて宣伝したいのですが、サウジの国民的なお祭にジャナドリア祭と

いうものがあります。もしかしたらこの会場にも、既にジャナドリア祭に関わっておられ

る方がいるかもしれません。ジャナドリア祭りは、サウジのアブドッラー国王が司令官を

務めている国家警備隊が主催する国民的なイベントで、例年、2 月頃にリヤド郊外のジャ

ナドリアで開かれるものです。ジャナドリア祭は、サウジ中から多くの人が集まってくる、

万博のようなものといったらいいでしょうか。100 万とも、200 万とも言われていますが、

歌舞音曲といったエンターテイメントのなかなかないサウジにおいて、一大国民祭典なの

だそうです。

そのジャナドリヤ祭の次の開催にあたって、ある意味、アブドッラー国王の肝入りとい

うことで、日本にゲスト国として参加して欲しいという要請が突然ありました。なんと言

っても、今年の 4 月か 5 月の話ですし、参加の特別の予算措置もないわけですから、非常

にびっくりしました。例えば、いきなり上海万博に日本館を出展して欲しいと言われたと

いうような話です。

日本側に与えられたのは 2000 平米ほどの体育館のようなスペースです。ここを自由に埋め

てくれといわれて、もう途方に暮れていたのですが、そこは国際交流基金さんや JETRO さ

んの絶大なご支援をいただき、また、日本の各企業からのご協力を得て、ようやく今、目

処が立ってきつつあるというところです。

ちなみに海外からのゲスト国は 1 カ国だけです。なぜ、その 1 カ国だけのゲスト国に日

本を選ばれたのでしょうか。伏線としては去年のラマダンの時、Khawater という日本特集

番組が連日放映され、大きな話題になったということがあります。それを見た若年層もそ

うでしょうし、国王やその周辺の人たちもそうでしょうが、日本に対する関心が改めて一

気に高まったということが言われています。これを踏まえて、次にジャナドリア祭をやる

時には是非、日本に参加してもらおう、日本のことをもっと知りたい、もっと見たいとい

う関心が高かったといわれています。

その中でサウジ側、在京の大使館の方々がよく言っているのは、「日本の伝統美とか伝統

的価値をテーマにしてもらってもいいのだが、唯一外して欲しくないのはアニメと漫画だ。

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アニメと漫画でも何かやってくれ」ということです。

最後にもう1つ、日本の教育についても非常に関心があるようです。ここについては、

時間もありませんので、ご質問があれば説明させていただきたいと思います。以上です。

(保坂) 中川課長、どうもありがとうございました。日本の中東外交の基本路線につい

て説明していただきました。これで何となく日本の外務省が、あるいは日本の政府がどう

いう関わり合いをしているのかという流れはわかっていただけたかと思います。

それにプラスして、現時点で進められている日本の取り組み、重層的な関係、協力関係、

あるいは重層的なパートナーシップという言い方をしますけれども、それについても触れ

ていただきました。とりわけアニメ、漫画あるいは教育のトリガーのお話もありましたが、

おそらく教育面については後でまた議論になってくると思います。

1点訂正があります。サウジアラビアがアニメ外交の起点であったという話で私も同行

したという話でしたが、私も関わってはいたものの残念ながら行く機会はありませんでし

た。ただ、事前には深く関わっておりましたので、私も今後の成り行き等について強い関

心を持っているところであります。

3 人目は中東調査会の河井さんにお願いいたします。河井さんはドバイ、ドーハという

湾岸の国に長く関わっておられまして、それ以外にもヨルダン、サウジ等さまざまな国に

関わっていた経験がおありですので、そういった部分も含めてプレゼンテーションしてい

ただければと思います。では河井さん、お願いします。

(河井) 中東調査会の河井と申します。よろしくお願いします。

本来であれば、武石先生のようなかっこいいパワーポイントを使ってご報告させていた

だきたかったのですが、10 年あまり中東を転々と、自称放浪している間にパワーポイント

等の技術革新が進んでおりまして、もう帰ってきた時には浦島太郎状態でした。なにしろ

マイクロソフトの Word は、ドバイでパキスタン人から教えてもらったくらいです。そん

なこんなで、いろいろ技術的に未熟な部分がありますので、ご了承いただければと思いま

す。

まさしく私が今日取り上げたかったのは、中川課長からありましたように湾岸諸国と日

本の関係を端的に表す重層的関係・パートナーシップ、この関係についてです。やはり政

治、経済、安全保障がその上層部分をなしていると思いますが、それを下支えするもの、

教育や文化や人的交流という面をお話しさせていただければと思います。

まず重層的関係についてつらつらと調べてみましたところ、2001 年 1 月に当時の河野洋

平外務大臣がサウジ、クウェート、カタール、UAE を歴訪された時に、カタールでの演

説で使われたのが最初だといわれています。この時、河野外相が意図していたことは、ま

さに中川課長からありましたように、従来の石油輸出入ばかりに偏っていた関係を経済分

野に留まることなく重層的なより幅広い分野での関係を構築しようということで、こうい

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ったことから作られた言葉と理解されています。

この時のドーハでの演説の中で、河野外務大臣は湾岸地域の社会、文化の基礎となって

いるイスラームに対しても重要性を指摘しています。湾岸諸国での大学やシンクタンクと

協力しながらセミナーを開催するなど、必ずしも政府が関わっていない民間レベルでの政

策対話ということで、これを具体化したものが「イスラーム世界との文明間対話」で、2002

年に第 1 回が始まり、毎年回を重ねて今年 3 月にも東京で第 8 回の文明間対話が開かれ

ています。

この重層的関係・パートナーシップはその後も 2006 年 4 月にサウジアラビアのスルタ

ン皇太子が訪日された時や、2007 年のゴールデンウィークの時に当時の安倍総理大臣がサ

ウジ、UAE 、クウェート、カタール、エジプトなどを訪問された時にも、重層的関係・

パートナーシップがキーワードになって共同ステートメントなどで言及されています。

翻って、当時の河野外務大臣が重層的関係・パートナーシップという言葉を使われてか

ら、もうすでに 10 年近くがたっておりますが、某湾岸諸国に勤務されていた大使が日本の

あるメディアで発言した言葉を引用させていただきますと、「幅広い経済・産業の連携、教

育、文化、安全保障も含めて、湾岸諸国をはじめとする中東との深い関係を作ることによ

って、現状ではまだ日本が中東諸国の期待に応えられているレベルには達していない」と

いう厳しい見方があります。

こういったことで、日本が何ができるかということを考えていきたいと思います。まず

中川課長が最後のほうで言及された教育などは、日本が湾岸諸国との間で築こうとしてい

る重層的関係をまさに下支えする下層のものとなり得ると思います。下層というと上下関

係があり高尚と低俗的なというイメージを持ってしまいますが、そうではなく、下のほう

から縁の下の力持ちのように支えるものとして、教育というのは実は日本は売れるのでは

ないかと思います。

日本は車のトヨタ、電化製品のソニー、その他いろいろと高い技術力を持っている国と

いうイメージがありまして、その技術力を持つには教育というのは非常に大事だというこ

とは、全世界の人が共通して持っている考えだと思います。

日本語は英語と違って世界言語ではありませんから、日本語を学ぶことで必ずしもその

メリットには直結しないかもしれません。しかし、技術を学ぶ場として日本を留学先とし

て考えてもらう。もしくは日本の発展の背後にある高い道徳意識や職業倫理、モラル等に

ついても、実は湾岸諸国は注目しているのではないかという、こういったことに日本側も

気づく必要があるのではないかと思います。

もともと湾岸諸国に限らず中東の各国では、規律を重視する日本式の教育への評価が高

かったといわれています。UAE の首都のあるアブダビ首長国のムハンマド・ビン・ザー

イド皇太子が、アブダビにある日本人学校を見学されたか、先ほどのラマダンの時に流さ

れた番組をご覧になったのか、その辺はわかりませんが、子どもたちが一緒に学校で掃除

をして自分たちの教室を自分たちできれいにするような日本のしつけは大変素晴らしいと

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感動され、在アブダビの日本人学校に UAE の子どもたちを受け入れてほしいと働きかけ

たといわれています。

それを受け日系の石油会社を中心に NPO 団体が設立され、まずいきなり小学校から現

地のアラビア語の環境で育った子どもを受け入れるのは難しいということで、3 年保育の

幼稚園課程を設置し、毎年 2 人ずつ UAE 人の子どもを受け入れることにしました。これ

が始まったのが 2006 年 9 月からだということです。

日本人学校はそもそも在留邦人のためにある学校でありますから、現地人を受け入れる

ということは全世界的にも異例のことでした。アブダビ日本人学校のホームページを見る

と、現在では小学校1年生と 2 年生に 2 人ずつ、幼稚園の年少と年中に 2 人ずつ、年長

に 1 人の合計 9 人の UAE 人の子どもたちが、日本人 55 人の子どもたちに交じって学ん

でいるということです。

このような実験的な試みに対して、UAE 人の保護者の評判は大変よいと聞いています。

まずはしつけや団体行動がしっかりと身につくという点が高く評価されているそうです。

また、湾岸諸国は非常に暑い国で、車社会であり、だいたい現地の人は裕福な人が多いと

いうことで、子ども 1 人に 1 台の専用車と外国人運転手がついているというのが当たり前

になっています。

しかし、アブダビの日本人学校は UAE 人の子どもたちにも必ずスクールバスの利用を

義務づけています。これは団体行動を身につけるということで非常に役に立っており、日

本人の園児や児童をならって、迎えに来てくれたバスの運転手に挨拶をしたりといった日

本式の教育、作法が伝授されているということです。

また、そのほかにも下駄箱に靴をそろえて入れたり、おもちゃを自分で片づけるなどの

基本動作が 2 ~3 カ月もすると自然に身につき、自宅に帰ってからもそういった行動が自

然と自分でできるようになり、親やメイドさんたちにも挨拶するようなしつけがついてい

るといわれます。

日本の学校は PTA の組織でいろいろとイベントがありますが、このようなことは現地

の学校ではほとんど行われていません。在外の日本人学校は日本と同じように PTA の組

織がしっかりしていてさまざまなイベントがありますが、そのイベントには UAE 人の保

護者の方にも来てもらって、おにぎりや寿司などを日本人の保護者たちと一緒に作ってい

るそうです。

アブダビ政府としては、日本人学校で日本式の教育を受けた人材を将来的には日本の高

校や大学に留学させ、日本のスペシャリストもしくは日本式の教育、マナーを身につけた

立派な社会人として世に送りだしたいと考えているということです。

これに対して、日本人の保護者側の観点からは、当初は日本語の能力が劣る UAE 人の

子どもたちに合わせるために教育のレベルが落ちるのではないかという心配があったとい

うことですが、現在では逆に日本人の子どもたちも異文化を自然に学べるよい機会という

肯定的なとらえ方に変わってきているといわれます。

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しかし、1 つ大きな問題があります。それは日本人学校や幼稚園部に通う UAE 人の子

どもたちが、どうしてもほかの普通の UAE の学校に通っている子どもたちと比べて、UAE

の地理や歴史、あるいはイスラーム教関連の科目を学ぶ場がなくなってしまうということ

です。日本人学校ですからそこまで UAE の子どもたちのケアをする義務はありません。

ですから、今後逆に UAE 側がこういったことへのケアをしていく必要があるといえます。

もう 1 つ、カタールでもハマド首相自身が日本の教育システムを高く評価しており、カ

タール人の子どもたちに日本式の教育を施したい、在ドーハ日本人学校にカタール人の子

どもたちを学ばせたいという計画が浮上しました。

在ドーハ日本人学校はしばらく閉校になっていましたが、カタールの近年の経済成長に

伴い、在留日本人が急激に増加した結果、2009 年 5 月に日本人学校が再開されています。

この時にカタール側はすぐにでもカタール人の子どもたちを受け入れてほしいといい、

日本とカタール双方からカタール人の子どもを持つ親たちに日本人学校に子どもを通わせ

るよう働きかけをしたのですが、なかなかそれに応じてくれる家庭がいなかったというこ

とです。

まず、やはり言葉が問題ということで、カタール人の保護者はアブダビの日本人学校の

ように幼稚園部を付設して、幼稚園から日本人の子どもと一緒に学ばせたいと希望してい

るのですが、2009 年 5 月に再開、実質上新しく開校したばかりで、人手も少なければ財政

面の問題もあり、幼稚園の付設は現状では不可能となっています。

アブダビはかなり思い切った決断で、すでに 2006 年から幼稚園部に子どもたちを進めて

いますが、カタールの日本人学校側からすると日本人学校で教えるのはあくまでも義務教

育まで、15 歳までしか授業がないわけで、その後の進路がどうなるかは不明だということ

です。高校生から日本へ留学するということも考えられますが、その道も今のところ確保

されているわけでもないということです。このような不安定な状況で、なかなか日本人学

校へ入学させようというカタール人の親が見られないということではないかといわれてい

ます。

日本人学校への受け入れに先立って考えられる 1 つの成功例として、公文式の教室があ

ります。アブダビでは 10 年以上前、1998 年からモデル校と呼ばれる実験校で導入が始ま

っています。最初は公文式というシステム自体がどんなものかよく知られておらず、この

導入に当たって心配する保護者もいたそうですが、UAE は科学的、創造的な思考スキル

の開発のためになされている努力を役に立てようと、世界中の教育機関・プログラムとの

協力に力を置いてきており、新しいモデル校を建てたその創立直後に公文式の導入を決め

た学校もあります。

2006 年 3 月現在では、公文式で勉強中の子どもたちは UAE で 2300 人おります。1998

年に始まった時は 361 人だということですから、8 年間で 7 ~8 倍の伸びとなっています。

近隣諸国を見ますと、バハレーンにも公文式が開校しており、2005 年 7 月現在で約 1000

人が学んでいます。バハレーンの場合、隣のサウジアラビアからわざわざ通っている子ど

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ももいるそうです。

保護者からは、公文式の学習で算数や英語などの教科の成績が伸びるだけではなく、子

どもの考え方や学習能力全体にも好影響を与えたという評価を受けているということです。

また、公文式を学ぶことをきっかけに日本に興味を持ち、日本をぜひ訪問してみたいと

思うようになる子どももいるということで、日本への観光の推進や知日派の育成にも公文

式の教育は役立っているといえます。

このような日本式の教育を通じて、日本の文化、慣習に親しむ現地人を育成することは、

まさに中長期的な重層的関係の構築を下から支えるものといえます。

湾岸諸国にはどこでも青年の失業問題があります。中でも一番人口が多いサウジアラビ

アが一番深刻な状況になっています。その失業問題の対策で日本とサウジアラビアとの 2

国間の関係強化につながる成功例として、職業訓練校の立ち上げおよびその運営がありま

す。

まず 1 つは 2002 年に開校した SJAHI(Saudi Japan Automobile High Institute )、サウジ自

動車技術高等研修所というものがあります。これは遡りますと、1998 年にアブドラ皇太子、

現在のアブドラ国王が日本を訪問した際に合意されたものです。サウジアラビア人の高校

卒業者を対象にした 2 年制の技術短大で、自動車修理の実践的な技術、訓練を施します。

まず入学時に、サウジアラビアの日本車輸入代理店の団体 JADIK(Japanese Automobile

Distributors in the Kingdom )に加わっている企業、トヨタ、日産、三菱自動車、ホンダ、

スズキ、マツダ、いすゞ、ダイハツのいずれかの企業の社員になるという形をとって、2 年

間のコースを終了後、それぞれの企業で 3 年間就業するという義務が負わされています。

3 年間の就業の義務を果たせなかった場合は、授業料の返済義務が発生するというシステ

ムになっています。

似たようなものとして、SEHAI (Saudi Electronics & Home Appliances Institute )、サウジ

家電研修所というものがありまして、2009 年9月に開始をしています。こちらも高卒者を

対象の 2 年制の研修所です。同じように入学時にメンバーの企業と契約し、卒業後一定期

間その企業に就労するというもので、どちらも好評を得ていると聞いています。

私の発表は以上です。どうもありがとうございました。

(保坂) 河井さん、どうもありがとうございました。日本式教育の湾岸における需要と

いうテーマでお話をしていただきました。これは重層的パートナーシップの構築の一部を

担っているというご意見であったと思います。

では、ここで議論に入っていきたいと思いますが、その前に司会の特権を使って、先に

1 つ 2 つパネリストの方々に質問させていただきます。

その前に中川さん、河井さん、お 2 人が触れていたサウジアラビアで作られたテレビ番

組で Khawater という番組があるのですが、これについて説明しておきます。

アフマド・シュゲイリーというサウジの若手のテレビ宣教師の持ち番組で、毎年ラマダ

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ン期間中だけやっている番組です。1日 5 分、約 30 日間、ずっと日本に関する特集をして

いたわけで、確か 2 年くらい前でしょうか。私は後半部分をずっとリアルタイムで見てい

たのですが、非常に面白い番組でした。これまで日本関係の番組はどうしても説教くさい

というか、抹香くさいというか、お花が出てきてお茶が出てきてお寺が出てきてというよ

うなものばかりでしたが、非常にユーモアにあふれ、なおかつ日本を高く評価するという

うまい作りの番組で、だからこそ非常にインパクトがあったのではないかと思います。

それ以降、私はアフマド・シュゲイリーさんのフェースブックのファンページに入りま

して、彼の説教を楽しみに見ているのですけれども、こういう形で日本に対していろいろ

な知識が加わっていくというのは非常に結構なことではないかと思います。

と同時に、河井さんがおっしゃられたとおり、将来こういう人たちをどのように使うの

かという点に関しては、やはり今後の企業あるいは政府レベル、あるいは研究レベルでの

取り組みが必要になっていくのではないかと思います。

私の質問は、まず1つは中川さんがインフラ協力というお話をされてらっしゃいました

が、武石さん、中川さん、両方に対する質問であります。

最近の話で、日本が UAE に対する原発の入札で韓国に負けるという事件がありました。

私は日本エネルギー経済研究所というエネルギーに関わるところにいるものですから、こ

ういう話はわりと敏感なほうなのですが、インフラ協力が重要であるといいながら、例え

ば今回の原発に関していえば、韓国がやっていたほどの政府レベルでの協力やバックアッ

プが果たしてあったのでしょうか。あるいは、それがもし仮にできるとするならば、どう

いう形であり得るのか。あるいは、民間の企業側から見て、中東に対してこういうアプロ

ーチがあった時に、どの程度リスクが負えるものなのか。

韓国のケースでいうと、日本側の企業の話では、韓国の出した条件というのはあまりに

よすぎるといいますか、無茶であるという意見が多かったのですが、しかし韓国はそれを

やったわけです。そのリスクをどのように受け取るか。企業にそれだけの気概があるのか

どうか。

その 2 点について、まず中川さんと武石さんにおうかがいしたいと思います。

もう 1 つ、河井さんに質問です。実は私、2 週間くらい前までアブダビに行っておりま

した。これはアブダビにありますエミレーツ戦略研究センター(Emirates Center for Strategic

Studies and Research)が出している雑誌で、政府高官向けのこれだけ読めば世界で何が起

きているかパッとわかるという虎の巻のようなものです。私の理解では、河井さんはこう

いうものをドバイやドーハでやっておられて、政府高官レベルの人たちはこういうものか

らおそらく日本の知識を得ている部分があると思いますけれども、具体的にどういう日本

の部分について関心があるのでしょうか。経済面や政治面、文化面でもいいのですが、具

体的に彼らが日本に関してこういう情報が欲しいというものがあるのであれば教えていた

だきたいと思います。

まず、中川さんと武石さん、お願いします。

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(武石) UAE の原発を韓国が取った件は、やはり安値受注で 60 年保証という、とても

日本では出せないような条件を韓国が出したわけです。韓国に関して調べていけばいくほ

ど、例えば大きな会社がどんな決算の仕方をしているか見ただけでも、まったく日本と違

うということがわかってくるわけです。

例えば世界的な連結決算をしているかというと、していないわけです。そういうように

発展途上国という隠れみのといいますか。巨大なサムスンにおいても連結決算を発表しな

いという状況があるわけですから。結局、原発の案件を取ってはしまったけれども、その

後どこに頼むかというと、当然東芝ウェスチングハウスグループが出てくるわけで、本当

の仕事はやはり最終的にはそこに落ちてくるだろうとういわれ方をしています。

ですから、マスコミがはやし立てて、何か日本が負けたような話ばかりしますけれども、

やはり実務がどこで動いているかを理解していけば、問題はありません。

でも、問題はまったくないわけではなくて、例えば日本の原発の最終処分としては、高

放射能廃棄物を3万年もかかって最終処分していくわけです。高放射能のものは、要する

に国がやるとはっきりと宣言してやらないといけません。いま民間企業に責任を持てと押

しつけていますが、日本としてもやはり国がやるものはもう腹を据えるといいますか。そ

ういう部分をはっきり打ち出さない限りは、世界でやはり同じようなことが続いて、実際

の最後のところだけ押しつけられるということが続いてしまうのではないかと思います。

(保坂) ありがとうございます。中川課長、お願いします。

(中川) UAE の原発の話は、ある意味政府サイドとしても結構ショックだったと思い

ます。外務省だけでなく、経産省、国交省等いろいろな役所が関係するわけですが、政府

として何ができたのかという話だと思います。

その中で、今の菅総理、前原大臣の下で、一つ大きく変わってきたことは、政府として

も UAE 原発 の経験も踏まえて、インフラ案件の輸出を全面的にバックアップしていこう

ではないかという動きが政策として打ち出されたことだと思っています。

もちろん、外務省としては、昔から日本企業支援という形で、やってきた部分もありま

した。トップセールスという言葉がありますが、総理大臣をはじめとして、可能性のある

ところについては政治レベルでの働きかけ含め積極的にやっていこうではないかという立

場です。

もう 1 つ、政府としてできることは、いわゆる公的資金との連携ということが考えられ

ます。円借款が使えるところであれば、円借款もあるでしょうし、JBIC の融資もあるので

しょう。その他、何ができるかは、それぞれの案件によって変わってくるのだろうとは思

います。UAE のケースで大きかったのは入札価格だけでなく、その後のオペレーション

に対する保証もありました。さらに原発を作るのであれば、原発の周りの環境整備等に公

的資金を導入した形での協力を行うといったアイデアもあるかもしれません。

(保坂) ありがとうございます。河井さん、お願いします。

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(河井) 私がドーハでやっていた仕事は、厳密にいうと日本で何が起きているかを政府

高官にブリーフする紙を作るというのではなく、日本でカタールおよびジャジーラがどう

報道で取り上げられているかをモニタリングしてそれを上げるという仕事でした。そこの

機関は一応私が日本語のセクションをやっておりましたが、ロシア語やスペイン語、フラ

ンス語ができるような他言語のところですので、同時に並行していろいろな分野のモニタ

リングをしていました。

その中で『教育』という雑誌があり、日本で何か新しい教育に関するものとして、発明

や技術革新という面で何か面白いものがあれば教えてくれといわれたことはあります。

カタールは現在のハマド首相が一番親しくしている、皇太子の母であるモーザ首相夫人

が理事長を務めているカタール財団が教育に力を入れて教育都市ができており、アメリカ

のジョージタウン大学の外交に関する学部やカーネギーメロン大学等、海外の有名な大学

を呼んでいます。やはりカタールは教育で生きていこう、湾岸の教育のハブになろうとい

う意思があるので、日本に限らず全世界で起きている教育事情の情報を集めているという

ことがあったのではないかと思います。

(保坂) ありがとうございました。それでは議論をフロアに移したいと思いますが、そ

の前に酒井さん、先に質問したいことがあればお願いします。

(酒井) ご配慮、ありがとうございます。

教育に関して、中川課長や河井さんのお話とも重なると思いますが、ご指摘があったよ

うに、欧米の大学などは現地で大学をあるいは高等教育機関を開いて、現地で教えていま

す。このパターンは日本がそのまま真似るわけにはいきません。言語の問題が非常に大き

いわけです。現地で英語で教えられる大学はどんどん出ていけるけれども、日本語で教育

する日本の大学が現地に行って何のメリットがあるのかという話になるわけで、パラレル

に考えるわけではありませんが、そういうフットワークの違いをひしひしと感じます。

そういう意味で中川課長のお話が中心になると思いますが、教育外交のようなものを文

部科学省等ほかの省庁とどのくらい密に協力して、一生懸命やれる体制があるのでしょう

か。この点は、前々からすごく気になっているところです。それが1つです。

それと関連して、今度は国内についてです。どんどん留学生を呼んでこようといって、

うちの大学も留学生をたくさん呼んでいます。正直な話をしますと、教育現場でいうと、

留学生を呼んで日本のいいところを見て帰ってもらおうと思いつつ、7 割方が多分日本に

いやなイメージを持って帰るという大変なネガティブ外交をやっているのではないかとい

う印象を受けます。

まず日本に来て、日本語がろくにしゃべれなくて社会に溶け込めないとか、実際にいろ

いろな意味での差別を受けたりします。あるいは、通える教育機関そのものがないという

問題がある。河井さんが揚げられたように、UAE の人が UAE の日本人学校に通うことが

できても、日本で外国人が普通の学校に通えない。通ってもついていけなくてすごい苦労

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しているわけです。そのように国内での外国人教育と、海外に行ってこれぞ教育外交だと

打ち出していく時の温度差が大きいような気がします。ここら辺をやはり埋めていけない

といけないのではないでしょうか。ここも多分文部科学省との絡みになると思いますが、

その辺りをお2人中心という形でぜひともおうかがいできればと思います。

(保坂) 中川課長、お願いします。

(中川) 日本国内にいるアラブの諸国の子どもたちということですか。

(酒井) アラブだけではありません。例えばよくいわれているのはパキスタン人などム

スリムの人たちに対して、早稲田大学が行った調査があって、それは日本のムスリム社会

がどういう意識を持っているかという調査なのですが、そこでは、何となくネガティブな

反応が見えてくる。お墓がないとか住むところがないとか、いろいろな問題を抱えていま

す。教育もその1つだと思います。

(河井) 小耳に挟んだ程度ですが、日本ムスリム協会の間で、日本人ムスリムが中心に

なるのでしょうけれども、日本人ムスリムの子どもたちプラス、インドネシア等在日本の

ムスリム諸国出身の子どもたちを受け入れるような学校を作ろうといって立ち上げたのか、

学校法人格は取れていないから任意でというような動きがあると聞いたことはあります。

具体的にどこまで行っているのかはわかりません。

(中川) 酒井先生から指摘された点でもっともな点が多々あって、カタールのケースも

UAE のケースも、私が中東2長になる前の話ですが、我々としても日本の大学や高校の

関係者にドバイやアブダビ、ドーハに呼んで、進出しませんかということをやったことが

あります。しかし、結局、関心を示してくれるところはありませんでした。

他方で現状としては、酒井先生ご指摘のとおり、ドーハやドバイでは、欧米の大学がい

わゆるサテライトのような形で盛んに進出してきています。日本の高校はアジアに出て行

くケースはありますが、そのほかの地域にはなかなか出ていきません。アジアに出るケー

スでもやはり現地の日本人が対象ということなので、まさに現地の方を対象にした形で日

本の教育機関が出ていくというか、そこまでの強さにはなっていないということだろうと

思います。

他方で文部科学省との協力は、それなりにやってきています。カタールのケースもドー

ハのケースも端的にいって何が一番問題かというと、お金がないということです。多くの

部分は現地駐在の日系企業のご寄付や協力に負うところが非常に大きくなります。

例えば日本語がやはり最初にネックになるので、日本語の先生を派遣することが非常に

大事です。国際交流基金は、いろいろな形で日本語の先生を海外に派遣していますが、現

地の日本人学校に 2 人か 3 人しかいない外国人の生徒のために国際交流基金が日本語教師

を出すようなスキームがあるかというと、そういうものはないわけです。そうすると、そ

の 2 人か 3 人の生徒のために、日本語の先生を現地でフルタイムで雇わないといけません

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が、そこは民間の方のご協力を仰ぐという形になります。そういうところに政府がお金を

出せるのか、出せないのか。お金を出すことが適当か、適当でないかという議論がまず必

要だろうと思います。

そういうことを含め議論しようということで、カタールのケースでは、外務省と経産省

と文科省とでワーキンググループを作ってやっています。

日本に来られている外国の留学生の方々への対応については、なかなか政策的には難し

い問題が多々あるのだろうと思います。個々の大学での対応の問題もありますし、もっと

広く日本社会の問題もあるのかと思います。

ただ、政策としては、外国人留学生を増やそうという計画があるということだけを指摘

させていただきます。

(保坂) ありがとうございます。今の関わりでいうと、中川課長の担当ではなく中東1

課の担当だと思いますが、エジプトの砂漠の真ん中に日本の大学を作るというプロジェク

トがスタートしています。あれは全部英語で授業をやるということですので、日本語の問

題は関係ないのだと思います。

また、サウジアラビアのアブドッラー国王科学技術大学の中にも、日本がずいぶん協力

をしているという話も聞いています。

アメリカを中心に湾岸に多くの大学が進出しているという話については、かなり批判が

出てきていて、果たしてこのままでこういう形でいいのだろうかという動きがあり、アメ

リカ国内からも疑問が出始めているようです。恐らく若干金目当てであるというのが露骨

に見え始めてきているので、そろそろ変わり目に来ている可能性もあるのだと思います。

それでは、今度はフロアから質問を受けたいと思います。

(質問) 中東カフェの事務委員をやっておりますアレズです。イラン出身です。お話し

ありがとうございました。

1つ、ハードな部分について、はっきり言って皆さんの頭の中はもしかして 60 年前のま

まになっているのではないかという気がします。何かを作らないと駄目だという。今やイ

ンターネットが普及し、座っていても、テレビでなくても、ネットですぐつながれば見れ

るわけです。中東とつながりたいのだったら、BBC のニュースがまず先に見られるという

ことです。NHK の方がいらっしゃるのは存じ上げてますが、NHK が「春一番が吹きまし

た」というニュースを全部の言語でやるのはどういうことなのでしょうか。メディアを使

うというのであれば、そのメディアがネットを使わないでどうするのかという。ネット上

でニュースを流してやってください。

というのは、ほとんど独裁国ですから、イランも含めほかの国、イランをベースにして

しか言えませんが、ニュースが流れてこないわけです。中にいても聞けないので、そうい

う放送たるものも含めて、ネット環境をよくしないといけないと思います。第 4 の力であ

るはずのメディアを超えたインターネットを使ってあげないといけません。

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(保坂) ありがとうございます。こちらで言うべきか、NHK の方は、いらっしゃいます

か。何か一言ございますか。

(フロア) ご指摘はよくわかります。ただ、NHK もだんだんネットが充実してきている

のも確かで、特に英語による国際放送については、海外でも見られる形に今なってきてい

ます。

これは泣き言のようにも聞こえるかもしれませんが、NHK としてはネットをどんどん充

実させたいという気持ちはあって、できるだけの情報を出したいという気持ちはあります。

例えば BBC と同じレベルまでいくかどうかはわかりませんが、多言語で外国に出したい、

あるいは日本国内でももっとネットを充実させたいという意欲は実はあるのですが、足を

引っ張られています。

どういうふうに足を引っ張られているかというと、新聞社や民放から、インターネット

で NHK がニュースを出すというのは民業圧迫であるという批判が非常に強くて、自由に

出せないわけです。

要するに、そういう制約がなくなってくると、ずっと NHK のインターネットによるニ

ュース配信はさらに充実していくことになると思います。

民放やほかのマスコミとの関係も含めて、とにかく情報を発信していこう、日本からど

んどん出していこうという形に日本社会全体がなっていかないと、この部分は変わってい

かないかなという気がします。

(保坂) ありがとうございました。

(中川) 私も一言言わせていただければと思います。まったくご意見には賛成です。NHK

の方も非常に一生懸命やっていただいていると思っていますが、状況はそれほど簡単では

ないと思います。特に政府の資金を使って何かやろうということについては、厳しい状態

です。我々としても、ネットを通じた政府広報や情報発信についてはぜひやりたいと思っ

ていますが、これまで事業仕分け等で、厳しく評価されているのがこの分野であるという

ことも確かです。

事業仕分け等での評価にあたっては、短期的な目に見える効果を示す必要がありますが、

例えば、政府広報に1億円使った場合、その結果、何がどう変わったのかということをな

かなか具体的な形で示すことが難しいということがあります。

また、NHK との関係でいうと、日本国民からいただいた受信料を使って、外国の視聴者

のために番組を流すことがどれだけ支持されるのかという問題もあり、そう簡単ではない

ということだろうと思います。

(保坂) ありがとうございます。今のインターネットの問題については、中川課長がプ

レゼンテーションで触れられたアニメや漫画の問題にも深く関わってくると思われます。

多くの中東の人たち、アラブの人たちが日本のアニメや漫画を楽しんでいるわけですけれ

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ども、原則多分ほとんど皆非合法だと思います。海賊版が圧倒的なわけで、こういう問題

とも深く関わってきてしまうので、そう簡単に解決できるわけではないのですが、現状も

う動いているのだから、その現状をある程度踏まえた上での今後の対策に多分なっていか

ざるを得ないのだと思います。

では次、お願いします。

(質問) お 3 方、詳しい説明をありがとうございました。中川さんと河井さんに今日の

セミナーの副題、「私たちに何ができるか」に関連づけてお話をおうかがいしたいと思いま

す。

アラビア半島諸国と重層的な関係を築くというのは、ここでいうところの私たちが何か

するとか、もっと言うならば、われわれが彼らから何かを得るための手段であると思いま

す。その重層的な関係を気づくことによって、いったい何がしたいのでしょうかというと

ころを、もう少しはっきり見えるようにお話ししていただければと思います。

(中川) 言わずもがなの部分は石油ですが、「石油だけではない」ということを、これま

でも何度も言っているのだろうと思います。実際、石油だけではないのでしょう。

石油にしたところで、それがいつまであるか分かりませんし、石油が終わったら湾岸と

の関係はなくなるのかというと、そういう話ではないと思います。例えば湾岸諸国が原子

力の導入に相当力を入れていたり、環境問題も考え始めているということは、いわゆるポ

スト石油も考え始めているということなのだろうと思います。

そういうことを考えると、石油以外の部分についても関係を広げていきたいということ

だと思います。私の視点からいうと、湾岸諸国では、特に、若い世代、青年層や女性とい

った、新しい層を対象にした協力を考えたらどうかと提案しているわけです。われわれが

GCC 諸国に対して持っているイメージと GCC の諸国の多くの方々が日本に対して持っ

ているイメージの間にギャップが生じてきているのではないかということもあります。

例えば日本の若い人に中東とかサウジのイメージとして、最初に石油が来る人はもちろ

ん多いと思いますけれども、同様に、多くの人はサッカーとかスポーツが出てくるという

こともあるかと思います。

サウジの若い方々にとっては、好むと好まざるとにかかわらず、日本といえば漫画やア

ニメというイメージがあると思います。別に私は日本のアニメや漫画を世界に広めたいと

言っているわけではありません。アニメや漫画はひとつの入り口なのだと思います。

Khawater の日本特集番組もそうですけれども、そういった入り口で関心を持っている人た

ちに、もっと深い形で日本と関わりを持ってもらいたい、それは、必ずしも石油やエネル

ギーといった関係だけではなくということだと思っています。

(保坂) 河井さん、お願いします。

(河井) 発表を準備している段階では、もうほとんど日本国政府も含めて私たちで考え

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て用意したのですが、それを冒頭酒井先生からありましたように、私たち一般市民という

ふうに考えてみますと、文化交流ということに集約されるのかと思います。

必ずしも政府がやっている石油が絡むお金だけの関係ではない、金の切れ目が縁の切れ

目ではなくお互いの文化を知り言葉を知りお友だちになろうということが、全方位外交と

いいますか、敵を作らないといいますか。それが、広くいえば自分たちに害をおよぼすも

のをなくすという意味での利益になるのではないかと考えております。

(保坂) ありがとうございます。個人レベルでできることというのは、アレズさんの話

ではありませんが、昔に比べて圧倒的に増えてきたと思います。私自身、フェースブック

の話をしましたけれども、フェースブック上の私の友だちはほとんどシリア人です。シリ

アにはほとんど縁もゆかりもありませんが、最初に友だちになったのがシリア人で、そこ

から芋づる式にシリア人ばかりが集まってきました。こういう形のネットワークづくりも、

個々のレベルでいろいろな形で多分できる時代に入ったのだと思います。

私はまったくアニメファンではないのでわかりませんが、多くの人が世界中で「グレン

ダイザー」の主題歌を歌えるというのは、やっぱりまったく新しい時代に入ってきている

のだと思います。

あまり時間はありませんが、どなたかいらっしゃいますか。

(質問) まったくの素人でが、「中東は石油だけじゃない」というせりふに対して、頭に

来ております。アラブ文化はやはり奥深いもので、例えば今はもうないワールドトレード

センター、ミノル・ヤマサキがデザインしたベースはアラビア文化です。丹下健三が都庁

を設計したデザインのベースはアラビア文化です。そのほか、クウェートの国際空港は誰

が設計しましたか。丹下健三です。サウジアラビアの王宮、ヨルダンの王宮、設計は全部

日本人です。

かつて日本が元気だった頃、当然その頃、建築・プラント関係もかなり日本が活躍して

いました。この間もカタールをトランジットで動きましたが、テレビを見ると、CCTV は

はっきりくっきりよく見えますし、聞こえます。残念ながら、NHK はどこにも見当たりま

せん。尖閣列島の問題も中東のメディアには中国サイドで、CCTV で流れたのでしょう。

まったく日本は情けない限りです。

なおかつ、われわれの業界である建設・プラント関係は今コリアンパワーが吹き荒れて

います。たまたま UAE の原発は取れなかったと、申し訳程度にいま言い訳が出ましたけ

れども、もう去年おととし、ずっとコリアンパワーに負けっぱなしです。

それだけ豊かな文化があるのだから、大胆な発想をやらないと、本当に深い絆ができな

いのではないでしょうか。プラントばかりではなくて、あそこは本当にビジネス界にとっ

てもまだまた掘れども尽きぬマーケットがあるわけです。ですから、小さいことを言わな

いで、もっと大胆な政策の転換が必要だと思います。

(保坂) コメントということで、ありがとうございました。最後のお 1 人として、どう

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ぞ。

(質問) 私は十数年前、JICA の専門家として中東のバハレーンに数年住んでおりまして、

中小企業振興で各企業をコンサルなどしておりました。

その頃から石油が枯渇した後、どういう産業を起こせばいいかということを中心にやっ

ていましたが、まったく新しい産業が起こらないで、ただ石油のお金がどんどん入ってき

て現地人が豊かに暮らしているという、何かあまり進歩がないような気がします。

教育についていうと、最近科学技術外交ということをよく聞きますが、いったい何を意

味しているのかわかりません。使い方によってはうまく外交に使われて、日本の国益にな

るように使ってもらいたいのですが、話を聞いていると技術ばかりが向こうに流れて、ま

ったくあまり活用されていないようです。特に中東は日本の企業の進出も少ないし、日本

の外交、国益になるような外交にもっと活用するような方法がないものかということを質

問したいと思います。

(保坂) 武石さん、何か切り札になるようなものが、一発逆転のものがあるでしょうか。

(武石) 私たちが普段非常に快適な暮らしをしているというこの観点に立って、やはり

まだまだやることはいっぱいあると思います。ユニチャームがなぜあれほど中東で広まっ

たかというと、やはり快適だからです。私たちがこんなに便利に、日本から出たくなくな

ってしまうほど豊かな生活をしているという観点に立って、もう 1 度自分自身の身の回り

を見つめ直して、そこから 1 つずつ、どうぞ見てください、感じてくださいということを

始めることだと思います。驚くほどたくさんのいろいろないいものを持っているけれども、

それを普段私たちは気づかないわけです。それはやはり外国の人に来て暮らしてもらって、

そして感じてもらって持って帰ってもらうという。これでいいのだろうと思います。

やはりそういう自信さえ持てば、私は非常に楽観的にまったく問題ないと思っています。

(保坂) ありがとうございました。今の話でいいますと、3 月にたまたまドバイに行き

まして、武石さんが紹介されていたメトロに乗りました。私自身必ずしもナショナリスト

ではありませんが、このメトロは日本の企業が作ったのだと思うと、何となく誇らしげな

感じがいたしました。ただ残念ながらその後、支払いが滞るなどの問題はありましたが。

いろいろな形で日本の企業が自信を失っている中、それをサポートする形で官だけはな

く学の部分で、研究者も含めて何らかの形でサポートしていけるような体制ができれば、

日本のプレゼンスも今後ますます上がっていくのではないかと期待しています。

昔と違って韓国あるいは中国といった大きなライバルがいる状況ですので、競争は非常

に厳しくなっていくと思いますけれども、日本の強みを生かして、今後ともとりわけ湾岸

の国々には大きな形で関わっていければいいのではないかと考えています。

これをもちまして本セッションは終わりにさせていただきます。どうもありがとうござ

いました。