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3回レギュラトリーサイエンス学会学術大会 シンポジウム 永井 純正 医薬品医療機器総合機構 新薬審査第五部 コンパニオン診断薬プロジェクト Pharmaceuticals and Medical Devices Agency (PMDA) コンパニオン診断薬に対する 規制当局の考え方

コンパニオン診断薬に対する 規制当局の考え方コンパニオン診断薬プロジェクト •横断的基準作成プロジェクトの一つ 医薬品・医療機器の審査の科学的な考え方を明確化。製品開発の促進や審査迅速化につなげること等を目的。関係部署が連携するプロジェクト。•開始時期:平成24年4月

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  • 第3回レギュラトリーサイエンス学会学術大会シンポジウム

    永井 純正

    医薬品医療機器総合機構 新薬審査第五部

    コンパニオン診断薬プロジェクト

    Pharmaceuticals and Medical Devices Agency (PMDA)

    コンパニオン診断薬に対する規制当局の考え方

  • はじめに

    ・本発表は個人の見解に基づくものであり、PMDAの公式見解ではありません。

    ・考え方のポイントを示している箇所は、現時点での暫定的な内容であり、後日公表される予定の技術的ガイダンス案(もちろん公式見解)の記載内容や趣旨と異なる可能性があります。

  • 内容

    1.コンパニオン診断薬とは?

    2.欧米での規制の動向

    3.考え方のポイント(現在作成中の日本の技術的ガイダンス案を踏まえて)

  • 内容

    1.コンパニオン診断薬とは?

    2.欧米での規制の動向

    3.考え方のポイント(現在作成中の日本の技術的ガイダンス案を踏まえて)

  • コンパニオン診断薬プロジェクト

    • 横断的基準作成プロジェクトの一つ医薬品・医療機器の審査の科学的な考え方を明確化。製品開発の促進や審査迅速化につなげること等を目的。関係部署が連携するプロジェクト。

    • 開始時期:平成24年4月• プロジェクトの活動内容

    コンパニオン診断薬に関わる問題点を整理し、必要なガイドライン等の作成を行う。平成25年7月1日付のコンパニオン診断薬に関する通知発出に協力。現在、技術的ガイダンス案を作成中。

    • 関連部署:新薬審査部、医療機器審査部、安全部、規格基準部等

    • HP: http://www.pmda.go.jp/kijunsakusei/companion.html

  • コンパニオン診断薬の定義

    ・2011年7月にFDAが以下のドラフトガイダンスを発出。Draft Guidance for Industry and Food and Drug

    Administration Staff In Vitro Companion Diagnostic Devices

    (定義)An IVD companion diagnostic device could be essential forthe safe and effective use of a corresponding therapeutic product to:

    ・Identify patients who are most likely to benefit from a particular therapeutic result of product

    ・Identify patients likely to be at increased risk for serious adverse reactions as a result of treatment with a particular therapeutic product

    ・Monitor response to treatment for the purpose of adjusting treatment (e.g., schedule, dose, discontinuation) to achieve improved safety or effectiveness

  • コンパニオン診断薬の定義

    ・日本でも、2013年7月1日に厚生労働省より通知、Q&Aを発出し、以下のように定義。

    特定の医薬品の有効性又は安全性の向上等の目的で使用当該医薬品の使用に不可欠な体外診断用医薬品又は医療機器単に疾病の診断等を目的とするものを除く

    具体的には、以下の目的で使用されるもの(1)効果がより期待される患者を特定するため(2)特定の副作用が発現するおそれの高い患者を特定するため(3)用法・用量の最適化又は投与中止の判断を適切に実施するため

    コンパニオン診断薬等の範囲

  • コンパニオン診断薬の定義

    コンパニオン診断薬に該当しない「疾病の診断等を目的とする

    体外診断薬」とはどんなもの?

    (日本のQ&Aに記載されている例)・AST/ALT、Creなどの通常の生化学検査・日常診療の一環として実施するような疾病の特定、治療効果の

    確認などに用いられる検査

    など

    ↓但し、コンパニオン診断薬にならない診断薬であっても、

    医薬品投与の際に使用するなら、コンパニオン診断薬と同様、

    医薬品の承認と同時期に診断薬の承認がなされるべきである。

    以上の内容はFDAのドラフトガイダンスにも明記されている。

  • 日本の通知、Q&Aでは、FDAのドラフトガイダンスと同様に、以下についても記載。

    ・コンパニオン診断薬の承認申請は、セットとなる医薬品の承認

    申請(新規品目又は効能追加等)と原則として同時期に。

    そのために、医薬品企業と診断薬企業の連携が重要。

    ・PMDA側も、医薬品の審査部と診断薬の審査部の連携が必要。

    ・医薬品の添付文書で対応する診断薬等を使用するよう記載、

    診断薬の添付文書で対応する医薬品の一般名等を記載。

    コンパニオン診断薬に対する規制の考え方

  • FDAが公認した医薬品とコンパニオン診断薬のセットは以下のHPで公開されている。

    http://www.fda.gov/CompanionDiagnostics

    (例)

    コンパニオン診断薬に対する規制の考え方

  • Erlotinibの米国添付文書でのコンパニオン診断薬の記載

    コンパニオン診断薬に対する規制の考え方

  • コンパニオン診断薬に対する規制の考え方

    ・規制当局としては、治験から得られた有効性、安全性のデータ

    に基づいた審査を行い、そのデータを情報提供することで医療

    現場に資すると考えている。

    ↓患者選択に用いた検査方法の違いが有効性、安全性の結果に影響

    を及ぼすのであれば、

    ・治験で利用された診断薬が何であったかを情報提供する必要性

    ・治験で利用された診断薬(又はそれと同等のもの)を医療現場

    で利用できる必要性

    がある。

  • コンパニオン診断薬に対する規制の考え方

    ・患者選択に用いた検査方法の違いが有効性の結果に影響を

    及ぼした実例

    PMDAのcrizotinib審査報告書でもALK遺伝子検査について、本手引きの内容に言及している。

  • コンパニオン診断薬に対する規制の考え方

    主な論点

    Crizotinibのように、コンパニオン診断薬を用いて、あるバイオマーカーが陽性と判定された症例に対して分子標的薬を投与する

    場合を想定。

    ・バイオマーカー陰性例の取扱い

    ・レトロスペクティブな解析結果の取扱い

  • 内容

    1.コンパニオン診断薬とは?

    2.欧米での規制の動向

    3.考え方のポイント(現在作成中の日本の技術的ガイダンス案を踏まえて)

  • • 陰性例の検討FDA: Guidance for Industry : Enrichment Strategies for Clinical Trials to Support Approval of Human Drugs and Biological Products Draft Guidance (2012.12)

    EMA: Reflection Paper on Methodological Issues Associated with Pharmacogenomic Biomarkers in Relation to Clinical Development and Patient selection(2011.06)

    • レトロスペクティブな解析FDA: Draft Preliminary Concept Paper — Not for Implementation : Drug-Diagnostic Co-Development Concept Paper(2005.04)

    EMA: Reflection Paper on Methodological Issues Associated with Pharmacogenomic Biomarkers in Relation to Clinical Development and Patient selection(2011.06)

    欧米のガイダンスの現状

  • EMAが挙げた「陰性例除外が受け入れ可能な場合」

    陰性例で効果がないというエビデンスの強さ次第

    The regulatory acceptability of excluding GBM-negative patients from trials will depend on the strength of evidence (plausibility, scientific rationale and clinical data) provided for the lack of effect in these patients.

    欧米のガイダンスの現状

  • 欧米のガイダンスの現状

  • FDAが挙げた「陰性例に対する考え方」陰性例で有効性が低いのか、全くないのか、のいずれなのかを調べる意味でも、陰性例でのデータ収集は望ましい。

    陰性例における有効性は比較試験で示す必要はなく、早期の探索試験で構わない。

    陰性例も市販後に投与されうるので、その安全性を事前に評価できるという意味合いもある。

    FDAが挙げた「陰性例除外が受け入れ可能な場合」陰性例で効果がないという病態生理学的な明確なエビデンス陽性例と陰性例とで大きな効果の差があるという早期臨床試験成績

    欧米のガイダンスの現状

  • FDAが挙げた「レトロの解析結果が受け入れ可能な場合」検体が安定していることCollection biasに注意していること計画が事前に規定されていること

    Although prospective data are preferred, in cases where the analyte is stable and where collection bias (including spectrum bias, verification bias, and sampling bias) can be carefully characterized and addressed, prospectively designed retrospective clinical utility studies may be possible.

    欧米のガイダンスの現状

  • EMAが挙げた「レトロの解析結果が受け入れ可能な場合」

    ランダム化試験のデータであることランダム化試験の多数の被験者からマーカーの情報が得られること

    仮説と解析計画が事前に規定されていること多重検定に対する統計的な調整がなされていること独立した検体により結果が再現されていること

    欧米のガイダンスの現状

  • 内容

    1.コンパニオン診断薬とは?

    2.欧米での規制の動向

    3.考え方のポイント(現在作成中の日本の技術的ガイダンス案を踏まえて)

  • 結腸直腸癌における抗EGFR抗体とKRASの関係

    抗EGFR抗体を例に(レトロ解析)

    レトロの解析を発端に、KRAS変異例では抗EGFR抗体が有効でないことが示され、医療現場で定着した。

    一方で、一般論として、レトロ解析で得られたデータは、バイアスの問題や保管検体の質の問題などから、結果の再現性に不安もあり。

  • Panitumumabの日本の審査報告書

    抗EGFR抗体を例に(陰性例)

    抗EGFR抗体だが、EGFR発現と有効性の間に相関を認めず

  • FDA承認時のLetterより抜粋(市販後要件)1789-11 To assess the adequacy of the current cut-off, conduct a clinical trial to explore response to crizotinib in ALK-negative patients based on current assay cut-off. This should be compared to historic controls and to the response in ALK-positive patients. Additional biomarkers should be assessed in ALK-negative patients.

    2012年米国臨床腫瘍学会でのFDAの発表ALK Response Rate N

    ALK FISH Positive 50%, 61% 136, 119ALK FISH Negative 26% 23

    陰性例でも有効性が認められる場合がある

    カットオフ値が適切か確認するため、陰性例でも有効性を確認

    するよう指示

    Crizotinibを例に(陰性例)

  • 市販後のALK検査キットの現状

  • 市販後のALK検査キットの現状

  • 開発者側と規制当局側の視点の違い

    <開発者側>• 医薬品開発の成功確率を高めるために、効果が確実に得られ

    る対象集団に絞りたい。

    • バイオマーカーの臨床的意義を示すことが研究の価値につながるので、陽性例で高い有効性が出ることに注目したい。

    <規制当局側>• 陰性例でも有効性が認められるなら、陽性例に開発対象を絞

    ることで、本来医薬品を届けるべき患者に医薬品が届かないことになる。狭いpopulationで本当に開発しないといけないのだろうか?

    →社会的な観点からは、陽性例に開発対象を絞るなら、その前に陰性例には効かないという証拠が欲しい。

  • バイオマーカー陰性でも有効例が出る理論的根拠

    <薬理の問題>• Off-target effect(当初想定した医薬品の標的分子とは別の

    分子が有効性に関与している場合)<キットの問題>• 検査キットが陽性例を見逃している場合<検体の問題>• 検体の質の低下• Intra-tumor heterogeneity(癌では病変ごとに違う細胞集団

    が存在する場合がある)↓

    ・当然、何が原因かは市販前に判明しないことも多いだろう。

    ・しかし、陰性例でも有効な場合があるかどうかを調べ、あるなら、そのデータを情報提供することは原因解明のきっかけにもなりうるため有用ではないかと考える。

  • 考え方のポイント

    バイオマーカー陰性例の取扱い

    ・早期の段階から陰性例の検討の必要性を視野に入れ

    ることが重要。

    ・原則として陽性例と陰性例の双方を開発早期の臨床

    試験に組み入れる必要がある。

    (陰性例を陽性例と同様に扱い、陰性例でも検証的

    試験が必須という意味では全くない)

    (理由)

    ・陰性例を開発早期から除外すると、バイオマーカーのカットオフ

    値の妥当性、さらに、陽性例と陰性例でのベネフィットリスク

    バランスの比較が困難となるから。

  • 考え方のポイント

    (例外的な場合の例)

    ・陰性例に対する有効性が示される可能性が極めて

    低い、という非臨床試験又は臨床試験成績が存在

    する場合

    ・毒性が強く、医薬品の投与対象を広げることに

    安全性の懸念がある場合

  • 考え方のポイント

    レトロの解析の取扱い

    ・被験者の同意取得、検体の保管が適切になされる

    ことは重要。

    ・過去の臨床試験の保存検体を用いたレトロのバイオ

    マーカー解析は医学の発展に必要で推奨されるが、

    探索的なものである。

    ・バイオマーカーによる患者選択を行う場合も、原則

    として前向きな無作為化比較試験を実施すべき。

    (理由)

    ・レトロ解析におけるバイアスの問題など

  • 考え方のポイント

    (例外的<前向き比較試験実施が困難>な場合の例)

    ・安全性に関連するバイオマーカーで、極めて重篤な

    有害事象との関連が示唆されている場合

    ・バイオマーカーによる対象患者選択で、症例数の

    観点から実施困難な場合

    ・レトロの解析結果が次のスライドに示すような状況

    の場合

  • 考え方のポイント

    以下に示す状況の場合には、EMAの記載内容と同様に、レトロの解析結果等を主体としたバイオマーカーの評価が受け入れられる

    ことがあるだろう。

    ・過去の適切な無作為化比較試験における可能な限り全ての登録

    被験者からデータが得られている。

    ・分析法validationが完了したコンパニオン診断薬を用いてデータが得られている。

    ・バイオマーカーに関する仮説、統計解析がデータ解析前に定義

    されている。

    ・多重性の調整等、統計学的に適切な解析が計画、実施されている。

    ・以上4つに該当する独立した複数の試験結果から一貫性のある解析結果が得られている。

  • 誤解されたくないので強調したいこと

    ・バイオマーカーの探索、分子標的薬及び診断薬の開発が促進されることは今後の医療の進歩に必要不可欠なものであるので、PMDAは大賛成であり、積極的に協力したい。

    その一方で、、、

  • 誤解されたくないので強調したいこと

    ・弱い科学的根拠のみに基づく、開発のごく初期から狭い

    populationに対象を絞った開発

    ・レトロの解析で登場した、臨床的意義の不明瞭なバイオマーカー

    を用いた部分集団解析による、過去のnegative studyの敗者復活

    が増加するかもしれないという懸念もあり。

    無駄な(又は誤った)患者選択や検査を医療現場に導入しない

    ようにするための必要最小限かつ日米欧の協調がとれた規制を

    作りたいというのが今回の考え方のポイントの根幹。

    例えば、陰性例のデータを重視するあまりに、有効な陽性例へ

    の新薬導入が滞ることは避けなくてはならないと考えている。

  • 謝辞

    技術的ガイダンス案共同作成者

    • コンパニオン診断薬プロジェクトメンバー俵木登美子、鹿野真弓、佐藤大作、鈴木由香、

    浦田雅章、江崎麻美、佐藤宏征、坂本典久、

    空閑亘、宮本大誠、小宮秀治、三上素樹、

    小野寺陽一、兼松美和、榎田綾子

    前プロジェクトメンバー:河野典厚審査センター長:矢守隆夫