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ホワイトクリスマス...3 WhiteChristmas 五年前のあの日の出来事を、 私は今でも憶えている――。 忘れもしない、 二十二歳のクリスマス

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Page 1: ホワイトクリスマス...3 WhiteChristmas 五年前のあの日の出来事を、 私は今でも憶えている――。 忘れもしない、 二十二歳のクリスマス

ホワイトクリスマス

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33  WhiteChristmasWhiteChristmas  

 五年前のあの日の出来事を、私は今でも憶えている――。

 忘れもしない、二十二歳のクリスマス・イブ。

 テーブルを挟んで正面に座った彼のその、何とも言えぬ奇妙な表情を私

は、必死に読み解こうとしていた。

 「……、何?」

 さっきから彼は、目の前に出された嫌味なくらい豪華な食事にも何の関

心も示そうとしない。ただ、何か考えているような、躊躇っているような、

たた

むず痒い表情を湛えている。

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 「冷めちゃうよ? せっかくのご馳走」

 子供じみた仕草で口を尖らせる私にも、「あぁ」と生気のない声を出すだ

けだ。

 「ホント、もったいないなぁ……」

 フォークを伸ばし、彼の皿から前菜の一つを奪い去り、口へ運ぶ。

 いつもならそこで叱咤の声があがるのだが、今日に限ってはそれすら彼

は忘れてしまっているらしい。

 「どーしたのよ。一体」

 「いや……」

と又、私の視線から逃れるように彼は、窓の外へと顔を背けた。

 「……、もう」

 仕方が無いので私も、彼と同じように窓の外を見る――。

 きらびやかなネオンが街を彩り、人為的に造られた感のあるクリスマス

という名の空気が、行き交う人々を包んでいる。飾り付けられた街路樹た

ち。「メリークリスマス」と、誰ともなしに向けられた文字が至る所に目に

ついた。

 そして――、

 私の視線は、店から少し離れた広場にあるクリスマス・ツリーに止まる。

 思わず顔がほころんだ。

 三年前の今日。私たち二人の歴史は、あの場所から始まったのだ。

 「ねぇ、憶えてる?」

 脳裏に、あの時の彼の顔が鮮明に浮かぶ。

 「三年前の今日……、あの日。祐介、私の腕をいきなり掴んでさ……」

 悪戯っぽい表情で、私はからかうように彼の顔を見据えた。

 「いきなり走り出すんだもん。ほんと、びっくりしたんだから」

 その日、私たち二人は大学の仲間たちと共に街へと繰り出していた。

びるようにお酒を飲んで、カラオケで喉が枯れるほど歌いまくったあと、

みんなであのクリスマス・ツリーの輝く広場に来たのだ。

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 「佐伯君がさ、ツリーの一番上の星を取ろうとして登り始めたのを祐介、

必死で止めてたっけ」

 その時の光景が今では嘘みたいに感じて、酷く懐かしい気分になる。

 「そのあとみんな飲み直そうって言って、由美子の家に向かおうとしたと

き……」

 彼が耳元で囁いた、「プレゼントがあるんだ」と。

 「あれは卑怯よね」

 駅前の電光掲示板。

 彼に手を引かれて、息も切れ切れに辿り着いたそこには、「香苗。愛して

る」という、百万回赤面しても足りないくらい恥ずかしいメッセージが映

し出されていた。

 「相手が引くとは、思わなかったの?」

 「いや……、あの時はなんか『やってやった』って気持ちの方が強かった

かな」

 「なにそれ……、成功するかどうかは二の次だったっての?」

 「そうじゃないけど」

 彼は誤魔化すようにグラスを口に傾ける。

 「まぁいいけどね」

 私もグラスを手に取り、中に満たされたワインを眺めた。

 「もう、三年も経つんだ……」

 平穏無事に、とは言い難いけど、それなりに幸せな恋人同士だったと思

う。二人とも就職も何とか決まり、来年には社会人の仲間入りを果たす。

もしかしたらこのまま……、なんて考えているのは、私の方だけだろうか。

これだけ長い時間一緒にいても、やっぱり、分からないことは分からない。

果たして彼は、私のことをちゃんと考えてくれてるのだろうか。

 「あのさぁ、祐介……」

 考えもなしに、自動的に口をついて出た言葉。

 あとから後悔しても時間は戻りっこないのだから、言葉は慎重に選ばな

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いといけなかったのに……、なのに私は……、

 「祐介、私のことさぁ……」

つぐ

 一気には言えず、私は口を噤む。

うつむ

 訝しげな視線を送る彼の顔をまともに見ることが出来ずに、少し俯いた。

 グラスに満たされたワインに自分の顔が映し出されている。

その顔は、

酷く卑屈な感じがした。

 「私のこと……、どう思って」

 そこまで言って、言葉が途切れた。

 その時の彼の表情、多分私は一生忘れられない。

 恐ろしいものを目の前にしたときのような、酷く怯えた子供のような、

そんな顔。

 そう……、私はきっと、その時彼が用意していた終幕へのスイッチを自

ら、オンにしてしまっていたのだ。

 「香苗……、俺……」

 やっとのことで喋り始めた彼の言葉を、私は黙って聞くしかなかった。

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 あれから五年。

 学生時代の五年とはどう考えても比重の違う、そんな五年が経った。永

いようで短い――、とはまさにこういうことを言うのだろう。

 祐介に振られてから二年後の冬。あっさりと他の男と結婚した私は、今

の今まで取り立てて言うような大事件も無く、平々凡々と主婦などをやっ

ている。

 毎日がのうのうと流れて、あの、学生時代に感じていた疾走するような

世界はもうどこにもない。「贅沢な悩みね」という、自分でも半分「そうか

も」と感じてしまうような言葉を聞くたびに、私は唐突に叫び出したくな

る衝動に駆られる。

 贅沢な悩み――。

 まぁ、まさにそうだろうなぁ、と、一人ごちた。

 彼女たちが言いたいことはこうである。「ちゃっかり自分だけ医者なんか

と結婚して、それ以上何を望むのか」と。

 しかし、彼女たちは知らないのだ。

 多忙な夫との擦れ違いの生活を。

 現に今、クリスマス・イブの日に夫はいない。本来なら昼から一緒に

ショッピングを楽しみ、夜はレストランで食事を、という予定だったのに

もかかわらず、その予定の一ミリだって私たちはこなしていないのだから。

 こんな風で本当に夫婦だと、言えるのだろうか――。

 すっかり冷たくなってしまったコーヒーを無理矢理のように喉に流し込

むと、立ち上がり、窓の傍へと寄った。

 空が曇っている。

 堆積した雨雲のせいで分からなかった日没。

それをほんの少し悲しく

思ってみる。近頃ではめっきり柔らかくなった太陽の日差しも、今はどこ

さんさん

か遠くの国で燦燦と光り輝いているのかもしれない。

 そう思うと、なんだか一人取り残されてしまったような感覚に見舞われ

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た。

 窓ガラスに、人差し指を当てる。

 "WH

ITE

"

 唐突に浮かんだその単語を描いた。そのあとに"X

'MA

S"

と続けようとし

て、手を止める。

 ブラウン管の中でさっき、「もしかしたら今夜は、ホワイト・クリスマス

もあるかもしれませんね」と、変に着飾ったニュースキャスターが言って

いたのを思い出していた。今日の冷え込みなら、それもあるかもしれない。

 「早く来てくれないと……」

 私は振り返り、ダイニングに残されたメモに向かい、

呟く。

 「凍え死んじゃうかもよ」

 今朝目を覚ましたときには既に、夫の姿はどこにも無かった。身代わり

のように置かれていたのは、たった一枚のメモ。

〝もしかしたら遅れるかもしれません。

でも、必ず行きます〟

 走り書きされたそれを、ぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱へと放る。

 見事な放物線を描きそれは、音も無く私の視界から消えた。

 「大嘘つきめ」

 ここにはいない彼に毒づいてやる。

 今日一日彼はオフのはずなのに……、

けれど、彼はいない。きっと担当

患者の容態でも急変したのだろう。こんな風に一人家に取り残されること

にも、私はもう慣れてしまっている。

そして……、きっと彼の方も――。

 胃の奥から這い出してきたような溜息が零れた。

 その陰鬱な空気が部屋に充満しきる前に、私は身支度に取り掛かる。壁

にかけられた大仰な振り子つきの時計が、午後五時半を示していた。レス

トランの予約は七時だからまだ時間はたっぷりあったのだけれど、クリス

マスにたった一人で部屋に閉じこもっているのも何だか気が滅入って嫌

だった。

 時間まで街をぶらぶらするのもいいかも。そんな風に思い、私は少し早

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めに家を出ることにした。

 目に痛いほどの光が、人々を包み込んでいた。

 この一瞬だけで、平時の一ヶ月分に相当する電力を費やしてしまってい

るのではないのかと思われるような、そんな、節操の無い光の束だった。

 光達は色も様々。赤いのやら、緑のやら、黄色いのやら、青いのやら、

ごちゃ混ぜにしたらきっと、目も当てられないような汚い色になることは

必至であろうそれらが、無造作に散りばめられ、「クリスマス」という季節

の情景を形成している。

 ゆき過ぎるカップルの数は光の数に劣らぬほど。街頭で売りさばかれる

クリスマスケーキと、それを手に偽りの微笑みを浮かべるサンタクロース。

付け髭だとばればれのあれを、果たして自分は子供の頃本当のサンタだと

信じていただろうか。

 そんなような、行く先々で繰り広げられている浮かれた情景に、嫌悪感

とまでは行かないものの、ある種の拒絶反応を起こしている自分に気づき、

更に気分の高揚は殺がれていく。

 その原因は、隣に愛すべき夫が居ないという、それだけだろうか。

〝愛すべき――〟

〝愛さなければいけない――〟

 ふと、そんな言い回しが浮かび、焦燥に駆られた。

 一体自分は何を思っているのだろうか。

 考えるのも恐ろしい、そんなこと――。

 私自身の、夫への愛が薄れている……、だなんて。

 素直に、恐ろしいことだと思った。子供のいない私たちの間に、互いへ

の愛情が無くなったとしたらその先にあるのは――。

 別れ。それ以外ありはしないのに。

 周りの無節操な賑わいとは裏腹に、私の心は深く沈み込んでいく。

 その時の私の様子は、傍目から見たら随分と異様な雰囲気を醸し出して

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いたであろうことは、間違いない。ふらふらと夢遊病者のように歩く私を、

人々は避けるようにして通り過ぎて行く。

 どれくらい歩いたのだろう。

 ふと我に帰り腕時計を見ると、時間はもう既に七時を越えていた。

     

 店内はほの暗く、テーブルの上に置かれたランプだけが恋人たちを照ら

し出す。

 その暖かな光の届く範囲は彼らだけの世界。二人だけの世界が、周りの

干渉を受けずにそこにはある。

 語らうのは愛の言葉。いかなる言葉でも、二人の間に交わされるだけで

それは、甘い甘い、愛の言葉になる。見詰め合い、談笑するだけで、世界

が幸せに満ちていると確信できる。

 窓際の席に案内された私は、そんな甘い情景をまざまざと見せつけられ

ていた。

 夫はまだ来ない。電話ぐらいくれればいいのに、とも思うが、手術中だ

とすればそれも叶わないだろう。

 苛立ちを助長するだけのその光景に堪えかね、私は窓の方へと視線を移

した。

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 窓ガラスに映った自分の顔を睨みつける。

〝あなたは今……、幸せですか?〟

 鏡の中の女は、頷かない。

〝じゃあ……、不幸せ?〟

 これにも、無反応。

 馬鹿馬鹿しくなり、溜息をつく。日に五回以上溜息をつくようになった

らもうおしまいね、と友人が悟ったように言っていたのを思い出していた。

彼女は現在、離婚調停中である。

 今朝、ダイニングのメモを見つけた時から指折り数えてみて、

その時に

一回……、二回……、三回……、今のでもう、四回目だった。彼女の言葉

を信じるなら既に、「おしまい」へのリーチが掛かっていることになる

……。そんな事実が、また私に溜息をつかせようとしたが、そこは何とか

踏みとどまってみせた。

〝溜息を堪えなきゃいけない状況なんて……〟

 私は思わず、首を振る。

 もしかしたらそっちの方が、よっぽど酷い状況なんじゃないだろうか

……。

 憂鬱な気分に取り付かれながらも、視線を外へと向けた。店の外では人

影も随分とまばらになってきている。

無理もない、この冷え込みだ。皆、

暖かな暖房の効いた室内へと、避難しているのであろう。

 雪は、降るかな?

 ふと、思った。

 都合よく、クリスマスに雪が降るなんてこと、そう滅多にあるものじゃ

ないとは思うけど。ほんの少し、そんなことを願った。

 もし今ここで雪が降ったのなら、奇跡でもなんでも起こりそうな気がし

たのだ。

 奇跡――。

 そうだ。

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 五年前にも、私はそんなような言葉を言ったことがあった。

 五年前のクリスマス・イブ。確かに私は、そんな馬鹿げたことを口走っ

ていた。

 あれはそう、祐介に別れを告げられたそのすぐあとのこと――。

 「分かったわ……」

 彼の言葉の節々に、彼自身の痛みが垣間見えて、私は端的に理解の意を

示した。

 彼に、好きな人ができたということ。

 その想いはもう、止める事など出来ないほどに膨れ上がってしまってい

るということ。

 そして、私と彼女の中間に立ち尽くしているような、そんな中途半端な

状況を彼自身が許せるわけも無いということ。

 全部、理解したつもりだった。

 「でも、どうして……」

 「え?」

 「どうしてこんな日に……、クリスマスにそんなこと言うのよ。もっと早

く言ってくれれば……、そうすれば……」

 大粒の涙が、拭う暇も無く零れ落ちて、ワイングラスの中に落ちて行っ

た。

 慌てふためく彼の様子を指の間から睨みつける。居合わせた周りのお客

のちょっとした注目を、私たちは集めていた。

 おろおろとしながらも彼は、あくまでも愚直に説明する。

 「だって……、俺たちにとってクリスマスは、少し特別だから……、だか

らせめてクリスマスまではと、思ったんだ」

 「やめてよ!」

 思わず、叫んでいた。

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 「クリスマスだけは、大切な思い出のまま残しておきたかったのに!」

 台無しじゃない……。最後の方はもう、消え去りそうな弱々しい声に

なっていた。

 「ごめん……」

 しばらく店内は静寂に包まれていたが、そのうちにがやがやと、恋人た

ちは自分たちの世界へと戻って行った。

泣き続ける私と、そして、それを

ただ見守る彼。そんな風に、私たちにとっての最後のクリスマス

・イブは

過ぎて行った。

 結局閉店間際まで泣き続けた私は、目を真っ赤に腫らしながら、彼に支

えられるように店を出た。

 「送るよ」

 「いい……」

 彼の手を振り解き、よろけながら一人で歩いて行こうとする。

 「香苗」

 それでもついてこようとする彼に、いい加減私は怒りを抑えきれなくな

る。

 「ほっといてよ! もう……。その女の所に行けばいいでしょ? 綺麗に

別れられるなんて思わないでよ! そういうの、優しさっていうんじゃな

い。エゴっていうのよ!」

 悲しそうな瞳で私を見る彼に言い放つ。

 いつでもそうだった――。いつでも、彼は必要以上の優しさを振りかざ

そうとする。でもそれは、自分自身のエゴの為にやっている行為だ。

 そんなもの、許せるわけないじゃない。

 「香苗……、嫌なんだ。俺のせいでこんなことになったのに……、

なのに

こんな……」

 「それがエゴだっていうのよ!」

 「香苗……」

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 彼の手が腕を掴んだ。思いのほか強い力が込められていて、何だか私は、

少し嬉しく感じてしまう。これでは、どちらが別れたがっているのか分か

らない。

 「いいわ、そんなに自分を責めたいのなら、

あなたに『枷』をあげる」

 「枷?」

 「そう……、もし、もし来年のクリスマス・イブに雪が降ったら、そうし

たらもう一度、私と会って……」

 「え?」

 きょとんとした彼の表情に、思わず私は笑ってしまう。

 「知ってる? クリスマスに雪が降るなんてこと、ここ十何年間、無いん

だって。『ホワイト・クリスマス』なんてよく言うけど、実際東京でそんな

ことが起こるのは、まれもいいとこなんだってさ」

 年々温暖化も進んでるしね、と付け足す。

 「だから、もし来年のクリスマス・イブに雪が降ったら、それはきっと奇

跡よ」

 「奇跡……」

 「奇跡が起こったらしょうがないでしょ?」

 「分かった……」

 「せいぜい、来年のクリスマスが、ホワイト・クリスマスにならないよう

に、祈ることね」

 くすり、と私は一人、思い出し笑いに興じる。

 どうしてあの時私は、あんなことを言ったのだろう。

 今考えてみても、可笑しな話だと思う。どうしてクリスマスに雪が降っ

たからって、昔の恋人と会わなければならないのか……。

 彼も彼だ。そんな馬鹿げた約束を黙って聞いたりするのだから……。

 でも結局私たち二人は、あの日を境に二度と会うことはなかった。今頃

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は彼も、その、私を振った原因となった彼女と幸せに暮らしているかもし

れない。

 そう、きっと子供だって生まれている。仲むつまじく、クリスマスなん

かは家族一緒に祝ったりして……。

 想像していて、その情景が余りにも今の自分の生活と懸け離れたもので

あることに気づいた。そうだ、私は多分……、そんなような幸せを願って

いるのだ。

 そんなような家族を築きたいと、そう、願っているのに……、なのにど

うして……。

 また、自分の心が深い深い底なしの井戸に落ちて行くような感覚に見舞

われる。どうしようもなく沈み込んでいく私を、

誰か……、誰でもいいか

ら助けてよ。

 そんなような台詞を心の中で叫んだ時、遠くから自分を呼ぶ声があるこ

とに気がついた。

 「香苗!」

 はっとなり、声の方を振り向く。

 夫が来てくれたのかと思い、彼の笑顔を想像して振り向いたその先には

しかし、彼とは違う顔があった。でも、決して知らない顔じゃない。知っ

てる顔だけど、酷く、懐かしい顔だ。

 ずかずかと遠慮の無い調子で近づいてくるその彼は、テーブルのすぐ横

まで来ると「久しぶり!」とこれまた遠慮の無い調子で言った。

 「あ……」

 髭がある。昔は長かった髪もさっぱりとしていて、歳相応の身だしなみ

をしていた。まじまじと眺めると、変わったところばかりだったけど、そ

の、いつも優しげに笑っている目だけは全然変わっていない。

 「俺――、分かるよね? 小林、小林祐介」

〝分かってるわよ〟

 彼に向けられた返答は心の中で反芻されるだけで声にならない。余りに

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唐突なことで、どんな声で、どんな風に喋ればいいのか一向に分からな

かったのだ。

 「うわぁー。すげー偶然だな。何年振り? 三年? いや。四年か」

 「五年ぶりよ」

 思わず、声が出た。

 「え? もうそんなになるか?」

 五年前と何ら変わりの無い、屈託の無い笑顔。そう、この無邪気な笑顔

にやられたのだ、私は。

 隔たった時間がほんの束の間だったような気分になる。

 それは、彼の特別な力なんだなぁ、と半ば感心したように思った。

 「どうしたのよ。こんなところで」

 声が妙に弾んでいて、自分自身、驚きながら喋る。

 「いや……、約束すっぽかされてさぁ」

 「あら」

 どうやら彼も、自分と似たような境遇らしい。

 「それじゃあ、私と一緒ね」

 思わず、そう言った。

 「え?」

 素っ頓狂な声。間抜けな感じがするからよした方がいいって、あれほど

言ったのに、まだ直していない。

 「そりゃあ意外だな、すっぽかすのはいつも君の方だと思ってたのに」

 「昔の話でしょ? それ」

 「それもそうだな」

 思わず笑みが零れる。こんなにも自然に、彼と話をしている自分が、酷

く不思議だった。

 「座ったら?」

 と、向かいの席を指差し、言う。

 「いいの? 彼、もうすぐ来るんじゃない?」

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 「いいの」

 と、少し強い調子で、半ば強引に彼を座らせた。

 「じゃ、お言葉に甘えて」

 向かい合い、私はちょっとした既視感を体験する。

 そう、この構図は、五年前の、あの日と一緒なのだ。

 クリスマス・イブの、あの別れの夜に……。

 「最近、どうしてるの?」

 と、お決まりのような台詞を彼が吐いたので、記憶を手繰り寄せていた

糸が切れた。

 「別に……、どうもしない……。何もないわ」

 「何もって……」

 困惑気味に彼は愛想笑いを浮かべる。

 「何かあるでしょ? 五年もあったんだから」

 「それを全部話せっての?」

 「うん……、それは無理だな」

 「でしょ?」

 そうだね、と彼はこんな投げ遣りな態度にも優しく微笑みかけてくれる。

いつでも、何を言っても、全部受け止めてくれるのだ。そういうところ、

昔から全然変わってない。

 人が良すぎるわよ、と何度か警告してあげたことがあった。

そんなん

じゃ騙される一方だよ、と。でも彼は「騙すより騙される方だろ」と、「自

分はそういうキャラだから」などと真面目な顔をして言い放つのだ。初対

面の人には彼のこういう実直というか、世間知らずなスタンスはいささか

面食らうところだ。

 「変わってないね、ほんと」

 懐かしく思い、目を細める。

 照れたような笑いが、一層彼の廻りの空気を暖かなものにした。

 「それ、こっちの台詞だよ。君は本当に変わらないんだな。正直驚いてる」

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 「巧いわね。何も出ないわよ」

 「ほんとだって……。五年前と、全然変わらない」

 五年前のあの日と違う、真っ直ぐな眼差し。私は思わず眼を背けてしま

いそうになる。今更……、世間ではこういうのを「焼けぼっくいに火が」

とか言うのだろうか。

 「結婚は?」

 唐突に話題がそれた。

 触れて欲しくないと、心の奥底で密かに思っていた問いかけに、私は束

の間躊躇する。

 「うん……、三年前に」

 「そう……、どんな人?」

 「大学病院で働いてて……、外科医なの」

 ほんとに? と彼は弾んだ声を出す。「そんなに嬉しそうにしないでよ」

と言いたかったけれど、この人にそういうようなことを言っても無駄だっ

てことは重々承知していた。

 「やっぱり正解だったね。俺なんかと別れてさ」

 叉、無神経な言葉。

 「別れてって……、振られたのよ? 私は、あなたに」

 「あ……」

 そうか、というような顔をする。そして、「でもやっぱり大変なんだろう

ね、お医者さんってのも」などと焦りながらも無理に話題変更に努め始め

た。

 「って言ってもさ。クリスマスにまでそれを持ち込むことないじゃない」

 「クリスマスも正月も関係無いんだろ? そういうの」

 「別に、前もって休暇願いを出しとけばそれで済むのよ。なのに彼ったら

自分の担当患者に何かあるとすぐ、病院まで飛んでいくんだから」

 「いい人じゃない」

 あなたといい勝負よ、と、これは心の中で呟いた。

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 「そういうあなたはどうなの? 結婚は?」

 「あぁ……」

 答えになってない声を上げたきり、彼は呆けたように視線をさ迷わせる。

 「あぁ、じゃなくてさ。どうなのよ」

 軽い調子で促したつもりだったのだが、あとになって後悔するのは、決

まってそういう深い意図の無い言葉だったりもする。

 「一年前に……。離婚、したんだ」

 あっ、と反射的に口を塞いだ。そんなことをしても、言ってしまった言

葉はなかったことなどにはできないのに。

 「……、ごめん」

 「いや……。実は今日も、娘とのデートだったんだ」

 「え?」

 「今年、四歳になる」

 え?

 事も無げに言うそのことが、何だかとてつもなくおかしなことのように

感じた。

 どう考えても、そんな大きな子供がいるのは不自然だ。

だって、私たち

が別れたのは今から五年前なんだから……。

 え?

 「嘘でしょ?」

 思わず私は問い詰めていた。

 「だって、四歳ってことは……、嘘。私と別れてからすぐに?」

 そんなこと、私が責めるようなことではないのに。だけどやっぱり……。

 「いや……、実は君と別れる前に、その……、彼女のお腹の中に子供がい

ることが分かって……」

 「だからなの?」

 こくり、と彼は首を垂れた。

 何てことだ……。五年も経ってから、こんなことを告げられるとはさす

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がに予想だにできなかった。

 五年後に知った、別れの真実。どう反応したら良いものなのだろうか。

 「今更何言ったってしょうがないけどさ。正直、同情で彼女と一緒になっ

たようなもんで……、やっぱり続かなかったなぁ」

 遠い遠い昔話のようにあっさりと言う。

 「それでも、四年続いたんでしょ?」

 それだけ続けば、別れるなんて発想には中々至らないものなのではない

だろうか。子供だっているというのに。

 「娘が一歳の頃から二年間はアメリカに居たんだ……。悪い話じゃなかっ

たからね。喜んで引き受けたよ」

 「奥さんは? ついてきてくれなかったの?」

 「慣れない土地での子育てなんて、そんな苦労掛けたくなかった。それに

こっちなら彼女の実家は近かったし、向こうの親御さんも何かと助けてく

れたしね」

 そう……、と噛み締めるように頷いた。

 それから私たちは、日頃の雑多な悩みとか、考えなければいけないこと

とか、そういうことを全部忘れて、五年分の空白を埋めるみたいに思い切

り、語り合った。

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 「大丈夫? 飲み過ぎじゃない?」

 気遣う彼に「大丈夫、大丈夫」と、ろれつの回らない調子で言いながら

私は、一人ふらふらと歩き出す。

 火照った頬が寒気に触れ、心地よい。

 「ねぇ」

 星の見えない空を見上げた。

周囲の光が明る過ぎるから、晴れてても

曇ってても星は見えない。だから、今も昼間のように雲があるのか、よく

は分からなかった。

 「憶えてる? あの日のこと……」

 あの日……、私が言ったこと。

 「祐介にあげた、枷のこと」

 酔っ払いのたわごとだと思った?

 「あれは枷にならなかったわね……、きっと」

 そう、本当は自分にかけた、枷だった。

 「あぁ、憶えてる」

 彼が言う。

 「次の年のクリスマスに雪が降ったら、もう一度会う。そういう約束だっ

た」

 「憶えてた?」

 「あぁ」

 「ずっと?」

 「あぁ」

 沈黙が降ってきた。

 振り返り、彼を見詰める。

 「私ね、実は……」

 どうして私はその時、そんなことを言ったりしたのだろう。

 ずっと誰かに聞いてもらいたいと思っていたから? 

 慰めて欲しいと、そう思ったから?

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 「私ね……、今の夫と結婚してから分かったことなんだけど……。私……」

 思わず言葉に詰まって、うつむく。

 そんな私を、彼は黙って見守っていた。何も言わずただ、見守っていて

くれた。

 その暖かさに包まれながら、私はゆっくりと、言葉をつむぐ。

 「私……、子供がね……」

 こくりと、彼は頷いた。「大丈夫だ」と、その目が言っている。

 「子供ができないんだって」

 言ってしまってから、予期せぬほどの涙が溢れ出していた。止めども無

く、ぼろぼろと零れる。

 「……私……、私ね……、子供、できないんだって……」

 もう何だか分からなくなっていた。分からなくなって、彼の胸に、ただ

飛び込んでいた。

 「もう……、もう駄目だよ。もう……、これ以上、こんな辛いまま、あの

人と暮らせない」

 私は、言ってはいけないことを喋っている。心の奥底で叫び続けていて

も、決して声に出して叫んではいけないことを、今私は、叫んでいるのだ。

 彼の腕が背中に回り、強い力が込められる。しっかりと抱きしめられ、

私は一層、悲しくなって泣き叫び続けた。

 「俺……」

 彼の吐息が耳に掛かる。

 「本当はあの時……、君と別れたくなかった……、別れたくなかったけど、

あいつのお腹の中に子供がいるって分かって……、だから俺」

 耳を疑った。

 彼の言葉を疑った。

 そんな告白を、今更になって受けても私はもう……、もうどうしようも

ないじゃない。

 「祈ってたんだ。俺も、あの日雪が降るのを……、雪が降れば、何もかも

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投げ出して、君の元に走っていける気がしてたから」

 気が遠くなる思いだった。

 もうどうしていいのか。どうなればいいのか、見当もつかない。ただこ

うして彼の胸に抱かれていることは、どうしようもなく嬉しくて、そして

何だか悲しくて、仕方が無かった。

 その時、何か冷たいものが頬に当たる感触がして、私は束の間の安息か

ら解き放たれる。

 我に帰り、彼の腕を引き離した。

 「あ……」

 彼もそれに気づき、空を見上げた。

 「雪……」

 白く小さな、はらはらと散る、花びらのような雪。それが私たち二人の

上に降り注いでいる。

 四年前の、あの日のことを思い出していた。

 「行かなきゃ」

 無意識にそう、呟いていた。

 うん、と自分に頷いてみる。

 何か大切な光が、一瞬見えたような気がした。

 「私、行かなきゃ」

 彼の元から身を引き、一歩下がる。

 か弱い声を上げて、彼は私を見詰めた。

 「香苗……」

 迷子の子猫みたいな顔をして、ホントにもう、これじゃあどっちがどっ

ちを振ったんだか……。

 「じゃあ……。ありがと、今日は楽しかった」

 そう言い残して、私は歩き出す。

 今度はしっかりと、一人で。

 「香苗!」

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 歩き出そうとする背後から、彼の声が引き止める。

 「何?」

 振り向き、努めて平静な顔を作った。

 「一つだけ教えて欲しいんだ」

 「だから……、何」

 一呼吸置き、やっとのことで彼は言う。

 「どうしてあの日、君はこなかったの?」

 責めるようでもなく、ただ純粋な疑問をぶつけただけの、

そんな言葉

だった。

 「あの日。四年前のあの日も、雪は降った。確かに降ったんだ。なのに君

は……」

〝どうして来なかったんだ〟

 何だか、涙を流さないで泣いているような彼の顔に、私の方は泣いてし

まいそうになる。だけど、泣くことは出来ない。してはいけないと、分かっ

ているから。

 「だってさ……」

 無理に、砕けた感じに笑ってみせる。「笑おうよ」とでも言うように。

 「寒かったんだ、すっごく。だから……、だからさぁ……」

〝あなたに風邪を、引かせようと思って〟

 最後の言葉は、声には出さなかった。

 代わりに、バイバイ、と手を振ってあげた。

 「早くお帰りなさい。あなたの場所に」

 そう言って、きびすを返し歩き出す。

 いつまでも、いつまでも降り続けるような雪の中を、

私は一人、歩き出

していた。

TO BE

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TO BE

TO BE

TO BE

TO BE

TO BE

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TO BE

TO BE

TO BE

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