12
カットネギの養分吸収特性および効率的施肥技術 誌名 誌名 高知県農業技術センター研究報告 = Bulletin of the Kochi Agricultural Research Center ISSN ISSN 09177701 巻/号 巻/号 28 掲載ページ 掲載ページ p. 13-23 発行年月 発行年月 2019年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

カットネギの養分吸収特性および効率的施肥技術高知農技セ研報(Bull. Koehl Agric. Res. Cent.) 28 : 13-23 (2019) カットネギの養分吸収特性および効率的施肥技術

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カットネギの養分吸収特性および効率的施肥技術

誌名誌名高知県農業技術センター研究報告 = Bulletin of the Kochi AgriculturalResearch Center

ISSNISSN 09177701

巻/号巻/号 28

掲載ページ掲載ページ p. 13-23

発行年月発行年月 2019年3月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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高知農技セ研報 (Bull.Koehl Agric. Res. Cent.) 28 : 13-23 (2019)

カットネギの養分吸収特性および効率的施肥技術

宗石佳奈・糸川修司

Nutrient-uptake characteristics and efficient fertilization

of an Allium fistulosum variety

Kana MUNEISHI and Shuuji lTOKAWA

要約

1作で年間 3回程度の刈り取りを行う加工用のカットネギについて養分吸収特性を調査するととも

に,それに基づく施肥方法を検討し,以下の結果を得た.

1. 養分吸収は苗の活着期間はほとんど行われず,春植えでは定植 2週間経過後,冬植えでは定植

2か月経過後から増加し, 1回目収穫後は両作型とも速やかに増加した.

2. 生育初期の養分吸収量は少ないにも関わらず,定植後の無機態 N量は大幅に低下し,雨によっ

て流亡している可能性が示唆された.

3. 数回の刈り取りを行っても N吸収量はほとんど衰えなかった.持ち出し量が多いため,持続

した N供給が必要と考えられた.

4. 生育初期は養分吸収量が少なく,基肥減肥の可能性が示唆された.一方,定植時の無機態 N

量が極端に少ない場合,減収する可能性が示唆された.

5. 基肥減肥と堆肥施用を組み合わせると,慣行とほぼ同等の生育・収量・養分吸収が確保され,

pH低下や塩基類の減少などの地力低下が抑制された.

キーワード:葉ネギ,カットネギ,養分吸収特性,家畜糞堆肥

はじめに

高知県における葉ネギ(小ネギを除く)の作付面

積は2017年度で112haあり,露地野菜の中でも周年出

荷が可能な重要品目の一つとなっている.本県の葉

ネギ栽培は在来種を使った株分け栽培が主流である

が,近年実生栽培による加工用のカットネギ栽培に

取り組む生産者が増えつつある.カットネギ栽培とは,

主にセル育苗などした苗を定植後,草丈が出荷基準

に達した株を地際から刈り取って 1回目の収穫とし,

その後株元から再生させた葉身の収穫を複数回くり

返す栽培方法である. 1作でほぼ 1年間の栽培期間

となり, 3回程度の収穫が可能である.施肥につい

ては,各地域における株分け栽培の施肥基準を参考

に基肥,追肥を行っている.これまで施設軟白ネギ1)

や直播栽培ネギ4), セル成型苗を利用した秋冬穫りネ

2018年7月31日受理

ギ8)などの養分吸収特性などが明らかにされてきた

が,カットネギのような長期間で複数回収穫する栽

培体系における養分吸収特性を調査した事例はない.

そこで,適正施肥を実践するための基礎データとして,

カットネギの養分吸収特性を調査するとともに,そ

れに基づく施肥方法を検討したので報告する.

材料および方法

1. 耕種概要

作型は, 6月定植の春植えと 11月定植の冬植えの

2作型とした.供試品種は‘鴨頭ネギ'(中原採種場)

とし,育苗培土(スーパーミックス A, (株)サカタの

タネ)を充填した200穴セルトレイに 1穴当たり 12粒

を播種して育苗した.育苗期間中は,草丈が15cm程

度になるまで, <みあい液肥 2号(N-P20s-K位:

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14 高知県農業技術センター研究報告:第28号

10-4-8, 住友化学(株))を200倍に希釈して適宜施用

した.春植えでは2016年4月 7日に播種し,

日に高知県農業技術センター内の露地ほ場(灰色低

地土)へ定植した.草丈が60cm以上に達した時期

に地際部から刈り取って収穫し,葉身を再生させて

2017年4月13日まで 1回目を含めて合計4回収穫し

た.冬植えでは2016年10月17日に播種し, 11月29日

に定植して, 2017年7月11日まで合計 2回収穫し,

この時点で栽培を打ち切った.栽植様式は,うね幅

150cm, 株間20cm, 条間20cm, 4条植え(栽植密

度13,333株/lOa) とし,植え付け本数は10本/株に

調整した.春植えでは定植後から 2回目収穫後の10

月13日まで白マルチ(白黒こかげマルチ,大倉工業

(株))を,それ以降は黒マルチを被覆した.冬植え

では定植後から 1回目収穫後の 5月15日まで黒マル

チを,それ以降は白マルチを被覆した.また,冬植

えでは防霜のため, 2016年12月8日から2017年2月

21日まで,不織布(パオパオ90, 三菱ケミカルアグ

リドリーム(株))を浮き掛けした.調査ほ場の春植

え施肥前土壌の化学性は, pH (H20) ; 6.2, 可給

態N ; 4.8mg/100g, 有効態恥05; 39mg/100g, 交

換 性恥0, CaO, MgO ; 31, 174, 22mg/100g,

CEC ; 14.3me/100g, 塩基飽和度; 56%であった.

6月6

2. 施肥方法

苦土石灰を春植えでは2016年 5月16日に80kg/

10a, 冬植えでは11月18日に250kg/10a施用した.なお,

試験規模は 1区当たり 13而で,反復はなしとした.

1)養分吸収特性の調査

基肥および追肥の施用量を表 1に示した.

基肥は,春植えでは定植の 6日前に,冬植えでは

定植の11日前に施用した.肥料は両作型とも CDU

燐加安 S682(16-8-12, ジェイカムアグリ(株))とリ

ンスター (0-30-0,ジェイカムアグリ(株))を用いて,

N, 恥05, K20でそれぞれ16kg/10a, 16kg/10a,

12kg/10a施用した.

追肥は園芸化成 S550(15-15-10, ジェイカムアグ

リ(株))を用いて Nで 3kg/lOa/回を施用した.春

植えでは,収穫 1回目までは2016年7月4日, 19日

に, 2回目までは 8月26日, 9月15日, 30日に,

回目までは11月8B, 21日に, 4回目までは2017年

1月4日, 2月15日, 3月14日に施用した.冬植え

では,収穫 1回目までは2017年 1月31日, 3月14日,

4月20日に, 2回目までは 5月15日, 6月 5日,

月 3日に施用した.なお,追肥は可能な限り降雨前

マルチの上から植え穴周辺に散布した.に,

2)施肥体系試験

施肥体系の異なる以下の 3処理区を設けた(表2).

(1)対照区:養分吸収特性調査に準じた.

(2)基肥一発区:春植えでは基肥にロング360日

ジェイカムアグリ(株))とリタイプ(14-11-13,

恥05, K位 で それ

ぞれ49kg/10a, 51kg/10a, 46kg/10a施用し,

追肥は無施用とした.冬植えでは基肥に CDU

燐加安 S682(N成分で16kg/10a),

ンスターを用いて, N,

3

7

ロング3608

表 1 整分吸収特性調査における基肥および追肥量(kg/lOa)

作型

z

基肥

恥05

16

16

恥〇

12

12

1回

収穫期別追肥N量

2回 3回 4回 z 春植え

冬植え

16

16

6

9

9

9

6 ,

46

34

合計

島05

46

34

恥〇

32

24

表 2 施肥体系試験における基肥および追肥量(kg/lOa)

作型 区名基肥 収穫期別追肥 N量

z

恥05 恥0 1回 2回 3回 4回 z

合計 z)

恥05 恥〇堆肥

基肥一発区

地力増強区

対照区

基肥一発区

地力増強区

対照区

z)地力増強区の施肥量には堆肥分を含まず

春植え

冬植え

49

7 16

51

, 16

6

6

2

4

1

43

7 16

37

, 16

7

6

2

3

1

しな

6

6

9

9

なし

9

9

6

6

9

9

49

37

46

51

39

46

46

26

32

9

9

43

25

34

37

27

34

37

18

24

なし

3000

なし

なし

3000

なし

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宗石・糸川:カットネギの養分吸収特性および効率的施肥技術 15

タイプ (N成分で27kg/10a),およびリンスター

を用いて, N,恥05,K位でそれぞれ43kg/10a,

37kg/10a, 37kg/10a施用し,追肥は無施用と

した.

(3) 地力増強区:基肥施用時に牛・豚糞混合オガ

クズ堆肥 (1.4-2.85-2.15, 現物当たり, JA四

万十)を 3t/lOa施用した.基肥はペレット発酵

鶏糞 (3.7-4.4-3.1, 東城ポートリー(株))を用い

てNで7kg/lOa施用した.追肥は対照区に準じた.

3. 調査内容および方法

養分吸収特性調査では,定植日または収穫日から

春植えでは約 2週間間隔,冬植えでは約 3週間間隔

で4-8株ずつ植物体を根ごと抜き取るとともに,

抜き取り部分の土壌を採取した.ただし,冬植え 1

回目は初期生育が緩慢であったため,最初の調査は

定植から41日目に行った.春植えの収穫 4回目は,

収穫時のみ調査した.施肥体系試験では,草丈が概

ね40-50cmまで生育した頃と収穫時に植物体の抜

き取りと土壌採取を実施した.抜き取った株は土を

洗い流した後,地際部から地上部と地下部に分けて

80℃の通風乾燥機で乾燥させた.収穫時の調査では,

抜き取り株について生育・収量調査を実施した.草

丈は 1株ごとの最長葉を立毛中に測定し,葉色は最

長葉の中央付近を葉緑素計 (SPAD502, コニカミ

ノルタジャパン(株))で測定した.乾燥前に地上部

の新鮮重を測定し,出荷基準 (40cm以上, 1芯 2葉)

に調整した後の新鮮重に栽植密度を乗じて収量を算

出した.乾燥後は,乾物重を測定後,微粉砕して分析

に供試した. NはNCアナライザー (SUMIGRAPH

NC-22F, (株)住化分析センター)で測定した. P,

K, CaおよびMgは高知県の分析測定診断テキス

ト6)に従い測定した.なお,植物体の乾物重と養分

吸収量は,地上部と地下部で別々に算出した後,合

計した値とした.土壌は新鮮土を 5mmのふるいを

通した後,分析に供試した.pHは水懸濁液について,

無機態Nは10%KCL溶液で抽出後ブレムナー法6)で

測定した.施肥前および収穫時土壌では風乾細土を

用いて可給態N,有効態恥05,交換性塩基を高知県

の分析測定診断テキスト 6)に従い分析した.

結果

1 . 養分吸収特性調査

1)乾物重および養分吸収量の推移

乾物重および養分吸収量の推移について,春植え

を図 1に,冬植えを図 2に示した.養分吸収量は,

15 春植え1回目 春植え2回目 春植え3回目 600

'"12

-゚:::: ~ 旦,

塁6

~

畠3

゜゚

ー•-N、,・・P,Os→ -K,O → ,・cao

30 60 900 30 60 O 30 60

定植後日数(日) 収穫後日数(日) 収穫後日数(日)

図1 春植えにおける乾物重および養分吸収量の推移注)地上部と地下部を合わせた株全体の値

25 冬植え1回目 r r冬植え2回目 ¢—• r 1000

20 -•-N I /,!: 800,; .-田.

,t ~

゜._. P20s

.::::: 15 ‘‘

` 旦

ぷ—K,O 600邑

噸 芸 ・Cao 編

le,¥ 10 -0-MgO 400~ 醤察令 -<>-乾物重嶽 5 ュ:;<"~ 因:i'さ.—-こ。 r 200

' f.:・ こ"屯菜••一_。一

゜60 120 180 O 30 60 90

定植後日数(日) 収穫後日数(日)

図2 冬植えにおける乾物重および養分吸収最の推移注) 地上部と地下部を合わせた株全体の値

500 ro

゜' 400~ 旦

編3 0 0 秦溢

200

100

゜90

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16 高知県農業技術センター研究報告:第28号

乾物重の推移に応じた増加傾向を示した.すなわち,

春植えの収穫 1回目は,定植 2週間後から増加量が

多くなり,定植 1か月以降はほぼ直線的に増加した.

2回目は,前作収穫後から速やかに増加し始め,収

穫 4日前までほぼ直線的に増加した. 3回目は 1回

目と類似した増加傾向であった.冬植えでは,

目は定植83日目まで増加量は少なく,その後急増し

一方, 2回目は前作収穫後から速やかに増加し

た.なお, 2回目は収穫時に外葉の枯死が多く見ら

れ(データ省略),乾物重と CaO吸収量が前回調査

時よりやや低下した.

1回

た.

2) 作型別の収量,養分吸収量および収量 1t当

たりの必要養分量

吸収量および必要養分量は作型に関係なく,

恥0が最も多く,次いで N, CaO, P205, MgO

の順に多かった.春植えでは, 4回の収穫で 1回当

たりの平均収量は2.9t/10aで,養分吸収量は平均

でN,恥〇5, K位, CaO,MgOそれぞれ9.7kg/10a,

13. 3kg/10a, 6. 9kg/10a, 2.6kg/10a,

あった.収量 1t当たりの必要養分量は N, P2伍,

MgOそれぞれ3.4kg,0. 9kg, 4. 6kg,

2.4kg, 0.4kgであった. 1 -3回目までは,収量

および N吸収量の差に関係なく 1t当たりの必要

N量に差は認められなかった. 4回目は,収量が平

N吸収量および必要 N量が少

恥0,

均より多かったが,

なかった.冬植えでは, 2回の収穫で 1回当たりの

平均収量は4.5t/10aで,養分吸収羅は,平均で N,

恥0ふ

CaO,

MgOそれぞれ15.6kg/10a,

5.6kg/10a, 23.0kg/lOa, 13.0kg/lOa, 2.2kg/10a

であった.収量 1t当たりの必要養分量は N,P20ふ

恥〇,

恥〇,

CaO,

CaO,

MgOそれぞれ3.5kg, 1.3kg, 5.2kg,

2.9kg, 0.5kgであった. 1回目と 2回目で収量に

差は認められなかったが,養分吸収量は 2回目が 1

回目より多かった.春植えと冬植えで比較すると,

平均収量と養分吸収量は冬植えが多かったが,

当たりの必要養分量は大差なかった(表3).

また,作型に関係なく地上部,地下部の N吸収

量は地上部が多かった(図 3, 4).

1 t

1.3kg/10aで

表 3 作型別の収量,養分吸収量および収量 1t当たりの必要養分量

作型穫数

収穫日(月/B)

z

春植え

1回

2回

3回

4回

平均

1回

2回

平均

8/17

10/ 4

12/20

4/13

収穫までの

日数(日)

72

48

77

114

収量(t/lOa)

78

3.0

2.5

2.8

3.2

2.9

11. 2

9.2

9.9

8.5

9.7

養分吸収量(kg/lOa)

恥05 恥0 CaO MgO

2. 7 14.2 9.2 1.5

2.8

2.4

2.4

2.6

10.0

14.7

14.0

13.3

5.0

5.9

7.7

z

6.9

2

2

2

...

l

l

l

1.3

3.7

3.6

3.6

2.7

3.4

必要養分量(kg/t)z)

島05 恥0 CaO

0.9 4.8 3.1

1.1

0.9

0.8

0.9

4.0

5.3

4.4

4.6

2.0

2.1

2.4

2.4

MgO

0.5

0.5

0.4

0.4

0.4

冬植え

5/ 1

7/11

152

71

4.5

4.4

12.5

18.6

0

2

..

4

7

21.5

24.5

11. 5

14.6

9

5

..

1

2

8

3

..

2

4

0.9

1. 6

7

6

..

4

5

5

3

2

3

4

6

..

0

0

112 4.5 15.6 5.6 23.0 13.0 2.2 3.5 1.3 5.2 2.9 0.5

z)必要養分量=植物体の全吸収蘊+出荷規格調整後の収鉦

20

•地上部

E地下部 20

■地上部

回地下部

5

0

ー塁01/ll}j)

蝙区忍Z

5

5

0

1

BOI

\旦)囀区芯Z

5

゜1回目 2回目 3回目 4回目 1回目 2回目

圏 3 春植えにおける地上部・地下部の N吸収量 図4 冬植えにおける地上部・地下部の N吸収量

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宗石・糸川:カットネギの養分吸収特性および効率的施肥技術 17

5要素含有率

地上部の 5要素含有率の推移について,春植えを

図 5に,冬植えを図 6に示した. Nは,両作型と

も定植後もしくは前作収穫から直近の調査時でピー

3)

クとなり,収穫期にかけて概ね低下する傾向が認め

また,春植えの収穫時では,

3回目に比べて低かった. KはNと類似した傾向

Caは,両作型とも, 1回目では定植後

から直近の調査時で高かった後は大きな変動は見ら

れず,

られた. 4回目が 1-

を示した.

2回目以降では,変動は小さかった. Mgお

よび Pは,いずれの作型においても,時期による

4) 無機態N量の推移

春植えでは,定植時は基肥 N量を反映していた

が, 2週間後には 5mg/lOOg程度まで減少した.

その後は追肥による N供給と養分吸収などにより,

1.8-8. lmg/lOOgの範囲で変動しながら推移した

(図 7).

冬植えは,収穫 1回目では定植 41日目に

3.6mg/100gと最も低くなったが,その後は6.4-

17. 2mg/100gの範囲で大きく変動しながら推移し

た. 2回目は,収穫時を除き, 4.2-8. lmg/lOOg

の範囲で安定して推移した(図 8).

変動は小さかった.

6. 0

゜9i

(苓)冊姑如念縦

4. 0

0. 0

゜14 28

1回目

--a-N・・・:A・・・p→← K→ -Ca -0-Mg

農、、,t"'没、,,ヽ 、法

ヽ汀屯)、

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72

鳳‘‘

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15 27 44

2回目

48

X

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-` 、こ‘‘‘

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6-•.a,•-O·=心••a,•心I I I

14 35 55

3回目

77

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X

図5

上段:定植後または収穫後日数、下段:収穫回数

春植えにおける地上部の 5要素含有率の推移

6. 0

0

0

4

9

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(苓)冊坪如令樅

0.0

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゜41 62 83 104 I 125 152 14

固 6

1回目 I 2回目上段:定植後または収穫後日数、下段:収穫回数

冬植えにおける地上部の 5要素含有率の推移

0

5

0

5

0

2

1

1

(BOOI[gu)

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↓-一-▼

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o I 14 I 28 I 43 I 56 I 72 I 15 I 27 I 44 I 48 I 14 I 35 I 55 I 77 114

゜41 I 62 I 83 l!04ll25ll45ll52l l4 I 25 I 42

1回目 I 2回目 I 3回目 14回目上段:定植後または収穫後日数、下段:収穫回数

図 7春植えにおける無機態N量の推移注)矢印は追肥施用時期

図 8

1回目 2回目

上段:定植後または収穫後日数、下段:収穫回数

冬植えにおける無機態N量の推移注)矢印は追肥施用時期

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18 高知県農業技術センター研究報告:第28号

2. 施肥体系試験 なお, 4回目は抽だいの発生が見られたため(デー

1)生育に及ぼす影響 夕省略),いずれの区とも早めに収穫を行った.

春植えでは,基肥一発区は,対照区に比べて収穫 冬植えでは,基肥一発区は,対照区に比べて 1回

2回目と 3回目は同程度の生育を示したが, 1回目 目は同程度の生育を示したが, 2回目では顕著に劣

と4回目は生育が顕著に劣り,収量も少なかった. り,減収した地力増強区は,対照区に比べて両収

地力増強区は,対照区に比べて 1回目の生育がやや 穫時期とも同程度の生育を示し,収量も同程度で

劣ったが,その他の収穫時期では同程度で,平均収 あった(表 5).

量も大差なかった(表4).

表 4 春植えにおける施肥体系の違いが生育に及ぽす影響

区名収穫 草丈 葉色 地上部新鮮重 収最 乾物重 z) 歩留まり y)

回数 (cm) (SPAD値) (t/lOa) (t/lOa) (kg/lOa) (%)

1回 58 49 3.5 2.0 464 58

基肥2回 72 54 3.9 2.5 327 65

3回 73 45 3.7 2.6 450 72 一発区

4回 56 40 3.8 2.5 521 66

平均 65 47 3.7 2.4 440 65

1回 62 58 4.2 2.7 494 64

地カ2回 75 58 3.8 2.4 320 64

3回 71 52 4.4 3.0 479 69 増強区

4回 60 51 4.5 2.9 612 66

平均 67 55 4.2 2.8 476 66

1回 71 62 4.6 3.0 507 66

2回 72 57 3.8 2.5 341 67

対照区 3回 75 49 3.9 2.8 428 71

4回 61 55 4.6 3.2 580 70

平均 69 56 4.2 2.9 464 68

z) 地上部と地下部を合わせた株全体の値

y) 歩留まりは出荷規格調整後の新鮮重を地上部新鮮重で除して, 100を乗じた値

表 5 冬植えにおける施肥体系の違いが生育に及ぼす影響

区名収穫 草丈 葉色 地上部新鮮重 収量 乾物重 z) 歩留まり y)

回数 (cm) (SPAD値) (t/lOa) (t/lOa) (kg/lOa) (%)

基肥1回 76 46 7.0 4.6 790 66

2回 73 50 5.4 3.1 787 58 一発区

平均 74 48 6.2 3.9 788 62

地カ1回 72 44 7.3 4.7 779 64

2回 87 55 7.6 4.4 989 58 増強区

平均 79 49 7.5 4.5 884 61

1回 75 44 6.8 4.5 718 67

対照区 2回 83 57 7.3 4.4 990 60

平均 79 51 7.0 4.5 854 63

z) 地上部と地下部を合わせた株全体の値

y)歩留まりは出荷規格調整後の新鮮重を地上部新鮮重で除して, 100を乗じた値

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宗石・糸川:カットネギの養分吸収特性および効率的施肥技術 19

2) 3要素の吸収量および含有率

3要素吸収量を表 6に,含有率を表 7に示した.

(1) N吸収量およびN含有率

春植えの吸収量は,基肥一発区は,対照区に比べ

て全ての収穫時期で少なかった地力増強区は,対

照区に比べて 1回目は少なく,その他の収穫時期で

は同程度かやや多かった.冬植えでは,基肥一発区

は,対照区に比べて 1回目は同程度であったが,

回目は半量程度であった地力増強区は,対照区に

比べて両収穫時期とも同程度であった.

春植えの含有率は,基肥一発区は,対照区に比べ

て2回目を除き,低かった地力増強区は,対照区

に比べて 1回目はやや低く,その他収穫時期では同

程度であった.冬植えでは,基肥一発区は,対照区

に比べて 2回目が低かった地力増強区は,対照区

に比べて同程度かやや低かった.

2

(2) P2伍吸収量およびP含有率

春植えの吸収量は,基肥一発区は,対照区に比べ

表 6 施肥体系の違いが養分吸収量に及ぼす影響(kg/lOa)

て 1回目は多く,その他の収穫時期では同程度で

あった.地力増強区は,対照区に比べて 2回目を除

きやや多かった.冬植えでは,基肥一発区は対照区

に比べて 1回目は同程度で, 2回目が少なかった.

地力増強区は,対照区に比べて両収穫時期とも同程

度であった.

春植えの含有率は,基肥一発区は,対照区に比べ

て 1回目が高く,その他の収穫時期では同程度で

あった.地力増強区は,対照区に比べて全ての収穫

時期で同程度であった.冬植えでは,基肥一発区お

よび地力増強区ともに,対照区と同程度であった.

(3) 恥0吸収量およびK含有率

春植えの吸収量は,基肥一発区は,対照区に比べ

て同程度かやや少なかった.地力増強区は,対照区

に比べて同程度かやや多かった.冬植えでは,基肥

一発区は,対照区に比べて 1回目は同程度で,

目が少なかった.地力増強区は,対照区に比べて両

収穫時期ともやや多かった.

表7

2回

施肥体系の違いが地上部の含有率に及ぼす影響(%)

作成分

収穫

型 回数基肥一発区 地力増強区 対照区

回分成

型基肥一発区 地力増強区 対照区

1回

2回

3回

4回

合計

1回

春2回

植恥053回ぇ

4回

合計

1回

2回

3回

4回

合計

1回

2回

合計

冬1回

植恥052回ぇ―

合計

1回

2回

合計

z

恥〇

z

恥〇

(66)

(89)

(77)

6.3 (74)

29. 6 (76)

3. 7 (134)

2. 9 (103)

2.4 (101)

2.3 (93)

11.3 (108)

11.9 (83)

9.4 (94)

12.6 (86)

11. 7 (85)

45.6 (86)

12.1 (96)

9.5 (51)

21. 6 (69)

3.8 (97)

5.1 (70)

8.9 (80)

21. 7 (101)

16.1 (66)

37. 8 (82)

7.4

8.2

7.6

8.5 (77)

8.8 (96)

10.8 (109)

9.8 (115)

38.0 (98)

3.1 (115)

2.5 (88)

3. 0 (124)

3. 2 (128)

11.8 (113)

14.8 (104)

11.0 (110)

15. 4 (105)

15.5 (112)

56. 7 (108)

11. 8 (94)

17.3 (93)

29.1 (93)

4.1 (103)

7.8 (109)

11. 9 (107)

25. 2 (117)

28.3 (116)

53.5 (116)

11. 2

9.2

9.9

8.5

38.8

2.7

2.8

2.4

2.4

10.4

14.2

10.0

14.7

14.0

53.0

12.5

18.6

31.2

0

2

..

4

7

11.1

21.5

24.5

46.0

注)()内は対照区に対する指数(%)を示す

2.01 (84)

2. 95 (101)

2.45 (98)

1. 85 (105)

2.31 (97)

0. 29 (121)

0.34 (91)

0.26 (ll2)

0.23 (120)

0. 28 (108)

2.75 (108)

2. 93 (ll2)

2.90 (91)

2.24 (101)

2. 70 (102)

1. 68 (87)

1. 95 (90)

1.81 (89)

0.24 (97)

0. 36 (104)

0. 30 (101)

2.81 (109)

2. 50 (ll3)

2.65 (lll)

注)()内は対照区に対する指数(%)を示す

春植え

冬植え

z

p

k

z

p

k

1回

2回

3回

4回

合計

1回

2回

3回

4回

合計

1回

2回

3回

4回

合計

1回

2回

合計

1回

2回

合計

1回

2回

合計

(77)

(92)

(76)

1. 45 (82)

1. 97 (82)

0.40 (166)

0.39 (107)

0.25 (108)

0. 21 (108)

0. 31 (121)

2.42 (95)

2.44 (94)

2.60 (82)

2.03 (91)

2.37 (90)

1. 73 (90)

1. 35 (63)

1. 54 (76)

0.20 (83)

0.31 (90)

0.26 (87)

2.41 (93)

1. 73 (78)

2.07 (86)

1.85

2.68

1.89

0

2

0

6

4

9

5

7

....

2

2

2

1

2.40

4

7

3

9

2

3

2

1

....

0

0

0 0 0.26

5

1

8

2

5

6

1

2

....

2

2

3

2

2.64

2

5

9

1

..

1

2

2.04

0.24

0.34

0.29

8

1

5

2

..

2

2

2.40

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20 高知県農業技術センター研究報告:第28号

春植えの含有率は,基肥一発区は,対照区に比べ

て同程度かやや低かった地力増強区は,対照区に

比べて同程度かやや高かった.冬植えでは,基肥一

発区は,対照区に比べて 1回目は同程度で,

は低かった地力増強区は,対照区に比べて同程度

2回目

かやや高かった.

3)土壌の化学性

(1)栽培期間中の無機態 N量の推移

春植えを図 9' 冬植えを図10に示した.

定植時の無機態 N量は,対照区では春植え,冬

植えでそれぞれ15.9mg/100g, および9.7mg/100g

であったのに対して,基肥一発区ではそれぞれ

2. 5mg/100g, および13.3mg/100g,

は7.8mg/100g, および9.5mg/100gであった.その

後の推移は基肥一発区は対照区に比べて,春植えで

は2回目収穫時に少なく,その35日後はやや多く,

その他の調査時点では大差なかった.冬植えでは,

定植104日後と 1回目収穫後の42日後で少なく,そ

の他の調査時点では大差なかった地力増強区は対

照区に比べて,春植えでは同程度で推移し,冬植え

では定植104日目に少なかったが,その他の調査時

0

5

0

5

0

2

1

(l!QOI/llw)

囀Z羞惑華

図9

ヽヽヽ

ヽ‘ヽ、`

ヽ`

‘、ヽ

‘、△、`

゜27 48

地力増強区で

-0-基肥一発区

ー・ー地力増強区

—△—対照区

35 77 114

1回目 I z回目 I 3回目 14回目

上段:定植後または収穫後日数、下段:収穫回数

春植えにおける施肥体系の違いが無機態 N量

の推移に及ぼす影響

点では大差なかった.

(2)作後土壌の化学性

基肥一発区は,対照区に比べて春植えでは土壊

pHが高かった.可給態 Nは少なく,交換性塩基お

よび有効態恥05が多かった.冬植えでは, K20が

やや多かった以外では差は認められなかった地カ

増強区は,対照区に比べて両作型とも土壌pHが高

く,可給態 N, 交換性塩基および有効態恥05が多

かった.特に有効態恥05は,両作型とも lOOmg/

100g前後と多く残存した(表 8).

考察

カットネギの 5要素吸収量は,作型,収穫回数を

問わず恥0が最も多く,次いで N, CaO, 恥〇ふ

MgOの順であった.林らによる施設軟白ネギll,

加賀屋による直播栽培軟白ネギ4)および田中らによ

るセル成型苗を利用した秋冬穫り軟白ネギ8)におけ

る調査でも同様の吸収特性が認められており,既存

研究結果と一致した.

ネギは Nに対する吸肥力が強い作物であり 8)'

ネギと同じ Allium属で刈り取りにより数回収穫す

0

5

0

5

0

2

1

1

(ioo1; 習)囀Z幽翠柴

図10

゜104 152

-0--基肥一発区

---地力増強区

—△—対照区

1回目 I 2回目

上段:定植後または収穫後日数、下段:収穫回数

冬植えにおける施肥体系の違いが無機態 N量

の推移に及ぼす影響

表8 施肥体系の違いが作後土壌の化学性に及ぽす影響

作型 区名pH 可給態N

(H20) (mg/lOOg)

交換性塩基(mg/lOOg)

恥〇 CaO MgO

CEC (me/lOOg)

塩基飽和度

(%) 有効態恥05(mg/lOOg)

春植え

基肥一発区

地力増強区

対照区

3

0

3

5

5

4

9

3

2

••• 0

6

4

42

48

25

183

203

81

8

4

9

2

3

5

6

3

••• 8

0

7

1

2

1

48

48

22

104

108

69

冬植え

基肥一発区

地力増強区

対照区

6

2

5

5

6

5

4.9

5.7

3.7

32

73

16

212

286

225

34

53

34

9

8

7

3

5

4

1

1

1

1

1

9

7

9

6

1

5

0

6

9

5

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宗石・糸川:カットネギの養分吸収特性および効率的施肥技術 21

るニラが刈り捨て~収穫 4回目で N吸収量が低下

傾向であった2)のに対し,本試験では収穫 2, 3回

目も衰えることなく吸収した.また,地下部重が多

いニラは 1株当たりの N吸収量の大部分は常に地

下部に含まれていたが叫ネギの場合は地上部に含

まれる N量が多かった.この結果から,カットネ

ギは吸収した Nの持ち出し量が多く,新莱の回復

には収穫後の N吸収が重要であると考えられた.

また,定植から300日以上経った春植え 4回目では

N含有率および必要養分量が3回目までに比べて低

下した. 4回目収穫時の土壌中無機態 N量が他の

収穫時期に比べても少なくなかったことや,その時

期に抽だいした株が多く見受けられたことから,低

下の原因は土壌中の N不足ではなく,厳寒期に花

芽分化が誘導され1, 7) 生殖成長に移行し N吸収が

十分に行われなくなった1) ためと考えられた.

その他の要素は収穫回数に関係なくほぼ同程度の

必要養分量,含有率で推移し,特に恥0は作型や

収穫回数に関係なく必要養分量が多かった.ニラは

旺盛な恥〇吸収特性を示し, 4回の収穫で牛糞堆

肥から供給された K位を吸収して基肥施用量の 3

倍に近い量を吸収した事例がある2). 本試験におい

ても栽培期間中の吸収量は施肥量を上回っており,

ネギも長期間の栽培であっても恥0を旺盛に吸収

し続けると考えられる.生育後半には土壌中の

恥〇量が減少することが予想され,定植前の土作

りや栽培途中の K位の施用が必要であると考えら

れる.

P含有率は作型や収穫回数を問わず0.2-0.4%ほ

どで推移していた.合計吸収量も施用量に対して少

なく,栽培終了後の土壌には有効態恥05が50mg/

100g, 家畜糞堆肥施用時はさらに多く残存していた.

梶ら5)は,軟白ネギにおいて,有効態恥05量が50

-83mg/100gのほ場では P2伍無施肥でも十分な収

量が得られると報告しており,この結果から長期間

栽培する場合でも, 恥05施用量を減肥できる可能

性が示唆された.

秋冬穫り軟白ネギにおける収量 1t当たりの必要

養分量を収量と吸収量から算出すると,直播4)では

Nが2.9kg,P凸が0.4kg,K位が4.0kgであった.

セル成形苗8)では 2品種で N が3.4, 4.5kg, P205

が0.8, 1.1kg, K位が3.7, 5.0kgであった.この

結果から田中ら8)はセル成形苗の肥料成分吸収は直

播栽培に比べて旺盛になると推測しており,また本

試験での必要養分量は,概ね軟白ネギのセル成型苗

と同等であった.

時期別養分吸収特性は,春植え,冬植え両作型と

も定植後しばらくは養分吸収量が少なく,春植えで

はおよそ 2週間後,冬植えではおよそ 3か月後から

養分吸収量が急増した.この傾向は施設軟白ネギ1)

や直播栽培軟白ネギ4)でも認められている.石居ら3)

は, 5-7月定植の軟白ネギの移植栽培試験におい

て,定植からおよそ 1か月は苗の活着期間であり,

その間の生育や養分吸収は緩慢で活着後の 1-2か

月間に吸収量が最大になると推測している.本試験

においても,収穫 1回目の養分吸収が少ない時期は

苗の活着期間であったと考えられた.冬植えが春植

えよりも初期生育が遅れた原因は,活着期間を経過

した後に厳寒期に入り,生育が緩慢になったためと

考えられる.一方で,収穫 2回目以降ば活着期間が

なく,収穫後速やかに吸収量が増加したものと考え

られた.

士壌中の無機態 N量は,養分吸収量が少ない活

着期間においても急激に減少した.特に春植えでは,

定植時に15mg/100gあったものの,その 2週間後

には 5mg/lOOgまで減少した.この作型では,定

植 2日前に梅雨入りしていたことや養分吸収特性を

考慮すると,無機態 N量の減少は吸収によるもの

はわずかであり,大半は雨による流亡であったと考

えられる.

これらのことから,カットネギの生育を維持する

ためには持続的な養分供給が必要であること,活着

期間のある 1回目の収穫では,養分吸収の少ない生

育初期には土壌中の無機態 N量の大半は雨によっ

て流亡している可能性があることが明らかとなっ

た.

以上の結果を踏まえ,カットネギの養分吸収特性

に応じ,また,追肥の散布労力削減と長期栽培に対

応した施肥方法を検討するため,肥効調節型肥料や

家畜糞堆肥を用いた施肥体系試験を実施した.

その結果,ロング360日タイプを使用した基肥一

発区は,春植え,冬植えともに平均収量や平均 N

吸収量が対照区に対して劣る結果となった.特に N

成分としてロング以外の肥料を施用しなかった春植

えでは,収穫 1回目の生育量が大きく劣った.加賀

屋4)は軟白ネギの直播栽培において,ロング肥料と

CDU肥料を用いて施用 N量を慣行の26%減で栽培

したところ, N, Ca吸収量は劣ったがその他の養

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22 高知県農業技術センター研究報告:第28号

分吸収量と生育はほぼ同等であったと報告してい

る.そこで,冬植えでは CDU燐加安 S550を組み合

わせて栽培したところ, 1回目は対照区と同等の収

量や N吸収量となったが, 2回目では大きく劣っ

た.冬植え 2回目は,本試験の中でも最も N吸収

量が多かったことから,肥料養分の溶出速度が吸収

に追いつかなかったものと考えれた.このことから,

カットネギにおける肥効調節型肥料を用いた無追肥

栽培については,肥料の種類や施用量などをさらに

検討する必要があり,コスト面なども考慮すると現

行の基肥+追肥体系が望ましいと考えられた.

家畜糞堆肥を施用して基肥 Nを56%減肥した地

力増強区では,両作型とも平均では対照区とほぼ同

等の収量およびN吸収量が得られた.また,作後

土壌の pH低下や塩基類の減少など地力低下が軽減

されており,土壌中の養分の維持が重要なカットネ

ギ栽培においては,持続した養分の放出が期待でき

る家畜糞堆肥の施用は効果的であったと考えられ

る.一方で,栽培終了後土壌には有効態 P205が多

量に蓄積していたことから,施肥の恥05量は低減

することが望ましいと考えられた.

田中らは,供試土壊に黒ボク土を用い,セル成型

苗を使用した秋冬穫りネギにおいて,施用 N量を

無施用, 14kg, 28kg/10a (基肥N量はそれぞれ 0'

4, 8 kg/lOa)の3水準で栽培試験を行ったところ,

施用 N量が多くなるほど N含有率は高まったもの

の,生育に対して Nの反応は低く,無施用でも 2

-7%の減収でとどまったと報告している8). 本試

験では,定植時の無機態 N量が対照区に比べて低

かった処理区において,収穫 1回目の収量およびN

含有率が低下し,基肥施用 N量の影響を大きく受

ける結果となった.この違いについては,土壌条件

または養分吸収特性によるものか,詳細は不明であ

る.定植時の無機態 N量が対照区と同等以上の場

合,収量性が維持できたことを考慮すると,定植時

に10-15mg/100g程度の無機態 N量が確保できる

ように基肥を施用する必要があると考えられる.一

方,前述したとおり,生育初期は N吸収量が少なく,

大半は雨で流亡することが懸念されることから,基

肥量を低減して追肥の施用時期を早めることを検討

する必要がある.

引用文献

1)林哲央・阿部珠代・日笠裕治(2006).冬春どり

施設軟白ネギの乾物生産および養分吸収特性.

土肥誌. 77 (6) : 683-686

2)井上勝広(2015). ハウス栽培ニラの養分吸収特

性に基づく合理的な栽培管理.長崎農林技セ研

報. 6: 113-122

3)石居企救男・細谷毅・柴英雄・斎藤哲夫(1967).

ネギ栽培における土じょう肥料に関する研究

第 1報:生育及び養分吸収経過.埼玉農試研報.

27: 71-79

4)加賀屋博行(1998). ネギ直播栽培における養分

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8 : 13-18

Summary

We investigated the nutrient-uptake characteristics and the fertilization of pre-cut green onion (Allium fistu-

losum), which is harvested approximately three times a year for processing. The following results were

obtained:

1. The nutrient uptake of seedlings was limited during the rooting period, but increased 2 weeks after the

spring planting and 2 months after the winter planting. The nutrient uptake also increased rapidly after

the first harvest.

2. After planting, the level of inorganic nitrogen decreased greatly, suggesting the possibility of leaching

caused by rain.

Page 12: カットネギの養分吸収特性および効率的施肥技術高知農技セ研報(Bull. Koehl Agric. Res. Cent.) 28 : 13-23 (2019) カットネギの養分吸収特性および効率的施肥技術

宗石・糸川:カットネギの養分吸収特性および効率的施肥技術 23

3. The level of nitrogen uptake by green onion barely decreased, even after several harvests. There

appeared to be a continuous nitrogen supply owing to the large carry-out amount.

4. In the early growth stage, the uptake of nutrients was limited, suggesting that the basal level of fertiliza-

tion could be limited. However, if the amount of inorganic nitrogen at the time of planting was extremely

low, then the yield could decrease.

5. With a reduction in the basal fertilization level plus the addition of compost, the growth, yield and

nutrient-uptake values of green onion were equivalent to those grown with conventional practices. This

combination also suppressed the decline in soil productivity, as indicated by a lower pH.

Key Words: Green onion leaves, pre-cut, nutrient-uptake characteristics, livestock manure compost