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バングラデシュ 農村電化事業(フェーズ V-B) 評価者:アイ・シー・ネット株式会社 百田 顕児 現地調査:2009 1 1.事業の概要と円借款による協力 事業地域の位置図 クルナ電化組合本部変電所 1.1 背景: バングラデシュは、近年 45%の実質 GDP 成長率を記録しており、今後も持続的な 経済成長を遂げていくために、経済社会活動を支える電力セクターは重要な役割を担っ ている。特に電化率が約 15% 1 と極めて低い水準に留まっており、全人口の約 8 割が居 住する農村部における電化の実施はバングラデシュ経済の底上げ並びに貧困削減のた めにも重要な課題となっていた。バングラデシュ政府は 1977 年に農村電化庁(Rural Electrification Board/REB)を設立して農村電化事業を進めてきた。 日本でもこれまで、円借款事業「農村電化事業(フェーズⅣ-C)」「配電網拡充及び効 率化事業」等を通じて農村電化事業を支援してきている。 このような背景のもと、本事業は REB 管轄地域における電化組合の新設を通じて、 当該農村地域の電化を図るものである。 1.2 目的: バングラデシュ南西部のクルナおよびジャロカティにおいて、農村電化組合(Palli Bidyut Samity/PBS)の設立、配電網の新設・改修および変電所建設を行うことにより、 対象地域における電化と設備効率化を図り、もって対象地域における社会経済状況の改 善および地域経済発展に寄与する。 1 世帯ベース(1996 年時) プロジェクトサイト

バングラデシュ - JICA...けられており、REB/PBS による農村電化は引き続きその重要な構成要素として位置付 けられている。これまでバングラデシュ政府では、日本を含めた国際援助機関からの支

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バングラデシュ

農村電化事業(フェーズ V-B)

評価者:アイ・シー・ネット株式会社

百田 顕児

現地調査:2009 年 1 月

1.事業の概要と円借款による協力

事業地域の位置図 クルナ電化組合本部変電所

1.1 背景:

バングラデシュは、近年 4~5%の実質 GDP 成長率を記録しており、今後も持続的な

経済成長を遂げていくために、経済社会活動を支える電力セクターは重要な役割を担っ

ている。特に電化率が約 15%1と極めて低い水準に留まっており、全人口の約 8 割が居

住する農村部における電化の実施はバングラデシュ経済の底上げ並びに貧困削減のた

めにも重要な課題となっていた。バングラデシュ政府は 1977 年に農村電化庁(Rural

Electrification Board/REB)を設立して農村電化事業を進めてきた。

日本でもこれまで、円借款事業「農村電化事業(フェーズⅣ-C)」「配電網拡充及び効

率化事業」等を通じて農村電化事業を支援してきている。

このような背景のもと、本事業は REB 管轄地域における電化組合の新設を通じて、

当該農村地域の電化を図るものである。

1.2 目的:

バングラデシュ南西部のクルナおよびジャロカティにおいて、農村電化組合(Palli

Bidyut Samity/PBS)の設立、配電網の新設・改修および変電所建設を行うことにより、

対象地域における電化と設備効率化を図り、もって対象地域における社会経済状況の改

善および地域経済発展に寄与する。

1 世帯ベース(1996 年時)

プ ロ ジ ェク ト サ イトプ ロ ジ ェク ト サ イトプ ロ ジ ェク ト サ イト

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1.3 借入人/実施機関:

借入人:バングラデシュ人民共和国政府

実施機関:農村電化庁(Rural Electrification Board / REB)

1.4 借款契約概要:

円借款承諾額/実行額 1,460 百万円 /1,006 百万円

交換公文締結/借款契約調印 2000 年 8 月/2001 年 3 月

借款契約条件 金利 1%、返済 30 年(うち据置 10 年)、

一般アンタイド等

貸付完了 2006 年 2 月

本体契約(10 億円以上のみ記載) なし

コンサルタント契約(1 億円以上

のみ記載)

なし

事業化調査(フィージビリティー・スタデ

ィ:F/S)等

2.評価結果(レーティング:B)

2.1 妥当性(レーティング:a)

2.1.1 審査時の妥当性

第 5 次 5 ヵ年計画(1997 年~2002 年)において、「農村電化の推進」は国家の電力部門

における 4つの重点政策の 1つとして掲げられており、電力部門への公共投資配分額は、

計画全体の 10%に達していた。この計画中、電力セクターについては 4 つの重点政策

が掲げられ、そのうちの 1 つとして農村電化の拡大が位置づけられていた。

当時、本事業の対象地域を含め、バングラデシュの農村地域では電化率が約 15%と

きわめて低い水準に留まっており、全人口の 8 割が居住する農村部におけるさらなる電

化の実施が求められていた。加えて、電化された地域では電力損失率も 35%と非常に高

く、盗電対策や老朽化した設備の改修・増強が大きな課題となっていた。

以上により、新たに約 5 万世帯が電化され、また、設備効率化が見込まれる本事業実

施の必要性は高かった。

2.1.2 評価時の妥当性

現政権のアワミ連盟が発表した Vision 2021 では、電力・エネルギー分野の改革、貧

困削減を 5 つの優先分野の中で位置付けている。また農業・農村開発を 23 の優先分野

の 1 つと位置付けており、その重要性は依然として高い。また、1995 年に策定された

国家エネルギー政策は現在も電力セクターの政策を具体化する基本方針として位置づ

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けられており、REB/PBS による農村電化は引き続きその重要な構成要素として位置付

けられている。これまでバングラデシュ政府では、日本を含めた国際援助機関からの支

援を受けて農村電化事業を進めてきており、事業を通じて現在の電化率は事業実施当時

の 15%から 30%超へと改善されたが、依然として拡大が必要とされている。

以上の点から、本事業の実施は審査時及び事後評価時ともに、開発ニーズ、開発政策

と十分に合致しており、事業実施の妥当性は高い。

2.2 効率性(レーティング:b)

2.2.1 アウトプット

本事業における計画と実績は下表のとおりである。

表 1 アウトプット 審査時計画/実績比較

アウトプット 審査時計画 実績

(1) 農村電化事業

1) 農村電化組合の設立

クルナ、ジャロカティ

2) 配電網建設・改修

クルナ

ジャロカティ

3) 変電所(33/11kV)

クルナ

ジャロカティ

4) 電化世帯数

クルナ

ジャロカティ

新設 2 ヶ所

合計 1,850km

1,090km

867km

計 4 ヶ所

新設 2 ヶ所

改修 2 ヶ所

合計:79,017 世帯

50,454 世帯

28,563 世帯

計画通り設立

合計 2,099km

1,243km

856km

計 4 ヶ所

新設 2 ヶ所

改修 2 ヶ所

合計:102,960 世帯

64,408 世帯

38,552 世帯

事業スコープについては概ね計画通り整備された。なお各 PBS は事業完了後も配電

網の敷設を独自に進めてきており、現在の電化世帯数は事業審査時の約 2 倍、約 10 万

世帯にまで拡大している。ただしここ 2 年間は、電力供給の不足により、新規の配電線

の敷設が凍結されている上、バングラデシュ電力開発庁(Bangladesh Power Development

Board 以降 BPDB)が保有する既存配電網の REB への移管2が進んでいないため、近年は

2 REBの設立時に、電力セクターの関係機関間の役割分担が分けられ、農村電化についてはREBが担当し、

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配電網総長、接続数とも停滞している。

図 1 PBS 本部の変電所

図 2 事業で整備された配電網

各 PBS の需要家構成は以下図 3 の通り。特にジャロカティでは需要家の約 8 割を一

般世帯が占めている。表 2 から分かるように、これら一般世帯向けの電力料金は非常に

低く設定されている。これは農村電化の普及促進とその社会的事業としての性格上、一

般世帯向けの料金を政策的に低く設定しており、大口需要家や産業向け料金を高めに設

定するためである。このため、ジャロカティのように一般世帯の比率が高い PBS では、

収益性が低くならざるを得ない。

また両 PBS とも商業地等需要が多い地域の配電網を依然として BPDB が保有してお

り、移管が進んでいないことも収益性に影響を与えている。これらの状況は、2.5 持続

性で詳述する PBS の財務上の課題につながっている。

図 3 需要家構成(消費電力量ベース)

61.1%

78.3%

11.0%

11.9%27.0%

9.3%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

クルナ ジャロカティ

一般 商業(小規模) 産業 灌漑 その他

出所:REB

表 2 PBS の電力価格表 (単位:タカ/kwh) クルナ ジャロカティ

~1 00kwh 2.81 2.81

101~301 2.86 2.86

301~500 4.06 4.06

501~ 5.9 5.9

5.11 5.11

3.28 3.28

2.87 2.87

4.01 4.1

3.91 3.91

3.75 3.75街灯

タイプ

一般

商業

公益施設

灌漑

中小規模産業

大規模産業

出所:REB

REB 管轄地域内の既存配電網についても REB に移管されることが法的に定められている。ただし REB の

関係者によれば、実際には BPDB からは移管について積極的な協力が得られず、依然として REB 担当地域

内に BPDB による配電が行われている地域(Pocket area)が存在しているとのことである。

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2.2.2 期間

本事業の期間は 2001 年 3 月~2004 年 6 月(40 ヶ月)の計画に対して、実際は 2001 年 3

月~2005 年 6 月の(52 ヶ月)と、計画を上回った。遅延の要因は主に政府内の手続きの

遅れにより、調達手続きの開始が遅延したことによる。REB へのインタビュー調査で

は、政府内の事業デザインや調達の承認手続きやバングラデシュ銀行からの資金供給の

遅れ等が主な原因と指摘している。なお工事期間自体はほぼ計画通りに実施されている。

2.2.3 事業費

総事業費は計画 2,915 百万円に対し、2,952 百万円と、計画を若干上回った。資材価

格の上昇、事業期間延長による総務費用の増加等が生じたため、総事業費は微増となっ

た。

以上から、本事業は、事業費についてはほぼ計画通りであったものの、期間が計画を

若干上回ったため、効率性についての評価は中程度と判断される。

2.3 有効性(レーティング:a)

2.3.1 各 PBS の運用状況

(1) クルナ

電化率は当初計画の 30%に達し、接続世帯数も順調に成長している。この他売電量等

の主要指標は当初計画を大きく上回っており、事業目的の達成状況は良好と評価できる。

特にシステムロスや料金回収率等、PBS の運営能力の組織・技術面の評価基準となる指

標についても計画を上回る実績を残しており、PBS による運営状況が良好であることが

分かる。また停電時間等の運用指標についても、審査時計画や全 PBS の平均値、REB

による目標値3をほぼ達成するか、近似値に達しており、高い効果が発現していると言

える。ただし 2007 年以降は電力供給の不足から新規の敷設を停止しており、世帯数の

伸びが鈍化している。

表 3 クルナ PBS の運営状況

指標名(単位) 2000 年 計画値

(2005 年) 2007 年 2008 年

電化村落数(841 村落中) - 389

電化世帯数(接続数) 12,854 50,454 62,608 64,408

電化率(総世帯数 19.4 万) 7.8% 30% 32.3% 33.19%

最大電力(kw) - - 14,096 16,850

3 REB では独自に Performance Target Assessment という評価制度を導入し、複数の運営指標に目標値を

設定している。(2.5 持続性の項参照)

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年間事故停電時間(時間/年・軒) - 30 13.63 60.24

システムロス (%) 46% 18% 16.0% 13.81%

供給量(mwh) - - 49,561 57,744

売電量(mwh) - - 41,630 49,145

料金回収率(%) - 96% 101.78% 98.95%

出所:クルナ PBS/REB

(2) ジャロカティ

クルナ同様、電化率は 30%に達し、接続世帯数等はいずれも事業実施前から大幅に

改善しており、計画も上回る実績を残していることから、事業目的の達成状況は良好と

評価できる。システムロスや料金回収率等、運営上重要な指標についてもほぼ審査時計

画を上回るなど、PBS による運営能力の高さを裏付ける結果が確認できる。なお 2007

年冬に発生したサイクロンの影響で 2008 年度のシステムロスは悪化したものの、それ

でも計画値はクリアしており、担当者によると復旧後は以前の水準に回復しつつあると

のことであった。

表 4 ジャロカティ PBS 運営状況

指標名(単位) 2000 年 計画値

(2005 年) 2007 年 2008 年

電化村落数(451 村落中) - 297

電化世帯数(接続数) 9,100 28,563 37,255 38,552

電化率(総世帯数約 12.6 万) 7.2% 23% 29% 30%

最大電力(kw) - - 1,900 1,800

年間事故停電時間(時間/年・軒) - 30 16.3 17.31

システムロス(%) 46% 18% 13.59% 15.51%

供給量(mwh) - - 14,334 13,262

売電量(mwh) - - 12,387 11,408

料金回収率(%) - 96% 100.77% 99.23%

出所:ジャロカティ PBS/REB

なお両 PBS に共通する課題として、(BPDB からの)電力供給の不足が指摘される。こ

れはバングラデシュの電力セクター全体の課題であり、事業デザインの及ばない外的要

因による問題であると位置づけられるが、供給不足が生じた場合、ダッカ等大都市向け

の供給が優先されることもあり、農村部の電力供給への影響が大きくなる。実際に両

PBS とも、2007 年以降は電力供給の不足から新規の配線を停止しており、世帯数の伸

びは鈍化している。また給電停止による売電量の減少等、事業効果に影響を及ぼしかね

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ない事態が発生している。

参考 バングラデシュ電力セクターの概況

前政権時代に発電能力の増強がほとんど進まず、加えて老朽化した発電所の閉鎖等が

重なったこともあり、現在バングラデシュでは電力の供給量不足が深刻な問題となって

いる。このため事業対象地域でもピーク時の供給停止等が頻繁に発生し、有効性に影響

を及ぼす事態に至っている。

表 5 バングラデシュ電力セクターの概況

(単位:MW)

2005 2008

設備容量 5,025 5,275

公共(BPDB) 3,735 3,985

民間(IPP) 1,290 1,290

発電能力 4,030 3,782

ピーク需要 3,751 5,500

需要/供給ギャップ 279 (1,718)

出所:BPDB

この問題は事業デザインの及ばない外的要因による問題ではあるが、農村電化(配電

事業)の持続的な効果発現には適切な発電能力が確保されていることが前提となるた

め、早急な発電能力の増強が必要である。

2.3.2 経済的内部収益率(EIRR)の再計算

本事業の EIRR の計算では、電化による電力消費量の増加4と、燃料費の節減5等の効

果を経済便益に換算し、初期投資と維持管理費用を経済費用として計算したところ結果

は以下の通りとなった。

表 6 経済的内部収益率(EIRR)の再計算

審査時 EIRR 再計算 EIRR

クルナ 12.92%

ジャロカティ 9.12%*

17.12%

*注 審査時の EIRR は同時期に実施された農村電化事業(フェーズ V-B)の全体値

審査時の EIRR はその他 PBS を含む全体値のため、単純比較は困難だが、両 PBS 4 単位あたり電力価格については、一般世帯向けの価格は政策的に低く設定されており、経済価格の計算

には適当でないため、商業地区向けの 5.11 タカ/kwh を適用し、さらに国境価格に換算して適用した。 5 燃料費の節減効果は、本調査で実施した受益者へのサンプル調査結果(2.4 インパクトで詳述)に基づき、

事業実施前と現在のケロシン消費量を推定、その差額分を便益として計算した。

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とも全体値を上回る数値となった。その理由として、事業完了後の継続的な接続数の伸

びによる電力消費量の増加等が考えられる。

以上の結果から本事業の有効性を総合すると、事業により電化世帯数・電化率の順調

な増加が達成され、PBS による運営状況も良好なことから、概ね計画通りの効果発現

が見られ、有効性は高いと評価できる。

2.4 インパクト

2.4.1 生活環境の改善

本事業の長期的な目的は、“電化を通じて対象地域における社会経済状況の改善及び

地域経済発展に寄与する”ことにある。この事業が対象地域にもたらした社会経済状況

のインパクトを確認するため、各 PBS の約 200 世帯に対し、電化による満足度、変化

等を調査した。主な回答結果は以下の通り。6

両 PBS とも全体の満足度は高く、電化による生活環境の変化や改善への貢献はほぼ

共通の認識となっている。一方で近年の給電停止に対する不満を訴える声が増えており、

満足度にも影響している。

図 4 電化後の生活の満足度

1.0% 1.9%

83.7%

60.6%

15.4%

31.7%

0.0% 5.8%

クルナ ジャロカティ

とても満足 満足 妥当 不満足

図 5 電化による生活環境の改善の有無

99%

67.3%

99%91.3%

100% 97.1%

クルナ ジャロカティ

調理時間の短縮 学習時間の増加 衛生状況の改善

電化による最大の変化として、生活環境の改善があげられる。調査で主要な家事作業

や勉強時間等の改善状況を確認したところ、ほとんどの項目で改善を認める意見が出さ

れた。特にクルナではほぼ全者が改善を認めており、効果の高さを示している。具体的

には、家事労働、特に調理時間の短縮や子供の学習時間の増加、TV や電化製品(扇風機、

冷蔵庫等)の利用による快適性の向上、情報・知識の習得(とそれに伴う衛生環境の改善)、

夜間の治安改善などを挙げる意見が多く聞かれた。現地調査で訪問した村落では住民の

60-70%がテレビを保有しており、健康番組等の視聴によって生活への意識改善が進む

など、電化による間接的な効果を認める意見が多く聞かれた。

6 調査は質問票を用いた対面のインタビュー形式で実施された。サンプル数は各 PBS で 104 件、計 208 件。

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一方、現状への不満点としては、給電停止の頻発が大半を占めており、特に電力が必

要な夕~夜間のピーク時に給電が停止されることへの不満が高い。これは既述の通り、

事業デザインの及ばない外的要因による問題であるが、ほぼ全ての回答者がほぼ毎日給

電停止があると回答しており、平均の停止時間はピーク時の 3~4 時間に上るという結

果が示されている。

図 6 受益者調査の様子

図 7 TV が普及した世帯の様子

2.4.2 経済環境の改善

下図は対象地域の産業・農業の GRDP の伸びを示したものだが、電化前の 2000 年と

比較すると、130~180%の伸びを示している。PBS によると、現在稼働している灌漑用

の電気ポンプは 900 ヶ所で、乾期には約 7,500 トンに相当する米の生産をもたらしてい

る。これら経済活動の成長に電化がもたらしたインパクトを確認するため、質問票調査

で対象者の所得の変化や経済環境についての変化を確認したほか、現地調査時に複数個

所の店舗・小規模工場等を訪問、インタビューを実施した。

図 8 域内総生産の変化(2000-08 年)

(単位:百万タカ)

5,0617,045

9,197

4,604

7,3728,404

1,6952,360

3,081

2,1452,469

2,815

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

10,000

2000 2005 2008

クルナ 産業 クルナ 農業 ジャロカティ 産業 ジャロカティ 農業

出所 REB

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質問票調査で確認した所得の変化について、増加を示す意見はクルナで約 35%、ジャ

ロカティで約 45%といずれも約 4 割前後にとどまる。この地域は洪水等水害の被害を受

けやすく、不利な地理的条件にあることなどから、従来から産業活動も少なく、電化に

よって直ちに劇的な経済環境の変化がもたらされる状況にはない。ただし、現地でのイ

ンタビュー調査では、電化が契機となって経済活動の活性化につながったことを示す意

見も聞かれ、一定の影響が表れているものと見られる。また電化により従来使用してい

たランプ用の燃料であるケロシンの消費量も顕著に減少しており、燃料費の削減や化石

燃料の利用抑制という点も事業がもたらした副次的な効果として認められる7。

図 9 電化前後の所得の変化

35.6%45.2%

64.4%54.8%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

クルナ ジャロカティ

変化なし

増加した

図 10 ケロシン平均消費量の比較

(単位:タカ)

179.1199.3

61.3 59.9

0

50

100

150

200

250

クルナ ジャロカティ

電化前 電化後

電化による経済活動の活性化の具体例を挙げると、クルナで実施したインタビュー調

査では、電化によってエビの養殖業者や材木業者等の新規産業の創出や、灌漑利用によ

る農業生産性の向上、店舗営業時間の増加などの効果を認める声が聞かれた。これらの

工場等で就業するスタッフへの聞き取り調査では、それまで他地域に出稼ぎに出ていた

人も多いことが分かった。このことから、事業は農村地域での雇用機会創出とそれによ

る地域住民の定住化にも一定の貢献をしているものと考えられる。

7この結果は現在の給電停止が頻発する状況下での結果であり、安定的な電力供給が確保されると、さらに

効果が高まると期待される。

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図 11 電化後に進出したエビ養殖場

図 12 機械化が進んだ材木工場

両 PBS の主要な供給先の大半は一般世帯が占めており、産業向けの電力供給の規模

は依然として比較的小規模にとどまるため、対象地域の経済成長において電化がどの程

度の貢献をしているのか、定量的に測ることは困難である。ただし現地調査では、電化

による経済活動の増加を示す受益者の意見が多く確認することができたことから、電化

は地域産業の活性化や雇用機会の創出等、経済環境の改善に一定の貢献をしているもの

と考えられる。

2.4.3 自然環境・社会へのインパクト

事業が自然環境に及ぼす影響については、審査時に環境省による承認を受けており、

事業実施に際しても特段の問題は報告されていない。また事業実施に伴って、PBS 本部、

変電所予定地の用地取得が発生したが、事業実施前に取得が済んでいる。なお事業実施

に伴う住民移転は発生していない。

2.5 持続性(レーティング:b)

2.5.1 実施機関

2.5.1.1 運営・維持管理の体制

(1) 農村電化事業

REB・PBS の体制については審査時から変更はない。PBS の経営は住民によって選ば

れた経営委員会のメンバーが意思決定機関となり、運営実務は REB が指名するゼネラ

ル・マネジャーが主に担当している。REB は PBS の経営に深く関与しており、経営・

技術指導等を通じて積極的な支援を行っている。組織・制度の運営状況は安定しており、

各 PBS でも人員数等現在の体制に関する不満や課題は聞かれなかった。

表 7 各 PBS のスタッフ数

クルナ ジャロカティ

運営・メンテナンス 90 44

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経理 137 76

顧客対応 10 7

総務 33 16

総計 270 143出所:クルナ、ジャロカティ PBS

日常のメンテナンスは各 PBS の技術者が担当しており、常勤スタッフの他、現地雇

いの期間従業員で構成される。経理等内勤業務については女性の雇用を積極的に進めて

おり、特に経理部門のスタッフはほとんどが女性である。

図 13 PBS 本部内の修理工場

図 14 内勤の女性スタッフ

2.5.1.2 運営・維持管理における技術

変圧器や配電線の維持管理、メーターの精度調整等はすべて PBS のメンテナンス部

門が担当しており、いずれの PBS も独力での実施が可能で、技術面に問題は見られな

い。一部のメンテナンス作業はエンジニアの指揮のもと期間従業員によって実施されて

いるが、熟練度によって 3 段階の職能制度を導入して、適切な技術水準を持ったスタッ

フを配置・育成する仕組みを確立している。

また REB と PBS の職員は在籍年数と職位に基づいて一定の研修を受けることが義務

付けられており、主に OJT 形式で定期的に研修を受けている。研修内容は管理職研修

から会計・財務、技術部門と PBS 業務のすべてをカバーするものであり、外国からの

研修生も受け入れるなど、充実したプログラムを組んでいる。

表 8 REB による研修実施状況

年 コース数 受講者数 研修時間

2005 281 5,973 22,253

2006 339 7,785 35,091出所:REB

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2.5.1.3 運営・維持管理における財務

(1) REB の財務状況

REB の収入は大半が PBS からの金利支払いで占められており、現在のところ毎年の

収支状況は堅調に推移している。貸借対照表における自己資本比率は 63-4%と高く、そ

の大半が政府資金によるものである。REB には政府資本が投入されており、政府政策

における農村電化の重要性が維持されていることから、REB の財務状況が安定してい

る間は、財務上の持続性にも大きな懸念は生じないと考えられる。ただし現在の PBS

の財務状況の悪化は、その収入の多くを PBS からの金利支払いに依存する REB の財務

状況にも影響を及ぼすと考えられる。現状でも新規投資の多くを海外ドナー資金に依存

しており、財務状況の一層の悪化は、長期的な農村電化事業の拡大を考える上でも障害

となり得ることから、PBS の収支改善のための対策が必要と考えられる。

表 9 損益計算書(REB)

(単位:1,000 タカ)

2006 2007

総収入 1,957,107 2,355,215

PBS からの金利支払 1,891,766 2,131,579

その他収入 65,341 223,636

総費用 276,363 433,145

経常利益 1,680,744 1,922,070

金利支払い 462,363 492,247

純利益 1,218,381 1,429,823出所:REB *年度はバングラデシュの会計年度(7-6 月)

(2) PBS の経営状況

各 PBS の営業状況は以下の通りで、毎年赤字を計上している。

表 10 各 PBS 損益計算書

(単位:タカ)

クルナ 2006 年 2007 年

総収入 94,738,580 114,967,613

総費用 108,517,558 133,253,716

経常利益 (13,778,978) (18,286,103)

ジャロカティ 2006 年 2007 年

総収入 58,954,933 47,460,424

総費用 89,638,198 93,169,757

経常利益 (30,683,265) (45,709,333) 出所:クルナ、ジャロカティ PBS

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Kwh あたりの各費用の内訳は以下の通りで、特にジャロカティの営業費用が大きい。

これは水害を受けやすい地理的条件による維持管理コストの負担と、そもそもの営業規

模の小ささ、需要家構成上採算性を取ることが構造的に困難な状況にあることなどが背

景にあると考えられる。またそもそも電力の販売価格が低く抑えられている上8、2008

年 11 月に PDB からの卸電力価格が引き上げられたことで、さらに採算性が悪化してい

る。

各 PBS の担当からは、維持管理予算については今のところ適切な規模の予算が確保

されており、大きな問題は生じていないとの回答が示された。下述するスペアパーツの

整備状況や定期メンテナンスの実施状況から判断しても、現時点で大きな問題は見られ

ない。ただし悪化が続く財務状況は、今後の持続性に影響を及ぶす可能性もあるため、

対処が必要である。下表は単位あたりのコストや収益など、両 PBS の採算性に関わる

指標をまとめたものであるが、いずれも単位あたりのコストが収入を上回っている。

表 11 各 PBS の採算性 (単位:タカ)

クルナ ジャロカティ 全 PBS 平均

Kwh あたり利益 (0.45) (4.01) (0.07)

Kwh あたり収入 3.98 4.16 3.77

Kwh あたりコスト 4.43 8.17 3.84

(買電) 2.41 2.44 2.56

(O&M 費用) 1.00 2.20 0.57

(減価償却) 0.67 1.93 0.44

(金利支払い) 0.35 1.60 0.27

出所:REB

PBSの財務体質の問題は両 PBSに限らず、全国の PBSに共通する問題となっている。

REB によれば、現状では全 70 の PBS のうち黒字経営ができているのは 18 にすぎず、

収益性改善の必要を指摘している。このため、REB は 2009 年 1 月に政府のエネルギー

規制委員会に売電価格の引き上げを申請しており、現在審査プロセスが進められている。

ただし新政権では向こう半年間、これらの料金引き上げの実施を見送っているため、申

請が認められたとしても、一定期間後になることが予想される。

8 2.2.1 表 2 PBS の電力価格表参照

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2.5.2 運営・維持管理状況

(1) PBS の業績評価制度

各 PBSは PTA(Performance Target Measurement)9と呼ばれる成果主義に基づく人事制度

を導入しており、事業実施に関わる達成目標を毎年 REB との間で締結し、達成状況に

応じて給与が調整されるという仕組みに沿って事業を運営している。

2007 年度の PTA 指標ではクルナの場合、21 項目中 13 項目を達成、特に重視される

システムロスについては目標値を達成している一方、料金徴収効率を測る売掛金回収期

間は 1.42ヶ月と目標の 1.3ヶ月を超過している。ただし目標値に達していない場合でも、

それに近い水準に達しているものが多く、総合的なパフォーマンスは良好と評価できる。

(2) クルナ

変電所、配電線ともに問題は見られず、良好に維持されている。トラブル発生時には

サポートデスクが対応することになっており、各トラブルへの対応状況が記録されてい

る。現地で記録を確認したところ、概ねフォローアップの対応スピードも速く、適切な

フォローが実施されていることがうかがえた。

メーターやスペアパーツ等の消耗品も大半は国内調達が可能で、PBS 本部内にストッ

クが確保されている。変圧器のコイルの定期点検など、設備のメンテナンス業務は PBS

が雇用する技工が担当しており、外的支援なしでも適切なメンテナンスができている。

(3) ジャロカティ

2007 年の歴史的なサイクロンの災害によって、一部送電線や柱が転倒するなどの被

害が生じたため、一時的に損失率が高まったが、現在は機能を回復しており、変電所、

配電線ともに問題なし。トラブル発生時の対応・体制も確立されている。ただし一部受

益者からはトラブル発生時のフォローアップのレスポンスが遅いなどの不満が聞かれ

た。クルナ同様、スペアパーツの整備状況にも問題は見られなかった。

以上の結果から、本事業の維持管理については、実施機関の能力は高く維持管理体制

は安定しているものの、継続的に赤字を計上するなど財務状況の悪化が懸念されること

から、事業の持続性に一部問題があり、中程度と評価される。

9 PTA 指標はシステムロスや料金回収率、メンテナンスの状況など 20 前後の指標で構成され、各項目に重

要度別に重みづけがなされる。これらの指標を毎年集計し、総合的な達成状況によって評価が決まる。

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3.結論及び教訓・提言

3.1 結論

事業目的である農村の電化を通じた社会経済状況の改善については順調に効果が発

現しており、PBS の運営能力も良好であることから、今後も持続的な効果の発現が期待

できる。以上により、本事業の評価は高いといえる。

3.2 教訓

なし

3.3 提言

(実施機関に対して)

PBS の設立を通じた農村電化という当初目的は順調に達成されているが、電力セクタ

ー全体の問題が今後事業の持続的な効果発現に影響を及ぼす懸念がある。今後は以下の

点をセクター全体として取り組む必要がある。

1) 新規電源開発による供給力確保を通じた負荷遮断時間の短縮

2) 調達コスト(あるいは売電価格)の見直し、PDB 保有設備の委譲促進による接続数の拡

大、産業・商業等の大口需要家の確保などを通じた収益性の改善

以 上

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主要計画/実績比較

項 目 計 画 実 績

①アウトプット

1) PBS の新設

クルナ

ジャロカティ

2) 配電網建設・改修

クルナ

ジャロカティ

3) 変電所建設

クルナ

ジャロカティ

4) 電化世帯数

クルナ

ジャロカティ

2ヶ所

新設

新設

総長1,850km

1,090km

867km

(33/11kv 変電所)5ヶ所

新設3ヶ所

改修2ヶ所

総計53,000世帯

37,628世帯

19,463世帯

計画通り

計画通り

計画通り

総長2,099km

1,243km

856km

(33/11kv 変電所)4ヶ所

新設2ヶ所

改修2ヶ所

総計102,960世帯

64,408世帯

38,552世帯

②期間

2001年3月~2004年6月

(40ヶ月)

2001年3月~2005年6月

(52ヶ月)

③事業費

外貨

内貨

合計

うち円借款分

換算レート

1,460百万円

1,455百万円

(674百万タカ)

2,915百万円

1,460百万円

1タカ=2.16円

1ドル=110円

(2000年5月現在)

993百万円

1,959百万円

(1,015百万タカ)

2,952百万円

1,066百万円

1タカ=1.93円

1ドル=116.6円

(2001年1月~2006年12月平

均)